説明

生物治療学的、診断および研究試薬

本発明は、1以上のPDZドメインを含み、病原体の検出に有用なポリペプチドを提供する。本発明のポリペプチドはまた、疾患の診断、治療、および予防にも有用である。本発明のポリペプチドを調製する方法も提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、病原体の検出、および疾患の診断および治療方法に有用なポリペプチドに関する。該ポリペプチドは、病原体または疾患状態に関連する標的と結合することができる少なくとも1つのPDZドメインを含む。インビトロ進化方法を用いて本発明のポリペプチドを調製することができる。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
標的タンパク質またはその他の分子と特異的に結合するかまたは相互作用するタンパク質の入手可能性は、これまでかなりの期間、生物学および医学において重要であった。例えば、医学的診断は、疾患マーカーに結合する高親和性タンパク質、主に抗体、を用いるアッセイにより激変をとげてきた。病原体に対する高親和性抗体は、内科治療においてますます重要となっている。生物学的研究において、ここでもまた主に抗体である高親和性タンパク質が、希少なタンパク質の精製、細胞におけるタンパク質またはその他の抗原の例えば免疫組織化学技術による局在化、および無数のその他の適応において役立つようになった。高親和性タンパク質はおそらく将来においてますます研究上重要となると推測される。例えば、最近出現したプロテオミクス分野では、細胞のゲノムにおいてコードされるかなり多くのタンパク質の発現パターンおよび相互作用の理解が求められている。
【0003】
しかし、選択された標的、特に多数の選択された標的に対して親和性および特異性をもって結合する結合タンパク質またはポリペプチドを提供する既存の方法は、未だにそしてこれからも困難であり、費用がかかる。現在主に用いられている方法は、標的分子に対するモノクローナルまたはポリクローナル抗体の作成である。周知であり汎用されているにもかかわらず、この戦略はいくつかの限界および欠点を有する。第一に、標的に対する抗体を作り出す、即ち、「作成する」には、十分な量の精製された標的自体または標的の化学合成された断片のいずれかが必要である。第二に、抗体の作成には通常、生きた動物の使用が必要であり、種の不一致(incompatibility)により、特定の標的に対する特異的抗体を作成するのは常に可能とはいえず、多数の標的、例えばある生物におけるかなりの割合のタンパク質に対する抗体の作成はさらに困難である。第三に、抗体の単離および産生は費用、時間がかかり、予測不可能な工程である。第四に、抗体は時間と費用をかなり投入しなければ組換え宿主によって発現させることが出来ない。というのは抗体重鎖および軽鎖の抗原結合領域をクローニングし、配列決定し、そして同時に発現させなければならないからである。最後に、抗体は還元的細胞環境においては通常正しくフォールディングされず、それゆえ疾患に関与する細胞内分子を標的とするには有用ではない。かかる制限および欠点は、感染性疾患、例えば、AIDS、SARS、西ナイルウイルス、および炭疽菌、あるいは非感染性疾患、例えば癌の、迅速な同定、診断および治療の重大な障壁となっている。
【0004】
それに代わる方法は、決められた標的に結合することが知られている天然のタンパク質の結合特異性を変化させる「指向進化」に基づく。この方法において、既知の遺伝子は、化学的または生物工学的突然変異誘発技術、例えば、PCRに基づく突然変異誘発によってランダムに突然変異を誘発される。次いで結果として得られるタンパク質バリアントのライブラリーが新しい標的に対して親和性を有するバリアントについて、例えば、ファージディスプレーによってスクリーニングされる。このようにして、いくつかのタンパク質が有用な新しい特異性を有するタンパク質バリアントを作るために研究室において「進化」せしめられている(例えば、Xu et al.、2002、Chem Biol、9: 933)。
【0005】
さらに別の方法は、指向進化により新規に新しい結合タンパク質を作ることである。しかし、天然の対応物を有さないタンパク質、例えば、Catchmabs BVからの、またはKeefe et al.、2001、Nature、410: 715-8に記載のiMabは、それらがおそらくヒト免疫系によって異物と認識され、それゆえ治療薬としてのそれらの使用が妨げられるであろうことから、かなり不利である。同じ理由から、非ヒト起源の天然タンパク質であって標的ポリペプチドに結合するように操作されたもの (例えば、Ronnmark et al.、2002、Eur J Biochem、269: 2647-55.; Zeytun et al.、2003、Nat Biotechnol、21: 1473-9.) は治療または診断には有用ではないであろう。
【0006】
したがって、指向進化により改変すべき結合タンパク質の選択は、進化させた結合タンパク質の有用性に大いに影響を与えるであろう。PDZドメインは既存の結合タンパク質よりも多くの利点を有する新規な研究試薬、診断薬または治療薬の作成に有用であり得る結合タンパク質のファミリーの一例を構成する。かかる利点としては、インビトロ方法を用いる単離が容易かつ迅速に行えること、非哺乳類宿主細胞を用いる産生が低コストであること、細胞質において機能するその天然性向により細胞内生物治療薬としての潜在的有用性があること、および免疫原性がないことが挙げられる。
【0007】
PDZドメインは比較的よく理解されており、潜在的有用性が非常に大きい。PDZドメインはタンパク質複合体形成を介してシグナル伝達系路に関与しており、細胞内の様々な位置へのタンパク質の標的化にも関与している。ヒトゲノムを含む後生動物ゲノムにおいて、PDZドメインはもっとも一般的なタンパク質配列モジュールに含まれる。PDZドメインに関する最近の総説には以下の参考文献が含まれる:Hung et al.、2002、J Biol Chem、277: 5699-702およびFan et al.、2002、Neurosignals、11: 315-21。多くのPDZドメインは安定であり、組換え細菌宿主において高レベルで発現しており、それによってその徹底的な生理学的特徴付けが進められている(例えば、Morais Cabral et al.、1996、Nature、382: 649-52.; Cohen et al.、1998、J Cell Biol、142: 129-38.; Daniels et al.、1998、Nat Struct Biol、5: 317-25.; Im et al.、2003、J Biol Chem、278: 8501-7)。PDZドメインは、例えばMyc タンパク質機能の阻害による癌の治療のための潜在的治療薬として記載されている。例えば、Junqueira et al.、2003、Oncogene、22: 2772-81および米国特許出願 20030119716を参照。その他のPDZ 特許出願がPDZドメインの有用性を拡大しており、その他のタンパク質との操作されたPDZドメイン融合物、またはキメラについて記載されている(例えば、米国特許出願公開第20010044135、20020037999、20020160424号参照)。PDZドメインはまた、ハイスループットスクリーニングにおいて薬剤候補を同定するのに利用されている(Ferrer et al.、2002、Anal Biochem、301: 207-16; Hamilton et al.、2003、Protein Sci、12: 458-67)。
【0008】
PDZドメインの結合特異性の研究および改変においていくらかの進歩がみられるようになった。Schneider et al.、1999、Nature Biotechnology 17:170-175 およびJunqueira et al.、2003、Oncogene、22: 2772-81は共に、天然PDZドメインの結合特異性を指向進化方法を用いて変化させる方法について記載している。ファージディスプレーを所与のPDZドメインの特異性の決定に用いることが出来る(例えば、Fuh et al.、2000、J. Biol. Chem. 275:21486-91参照)。この研究において、Fuhおよびその同僚は、固定化されたPDZドメインに結合することが出来るファージにディスプレーされたランダムなC-末端ペプチド配列を選択した。しかし、このアプローチは所与のPDZドメインの特異性の改変に関するものではなく、改変をもたらすことはできない。一方、Skelton et al. (2003、J. Biol. Chem.、278: 7645-54)は、ファージディスプレーのPDZドメイン特異性の改変のための使用を提案しているが、その証明には至っていない。ファージディスプレーは、親和性や特異性のような結合相互作用の状態について、アーティファクトが起こりやすいことが知られているツーハイブリッド選択よりも優れた制御を提供すると考えられている。
【0009】
あるいは、以下に示されるように、結合特異性が変化したPDZドメインは、コンピュータによる方法により設計することも出来る:Reina et al.、2002、Nat Struct Biol、9: 621-7および米国特許出願公開20030059827。これらコンピュータによる方法はいくつかの明白な利点を与えるようであり、例えば、実験の労力を避けることにより費用および時間が削減され、複数の標的に対する結合タンパク質の判定のために規模拡張を可能とする。一方、これらの方法はいくつかの注目すべき欠点を有し、例えば、周知のように、設計されたタンパク質構造の結合親和性の予測が非常に困難であり、信頼できない親和性および特異性を示す候補結合タンパク質が生じてしまう。また、いったん構造がインシリコで設計されても、対応するタンパク質は研究室において調製しなければならない。候補遺伝子バリアントの構築に必要とされる労力は、突然変異遺伝子のライブラリーの調製に必要とされる労力とあまりかわらず、いったんかかるライブラリーが構築されると、それは多様な標的について複数回スクリーニングされることが可能であり、一方、新規バリアントは各新規標的について設計および合成されなければならない。最後に、バリアント結合タンパク質の設計およびその結合親和性の最適化はその原子構造の詳細な情報が入手できなければ非常に困難であるのに対し、指向進化にはそのような必要はない。このタイプの構造データの獲得は費用および時間がかかり、数ヶ月も研究しなければならないこともある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
要約すると、特定の標的、特に天然ペプチド配列に対して結合できるポリペプチドは、生物学および医学において有用であり、将来有用性が向上することが予測される。しかし現在の技術では、多種多様な結合タンパク質に対する要求にみあうために十分に効率的かつ経済的な方法は提供されていない。既存の方法は時間がかかり、費用が高いことが多く、そしてさらなる欠点を有することがある。それゆえ、親和性試薬および/または治療薬として機能することができる多様な結合タンパク質を提供する、経済的かつ効率的な方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明の概要
本発明は、操作されたPDZドメインを含むポリペプチドを提供し、ここで該操作されたPDZドメインは病原体または疾患状態に関連する標的に結合する。ある態様において、病原体はウイルス、真菌、または細菌性である。ある態様において、病原体はバシラス属のものである。ある態様において、病原体は炭疽菌またはボツリヌス菌である。ある態様において、疾患状態は癌である。ある態様において、標的はポリペプチドである。ある態様において、標的は炭疽菌の外壁においてみられる。ある態様において、標的は炭疽菌のタンパク質 BclAまたはその断片である。ある態様において、標的はC-末端配列がEFYAであるポリペプチドである。ある態様において、標的は、IgA、IgD、IgM、IgG、IgE、インターロイキン、サイトカイン、アミロイドベータ、ベータ 2-ミクログロブリン、VEGF、RSVのFタンパク質、コクサッキーウイルス A9のVP1、HIVのVpr、PSA、および成長ホルモンから選択される。ある態様において、PDZドメインは進化している。ある態様において、進化したPDZドメインは、約 100 nM以下、約 50 nM 以下、約 20 nM 以下または約 15 nM 以下の解離定数 (Kd)にて標的に結合する。ある態様において、PDZドメインはタンパク質 hCASKのPDZドメインから進化したものである。ある態様において、PDZドメインは配列番号2から進化したものである。ある態様において、PDZドメインはタンパク質 hCASKのPDZドメインのバリアントである。ある態様において、PDZドメインは配列番号2のバリアントである。ある態様において、PDZドメインは、ヒト Dlg1の第三PDZドメインから進化したものである。ある態様において、PDZドメインは配列番号9またはその断片から進化したものである。ある態様において、PDZドメインはヒト Dlg1の第三PDZドメインのバリアントである。ある態様において、PDZドメインは配列番号9またはその断片のバリアントである。
【0012】
ある態様において、本発明のポリペプチドは、レポーター基、例えば、酵素、蛍光タンパク質、またはエピトープをさらに含む。
【0013】
ある態様において、本発明のポリペプチドは、エフェクタードメイン、例えば、抗体断片、毒素、ポリエチレングリコール (PEG) 部分、またはタンパク質伝達ドメインをさらに含む。
【0014】
ある態様において、本発明のポリペプチドは放射性同位元素をさらに含む。
【0015】
ある態様において、ポリペプチドは単離されている。
【0016】
本発明はさらに、本発明のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド、該ポリヌクレオチドを含むベクター、該ポリヌクレオチドを含む宿主細胞、または、本発明のポリペプチドに結合する抗体を提供する。ある態様において、ポリヌクレオチド、ベクター、宿主細胞または抗体は単離されている。
【0017】
本発明はさらに、
a)患者に本発明のポリペプチドを投与する工程;および、
b)該患者における該ポリペプチドの結合を検出する工程、
を含む、患者における病原体または疾患の存在を検出する方法を提供する。
【0018】
本発明はさらに、
a) (レポーター基を含んでいてもよい)本発明のポリペプチドとサンプルとを接触させる工程;および、
b)該サンプルに対する該ポリペプチドの結合を検出する工程、
を含む、サンプルにおける病原体または疾患の存在を検出する方法を提供する。
【0019】
ある態様において、検出はウェスタンブロットまたはELISAによって行う。ある態様において、サンプルは細菌病原体を含む。ある態様において、サンプルは炭疽菌、ボツリヌス菌またはそれらの毒素を含む。ある態様において、サンプルはウイルス性病原体を含む。
【0020】
本発明はさらに、
a)PDZドメインを含む1以上の親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを作成する工程;および、
b)該ライブラリーから該標的に対する結合親和性を有する1以上のポリペプチドを同定する工程、
を含む、PDZドメインを含むポリペプチドの調製方法を提供し、ここで、該PDZドメインは、病原体または疾患状態によって産生される標的に結合する。
【0021】
ある態様において、ポリペプチドのライブラリーはコンビナトリアル突然変異誘発によって作成する。ある態様において、ポリペプチドのライブラリーは変異性(error-prone) PCRによって作成する。ある態様において、1以上の親ポリペプチドは所望の発現系における発現について最適化される。ある態様において、発現系は細菌または酵母である。ある態様において、同定は無細胞スクリーニングアッセイにおいて行われる。ある態様において、同定はファージディスプレーによって行われる。
【0022】
本発明はさらに、PDZドメインおよびエフェクタードメインを含むポリペプチドを提供する。ある態様において、エフェクタードメインは、タンパク質伝達ドメイン、Fc ドメイン、または血清アルブミンを含む。
【0023】
本発明はさらに、PDZドメインを含むポリペプチドを提供し、ここで該PDZドメインは標的に結合し、そして該ポリペプチドは以下によって調製される:
a)配列番号2またはヒト Dlg1の第三PDZドメインの配列を有するPDZドメインを含む親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを作成する工程;
b)該標的に対する結合親和性を有する該ポリペプチドを該ライブラリーから同定する工程。
【0024】
ある態様において、標的は病原体または疾患に関連する。ある態様において、該疾患は癌である。ある態様において、病原体は細菌である。
【0025】
本発明はさらにPDZドメインを含むポリペプチドを提供し、ここで、該PDZドメインは標的に結合し、ここで、該ポリペプチドは再帰的アンサンブル(recursive ensemble)突然変異誘発によって調製される。ある態様において、標的は病原体または疾患状態に関連する。ある態様において、疾患は癌である。ある態様において、病原体は細菌である。
【0026】
本発明はさらに、PDZドメインを含む親ポリペプチドから調製したポリペプチドのライブラリーを提供し、該親ポリペプチドは、配列番号2またはヒト Dlg1の第三PDZドメインを含む。
【0027】
本発明はさらに、疾患に罹患しているかまたは罹患すると予想される患者に、該疾患に関連する標的に結合することが出来るPDZドメインを含むポリペプチドの治療的に有効量を投与することを含む、疾患の治療方法を提供する。
【0028】
本発明はさらに、病原体に感染しているか感染すると予測される患者に、該病原体に関連する標的に結合することが出来るPDZドメインを含むポリペプチドの治療的に有効量を投与することを含む、病原体に関連する疾患の治療方法を提供する。ある態様において、病原体は炭疽菌である。ある態様において、標的は炭疽菌によって生産された毒素を含む。ある態様において、病原体はボツリヌス菌である。ある態様において、標的はボツリヌス菌によって生産された毒素を含む。ある態様において、病原体は破傷風菌である。ある態様において、標的は破傷風菌によって生産された毒素を含む。
【0029】
本発明はさらに以下の工程を含む、PDZドメインを含むポリペプチドの調製方法を提供し、ここで、該PDZドメインは病原体に関連するポリペプチド標的に結合する:
a) PDZドメインを含む1以上の親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを作る工程;
b)該ライブラリーから第一のポリペプチドを選択する工程、ここで該第一のポリペプチドは該標的の最後の5アミノ酸に対して最後の5アミノ酸において20%〜80%の配列同一性を有する中間(intermediate)標的に対する結合親和性を有する;
c)工程 b)の第一のポリペプチドからさらなるポリペプチドのライブラリーを作成する工程;
d)工程b)およびc)を、該標的に結合するポリペプチドが同定されるまで繰り返す工程。
【0030】
本発明はさらにタンパク質とPDZドメインを含む固定化されたポリペプチドとを接触させる工程を含む、タンパク質の精製方法を提供し、ここで固定化された該ポリペプチドは該タンパク質に対する結合親和性を有する。
【0031】
本発明はさらにPDZドメインを含むポリペプチドを提供し、ここで該PDZドメインは標的に、15 nM 以下、または2 nM 以下の解離定数 (Kd)にて結合する。ある態様において、PDZドメインは進化している。
【0032】
本発明はさらに、以下の工程を含む、2以上のPDZドメインを含むポリペプチドの調製方法を提供し、ここで、該2以上のPDZドメインは1以上の標的に結合する:
a)2以上のPDZドメインを含む親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを作成する工程;
b)該1以上の標的に対する結合親和性を有する1以上のポリペプチドを該ライブラリーから同定する工程。
【0033】
本発明はさらに、2以上のPDZドメインを含むポリペプチドを提供し、ここで該PDZドメインは1以上の標的に結合し、ここで少なくとも1つの該PDZドメインは進化している。ある態様において、少なくとも1つの該PDZドメインは病原体または疾患状態によって産生される標的に結合する。
【0034】
発明の態様の説明
本発明はとりわけ、あらかじめ選択された標的に結合することが出来る1以上のPDZドメインを含むポリペプチド、およびかかるポリペプチドの使用および調製方法を提供する。ある態様において、PDZドメインは操作されている。ある態様において、1以上のPDZドメインの少なくとも1つは病原体または疾患状態によって産生された標的に結合する。 さらなる態様において、ポリペプチドは2つのPDZドメインを含み、その結果有利なことに、1つのみのPDZドメインを含むポリペプチドと比較して高い結合活性にて標的ペプチドに結合するPDZ二量体が生じる。標的の例としては、天然および非天然タンパク質、ペプチド、または、(例えば、直接的または間接的に産生された)例えば以下を含む病原体または疾患状態に関連するその他の分子が挙げられる:非感染性疾患状態、例えば、癌、神経変性、および心肺機能不全。
【0035】
定義
本明細書において用いる場合、「ポリペプチド」または「タンパク質」は、例えば、2 〜約 1000またはそれ以上のアミノ酸残基を有するアミノ酸のポリマーである。ある態様において、「ポリペプチド」は10 〜約 250 アミノ酸、または約 15〜約 200アミノ酸を有する。あらゆる天然または合成アミノ酸がポリペプチドを形成することが出来る。ポリペプチドはまた、修飾、例えば、グリコシル化およびその他の部分を含んでいてもよい。ある態様において、本発明のポリペプチドは、例えば、標的のアミノ酸配列、例えば、N-またはC-末端のアミノ酸配列に基づいて、標的ポリペプチドに選択的に結合する能力を有する。本発明のポリペプチドは少なくとも1つのPDZ結合ドメインを含む。ある態様において、ポリペプチドはさらなる機能的領域、例えば、「レポーター基」および/または「エフェクタードメイン」を含んでいてもよい。
【0036】
本明細書において用いる場合、「操作された」とは、インビトロ操作によって改変された少なくとも1つのPDZドメインを含む本発明のポリペプチドをいう。 例えば、「操作された」ポリペプチドまたはPDZドメインは非天然であり、例えば配列を含むその特性が、合理的設計または指向進化を含む好適ないずれかの方法にしたがって、インビトロ突然変異によって変化されているPDZドメインである。操作されたポリペプチドは典型的には天然ポリペプチドとは異なる特性、例えば、異なる結合特異性または親和性を有する。「操作された」PDZドメインは、指向進化またはその他のインビトロ進化技術に供された「進化した」PDZドメインを含む。
【0037】
本明細書において用いる場合、「PDZドメイン」は、標的のC-末端またはN-末端アミノ酸配列の認識により、標的タンパク質に結合することが出来るタンパク質モジュールをいう。PDZドメインは典型的には長さ85-95 アミノ酸であり、細菌からヒトまでの様々な生物において天然にみられる。例示的なPDZドメインは配列番号2の配列を有するhCASKのPDZドメインである。さらなるPDZドメインの例は、ヒト Dlg1の第三PDZドメイン、例えば、配列番号9に示すものである(実施例16参照)。本発明によるその他のPDZドメインは配列番号2または配列番号9のPDZドメインと相同性を有するものであり、例えば、BLAST (デフォールトパラメーター)を用いて少なくとも約 50 %の同一性を有するものである。PDZという名称は以下に由来し、以下のそれぞれは3つのかかるドメインを含む: PSD-95 (Cho et al.、Neuron 9:929-942、1992)、Dlg-A (Woods and Bryant、Cell 66:451-464、1991)およびZO-1 (Itoh et al.、J. Cell. Biol. 121:491-502、1993)。PDZドメインはGLGFリピートまたはDHRとも称されており、様々なタンパク質において同定されている(Ponting and Phillips、Trends Biochem. Sci. 20:102-103、1995)。PTPL1のPDZドメインは膜受容体 FasのC-末端尾部と相互作用することが示されており(Sato et al.、1995)、PSD-95のPDZドメインは、NMDA-受容体およびShaker型 K+チャンネルのC-末端に結合する(Kim et al.、Nature 378:85-88、1995; Kornau et al.、Science 269:1737-1740、1995)。様々なPDZドメインの結晶構造が公表されている(例えば、Doyle et al.、Cell .85:1067-1076、1996; Morais Cabral et al.、Nature 382:649-652、1996)。hCASKとも称されるヒト CASK/LIN-2のPDZドメインは、よく研究されている:その基質特異性は調べられており(Cohen et al.、1998、J Cell Biol、142: 129-38.)、その結晶構造は決定済みである(Daniels et al.、1998、Nat Struct Biol、5: 317-25.)。当業者であれば、例えば、www.ncbi.nlm.gov/structure/cdd/cdd.shtmlから入手可能なCD-Search コンピュータプログラム、NIHの無料の「Conserved Domain Database and Search Service」を用いることによりPDZドメインを容易に認識および同定することができる。
【0038】
PDZドメインは元の機能とは異なる特定の所望の機能を有する進化したPDZドメインの作成のためにインビトロ進化過程によって変化させることも出来る。「進化した」PDZドメインは、親PDZドメイン、例えば天然PDZドメインから、あらかじめ選択された標的についての親PDZドメインの結合親和性または特異性を変化させるように、進化しうる。ある態様において、進化したPDZドメインはhCASK PDZドメインから進化したものである。ある態様において、進化したPDZドメインはヒト Dlg1の第三PDZドメインから進化したものであり、その構造はCabral et al.、Nature 382:649-652、1996に記載されている。
【0039】
本明細書において用いる場合、「レポーター基」とは、直接的または間接的に容易に検出され、かつ、ポリペプチド、例えば、本発明のPDZドメインを含むポリペプチドに共有結合している分子の部分として定義される。レポーター基の例としては、以下が挙げられる:例えば、ポリメラーゼ連鎖反応 (PCR)によって容易に検出されるポリヌクレオチド;セイヨウワサビペルオキシダーゼに連結したストレプトアビジンによって容易に検出されるビオチン; 蛍光分光法によって検出される蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質 (GFP); エピトープに特異的に結合する抗体によって検出されるエピトープタグ、例えば、アミノ酸配列 YPYDVPDYA (配列番号11)に対応するインフルエンザヘマグルチニンペプチド HA エピトープ; 二重機能エピトープ/酵素タグ、例えば、タンパク質に特異的な抗体を用いて間接的に、またはGST酵素活性を測定する比色アッセイを用いて直接的に検出されうるGST (グルタチオン S-トランスフェラーゼ); 酵素、例えば、化学発光を用いて検出できるアルカリホスファターゼ。レポーター基にはまた、放射性同位元素および造影剤、例えばインビボ診断および造影に使用できるキレートされた重金属も含まれる。レポーター基として利用できる分子実体のその他の多数の例は当該技術分野において知られている。
【0040】
本明細書において用いる場合、「エフェクタードメイン」は、それが共有結合しているポリペプチドに対して検出以外の機能を付加する、タンパク質ドメインまたはその他の分子の部分として定義される。エフェクタードメインは、免疫系の機能、例えば、オプソニン作用、食作用および補体活性化を媒介する、イムノグロブリンのFc ドメインであってよい。その他のエフェクタードメインとしては、エフェクタードメインが結合しているポリペプチドによって認識される細胞を死滅させるのに利用される毒素、例えば、コレラ毒素が含まれる。その他の毒素としては以下が挙げられる:例えば、ボツリヌス毒素、ジフテリア毒素、炭疽菌毒素、ヒマ毒、クロストリジウムディフィシル毒素等。エフェクタードメインのその他の例としては、それが結合しているタンパク質が、哺乳類細胞の細胞膜を横切って細胞質に位置することを可能とするタンパク質伝達ドメインが挙げられ、例えば、Wadia and Dowdy、2002、Curr Op Biotechnol、13:52-6およびそれに引用されている文献に記載されており、そこにおいて、短い配列、例えば、Tat タンパク質の伝達ドメイン (YGRKKRRQRRR (配列番号12) 一文字アミノ酸コード) およびその他のアルギニンリッチ塩基性ペプチドが記載されている。さらなるエフェクタードメインの例は血清アルブミンである。エフェクタードメインのその他の例としては以下が挙げられる: RNA干渉 (RNAi)を介して遺伝子発現の選択的不活性化の媒介に利用されるRNA 分子; 化学療法薬、例えば癌細胞の殺傷に利用されるブレオマイシン; 癌細胞の殺傷に利用される放射性同位元素;その他。本発明のポリペプチドにおいて2以上のエフェクタードメインを1つのPDZドメインに連結させてもよい。エフェクタードメイン、例えば、血清タンパク質またはその他の宿主タンパク質に結合するPDZドメインは、それが融合しているタンパク質の薬物動態を調節することが出来る。したがって、治療活性を有するPDZドメインは、薬物動態を調節するエフェクタードメインとして作用する別のPDZドメインに融合させてもよい。その他の分子、例えば、ポリエチレングリコール (PEG)も、薬物動態の調節または免疫原性の低減のためのエフェクタードメインとして利用できる (Nucci et al.、Advan. Drug Del. Rev. 6、133、1991、and Inada et al.、J. Bioactive Compat. Polymer 5、343、1990)。PEGは米国特許第6677438に記載のようにその他のタンパク質に結合させてもよい。
【0041】
本明細書において用いる場合、「バリアント」という用語は、ポリペプチドをコードする遺伝子における操作された突然変異に起因する1以上のアミノ酸置換により別のポリペプチドとは異なるポリペプチドを示す意味である。当業者であれば、例えば、タンパク質ドメイン、例えば、PDZドメインおよびそのバリアントを同定することが出来る、www.ncbi.nlm.gov/structure/cdd/cdd.shtmlにて入手可能なCD-Search コンピュータプログラム、NIHの無料の「Conserved Domain Database and Search Service」の使用によってPDZドメインのバリアントを容易に認識および同定することが出来る。例えば Tatiana A. Tatusova and Thomas L. Madden (1999)、「Blast 2 Sequences - a new tool for comparing protein and nucleotide sequences」、FEMS Microbiol Lett. 174:247-250に記載の2つの配列(デフォールトパラメーター)をアラインさせるプログラム BLASTを用いることにより確認して、それと親ポリペプチドとの相同性の程度が約 40%を下回ると、ポリペプチドは典型的には親ポリペプチドのバリアントであるとはみなされない。ある態様において、バリアントは親ポリペプチドと、例えば、2つの配列(デフォールトパラメーター)をアラインさせるプログラム BLASTを用いて確認して、少なくとも約 50%、少なくとも約 60%、少なくとも約 70%、少なくとも約 80%、少なくとも約 85%、少なくとも約 90%、少なくとも約 95%、少なくとも約 97%、少なくとも約 98%、少なくとも約 99%の相同性を有する。ある態様において、親ポリペプチドは指向進化を用いてインビトロで進化させて、親ポリペプチドの1以上のバリアントを生じさせることが出来る。これらのバリアントは親ポリペプチドと比較して新規または改良された特性を有し得、あるいはさらなるバリアントの作成に有用であり得る。
【0042】
「ペプチド」という用語は、アミノ酸、アミノ酸アナログ、またはペプチド模倣体の2 〜約 50の亜単位(subunit)の化合物である。亜単位はペプチド結合によって連結しうる。別の態様において、亜単位はその他の結合、例えばエステル結合またはエーテル結合などによって連結していてもよい。本明細書において用いる場合、「アミノ酸」という用語は天然および/または非天然または合成アミノ酸のいずれをも指し、グリシンおよびDまたはL光学異性体の両方、ならびにアミノ酸アナログおよびペプチド模倣体も含まれる。ある態様において、ペプチドは、2 〜約 30、2 〜約 20、2 〜約 10、9、8、7、6、5、4、3 または2の亜単位のアミノ酸、アミノ酸アナログまたはペプチド模倣体を有しうる。
【0043】
本明細書において用いる場合、「インビトロ進化」または「指向進化」という用語は、2以上の異なるポリペプチド (例えば、ポリペプチドの「ライブラリー」)を、親ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの突然変異速度および/または組換え事象をインビトロ条件下で促進し、結果として得られる新規ポリペプチドをスクリーニングまたは選択することによって作成する方法をいう。指向進化の過程は詳細に記載されている(Joo et al.、Chem. Biol.、1999、6、699-706; Joo et al.、Nature、1999、399、670-673; Miyazaki et al.、J. Mol. Evol.、1999、49、716-720; Chen et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1993、90、5618-5622; Chen et al.、Biotechnology、1991、9、1073-1077; You et al.、Protein Eng、1996、9、77-83; これらはいずれも引用によりその全体を本明細書に含める)。一般に、該方法は以下の工程を含む:1)突然変異体ポリヌクレオチドの集団を作成する工程; 2)所望の性質、例えば結合親和性の向上したタンパク質をコードしているという性質を有する個々のヌクレオチドについてこの集団をスクリーニングする工程; および所望によりこれら2工程を、所望の改良が達成されるまで繰り返す工程。突然変異を導入する多くの方法が存在し、文献に記載されている(Leung et al.、Technique、1989、1、11-15; Delagrave et al.、Protein Eng.、1993、6、327-331; これらはいずれも引用によりその全体を本明細書に含める)。同様に、所望の性質について突然変異体をスクリーニングまたは選択するには多くの手法がある(Smith、Science、1985、228、1315; Hanes & Pluckthun、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1997、94、4937; Xu et al.、Chem. Biol、2002、9、933; Joo et al.、Chem. Biol.、1999、6、699-706; Joo et al.、Nature、1999、399、670-673; Miyazaki et al.、J. Mol. Evol.、1999、49、716-720; Chen et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1993、90、5618-5622; Chen et al.、Biotechnology、1991、9、1073-1077; You et al.、Protein Eng、1996、9、77-83; Marrs et al.、Curr. Opin. Microbiol.、1999、2、241-245; および米国特許第5914245号)。
【0044】
本明細書において用いる場合、「親ポリペプチド」という用語は、インビトロ進化過程の出発成分であるポリペプチドをいう。「親ポリペプチド」はポリペプチドの進化形態(「進化したポリペプチド」)から出発ポリペプチドを区別する。例えば、「親PDZドメイン」は、インビトロ進化により異なる(即ち進化した) PDZドメインを作成するための出発点として使用されるPDZドメインをいう。同様に、「進化したPDZドメイン」は、インビトロ進化過程の産物であるPDZドメインをいう。親PDZドメインは天然ドメインであってよい。
【0045】
本明細書において用いる場合、「親ポリヌクレオチド」という用語は、インビトロ進化過程の出発成分であるポリヌクレオチドをいう。「親ポリヌクレオチド」は進化形態のポリヌクレオチド(「進化したポリヌクレオチド」)から出発ポリヌクレオチドを区別する。例えば、「親PDZ ポリヌクレオチド」は、異なる(例えば進化した) PDZドメイン(バリアントPDZドメイン)のインビトロ進化による作成のための出発点として用いられるPDZドメインをコードするポリヌクレオチドをいう。同様に、「進化したPDZ ポリヌクレオチド」は、インビトロ進化過程の産物であるPDZドメインをコードするポリヌクレオチドをいう。
【0046】
本明細書において用いる場合、「ライブラリー」とは、2以上の異なるポリペプチドまたはポリヌクレオチドの集合物をいう。ライブラリーのポリペプチドまたはポリヌクレオチドの集合物は、変異性 PCR、再帰的アンサンブル突然変異誘発、コンビナトリアル突然変異誘発、およびその他の突然変異誘発方法、例えば、遺伝子シャッフリングなどを含む多数の方法のいずれによって調製されたものでもよい。
【0047】
本明細書において用いる場合、互換的に用いられる「疾患状態」または「疾患」または「障害」は、精神または身体の多数の病的状態のいずれをもさす。疾患状態は感染性または非感染性でありうる。疾患状態は病原体による症候性または非症候性感染でありうる。疾患状態は慢性または急性であり得、異常な免疫応答 (例えば、アレルギー)も含む。疾患状態の例としては、病原体関連毒素、例えば、細菌 (例えば、ボツリヌス菌、炭疽菌)、真菌、またはウイルス感染に曝されることによる病原体感染または毒性が挙げられる。さらに、疾患状態の例には非感染性疾患、例えば癌(前立腺癌、乳癌など)、心肺疾患(心筋梗塞、アテローム性動脈硬化症など)、神経変性疾患(アルツハイマー病、パーキンソン病、ALS、など)、アレルギー応答(例えば、喘息、蕁麻疹など)などが挙げられる。
【0048】
本明細書において用いる場合、「標的」とは、さらなる分子実体がそれに結合するあらゆる分子実体をいう。ある態様において、標的は、ポリペプチドまたはペプチドである。さらなる態様において、少なくとも1つの末端、例えば、C-末端が、少なくとも部分的に露出している。標的は、植物または動物(例えば、哺乳類)における生物学的状態、例えば、疾患 (病原性または非病原性)または障害、ならびに病原体の存在に関連しうる。標的が特定の生物学的状態に「関連している」場合、標的の存在または非存在あるいは特定の量の標的の存在 (例えば、正常レベルの逸脱)により、生物学的状態を同定できる。例えば、標的は特定の癌細胞において示差的に発現するタンパク質、例えば、前立腺-特異的抗原 (PSA)でありうる。ある態様において、標的は、アミロイドベータ (アルツハイマー病に関与)またはベータ 2-ミクログロブリン (透析関連アミロイド症に関与)またはこれらポリペプチドのC-末端の3〜12 残基に対応するペプチドであり得る。さらなる例として、標的には、疾患、例えば、喘息に関連するタンパク質が含まれ、例えば IgE (イムノグロブリン E)、IL-5、またはIL-17が挙げられる。さらなる例として、標的には、タンパク質、例えば IgA、IgD、IgM、IgGが含まれうる。さらなる態様において、標的は、インターロイキン、サイトカイン、アミロイドベータ、ベータ 2-ミクログロブリン、VEGF、RSV のF タンパク質、コクサッキーウイルス A9のVP1、HIV のVpr、PSA、または成長ホルモンであってもよい。
【0049】
さらなる例として、標的には例えばアナフィラトキシンC3aおよびC5aなどのタンパク質が含まれ得、それらは以下に記載されている: Humbles、et al. Nature 406、998-1001 (2000); Kawamoto、et al.、J Clin Invest、114、399-407 (2004); Gerard、et al. Complement in allergy and asthma. Curr Opin Immunol 14、705-708 (2002); Ames、et al.、J Biol Chem 271、20231-20234 (1996); Fitch、et al.、Circulation 100、2499-2506 (1999); Shernan、et al.、Ann Thorac Surg 77、942-949 (2004)。
【0050】
さらなる例として、標的には例えば黄斑変性症や癌などの疾患に関連するタンパク質、例えばVEGFなどの内皮増殖因子が含まれうる。さらなる例として、標的には末端肥大症に関連する成長ホルモン、例えば、ヒト成長ホルモンが含まれうる。別の例において、標的、例えば、クレアチンキナーゼ、トロポニン Iおよびトロポニン Tは心筋梗塞に関連している。さらなる例において、標的は病原体、例えば、ウイルス、細菌、真菌、または単細胞生物のタンパク質であり得る。したがってある態様において、標的は、呼吸器合胞体ウイルス融合タンパク質のF1およびF2 サブユニット、またはコクサッキーウイルス A9 (CAV9)のVP1、またはHIVのVprであり得る。ある態様において、標的は、炭疽菌外壁にみられるタンパク質、例えば、タンパク質 BclAであり得る。別の態様において、標的は、毒素、例えば、様々な血清型のボツリヌス神経毒 (毒素には重鎖および軽鎖が含まれ、これは例えばSingh、Nat. Struct. Biol.、2000、7:617-9、およびその引用文献に記載されている)、破傷風神経毒、または炭疽菌毒素 (例えば、致死因子、保護抗原および浮腫因子が含まれ、例えばStubbs、Trends Pharmcol Sci、2002、23:539-41、およびその引用文献に概説されている)を構成する1以上のタンパク質であり得る。さらに別の態様において、標的は、C-末端配列EFYAを有するポリペプチドであり得る。標的のさらなる例には、疾患の治療または診断に用いられるその他のポリペプチドが含まれる。疾患の治療または診断に用いられるポリペプチドの例としては、例えば、Enfuvirtide (Fuzeonとして市販)、インターフェロン、モノクローナル抗体、例えば リツキシマブ(リツキサン)、などが挙げられる。
【0051】
「中間標的」という用語は、最終的に望まれる標的とは異なるが、所望の本発明のポリペプチドの調製において助けとなるのに十分に類似した標的をいう。例えば、中間標的は所望の標的のペプチド断片であり得、ここでペプチド断片は所望の標的のカルボキシル末端 (またはN-末端)の最後の少なくとも3、4、5、または6 アミノ酸を含む。ペプチドは、大きいタンパク質より操作が簡便であることが多い。別の態様において、中間標的は、C-末端が最終的に望まれる標的のC-末端 (またはN-末端)に対して約 20 〜約 80パーセント相同性を有する標的でありうる。このようにして、PDZドメインを含むポリペプチドのインビトロ進化は所望の方向に向けることが出来る。いくつかの異なる中間標的をインビトロ進化過程に用いることが出来る。例えば、中間標的のパーセント同一性を増大させることにより、連続的な進化のラウンドに用いることが出来る。
【0052】
本明細書において用いる場合、「病原体」という用語は、ヒト、その他の動物または植物、例えば産業上重要な家畜および作物における疾患を引き起こすあらゆる微生物、ウイルスまたはプリオンをいう。病原体には、例えば、細菌、例えば、炭疽菌、大腸菌 O:157、ペスト菌、ピロリ菌、クロストリジウムディフィシル、肺炎連鎖球菌、黄色ブドウ球菌、ヒト型結核菌、ウシ型結核菌、ボツリヌス菌、破傷風菌などが含まれる。ウイルス性病原体には、例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)、A、BおよびC型肝炎ウイルス(HAV、HBV、HCV)、呼吸器合胞体ウイルス (RSV)、ポリオウイルス、コクサッキーウイルス A9 (CAV9)、天然痘ウイルス、CMV (サイトメガロウイルス)、フラビウイルス、パピローマウイルス、コロナウイルス (例えば、SARS-CoV)、インフルエンザウイルス、ウイルス性植物病原体、例えば、アルファルファモザイクウイルス、タバコモザイクウイルスなどが含まれる。その他の微生物病原体には、寄生虫および真菌、例えば、熱帯熱マラリア原虫 (マラリア)および真菌カンジダアルビカンスなどがそれぞれ含まれる。プリオン病原体には、伝染性海綿状脳症、例えば、ウシ海綿状脳症 (BSE)、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)などが含まれる。
【0053】
本明細書において用いる場合、「酵素」は特定の化学反応を触媒する多数のあらゆるタンパク質として定義される。酵素の例としては、β-ラクタマーゼ、ポリメラーゼ、プロテアーゼ、エンドヌクレアーゼ、グルタチオン S-トランスフェラーゼ (GST)、アルカリホスファターゼなどが含まれる。多くの毒素、例えば、コレラ毒素、ボツリヌス毒素などは酵素であるか、または、酵素を含む。
【0054】
本明細書において用いる場合、「蛍光タンパク質」は、電磁スペクトルの可視波長(即ち、約 300 nm 〜約 700 nm)において蛍光を発する能力を有するタンパク質として定義される。蛍光タンパク質の例としては、緑色蛍光タンパク質 (GFP)およびその誘導体、ならびにDsRedおよびその他のタンパク質および「Living Colors」という商標にてBD Biosciencesから市販されているそれらの誘導体が含まれる。
【0055】
本明細書において用いる場合、「エピトープ」は免疫応答を誘発することが出来、かつ、かかる応答によって産生される特異的抗体に結合する能力を有する抗原分子の領域として定義される。エピトープは、ペプチド、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、多糖などであり得る。
【0056】
本明細書において用いる場合、「抗体」という用語には、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体ならびにそれらの断片が含まれる。抗体には、これらに限定されないが、マウス、ラット、およびウサギ、ヒト、キメラ抗体などが含まれる。「抗体」という用語はまた、すべてのアイソタイプの抗体を含む。特定のアイソタイプのモノクローナル抗体は最初の融合物から選択することによって直接的に、または異なるアイソタイプのモノクローナル抗体を分泌する親ハイブリドーマから二次的に、Steplewski、et al. Proc. Natl. Acad. Sci.、1985、82、8653またはSpira、et al.、J. Immunol. Methods、1984、74、307に記載の手順を用いるクラススイッチバリアントを単離するための同胞選択技術を用いて調製することが出来る。
【0057】
本発明はまた上記ポリクローナルおよびモノクローナル抗体の断片も提供する。これらの「抗体断片」は典型的には、その抗原または免疫原と選択的に結合する能力をいくらか保持している。かかる抗体断片としては、これらに限定されないが: Fab、Fab'、F(ab')2、Fv、およびSCAが含まれる。生物学的に活性な抗体断片の例は抗体のCDR 領域である。これら断片の作成方法は当該技術分野において知られており、例えば、Harlow and Lane (1988)、下記を参照されたい。
【0058】
本発明の抗体を改変することにより、キメラ抗体およびヒト化抗体を作ることが出来る(Oi、et al.、Biotechnologies、1986、4(3)、214 :これはその全体を引用により本明細書に含める)。キメラ抗体は、例えば、抗体の重鎖および軽鎖の様々なドメインが2以上の種からのDNAによってコードされているものである。
【0059】
本発明のモノクローナル抗体の特異性を有するモノクローナル抗体を分泌する別のハイブリドーマの単離は、抗イディオタイプ抗体の産生により当業者によって達成することが出来る(Herlyn、et al.、Science、1986、232:100、これはその全体を引用により本明細書に含める)。抗イディオタイプ抗体は、目的のハイブリドーマによって産生されるモノクローナル抗体上に存在する特有の決定基を認識する抗体である。
【0060】
本発明による抗体は、遺伝子操作された抗体断片も含みうる。例えば、抗体の可変ドメインの分子クローンは、一本鎖可変ドメイン(scFv)、二重特異性抗体(diabodies)、Fab (Barbas et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1992、9、10164)、二価 Fab (Fab')等に標準的組換えDNA技術を用いて変換できる。ファージディスプレー (Smith、Science、1985、228、1315)、リボゾームディスプレー (Hanes & Pluckthun、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1997、94、4937)およびmRNA ディスプレー (Xu et al.、Chem. Biol、2002、9、933)をインビトロで用いて所望の親和性および/または特異性を有する抗体を選択することが出来る。
【0061】
研究室においてポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体を産生する方法、ならびにその対応する核酸配列を推定する方法は、当該技術分野において知られている。例えば、ANTIBODY、A LABORATORY MANUAL (Harlow and Lane eds. (1988))および Sambrook et al. MOLECULAR CLONING: A LABORATORY MANUAL、2nd edition (1989) 参照、これらはいずれも引用によりその全体を本明細書に含める。本発明のモノクローナル抗体は、抗原、例えば、タンパク質またはその断片を動物、例えば、マウスまたはウサギに導入することによって生物により産生することが出来る。動物における抗体産生細胞を単離し、ミエローマ細胞またはヘテロミエローマ細胞と融合させてハイブリッド細胞またはハイブリドーマを産生する。
【0062】
本明細書において用いる場合、「核酸」または「ポリヌクレオチド」は、ヌクレオチドまたはそのアナログのいかなる長さでもよいポリマー形態を指す。ポリヌクレオチドは、デオキシリボヌクレオチド、リボヌクレオチド、および/またはそれらのアナログを含みうる。ヌクレオチドはいかなる三次元構造をとってもよく、既知または未知のなんらかの機能を示しうる。「ポリヌクレオチド」という用語には、例えば、一本鎖、二本鎖および三重らせん分子、遺伝子または遺伝子断片、エキソン、イントロン、mRNA、tRNA、rRNA、リボザイム、cDNA、組換えポリヌクレオチド、分岐ポリヌクレオチド、プラスミド、ベクター、あらゆる配列の単離DNA、あらゆる配列の単離RNA、dsRNA、などが含まれる。
【0063】
核酸分子はさらにオリゴヌクレオチド、例えば、アンチセンス分子、プローブ、プライマーなどを含む。オリゴヌクレオチドは典型的には約 2 〜約 100、8 〜約 30または10 〜約 28のヌクレオチドまたはそのアナログを有する。
【0064】
核酸分子は、特定の所望の性質、例えばインビボ安定性、結合親和性などを向上させるために修飾骨格、修飾塩基および修飾糖を含んでいてもよい。核酸の修飾は当該技術分野において周知であり、例えば、以下の米国特許番号に記載の修飾が挙げられる:3,687,808; 4,469,863; 4,476,301; 5,023,243; 5,177,196; 5,188,897; 5,264,423; 5,276,019; 5,278,302; 5,286,717; 5,321,131; 5,399,676; 5,405,939; 5,453,496; 5,455,233; 5,466,677; 5,476,925; 5,519,126; 5,536,821; 5,541,306; 5,550,111; 5,563,253; 5,571,799; 5,587,361、5,625,050、5,034,506; 5,166,315; 5,185,444; 5,214,134; 5,216,141; 5,235,033; 5,264,562; 5,264,564; 5,405,938; 5,434,257; 5,466,677; 5,470,967; 5,489,677; 5,541,307; 5,561,225; 5,596,086; 5,602,240; 5,610,289; 5,602,240; 5,608,046; 5,610,289; 5,618,704; 5,623,070; 5,663,312; 5,633,360; 5,677,437、5,677,439、5,539,082; 5,714,331、5,719,262、5,489,677、5,602,240、5,034,506、4,981,957; 5,118,800; 5,319,080; 5,359,044; 5,393,878; 5,446,137; 5,466,786; 5,514,785; 5,519,134; 5,567,811; 5,576,427; 5,591,722; 5,597,909; 5,610,300; 5,627,053; 5,639,873; 5,646,265; 5,658,873; 5,670,633、5,700,920、3,687,808、4,845,205; 5,130,302; 5,134,066; 5,175,273; 5,367,066; 5,432,272; 5,457,187; 5,459,255; 5,484,908; 5,502,177; 5,525,711; 5,552,540; 5,587,469; 5,594,121、5,596,091; 5,614,617、 5,681,941、5,750,692、5,013,830; 5,149,797; 5,220,007; 5,256,775; 5,366,878; 5,403,711; 5,491,133; 5,565,350; 5,623,065; 5,652,355; 5,652,356;および5,700,922、これらはいずれも引用によりその全体を本明細書に含める。
【0065】
核酸の単離、調製および操作は当該技術分野において周知であり、Sambrook、et al.、前掲に詳細に記載されている。
【0066】
本発明はまた本発明の単離DNA 分子を含む「ベクター」にも関し、また、組換えベクターにより遺伝子操作された、または、本発明のポリペプチドを産生するようにその他の手段で操作された「宿主細胞」にも関し、そして、進化したPDZドメインまたはその誘導体の組換え技術による産生にも関する。
【0067】
ポリヌクレオチドは宿主における増殖についての選択可能マーカーを含むベクターに結合させてもよい。一般に、プラスミドベクターは沈殿、例えば、リン酸カルシウム沈殿において導入し、または荷電した脂質との複合体において導入する。ベクターがウイルスの場合、適当なパッケージング細胞株を用いてインビトロでパッケージングし、そして宿主細胞に導入すればよい。
【0068】
一つの態様において、本発明のDNAは、適当な異種調節要素 (例えば、プロモーターまたはエンハンサー)、例えば、ファージラムダ PL プロモーター、大腸菌 lac、trp、およびtac プロモーター、SV40 初期および後期プロモーターおよびレトロウイルスLTRプロモーターなどに操作可能に連結させる。その他の好適なプロモーターは当業者に知られている。
【0069】
ベクターが発現コンストラクトを含む態様において、これらのコンストラクトはさらに転写開始部位、終止部位を含み、そして、転写領域において、翻訳のためのリボゾーム結合部位を含む。コンストラクトによって発現する成熟転写産物のコード部分は好ましくは、最初に翻訳開始コドンを含み、翻訳すべきポリペプチドの末端に適当に位置した終止コドン(UAA、UGAまたはUAG)を含む。
【0070】
上記のように、発現ベクターは好ましくは少なくとも1つの選択可能マーカーを含む。かかるマーカーには、真核細胞の培養にはジヒドロ葉酸還元酵素またはネオマイシン耐性遺伝子、大腸菌およびその他の細菌の培養にはテトラサイクリンまたはアンピシリン耐性遺伝子が含まれる。適当な宿主の代表例には、これらに限定されないが、細菌細胞、例えば、大腸菌、ストレプトマイセスおよびネズミチフス菌細胞; 真菌細胞、例えば、酵母細胞; 昆虫細胞、例えば、ショウジョウバエS2およびスポドプテラ(Spodoptera)Sf9 細胞; 動物細胞、例えば、CHO、COSおよびBowes メラノーマ細胞;および植物細胞が含まれる。上記宿主細胞に適当な培地および条件は当該技術分野において知られている。
【0071】
細菌での使用に特に好ましいベクターには、以下が含まれる:Qiagen から入手可能なpQE70、pQE60 およびpQE9; Stratageneから入手可能な pBS ベクター、Phagescript ベクター、Bluescript ベクター、pNH8A、pNH16a、pNH18A、pNH46A;およびPharmaciaから入手可能な ptrc99a、pKK223-3、pKK233-3、pDR540、pRIT5。特に好ましい真核ベクターは、Stratageneから入手可能な pWLNEO、pSV2CAT、pOG44、pXT1および pSG; およびPharmaciaから入手可能な pSVK3、pBPV、pMSG および pSVLである。その他の好適なベクターは当業者にとって明らかである。
【0072】
宿主細胞における発現に適当なベクターおよびプロモーターの選択は周知手順であり、発現ベクターの構築、ベクターの宿主への導入および宿主における発現に必要な技術は当該技術分野においてルーチン的技術である。
【0073】
本発明はまた、本明細書に記載のベクターコンストラクトを含む宿主細胞にも関し、さらに、1以上の異種調節領域(例えば、プロモーターおよび/またはエンハンサー)に当該技術分野において公知の技術を用いて作動可能に連結した本発明のヌクレオチド配列を含む宿主細胞も包含する。宿主細胞は高等真核細胞、例えば、哺乳類細胞 (例えば、ヒト由来細胞)であってもよいし、下等真核細胞、例えば、酵母細胞であってもよく、あるいは宿主細胞は原核細胞、例えば、細菌細胞であってもよい。宿主株は、挿入した遺伝子配列の発現を調節するか、所望の特定の様式において遺伝子産物を修飾および加工するよう、選択すればよい。特定のプロモーターからの発現は特定の誘導物質の存在下において上昇させうる;したがって遺伝子操作されたポリペプチドの発現を制御することが出来る。さらに、種々の宿主細胞はタンパク質の翻訳および翻訳後プロセッシングおよび修飾(例えば、リン酸化、切断)の特徴および特異的機構を有する。
【0074】
適当な細胞株は、発現させる外来タンパク質の所望の修飾およびプロセッシングを確実にするように選択すればよい。
【0075】
コンストラクトの宿主細胞への導入は、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介トランスフェクション、陽イオン性脂質-媒介トランスフェクション、エレクトロポーレーション、伝達、感染またはその他の方法によって行うことが出来る。かかる方法は、多くの標準的な研究用マニュアル、例えば Sambrook et al.、前掲に記載されている。
【0076】
本明細書において用いる場合、「最適化」という語は、翻訳産物 (ポリペプチドまたはタンパク質)をコードするDNA 配列を変化させてそのアミノ酸配列を変化させることなくそのタンパク質の発現レベルを向上させるあらゆるプロセスを意味する。例えば、遺伝子最適化はコンピュータによる方法により達成できる(例えば、Fuglsang、Protein Expr Purif. 2003、31:247-9)。遺伝子最適化の別の方法はStemmer et al.、Gene、1993,123:1-7に記載の指向進化の特別の適用である。発現系の例には、細菌 (例えば、大腸菌)および酵母が含まれる。
【0077】
本明細書において用いる場合、「無細胞選択」または「無細胞スクリーニングアッセイ」という用語は、生細胞の直接使用を伴わないあらゆる親和性選択方法として定義される。無細胞選択の例としては、リボゾームディスプレー (Hanes & Pluckthun、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1997、94、4937)およびmRNA ディスプレー (Xu et al.、Chem. Biol、2002、9、933)が含まれる。選択可能なライブラリーを作るために細胞へのDNAの形質転換を必要とするファージディスプレーは、無細胞選択の例を構成するものではない。
【0078】
本明細書において用いる場合、「接触させる」という用語は、所定の物質(例えば、サンプルおよび本発明のポリペプチド)を、それら物質が、例えば、結合親和性を示すのに十分に分子レベルにおいて互いに相互作用しうるように近接させることを意味する。
【0079】
ポリペプチドの調製方法
本発明はさらに、インビトロ進化技術を用いてポリペプチドを調製する方法を提供する。 例えば、PDZドメインを含むポリペプチドは、PDZドメインを含む1以上の親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを作成することによって調製することが出来る。所望の標的に対する結合親和性が向上した1以上のポリペプチドを該ライブラリーから同定することが出来る。ある態様において、同定されたポリペプチドは、選択された標的に対する結合親和性がより大きいさらなるポリペプチドが同定されうる、さらなるライブラリーの作成に用いることが出来る。突然変異誘発および選択のこのプロセスを数回反復して繰り返すとよい。
【0080】
本発明のポリペプチドの進化したPDZドメインの結合親和性 (解離定数、またはKdとして報告される)は、約 1mM 〜約 1 fM、約 1000 nM 〜約 1 fM、約 100 nM 〜約 1 fM、50 nM 〜約 1 fM、約 20 nM 〜約 1 fM、約 15 nM 〜約 1 fM、約 10 nM 〜約 1 fM、約 5 nM 〜約 1 fMまたは約 1 nM 〜約 1 f Mでありうる。ある態様において、あらかじめ選択された標的に対する本発明によるPDZドメインの結合親和性は、約 100 nM未満、約 50 nM未満、約 20 nM未満、約 15 nM未満または約 10 nM未満である。親和性は、例えば、Biacore instrument (Biacore)において実行される表面プラズモン共鳴 (SPR)によって測定することが出来る。所望の標的に結合するライブラリーメンバーの同定はいずれの好適な方法によって行ってもよい。ある態様において、ポリペプチドは、ファージディスプレーによって、または無細胞選択、例えば、mRNA ディスプレーにおいて同定できる。
【0081】
さらなる態様において、本発明は、PDZドメインを含む1以上の親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを形成することによりPDZドメインを含むポリペプチドを調製する方法を提供し、該方法は、第一の選択されたポリペプチドをライブラリーから選択することを含み、ここで、第一の選択されたポリペプチドは中間標的に対する結合親和性を有する。中間標的は、所望の標的の最後の5アミノ酸 (例えば、C-末端)と最後の5アミノ酸 (例えば、C-末端)において、例えば、20%〜80% (例えば、20%、30%、40%、50%、60%、70%または80%)の配列同一性を有しうる。さらなるポリペプチドのライブラリーを第一の選択されたポリペプチドから作成し、ライブラリーから所望の標的と結合することができるポリペプチドが得られるまでこのプロセスを繰り返すとよい。中間標的は、ポリペプチドの進化についての進化ガイドとして作用し得、標的のC-末端配列が親ポリペプチドに対する天然の結合物質(binder)のC-末端配列とはかなり異なる場合に特に有用であり得る。1以上の中間標的を使用することができ、相異なる中間標的を各反復に用いることが出来る。
【0082】
治療および予防方法
本発明による治療方法は、予防と治療の両方を含みうる。予防または治療は、治療薬、例えば、本明細書に記載の指向進化方法によって調製される、PDZドメインを含むポリペプチドを患者に投与することによって達成され得る。ある態様において、治療方法には、本発明のポリペプチドの投与が含まれる。別の態様において、治療方法には本発明のポリペプチドによって結合されうるペプチドの投与が含まれる。治療薬は単一の時点または複数の時点で単一または複数の部位に投与することが出来る。投与はまた、複数の部位にほぼ同時に行うことも出来る。患者または対象には、哺乳類、例えば、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、およびヒツジといった動物が含まれる。対象は好ましくはヒトである。
【0083】
標的に関連する疾患または障害、例えば、ウイルス感染、癌、アレルギー、またはその他の病的状態は、一般に当該技術分野において受け入れられている基準を用いて診断することが出来、かかる基準としては、例えば、悪性腫瘍の存在または白血球数の増加が挙げられる。治療薬は、原発腫瘍の外科的除去および/または治療、例えば、放射線治療または常套の化学療法薬の投与の、前に投与してもよいし、後に投与してもよい。さらなる態様において、治療薬、例えば、本発明のポリペプチドは、感染性媒介物、例えば、ウイルス、細菌、またはその他の病原体による感染に先だって投与してもよい。
【0084】
いくつかの態様において、治療は免疫療法であり得、これは、本明細書に記載の方法にしたがって調製された結合タンパク質の投与により腫瘍または感染細胞に対して内在性宿主免疫系を反応させるインビボ刺激(例えば、内在性エフェクター細胞の刺激)に依存する治療である能動免疫療法であってもよい。別の態様において、免疫療法は、抗腫瘍、抗-炎症性、またはその他の効果を直接的または間接的に媒介することが出来、インタクトな宿主免疫系に依存する必要がない、例えば、免疫反応性を有する薬物(例えば、進化したPDZドメインがFc ドメインに融合したもの、あるいは抗体または抗体断片に接合したもの)の送達を伴う治療である受動免疫療法であってもよい。エフェクター細胞の例としては、T 細胞、T リンパ球(例えば CD8+ 細胞障害性 T リンパ球および CD4+ T-ヘルパー腫瘍-浸潤性リンパ球)、キラー細胞 (例えば、ナチュラルキラー細胞およびリンホカイン-活性化キラー細胞)、B 細胞および抗原-提示細胞 (例えば、樹状細胞およびマクロファージ)が含まれる。
【0085】
本明細書に記載の方法によって調製された治療薬は医薬上許容される担体と組み合わせて医薬組成物をつくってもよい。本明細書において用いる場合、「医薬上許容される担体」には、活性成分と組み合わせた場合に、該成分の生物活性を保持させ、対象の免疫系と非反応性であるあらゆる物質が含まれる。例としては、これらに限定されないが、あらゆる標準的医薬用担体、例えば、リン酸緩衝食塩水、水、乳濁液、例えば、油/水乳濁液、および様々なタイプの湿潤剤が挙げられる。噴霧剤または非経口投与のための好ましい希釈剤は、リン酸緩衝食塩水または生理的(0.9%)食塩水である。かかる担体を含む組成物は、周知の常套の方法により製剤される (例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、Chapter 43、14th Ed.、Mack Publishing Co、Easton Pa. 18042、USA参照)。
【0086】
治療および予防組成物および使用
抗体および抗体断片と同様に、PDZドメインを含むポリペプチドおよびそれらの誘導体は以下を含む多数の障害の治療に有用であり得る:例えば、癌、炎症性障害、例えば、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、循環血液量減少性ショック、潰瘍性大腸炎、関節リウマチ、およびその他の表1に示すもの。表1は、治療用抗体が向けられる疾患および分子標的のリストを提供する。
表1. モノクローナル抗体に基づく治療薬(Nature Biotechnology、2003、21、868)
【表1】



【0087】
本発明のポリペプチドまたはその誘導体の治療用製剤は、所望の純度を有し、所望により医薬上許容される担体、賦形剤または安定剤(例えば、Remington's Pharmaceutical Sciences、前掲参照)を含むポリペプチドまたはその誘導体を、凍結乾燥ケーキまたは水溶液の形態にて混合することにより貯蔵用に調製することが出来る。許容される担体、賦形剤または安定剤は、用いる用量および濃度においてレシピエントに対して非毒性であり、以下を含む:緩衝剤、例えば、リン酸、クエン酸、およびその他の有機酸緩衝剤;抗酸化剤、例えば、アスコルビン酸; 低分子量 (約 10 残基未満) ポリペプチド; タンパク質、例えば、血清アルブミン、ゼラチン、またはイムノグロブリン; 親水性ポリマー、例えば ポリビニルピロリドン; アミノ酸、例えば、グリシン、グルタミン、アスパラギン、アルギニンまたはリジン; 単糖類、二糖類、およびその他の炭水化物、例えば、グルコース、マンノース、またはデキストリン; キレート化剤、例えば、EDTA; 糖アルコール、例えば、マンニトールまたはソルビトール; 塩形成対イオン、例えば、ナトリウム;および/または非イオン性界面活性剤、例えば Tween、Pluronicsまたはポリエチレングリコール(PEG)。
【0088】
インビボ投与のための本発明のポリペプチドまたはその誘導体は好ましくは無菌である。これは凍結乾燥および再構成の前またはその後の滅菌ろ過膜を介するろ過によって容易に達成できる。本発明のポリペプチドまたはその誘導体は通常凍結乾燥形態または溶液にて保存される。
【0089】
治療用ポリペプチド組成物は一般に、無菌点検口(access port)を有する容器、例えば、静脈注射用袋または皮下注射針によって穴を開けることができるストッパーを有するバイアルに入れられる。
【0090】
ポリペプチド投与の経路は公知の方法にしたがって行えばよく、例えば、静脈内、腹腔内、脳内、筋肉内、眼内、動脈内、または病巣内経路による吸入、注射または注入、浣腸または坐薬、あるいは下記のような徐放システムが挙げられる。ポリペプチドまたはその誘導体は全身的に与えてもよいし、あるいは炎症部位に与えてもよい。
【0091】
徐放性製剤の好適な例としては、造形品の形態の半透性ポリマーマトリックス、例えば、フィルムまたはマイクロカプセルが含まれる。徐放性マトリックスには、ポリエステル、ヒドロゲル、ポリ乳酸(米国特許第3,773,919号およびEP 58,481)、L-グルタミン酸およびガンマ-L-グルタミン酸エチルのコポリマー (Sidman et al.、Biopolymers、1983、22、547)、ポリ(2-ヒドロキシエチル-メタクリラート) (Langer et al.、J. Biomed. Mater. Res.、1981、15、167 and Langer、Chem. Tech.、1982、12、98)、エチレン酢酸ビニル (Langer et al.、前掲)またはポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸 (EP 133,988)が含まれる。徐放性組成物にはまた、リポソームに封入した進化したPDZドメインまたはその誘導体が含まれる。進化したPDZドメインまたはその誘導体を含むリポソームはそれ自体公知の方法によって調製できる: DE 3,218,121; Epstein et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、1985、82、3688; Hwang et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A.、1980、77、4030; EP 52,322; EP 36,676; EP 88,046; EP 143,949; EP 142,641; 米国特許第4,485,045号および4,544,545号;およびEP 102,324。通常、リポソームは小さい(約 200-800 オングストローム)一枚層型であり、その中の脂質含量は約30 モルパーセントコレステロールを超え、これはもっとも有効な治療のために調整された選択された割合である。
【0092】
治療的に用いられる本発明のポリペプチドの「有効量」は、例えば、治療対象、投与経路および患者の症状に依存する。したがって、治療専門家は、最高治療効果を達成するために必要な投与量を判定し(titer)投与経路を改変する必要があり得る。典型的には、臨床医は、所望の効果を達成する投与量に到達するまでポリペプチドを投与するであろう。この治療の進行は常套のアッセイによって容易にモニターすることが出来る。
【0093】
疾患または障害の治療および予防において、ポリペプチド組成物は適正な医学的方法にしたがった様式で、製剤、用量決定および投与され得る。これに関して考慮すべき因子には、治療すべき具体的な障害、治療すべき具体的な哺乳類、個々の患者の臨床症状、障害の原因、ポリペプチドの送達部位、具体的なポリペプチドのタイプ、投与方法、投与計画、およびその他の医学の専門家に公知の因子が含まれる。投与すべきポリペプチドの「治療上有効量」はかかる考慮因子によって決定され得、炎症性障害の予防、改善または治療に必要な最少量である。かかる量は好ましくは宿主に対して毒性の量または宿主を有意に感染にかかりやすくする量よりも低い量である。
【0094】
一般命題として、非経口的に投与されるポリペプチドの一回投与当たりの初期医薬上有効量は約 0.1〜50 mg/kg患者体重/日の範囲であり得、使用されるポリペプチドの典型的な初期範囲は、0.3〜20 mg/kg/日、より好ましくは 0.3〜15 mg/kg/日である。しかし上記のように、このように示唆されたポリペプチドの量は治療医が決定すべきである。
【0095】
本発明のポリペプチドは、必要であるわけではないが、問題の疾患または障害の予防または治療に現在用いられている1以上の薬剤とともに製剤してもよい。例えば、関節リウマチにおいて、ポリペプチドは糖質コルチコステロイドと組みあわせて投与すればよいし、あるいは癌のためには、ポリペプチドは化学療法薬と組みあわせて投与すればよい。ポリペプチドは1以上のその他の本発明のポリペプチドとともに製剤して治療用「カクテル」を提供してもよい。
【0096】
検出方法
本発明はさらに、サンプルにおける、疾患、疾患誘発性病原体または障害、例えば、癌を検出する方法を提供し、該方法は、サンプルと、サンプル中の標的に結合するPDZドメインを含むポリペプチドとを接触させることを含み、ここで、標的は該疾患、病原体、または障害と関連するものである。標的は、例えば、核酸またはそれによってコードされるタンパク質であってよい。標的は、ペプチドまたはタンパク質等の、病原体によって直接的または間接的に産生される物質であってよく、それらの毒素などが含まれる。サンプルは環境サンプルであってもよいし、哺乳類由来組織、例えば、ヒト、ウシ、ウマ、イヌ、ネコ、ブタ、およびヒツジ組織であってもよい。ある態様において、組織はヒト由来である。組織は、腫瘍検体、脳脊髄液、またはその他の好適な検体を含み得、かかる組織は目的の標的を含むであろうものである。一つの態様において、該方法は、検体における標的の存在の検出のための本明細書に記載の方法により、進化したPDZドメインまたはその誘導体を用いるELISA型アッセイの使用を含む。この方法は、患者の組織サンプルにおける標的レベルをモニターすることにも利用できる。例えば、初回または継続治療のための治療計画が好適であるかは、この方法にしたがって標的レベルをモニターすることによって判定できる。
【0097】
本発明はさらに、患者における疾患誘発性病原体または疾患、例えば癌を含む疾患の検出方法を提供し、これは、本発明のポリペプチドを患者に投与することおよび患者における該ポリペプチドの結合を検出することによってなされる。ある態様において、投与されるポリペプチドはさらに、患者におけるポリペプチドの結合の検出を容易にするために、レポーター基、例えば、放射性部分、キレートされた重金属、またはその他の造影剤を含む。患者におけるポリペプチドの結合は、所望の標的を含む特定の組織におけるポリペプチドの局在化として観察することが出来る。例えば、癌マーカー、例えば、特定の癌細胞から示差的に発現されるポリペプチドに特異的に結合することが出来る本発明のポリペプチドは、該ポリペプチドの局在の検出により腫瘍または疾患組織の存在を明らかにしうる。患者、例えば、ヒト患者をスキャンする方法は当該技術分野において周知であり、X線撮影、MRI、および関連技術が含まれる。
【0098】
本発明の実施には、特に断りのない限り、分子生物学(組換え技術を含む)、微生物学、細胞生物学、生化学および免疫学の常套の技術を用いるが、それらは当業者の能力の範囲内である。かかる技術は文献に詳細に説明されている。これらの方法は以下の刊行物に記載されている。例えば、Sambrook、et al.、Molecular Cloning: A Laboratory Manual、2nd edition (1989); Current Protocols in Molecular Biology (F. M. Ausubel et al. eds. (1987)); the series Methods in Enzymology (Academic Press、Inc.); PCR: A Practical Approach (M. MacPherson et al. IRL Press at Oxford University Press (1991)); PCR 2: A Practical Approach (M. J. MacPherson et al.、eds. (1995)); Antibody、A Laboratory Manual (Harlow and Lane eds. (1988)); Animnal Cell Culture (R. I. Freshney ed. (1987));および Pharge Display: A Laboratory Manual (C.F. Barbas III et al.、(2001))を参照。これらはいずれも引用によりその全体を本明細書に含める。
【0099】
精製方法
本発明はさらに、タンパク質の精製方法を提供し、該方法は、該タンパク質と固定化されたPDZドメインを含むポリペプチドとを接触させることを含み、ここで固定化されたポリペプチドはタンパク質に対する結合親和性を有する。好適な結合親和性 (解離定数、即ちKdとして報告される)には、約 1mM 〜約 1 fM、約 1000nM 〜約 1 fM、約 100 nM 〜約 1 fM、50 nM 〜約 1 fM、約 20 nM 〜約 1 fM、約 15 nM 〜約 1 fM、約 10 nM 〜約 1 fM、約 5 nM 〜約 1 fMまたは約 1 nM 〜約 1 f Mが含まれる。ある態様において、結合親和性は約 100 nM未満、約 50 nM未満、約 20 nM未満、約 15 nM未満または約 10 nM未満である。
【0100】
以下の実施例は、本発明を説明し、当業者への本発明の製造および使用を補助する目的で提供される。実施例は本発明の範囲を制限する意図ではない。
【実施例】
【0101】
実施例1.大腸菌および出芽酵母における発現のために最適化されたヒト CASK PDZドメイン遺伝子の合成
配列番号1に示す配列を有する遺伝子断片であるhCASK-PDZoptは販売元 (GENEART、Germany)から得た。このhCASK-PDZoptは、ヒト hCASK 遺伝子 (GenBank 受入番号 AF032119) 産物のPDZドメインをコードする。このPDZドメインの配列を配列番号2に示す。配列番号1の遺伝子断片は大腸菌と出芽酵母との両方における最適な発現のために設計された。該遺伝子断片を、KpnIおよびSacI 制限部位を用いてベクター pCR-Script Amp (Stratagene、LaJolla、CA)にクローニングし、大腸菌 XL10-Gold (Stratagene)に形質転換した。標準的標識化ジデオキシターミネーター化学およびApplied BioSystemの装置を用いてDNA 配列決定を行い、クローニングした合成遺伝子の配列を確認した。
【0102】
実施例 2. GSTおよびヒト hCASK PDZ 合成遺伝子の翻訳融合物の構築および発現
配列番号1の合成遺伝子である、hCASK-PDZoptを、EcoRIおよびBamHI 制限部位を用いて実施例1のpCR-Script ベクターからプラスミド pGEX-2TK (Amersham Biosciences)にサブクローニングした。これによって得られたプラスミド pGEX-hCASK-PDZoptは、そのオープンリーディングフレームが合成 PDZドメイン遺伝子断片に融合したGST 遺伝子を含む翻訳融合物を含んでいた。DNA 配列決定を標準的方法にしたがって行って、サブクローンのDNA 配列が配列番号3に示すタンパク質、即ちhCASK PDZドメインに融合したGST、をコードすることを確認した。
【0103】
pGEX-hCASK-PDZopt DNAを大腸菌株 JM109にに形質転換し、GST-hCASK PDZ 融合タンパク質を発現させ、グルタチオンセファロース親和性媒体(Amersham Biosciences)を用いた親和性クロマトグラフィーにより精製した。精製タンパク質をクーマシー・ブルーで染色したSDS-PAGEにより可視化した。
【0104】
GST 部分の機能を、1μgの融合タンパク質を、0.1M リン酸カリウムバッファー pH 6.5中で、1-クロロ-2,4-ジニトロベンゼン (CDNB、Amersham Biosciences)および還元グルタチオンとともに製造業者の説明に従ってインキュベートし、340 nmでの吸光度をモニターすることによって確認した。反応の最初の5 分間における吸光度の上昇が0.02 OD/分を超え、機能的なGST-CASK 融合タンパク質であることが予測された。
【0105】
実施例 3.アルカリホスファターゼ遺伝子およびヒト hCASK PDZ 合成遺伝子の翻訳融合物の構築および発現
配列番号1の合成遺伝子、hCASK-PDZoptを周知技術であるオーバーラップ PCR (Horton et al.、1990、Biotechnologies、8、528)により、大腸菌のアルカリホスファターゼ遺伝子(phoA)と融合させ、配列番号4に示すポリペプチドをコードする遺伝子を得た。hCASK-PDZopt 遺伝子断片を増幅するのに用いた5' プライマーは、配列番号4に示すシグナル配列に対応するアミノ酸配列をコードするものであった。もっとも外側のプライマーは、遺伝子コード領域(coding)を、NcoIおよびHindIII 制限部位で消化したプラスミド pQE-60 (Qiagen、www.qiagen.com)にクローニングするために便利な制限部位 (NcoIおよびHindIII)を有するように設計した。これによりプラスミド pQE-hCASK-PDZopt-alkphosが得られ、該プラスミドはそのオープンリーディングフレームが合成 PDZドメイン遺伝子断片に融合した大腸菌のアルカリホスファターゼ遺伝子を含む翻訳融合物を含むものであった。標準的方法にしたがってDNA 配列決定を行い、サブクローンのDNA 配列が配列番号4のタンパク質をコードしていることを確認した。
【0106】
pQE-hCASK-PDZopt-alkphos DNAを大腸菌株 JM109に形質転換し、アルカリホスファターゼ-hCASK PDZ 融合タンパク質を発現させ、hCASK PDZのN-末端-ビオチン化ペプチドリガンド(多くの受託ペプチド供給源のいずれから得てもよく、例えば Invitrogenから得られる)が結合しているストレプトアビジン-セファロース (Amersham Biosciences)を用いた親和性クロマトグラフィーにより精製した。精製タンパク質をクーマシー・ブルー染色したSDS-PAGEにより可視化した。アルカリホスファターゼ部分の機能は、1μgの融合タンパク質をパラニトロフェノールホスファート比色基質 (カタログ番号A3469、Sigma、St-Louis、MO)とインキュベートし、405 nmの吸光度をモニターすることにより確認した。バックグラウンドを超える吸光度の上昇が予測された。一方、同じ条件でインキュベートされたコントロール、例えば、GST-CASK 融合タンパク質は、バックグラウンド(即ち、基質のみ)と同様の吸光度変化をもたらすと予測された。
【0107】
実施例 4.イムノグロブリン Fc 遺伝子および合成ヒト hCASK PDZ 合成遺伝子の翻訳融合物の構築および発現
配列番号1の合成遺伝子、hCASK-PDZoptを、周知技術であるオーバーラップ PCR (Horton et al.、1990、Biotechnologies、8、528)により、ヒトイムノグロブリン Fc 遺伝子断片と融合させ、配列番号5に示すポリペプチドをコードする遺伝子を得た。hCASK-PDZopt 遺伝子断片を増幅するのに用いた5' プライマーは、配列番号5に示すヒト軽鎖イムノグロブリンのシグナル配列に対応するアミノ酸配列をコードするものであった。もっとも外側のプライマーはHindIIIおよびPmeI 制限部位にて消化されたプラスミド pCDNA3.1(+)myc/his/LacZ (Qiagen、www.qiagen.com)への遺伝子コード領域(coding)のクローニングのために便利な制限部位を備えるように設計した。これによりプラスミド pCDNA-hCASK-PDZopt-Fcが得られ、該プラスミドは、そのオープンリーディングフレームが合成 PDZドメイン遺伝子断片に融合したヒトイムノグロブリン Fc 遺伝子断片を含む翻訳融合物を含むものであった。標準的方法にしたがってDNA 配列決定を行い、サブクローンのDNA 配列が配列番号5のタンパク質をコードしていることを確認した。
【0108】
一つの制限部位を用いてhCASK PDZ-Fc 融合遺伝子から直鎖化されたプラスミド pCDNA-hCASK-PDZopt-Fcを、周知手順 (Sambrook & Russell、2001、Molecular Cloning: a Laboratory manual)にしたがって、治療用の組換えイムノグロブリン産生のために承認予定の哺乳類細胞株 NS0にトランスフェクトした。安定なトランスフェクタントを有用な量の融合タンパク質を産生するクローンについてスクリーニングした。このようにして産生された融合タンパク質は培地から単離し、標準的抗体親和性精製樹脂、例えば、タンパク質 G セファロース (Amersham Biosciences)を用いて精製することが出来る。タンパク質は生物活性またはリガンドへの結合能力についてアッセイすることができる。
【0109】
実施例 5.1. GST-hCASK PDZ バリアント融合物の親和性試薬としての使用(ウェスタンブロッティングおよびELISA)
精製GST-hCASK PDZ 融合タンパク質のバリアント、例えば、実施例10および13に記載のもの(実施例14も参照)を、融合タンパク質のPDZ 部分に結合するタンパク質の検出のための親和性試薬として用いた。この実施例において、実施例12の親和性成熟した GST-hCASK PDZ 融合物をシンデカン-2の検出に用いた。GST 部分はエピトープタグ、またはレポータードメインとして作用する。ヒト脳組織におけるシンデカン-2を検出するために、脳組織をホモジナイズし、SDS-PAGE 還元サンプルバッファー (Fermentas)に懸濁し、3分間煮沸した。サンプルをSDS-PAGEにより分離し、ウェスタントランスファーを行って、分離したタンパク質を標準的方法にしたがってメンブレンにブロットした。ブロットを製造業者からの指示にしたがってI-block (Applied Biosystems)によりブロッキングし、親和性成熟した GST-hCASK PDZ 融合タンパク質を用いてプローブした。メンブレンを洗浄し、GSTに特異的であり、セイヨウワサビペルオキシダーゼで標識された二次抗体 (Amersham Biosystems)によりプローブした。化学発光キットの製造業者(Vector Labs)のプロトコールにしたがって化学発光を用いて二次抗体を検出した。
【0110】
電気泳動分離を行わずにタンパク質を検出するために、ELISAを行った。この実施例において、親和性成熟した GST-hCASK PDZをELISA プレートのウェルの底に固定化した(1μg/ウェル)。プレートのウェルをI-block (Applied Biosystems)でブロッキングし、バッファーで洗浄し、脳ホモジネートサンプルをウェルに添加した。サンプルを2 時間室温でインキュベートした。プレートを洗浄し、シンデカン-2の存在を、シンデカン-2に特異的な二次抗体(Zymed laboratories、www.zymed.com)を用い、次いでインキュベーションおよび洗浄を行った後、セイヨウワサビペルオキシダーゼで標識した三次ヤギ抗-ウサギ 抗体(VWR、www.vwr.com)を用いて判定した。化学発光キットの製造業者(Vector Labs)のプロトコールにしたがって化学発光を用いて三次抗体を検出し、そして間接的に、標的シンデカン-2を検出した。
【0111】
実施例 5.2.アルカリホスファターゼ-hCASK PDZ 融合物の親和性試薬としての使用 (ウェスタンブロッティングおよびELISA)
実施例 3の精製アルカリホスファターゼ-CASK PDZ 融合タンパク質、または実施例10および13(実施例14も参照)に記載のものなどのこのタンパク質のバリアントを、融合タンパク質のPDZ 部分に結合するタンパク質を検出するための親和性試薬として用いた。実施例 5.1にて説明したように、検出すべきタンパク質を、ウェスタントランスファー、または、マルチウェルアッセイプレート (ELISA プレート)の1以上のウェルへの直接的または間接的吸着のいずれかによって固体支持体に結合させた。実施例 5.1において行ったように、検出のために抗-GST 抗体を用いる代わりに、PDZドメインまたはそのバリアントの結合をPDZドメインに融合したアルカリホスファターゼレポータードメインにより検出した。製造業者の推奨にしたがって検出はアルカリホスファターゼに対するVector labsのDuoLuX 化学発光/蛍光基質を用いて行った。
【0112】
実施例 6. hCASK PDZ 遺伝子の変異性(Error-prone)PCR 突然変異誘発
配列番号1の合成遺伝子断片である、hCASK-PDZoptを、ベクター pCR-ScriptからSfiIおよびNotI 制限酵素により切り出し、あらかじめ消化しておいた pCANTAB5E ファージミド(Amersham Biosciences)に、Fast-Link DNA ライゲーションキット (Epicentre Technologies、Madison、WI)を用いてライゲーションした。ライゲーションしたDNAをエレクトロポーレーション-コンピテント大腸菌 XL1-Blue に形質転換した。PDZドメインをディスプレーするファージを標準的方法にしたがってヘルパーファージを用いてレスキューした。ただし、ヘルパーファージ-感染細胞は通常の37℃ではなく30℃で一晩培養した。ファージ ELISAを行い、CASK PDZドメインをディスプレーする組換えファージがその同族ペプチドリガンド (QKAPTKEFYA (配列番号13))に特異的に結合することを確認した。pCANTAB-hCASK-PDZopt コンストラクトのDNA 配列決定も行い、コンストラクトの配列が予測通りであることを確認した。
【0113】
hCASK-PDZopt 遺伝子を変異性 PCR (Leung et al.、1989、Technique、1: 11-15)によって突然変異させ、106を超える独特の突然変異体を含む突然変異体ライブラリーを得た。
プライマー、pCAN5' (CATGATTACGCCAAGCTTTGG; 配列番号14)およびpCAN3' (CGATCTAAAGTTTTGTCGTC; 配列番号15)を変異原性条件下でのPDZ 遺伝子の増幅に用いた。ライブラリーを調製するために、突然変異させたPCR 産物をSfiIおよびNotIで消化し、Fast-Link DNA ライゲーションキット (Epicentre Technologies)を用いてpCANTAB5E ファージミドベクター (Amersham Biosciences)にライゲーションした。ライゲーションしたDNAを次いでエレクトロポーレーション-コンピテント大腸菌 XL1-Blueに形質転換した。いくつかの凍結ストックを突然変異体ライブラリーの培養物から作成し、使用時まで-80℃で保存した。ライブラリーの複雑度を寒天含有 SOB 培地(グルコース、テトラサイクリンおよびアンピシリン含有)上に新たに形質転換された細胞のアリコットをプレーティングした後に得たコロニー数を計数することにより判定した。複雑度は3x106 を超える独特クローンであることが判定された。予測された突然変異速度は、ランダムに取り上げたクローンのDNA 配列決定により判定して遺伝子当たり約 1〜3 アミノ酸置換であるはずである。
【0114】
実施例 7. hCASK PDZ 遺伝子のランダムコンビナトリアル突然変異誘発
hCASK-PDZ 遺伝子産物の特異性に影響を与えると予測されるアミノ酸をhCASK PDZ、PDB番号1KWA (Daniels et al.、Nat Struct Biol. 1998、5、317-25)の結晶構造を無料で入手可能なViewerlite 4.2 ソフトウェア (www.accelrys.com)を用いて調べることにより同定した。残基 M501、I503、L505、Q553、L556およびR557が、hCASK PDZによって認識されるペプチドのC-末端残基に密接に近接しているものとして同定された(番号付け方法はDaniels et al.、1998、5、317-325による)。これら残基を個々のバリアントにおけるこれらの突然変異させた位置にいずれの20 アミノ酸も見いだしうる一つのライブラリーを作るためにコンビナトリアル突然変異誘発によるランダム化のために選択した。
【0115】
hCASK PDZ 遺伝子のアミノ酸、 M501、I503、L505、Q553、L556およびR557に対応するコドンを以下のプライマーを用いて遺伝子を増幅することにより突然変異させた:
pCAN5' (CATGATTACGCCAAGCTTTGG)およびNNK1B (CAATGATTCAATTCATTCATTTTMNNGGTMNNACCMNNTGGTTCATCGGTATTTTTTTG; 配列番号16)、NNK2A (AAAATGAATGAATTGAATCATTG; 配列番号17)およびNNK2B:(GGTAATAGAACCACGCATTTCMNNMNNCATTTTMNNCAATTGTTCAACGGTTTGATTGG; 配列番号18)、ならびにNNK3A (GAAATGCGTGGTTCTATTACC; 配列番号19)、およびpCAN3' (CGATCTAAAGTTTTGTCGTC)。これにより3つのオーバーラップするPCR 産物が得られた:コドン M501、I503、L505は第一の産物においてランダム化され、残基 Q553、L556およびR557をコードするコドンは第二においてランダム化された。3つの精製PCR 産物を用いてオーバーラップ PCR (Horton et al.、1990、Biotecniques、8、528)を行い、以下の縮重(degenerate)配列の突然変異遺伝子のプールを得た:
【化1】

ここで、Nは4つのヌクレオチド、A、C、GまたはTのいずれかを示し、Kは2つのヌクレオチドGまたはTのいずれかを示す。下線を施した配列はPDZドメインをコードし、太字のコドン (NNK)は縮重である。コンビナトリアル突然変異体のライブラリーを調製するために、突然変異させたPCR産物をSfiIおよびNotIで消化し、Fast-Link DNA ライゲーションキット (Epicentre Technologies)を用いてpCANTAB5E ファージミドベクター (Amersham Biosciences)にライゲーションした。ライゲーションしたDNAを次いでエレクトロポーレーション-コンピテント大腸菌 XL1-Blueに形質転換した。いくつかの凍結ストックを突然変異体ライブラリーの培養物から作成し、使用時まで-80℃で保存した。ライブラリーの複雑度(107を超える独特のクローン)を、寒天含有 LB 培地(アンピシリン含有)上の新たに形質転換された細胞のアリコットのプレーティングの後に得られたコロニー数を計数することにより判定した。予測された突然変異の存在は、ランダムに取り上げたクローンのDNA 配列決定により確認した。
【0116】
実施例 9: hCASK PDZ 遺伝子の標的セット(Target Set)突然変異誘発
hCASK-PDZ 遺伝子産物の特異性を決定すると予測されるアミノ酸を、無料で利用可能な Viewerlite 4.2 ソフトウェア (www.accelrys.com)を用いてhCASK PDZ、PDB 番号1KWA (Daniels et al.、Nat Struct Biol. 1998、5、317-25)の結晶構造を調べることにより同定した。残基 M501、I503、L505、Q553、L556およびR557がhCASK PDZによって認識されるペプチドのC-末端残基と密接に近接しているものとして同定された。これら残基を標的セット突然変異誘発 (Goldman and Youvan、Biotechnology (N Y)、1992、10、1557-61)のために選択して、20 アミノ酸のサブセット、即ち標的セットを、突然変異させた各コドンがコードする単一のライブラリーを作成した。
【0117】
各標的セットは、関連PDZドメインのアラインメントにおける相同的な位置において遭遇された(encountered) アミノ酸に対応する。図1に示す配列アラインメントは、非重複タンパク質配列データベースのBLASTサーチ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/)においてクエリーとしてhCASK PDZドメインのアミノ酸配列を用いることによって得た。6つの相異なる標的セットをこのアラインメントに基づいて決定した: 残基501について、アミノ酸 M または L; 残基503について、アミノ酸 I、L、V、または A; 残基505について、アミノ酸 V、I、L、または F; 残基553について、アミノ酸 I または Q; 残基556について、アミノ酸 L、I または M; 残基557について、アミノ酸 R、K、または S。これら各標的セットについて、縮重コドンはプログラム Cyberdope (Kairos Scientific、San Diego、CA)を用いて計算した: 残基501について、縮重コドン MTGはアミノ酸 M または Lを生じ; 残基503について、縮重コドン VYTはアミノ酸 I、L、T、P、V、または Aを生じ; 残基505について、縮重コドン NTTはアミノ酸 I、L、V、または Fを生じ; 残基553について、縮重コドン MWKはアミノ酸 I、K、L、M、N、H または Qを生じ; 残基556について、縮重コドン MTKはアミノ酸 I、L、または Mを生じ; 残基557について、縮重コドン ARKはアミノ酸 R、K、S または Nを生じる(コードされるアミノ酸は遺伝コードの構造によって標的セットと常に正確に一致するとは限らない)。ここで、A = アデノシン、C = シチジン、G = グアノシン、T = チミジン、B = C または G または T、D = A または G または T、H = A または C または T、K = G または T、M = A または C、N = A または C または G または T、R = A または G、S = C または G、V = A または C または G、W = A または T、Y = C または T、以上はIUPACコードによる。縮重コドンをコードするオリゴヌクレオチドを次いで合成した。
【0118】
hCASK PDZ 遺伝子のアミノ酸 M501、I503、L505、Q553、L556およびR557に対応するコドンを以下のオリゴヌクレオチドプライマーを用いた遺伝子の増幅により突然変異させた:pCAN5' (CATGATTACGCCAAGCTTTGG)およびTSM1B (CAATGATTCAATTCATTCATTTTAANGGTARBACCCAKTGGTTCATCGGTATTTTTTTG; 配列番号21)、TSM2A (AAAATGAATGAATTGAATCATTG; 配列番号22)およびTSM2B (GGTAATAGAACCACGCATTTCMYTMAKCATTTTMWKCAATTGTTCAACGGTTTGATTGG; 配列番号23)、ならびにTSM3A (GAAATGCGTGGTTCTATTACC; 配列番号24)および pCAN3' (CGATCTAAAGTTTTGTCGTC)。これにより3つのオーバーラップするPCR 産物が生じた: コドンM501、I503、L505は第一の産物において突然変異させ、残基 Q553、L556およびR557をコードするコドンは第二において突然変異させた。オーバーラップ PCR (Horton et al.、1990、Biotechniques、8、528)を3つの精製PCR 産物を用いて行い、以下の縮重配列の突然変異遺伝子のプールを得た:
【化2】

ここで、A = アデノシン、C = シチジン、G = グアノシン、T = チミジン、B = C または G または T、D = A または G または T、H = A または C または T、K = G または T、M = A または C、N = A または C または G または T、R = A または G、S = C または G、V = A または C または G、W = A または T、Y = C または T、以上IUPAC コードによる。下線を施した配列はPDZドメインをコードし、太字のコドンは縮重である。コンビナトリアル突然変異体のライブラリーを調製するために、突然変異させたPCR産物をSfiIおよびNotIで消化し、Fast-Link DNA ライゲーションキット (Epicentre Technologies)を用いてpCANTAB5E ファージミドベクター (Amersham Biosciences)にライゲーションした。ライゲーションしたDNAを次いでエレクトロポーレーション-コンピテント大腸菌 XL1-Blueに形質転換した。いくつかの凍結ストックを突然変異体ライブラリーの培養物から作成し、使用時まで-80℃で保存した。ライブラリーの複雑度(107 を超える独特のクローン)は、寒天含有 LB 培地およびアンピシリン上の新たに形質転換された細胞のアリコットのプレーティングの後に得られたコロニー数を計数することにより決定した。予測された突然変異の存在は、ランダムに取り上げたクローンのDNA 配列決定により確認した。
【0119】
実施例10.炭疽菌タンパク質 BclAを認識するhCASK PDZ バリアントの選択
親和性選択
この実施例において、上記実施例6の変異性PCR ライブラリーを、炭疽菌胞子の外壁にみられるタンパク質 BclAのC-末端に対応する配列 SASIIIEKVA (配列番号26)のペプチドを認識することが出来る突然変異体について選択した。hCASK-PDZ ライブラリーバリアントをディスプレーするファージを標準的方法(例えば、Barbas et al.、2001)にしたがってライブラリーの凍結ストックから作成した。このライブラリーに対して、マルチウェルプレート(Nunc)のポリスチレンウェル上に被覆されたストレプトアビジンに結合したN-末端-ビオチン化ペプチド SASIIIEKVAを用いた5 ラウンドのパニングを行った。SASIIIEKVA ペプチド-被覆ウェルに特異的に結合するファージを大腸菌 XL1-Blueに、単に細胞をウェルに添加し、15 分間インキュベートすることによって感染させた。各ラウンドからのインプット・ファージ力価 (ウェルに添加したファージ数)およびアウトプット・ファージ (ウェルから取り出したファージ)を測定した。パニングの各ラウンドのアウトプット・ファージのインプット・ファージに対する比は、典型的にはラウンド3または4の後のファージ増幅の傾向を明らかに示し、標的ペプチド SASIIIEKVAに特異的な突然変異体の選択が示唆された。
【0120】
突然変異体スクリーニング
パニングラウンド3、4 および5のそれぞれからの約 20のランダムに選択したクローンに対してファージ ELISAを行って、選択によりペプチド SASIIIEKVA に特異的に結合する突然変異体の増幅が成功したことを確認した。対数期 XL1-Blue 培養物を各パニングラウンドからの突然変異体ファージアウトプットにより感染させた。感染した培養物のアリコットを次いで寒天含有培地にプレーティングし、16 時間培養した。複数のクローンを取り上げ、96-ウェルポリプロピレン培養プレートで培養し、ヘルパーファージに感染させ、その結果得られた培養上清をファージ ELISAに用いた。ラウンド 5からのいくつかのクローンが、ペプチド SASIIIEKVAに対する強い結合シグナルを生じ、さらなる特徴決定のために選択した。
【0121】
突然変異体特徴決定
ファージを3つの突然変異体および野生型コントロールからPEG/NaCl 沈降により精製し、ビオチン化ペプチド HRRSARYLDTVL (配列番号27)、QKAPTKEFYA (配列番号13)、およびSASIIIEKVAに対してファージ ELISAにより試験した。各突然変異体は野生型 hCASK-PDZと比較してペプチド SASIIIEKVAに対する劇的に高いELISA シグナルを示し、コントロールペプチドであるHRRSARYLDTVLおよびQKAPTKEFYAに対しては弱くしか結合しなかった。これら突然変異体はそれゆえペプチド SASIIIEKVAに特異的に結合することが出来た。
【0122】
BclA結合の確認
ペプチド SASIIIEKVAへの結合を示す特徴決定した突然変異体をさらに特徴決定した;それらの炭疽菌 BclAへの結合能力を判定した。選択した突然変異体のファージミド DNA を標準的方法で精製し、EcoRIおよびBamHIで消化し、その結果得られたバリアント hCASK-PDZ 遺伝子断片を同じ制限酵素で消化したpGEX-2TK DNAにライゲーションした。その結果得られたライゲーションしたDNAを大腸菌株 JM109に形質転換し、プラスミド pGEX-PDZ-バリアントを含むクローンを得た。これらのクローンをOD600が0.5〜1.0となるまで培養し、1mM IPTGを用いて5 時間22℃で誘導した。誘導された細胞を遠心分離によりペレットにし、フレンチプレスを用いて溶解した。PDZ バリアント-GST 融合タンパク質を溶解液からグルタチオンセファロース親和性媒体を用いる親和性クロマトグラフィーにより精製した。精製したPDZ バリアント-GST 融合タンパク質を次いで、上記実施例 5.1に記載のように親和性試薬としてPDZ バリアント-GST 融合物を用いることにより、炭疽菌 BclA へのその結合能力について試験し、ここでタンパク質 BclAはウェスタンブロットで表示するか、または、ELISAフォーマットにおけるマルチウェルプレートのウェル上に被覆した。
【0123】
実施例11. hCASK PDZ 遺伝子の再帰的アンサンブル突然変異誘発
実施例 7に記載のランダムコンビナトリアルライブラリーを実施例10に記載のように親和性選択に供した。標的ペプチド SASIIIEKVAに結合することが出来るいくつかの相異なるPDZ バリアントを単離した。本実施例の目的は、標的ペプチドに対する結合親和性が向上したさらなるバリアントを単離することであった。いくつかの相異なる PDZ バリアントのDNA 配列を決定し、新規なコンビナトリアルライブラリーの設計に用い、ここで、単離PDZ バリアントのランダム化された位置に観察されるアミノ酸の発現に対するバイアスを導入した(Delagrave et al.、1993、Protein Eng、6: 327-31)。この新規なライブラリーを設計するために、単離PDZ バリアントにおいてみられる(encountered)アミノ酸を、各突然変異させた位置(即ち、残基 M501、I503、L505、Q553、L556およびR557)についてまとめた(compiled)。アミノ酸のリストをKairos Scientific (San Diego、CA)から入手可能なCyberDopeと称されるコンピュータプログラムに入力した。該プログラムは群確率オプション(group probability option)(PG)およびNNK (NN[G/T]) コドンオプションの使用を操作者により指示される。該プログラムは次いで目的の突然変異させた位置においてみられる(encountered) アミノ酸のすべてをコードするヌクレオチド混合物 (縮重コドン)を提供する。各突然変異させた位置 (即ち、残基 M501、I503、L505、Q553、L556およびR557)について入力したアミノ酸のリストにより各位置についての縮重コドンが得られた。
【0124】
コンピュータプログラムによって提供された縮重コドンを含むオリゴヌクレオチドが受託オリゴヌクレオチド製造業者(Integrated DNA Technologies、Coralville、IA)により合成された。これらオリゴを用いることにより、新規なコンビナトリアルライブラリーがPCRにより合成された。この新規なライブラリーを次いで実施例10に記載のように親和性パニングによって選択した。親和性が向上した新規なバリアントをこのライブラリーから選択した。選択されたさらなるPDZ バリアントを実施例13に記載のように親和性のBIAcore 測定を用いて、標的タンパク質に対する結合能力の向上について試験した。
【0125】
実施例12. 野生型 PDZの親和性成熟
標的タンパク質であるシンデカン-2に対するhCASKの野生型PDZの親和性は、インビトロ親和性成熟プロセスにより向上させることが出来る。これはまず、変異性 PCRによってhCASK PDZ遺伝子を突然変異させ、それによって実施例 6に記載のようなライブラリーを作成することによって行った。次いで、親和性選択を適用して実施例10に記載のように親和性が向上したバリアントを選択したが、ただし、シンデカン-2のC-末端に対応するビオチン化ペプチド QKAPTKEFYAを、ビオチン化ペプチド SASIIIEKVAの代わりに使用した。個々の選択されたバリアントを培養し(grown)、それらのDNAを精製し、バリアントのPDZ 遺伝子断片を実施例2および10に記載のようにサブクローニングした。その結果得られた GST-PDZ バリアント融合物を実施例10のように精製し、標的タンパク質であるシンデカン-2に対するそれらの親和性を比較するため試験した。シンデカン-2の細胞質ドメインをBIAcore 装置 (BIAcore、Piscataway、NJ)の微少溶液チップに結合させ、GST-PDZ バリアントを該装置を用いて分析し、それらの結合親和性を計算した。親 hCASK PDZと比較して親和性が向上したバリアントにより、この手順の有効性が示された。かかる向上したバリアントは研究試薬、診断または治療薬として有用であり得る。
【0126】
実施例13. PDZ バリアントの親和性成熟
上記実施例10で単離したPDZ バリアントのその標的タンパク質であるBclAに対する親和性は、インビトロ 親和性成熟プロセスにより向上させることが出来る。これはまず、PDZ バリアントの遺伝子を変異性 PCRによって突然変異させ、それにより実施例 6に記載のようなライブラリーを作成することにより行った。次いで、親和性選択を適用して実施例10に記載のように、親和性が向上したバリアントを選択した。個々のバリアントを培養し(grown)、それらのDNAを精製し、バリアントのPDZ 遺伝子断片を実施例2および10に記載のようにサブクローニングした。その結果得られた GST-PDZ バリアント融合物を実施例10のように精製し、標的タンパク質に対するそれらの親和性を比較するため試験した。標的タンパク質はBIAcore 装置 (BIAcore、Piscataway、NJ)の微少溶液チップに結合させ、GST-PDZ バリアントを該装置を用いて分析し、それらの結合親和性を算出した。親PDZ バリアントと比較して親和性が向上したバリアントはこの手順の有効性を示す。かかる向上したバリアントは研究試薬、診断または治療薬として有用であり得る。
【0127】
実施例14. PDZ バリアント融合タンパク質の構築およびその親和性試薬としての使用
実施例13、12、11、または10において単離された進化したPDZ バリアントはいずれも、実施例2、3 および4において野生型 PDZドメインについて実質的に記載したようにして翻訳融合物にすることが可能である。その結果得られた融合タンパク質はいずれも、実施例5.1および 5.2に実質的に記載のように、PDZ バリアントが結合するよう進化したペプチドまたはタンパク質の検出のための試薬として有用であり得る。
【0128】
実施例15.進化したPDZドメインを用いる親和性精製
標的タンパク質に結合している進化したPDZドメインを上記実施例にしたがって単離した。進化したPDZドメインを精製し、ビーズ状のアガロース親和性媒体にAminolink Plus 固定化キット(Pierce、www.piercenet.com)を用いて結合させた。標的タンパク質を次いで複合体混合物から、固定化した進化したPDZドメインを用いて標準的親和性クロマトグラフィー手順にしたがって単離した。
【0129】
実施例16: 配列
配列番号1. hCASK-PDZopt のDNA 配列
【化3】

【0130】
配列番号2.配列番号1に示すhCASK-PDZopt 遺伝子断片の下線を施したDNA 配列によってコードされるアミノ酸配列
【化4】

【0131】
配列番号3. hCASK-PDZ-GST 融合物のアミノ酸配列
【化5】

(hCASK-PDZ アミノ酸配列は斜体で示す)。
【0132】
配列番号4.hCASK-PDZ-アルカリホスファターゼ融合物のアミノ酸配列
【化6】

(hCASK-PDZドメイン配列は斜体で示し、リーダー配列 (大腸菌β-ラクタマーゼ TEM)は下線を施し、配列の残りの部分は大腸菌アルカリホスファターゼに対応する)。
【0133】
配列番号5. hCASK-PDZ-Fc 融合タンパク質のアミノ酸配列
【化7】

(下線を施した配列は軽鎖ヒトイムノグロブリンのシグナル配列である。斜体で示した配列はhCASK-PDZドメインであり、配列の残りの部分はヒト IgG1 Fc ドメイン配列に対応する)。
【0134】
配列番号6. ポリヒスチジンタグ付加し、分泌されたhCASK-PDZのアミノ酸配列
【化8】

(hCASK-PDZドメイン配列は斜体で示し、リーダー配列 (大腸菌β-ラクタマーゼ TEM)は下線を施し、C-末端の6残基はポリヒスチジンタグに対応する)。
【0135】
配列番号7.分泌されたhCASK-PDZのアミノ酸配列
【化9】

(hCASK-PDZドメイン配列は斜体で示し、リーダー配列 (大腸菌β-ラクタマーゼ TEM)は下線を施す)。
【0136】
配列番号8.ヒト NHERF PDZ二量体
【化10】

(ヒト NHERF タンパク質断片は2つのPDZドメインを含む)。
【0137】
配列番号9. pCANTAB5E ファージディスプレーベクターにおいて提供されたシグナル配列および遺伝子 3 コートタンパク質 (斜体)に融合したヒト Dlg1の第三PDZドメイン (斜体ではない)のアミノ酸配列:
【化11】

【0138】
配列番号10. pCANTAB5E ファージディスプレーベクターの、SfiI制限部位とNotI制限部位 (斜体) の間にクローニングされたヒト Dlg1の第三PDZドメインのヌクレオチド配列:
【化12】

【0139】
実施例17.高親和性PDZドメインを得るための反復性進化
実施例12および13の親和性成熟したバリアントをさらに突然変異させ、親和性のさらなる向上を達成するために選択することができる。これは単に実施例12および13に記載のプロセスを反復することによって行い、ただし突然変異誘発および選択の各ラウンドの間の詳細な親和性特徴決定を省略してもよい。したがって、実施例12または13において単離した親和性成熟したバリアントをコードする遺伝子を上記のような変異性 PCRにより突然変異させ、その結果得られた突然変異遺伝子の集団をファージディスプレーベクターにクローニングし、ファージディスプレーライブラリーを得た。バリアントのライブラリーを、標的に対する優れた親和性を有するバリアントについて選択した。選択されたバリアントは所望により特徴決定するか、または、さらに突然変異させてさらなるファージディスプレーライブラリーを作り、かかるさらなるライブラリーをより優れた親和性を有するさらなるバリアントについて選択した。進化したPDZドメインは、標的に対する親和性 (解離定数、即ちKd) が100 nM、10nM、1nMまたはそれよりも良好であった。
【0140】
実施例18: PDZ二量体の指向進化
2つのPDZドメインを含む、配列番号8のポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを、実施例 6におけるhCASK PDZと実質的に同様にして変異性 PCRにより突然変異させたが、ただし、ポリヌクレオチドの5'および3’末端に特異的なプライマーを用いた。突然変異させたPCR産物を実質的に上記のようにファージディスプレーベクターにクローニングし、配列番号8のポリペプチドのバリアントをディスプレーするファージのライブラリーを作った。このライブラリーを単一の標的ペプチドを用いた親和性パニングに供し、標的に特異的に結合するバリアントを単離した。その結果得られた PDZ二量体バリアントは単量体PDZドメインと比較してより高い結合活性にて標的ペプチド (または同じC-末端配列を有するタンパク質)に結合した。
【0141】
実施例19:ペプチドの代わりにタンパク質標的を用いる指向進化
実施例10において、BclAのC-末端残基に対応するペプチドを、BclAに結合するPDZ バリアントの選択に使用した。別のアプローチでは標的としてタンパク質 BclA自体を用いた。タンパク質標的をELISAを行うためにルーチン的になされるようにして、ポリスチレンマイクロタイタープレートのウェルに吸着により固定化した。あるいは、BclAに特異的な抗体をマイクロタイターに吸着させ、標的タンパク質 BclAを特異的に結合させるために用いた。親和性選択を行い、標的タンパク質に結合するバリアントを選択した。抗-BclA 抗体をBclAの固定化に用いた場合には、BclAの非存在下で固定化した抗体に対してファージディスプレーライブラリーをあらかじめ結合させることによって、抗-BclA 抗体に結合するPDZ バリアントの選択を避けるように注意した。
【0142】
実施例 20:ヒト Dlg1の第三PDZドメインのファージディスプレー
上記実施例6に記載のように、ヒトタンパク質 Dlg1の第三PDZドメインをファージにディスプレーさせ、新規バリアントの親和性選択のための調製において変異性 PCR により突然変異させた。ベクター pCANTAB5E にクローニングしたDlg1 PDZ3の配列をDNA 配列決定により確認した。変異性PCR ライブラリーの複雑度を判定したところ、2.2x106 形質転換体であった。突然変異速度はクローン当たり2.1 ヌクレオチドの突然変異であることが判明した。ファージにディスプレーされたPDZドメインがそのリガンド (配列 “SSLQSLETSV”を有するN-末端ビオチン化ペプチド)に特異的に結合する能力を実施例 6に記載のようにファージ ELISAによって示した。
【0143】
実施例 21:より強いファージ ELISA シグナルを有する進化したDlg1 PDZ3 バリアント
実施例 20のライブラリーを実施例10に記載のようにパニングしたが、具体的に付け加えると、ヘルパーファージ重複感染後のファージの培養を37℃ではなく30℃で行った。B2と称する1つのクローンを、それが試験されたすべてのペプチドについてより強いファージ ELISA シグナルを示す一方で、ペプチド SSLQSLETSVに対するその優先度を保持するものとして単離した (以下の表2参照)。ファージ ELISAによるスクリーニングおよび特徴決定が非常に容易であるため、データはバリアント B2が新規リガンド標的に対する親和性選択を行うために親PDZ クローンよりも優れている可能性があると解釈されうる。
【0144】
表2:室温で35 分間のインキュベーションの後のOD405を示すファージ ELISA
【表2】

【0145】
表2のリガンド配列は以下を含む: dtvl: ビオチン- HRRSARYLDTVL; etsv: ビオチン-SSLQSLETSV (配列番号28); efya: ビオチン-QKAPTKEFYA; ekva: ビオチン-SASIIIEKVA。
【0146】
簡単に説明すると、ELISAは、組換えファージ抗体システム(Amersham)において提供される指示書にしたがって、1μgのストレプトアビジン (Jackson Labs)をマイクロタイタープレートのウェルに固定化し、1μgのビオチン化ペプチドをストレプトアビジン-被覆ウェルに結合させ、ウェルをI-BLOCK (Tropix、Bedford MA)でブロッキングし、1x PBSに再懸濁した100μLのPEG-沈降ファージペレットを添加し、抗-M13 セイヨウワサビペルオキシダーゼ-標識抗体 (Amersham)およびABTS (Sigma)で検出することにより行った。
【0147】
実施例 22.ボツリヌス神経毒の軽鎖に結合するPDZ バリアントの選択
工程 1. PDZドメインバリアントのライブラリーの作成
PDZドメインバリアントのライブラリーを、変異性 PCR を用いてPDZ 遺伝子を増幅させ、突然変異した遺伝子をファージディスプレーベクターにクローニングすることにより調製した。その結果得られた形質転換体(ライブラリーサイズは100万〜1000万クローン)にヘルパーファージを感染させ、バクテリオファージ上にディスプレーされたバリアントのライブラリーを得た。
【0148】
提案されたプロジェクトの準備において、ヒトタンパク質 Discs Large Homolog 1 (Dlg1)の第三PDZドメインをコードする遺伝子断片をクローニングし、実施例 20に記載のように突然変異させた。同じ遺伝子であるがより高い突然変異速度(例えば、突然変異体当たり5 アミノ酸置換または突然変異体当たり10 置換)のさらなるライブラリーを、変異性PCR 反応においてMgCl2濃度を上昇させるか、テンプレート量を低下させるか、または増幅サイクル数を増加させることにより作ることが出来た。
【0149】
Dlg1-PDZ3 ライブラリーバリアントをディスプレーするファージをヘルパーファージにより形質転換細胞を重複感染させることによりライブラリーの凍結ストックから標準的方法にしたがって調製した。一晩30℃で培養した後、細胞を遠心分離により培地から除き、ファージをPEG/NaCl 沈降により単離した。
【0150】
工程 2. BoNT-Lcに結合するPDZ バリアントの親和性選択および予備的特徴決定
A型およびB型ボツリヌス神経毒の軽鎖を固体支持体上に固定化し、これら標的に結合することが出来るPDZドメインバリアントをディスプレーするファージの単離−「親和性選択」または「パニング」と称されるプロセス−に用いた。数ラウンドのパニングの後、個々のファージクローンを単離し、そのDNAを抽出し、それらがコードするPDZ バリアントの配列を決定した。軽鎖に対するそれらの親和性をファージ ELISAによって評価した。
【0151】
親和性選択
上記の変異性PCR ライブラリーを、BoNT/AおよびBoNT/Bの軽鎖を認識することが出来る突然変異体について選択した。軽鎖はList Biological Laboratoriesから購入した。5つの別々のファージライブラリーのアリコットを、マルチウェルプレート(Nunc)のポリスチレンウェル上に被覆したBoNT-Lcを用いた5 ラウンドの連続するパニングに供した。ウェルをPBSTで徹底的に洗浄した後、Lc-被覆ウェルに特異的に結合するファージを、単にこれら細胞をウェルに添加し、60 分間37℃でインキュベートすることにより、大腸菌 DH5αFTに感染させた。各ラウンドからのインプットファージ力価 (ウェルに添加したファージ数)およびアウトプットファージ力価 (ウェルから取り出した特異的に結合したファージ)を測定した。各パニングラウンドについてのアウトプットファージのインプットファージに対する比は、典型的にはラウンド 3または4の後にファージ増幅が起こる傾向を明らかに示し、標的 Lcに対して特異的な突然変異体の選択が示唆された。ポジティブコントロールペプチドであるSSLQSLETSVは、野生型 Dlg1 PDZ3およびこのペプチドのあらゆる親和性が向上したバリアントによって認識され、それらを選択すると予測された。
【0152】
突然変異体スクリーニング
各Lcについて、ファージ ELISAをパニングラウンド3、4および5のぞれぞれからの約 20のランダムに選択したクローンについて行って、選択により標的分子に特異的に結合する突然変異体の増幅に成功したかどうかを確認した(20 クローン x 3 ラウンド x 2 BoNT-Lc = 120 ELISA ウェル= 96-ウェルプレート2つのみ)。対数期のDH5αFT 培養物に各パニングラウンドからの突然変異体ファージアウトプットのアリコットを感染させた。この感染した培養物のアリコットを寒天含有培地にプレーティングし、ファージミドで形質転換したコロニーを16-24 時間培養した。複数のクローンを取り上げ、96-ウェルポリプロピレン培養プレートで培養し、ヘルパーファージを感染させ、その結果得られた培養上清をファージ ELISAで試験した。ラウンド 5からのいくつかのクローンは適当な標的に対して強い結合シグナルを示した(即ち、BoNT/A-Lcに対する結合について選択されたラウンド 5のクローンはこのタンパク質によく結合し、BoNT/B-Lcにはあまり結合しないはずであり、逆も同じことがいえる)。これらPDZ バリアントをさらなる特徴決定のために選択した。
【0153】
突然変異体特徴決定
一次スクリーニングにおいて標的 BoNT-Lcに対して特異的結合を示すファージクローン(Lc当たり3まで)を培養容積25mLで培養し、PEG/NaCl 沈降により精製し、Lcに対するファージ ELISAにより再び試験した。野生型 Dlg1 PDZ3 ファージを含むコントロールも同様に含めた。それぞれの標的Lcに対して強く、かつ 再現性のあるELISA シグナルを示す突然変異体を保存し(凍結ストック)、配列決定した。
【0154】
標的 Lcに対するPDZ バリアント親和性を評価するために、競合 ELISAを行い、ここで、一定量のファージを可溶性 (非固定化)競合Lcの段階希釈液とともにインキュベートした。可溶性タンパク質濃度に対する吸光度 (ELISA シグナル)プロットはシグモイド曲線を示し、その変曲点はKd (解離定数)の評価値を与える。ファージミド DNAを高いみかけの親和性を示すクローンの別々の培養物から単離した。このDNAを標準的方法にしたがって配列決定し、選択されたPDZ バリアントの推定アミノ酸配列を決定した。コンピュータプログラムパッケージソフト、例えば DNASTARを用いて配列データファイル (電気泳動図)を分析し、複数の推定タンパク質配列をアラインさせ、それにより分析を容易にした。
【0155】
工程 3. PDZ バリアントの精製および特徴決定
みかけの親和性が最も高いPDZ バリアントクローンの遺伝子をタンパク質精製およびさらなる特徴決定のために発現ベクターにサブクローニングした。シグナル配列およびポリヒスチジン親和性精製タグを含む発現ベクターを大腸菌におけるPDZ バリアントの発現に用いた。その結果得られたタンパク質をそのポリヒスチジンタグにより精製し、特徴決定した。特徴決定パラメーターには以下が含まれていた: BoNT-Lcに対する親和性、特異性、安定性、およびLc 酵素活性をインビトロで低下させる能力。
【0156】
サブクローニングおよび精製
Lcに対して再現性のある結合を示す突然変異体をさらに特徴決定した; 単離PDZ バリアントのBoNT-Lc タンパク質に対する親和性を測定した。これを行うために、突然変異体 DNAをまず、ポリヒスチジン親和性タグをC-末端に与える発現ベクターにサブクローニングした。選択した突然変異体のファージミド DNAを標準的方法により精製し、PDZ バリアント ORFを適当なプライマーを用いて高忠実度 PCRにより増幅させた。その結果得られた PCR 産物をEcoRI および HindIIIで消化し、同じ制限酵素で消化したpQE-70 DNA (Qiagen)にライゲーションした。その結果得られたライゲーションしたDNAを大腸菌株 DH5αFTに形質転換し、プラスミド pQE-70-PDZ-バリアントを含むクローンを得た。これらのクローンはOD600が0.5〜1.0となるまで培養し、0.1〜1mM IPTGを用いて5 時間30℃で誘導をかけた。誘導した細胞を遠心分離によりペレットにし、フレンチプレスを用いて溶解した。PDZ バリアントを固定化金属イオン親和性クロマトグラフィー(IMAC) Talon 樹脂 (BD Biosciences)により清澄な溶解液から精製した。このプロセスをすべての選択した突然変異体について(~ 2〜6 クローン)実質的に並行して行った。
【0157】
親和性測定
精製PDZ バリアントのBoNT-Lcに対する結合親和性を迅速に評価するためにELISAを行った。Lcを上記のようにポリスチレンマイクロタイタープレートへの吸着により固定化した。様々な希釈度のPDZ バリアントを固定化したリガンドとともにインキュベートし、非結合タンパク質をPBSTを用いて洗浄した。結合を維持していたPDZ タンパク質をペルオキシダーゼ標識 抗-His6タグ抗体 (Roche Applied Science)を用いて検出した。比色レポーター ABTSをウェルに添加し、色変化をプレートリーダーを用いて読み取った。
【0158】
精製PDZ タンパク質のBoNT-Lcに対する親和性をより定量的に、BIAcore 装置 (Biacore)にて起こる表面プラズモン共鳴により測定した。BoNT-Lcを微少溶液チップに固定化し、溶液中のPDZ バリアントを固定化した毒素サブユニットに結合させた。結合反応速度に関する情報を収集して分析し、オン速度およびオフ速度ならびに親和性定数を得た。各PDZ バリアントをその選択された毒素サブユニットに対して試験した。
【0159】
結合親和性は速度定数測定 (解離定数 Kdは1:1 相互作用についての速度定数 kd/kaの比である)から、またはサンプル濃度の関数として結合の定常状態レベルを測定することにより、得ることが出来た。
【0160】
インビトロでのLc プロテアーゼ活性の中和
BoNT-Lcに対して良好な結合親和性を有するPDZ バリアントを、インビトロでLc 酵素活性を低下させる能力について試験した。BoNT-Lc (List Biologicalsから入手)を様々な濃度のPDZ バリアントおよび一定濃度の基質 SNAPtide(商標)(FITC/DABCYL) (List Biological Laboratories) の存在下で、0.3 mM ZnCl2、1.25 mM ジチオトレイトール (DTT)および0.1 % Tween 20を含む20 mM HEPES、pH 8.0中でインキュベートした。SNAPtide(商標)基質の蛍光はFRETにより内部的にクエンチされているが、基質の加水分解により容易に検出できるフルオレセイン標識切断産物が放出された。SNAPtide(商標)基質のBoNT/A-Lcによる加水分解の後、容易にサンプルを蛍光励起 (λ励起=490 nm)に曝され、蛍光識別可能(capable)プレートリーダー(例えば、VICTOR3(商標)Multilabel Counter; Perkin Elmer)を用いて蛍光放出 (λ放出=523 nm)をモニターできる。
【0161】
本明細書に引用するすべての刊行物および特許出願は本明細書に個々の刊行物または特許出願が具体的かつ個別に示されているかのように引用により本明細書に含める。上記本発明を例示および実施例により理解を助けるために詳細に説明したが、当業者には本発明の教示に鑑み、いくらかの改変および修飾が請求の範囲の精神と範囲を逸脱することなく本発明に対してなされることが明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0162】
【図1】クエリーとしてhCASK PDZドメインを用いた“nr” タンパク質データベースのBLASTサーチにおいて見いだされたタンパク質の複数配列アラインメント。同一部分は点で示す。図の上側パネルは残基 M501、I503およびL505についての関連配列を示す。下側パネルは残基 Q553、L556およびR557についての関連配列を示す。図の左側の下線を施した番号はNCBI GI番号に対応する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
操作されたPDZドメインを含むポリペプチド、ここで該操作されたPDZドメインは、病原体または疾患状態に関連する標的に結合する。
【請求項2】
該病原体がウイルス、真菌または細菌である請求項1のポリペプチド。
【請求項3】
該病原体が炭疽菌またはボツリヌス菌である請求項1のポリペプチド。
【請求項4】
該標的が炭疽菌のタンパク質 BclAまたはその断片である請求項1のポリペプチド。
【請求項5】
該標的が、C-末端配列がEFYAであるポリペプチドである、請求項1のポリペプチド。
【請求項6】
該PDZドメインが進化している請求項1のポリペプチド。
【請求項7】
該ポリペプチドが該標的に解離定数 (Kd)約 100 nM 以下にて結合する請求項6のポリペプチド。
【請求項8】
該ポリペプチドが該標的に解離定数約 15 nM 以下にて結合する請求項7のポリペプチド。
【請求項9】
さらにレポーター基を含む請求項1のポリペプチド。
【請求項10】
さらにエフェクタードメインを含む請求項1のポリペプチド。
【請求項11】
さらに放射性同位元素を含む請求項1のポリペプチド。
【請求項12】
該ポリペプチドが単離されている請求項1のポリペプチド。
【請求項13】
請求項1のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド。
【請求項14】
請求項12のポリヌクレオチドを含むベクター。
【請求項15】
請求項12のポリヌクレオチドを含む宿主細胞。
【請求項16】
請求項1のポリペプチドに結合する単離抗体。
【請求項17】
a)患者に請求項1のポリペプチドを投与する工程;および
b)該患者における該ポリペプチドの結合を検出する工程、
を含む、患者における病原体または疾患の存在を検出する方法。
【請求項18】
a) 請求項1のポリペプチドとサンプルとを接触させる工程;および、
b) 該ポリペプチドの該サンプルとの結合を検出する工程、
を含む、サンプルにおける病原体または疾患の存在を検出する方法。
【請求項19】
a) PDZドメインを含む1以上の親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを作成する工程;
b)該ライブラリーから標的に対する結合親和性を有する1以上のポリペプチドを同定する工程、
を含む、PDZドメインを含むポリペプチドを調製する方法、ここで、該PDZドメインは病原体または疾患状態によって産生される標的に結合する。
【請求項20】
疾患に関連する標的に結合することが出来るPDZドメインを含む治療的に有効量のポリペプチドを、該疾患に罹患しているか罹患する傾向にある患者に投与する工程を含む、疾患の治療方法。
【請求項21】
該疾患が病原体に関連する請求項20の方法。
【請求項22】
該病原体が炭疽菌、ボツリヌス菌または破傷風菌である請求項21の方法。
【請求項23】
a) PDZドメインを含む1以上の親ポリペプチドからポリペプチドのライブラリーを作成する工程;
b)該ライブラリーから第一のポリペプチドを選択する工程、ここで該第一のポリペプチドは最後の5アミノ酸において標的の最後の5アミノ酸に対して20%から80%の配列同一性を有する中間標的に対する結合親和性を有する;
c) 工程 b)の第一のポリペプチドからさらなるポリペプチドのライブラリーを作成する工程;および、
d)該標的に結合するポリペプチドが同定されるまで工程b)およびc)を反復する工程、
を含む、PDZドメインを含むポリペプチドを調製する方法、ここで、該PDZドメインは病原体に関連するポリペプチド標的に結合する。

【図1】
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【公表番号】特表2007−530015(P2007−530015A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−549347(P2006−549347)
【出願日】平成17年1月4日(2005.1.4)
【国際出願番号】PCT/US2005/000136
【国際公開番号】WO2005/072159
【国際公開日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【出願人】(506231412)バイオテック・スタジオ・リミテッド・ライアビリティ・カンパニー (1)
【氏名又は名称原語表記】Biotech Studio, LLC
【Fターム(参考)】