説明

生物由来の生理活性物質の測定方法及び測定装置

【課題】エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの生物由来の生理活性物質とLALとの反応を利用して前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定する際に、より高い測定精度を得ることが可能な測定方法及び、それを用いた測定装置を提供する。
【解決手段】生物由来の生理活性物質とLALとのリムルス反応の開始時刻を判定して、この反応開始時刻から前記生物由来の生理活性物質の濃度を求める場合に、リムルス反応の状態と関係なく発生する漸次減少/上昇の影響を除外するために、測定試料とLALとの混和液からの透過光あるいは散乱光の強度を検出し、透過率あるいはゲル粒子数についての一定時間あたりの変化量(差分)を取得し、この変化量(差分)が閾値を超える時刻をもって反応開始時刻とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンドトキシンやβ−D−グルカンなど、LALとの反応によってゲル化する特性を有する生物由来の生理活性物質を含有する試料中の該生理活性物質を検出しまたはその濃度を測定するための測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンドトキシンはグラム陰性菌の細胞壁に存在するリポ多糖であり、最も代表的な発熱性物質である。このエンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入ると、発熱やショックなどの重篤な副作用を惹起するおそれがある。このため、上記の薬剤などは、エンドトキシンにより汚染されることが無いように管理することが義務付けられている。
【0003】
ところで、カブトガニの血球抽出物(以下、「LAL : Limulus amoebocyte lysate」ともいう。)の中には、エンドトキシンによって活性化されるセリンプロテアーゼが存在する。そして、LALとエンドトキシンとが反応する際には、エンドトキシンの量に応じて活性化されたセリンプロテアーゼによる酵素カスケードによって、LAL中に存在するコアギュロゲンがコアギュリンへと水解されて会合し、不溶性のゲルが生成される。このLALの特性を用いて、エンドトキシンを高感度に検出することが可能である。
【0004】
また、β−D−グルカンは真菌に特徴的な細胞膜を構成しているポリサッカライド(多糖体)である。β−D−グルカンを測定することによりカンジダやスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングなどに有効である。
【0005】
β−D−グルカンの測定においても、カブトガニの血球抽出成分がβ−D−グルカンによって凝固(ゲル凝固)する特性を利用して、β−D−グルカンを高感度に検出することが可能である。
【0006】
このエンドトキシンやβ−D−グルカンなどの、カブトガニの血球抽出成分によって検出可能な生物由来の生理活性物質(以下、所定生理活性物質ともいう)の検出または濃度測定を行う方法としては、所定生理活性物質の検出または濃度測定(以下、単純に「所定生理活性物質の測定」ともいう。)をすべき試料とLALとを混和した混和液を静置し、LALと所定生理活性物質との反応によるゲルの生成に伴う試料の濁りを経時的に計測して解析する比濁法がある。
【0007】
上記の比濁法によって所定生理活性物質の測定を行う場合には、乾熱滅菌処理されたガラス製測定セルに測定試料とLALとの混和液を生成させる。そして、混和液のゲル化を外部から光学的に測定する。しかしながら、比濁法においては特に所定生理活性物質の濃度が低い試料においてLALがゲル化するまでに非常に多くの時間を要する場合があるので、所定生理活性物質の短時間での測定が可能な方法が求められている。
【0008】
これに対し、測定試料とLALとの混和液を例えば磁性攪拌子を用いて攪拌することにより、ゲル微粒子を生成せしめ、ゲル粒子により散乱されるレーザー光の強度、あるいは、混和液を透過する光の強度から、試料中の所定生理活性物質の存在を短時間で測定できるレーザー光散乱粒子計測法(以下、単に光散乱法ともいう。)、あるいは、比濁法の一形態ではあるものの測定試料を攪拌して混和液におけるゲル化の状態を均一化し反応を促進する攪拌比濁法が提案されている。比濁法及び攪拌比濁法では光透過率を検出しており
、光散乱法では生成された粒子を検出している点が異なるが、いずれも混和液からの透過光の強度あるいは、散乱光における強度またはピーク数から求められる粒子数が閾値を超えるまでの時間を計測する閾値法を判定の基礎にしている。
【0009】
ここで、上記の測定法において、比濁法及び攪拌比濁法では測定開始直後から、所定生理活性物質とLALとの反応(以下、リムルス反応ともいう)の状態とは関係なく透過光強度が減少し、光散乱法では散乱光強度またはピーク数が上昇する現象が観察されている(以下、この現象を漸次減少/上昇ともいう。)。この漸次減少/上昇は、上記の測定法において透過光の強度あるいは、散乱光の強度やピーク数から求められる粒子数が閾値を超えるまでの時間に影響を及ぼすので、上記の測定法の測定精度を低下させるおそれがある。上記の測定法においては所定生理活性物質の濃度が低くなるほど透過光の強度あるいは、散乱光の強度やピーク数から求められる粒子数が閾値を超えるまでの測定時間は長くなるため、所定生理活性物質の濃度が低いほど漸次減少/上昇の影響を受けやすく、ゲル化あるいは凝集が始まったとされる反応開始時刻が正しく評価できない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−061314号公報
【特許文献2】特開平10−293129号公報
【特許文献3】国際公開第WO2008/038329号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上述の問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、生物由来の生理活性物質の検出または濃度測定において、より測定精度を向上させることが可能な測定方法及び、それを用いた測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明においては、上述の所定生理活性物質の測定における漸次減少/上昇の影響を除外するために、測定試料とLALとの混和液からの透過光あるいは散乱光の強度やピーク数より、透過率あるいはゲル粒子数についての一定時間あたりの変化量(差分)を取得し、この変化量(差分)が閾値を超える時刻をもって反応開始時刻とすることを最大の特徴とする。
【0013】
より詳しくは、試料中に存在する生物由来の生理活性物質とカブトガニの血球抽出物であるLALとを反応させることで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記試料とLALとの混和後において、前記試料とLALとの混和液中に光を入射するとともに該入射した光のうちの前記混和液を透過した光または前記混和液により散乱した光の強度を取得し、
前記取得された光の強度より得られた、所定の時間間隔で設定された取得時刻における所定の物理量を検出値とし、
一の取得時刻における検出値と、より前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が閾値を超えた時刻をもって反応開始時刻とし、
前記反応開始時刻に基づいて前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする。
【0014】
ここで、上述の漸次減少/上昇が生じた場合には、透過光の強度あるいは、散乱光の強度やピーク数は、所定生理活性物質の濃度と関係なく、時間とともに概略直線状に変化することが分かってきた。これに対し本発明では、前記混和液からの透過光または散乱光の
強度を取得する。そして、所定の時間間隔で設定された取得時刻において取得された光の強度または、取得された光の強度を目的に応じて前記取得時刻において加工した値を検出値とし、一の取得時刻における検出値と、より前の取得時刻における検出値との差分(すなわち、検出値の一定時間における変化量)または差分の絶対値が閾値を超えた時刻をもって反応開始時刻とする。これにより、所定生理活性物質の測定に対する漸次減少/上昇の影響をキャンセルすることが可能となる。
【0015】
従って本発明によれば、より精度よく、試料中の所定生理活性物質とLALとの反応開始時刻を判定できる。その結果、より精度よく、所定生理活性物質の検出または濃度の測定を行うことができる。
【0016】
また、本発明においては、前記取得された光の強度は、前記混和液を透過した光の強度であり、
前記検出値は百分率で表した前記混和液の透過率であり、
前記所定の時間間隔を約2分とし、
前記一の取得時刻における前記透過率と、前回の取得時刻における前記透過率との差の絶対値が1を超えた時刻をもって反応開始時刻とするようにしてもよい。
【0017】
この場合は、所定生理活性物質とLALとの混和液に入射した光のうち、混和液の透過光を取得して透過率を取得する比濁法に関する。比濁法においては前述のように、所定生理活性物質とLALとの反応により混和液が濁り、混和液の透過率は時間とともに低下する。ここで、比濁法における透過率の低下曲線の形状は、所定生理活性物質の濃度によって異なる。例えば、所定生理活性物質の濃度が高い場合には透過率は急峻に低下する。一方、所定生理活性物質の濃度が低い場合には透過率は緩やかに低下する。
【0018】
所定生理活性物質の濃度が高く透過率が急峻に低下する場合に、検出値の取得間隔を長く設定してしまうと、各検出値の1回の低下幅が大き過ぎて充分なデータ数も確保できないため、高精度の測定が困難になる。一方、所定生理活性物質の濃度が低く透過率が緩やかに低下する場合に、検出値の取得間隔を短く設定し過ぎると各検出値の1回の低下幅が小さ過ぎ、差分を充分な精度をもって検出できない。このように、本発明においては、測定対象となる試料における所定生理活性物質の濃度に応じて、検出値取得の時間間隔を調整することが望ましい。
【0019】
これに対し、発明者らの鋭意研究により、透過率を百分率で表した場合には、検出値(透過率)の取得間隔を2分程度とした場合に、本発明においてより広い所定生理活性物質の濃度範囲で高精度に透過率の低下曲線を得ることが可能であることが分かってきた。そして、その場合、2分間における透過率の減少量が1%を超えた時刻をもって反応開始時刻とすることで、所定生理活性物質の濃度を高精度に測定可能であることが分かってきた。
【0020】
従って本発明においては、所定生理活性物質とLALとの混和液からの透過光を取得して透過率を演算し、所定の時間間隔における透過率の差(変化量)を取得する場合に、所定の時間間隔は2分程度とし、2分間における透過率の減少量が1%を超えた時刻をもって反応開始時刻とすることとした。これにより、より広範な試料に対してより精度よく所定生理活性物質の検出または濃度の測定を行うことができる。
【0021】
また、本発明においては、前記取得された光の強度は、前記混和液により散乱した光の強度であり、
前記検出値は前記散乱した光の強度における所定のピーク数に基づいて導出された前記混和液に入射した光を散乱させる粒子数であり、
前記所定の時間間隔を約100秒とし、
前記一の取得時刻における前記粒子数と、前回の取得時刻における前記粒子数との差が200を超えた時刻をもって反応開始時刻とするようにしてもよい。
【0022】
この場合は、所定生理活性物質とLALとの混和液に入射した光のうち、混和液からの散乱光を取得して散乱光における(測定精度向上のための所定条件を満たす)ピーク数から混和液中の(ゲル)粒子数を取得する光散乱法に関する。前述のように光散乱法においては、所定生理活性物質とLALとの反応時に混和液を攪拌することで混和液中にゲル粒子が発生し、反応の進行とともにゲル粒子の大きさ及び数が増加していく。従って、反応の進行とともに混和液からの散乱光において観察されるピーク数は増加する。
【0023】
また、光散乱法における散乱光のピーク数の増加曲線の形状は、所定生理活性物質の濃度によって異なる。例えば、所定生理活性物質の濃度が高い場合にはピーク数は急峻に増加するのに対し、所定生理活性物質の濃度が低い場合には、ピーク数は緩やかに増加する。従って、比濁法の場合と同様、光散乱法に関しても、測定対象となる試料における所定生理活性物質の濃度に応じて、検出値取得の時間間隔を調整することが望ましい。
【0024】
これに対し、発明者らの鋭意研究により、光散乱法においては、検出値(散乱粒子数)の取得間隔を約100秒程度とした場合に、より広い所定生理活性物質の濃度範囲においてより高精度にピーク数の増加曲線を得ることが可能であることが分かってきた。そして、その場合、100秒間における散乱粒子数の増加量が200を超えた時刻をもって反応開始時刻とすることで、所定生理活性物質の濃度を高精度に測定可能であることが分かってきた。
【0025】
従って本発明においては、所定生理活性物質とLALとの混和液からの散乱光を取得して散乱粒子数を検出し、所定の時間間隔における散乱粒子数の差(変化量)を取得する場合に、所定の時間間隔は100秒程度とし、100秒間における散乱粒子数の増加量が200を超えた時刻をもって反応開始時刻とすることとした。これにより、より広範な試料に対してより精度よく所定生理活性物質の検出または濃度の測定を行うことができる。
【0026】
また、本発明においては、前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであってもよい。
【0027】
そうすれば、最も代表的な発熱性物質であるエンドトキシンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、エンドトキシンに汚染された輸液、注射薬剤、血液などが人体に入り、副作用が惹起されることを抑制できる。同様に、β−D−グルカンの検出または濃度測定がより正確に行なえ、カンジダやスペルギルス、クリプトコッカスのような一般の臨床でよく見られる真菌のみならず、稀な真菌も含む広範囲で真菌感染症のスクリーニングをより正確に行なうことが可能となる。
【0028】
また、本発明は、所定の生物由来の生理活性物質を含む試料とカブトガニの血球抽出物であるLALとの混和液を光の入射可能に保持するとともに該混和液における反応を進行させる混和液保持手段と、
前記混和液保持手段中の前記混和液を攪拌する攪拌手段と、
前記混和液保持手段中の混和液に光を入射する光入射手段と、
前記入射光の前記混和液における透過光または散乱光を受光し電気信号に変換する受光手段と、
前記受光手段において変換された電気信号から前記試料中における前記生理活性物質とLALとの反応開始時刻を判定する判定手段と、
予め定められた、前記反応開始時刻と前記生理活性物質の濃度との関係より、前記試料
中の前記生理活性物質の存在または濃度を導出する導出手段と、を備え、
前記判定手段は、所定の時間間隔で設定された取得時刻における、前記電気信号に所定の演算を加えた信号または前記電気信号を検出信号値とし、一の取得時刻における検出信号値と、より前の取得時刻における検出信号値との差または差の絶対値が閾値を超えた時刻をもって反応開始時刻を判定することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置であってもよい。
【0029】
本発明における所定生理活性物質の測定装置によれば、所定生理活性物質とLALとの混和液からの透過光または散乱光を受光手段で受光し電気信号に変換する。そして、変換された電気信号から混和液における反応開始時刻を判定手段において判定する。判定手段は、得られた電気信号に基づいて所定の時間間隔で検出信号値を取得し、所定の時間間隔における検出信号値の変化量が閾値を超えた時刻をもって反応開始時刻を判定する。
【0030】
本発明の測定装置によれば、所定生理活性物質の測定に対する漸次減少/上昇の影響を自動的にキャンセルすることができる。従って、所定生理活性物質の検出または濃度測定をより高精度に行うことが可能となる。
【0031】
また、その際、検出信号値を百分率で表した混和液の透過率とした場合には、所定の時間間隔は約2分とし、閾値を1とするとよい。また、検出信号値を混和液に入射した光を散乱させる粒子数とした場合には、所定の時間間隔は約100秒とし、閾値を200とするとよい。そうすることにより、より広範な所定生理活性物質の濃度を対象としてより高い測定精度を得ることが可能となる。
【0032】
また、本発明に係る所定生理活性物質の測定装置においては、所定の時間間隔および/または閾値を可変としてもよい。そうすれば、予想される所定生理活性物質の濃度に応じて検出信号値の取得時間間隔や、反応開始時刻の判定のための閾値を最適化することができ、予想される濃度に対してより高い測定精度を得ることが可能となる。さらに、本発明においては、前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであってもよい。
【0033】
なお、上記した本発明の課題を解決する手段については、可能なかぎり組み合わせて用いることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明にあっては、エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの生物由来の生理活性物質とLALとの反応を利用して、前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定する際に、より高い測定精度を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施例1における比濁計測装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の実施例1における漸次減少について説明するための、光透過率の時間的変化を示すグラフである。
【図3】従来の閾値法により得られたエンドトキシン濃度とエンドトキシン検出時間との関係を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例1における、差分法により得られたエンドトキシン濃度とエンドトキシン検出時間との関係を示すグラフである。
【図5】本発明の実施例2における、光散乱粒子計測装置の概略構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例2における漸次上昇について説明するための、検出粒子数の時間的変化を示すグラフである。
【図7】本発明の実施例2における、閾値法及び差分法により得られたエンドトキシン濃度とエンドトキシン検出時間との関係を示すグラフである。
【図8】エンドトキシンまたはβ―D−グルカンにより、LALがゲル化する過程及び、その検出方法について説明するための概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
LALとエンドトキシンとが反応してゲルが生成される過程はよく調べられている。すなわち、図8に示すように、エンドトキシンがLAL中のセリンプロテアーゼであるC因子に結合すると、C因子は活性化して活性型C因子となる、活性型C因子はLAL中の別のセリンプロテアーゼであるB因子を水解して活性化させ活性化B因子とする。この活性化B因子は直ちにLAL中の凝固酵素の前駆体を水解して凝固酵素とし、さらに、この凝固酵素がLAL中のコアギュロゲンを水解してコアギュリンを生成する。そして、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成し、LAL全体がこれに巻き込まれてゲル化すると考えられている。
【0037】
また、同様にβ−D−グルカンがLAL中のG因子に結合すると、G因子は活性化して活性型G因子となる、活性型G因子はLAL中の凝固酵素の前駆体を水解して凝固酵素とする。その結果、エンドトキシンとLALとの反応と同様、コアギュリンが生成され、生成したコアギュリンが互いに会合して不溶性のゲルをさらに生成する。
【0038】
この一連の反応は哺乳動物に見られるクリスマス因子やトロンビンなどのセリンプロテアーゼを介したフィブリンゲルの生成過程に類似している。このような酵素カスケード反応はごく少量の活性化因子であっても、その後のカスケードを連鎖して活性化していくために非常に強い増幅作用を有する。従って、LALを用いた所定生理活性物質の測定法によれば、サブピコグラム/mLオーダーのきわめて微量の所定生理活性物質を検出することが可能になっている。
【0039】
エンドトキシンやβ−D−グルカンなどの所定生理活性物質を定量することが可能な測定法としては前述のように比濁法、攪拌比濁法ならびに、光散乱法が挙げられる。図8に示すように、これらの測定法はこのLALの酵素カスケード反応によって生成されるコアギュリンの会合物を前者は試料の濁りとして、後者は系内に生成されるゲルの微粒子として検出することで、高感度な測定を可能にしている。
【0040】
比濁法は、特別な試薬が不要である点と、測定可能な所定生理活性物質の濃度範囲が広い点などにおいて、現場での使い勝手のよさがあるという評価がある。しかしながら一方で、比濁法は、低濃度の所定生理活性物質を測定する場合には非常に長い時間を要する問題があった。これは、比濁法がプロテアーゼカスケードの最終産物であるコアギュリンそのものの生成量を見ているのではなく、それがさらに会合して形成されたゲルによって光の透過率が減少していく過程を見ているためである。
【0041】
すなわち、コアギュリンの濃度がある程度以上の濃度に達しないとゲル化は生じないため、比濁法において所定生理活性物質が検出されるにはゲルが生じるまで待つ必要がある。そのため、所定生理活性物質濃度が高い場合には速やかに必要充分濃度のコアギュリンが生成してゲル化が始まるため測定時間は短くなるが、所定生理活性物質濃度が低いとゲル化に必要なコアギュリン濃度に達するのに時間がかかり測定時間が長くなってしまう。その点、攪拌比濁法においては所定生理活性物質とLALとの混和液を攪拌することで両者の反応を促進し測定時間の短縮が図られている。
【0042】
また、光散乱法は試料を攪拌する点とレーザーによりゲル化ではなく粒子を検出する点が比濁法からの改良点であり、比濁法に比べると測定時間を大幅に短縮することができる
。比濁法及び攪拌比濁法と、光散乱法とでは、見ている物理量は異なるものの、ある一定の閾値を越えた時点を反応の開始点として捉えるという点では共通である(以下、この方法を便宜的に閾値法と呼ぶ)。
【0043】
ここで、上記のいずれの測定法においても、測定開始直後からリムルス反応の状態とは関係なく、比濁法と攪拌比濁法では混和液の光透過率が減少し、光散乱法では混和液におけるゲル粒子数が増加する漸次減少/上昇の現象が観察された。この原因については明確にはなっていないが、例えば、混和液に炭酸ガスなどが溶け込み、混和液のpHが変化することにより蛋白質が変性することなどが原因の一つとして考えられる。
【0044】
また、攪拌比濁法及び光散乱法では、混和液は測定容器中に内蔵している攪拌子によって攪拌されており、この攪拌によってリムルス反応の状態を均一にしたり、反応を促進したりしている。この攪拌の際に、攪拌の回転軸が不適切であったり測定容器の底面形状が不適切である場合に、漸次減少/上昇が発生し易くなる傾向も認められており、原因については鋭意究明中である。
【0045】
測定試料中の所定生理活性物質の濃度が高い場合には、漸次減少/上昇の影響を受ける前に混和液のゲル化が進み、凝集判定が完了するため、漸次減少/上昇の影響で測定精度が低下する危険性は比較的少ない。しかしながら、測定試料中の所定生理活性物質の濃度が低い場合には、濃度測定に長時間を要するため、漸次減少/上昇の影響で光透過率やゲル粒子数の変化曲線が閾値を実際より早期に超えてしまい、反応開始時刻の判定の精度が低下するおそれがある。
【0046】
本実施の形態においては、所定生理活性物質の検出または濃度測定において、漸次減少/上昇の現象が発生することに備え、試料とLALとの混和液における光透過率やゲル粒子数そのものが閾値を超えることに基づいて反応開始時刻を判定する手法は採用しないこととした。新たに、一定の時間間隔で光透過率やゲル粒子数を取得し、その時間間隔における光透過率やゲル粒子数の変化量が閾値を超えた時刻を反応開始時刻と判定する手法を採用した。この閾値は当然、濁りやゲル粒子数そのものを閾値と比較する場合のものとは異なる。このことにより、漸次減少/上昇が発生しても、その影響を除去することができ、所定生理活性物質とLALとの反応開始時刻の判定をより高精度に行うことができる。(以下、この方法を便宜的に差分法と呼ぶ)
【0047】
また、これにより、混和液の濁りやゲル粒子数の変化量が急激に変化した時刻を見極めることができる。従って、高濃度の試料はもちろん、低濃度の試料に対する測定精度を向上させることが可能である。また、これによれば、所定生理活性物質の測定時に得られたデータの解析過程のみを変更することで、漸次減少/上昇の影響を除去することができる。
【0048】
以下に本発明の実施形態の詳細を示す。しかしながら本発明は以下に示す形態に限定されるものではない。なお、以下の実施形態においては所定生理活性物質がエンドトキシンである場合について説明するが、所定生理活性物質がβ−D−グルカンである場合についても同様の形態を考えることができる。
【0049】
ここで、上述した各測定法によってエンドトキシンの測定を行う場合の検出対象は各々異なっている。比濁法及び攪拌比濁法においてはLAL試薬にエンドトキシンが作用して、混和液がゲル化あるいは凝集する際の混和液の濁りを検出する。従って、混和液の透過光を取得し、混和液における光透過率が予め設定された閾値を下回った時刻をもってエンドトキシンとLALとの反応開始時刻と判定している。
【0050】
比濁法及び攪拌比濁法において、リムルス反応の状態と関係なく混和液の光透過率が減少する傾向が認められた場合は、まず検出値のノイズを除去するため2分間の移動平均をとる。次に、測定開始直後はデータが不安定であるため、測定開始2分後における光透過率を100%とする。そして、もともと10秒毎に取得された光透過率(%)の予め定められた時間間隔ΔTにおける差分をとり、その二乗値が3回連続1を超えたときの最初の時刻を反応開始時刻として採用する。差分の時間間隔ΔTは1分〜5分が好ましく、特に約2分が好ましい。低濃度の試料の場合は光透過率の変化量が小さいため、時間間隔ΔTを5分とすることが好ましい。ここで、光透過率(%)の時間間隔ΔTにおける差分を二乗するのは、差分の値が1前後となる場合における変化を増大させ分解能を向上させるためである。よって、必ずしも差分を二乗する必要はない。
【0051】
一方、光散乱法では比濁法及び攪拌比濁法と同様に混和液がゲル化あるいは凝集する過程を観察するが、混和液における凝集塊(ゲル粒子)によって散乱された光を取得する点が異なる。すなわち、当初透明でゲル粒子を含んでいない試料中にリムルス試薬を混和することで凝集が発生してゲル粒子の数が増加する。このゲル粒子の数が増加すると散乱光におけるピークの発生頻度が高まるので、この散乱光のピーク数をゲル粒子数として取得する。そして、一定時間に検出されたゲル粒子数の積算値に閾値を設け、検出粒子数がその閾値を超えた時刻をもって反応開始時間としている。
【0052】
光散乱法において検出されるゲル粒子数がリムルス反応の状態と関係なく増加する傾向が認められた場合、ある時間間隔ΔTの検出値(ゲル粒子数)の差分、すなわち粒子増加数を取得する。リムルス反応の反応開始時刻の判定については、ノイズの影響を考慮してゲル粒子数の差分が10回連続閾値200を超えた最初の時刻を反応開始時刻として採用する。差分の時間間隔ΔTはエンドトキシン濃度の高い試料にも対応できるように、30秒〜200秒が好ましく、特に約100秒とすることが好ましい。
【0053】
上記の測定において、検出値の取得に対する時間間隔ΔTの値はエンドトキシン濃度が低い場合には比較的大きく、エンドトキシン濃度が高い場合には比較的小さく設定する必要がある。なぜなら、エンドトキシン濃度が低濃度であるほど、試料とLAL試薬とを混和させた後の濁りやゲル粒子数の変化量が少ないため、時間間隔ΔT前後の検出値において充分大きな差分を確保するのに充分な時間間隔が必要となるからである。
【0054】
一方、エンドトキシン濃度が高い場合には、エンドトキシンとLALとのリムルス反応が比較的迅速に進行するため、設定した時間間隔ΔTの間に凝集が開始してしまっていることが考えられるからである。よって、混和液の濁りあるいはゲル粒子数の検出値の変化を逐次検出し、エンドトキシン濃度が低濃度か高濃度かを早期に概算して、その概算値を元に場合分けをして時間間隔ΔTを変更することで、エンドトキシンの濃度をより精度良く測定することが可能である。従って、必要に応じて上記のような概算法を取り入れても良い。
【0055】
〔製造例1〕
ガラス製の容器(外径φ7mm、長さ50mm。以下、キュベットと略す。)にステンレス製の攪拌子(φ1mm、長さ5mm)を入れた。キュベットの開口部にアルミホイルで蓋をし、それを20本まとめてアルミホイルでさらに覆い、250℃の温度で3時間に亘り加熱処理し、キュベットを乾熱処理した。これにより、キュベットに付着したエンドトキシンは熱分解を受け不活性化される。
【0056】
〔実施例1〕
図1には、本実施例のエンドトキシンの測定装置としての比濁計測装置1の概略構成を示す。本実施例の比濁計測装置1では、攪拌比濁法によってエンドトキシンの測定を行う
。本実施例においては、調製した希釈系列のエンドトキシンを含んだ試料を製造例1で製作した混和液保持手段としてのキュベット2に移注する。キュベット2の周囲を囲うように保温器5が設けられている。この保温器5の内部には図示しない電熱線が備えられており、この電熱線に通電されることにより、キュベット2を約37℃に保温するようになっている。このキュベット2の中にはステンレス製の攪拌子3が備えられている。この攪拌子3は、キュベット2の下部に設置された攪拌器4の作用によってキュベット2の中で回転する。すなわち、攪拌器4はモータ4aとモータ4aの出力軸に設けられた永久磁石4bとからなっている。そして、モータ4aに通電されることで永久磁石4bが回転する。この永久磁石4bからの磁界が回転するために、ステンレス製の攪拌子3が回転磁界の作用で回転する。この攪拌子3と攪拌器4とは攪拌手段に相当する。本実施例では攪拌子3の回転速度は1000rpmとした。
【0057】
なお、比濁計測装置1には光入射手段としての光源6と受光手段としての受光素子9が設置されている。光源6から出射した光はアパーチャ7を通過した後、保温器5に設けられた入射孔5aを通過してキュベット2中の試料に入射される。キュベット2中の試料を透過した光は保温器5に設けられた出射孔5bから出射され、アパーチャ8を通過して受光素子9に照射される。受光素子9では、受光した光の強度に応じた光電信号を出力する。この光電信号の出力は、判定手段及び導出手段としての演算装置10入力される。演算装置10においては、予め格納されたプログラム(アルゴリズム)に従い、反応開始時刻の判定及び、エンドトキシン濃度の導出が行われる。なお、この他に導出されたエンドトキシン濃度を表示する表示装置を含めて比濁計測装置1としてもよい。
【0058】
図2には、本実施例において観察された漸次減少について示す。この漸次減少は、図に示すAの部分に顕著に現れる現象である。これは、混和液におけるエンドトキシンとLALの反応状態と関係なく、測定開始直後から光透過率のベースラインが減少していく現象である。そして、エンドトキシンとLALとの反応が進行すると、その後変曲点を経てさらに傾きの大きい変化へと続いていく様子が確認された。
【0059】
従来の攪拌比濁法においては、光透過率が95%を下回る時刻をもって反応開始時刻としていた。しかしながら、漸次減少が発生した場合にはこのベースラインの低下の影響から、光透過率が閾値95%を下回る時刻が異常に早くなる場合がある。あるいは、光透過率の減少曲線が変曲点に到達する以前に光透過率の値が閾95%を下回る場合がある。このように、漸次減少によって、反応開始時刻の判定の精度が低下するおそれがある。
【0060】
従来の閾値法を用いて、エンドトキシン濃度を横軸に、従来法の閾値95%を下回った時間を縦軸にとりプロットした結果を図3に示す。このグラフは両対数をとると直線に乗ることは知られている。図3に示す結果における相関係数を見てみると、その絶対値が0.975であった。日本薬局法によれば「相関係数の絶対値が0.980以上でなければならない」という条件が課されているが、図3に示す結果はこの条件を満たしていない。
【0061】
図4には、本実施例に係る差分法を用いた場合の結果を示す。この場合の時間間隔ΔTは2分、反応開始時刻の判定のための閾値は光透過率(%)の変化量の絶対値が1%を超えたときとした。図より分かるように、差分法を適用することにより、エンドトキシン濃度とエンドトキシン検出時間との関係における相関係数の絶対値は0.987となった。すなわち、差分法の適用によってより強い相関がある結果が得られ、直線性が向上し、上記の日本薬局法における条件を満足することができた。このように、本実施例においては、比濁計測装置1の演算装置10におけるプログラム(アルゴリズム)を変更するだけで、漸次減少の影響を除去することができ、比濁計測装置1の測定精度を向上させることができる。
【0062】
なお、本実施例においては、光透過率の値が検出値及び検出信号値に相当する。また、本実施例に係る比濁計測装置1では、時間間隔ΔT及び閾値は装置において調整可能にするとよい。これにより、より容易に、上述した概算法を実行することが可能となる。
【0063】
〔実施例2〕
次に、実施例2として、光散乱法を用いた測定について説明する。図5には、本実施の形態におけるエンドトキシンの測定装置としての光散乱粒子計測装置11の概略構成を示す。光散乱粒子計測装置11に使用される光源12にはレーザー光源が用いられているが、他に、超高輝度LEDなどを用いてもよい。光源12から照射された光は、入射光学系13で絞られ、試料セル14に入射する。この試料セル14にはエンドトキシンの測定をすべき試料とLAL試薬の混和液が保持されている。試料セル14に入射した光は、混和液中の粒子(コアギュロゲンモノマー、ならびに、コアギュロゲンオリゴマーなどの測定対象)で散乱される。
【0064】
試料セル14の、入射光軸の側方には出射光学系15が配置されている。また、出射光学系15の光軸の延長上には、試料セル14内の混和液中の粒子で散乱され出射光学系15で絞られた散乱光を受光し電気信号に変換する受光素子16が配置されている。受光素子16には、受光素子16で光電変換された電気信号を増幅する増幅回路17、増幅回路17によって増幅された電気信号からノイズを除去するためのフィルタ18、ノイズが除去された後の電気信号のピーク数からゲル粒子数を演算し、さらに反応開始時刻を判定してエンドトキシンの濃度を導出する演算装置19及び、結果を表示する表示器20が電気的に接続されている。
【0065】
また、試料セル14には、外部から電磁力を及ぼすことで回転し、試料としての混和液を攪拌する攪拌子21が備えられており、試料セル14の外部には、攪拌器12が備えられている。これらにより、攪拌の有無及び攪拌速度の調整が可能となっている。
【0066】
ここで、試料セル14は製造例1で製造されたキュベットであり本実施例の混和液保持手段に相当する。光源12及び入射光学系13は光入射手段に相当する。攪拌子21及び攪拌器22は攪拌手段に相当する。出射光学系15及び受光素子16は受光手段に相当する。演算装置19は判定手段及び導出手段に相当する。
【0067】
図6には、光散乱法を用いた場合の、検出粒子数の時間的変化の例について示す。この例では、攪拌比濁装置と同様の試料の攪拌状態で、37℃に保温してエンドトキシンの測定を行った。測定装置としては具体的には興和製PA−200を用いた。図6のBから分かるように、光散乱法においても、検出(ゲル)粒子数がエンドトキシンとLALとの反応の状態に関係なく増加する現象が確認された。この反応によって、本来検出すべきである「急激な粒子数増加」の前に閾値(検出粒子数200)を超えてしまい、正確な判定が困難となった。
【0068】
次に光散乱法に対して差分法を適用した本実施例における測定プロセスについて説明する。演算装置19においては、まず、ノイズが除去された後の電気信号から1秒毎に1秒間のピークのヒストグラムデータが作成される。そして、このヒストグラムデータより1秒間に検出された総粒子数が算出される。さらに、粒子数のばらつきを平滑化するために、1秒毎に算出される総粒子数を10秒間移動加算する。移動加算して得られた10秒間の移動加算値を時間間隔ΔT(=100秒)だけ前に得られた同値と比較し、その差分(増加量)が10回(10秒間)連続して閾値200を超えた場合の最初のヒストグラムデータ取得時刻をもって反応開始時刻と判定する。
【0069】
図7には、光散乱法に対して閾値法と差分法を適用し、エンドトキシン濃度を横軸に、
反応開始時刻を縦軸にとりプロットした結果を示す。単純に粒子数を検出対象としたものは相関係数の絶対値が0.943と線形性が大きく崩れたのに対し、時間間隔ΔTを100秒とし、100秒間の粒子増加量が閾値200を超えた場合を反応開始時刻としたものは相関係数の絶対値が0.999と強い相関を得た。以上より、100秒間における粒子増加量を検出対象としたアルゴリズムは、従来の粒子数を検出対象としたものと比較して、より安定したアルゴリズムであると考えられる。このように、本実施例においては、光散乱粒子計測装置11の演算装置19におけるプログラム(アルゴリズム)を変更するだけで、漸次上昇の影響を除去することができ、光散乱粒子計測装置11の測定精度を向上させることができる。
【0070】
なお、本実施例においては、検出粒子数(ゲル粒子数)の値が検出値及び検出信号値に相当する。また、本実施例に係る光散乱粒子計測装置11では、時間間隔ΔT及び閾値は装置において調整可能にするとよい。これにより、より容易に、上述した概算法を実行することが可能となる。
【0071】
また、本実施例では上述したように、演算装置19において、ヒストグラムデータより1秒間に検出された総粒子数が算出され、この総粒子数を10秒間移動加算し、10秒間の移動加算値を時間間隔ΔTだけ前に得られた同値と比較し、その差分(増加量)が10回(10秒間)連続して閾値を超えた場合の最初のデータ取得時刻をもって反応開始時刻と判定した。しかしながら、この測定プロセスは一例に過ぎず、ヒストグラムデータの検出時間、移動加算の有無あるいは移動加算時間、反応開始時刻を判定する際の、差分(増加量)が閾値を越える回数などは、本実施例の値に限定されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0072】
〔実施例3〕
従来の比濁法のための装置である、トキシノメーター(和光純薬株式会社)を使ってエンドトキシンの測定を行った。試料の攪拌を行わないトキシノメーター(比濁法)においても、光透過率の時間的変化において原因不明のベースラインの漸次減少が確認された。従って、95%を超えた時点を反応開始時刻とする閾値法を用いているトキシノメーターも、測定結果は漸次減少の影響を受ける。そこで測定精度を向上させるため、同様に差分法を用いて再解析を行った。その結果、回帰直線の直線性が増し、差分法により検出誤差によるエンドトキシン測定への影響が抑えられ、改善が見られた。
【0073】
なお、上記の各実施例において差分が閾値を超えるというのは、必ずしも差分が閾値より小さい状態から大きい状態に変化することを意味しない。例えば減少傾向にある差分が閾値より大きい状態から小さい状態に変化することも含んでいることは当然である。
【符号の説明】
【0074】
1・・・比濁計測装置
2・・・ガラス製容器
3・・・攪拌子
4・・・攪拌器
4a・・・モータ
4b・・・磁石
5・・・保温器
5a・・・入射孔
5b・・・出射孔
6・・・光源
7・・・アパーチャ
8・・・アパーチャ
9・・・受光素子
10・・・演算装置
11・・・測定系
12・・・光源
13・・・入射光学系
14・・・試料セル
15・・・出射光学系
16・・・受光素子
17・・・増幅回路
18・・・ノイズ除去フィルタ
19・・・演算装置
20・・・表示器
21・・・攪拌子
22・・・攪拌器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料中に存在する生物由来の生理活性物質とカブトガニの血球抽出物であるLALとを反応させることで、前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは前記生理活性物質の濃度を測定する、生物由来の生理活性物質の測定方法であって、
前記試料とLALとの混和後において、前記試料とLALとの混和液中に光を入射するとともに該入射した光のうちの前記混和液を透過した光または前記混和液により散乱した光の強度を取得し、
前記取得された光の強度より得られた、所定の時間間隔で設定された取得時刻における所定の物理量を検出値とし、
一の取得時刻における検出値と、より前の取得時刻における検出値との差または差の絶対値が閾値を超えた時刻をもって反応開始時刻とし、
前記反応開始時刻に基づいて前記試料中の前記生理活性物質を検出しまたは濃度を測定することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項2】
前記取得された光の強度は、前記混和液を透過した光の強度であり、
前記検出値は百分率で表した前記混和液の透過率であり、
前記所定の時間間隔を約2分とし、
前記一の取得時刻における前記透過率と、前回の取得時刻における前記透過率との差の絶対値が1を超えた時刻をもって反応開始時刻とすることを特徴とする請求項1に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項3】
前記取得された光の強度は、前記混和液により散乱した光の強度であり、
前記検出値は前記散乱した光の強度における所定のピーク数に基づいて導出された前記混和液に入射した光を散乱させる粒子数であり、
前記所定の時間間隔を約100秒とし、
前記一の取得時刻における前記粒子数と、前回の取得時刻における前記粒子数との差が200を超えた時刻をもって反応開始時刻とすることを特徴とする請求項1に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項4】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定方法。
【請求項5】
所定の生物由来の生理活性物質を含む試料とカブトガニの血球抽出物であるLALとの混和液を光の入射可能に保持するとともに該混和液における反応を進行させる混和液保持手段と、
前記混和液保持手段中の前記混和液を攪拌する攪拌手段と、
前記混和液保持手段中の混和液に光を入射する光入射手段と、
前記入射光の前記混和液における透過光または散乱光を受光し電気信号に変換する受光手段と、
前記受光手段において変換された電気信号から前記試料中における前記生理活性物質とLALとの反応開始時刻を判定する判定手段と、
予め定められた、前記反応開始時刻と前記生理活性物質の濃度との関係より、前記試料中の前記生理活性物質の存在または濃度を導出する導出手段と、を備え、
前記判定手段は、所定の時間間隔で設定された取得時刻における、前記電気信号に所定の演算を加えた信号または前記電気信号を検出信号値とし、一の取得時刻における検出信号値と、より前の取得時刻における検出信号値との差または差の絶対値が閾値を超えた時刻をもって反応開始時刻を判定することを特徴とする生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項6】
前記検出信号値は百分率で表した前記混和液の透過率であり、
前記所定の時間間隔は約2分であり、
前記閾値は1であることを特徴とする請求項5に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項7】
前記検出信号値は前記混和液に入射した光を散乱させる粒子数であり、
前記所定の時間間隔は約100秒であり、
前記閾値は200であることを特徴とする請求項5に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項8】
前記所定の時間間隔および/または前記閾値を可変としたことを特徴とする請求項5に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。
【請求項9】
前記生物由来の生理活性物質は、エンドトキシンまたはβ−D−グルカンであることを特徴とする請求項5から8のいずれか一項に記載の生物由来の生理活性物質の測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−216878(P2010−216878A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−61737(P2009−61737)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(000163006)興和株式会社 (618)
【Fターム(参考)】