生物試料用標識剤並びに該標識剤を用いた標識方法及びスクリーニング方法
【課題】優れた分光特性を持ち、保存安定性も優れた単独で生体内の特定の細胞あるいは細胞器官を標識し、明瞭に視覚化する新規な生物試料用標識剤を提供すること。
【解決手段】一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む事を特徴とする生物試料用標識剤。
【解決手段】一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む事を特徴とする生物試料用標識剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物試料が簡便に高感度で標識される生物試料用標識剤並びに該標識剤を用いた標識方法及びスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子イメージングとは生物の活動を細胞・分子レベルで観察するための画像を形成する手段である。近年の分子イメージング技術の発展は生体内の様々な細胞・分子の挙動を外部から観察する(画像として捉える)事を可能にしている。そのため分子イメージングは医学領域における診断技術及び生命科学領域における研究手段として重要な技術となっている。
【0003】
主に分子イメージングの手法として、MR法(核磁気共鳴法)、陽電子放射断層撮影法(PET)、光トポグラフィーが研究されており、目的に応じて医療領域及び生命科学領域で幅広く利用されている。これらのなかでPETによる分子イメージング技術は標識剤(プローブ)を利用して特定の生体内分子を標識する手段として腫瘍の早期診断や創薬の候補物質の探索研究に広く用いられている。又、色素化合物を用いて生体内の細胞や分子を可視化する技術は、簡便に生体内の細胞・分子の変化を捉える事が出来るため、生命現象の解析、様々な疾患の早期診断又は創薬分野への応用等で重要な技術として注目されている。細胞又は組織を可視化させるための染色法は古くから知られ、目的に応じて多様の染色剤が使用されている。例えば、フルオレセインのような蛍光染色剤は、網膜の細小血管造影(非特許文献1参照)や眼底検査(非特許文献2参照)等に用いられている。しかしながら、蛍光感度が十分でなく、生体組織により散乱され染色部位の検出が不鮮明であるという問題があった。又、シアニン系色素であるインドシアニングリーンは、上記用途(非特許文献3参照)において蛍光強度が十分でない場合が多く、感度を高めるために多量に用いると不要な部分が染色されるという問題があった。さらにこの化合物は耐光性が低いため、観察中に褪色しやすいという問題もあった。そのため、高い輝度を有し且つ耐光性が良好である新規な蛍光色素の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Neurosurgery,35,930貢(1994年)
【非特許文献2】Gastroenterology,127(3),706−713(2004年)
【非特許文献3】SPIE,2389,789−797貢(1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は優れた分光特性を持ち、保存安定性も優れた新規な生物試料用標識剤を提供する事である。
【0006】
本発明の別の目的はこれらの新規な生物試料用標識剤を使用してin vivo、ex vivo、in vitroで細胞または細胞器官を標識する手法を提供する事である。又、本発明の別の目的は、これらの新規な生物試料用標識剤を使用したスクリーニング方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む生物試料用標識剤を得る事に成功した。さらに当該生物試料用標識剤を使用してin vivo、ex vivo、in vitroで細胞及び細胞組織を標識する手法を確立するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む事を特徴とする生物試料用標識剤。
【0009】
【化1】
【0010】
一般式(I)中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、又はアシル基を表す。R2〜R5は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、又はアシル基を表し、R2とR4が互いに結合して環を形成しても良い。R6は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。R7及びR8は各々独立して水素原子、アルケニル基、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、又はヘテロ環基を表す。R7とR8は互いに結合して環を形成しても良い。
【0011】
本発明に係る生物試料の標識方法は、上記生物試料用標識剤と生物試料を接触させて標識する標識方法である。
【0012】
本発明に係るスクリーニング方法は、上記生物試料用標識剤を利用したスクリーニング方法である。
【0013】
本発明に係る診断用標識剤は上記生物試料用標識剤を有効成分として含む診断用標識剤である。
【0014】
本発明に係る診断用器具は上記生物試料用標識剤を含む診断用器具である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生物試料が簡便に高感度で標識され、保存安定性が高く、ストークスシフトが大きい生物試料用標識剤が提供される。また、高感度に細胞または細胞器官を標識することで、サイズや形状などの形態的な特徴をイメージングすることが可能となる。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることで、疾患の進行や治癒を客観的に評価することが可能になる。また、特定の生体組織を選択的に分子レベルでイメージングする技術に応用する事が出来る。また、スクリーニングを含めた創薬開発が迅速となり、低コスト化が可能となる。また、新しい病気の高精度な診断や治療法の開発にも応用可能である。また、化学物質の安全性評価のスクリーニングを行う際の指標に用いる事が期待される。更には、生命科学研究に用いる事で未解明な現象を突き止める事が出来る等、業界を飛躍的に発展させる有効な基盤技術となりえる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の色素化合物(1)のDMSO−d6中、室温、400MHzにおける1HNMRスペクトルを表す図である。
【図2】本発明の色素化合物(7)における色素化合物の励起波長λexと蛍光波長λemのスペクトルシフト図を示す。
【図3】実施例6で観測された一部の写真(血管)を示す。
【図4】実施例15で観測された一部の写真(鼻)を示す。
【図5】実施例52で観測された一部の写真(血管、肝臓、胆嚢、消化管)を示す。
【図6】染色剤暴露をしていない状態で観測された写真(自家蛍光)を示す。
【図7】実施例52で観測された一部の拡大写真(肝臓、胆嚢、消化管)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明について更に詳しく説明する。
【0018】
本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、下記一般式(I)で表される色素化合物は、生物試料が高感度で標識され、より高精度な診断や薬のスクリーニングが可能になる新規な生物試料用標識剤である事を見出して本発明に至った。
【0019】
【化2】
【0020】
一般式(I)中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、又はアシル基を表す。
【0021】
R2〜R5は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはアシル基を表し、R2とR4が互いに結合して環を形成しても良い。
【0022】
R6は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。
【0023】
R7及びR8は各々独立して水素原子、アルケニル基、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、アシル基、又はヘテロ環基を表す。R7とR8は互いに結合して環を形成しても良い。
【0024】
前記一般式(I)中のR1におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。
【0025】
R1におけるアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基、又はフェネチル基等が挙げられる。
【0026】
R1におけるアルケニル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニル基、2,2−ジフェニルビニル基、3−ブテニル基、又はシクロヘキセニル基等の炭素数2〜20個のアルケニル基が挙げられる。
【0027】
R1におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0028】
R1におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、例えば、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0029】
R1におけるアシル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、または2−ナフトイル基等が挙げられる。
【0030】
R1は、更に置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に特に限定されるものではない。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンズチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等が挙げられる。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。R1は、上記に列挙した置換基から、それぞれ独立に且つ任意に選択できるが、好ましい形態としてはアラルキル基、アルケニル基、又はアリール基等の場合が蛍光の強度が強いため好ましい。具体的には、フェニル基、ブロモフェニル基、ベンジル基、ブロモベンジル基、メチルチオフェニル基、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基、ベンジルフェニル基、2,2−ジフェニルビニル基、又は2,2−ジフェニルビニルフェニル基等が好ましい。更に好ましくは、フェニル基、ブロモフェニル基、ベンジル基、メチルチオフェニル基、メトキシフェニル基、又はメトキシナフチル基が好ましく、特に、メチルチオフェニル基の場合はストークスシフトが飛躍的に大きくなる傾向が認められるため好ましい。
【0031】
前記一般式(I)中のR2〜R5におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを含む、直鎖、又は分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等。
【0032】
R2〜R5におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0033】
R2〜R5におけるカルボン酸エステル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸メチル基、カルボン酸エチル基、カルボン酸プロピル基、又はカルボン酸ブチル基等が挙げられる。
【0034】
R2〜R5におけるアシル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、または2−ナフトイル基等が挙げられる。
【0035】
R2〜R5は更に置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0036】
R2とR4が互いに結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。シクロオクタン環、シクロヘプタン環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、又はシクロブタン環等の飽和脂肪族環、シクロペンテン環、又はシクロヘキセン環等の部分飽和脂肪族環等。更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではない。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等が挙げられる。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0037】
R2〜R5として、好ましくは、各々独立して水素原子、アルキル基、又はアリール基、R2とR4が互いに結合して環を形成している場合であり、より好ましくは、R2とR4が互いに結合して環を形成している場合が化学構造上安定であるので好ましい。具体的には、シクロオクタン環、シクロヘプタン環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、又はシクロブタン環が挙げられる。より好ましくはシクロペンタン環が保存安定性の上からも好ましい。
【0038】
前記一般式(I)中のR6におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。前記一般式(I)中のR6におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、炭素数1〜20個のアルコキシ基が挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、デシルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、ドデシルオキシ基、又はオクタデシルオキシ基等。R6におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等が挙げられる。
【0039】
R6として好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、又はアルコキシ基の場合であり、より好ましくは水素原子、又はハロゲン原子の場合である。
【0040】
前記一般式(I)中のR7及びR8におけるアルケニル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。2−シアノアクリル酸基、エチリデンマロノニトリル基、2−エチリデンマロン酸ジメチルエステル基、2−エチリデンマロン酸ジエチルエステル基、2−エチリデンマロン酸ブチルエステル基、5−エチリデン−4−オキソ−2−チオキソチアゾリジニル−3−酢酸、5−エチリデン−4−オキソ−2−チオキソチアゾリジニル−3−プロパン酸、3−エチル−5−エチリデン−2−チオキソチアゾリジン−4−オン、5−エチリデン−4−オキソ−2−(3−エチル−4−オキソ−2−チオキソチアゾリデン)−チアゾリジニル−3−酢酸等。
【0041】
R7及びR8におけるカルボンエステル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸メチル基、カルボン酸エチル基、カルボン酸プロピル基、又はカルボン酸ブチル基等が挙げられる。
【0042】
R7及びR8におけるアシル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、または2−ナフトイル基等が挙げられる。
【0043】
R7及びR8におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、例えば、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0044】
更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではない。例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0045】
R7及びR8として好ましくは、化合物の合成の容易さからR7もしくはR8のどちらか一方が、シアノ基、又はカルボン酸基、ヘテロ環基を表す場合であり、特に好ましくは、R7もしくはR8のどちらか一方がシアノ基を表す場合である。又、R7もしくはR8のどちらか一方が水素原子を表す時、もう一方は下記一般式(II)で表されるヘテロ環基、またはアルケニル基を表す場合が好ましい。
【0046】
【化3】
【0047】
一般式(II)中、R9はアルキル基、又はアリール基を表す。R10〜R13は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ヘテロ環基、アミノ基、又はハロゲン原子を表す。又、R10とR11、R11とR12、又はR12とR13は互いに結合して環を形成しても良い。X-は陰イオン性基を表す。Q1は硫黄原子、酸素原子、−C(R14)(R15)−、−CH=CH−、又は−N(R16)−を表す。R14〜R16は水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。
【0048】
一般式(II)中、R9におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。
【0049】
R9におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0050】
R9としては、更に置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではない。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等が挙げられる。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0051】
R9として好ましくは、アルキル基の場合であり、更に該アルキル基にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、又はそれらの塩等の置換基を有すると化合物の水溶性が増し、蛍光強度も増すので好ましい。
【0052】
一般式(II)中、R10〜R13におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。
【0053】
R10〜R13におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0054】
R10〜R13におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、炭素数1〜20個のアルコキシ基が挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、デシルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、ドデシルオキシ基、又はオクタデシルオキシ基等。
【0055】
R10〜R13におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0056】
R10〜R13におけるアミノ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。無置換アミノ基;N−メチルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N−ヘキシルアミノ基、N−テトラデシルアミノ基、N−フェニルアミノ基、又はN−ナフチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;N,N‐ジメチルアミノ基、N,N‐ジエチルアミノ基、N,N‐ジフェニルアミノ基、又はN,N‐メチルプロピルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、tert‐ブチルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、ナフトイルアミノ基、又はメトキシカルボニルアミノ基等のカルボニルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、tert‐ブチルスルホニルアミノ基、又はiso‐プロポキシスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基等。
【0057】
R10〜R13におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等が挙げられる。
【0058】
R10〜R13として、好ましくは、水素原子、カルボン酸基、スルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、スルホン酸基の場合は化合物の水溶性があがるため好ましい。また、カルボン酸塩、スルホン酸塩のような塩類の形も好ましく本発明の範疇である。
【0059】
R10とR11、R11とR12、又はR12とR13が互いに結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。ベンゼン環、ナフタレン環等の炭素数3〜10の芳香環、シクロオクタン環、シクロヘプタン環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、シクロブタン環等の飽和環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環等の部分飽和環、ピリジン環、又はピリミジン環等のヘテロ環等。更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。又、R10とR11、R11とR12、又はR12とR13が互いに結合して形成する環として、化合物の保存安定性が向上するため、ベンゼン環の場合が好ましい。
【0060】
一般式(II)中、X-は陰イオン性基を表す。ここで陰イオン性基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを表す。フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、又はヨウ化物イオン等のハロゲンイオン;硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はヘキサフルオロリン酸イオン等の無機酸イオン;テトラクロロアルミニウムイオン等の含ルイス酸イオン;酢酸イオン、乳酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、又はテトラフェニルホウ酸イオンなどの有機酸イオン等。
【0061】
X-の陰イオン性基としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、又はメタンスルホン酸イオン等が好ましく、より好ましくは化合物合成の容易さからも臭化物イオン、又はヨウ化物イオンの場合である。
【0062】
一般式(II)中、Q1は硫黄原子、酸素原子、−C(R14)(R15)−、−CH=CH−、又は−N(R16)−を表す。
【0063】
Q1中、R14〜R16におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。
【0064】
Q1中、R14〜R16におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0065】
Q1としては、酸素原子を表す時のベンゾオキサゾリル環基、硫黄原子を表す時のベンゾチアゾリル環基、又は−C(CH3)(CH3)−を表す時のジメチルインドレニル環基の場合が、化合物の保存安定性が良いため特に好ましい。
【0066】
一般式(I)中、R7及びR8が互いに結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、例えば、5員環または6員環で構成される部分飽和環、又は、ヘテロ環等が挙げられる。
【0067】
R7及びR8が互いに結合して形成する環が5〜6員環で構成される脂肪族環としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。2,3−ジヒドロインデン環、インデン−1,3−ジオン環、4−シクロペンテン−1,3−ジオン環、フルオレン環、シクロヘキサノン環、又は5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン環等。
【0068】
R7及びR8が互いに結合して形成する環が5員環または6員環からなるヘテロ環としては、特に限定されるわけではないが、特に好ましい例として、例えば、下記一般式(III)または(IV)で表される5員環からなるヘテロ環が挙げられる。
【0069】
【化4】
【0070】
一般式(III)中、R17は水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、R18はアルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基を表す。一般式(IV)中、Q2は、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R21)−を表す。R19は水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、R20は硫黄原子、酸素原子、=NR22、ヘテロ環、ヘテロ環で置換されたメチレン基、又はジシアノメチレン基を表す。R21及びR22は水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。
【0071】
一般式(III)中、R17及びR18におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、又はシクロブチル基、シクロペンチル基等。
【0072】
R17及びR18におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0073】
R17におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、又は酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0074】
一般式(III)中、R17として好ましくは、化合物の安定性からアリール基の場合である。更に該アリール基にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、またはスルホン酸塩等の置換基を有していると水溶性が向上するため好ましい。
【0075】
R18におけるカルボン酸エステル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸メチル基、カルボン酸エチル基、カルボン酸プロピル基、又はカルボン酸ブチル基等が挙げられる。
【0076】
R18におけるアミノ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。無置換アミノ基;N−メチルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N−ヘキシルアミノ基、N−テトラデシルアミノ基、N−フェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、又はN,N−メチルプロピルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、tert−ブチルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、ナフトイルアミノ基、又はメトキシカルボニルアミノ基等のカルボニルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、tert−ブチルスルホニルアミノ基、又はiso−プロポキシスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基等。
【0077】
一般式(III)中、R18として好ましくは、化合物の合成の容易さからアルキル基、アリール基、カルボン酸基、又はアミノ基であり、特に好ましくは、アルキル基、カルボン酸基である。
【0078】
一般式(IV)中、Q2は、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R21)−を表す。
【0079】
一般式(IV)及びQ2中、R19及びR21〜R22におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。更に、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0080】
一般式(IV)及びQ2中、R19及びR21〜R22におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0081】
一般式(IV)及びQ2中、R19〜R22におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、又は酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、2−チオキソチアゾリジン−4−オン基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0082】
一般式(IV)中、R19として好ましくは、アルキル基の場合である。更に該アルキル基にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、またはスルホン酸塩等の置換基を有すると化合物の水溶性が増し、蛍光強度も増すので好ましい。
【0083】
一般式(IV)中、R20として好ましくは、硫黄原子、酸素原子、ヘテロ環、またはヘテロ環で置換されたメチレン基の場合である。R20が硫黄原子の場合は染色性が良くなる傾向がある。また、R20が3位に置換基を有する2−チオキソチアゾリジン−4−オンのようなヘテロ環の場合には、最大蛍光波長の検出が近赤外波長の領域に長波長化するものが多いため、近赤外での応用に用いる事が出来るためより好ましい。
【0084】
前記、一般式(I)で表される化合物中にカルボン酸基、スルホン酸基、またはポリエチレングリコール基を少なくとも1つ以上有すると水溶性が向上するため好ましい。又、カルボン酸、スルホン酸の塩類も本発明の範疇である。これらの具体的な例としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。ナトリウム塩、又はカリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、又はカルシウム塩等のようなアルカリ土類塩;アンモニウム塩、ピリジニウム塩、ピペリジニウム塩、又はトリエチルアンモニウム塩等のアミン塩;トリプトファン塩、リジン塩、ロイシン塩、フェニルアラニン塩、バリン塩、又はアルギニン塩等のアミノ酸塩が挙げられる。好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、又はピペリジニウム塩等。
【0085】
本発明にかかる色素化合物は、単独で生物試料の特定の部位に保持されるとともに、発色性を有する化合物自体の構造に基づいて化合物を保持する試料内の部位を染色する染色剤としての生物試料の標識に利用することができる。又、本発明にかかる色素化合物は、生物試料の特定の部位に保持される特徴を利用して、当該化合物に更に光学的シグナルを発信可能な化合物を付加する形態の標識剤として用いることができる。付加する化合物は、直接またはリンカー分子を介して結合することができる。付加する化合物としては、細胞膜などの生体膜を通過して生物試料の内部に浸透することができる程度の低分子化合物が好ましい。
【0086】
次に、本発明の前記一般式(I)で表される構造を有する色素化合物の製造方法について以下に説明する。
【0087】
本発明にかかる一般式(I)で表される色素化合物は、公知の方法(例えば、Chem.Comm.,24巻,3036−3037頁(2003)等)により容易に合成することができる。以下に合成スキームの一例を示す。
【0088】
即ち、アルデヒド誘導体(A)と化合物(B)とをカップリングさせて、色素化合物(I)又は(I')を得る。具体的なカップリング方法としては、例えば、下記に示す方法が挙げられる。化合物(I)又は(I')は単離して用いても良いし、混合物のまま用いても良い。また、アルデヒド誘導体(A)、化合物(B)、一般式(I)で表される色素化合物の官能基において必要に応じて、公知の保護・脱保護反応、加水分解等の反応を追加する事は、当業者には適宜選択可能である。
【0089】
【化5】
【0090】
本発明で用いられるアルデヒド誘導体(A)は、市販されており入手可能であるが、公知の方法によっても合成する事が可能である。例えば、J.Am.Chem.Soc.,126巻,12325−12335頁(2004)、Tetrahedron Letters.,Vol.38,No.50,8721−8722貢(1997)、J.Med.Chem.,50,4405−4418貢(2007)、Hetetocycles,Vol.60,No.12,2761−2765貢(2003)等を参照することができる。
【0091】
本発明で用いるアルデヒド誘導体(A)の好ましい具体例を示すが、下記の例に限定されるものではない。
【0092】
【化6−1】
【0093】
【化6−2】
【0094】
【化6−3】
【0095】
本発明で用いる化合物(B)の好ましい具体例を示すが、下記の例に限定されるものではない。
【0096】
【化7−1】
【0097】
【化7−2】
【0098】
【化7−3】
【0099】
化合物(B)の使用量は、アルデヒド誘導体(A)1モルに対し、0.1〜10倍モル、好ましくは0.5〜3倍モル、より好ましくは0.8〜2倍モルである。
【0100】
本工程は無溶媒で行う事も可能であるが、溶媒の存在下で行う事が好ましい。溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼンメシチレン等の芳香族系溶媒、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、ブチルアルコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する)、N,N−ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する)、水、酢酸等。好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、ブチルアルコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、水、酢酸等である。より好ましくはエタノール、iso−プロピルアルコール、ジエチレングリコール、酢酸等である。又、2種以上の溶媒を混合して用いる事ができ、混合使用の際の混合比は任意に定める事ができる。上記反応溶媒の使用量は、アルデヒド誘導体(A)に対し、0.1〜1000倍重量の範囲で用いられ、好ましくは0.5〜500倍重量、より好ましくは1.0〜150倍重量である。
【0101】
本工程の反応温度は、−80〜250℃の範囲で行われ、好ましくは−20〜200℃、より好ましくは−5〜150℃である。通常反応は24時間以内に完結する。
【0102】
本工程では、必要に応じて酸又は塩基の添加を行うと反応が速やかに進行する。用いる酸は反応に関与しないものであれば制限されないが、例えば、以下のものが挙げられる。塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸;アンバーライト(ローム・アンド・ハース株式会社)、アンバーリスト(ローム・アンド・ハース株式会社)等の強酸性イオン交換樹脂;ギ酸アンモニウム、又は酢酸アンモニウム等の無機酸塩等。好ましくは、ギ酸アンモニウム、又は酢酸アンモニウム等の無機酸塩であり、より好ましくは、酢酸アンモニウムである。酸の使用量は、アルデヒド誘導体(A)1モルに対し、0.001〜50倍モル、好ましくは0.01〜10倍モル、より好ましくは0.1〜5倍モルである。
【0103】
本工程で用いる塩基としては、具体的には、以下のものを用いることができる。カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド;ピペリジン、ピリジン、2−メチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルエチルアミン、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、1、8−ジアザビシクロ[5、4、0]ウンデカ−7−エン(以下、DBUと略記する)、酢酸アンモニウム等の有機塩基;n−ブチルリチウム、tert−マグネシウムクロリド等の有機塩基;水素化ホウ素ナトリウム、金属ナトリウム、水素化ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基等。好ましくは、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ピペリジン、ジメチルアミノピリジン、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等である。より好ましくは、ナトリウムメトキシド、ピペリジン、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等が挙げられる。上記塩基の使用量は、アルデヒド誘導体(A)1モルに対し、0.1〜20倍モル、好ましくは0.5〜8倍モル、より好ましくは1.0〜4倍モルである。
【0104】
反応終了後、水で希釈するか或いは塩酸等による酸析を行う事によって色素化合物(I)を得る事ができる。
【0105】
得られた色素化合物(I)は、通常の有機化合物の単離・精製方法を用いる事ができる。例えば、反応液を塩酸等で酸性にして、酸析する事によって固体をろ別し、水酸化ナトリウム等で中和し、濃縮すれば、粗成物が得られる。更に、粗成物をアセトン、メタノール等を用いた再結晶、シリカゲルを用いたカラム精製等により精製する。これらの方法は、単独又は2つ以上組み合わせて精製を行う事により高純度で得る事が可能である。上記の製造方法によって、前記一般式(I)で表される色素化合物を合成することができる。以下に、本発明の色素化合物の具体例(1)〜(142)を示すが、下記の例に限定されるものではない。又、本発明の色素化合物には、シス体及びトランス体の構造異性体も存在するものがあるが、それらも本発明の範疇である。なお、一般式(II)で表される色素化合物の具体例は、(23)〜(24)、(27)、(31)〜(32)、(34)〜(35)、(45)〜(46)、(72)〜(79)、(90)〜(91)、(111)、(124)、(126)に示す。また、一般式(III)で表される色素化合物の具体例は、(14)〜(15)、(21)〜(22)、(26)、(42)〜(44)、(47)〜(48)、(50)〜(54)、(128)に示す。また、一般式(IV)で表される色素化合物の具体例は以下のとおりである。すなわち、(1)〜(4)、(9)〜(12)、(16)〜(20)、(28)〜(30)、(37)〜(38)、(40)、(55)、(58)〜(63)、(66)〜(71)、(80)〜(89)、(92)、(94)〜(95)、(97)〜(104)、(109)〜(110)、(114)〜(118)、(122)〜(123)、(125)、(127)、(129)〜(130)、(132)〜(133)、(136)〜(139)。
【0106】
【化8−1】
【0107】
【化8−2】
【0108】
【化8−3】
【0109】
【化8−4】
【0110】
【化8−5】
【0111】
本発明にかかる色素化合物は、優れた分光特性を持ち、保存安定性も優れ、生体内の細胞及び細胞器官を標識できる。このため、細胞及び細胞器官を明瞭に視覚化する事が出来、好適な生物試料用標識剤として用いる事が出来る。具体的には以下に詳述する。
【0112】
本発明の一般式(I)の化合物を少なくとも1種を有効成分として含む生物試料用標識剤の溶液と生物試料を接触させて標識することができる。標識剤が染色性を有する化合物であれば染色又は染め分ける(分染する)事が出来る。本発明における分染とは、複数種類の生物試料用標識剤を用いて、対象とする生物試料を標識することをいう。標識される生物試料の部位は、それぞれ異なっていても、また同一であってもよい。分染の工程は、生物試料に対して、第一の生物試料用標識剤を接触させた後に、第二の生物試料用標識剤を接触させる。また、第一の生物試料用標識剤と第二の生物試料用標識剤を同時に接触させてもよい。使用する生物試料標識剤が互いに識別可能であれば、分染により、一度の観察で、複数の標識を確認することができる。
【0113】
生物試料が生きた状態(未固定の状態)の場合には、これらの生存を維持できる各種の溶液やこれらの増殖のための培養液に一般式(I)の化合物をそのまま加えて標識液として用いる。
【0114】
本発明の方法によって標識される生物試料としては、生物個体、微生物、原虫、生物組織、生物組織切片、ヒト細胞、動物細胞又は染色体等が挙げられる。
【0115】
例えば、細胞凝集塊(スフェロイド)、卵母細胞、胚、胚から生育した固体を含み、固体としては、脊椎動物又は非脊椎動物が受精卵から成体になる過程をすべて含む。
【0116】
脊椎動物としては、トラフグ、メダカ、ゼブラフィッシュ等の小型硬骨魚類、ラットやマウス等の小動物、サル、ブタ、イヌ等の大動物、サル、ヒト等が挙げられる。非脊椎動物としては、例えば、ショウジョウバエ、線虫等が用いられる。
【0117】
本発明の生物試料用標識剤は、特に限定されるものではないが、液体、顆粒、錠剤、カプセル剤、貼り薬等の形態で使用する事ができる。細胞又は組織内部を標識するには、in vivoの場合には、標識剤を標識する組織に直接暴露してもよい。より好ましくは生体に暴露(液体等)又は経口投与、あるいは、静脈又は動脈等の血管内、経口内、舌下、直腸内、腹膣内、皮膚、皮下、皮内、膀胱内、気管(気管支)、眼、鼻、耳内等への注入、噴霧、又は塗布等の手段により生体内に投与すればよい。
【0118】
本発明の生物試料用標識剤は、前記一般式(I)の化合物1種以上を、適当な溶媒に溶解させて用いる事が出来る。溶媒としては、生体に影響がなければ、特に限定されるものではないが、生体との親和性が高い水性の液体が好ましい。例えば、水;生理食塩水;リン酸緩衝液(PBS)、Tris等の緩衝液;エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;DMSO等の有機溶媒;D−MEM、HBSS等の細胞培養用培地、乳酸リンゲル液等の輸液が挙げられる。特に水が50%以上含まれている事が好ましい。又、これらの溶媒を2種以上混合して用いる事も出来る。
【0119】
生物試料用標識剤の投与量は、最終的に標的とする部位を検出できる量であれば特に限定されるものではないが、標的とする部位や使用する標識剤の種類によって適宜増減出来る。特にin vivoの場合には、可能な限り少量が好ましい。又、in vitroの場合には、組織染色の選択性があり、判別しやすい量を用いればよい。
【0120】
生物試料用標識剤の濃度は、通常、0.001nM及至1000μMで用いられ、好ましくは0.01nM及至100μMの範囲で用いられる。
【0121】
動物用の場合には、その投与形態、投与経路、投与量は対象となる動物の体重や状態によって適宜選択する。
【0122】
本発明の生物試料用標識剤は、放射性核種で標識されていてもよい。
【0123】
標識に用いる放射性核種の種類は、特に制限されるものではないが、使用の態様によって適宜選択する事が出来る。
【0124】
放射性核種で標識した生物試料用標識剤は、例えば、以下に示す手法によって画像化を行う事が出来る。オートラジオグラフィー、陽電子(ポジトロン)放出核種を用いる放射断層撮影法(PET)、植物用に特化した植物用ポジトロンイメージングシステム(PETIS)、様々なガンマ線放出核種を用いる単一光子放射断層撮影法(SPECT)等。また、フッ素原子核に由来するMR信号や13Cを利用した核磁気共鳴法(MRI)で検出してもよい。更に、次世代分子イメージング装置として複数分子同時イメージングが可能なコンプトンカメラ(GREI)等によって画像化する事も可能である。これらの方法により、非侵襲的に生物試料の分布状態を経時的に測定し、画像化することが出来る。また、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて生物試料用標識剤の定量をする事も可能である。
【0125】
また、14C等の放射性同位元素で標識した生物試料用標識剤は、加速器質量分析法(AMS)等によって、血液中(または、尿中もしくは糞中)の濃度を測定して、次のような試験結果を得ることが可能である。標識化した物質の未変化体や代謝物の薬物動態学的情報(薬物血中濃度−時間曲線下面積(AUC)、血中濃度半減期(T1/2)、最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間(Tmax)、分布容積、初回通過効果、生物学的利用率、糞尿中排泄率等)等。
【0126】
放射性核種としては、特に限定されるものではないが、使用の態様によって適宜選択する事が出来る。
【0127】
具体的に、PETによる測定の場合は、例えば、11C、14C、13N、15O、18F、19F、62Cu、68Ga、又は78Br等の陽電子放出核種を用いる事が出来る。好ましくは、11C、13N、15O、又は18F等であり、特に好ましくは、11C、又は18F等である。
【0128】
又、SPECTによる測定の場合は、例えば、99mTc、111In、67Ga、201Tl、123I、又は133Xe等のγ線放射核種を用いる事が出来る。好ましくは、99mTc、又は123I等である。
【0129】
更に、ヒト以外の動物を測定する場合には、例えば、125Iのようなより半減期の長い放射線核種を用いる事が出来る。
【0130】
GREIによる測定の場合は、例えば、131I、85Sr、65Zn等を用いる事が出来る。放射線核種は一般式(I)で表される化合物に含まれる形でも、結合する形でもよい。
【0131】
放射線核種の標識の方法は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられている方法で良い。又、一般式(I)で表される化合物を構成する元素の少なくとも一部を放射性核種で置換する形でも、結合する形でも良い。
【0132】
一般式(I)で表される化合物を放射性核種で標識した場合、1mMあたり、1〜100uCi程度の放射性を有することが好ましい。
【0133】
この時、用いる生物試料用標識剤の投与量は、影響がなければ特に制限はされず、化合物の種類及び標識に用いた放射性核種の種類により適宜選択される。
【0134】
成人の場合、用いる標識剤の量は1日当たり、0.0001μg〜1000μgであり、好ましくは、0.01μg〜10μgである。
【0135】
又、生物試料用標識剤には、保湿剤、表面張力調製剤、増粘剤の少なくともいずれかを添加する事が好ましい。生体に適した塩濃度、pHを制御する事が必要であれば、塩化ナトリウムのような塩類、各種pH調製剤、pH緩衝剤、防腐剤、抗菌剤、甘味剤、香料等を適宜に添加する事も出来る。
【0136】
pH調製剤としては、特に限定されるものではないが、pHを5〜9に調製する事が好ましく、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、水酸化ナトリウム、または炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0137】
さらに、pHの変動を抑えるためには、pH緩衝剤を添加することが好ましい。pH緩衝剤としては、例えば、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸などの弱酸とその塩を組み合わせて適当なpHに調節できる。
【0138】
造影方法は、本発明の生物試料用標識剤を用いる事を特徴とする。その測定及び検出方法は当業者には公知の方法を援用して行ってよい。
【0139】
本発明で用いられる観察方法は、生物試料と生物試料用標識剤に影響を与えなければ特に限定されるものではないが、生物試料の状態及び変化を画像として捉える方法である。例えば、生物試料に可視光、近赤外光、または赤外光を照射してカメラやCCD等で観察する可視光観察、近赤外光観察、赤外光観察、レーザー顕微鏡観察等が挙げられる。又は蛍光内視鏡等のように生物試料に対して励起光光源から励起光を照射して、発光している生物試料の蛍光を観察する蛍光観察、蛍光顕微鏡観察、蛍光内視鏡観察、共焦点内視鏡観察、多光子励起蛍光顕微鏡観察、狭帯域光観察、又は共光干渉断層画像観察(OCT)等が挙げられる。更に、軟エックス線顕微鏡による観察等が挙げられる。
【0140】
又、本発明で用いられる励起光の波長は、生物試料と生物試料用標識剤に影響を与えなければ特に限定されるものではないが、使用する標識剤によって異なり、本発明の標識剤が効率よく蛍光を発すれば特に限定されるものではない。通常、200nm〜1010nm、好ましくは400nm〜900nm、より好ましくは、480nm〜800nmである。近赤外領域の光を用いる場合は、通常600nm〜1000nmで、好ましくは、生体透過性に優れている680nm〜800nmの波長が用いられる。
【0141】
本発明で用いられる蛍光励起光源としては、生物試料と生物試料用標識剤に影響を与えなければ特に限定されるものではないが、各種レーザー光源を用いることが出来る。例えば、色素レーザー、半導体レーザー、イオンレーザー、近赤外パルスレーザー、ファイバーレーザー、ハロゲンランプ、キセノンランプ、又はタングステンランプ等が挙げられる。又、各種光学フィルターを用いて、好ましい励起波長を得たり、蛍光のみを検出したりする事が出来る。
【0142】
このように生物試料に励起光を照射する事により生物試料の内部において発光させた状態で生物試料を撮像すれば発光部位を容易に検出する事が出来る。又、可視光を照射して得られた明視野画像と励起光を照射して得られた蛍光画像を画像処理手段で組み合わせる事で、より詳細に生物試料を観察する事も出来る。
【0143】
本発明の生物試料用標識剤は、ストークスシフトが大きいものが多数存在する。本発明で言うストークスシフトとは励起極大波長と蛍光極大波長の差を表すものとする。一般的に、ストークスシフトが小さいと、励起光やその散乱光による測定誤差を生じやすい。しかし、検出に問題がなければ、特に限定されるものではない。ただし、2種以上の生物試料用標識剤を目的に応じて相応しいものを選択する事で、1つの励起波長の光で生物試料中の複数部位を同時に検出したり、同じ部位を蛍光波長の違いでより詳細に生物試料を観察したりする事も出来る。
【0144】
又、放射線核種で標識された生物試料用標識剤を含む診断用薬剤を用いれば、PET、PET−CT、SPECT、MRI、又はGREI等で容易に生物試料のイメージングが可能である。
【0145】
本発明の生物試料用標識剤は、生物試料、例えば、ゼブラフィッシュを用いてスクリーニングが可能である。更に、ゼブラフィッシュという、生きている生物(in vivo)に投与するため、生物試料用標識剤の安全性のスクリーニングも同時に観察する事が可能である。
【0146】
ゼブラフィッシュは、米国及び英国では、近年、既にマウス及びラットに続く第3のモデル動物として認知されており、人と比較して全ゲノム配列が80%の相同性、遺伝子数もほぼ同じ、主要臓器・組織の発生・構造も良く似ている事が解明されてきている。各パーツ(心臓、肝臓、腎臓、消化管等の臓器・器官)が受精卵から分化して形成されていく過程が透明な体を通して観察できるのが特徴であるため、ゼブラフィッシュをモデル動物としてスクリーニングに用いる事は特に好ましい。
【0147】
ゼブラフィッシュは、網膜や脳、肝臓といった主要な組織において、組織学的類似性が高いことや、多くの既知の薬物がヒトにおける作用と同等であることが示されている。又、ゼブラフィッシュで最初に同定された化合物が哺乳類において同様の活性を持つことが判明した例もあり、ヒトへの高い外挿性を持つことが示されている。他にも、運動性疾患のモデル動物としての有用性、免疫システムのヒトとの高い類似性、眼科疾患のモデル動物としての有用性、内耳神経毒性のスクリーニングへの応用等、幅広い領域においてヒトとの相同性の高さが示されている。そのため、ゼブラフィッシュを用いた化合物の毒性スクリーニングや、薬剤スクリーニング等の応用の取り組みもなされている。
【0148】
具体的に、本発明の生物試料用標識剤とゼブラフィッシュを接触させて、生物試料用標識剤がゼブラフィッシュに及ぼす影響を観察するスクリーニング法が挙げられる。このスクリーニングにより、生物試料用標識剤の毒性も客観的に知ることが可能である。
【0149】
また、同時に本発明の生物試料用標識剤は、標識剤の種類によってゼブラフィッシュの生体組織の標識される部位がそれぞれ異なる。生物試料用標識剤のような低分子化合物を用いて、ゼブラフィッシュの生体組織の異なる部位をそれぞれ標識する事が初めて可能になった。標的部位としては、鼻、血管、肝臓、毛細細胞、側線、皮膚、腫瘍、癌細胞、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸、口膣、泌尿器内膣、脂肪等が挙げられる。
【0150】
また、本発明の一般式(I)が有する骨格において置換基を変更するのみで、異なる生体組織の部位を染色する複数の生物試料用標識剤を容易に作成できる。更に、これらの複数の生物試料用標識剤は、互いに励起波長および蛍光波長を異ならせることができるので、同時に投与することができ、これにより多重染色(複数色を同時に染め分けること)が実現可能となる。本発明の生物試料用標識剤は、従来知られた核酸染色剤のように生体全体の組織を非特異的に標識するのでは無く、特定の部位を効果的に標識することができる。また、本発明の標識剤は、複数の部位をひとつの標識剤で標識可能なものも多い。その場合、同時に複数の部位のモニタリングが可能になる。本発明の標識剤は、特定の部位においてコントラスト良く標識化できるために、サイズや形状などの形態的な特徴を正確にイメージングすることが可能になる。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることは特に有用である。すなわち、前記モニタリングは疾患の進行や治癒を客観的に評価することが可能になる。
【0151】
前記標識される部位を元に本発明の生物試料用標識剤を用いて、分子イメージング技術に応用する事が出来る。例えば、スクリーニングを含めた創薬開発が迅速となり、低コスト化が可能となる。また、新しい病気の高精度な診断や治療法の開発にも応用可能である。更には生命科学研究に用いる事で未解明な現象を突き止める事が出来る等、業界が飛躍的に発展させる有効な基盤技術となりえる。生物試料用標識剤を投与する方法としては、特に限定されるものではないが、生物試料用標識剤が水溶性の場合は、飼育水中に生物試料用標識剤を投与する方法が挙げられる。非水溶性の場合は、飼育水中に生物試料用標識剤を単独で分散させて投与する方法、または微量の界面活性剤やDMSOと共に投与する方法、ゼブラフィッシュの餌に混ぜて経口投与する方法、又は、注射等による非経口投与する方法が挙げられる。もちろん、生物試料用標識剤が水を含む媒体に完全に溶解していても、あるいは、懸濁の状態で用いても問題はない。好ましくは、容易に出来る飼育水中に生物試料用標識剤を投与する方法が挙げられる。そのためにも生物試料用標識剤は親水性もしくは水溶性であることが望ましく、化合物中にカルボン酸基やスルホン酸基を含有している事が望ましい。
【0152】
本発明の生物試料用標識剤は、例えば、化学物質の効果、副作用、又は一般毒性、神経発生毒性、生殖発生毒性、遺伝毒性、発がん性等の安全性の評価スクリーニングを行う際の指標に用いる事が期待される。例えば、生物試料用標識剤を1種類以上と生物試料としてゼブラフィッシュ、及び調査したい化学物質を用いてin vivoで生物に及ぼす影響のスクリーニングが可能である。標識部位、目的、検査手段等に応じて、生物試料用標識剤を随時に選択する事が出来る。
【0153】
前記記載の化学物質とは、化学的に作用のある総称を意味し、特に限定されるものではないが、例えば、医薬品、有機化合物、治療剤、治験薬、農薬、化粧品、環境汚染物質、又は内分泌攪乱物質等が挙げられる。
【0154】
ゼブラフィッシュは、スクリーニングの目的に応じて野生型ゼブラフィッシュに制限されず、各種疾患系モデルのゼブラフィッシュを用いる事が出来る。疾患系のモデルを用いた場合には、本発明の生物試料用標識剤を指標として、新薬候補化合物の効果及び安全性を判断するスクリーニングに応用する事が出来る。
【0155】
試験化合物を投与する方法としては、特に限定されるものではないが、試験化合物が水溶性の場合は、飼育水中に試験化合物を投与する方法が挙げられる。非水溶性の場合は、飼育水中に試験化合物を微分散して投与する方法、ゼブラフィッシュの餌に混ぜて経口投与する方法、又は、注射等により非経口投与する方法が挙げられる。また、試験化合物の溶解性や分散性を向上させるために、pH調整剤や界面活性剤などを添加して投与しても良い。
【0156】
本発明のスクリーニング方法は、ゼブラフィッシュのような飼育及び繁殖が容易で流通価格も安く、受精後48〜72時間で主要臓器・組織の基本構造が出来上がるため、マウス及びラット等と比較して、スピード面・コスト面で非常に優れている。
【0157】
本発明の生物試料用標識剤と生物試料、例えばゼブラフィッシュを接触させ標識された部位を取り出して(ex vivo)、生物試料用標識剤の染色性を観察するスクリーニングも可能である。更に、生物試料用標識剤の染色性から、病気の高精度な診断や治療法の開発等の応用展開が期待される。
【0158】
本発明の生物試料用標識剤は、生物試料から取り出した組織や細胞(in vitro)に対して染色性のスクリーニングを行う事が出来る。更に、生物試料用標識剤の染色性から、病気の高精度な診断や治療法の開発等の応用展開が期待される。例えば、穿刺型細胞診器具等を用いて、標的とする組織や細胞の一部を極微量吸引採取し、本発明の生物試料用標識剤を用いて標識し、細胞の形態、種類、良性悪性等の鑑別を行う細胞診断に用いる事が期待される。
【0159】
本発明の生物試料用標識剤は、例えば、手術中に疾患の細胞組織や腫瘍と思われる部位に塗布等をして標識し、正常な細胞との違いを見極める手段に使うことが出来る。又、内視鏡、カプセル内視鏡又はファイバースコープ内視鏡、軟性内視鏡のような診断用器具又は治療用器具内部に本発明の生物試料用標識剤を充填しておき、必要に応じて例えば腫瘍等の疑いがある個所に噴霧して、腫瘍の部位を特定するという応用方法もある。更に、カテーテルなどの器具を胸膣、腹膣等の体膣、消化管、尿管等の管膣部、血管等に挿入し、本発明の生物試料用標識剤を薬剤等と共に注入点滴する事も可能である。又、薬剤溶出性ステントやガイドワイヤの被膜チューブに本発明の生物試料用標識剤を含有させておき、外部からエックス線等によって位置確認をする事も可能である。これらの標識剤を封入して用いる診断用器具又は治療用器具は、器具と別個の標識剤と組み合わせたキットとして提供することもできる。
【0160】
また、本発明は、生物試料用標識剤と、該標識剤を検出するための手段とを組み合わせた生物試料検出システムを包含する。検出手段としては、標識剤を励起する手段と、標識剤からの発信する光シグナルを検出する手段を有することができる。
【0161】
本発明の生物試料用標識剤は診断用に用いることができる。又、生物試料用標識剤を少なくとも1つ以上含む診断用組成物として用いることが出来る。特に限定されるものではないが、例えば、本発明の生物試料用標識剤で標識された診断用物質を用いたり、該診断用物質を含んだ診断用薬剤として用いたり応用する事も可能である。
【実施例】
【0162】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。使用した分析装置は、1H核磁気共鳴分光分析(ECA−400、日本電子(株)製)、LC/TOF MS(LC/MSD TOF、Agilent Technologies社製)、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)である。
【0163】
[化合物の合成例]
次に化合物の典型的な合成例1〜2を示す。アルデヒド誘導体、化合物(B)を変更させ、適当な酸又は塩基とともに加熱還流させる事により目的とする化合物を得る事が出来る。
【0164】
<合成例1>
色素化合物(1)の合成
アルデヒド誘導体(A−2)3.0g(11.4mmol)の酢酸20mL溶液に化合物(B−20)2.2g(11.5mmol)、酢酸アンモニウム0.9gを添加して、還流下2時間攪拌させた。反応終了後、冷却させながら、ゆっくり水50mLを滴下して室温まで冷却した。析出した個体をろ過して、水100mLで2回洗浄し、更に、2−プロパノール50mLで洗浄して、目的物(1)3.2g(収率64.4%)を得た。
【0165】
[化合物(1)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、DMSO−d6、室温):δ[ppm]=1.36−1.40(m、1H)、1.63−1.81(m、4H)、2.04−2.08(m、1H)、3.89(t、1H、J=8.47Hz)、4.73(s、2H)、5.06(t、1H、J=7.10Hz)、6.93(d、1H、J=8.24Hz)、7.15(t、1H、J=7.10Hz)、7.38−7.46(m、6H)、7.74(s、1H)。
図1にスペクトル図を示す。
【0166】
[2]質量分析(ESI−TOF):m/z=435.0859(M)-。
【0167】
<合成例2>
色素化合物(7)の合成
アルデヒド誘導体(A−16)3.43g(10.0mmol)のトルエン20mL溶液に、化合物(B−7)1.13g(10.0mmol)とピペリジン2.5g(30.0mmol)を添加して、還流下2.5時間攪拌させた。反応終了後、室温まで冷却させ、トルエン100mLで希釈した後、水100mLを添加し攪拌した。静置後、有機層を分液して無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過した後、減圧下、トルエンを留去して、エタノールから再結晶して、目的物(7)1.3g(収率31.7%)を得た。
【0168】
[化合物(7)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、DMSO−d6、室温):δ[ppm]=1.36−1.47(m、1H)、1.64−1.81(m、4H)、2.04−2.13(m、1H)、3.90(t、4H、J=8.93Hz)、5.18(s、1H)、6.89(d、1H、J=8.24Hz)、7.19(dd、1H、J=2.52、8.93Hz)、7.34(d、1H、J=2.29Hz)、7.55(dd、1H、J=2.29、8.70Hz)、7.75(d、1H、J=8.7Hz)、7.83(t、2H、J=4.58Hz)、7.89(d、1H、J=8.7Hz)、7.95(s、1H)、8.07(s、1H)。
[2]質量分析(ESI−TOF):m/z=409.1574(M)-。
【0169】
図2に、色素化合物(7)の励起波長λexと蛍光波長λemのスペクトルシフト図を示す。
【0170】
(実施例1)
[生物試料用標識剤でのin vivoによる標識]
ウエルプレートの1箇所に5匹のゼブラフィッシュの稚魚を飼育水ごと入れた。飼育水を廃棄し、蒸留水1mLを加え、10ng/mLになるように色素化合物(1)のDMSO溶液を加え、軽く攪拌(ピペッティング)した。又、人工海水シーライフ(マリンテック社製)を60mg/Lで蒸留水に溶解して、Egg Waterを調整した。1時間放置した後、ウエル中の蒸留水を廃棄し、新鮮なEgg Water 1mLで置換した。更に、Egg Waterを廃棄し、新鮮なEgg Water 1mLで置換する事を2回繰り返した。ウエルから稚魚をシャーレ上に1匹取り出し、3%メチルセルロース水溶液を100μL加え稚魚の動きを固定し、実体顕微鏡(MZ10F:ライカマイクロシステムズ社製)で撮影した。
【0171】
次に、稚魚を5%低温融解アガロースゲルに包埋して、リニアスライサーPRO7(堂阪イーエム社製)を用いて消化管の切片を作製した。作製した消化管の切片をスライドガラスに載せ、実体顕微鏡で撮影した。
【0172】
この実施例は、生物試料用標識剤自体の性質及び特徴を調査する化合物スクリーニング方法を含む事が出来る。
【0173】
(実施例2〜78)
実施例1において使用した色素化合物(1)を表1に記載した色素化合物に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。撮影した代表的な写真を図3から図7に示す。図3は、実施例6で観測された一部の写真(血管)を示す。図4は、実施例15で観測された一部の写真(鼻)を示す。図5は、実施例52で観測された一部の写真(血管、肝臓、胆嚢、消化管)を示す。図6は、染色剤暴露をしていない状態で観測された写真(自家蛍光)を示す。図7は、実施例52で観測された一部の拡大写真(肝臓、胆嚢、消化管)を示す。
【0174】
(比較例1〜2)
実施例1において使用した色素化合物(1)をインドシアニングリーン(ICG)、フルオレセインに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0175】
<評価>
[染色性]
前記標識実施例1〜78、前記標識比較例1〜2をそれぞれ、染色性を目視による評価(+++:染色される、−:染色されない)を行った。
【0176】
[蛍光感度]
前記標識実施例1〜78、前記標識比較例1〜2をそれぞれ、蛍光強度を目視による評価(+++:強度に観測される、++:中度に観測される、+:弱度に観測される、−:染色されない)を行った。
【0177】
[保存安定性]
前記標識実施例1〜78、前記標識比較例1〜2の各色素化合物を10ng/mLのDMSO溶液を調製し、ガラス製の密閉容器に入れ、常温で1ヶ月間静止放置した。保存安定性テストの開始時の吸光度及び蛍光強度を所定の波長で測定しその変化率を調べた。(+++:吸光度及び蛍光強度の変化率が5%未満で、保存安定性に非常に優れる、++:吸光度及び蛍光強度の変化率が5〜15%で、保存安定性に優れる、−:吸光度及び蛍光強度の変化率が15%より大きく、保存安定性が悪い)を行った。
【0178】
以上の結果を実施例1〜78及び比較例1〜2の結果を表1〜2に示す。なお、色素化合物の励起波長および蛍光波長は、10mg/mLのDMSO溶液を精製水に500倍希釈した水溶液を日立ハイテク社製FL4500蛍光分光測定機で測定して求めた。
【0179】
【表1−1】
【0180】
【表1−2】
【0181】
【表1−3】
【0182】
【表2】
【0183】
表1〜2から明らかなように、本発明の生物試料用標識剤は、生体組織の特定の部位を効果的に標識することができ、更に、優れた分光特性を持ち、保存安定性も優れている。また、比較例1〜2のような従来から知られている色素を用いた場合は、単一の標識部位しか染色する事が出来ないが、本発明の標識剤では、複数の部位をひとつの標識剤で同時に標識可能なものも多い。その場合、同時に複数の部位のモニタリングが可能になるため、標識剤は最小量で済むのでコスト的にも安価になる。また、本発明の標識剤は、特定の部位においてコントラスト良く標識化できるために、サイズや形状などの形態的な特徴を正確にイメージングすることが出来る。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることは特に有用である。また、ゼブラフィッシュは腹部に若干の自家蛍光を有するが、それ以外の部位ではほとんど自家蛍光を発しない。本発明の染色剤を用いることにより、標識剤を暴露しない個体に較べて顕著な染色性、蛍光感度を示し、明瞭に組織の形態を視覚化することが出来る。このような本発明の低分子化合物を用いることで、ゼブラフィッシュの異なる部位を標識する事が初めて可能になった。更に、ゼブラフィッシュをモデル動物に用いる事で短時間に安価にスクリーニングを実施することが出来る。
【0184】
(実施例79)
[生物試料用標識剤でのex vivoによる標識]
実施例5の操作によって染色されたゼブラフィッシュを取り出して4%パラフォルムアフデヒド(PFA)のPBS溶液で固定後、リニアスライサーPRO7(堂阪イーエム社製)を用いて50μm厚の組織切片を作製した(表3)。MASコートスライドガラス(松浪硝子工業社製)上に切片を回収し、Fluoromount G(Southem Biotechnology社製)をマウントしてカバーグラスをかけた。得られたスライドを実体蛍光顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製 MZ16FA)及び倒立型蛍光顕微鏡(カールツァイス社製 Axiovert 200M)で観察した。
【0185】
(実施例80、81)
[生物試料用標識剤でのin vitroによる標識]
表3に示されるヒト凍結組織切片スライド(BioChain社製)を、表3に示す色素化合物の10ng/mL水溶液に1時間浸漬した。次に、スライドをPBSで10分3回洗浄し、Fluoromount G(Southem Biotechnology社製)をマウントしてカバーグラスをかけた。スライドを実体蛍光顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製 MZ16FA)及び倒立型蛍光顕微鏡(カールツァイス社製 Axiovert 200M)で観察し、染色性と蛍光強度を評価した。
【0186】
実施例79〜81の結果を表3に示す。
【0187】
【表3】
【0188】
表3より、本発明の標識剤は生物試料に対し、ex vivoによる染色及びin vitroによる染色でも組織を標識する事が出来、かつ、染色性、蛍光感度に優れているため明瞭に視覚化出来るのは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0189】
生物試料が簡便に高感度で標識され、保存安定性が高く、ストークスシフトが大きい生物試料用標識剤が提供される。生物試料用標識剤は、部分構造の差異によって、それぞれの生体組織、器官の異なる特定の部位を効果的に標識することが出来る。本発明では、特定の部位を効果的に標識することで、サイズや形状などの形態的な特徴をイメージングすることが可能になる。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることで、疾患の進行や治癒を客観的に評価することが可能になる。また、特定の生体組織を選択的に分子レベルでイメージングする技術に応用する事が出来る。また、スクリーニングを含めた創薬開発が迅速となり、低コスト化が可能となる。また、新しい病気の高精度な診断や治療法の開発にも応用可能である。また、化学物質の安全性評価のスクリーニングを行う際の指標に用いる事が期待される。更には、生命科学研究に用いる事で未解明な現象を突き止める事が出来る等、業界が飛躍的に発展させる有効な基盤技術となりえる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物試料が簡便に高感度で標識される生物試料用標識剤並びに該標識剤を用いた標識方法及びスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
分子イメージングとは生物の活動を細胞・分子レベルで観察するための画像を形成する手段である。近年の分子イメージング技術の発展は生体内の様々な細胞・分子の挙動を外部から観察する(画像として捉える)事を可能にしている。そのため分子イメージングは医学領域における診断技術及び生命科学領域における研究手段として重要な技術となっている。
【0003】
主に分子イメージングの手法として、MR法(核磁気共鳴法)、陽電子放射断層撮影法(PET)、光トポグラフィーが研究されており、目的に応じて医療領域及び生命科学領域で幅広く利用されている。これらのなかでPETによる分子イメージング技術は標識剤(プローブ)を利用して特定の生体内分子を標識する手段として腫瘍の早期診断や創薬の候補物質の探索研究に広く用いられている。又、色素化合物を用いて生体内の細胞や分子を可視化する技術は、簡便に生体内の細胞・分子の変化を捉える事が出来るため、生命現象の解析、様々な疾患の早期診断又は創薬分野への応用等で重要な技術として注目されている。細胞又は組織を可視化させるための染色法は古くから知られ、目的に応じて多様の染色剤が使用されている。例えば、フルオレセインのような蛍光染色剤は、網膜の細小血管造影(非特許文献1参照)や眼底検査(非特許文献2参照)等に用いられている。しかしながら、蛍光感度が十分でなく、生体組織により散乱され染色部位の検出が不鮮明であるという問題があった。又、シアニン系色素であるインドシアニングリーンは、上記用途(非特許文献3参照)において蛍光強度が十分でない場合が多く、感度を高めるために多量に用いると不要な部分が染色されるという問題があった。さらにこの化合物は耐光性が低いため、観察中に褪色しやすいという問題もあった。そのため、高い輝度を有し且つ耐光性が良好である新規な蛍光色素の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Neurosurgery,35,930貢(1994年)
【非特許文献2】Gastroenterology,127(3),706−713(2004年)
【非特許文献3】SPIE,2389,789−797貢(1995年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は優れた分光特性を持ち、保存安定性も優れた新規な生物試料用標識剤を提供する事である。
【0006】
本発明の別の目的はこれらの新規な生物試料用標識剤を使用してin vivo、ex vivo、in vitroで細胞または細胞器官を標識する手法を提供する事である。又、本発明の別の目的は、これらの新規な生物試料用標識剤を使用したスクリーニング方法を提供する事にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む生物試料用標識剤を得る事に成功した。さらに当該生物試料用標識剤を使用してin vivo、ex vivo、in vitroで細胞及び細胞組織を標識する手法を確立するに至った。即ち、本発明は以下の通りである。
【0008】
一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む事を特徴とする生物試料用標識剤。
【0009】
【化1】
【0010】
一般式(I)中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、又はアシル基を表す。R2〜R5は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、又はアシル基を表し、R2とR4が互いに結合して環を形成しても良い。R6は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。R7及びR8は各々独立して水素原子、アルケニル基、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、又はヘテロ環基を表す。R7とR8は互いに結合して環を形成しても良い。
【0011】
本発明に係る生物試料の標識方法は、上記生物試料用標識剤と生物試料を接触させて標識する標識方法である。
【0012】
本発明に係るスクリーニング方法は、上記生物試料用標識剤を利用したスクリーニング方法である。
【0013】
本発明に係る診断用標識剤は上記生物試料用標識剤を有効成分として含む診断用標識剤である。
【0014】
本発明に係る診断用器具は上記生物試料用標識剤を含む診断用器具である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、生物試料が簡便に高感度で標識され、保存安定性が高く、ストークスシフトが大きい生物試料用標識剤が提供される。また、高感度に細胞または細胞器官を標識することで、サイズや形状などの形態的な特徴をイメージングすることが可能となる。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることで、疾患の進行や治癒を客観的に評価することが可能になる。また、特定の生体組織を選択的に分子レベルでイメージングする技術に応用する事が出来る。また、スクリーニングを含めた創薬開発が迅速となり、低コスト化が可能となる。また、新しい病気の高精度な診断や治療法の開発にも応用可能である。また、化学物質の安全性評価のスクリーニングを行う際の指標に用いる事が期待される。更には、生命科学研究に用いる事で未解明な現象を突き止める事が出来る等、業界を飛躍的に発展させる有効な基盤技術となりえる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の色素化合物(1)のDMSO−d6中、室温、400MHzにおける1HNMRスペクトルを表す図である。
【図2】本発明の色素化合物(7)における色素化合物の励起波長λexと蛍光波長λemのスペクトルシフト図を示す。
【図3】実施例6で観測された一部の写真(血管)を示す。
【図4】実施例15で観測された一部の写真(鼻)を示す。
【図5】実施例52で観測された一部の写真(血管、肝臓、胆嚢、消化管)を示す。
【図6】染色剤暴露をしていない状態で観測された写真(自家蛍光)を示す。
【図7】実施例52で観測された一部の拡大写真(肝臓、胆嚢、消化管)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に本発明について更に詳しく説明する。
【0018】
本発明者らは、前記した従来技術の課題を解決すべく鋭意検討の結果、下記一般式(I)で表される色素化合物は、生物試料が高感度で標識され、より高精度な診断や薬のスクリーニングが可能になる新規な生物試料用標識剤である事を見出して本発明に至った。
【0019】
【化2】
【0020】
一般式(I)中、R1は水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、又はアシル基を表す。
【0021】
R2〜R5は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはアシル基を表し、R2とR4が互いに結合して環を形成しても良い。
【0022】
R6は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表す。
【0023】
R7及びR8は各々独立して水素原子、アルケニル基、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、アシル基、又はヘテロ環基を表す。R7とR8は互いに結合して環を形成しても良い。
【0024】
前記一般式(I)中のR1におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。
【0025】
R1におけるアラルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ベンジル基、又はフェネチル基等が挙げられる。
【0026】
R1におけるアルケニル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、ビニル基、2,2−ジフェニルビニル基、3−ブテニル基、又はシクロヘキセニル基等の炭素数2〜20個のアルケニル基が挙げられる。
【0027】
R1におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0028】
R1におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、例えば、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0029】
R1におけるアシル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、または2−ナフトイル基等が挙げられる。
【0030】
R1は、更に置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に特に限定されるものではない。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンズチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等が挙げられる。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。R1は、上記に列挙した置換基から、それぞれ独立に且つ任意に選択できるが、好ましい形態としてはアラルキル基、アルケニル基、又はアリール基等の場合が蛍光の強度が強いため好ましい。具体的には、フェニル基、ブロモフェニル基、ベンジル基、ブロモベンジル基、メチルチオフェニル基、メトキシフェニル基、メトキシナフチル基、ベンジルフェニル基、2,2−ジフェニルビニル基、又は2,2−ジフェニルビニルフェニル基等が好ましい。更に好ましくは、フェニル基、ブロモフェニル基、ベンジル基、メチルチオフェニル基、メトキシフェニル基、又はメトキシナフチル基が好ましく、特に、メチルチオフェニル基の場合はストークスシフトが飛躍的に大きくなる傾向が認められるため好ましい。
【0031】
前記一般式(I)中のR2〜R5におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを含む、直鎖、又は分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基等。
【0032】
R2〜R5におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0033】
R2〜R5におけるカルボン酸エステル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸メチル基、カルボン酸エチル基、カルボン酸プロピル基、又はカルボン酸ブチル基等が挙げられる。
【0034】
R2〜R5におけるアシル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、または2−ナフトイル基等が挙げられる。
【0035】
R2〜R5は更に置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0036】
R2とR4が互いに結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。シクロオクタン環、シクロヘプタン環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、又はシクロブタン環等の飽和脂肪族環、シクロペンテン環、又はシクロヘキセン環等の部分飽和脂肪族環等。更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではない。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等が挙げられる。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0037】
R2〜R5として、好ましくは、各々独立して水素原子、アルキル基、又はアリール基、R2とR4が互いに結合して環を形成している場合であり、より好ましくは、R2とR4が互いに結合して環を形成している場合が化学構造上安定であるので好ましい。具体的には、シクロオクタン環、シクロヘプタン環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、又はシクロブタン環が挙げられる。より好ましくはシクロペンタン環が保存安定性の上からも好ましい。
【0038】
前記一般式(I)中のR6におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。前記一般式(I)中のR6におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、炭素数1〜20個のアルコキシ基が挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、デシルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、ドデシルオキシ基、又はオクタデシルオキシ基等。R6におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等が挙げられる。
【0039】
R6として好ましくは、水素原子、ハロゲン原子、又はアルコキシ基の場合であり、より好ましくは水素原子、又はハロゲン原子の場合である。
【0040】
前記一般式(I)中のR7及びR8におけるアルケニル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。2−シアノアクリル酸基、エチリデンマロノニトリル基、2−エチリデンマロン酸ジメチルエステル基、2−エチリデンマロン酸ジエチルエステル基、2−エチリデンマロン酸ブチルエステル基、5−エチリデン−4−オキソ−2−チオキソチアゾリジニル−3−酢酸、5−エチリデン−4−オキソ−2−チオキソチアゾリジニル−3−プロパン酸、3−エチル−5−エチリデン−2−チオキソチアゾリジン−4−オン、5−エチリデン−4−オキソ−2−(3−エチル−4−オキソ−2−チオキソチアゾリデン)−チアゾリジニル−3−酢酸等。
【0041】
R7及びR8におけるカルボンエステル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸メチル基、カルボン酸エチル基、カルボン酸プロピル基、又はカルボン酸ブチル基等が挙げられる。
【0042】
R7及びR8におけるアシル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、ペンタノイル基、ベンゾイル基、1−ナフトイル基、または2−ナフトイル基等が挙げられる。
【0043】
R7及びR8におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、例えば、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0044】
更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではない。例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0045】
R7及びR8として好ましくは、化合物の合成の容易さからR7もしくはR8のどちらか一方が、シアノ基、又はカルボン酸基、ヘテロ環基を表す場合であり、特に好ましくは、R7もしくはR8のどちらか一方がシアノ基を表す場合である。又、R7もしくはR8のどちらか一方が水素原子を表す時、もう一方は下記一般式(II)で表されるヘテロ環基、またはアルケニル基を表す場合が好ましい。
【0046】
【化3】
【0047】
一般式(II)中、R9はアルキル基、又はアリール基を表す。R10〜R13は各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ヘテロ環基、アミノ基、又はハロゲン原子を表す。又、R10とR11、R11とR12、又はR12とR13は互いに結合して環を形成しても良い。X-は陰イオン性基を表す。Q1は硫黄原子、酸素原子、−C(R14)(R15)−、−CH=CH−、又は−N(R16)−を表す。R14〜R16は水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す。
【0048】
一般式(II)中、R9におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。
【0049】
R9におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0050】
R9としては、更に置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではない。例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等が挙げられる。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0051】
R9として好ましくは、アルキル基の場合であり、更に該アルキル基にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、又はそれらの塩等の置換基を有すると化合物の水溶性が増し、蛍光強度も増すので好ましい。
【0052】
一般式(II)中、R10〜R13におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等の直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。
【0053】
R10〜R13におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0054】
R10〜R13におけるアルコキシ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、炭素数1〜20個のアルコキシ基が挙げられる。メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、デシルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基、ドデシルオキシ基、又はオクタデシルオキシ基等。
【0055】
R10〜R13におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0056】
R10〜R13におけるアミノ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。無置換アミノ基;N−メチルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N−ヘキシルアミノ基、N−テトラデシルアミノ基、N−フェニルアミノ基、又はN−ナフチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;N,N‐ジメチルアミノ基、N,N‐ジエチルアミノ基、N,N‐ジフェニルアミノ基、又はN,N‐メチルプロピルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、tert‐ブチルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、ナフトイルアミノ基、又はメトキシカルボニルアミノ基等のカルボニルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、tert‐ブチルスルホニルアミノ基、又はiso‐プロポキシスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基等。
【0057】
R10〜R13におけるハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等が挙げられる。
【0058】
R10〜R13として、好ましくは、水素原子、カルボン酸基、スルホニル基、アミノ基、ハロゲン原子であり、より好ましくは水素原子、スルホン酸基の場合は化合物の水溶性があがるため好ましい。また、カルボン酸塩、スルホン酸塩のような塩類の形も好ましく本発明の範疇である。
【0059】
R10とR11、R11とR12、又はR12とR13が互いに結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。ベンゼン環、ナフタレン環等の炭素数3〜10の芳香環、シクロオクタン環、シクロヘプタン環、シクロヘキサン環、シクロペンタン環、シクロブタン環等の飽和環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環等の部分飽和環、ピリジン環、又はピリミジン環等のヘテロ環等。更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。又、R10とR11、R11とR12、又はR12とR13が互いに結合して形成する環として、化合物の保存安定性が向上するため、ベンゼン環の場合が好ましい。
【0060】
一般式(II)中、X-は陰イオン性基を表す。ここで陰イオン性基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものを表す。フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、又はヨウ化物イオン等のハロゲンイオン;硫酸イオン、リン酸イオン、硝酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、又はヘキサフルオロリン酸イオン等の無機酸イオン;テトラクロロアルミニウムイオン等の含ルイス酸イオン;酢酸イオン、乳酸イオン、メタンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、又はテトラフェニルホウ酸イオンなどの有機酸イオン等。
【0061】
X-の陰イオン性基としては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、又はメタンスルホン酸イオン等が好ましく、より好ましくは化合物合成の容易さからも臭化物イオン、又はヨウ化物イオンの場合である。
【0062】
一般式(II)中、Q1は硫黄原子、酸素原子、−C(R14)(R15)−、−CH=CH−、又は−N(R16)−を表す。
【0063】
Q1中、R14〜R16におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。
【0064】
Q1中、R14〜R16におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0065】
Q1としては、酸素原子を表す時のベンゾオキサゾリル環基、硫黄原子を表す時のベンゾチアゾリル環基、又は−C(CH3)(CH3)−を表す時のジメチルインドレニル環基の場合が、化合物の保存安定性が良いため特に好ましい。
【0066】
一般式(I)中、R7及びR8が互いに結合して形成する環としては、特に限定されるものではないが、例えば、5員環または6員環で構成される部分飽和環、又は、ヘテロ環等が挙げられる。
【0067】
R7及びR8が互いに結合して形成する環が5〜6員環で構成される脂肪族環としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。2,3−ジヒドロインデン環、インデン−1,3−ジオン環、4−シクロペンテン−1,3−ジオン環、フルオレン環、シクロヘキサノン環、又は5,5−ジメチル−1−シクロヘキセン環等。
【0068】
R7及びR8が互いに結合して形成する環が5員環または6員環からなるヘテロ環としては、特に限定されるわけではないが、特に好ましい例として、例えば、下記一般式(III)または(IV)で表される5員環からなるヘテロ環が挙げられる。
【0069】
【化4】
【0070】
一般式(III)中、R17は水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、R18はアルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基を表す。一般式(IV)中、Q2は、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R21)−を表す。R19は水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、R20は硫黄原子、酸素原子、=NR22、ヘテロ環、ヘテロ環で置換されたメチレン基、又はジシアノメチレン基を表す。R21及びR22は水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す。
【0071】
一般式(III)中、R17及びR18におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、又はシクロブチル基、シクロペンチル基等。
【0072】
R17及びR18におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。更に該環には、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0073】
R17におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、又は酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジル基、ピリミジル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0074】
一般式(III)中、R17として好ましくは、化合物の安定性からアリール基の場合である。更に該アリール基にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、またはスルホン酸塩等の置換基を有していると水溶性が向上するため好ましい。
【0075】
R18におけるカルボン酸エステル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、カルボン酸メチル基、カルボン酸エチル基、カルボン酸プロピル基、又はカルボン酸ブチル基等が挙げられる。
【0076】
R18におけるアミノ基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。無置換アミノ基;N−メチルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N−ヘキシルアミノ基、N−テトラデシルアミノ基、N−フェニルアミノ基、N−ナフチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N,N−ジフェニルアミノ基、又はN,N−メチルプロピルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、tert−ブチルカルボニルアミノ基、ベンゾイルアミノ基、ナフトイルアミノ基、又はメトキシカルボニルアミノ基等のカルボニルアミノ基;メチルスルホニルアミノ基、エチルスルホニルアミノ基、tert−ブチルスルホニルアミノ基、又はiso−プロポキシスルホニルアミノ基等のスルホニルアミノ基等。
【0077】
一般式(III)中、R18として好ましくは、化合物の合成の容易さからアルキル基、アリール基、カルボン酸基、又はアミノ基であり、特に好ましくは、アルキル基、カルボン酸基である。
【0078】
一般式(IV)中、Q2は、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R21)−を表す。
【0079】
一般式(IV)及びQ2中、R19及びR21〜R22におけるアルキル基としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下に挙げるものを含む、直鎖、分岐又は環状の炭素数1〜20個のアルキル基等が挙げられる。メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、又はシクロペンチル基等。更に、置換基を有していてもよく、色素化合物の保存安定性を著しく阻害するものでなければ特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、又はtert−ブチル基等のアルキル基;フェニル基、又はナフチル基等のアリール基;メトキシ基、エトキシ基、又はブトキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、又はナフチルオキシ基等のアリールオキシ基;チオメチル基、チオエチル基、チオプロピル基、チオブチル基、又はチオフェニル基等のアルキルスルファニル基;メチルアミノ基、またはブチルアミノ基等のモノ置換アミノ基;ジメチルアミノ基、N−エチル−N−フェニルアミノ基、又はジフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;アセチル基、ベンゾイル基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはカルバモイル基等のアシル基;スルホン酸基、スルホン酸エステル基、またはスルファモイル基等のスルホニル基;ピリジル基、トリアジニル基、又はベンゾチアゾリル基等のヘテロ環基;ニトロ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、又はヨウ素原子等のハロゲン原子;ポリエチレングリコール基;4級アンモニウム塩、カルボン酸塩、スルホン酸塩等の塩類等。これらの置換基で水溶性を向上させる性質のある置換基を有する事が好ましく、これらに限定されるわけではないが、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、スルホン酸塩が特に好ましい。
【0080】
一般式(IV)及びQ2中、R19及びR21〜R22におけるアリール基としては、特に限定されるものではないが、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、又はアントラセニル基等の6〜14員環の単環式又は多環式アリール基が挙げられる。
【0081】
一般式(IV)及びQ2中、R19〜R22におけるヘテロ環基としては、特に限定されるものではないが、4〜10員環の単環式又は二環式の窒素、又は酸素及び硫黄から選択される1〜4個の原子を含有するヘテロ環基が挙げられる。具体的なヘテロ環基としては、例えば、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピロリル基、チエニル基、フリル基、ピラニル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、トリアゾリル基、テトラゾリル基、イミダゾリル基、ピラゾリル基、モルホリニル基、チオモルホリニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基、イソインドリル基、ベンゾフリル基、2−チオキソチアゾリジン−4−オン基、又はベンゾチエニル基等が挙げられる。
【0082】
一般式(IV)中、R19として好ましくは、アルキル基の場合である。更に該アルキル基にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、またはスルホン酸塩等の置換基を有すると化合物の水溶性が増し、蛍光強度も増すので好ましい。
【0083】
一般式(IV)中、R20として好ましくは、硫黄原子、酸素原子、ヘテロ環、またはヘテロ環で置換されたメチレン基の場合である。R20が硫黄原子の場合は染色性が良くなる傾向がある。また、R20が3位に置換基を有する2−チオキソチアゾリジン−4−オンのようなヘテロ環の場合には、最大蛍光波長の検出が近赤外波長の領域に長波長化するものが多いため、近赤外での応用に用いる事が出来るためより好ましい。
【0084】
前記、一般式(I)で表される化合物中にカルボン酸基、スルホン酸基、またはポリエチレングリコール基を少なくとも1つ以上有すると水溶性が向上するため好ましい。又、カルボン酸、スルホン酸の塩類も本発明の範疇である。これらの具体的な例としては、特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。ナトリウム塩、又はカリウム塩等のアルカリ金属塩;マグネシウム塩、又はカルシウム塩等のようなアルカリ土類塩;アンモニウム塩、ピリジニウム塩、ピペリジニウム塩、又はトリエチルアンモニウム塩等のアミン塩;トリプトファン塩、リジン塩、ロイシン塩、フェニルアラニン塩、バリン塩、又はアルギニン塩等のアミノ酸塩が挙げられる。好ましくは、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、ピリジニウム塩、又はピペリジニウム塩等。
【0085】
本発明にかかる色素化合物は、単独で生物試料の特定の部位に保持されるとともに、発色性を有する化合物自体の構造に基づいて化合物を保持する試料内の部位を染色する染色剤としての生物試料の標識に利用することができる。又、本発明にかかる色素化合物は、生物試料の特定の部位に保持される特徴を利用して、当該化合物に更に光学的シグナルを発信可能な化合物を付加する形態の標識剤として用いることができる。付加する化合物は、直接またはリンカー分子を介して結合することができる。付加する化合物としては、細胞膜などの生体膜を通過して生物試料の内部に浸透することができる程度の低分子化合物が好ましい。
【0086】
次に、本発明の前記一般式(I)で表される構造を有する色素化合物の製造方法について以下に説明する。
【0087】
本発明にかかる一般式(I)で表される色素化合物は、公知の方法(例えば、Chem.Comm.,24巻,3036−3037頁(2003)等)により容易に合成することができる。以下に合成スキームの一例を示す。
【0088】
即ち、アルデヒド誘導体(A)と化合物(B)とをカップリングさせて、色素化合物(I)又は(I')を得る。具体的なカップリング方法としては、例えば、下記に示す方法が挙げられる。化合物(I)又は(I')は単離して用いても良いし、混合物のまま用いても良い。また、アルデヒド誘導体(A)、化合物(B)、一般式(I)で表される色素化合物の官能基において必要に応じて、公知の保護・脱保護反応、加水分解等の反応を追加する事は、当業者には適宜選択可能である。
【0089】
【化5】
【0090】
本発明で用いられるアルデヒド誘導体(A)は、市販されており入手可能であるが、公知の方法によっても合成する事が可能である。例えば、J.Am.Chem.Soc.,126巻,12325−12335頁(2004)、Tetrahedron Letters.,Vol.38,No.50,8721−8722貢(1997)、J.Med.Chem.,50,4405−4418貢(2007)、Hetetocycles,Vol.60,No.12,2761−2765貢(2003)等を参照することができる。
【0091】
本発明で用いるアルデヒド誘導体(A)の好ましい具体例を示すが、下記の例に限定されるものではない。
【0092】
【化6−1】
【0093】
【化6−2】
【0094】
【化6−3】
【0095】
本発明で用いる化合物(B)の好ましい具体例を示すが、下記の例に限定されるものではない。
【0096】
【化7−1】
【0097】
【化7−2】
【0098】
【化7−3】
【0099】
化合物(B)の使用量は、アルデヒド誘導体(A)1モルに対し、0.1〜10倍モル、好ましくは0.5〜3倍モル、より好ましくは0.8〜2倍モルである。
【0100】
本工程は無溶媒で行う事も可能であるが、溶媒の存在下で行う事が好ましい。溶媒としては、反応に関与しないものであれば特に限定されるものではないが、例えば、以下のものが挙げられる。酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クロロベンゼンメシチレン等の芳香族系溶媒、ジイソプロピルエーテル、メチル−tert−ブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、ブチルアルコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド(以下、DMFと略記する)、N,N−ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する)、水、酢酸等。好ましくは、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール、ブチルアルコール、ジエチレングリコール等のアルコール系溶媒、水、酢酸等である。より好ましくはエタノール、iso−プロピルアルコール、ジエチレングリコール、酢酸等である。又、2種以上の溶媒を混合して用いる事ができ、混合使用の際の混合比は任意に定める事ができる。上記反応溶媒の使用量は、アルデヒド誘導体(A)に対し、0.1〜1000倍重量の範囲で用いられ、好ましくは0.5〜500倍重量、より好ましくは1.0〜150倍重量である。
【0101】
本工程の反応温度は、−80〜250℃の範囲で行われ、好ましくは−20〜200℃、より好ましくは−5〜150℃である。通常反応は24時間以内に完結する。
【0102】
本工程では、必要に応じて酸又は塩基の添加を行うと反応が速やかに進行する。用いる酸は反応に関与しないものであれば制限されないが、例えば、以下のものが挙げられる。塩酸、硫酸、リン酸等の無機酸;p−トルエンスルホン酸、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、トリフルオロ酢酸等の有機酸;アンバーライト(ローム・アンド・ハース株式会社)、アンバーリスト(ローム・アンド・ハース株式会社)等の強酸性イオン交換樹脂;ギ酸アンモニウム、又は酢酸アンモニウム等の無機酸塩等。好ましくは、ギ酸アンモニウム、又は酢酸アンモニウム等の無機酸塩であり、より好ましくは、酢酸アンモニウムである。酸の使用量は、アルデヒド誘導体(A)1モルに対し、0.001〜50倍モル、好ましくは0.01〜10倍モル、より好ましくは0.1〜5倍モルである。
【0103】
本工程で用いる塩基としては、具体的には、以下のものを用いることができる。カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド等の金属アルコキシド;ピペリジン、ピリジン、2−メチルピリジン、ジメチルアミノピリジン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、イソプロピルエチルアミン、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、1、8−ジアザビシクロ[5、4、0]ウンデカ−7−エン(以下、DBUと略記する)、酢酸アンモニウム等の有機塩基;n−ブチルリチウム、tert−マグネシウムクロリド等の有機塩基;水素化ホウ素ナトリウム、金属ナトリウム、水素化ナトリウム、炭酸ナトリウム等の無機塩基等。好ましくは、カリウムtert−ブトキシド、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ピペリジン、ジメチルアミノピリジン、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等である。より好ましくは、ナトリウムメトキシド、ピペリジン、酢酸ナトリウム、酢酸アンモニウム等が挙げられる。上記塩基の使用量は、アルデヒド誘導体(A)1モルに対し、0.1〜20倍モル、好ましくは0.5〜8倍モル、より好ましくは1.0〜4倍モルである。
【0104】
反応終了後、水で希釈するか或いは塩酸等による酸析を行う事によって色素化合物(I)を得る事ができる。
【0105】
得られた色素化合物(I)は、通常の有機化合物の単離・精製方法を用いる事ができる。例えば、反応液を塩酸等で酸性にして、酸析する事によって固体をろ別し、水酸化ナトリウム等で中和し、濃縮すれば、粗成物が得られる。更に、粗成物をアセトン、メタノール等を用いた再結晶、シリカゲルを用いたカラム精製等により精製する。これらの方法は、単独又は2つ以上組み合わせて精製を行う事により高純度で得る事が可能である。上記の製造方法によって、前記一般式(I)で表される色素化合物を合成することができる。以下に、本発明の色素化合物の具体例(1)〜(142)を示すが、下記の例に限定されるものではない。又、本発明の色素化合物には、シス体及びトランス体の構造異性体も存在するものがあるが、それらも本発明の範疇である。なお、一般式(II)で表される色素化合物の具体例は、(23)〜(24)、(27)、(31)〜(32)、(34)〜(35)、(45)〜(46)、(72)〜(79)、(90)〜(91)、(111)、(124)、(126)に示す。また、一般式(III)で表される色素化合物の具体例は、(14)〜(15)、(21)〜(22)、(26)、(42)〜(44)、(47)〜(48)、(50)〜(54)、(128)に示す。また、一般式(IV)で表される色素化合物の具体例は以下のとおりである。すなわち、(1)〜(4)、(9)〜(12)、(16)〜(20)、(28)〜(30)、(37)〜(38)、(40)、(55)、(58)〜(63)、(66)〜(71)、(80)〜(89)、(92)、(94)〜(95)、(97)〜(104)、(109)〜(110)、(114)〜(118)、(122)〜(123)、(125)、(127)、(129)〜(130)、(132)〜(133)、(136)〜(139)。
【0106】
【化8−1】
【0107】
【化8−2】
【0108】
【化8−3】
【0109】
【化8−4】
【0110】
【化8−5】
【0111】
本発明にかかる色素化合物は、優れた分光特性を持ち、保存安定性も優れ、生体内の細胞及び細胞器官を標識できる。このため、細胞及び細胞器官を明瞭に視覚化する事が出来、好適な生物試料用標識剤として用いる事が出来る。具体的には以下に詳述する。
【0112】
本発明の一般式(I)の化合物を少なくとも1種を有効成分として含む生物試料用標識剤の溶液と生物試料を接触させて標識することができる。標識剤が染色性を有する化合物であれば染色又は染め分ける(分染する)事が出来る。本発明における分染とは、複数種類の生物試料用標識剤を用いて、対象とする生物試料を標識することをいう。標識される生物試料の部位は、それぞれ異なっていても、また同一であってもよい。分染の工程は、生物試料に対して、第一の生物試料用標識剤を接触させた後に、第二の生物試料用標識剤を接触させる。また、第一の生物試料用標識剤と第二の生物試料用標識剤を同時に接触させてもよい。使用する生物試料標識剤が互いに識別可能であれば、分染により、一度の観察で、複数の標識を確認することができる。
【0113】
生物試料が生きた状態(未固定の状態)の場合には、これらの生存を維持できる各種の溶液やこれらの増殖のための培養液に一般式(I)の化合物をそのまま加えて標識液として用いる。
【0114】
本発明の方法によって標識される生物試料としては、生物個体、微生物、原虫、生物組織、生物組織切片、ヒト細胞、動物細胞又は染色体等が挙げられる。
【0115】
例えば、細胞凝集塊(スフェロイド)、卵母細胞、胚、胚から生育した固体を含み、固体としては、脊椎動物又は非脊椎動物が受精卵から成体になる過程をすべて含む。
【0116】
脊椎動物としては、トラフグ、メダカ、ゼブラフィッシュ等の小型硬骨魚類、ラットやマウス等の小動物、サル、ブタ、イヌ等の大動物、サル、ヒト等が挙げられる。非脊椎動物としては、例えば、ショウジョウバエ、線虫等が用いられる。
【0117】
本発明の生物試料用標識剤は、特に限定されるものではないが、液体、顆粒、錠剤、カプセル剤、貼り薬等の形態で使用する事ができる。細胞又は組織内部を標識するには、in vivoの場合には、標識剤を標識する組織に直接暴露してもよい。より好ましくは生体に暴露(液体等)又は経口投与、あるいは、静脈又は動脈等の血管内、経口内、舌下、直腸内、腹膣内、皮膚、皮下、皮内、膀胱内、気管(気管支)、眼、鼻、耳内等への注入、噴霧、又は塗布等の手段により生体内に投与すればよい。
【0118】
本発明の生物試料用標識剤は、前記一般式(I)の化合物1種以上を、適当な溶媒に溶解させて用いる事が出来る。溶媒としては、生体に影響がなければ、特に限定されるものではないが、生体との親和性が高い水性の液体が好ましい。例えば、水;生理食塩水;リン酸緩衝液(PBS)、Tris等の緩衝液;エタノール、エチレングリコール、グリセリン等のアルコール系溶媒;DMSO等の有機溶媒;D−MEM、HBSS等の細胞培養用培地、乳酸リンゲル液等の輸液が挙げられる。特に水が50%以上含まれている事が好ましい。又、これらの溶媒を2種以上混合して用いる事も出来る。
【0119】
生物試料用標識剤の投与量は、最終的に標的とする部位を検出できる量であれば特に限定されるものではないが、標的とする部位や使用する標識剤の種類によって適宜増減出来る。特にin vivoの場合には、可能な限り少量が好ましい。又、in vitroの場合には、組織染色の選択性があり、判別しやすい量を用いればよい。
【0120】
生物試料用標識剤の濃度は、通常、0.001nM及至1000μMで用いられ、好ましくは0.01nM及至100μMの範囲で用いられる。
【0121】
動物用の場合には、その投与形態、投与経路、投与量は対象となる動物の体重や状態によって適宜選択する。
【0122】
本発明の生物試料用標識剤は、放射性核種で標識されていてもよい。
【0123】
標識に用いる放射性核種の種類は、特に制限されるものではないが、使用の態様によって適宜選択する事が出来る。
【0124】
放射性核種で標識した生物試料用標識剤は、例えば、以下に示す手法によって画像化を行う事が出来る。オートラジオグラフィー、陽電子(ポジトロン)放出核種を用いる放射断層撮影法(PET)、植物用に特化した植物用ポジトロンイメージングシステム(PETIS)、様々なガンマ線放出核種を用いる単一光子放射断層撮影法(SPECT)等。また、フッ素原子核に由来するMR信号や13Cを利用した核磁気共鳴法(MRI)で検出してもよい。更に、次世代分子イメージング装置として複数分子同時イメージングが可能なコンプトンカメラ(GREI)等によって画像化する事も可能である。これらの方法により、非侵襲的に生物試料の分布状態を経時的に測定し、画像化することが出来る。また、例えば、液体シンチレーションカウンター、X線フィルム、イメージングプレート等を用いて生物試料用標識剤の定量をする事も可能である。
【0125】
また、14C等の放射性同位元素で標識した生物試料用標識剤は、加速器質量分析法(AMS)等によって、血液中(または、尿中もしくは糞中)の濃度を測定して、次のような試験結果を得ることが可能である。標識化した物質の未変化体や代謝物の薬物動態学的情報(薬物血中濃度−時間曲線下面積(AUC)、血中濃度半減期(T1/2)、最高血中濃度(Cmax)、最高血中濃度到達時間(Tmax)、分布容積、初回通過効果、生物学的利用率、糞尿中排泄率等)等。
【0126】
放射性核種としては、特に限定されるものではないが、使用の態様によって適宜選択する事が出来る。
【0127】
具体的に、PETによる測定の場合は、例えば、11C、14C、13N、15O、18F、19F、62Cu、68Ga、又は78Br等の陽電子放出核種を用いる事が出来る。好ましくは、11C、13N、15O、又は18F等であり、特に好ましくは、11C、又は18F等である。
【0128】
又、SPECTによる測定の場合は、例えば、99mTc、111In、67Ga、201Tl、123I、又は133Xe等のγ線放射核種を用いる事が出来る。好ましくは、99mTc、又は123I等である。
【0129】
更に、ヒト以外の動物を測定する場合には、例えば、125Iのようなより半減期の長い放射線核種を用いる事が出来る。
【0130】
GREIによる測定の場合は、例えば、131I、85Sr、65Zn等を用いる事が出来る。放射線核種は一般式(I)で表される化合物に含まれる形でも、結合する形でもよい。
【0131】
放射線核種の標識の方法は、特に限定されるものではなく、一般的に用いられている方法で良い。又、一般式(I)で表される化合物を構成する元素の少なくとも一部を放射性核種で置換する形でも、結合する形でも良い。
【0132】
一般式(I)で表される化合物を放射性核種で標識した場合、1mMあたり、1〜100uCi程度の放射性を有することが好ましい。
【0133】
この時、用いる生物試料用標識剤の投与量は、影響がなければ特に制限はされず、化合物の種類及び標識に用いた放射性核種の種類により適宜選択される。
【0134】
成人の場合、用いる標識剤の量は1日当たり、0.0001μg〜1000μgであり、好ましくは、0.01μg〜10μgである。
【0135】
又、生物試料用標識剤には、保湿剤、表面張力調製剤、増粘剤の少なくともいずれかを添加する事が好ましい。生体に適した塩濃度、pHを制御する事が必要であれば、塩化ナトリウムのような塩類、各種pH調製剤、pH緩衝剤、防腐剤、抗菌剤、甘味剤、香料等を適宜に添加する事も出来る。
【0136】
pH調製剤としては、特に限定されるものではないが、pHを5〜9に調製する事が好ましく、例えば、塩酸、酢酸、リン酸、クエン酸、リンゴ酸、水酸化ナトリウム、または炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。
【0137】
さらに、pHの変動を抑えるためには、pH緩衝剤を添加することが好ましい。pH緩衝剤としては、例えば、リン酸、シュウ酸、クエン酸、酢酸などの弱酸とその塩を組み合わせて適当なpHに調節できる。
【0138】
造影方法は、本発明の生物試料用標識剤を用いる事を特徴とする。その測定及び検出方法は当業者には公知の方法を援用して行ってよい。
【0139】
本発明で用いられる観察方法は、生物試料と生物試料用標識剤に影響を与えなければ特に限定されるものではないが、生物試料の状態及び変化を画像として捉える方法である。例えば、生物試料に可視光、近赤外光、または赤外光を照射してカメラやCCD等で観察する可視光観察、近赤外光観察、赤外光観察、レーザー顕微鏡観察等が挙げられる。又は蛍光内視鏡等のように生物試料に対して励起光光源から励起光を照射して、発光している生物試料の蛍光を観察する蛍光観察、蛍光顕微鏡観察、蛍光内視鏡観察、共焦点内視鏡観察、多光子励起蛍光顕微鏡観察、狭帯域光観察、又は共光干渉断層画像観察(OCT)等が挙げられる。更に、軟エックス線顕微鏡による観察等が挙げられる。
【0140】
又、本発明で用いられる励起光の波長は、生物試料と生物試料用標識剤に影響を与えなければ特に限定されるものではないが、使用する標識剤によって異なり、本発明の標識剤が効率よく蛍光を発すれば特に限定されるものではない。通常、200nm〜1010nm、好ましくは400nm〜900nm、より好ましくは、480nm〜800nmである。近赤外領域の光を用いる場合は、通常600nm〜1000nmで、好ましくは、生体透過性に優れている680nm〜800nmの波長が用いられる。
【0141】
本発明で用いられる蛍光励起光源としては、生物試料と生物試料用標識剤に影響を与えなければ特に限定されるものではないが、各種レーザー光源を用いることが出来る。例えば、色素レーザー、半導体レーザー、イオンレーザー、近赤外パルスレーザー、ファイバーレーザー、ハロゲンランプ、キセノンランプ、又はタングステンランプ等が挙げられる。又、各種光学フィルターを用いて、好ましい励起波長を得たり、蛍光のみを検出したりする事が出来る。
【0142】
このように生物試料に励起光を照射する事により生物試料の内部において発光させた状態で生物試料を撮像すれば発光部位を容易に検出する事が出来る。又、可視光を照射して得られた明視野画像と励起光を照射して得られた蛍光画像を画像処理手段で組み合わせる事で、より詳細に生物試料を観察する事も出来る。
【0143】
本発明の生物試料用標識剤は、ストークスシフトが大きいものが多数存在する。本発明で言うストークスシフトとは励起極大波長と蛍光極大波長の差を表すものとする。一般的に、ストークスシフトが小さいと、励起光やその散乱光による測定誤差を生じやすい。しかし、検出に問題がなければ、特に限定されるものではない。ただし、2種以上の生物試料用標識剤を目的に応じて相応しいものを選択する事で、1つの励起波長の光で生物試料中の複数部位を同時に検出したり、同じ部位を蛍光波長の違いでより詳細に生物試料を観察したりする事も出来る。
【0144】
又、放射線核種で標識された生物試料用標識剤を含む診断用薬剤を用いれば、PET、PET−CT、SPECT、MRI、又はGREI等で容易に生物試料のイメージングが可能である。
【0145】
本発明の生物試料用標識剤は、生物試料、例えば、ゼブラフィッシュを用いてスクリーニングが可能である。更に、ゼブラフィッシュという、生きている生物(in vivo)に投与するため、生物試料用標識剤の安全性のスクリーニングも同時に観察する事が可能である。
【0146】
ゼブラフィッシュは、米国及び英国では、近年、既にマウス及びラットに続く第3のモデル動物として認知されており、人と比較して全ゲノム配列が80%の相同性、遺伝子数もほぼ同じ、主要臓器・組織の発生・構造も良く似ている事が解明されてきている。各パーツ(心臓、肝臓、腎臓、消化管等の臓器・器官)が受精卵から分化して形成されていく過程が透明な体を通して観察できるのが特徴であるため、ゼブラフィッシュをモデル動物としてスクリーニングに用いる事は特に好ましい。
【0147】
ゼブラフィッシュは、網膜や脳、肝臓といった主要な組織において、組織学的類似性が高いことや、多くの既知の薬物がヒトにおける作用と同等であることが示されている。又、ゼブラフィッシュで最初に同定された化合物が哺乳類において同様の活性を持つことが判明した例もあり、ヒトへの高い外挿性を持つことが示されている。他にも、運動性疾患のモデル動物としての有用性、免疫システムのヒトとの高い類似性、眼科疾患のモデル動物としての有用性、内耳神経毒性のスクリーニングへの応用等、幅広い領域においてヒトとの相同性の高さが示されている。そのため、ゼブラフィッシュを用いた化合物の毒性スクリーニングや、薬剤スクリーニング等の応用の取り組みもなされている。
【0148】
具体的に、本発明の生物試料用標識剤とゼブラフィッシュを接触させて、生物試料用標識剤がゼブラフィッシュに及ぼす影響を観察するスクリーニング法が挙げられる。このスクリーニングにより、生物試料用標識剤の毒性も客観的に知ることが可能である。
【0149】
また、同時に本発明の生物試料用標識剤は、標識剤の種類によってゼブラフィッシュの生体組織の標識される部位がそれぞれ異なる。生物試料用標識剤のような低分子化合物を用いて、ゼブラフィッシュの生体組織の異なる部位をそれぞれ標識する事が初めて可能になった。標的部位としては、鼻、血管、肝臓、毛細細胞、側線、皮膚、腫瘍、癌細胞、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸、直腸、口膣、泌尿器内膣、脂肪等が挙げられる。
【0150】
また、本発明の一般式(I)が有する骨格において置換基を変更するのみで、異なる生体組織の部位を染色する複数の生物試料用標識剤を容易に作成できる。更に、これらの複数の生物試料用標識剤は、互いに励起波長および蛍光波長を異ならせることができるので、同時に投与することができ、これにより多重染色(複数色を同時に染め分けること)が実現可能となる。本発明の生物試料用標識剤は、従来知られた核酸染色剤のように生体全体の組織を非特異的に標識するのでは無く、特定の部位を効果的に標識することができる。また、本発明の標識剤は、複数の部位をひとつの標識剤で標識可能なものも多い。その場合、同時に複数の部位のモニタリングが可能になる。本発明の標識剤は、特定の部位においてコントラスト良く標識化できるために、サイズや形状などの形態的な特徴を正確にイメージングすることが可能になる。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることは特に有用である。すなわち、前記モニタリングは疾患の進行や治癒を客観的に評価することが可能になる。
【0151】
前記標識される部位を元に本発明の生物試料用標識剤を用いて、分子イメージング技術に応用する事が出来る。例えば、スクリーニングを含めた創薬開発が迅速となり、低コスト化が可能となる。また、新しい病気の高精度な診断や治療法の開発にも応用可能である。更には生命科学研究に用いる事で未解明な現象を突き止める事が出来る等、業界が飛躍的に発展させる有効な基盤技術となりえる。生物試料用標識剤を投与する方法としては、特に限定されるものではないが、生物試料用標識剤が水溶性の場合は、飼育水中に生物試料用標識剤を投与する方法が挙げられる。非水溶性の場合は、飼育水中に生物試料用標識剤を単独で分散させて投与する方法、または微量の界面活性剤やDMSOと共に投与する方法、ゼブラフィッシュの餌に混ぜて経口投与する方法、又は、注射等による非経口投与する方法が挙げられる。もちろん、生物試料用標識剤が水を含む媒体に完全に溶解していても、あるいは、懸濁の状態で用いても問題はない。好ましくは、容易に出来る飼育水中に生物試料用標識剤を投与する方法が挙げられる。そのためにも生物試料用標識剤は親水性もしくは水溶性であることが望ましく、化合物中にカルボン酸基やスルホン酸基を含有している事が望ましい。
【0152】
本発明の生物試料用標識剤は、例えば、化学物質の効果、副作用、又は一般毒性、神経発生毒性、生殖発生毒性、遺伝毒性、発がん性等の安全性の評価スクリーニングを行う際の指標に用いる事が期待される。例えば、生物試料用標識剤を1種類以上と生物試料としてゼブラフィッシュ、及び調査したい化学物質を用いてin vivoで生物に及ぼす影響のスクリーニングが可能である。標識部位、目的、検査手段等に応じて、生物試料用標識剤を随時に選択する事が出来る。
【0153】
前記記載の化学物質とは、化学的に作用のある総称を意味し、特に限定されるものではないが、例えば、医薬品、有機化合物、治療剤、治験薬、農薬、化粧品、環境汚染物質、又は内分泌攪乱物質等が挙げられる。
【0154】
ゼブラフィッシュは、スクリーニングの目的に応じて野生型ゼブラフィッシュに制限されず、各種疾患系モデルのゼブラフィッシュを用いる事が出来る。疾患系のモデルを用いた場合には、本発明の生物試料用標識剤を指標として、新薬候補化合物の効果及び安全性を判断するスクリーニングに応用する事が出来る。
【0155】
試験化合物を投与する方法としては、特に限定されるものではないが、試験化合物が水溶性の場合は、飼育水中に試験化合物を投与する方法が挙げられる。非水溶性の場合は、飼育水中に試験化合物を微分散して投与する方法、ゼブラフィッシュの餌に混ぜて経口投与する方法、又は、注射等により非経口投与する方法が挙げられる。また、試験化合物の溶解性や分散性を向上させるために、pH調整剤や界面活性剤などを添加して投与しても良い。
【0156】
本発明のスクリーニング方法は、ゼブラフィッシュのような飼育及び繁殖が容易で流通価格も安く、受精後48〜72時間で主要臓器・組織の基本構造が出来上がるため、マウス及びラット等と比較して、スピード面・コスト面で非常に優れている。
【0157】
本発明の生物試料用標識剤と生物試料、例えばゼブラフィッシュを接触させ標識された部位を取り出して(ex vivo)、生物試料用標識剤の染色性を観察するスクリーニングも可能である。更に、生物試料用標識剤の染色性から、病気の高精度な診断や治療法の開発等の応用展開が期待される。
【0158】
本発明の生物試料用標識剤は、生物試料から取り出した組織や細胞(in vitro)に対して染色性のスクリーニングを行う事が出来る。更に、生物試料用標識剤の染色性から、病気の高精度な診断や治療法の開発等の応用展開が期待される。例えば、穿刺型細胞診器具等を用いて、標的とする組織や細胞の一部を極微量吸引採取し、本発明の生物試料用標識剤を用いて標識し、細胞の形態、種類、良性悪性等の鑑別を行う細胞診断に用いる事が期待される。
【0159】
本発明の生物試料用標識剤は、例えば、手術中に疾患の細胞組織や腫瘍と思われる部位に塗布等をして標識し、正常な細胞との違いを見極める手段に使うことが出来る。又、内視鏡、カプセル内視鏡又はファイバースコープ内視鏡、軟性内視鏡のような診断用器具又は治療用器具内部に本発明の生物試料用標識剤を充填しておき、必要に応じて例えば腫瘍等の疑いがある個所に噴霧して、腫瘍の部位を特定するという応用方法もある。更に、カテーテルなどの器具を胸膣、腹膣等の体膣、消化管、尿管等の管膣部、血管等に挿入し、本発明の生物試料用標識剤を薬剤等と共に注入点滴する事も可能である。又、薬剤溶出性ステントやガイドワイヤの被膜チューブに本発明の生物試料用標識剤を含有させておき、外部からエックス線等によって位置確認をする事も可能である。これらの標識剤を封入して用いる診断用器具又は治療用器具は、器具と別個の標識剤と組み合わせたキットとして提供することもできる。
【0160】
また、本発明は、生物試料用標識剤と、該標識剤を検出するための手段とを組み合わせた生物試料検出システムを包含する。検出手段としては、標識剤を励起する手段と、標識剤からの発信する光シグナルを検出する手段を有することができる。
【0161】
本発明の生物試料用標識剤は診断用に用いることができる。又、生物試料用標識剤を少なくとも1つ以上含む診断用組成物として用いることが出来る。特に限定されるものではないが、例えば、本発明の生物試料用標識剤で標識された診断用物質を用いたり、該診断用物質を含んだ診断用薬剤として用いたり応用する事も可能である。
【実施例】
【0162】
次に本発明を実施例により更に具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。使用した分析装置は、1H核磁気共鳴分光分析(ECA−400、日本電子(株)製)、LC/TOF MS(LC/MSD TOF、Agilent Technologies社製)、マルチスペクトロマイクロプレートリーダ(Varioskan Flash、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)である。
【0163】
[化合物の合成例]
次に化合物の典型的な合成例1〜2を示す。アルデヒド誘導体、化合物(B)を変更させ、適当な酸又は塩基とともに加熱還流させる事により目的とする化合物を得る事が出来る。
【0164】
<合成例1>
色素化合物(1)の合成
アルデヒド誘導体(A−2)3.0g(11.4mmol)の酢酸20mL溶液に化合物(B−20)2.2g(11.5mmol)、酢酸アンモニウム0.9gを添加して、還流下2時間攪拌させた。反応終了後、冷却させながら、ゆっくり水50mLを滴下して室温まで冷却した。析出した個体をろ過して、水100mLで2回洗浄し、更に、2−プロパノール50mLで洗浄して、目的物(1)3.2g(収率64.4%)を得た。
【0165】
[化合物(1)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、DMSO−d6、室温):δ[ppm]=1.36−1.40(m、1H)、1.63−1.81(m、4H)、2.04−2.08(m、1H)、3.89(t、1H、J=8.47Hz)、4.73(s、2H)、5.06(t、1H、J=7.10Hz)、6.93(d、1H、J=8.24Hz)、7.15(t、1H、J=7.10Hz)、7.38−7.46(m、6H)、7.74(s、1H)。
図1にスペクトル図を示す。
【0166】
[2]質量分析(ESI−TOF):m/z=435.0859(M)-。
【0167】
<合成例2>
色素化合物(7)の合成
アルデヒド誘導体(A−16)3.43g(10.0mmol)のトルエン20mL溶液に、化合物(B−7)1.13g(10.0mmol)とピペリジン2.5g(30.0mmol)を添加して、還流下2.5時間攪拌させた。反応終了後、室温まで冷却させ、トルエン100mLで希釈した後、水100mLを添加し攪拌した。静置後、有機層を分液して無水硫酸ナトリウムで乾燥させた。ろ過した後、減圧下、トルエンを留去して、エタノールから再結晶して、目的物(7)1.3g(収率31.7%)を得た。
【0168】
[化合物(7)についての分析結果]
[1]1H NMR(400MHz、DMSO−d6、室温):δ[ppm]=1.36−1.47(m、1H)、1.64−1.81(m、4H)、2.04−2.13(m、1H)、3.90(t、4H、J=8.93Hz)、5.18(s、1H)、6.89(d、1H、J=8.24Hz)、7.19(dd、1H、J=2.52、8.93Hz)、7.34(d、1H、J=2.29Hz)、7.55(dd、1H、J=2.29、8.70Hz)、7.75(d、1H、J=8.7Hz)、7.83(t、2H、J=4.58Hz)、7.89(d、1H、J=8.7Hz)、7.95(s、1H)、8.07(s、1H)。
[2]質量分析(ESI−TOF):m/z=409.1574(M)-。
【0169】
図2に、色素化合物(7)の励起波長λexと蛍光波長λemのスペクトルシフト図を示す。
【0170】
(実施例1)
[生物試料用標識剤でのin vivoによる標識]
ウエルプレートの1箇所に5匹のゼブラフィッシュの稚魚を飼育水ごと入れた。飼育水を廃棄し、蒸留水1mLを加え、10ng/mLになるように色素化合物(1)のDMSO溶液を加え、軽く攪拌(ピペッティング)した。又、人工海水シーライフ(マリンテック社製)を60mg/Lで蒸留水に溶解して、Egg Waterを調整した。1時間放置した後、ウエル中の蒸留水を廃棄し、新鮮なEgg Water 1mLで置換した。更に、Egg Waterを廃棄し、新鮮なEgg Water 1mLで置換する事を2回繰り返した。ウエルから稚魚をシャーレ上に1匹取り出し、3%メチルセルロース水溶液を100μL加え稚魚の動きを固定し、実体顕微鏡(MZ10F:ライカマイクロシステムズ社製)で撮影した。
【0171】
次に、稚魚を5%低温融解アガロースゲルに包埋して、リニアスライサーPRO7(堂阪イーエム社製)を用いて消化管の切片を作製した。作製した消化管の切片をスライドガラスに載せ、実体顕微鏡で撮影した。
【0172】
この実施例は、生物試料用標識剤自体の性質及び特徴を調査する化合物スクリーニング方法を含む事が出来る。
【0173】
(実施例2〜78)
実施例1において使用した色素化合物(1)を表1に記載した色素化合物に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。撮影した代表的な写真を図3から図7に示す。図3は、実施例6で観測された一部の写真(血管)を示す。図4は、実施例15で観測された一部の写真(鼻)を示す。図5は、実施例52で観測された一部の写真(血管、肝臓、胆嚢、消化管)を示す。図6は、染色剤暴露をしていない状態で観測された写真(自家蛍光)を示す。図7は、実施例52で観測された一部の拡大写真(肝臓、胆嚢、消化管)を示す。
【0174】
(比較例1〜2)
実施例1において使用した色素化合物(1)をインドシアニングリーン(ICG)、フルオレセインに変更した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0175】
<評価>
[染色性]
前記標識実施例1〜78、前記標識比較例1〜2をそれぞれ、染色性を目視による評価(+++:染色される、−:染色されない)を行った。
【0176】
[蛍光感度]
前記標識実施例1〜78、前記標識比較例1〜2をそれぞれ、蛍光強度を目視による評価(+++:強度に観測される、++:中度に観測される、+:弱度に観測される、−:染色されない)を行った。
【0177】
[保存安定性]
前記標識実施例1〜78、前記標識比較例1〜2の各色素化合物を10ng/mLのDMSO溶液を調製し、ガラス製の密閉容器に入れ、常温で1ヶ月間静止放置した。保存安定性テストの開始時の吸光度及び蛍光強度を所定の波長で測定しその変化率を調べた。(+++:吸光度及び蛍光強度の変化率が5%未満で、保存安定性に非常に優れる、++:吸光度及び蛍光強度の変化率が5〜15%で、保存安定性に優れる、−:吸光度及び蛍光強度の変化率が15%より大きく、保存安定性が悪い)を行った。
【0178】
以上の結果を実施例1〜78及び比較例1〜2の結果を表1〜2に示す。なお、色素化合物の励起波長および蛍光波長は、10mg/mLのDMSO溶液を精製水に500倍希釈した水溶液を日立ハイテク社製FL4500蛍光分光測定機で測定して求めた。
【0179】
【表1−1】
【0180】
【表1−2】
【0181】
【表1−3】
【0182】
【表2】
【0183】
表1〜2から明らかなように、本発明の生物試料用標識剤は、生体組織の特定の部位を効果的に標識することができ、更に、優れた分光特性を持ち、保存安定性も優れている。また、比較例1〜2のような従来から知られている色素を用いた場合は、単一の標識部位しか染色する事が出来ないが、本発明の標識剤では、複数の部位をひとつの標識剤で同時に標識可能なものも多い。その場合、同時に複数の部位のモニタリングが可能になるため、標識剤は最小量で済むのでコスト的にも安価になる。また、本発明の標識剤は、特定の部位においてコントラスト良く標識化できるために、サイズや形状などの形態的な特徴を正確にイメージングすることが出来る。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることは特に有用である。また、ゼブラフィッシュは腹部に若干の自家蛍光を有するが、それ以外の部位ではほとんど自家蛍光を発しない。本発明の染色剤を用いることにより、標識剤を暴露しない個体に較べて顕著な染色性、蛍光感度を示し、明瞭に組織の形態を視覚化することが出来る。このような本発明の低分子化合物を用いることで、ゼブラフィッシュの異なる部位を標識する事が初めて可能になった。更に、ゼブラフィッシュをモデル動物に用いる事で短時間に安価にスクリーニングを実施することが出来る。
【0184】
(実施例79)
[生物試料用標識剤でのex vivoによる標識]
実施例5の操作によって染色されたゼブラフィッシュを取り出して4%パラフォルムアフデヒド(PFA)のPBS溶液で固定後、リニアスライサーPRO7(堂阪イーエム社製)を用いて50μm厚の組織切片を作製した(表3)。MASコートスライドガラス(松浪硝子工業社製)上に切片を回収し、Fluoromount G(Southem Biotechnology社製)をマウントしてカバーグラスをかけた。得られたスライドを実体蛍光顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製 MZ16FA)及び倒立型蛍光顕微鏡(カールツァイス社製 Axiovert 200M)で観察した。
【0185】
(実施例80、81)
[生物試料用標識剤でのin vitroによる標識]
表3に示されるヒト凍結組織切片スライド(BioChain社製)を、表3に示す色素化合物の10ng/mL水溶液に1時間浸漬した。次に、スライドをPBSで10分3回洗浄し、Fluoromount G(Southem Biotechnology社製)をマウントしてカバーグラスをかけた。スライドを実体蛍光顕微鏡(ライカマイクロシステムズ社製 MZ16FA)及び倒立型蛍光顕微鏡(カールツァイス社製 Axiovert 200M)で観察し、染色性と蛍光強度を評価した。
【0186】
実施例79〜81の結果を表3に示す。
【0187】
【表3】
【0188】
表3より、本発明の標識剤は生物試料に対し、ex vivoによる染色及びin vitroによる染色でも組織を標識する事が出来、かつ、染色性、蛍光感度に優れているため明瞭に視覚化出来るのは明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0189】
生物試料が簡便に高感度で標識され、保存安定性が高く、ストークスシフトが大きい生物試料用標識剤が提供される。生物試料用標識剤は、部分構造の差異によって、それぞれの生体組織、器官の異なる特定の部位を効果的に標識することが出来る。本発明では、特定の部位を効果的に標識することで、サイズや形状などの形態的な特徴をイメージングすることが可能になる。特に疾患と関連する部位をイメージングして、その経時的な変化をモニタリングすることで、疾患の進行や治癒を客観的に評価することが可能になる。また、特定の生体組織を選択的に分子レベルでイメージングする技術に応用する事が出来る。また、スクリーニングを含めた創薬開発が迅速となり、低コスト化が可能となる。また、新しい病気の高精度な診断や治療法の開発にも応用可能である。また、化学物質の安全性評価のスクリーニングを行う際の指標に用いる事が期待される。更には、生命科学研究に用いる事で未解明な現象を突き止める事が出来る等、業界が飛躍的に発展させる有効な基盤技術となりえる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む事を特徴とする生物試料用標識剤:
【化1】
[一般式(I)中、
R1は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、又はアシル基を表し、
R2〜R5は、各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはアシル基を表し、R2とR4が互いに結合して環を形成しても良く、
R6は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、R7及びR8は、各々独立して水素原子、アルケニル基、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、アシル基又はヘテロ環基を表し、R7とR8は、互いに結合して環を形成しても良い]。
【請求項2】
前記一般式(I)中のR7もしくはR8のどちらか一方がシアノ基、カルボン酸基、ヘテロ環基である請求項1に記載の生物試料用標識剤。
【請求項3】
前記一般式(I)中のR7もしくはR8のどちらか一方が水素原子、もう一方は下記一般式(II)で表されるヘテロ環基、またはアルケニル基である事を特徴とする請求項1に記載の生物試料用標識剤:
【化2】
[一般式(II)中、
R9は、アルキル基、又はアリール基を表し、
R10〜R13は、各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ヘテロ環基、アミノ基、又はハロゲン原子を表し、又、R10とR11、R11とR12、又はR12とR13は、互いに結合して環を形成しても良く、X-は、陰イオン性基を表し、
Q1は、硫黄原子、酸素原子、−C(R14)(R15)−、−CH=CH−、又は−N(R16)−を表し、
R14〜R16は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す]。
【請求項4】
前記一般式(II)で表されるヘテロ環基が、ベンゾチアゾリル環基、ベンゾオキサゾリル環基、又はジメチルインドレニル環基である事を特徴とする請求項3に記載の生物試料用標識剤。
【請求項5】
前記一般式(I)中で表されるR7とR8が互いに結合して形成される環が、5員環または6員環からなるヘテロ環である事を特徴とする請求項1に記載の生物試料用標識剤。
【請求項6】
前記5員環からなるヘテロ環が、下記一般式(III)で表される事を特徴とする請求項5に記載の生物試料用標識剤:
【化3】
[一般式(III)中、
R17は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、
R18は、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基を表す]。
【請求項7】
前記5員環からなるヘテロ環が、下記一般式(IV)で表される事を特徴とする請求項5に記載の生物試料用標識剤:
【化4】
[一般式(IV)中、
Q2は、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R21)−を表し、
R19は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基をし、
R20は、硫黄原子、酸素原子、=NR22、ヘテロ環、ヘテロ環で置換されたメチレン基、又はジシアノメチレン基を表し、
R21及びR22は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す]。
【請求項8】
前記Q2が、硫黄原子である事を特徴とする請求項7に記載の生物試料用標識剤。
【請求項9】
前記一般式(IV)中、R20が硫黄原子、又は3位に置換基を有する2−チオキソチアゾリジン−4−オンである事を特徴と請求項7〜8に記載の生物試料用標識剤。
【請求項10】
前記一般式(I)中で表されるR2とR4が互いに結合して形成される環が、脂肪族環である請求項1〜9のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤。
【請求項11】
前記一般式(I)中で表されるR2とR4が互いに結合して形成される環が、シクロペンタン環である請求項1〜9のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤。
【請求項12】
前記一般式(I)〜(IV)で表される化合物中にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、またはスルホン酸塩を少なくとも1つ以上有する請求項1〜11の何れか1項に記載の生物試料用標識剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤と生物試料を接触させて染色又は分染する標識方法。
【請求項14】
前記生物試料をin vivo、in vitro、またはex vivoで用いる請求項13に記載の標識方法。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤を利用したスクリーニング方法。
【請求項16】
小型硬骨魚類を用いる事を特徴とする請求項15に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
前記小型硬骨魚類がゼブラフィッシュである請求項16に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤を有効成分として含む診断用組成物。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤を含む診断用器具。
【請求項1】
一般式(I)で表される化合物を少なくとも1種を有効成分として含む事を特徴とする生物試料用標識剤:
【化1】
[一般式(I)中、
R1は、水素原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、又はアシル基を表し、
R2〜R5は、各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、またはアシル基を表し、R2とR4が互いに結合して環を形成しても良く、
R6は、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、又はハロゲン原子を表し、R7及びR8は、各々独立して水素原子、アルケニル基、シアノ基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、スルホン酸基、アシル基又はヘテロ環基を表し、R7とR8は、互いに結合して環を形成しても良い]。
【請求項2】
前記一般式(I)中のR7もしくはR8のどちらか一方がシアノ基、カルボン酸基、ヘテロ環基である請求項1に記載の生物試料用標識剤。
【請求項3】
前記一般式(I)中のR7もしくはR8のどちらか一方が水素原子、もう一方は下記一般式(II)で表されるヘテロ環基、またはアルケニル基である事を特徴とする請求項1に記載の生物試料用標識剤:
【化2】
[一般式(II)中、
R9は、アルキル基、又はアリール基を表し、
R10〜R13は、各々独立して水素原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ヘテロ環基、アミノ基、又はハロゲン原子を表し、又、R10とR11、R11とR12、又はR12とR13は、互いに結合して環を形成しても良く、X-は、陰イオン性基を表し、
Q1は、硫黄原子、酸素原子、−C(R14)(R15)−、−CH=CH−、又は−N(R16)−を表し、
R14〜R16は、水素原子、アルキル基、又はアリール基を表す]。
【請求項4】
前記一般式(II)で表されるヘテロ環基が、ベンゾチアゾリル環基、ベンゾオキサゾリル環基、又はジメチルインドレニル環基である事を特徴とする請求項3に記載の生物試料用標識剤。
【請求項5】
前記一般式(I)中で表されるR7とR8が互いに結合して形成される環が、5員環または6員環からなるヘテロ環である事を特徴とする請求項1に記載の生物試料用標識剤。
【請求項6】
前記5員環からなるヘテロ環が、下記一般式(III)で表される事を特徴とする請求項5に記載の生物試料用標識剤:
【化3】
[一般式(III)中、
R17は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表し、
R18は、アルキル基、アリール基、カルボン酸基、カルボン酸エステル基、ヒドロキシル基、又はアミノ基を表す]。
【請求項7】
前記5員環からなるヘテロ環が、下記一般式(IV)で表される事を特徴とする請求項5に記載の生物試料用標識剤:
【化4】
[一般式(IV)中、
Q2は、酸素原子、硫黄原子、又は−N(R21)−を表し、
R19は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基をし、
R20は、硫黄原子、酸素原子、=NR22、ヘテロ環、ヘテロ環で置換されたメチレン基、又はジシアノメチレン基を表し、
R21及びR22は、水素原子、アルキル基、アリール基、又はヘテロ環基を表す]。
【請求項8】
前記Q2が、硫黄原子である事を特徴とする請求項7に記載の生物試料用標識剤。
【請求項9】
前記一般式(IV)中、R20が硫黄原子、又は3位に置換基を有する2−チオキソチアゾリジン−4−オンである事を特徴と請求項7〜8に記載の生物試料用標識剤。
【請求項10】
前記一般式(I)中で表されるR2とR4が互いに結合して形成される環が、脂肪族環である請求項1〜9のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤。
【請求項11】
前記一般式(I)中で表されるR2とR4が互いに結合して形成される環が、シクロペンタン環である請求項1〜9のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤。
【請求項12】
前記一般式(I)〜(IV)で表される化合物中にカルボン酸基、スルホン酸基、ポリエチレングリコール基、カルボン酸塩、またはスルホン酸塩を少なくとも1つ以上有する請求項1〜11の何れか1項に記載の生物試料用標識剤。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤と生物試料を接触させて染色又は分染する標識方法。
【請求項14】
前記生物試料をin vivo、in vitro、またはex vivoで用いる請求項13に記載の標識方法。
【請求項15】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤を利用したスクリーニング方法。
【請求項16】
小型硬骨魚類を用いる事を特徴とする請求項15に記載のスクリーニング方法。
【請求項17】
前記小型硬骨魚類がゼブラフィッシュである請求項16に記載のスクリーニング方法。
【請求項18】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤を有効成分として含む診断用組成物。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の生物試料用標識剤を含む診断用器具。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2010−169678(P2010−169678A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−292716(P2009−292716)
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【出願人】(304026696)国立大学法人三重大学 (270)
【Fターム(参考)】
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