説明

生理学的サンプルから対照溶液を判別するシステム及び方法

【課題】血液を含まない水溶性サンプル(例えば、対照溶液)と血液サンプルとを判別するシステム及び方法を提供すること。
【解決手段】一態様において、本方法は、試験片を用いて、電気化学的試験片と電気的に接続した計器により複数の過渡電流を測定する。この過渡電流を用いて、少なくとも二つの特性(例えば、存在する干渉物質の量と反応速度)に基づいて、サンプルが血液サンプルか血液を含まない水溶性サンプルかを判断する。また、本方法は、少なくとも二つの特性に基づいて判別基準を算出する方法を含むことができる。血液サンプルと血液を含まない水溶性サンプルとを判別するシステムの様々な態様を本明細書において提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の参照]本出願は、35、U.S.C.§119に基づく、「System and Methods of Discriminating Control Solution from a Physiological Sample」と題された、2007年9月28日に出願の米国仮出願第60/976,083号の出願日の利益を主張するものであり、その開示を参照することによってその開示は本明細書に援用される。
【0002】
本明細書において提供されるシステムおよび方法は、医療検査の技術分野に関し、より詳細には、サンプル(例えば血液)内の検体の存在および/または濃度の検出に関する。
【背景技術】
【0003】
生理学的流体(例えば、血液または血漿等の血液誘導生成物)中の検体濃度決定は今日の社会においてその重要性を益々高めつつある。検体濃度測定アッセイは、臨床検査、家庭検査等を含む様々な用途及び状況において有用であることが分かり、これにより得られるそれぞれの試験結果は、種々の病状の診断及び管理において傑出した役割を果たしている。対象とする検体として、糖尿病管理のためのグルコース、心臓血管の状態をモニタするためのコレステロール等が挙げられる。
【0004】
検体濃度測定アッセイの方法は何れも電気化学に基づく。かかる方法において、水性液体サンプルは、少なくとも二つの電極、即ち基準電極と作用電極を備え、それらの電極は電流測定又は電量測定に適したインピーダンスを有する電気化学的セル内のサンプル反応チャンバに配置される。分析する成分を試薬と反応させて、検体の濃度に比例する量の酸化可能な(又は還元可能な)物質を形成する。その後、存在する酸化可能な(又は還元可能な)物質の量を電気化学的に概算し、サンプル中に存在する検体の濃度と関連付ける。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、電気化学的試験用計器等の自動装置が、電気化学的サンプル中の検体濃度を測定するため一般的に用いられている。多くの試験用計器には、検体濃度、通常は複数の検体濃度を計器のメモリに保存できる利点がある。この特長により、使用者は、既に収集した検体レベルの平均値として一定の期間にわたり検体濃度のレベルを調べることができ、かかる平均化は計器に付随のアルゴリズムにより行える。しかしながら、そのシステムが適正に機能していることを確認するため、使用者は時折、血液サンプルの代わりに対照流体を用いた試験を行う。かかる対照流体(対照溶液とも呼ばれる)は一般的に、既知のグルコース濃度を有する水性溶液である。使用者は、対照溶液で試験を行い、表示された結果を既知の濃度と比較してシステムが適正に機能しているか否かを判断できる。しかしながら、一旦対照溶液試験を実行すると、対照流体のグルコース濃度は計器のメモリに保存される。このため、使用者が既に行った試験及び/又は既に行った試験の平均濃度を調べようとすると、得られた結果が対照流体の検体レベルの濃度に偏ることがある。
【0006】
したがって、試験時に対照溶液とサンプル流体とを判別可能であることが望まれる。一つの対策として、対照流体又は試験流体であるかを流体に手作業でフラグ指示(flag)する手法が挙げられる。しかしながら、使用者の関与を最小化して操作性を向上するため、フラグ指示は自動的に行うことが好ましい。
【0007】
このため、サンプル中の検体濃度の測定において使用する新しい方法及び装置の開発に関心が寄せられ続けている。特に重要な関心が、サンプルを対照流体又は試験流体として自動的にフラグ指示し、これに従って各測定値を保存又は除外する能力を備えたかかる方法及び装置の開発にある。更に、特に重要な関心が、電気化学的な検体濃度測定アッセイと共に使用することに適したかかる方法の開発にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
血液を含まない水溶性サンプル(例えば対照溶液)と血液サンプルとを判別するシステムおよび方法の様々な態様を本明細書に記載する。一態様において、本方法は、電位を印加して電流を測定する試験片を用いる方法を含む。電流値を用いて、少なくとも1つの特徴に基づき、サンプルが血液サンプルであるか血液を含まない水溶性サンプルであるかどうかを決定する。本明細書はさらに、少なくとも2つの特徴に基づく判別基準を算出する方法を記載する。本明細書はさらに、血液サンプルと血液を含まないサンプルとを判別するシステムを記載する。
【0009】
一実施形態において、血液サンプルと血液を含まないサンプルとを判別する方法を開示する。本方法は、第1および第2の電極を有する電気化学的セルにサンプルを導入する工程と、第1の電極と第2の電極との間に第1の試験電位を印加する工程とを含む。こうして生じた第1の過渡電流を測定する。次いで、第1の電極と第2の電極との間に第2の試験電位を印加して、第2の過渡電流を測定する。本方法はさらに、第1の電極と第2の電極との間に第3の試験電位を印加して、第3の過渡電流を測定する工程を含むことができる。
【0010】
第1の過渡電流に基づき、サンプル中のレドックス種の量に関する第1の基準値を算出する。さらに、第2および第3の過渡電流に基づいて、反応速度に関する第2の基準値を算出する。次いで、第1および第2の基準値を用いて、サンプルが血液を含まないサンプルであるか、血液サンプルであるかを判断する。血液を含まないサンプルは、対照溶液または飲料など(例えば、ゲータレード(登録商標)などのスポーツ飲料)のなんらかの他のサンプルであってもよい。
【0011】
一態様において、第1の基準値はサンプル中の干渉物質の濃度に比例する。例えば、第1の基準値として、第1の過渡電流からの少なくとも1つの電流値に基づいて算出した干渉物質指数を用いることができる。第2の基準値は化学反応の反応率の関数でもよい。例えば、第2の基準値は、第2の過渡電流からの少なくとも1つの電流値および第3の過渡電流からの少なくとも1つの電流値に基づいて算出した反応残留指数であってよい。一態様において、反応残留指数は第2の電流値および第3の電流値の比に基づいて算出する。
【0012】
別の態様において、本方法は、サンプル中の検体の濃度を測定する工程を実行することができる。サンプルが血液であると判明した場合、測定した濃度を保存可能である。逆にサンプルが血液を含まないサンプルであると判別した場合、測定した濃度をフラグ指示し、別個に保存し、および/または廃棄できる。
【0013】
一実施形態において、統計的分類を用い、サンプルが血液を含まないサンプルであるか血液サンプルであるかどうかを決定することができる。例えば、実験により導き出した判別線を表す数式を用いて、第1の基準値および第2の基準値を評価できる。
【0014】
別の態様において、第1の試験電位を印加する工程の前に、開回路電位を電気化学的セルに印加する。さらに、第1の試験電位を印加する工程の後に、開回路電位を電気化学的セルに印加できる。
【0015】
本明細書において、血液サンプルと血液を含まないサンプルとを判別するシステムをさらに記載する。一実施形態において、本システムは、試験片および試験用計器を含むことができる。試験片は試験用計器と接続する電気的接点および電気化学的セルを含む。試験用計器は、試験片からの電流データを受信するプロセッサと、抗酸化物質濃度および反応速度に基づいて血液を含まないサンプルから血液サンプルを判別するための判別基準を含むデータ保存部とを含む。判別基準は、抗酸化物質濃度を表す干渉物質指数と反応速度を表す反応残留指数から導き出すことができる。例えば、判別基準は実験から導き出された判別線を含むことができる。本システムはさらに、レドックス種を実質的に含有しない、血液を含まないサンプル(例えば対照溶液)を含むことができる。
【0016】
本明細書において、判別基準を算出する方法をさらに記載する。判別基準は、血液サンプルと血液を含まないサンプルとを判別するための試験用計器にプログラミングできる。一実施形態において、本方法は、複数の血液を含まないサンプルに関する干渉物質指数と反応残留指数とを算出し、複数の血液を含まないサンプルに関する干渉物質指数と反応残留指数の回帰に基づいて判別基準を算出する工程を含む。
【0017】
一態様において、判別基準は判別線である。例えば、本方法は、複数の血液サンプルに関する干渉物質指数と反応残留指数をグラフ化し、その複数の血液サンプルの方向にシフトする工程を含むことができる。
【0018】
一態様において、血液サンプルと対照溶液とを判別する方法を提供し、本方法は、(a)サンプルが電気化学的セルに導入される場合、第1の電極と第2の電極との間に第1の試験電位を印加し、第1の過渡電流を測定する工程と、(b)第1の電極と第2の電極との間に、第2の電極において還元された媒介物質を酸化するのに十分である第2の試験電位を印加し、第2の過渡電流を測定する工程と、(c)第1の電極と第2の電極との間に、第1の電極において還元された媒介物質を酸化するのに十分である第3の試験電位を印加する工程とを含む。さらに、本方法は第3の過渡電流を測定する工程を含むことができる。本方法はまた、(d)第1の過渡電流に基づいて、第1の基準値を算出する工程と、(e)第2および第3の過渡電流に基づいて、第2の基準値を算出する工程と、(f)第1および第2の基準値に基づいて、サンプルが血液サンプルであるか対照溶液であるかどうかを決定する工程とを含むことができる。
【0019】
上述の多様な基準値は様々な方法において決定および/または算出できる。例えば、第1の基準値はサンプル中の干渉物質の濃度に比例してよく、第1の基準値は第1の過渡電流からの少なくとも1つの電流値に基づいて計算でき、または、第1の基準値は第1の過渡電流間に測定された電流値の合計に基づいて算出できる。一実施形態において、第1の基準値は第1の過渡電流間に測定された電流値の合計に基づいて算出でき、その合計は、
【数1】

の数式で表すことができ、ここでisumは電流値の合計であり、tは時間である。
【0020】
別の実施形態において、第2の基準値は様々な方法で算出または決定できる。例えば、第2の基準値は化学反応の反応率に基づくことができ、また第2の基準値は第2の過渡電流からの少なくとも1つの電流値および第3の過渡電流からの少なくとも1つの電流値に基づくことができ、あるいは第2の基準値は第2の過渡電流の終端周囲の第2の電流値および第3の過渡電流の開始周囲の第3の電流値に基づくことができる。他の実施形態において、第2の基準値は第2の電流値と第3の電流値との比に基づくことができ、その比は、i2/i3の数式で表すことができ、ここでi2は第2の電流値であり、i3は第2の電流値である。
【0021】
本方法の様々な実施形態において、システムの様々な構成要素における様々な方向性および/または構成を利用することができる。例えば、一実施形態において、第1の電極および第2の電極は対向する面の構成を有することができ、ここで、試薬層を第2の電極ではなく第1の電極に配置することができる。別の実施形態において、第1の電極および第2の電極は、第2の電極ではなく第1の電極に配置される試薬層を有する同一平面の構成を有することができる。
【0022】
本方法の様々な実施形態は様々な追加の、または任意の工程を含むことができる。例えば、一実施形態において、本方法は、検体の濃度を測定する工程を含むことができ、例えば、サンプルが対照溶液であると判明した場合、その対照溶液に関連される検体濃度をフラグ指示する。さらに、一実施形態において、上述の工程(f)はさらに、統計的分類を使用して、サンプルが対照溶液であるか血液サンプルであるかどうかを決定することができる。別の実施形態において、上述の工程(f)はさらに、第1の基準値と所定の閾値とを比較し、第2の基準値と所定の閾値の数式(例えば、第1の基準値の関数である数式)とを比較し、サンプルが対照溶液であるか血液サンプルであるかどうかを決定することができる。
【0023】
別の態様において、血液サンプルと対照溶液とを判別するシステムを提供する。一実施形態において、本システムは、(a)試験用計器と接続する電気的接点と、(i)相互に離間して配設された第1の電極および第2の電極と(ii)試薬とを備える電気化学的セルを含む試験片とを備える。さらに、本システムは、(b)試験片から電流データを受信するように構成されたプロセッサと、抗酸化物質濃度および反応速度に基づいて、対照溶液(例えば、サンプルは実質的にレドックス種を殆ど含有しない)から血液サンプルを判別するための判別基準とを含むデータ保存部とを含む試験用計器を備えることができる。
【0024】
様々な実施形態において、上述の判別基準を様々なソースから導き出すことができる。例えば、一実施形態において、判別基準を、抗酸化物質濃度を表す干渉物質指数および反応速度を表す反応残留指数から導き出すことができる。別の実施形態において、判別基準は実験から導き出された判別線を含むことができる。
【0025】
さらに別の態様において、血液サンプルと対照溶液サンプルとを判別する試験用計器にプログラミングする判別基準を算出する方法を提供する。一実施形態において、本方法は、(a)複数の対照溶液サンプルに関する干渉物質指数および反応残留指数を算出する工程と、(b)複数の対照溶液サンプルに関する干渉物質指数および反応残留指数の回帰に基づいて判別基準を算出する工程とを含むことができる。必要に応じて、本方法はさらに、複数の血液サンプルに関する干渉物質指数および反応残留指数をグラフ化し、判別線を複数の血液サンプルの方向にシフトする工程を含むことができる。一実施形態において、判別基準は判別線である。
【0026】
別の態様において、血液サンプルと対照溶液サンプルとを判別する方法を提供し、本方法は、(a)(i)相互に離間して配設された2つの電極と(ii)試薬とを備える電気化学的セルにサンプルを導入する工程を含む。本方法はさらに、(b)第1の極性を有する第1の試験電位を電極間に印加して、セル電流を測定する工程と、(c)第1の試験電位間に測定された少なくとも2つの電流値を合計して、干渉物質指数を生成する工程と、(d)干渉物質指数を用いて、血液サンプルと対照溶液サンプルとを判別する工程とを含むことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の開示の様々な特長について、添付の特許請求の範囲に詳細に記載する。そのような特長は、限定を付さない例示された実施形態に記載される詳細な説明及び添付の図面を参照してより理解される。
【0028】
所定の例示的な実施形態を、本明細書に開示されるシステムおよび方法を用いて、その構造、機能、製造および使用法の原理の全ての理解を提供するために記載する。これらの1つ以上の実施形態を添付の図面に示す。特に本明細書に記載し添付の図面に示す本システムおよび方法は、非制限的な例としての実施形態であり本開示の範囲は請求の範囲によってのみ限定されることを当業者は理解する。一例示としての実施形態に関連して示し、または記載する特徴は他の実施形態の特徴と組み合わせてもよい。そのような変更およびバリエーションは本開示の範囲内に含まれることが意図されている。
【0029】
本明細書に開示する方法および装置は、種々多様なサンプル中の種々多様な検体の測定に使用するのに適しており、特に対象となる検体がグルコースである場合に、全血またはその誘導物中の検体を測定するのに特に適している。一態様において、本開示は、試験片に塗布されたサンプルが、血液を含まない水溶性サンプル(例えば対照溶液)であるか血液サンプルであるかどうかを決定する方法の多様な実施形態を提供する。そのような一実施形態において、少なくとも2つの特徴を用い、血液サンプルと血液を含まないサンプルとを判別する。この記載により、血液サンプルと対照溶液とを判別することに焦点を当てる。しかしながら、下記における実施例2に示すように、本明細書において提供されるシステムおよび方法は、多様な、血液を含まないサンプル(例えば、ゲータレード(登録商標)などのスポーツ飲料を含む飲料)の任意のものから血液サンプルを判別することに等しく適用可能である。
【0030】
本明細書において提供される方法は、原則的に、相互に離間した第1の及び第2の電極と試薬層を有する如何なる種類の電気化学的セルと共に使用可能である。例えば、電気化学的セルは、試験片の形態でもよい。一態様において、試験片は、薄いスペーサ層により分離された2本の対向する電極を有し、これらの構成要素は試薬層が形成されるサンプル反応チャンバまたはゾーンを画定する。当業者には、例えば、同一平面上の電極を有する試験片など、この他の種類の試験片も本明細書記載の方法と共に使用可能であることは明らかである。
【0031】
図1Aから図4Bを参照して、本方法との使用に適した代表的な試験片62について説明する。図に示すように、試験片62は、近端部80から遠端部82へ延在し、側縁部56、58を有する伸長体を含むことができる。試験片本体59の近端部分は、複数の電極164、166及び試薬72を有するサンプル反応チャンバ61を含むことができ、試験片本体59の遠端部分は、試験用計器と電気的に接続するように構成された機能部を含むことができる。使用中、生理学的流体又は対照溶液をサンプル反応チャンバ61に送出し、電気化学的に分析することができる。
【0032】
図示された実施形態において、試験片62は、第1の電極層66、第2の電極層64、及びそれらの間に位置するスペーサ層60とを有する。第1の電極層66には第1の電極166と、第1の電極166を第1の電気的接点67と電気的に接続する第1の接続トラック76を設けることができる。同様に、第2の電極層64には第2の電極164と、第2の電極164を第2の電気的接点63と電気的に接続する第2の接続トラック78を設けることができる。
【0033】
一実施形態において、サンプル反応チャンバ61は、図1Aから図4Bに示すように、第1の電極166、第2の電極164及びスペーサ60を画定ことができる。具体的には、第1の電極166と第2の電極164はそれぞれ、サンプル反応チャンバ61の底部と頂部を画成する。スペーサ60の切り欠き領域68は、サンプル反応チャンバ61の側壁を画成する。一態様において、サンプル反応チャンバ61は、更に、サンプル注入口及び/又は通気口となる複数の出入口70を有することができる。例えば、出入口の一つを流体サンプル注入口、他の出入口を通気口とすることができる。
【0034】
サンプル反応チャンバ61の容積は縮小できる。たとえば、容積は、約0.1μl乃至約5μlの範囲、好ましくは、約0.2μl乃至約3μlの範囲、より好ましくは、約0.3μl乃至約1μlの範囲とすることができる。当業者によって理解されるように、サンプル反応チャンバ61は他の様々な容積を有することができる。サンプル容量を縮小するため、切り欠き領域68は、約0.01cm2乃至約0.2cm2、好ましくは約0.02cm2乃至約0.15cm2、より好ましくは約0.03cm2乃至約0.08cm2の範囲とすることができる。同様に、当業者は切り欠き領域68は他の様々な面積であることを理解する。更に、第1の及び第2の電極166、164の離間距離は、約1ミクロン乃至約500ミクロンの範囲、好ましくは、約10ミクロン乃至約400ミクロンの範囲、より好ましくは、約40ミクロン乃至約200ミクロンの範囲とすることができる。他の実施形態においては、そのような範囲は他の様々な値の間において変化してもよい。このように電極同士が近接していることから、第1の電極166に生成された酸化された媒介物質が第2の電極164へ拡散し、還元され、続いて第1の電極166へ戻り、再酸化されるというレドックス循環が発生しうるようになる。
【0035】
試験片伸長体59の遠端部82では、第1の電気的接点67を用いて試験用計器と電気的に接続できるようになっている。第2の電気的接点63は、図2に示すように、U字形状切り込み部65を介して試験用計器が接触できるようになっている。当業者には、試験片62が、試験用計器と電気的に接続するように構成された種々の代替の電気的接点を具備できることは明らかである。例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に援用される、米国特許第6,379,513号には、電気化学セル接続手段が開示されている。
【0036】
一実施形態において、第1の電極層66及び/又は第2の電極層64は、金、パラジウム、炭素、銀、白金、酸化スズ、イリジウム、インジウム及びそれらの混合物(例えば、インジウムをドープした酸化スズ)などの材料からなる導電性材料で形成できる。更に、電極は、例えば、スパッタリング、無電解メッキ又はスクリーン印刷処理などの様々な処理により導電性材料を絶縁シート(図示されてない)に付着(disposing)させて形成できる。代表的な一実施形態において、第2の電極層64を、金をスパッタリングした電極とし、第1の電極層66を、パラジウムをスパッタした電極とすることができる。スペーサ層60に使用できる好適な材料として、例えば、プラスチック類(例えば、PET、PETG、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリスチレン)、シリコン、セラミック、ガラス、接着剤及びそれらの組合せ等、種々の絶縁材料が挙げられる。
【0037】
試薬層72は、スロットコーティング、チューブ端からの塗布、インクジェット処理及びスクリーン印刷などの処理を用いてサンプル反応チャンバ61内に形成できる。かかる処理については、例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に援用される、米国特許第6,749,887号、6,869,411号、6,676,995号及び6,830,934号に記載している。一実施形態において、試薬層72は、少なくとも一つの媒介物質及び酵素を含むことができ、第1の電極166に付着可能である。様々な媒介物質および/または酵素が本開示の趣旨および範囲内である。例えば、好適な媒介物質は、フェリシアニド、フェロセン、フェロセン誘導物、オスミウムビピリジル錯体及びキノン誘導物が挙げられる。好適な酵素の例として、グルコースオキシダーゼ、ピロロキノリンキノン(PQQ)補助因子をベースとしたグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド補助因子をベースとしたGDH及びFADをベースとしたGDHが挙げられる[E.C.1.1.99.10]。試薬層72を生成するために好適であろう一代表的な試薬配合物については、参照によりその全開示内容が本明細書に援用される、「滅菌され、較正されたバイオセンサーベースの医療デバイスの製造方法」と題した係属中の米国特許出願第10/242,951号、米国特許公開番号第2004/0120848号に記載している。
【0038】
第1の電極166又は第2の電極164の何れかは、試験用計器が印加する試験電位の極性に応じて限界量の媒介物質を酸化又は還元する作用電極として機能することができる。例えば、電流を制限する種が還元された媒介物質である場合、第2の電極164に対して十分に大きな正の電位が印加されていれば、還元された媒介物質を第1の電極166で酸化できる。かかる状況において、第1の電極166は作用電極の機能を実行し、第2の電極164は対向/基準電極の機能を実行する。試験片62について特に指定のない限り、試験用計器100により印加される全ての電位の記載は、第2の電極164を基準とするものとする。
【0039】
同様に、第2の電極164に対して十分に大きな負の電位が印加されていれば、還元された媒介物質は第2の電極164で酸化できる。かかる状況において、第2の電極164は作用電極の機能を実行でき、第1の電極166は対向/基準電極の機能を実行できる。
【0040】
本明細書において開示される一実施形態における第1のステップは、所定の量の対象とする流体サンプルを、第1の電極166、第2の電極164及び試薬層72を具備した試験片62に導入するステップを有する。流体サンプルとして、全血、その誘導物又はフラクション、又は対照溶液等が可能である。流体サンプル、例えば、全血は注入口70を介してサンプル反応チャンバ61に投与可能である。一態様において、注入口70及び/又はサンプル反応チャンバ61は、毛細管現象により流体サンプルをサンプル反応チャンバ61に満たすように構成可能である。
【0041】
図5は、試験片62の第1の電極166及び第2の電極164とそれぞれ電気的に接続する、第1の電気的接点67及び第2の電気的接点63と接する試験用計器100の簡略図である。試験用計器100は、第1の電極166及び第2の電極164と、それぞれ第1の電気的接点67及び第2の電気的接点63を介して電気的に接続するように構成可能である(図2および図5を参照)。当業者に理解されるように、種々の既知の試験用計器を本明細書記載の方法と共に用いることができる。しかしながら、一実施形態において、試験用計器は、血液と対照サンプルとを判別可能な計算を実行するように構成され、且つデータの分類および/またはデータの保存をするように構成された少なくとも一つのプロセッサを含む。
【0042】
図5に示すように、電気的接点67は、67a及び67bと付された2本のプロング(prong)を有することができる。代表的な一実施形態において、試験用計器100は、試験用計器100が試験片62と接する際に、回路が完結するように、プロング67a、67bと別々に接続する。試験用計器100は、プロング67a及び67b間の抵抗又は電気的導通を測定して、試験片62が試験用計器100と電気的に接続しているか否かを判断できる。当業者には、試験用計器100は、様々なセンサ及び回路を用いて、試験片62が試験用計器100に対して適切に配置されているか否かを判断できることは明らかである。
【0043】
一実施形態において、試験用計器100は、試験電位及び/または電流を第1の電気的接点67及び第2の電気的接点63の間に発生せられる。一旦試験用計器100が試験片62が挿入されたことを認識すると、試験用計器100はオンとなり、流体検出モードが始動する。一実施形態において、流体検出モードでは、試験用計器100は第1の電極166と第2の電極164間に1μAの定電流を流すことができる。試験片62は最初乾燥しているため、試験用計器100は、試験用計器100内のハードウェアにより制限された最大電圧を測定する。しかしながら、一旦流体サンプルが使用者により注入口70に投与されると、サンプル反応チャンバ61は満ちる。流体サンプルが第1の電極166と第2の電極164間の間隙を満たすと、試験用計器100は、所定の閾値を下回る測定電圧の低下を測定し(例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に援用される、米国特許第6,193,873号明細書参照)、自動的にグルコース試験を開始する。
【0044】
測定電圧が所定の閾値を下回り得るのはサンプル反応チャンバ61の一部が満ちた場合に限ることに留意されたい。上記方法において、自動的に流体の付着を認識したとしても、サンプル反応チャンバ61内の流体の存在を確認できるだけであって、サンプル反応チャンバ61が完全に満ちていることを示すとは必ずしも限らない。一旦試験用計器100が、流体が試験片62に付着したと判断してから、生理学的流体がサンプル反応チャンバ61を完全に満たすまで、短い時間であるが、ゼロではない時間の経過を要することがある。
【0045】
一実施形態において、一旦試験用計器100が、流体が試験片62に導入(投与)されたと判断すると、試験用計器100は、図6に示すように、複数の開回路電位と複数の試験電位をそれぞれ所定の時間期間印加することにより、グルコース試験を実行することができる。グルコース試験時間期間TGは、グルコース試験を実行する時間量を示し(但し、グルコース試験に関連する全算出期間とは限らない)、グルコース試験時間期間TGは、第1の開回路時間期間TOC1、第1の試験電位時間期間T1、第2の開回路時間期間TOC2、第2の試験電位時間期間T2及び第3の試験電位時間期間T3を含むことができる。グルコース試験時間期間TGは、例えば、約1秒乃至約5秒の範囲とすることができる。2つの開回路時間期間と3つの試験電位時間期間について説明したが、当業者には、グルコース試験時間期間は、異なる数の開回路時間期間及び試験電位時間期間を有してもよいことは明かである。例えば、グルコース試験時間期間は、1つの開回路時間期間及び/又は2つの試験電位時間期間のみを有してもよい。
【0046】
一旦グルコースアッセイを開始すると、試験用計器100は、第1の開回路電位時間期間TOC1、図示された実施形態では約0.2秒、第1の開回路に切替える。他の実施形態において、第1の開回路電位時間期間TOC1は、約0.05秒乃至約2秒の範囲でよく、好ましくは約0.1秒乃至約1.0秒の範囲でよく、最も好ましくは約0.15秒乃至約0.6秒の範囲でもよい。
【0047】
第1の開回路を実装する理由の一つは、サンプル反応チャンバ61をサンプルで満たす、或いは部分的に満たすために十分な時間を提供することにある。通常、周囲温度(即ち22℃)で、サンプル反応チャンバ61を血液で完全に満たすためには約0.1秒乃至約0.5秒要する。反対に、粘度が約1から約3センチポアズとなるように配合された対照溶液であれば、周囲温度で、約0.2秒以内でサンプル反応チャンバ61を完全に満たせる。
【0048】
対照溶液は、既知の成分から成り、ほぼ均一であるのに対し、血液サンプルは、その構造及び/又は組成が変動し得る。例えば、ヘマトクリット値の高い血液サンプルは、ヘマトクリット値の低い血液サンプルより粘度が低いため、ヘマトクリット値の高い血液サンプルは、ヘマトクリット値の低い血液サンプルよりチャンバの充填に長い時間を要する。このように、血液サンプルの充填時間は種々の要因に応じて、変動しうる。
【0049】
第1の開回路電位を印加後、試験用計器100は、第1の試験電位E1(例えば、図6では−0.3ボルト)を第1の試験電位時間期間T1(例えば、図6では0.15秒)にわたり第1の電極166と第2の電極164の間に印加する。試験用計器100は、これにより生じる、図7でia(t)と示される第1の過渡電流を測定する。過渡電流は、特定の試験電位時間期間において試験用計器によって測定された複数の電流の値を表す。一実施形態において、第1の試験電位時間期間T1は、約0.05秒乃至約1.0秒の範囲でよく、好ましくは約0.1秒乃至約0.5秒の範囲でよく、最も好ましくは約0.1秒乃至約0.2秒の範囲でよい。他の実施形態において、第1の試験電位時間期間T1は任意の他の所望される時間範囲を含むことができる。
【0050】
上述のように、本明細書で説明する方法は、第1の過渡電流の一部又は全てを用いて、試験片62に付着したのは対照溶液であるか或いは血液サンプルであるかを判別できる。第1の過渡電流の大きさは、サンプル中の酸化しやすい物質の存在が原因となっている。血液は通常、第2の電極164で容易に酸化される内因性及び外因性化合物を含有する。反対に、対照溶液は、酸化可能な化合物を含有しないように配合できる。しかしながら、血液サンプルの組成は変動可能であり、サンプル反応チャンバ61は約0.2秒後では未だ完全に満たされてない可能性があるため、粘度の高い血液サンプルの第1の過渡電流の大きさは典型的には、粘度の低いサンプル(一部のケースでは対照溶液サンプルを下回る)より小さくなる。完全に充填されてない場合、第1の電極166及び第2の電極164の有効面積は減少し、これにより、第1の過渡電流が低下し得る。血液サンプルにはバラツキがあることから、サンプル中の酸化可能な物質の存在自体が十分な判別要因となるとは限らない。
【0051】
試験用計器100は、第1の試験電位E1の印加を停止後、第2の開回路電位時間期間TOC2、図6の例の場合、約0.65秒、第2の開回路に切替えるように構成可能である。他の実施形態において、第2の開回路時間期間TOC2は、約0.1秒乃至約2.0秒の範囲でよく、好ましくは約0.3秒乃至約1.5秒の範囲でよく、最も好ましくは約0.5秒乃至約1.0秒の範囲でよい。他の実施形態において、第2の開回路電位時間期間TOC2は、所望される任意の時間期間であってもよい。
【0052】
第2の開回路を実装する理由の一つは、サンプル反応チャンバ61が完全に満たされ、試薬層72が溶解し、還元された媒介物質及び酸化された媒介物質が第1の試験電位E1により生じた摂動から、それぞれ第1の電極166及び第2の電極164において再び平衡に達するまでの十分な時間を設けることにある。サンプル反応チャンバ61が典型的には迅速に満ちるとしても、第2の開回路時間期間TOC2は、周囲温度が低い場合(例えば約5℃)やヘマトクリット値が高いレベルである(例えば、ヘマトクリット値が60%を越える)場合など、充填時間が長くなる状態も考慮して、十分に長くできる。
【0053】
第1の試験電位E1の印加時、還元された媒介物質は第2の電極164では枯渇可能だが、第1の電極166で生成可能であるため、濃度勾配が生じる。第2の開回路電位は、還元された媒介物質の濃度分布が、第1の試験電位E1を印加した直前の状態に近くなる時間を提供する。以下に説明するが、グルコース濃度を干渉物質の存在下で算出できることから、第2の開回路電位を十分に長く設けることが有用である。
【0054】
代替の実施形態では、試験片がサンプルで充填されたことを計器が検出したときから、第2の試験電位E2を印加するまでの時間内、試験電位E1´を電極間に印加できる。一態様において、試験電位E1´は小さい。例えば、電位は、約−1mV乃至約−100mVの範囲でよく、好ましくは約−5mV乃至約−50mVの範囲でよく、最も好ましくは約−10mV乃至約−30mVの範囲でよい。電位が小さい程、大きな電位を印加した場合と比較して、還元された媒介物質の濃度勾配の摂動範囲は小さくなるが、サンプル内に存在する酸化可能な物質の測定値を得るためには依然として十分である。試験電位E1´は、充填が検出されてから第2の試験電位E2を印加するまでの時間期間の一部、或いはその全時間期間印加できる。時間期間の一部に試験電位E1´を用いる場合は、残りの時間期間は開回路を印加できる。サンプル内の酸化可能な物質の存在及び/又は数量を示す電流計測値を得るために小量の電位E1´を印加する期間が全体で十分であれば、開回路電位と小量の電位の印加の任意の回数、その順番及び印加時間を組み合わせは、本実施形態において重要でない。好ましい実施形態において、小電位E1´は、充填が検出されてから第2の試験電位E2を印加するまでの略全期間にわたり印加される。
【0055】
一旦、第2の開回路時間期間TOC2又は、小電位E1´を印加する実施形態においては等価な時間が経過した後、試験用計器100は、第2の試験電位E2を第2の試験電位時間期間T2にわたり第1の電極166及び第2の電極164の間に印加できる。第2の試験電位時間期間T2の間、試験用計器100は、ib(t)で示される第2の過渡電流を測定できる。第2の試験電位時間期間T2が経過すると、試験用計器100は、第3の試験電位E3を第3の試験電位時間期間T3にわたり第1の電極166及び第2の電極164の間に印加し、ic(t)で示される第3の過渡電流を測定できる。第2の試験電位時間期間T2及び第3の試験電位時間期間T3は、それぞれ、約0.1秒乃至約4秒の範囲とすることができる。図6に示す実施形態において、第2の試験電位時間期間T2は約3秒で、第3の試験電位時間期間T3は約1秒であった。上述したように、第2の試験電位E2を印加してから第3の試験電位E3を印加するまでの間に開回路電位時間期間が経過できるようにする。或いは、第3の試験電位E3を第2の試験電位E2の印加後に印加できる。第1、第2又は第3の過渡電流の一部を、一般的にセル電流または電流値と呼ぶことができることに留意されたい。
【0056】
一実施形態において、第1の試験電位E1及び第2の試験電位E2は両方とも第1の極性を有し、第3の試験電位E3は、第1の極性と反対の第2の極性を有する。しかしながら、当業者には、検体濃度を測定する方法及び/又は試験サンプルと対照溶液を判別する方法に応じて、第1、第2及び第3の試験電位の極性を選択できることは明かである。
【0057】
第1の試験電位E1および第2の試験電位E2は、限界酸化電流が測定される作用電極として第2の電極164が機能するように、第2の電極164に対して十分に負の大きさを持つことができる。反対に、第3の試験電位E3は、限界酸化電流が測定される作用電極として第1の電極166が機能するように、第2の電極164に対して十分に正の大きさを持つことができる。限界酸化は、酸化可能な種が作用電極表面で局所的に全て枯渇し、酸化電流の測定値がバルク溶液から作用電極面の方向へ拡散する酸化可能な種の流れに比例するようになった時に発生する。ここで「バルク溶液」とは、酸化可能な種が枯渇ゾーン内に存在しなくなった作用電極から十分に離れた溶液の一部を意味する。第1の試験電位E1、第2の試験電位E2及び第3の試験電位E3は、スパッタリングした金又はパラジウムの何れかの作用電極とフェリシアニド媒介物質を用いた場合、約−0.6ボルト乃至約+0.6ボルトの範囲とすることができる(第2の電極164に対して)。
【0058】
図7に、対照溶液サンプル(点線)又は血液サンプル(実線)の何れかを用いて試験用計器100及び試験片62により測定された第1、第2及び第3の過渡電流を示す。対照溶液サンプルは525mg/dLの濃度のグルコースを含み、血液サンプルは、ヘマトクリット値が約25%で、530mg/dLの濃度のグルコースを含んでいた。図8に、図7の第1及び第2過渡電流の拡大図を示す。図7及び図8に、図6に示す電位波形を印加した結果として生じた過渡電流を示す。以下に、過渡電流を試験溶液又は対照溶液に関する正確なグルコース測定値に変換可能な方法について説明する。
【0059】
図12に示すように、試験用計器100は、所定の時間間隔を置いて複数の試験電位を印加することによってグルコース試験を行うことができる。複数の試験電位は、第1の試験電位時間期間T1のための第1の試験電位E1’、第2の試験電位時間期間T2のための第2の試験電位E2’、および第3の試験電位時間期間T3のための第3の試験電位E3’を含み得る。第1、第2、および第3の試験電位時間期間に測定された複数の試験電流値は、1ナノ秒当り約1回の測定から100ミリ秒当り約1回の測定の範囲に渡って実行され得る。用語、「第1」、「第2」、および「第3」は、便宜的に選択されたものであり、試験電位が印加される順序を必ずしも反映しないことを当業者は理解する。
【0060】
図12の試験電位の波形を用いて一旦グルコースアッセイを開始すると、試験用計器100は、第1の試験電位時間期間T1(例えば、約0秒乃至約1秒)に対して第1の試験電位E1’(例えば、−20mV)を印加し得る。第1の試験電位時間期間T1は、約0.1秒乃至約3秒の範囲に渡り、好ましくは、約0.2秒乃至約2秒に渡り、最も好ましくは、約0.3秒乃至約1秒の範囲に渡る。第1の試験電位時間期間T1は、サンプル反応チャンバ61がサンプルで十分に満たされ、試薬層72が少なくとも部分的に溶解または溶媒和できるように、十分に長い時間でよい。一態様において、第1の試験電位E1’は、比較的少量の還元電流または酸化電流が測定されるように、媒介物質のレドックス電位に比較的近い値であり得る。図13は、比較的少量の電流が、第2および第3の試験電位時間期間と比較した第1の試験電位時間期間に観察され得ることを示す。例えば、媒介物質としてフェリシアニドおよび/またはフェロシアニドを用いる場合、第1の試験電位E1’は、約−100mV乃至約−1mVの範囲に渡り、好ましくは、約−50mV乃至約−5mVに渡り、最も好ましくは、約−30mV乃至約−10mVの範囲に渡る。
【0061】
第1の試験電位E1’を印加した後、試験用計器100は、第2の試験電位時間期間T2(例えば、図12に示すように、約3秒)に対して、第1の電極166と第2の電極164との間に第2の試験電位E2を印加することができる。第2の試験電位E2(例えば、図12に示すように、約−0.3ボルト)は、限界酸化電流が第2の電極164にて生じるように、媒介物質のレドックス電位が十分に負の大きさの値でよい。例えば、媒介物質としてフェリシアニドおよび/またはフェロシアニドを用いる場合、第2の試験電位E2’は、約−600mV乃至約0mVの範囲に渡り、好ましくは、約−600mV乃至約−100mVに渡り、最も好ましくは、約−300mV以下の範囲である。
【0062】
第2の試験電位時間期間T2は、限界酸化電流の大きさに基づいて、サンプル反応チャンバ内での還元された媒介物質(例えばフェロシアニド)の生成速度を監視できるように十分に長い時間でよい。還元された媒介物質は、試薬層72における一連の化学反応によって生成し得る。第2の試験電位時間期間T2の間に、限界量の還元された媒介物質は第2の電極164において酸化され、限界量ではない酸化された媒介物質は第1の電極166において還元され、第1の電極166と第2の電極164との間における濃度勾配を形成する。記載されるように、第2の試験電位時間期間T2は、十分な量のフェリシアニドが第2の電極164において生成できるように十分に長い時間であるべきである。第3の試験電位E3の間に、第1の電極166においてフェロシアニドを酸化するために限界電流を測定できるように、十分な量のフェリシアニドを第2の電極164において必要とし得る。第2の試験電位時間期間T2は、約0秒乃至約60秒の範囲に渡り、好ましくは、約1秒乃至約10秒の範囲に渡り、最も好ましくは、約2秒乃至約5秒の範囲に渡る。
【0063】
図13は、第2の試験電位時間期間の間(例えば、約1秒乃至約4秒の間)、酸化電流の絶対値の漸増に先立って、第2の試験電位時間期間T2の開始時における相対的に小さいピークを示している。その小さいピークは、約1秒で生じた還元された媒介物質の初期の枯渇により生じる。酸化電流における漸増は、第2の電極164への拡散に先立つ試薬層72によるフェロシアニドの生成によるものである。
【0064】
第2の試験電位E2を印加した後、試験用計器100は、第3の試験電位時間期間T3(例えば、図12に示すように、約4秒乃至約5秒の間)において、第1の電極166と第2の電極164との間に第3の試験電位E3(例えば、図12では+0.3ボルト)を印加することができる。第3の試験電位E3は、限界酸化電流が第1の電極166において測定されるように、媒介物質のレドックス電位が十分に正の値であってよい。例えば、媒介物質として、フェリシアニドおよび/またはフェロシアニドを用いる場合、第3の試験電位E3は、約0mV乃至約600mVの範囲に渡り、好ましくは、約100mV乃至約600mVの範囲に渡り、より好ましくは、約300mVである。
【0065】
第3の試験電位時間期間Tは、酸化電流の大きさに基づいて、第1の電極166付近での還元された媒介物質(例えば、フェロシアニド)の拡散を監視できるように十分に長い時間でよい。第3の試験電位時間期間T3の間、限界量の還元された媒介物質は第1の電極166において酸化され、限界量ではない酸化された媒介物質は第2の電極164において還元される。第3の試験電位時間期間T3は、約0.1秒乃至約5秒の範囲に渡り、好ましくは、約0.3秒乃至約3秒の範囲に渡り、最も好ましくは、約0.5秒乃至約2秒の範囲に渡る。
【0066】
図13は、定常電流への減少に先立つ、第3の試験電位時間期間T3の開始時における相対的に大きいピークを示す。一実施形態において、第2の試験電位E2は第1の極性を有してもよく、第3の試験電位E3は第1の極性とは反対の第2の極性を有してもよい。しかしながら、第2の試験電位および第3の試験電位の極性は検体濃度が決定される方法に依存して選択可能であることを、当業者は理解する。
【0067】
試験片が、図1Aから図4Bに示す対向する面又は対向する構成を有し、図6に示す電位波形を試験片に印加すると仮定すると、グルコース濃度は、以下の数式1に示すグルコースアルゴリズムを用いて算出できる。
【数2】

【0068】
数式1において、[G]はグルコース濃度であり、i1は第1の電流値、i2は第2の電流値、i3は第3の電流値、p、Z及びaは実験により導かれた較正定数を表す。数式1の導出方法については、参照によりその全開示内容が本明細書に援用される、2005年9月30日に出願された「迅速な電気化学的分析方法及び装置(Method and Apparatus for Rapid Electrochemical Analysis)」と題した係属中の米国特許出願公開第2007/0074977号明細書(米国特許出願第11/240,797号)に記載している。第1の電流値i1及び第2の電流値i2は第3の過渡電流から算出し、第3の電流値i3は第2の過渡電流から算出する。「第1」、「第2」及び「第3」という名称を便宜上用いたが、当業者にはこれが電流値を算出する順番を反映すると限らないことは明らかである。更に、数式1記載の全ての電流値(例えば、i1、i2及びi3)には、電流の絶対値を用いる。
【0069】
他の実施形態において、i1は、干渉物質の存在下でより正確なグルコース濃度を測定するため、数式2に示すように、第2及び第3の過渡電流からのピーク電流値を含むように定義できる。
【数3】

【0070】
pbは、第2の試験電位時間期間T2のピーク電流値を表し、ipcは、第3の試験電位時間期間T3のピーク電流値を表す。issは、進行中の化学反応がない場合における第3の試験電位E3印加後長時間発生すると予測される定常電流の推定値である。数式2を用いる場合、第2の開回路電位時間期間TOC2は、数式2が干渉物質の存在を補償できるように十分長いことが好ましい。第2の開回路電位時間期間TOC2が短すぎると、第2のピーク電流値ipbが歪み、干渉物質補正計算の有効性が低下する可能性がある。生理学的サンプル中の干渉物質を考慮したピーク電流値の使用法については、参照によりその全開示内容が本明細書に援用される、2006年3月31日に出願の「干渉物質の存在下でサンプルを分析する方法及び装置(Method and Apparatus for Analyzing a Sample in the Presence of Interferents)」と題した、米国特許出願公開第2007/0227912号明細書(米国特許出願第11/278,341号)に記載している。
【0071】
一実施形態において、数式1及び数式2を共に用いて、血液又は対照溶液の何れかのグルコース濃度を算出できる。本発明の他の実施形態において、血液には数式1及び数式2のアルゴリズムと第1群の較正係数(即ち、a、p及びZ)を用い、対照溶液には第2群の較正係数を用いることができる。2つの異なる群の較正係数を用いることにより、試験流体と対照溶液とを判別する本明細書記載の方法は、検体濃度算出の有効性を向上できる。
【0072】
更に、試験用計器がサンプルの種類が対照溶液(血液ではなく)であると判断した場合、試験用計器は得られた対照サンプルのグルコース濃度を保存し、使用者が試験サンプルの濃度データを対照溶液データとは別に調べられるようにできる。例えば、対照溶液のグルコース濃度を別のデータベースに保存し、フラグ指示し、及び/又は廃棄できる(即ち、保存しないか、或いは短期間保存する)。
【0073】
対照溶液を認識できる他の利点は、試験用計器を、自動的に対照溶液の試験結果(例えば、グルコース濃度)と、対照溶液のグルコース濃度期待値を比較するようにプログラムできることである。例えば、試験用計器を対照溶液のグルコースレベル期待値で前もってプログラムできる。或いは、使用者は対照溶液のグルコース濃度期待値を入力できる。試験用計器は対照溶液を認識すると、対照溶液のグルコース濃度測定値をグルコース濃度期待値と比較し、計器が正常に機能しているか判断できる。グルコース濃度測定値が期待値の範囲から外れた場合、試験用計器は、メッセージを発し、使用者に警告できる。
【0074】
一実施形態において、本明細書記載の方法は、レドックス種の存在を利用して、対照溶液を血液サンプルから判別する。本方法は、第1の試験電位E1´を印加し、試験電位印加時に測定された一つ以上の電流値を判別要素として用いるステップを含むことができる。一態様では、第1の試験電位E1´からの2つの電流値を合計し、判別要素として用いる。図8に、対照溶液、血漿、ヘマトクリット値が48%の血液サンプル、及びヘマトクリット値が77%の血液サンプルのデータを示す。約20mVの電位を最初の1秒間印加し、約0.2から約0.5秒間の電流値を合計した。図8に示すように、電流値の合計値は、対照溶液(干渉物質をほとんど含有しない)と血液サンプルを判別するのに十分であった。
【0075】
他の実施形態では、対照溶液の二つの特性、即ち、サンプル中のレドックス種の存在及び/又は濃度と反応速度、を用いて対照溶液と血液を判別する。本明細書に開示する方法は、サンプル中のレドックス濃度を示す第1の基準値と、サンプルの試薬との反応速度を示す第2の基準値を算出するステップを含むことができる。一実施形態において、第1の基準値は、干渉物質の酸化電流であり、第2の基準値は反応率である。
【0076】
サンプル中のレドックス種については、血液は通常、アスコルビン酸及び尿酸等の様々な内因性レドックス種、即ち内因性「干渉物質」と共に、ゲンチシン酸(ゲンチシン酸はアスピリンの代謝物)等の外因性由来の干渉物質を含有している。内因性干渉物質は、電極で容易に酸化できる化学種であり、通常、生理学的な範囲内で健常人の血液中に存在する。外因性由来の干渉物質もまた、電極で容易に酸化できる化学種であるが、摂取、注射、吸引等により体内に取り込まない限り、通常は血液中に存在することはない。
【0077】
対照溶液は、抗酸化物質をほとんど含まないか、或いは血液サンプル中の干渉物質濃度と比較して高い干渉物質濃度を有する。対照溶液が抗酸化物質をほとんど含まない場合、図9に示すように、第1の過渡電流の大きさは血液サンプルよりも対照溶液の方が小さくなる。対照溶液が比較的高い干渉物質濃度を有する場合、第1の過渡電流は血液サンプルよりも対照溶液の方が大きくなる(データは示されてない)。
【0078】
第1の基準値は、第1の過渡電流内の電流値に基づいて算出できる。一実施形態において、第1の基準値は、第1の過渡電流間における、時間の2つの点における電流値の合計を含むことができる。一例において、図6の試験電位波形を用いる場合、約0.3秒および約0.35秒における電流値を使用できる。別の実施形態において、充填が検出されたときから第2の試験電位E2までの間の全期間で試験電位E1’が印加される場合、第1の基準値は、好ましくは、例えば約0.2秒乃至約0.5秒など、より長い期間に渡る2つの値を合計することによって得られる。さらに別の実施形態において、第1の基準値は、図12の試験電位波形を用いる場合、第1の時間の過渡電流の間に得られた電流値の合計によって得ることができる。一例として、数式3によってその合計を表すことができる。
【数4】

ここで、isumは、電流値の合計を示し、tは時間を示す。
【0079】
第1の基準値は、干渉物質指数と呼ぶことができる。なぜならば、それは干渉物質濃度に比例し、グルコース濃度に実質的に依存するはずではないからである。それゆえ、理論的には、試験用計器は、干渉物質指数に基づいてサンプルが血液か対照溶液かを区別できるはずである。しかしながら、実際には、干渉物質指数のみを用いた場合、血液と対照溶液とを常に十分に区別できるとは限らない。典型的には、血液ははるかに大きい干渉物質濃度を有するが、所定の状態においては、血液に対する過渡電流が対照溶液の過渡電流に匹敵するほどに、第1の過渡電流の減衰が生じることがある。これらの状態として、グルコース濃度が高い、ヘマトクリット値が高い、温度が低い、サンプル反応チャンバ61の充填が不完全、などを含む。このため、一実施形態において、試験用計器が血液と対照溶液とを十分に区別できるように、追加の係数が用いられた。
【0080】
血液と対照溶液の判別を支援するために用いる追加の係数として、第2の基準値がある。この第2の基準値は、十分な時間が与えられていたら反応したであろう残留基質の百分率の関数である値である反応残留指数が可能である。反応残留指数は、反応速度が高いと基質を反応し尽くせることから、反応速度と関連する。しかしながら、反応残留指数はまた、初期の基質濃度の大きさにも依存する。
【0081】
試薬層72は、PQQ補助因子をベースとしたグルコースデヒドロゲナーゼ(GDH)及びフェリシアニドを含むことができる。別の実施形態において、PQQ補助因子をベースとした酵素GDHはFAD補助因子をベースとした酵素GDHに置き換えてもよい。血液又は対照溶液がサンプル反応チャンバ61に投与されると、グルコースはGDH(ox)により酸化され、この過程により、GDH(ox)は以下の数式4に示すようにGDH(red)に転化する。ここで、GDH(ox)はGDHの酸化された状態を示し、GDH(red)はGDHの還元された状態を示すことに留意されたい。
【数5】

【0082】
次に、GDH(red)は、以下の数式5に示すように、フェリシアニド(即ち、酸化された媒介物質、又はFe(CN)63-)により活性化した酸化状態に戻る。GDH(ox)を再生する過程において、数式5に示すように、フェロシアニド(即ち、還元された媒介物質、又はFe(CN)64-)がこの反応により生成される。
【数6】

【0083】
一般的に数式4及び数式5に基づくグルコース消費速度は、対照溶液の方が血液より速い。通常、対照溶液は血液より粘度が低いため、数式4及び数式5の反応速度は対照溶液の方が速くなる。更に、数式4の反応に関与するためには血液サンプル中に存在するグルコースの一部が赤血球から拡散する必要があり、このことからも対照溶液の方が反応速度は速くなる。このグルコースが赤血球から拡散する追加的なステップは、反応速度を無視できない程度まで低下させる。図9から、(例えば、約1.2秒から約4秒迄の)第2の過渡電流の全体的な傾きの絶対値は血液サンプルの方が低いことは明らかであり、これは対照溶液より血液の方が反応速度が遅いことを示している。血液と比較して対照溶液の反応速度が速いことから、対照溶液の反応残留指数は、血液より一般的に低くなる。
【0084】
反応残留指数は、消費されてないグルコースの百分率に関する数字となり得る。一実施形態において、反応残留指数が比較的低い場合、数式4及び数式5の反応は完了に近いことを示し得る。これに対して、反応剰余指数が比較的高い場合、反応が完了に程遠いことを示す。例えば、数式6に示すように、反応残留指数は、第3の過渡電流の電流値を第2の過渡電流の電流値で除した比の絶対値とできる。
【数7】

【0085】
数式6の分母として、第2の過渡電流の3.8秒の電流値を用いた。実験により3.8秒を選択したが、当業者には、他の電流値を用いることができることは明らかである。一実施形態では、第2の過渡電流の終端周囲の電流値を選択する。第2の試験電位時間期間T2時、還元された媒介物質は第2の電極164で酸化される。第2の試験電位時間期間T2時に測定される電流値の大きさは、第1の電極166で試薬層72により生成された後、第2の電極164へ拡散されたフェロシアニドの量に起因し得る。ここで、試薬層72は、血液中に溶解した後も、第1の電極166の近くに存在すると仮定する。結果として、第2の電極164によって酸化されたフェロシアニドの大部分も必然的に第1の電極166から拡散される必要があった。
【0086】
数式6の分子として、約4.15秒の電流値を用いた。第3の過渡電流から他の電流値を選択することができるが、第3の過渡電流の開始周囲の電流値が好ましい。第3の試験電位時間期間T3時、還元された媒介物質は第1の電極166で酸化される。第2の試験電位時間期間T2時に測定した電流値の大きさは、第1の電極166で試薬層72により生成されたが、第1の電極166から遠位にて十分に拡散しなかったフェロシアニドの量に起因し得る。第1の電極166の近くにある試薬層72の結果として、第3の過渡電流の電流値の大きさは、第2の過渡電流より大きくなる。更に、試薬層72はフェロシアニドを生成するより多くの時間を有するから、第3の過渡電流は第2の過渡電流より大きくなる。このため、数式6で示した比の絶対値は、測定時においてグルコース反応の完了までほど遠い場合は、大きくなる。
【0087】
別の実施形態において、下記の数式7に示すように、反応残留指数を用いることができる。反応残留指数は増加可能であり、その場合、数式4および数式5の反応が完了により近いことを示し、その一方で、反応残留指数は減少可能であり、その場合は、それらの反応が完了とはほど遠いことを示す。数式6は約1から無限大の範囲に渡る反応残留指数を有し、数式7は約0乃至約1の範囲に渡る反応残留指数を有することに留意されたい。所定の状態の下では、数式7は数式6よりも対照溶液をより良く区別し得る。例えば、反応残留指数は、数式7に示すように、第3の過渡電流の電流値によって割った第2の過渡電流の電流値の絶対比となることができる。
【数8】

【0088】
図10は、各種ヘマトクリットレベルを有する血液サンプルと対照溶液に対する消費された基質の推定の百分率(%)と数式6の反応残留指数との間の非線形な関係を示すグラフである(ダイヤモンド形=ヘマトクリットレベル25%の血液、正方形=42%の血液、三角形=ヘマトクリットレベル60%の血液、x=対照溶液)。図10は、所定のサンプルの種類/ヘマトクリット値において、消費された基質の百分率が低い場合、反応残留指数は比較的に高く、消費された基質の百分率が高い場合、反応残留指数は比較的に低いことを示す。消費された基質の百分率は、比Co/YSIから推定され、Coは電極表面における推定の基質濃度、YSIは標準的な基準技術を用いた基質濃度である。Coは以下の数式8を用いて導き出す。
【数9】

【0089】
この数式において、Lは第1の電極166と第2の電極164の間の距離であり、Fはファラデー定数、Aは第1の電極166の面積で、Dは拡散係数である。数式8に関する更なる詳細は、参照によりその全開示内容が本明細書に援用される米国特許第6,284,125号明細書に見出すことができる。
【0090】
図11は、複数の血液サンプル(BL)及び対照溶液サンプル(CS)における干渉物質指数と反応残留指数の関係を示すグラフである。干渉物質指数をX軸に、反応残留指数をY軸にとると、血液と対照溶液を判別して観察できる。サンプルが対照溶液か血液かを決定する判別線を導出できる。本実施形態において、干渉物質指数は
i(0.3)+i(0.35)
であり、反応残留指数は、
abs(i(4.15)/i(3.8))
である。
【0091】
ここで、反応残留指数のために選択した電流値の時間(例えば、4.15、3.8)は、実験により発見されたことに留意されたい。多くの電流比を評価して血液と対照溶液サンプルを判別できるようにした。数式6または数式7のいずれかに示した比は、血液と対照溶液のサンプルを十分に差別化することを発見したために選択した。
【0092】
試験用計器が、サンプルが対照溶液か血液かを決定できるように判別線を導き出した。試験した対照溶液のサンプル全てに対し、反応残留指数に対する干渉物質指数の関係をグラフにした。次に、線形回帰を用いて対照溶液サンプルに関する線を算出した。この線に対応する数式を算出した後、各データポイントとこの線に対する垂直方向のバイアスを算出した。この垂直方向のバイアスは、一般的に算出する縦方向のバイアスとは異なり、データポイントの線に対する最短距離を表す。垂直方向のバイアス(SDperp)全てに対して標準偏差を決定した。最後に、線を、血液グループに関するデータポイントの方向に3*SDperp単位シフトした。この理由は、対照溶液グループのデータには、バラツキがほとんど示されないため、対照溶液グループの「99%信頼性限界」が明確であるためである。
【0093】
本明細書記載の方法において、試験用計器は、この反応残留指数及び干渉物質指数の統計的分析から得られた情報を用いて血液サンプルから対照溶液を判別できる。試験用計器は、干渉物質指数及び反応残留指数を算出し、導き出した判別線(又は判別線を表す数式)と共にこれらの値を用いて、血液サンプルから対照溶液を判別可能となる。
【0094】
図12の試験電位波形を用いる状況のために、対照溶液と血液とを区別する代替アルゴリズムを使用してもよい。その代替アルゴリズムは、数式3の干渉物質指数および数式7の反応残留指数を用いることを含む。図14は、代替アルゴリズムを用いた複数の血液サンプルおよび対照溶液サンプルに対する、干渉物質指数と反応残留指数との間の関係を示すチャートを表す。図14において、血液サンプルおよび対照溶液が、約5℃乃至約45℃の温度範囲に渡って試験が行われた。さらに、血液サンプルは、約20mg/dL乃至約560mg/dLのグルコース濃度範囲、および0%乃至約60%のヘマトクリットレベル範囲を有する。図15は別のチャートを表しており、ここで、さらなる試験片(約27400個)が、室内温度のみにおいて代替アルゴリズムを用いて試験された。干渉物質指数をX軸にグラフ化し、反応残留指数をY軸にグラフ化することによって、血液と対照溶液との分離を図14および図15において観察できた。
【0095】
数式3の干渉物質指数および数式7の反応残留指数に基づいてサンプルが対照溶液または血液のいずれかであるかを決定するために、判別の基準を用いることができる。例えば、数式3の干渉物質指数を所定の閾値と比較してもよく、数式7の反応残留指数を所定の閾値の数式と比較してもよい。所定の閾値は約10μAであってもよい。所定の閾値の数式は干渉物質指数を用いた関数に基づいてもよい。より詳細には、所定の閾値の数式は数式9となる。
【数10】

【0096】
ここで、Kは例えば約0.2などの定数であってもよい。従って、代替アルゴリズムは、
【数11】

の場合、および
【数12】

の場合、サンプルを血液として識別することができ、それ以外の場合、サンプルは対照溶液である。
【実施例】
【0097】
(実施例1)
以下において、図7および図11のデータを生成するために用いられた対照溶液の調合について以下に開示する。この調合は限定を付すものではなく、様々な他の調合および/または対照溶液が、本明細書において開示されたシステムおよび方法を用いて利用可能である。
シトラコン酸緩衝剤成分 0.0833g
シトラコン酸二カリウム緩衝剤成分 1.931g
メチルパラベン保存剤 0.050g
Germal II 保存剤 0.400g
Dextran T−500 粘度調整剤 3.000g
Pluronic 25R2 ウィッキング剤 0.050g
1−[(6−メトキシ−4−スルホ−m−トリル)アゾ]−2−ナフトール−6−スルホン酸二ナトリウム塩 色素 (FD&C Blue No.1) 0.100g
D−グルコース検体 50、120又は525mg
脱イオン水溶剤 100g
【0098】
先ず、シトラコン酸緩衝剤(pH6.5±0.1)を所要量のシトラコン酸およびシトラコン酸二カリウムを脱イオン水中に溶解することにより調製した。次に、メチルパラベンを加えて、この溶液を当該保存剤が完全に溶解するまで攪拌した。続いて、Dextran T−500、Germal II、Pluronic 25R2および1−[(6−メトキシ−4−スルホ−m−トリル)アゾ]−2−ナフトール−6−スルホン酸二ナトリウム塩を連続的に加えた後に、それぞれ添加した薬品を完全に溶かした。この時点において、この対照流体のpH値を確かめてから、所要量のグルコースを加えて、低量の、通常量の、又は高いグルコースレベルの対照流体をそれぞれ得た。上記のグルコースを完全に溶かした後に、各対照流体を一晩にわたり室温において放置した。最後に、各グルコース濃度をYellow Springs Instrument社により製造されている分析装置(Model 2700 Select Biochemistry Analyzer)により確かめた。この対照溶液で使用した色素は青色で、使用者が対照溶液と血液とを混同する可能性が減少した。
【0099】
(実施例2)
一部の人々(例えば、親または医者を欺こうとする若者など)は、彼らのグルコースが制御されているとの印象を与えるために、血液に対立するものとして、ゲータレード(登録商標)を用いてセンサを稼動させるであろう。以下の実験は、本明細書に開示された方法およびセンサが、血液からゲータレード(登録商標)を区別するために利用可能であるかどうかを決定するために行われた。
5種類の味の異なるゲータレード(登録商標)を試験した。センサは5種類全てを対照溶液(平均、グルコースが264mg/dL、CVが6.7%)として分類した。従って、センサはゲータレード(登録商標)と血液とを判別するために使用することができる。
【0100】
当業者であれば、上記の実施形態に基づき、本明細書に開示されたシステムおよび方法の更なる特長及び利点を想起できであろう。したがって、本明細書に開示されたシステムおよび方法は、添付された請求項により示された内容以外の、具体的に示された、又は記載された内容に限定されることはない。本明細書に記載された全ての刊行物及び参考文献は、ここに本明細書の一部を構成するものとしてその内容を援用する。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1A】代表的な組立済み試験片の斜視図。
【図1B】図1Aに示した試験片の分解斜視図。
【図1C】図1Aに示した試験片近端部分の拡大斜視図。
【図2】図1Aに示した試験片の底面図。
【図3】図1Aに示した試験片の側面図。
【図4A】図1Aに示した試験片の上面図。
【図4B】図4Aに示した試験片における近端部分の4A−4A矢視拡大側面図。
【図5】試験片の一部と電気的に接続する試験用計器の簡略図。
【図6】試験用計器が所定の時間期間で連続して印加する開回路電位と試験電位の電位波形の例。
【図7】対照溶液サンプル(CS、点線)及び血液サンプル(BL、実線)を付着した試験片に対して図6の電位波形を印加して試験する試験用計器により生成された過渡電流を示すグラフ。
【図8】対照溶液、血漿、ヘマトクリット値が48%の血液サンプル、及びヘマトクリット値が77%の血液サンプルに20mVの電位を印加した場合の、0.2秒及び0.5秒の電流値の合計値を示すグラフ。
【図9】対照溶液(CS)及び血液(BL)の第1の試験過渡電流及び第2の試験過渡電流を示す図7の拡大図。
【図10】各種ヘマトクリットレベルを有する血液サンプルと対照溶液に対する消費された基質の百分率と反応残留指数の非線形な関係を示すグラフ(ダイヤモンド形=ヘマトクリットレベル25%の血液、正方形=42%の血液、三角形=ヘマトクリットレベル60%の血液、x=対照溶液)。
【図11】複数の血液サンプル(ダイヤモンド形)及び対照溶液サンプル(正方形)における干渉物質指数と反応残留指数の関係を示すグラフ。
【図12】試験用計器が所定の時間期間に対して複数の試験電圧を印加する、試験電位波形の別の実施形態の一例。
【図13】図12の試験電圧波形を用いて生成された試験過渡電流を示すグラフ。
【図14】広範囲の温度、ヘマトクリットレベル、およびグルコース濃度において試験された代替アルゴリズムを用いて、干渉物質指数と反応残留指数との間の関係を示すグラフ。
【図15】周囲温度においてのみ試験された代替アルゴリズムを用いて、干渉物質指数と反応残留指数との間の関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液サンプルと血液を含まない水溶性サンプルとを判別する方法であって、
(a)サンプルが電気化学的セルに導入される場合、第1の電極と第2の電極との間に第1の試験電位を印加し、第1の過渡電流を測定する工程と、
(b)第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を前記第2の電極において酸化するのに十分である第2の試験電位を印加し、第2の過渡電流を測定する工程と、
(c)第1の電極と第2の電極との間に、還元された媒介物質を前記第1の電極において酸化するのに十分である第3の試験電位を印加し、第3の過渡電流を測定する工程と、
(d)前記第1の過渡電流に基づいて、第1の基準値を算出する工程と、
(e)前記第2および前記第3の過渡電流に基づいて、第2の基準値を算出する工程と、
(f)前記第1および前記第2の基準値に基づいて、前記サンプルが血液サンプルであるか血液を含まない水溶性サンプルであるかどうかを決定する工程と
を含む、方法。
【請求項2】
前記第1の基準値は前記サンプル中の干渉物質の濃度に比例する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記第1の基準値は前記第1の過渡電流からの少なくとも1つの電流値に基づいて算出される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記第1の基準値は前記第1の過渡電流間に測定された電流値の合計に基づいて算出される、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記合計は、
【数1】

の数式で表され、ここで、isumは電流値の合計であり、tは時間である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記第2の基準値は化学反応の反応率に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記第2の基準値は、前記第2の過渡電流からの少なくとも1つの電流値および前記第3の過渡電流からの少なくとも1つの電流値に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記第2の基準値は、前記第2の過渡電流の終端周囲の第2の電流値および前記第3の過渡電流の開始周囲の第3の電流値に基づく、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記第2の基準値は前記第2の電流値および前記第3の電流値の比に基づく、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
検体の濃度を測定する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
前記サンプルが血液を含まない水溶性サンプルであると判明した場合、前記血液を含まない水溶性サンプルに関連される検体濃度がフラグ指示される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(f)は、前記サンプルが血液を含まない水溶性サンプルであるか血液サンプルであるかどうかを判断するために、統計的分類を使用する工程をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記工程(f)は、
前記第1の基準値と所定の閾値とを比較する工程と、
前記サンプルが血液を含まない水溶性サンプルであるか血液サンプルであるかどうかを判断するために、前記第2の基準値と所定の閾値の数式とを比較する工程と
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記所定の閾値の数式は前記第1の基準値の関数である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記血液を含まない水溶性サンプルは対照溶液である、請求項1に記載の方法。
【請求項16】
血液サンプルと血液を含まない水溶性サンプルとを判別するシステムであって、
(a)試験用計器と接続する電気的接点と、(i)相互に離間して配設された第1の電極および第2の電極と(ii)試薬とを備える電気化学的セルとを含む試験片と、
(b)前記試験片から電流データを受信するプロセッサと、抗酸化物質濃度および反応速度に基づいて、血液を含まない水溶性サンプルから血液サンプルを判別するための判別基準とを含むデータ保存部とを含む試験用計器と
を備える、システム。
【請求項17】
前記判別基準が、抗酸化物質濃度を表す干渉物質指数および反応速度を表す反応残留指数から導き出される、請求項16に記載のシステム。
【請求項18】
前記判別基準は、実験により導き出された判別線を含む、請求項16に記載のシステム。
【請求項19】
前記血液を含まない水溶性サンプルは対照溶液である、請求項16に記載のシステム。
【請求項20】
血液サンプルと血液を含まない水溶性サンプルとを判別する試験用計器にプログラミングする判別基準を算出する方法であって、
(a)複数の血液を含まない水溶性サンプルに関する干渉物質指数および反応残留指数を算出する工程と、
(b)前記複数の血液を含まない水溶性サンプルに関する前記干渉物質指数および前記反応残留指数の回帰に基づいて判別基準を算出する工程と
を含む、方法。
【請求項21】
さらに、複数の血液サンプルに関する干渉物質指数および反応残留指数をグラフ化し、前記判別線を前記複数の血液サンプルの方向にシフトする工程を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の血液を含まない水溶性サンプルは複数の対照溶液である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
血液サンプルと血液を含まない水溶性サンプルとを判別する方法であって、
(a)(i)相互に離間して配設された2つの電極と(ii)試薬とを備える電気化学的セルにサンプルを導入する工程と、
(b)第1の極性を有する第1の試験電位を前記電極間に印加して、セル電流を測定する工程と、
(c)前記第1の試験電位間に測定された少なくとも2つの電流値を合計して、干渉物質指数を生成する工程と、
(d)前記干渉物質指数を用いて、血液サンプルと血液を含まない水溶性サンプルとを判別する工程と
を含む、方法。
【請求項24】
前記血液を含まない水溶性サンプルは対照溶液である、請求項23に記載の方法。

【図1A】
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【図1B】
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【図1C】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−85950(P2009−85950A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2008−248444(P2008−248444)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(596159500)ライフスキャン・インコーポレイテッド (100)
【氏名又は名称原語表記】Lifescan,Inc.
【住所又は居所原語表記】1000 Gibraltar Drive,Milpitas,California 95035,United States of America