説明

生物発電用アノード及びこれを利用する生物発電方法及び装置

【解決課題】 水溶液中での酸化還元活性と、pH7における標準電極電位(E0’)範囲が−0.13V〜−0.28Vである性質を保持したまま電子伝達媒体をアノード表面に高密度に固定化させた生物発電用アノード、該アノードを利用した生物発電装置及び方法を提供する。
【解決手段】 生物発電装置は、電子伝達媒体(電子メディエーター)が重合により固定化されているアノード1を含む嫌気性域4、隔膜(電解質膜)2、および多孔質カソード3を含む好気性域5が三重の筒状体をなすことによって構成される。筒状体の最内隔空間形態である嫌気性域4に嫌気性条件下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液又は懸濁液を流し、筒状体の最外隔空間形態である好気性域5には分子状酸素を含む空気を存在させる。好気性域5内に配置されている多孔質カソードは、カソードの少なくとも一部が、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維状材料によって形成されている。嫌気性域4と好気性域5とを隔離する隔膜2は、物質交換係数が大きな隔膜で構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、その他の有機性廃棄物、汚泥などの有機性物質またはその分解物を基質とし、その基質と空気中の酸素との酸化還元反応を、嫌気性微生物による酸化反応と、酸素の還元反応に分離することによって発電を行う生物発電技術に関する。
【背景技術】
【0002】
廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、その他の有機性廃棄物または汚泥(以下、「含水有機性物質」とする)を分解して利用可能なエネルギーを取り出す方法として、メタン発酵を始めとする嫌気発酵法によってメタン等を生産して、これを用いて発電を行う方法や、微生物の嫌気呼吸反応から直接電気を取り出す生物電池法などが考案されている。
【0003】
しかしながら、メタン発酵を始めとする嫌気発酵法によりメタン、エタノール、水素などを生産し、これらを用いて発電を行う方法は、微生物による物質生産過程と生産物を燃料とした発電過程の2段階のステップを必要とするため、エネルギー効率が悪く、装置も複雑になる問題がある。
【0004】
一方、微生物を利用して、アノード周辺の電子供与体からの電子を、アノードとカソードを回路として導通することでカソード周辺の電子受容体(主に溶存酸素)に供与して電流を得る方法が報告されている(下記特許文献1、2、及び3)。これらの方法ではカソードを水中に設置するため、水中での溶存酸素の拡散速度が全体の反応の律速となる可能性が高い。すなわち、水中での溶存酸素の還元反応は水中での酸素の拡散速度が律速となるため、無撹拌時の電極単位表面積当たりの電流量は過電圧に関わりなく20μA/cm2が最大値となる。これは空気中の酸素を用いた場合の値(過電圧200mVで約300mA/cm2)と比較して著しく小さいため、含水有機性物質の酸化及び発電の律速となることが予想される。
【0005】
また、別の例では微生物に電子メディエータ(電子伝達媒体)を加えて、微生物を飢餓状態に維持することによって効率良く電子を取り出す方法が提案されており(特許文献4)、この文献中には、カソードとして酸素または空気極が使用できると記載されている。しかしながら当該文献中には、空気極を用いる場合の具体的な装置の構造などの記載および実施例はなく、問題を解決するための手段として当業者が実施できるようには開示されていない。
【0006】
電子伝達媒体を利用する生物電池技術として、含水有機性物質又はその分解物を基質として、基質と酸素との酸化還元反応を、嫌気性微生物による酸化反応と、酸素の還元反応に分離することによって発電を行う方法が提案されている(下記特許文献3及び非特許文献1〜3)。しかし、これらの方法において用いられている電子伝達媒体の標準電極電位は、一般に生物電池反応に用いられる嫌気性微生物の最終電子受容物質の標準電極電位と重ならず、有効な電位のカスケードを形成できないという問題がある。例えば、これまでに提案されている電子伝達媒体とその標準電極電位は、下記表1のとおりである。
【0007】
【表1】

一方、一般的な生物電池反応に用いられる嫌気性微生物である硫黄還元菌、酸化鉄(III)還元菌の最終電子受容物質である硫黄及び鉄の標準電極電位は、下記表2のとおりである。
【0008】
【表2】

表2より、硫黄還元菌の持つ電子伝達系の末端還元酵素(硫黄還元酵素)は、−0.28Vの標準電極電位を持つ物質を還元することができ、一方、酸化鉄(III)還元菌の持つ電子伝達系の末端還元酵素(酸化鉄(III)還元酵素)は、+0.20Vの標準電極電位を持つ物質を還元することができることがわかる。これらの末端還元酵素は微生物の外膜やペリプラズムに存在しており、菌体外の酸化鉄や0価の硫黄を還元できることから効率的な生物発電のために有効な触媒となり得る。ところが、これまで提案されている電子伝達媒体の標準電極電位は、表1に示すように、A〜Gの電子伝達媒体のいずれも鉄還元の標準電極電位よりも低いので、酸化鉄(III)還元酵素−電子伝達媒体−アノード間で有効な電位のカスケードを形成できない。同様に、表1C〜Gの電子伝達媒体は硫黄還元の標準電極電位よりも低いので、硫黄還元酵素−電子伝達媒体−アノード間で有効な電位のカスケードを形成できない。表1A及びBの電子伝達媒体は硫黄還元の標準電極電位よりも高いので、理論上は硫黄還元酵素による還元が可能であるが、電位差が0.3V以上もあり、生物学的な電子伝達が困難である可能性が高い。その上、発電効率を高めるためにはカソードの酸素還元反応に対してできるだけ大きな電位差を生じさせることが求められるが、電子伝達媒体の電位が高いので0.3V以上の電位差を損失してしまい、エネルギー損失が大きくなる。
【0009】
そこで、硫黄還元菌を用いた生物電池系において、アントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQ-2,6-DS)を嫌気性域に添加することにより電子伝達効率の向上を試みる提案がなされた(非特許文献2)。AQ-2,6-DSの標準電極電位は−0.185Vであり、硫黄還元酵素−電子伝達媒体間で有効な電位のカスケードを形成するのに適当な物質であると考えられる。しかし、提案されている系においては、AQ-2,6-DSは液相中に添加されただけで、アノード(酸化電極)に担持されていないため、電極との反応性が低く、添加効果は24%の電流値増加に留まっている。また、連続的に発電する場合には、嫌気性域内の基質液を更新する際に電子伝達媒体も一緒に系外に排出されてしまい、常に電子伝達媒体を添加し続けなければならない、という問題がある。
【0010】
また、ニュートラルレッドをアノードにアミド結合を用いて担持する試みが提案されている(非特許文献3)。この提案によれば、グラファイト電極の酸化によりカルボキシ基を導入し、ジシクロヘキシルカルボジイミドの共存下でニュートラルレッドと反応させてアミド結合を形成する際、下記構造式:
【0011】
【化1】

中、矢印で示す9位の第二級アミンにカルボキシ基が結合すると考えられる。ところが、9位の第二級アミンに化学修飾を施すことにより、ニュートラルレッドの標準電極電位が大幅に変動し得る。事実、グラファイトに結合したニュートラルレッドのサイクリックボルタンメトリにおける電流値ピークは、−0.42V付近に認められ、遊離の状態での標準電極電位−0.325Vよりも0.1V程度低下している。この変動により、微生物による電子伝達媒体の利用がさらに困難になる。
【0012】
さらに、実用的な発電レベルである0.1mA/cm2程度以上の電流密度を生じる生物電池を構築した場合には、燃料電池において見られるのと同様にカソード側がアルカリ性となり、カソードの電位が低下する。白金触媒を用い、0.1mA/cm2程度の小電流が流れている状態でも、カソード電位は+0.1V程度まで低下することが知られている。このことから、実用的な発電を行うことを目的とした場合には、アノードの電位は+0.1Vよりもできるだけ低い値であることが必要であると考えられる。
【0013】
また、嫌気性域内の基質液を更新しつつ連続的に実用的な発電レベルである0.1mA/cm2程度以上の電流密度を維持するためには、アノード表面に電子伝達媒体となる酸化還元物質を少なくとも1μmol/cm2電極以上、望ましくは10μmol/cm2電極以上の密度でアノード表面に固定化することが求められる。ところが従来の方法では、グラファイトまたはカーボン電極を電気的または化学的に酸化して表面に酸素原子を含む官能基を導入し、これにアミド結合などで酸化還元物質を化学的に固定化するが、酸素原子を含む官能基の導入率に再現性が無かった。具体的には、酸素原子を含む官能基の導入密度が10μmol/cm2電極以下となることが多く、その後のアミド結合反応などの反応収率によっては最終的な酸化還元物質固定化密度が1μmol/cm2電極以下となることが認められ、反応系内における電子伝達媒体の不足によって電流値が制限されてしまう問題があった。
【0014】
酵素電池(センサー素子)関連の技術において、アノード表面に電子伝達媒体を高濃度に担持する方法として、光硬化樹脂とカーボン粉末との混合物に電子伝達媒体を混合してアノード表面に塗布し、紫外線を照射することによって固定化する方法が提案されている(特許文献5)。しかしこの方法を生物発電に応用した場合、樹脂層の内部に埋没した状態の電子伝達媒体については微生物の末端還元酵素または菌体外放出電子媒体(メナキノン誘導体など)と容易に接触できないため、たとえ電子伝達媒体を高濃度に添加しても、結果的に電子伝達媒体をアノード表面に化学結合させた場合と比較して電流値が低下してしまう問題が認められた。
【0015】
一方、蓄電力を持つ電池基材(コンデンサなど)に酸化還元物質を導入する技術において、アミノ基を有するナフトキノンをモノマーとして用い、電解重合によってナフトキノンのポリマーを電極表面に形成させる技術が提案されている(非特許文献4)。同様に、カルボキシ基を側鎖に持つアントラキノンを用い、これを酸クロリド化してピロールの第2級アミン(またはアミノ基を末端に持つアルキル基を結合させたもの)に結合させた後、電気化学的に重合させポリマーとして電極表面に蓄積、吸着させる方法が提案されている(非特許文献5)。これらの方法では酸化還元物質そのものが電極表面に直接重合されるか、または酸化還元物質と結合したモノマー同士がペンダント状に結合(ペンダント重合)したポリマーが電極表面に直接積層されるため、電子伝達媒体の電極表面密度を高くすることができる。また、紫外線硬化樹脂やカーボン粉末によって電子伝達媒体の表面が覆われることが無いため、微生物の酵素または菌体外放出電子媒体(メナキノン誘導体など)と効果的に接触できることが期待される。
【0016】
しかしながら、実際にナフトキノンやアントラキノンを電解重合もしくは化学的にポリマー化させる場合、反応時において有機溶媒への溶解を促進するため、疎水性基の導入または酸クロリド化処理などによって疎水性とする必要がある。そこで、このような疎水性のキノン類をポリマー化させた結果、得られたポリマーフィルム(電子伝達体層)の多くは疎水性であって、そのため水の中の水素イオンを取り込むことができない。一方、有機溶媒中では酸化還元活性を示すものの、特殊な支持電解質を含まない一般的な水溶液の中では酸化還元活性を示さず、電極に必要な導電性を持たないという問題があった。また、この方法で得られる電子伝達媒体担持アノードの酸化還元電位は、例えば2−メチル−5−アミノ−1,4−ナフトキノンを用いてポリマー化した場合、有機電解液の支持電解質として用いられる過塩素酸リチウムを含む酸性水溶液中では酸化還元活性を示すものの、その標準電極電位は水素標準電極に対して+0.2V以上であり、微生物の末端還元酵素または菌体外放出電子媒体(メナキノン誘導体など)と効率よく電子伝達するための標準電極電位(E0’)範囲−0.13V〜−0.28Vから大きく外れてしまうという問題があった。
【0017】
すなわち、水溶液中での酸化還元活性と、pH7における標準電極電位(E0’)範囲が−0.13V〜−0.28Vである性質を保持したまま電子伝達媒体をアノード表面に高密度に固定化させる技術が求められている。
【特許文献1】特開2000−133327号公報
【特許文献2】特開2000−133326号公報
【特許文献3】特表2002−520032号公報
【特許文献4】米国特許4652501号明細書
【特許文献5】特開昭57-69667号公報
【非特許文献1】Roller et al., 1984, Journal of Chemical Technology and Biotechnology 34B: 3-12
【非特許文献2】Bond et al., 2002, SCIENCE 295: 483-485
【非特許文献3】Park et al., 2000, Biotechnology Letters 22: 1301-1304
【非特許文献4】Hubert et al., 2002, Synthetic Metals 128: 67-81
【非特許文献5】高野ら2004、エレクトロオーガニックケミストリー討論会講演要旨集p124-125
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明の課題は、上記のような従来技術の問題点を解決し、簡易な装置により、効率的に含水有機性物質から電気エネルギーを得る方法を提供することにある。
より具体的には、本発明の課題は、電子伝達媒体をアノード表面に高密度に固定化させた電子伝達媒体層を形成し、該電子伝達媒体層に水溶液中での酸化還元活性と、pH7における標準電極電位(E0’)範囲が−0.13V〜−0.28Vである性質を保持させることにより、嫌気性微生物の最終還元酵素−電子伝達媒体−アノード間で有効な電位カスケードを形成し、結果的に十分低いアノード電位を得て、含水有機性物質から効率的に電気エネルギーを得る方法及び装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記の課題を解決するための手段として、本発明は、一方の電極に電子伝達媒体(電子メディエータ)を固定化してアノードとし、他方の電極をカソードとして、前記カソードとアノードとを電力利用対象物(電力利用機器等)に電気的に接続して閉回路を形成し;前記アノードを嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液又は懸濁液と接触させて、前記有機性物質を電子供与体とする微生物による酸化反応を進行させ;前記カソードと前記溶液又は懸濁液とを隔膜を介して離隔して、前記カソードにおいて酸素を電子受容体とする還元反応を進行させ;こうして、生物学的系における酸化反応を促進して発電を行うことを特徴とする生物発電方法および装置において、電子伝達媒体(酸化還元物質)をアノード表面に電気的または化学的に重合(ポリマー化)させることによって高密度に固定化して電子伝達媒体層を形成し、必要に応じて親水化処理を施すことにより該電子伝達媒体層を親水性とし、該電子伝達媒体に水溶液中での酸化還元活性と、pH7における標準電極電位(E0’)範囲が−0.13V〜−0.28Vにある性質を保持させるための方法を提供する。本方法により、微生物から電子伝達媒体を介するアノードへの電子伝達が効率よく行われ、電子がアノードからカソードへ流れて空気中の酸素に受け渡される電気化学反応が円滑に進行する。これにより、含水有機性物質が効果的に酸化分解され、いわゆる生物電池を効率化して電気エネルギーを有効に取り出すことができる。
【0020】
本発明によれば、導電性基材と、該導電性基材に電子伝達媒体を重合により固定化した電子伝達媒体層と、を含み、pH7における標準電極電位(E0’)が−0.13V〜−0.28Vの範囲内であることを特徴とする生物発電用アノードが提供される。
【0021】
本発明において用いることができる導電性基材としては、生物発電装置において用いられる電極基材であって電子伝達媒体を重合により固定化することができる電極基材であることが好ましく、グラファイト、金、白金およびTiO2やSnO2などの金属酸化物又は金属酸化物で被覆した金属などを好ましく挙げることができる。
【0022】
本発明において用いることができる電子伝達媒体は、標準電極電位が上記範囲内にあるか、もしくはアノードに固定化されて電子伝達媒体層を形成した後にさらに親水性基で修飾されたアノードとしての標準電極電位が上記範囲内にあり、酸化型、還元型何れの状態においても環境中で安定である物質(酸化還元物質)で、微生物の呼吸を阻害せず、微生物によって容易に還元され得るものを好ましく挙げることができる。好ましくは、本発明において用いることができる電子伝達媒体は、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体からなる群より選択される酸化還元物質である。具体的には、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルアミノベンゾキノン類(TMABQ)およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる1つ以上の酸化還元物質を挙げることができ、より具体的には、アントラキノン-2-カルボン酸(AQC)、1-アミノアントラキノン(AAQ)、1,5-ジアミノアントラキノン(DAAQ)、アントラキノン-2-スルホン酸(AQS)、1,5-ジアミノアントラキノン-2-スルホン酸(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸(AQDS)、1,5-ジアミノアントラキノンジスルホン酸(DAAQ DS)、2-エチルアントラキノン(EAQ)、2-メチル-1,4-ナフトキノン(MNQ)、2-メチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(MANQ)、2-ブロモ-3-メチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(BrMANQ)、2,3-ジメチル-1,4-ナフトキノン(DMNQ)、2,3-ジメチル-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、2-ヒドロキシ-3-(3-メチル-2-ブテニル)-5-アミノ-1,4-ナフトキノン(ALpQ)、1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸(NQS)、2,3,5-トリメチルアミノベンゾキノン(TMABQ)およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる物質を好ましく用いることができる。本発明において電子伝達媒体(酸化還元物質)として好ましく用いることができる物質の構造式を下記に示す。
【0023】
【化2】

本発明において、電子伝達媒体である酸化還元物質を導電性基材に固定化させる重合方法としては、電子伝達媒体の酸化還元活性を阻害しないような重合方法を用いることが好ましい。また、導電性基材に固定化された電子伝達媒体層は水環境中で安定であって、容易に分解、剥離しない性質及び形態であることが望ましい。本発明者らは、鋭意研究した結果、これらの条件を満たす重合(層形成)方法として、例えば下記表3に示す電解重合、または化学重合方法が適切であることを知見した。
【0024】
【表3】

したがって、本発明において、電子伝達媒体である酸化還元物質を導電性基材表面で電解重合(層形成)させるには、使用する電子伝達媒体と採用する重合方法の組み合わせに応じて、表3に示す方法から適切な結合方法及び化学修飾方法を選択することができる。
【0025】
表3中aの反応系の例として、電子伝達媒体として2-メチル-1,4-ナフトキノン(MNQ)を使用する場合には、MNQの3位の位置に亜硫酸を用いてスルホン酸基を導入した後、dの反応系を行うことができる。
【0026】
同様に、電子伝達媒体として2-エチルアントラキノン(EAQ)を使用する場合には、クロロスルホン酸と接触させることにより、キノン骨格にスルホン酸基を導入し、dの反応系を行うことができる。
【0027】
表3中bの反応系の例として、電子伝達媒体として1,5-ジアミノアントラキノン(DAAQ)を使用する場合には、DAAQを溶解したEt4NClO4液に、例えば導電性基材としてグラファイト電極を浸漬し、撹拌しつつ、水素標準電極に対して1.64Vの電位を30分間印加することにより、DAAQの電解重合ポリマーを電極表面に形成することができる。ただし、このポリマーはこのままでは水溶液中で酸化還元活性を持たないため、次いでSO3ガスと接触させることにより、キノン骨格にスルホン酸基を導入する親水化処理を施して上記ポリマーを親水化させることにより、水溶液と水素イオンの交換を行えるようになり酸化還元活性を示すようになる。
【0028】
表3中cの反応の例として、電子伝達媒体として1,2-ナフトキノン-4-スルホン酸(NQS)を使用する場合には、NQSのスルホン酸基を予め酸クロリド化した後、ピロールのアミノ基と直接スルホンアミド結合を行わせるか、またはピロールのアミノアルキル置換誘導体の末端のアミノ基とスルホンアミド結合を行わせることによりピロールとNQSの結合したモノマーを調製することができる。このモノマーをジクロロメタンに溶解し、導電性基材を浸漬して撹拌を行いつつ、サイクリックボルタンメトリー用電位走査装置を用いて電位を連続走査することによって、上記モノマーを導電性基材表面で電解重合させ、導電性基材を被覆することができる。ただし、このポリマーはこのままでは水溶液中で酸化還元活性を持たないため、次いでSO3ガスと接触させて、キノン骨格にスルホン酸基を導入する親水化処理を施して上記ポリマーを親水化させることにより、水溶液と水素イオンの交換を行えるようになり酸化還元活性を示すようになる。
【0029】
表3中dの反応系の例として、電子伝達媒体としてアントラキノン-2-スルホン酸(AQS)を使用する場合には、AQSを予め酸クロリド化し、アセトン溶媒中、トリエチルアミンの共存下でポリエチレンイミンと撹拌しながら反応させることにより、ポリエチレンイミンのアミノ基にAQSがスルホンアミド結合したポリマーを得る。これを溶媒のトリエチルアミンを取り除いて乾燥させた後、ジクロロメタンに再溶解する。ここにグラファイト電極等の導電性基材を浸漬することにより、上記ポリマーを吸着させてAQSのポリエチレンイミン結合ポリマーを導電性基材表面に形成することができる。このポリマーはこのままでも水溶液中で弱い酸化還元活性を持つが、好ましくは次いで導電性基材をSO3ガスもしくはクロロスルホン酸と接触させることにより、キノン骨格にスルホン酸基を導入する親水化処理を施し上記ポリマーを親水化させることによって、水溶液と水素イオンの交換を効率的に行えるようになり、より高い酸化還元活性を示すようになる。
【0030】
本発明において、電子伝達媒体に親水性基を導入するためのポリマーの修飾方法としては、表3に示したようにスルホン酸基を導入することが反応操作上容易であり収率も高いことから好ましい。しかし、電子伝達媒体であるポリマーを親水化するという目的からは、必ずしも導入する官能基はスルホン酸基でなくても良い。例えば、硫酸と硝酸の混合液と反応させることによりニトロ基を導入し、これをさらに還元することによりアミノ基を導入してもよい。他にも、4-4’−アゾビス−4−シアノペンタン酸を添加して加温することによりカルボキシ基を導入する方法、または2-2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二塩酸塩を添加して加温することによりアミノ基を導入する方法、さらに濃硝酸または次亜塩素酸で処理することによりヒドロキシ基を導入する方法なども用いることができる。このように、本発明において、電子伝達媒体層の親水性は、スルホン酸基、アミノ基、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基から選択される親水性基を前記酸化還元物質に導入することにより付与されたものであることが好ましい。
【0031】
スルホン酸基やニトロ基などの親水性基の導入により電子伝達媒体の標準電極電位は上昇し、一方、アミノ基の導入によって電子伝達媒体の標準電極電位は低下するため、この操作によってポリマーを親水化するとともに、標準電極電位を目的であるE0’−0.13V〜−0.28Vの範囲内になるよう調整することが可能である。実際にはポリマーを固定化して、親水性基で修飾した後の導電性基材(アノード)を用いてサイクリックボルタンメトリーまたは電位シフト試験を行うことにより、アノードのE0’値を測定、評価することができる。この測定結果に従って、さらに修飾する官能基の種類を決定することもできる。
【0032】
また、重合後の電子伝達媒体のE0’値が予想できる場合や、導電性基材に固定化した後での電子伝達媒体の修飾反応が操作上困難な場合や、収率が低い場合には、導電性基材に固定化する前のモノマーの時点で親水性官能基を予め電子伝達媒体である酸化還元物質に導入しておいてもよい。
【0033】
したがって、本発明によれば、導電性基材を準備する工程と、該導電性基材に対して電子伝達媒体を重合させて固定化して電子伝達媒体層を形成する工程と、を含む上述の生物発電用アノードの製造方法も提供される。
【0034】
さらに、導電性基材に固定化された電子伝達媒体のポリマーを親水化処理する工程を含むことが好ましい。この親水化処理は、スルホン酸基、アミノ基、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基から選択される親水性基を導入する処理であることが好ましい。
【0035】
あるいは、本発明によれば、導電性基材を準備する工程と、電子伝達媒体のモノマーを親水化処理する工程と、親水化処理された電子伝達媒体のモノマーを該導電性基材表面で電解重合させて固定化する工程と、を含む上述の生物発電用アノードの製造方法も提供される。
【0036】
いずれの方法においても、導電性基材に対して電子伝達媒体を重合させて固定化する方法としては、上述のように、電子伝達媒体を直接重合又はペンダント重合のいずれかにより導電性基材表面で電解重合させることが好ましい。
【0037】
さらに、本発明によれば、上述の生物発電用アノードを利用する生物発電装置も提供される。
本発明の生物発電装置は、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液及び上述の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する生物発電装置である。
【0038】
含水有機性物質を長期間にわたって連続的に処理する装置に本発明の生物発電用アノードを用いる場合には、含水有機性物質中及びアノード表面において嫌気性微生物が連続的に増殖することから、あまりにも細密な3次元網目構造状、細いチューブ状または隙間の狭い積層板状の構造のアノードを用いると、微生物菌体による流路の閉塞、片流れ、デッドゾーンの形成等により含水有機性物質の分解及び発電効率が低下することが考えられる。このため、アノードの形態は、金網状、多孔質または表面に凹凸または襞がある一次構造であって、3次元網目状、チューブ状または積層板状の空間(含水有機性物質が流入してくる流路)を持つ2次構造を形成しており、かつ上記流路は処理対象となる含水有機性物質の流動性に応じて数mmから数cmの開度を持つことが望ましい。
【0039】
本発明において、好気性域であるカソード側では、酸素を電子受容体とする還元反応が進行する。カソードの少なくとも一部を、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維材料で構成し、その空隙中に水/空気の接触界面、すなわち空気(酸素)と水とを隣接させる場を構築することが好ましく、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めて、空気中の酸素の還元反応(電極反応)を促進できる。例えば、微細孔を有する導電性の多孔質材料に樹脂バインダで導電性粒子(カーボン、不活性金属、金属酸化物など)を結着したものをカソードとして用いることで、毛細管現象及び表面の親水化等により水を効果的に吸い上げて、微細孔内部に水/空気の接触界面を形成させて、空気中の酸素と水とを効率良く接触させて酸素の還元反応を促進することができる。
【0040】
さらに、カソードに白金族元素、銀、遷移金属元素から選ばれる少なくとも一種類を含有する合金あるいは化合物からなる触媒を担持することが好ましく、空気中の酸素の還元反応(電極反応)を促進することができる。白金族元素とは白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)またはイリジウム(Ir)を指し、いずれも電極触媒として有効である。また、ニッケル(Ni)、ビスマス(Bi)、チタン酸化物をドープした銀粉末を担持したもの、ファーネスブラック又はコロイド状グラファイトに銀を担持したもの、鉄(Fe)、コバルト(Co)、フタロシアニン、ヘミン、ペロブスカイト、Mn4N、金属ポルフィリン、MnO2、バナジン酸塩、またはY2O3-ZrO2複合酸化物を用いたものも電極触媒として好ましく用いることができる。
【0041】
本発明において、アノードとカソードとは電力利用機器等に電気的に接続されて、両者間で電子交換を行って閉回路を形成する。その一方で、有機性物質の還元能を無駄なく電気エネルギーとして取り出すためには、有機性物質が酸化剤(被還元物質)、即ち空気中の酸素と接触して還元能を消費させないように、上記有機性物質と空気中の酸素が接触しないように両者を隔離することが好ましい。これらの条件を同時に満たすためには、カソードと嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液又は懸濁液とを隔膜、例えば固体高分子隔膜で隔てることが望ましい。このような構造をとることにより、カソードは空気中の酸素と容易に接触することができ、また上記隔膜中に存在する水を介して水素イオンの受給または水酸化物イオンの排出を行うことができる。また、隔膜はできるだけ空気中の酸素を透過しないものがよく、アノード側、即ち有機性物質に酸素が浸透して有機性物質の還元能を低下させることを防ぐことが望ましい。
【0042】
このような隔膜としては、親水性があり高い陽イオン交換能を有するスルホン酸基を有するフッ素樹脂系イオン交換膜(陽イオン交換膜)や、第4級アンモニウム塩を有する水酸化物イオン(陰イオン交換膜)などが好ましく用いられる。また、より安価な隔膜として主鎖部のみをフッ素化したフッ素樹脂系イオン交換膜や、芳香族炭化水素系膜も利用できる。このようなイオン交換膜としては、例えばIONICS製NEPTON CR61AZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA CM-1または同CMB、旭硝子製Selemion CSV、IONICS製NEPTON AR103PZL、トクヤマ製NEOSEPTA AHA、旭硝子製Selemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。陽イオン交換膜は、カソードでの酸素の還元に必要な水素イオン及び水をアノードからカソードへ供給するために用いることができ、陰イオン交換膜は、水と酸素との反応から発生した水酸化物イオンをカソードからアノードへと供給するために用いることができる。
【0043】
また、嫌気性域と好気性域とを隔離するために用いる隔膜としては、陰イオン交換膜を用いることもできる。具体的には、アンモニウムヒドロキシド基を有するヒドロキシドイオン交換膜を好ましく挙げることができる。このような陰イオン交換膜としては、例えば、IONICS製NEPTON AR103PZL-389、トクヤマ製NEOSEPTA ALE、旭硝子製Shelemion ASVなどの市販製品を好ましく用いることができる。この場合、嫌気性域に存在する有機酸などの陰イオン性の有機性物質が隔膜を透過して好気性域に至る(いわゆるクロスフローの現象)と、そこで酸素の消費が行われて有機物が無駄に酸化されるとともに好気性域において好気性の微生物が増殖してカソードを汚染することになるので、用いる陰イオン交換膜は分子篩い効果を持ち、酢酸などの分子量60以上の陰イオンを透過しにくい性質を持っていることが望ましい。このような性質を持つ陰イオン交換膜としては例えばアストム製ネオセプタALE04-4 A-0006膜がある。
【0044】
さらに、本発明において用いることができる隔膜としては、官能基を有しないMF(マイクロフィルタ)、UF(ウルトラフィルタ)膜やセラミック、焼結ガラス、アスベストなどの多孔質濾材、ナイロン、ポリエチレン、ポリプロピレン製の織布等を用いることができる。これらの官能基を有しない隔膜は、孔径が5μm以下で、非加圧条件でガスを透過しないものが好ましく、例えば、Schweiz Seidengazefabrik製のPE-10膜、Flon Industry製のNY1-HD膜などの市販品を好ましく用いることができる。
【0045】
本発明の生物発電装置において、嫌気性域は、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物の呼吸反応により、有機性物質由来の電子が微生物体内の電子伝達系を介して最終的にアノードに受け渡される微生物の酸化反応を進行させる微生物反応室でもあり、好気性域は、酸素を電子受容体とする還元反応を進行させる空気反応室でもある。本生物発電装置の嫌気性域には、嫌気性微生物とアノードの間で電子を伝達するために適切な電位を有する電子伝達媒体(電子メディエータ)が重合により固定化されているアノードを設けているので、微生物の最終還元酵素−電子伝達媒体−アノード間で有効な電位カスケードが形成される。
【0046】
本生物発電装置において、嫌気性域(微生物反応室)と好気性域(空気反応室)を画定するための隔膜が陽イオン交換膜である場合、カソードにおいて水素イオンを利用する還元反応は、水素イオン濃度条件によっては本発明の発電に関与する全体の反応速度を制限する場合がある。すなわちアノードでの酸化反応が微生物によるものであるため、極端な酸性条件は微生物の活性を阻害するという理由で好ましくない可能性もある。また、水素イオン濃度が低濃度である場合、例えば、pH5以上の条件でアノード側において水素イオンが発生し、該水素イオンが拡散により陽イオン交換膜を透過してカソード側に供給されることとなる。このとき、カソード側における水素イオン濃度は10-5mol/L程度またはそれ以下と見積もられる。このように水素イオン濃度が低濃度条件になるとカソード側における酸素還元反応の速度が低下することとなり、また、アノード側の水素イオンが効率的にカソード側へと移動しないことも予想される。すなわち、このような場合には電池を形成する支持電解質としての電気抵抗(内部抵抗)が大きくなる可能性がある。一方、この反応系の利点は、常にアノード側からカソード側へと水および水素イオンの供給が行われるためにカソード側への水分の供給が充分に行われ、カソード側の酸素が膜を介してアノード側へ透過してアノード側の還元能を消費してしまう、いわゆるクロスフローの問題が生じにくいことである。
【0047】
陽イオン交換膜を嫌気性域と好気性域の間の隔膜として用いた場合、カソード側の反応においては、空気中の酸素を消費して水が発生する。このため常に換気を行って酸素を補給するとともに、水分を除いてカソードが過度に濡れるのを防ぐ必要がある。ただし、このとき供給する空気の湿度及び流量によってカソード側の保水量が変化するため、乾燥−加湿の制御は適宜行うことが望ましい。空気の供給及び排出による換気の方法としては、開放系で自然に対流置換させる方法、カソードの周囲を外殻で被包して空気室を設けて、空気室内を通風機により強制換気する方法、同じく空気室を設けて、酸化還元反応により生じる熱で空気室内を暖め、対流を生じさせて空気と水蒸気を上昇させて換気する方法が考えられ、本発明の装置を設置する場所、規模等の条件に合わせて換気方法を採用することが好ましい。
【0048】
一方、陰イオン交換膜を嫌気性域と好気性域の間の隔膜として用いた場合、すなわち、好気性域において水と酸素から水酸化物イオンを発生させる反応系を採用した場合には、好気性域は嫌気性域と比較して水の保持量が非常に小さいため、アノードでの水素イオン発生量と等モルの水酸化物イオンをカソードにおいて発生させれば、カソード側のpH、すなわち水酸化物イオン濃度を非常に高くすることができる。高濃度の水酸化物イオンは効率良く陰イオン交換膜を透過するので、支持電解質の電気抵抗(内部抵抗)を小さくすることができる。一方、この反応系は、常にカソード側からアノード側へのイオン移動が行われるためにカソード側への水供給が難しくなること、および上記イオン移動に伴ってカソード側の酸素が膜を介してアノード側へ透過してアノード側の還元能を消費してしまう、上述したクロスフローの問題が生じる可能性が有るという課題がある。
【0049】
さらに、カソード側の反応においては、酸素とカソード表面の水が消費され、水酸化物イオンが発生する。このため、常に換気を行って酸素を補給するとともに、水分を補給してカソードが乾燥するのを防ぐ必要がある場合がある。特に、換気空気が乾燥している場合、アノード側からの浸透による水供給速度がカソードでの蒸発および還元反応による水消費速度を下回る場合には、該換気空気を加湿するか、水蒸気を添加することによりカソードへ水分を供給することが望ましい。
【0050】
以上のように、嫌気性域と好気性域の間の隔膜として利用される陽イオン交換膜および陰イオン交換膜は、発電反応に関与する反応系を大きく変える効果を持ち、それぞれ長所と改善すべき課題を持つので、どちらを採用するかは装置の構造や用途、含水有機性物質の性質に応じて判断すべきである。
【0051】
また、水素イオンまたは水酸化物イオンの移動効率を高めるためには、カソードと上記隔膜との間の距離はなるべく短いほうが良く、装置構造上可能であれば両者は接合していることが望ましい。特に、隔膜の一部がカソード電極の多孔質構造内部の空隙内に網目状に侵入して結合していると、多孔質構造中に含まれる空気と隔膜に含まれる水とで形成される水/空気接触界面の面積が飛躍的に増大するので、空気中の酸素を還元する反応効率が増大して発電性能を高めることができる。
【0052】
同様に、水素イオンまたは水酸化物イオンの移動を容易にし、電解液系の電気抵抗を小さくするために、アノードと上記隔膜との距離もなるべく短くすることが望ましく、アノードと隔膜とが接触もしくは接合していることが好ましい。但し、この場合には、含水有機性物質が隔膜と接触してその中の水が隔膜に吸収されるようにするために、アノードは透水性を有する形態、例えば多孔質材料や網状材料で構成したり、或いは通水孔を有する形態、例えば格子状若しくは櫛状の形態とすることが必要である。また、アノードと隔膜とを接触させて配置することが装置の構造上困難な場合は、例えば、撹拌または循環水流を生じさせてアノードと隔膜との間を循環する水流を作るようにし、水素イオンまたは水酸化物イオンの移動を容易にすることが望ましい。
【0053】
また、本発明の生物発電装置においては、有機性物質の電子を効率よくアノードに受け渡すことができるように、アノードの表面積を大きくすることが好ましい。また、アノードが有機性物質と効率よく接触し、アノードとカソードとの間でイオン交換が効率よく行われると同時にアノードとカソードとが電気的には絶縁していることが好ましい。そこで微生物反応室及び酸素反応室を内部に画定する反応容器の形態は、例えばアノードを筒型、例えば円筒形としてその中を有機性物質が流れる構造として、アノードとカソードとを隔膜を挟む3層状構造とすることが好ましい。また、含水有機性物質や増殖した微生物菌体が滞留するようなデッドゾーンを形成しないように考慮すべきである。このための一つの手法として、有機性物質とアノード電極との接触効率を上げるために、撹拌装置もしくは循環水流発生装置を反応容器内部に設けることが好ましい。また、反応容器を気密な構造とする場合は、嫌気性ガスが容器内に蓄積して有効容積が低下することを防止するため、なんらかのガス抜きの機構を備えることが望ましい。この嫌気性ガスは流路を空洗する方法に利用することもできる。また、嫌気性域に嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物及び有機物質を含む溶液又は懸濁液の供給機構及び排出機構を設け、好気性域に酸素又は空気の供給機構及び排出機構を設けることも好ましい。
【0054】
本発明の生物発電方法は、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、上述の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する生物発電方法である。
【0055】
本発明においては、電子伝達媒体が固定化されたアノードを嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物及び有機性物質を含む溶液又は懸濁液と接触させて、有機性物質を電子供与体とする微生物による酸化反応を進行させる。このアノード側での反応、有機性物質を電子供与体とする微生物による酸化反応は、含水有機性物質中で嫌気性微生物(通性又は絶対嫌気性微生物)によって生化学的に触媒され、主に微生物の嫌気呼吸により、有機性物質由来の電子が微生物体内の電子伝達系を介して最終的にアノードに受け渡される。したがって、本発明に係る発電反応を効率よく進行させるためには、微生物の細胞膜内で電子伝達系を終結するものではなく、細胞外膜(細胞膜外)で電子をアノードで捕捉しやすい、アノードへの電子伝達を触媒するような微生物を利用することが望ましい。このようなアノードへの電子伝達を触媒する微生物としては、硫黄S(0)還元菌、酸化鉄(III)還元菌、二酸化マンガンMnO還元菌、脱塩素菌などが好ましく用いられる。このような微生物として、例えばDesulfuromonas sp.、Desulfitobacterium sp.、Geobivrio thiophilus sp.、Clostridium thiosulfatireducens sp.、Acidithiobacillus sp.、Thermoterrabacterium ferrireducens sp.、Geothrix sp.、Geobacter sp.、Geoglobus sp.、Shewanella putrefaciens sp.などが特に好ましく用いられる。特に、硫黄還元菌は、最終電子受容体である硫黄の標準電極電位が−0.28Vと非常に低いので、酸化鉄(III)還元菌よりも低い電位を有する電子伝達媒体(電子メディエータ)に電子を伝達することができ、エネルギー的に有利である。このような硫黄還元活性を有する微生物として、例えば、Desulfuromonas sp.、Desulfitobacterium sp.、Geobivrio thiophilus sp.、Clostridium thiosulfatireducens sp.、Acidithiobacillus sp.などが好ましく用いられる。
【0056】
これらの微生物は、含水有機性物質中において主要な微生物ではないことが多いため、本発明の方法を実施するにあたっては、最初に、アノード側にこれらの微生物を植菌し、アノード表面にこれらの微生物が主に付着している状態を形成しておくことが好ましい。これらの微生物が優先的に微生物反応室内で増殖するために、アノードに電子を渡すことによる呼吸反応(電極呼吸)が酸発酵やメタン発酵よりもエネルギー的に有利である場の面積を大きくすべきであり、具体的には微生物反応室内のアノード表面積をなるべく大きくすることが好ましい。また、アノード表面に微生物を付着させた後、嫌気性域(微生物反応室)内にこれらの微生物の増殖に適当な培地を供給することが望ましく、さらにアノードの電位を高く維持することにより、アノード表面でのこれらの微生物の増殖を促すことがより望ましい。これらの微生物(群)を前培養もしくは微生物反応室内で培養するための方法として、これらの微生物(群)の培地として報告されているスラリー状の硫黄、酸化鉄(III)、二酸化マンガンなどを電子受容体とする培地を好ましく用いることができ、例えばHandbook of Microbial Media (Atlasら1997, CRC Press)に記載されているAncylobacter/Spirosoma培地、Desulfuromonas培地、Fe(III) Lactate Nutrient培地などが好ましく用いられる。
【0057】
本発明において用いる有機性物質の性状は、嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物が増殖するアノード周辺に分子状酸素を供給しないように液体状または懸濁液、あるいは固形分の間隙が水で飽和している状態であることが望ましい。アノード周辺での有機性物質の酸化反応は主に微生物による呼吸反応によって触媒されることから、アノード周辺内に投入される有機性物質は固形分の粒径が小さく、水中によく溶解または分散し、低分子であることが望ましく、また、微生物にとって易分解性の物質であることが望ましい。使用する有機性物質の種類によりこれらの条件が満たされない場合には、物理的、化学的または生物学的な前処理を行って有機性物質の微生物分解性を高めることができる。そのような方法としては、例えば、粉砕機による破砕、熱分解、超音波処理、オゾン処理、次亜塩素酸塩処理、過酸化水素処理、硫酸処理、微生物による加水分解、酸生成、低分子化処理が考えられる。これらの前処理に要するエネルギーは、前処理による主反応容器での発電エネルギーの向上とのバランスを考え、最適な前処理条件を選ぶことができる。
【0058】
また、使用用途に応じて、経時的に上記流路を水洗または空洗して余剰の微生物菌体及び菌体外分泌物を除去することが望ましい。この際、空洗に使用する気体に酸素が含まれると、嫌気性域(微生物反応室)である反応容器中の嫌気性微生物に悪影響を及ぼす可能性があるため、不活性ガスまたは反応容器中で発生した嫌気性のガスを利用することが望ましい。
【好ましい実施の形態】
【0059】
以下、添付図面を参照しながら、本発明による発電装置をより具体的に説明する。以下の記載は、本発明の技術思想を具現化する幾つかの具体的形態を説明するもので、本発明はこの記載に限定されるものではない。
【0060】
図1は本発明の一態様に係る生物発電ユニットの具体例である。例えば、図1に示す本発明の生物発電装置の一具体例は、電子伝達媒体(電子メディエーター)が重合により固定化されているアノード1を含む嫌気性域4、隔膜(電解質膜)2、および多孔質カソード3を含む好気性域5が三重の筒状体をなすことによって構成される。筒状体の最内隔空間形態である嫌気性域4に嫌気性条件下で生育可能な微生物及び有機性物質(「基質」ともいう)を含む溶液又は懸濁液を流し、筒状体の最外隔空間形態である好気性域5には分子状酸素を含む空気を存在させる。好気性域5には、分子状酸素を供給する手段(図示せず)が設けられている。好気性域5内に配置されている多孔質カソードは、カソードの少なくとも一部が、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維状材料によって形成されている。嫌気性域4と好気性域5とを隔離する隔膜2は、物質交換係数が大きな隔膜、たとえばDuPont社製のNafion、アストム社製ネオセプタなどの固体高分子電解質膜で構成されている。
【0061】
嫌気性域4内では、有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応が進行し、好気性域5内では、酸素を電子受容体とする還元反応が進行する。こうして、アノード1とカソード3の間に電位差が生じる。この状態でアノード1とカソード3とを導線6によって電力利用機器に電気的に接続することにより電位差電流が流れ、一方、電解質膜2を介して嫌気性域4と好気性域5の間でイオンが移動することにより、閉回路が形成される。反応が進行するにつれて、嫌気性域4には水素イオンが発生し、嫌気性域の水溶液は酸性を呈する。一方、好気性域5には水酸化物イオンが発生して好気性域5内に発生する水はアルカリ性溶液となる。
【0062】
好気性域5内に発生するアルカリ性水溶液を適宜回収して嫌気性域4内へ注入する流路(図示せず)を設けてもよい。この流路を通してアルカリ性水溶液を好気性域5から嫌気性域4に循環させることにより、嫌気性域4の水素イオン濃度が極端に上昇して微生物の呼吸活性を阻害したり、導入した塩基性官能基の中和能力を越えてしまったりするのを防ぐことができる。
【0063】
発電ユニットを構成する筒状体の内径は、基質の流動性に応じ、数mmから数cm、場合によっては数十cmに設定することができる。図1に示すような発電ユニットは、適当な材料の支持層またはケーシングで保持することによりその物理的強度を増すことができる。この場合、筒状体を更に外殻で被包して外殻と筒状体との間の空間を空気室とし、空気室に空気を供給及び排出する手段を形成するようにしてもよい。
【0064】
図示した実施形態においては、アノード1、隔膜2及びカソード3を円筒形とする3層構造を採用し、隔膜2を介してアノード1とカソード3とを配置している。このような構成とすることによって、アノード1及びカソード3の表面積を大きくし、アノード1が基質と効率良く接触して基質の動かないデッドゾーンをできるだけ小さくすることができるので、アノード1とカソード3との間でイオン交換が効率良く行われると同時に、アノード1とカソード3は電気的に絶縁され、有機性物質(基質)の電子が効率良くアノード1に受け渡されることになる。また、多孔質カソード3の空隙中に空気と水との接触界面を存在させた状態で空気と接触させることにより、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることができ、電極上での酸素の還元反応を効率良く進行させることができる。
【0065】
図1に示すような三層筒状体の本発明に係る生物発電装置においては、用途に応じてアノードを含む嫌気性域を外側に、カソードを含む好気性域を内側に配置し、好気性域に空気を流通させる手段を配して該装置を基質液中に設置することで、発電運転を行うこともできる。また、この場合、筒状体を例えばU字型に形成し、両端を基質液の液面から出して、筒内部の空間に空気が流通できるようにしてもよい。このように好気性域を内筒とする構成の場合には、好気性域の内筒の内径を数mm程度またはそれ以下に小さくしても閉塞の生じる心配がない点が有利である。更に、三層筒状体において、内側の筒状体を多孔質カソードを含む好気性域、外側の筒状体をアノードを含む嫌気性域とすると、カソードに比較して外側のアノードの表面積を大きくすることができるので有利である。さらにアノードの表面積を広くするため、アノードの表面に凹凸や襞をもたせることも可能である。一方、カソード側の内径は、反応効率も関係するが、空気が容易に流通するだけの径があれば良く、閉塞の危険性がほとんどないため、内径を数mm程度またはそれ以下まで小さくすることが可能である。この場合、筒状体を更に外殻で被包して筒状体の外側空間を基質の流れる微生物反応室とし、微生物反応室に基質を供給及び排出する手段を配置することによって装置を構成することができる。
【0066】
また、図1に示すような筒状形態又は他の形態の生物発電ユニットを複数個並べて生物発電装置を構成することもできる。例えば、図2には、図1の生物発電ユニットを複数個並べた形態を示し、図4には平板状の生物発電ユニットを3個並べた形態を示す。
【0067】
図2に示す生物発電装置においては、図1に示すようなアノードの内筒1、隔膜2及びカソードの外筒3から構成される三層筒状体(発電ユニット)50が複数本、外殻によって形成される空気室7の中に配置されている。基質は、流入ポンプ8により流入部9を介して複数配置された発電ユニット50の内部4へ分配注入される。ここで酸化分解を受けた基質は、流出部10を介して反応容器の外へ出た後、処理済み基質11として系外へ排出される。また、基質の一部は循環ポンプ12により再び流入部9へ戻される。この循環流によってアノード1と基質の接触が促進される。反応容器内に蓄積した微生物菌体及び汚泥は、経時的に余剰汚泥排出口13を開くことにより排出される。また、同じく13より、水、不活性ガス、嫌気ガスを注入することにより反応容器内を逆洗、空洗することができる。反応容器内で嫌気性ガスが発生した場合は、排気口19から排出することができる。この嫌気性ガスを貯留して空洗に使用してもよいことは上述したとおりである。
【0068】
一方、多孔質カソード3に酸素を供給するため、ブロワ14を用いて空気室7へ通気を行うことができる。ただし用途に応じて強制換気が必要でない場合には、空気室7を取り外して、各発電ユニット50の外筒であるカソード3が外気に触れるように装置を構成してもよい。通気された空気は、空気室7内の発電ユニットの間の空間5を流れ、カソード3と接触した後に、排気口15から排出される。また、カソードでの還元反応により生成した水は、水蒸気として排気口15から排出されるか、凝縮水として凝縮水ドレイン16から排出される。
【0069】
導線6は、アノードとの接続部17により複数の発電ユニット50の内筒1に、またカソードとの接続部18により複数の発電ユニット50の外筒3に電気的に接続される。この際、導線6は、周囲の環境と電気的に絶縁し、電気的短絡及び導線表面での酸化還元反応が起こらないようにすることが必要である。
【0070】
なお、図2に示す装置についても、図1に関して上記に説明したのと同様に、カソードを内筒、アノードを外筒として各発電ユニットの筒状体50を構成し、各筒状体50内部空間へ空気を供給し、発電ユニット50の筒状体の外側のアノードに基質を接触させるようにすることもできる。
【0071】
カソードについては、いかに効率良く電極上での酸素の還元反応を進行させるかが課題となる。このためには、カソードの少なくとも一部を、構造体内に空隙を有する導電性の多孔質材料、網状又は繊維状材料によって形成して、このカソードの空隙中に空気と水との接触界面を存在させた状態で空気と接触させることにより、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることが好ましい。
【0072】
図3に本発明の生物発電装置において採用することのできるカソードの構造の一例を断面図で示す。図3(A)は、隔膜2及びカソード3の構造の断面を示したものであり、図3(B)は、図3(A)を空気室側5から見た図である。また、図3では、隔膜2が陽イオン交換膜である場合の反応系を示す。図3に示すカソードは、多孔質のマトリックス20に、好ましくは白金族元素、銀、遷移金属元素から選ばれる少なくとも一種類を含有する合金あるいは化合物からなる触媒21を担持する構造を有し(図3−A)、空気室側5から見た場合網目状の構造を呈している(図3−B)。このような構成を取ることにより、カソードが、水面または隔膜を経由する水を基材の親水性によって吸い上げつつ空気中の酸素と接触することができ、電極のミクロな構造中に空気ネットワーク22と水溶液ネットワーク23を持つことによって空気/水接触界面の面積を増大させ、空気中の酸素および水面の水に接触する効率を高めることができる。酸素と水素イオンが触媒21上で反応することにより、空気中の酸素の還元反応を促進することができる。
【0073】
図3(C)に、本発明の生物発電装置において採用することのできるカソード構造の別の一例を示す。図3(C)においても、隔膜2が陽イオン交換膜である場合の反応系を示す。図3(C)に示すカソードは、隔膜2と同じ材料からなる溶液を、多孔質のマトリックス20の隔膜2との接合面側に塗布して乾燥させることによって、隔膜構造体の一部を多孔質マトリックス20の微細孔内部に浸入させたものである。このような構成を取ることにより、イオン交換および触媒の利用率を向上させ、空気中の酸素の還元反応を促進することができる。
【実施例】
【0074】
以下、実施例により本発明を詳述するが、これらは本発明を何ら限定するものではない。
【0075】
[実施例1]
図4に示す実験室用の生物発電装置を用い、電子伝達媒体として1,5−ジアミノアントラキノン−2−スルホン酸(DAAQS)を導電性基材(多孔質グラファイト)に表3中bの直接電解重合法を用いて重合させて固定化させて電子伝達媒体層を形成した本発明の生物発電用アノードを用いた場合(実施例1)と、電子伝達媒体を固定化させず、電子伝達媒体なしで電極反応を行う微生物を液相に添加した場合(対照1)の発電性能を比較した。
【0076】
生物発電装置は、1辺の長さ100mm、厚さ10mmのセルフレーム2枚(25、26)を隣接配置し、セルフレームの両側に同寸のセパレーター24を2枚積層させてセパレーター24を両側面とする積層構造体とした。この積層構造体の内部に、アノード1、隔膜2として陽イオン交換膜(DuPont製Nafion)及びカソード3として白金を担持したカーボンペーパーをこの順番に接触配置し、燃料電池において一般的に行われるホットプレス法を用いてアノード1、隔膜2、カソード3の順に接着させ、一方のフレーム24とアノード1との間に嫌性域31を、他方のフレーム24とカソード3との間に好気性域32を形成した。この積層構造体を互い違いに3ユニット積層し、隣接するユニット間のフレーム24は共用させて、実験用の発電装置を構成した。3ユニット間の嫌気性域31、31’、31”には基質液流路27−28を、好気性域32、32’、32”には空気流路29−30を形成した。また、図示していないが、各アノード1及び各カソード3を導線により電気的に直列に接続して、電流量計(電力利用機器)を介して閉回路を形成した。電流量計を含む回路の外部抵抗は10Ω以下であった。
【0077】
注入口27より、含水有機性物質のモデルとして0.1mol/Lのグルコース水溶液に0.01g/Lのイーストエキストラクトを混合して調製した基質液を注入し、各嫌気性域31、31’、31”を通過させた後、排出口28より排出するようにした。また、注入口29より空気を通気し、各好気性域32、32’、32”を通過させた後、排出口30より排気するようにした。本装置において3つの発電ユニットを合わせた有効容積は、嫌気性域(微生物反応室)及び好気性域(空気反応室)ともに108mLであり、滞留時間が、基質液は500分間、空気は0.5分間となるように供給速度を調整した。電極の総表面積は、アノード、カソードともに108cm2とした。
【0078】
嫌気性域31、31’、31”には、運転開始前に嫌気性微生物集積培養体を0.5g添加した。運転開始から10日間は、微生物が嫌気性域(微生物反応室)内に付着するのを待つため通液を行わず、Handbook of Microbial Media (Atlasら1997, CRC Press)に記載されているDesulfuromonas培地を嫌気性域(微生物反応室)側に充填して硫黄還元菌の優占化を促した。その後10日間は、基質液の滞留時間を2日間として予備運転を行い、予備運転開始の20日後より嫌気性域内での滞留時間を500分間とする通常運転にして、アノード、カソード間の電流量及び電圧を測定した。
【0079】
生物発電装置に装備したアノード1は、導電性基材であるカーボンペーパー(Electrochem 社製EC-20-10-7、多孔質グラファイト)に、電子伝達媒体であるDAAQSを電解重合法によって重合させ固定化させることにより形成した電子伝達媒体層を有するものであった。このとき、DAAQSは導電性基材上に80μmol/cm2の密度で固定化されていた。電子伝達媒体1,5−ジアミノアントラキノン−2−スルホン酸(DAAQS)のポリマー化、導電性基材への重合による固定化は以下の通り行った。
【0080】
市販の1,5−ジアミノアントラキノンに等モルのクロロスルホン酸を反応させてスルホン酸クロリド基を導入した。これにカーボンペーパー電極を浸漬し、撹拌しつつ水素標準電極に対して1.64Vの電位を30分間印加することによりDAAQSの電解重合ポリマー層をカーボンペーパー電極表面に形成させた。ついでこれをメタノールで洗浄後、水中に晒すことにより酸クロリド基を加水分解しスルホン酸基に戻した。このアノードを用い、pH7の水溶液中において印加電位を−0.28V〜−0.18V(水素標準電極電位)までシフトすることによって放電が行われたことから、該アノードの標準電極電位E0’は−0.28V〜−0.18Vの間にあると考えられる。
【0081】
対照1として、アノードに電子伝達媒体を固定化させていないカーボンペーパーを用い、嫌気性微生物集積培養体のかわりに、電子伝達媒体なしで電極反応を行う微生物として知られるShewanella putrefacienceの培養菌体を各嫌気性域に0.5gずつ添加した系を用いて同様の試験を行った。運転開始から10日間は、微生物が嫌気性域(微生物反応室)内に付着するのを待つため通液を行わず、ATCC培地#18のTrypticase Soy Broth培地を嫌気性域(微生物反応室)側に充填してShewanella putrefacienceの増殖とアノードへの付着を促した。
【0082】
上記実施例1及び対照1においては、予備実験期間中を含めて、常にカソード・アノード間は電気的に接続した状態とした。試験結果を表4に示す。
【0083】
【表4】

測定期間中の平均発生電流は、カーボンペーパーにDAAQSを直接電解重合法を用いて固定化させたアノードを用いた場合(実施例1)の方が、電子伝達媒体を添加せず、非修飾のカーボンペーパーをアノードとして用いてShewanella putrefacience菌を添加した場合(対照1)に比べて、約300倍の高い電流量を発生したことがわかる。この結果より、電子伝達媒体なしで電極反応を行うとされる微生物を用いても、発生する電流量は、適正な電子伝達媒体を電極表面に電解重合により固定化させた本発明の生物発電用アノードを用いた場合に及ばないことが認められた。
【0084】
[実施例2、3]
図4に示す実験用の発電装置を用い、表3中cの電解重合法を用いて、電子伝達媒体2−メチル−1,4−ナフトキノン(MNQ)をピロールモノマーと結合させてモノマーを形成し、次いでモノマーの電解重合法によって導電性基材(白金被覆Ni-Cr発泡金属電極、厚さ0.5mm)に固定化させて電子伝達媒体層を形成したアノードを用いた場合(実施例2)と、上記MNQ固定化導電性基材をさらにSO3ガスで処理してスルホン酸基を導入して親水性を付与したアノードを用いた場合(実施例3)、白金被覆Ni-Cr発泡金属電極表面にMNQを光硬化性樹脂(例えばエポキシアクリレート)およびグラファイト粉末と混合して塗布した後、水銀ランプによって紫外線を照射し硬化させることによって固定化させたアノードを用いた場合(対照2)の発電性能を比較した。
【0085】
発電ユニットの構成及びアノード以外の実験条件は、実施例1と同様とした。電子伝達媒体2−メチル−1,4−ナフトキノン(MNQ)の重合による導電性基材への固定化は以下の通り行った。
【0086】
市販のMNQ5g(26mmol)を20%(v/v)クロロスルホン酸/ジクロロメタン溶液100mLに溶解させ、濃硫酸2mLの共存下で室温で20時間反応させてスルホン酸クロリド化した。これを等モルのピロールのアミノヘキシル置換誘導体と反応させ、スルホンアミド結合を行わせることにより、ピロールとMNQの結合したモノマーを調製した。このモノマーをアセトニトリルに50mmol/Lの濃度となるように溶解し、過塩素酸リチウムの共存下で白金被覆Ni-Cr発泡金属電極を浸漬して撹拌を行いつつ、水素電極に対して0V〜1.7Vの範囲で50mV/sの速度で30分〜2時間、サイクリックボルタンメトリー用電位走査装置を用いて電位を連続走査することによって、上記モノマーを導電性基材表面で電解重合させ、電子伝達媒体層を導電性基材上に形成させ、本発明の生物発電用アノードとした。このとき、反応時間を調整することによって、上記モノマーの電極被覆密度が約80μmol/cm2となるようにした。これを実施例2におけるアノードとして使用した。該アノードの標準電極電位E0’は−0.21V〜−0.16Vの範囲内にあった。
【0087】
実施例3に用いるアノードは、上記MNQ固定化アノードをさらに30%(v/v)SO3ガス/N2ガス雰囲気中で2時間処理して、スルホン酸基を導入したものを使用した。スルホン酸基を導入したアノードを充分に水洗した後、1g/Lの塩化ナトリウム水溶液に浸漬し、24時間撹拌した。その後、該アノードを取り出し、残った液を水酸化ナトリウムでpH8.5まで滴定し、消費された水酸化ナトリウムのモル量からスルホン酸基の導入密度を評価したところ、該アノードのスルホン酸基導入密度は65μmol/cm2であった。また、該アノードの標準電極電位E0’は−0.21V〜−0.16Vの範囲内にあった。
【0088】
対照2に用いるアノードは、特許文献5に記載の方法に準拠し、MNQ1.5gと光硬化性樹脂としてエポキシアクリレート2.5g、グラファイト粉末0.75g、光増感剤0.125gを酢酸エチル7.5mLに溶解させた後、白金被覆Ni-Cr発泡金属電極に塗布、乾燥後に水銀ランプを15分間照射して硬化させたものを用いた。対照2においても、塗布、硬化後のMNQによる電極被覆密度が約80μmol/cm2となるように調整した。該アノードの標準電極電位E0’は−0.23V〜−0.18Vの範囲内にあった。
【0089】
実施例2及び3並びに対照2で得たアノードを用いて図4に示す生物発電装置で行った発電試験結果を表5に示す。
【0090】
【表5】

発生した電位差(電圧)には大きな違いはなかったが、発生電流は、白金被覆Ni-Cr発泡金属電極にMNQをピロールモノマーとの結合及び該モノマーの電解重合法によって固定化させたアノードを用いた場合(実施例2)の方が、MNQ紫外線硬化樹脂担持電極をアノードとして用いた場合(対照2)に比べて、2.5倍の高い電流量を発生したことがわかる。また、実施例2の電極にさらにスルホン酸基を導入した実施例3の系では、対照2に比べて6.9倍の電流が得られた。
【0091】
これらの結果より、樹脂による包括固定化よりも重合による固定化のほうが電流発生効率が良いこと、また、ポリマーをさらにスルホン化することによってより大きな電流が得られることが示された。
【0092】
[実施例4]
図4に示す実験用の発電装置を用い、電子伝達媒体としてアントラキノン−2,6−ジスルホン酸(AQ-2,6-DS)を表3中dのポリエチレンイミンと結合させ、次いで該ポリマーを吸着法によって導電性基材(カーボンペーパー、Electrochem社製EC-20-10-7)に固定化させて電子伝達媒体層を形成した生物発電用アノードを用いた場合(実施例4)と、AQ-2,6-DSを導電性基材(カーボンペーパー)表面にスルホンアミド結合によって固定化したアノードを用いた場合(対照3)の発電性能を比較した。AQ-2,6-DSの反応系への添加量は、いずれの場合も収率100%で固定化された場合に電極被覆密度が80μmol/cm2となるように調整した。
【0093】
発電ユニットの構成及びアノード以外の実験条件は、実施例1と同様とした。実施例4において、AQ-2,6-DSのポリエチレンイミンとの反応条件は以下の通りとした。
市販のAQ-2,6-DSをそれに対して1/2モル量のスルホランとオキシ塩化リンとを含むアセトニトリル溶媒中70℃の温度条件下で1時間反応させ、スルホン酸基を酸クロリド化した。これを氷冷しながら濾過して氷水で洗浄後乾燥させ、AQ-2,6-DSクロリドを得た。これを8.6mmol分取し、アセトン溶媒中、トリエチルアミンの共存下でポリエチレンイミンと撹拌しながら反応させることにより、ポリエチレンイミンのアミノ基にAQ-2,6-DSがスルホンアミド結合したポリマーを得た。これを溶媒、トリエチルアミンを取り除いて乾燥させた後、ジクロロメタンに再溶解させた。これをカーボンペーパーに塗布後、乾燥することにより、上記ポリマーが吸着してAQ-2,6-DSのポリエチレンイミン結合ポリマーをアノード表面に形成することができた。このアノードを水中に晒すことにより、酸クロリド基を加水分解することによってスルホン酸基に戻し、本発明の生物発電用アノードを得た。これを実施例4におけるアノードとして使用した。該アノードの標準電極電位E0’は−0.28V〜−0.18Vの範囲内にあった。
【0094】
一方、対照系であるAQ-2,6-DSのスルホンアミド結合によるアノードへの固定化方法は以下の通りとした。
市販のAQ-2,6-DSをそれに対して1/2モルに相当するスルホランとオキシ塩化リンとを含むアセトニトリル溶媒中70℃の温度条件下で1時間反応させ、スルホン酸基を酸クロリド化した。これを氷冷しながら濾過して氷水で洗浄後乾燥させ、AQ-2,6-DSクロリドを得た。導電性基材であるカーボンペーパーを電解酸化することにより表面にカルボキシ基を導入し、これを250mLジクロロメタン溶媒中でオキサリルクロリド22mmol、数滴(例えば0.1mL程度)のジメチルホルムアミドと1時間反応させて、カルボキシ基を酸クロリド化した。引き続き、このカーボンペーパーをプロパンジアミン50mmolとトリエチルアミン0.25mLとを含むテトラヒドロフラン250mL中で12時間反応させ、アミド結合によってプロパンジアミンをカーボンペーパー表面のカルボキシ基に結合させた。この電極をジメチルホルムアミド溶媒に浸漬して上述したAQ-2,6-DSクロリドを8.6mmol添加し、トリエチルアミン0.8mLを加えて12時間反応させ、AQ-2,6-DSをスルホンアミド結合によってカーボンペーパー電極に固定化した。これを実施例4における対照系のアノードとして使用した。該アノードの標準電極電位E0’は−0.21V〜−0.16Vの範囲内にあった。
【0095】
実施例4及び対照3で得たアノードを用いて図4に示す生物発電装置で行った発電試験結果を表6に示す。
【0096】
【表6】

測定期間中の平均発生電流は、AQ-2,6-DSを導電性基材(カーボンペーパー)にポリエチレンイミンとの結合及び該ポリマーのアノードへの吸着法によって固定化させた本発明の生物発電用アノードを用いた場合(実施例4)の方が、スルホンアミド結合を用いて固定化したアノードを用いた場合(対照3)に比べて、1.6〜9.0倍の高い値を示した。
【0097】
また、スルホンアミド結合によって固定化を行ったアノードを用いた対照3の試験では、作製したアノードのロットによって発生電流が0.89〜3.01mAの範囲でばらついた。これは電子伝達媒体の固定化収率がばらついているためと考えられた。実際に作製したアノードをサイクリックボルタンメトリにかけて発生電流量から電子伝達媒体の固定化密度を推定したところ、実施例3の系では電極被覆密度が73±3μmol/cm2であったのに対し、対照系では22±15μmol/cm2と大きなばらつきが認められた。このようなばらつきが生じる原因としては、カーボンペーパーの電解酸化時のカルボキシ基導入量の変動、AQ-2,6-DSクロリドのスルホンアミド結合反応の収率変動などが考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
以上説明したように、本発明の生物発電アノードを利用する生物発電により、廃水、廃液、し尿、食品廃棄物、その他の有機性廃棄物、汚泥などの含水有機性物質またはその分解物を効率的に酸化分解し、従来の生物電池よりも多くの電気エネルギーを得ることが可能である。本発明は、含水有機性物質の酸化分解、および還元電位を利用した発電方法として広く利用されることが期待される。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】図1は、本発明の発電装置の構成を示す概念図である。
【図2】図2は、本発明の発電装置の構成例を示す概念図である。
【図3】図3は、本発明の発電装置に用いることができるカソード電極の構造の一例を示す概念図であり、図3Aは断面図、図3Bは図3Aの空気室側から見た平面図である。図3Cはカソード電極構造の別の一例を示す断面図である。
【図4】図4は、実施例で用いた本発明の発電装置の構成を示す概念図である。
【符号の説明】
【0100】
1:生物発電用アノード(電子伝達媒体重合固定化多孔質グラファイト)
2:隔膜
3:多孔質グラファイト(カソード)
4:内筒体内部
5:筒状体周囲の空間
6:導線
7:空気室
8:流入ポンプ
9:流入部
10:流出部
11:処理済み有機性物質排出部
12:循環ポンプ
13:余剰汚泥排出口
14:空気ブロワ
15:排気口
16:凝縮水ドレイン
17:アノードとの接続部
18:カソードとの接続部
19:排気口
20:多孔質マトリックス
21:触媒
22:空気ネットワーク
23:水溶液ネットワーク
24:セパレータ
25:セルフレーム(嫌気性域:アノード側)
26:セルフレーム(好気性域:カソード側)
27:含水有機性物質注入口
28:分解廃液排出口
29:空気注入口
30:空気排出口
31:嫌気性域(微生物反応室)
32:好気性域(空気反応室)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基材と、該導電性基材に電子伝達媒体を重合により固定化した電子伝達媒体層と、を含み、pH7における標準電極電位(E0’)が−0.13V〜−0.28Vの範囲内にあることを特徴とする生物発電用アノード。
【請求項2】
前記電子伝達媒体層は、アントラキノン誘導体、ナフトキノン誘導体、ベンゾキノン誘導体からなる群より選択される1つ以上の酸化還元物質を含む層であることを特徴とする請求項1に記載の生物発電用アノード。
【請求項3】
前記電子伝達媒体層は、アントラキノンカルボン酸類(AQC)、アミノアントラキノン類(AAQ)、ジアミノアントラキノン類(DAAQ)、アントラキノンスルホン酸類(AQS)、ジアミノアントラキノンスルホン酸類(DAAQS)、アントラキノンジスルホン酸類(AQDS)、ジアミノアントラキノンジスルホン酸類(DAAQ DS)、エチルアントラキノン類(EAQ)、メチルナフトキノン類(MNQ)、メチルアミノナフトキノン類(MANQ)、ブロモメチルアミノナフトキノン類(BrMANQ)、ジメチルナフトキノン類(DMNQ)、ジメチルアミノナフトキノン類(DMANQ)、ラパコール(LpQ)、ヒドロキシ(メチルブテニル)アミノナフトキノン類(ALpQ)、ナフトキノンスルホン酸類(NQS)、トリメチルアミノベンゾキノン類(TMABQ)およびこれらの誘導体からなる群より選ばれる1つ以上の酸化還元物質を含む層であることを特徴とする請求項2に記載の生物発電用アノード。
【請求項4】
前記電子伝達媒体層は、親水性を示すことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の生物発電用アノード。
【請求項5】
前記電子伝達媒体層の親水性は、スルホン酸基、アミノ基、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基から選択される親水性基を前記電子伝達媒体に導入することにより付与されたものであることを特徴とする請求項4に記載の生物発電用アノード。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生物発電用アノードの製造方法であって、
導電性基材を準備する工程と、
該導電性基材に対して、電子伝達媒体を重合させて固定化して電子伝達媒体層を形成する工程と、
を含む生物発電用アノードの製造方法。
【請求項7】
前記導電性基材に電子伝達媒体を重合させて固定化する工程は、電子伝達媒体のモノマーを直接重合又はペンダント重合のいずれかにより導電性基材表面で電解重合させることを特徴とする請求項6に記載の方法。
【請求項8】
さらに、導電性基材に固定化された電子伝達媒体のポリマーを親水化処理する工程を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の方法。
【請求項9】
前記電子伝達媒体のポリマーの親水化処理は、スルホン酸基、アミノ基、カルボキシ基及び/又はヒドロキシ基から選択される親水性基を導入する処理であることを特徴とする請求項8に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生物発電用アノードの製造方法であって、
導電性基材を準備する工程と、
電子伝達媒体のモノマーを親水化処理する工程と、
親水化処理された電子伝達媒体のモノマーを該導電性基材表面で電解重合させて固定化して電子伝達媒体層を形成する工程と、
を含む生物発電用アノードの製造方法。
【請求項11】
前記親水化処理された電子伝達媒体のモノマーを導電性基材表面で電解重合させて固定化する工程は、親水化処理された電子伝達媒体のモノマーを直接重合又はペンダント重合のいずれかにより導電性基材表面で電解重合させることを特徴とする請求項10に記載の方法。
【請求項12】
嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する発電装置。
【請求項13】
嫌気性雰囲気下で生育可能な微生物、有機性物質を含有する溶液もしくは懸濁液、請求項1〜5のいずれか1項に記載の生物発電用アノードを含む嫌気性域と、分子状酸素及びカソードを含む好気性域と、該嫌気性域及び該好気性域とを画定する隔膜と、を具備し、該アノード及び該カソードを電力利用機器に電気的に接続して閉回路を形成し、該嫌気性域内での有機性物質を電子供与体とする微生物の酸化反応と該好気性域内での酸素を電子受容体とする還元反応とを利用して発電する発電方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−27019(P2007−27019A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210891(P2005−210891)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000000239)株式会社荏原製作所 (1,477)
【Fターム(参考)】