生物駆動リポソーム
【課題】薬剤輸送システムの担体として利用するため、様々な特性を備えたリポソームが開発されている。また同時に高機能化されたリポソームを形成するための様々なリポソーム作製方法が報告されている。しかしながら、標的場所でのみ薬剤の効果を発揮させるという、薬剤輸送システムにおいて重要な要素を実現するため、リポソームの自律的な移動能力の拡張を行った例はほとんど知られていない。そのため、リポソームを応用した薬剤送達システムにおいて、リポソームに自律駆動力を付加できる技術を提供する。
【解決手段】リポソームの脂質二重膜の外膜の全体または一部に化学修飾された脂質を配置し、バイオアクチュエータとして有望である運動能を持つ細菌を付加させる。各修飾部位に細菌が付加することで自律駆動・薬剤放出能力をもつことを特徴とするリポソームが実現され、これを用いた薬剤送達システムが提供できる。
【解決手段】リポソームの脂質二重膜の外膜の全体または一部に化学修飾された脂質を配置し、バイオアクチュエータとして有望である運動能を持つ細菌を付加させる。各修飾部位に細菌が付加することで自律駆動・薬剤放出能力をもつことを特徴とするリポソームが実現され、これを用いた薬剤送達システムが提供できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動能を持つ生物を化学的にリポソームに付加させた生物−リポソーム複合体、及びこれを用いた薬剤輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、細胞膜と同様の組成である脂質二重膜の小胞を人工的に作製した小胞である。リポソームの有する脂質二重膜においては、リン脂質の疎水性部分が膜の内部に、リン脂質の親水性部分が膜の外表面に配置している。このため、例えば、リポソームの内腔は水溶性分子を封入することが可能となる。水溶性分子は膜の疎水性部分に遮断されるため外部に漏出することがない。一方、リポソームが有する脂質二重膜の膜中に形成される疎水性部分には脂溶性分子を封入することが可能である。リポソームの外部及び内部から遮断される形で、当該脂溶性分子をリポソームに保持させることができる。このように、一定の閉空間に、特定の物質を保持することができることから、リポソームは、薬剤輸送システムの担体として、また、遺伝子運搬体として利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、曇点を有する高分子化合物を表面又は内部に持たせる、温度感受性リポソームが開示されている。この温度感受性リポソームによれば、リポソームを曇点以上の温度の下に保持することにより、高分子化合物が疎水化して、リポソームの構造が変化し、内包物質を放出させることができるとされる。このような薬剤輸送システムに用いられるリポソームであって、薬剤の輸送に適した特性を有するリポソームが報告されている。
【0004】
近年発達してきたリポソームの作製方法としては、油水界面を利用する方法が一般的であり、例えば、特許文献2には、内膜リン脂質を含む油性液体中に、微細毛細管により粒径を調整した水滴を導入し、W/O(ウォーター/オイル)エマルジョンを形成する工程と、W/Oエマルジョンを捕捉する工程と、油性液体と外膜脂質を介して油水界面を形成する水相に、捕捉されたエマルジョンを移行させ、W/Oエマルジョンの外側に外膜脂質を付加する工程とを有するリポソームの製造方法が開示されている。
【0005】
近年、飽和脂質やコレステロールが豊富な秩序相からなるミクロドメイン構造の存在が報告されている。このミクロドメインは、「ラフト」と称され、シグナル伝達や小胞輸送等の機能発現の場として注目を集めている。また、層脂質膜と外層脂質膜の組成が異なる非対称性脂質2分子膜も同様に注目をあびている。特許文献3では、このような、内層脂質膜と外層脂質膜の組成が異なる非対称性脂質2分子膜を備え、当該非対称性脂質2分子膜の膜面内に特定の脂質が偏在したミクロドメイン構造が形成されていることを特徴とする脂質2分子膜を備えたリポソーム及びその作製方法が開示されている。
【0006】
輸送能力の拡張や、標的への薬剤放出方法の改善など様々な特性を持つリポソームが報告されているが、特にリポソーム自身が「移動」するという視点での輸送能力の拡張に関しての報告はほとんどない。
【0007】
近年では、生物分子モーターや微生物が微小物体の駆動力として利用されている。非特許文献1では運動能を持つ細菌を利用することで、マイクロビーズの搬送が可能になることに関して報告されている。これらバイオアクチュエータをマイクロサイズの駆動力として利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−228358号公報
【特許文献2】特開2007−204382号公報
【特許文献3】特開2009−255019号公報
【非特許文献1】Biophysics Journal,2004,Vol.86,1863−1870
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、薬剤輸送システムの担体として利用するため、様々な特性を備えたリポソームが開発されている。また同時に高機能化されたリポソームを形成するための様々なリポソーム作製方法が報告されている。しかしながら、標的場所でのみ薬剤の効果を発揮させるという、薬剤輸送システムにおいて重要な要素を実現するため、リポソームの自律的な移動能力の拡張を行った例はほとんど知られていない。本発明は、リポソームを応用した薬剤送達システムにおいて、リポソームに自律駆動力を付加できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、リポソームに自律駆動力を付加することを課題とする。リポソームの脂質二重膜の外膜の全体または一部に化学修飾された脂質を配置し、バイオアクチュエータとして有望である運動能を持つ細菌またはそれに準ずる生物を付加させることで、前記課題を解決するものである。具体的には以下の構成による。
【0011】
(1)治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームであって、前記リポソームの包皮であるリポソーム外膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソーム。
【0012】
(2)前記リポソーム外膜の構成成分として、飽和脂質やコレステロールを含みミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソーム。
【0013】
(3)前記リポソーム作製環境において運動能を備えた細菌またはそれに準ずる生物。
【0014】
前記化学修飾とは例えば、細菌またはそれに準ずる生物と結合可能な抗体である。
【0015】
以上の構成により、治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分として、飽和脂質やコレステロールを含みミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に細菌またはそれに準ずる生物が付加することで自律駆動能力・細菌またはそれに準ずる生物の特性に従った薬剤放出能力をもつことを特徴とする薬剤送達システムが提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細菌またはそれに準ずる生物の種類を変更することによってその特性に従った自律駆動・薬剤放出が可能となる。すなわち、標的部位に選択的に向かう細菌またはそれに準ずる生物を用いれば副作用が最小限で、治療効果が最大限に発揮できる理想的な薬剤送達システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の細菌駆動リポソーム(非特異的付加)の構成の例である。
【図2】図2は本発明の細菌駆動リポソームの形成結果である。
【図3】図3本発明の細菌駆動リポソームの観察結果・駆動の軌跡を示す。(A)細菌が付加されていないリポソームの軌跡を示す。(B)細菌が付加されていないリポソームの軌跡(拡大後)を示す。(C)細菌が付加されたリポソームの軌跡を示す。
【図4】図4は本発明の細菌駆動リポソーム(特異的付加)の構成の例である。
【図5】図5はミクロドメイン特異的に細菌を付加したリポソームと非特異的に細菌を付加したリポソームの細菌数とリポソーム駆動速度の関係を示した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に2種類の異なる実例を示す。
【0019】
非特異的に細菌を付加させたリポソームの構成を図1に示す。
【0020】
リポソームは、図1に示すようにリポソーム(1)、抗体(2)、細菌(3)から構成される。
【0021】
リポソーム(1)は以下の方法で作製した。
【0022】
1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンをメタノールクロロホルム中に溶解させ、エバポレーターで溶媒を除去してダーラム管に脂質フィルムを形成させた。このフィルムに脂質濃度が1mMとなるようにミネラルオイルを加え50度で1時間超音波処理し、リン脂質を含むオイルを作製した。W/O液滴は、リン脂質を含むオイルに細菌遊泳用バッファー(50mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM MgCl2、5mM グルコース、300mM NaCl)を1%加えて、ピペッティングすることで作製した。
【0023】
シリコンゴムシートで作製したチャンバーを用い、孔部の底に抗体を含む(500倍〜5000倍希釈)薄い水相(細菌遊泳用バッファー)をのせ、その上に1.0mMのリン脂質を含むオイル相をのせ、2時間静置した。前記リン脂質が外層脂質膜となる。このオイル相に作製したW/O液滴をのせた。W/O液滴か重力によりオイル相から水相まで油水界面を介して自発的に移行することで、脂質2分子膜か形成されたリポソームを作製した。本条件では数μm〜数百μmのリポソームが作製された。
【0024】
図2に示すように細菌(3)は、リポソーム表面にランダムに付加された。抗体(2)の濃度に依存して細菌の付加量も増加した。ここで細菌(3)はグラム陰性菌であるVibrio alginolyticusを抗体(2)はV.alginolyticus抗べん毛抗体を用いた。
【0025】
図3が示すように、細菌(3)が付加されたリポソーム(図3C)は自律的に駆動することが確認され、細菌が付加されていないリポソーム(図3A、B)に比べて輸送能が高くなることが示された。
【0026】
特異的に細菌を付加させたリポソームの構成を図4に示す。
【0027】
リポソームは、図4に示すようにミクロドメインを持つリポソーム(4)、ビオチン化抗体(6)、ビオチン(7)、ストレプトアビジン(8)細菌(3)から構成される。
【0028】
1,2−ジオレオイルsn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、コレステロール、ビオチン化1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンを(45:35:20:1)の比率で混合し、メタノールクロロホルム中に溶解させ、エバポレーターで溶媒を除去してダーラム管に脂質フィルムを形成させた。このフィルムに総脂質濃度が1mMとなるようにミネラルオイルを加え、前記と同様の方法でミクロドメインを持つリポソーム(4)を作製した。本条件では数μm〜数百μmのリポソームが作製された。
【0029】
図4に示すように、作製したミクロドメインを持つリポソーム(4)溶液にストレプトアビジン(8)、ビオチン化抗体(6)、細菌(3)を加えると、ビオチン(7)とストレプトアビジン(8)が結合するため、リポソーム表面に部位特異的に細菌(3)が付加された。ここで細菌(3)はグラム陰性菌であるV.alginolyticusを、ビオチン化抗体(5)はV.alginolyticus抗べん毛抗体を用いた。
【0030】
図5に示すように、ミクロドメイン(5)を利用することで部位特異的に細菌が付加したリポソームは自律的に駆動し、その駆動性能はランダムに細菌が付加した場合に比べて高いことが確認された。これは、輸送において、より有用であることを示す。
【0031】
尚、本発明は前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、抗体(2)や化学修飾は、前記実施形態で用いたものの代わりに、細菌を付加できるものであれば特に限定しない。また、リポソームを構成する脂質組成、リポソームの大きさも限定されない。
【符号の説明】
1 リポソーム
2 抗体
3 細菌
4 ミクロドメインを持つリポソーム
5 ミクロドメイン
6 ビオチン化抗体
7 ビオチン
8 ストレプトアビジン
【技術分野】
【0001】
本発明は、運動能を持つ生物を化学的にリポソームに付加させた生物−リポソーム複合体、及びこれを用いた薬剤輸送システムに関する。
【背景技術】
【0002】
リポソームは、細胞膜と同様の組成である脂質二重膜の小胞を人工的に作製した小胞である。リポソームの有する脂質二重膜においては、リン脂質の疎水性部分が膜の内部に、リン脂質の親水性部分が膜の外表面に配置している。このため、例えば、リポソームの内腔は水溶性分子を封入することが可能となる。水溶性分子は膜の疎水性部分に遮断されるため外部に漏出することがない。一方、リポソームが有する脂質二重膜の膜中に形成される疎水性部分には脂溶性分子を封入することが可能である。リポソームの外部及び内部から遮断される形で、当該脂溶性分子をリポソームに保持させることができる。このように、一定の閉空間に、特定の物質を保持することができることから、リポソームは、薬剤輸送システムの担体として、また、遺伝子運搬体として利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、曇点を有する高分子化合物を表面又は内部に持たせる、温度感受性リポソームが開示されている。この温度感受性リポソームによれば、リポソームを曇点以上の温度の下に保持することにより、高分子化合物が疎水化して、リポソームの構造が変化し、内包物質を放出させることができるとされる。このような薬剤輸送システムに用いられるリポソームであって、薬剤の輸送に適した特性を有するリポソームが報告されている。
【0004】
近年発達してきたリポソームの作製方法としては、油水界面を利用する方法が一般的であり、例えば、特許文献2には、内膜リン脂質を含む油性液体中に、微細毛細管により粒径を調整した水滴を導入し、W/O(ウォーター/オイル)エマルジョンを形成する工程と、W/Oエマルジョンを捕捉する工程と、油性液体と外膜脂質を介して油水界面を形成する水相に、捕捉されたエマルジョンを移行させ、W/Oエマルジョンの外側に外膜脂質を付加する工程とを有するリポソームの製造方法が開示されている。
【0005】
近年、飽和脂質やコレステロールが豊富な秩序相からなるミクロドメイン構造の存在が報告されている。このミクロドメインは、「ラフト」と称され、シグナル伝達や小胞輸送等の機能発現の場として注目を集めている。また、層脂質膜と外層脂質膜の組成が異なる非対称性脂質2分子膜も同様に注目をあびている。特許文献3では、このような、内層脂質膜と外層脂質膜の組成が異なる非対称性脂質2分子膜を備え、当該非対称性脂質2分子膜の膜面内に特定の脂質が偏在したミクロドメイン構造が形成されていることを特徴とする脂質2分子膜を備えたリポソーム及びその作製方法が開示されている。
【0006】
輸送能力の拡張や、標的への薬剤放出方法の改善など様々な特性を持つリポソームが報告されているが、特にリポソーム自身が「移動」するという視点での輸送能力の拡張に関しての報告はほとんどない。
【0007】
近年では、生物分子モーターや微生物が微小物体の駆動力として利用されている。非特許文献1では運動能を持つ細菌を利用することで、マイクロビーズの搬送が可能になることに関して報告されている。これらバイオアクチュエータをマイクロサイズの駆動力として利用することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−228358号公報
【特許文献2】特開2007−204382号公報
【特許文献3】特開2009−255019号公報
【非特許文献1】Biophysics Journal,2004,Vol.86,1863−1870
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、薬剤輸送システムの担体として利用するため、様々な特性を備えたリポソームが開発されている。また同時に高機能化されたリポソームを形成するための様々なリポソーム作製方法が報告されている。しかしながら、標的場所でのみ薬剤の効果を発揮させるという、薬剤輸送システムにおいて重要な要素を実現するため、リポソームの自律的な移動能力の拡張を行った例はほとんど知られていない。本発明は、リポソームを応用した薬剤送達システムにおいて、リポソームに自律駆動力を付加できる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、リポソームに自律駆動力を付加することを課題とする。リポソームの脂質二重膜の外膜の全体または一部に化学修飾された脂質を配置し、バイオアクチュエータとして有望である運動能を持つ細菌またはそれに準ずる生物を付加させることで、前記課題を解決するものである。具体的には以下の構成による。
【0011】
(1)治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームであって、前記リポソームの包皮であるリポソーム外膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソーム。
【0012】
(2)前記リポソーム外膜の構成成分として、飽和脂質やコレステロールを含みミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソーム。
【0013】
(3)前記リポソーム作製環境において運動能を備えた細菌またはそれに準ずる生物。
【0014】
前記化学修飾とは例えば、細菌またはそれに準ずる生物と結合可能な抗体である。
【0015】
以上の構成により、治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分として、飽和脂質やコレステロールを含みミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に細菌またはそれに準ずる生物が付加することで自律駆動能力・細菌またはそれに準ずる生物の特性に従った薬剤放出能力をもつことを特徴とする薬剤送達システムが提供できる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、細菌またはそれに準ずる生物の種類を変更することによってその特性に従った自律駆動・薬剤放出が可能となる。すなわち、標的部位に選択的に向かう細菌またはそれに準ずる生物を用いれば副作用が最小限で、治療効果が最大限に発揮できる理想的な薬剤送達システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の細菌駆動リポソーム(非特異的付加)の構成の例である。
【図2】図2は本発明の細菌駆動リポソームの形成結果である。
【図3】図3本発明の細菌駆動リポソームの観察結果・駆動の軌跡を示す。(A)細菌が付加されていないリポソームの軌跡を示す。(B)細菌が付加されていないリポソームの軌跡(拡大後)を示す。(C)細菌が付加されたリポソームの軌跡を示す。
【図4】図4は本発明の細菌駆動リポソーム(特異的付加)の構成の例である。
【図5】図5はミクロドメイン特異的に細菌を付加したリポソームと非特異的に細菌を付加したリポソームの細菌数とリポソーム駆動速度の関係を示した結果である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に2種類の異なる実例を示す。
【0019】
非特異的に細菌を付加させたリポソームの構成を図1に示す。
【0020】
リポソームは、図1に示すようにリポソーム(1)、抗体(2)、細菌(3)から構成される。
【0021】
リポソーム(1)は以下の方法で作製した。
【0022】
1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンをメタノールクロロホルム中に溶解させ、エバポレーターで溶媒を除去してダーラム管に脂質フィルムを形成させた。このフィルムに脂質濃度が1mMとなるようにミネラルオイルを加え50度で1時間超音波処理し、リン脂質を含むオイルを作製した。W/O液滴は、リン脂質を含むオイルに細菌遊泳用バッファー(50mM Tris−HCl(pH7.5)、5mM MgCl2、5mM グルコース、300mM NaCl)を1%加えて、ピペッティングすることで作製した。
【0023】
シリコンゴムシートで作製したチャンバーを用い、孔部の底に抗体を含む(500倍〜5000倍希釈)薄い水相(細菌遊泳用バッファー)をのせ、その上に1.0mMのリン脂質を含むオイル相をのせ、2時間静置した。前記リン脂質が外層脂質膜となる。このオイル相に作製したW/O液滴をのせた。W/O液滴か重力によりオイル相から水相まで油水界面を介して自発的に移行することで、脂質2分子膜か形成されたリポソームを作製した。本条件では数μm〜数百μmのリポソームが作製された。
【0024】
図2に示すように細菌(3)は、リポソーム表面にランダムに付加された。抗体(2)の濃度に依存して細菌の付加量も増加した。ここで細菌(3)はグラム陰性菌であるVibrio alginolyticusを抗体(2)はV.alginolyticus抗べん毛抗体を用いた。
【0025】
図3が示すように、細菌(3)が付加されたリポソーム(図3C)は自律的に駆動することが確認され、細菌が付加されていないリポソーム(図3A、B)に比べて輸送能が高くなることが示された。
【0026】
特異的に細菌を付加させたリポソームの構成を図4に示す。
【0027】
リポソームは、図4に示すようにミクロドメインを持つリポソーム(4)、ビオチン化抗体(6)、ビオチン(7)、ストレプトアビジン(8)細菌(3)から構成される。
【0028】
1,2−ジオレオイルsn−グリセロ−3−ホスホコリン、1,2−ジパルミトイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン、コレステロール、ビオチン化1,2−ジオレオイル−sn−グリセロ−3−ホスホエタノールアミンを(45:35:20:1)の比率で混合し、メタノールクロロホルム中に溶解させ、エバポレーターで溶媒を除去してダーラム管に脂質フィルムを形成させた。このフィルムに総脂質濃度が1mMとなるようにミネラルオイルを加え、前記と同様の方法でミクロドメインを持つリポソーム(4)を作製した。本条件では数μm〜数百μmのリポソームが作製された。
【0029】
図4に示すように、作製したミクロドメインを持つリポソーム(4)溶液にストレプトアビジン(8)、ビオチン化抗体(6)、細菌(3)を加えると、ビオチン(7)とストレプトアビジン(8)が結合するため、リポソーム表面に部位特異的に細菌(3)が付加された。ここで細菌(3)はグラム陰性菌であるV.alginolyticusを、ビオチン化抗体(5)はV.alginolyticus抗べん毛抗体を用いた。
【0030】
図5に示すように、ミクロドメイン(5)を利用することで部位特異的に細菌が付加したリポソームは自律的に駆動し、その駆動性能はランダムに細菌が付加した場合に比べて高いことが確認された。これは、輸送において、より有用であることを示す。
【0031】
尚、本発明は前記実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
例えば、抗体(2)や化学修飾は、前記実施形態で用いたものの代わりに、細菌を付加できるものであれば特に限定しない。また、リポソームを構成する脂質組成、リポソームの大きさも限定されない。
【符号の説明】
1 リポソーム
2 抗体
3 細菌
4 ミクロドメインを持つリポソーム
5 ミクロドメイン
6 ビオチン化抗体
7 ビオチン
8 ストレプトアビジン
【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームであって、前記リポソームの包皮であるリポソーム外膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソーム。
【請求項2】
前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌を付加可能な化字修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソーム。
【請求項3】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に細菌が付加することで自律駆動能力をもつことを特徴とする薬剤送達システム。
【請求項4】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に付加した細菌またはそれに準ずる生物の特性(走化性・走光性・走磁性・走電性・酸素走性・pH走性・温度走性)に従って自律駆動・薬剤放出能力をもつことを特徴とする薬剤送達システム。
【請求項5】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の微生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に付加した細胞の特性に従って自律駆動・薬剤放出能力をもつことを特徴とする薬剤送達システム。
【請求項1】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームであって、前記リポソームの包皮であるリポソーム外膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソーム。
【請求項2】
前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌を付加可能な化字修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソーム。
【請求項3】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌またはそれに準ずる生物を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に細菌が付加することで自律駆動能力をもつことを特徴とする薬剤送達システム。
【請求項4】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の細菌を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に付加した細菌またはそれに準ずる生物の特性(走化性・走光性・走磁性・走電性・酸素走性・pH走性・温度走性)に従って自律駆動・薬剤放出能力をもつことを特徴とする薬剤送達システム。
【請求項5】
治療および/または診断を目的とする薬剤を内包するリポソームの包皮を形成するリポソーム膜の構成成分として、一つまたは複数の微生物を付加可能な化学修飾された脂質を含むことを特徴とするリポソームまたは、前記リポソーム外膜の構成成分によりミクロドメイン構造を持ちかつ、このミクロドメインに細菌を付加可能な化学修飾された脂質を備えることを特徴とする前記(1)に記載のリポソームであり、各修飾部位に付加した細胞の特性に従って自律駆動・薬剤放出能力をもつことを特徴とする薬剤送達システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2012−236812(P2012−236812A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119702(P2011−119702)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(591240157)
【出願人】(510310749)
【出願人】(506276099)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(591240157)
【出願人】(510310749)
【出願人】(506276099)
【Fターム(参考)】
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