説明

生物活性化合物を発酵生産するための装置及び方法

本発明は、発酵槽が隔離体内に置かれ、隔離体は作業チャンバー内か又は作業チャンバーに隣接して置かれ、隔離体及び作業チャンバーには周囲圧力に対して圧力勾配がある、生物活性物質を発酵生産するための方法及び装置に関するものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵槽が隔離体(insulator)内に置かれ、隔離体は作業チャンバー内か又は作業チャンバーに隣接して置かれ、隔離体及び作業チャンバーには周囲圧力に対して圧力勾配がある、生物活性物質を発酵生産するための方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物活性化合物を用いて作業するには、潜在的な危険又は中毒から従業者を保護するために生産設備に安全性の増した測定を必要とする。生物活性化合物は、医薬目的のために生産され又は使用されることが多いが、そのために製造時は厳しい清浄度の基準に準拠する必要がある。超高純度化合物製造用設備の通常の構造は、外部に対して閉ざされており、第2のチャンバーに取り囲まれた第1の内部チャンバーで構成される。第2のチャンバーには生体物質を扱う人が存在し、生体物質の処理は第1のチャンバーで主に行われる。2つのチャンバーはロック可能なスルースを通して互いに接続されている。第1のチャンバーは典型的にはグローブ・ボックスであり、処理工程は第2のチャンバーからグローブによって遂行することができる。第2のチャンバーは典型的には外部から隔離されているが、ロック可能なスルースを通して接続されている。2つのチャンバーには理想的には滅菌条件及びクリーンルーム要件が存在する。周囲の粒子、微生物病原菌などによる生物活性物質の汚染を防ぐために、典型的には15Paの余分な圧力を第1のチャンバーにかける。これとは反対に、第2のチャンバーでは第1のチャンバーと比較して低圧であるが周囲圧力に対して余分な圧力が存在する。したがって、第2のチャンバーからの粒子や病原菌が第1のチャンバーに侵入することを防ぐであろう。このように、生物活性物質は周囲からの汚染に対して保護されるであろう。
【0003】
発酵方法によって生物活性化合物を製造する場合、少なくとも一時的に開放された装置で実施される処理工程がある。例えば植菌がそのような処理工程であたる。多くの場合、この工程は手作業で行う必要がある。開始物質(細胞バンク)を含有する装置(容器、バイアル)が開放されているこの方法のあいだ、たとえわずかな時間であってもエアロゾルを形成するようになるかもしれない。これは、発酵開始までの前培養段階の中間工程にも当てはまる。ここでは発酵槽のポートはたとえわずかな時間であっても開放されているであろう。そしてその手段によってエアロゾル形成するようになるかもしれない。同様に、発酵産物、即ち生物活性物質の処理のあいだ、エアロゾル形成が生ずる可能性がある。このように、病原菌、細菌、又は環境に毒性の物質に曝露される危険性がある。第1のチャンバーと比較して第2のチャンバーが比較的低圧であることに起因して、第1のチャンバーからのエアロゾルが第2のチャンバーへ侵入するかもしれず、これは第2のチャンバーで作業する人に脅威をもたらし得る。それにもかかわらず操作上の安全性に対する保証を与えるには、この場合、例えば従業者のワクチン接種、防護服の着用などのような、さらに事前の注意を設定する必要がある。
【0004】
したがって、物質が環境からの汚染に対して保護され、同時に人員のエアロゾルへの曝露が軽減されるか又は完全に妨げられる、生物活性物質を発酵により生産するための方法及び装置に対する必要性が存在するであろう。
【発明の詳細な説明】
【0005】
本発明は、添付の特許請求の範囲による装置及び方法を提供することによってこの課題を解決するものである。
【0006】
本発明は、生物活性物質を好ましくは超高純度の形態で発酵により生産するための装置及び方法に関するものであり、環境からの粒子や病原菌による生体物質の汚染は妨げられ、同時に生体物質を用いて作業する人員に対する危険の可能性は軽減されるであろう。好ましくは、発酵方法には少なくとも1つの植菌工程が含まれる。より好ましくは、発酵方法には手作業で実施される少なくとも1つの工程が含まれ、最も好ましくはこの工程は植菌工程である。
【0007】
本発明の方法及び装置は、生産方法及び/又は処理方法を担当する人や環境に対するエアロゾル形成を介した基本的な危険が全くなく、エアロゾル形成に関係するか又は関係し得る認可された生産技術及び精製技術の使用を可能にする。換言すえれば、本発明の装置及び本発明の方法は、生産に取り組む人及び環境の生物活性物質、細菌、及び/又は病原菌への曝露を軽減し、同時に、根本的にエアロゾル形成と関係がある生体物質の効率的な生産及び精製を可能にする確立された技術を適用させる。
【0008】
本発明の装置には、作業チャンバーに囲まれているか又は作業チャンバーに隣接している少なくとも1つの隔離チャンバー(隔離体)が含まれる。作業チャンバーは圧力スルース(pressure sluice)を介して環境と接続されている。隔離体においても作業チャンバーにおいても環境の圧力と比較して低圧であり、隔離体内の圧力は作業チャンバー内の圧力よりも低い。圧力スルースでは、周囲圧力と比較して余分な圧力がかかっている。隔離体は少なくとも1つの発酵槽を含有し、そこで生物活性物質が発酵によって生産される。
【0009】
本発明の装置を用いて、生物活性物質を隔離体内で生産及び/又は処理する。ここで用いる隔離体は、環境とのエネルギー交換はそのままで、環境との物質の非制御輸送はできない、環境と比較して気密な規定されたシステムである。環境との物質の制御輸送、例えば、備品、試薬、開始物質、中間産物、及び最終産物のそれぞれの取り込み又は引き出しは、1以上のスルース、2重トラップ容器、即ちいわゆるα−コンテナ又はα−バッグに接続されたβ−ポートによって提供できる。物質の制御輸送は、発酵産物若しくは生物活性物質の発酵及び/又は精製の前、あいだ、又は後に可能である。
【0010】
隔離体は、適切な設備を通して調節された余分な圧力又は低圧で操作することができる。同様に、不活性ガス雰囲気を隔離体内で作り出すことが可能である。隔離体は典型的にはフィルターを備えた1以上の給気ダクト及び排気ダクトで典型的には操作する。したがって、隔離体内では、好ましくは100病原菌/m未満、より好ましくは10病原菌/m未満、最も好ましくは1病原菌/m未満の病原菌数が達成されるであろう。そのようなフィルターは当該技術分野に熟練した者に公知である。そのようなフィルターの例は、HEPA(高効率粒子フィルター)フィルターである。
【0011】
隔離体に位置する備品、装置、又は目的物は、外部から制御システムを介して、又は作業チャンバーから作動される、隔離体に備え付けのグローブ口を介して動かし又は操作することができる。
【0012】
隔離体は、個々に、生物学的に不活性であり、洗浄し易く、そしてin situでの汚染除去又は滅菌を可能にする物質で全面的に又は部分的に作られることが好ましい。したがって、ホルマリン、エチレンオキサイド、又は蒸気性過酸化水素(VHP)による滅菌を可能にする物質が好ましい。そのような物質には、例えば、ガラス、ステンレススチール、又はPVCなどのポリマーが含まれる。隔離体は、その内面が全面的に又は部分的にガラス、ステンレススチール、又はポリマーなどの他の適切な物質で作られるように製造されることが好ましい。したがって、ハードポリマーもソフトポリマー(ハード及びソフト絶縁壁)も用いることができる。グローブは典型的にはネオプレン、ハイパロン、ビニール、又は他の好適な物質から作られる。
【0013】
典型的には、隔離体は温度制御及び温度調節のための装置を配置する。
【0014】
典型的には、隔離体は、作業チャンバー内に位置するか又は作業チャンバーに隣接する。隔離体と作業チャンバーとのあいだに圧力勾配がある。それにより、隔離体は、作業チャンバー内の圧力と比較して低圧であり、作業チャンバー内の圧力は周囲圧力と比較して低圧である。周囲圧力は101,325Paに相当するが、地理的な位置又は計測条件に応じて変化し得る。
【0015】
典型的には、隔離体内の作業圧は、それぞれ周囲圧力(101,325Pa)と比較して、20〜200Paの範囲、好ましくは40〜100Paの範囲、最も好ましくは55〜75Paの範囲で低圧である。
【0016】
通常、隔離体内の作業圧は、作業チャンバーと比較して、およそ10〜100Pa、好ましくは20〜80Pa、より好ましくはおよそ40〜60Pa前後低い。
【0017】
本発明の1つの態様では、隔離体と作業チャンバーとの圧力差の標準値は、計測及び装備に依存した変動内で、35〜57Paの範囲にあり、好ましくは45Pa前後であり、即ち、隔離体内の圧力は、それぞれ作業チャンバー内の圧力よりもおよそ35〜57Pa又はおよそ45Pa低い。
【0018】
隔離体への給気及び排気は、隔離体内の病原菌数が多くても100病原菌/m、好ましくは多くても10病原菌/m、最も好ましくは多くても1病原菌/mとなるように、フィルターを介して行われることが好ましい。
【0019】
本発明の作業チャンバーは、物質又は装備を1以上のロック可能な開口部を通して交換するために隔離体と一方で気密に接続されている気密に密閉されたシステムである。他方では、少なくとも1つのロック可能な圧力スルースを通して、気密様式で物質若しくは装備を交換するため及び/又は取得するために接続されている。作業チャンバーは隔離体を取り囲んでいるか又は隔離体と隣接している。作業チャンバーの給気及び排気は、作業チャンバー内の病原菌数が多くても200病原菌/m、好ましくは多くても100病原菌/m、最も好ましくは多くても10病原菌/mとなるようにフィルターを介して行われることが好ましい。そのようなフィルターは例えばHEPAフィルターの商品名で市販されている。
【0020】
作業チャンバーの温度は19〜26℃前後、相対湿度40〜60%であることが好ましい。第1及び第2の隔離体は、生物活性物質の生産及び精製の実行に一般的で好適な温度及び相対湿度を互いに独立して示す。
【0021】
作業チャンバーでは圧力操作が行われており、隔離体内の圧力よりも高いが、周囲圧力及び圧力スルースと比較して圧力勾配が存在する。
【0022】
典型的には、作業チャンバー内の圧力は、周囲圧力と比較して、5〜50Pa、好ましくは10〜30Pa、最も好ましくは12〜18Pa低い。
【0023】
本発明の1つの態様では、圧力差の標準値は、計測及び装備に依存した変動内で、周囲圧力との比較で15Paである。即ち作業チャンバー内の圧力は周囲圧力よりもおよそ15Pa低い。
【0024】
作業チャンバーは、少なくとも1つのロック可能な圧力スルースを介して周囲と接続されている。スルースでは、周囲圧力と比較して、10〜100Pa、好ましくは20〜80Pa、最も好ましくは25〜35Paの余分な圧力がかかっている。
【0025】
通常、圧力スルースと作業チャンバーとのあいだに10〜200Pa、好ましくは20〜100Pa、最も好ましくは40〜60Paの圧力差が存在する。
【0026】
本発明の1つの態様では、圧力スルースと作業チャンバーとのあいだの圧力差の標準値は、計測及び装備に依存した範囲内で45Paである。即ち、作業チャンバー内の圧力は周囲圧力よりもおよそ45Pa低い。
【0027】
通常、圧力スルースと隔離体とのあいだに10〜300Pa、好ましくは50〜200Pa、最も好ましくは80〜100Paの圧力差が存在する。圧力スルースと隔離体とのあいだの圧力差の標準値は、計測及び装備に依存した範囲内で90Paである。即ち、隔離体内の作業圧は圧力スルース内よりもおよそ90Pa低い。
【0028】
特に好ましい態様では、本発明の装置は少なくとも1つの他の隔離体を含む。この少なくとも1つの他の隔離体は、第1の隔離体に対して同一作業チャンバー内に置くことも、同一作業チャンバーに隣接することもでき、例えば1以上のロック可能なスルース、2重トラップ容器、又はポートを通して、第1の隔離体に気密に接続させることもできる。しかしながら、隔離体同士を互いに接続させることはできない。少なくとも1つの他の隔離体は、上記の第1の隔離体と同一の特徴を有することが好ましい。
【0029】
本発明の隔離体では、典型的には発酵工程が実施され、生物活性物質を生産する発酵工程であることが好ましい。この発酵工程は少なくとも1つの植菌を含むことが好ましい。したがって、本発明の隔離体は少なくとも1つの発酵槽を含有する。
【0030】
典型的には、隔離体内では、生体物質の精製に必要な手段の1以上の工程も実行されるであろう。したがって、発酵及び精製は、1つの同一隔離体内で実行しても、複数の異なる隔離体内で実行してもよく、例えば第1の隔離体で発酵させ、第2の隔離体内で精製される。
【0031】
生物活性物質の合成を扱う発酵工程は発酵槽内で起こる。したがって、嫌気的作業をする発酵槽か好気的作業をする発酵槽かについて選択的に注意することができる。発酵槽は、特定の発酵条件、当該技術分野に熟練した者の知識にしたがって構築され、装備されている。発酵槽は、バッチ発酵、セミバッチ発酵、又は連続発酵のための発酵槽であり得る。バッチ発酵用の発酵槽が好ましい。
【0032】
発酵工程は、主発酵槽に植菌するための前培養又は初期培養を含むこともできる。この目的に必要とされるさまざまな手段及び対応する手順装備は、当該技術分野に熟練した者に公知であり、いくつかある物の中で、生物活性物質産生株のワクチンストックの第1及び/又は第2の増殖を可能にする1以上の発酵槽を含む。また、それに関連する手段は、例えば、実用的な細胞バンクの設立、細胞材料の第1の増殖、細胞材料の第2の増殖、及び実際の発酵工程も含むが、実際の発酵工程は、特に生物活性化合物を合成するための細胞の増殖を意味する。これらの工程は、それぞれの産生生物によって規定された温度又は温度勾配にて実行することが好ましい。したがって、温度は、該当する場合、連続的に又は不連続的に生産条件に適合される。
【0033】
生物活性物質の精製に必要な1以上の工程又は測定は、隔離体内で実行することが可能である。したがって、隔離体はそのために必要な装備を含有する。
【0034】
生物活性物質の精製は、本発明の装置の第2の隔離体内で行うこともできる。精製のための手段のほんの一部分が第2の隔離体内で行われるため、必要な測定の残りの部分は第1の隔離体内か又は1以上の更なる隔離体内で行われる。
【0035】
生物活性物質の生産に必要であるかこれに関連する特定の測定は、特に、エアロゾル形成に関連がない場合、あるいは生物活性物質が、生産若しくは操作に従事する人又は環境に危険がないと想定される形態又は容器で利用可能である場合、隔離体の外で実行することもできる。
【0036】
生物活性物質を産生する発酵の場合、細菌発酵の問題、特にボツリヌス菌ファミリーの細菌発酵の問題であることが好ましい。これは、組換え型又は遺伝子操作されたボツリヌス菌株にも、他の組換え型又は遺伝子操作された異種発現システム(例えば大腸菌)にも当てはまる。
【0037】
設置された装備を用いて、微生物の発酵増殖によって合成される全ての生物活性化合物、特にタンパク質を原則として生産することができる。
【0038】
発酵法によって生産される生物活性化合物は、好ましくは毒素であり、より好ましくはボツリヌス毒素であり、最も好ましくはボツリヌス神経毒素である。
【0039】
ボツリヌス毒素は細菌のボツリヌス菌によって生産され、さまざまな血清型:A型、B型、C型、D型、E型、F型、G型ボツリヌス毒素が存在する。ボツリヌス菌によって生産されるボツリヌス毒素は、ボツリヌス神経毒素、即ち毒性効果に関与するタンパク質と、それ自体は非毒性の複合化タンパク質との複合体である。これらの複合化タンパク質はさまざまな分子量のヘマグルチニンと、少なくとも1つの非ヘマグルチニンタンパク質である。ボツリヌス神経毒素と、(細菌の)複合化タンパク質との複合体を一般にボツリヌス毒素という。A型、B型、及びC型の複合体はそれぞれ市販されており、例えばA型の場合ボトックス(登録商標)として市販されている。異なるタンパク質組成及びボツリヌス神経毒素自体までの純度で複合体を生産するには、これらの複合体を更に処理することが可能である。したがって、本発明の範囲内で、ボツリヌス神経毒素という用語は、毒性効果に関与するタンパク質、即ち細菌の複合化タンパク質がない超高純度ボツリヌス毒素を記載するために使用される。A型ボツリヌス毒素の分子量はおよそ150kDaであり、Xeomin(登録商標)という商品名で出願人により商業的に販売されている。
【0040】
本発明の範囲内で適格なのは、全ての型の「ボツリヌス毒素」、特に、さまざまな血清型、ボツリヌス神経毒素と複合化タンパク質とのさまざまな複合体、ボツリヌス神経毒素自体、及び修飾型、若しくは対応の変異、欠失などを含む対応の組換え型のボツリヌス毒素又はボツリヌス神経毒素である。適切な変異体に関し、WO2006/027207A1号に記載の変異体を参照する。更に、本発明の範囲内で、さまざまな血清型の混合物(複合体型又は超高純度型及び/又は組換え型で)、例えばA型及びB型のボツリヌス毒素の混合物、又はA型及びB型の神経毒素の混合物を生産することが可能である。
【0041】
A型及びB型のボツリヌス神経毒素の生産は、例えば国際特許出願WO00/74703号に記載されている。事実上免疫原性がなく、ボツリヌス神経毒素と複合化タンパク質とから作られる複合体よりも有益であるという(単離)ボツリヌス神経毒素の特徴のために、特に、本発明のように、安全で信頼できるボツリヌス神経毒素の工業生産のための装置及び方法を提供することに多大な必要性がある。
【0042】
精密に使用される隔離体の選択及び/又は数は、生産すべき生体化合物に応じて当該技術分野に熟練した者によって自由に選ばれる。本明細書に詳細に記載される精密な精製の中で、少なくとも2つの隔離体の使用が有利である。したがって、隔離体は、特に、その中で優位であるか又はその中の一部で優位な温度に関して異なっている。したがって、本発明の範囲内で、第1の隔離体はより高温で、例えば20〜50℃前後で操作し、第2の隔離体はより低温で、例えば約−5〜+25℃の範囲で操作することが好ましい。したがって、第1の隔離体内では、生産工程とともに、適当なより高い温度を必要とするか又はこの温度で実行できる精製工程が実施される。これは、特に、生産株の植菌、発酵及び/又は沈殿を包含する。逆に、生産方法の工程、特に神経毒素の精製の工程は、適当なより低い温度を必要とする第2の隔離体内で実行され、この温度範囲にて特に有益な様式で実施することができる。
【0043】
一般的な生産工程、並びに、特に、いずれの温度範囲でも実施でき、したがって2つの隔離体のいずれかで実施できる発酵及び精製工程は、最終的には1つの隔離体内で行われることが更に好ましく、その寸法、及び反応工程を実行するために適切な反応条件、特に温度を維持するための寸法の結果としてのエネルギー消費を考慮すると、あるいは個々の手段の管理容易性又は実現可能性を考慮すると有利である。
【0044】
第2の隔離体は、原則として、第1の隔離体と同様に構築されるが、第2の隔離体内で計画される精製工程の実施又はそれらの手段に必要であるため、装置に準じて設備及び装備又は技術装備機能が備えられる。したがって、第2の隔離体内で実施される好ましい精製工程は、沈殿、抽出、遠心分離、透析、及びクロマトグラフィを含む群より選択される。これによれば、第2の隔離体には、1以上の沈殿設備、抽出設備、遠心分離設備、透析設備、及び/又はクロマトグラフィ設備が含まれる。沈殿設備は、沈殿に必要な化合物を加えるための供給管を備えた、沈殿を行うための溶液を含有する反応容器を含むことが好ましい。更に、沈殿設備は、基本的に、上清及び沈殿物を取り出すための手段を含む。適切な設備は当該技術分野に熟練した者に公知である。抽出設備は典型的には抽出用溶液を含有する反応容器、抽出媒体を加える供給管とともに、抽出物を含有する液体を抽出液から分離するための機器を含む。遠心分離設備は典型的には固体−固体混合物又は液体−固体混合物を分離するための遠心分離機を含む。クロマトグラフィ設備は典型的にはクロマトグラフィ材料を充填したクロマトグラフィカラムとともに、注入口及び排出口、並びにクロマトグラフィカラムへ供給し溶出させるための適切な媒体を有する容器を含む。使用するクロマトグラフィは、例えばサイズ排除クロマトグラフィ、HPLC、又は親和性クロマトグラフィである。
【0045】
したがって、単に2つの隔離体を含む全装置が給気ダクト及び排気ダクトを含み、2つの隔離体が1以上の中間ダクトで接続されるように互いに接続されている2以上の隔離体を用いる場合も本発明の範囲内である。したがって、第1の隔離体並びに第2の隔離体及び/又は更なる隔離体がそれぞれ互いに独立して給気ダクト及び排気ダクトを含むものも本発明の範囲内である。
【0046】
第1及び第2の隔離体は、外圧と比較して低い内圧を示すことが好ましい。同時に、2つの隔離体が同一の内圧を示すことも本発明の範囲内である。しかしながら、2つの隔離体が異なる内圧を示すことも本発明の範囲内である。したがって、隔離体の内圧は、低くくすることが特に好ましく、それぞれの隔離体で実施される処理工程のためにエアロゾル形成の可能性は高い。
【0047】
2つの隔離体を用いる場合、通路の形態、例えばスルースの形態の隔離体間の接続の利用可能性は、隔離体によって構築される障壁を打ち破ることなく生成物質及び精製物質を生成及び処理の異なる工程へ移動できることを保証するため、有益である。装置のデザイン及び各隔離体のデザイン又は滅菌機器を有する本発明の装置の少なくとも1つの隔離体のデザインは、基本的に同一目的に役立つ。類似の滅菌機器は当該技術分野に熟練した者に公知であり、例えば過酸化水素蒸気を生成するための発生器を含む。したがって、加圧状態を鑑みると、過酸化水素蒸気の使用は特に有利である。
【0048】
本発明の更なる側面は、生物活性化合物を生産するための発酵工程及び生物活性化合物の精製工程を含む、生物活性化合物の発酵生産方法に関するものであり、発酵生産及び/又は精製は1以上の隔離体内で全面的に又は部分的に実行されるであろう。発酵工程及び精製の1以上の部分は第1の隔離体内で起こり、精製の1以上の部分は第2の隔離体内で起こることが好ましい。好ましい態様では、発酵工程には少なくとも植菌工程が含まれる。この工程は手作業で行うことが好ましい。更なる隔離体を用いることも本発明の範囲内である。生物活性物質は、本明細書に記載のように、ボツリヌス毒素、特にボツリヌス神経毒素に関するものであることが好ましい。また、本発明に関連して開示される特徴は、単独でも、本発明の方法の如何なる組み合わせでも発揮する。
【0049】
作業に関連した手段は、遠心分離、透析、抽出、沈殿、硫酸プロタミン沈殿、硫酸アンモニウム沈殿、通常ペレットとして生ずる沈殿物の可溶化、透析、クロマトグラフィ工程又はクロマトグラフィ方法、及びろ過である。クロマトグラフィ方法に関して、それはいくつかの個々のクロマトグラフィ方法の連続である。したがって、それぞれの場合において、同一のクロマトグラフィ方法又は異なるクロマトグラフィ方法の問題であり得る。医薬的に活性な化合物がA型ボツリヌス神経毒素である場合、適切なカラム材料を用いた3つのクロマトグラフィ工程の連続の問題である。したがって、特定溶出液を次のカラムに適用する前に透析することが可能であり、好ましい。
【0050】
実際の発酵及び細胞からの発酵培地の分離後、大きなタンパク質を除去する目的で発酵培地を第1の沈殿に付す。この沈殿は第1の隔離体内で行うことが好ましい。このようにして得た沈殿物の遠心分離は第2の隔離体内で直ちに起こることが好ましい。沈殿は酸沈殿が好ましい。そのような酸沈殿の反応条件は、当該技術分野に熟練した者に公知である。典型的には、3N HSOを用いて上清をpH3.5まで酸性化する。遠心分離は通常2400×g、4℃にて20分間行う。遠心分離によって得たペレットは水で、好ましくは繰り返し洗浄する。
【0051】
好ましく使用されるクロストリジウム株は、安定性を保証する温度で好適な培地中に保存されたA型ボツリヌス菌に関するものである。発酵には、DasGupta B.R.らによってToxicon、22(3)、414−424、1984に記載された方法を使用する。したがって、0.5%酵母エキス及び0.6%オートクレーブ酵母ペーストを2%のN−Z−アミンA型培地へ加え、4N NaOHでpH7.2に調整し、そのようにして調製した培地をその後オートクレーブする。この培地へ、別個にオートクレーブしたグルコース(20w/v%)を加え、培地中の最終グルコース濃度を0.5%にする。インキュベーションは撹拌せずに37℃にて行い、96時間後に発酵を終える。以前に記載したバッチ発酵に加えて、セミバッチ発酵、反復バッチ発酵、又は持続発酵も実施することも本発明の範囲内である。この目的に必要な測定、及び装置に関する要件は、当該技術分野に熟練した者に公知である。
【0052】
ペレットから出発する更なる工程では、毒素をペレットから放出させるために沈殿物を再度溶解させる。そのための手段は当該技術分野に熟練した者に公知であり、特にDasGupta B.R.ら(上記)によって記載されている。例えば、0.1Mクエン酸−クエン酸三ナトリウム緩衝液pH5.5によって1時間で抽出を行うことができる。その後、この抽出の後に更なる遠心分離工程を通常9800×g、4℃にて20分間行う。こうして得たペレットは、場合によりその後、先に記載のようにして再度抽出することができる。次に、抽出の上清、及び抽出を繰り返した場合は2つの上清を硫酸プロタミン沈殿に付す。沈殿は8℃で一晩継続する。その後、沈殿物を12,000×g、4℃にて20分間再度遠心分離する。硫酸プロタミン沈殿工程では特にDNAを除去する。
【0053】
遠心分離後に得た上清は、第1の隔離体又は第2の隔離体内で硫酸アンモニウム沈殿に付し、他の大きいタンパク質を除去する。硫酸アンモニウム沈殿工程後、他の遠心分離工程を行い、その後、こうして得たペレットを再溶解させ、場合により透析に付す。透析することが好ましく、ペレットから得た抽出物を、その後再度遠心分離し、ボツリヌス神経毒素を精製するため、特に均一に精製するために、連続クロマトグラフィ工程に付す。したがって、それぞれのクロマトグラフィ工程は、硫酸プロタミン、残留DNA、小タンパク質の一部、中サイズのタンパク質、及びボツリヌス神経毒素タンパク質複合体のヘマグルチニンを除去することに役立つ。この目的のために、いくつかのクロマトグラフィ工程の連続は、好ましい態様で実行されるであろう。次に溶出液をろ過する。したがって、ろ過は溶出液の病原菌の軽減に役立ち、その後、溶出液は純粋なボツリヌス神経毒素を含有し、複合化タンパク質はもはや含有しないことが好ましい。場合により、溶出液はろ過前に希釈することができ、したがって好適なアジュバントを加えることができる。
【0054】
更なる工程のあいだ、アジュバント添加後に他の滅菌ろ過を行う。したがって、ろ過は反応容器中で起こり、その後、好ましくは別の処理工程中に凍結乾燥に付す。このようにして凍結乾燥させた生成物を密封する。
【0055】
当該技術分野に熟練した者には、植菌前、並びにさまざまな処理工程、特に硫酸アンモニウム沈殿及び第1の容器中のろ過の後、この容器は汚染除去に付され、したがって滅菌されることが理解されるであろう。滅菌は、過酸化水素蒸気(VHP)で行うことが好ましい。
【0056】
先の説明及び特許請求の範囲に開示の本発明の特徴は、本発明を、さまざまな態様を単独で又は組み合わせて実施するために必須であり得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物活性化合物を発酵生産するための装置であって、発酵槽を含有する少なくとも1つの第1の隔離体によって構成され、作業チャンバーに囲まれているか又は作業チャンバーに隣接しており、作業チャンバーは圧力スルースを介して外界に接続されており、隔離体及び作業チャンバー内は低圧であり、隔離体内の圧力(周囲圧力に対して)は作業チャンバー内の圧力(周囲圧力に対して)よりも低く、圧力スルースは周囲圧力に対して余分な圧力がかかっていることを特徴とする、前記装置。
【請求項2】
隔離体内の圧力が周囲圧力より20〜200Pa低い、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
作業チャンバー内の圧力が周囲圧力より5〜50Pa低い、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
圧力スルース内の圧力が周囲圧力より10〜100Pa高い、請求項1〜3のいずれか1項に記載の装置。
【請求項5】
発酵槽を含有しないことが好ましい少なくとも1つの第2の隔離体を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の装置。
【請求項6】
装置及び/又は第1の隔離体及び/又は第2の隔離体が、少なくとも1つの給気ダクト及び排気ダクトを含み、給気ダクト及び排気ダクトは、好ましくはHEPAフィルターであるフィルターが備えられていることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の装置。
【請求項7】
第1の隔離体の内圧が第2の隔離体の内圧と等しいことを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項8】
第1の隔離体の内圧が第2の隔離体と異なることを特徴とする、請求項5又は6に記載の装置。
【請求項9】
第1及び第2の隔離体が通路を介して互いに接続されており、通路が第1の隔離体から第2の隔離体への物質輸送を可能にし、好ましくは第2の隔離体から第1の隔離体への物質輸送も可能にすることを特徴とする、請求項5〜8のいずれか1項に記載の装置。
【請求項10】
通路がスルースであることを特徴とする、請求項9に記載の装置。
【請求項11】
滅菌設備及び/又は消毒設備を含むことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の装置。
【請求項12】
第1の隔離体が嫌気的作業発酵槽を含むことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか1項に記載の装置。
【請求項13】
第1の隔離体が沈殿設備を含むことを特徴とする、請求項1〜12のいずれか1項に記載の装置。
【請求項14】
第1の隔離体がろ過設備を含むことを特徴とする、請求項1〜13のいずれか1項に記載の装置。
【請求項15】
第2の隔離体が抽出設備を含むことを特徴とする、請求項5〜14のいずれか1項に記載の装置。
【請求項16】
第2の隔離体が沈殿設備を含むことを特徴とする、請求項5〜15のいずれか1項に記載の装置。
【請求項17】
第2の隔離体が少なくとも1つのクロマトグラフィ設備を含むことを特徴とする、請求項5〜16のいずれか1項に記載の装置。
【請求項18】
生物活性化合物の発酵生産方法であって:
− 生物活性化合物を生産するための発酵工程;
− 生物活性化合物の精製工程、
を含み、請求項1〜17のいずれか1項に記載の装置内で実施される、前記方法。
【請求項19】
生物活性化合物が毒素又は発酵で得られる他のタンパク質であり、好ましくはボツリヌス毒素、より好ましくはボツリヌス神経毒素であることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ボツリヌス毒素が、ボツリヌス菌のA型、B型、C型、D型、E型、F型、及びG型に属するボツリヌス毒素であるか、又はこれらの型の2種以上の混合物であり、好ましくはA型ボツリヌス毒素であることを特徴とする、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
ボツリヌス毒素又はボツリヌス毒素の混合物がボツリヌス神経毒素又はボツリヌス神経毒素の組成物であることを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
発酵工程が第1の隔離体で起こり、精製(工程)が全体的に又は部分的に第2の隔離体で起こることを特徴とする、請求項18〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
発酵工程、及び精製の一部が第1の隔離体で起こり、精製(工程)の他の部分が第2の隔離体で起こることを特徴とする、請求項18〜22のいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
発酵工程、並びに発酵工程の産物の沈殿及びろ過が、精製(工程)の一部として第1の隔離体で起こることを特徴とする、請求項18〜23のいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
第1の隔離体及び第2の隔離体が、同一温度又は異なる温度で操作されることを特徴とする、請求項18〜24のいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
第1及び/又は第2の隔離体の温度が、各工程に応じて変化することを特徴とする、請求項18〜25のいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
第1の隔離体の温度が約20℃〜約50℃の範囲であり、第2の隔離体の温度が約−5℃〜約+25℃の範囲である特徴とする、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
好ましくは以下の順序で、以下の工程を含むことを特徴とする、請求項18〜27のいずれか1項に記載の方法:
a) 第1の隔離体では
好ましくは手作業で、発酵培地に生物活性化合物の産生菌を植菌し;
産生菌を発酵させ;
産生菌細胞から上清を分離し;そして
上清を沈殿させる;
b) 第2の隔離体では
沈殿させた上清を遠心分離してペレットを得;
ペレットを抽出し、上清を遠心分離して得;
上清を次の遠心分離で沈殿させて上清を得;
c) 第1又は第2の隔離体では
上清を沈殿させ;
沈殿物を遠心分離し;
沈殿物の遠心分離によって得たペレットを溶解させ;
溶解させたペレットを透析して透析液を遠心分離し;
透析液のクロマトグラフィを実施し;
得られた溶出液をろ過する。

【公表番号】特表2009−538596(P2009−538596A)
【公表日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−516171(P2008−516171)
【出願日】平成18年6月2日(2006.6.2)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005272
【国際公開番号】WO2006/133818
【国際公開日】平成18年12月21日(2006.12.21)
【出願人】(507409737)メルツ・ファルマ・ゲーエムベーハー・ウント・コー・カーゲーアーアー (5)
【Fターム(参考)】