説明

生物活性化合物の制御放出送達用医薬組成物

本発明は、被験者に1種以上の生物活性化合物を制御放出送達するための組成物と方法を提供する。具体的には、本発明は、被験者に生物活性化合物を制御放出送達するための医薬組成物であって、以下の成分:a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサン由来のポリアニオンとの複合体;及びb)生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体を含む医薬組成物を提供する。生物活性化合物をポリアニオンと複合体化することによって、先行技術で見られるより望ましい経時的な薬物放出曲線を有する長期作用性投与システムに、堅固で安定な複合体を組み込むことができる。本発明は、このような組成物の製造方法及びその使用方法をも提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
この出願は、2004年8月12日に提出した米国仮特許出願番号60/600,907の優先権を主張する。
1.発明の分野
この発明は、生物活性化合物の制御放出送達の分野、並びに少なくとも1個の塩基性基を含有する生物活性化合物の制御放出送達に有用な組成物及び方法に関する。
【0002】
2.発明の背景
一定期間にわたって制御様式で生物活性化合物を送達する能力は継続中の難題である。生物活性化合物の制御放出送達は、これら化合物をin vivo分解から保護することによってそのバイオアベイラビリティーを高めることができ、同時に、これら生物活性化合物の短い半減期のため必要な頻回注射又は持続注入に取って代わることができる。投与の頻度を減らすことで患者のコンプライアンスを改善できるだろう。30年間以上、移植用デバイス中の薬物担体として生分解性ポリマーが使用されてきた[Langer, R. and Chasin, M. (Eds) Polymers as Drug Delivery Systems, Marcel Dekker, New York, NY, 1990]。生物活性化合物の持続性送達担体として生分解性ポリマーを使用する利点は、該ポリマーは可溶性の無毒オリゴマー又はモノマーに加水分解されるので、送達後に除去する必要がないことである。その生分解速度は、結晶化度、疎水性、化学構造、分子量及び分子量分布といった該ポリマーの物理化学的特性によって決まる。理論的に、これら特性を設計又は調整して、制御放出様式で所望持続時間の治療の薬物送達システムを開発することができる。
【0003】
先行技術では、生理条件下で適切なポリマーを使用することによって持続型放出を達成するため、生分解性ポリマーと組み合わせて、種々の生物活性化合物が開示されている。先行技術の組成物中の生物活性化合物は、非荷電分子、分子複合体、塩、エーテル、エステル、又はアミドの形態でよい[US 6,528,080、5,739,176、5,077,049及びUS 4,938,763]。注射用又は移植用組成物で使用される塩の特定の例として、酢酸塩、塩化物、クエン酸塩、マレイン酸塩、リン酸塩、コハク酸塩、硫酸塩、酒石酸塩などが挙げられる。しかし、このような製剤の成功は、安定で、かつ広い治療血液濃度範囲を有する数種の生物活性化合物、例えば、リュープロリド(leuprolide)、ゴソレリン(gosorelin)及びrhGHに限定される。生物活性化合物が反応性官能基を含み、かつ狭い治療血液濃度ウィンドウを有する場合、このような生物活性化合物でうまくいく制御放出送達システムの開発は非常にやりがいがある。これは、第1に、該送達システムにおける生物活性化合物の不安定性及び該送達システムによる生物活性化合物の無制御放出パターン、例えば、放出の最初、中間、及び最後での破裂作用のためである。塩基性基(一級、二級及び三級アミンが挙げられる)を含む生物活性化合物は、生分解性ポリマーを用いる制御放出送達システムの開発の成功に重大な障害を引き起こす場合がある。該化合物は、無制御様式でポリマー担体の加水分解プロセスを変更(又は触媒)し、及び/又は該ポリマー若しくはその分解生成物と反応して望ましくないアミド薬物誘導体を形成しうる。これら誘導体の形成は、その実際に送達される用量を減少させるのみならず、予想外の副作用を引き起こしうる。生物活性化合物とポリマー担体との相互作用/反応は、1)生物活性化合物がポリマー担体中に組み込まれるとき、例えば、マイクロカプセル化、射出成形、押出成形、有機溶媒中のポリマー溶液との混合の際、2)貯蔵中、及び3)生物活性化合物の生体内(in vivo)における生分解プロセス及び放出の際に起こりうる。
【0004】
塩基性官能基を含む生物活性化合物、すなわちアミンとポリマーとの間の相互作用/反応は、該生物活性化合物とポリマーが有機溶媒に溶解/分散している場合、溶媒蒸発/抽出法による微粒子形成プロセスの際に報告された[Krishnan M. and Flanagan DR., J Control Release. 2000 Nov 3;69(2):273-81]。有意量のアミド部分が形成された。生分解性ポリマー薬物送達システムの作製に常用される溶媒は、生物活性化合物とポリマーとの間の急速な反応を可能にしうることが明白に示された。別の研究では、有機アミンによってポリマーの分解が加速されることが報告された[Lin WJ, Flanagan DR, Linhardt RJ. Pharm Res. 1994 Jul;11(7):1030-4. ]。単一薬物塩、例えばエピルビシンHClを含有するポリマーマトリックスの分解はポリマーの分解を促進し、引き続きこれら粒子からの放出挙動に影響を及ぼすことが分かったことも報告された[Birnbaum DT, Brannon-Peppas L. Molecular weight distribution changes during degradation and release of PLGA nanoparticles containing epirubicin HCl. J Biomater Sci Polym Ed. 2003;14(1):87-102]。Dombらは、in vitro水性分解媒体中に反応性アミン及びその塩を含む薬物は生分解性ポリマーの分解も促進することを報告した[Domb AJ, Turovsky L, Nudelman R., Pharm Res. 1994 Jun;11(6):865-8]。該反応及び触媒作用分解は両方とも長期間の生物活性化合物の制御放出送達に望ましくない。
【0005】
薬物送達システムとして、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシ酪酸、ポリオルト-エステル、ポリアセタール等のような生分解性ポリマーを使用すると、ポリマー(例えば、ポリラクチド及びポリラクチド-コ-グリコリド)は水-摂取及び水性チャンネル又は細孔の生成をもたらし、生物活性化合物が水溶性になると、該水性チャンネル又は細孔から生物活性化合物が漏れうる(又は拡散しうる)。さらに、ポリマー分解生成物の蓄積は、該分解ポリマーマトリックス内のpHを下げる。また最近、1.5乃至4.7の局所pH値が報告された[Na DH, Youn YS, Lee SD, Son MO, Kim WA, DeLuca PP, Lee KC. Monitoring of peptide acylation inside degrading PLGA microspheres by capillary electrophoresis and MALDI-TOF mass spectrometry. J Control Release. 2003 Oct 30;92(3):291-9;及びこれら文献中の参考文献]。ポリマーマトリックス内部の酸性微小環境は、特に反応性アミン基を含有する生物活性化合物、例えばペプチドやタンパク質ではいくつかの望ましくない化学分解反応を誘発しうる。
【0006】
先行技術における製剤化、貯蔵、及びin vivo放出の際の生物活性化合物とポリマーとの間の不安定性又は反応/相互作用に関する多くの例が文献で精査されており[Schwendeman SP., Recent advances in the stabilization of proteins encapsulated in injectable PLGA delivery systems. Crit Rev Ther Drug Carrier Syst. 2002;19(1):73-98; Sinha VR, Trehan A., Biodegradable microspheres for protein delivery. J Control Release. 2003 Jul 31;90(3):261-80]、これら文献は、すべて参照によって本明細書に取り込まれる。
【0007】
酢酸、クエン酸、安息香酸、コハク酸、酒石酸、ヘパリン、アスコルビン酸及びそれらの無毒塩のようないくつかの有機酸が先行技術で開示されており、かつ種々の制御放出生分解性システムでポリマー分解エンハンサーとして使用されている[PCT-特許出願WO93/17668(14ページ、4〜13行)及び米国特許第4,675,189号(11カラム、5〜19行)]。従って、このような酸添加剤はポリマーを安定化しないと予想される。
種々の他のアプローチを吟味して、反応性塩基性基を含む生物活性化合物の制御放出送達を成功裏に達成させた。しかし、途方もなく大きい研究努力にもかかわらず、これまでに市販されている生物活性化合物の制御放出送達のための生成物は数種しかない[例えば、米国特許第4,728,721号(リュープロライド, リュープロンデポ);第4,938,763号(リュープロライド, エリガード);第5,225,205号(トリポレリン パモエート, トレルスター);第4,767,628号(酢酸ゴセレリン, ゾラデックス);第5,538,739号(オクトレオチド, サンドスタチンLAR);第5,654,010号(組換えヒト成長ホルモン, ヌトロピンデポ(Nutropin Depot));第4,675,189号;第5,480,656号;第4,728,721号参照]。
明らかに、生物活性化合物を安定化し、ポリマーの分解を制御し、その破裂作用を制限し、かつ治療の持続時間の間、治療制限内で薬物放出を維持する新規かつ好適な送達システムの開発が要望されている。従って、本発明の目的は、上で列挙した先行技術の欠点に取り組み、かつ被験者に生物活性化合物の制御放出送達用の医薬組成物を与えることである。この医薬組成物は、以下の成分、
a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサン由来のポリアニオンとの複合体;及び
b)生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体、
を含む。
本発明は、このような制御放出医薬組成物の製造方法及びその使用方法をも提供する。
【0008】
〔発明の概要〕
本発明は、1種以上の生物活性化合物を被験者に制御放出送達するための医薬組成物及び方法を提供する。詳細には、生物活性化合物の被験者への制御放出送達用医薬組成物であって、a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサン由来のポリアニオンとの複合体;及びb)生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体を含む組成物である。生物活性化合物をポリアニオンと複合体化することによって、その堅固で安定な複合体を、先行技術の多くで見られるよりも初期破裂放出が低く、かつ望ましい経時的な薬物放出曲線を有する長時間作用性投与システムに組み込むことができる。
【0009】
驚くべきことに、本発明のポリアニオンは、安定な複合体を形成することによって、塩基性基を含有する生物活性化合物と、ポリマー又はその分解生成物との間の相互作用/反応を低減又は阻止しうることが分かった。この複合体は、水又は生体液中で低い溶解性を有しうる。好ましくは、本複合体は該剤形を調製するために用いられる溶媒中でも低い溶解度を有する。これら特性は、製剤化プロセスの際に、生物活性化合物を安定化し、かつポリマーの分解を遅らせるのみならず、生物活性化合物とポリマー及び/又はその分解生成物との間の相互作用/反応を低減又は阻止することによって、放出の際にも生物活性化合物を安定化し、かつポリマーの分解を遅らせる。さらに重要なことに、これら特性は、非常に望ましい放出プロフィールで生分解性ポリマー担体から生物活性化合物を送達させうる。このプロフィールは、長期の間、被験者への生物活性化合物の連続的な送達を可能にする。すなわち、数週間から数ヶ月、被験者の役に立つ。
【0010】
従って、この発明の目的は、被験者への生物活性化合物の制御放出送達用医薬組成物であって、a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサン由来のポリアニオンとの複合体;及びb)生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体を含む組成物を提供することである。
本発明のさらなる目的は、持続性制御放出送達システムから利益を得られるであろう少なくとも1個の塩基性官能基を含有する1群の生物活性化合物を提供することである。
本発明のさらなる目的は、生物活性化合物と安定な複合体を形成できる1群のポリアニオンを提供することである。
本発明のさらなる目的は、本発明の生物活性化合物とポリアニオンとの複合体の製造方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、製剤化及び貯蔵の際のみならず、生体内(in vivo)におけるポリマーの分解と薬物放出の際にも、生物活性化合物による、ポリマーの望ましくない分解を低減又は阻止しうる複合体を提供することである。
本発明のさらなる目的は、製剤化及び貯蔵の際のみならず、生体内(in vivo)におけるポリマーの分解と薬物放出の際にも、生物活性化合物を安定化しうる複合体を提供することである。
本発明のさらなる目的は、その中に生物活性化合物/ポリアニオン複合体が分散している生分解性の水不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体であって、前記複合体は前記生物活性化合物の持続性放出を示す、前記担体を提供することである。
本発明のさらなる目的は、その中に生物活性化合物/ポリアニオン複合体が組み込まれている医薬的に許容しうる組成物であって、前記複合体は前記生物活性化合物(その生物学的活性を保持している)を放出できる、前記組成物を提供することである。
【0011】
薬物送達、ワクチン接種、遺伝子療法などのような医療用途で使うための医薬的に許容しうる組成物を提供することが本発明のさらなる目的である。
経口又は非経口投与;粘膜投与;眼投与;皮下、関節内、又は筋肉内注射;吸入による投与;及び局所投与に適した医薬的に許容しうる組成物を提供することが本発明のさらなる目的である。
以下に開示される実施態様の詳細な説明を解読後、本発明の上記目的及び他の目的が明白になるだろう。
【0012】
〔発明の詳細な説明〕
本発明は、被験者への生物活性化合物の制御放出送達用医薬組成物であって、a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサン由来のポリアニオンとの複合体;及びb)生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体を含む医薬組成物、並びに該組成物の製造方法及び使用方法に関する。本発明の組成物は、いずれの通常の医薬品投与形態でも、技術上既知の方法によって調製される。本発明の組成物の非限定例は、溶液、懸濁液、分散系、エマルジョン、点滴薬、エアロゾル、クリーム、半固体、ペースト、カプセル剤、錠剤、固形移植片、又は微粒子である。本発明の医薬組成物の利点として、生体内での低い初期破裂及び生物活性化合物の安定した制御放出が挙げられる。このため、長期間、すなわち数日乃至数ヶ月間、被験者に生物活性化合物を継続的に送達することができる。
【0013】
本明細書では、用語「a」、「an」及び「one」は、「1以上(one or more)」及び「少なくとも1(at least one)」として解釈することを意味する。
用語「生物活性化合物」は、診断及び/又は治療特性を有するいずれの物質をも包含することを意味し、限定するものではないが、小分子、巨大分子、ペプチド、タンパク質、又は酵素が挙げられる。治療特性の非限定例は、代謝拮抗、抗真菌、抗炎症、抗腫瘍、抗感染、抗生、栄養、アゴニスト、及びアンタゴニスト特性である。
さらに詳細には、本明細書の生物活性化合物は、ヘキサヒドロシクロヘキサン由来のポリアニオンと複合体を形成できるいずれの化合物でもよく、特に、塩基性窒素原子のような電子供与体塩基性基、例えば、アミン、イミン又は環窒素を含有する化合物でよい。生物活性化合物は、好ましくは1個以上の露出したプロトン化しうるアミン官能性を含み、特に好ましくはこのような基を複数個含む。本発明の安定な複合体の調製で有用な生物活性化合物として、限定するものではないが、ドキソルビシン、ドキシサイクリン、ジルチアザム、シクロベンザプリン、バシトラシン、ノスカピン、エリスロマイシン、ポリミキシン、バンコマイシン、ノルトリプチリン、キニジン、エルゴタミン、ベンズトロピン、ベラパミル、フルナリジン、イミプラミン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、アモキシシリン、アミカシン、アルベカシン、バンベルマイシン(bambermycins)、ブチロシン(butirosin)、ジベカシン、ジヒドロストレプトマイシン、ホルティミシン(fortimicin)、イセパミシン(isepamicin)、ミクロニミシン、ネチルミシン、パロマイシン(paromycin)、リボスタマイシン、ラパマイシン、シソミシン、ストレプトマイシン及びトブラマイシン、アミカシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン及びトブラマイシン、ピリメタミン、ナルトレキソン、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ブピバカイン、テトラカイン、ロピバカイン(ropivacaine)、オキシトシン、バソプレッシン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、プロラクチン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRHアゴニスト、LHRHアンタゴニスト、成長ホルモン(ヒト、ブタ、及びウシが含まれる)、成長ホルモン放出因子、インスリン、エリスロポイエチン(赤血球形成活性を有するすべてのタンパク質が含まれる)、ソマトスタチン、グルカゴン、インターロイキン、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、カルシトニン、エンケファリン、エンドルフィン、アンギオテンシン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、腫瘍壊死因子(TNF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、神経成長因子(NGF)、顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージ-コロニー刺激因子(M-CSF)、ヘパリナーゼ、血管内皮成長因子(VEG-F)、骨形成タンパク質(BMP)、hANP、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、エクセナチド(exenatide)、ペプチドYY(PYY)、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、シクロスポリン(合成類縁体及び薬理学的に活性なそのフラグメントを包含する)、酵素、サイトカイン、抗体、ワクチン、抗生物質、抗体、糖タンパク質、卵胞刺激ホルモン、キョートルフィン、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモスチムリン、胸腺液性因子、血清胸腺因子、コロニー刺激因子、モチリン、ボンベシン、ジノルフィン、ニューロテンシン、セルレイン、ウロキナーゼ、カリクレイン、サブスタンスP類縁体及びアンタゴニスト、アンギオテンシンII、血液凝固因子VII及びIX、リゾチーム、グラミシジン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、ヒト胎盤性ラクトゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、タンパク質合成刺激ペプチド、胃抑制ペプチド、血管作用性小腸ペプチド、血小板由来成長因子、並びにこれらの合成類縁体及び修飾及び薬理学的に活性なフラグメントが挙げられる。
【0014】
本明細書で定義される場合、用語「ポリアニオン」は、少なくとも2個以上の負に荷電した官能基を含有するいずれの分子も包含することを意味する。本発明のポリアニオンは、生物活性化合物と安定な複合体を形成できるリン酸基又は硫酸基でエステル化することによって、ヘキサヒドロキシシクロヘキサンから誘導される。ミオ-イノシトールは、植物及び動物で豊富に見られる6-炭素環構造であるヘキサヒドロキシシクロヘキサンの9つの既知のシス-トランス異性体の1つである。例えば、イノシトール六リン酸(InP6、フィチン酸)は、天然食物成分であり、多くの穀物、マメ科植物、ナッツ、油種子及び大豆の0.4〜6.4%(w/w)を構成する。膨張体の徴候は、すべてでないとしても多くの哺乳動物細胞が5個以上のリン酸基を有するイノシトールポリホスフェートを含むことを示している。例えば、InP6は多くの哺乳動物細胞で見られ、InP6は種々の重要な細胞機能の調節を援助しうる。InP6は、銅や鉄のような二価カチオンをキレート化することによって抗酸化剤として作用し、細胞傷害及び発癌の原因である反応性酸素種の生成を阻止することも分かっている。イノシトールポリアニオンの他のいくつかの例として、限定するものではないが、低級イノシトールホスフェート、(すなわち、イノシトールペンタホスフェート、イノシトールテトラホスフェート、イノシトールトリホスフェート、イノシトールジホスフェート)、及び他のポリリン酸化有機化合物、イノシトールヘキサスルフェート(InS6)及び低級イノシトールスルフェートが挙げられる。ポリアニオンは酸形態又は塩形態のいずれかでよい。
少なくとも2個以上の負に荷電した基のポリアニオンが特に好ましく、特にイノシトール六リン酸(InP6、フィチン酸)、及びイノシトールヘキサホスフェート(InS6)が好ましい。
【0015】
用語「安定な複合体」は、安定な複合体が形成されるような条件下で生物活性化合物とポリアニオンを適切に化合させる、例えば、生物活性化合物とポリアニオンの水溶液を複合体が生じるまで混合すると生じる物理的かつ化学的に安定した複合体を指すことを意味する。複合体は固体(例えば、ペースト、顆粒、粉末又は凍結乾燥物)でよく、或いは粉末状態の複合体を生分解性ポリマー担体に均質に分散させるのに十分微細に粉砕させることができる。この複合体は、典型的に、生物活性化合物とポリアニオンの水性調製物を混ぜると生じる沈殿物の形を取る。任意に、この複合体に1種以上の医薬的に許容しうる賦形剤を配合してよい。このような賦形剤は、生物活性化合物又はその複合体の安定剤として作用しうる。非限定例として、亜硫酸水素ナトリウム、p-アミノ安息香酸、チオウレア、グリシン、メチオニン、マンニトール、スクロース、ポリエチレングリコール(PEG)等が挙げられる。
例として、可溶性抗生物質(例えば、ドキソルビシン)を水に溶かし、それにInP6の溶液を添加することができる。該薬物:InP6複合体が沈殿する。この沈殿物を洗浄してから遠心分離又はろ過で分離することができる。分離した複合体を真空下で乾燥させた。
さらなる例として、局所麻酔薬(例えば、塩酸テトラカイン)の溶液にInP6の水溶液を添加することができる。該薬物:InP6複合体が沈殿する。
さらなる例として、ペプチド(例えば、グリカゴン様ペプチド1(GLP-1))の溶液にInP6の水溶液を添加することができる。該ペプチド:InP6複合体が沈殿する。この沈殿物を洗浄してから遠心分離又はろ過で分離することができる。この分離した複合体を真空下で乾燥させた。
さらなる例として、酵素(例えば、リゾチーム)の溶液にInP6の水溶液を添加することができる。該酵素:InP6複合体が沈殿する。この沈殿物を洗浄してから遠心分離又はろ過で分離することができる。この分離した複合体を真空下で乾燥させた。
【0016】
本発明の生物活性化合物とポリアニオンとの安定な複合体を、生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体中に、任意にいくつかの賦形剤と共に配合することができる。用語「生分解性の水-不溶性ポリマー」は、生体内(in vivo)で使用できるいずれの生体適合性及び/又は生分解性の合成ポリマー及び天然ポリマーをも包含することを意味する。「生分解性の水-不溶性ポリマー」は、37℃の水又は生体液に不溶性であるか又は不溶性になるポリマーを包含することをも意味する。任意に、技術上周知の方法を用いて該ポリマーを精製してモノマー及びオリゴマーを除去することができる(例えば、米国特許第4,728,721号)。該ポリマーのいくつかの非限定例は、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリジオキサン、ポリカーボネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアンヒドリド、ポリアミド、ポリエステラミド、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンスクシネート、及びポリオルトエステル、並びにこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、分岐コポリマー、ターポリマー及び組合せ及び混合物である。
【0017】
さらに、生分解性の水-不溶性ポリマーは、エンドキャップドポリマー、エンドアンキャップドポリマー、又はエンドキャップドポリマー、エンドアンキャップドポリマーのブレンドを包含しうる。エンドキャップドポリマーは、一般的にキャップドカルボキシル末端基を有するポリマーとして定義される。アンキャップドポリマーは、当分野で古典的に定義される場合、具体的には、フリーなカルボキシル末端基を有する。
ポリマーの好適な分子量は当業者によって決定されうる。分子量を決定するときに考慮される因子として、所望のポリマー分解速度、機械的強度、及び溶媒中におけるポリマーの溶解速度が挙げられる。典型的に、ポリマーの分子量の好適な範囲は約2,000ダルトン〜約150,000ダルトンであり、他の因子の中でとりわけポリマーが選択される用途によって決まる1.1〜2.8の多分散を有する。
【0018】
本明細書では、「医薬的に許容しうる担体」という用語は、環境応答特性(例えば、熱感性、pH感性、電気感性等)を有するいずれの担体、注射用溶液又は懸濁液、粒子、フィルム、ペレット、シリンダー、ディスク、マイクロカプセル、微小球、ナノ球、微粒子、ウェハー、ミセル、リポソーム、及び薬物送達のために用いられる他の既知のポリマー構成をも包含することを意味する。
種々の医薬的に許容しうるポリマー担体の製造方法は技術上周知である。例えば、種々の方法及び材料は、米国特許:6,410,044;5,698,213;6,312,679;5,410,016;5.529,914;5,501,863;及びPCT公開番号WO 93/16687;4.938,763;5,278,201;5,278,202;EP 0,058,481(すべて参照によって本明細書に取り込まれる)に記載されている。
【0019】
本発明によれば、生物活性化合物/ポリアニオン複合体をポリマーマトリックスに分散させると生じる組成物が、被験者に注入又は移植できる固体移植片を形成する。任意に医薬的に許容しうる賦形剤を含有してよい本発明の生物活性化合物/ポリアニオン複合体から、限定するものではないが、押出、圧縮及び射出成形のような通常のポリマー融解加工法を用いてこれら移植片を調製することができ、移植片の調製では、高温(好ましくは100℃未満)を用いて、前記ポリマーを融解させる。このような移植片の調製は、無菌条件下で行うことができ、或いは限定するものではないが、γ照射又は電子ビーム滅菌法を用いる、照射による終末滅菌法で行うことができる。
【0020】
本発明の一実施態様によれば、生物活性化合物/ポリアニオン複合体とポリマーの均質混合物は、いずれかの適切な装置、例えばボールミル内で、室温にて又は例えば10℃未満の低温においてさえ、乾式混合によって調製することができる。粉末化成分の比率は、広範に変化しうる。例えば、必要な治療効果によって、生物活性化合物について0.1〜30質量%の範囲でよい。有機溶媒中のポリマー溶液に該複合体を分散させた後、蒸発又は凍結乾燥によって該有機溶媒を除去することによって、生物活性化合物/ポリアニオン複合体とポリマーの均質混合物を調製することもできる。結果として生じた固体を微粉末に粉砕することができる。
本発明によれば、所定の混合物がよく均質化されたら、技術上周知の方法でそれを成形することができる。例えば、成形前に漸進加熱によって漸進的に圧縮し得る。圧縮比は、装置の幾何学又は粉末混合物の粒度(grain size)のようないくつかの因子によって変化しうる。該混合が進行するにつれ、混合物が受ける予備加熱及びその変化の制御が重大な意味を持ち;被処理生成物(コポリマー、生物活性化合物)の性質によって、あらゆる努力を為して温度勾配が約100℃を超えないように維持する。粉末混合物がさらされる初期温度は25℃でよく、環境によって、それより低いか又は高くてよい。
成形温度はできるだけ低く保持すべきであり、好ましくは100℃を超えず、温度の上限は生物活性化合物の性質によって左右され、劣化を受けないであろう温度である。十分な圧力と十分な温度が成分の完全な均質化を促進し、かつ特に、簡単な実験法によって、コポリマーの塊全体にわたって該複合体の均一な分布を決定することができる。
或いは、FTIRペレットの調製と同様に均質化粉末を室温で圧縮成形することができる。
【0021】
本発明の一実施態様では、50/50モル比のD,L-ラクチド対グリコリドのD,L-ラクチドとグリコリドのコポリマーを塩化メチレンに溶かす。この溶液に、フィチン酸テトラカインを加え、高せん断ミキサーで分散させる。結果混合物を回転エバポレーターに入れ、真空下で大部分の塩化メチレンを除去する。結果の濃厚分散系をガラスプレート上に注いでフィルムを形成する。このようにして得たフィルムを融かし、圧縮成形して約0.5mm厚のフィルムを与える。
或いは、本発明によれば、技術的に周知なように、均質化粉末を融かし、種々の形状の固体移植片に圧縮押出又は射出成形することができる。標準的な形状と寸法のノズルを用いて、実際の押出成形を行うことができる。冷却無菌空気若しくはガスのようないずれかの適切な手段又は単純に熱の自然損失によって、押出生成物の冷却を達成する。
本発明によれば、粉砕又は製粉によってこれら固体剤形、例えば、繊維、ロッド、フィルム、又はウェーハを微粒子形態に縮小することができる。十分に冷却した上記押出又は成形生成物を低温、好ましくは0℃未満、又はさらに低温、例えば-20℃で粉砕する。このように粉砕した生成物をふるいにかけて所望の粒径を得る。好ましい粒径は1μm〜500μmの範囲であり、これら微粒子送達系を適切な通常の医薬的に許容しうる注射用媒体に懸濁させることができる。
【0022】
本発明の別の局面により、分散又は可溶化した薬物/ポリアニオン複合体を含有する、医薬的に許容しうる溶媒中のポリマーの溶液又は懸濁液の形態で、生物活性化合物の特に有効かつ有用な非経口医薬製剤を調製することもできる。ポリアニオンとの複合体形成により、生物活性化合物の反応性基は、溶液中でポリマーと相互作用するために利用できない。このように、本発明のポリアニオンで複合体化することによって、本発明の組成物中の生物活性化合物の安定性を高めた。
しかしながら、本発明により、生物活性化合物の持続性放出のため、ポリアニオンと複合体形成した生物活性化合物とポリマーを含む医薬組成物であって、前記組成物が注射用溶液/懸濁液の形態であり、以下の成分:
(a)少なくとも1個の塩基性基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサンの誘導体との複合体;及び
(b)生分解性の水-不溶性ポリマー;
(c)前記ポリマーの溶媒である、医薬的に許容しうる有機溶媒
を含むことを特徴とする医薬組成物が提供される。
適切な生物活性化合物とポリアニオンは、上で定義したものであり、特に好ましくはポリアニオンは、少なくとも2個の上記定義どおりのホスフェート又はサルフェートを含有するものであり、さらに好ましくはInP6又はInS6である。
複合体における生物活性化合物対ポリアニオンのモル比は、生物活性化合物とポリアニオンの性質、及びペプチド薬物放出の所望期間に応じて0.1:1〜1:0.1で変化する。
ポリマーが水性媒体又は体液中、37℃で不溶性であるか又は不溶性になることを条件として、いずれの適宜の生分解性ポリマーも使用できる。好適な生分解性ポリマーは上で定義したものである。
本発明の生分解性ポリマーのタイプ、分子量、及び量は、制御放出移植片から生物活性化合物が放出される時間の長さに左右される。当業者は、制御放出移植片の所望特性を達成するための本組成物中に存在する生分解性ポリマーのタイプ、分子量、及び量の選択を行うことができる。
【0023】
好適な医薬的に許容しうる有機溶媒として、限定するものではないが、N-メチル-2-ピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、プロピレンカーボネート、カプロラクタム、トリアセチン、安息香酸ベンジル、ベンジルアルコール、乳酸エチル、グリセロールトリアセテート、クエン酸のエステル、及びポリエチレングリコール、アルコキシポリエチレングリコール及びポリエチレングリコールアセテート等又はこれらのいずれかの組合せが挙げられる。
生分解性ポリマーの有機溶媒としての基準は、それらが医薬的に許容性であり、かつ水性媒体又は体液中で分散可能に混和しうることである。好適な有機溶媒は、体液中に拡散して、該液体組成物が凝固又は固化して適所に移植片を形成できるようなものでなければならない。このような溶媒単独及び/又はその混合物を使用でき、簡単な実験法によって、該溶媒の適性を容易に決定することができる。
本発明の医薬組成物は、典型的に0.1〜40%w/vの範囲で生物活性化合物を含む。一般に、最適な薬物装填は生物活性化合物の所望の放出期間と力価によって決まる。明らかに、低力価かつ長期放出の生物活性化合物では、高レベルの組み込みが必要だろう。
【0024】
本発明の溶液組成物の粘度は、使用するポリマーと有機溶媒の分子量によって決まる。例えば、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)を使用する場合、NMP中のポリエステルの溶液は、mPEG350より低い粘度を有する。典型的に、同一溶媒を使用する場合、ポリマーの分子量と濃度が高いほど、粘度が高い。好ましくは、溶液中のポリマーの濃度は70質量%以下である。さらに好ましくは、溶液中のポリマーの濃度は20〜50質量%である。
好ましくは、複合体は、使用する有機溶媒中で低い溶解度を有するべきである。生物活性化合物の反応性基をポリアニオンに結合させて、ポリマー又は溶媒との相互作用/反応に利用できなくする。このことが、ポリマー及びその分解生成物との好ましくない相互作用/反応の危険を大いに低減する。
本発明の一実施態様によれば、単純塩である塩酸テトラカインを、カルボキシ末端基を有する、NMP中の50/50ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)溶液と混合する。in vitro研究では、該混合物(約100mg)の小滴をリン酸緩衝食塩水に添加する。受け取った流体を選択時点で新鮮な溶液と置き換え、除去したPBS溶液を適宜な分析方法で薬物濃度について分析する。
本発明の別の実施態様によれば、フィチン酸テトラカインを、カルボシキ末端基を有するNMP中50/50のポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)溶液と混合する。この薬物複合体をポリマー溶液に均一に分散させた。in vitro研究では、該混合物(約100mg)の小滴をリン酸緩衝食塩水に添加する。受け取った流体を所定時点で新鮮な溶液と置き換え、除去したPBS溶液を適宜な分析方法で薬物濃度について分析する。
【0025】
本発明の別の実施態様によれば、フィチン酸オクトレオチドと酢酸オクトレオチドを、カルボキシ末端基を有する、NMP及びメトキシポリエチレングリコール350中の50/50ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)溶液と混合する。この薬物複合体をポリマー溶液に均一に分散させた。この組成物を室温で維持し、該組成物中のオクトレオチドの安定性をHPLCで経時的にモニターした。オクトレオチドのフィチン酸との複合体形成は、該組成物中のオクトレオチドの経時的な安定性を有意に向上させた。
本発明の別の実施態様によれば、フィチン酸オクトレオチドと酢酸オクトレオチドを、カルボキシ末端基を有する、NMP及びメトキシポリエチレングリコール350中の50/50ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)溶液と混合する。この薬物複合体をポリマー溶液に均一に分散させた。該組成物をオスのスプラーグドーリーラット(Sprague-Dawley rat)に皮下投与して適所に移植片を形成した。投与後の所定時間間隔での移植片回収及び該移植片中に残存しているオクトレオチドの分析によって、オクトレオチドの初期放出を決定した。製剤化及び放出中のオクトレオチドの安定性も評価した。オクトレオチドのフィチン酸との複合体形成は、オクトレオチドの初期放出を有意に低減し、かつ放出プロセス中のオクトレオチドの経時的な安定性を向上させた。
【0026】
適所に形成されたこれら移植片からの生物活性化合物の放出は、モノリシックポリマーデバイスからの薬物放出の同じ一般則に従うだろう。生物活性化合物の放出は、移植片の大きさと形状、移植片内の生物活性化合物の装填、生物活性化合物と該特定ポリマーに係わる透過因子、及び該ポリマーの分解によって左右されうる。当業者は、送達のために選択した生物活性化合物の量によって、上記パラメーターを調整して、放出の所望速度と持続時間を与えることができる。
投与する注射用液組成物の量は、典型的に該制御放出移植片の所望特性によって決まるだろう。例えば、注射用液組成物の量は、該生物活性化合物が制御放出移植片から放出される時間の長さに影響を与えうる。
【0027】
本発明の別の局面により、生物活性化合物/ポリアニオン複合体をポリマー担体中に封入することによって、微小球の形態の組成物が製造される。異なる生物学的環境への送達に適し、又は特有の機能を及ぼすのに適したユニークな特性を有する種々の生体適合性及び/又は生分解性ポリマーを用いて該生物活性化合物/ポリアニオン複合体を封入することができる。溶解の速度、ひいては生物活性化合物の送達は、個々の封入技術、ポリマーの組成、ポリマーの架橋、ポリマーの厚さ、ポリマーの溶解度、生物活性化合物/ポリアニオン複合体の大きさと溶解度によって決まる。
封入すべき生物活性化合物/ポリアニオン複合体を、有機溶媒中のポリマー溶液に懸濁させる。ポリマー溶液は、生物活性化合物/ポリアニオン複合体を該溶液に添加した後、該生物活性化合物/ポリアニオン複合体を覆うのに十分な濃度でなければならない。このような量は、生物活性化合物/ポリアニオン複合体対ポリマーの質量比が約0.01〜約50、好ましくは約0.1〜約30を与える量である。生物活性化合物/ポリアニオン複合体を懸濁状態に保持すべきであり、該ポリマーと接触して覆われるように凝集させてはいけない。
好ましくは、複合体は、使用する有機溶媒中で非常に低い溶解度を有するべきである。生物活性化合物の反応性基がポリアニオンに結合することによって、ポリマー又は溶媒との相互作用に利用できない。このことが、該ポリマーとの好ましくない相互作用の危険を大いに低減する。
従って、噴霧乾燥、噴霧凝結、エマルジョン、溶媒蒸発エマルジョンといった種々のマイクロカプセル化法に、生物活性化合物/ポリアニオン複合体のポリマー溶液を供することができる。
【0028】
本発明の一実施態様により、生物活性化合物/ポリアニオン複合体を有機溶媒中のポリマー溶液に懸濁させる。この懸濁した複合体又は微粒子をポリマー及び有機溶媒と共に、より多量の乳化剤を含有する水溶液に移す。該水溶液中、懸濁した複合体は水相に浸漬され、有機溶媒は該ポリマーから蒸発又は拡散する。この凝固したポリマーが生物活性化合物/ポリアニオン複合体を封入して組成物を形成する。乳化剤は、該プロセスの硬化相の間で該システム内の物質の多様な相間の界面張力を減少させるために役立つ。或いは、封入ポリマーが何らかの固有表面活性を有する場合、別個の表面活性剤を添加する必要がないかもしれない。
この発明の封入された生物活性化合物/ポリアニオン複合体を調製するために有用な乳化剤として、本明細書で例示されるポロキサマー及びポリビニルアルコール、界面活性剤及びポリマー封入生物活性化合物/ポリアニオン複合体と溶液との間の表面張力を低減できる他の表面活性化合物が挙げられる。
本明細書の微小球を調製するために有用な有機溶媒として、酢酸、アセトン、塩化メチレン、酢酸エチル、クロロホルム及び該ポリマーの特性によって決まる無毒の溶媒が挙げられる。該ポリマーを可溶化し、かつ最終的に無毒である溶媒を選択すべきである。
この発明の好ましい実施態様は、封入プロセスの間に生物活性化合物/ポリアニオン複合体の統合性が維持される態様である。生物活性化合物/ポリアニオン複合体が非常に低い溶解度を有する有機溶媒を用いることによって、懸濁プロセスの間、複合体形成が維持される。引き続き、被覆された複合体を水性溶媒に移したら、前工程におけるポリマー担体の迅速な硬化と生物活性化合物/ポリアニオン複合体の十分な封入が、複合体材料が溶解するのを保護する。
生物活性化合物/ポリアニオン複合体を封入するために使用するポリマーは、上述したように、ホモポリマー又はコポリマーでよい。
【0029】
別の実施態様では、二重壁ポリマー被覆微小球が有利だろう。2種の別個のポリマー溶液を、塩化メチレン又は該ポリマーを溶かせる他の溶媒で調製することによって二重壁ポリマー被覆微小球を製造することができる。[Pekarek, K. J.; Jacob, J. S. and Mathiowitz, E. Double-walled polymer microspheres for controlled drug release, Nature, 1994, 367, 258-260参照]。該溶液の1つに生物活性化合物/ポリアニオン複合体を添加して分散させる。ここで、生物活性化合物/ポリアニオン複合体を第1ポリマーで被覆する。次に、該第1ポリマー被覆生物活性化合物/ポリアニオン複合体を第2ポリマー溶液と混ぜ合わせる。ここで、第2ポリマーが、生物活性化合物/ポリアニオン複合体を封入している第1ポリマーを封入する。理想的には、この溶液を、表面活性剤又は乳化剤を含有する多量の水溶液に浸漬する。該水溶液では、2つのポリマー溶液から溶媒が蒸発し、これらポリマーが沈殿して該複合体を封入する。
上記製剤が注射又は移植片経路の投与用の主な製剤であるが、経口、経鼻、又は局所投与用製剤の製造で本発明の生物活性化合物/ポリアニオン複合体を使用しうる。
従って、本発明により、生物活性化合物/ポリアニオン複合体を含有する組成物を、生物活性化合物の持続性制御放出送達が望ましい被験者に投与することができる。本明細書では、用語「被験者」は温血動物、好ましくは哺乳動物、最も好ましくはヒトを包含することを意図する。
本明細書では、用語「被験者に投与」とは、組成物(例えば、医薬製剤)を該組成物を被験者の望ましい位置に送達するのに適したいずれかの経路で被験者に投薬、送達又は適用することを指す意であり、経口、経鼻、注射による送達及び/又は皮下、筋肉内、腹腔内、経皮、静脈内、動脈内、若しくはクモ膜下腔内の移植による送達、又は粘膜への投与による送達、又は該生物活性化合物で種々の医療状態の治療のための既知パラメーターに基づいて生物活性化合物の所望薬用量のin situ送達によって等の経路が挙げられる。
【0030】
本明細書で定義する場合、用語「制御放出送達」は、投与後一定期間、好ましくは少なくとも数日乃至数週間又は数ヶ月にわたる医薬の連続的な送達を指すことを意図する。例えば、経時的な薬剤の連続した治療効果によって、薬剤の持続性制御放出送達を実証することができる(例えば、GLP-1では、経時的な連続したA1cの減少によって、該ペプチドの持続性送達を実証することができる)。或いは、経時的に生体内の薬剤の存在を検出することによって、該薬剤の持続性送達を実証しうる。
本明細書で参照したすべての書籍、論文及び特許は、参照によって本明細書に完全に取り込まれる
【0031】
〔実施例〕
以下の実施例は、本発明の組成物及び方法の例示である。以下の実施例を限定とみなすべきでなく、単に、有用な薬物送達システムをどうやって構成するかを教示するのものである。
実施例1−フィチン酸ドキソルビシン(DOX-PA)の調製
水中2mg/mLの塩酸ドキソルビシン(分子量 578.98)の溶液(3.45mM)と水中20mg/mLのフィチン酸二カリウム塩(分子量 736.22)の溶液(27.2mM)を調製した。100mLの塩酸ドキソルビシン溶液に2.1mLのフィチン酸溶液を撹拌しながら加えた。フィチン酸対ドキソルビシンの予測比は1:6だった。混合物を遠心分離機にかけた。沈殿物を4回水洗してから凍結乾燥させた。収量は187mg(88.5%)である。
脱イオン水、リン酸緩衝食塩水(PBS,pH 7.4)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、及びメトキシポリエチレングリコール350(mPEG)中でフィチン酸ドキソルビシンの溶解度を測定した。結果を下表に示す。
【0032】

【0033】
実施例2−DOX-PA及びDOX-HClを含有する微小球の調製
121mgのDOX-PA複合体を、塩化メチレン(DCM)中PLGA(DL5050 3A, Alkermes)の溶液に分散させた。上の有機相を、冷蔵庫で予冷却した(約(〜)4℃)500mLの1.0%(w/v)PVA溶液に乳化させた。このエマルジョンを室温(RT)で3時間撹拌し続けてDCMを蒸発させた。上澄みをデカントして、硬化した微小球を収集し、脱イオン水で3回洗浄してから凍結乾燥させた。赤色がかった微小球を得た。微小球中の薬物含量は、HPLCで測定した場合約5.1%である。
上記の同じ手順でDOX-PAに代えてDOX-HClを用いて、DOX-HClを含有する微小球を調製した。
実施例3−封入されたフィチン酸ドキソルビシンの調製
実施例1で調製したフィチン酸ドキソルビシンを、二重エマルジョン法を用いてポリ乳酸-コ-グリコール酸(PLGA)に封入する。1.4mgのフィチン酸ドキソルビシンをPLGAを含有する塩化メチレン(0.6gのPLGA/ml溶媒;20ml)に加える。極微細チップを有するホモジナイザーを用いて混合物を30秒間3,000rpmで均質化する。結果の懸濁液を、1%のポリ(ビニルアルコール)(PVA)と塩化メチレン(4.5ml)を含有する撹拌タンク(2000ml)に移す。溶液を1分間1,000rpmで混合する。蒸留水に浸漬させてPVA溶液中の微小球を沈殿させ、洗浄してろ過する。0.1%のTweenを含有する蒸留水で微小球を洗浄して凝集を減らし、4℃にて2日間窒素で乾燥させる。
実施例4−フィチン酸テトラカインの調製
1.0gの塩酸テトラカイン(3.33ミリモル)を40mLの水に溶かし、激しく撹拌しながら、実施例1のフィチン酸溶液20.5mLを添加した。さらに30分撹拌後、沈殿物を遠心分離機にかけ、水洗した。最終生成物は白色粉末の形態だった。該複合体の種々の緩衝液中での溶解度を下表に示す。
【0034】

【0035】
実施例5−テトラカインを含有するポリマー微小球の調製
油中水(O/W)単一エマルジョン法によって、ポリマー(例えば、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)微小球を調製した。PLGAを塩化メチレン(DCM)に溶かした。テトラカインの封入のため、該薬物をDCM中のPLGA溶液と混合した。冷蔵庫内4℃で予冷却した500mLの0.5〜1%(w/v)PVA(PVA,88%加水分解,平均分子量31,000〜50,000,Sigma-Aldrich)溶液に、混合溶液又は懸濁液を乳化させた。このエマルジョンをRTで3時間連続的に撹拌してDCMを蒸発させた。硬化した微小球を収集し、脱イオン水で3回洗浄してから凍結乾燥させた。
フィチン酸テトラカイン(TCPA)を含有する微小球の調製の場合、5mLのPLGA溶液に210mgのTCPAを懸濁させた。懸濁液を10分間超音波処理した。この懸濁液を、4℃で予冷却した連続相(1% PVA溶液)に撹拌しながらゆっくり添加した。該エマルジョンを室温で3時間連続的に撹拌してDCMを蒸発させた。硬化した微小球を収集し、脱イオン水で3回洗浄してから凍結乾燥させた。テトラカイン負荷は約3.2%だった。
同様に、TCPAをTC-HClで置き換えて、塩酸テトラカイン(TC-HCl)を含有するポリマー微小球を調製した。
【0036】
実施例6−フィチン酸テトラカインを含有するペレットの調製
圧縮成形法でフィチン酸テトラカインを含有する移植用ペレットを調製した。乳鉢と乳棒を用い、249mgのPLGA粉末を25.7mgのフィチン酸テトラカインと完全に混合した。次に、デルタプレス(Delta Press)を用いて約50mgの混合物を成形してペレットを作った。比較例として塩酸テトラカインを含有するペレットも調製した。
実施例7−フィチン酸テトラカインを含有する移植片の調製
2.56gのポリ(ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)(RG504H,ベーリンガー-インゲルハイム製)を、7.73gの塩化メチレンに溶かす。この溶液に、256mgのフィチン酸テトラカインを加えて高せん断ミキサーで分散させる。
結果混合物を回転エバポレーターに入れ、真空下で大部分の塩化メチレンを除去する。結果の濃厚分散系をガラスプレート上に注ぎ、0.7mmに設定した調整ブレードセットで広げる。
このようにして得たフィルムを80℃で融かして圧縮成形し、約0.5mm厚のフィルムを得る。このフィルムをリン酸緩衝食塩水(0.02%のナトリウムアジド含有)中pH 7.4及び37℃でインキュベートし、該緩衝溶液を周期的にUVで分析して、放出されたテトラカインの量を決定する。
テトラカインに代え、少なくとも1個の塩基性官能基を含有する他の生物活性化合物を用いて同様の成形移植片を製造することができる。
【0037】
実施例8−フィチン酸テトラカインの注射用製剤及びそのin vitro放出
160mgのPLGA(RG503H,ベーリンガー-インゲルハイム製)を0.4mLのNMPに溶かして、カルボキシル末端基を有するポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)のNMP中40%(w/v)溶液を調製する。注射器フラッシングによって39.9mgのフィチン酸テトラカインをポリマー溶液と混合する。該混合物(約100mg)の小滴をpH 7.4のリン酸緩衝食塩水に添加する。受け取った流体を選択時点で新鮮な溶液と置き換え、除去したPBS溶液を、280nmにおけるUV検出により薬物濃度について分析する。
実施例9−リドカインとフィチン酸の複合体の調製
1.0gの塩酸リドカイン(3.69ミリモル)を400mLの水に溶かし、激しく撹拌しながら、実施例1のフィチン酸溶液28.8mLを加える。30分後、0.1N HCl溶液でpHを3.5に調整する。さらに30分の撹拌後、沈殿物をろ過し、水で4回洗浄する。最終生成物を凍結乾燥させる。
実施例10−アモキシシリンとフィチン酸の複合体の調製
1.0gの塩酸アモキシシリン(2.74ミリモル)を400mLの水に溶かし、激しく撹拌しながら実施例1のフィチン酸溶液21.3mLを加える。30分後、0.1N HCl溶液でpHを3.5に調整する。さらに30分の撹拌後、沈殿物をろ過し、水で4回洗浄する。最終生成物を凍結乾燥させる。
塩酸アモキシシリンに代え、少なくとも1個の塩基性基を含有する他の化合物を用いて同様の複合体を製造しうる。
【0038】
実施例11−オクトレオチドとフィチン酸の複合体の調製
215mgのオクトレオチドを10.75mLの水に溶かして、オクトレオチドの20mg/mL溶液を調製した。この溶液5mLを1.45mlのPA溶液(1%,w/v)とpH 3.12で混合した。混合物を1分間ボルテックスしてから混合物を回転板上に載せてさらに1時間混合した。該複合体を遠心分離によって分離し、水で1回すすいだ。沈殿生成物を48時間凍結乾燥させた。白色粉末の形態で最終生成物を得た。
実施例12−注射用製剤中のオクトレオチドの安定性
オクトレオチドを適宜の溶媒中のポリマー溶液に分散させることによってオクトレオチドの注射用製剤を調製した。例えば、ラクチド対グリコリド(PLG DL2.5A,アルカミーズ社製)比が50/50のポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、又はメトキシポリエチレングリコール(mPEG)、又はポリエチレングリコールジメチルエーテル(PEGDM)に溶かして40質量%溶液を得た。フィチン酸オクトレオチド又は酢酸オクトレオチドを前記ポリマー溶液に分散させることによって注射用製剤を調製した。均一な懸濁液又は溶液が得られるまで、混合物を完全に混合した。以下に示すように6種の注射用製剤を調製した。








【0039】

注:mPEG:メトキシポリエチレングリコール350;NMP:N-メチルピロリドン;
PEGDM:ポリエチレングリコールジメチルエーテル
【0040】
上記注射用製剤中のオクトレオチドの室温における安定性をHPLCでモニターし、その結果を下表に示す。オクトレオチドとフィチン酸の複合体形成はmPEG及びPEGDM中のPLGA溶液におけるオクトレオチドの分解及び/又はアシル化を完全に阻止したが、NMP中のPLGA溶液中では室温で経時的にオクトレオチドのわずかな分解が観察された。酢酸オクトレオチドを用いると、室温で3日後に有意な量のオクトレオチドが分解又は反応した。NMP中のPLGA溶液の場合、ほぼ100%のオクトレオチドが分解又はアシル化した。従って、該ペプチドを含有する安定した製剤を製造するためには、フィチン酸オクトレオチドが好ましいだろう。
【0041】

注:mPEG:メトキシポリエチレングリコール350;NMP:N-メチルピロリジノン;
PEGDM:ポリエチレングリコールジメチルエーテル;
/Ac:酢酸塩形態のオクトレオチド;/Pa:フィチン酸塩形態のオクトレオチド
【0042】
実施例13−注射用製剤中のオクトレオチドの安定性
ラクチド対グリコリド比が50/50のポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)(DL2.5A,アルカミーズ製)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、又はメトキシポリエチレングリコール(mPEG)に溶かして40質量%溶液を得た。フィチン酸オクトレオチド又は酢酸オクトレオチド又はクエン酸オクトレオチドを分散させて注射用ポリマー溶液を調製した。均一な懸濁液又は溶液が得られるまで混合物を完全に混合した。以下に示すように注射用製剤を調製した。

【0043】

注:mPEG:メトキシポリエチレングリコール350;NMP:N-メチルピロリジノン
【0044】
上記注射用製剤中のオクトレオチドの室温における安定性をHPLCでモニターし、その結果を下表に示す。オクトレオチドの両塩形態と溶媒がオクトレオチドの安定性に影響を与えると考えられる。オクトレオチドの安定性の点では、mPEGがNMPより好ましく、オクトレオチドのフィチン酸複合形態がオクトレオチドの酢酸塩及びクエン酸塩より好ましい。
【0045】

注:mPEG:メトキシポリエチレングリコール350;NMP:N-メチルピロリジノン;
/Ac:酢酸塩形態のオクトレオチド;/Ca:クエン酸塩形態のオクトレオチド;
/Pa:フィチン酸塩形態のオクトレオチド
【0046】
実施例14−ラットにおけるオクトレオチドのin vivo初期放出
ポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)をN-メチル-2-ピロリドン(NMP)、又はメトキシポリエチレングリコール(mPEG)に溶かして40質量%溶液を得た。フィチン酸オクトレオチド又は酢酸オクトレオチドを分散させて注射用製剤を調製した。均一な懸濁液又は溶液が得られるまで混合物を完全に混合した。調製した注射用製剤は下表に示す。オクトレオチドのこれら製剤(ざっと約100uL)をオスのスプラーグドーリーラットの背中に皮下投与した。投与後所定の時間(G群では30分、A〜F群では24時間)間隔で移植片を回収し、該移植片に残存するオクトレオチドを分析することによって、オクトレオチドの放出を測定した。製剤化及び放出の際のオクトレオチドの安定性も評価した。










【0047】

注:mPEG:メトキシポリエチレングリコール350;NMP:N-メチルピロリジノン;
OCT:オクトレオチド;OCT/Ac:酢酸オクトレオチド;
OCT/Pa:フィチン酸オクトレオチド。* 分解ピークを含む
【0048】
製剤A及びGは同様の薬剤含量で、製剤Gがわずかに多いが、異なる時点で動物を収集し、移植片を回収する。結果はオクトレオチドの経時的な漸次放出を示すようだ。移植片から放出されたオクトレオチドは、投与後0.5時間における群Gで約3.29±7.73%であり、投与後24時間における群Aで10.82±7.10%だった。製剤Bと比較すると、オクトレオチドとフィチン酸の複合体形成は、該製剤及び放出プロセスにおける該ペプチドの初期放出と安定性の両方を有意に改善した。結果は、オクトレオチドの安定性の点でmPEGがNMPより好ましい溶媒であることをも示した。オクトレオチドとPLGAの両者にとってNMPが良い溶媒であると考えられ、該溶媒は、オクトレオチドとPLGA又はその分解生成物との間のアシル化反応を促進しうる。
PLGA/NMPビヒクル中のオクトレオチドの安定性に関する結果は、in vitroで得られる結果と相関する(実施例13及び14参照)。しかしながら、分解/反応速度はin vitroよりin vivoの方が遅いようだった(24時間後に30%対85%)。この差異は、溶媒NMPを動物の周囲組織に消散させることによって、投与後迅速に移植片が形成されるという事実によって説明することができる。この溶媒消失の結果、ビヒクルの粘度を高め、PLGAの凝固を強めることとなり、オクトレオチドとPLGA又はその分解生成物との間の反応速度を遅くする。しかしながら、投与後24時間有意量(35%まで)のNMPがまだ移植片内で検出されるときは溶媒消失は遅いプロセスだった。このことは、残存溶媒が、望まれるよりずっと長く移植片内でトラップされうることを示す。従って、生物活性化合物をその安定形態で使用することは、有用な製剤の開発に非常に重要である。
【0049】
実施例15−ラットにおけるオクトレオチドのin vivo放出
mPEG350中のポリ(DL-ラクチド-コ-グリコリド)(PLGA)溶液にフィチン酸オクトレオチドを分散させることによって注射用製剤を調製した。均一な懸濁液が得られるまで混合物を完全に混合した。調製した注射用製剤を下表に示す。オクトレオチドのこれら製剤(おおよそ約100uL)をオスのスプラーグドーリーラットの背中に皮下投与した。投与後所定時間間隔で移植片を回収して移植片に残存しているオクトレオチドを分析することによってオクトレオチドの放出を測定した。製剤化及び放出の際のオクトレオチドの安定性も評価した。
【0050】

注:mPEG:メトキシポリエチレングリコール350;NMP:OCT:オクトレオチド;OCT/Pa:フィチン酸オクトレオチド。5050DL2.5A:ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)と50%ラクチド(マルカミーズ社製);RG752S:ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)と75%ラクチド(ベーリンガー-インゲルハイム(BI)社製)。
【0051】
製剤A及びBからのOCTの初期放出はそれぞれ11.1±1.7%及び14.0±4.2%であり、製剤C、D、及びEの初期放出はそれぞれ0.4±2.0%、1.5±2.7%及び3.8±4.5%だった。差異は統計的に有意でないが、OCTの初期放出はポリマー濃度の減少に伴って増える傾向があるようだ。さらに、製剤化の際及びこれら製剤におけるin vivo放出の際にOCTは安定だった。
実施例16−グリカゴン様ペプチド1(GLP-1)とフィチン酸の複合体の調製
50mgのGLP-1アセテート(分子量 3297.7,0.0152ミリモル)を5mLの水に加え、激しく撹拌しながら1.01mLの1%フィチン酸溶液(pH 3.2)を添加した(モル比GLP-1:フィチン酸塩=1:1)。さらに30分撹拌後、混合物を遠心分離機にかけた。上澄みをデカントし、沈殿物を2回水ですすいでから凍結乾燥させた。最終生成物は白色粉末の形態だった。
実施例17−グリカゴン様ペプチド1(GLP-1)と六硫酸イノシトール(InS6)の複合体の調製
50mgのGLP-1アセテート(分子量 3297.7,0.0152ミリモル)を5mLの水に溶かし、激しく撹拌しながら1.35mLの1%の六硫酸イノシトールカリウム(InS6)溶液(pH 1.0)を加えた(モル比GLP-1:InS6=1:1)。さらに30分撹拌後、混合物を遠心分離機にかけた。上澄みをデカントし、水で2回すすいでから凍結乾燥させた。最終生成物は白色粉末の形態だった。
実施例18−PYYとフィチン酸の複合体の調製
1.0gのPYYアセテート(0.247ミリモル)を100mLの水に溶かし、激しく撹拌しながら、実施例1のフィチン酸塩溶液11.5mLを加える(モル比PYY:フィチン酸塩=1:1)。さらに30分撹拌後、沈殿物をろ過し、4回水洗する。最終生成物を凍結乾燥させる。
実施例19−フィチン酸リゾチームの調製
100mgのリゾチーム(7.1μmol)を40mLの水に溶かし、激しく撹拌しながら、実施例1のフィチン酸塩溶液3.1μLを加えた。さらに30分撹拌後、沈殿物を4回水洗し、凍結乾燥させた。白色粉末の形態の最終生成物が得られた。
リゾチームに代えて天然に存在するペプチド/タンパク質又はそれらの合成類縁体を用いて同様の複合体を製造することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサン由来のポリアニオンとの複合体、及び
b)生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体、
を含むことを特徴とする医薬組成物。
【請求項2】
前記ヘキサヒドロキシシクロヘキサンの誘導体が、少なくとも2個のリン酸基を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記ヘキサヒドロキシシクロヘキサンの誘導体が、少なくとも2個の硫酸基を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記ヘキサヒドロキシシクロヘキサンが、シス-イノシトール、エピ-イノシトール、アロ-イノシトール、ネオ-イノシトール、ミオ-イノシトール、ムコ-イノシトール、シロ-イノシトール、L-(-)-キロ-イノシトール、及びD-(+)-キロ-イノシトールから成る群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項5】
前記ヘキサヒドロキシシクロヘキサンが、ミオ-イノシトールの誘導体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記ミオ-イノシトールの誘導体が、少なくとも2個のリン酸基又は硫酸基を有する、請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
前記ミオ-イノシトールの誘導体が、六リン酸イノシトールである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項8】
前記ミオ-イノシトールの誘導体が、六硫酸イノシトールである、請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項9】
前記生物活性化合物が、少なくとも1個の塩基性窒素を有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項10】
前記塩基性窒素が、アミンの窒素、イミンの窒素及び環の窒素から成る群より選択される、請求項9に記載の医薬組成物。
【請求項11】
前記生物活性化合物が、小分子、巨大分子、ペプチド、タンパク質、及び酵素から成る群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項12】
前記生物活性化合物が、ドキソルビシン、ドキシサイクリン、ジルチアザム、シクロベンザプリン、バシトラシン、ノスカピン、エリスロマイシン、ポリミキシン、バンコマイシン、ノルトリプチリン、キニジン、エルゴタミン、ベンズトロピン、ベラパミル、フルナリジン、イミプラミン、ゲンタマイシン、カナマイシン、ネオマイシン、アモキシシリン、アミカシン、アルベカシン、バンベルマイシン、ブチロシン、ジベカシン、ジヒドロストレプトマイシン、ホルティミシン、イセパミシン、ミクロニミシン、ネチルミシン、パロマイシン、リボスタマイシン、ラパマイシン、シソミシン、ストレプトマイシン及びトブラマイシン、アミカシン、ネオマイシン、ストレプトマイシン及びトブラマイシン、ピリメタミン、ナルトレキソン、リドカイン、プリロカイン、メピバカイン、ブピバカイン、テトラカイン、ロピバカイン、オキシトシン、バソプレッシン、副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、上皮成長因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、プロラクチン、黄体形成ホルモン、黄体形成ホルモン放出ホルモン(LHRH)、LHRHアゴニスト、LHRHアンタゴニスト、成長ホルモン(ヒト、ブタ、及びウシが含まれる)、成長ホルモン放出因子、インスリン、エリスロポイエチン(赤血球形成活性を有するすべてのタンパク質が含まれる)、ソマトスタチン、グルカゴン、インターロイキン、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、ガストリン、テトラガストリン、ペンタガストリン、ウロガストロン、セクレチン、カルシトニン、エンケファリン、エンドルフィン、アンギオテンシン、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、腫瘍壊死因子(TNF)、副甲状腺ホルモン(PTH)、神経成長因子(NGF)、顆粒球-コロニー刺激因子(G-CSF)、顆粒球マクロファージ-コロニー刺激因子(GM-CSF)、マクロファージ-コロニー刺激因子(M-CSF)、ヘパリナーゼ、血管内皮成長因子(VEG-F)、骨形成タンパク質(BMP)、hANP、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、エクセナチド、ペプチドYY(PYY)、レニン、ブラジキニン、バシトラシン、ポリミキシン、コリスチン、チロシジン、グラミシジン、シクロスポリン(合成類縁体及び薬理学的に活性なそのフラグメントを包含する)、酵素、サイトカイン、抗体、ワクチン、抗生物質、抗体、糖タンパク質、卵胞刺激ホルモン、キオトロピン、タフトシン、サイモポイエチン、サイモシン、サイモスチムリン、胸腺液性因子、血清胸腺因子、コロニー刺激因子、モチリン、ボンベシン、ジノルフィン、ニューロテンシン、セルレイン、ウロキナーゼ、カリクレイン、サブスタンスP類縁体及びアンタゴニスト、アンギオテンシンII、血液凝固因子VII及びIX、リゾチーム、グラミシジン、メラノサイト刺激ホルモン、甲状腺ホルモン放出ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、パンクレオザイミン、コレシストキニン、ヒト胎盤性ラクトゲン、ヒト絨毛性ゴナドトロピン、タンパク質合成刺激ペプチド、胃抑制ペプチド、血管作用性小腸ペプチド、血小板由来成長因子、並びにこれらの合成類縁体及び修飾物及び薬理学的に活性なフラグメントから成る群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項13】
前記生物活性化合物が、ドキソルビシン、ラパマイシン、ナルトレキソン、上皮成長因子(EGF)、LHRHアゴニスト、LHRHアンタゴニスト、成長ホルモン、成長ホルモン放出因子、オクトレオチド、インターフェロン-α、インターフェロン-β、インターフェロン-γ、カルシトニン、副甲状腺ホルモン(PTH)、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)、ペプチドYY(PYY)、並びにこれらの合成類縁体及び修飾物及び薬理学的に活性なフラグメントから成る群より選択される、請求項11に記載の医薬組成物。
【請求項14】
前記生物活性化合物がドキソルビシンである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項15】
前記生物活性化合物がグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)及びその類縁体である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項16】
前記生物活性化合物がオクトレオチドである、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記生物活性化合物がペプチドYY(PYY)である、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項18】
前記生分解性の水-不溶性ポリマーが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ(ラクチド-コ-グリコリド)、ポリカプロラクトン、ポリジオキサノン、ポリカーボネート、ポリヒドロキシブチレート、ポリアルキレンオキサレート、ポリアンヒドリド、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリウレタン、ポリアセタール、ポリオルトカーボネート、ポリホスファゼン、ポリヒドロキシバレレート、ポリアルキレンスクシネート、ポリオルトエステル、並びにこれらのコポリマー、ブロックコポリマー、分岐コポリマー、ターポリマー及び組合せ及び混合物から成る群より選択される、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項19】
前記医薬的に許容しうる担体が、環境応答性ポリマー又はゲルを含む、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項20】
前記環境応答性ポリマー又はゲルが、熱感性、pH感性、又は電気感性である、請求項19に記載の医薬組成物。
【請求項21】
注射用溶液又は懸濁液、粒子、フィルム、ペレット、シリンダー、ディスク、マイクロカプセル、微小球、ナノ球、微粒子、ウェハー、ミセル、及びリポソームから成る群より選択される形態の請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項22】
a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサンの誘導体との複合体、及び
b)生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体、
を含む医薬組成物を投与することによって、一定期間にわたって持続的に生物活性化合物を制御放出するための医薬組成物で温血動物を治療することを特徴とする方法。
【請求項23】
前記医薬組成物を経口投与、非経口投与、粘膜投与、眼投与、皮下、関節内若しくは筋肉内注射、吸入、又は局所投与によって投与する、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
生物活性化合物を持続的に制御放出することを特徴とする組成物の調製方法であって、a)少なくとも1個の塩基性官能基を有する生物活性化合物と、少なくとも2個の負に荷電した官能基を有するヘキサヒドロキシシクロヘキサンの誘導体とを別々に溶解させる工程、及び
b)前記溶解した生物活性化合物とヘキサヒドロキシシクロヘキサンの誘導体を混合して複合体を生成する工程、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項25】
前記複合体を、生分解性の水-不溶性ポリマーを含む医薬的に許容しうる担体中に分散させる工程をさらに含む、請求項24に記載の方法。
【請求項26】
前記複合体を、乾式混合、有機溶媒に溶解、又は融解によって、前記医薬的に許容しうる担体中に分散させる、請求項25に記載の方法。

【公表番号】特表2008−511544(P2008−511544A)
【公表日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−525814(P2007−525814)
【出願日】平成17年8月11日(2005.8.11)
【国際出願番号】PCT/US2005/028676
【国際公開番号】WO2006/017852
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(507044479)クエスト ファーマシューティカル サーヴィシーズ (2)
【Fターム(参考)】