説明

生物由来材料の減容化方法

【課題】温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料を減容化させる方法、および減容化装置の提供を課題とする。また、生薬処理固形物および生薬処理液体を製造する方法の提供も課題とする。
【解決手段】温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料が、種々の酵素活性物質により分解され、減容化できる事を見出した。また、酵素活性物質を添加しインキュベーションする工程において攪拌処理を加えることにより、静置処理よりも、酵素活性物質による分解効率が良くなることも見出した。本発明によって、例えば生薬残渣の重量あるいは体積を減少させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温水処理により有効成分を抽出した後の、細胞壁を有する生物由来材料を減容化する方法および減容化装置に関する。また、生薬処理固形物および生薬処理液体を製造する方法も提供する。
【背景技術】
【0002】
漢方薬は、一般に複数の原料(生薬)を、温水抽出することにより製造することが多い。生薬を温水抽出して得られる抽出液は、食品、医薬品、医薬部外品、化粧品などにおいて広く利用されている。
上記漢方薬製造過程における固液分離によって、水分含量が約75-85%と液体成分含量の高い廃棄物(生薬残渣)が多量に発生する。漢方薬製造に用いられる各材料は、それぞれ部位、固さ、形状、大きさなどの物理的性状が異なるため、廃棄に際しては各材料に応じた処理を行うことが望ましい。しかし漢方薬製造によって発生する廃棄物は、各材料が混合された状態であって、各材料の形態も異なるため、適切な廃棄処理条件を与えることは困難である。
さらに発生した廃棄物に含まれる各材料は、ろ過により固形(固体)成分と液体成分を分離することが困難なために、廃棄物全体が重く、容量も大きくなっている。そのため廃棄物の最終処理には、移動費用、大規模処理施設等の費用がかかっている。
【0003】
現在では、これら生薬残渣の一部は、コンポスト化(堆肥化処理)されて再利用されている。コンポスト化は、固液分離後の廃棄物を、循環発酵法で微生物処理し、野晒しで後発酵させ、時々田おこしにより空気を入れ、約1ヶ月かけ乾燥させて行われる。一連の処理には時間を要するため夏場などは、臭気が発生する場合もある。
従って生薬残渣の多くは産業廃棄物として処分されており、その処理費用が製造費用に大きく影響を及ぼしている。しかしながら、生薬残渣を減容化し、処分費用を低減させる方法については何ら報告が無く、処理方法が要望されていた。
【0004】
なお、本発明に関する先行技術文献を以下に示す。
【0005】
【特許文献1】特開平3-206893号公報
【特許文献2】特開2003-210110号公報
【特許文献3】特開2004-121221号公報
【特許文献4】特開2004-167468号公報
【特許文献5】特許第2868818号公報
【特許文献6】特許第3806101号公報
【特許文献7】特許第3876832号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、産業廃棄物として処理される生薬残渣に代表される、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料を減容化する方法、および減容化装置を提供することにある。また、生薬処理固形物および生薬処理液体を製造する方法の提供も目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述のように、生薬残渣を最終処理(処分)する前に、移動や貯蔵が容易で、廃棄を簡単にするための生薬残渣の処理方法が望まれていた。
例えば上記生薬残渣における固液分離が困難である液体成分を、固液分離できる形態として除去できれば、生薬残渣の容量を減らし、軽量化することが可能である。さらに固体成分を固液分離可能な形態(例えば液体成分)に変換できれば、さらに生薬残渣の容量を減らし、軽量化することが可能である。ひいては、最終処理のための移動コスト、焼却に要するコストを削減することができる。しかし、生薬残渣の場合は、複数の材料が混合された状態であって、各材料の形態も異なるために、温水抽出後のそのままの形態では固液分離による減容化、軽量化がほとんどできず、ろ過による固液分離にも時間がかかっていた。
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、例えば生薬残渣のような、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料が、種々の酵素活性物質で処理することにより、減容化できる事を見出した。また、酵素活性物質を添加しインキュベーションする工程において攪拌処理を加えることにより、静置処理よりも、酵素活性物質による減容化効率が良くなることも見出した。
【0009】
なお本発明者らは、上記生物由来材料と酵素活性物質との接触時間を長くし、当該生物由来材料の粒子径を小さくすることも試みた。しかし粒子径が小さくなりすぎると、粘性の上昇によって固液分離の際のフィルターの目詰まりが誘発され、却ってろ過効率が悪くなる場合もあった。
本発明者らは、上記のようなろ過効率の問題にも鑑み、固液分離の際のろ過効率も併せて向上させる条件を見出すことに成功した。
【0010】
すなわち、本発明は、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料を、酵素活性物質と接触させ、さらに固液分離することにより、減容化する方法に関するものである。本発明者らは、当該減容化方法によって、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の水分含量が変化せずに、減容化されることを見出した。
また、本発明は、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化装置に関するものである。さらに生薬処理固形物および生薬処理液体の製造方法に関する。
【0011】
即ち本発明は、以下の温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化方法、および減容化装置、並びにその応用に関する。
【0012】
〔1〕 温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料に、酵素活性物質を接触させ、さらに固液分離する工程を含むことを特徴とする、前記材料の減容化方法。
〔2〕 以下の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化方法;
(a)前記材料に酵素活性物質を添加する工程、
(b)前記(a)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(c)前記(b)の処理物を固液分離し、固体を収集する工程。
〔3〕 以下の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化方法;
(a)前記材料に酵素活性物質を添加する工程、
(b)前記(a)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(c)前記(b)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、固体を収集する工程。
〔4〕 前記工程(c)における、ろ過処理に用いるフィルターの目開きが、5〜300μmである、〔3〕に記載の方法。
〔5〕 前記酵素活性物質が、セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性、アビセラーゼ活性、キシラナーゼ活性、プロテアーゼ活性、βグルカナーゼ活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有することを特徴とする、〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の処理方法。
〔6〕 前記生物由来材料が、温水に対し難溶性である部位を含むことを特徴とする、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の方法。
〔7〕 前記生物由来材料が、人参、黄耆、蒼朮、白朮、柴胡、当帰、升麻、陳皮、生姜、乾姜、大棗、甘草、山椒、川きゅう、芍薬、沢瀉、茯苓、および半夏からなる群から選択される少なくとも一つ以上の生物由来材料を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の方法。
〔8〕 前記生物由来材料が、人参、黄耆、蒼朮、白朮、柴胡、当帰、升麻、陳皮、生姜、乾姜、大棗、甘草、山椒、川きゅう、芍薬、沢瀉、茯苓、および半夏からなる群から選択される少なくとも一つ以上の生物由来材料からなることを特徴とする、〔6〕に記載の方法。
〔9〕 前記生物由来材料が木部を含むことを特徴とする、〔6〕に記載の方法。
〔10〕 次の構成要素を含む、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料を減容化するための減容化装置;
前記材料を収納する容器、
前記容器に収納した材料および酵素活性物質とを攪拌する手段、
前記容器内の酵素活性物質にその活性を維持する温度を与える温度制御手段、および
前記酵素処理によって生成した物質を固液分離するためのフィルターろ過手段。
〔11〕 前記フィルターろ過手段に用いるフィルターの目開きが、5〜300μmである、〔10〕に記載の装置。
〔12〕 以下の工程(ア)〜(カ)を含むことを特徴とする、生薬処理固形物製造方法;
(ア)細胞壁を有する生物由来材料を温水処理する工程、
(イ)前記(ア)の処理物より、有効成分を抽出する工程、
(ウ)有効成分抽出後の材料を分離する工程、
(エ)前記(ウ)で分離された材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(オ)前記(エ)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(カ)前記(オ)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、生薬処理固形物を収集する工程。
〔13〕 以下の工程(i)〜(vi)を含むことを特徴とする、生薬処理液体の製造方法;
(i)細胞壁を有する生物由来材料を温水処理する工程、
(ii)前記(ii)の処理物より、有効成分を抽出する工程、
(iii)有効成分抽出後の材料を分離する工程、
(iv)前記(iii)で分離された材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(v)前記(iv)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(vi)前記(v)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、生薬処理液体を収集する工程。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料を、酵素活性物質を用いて酵素分解処理し、さらに固液分離することで、当該生物由来材料を減容化させることが可能となった。さらに、固液分離工程におけるろ過性を向上させる事が可能になった。
【0014】
一般に生薬残渣には、大きさも固さも異なる材料が複数含まれている。そのような場合であっても、本発明によって、各材料について個別に減容化処理を行う必要がなく、まとめて減容化処理を行うことが可能となり、さらに固液分離のろ過も効率的に行うことが可能となった。その上、本発明は、生薬残渣に酵素活性物質を添加し、フィルターろ過を行う、という簡便な手段で上記減容化が達成されるため、生薬残渣廃棄の際の実用的な処理手段として利用価値が大きい。また減容化された生物由来材料は、最終処理が容易であり、廃棄費用や最終処理費用も低減することができる。本発明により、例えば生薬を温水抽出した際に産業廃棄物として生じる生薬残渣などの重量、容量、あるいは体積を効果的に減少させることができる。
【0015】
〔発明を実施するための形態〕
本発明は、温水処理により有効成分を抽出後の細胞壁を有する生物由来材料を減容化する方法を提供する。具体的には、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物材料に、酵素活性物質を接触させ、さらに固液分離する工程を含むことを特徴とする減容化方法である。
【0016】
本発明においては、「温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料」を減容化する。
【0017】
本発明における「細胞壁を有する生物由来材料」は、「細胞壁を有する」生物由来の材料であることを特徴とする。例えば、植物や菌類を由来とする材料が挙げられる。菌類としては、例えばキノコ、カビ、酵母等を挙げることができる。これらの材料は、細胞壁を有している限り、全体、またはその一部を利用することができる。一部としては、例えば花、果実、果皮、果肉、種子、葉、茎、塊茎、根、ストロン、塊根、周皮、樹皮、根皮、樹脂、菌糸、子実体、担子器果等を挙げることができる。材料は、単品で用いてもよく、あるいは異なる複数の材料を組み合わせて用いてもよい。複数の材料を組み合わせる場合、細胞壁の無い材料が混ざっていてもよい。細胞壁の無い材料としては、例えば動物、鉱物等を挙げることができる。
【0018】
植物由来の「生薬」は、本発明における代表的な、細胞壁を有する生物由来材料である。生薬とは、植物、動物、あるいは鉱物などを、そのままで、あるいは性質を変えない程度に切断、破砕、乾燥するなどの簡単な加工や調製をして、薬用に供するものを指す(三省堂「大辞林 第二版」)。当該生薬の具体例としては、「原色和漢薬図鑑」(上・下、難波恒雄著、保育社)、「日本薬局方」、「日本薬局方生薬規格」等に記載されている生薬が挙げられる。生薬は、通例、全形生薬、切断生薬、粉末生薬に分けて取り扱われるが、本発明の生薬には、これらのいずれの生薬も含まれる。全形生薬とは、一般的に、利用部分を乾燥し、または簡単な加工を施したものである。切断生薬とは、一般的に、全形生薬を小片もしくは小塊に切断もしくは破砕したもの、あるいは粗切、中切、もしくは細切したものである。粉末生薬とは、全形生薬または切断生薬を粗末、中末、細末、または微末としたものである。
【0019】
従って本発明の「細胞壁を有する生物由来材料」には、例えば、細胞壁を有する生物、細胞壁を有する植物および/または菌類、細胞壁を有する生物材料、細胞壁を有する生薬、細胞壁を有する生薬材料、等も含まれる。細胞壁を有する生物由来材料は、そのまま投与することもあるし、有効成分を抽出して利用することもある。
【0020】
植物由来の生薬の有効成分は、一般に上記細胞壁を有する生物由来材料から、温水処理によって抽出される。温水処理にあたり、生薬はまず水洗し、必要に応じて熱処理、凍結処理、乾燥処理などを行う。さらに有効成分の抽出や抽出後の固液分離に適した大きさにするために、材料の特質に応じて、適宜切裁(切断)、破砕、粉砕、磨砕などの処理を行う。なお切裁(切断)、破砕、粉砕、磨砕などの処理について、以下、単に「切裁」と記載する場合がある。
【0021】
上記切裁処理後、切裁された材料を温水処理する。続いて温水処理を行った処理物より有効成分を抽出する。本発明における「有効成分」は、材料の成分に応じ適宜設定が可能である。例えば、多糖類、ステロイド類、ミネラル類、核酸類、ビタミン類、アミノ酸類等が挙げられる。
【0022】
本発明における「温水」とは、40℃〜100℃の水であり、好ましくは80℃〜100℃の水であり、さらに好ましくは90℃〜100℃の水である。沸騰状態の熱水も、本発明の「温水」に含まれる。水は、精製水、硬水、軟水、イオン交換水、天然水、水道水等を用いることができる。
【0023】
「温水処理」とは、上記切裁された材料を、温水と接触させる工程を含む。材料と温水を接触させる方法は、当業者に公知の方法を用いることができる。一態様としては、例えば材料に水を加え、加熱沸騰し有効成分を抽出する方法(煎出法)が挙げられる。別の態様としては、例えば材料を温水に浸漬し有効成分を抽出する方法(浸漬法)が挙げられる。例えば、反応釜や抽出釜などの容器に材料を入れ、所定量の温水を加えて、必要に応じ攪拌処理を行い、所定時間浸漬させ有効成分を抽出する方法が挙げられる。圧力調整が可能な容器を用いることによって、加圧条件で抽出することもできる。別の態様としては、例えば、容器に材料を充填し、温水を当該容器に送水し、材料と温水とを接触させ有効成分を抽出する方法(パーコレーション法)が挙げられる。
【0024】
なお、当該抽出工程において、例えば、材料投入の順序、材料量に対する抽出用水の量(抽剤比)、昇温速度、抽出回数、攪拌回転数、攪拌力、加熱量、加熱時間、抽出溶媒、抽出速度などの諸条件は、生物材料や目的とする有効成分の特徴に応じて、適宜選択することができる。
【0025】
本発明における、「温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料」は、以上のような工程を経て生成される生物由来材料を含む。
【0026】
本発明においては、上記有効成分抽出処理後の材料を、さらに固体と液体に分離(固液分離)することが好ましい。固液分離処理は、温度が低い状態で実施すると、有効成分の溶解度が低下し、抽出後の材料側に有効成分が移行する場合がある。そのため、本発明の固液分離処理は、生物材料や目的とする有効成分の特徴に応じて、熱時分離を選択することができる。
【0027】
固液分離方法としては、例えばろ過法、沈降法、遠心分離法などが挙げられる。ろ過法としては、フィルターろ過による方法が挙げられ、例えば自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、吸引ろ過などが挙げられる。ろ過用フィルターの材質は、当業者が通常利用するものを利用することができ、例えば金属あるいは高分子の網からなる「メッシュ」、ろ紙、高分子、ガラス繊維、植物繊維、あるいは金属繊維からなる「ファイバー」などをろ過材質に用いることができる。上記熱時分離と組み合わせて、例えば熱時遠心分離なども行うことができる。
なお、当該固液分離工程における、例えば、給液速度、回転数、分離速度などの諸条件は、生物材料や目的とする有効成分の特徴に応じて、適宜選択することができる。
なお上記固液分離によって得られる残渣を材料として、上記抽出処理を繰り返すこともできる。
【0028】
本発明は、上述の処理によって生成される「温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料」を減容化する方法に関する。「温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料」としては、例えば、生薬を材料として用いた場合の生薬残渣、焼酎製造残渣、コーヒー抽出残渣、豆腐製造カス(おから)、だしやスープ製造の場合のだしがらが挙げられる。だしがらの一例として、コンブ残渣やしいたけ残渣が挙げられる。これらのだしがら残渣には、カツオ等の魚類の残渣、牛、豚、鳥等の家畜類の残渣が混在していてもよい。「温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料」の他の例としては、麦茶製造の場合の麦茶がら、こしあん製造の場合の豆がら、寒天製造の場合の海藻残渣などが挙げられる。
【0029】
なお本発明における上記固液分離処理によって得られる残渣は、温水に対し難溶性の部位が含まれている。即ち本発明における「細胞壁を有する生物由来材料」は、温水に対し難溶性の部位が含まれる。これら難溶性部位に含まれる成分として、例えば、リグニン、セルロース、ヘミセルロース、ペクチン、キチン、グルカン、タンパク質、ステロイド、ポリフェノールが挙げられる。
【0030】
また、本発明における「細胞壁を有する生物由来材料」としては、木部を含むものが挙げられる。「木部」とは、道管、仮道管、木部繊維、木部柔組織からなる複合組織を指し、維管束構成要素の1つである。本発明の木部としては、例えば茎、根、樹皮、周皮が挙げられる。生薬残渣のように、木部が多く含まれ、固さの異なる材料が単数または複数含まれている場合であっても、本発明によればそれらをまとめて減容化処理することができる。さらに本発明においては固液分離のろ過も効率的に行うことができ、工業上非常に有利である。
【0031】
本発明において「減容化」とは、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の容量、容積、体積および重量の少なくも1つを削減、縮小することを指す。本発明における容量あるいは容積とは、かさ(bulk)を意味し、体積と同じ意味で用いられる。従って、例えば「減量化」、「軽量化」、「消滅化」、「縮小化」、「可溶化」等も本発明の「減容化」に含まれる。なお本発明の減容化には、乾燥前の生物由来材料の減容化、および乾燥後の生物由来材料の減容化が含まれる。
【0032】
減量化とは、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の容量、容積、あるいは体積が、本減容化方法適用前と適用後とを比較して、適用後のほうが少なくなっていることを指す。
【0033】
軽量化とは、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の液体成分が、本減容化方法適用前と適用後とを比較して、適用後のほうが少なくなっていることを含む。上記「液体成分」としては、例えば水、セルロースなどを懸濁した水、水溶性成分が溶解した水等を挙げることができる。
【0034】
あるいは軽量化とは、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の固体成分が、固液分離可能な大きさ(粒子径)の固体成分、あるいは固液分離可能な液体成分へ変換されることによって、本減容化方法適用前と適用後とを比較して、適用後のほうが少なくなっていることを含む。上記「固体成分」としては、例えば上述の「温水に対し難溶性の部位」に含まれる成分を挙げることができる。例えばセルロース、ヘミセルロース、リグニン、ペクチン、キチン、グルカン、タンパク質、ステロイド、ポリフェノール等を挙げることができる。
【0035】
本発明者らは、本発明の減容化方法は、固液分離の際のろ過効率も併せて向上できることを見出した。通常、細胞壁等を含む植物材料を酵素処理した場合、植物材料に含まれる成分が低分子化することによって残渣の粘度(粘性)が増加する。あるいはでんぷん成分等の干渉によって酵素処理後の残渣の粘度が増加する。粘度の増加によって、フィルターの目詰まりが誘発されやすくなり、ろ過効率が悪くなる。一方で、本願発明の減容化方法では、粘度を増加させず、ろ過効率を向上できる。即ち本発明の減容化方法には、残渣の粘度を増加させない方法、も含まれる。
【0036】
本発明の、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化方法は、例えば以下の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする方法である;
(a)温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来の材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(b)前記(a)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌(振とう)しインキュベーションする工程、
(c)前記(b)の処理物を固液分離し、固体を収集する工程。
【0037】
好ましくは本発明の、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化方法は、以下の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする方法である;
(a)温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来の材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(b)前記(a)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌(振とう)しインキュベーションする工程、
(c)前記(b)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、固体を収集する工程。
【0038】
上記方法においては、まず温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する材料に対して、酵素活性物質を添加する。酵素活性物質の添加量は、有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料に対して0.0001〜10倍量、好ましくは0.0002〜1倍量、より好ましくは0.0005〜0.5倍量である。また水を添加することができ、添加する水の量は、有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料に対して0〜100倍量、好ましくは0.5〜10倍量、より好ましくは1〜5倍量である。
【0039】
次いで、酵素活性物質を添加した前記材料を、攪拌しインキュベーションする。当該工程は、以下の条件で行うことができる。
・温度:4〜90℃、好ましくは30〜70℃、より好ましくは40〜60℃
・pH:2〜10、好ましくは3〜9、より好ましくは4〜7
・反応時間:1〜40時間、好ましくは2〜30時間
【0040】
上記の生物由来材料と酵素活性物質の反応液(処理物)が混合されれば、撹拌については、特段の制限はなく、好ましくは酵素活性物質が分散するように混合されれば良い。より好ましくは、当該酵素活性物質の処理により、上記生物由来材料が後述の固液分離に適した大きさ(粒子径)となるまで低分子化するように混合する。低分子化が進み過ぎると、反応液(処理物)の粘度が増加するため、粘度が増加しない程度に混合する。本発明の「攪拌」には、振とう処理も含まれる。
上記インキュベーション処理によって、酵素反応を適切に進行させることができ、その後の固液分離が容易となる。
【0041】
なお上記工程(a)の前に、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料を、必要に応じて前処理する。前処理方法は、特に限定されるものではなく、未処理、粉砕化、アルカリ処理、爆砕化、などの処理方法が挙げられる。
【0042】
本方法においては、次いで前記インキュベーション処理後の処理物を、固液分離し、固体(残渣、ろ取物)を減容化された生物由来材料として収集することができる。固液分離方法としては、当業者に公知の手法を用いることができ、例えばろ過法、沈降法、遠心分離法などが挙げられる。ろ過法としては、フィルターを用いたフィルターろ過による方法が挙げられ、例えば自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、吸引ろ過などが挙げられる。例えば遠心ろ過により固液分離する場合は、固体の回収に適した回転速度と供給液速度に設定することで実施できる。また、加圧ろ過により固液分離する場合は、固体の回収に適した圧搾圧力と供給液速度に設定することで実施できる。
【0043】
ろ過用フィルターの材質は、当業者が通常利用するものを利用することができる。例えば金属あるいは高分子の網からなる「メッシュ」、ろ紙、高分子、ガラス繊維、植物繊維、あるいは金属繊維からなる「ファイバー」などをろ過材質に用いることができる。フィルターろ過に用いられるフィルターの目開き(pore size)は、好ましくは5〜300μmであり、より好ましくは75〜200μmである。
【0044】
なお、当業者であれば、上記の条件の他にも、例えば、回転数、分離速度など、固液分離に影響を与える諸条件を、固体の回収に適するように適宜設定することが可能である。
【0045】
本発明の減容化方法によって得られた固体には、例えば前記酵素活性物質処理により低分子化されなかった物質等が含まれる。例えば、セルロースの切れ残り(undigested material)、リグニン、ヘミセルロースの切れ残り、脂質、タンパク質等が含まれる。本発明の減容化方法によって得られた固体は、後処理として、例えば乾燥処理(凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥等)を行ってもよい。
【0046】
また本発明の減容化方法によって得られた液体には、例えば、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の液体成分、前記酵素活性物質処理により低分子化された固体成分等が含まれる。例えば糖類、タンパク質等が含まれる。
【0047】
本発明の減容化方法によって、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の固液分離後の固体の重量を減少させることができる。本発明において重量の減少は、湿重量あるいは乾燥重量のいずれか、あるいは両方の減少を言う。また本発明の減容化方法によって、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料の固液分離後の固体の容量、容積、あるいは体積を減少させることができる。当該容量、容積、あるいは体積は、湿容量、湿容積、湿体積、あるいは乾燥容量、乾燥容積、乾燥体積のいずれでもよい。
【0048】
本発明における「酵素活性物質」とは、酵素活性を有する物質を指す。例えば酵素を含む物質、酵素からなる物質(酵素)等も本発明の酵素活性物質に含まれる。また単一の酵素活性だけでなく複数の酵素活性を含有する混合物を用いることができる。また二種以上の酵素活性物質で処理を行う場合には、同時に処理をすることもできるし、各酵素活性物質で順次処理を行ってもよい。順次処理の場合の酵素活性物質の添加順序は制限されない。
【0049】
酵素活性物質の起源(酵素活性物質の供給源)は、一般に各種の生物や微生物であることもできるし、必要な酵素活性を有する限りその由来は制限されない。また起源となる微生物の菌体、菌体培養液、菌体もしくは菌体培養液の処理物(菌体もしくは菌体培養液の乾燥物や濃縮物、菌体培養液から菌体を除去した上清、菌体自体の乾燥物や濃縮物等)、またはそれらから単離された酵素活性物質も、本発明の酵素活性物質として使用することができる。また本発明における酵素活性物質は、精製された標品である必要はない。
【0050】
例えば本発明においては、セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性、アビセラーゼ活性、キシラナーゼ活性、プロテアーゼ活性、βグルカナーゼ活性のうち少なくとも一つの活性を有する酵素活性物質を用いることができる。好ましくは、セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性、アビセラーゼ活性、キシラナーゼ活性、プロテアーゼ活性、βグルカナーゼ活性のうち少なくとも一つの活性を有する酵素である。これら酵素は、各種生物由来のもの、あるいは遺伝子工学的手法によって生産されたものを用いることができる。
【0051】
上記の酵素活性を有する微生物(酵素の供給源となる微生物)としては、例えばアスペルギルス(Aspergillus)属、トリコデルマ(Trichoderma)属、ペニシリウム(Penicillium)属、ロドトルラ(Rhodotorula)属、スポリディオボルス(Sporidiobolus)属、ストレプトマイセス(Streptomyces)属、バチルス(Bacillus)属に属する微生物を挙げることができる。
具体的には、それぞれ以下の微生物を例示することができる。
【0052】
・主にセルラーゼ活性を有する微生物
Aspergillus niger JCM 10254
Aspergillus niger JCM 1864
Trichoderma koningii JCM 1883
Trichoderma reesei JCM 22676
【0053】
・主にペクチナーゼ活性およびセルラーゼ活性を有する微生物
Penicillium sp. JCM 13474
【0054】
・主にβ-グルカナーゼ活性を有する微生物
Rhodotorula lactos JCM 1564
Sporidiobolus johnsonii JCM 1840
【0055】
・主にキシラナーゼ活性を有する微生物
Penicillium herquei NBRC 4674
Streptomyces mexicanus JCM 12681
Bacillus sp.JCM 2888
【0056】
なお上記「JCM」とは独立行政法人理化学研究所の微生物保存機関、「NBRC」とは独立行政法人製品評価技術基盤機構の微生物保存機関、を示す。上記の各微生物は、これらの保存機関名称(JCMあるいはNBRC)の後ろに示される番号を用いて、各機関より入手することが可能である。
【0057】
本発明の酵素活性物質としては、「セルラーゼ」、「ヘミセルラーゼ」、「ペクチナーゼ」、「アビセラーゼ」、「キシラナーゼ」、「プロテアーゼ」、「βグルカナーゼ」の各名称で市販されている酵素も利用できる。市販されているこれら各酵素には、一定量の各酵素が含まれていることがあり、そのまま使用することができる。本発明で利用する酵素は特に制限されるものではないが、これらの活性を備えた酵素活性物質として、例えば次のような市販品を利用することができる。
【0058】
・セルロシンT2またはセルロシンAC40(エイチビィアイ株式会社販売)
・フェドラーゼAV CONC(洛東化成工業株式会社販売)
・セルラーゼY-NC(ヤクルト薬品工業株式会社販売)
・ヘミセルラーゼ「アマノ」90およびペクチナーゼG「アマノ」
・ペクチナーゼPL「アマノ」(天野エンザイム株式会社販売)
・NS 50012(ノボザイムズ ジャパン株式会社販売)
【0059】
一方、本発明において用いられる「細胞壁を有する生物由来材料」としては、例えば、以下の表1−1から表1−3に示す材料(生薬)を挙げることができる。
【0060】
【表1−1】

【0061】
【表1−2】

【0062】
【表1−3】

【0063】
上記表1−1から表1−3中における「局14」とは、第14改正日本薬局方(日局14)に記載されていることを指す。
【0064】
本発明において用いられる「細胞壁を有する生物由来材料」としては、より好ましくは、一般に市販されている漢方製剤に用いられる細胞壁を有する生物由来材料を挙げることができる。当該生物由来材料の一態様として、生薬が挙げられる。例えば漢方製剤である「補中益気湯(ホチュウエッキトウ)」、「大建中湯(ダイケンチュウトウ)」、「当帰芍薬散(料)(トウキシャクヤクサン(リョウ))」、あるいは「六君子湯(リックンシトウ)」等の製造に用いられる、細胞壁を有する生物由来材料が挙げられる。
【0065】
「補中益気湯」(医王湯とも言う)の製造に用いられる、細胞壁を有する生物由来材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
・人参(ウコギ科のオタネニンジンの細根を除いた根またはこれを軽く湯通ししたもの)
・黄耆(マメ科のキバナオウギまたはナイモウオウギの根を乾燥させたもの)
・蒼朮(キク科のホソバオケラまたはシナオケラの根茎を乾燥させたもの)
・白朮(キク科のオケラまたはオオバナオケラの根茎を周皮を剥いで乾燥させたもの)
・柴胡(セリ科ミシマサイコの根)
・当帰(セリ科カラトウキ、トウキあるいはホッカイトウキの根を、通例、湯通しあるいはそのまま乾燥させたもの)
・升麻(キンポウゲ科サラシナショウマの根茎を乾燥させたもの)
・陳皮(ミカン科のウンシュウミカンまたはその他の近縁植物の成熟果皮を乾燥させたもの)
・生姜(ショウガ科のショウガの根茎)
・大棗(クロウメモドキ科のナツメまたはその他の近縁植物の果実を乾燥させたもの)
・甘草(マメ科カンゾウなどの根およびストロンで、ときには周皮を除いたもの)
【0066】
「大建中湯」の製造に用いられる、細胞壁を有する生物由来材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
・人参
・山椒(ミカン科のサンショウの成熟果皮で、果皮から分離した種子をできるだけ除いたもの)
・乾姜(ショウガ科のショウガの根茎を湯通しまたは蒸したもの)
【0067】
「当帰芍薬散(料)」の製造に用いられる、細胞壁を有する生物由来材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
・当帰
・川きゅう(セリ科センキュウの根茎を、通例、湯通ししたもの)
・芍薬(ボタン科シャクヤクの根で、ひげ根と周皮を除いたもの)
・蒼朮
・白朮
・沢瀉(オモダカ科のサジオモダカの塊茎で、周皮を除いたもの)
・茯苓(サルノコシカケ科マツホドの菌核で、通例、外層をほとんど除いたもの)
【0068】
「六君子湯」の製造に用いられる、細胞壁を有する生物由来材料としては、例えば以下のものが挙げられる。
・蒼朮
・白朮
・茯苓
・人参
・半夏(サトイモ科カラスビシャクのコルク層を除いた塊茎)
・陳皮
・大棗
・生姜
・甘草
【0069】
本発明の、細胞壁を有する生物由来材料は、人参、黄耆、蒼朮、白朮、柴胡、当帰、升麻、陳皮、生姜、乾姜、大棗、甘草、山椒、川きゅう、芍薬、沢瀉、茯苓、および半夏からなる群から少なくとも一つ以上の生物由来材料を含むことが好ましく、より好ましくは人参、黄耆、蒼朮、白朮、柴胡、当帰、升麻、陳皮、生姜、乾姜、大棗、甘草、山椒、川きゅう、芍薬、沢瀉、茯苓、および半夏からなる群から少なくとも一つ以上の生物由来材料からなる。
【0070】
本発明の、細胞壁を有する生物由来材料は、温水処理により有効成分を抽出する前に混合することもでき、各材料の有効成分抽出後に混合することもできる。
【0071】
また本発明は、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料を減容化するための減容化装置を提供する。
本発明の減容化装置は、例えば以下の構成要素を含む。
・有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料を収納する容器
・前記容器に収納した材料および酵素活性物質とを攪拌する手段
・前記容器内の酵素活性物質にその活性を維持する温度を与える温度制御手段
・前記酵素処理によって生成した物質を固液分離するためのフィルターろ過手段(means for filter filtration)
【0072】
上記「材料を収納する容器」は、有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料を収納する容器であって、さらに当該材料を投入する構造、酵素活性物質を投入する構造、水を注入する構造、攪拌構造、温度制御構造、pH制御構造、処理時間計測構造、強制通気する場合の通気構造、酵素処理によって発生する気体成分を収集する構造、固液分離構造、固液分離後の固体あるいは液体を回収・廃棄するための構造、容器内部に付着する不要物質を取り除くための構造(例えば洗浄装置)等を備えていることが好ましい。また加圧処理や減圧処理に耐えられるように、耐圧構造になっていることが好ましい。さらに微生物等混入による汚染防止、発酵臭や悪臭の外部への流出を防止するため、密閉型容器であることが好ましい。
【0073】
容器材質としては、耐熱性、耐食性、耐久性に優れた材質であることが好ましい。例えばステンレス鋼(SUS)、黄銅、アルミ、チタン、セラミックス等が挙げられる。これら材質は必要に応じてコーティング処理して用いることができる。
【0074】
上記「前記容器に収納した材料および酵素活性物質とを攪拌する手段」としては、例えば攪拌用装置あるいは攪拌用部材が挙げられる。例えば、棒、板、へら、羽根、プロペラ、ブレード、スターラー等の攪拌用装置または攪拌用部材が挙げられる。これらの攪拌用装置または攪拌用部材を、容器内で任意の速度で任意の方向に回転するように設置し攪拌を行うことができる。
攪拌の他の態様として、振とう用装置または振とう用部材が挙げられる。例えば、上下または左右に振る発振装置、回転させる回転装置等が挙げられる。これらの振とう用装置または振とう用部材を容器内あるいは容器外に設置し振とうを行うことができる。
攪拌のさらに他の態様としては、固体、液体、気体、あるいはこれらの混合物を高圧で噴射することによって攪拌する高圧噴射攪拌、空気を吹き込むことによって攪拌するエアレーションが挙げられる。
上記の各攪拌手段は、単一で用いることもできるし、組みあわせて用いることもできる。
【0075】
収納した材料および酵素活性物質の反応液(処理物)が混合されれば攪拌については特段の制限はない。好ましくは酵素活性物質が、分散するように混合されればよい。攪拌状態を感知するセンサーが上記部材または容器に付属していてもよい。
【0076】
攪拌部材の材質は、容器と同じく耐熱性、耐食性、耐久性に優れた材質が好ましい。例えばステンレス鋼(SUS)、黄銅、アルミ、チタン、セラミックス等が挙げられる。これら材質は必要に応じてコーティング処理して用いることができる。
【0077】
上記「前記容器内の酵素活性物質にその活性を維持する温度を与える温度制御手段」としては、例えば加熱または冷却のための温度制御手段、および酵素活性物質の活性を測定するための手段が含まれる。温度制御は、例えば加熱または冷却用媒体、ヒーター等を用いて行うことができる。温度の測定は、容器内あるいは容器外に付属しているセンサーにて行うことができる。加熱または冷却用の媒体は、当業者が通常する媒体を使用すればよく、一般的には、蒸気、温水、冷水が用いられる。当該媒体を、例えば容器に付属するジャケットに供給し温度制御を行うことができる。媒体の供給量は、酵素活性物質の活性に応じて適宜調節、制御することができる。
【0078】
酵素活性物質の活性を測定する手段としては、例えば当業者が通常行う酵素活性測定手段を用いることができる。例えばバイオセンサーを用いる方法、あるいは適当な基質を与えてその分解をマイクロプレートリーダー等で吸光度測定する方法等を挙げることができる。
【0079】
上記「前記酵素処理によって生成した物質を固液分離するためのフィルターろ過手段」としては、フィルターろ過方法を挙げることができ、例えば自然ろ過、減圧ろ過、加圧ろ過、遠心ろ過、吸引ろ過等による方法が挙げられる。そのため、ろ過手段に応じて、減圧または加圧処理が可能な構造、遠心処理が可能な構造、吸引が可能な構造を有していてもよい。フィルターろ過の材質は、当業者が通常利用するものを利用することができる。例えば金属あるいは高分子の網からなる「メッシュ」、ろ紙、高分子、ガラス繊維、植物繊維、あるいは金属繊維からなる「ファイバー」などをろ過材質に用いることができる。本発明にて用いられるフィルターの目開き(pore size)は5〜300μmが好ましく、75〜200μmがより好ましい。また、フィルターを納めるエレメントは、物理的強度(耐圧強度、耐末過重、内筒強度)、科学的強度(耐食性、耐熱性、耐久性)に優れたものであることが好ましい。
【0080】
また本発明は、以下の工程(ア)〜(カ)を含むことを特徴とする生薬処理固形物の製造方法を提供する;
(ア)細胞壁を有する生物由来材料を温水処理する工程、
(イ)前記(ア)の処理物より、有効成分を抽出する工程、
(ウ)有効成分を抽出した後の材料を分離する工程、
(エ)前記(ウ)で分離された材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(オ)前記(エ)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、
(カ)前記(オ)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、生薬処理固形物を収集する工程。
【0081】
上記(ア)〜(ウ)の各工程は、上述の「温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料」を取得するための方法に基づいて実施することが可能である。また上記(エ)〜(カ)の各工程は、上述の工程(a)〜(c)を含む減容化方法に基づいて実施することが可能である。
【0082】
本発明における「生薬処理固形物」とは、上記(カ)に記載の工程によってフィルターに残るろ取物であって、上記本発明の減容化方法によって減容化された処理物である。例えば生薬残渣を上記本発明に記載の処理方法によって処理することによって得られる生薬処理固形物である。
【0083】
当該固形物は、そのまま廃棄処理することもできる。あるいはさらに廃棄処理に適した形状とするために乾燥処理(凍結乾燥、減圧乾燥、加熱乾燥等)、圧縮処理、成形処理等を行うこともできる。また当該生薬処理固形物は、有機物等の栄養分に富んでいるため、堆肥化(コンポスト化)して、堆肥(コンポスト)として用いることもできる。また、味付け処理、マスキング処理等を行い、食用とすることもできる。植物繊維に富んでいるため、健康食品やサプリメントとして利用することもできる。また家畜等の動物の飼料原料とすることもできる。
【0084】
また本発明は、以下の工程(i)〜(vi)を含むことを特徴とする、生薬処理液体の製造方法を提供する;
(i)細胞壁を有する生物由来材料を温水処理する工程、
(ii)前記(ii)の処理物より、有効成分を抽出する工程、
(iii)有効成分を抽出した後の材料を分離する工程、
(iv)前記(iii)で分離された材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(v)前記(iv)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(vi)前記(v)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、生薬処理液体を収集する工程。
【0085】
上記(i)〜(iii)の各工程は、上述の「温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料」を取得するための方法に基づいて実施することが可能である。また(iv)〜(vi)の各工程は、上述の工程(a)〜(c)を含む減容化方法に基づいて実施することが可能である。
【0086】
本発明における「生薬処理液体」とは、上記(vi)の工程によって、ろ過された液体である。例えば生薬残渣を上記本発明に記載の処理方法によって処理することによって得られる生薬処理液体である。
【0087】
当該液体は、そのまま廃棄処理することもできる。あるいはさらに廃棄処理に適した形状とするために乾燥処理を行うこともできる。あるいはさらに加工処理(滅菌処理、濃縮処理、膜分離処理等)を行うこともできる。当該生薬処理液体は、栄養分に富んでいるため家畜等の動物飼料製造原料として利用することができる。また、メタン発酵用液体として利用することができる。
【実施例】
【0088】
以下本発明を実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
本発明における、ろ過速度の測定と、乾燥重量あたりのろ取物の残存率の測定は以下のように実施した。
【0089】
(ろ過速度の測定方法)
反応液を目開き150μmのフィルター(φ15cm)にて自然ろ過した。5分間のろ過時間でろ過された液量を測定した。ろ過速度は、以下の計算式にて算出した。
ろ過速度(mL/min)=ろ液量(mL)÷5(min)
【0090】
(乾燥重量あたりのろ取物の残存率の測定方法)
ろ過性評価で分離したろ取物を5Aろ紙にて減圧ろ過した後、ろ紙と共にろ取物を110℃で3時間乾燥させた。乾燥後、重量を測定し、反応前の生薬残渣の乾燥重量と比較し、残存率を測定した。残存率は、以下の計算式にて算出した。
残存率(%)=ろ過乾燥後の重量÷反応開始前の乾燥重量×100
以下の実施例において単に「残存率」と記載されている場合は、乾燥重量あたりのろ取物の残存率を示す。
【0091】
参考例:生薬残渣の乾燥重量測定
補中益気湯と大建中湯の製造過程で産出された生薬残渣を10 g秤量し、110℃で3時間、乾燥させた。乾燥後、重量を測定した結果、補中益気湯の生薬残渣は2.07 g、大建中湯の生薬残渣は1.99 gであった。この重量を、以下の実施例における反応開始前の乾燥重量とした。
【0092】
〔実施例1〕 補中益気湯の製造過程で排出された生薬残渣の酵素分解処理
50 mL容の蓋付き容器に補中益気湯の製造過程で排出された生薬残渣(10 g)と水(20 g)を加えた後、1 gあるいは0.01 gの各種酵素を加えた。
用いた酵素の商品名、メーカー、酵素種類、および起源について、それぞれスラッシュ(/)で区切り、以下に示す。記載事項が無いものは空欄である。
【0093】
セルロシンAC40/エイチビィアイ/セルラーゼ/Aspergillus niger
セルロシンT2/エイチビィアイ/セルラーゼ/Trichoderma viride
フェドラーゼAV CONC/洛東化成工業/セルラーゼ/Tricoderma sp.
セルラーゼY-NC/ヤクルト薬品工業/セルラーゼ/Aspergillus niger
ヘミセルラーゼ「アマノ」90/アマノ/ヘミセルラーゼ/Aspergillus niger
ペクチナーゼG「アマノ」/アマノ/ペクチナーゼ/Aspergillus pulverulentus
NS50012/ノボザイムズジャパン/βグルカナーゼ/
【0094】
比較として、酵素なしの反応液を調製した。軽く混合して酵素を溶解させてから、一部は静置反応、一部はTAITEC社製のBR-43FL振とう機に反応容器を横向きにセットして、125 rpmの往復振とうで反応を開始した。反応温度は何れも50℃とした。また、反応液のpHを測定したところ、4.5 - 5.0であった。反応24時間後、反応液のろ過性と生薬残渣の残存率を測定した。ろ過性の結果を表2(実施例1のろ過性測定結果)、残存率の結果を表3(実施例1の残存率測定結果)に示した。
【0095】
【表2】

【0096】
表2中の「1 g」および「0.01 g」は酵素添加量、「0.1倍量」および「0.001倍量」は生薬残渣に対する比率を表わす。
【0097】
【表3】

【0098】
表3中の「1 g」および「0.01 g」は酵素添加量、「0.1倍量」および「0.001倍量」は生薬残渣に対する比率を表わす。
【0099】
表2の結果から、酵素を加えた場合にろ過速度が速くなり、静置反応よりも振とう反応を行った方がさらに速くなっており、酵素の添加と振とう反応によりろ過性が向上する事が判明した。また、表3の結果からも同様に、酵素の添加と振とう反応により残存率が低くなる事が判明した。
【0100】
〔実施例2〕 大建中湯の製造過程で排出された生薬残渣の酵素分解処理
実施例1の生薬残渣を大建中湯の製造過程で排出されたものに変えた以外は、実施例1と同様に酵素分解反応を行った。反応24時間後、反応液のろ過性と生薬残渣の残存率を測定した。ろ過性の結果を表4(実施例2のろ過性測定結果)、残存率の結果を表5(実施例2の残存率測定結果)に示した。
【0101】
【表4】

【0102】
表4中の「1 g」および「0.01 g」は酵素添加量、「0.1倍量」および「0.001倍量」は生薬残渣に対する比率を表わす。
【0103】
【表5】

【0104】
表5中の「1 g」および「0.01 g」は酵素添加量、「0.1倍量」および「0.001倍量」は生薬残渣に対する比率を表わす。
【0105】
実施例1と同様に、表4の結果からは、酵素を加えた場合にろ液速度が速くなり、静置反応よりも振とう反応を行った方がさらに速くなっており、酵素の添加と振とう反応によりろ過性が向上する事が判明した。また、表5の結果からも同様に、酵素の添加と振とう反応により残存率が低くなる事が判明した。
【0106】
〔実施例3〕 生薬残渣の酵素分解処理による、湿重量あたりのろ取物の残存率
実施例1および2と同じ生薬残渣に対し、実施例1に記載の酵素8種類を生薬残渣に対し0.1倍量添加し、振とう反応を開始した。反応温度、反応液pH、反応時間、振とう反応の場合の振とう数などの実験の各条件は、実施例1および2と同じ条件にした。湿重量あたりのろ取物の残存率(%)を測定した結果を表6に示す。
【0107】
【表6】

【0108】
表6中の「1 g」は酵素添加量、「0.1倍量」は生薬残渣に対する比率を表わす。表6の結果より、湿重量あたりで計測した場合であっても、ろ取物の残存率が減少する事が判明した。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明によれば、温水処理により有効成分抽出後の細胞壁を有する生物由来材料を、酵素活性物質で処理し、さらに固液分離することで、当該生物由来材料を減容化させることが可能となった。さらに、固液分離工程におけるろ過性を向上させる事が可能になった。
本発明に基づいて、例えば生薬を温水抽出した際に産業廃棄物として生じる生薬残渣の重量あるいは体積を減少させることができる。
【0110】
生薬残渣には、大きさも固さも異なる材料が複数含まれている。そのような場合であっても、本発明によって、各材料について個別に減容化処理を行う必要がなく、まとめて減容化処理を行うことが可能となり、さらに固液分離のろ過も効率的に行うことが可能となった。その上、本発明は、生薬残渣に酵素活性物質を添加し、フィルターろ過を行う、という簡便な手段で上記減容化が達成されるため、生薬残渣廃棄の際の実用的な処理手段として利用価値が大きい。また減容化された生物由来材料は、最終処理が容易であり、廃棄費用や最終処理費用も低減することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料に、酵素活性物質を接触させ、さらに固液分離する工程を含むことを特徴とする、前記材料の減容化方法。
【請求項2】
以下の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化方法;
(a)前記材料に酵素活性物質を添加する工程、
(b)前記(a)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(c)前記(b)の処理物を固液分離し、固体を収集する工程。
【請求項3】
以下の工程(a)〜(c)を含むことを特徴とする、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料の減容化方法;
(a)前記材料に酵素活性物質を添加する工程、
(b)前記(a)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(c)前記(b)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、固体を収集する工程。
【請求項4】
前記工程(c)における、ろ過処理に用いるフィルターの目開きが、5〜300μmである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酵素活性物質が、セルラーゼ活性、ヘミセルラーゼ活性、ペクチナーゼ活性、アビセラーゼ活性、キシラナーゼ活性、プロテアーゼ活性、βグルカナーゼ活性からなる群から選択される少なくとも一つの活性を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の処理方法。
【請求項6】
前記生物由来材料が、温水に対し難溶性である部位を含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記生物由来材料が、人参、黄耆、蒼朮、白朮、柴胡、当帰、升麻、陳皮、生姜、乾姜、大棗、甘草、山椒、川きゅう、芍薬、沢瀉、茯苓、および半夏からなる群から選択される少なくとも一つ以上の生物由来材料を含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記生物由来材料が、人参、黄耆、蒼朮、白朮、柴胡、当帰、升麻、陳皮、生姜、乾姜、大棗、甘草、山椒、川きゅう、芍薬、沢瀉、茯苓、および半夏からなる群から選択される少なくとも一つ以上の生物由来材料からなることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
前記生物由来材料が木部を含むことを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項10】
次の構成要素を含む、温水処理により有効成分を抽出した後の細胞壁を有する生物由来材料を減容化するための減容化装置;
前記材料を収納する容器、
前記容器に収納した材料および酵素活性物質とを攪拌する手段、
前記容器内の酵素活性物質にその活性を維持する温度を与える温度制御手段、および
前記酵素処理によって生成した物質を固液分離するためのフィルターろ過手段。
【請求項11】
前記フィルターろ過手段に用いるフィルターの目開きが、5〜300μmである、請求項10に記載の装置。
【請求項12】
以下の工程(ア)〜(カ)を含むことを特徴とする、生薬処理固形物製造方法;
(ア)細胞壁を有する生物由来材料を温水処理する工程、
(イ)前記(ア)の処理物より、有効成分を抽出する工程、
(ウ)有効成分抽出後の材料を分離する工程、
(エ)前記(ウ)で分離された材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(オ)前記(エ)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(カ)前記(オ)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、生薬処理固形物を収集する工程。
【請求項13】
以下の工程(i)〜(vi)を含むことを特徴とする、生薬処理液体の製造方法;
(i)細胞壁を有する生物由来材料を温水処理する工程、
(ii)前記(ii)の処理物より、有効成分を抽出する工程、
(iii)有効成分抽出後の材料を分離する工程、
(iv)前記(iii)で分離された材料に、酵素活性物質を添加する工程、
(v)前記(iv)を温度4〜90℃、pH2〜10の条件下で1〜40時間攪拌しインキュベーションする工程、および
(vi)前記(v)の処理物をフィルターろ過により固液分離し、生薬処理液体を収集する工程。

【公開番号】特開2009−142772(P2009−142772A)
【公開日】平成21年7月2日(2009.7.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−324245(P2007−324245)
【出願日】平成19年12月17日(2007.12.17)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】