生理情報対応型の照明制御システム
【課題】個人の生理情報に基づいて照度を調整し、意識の状態を好適に維持することが可能な生理情報対応型の照明制御システムを提案する。
【解決手段】一日のうち一部の時間帯の照明を高照度とすることが可能な照明制御システムであって、照度のレベルを調整可能な、個人用の照明手段4と、その個人の生理情報を検知する生体センサ8と、検知した生理情報から、その個人の意識の状態を、少なくとも覚醒度の高い適正レベルと、覚醒度の低い不適正レベルとの二段階で判定する判定手段12と、少なくとも判定された意識状態が不適切レベルであるときの照度を、個人の覚醒レベルの向上を促すために適正レベルでの照度の標準値よりも高くするように設計した照度調整手段14とを有する。
【解決手段】一日のうち一部の時間帯の照明を高照度とすることが可能な照明制御システムであって、照度のレベルを調整可能な、個人用の照明手段4と、その個人の生理情報を検知する生体センサ8と、検知した生理情報から、その個人の意識の状態を、少なくとも覚醒度の高い適正レベルと、覚醒度の低い不適正レベルとの二段階で判定する判定手段12と、少なくとも判定された意識状態が不適切レベルであるときの照度を、個人の覚醒レベルの向上を促すために適正レベルでの照度の標準値よりも高くするように設計した照度調整手段14とを有する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理情報対応型の照明制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日中の大半をオフィスなどの光環境の中で過ごす人が多くなり、こうした光環境が睡眠・目覚めなどの生体リズムに与える影響が注目されている。
【0003】
一般にオフィスにおける照度設定は机上面照度で750lx前後とするのが一般的となっているが、この照度は物が適正に見えるかどうかを基準としているに過ぎない。
【0004】
人の生理現象の周期性のうち、明るいときに覚醒水準が高く、暗いときに覚醒水準が低くなることをサーカディアン・リズムといい、これを生体センサで測定することは既知である(特許文献1の段落0004、0010など参照)。
【0005】
本明細書において、「覚醒水準」とは意識がはっきりしていることの程度を表す。作業に適した程よい緊張状態を「通常覚醒」と、過度の刺激や運動により興奮し、過剰に緊張した状態を「過覚醒」と、疲労や睡眠不足で緊張が解けた状態を「低覚醒」という。
【0006】
人間は昔から明るい太陽の光の下で活動しており、上記の生体リズムが出来ている。このリズムが崩れることは日中の覚醒水準の低下及び夜間の不眠の原因となりうる。
上記の観点から、一日を通じて照度一定であった従来のオフィス照明に対して、一定の時間帯に机上面照度2500lx程度の高照度光照射を行うオフィス・サーカディアン照明システムが提案されている(非特許文献1)。
【0007】
なお、受光面の照度を希望値にするために、その照度を検知し、検出値を照明回路の出力にフィードバックする制御方法は従来から公知である(特許文献2)。また照明に関する発明ではないが、身体の動きを加速度センサで検知して居眠り状態(居眠り運転)を判定する技術が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平5−3877
【特許文献2】特開平11−233268
【特許文献3】特開2000−315287
【特許文献4】特開2004−209126
【特許文献5】特開平8−299443
【特許文献6】特開平4−269972
【非特許文献1】松下電工技報Vol.53 No.1「オフィス用『サーカディアン照明システム』の心理的効果」野口公喜 2005年2月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1の照明システムは、午前中の2時間(9:00〜11:00)及び午後の約1時間(12:40〜13:40)において机上面照度2500lxの高照度照射を行い(High条件、残りの時間帯は机上面照度750lxの通常照射を行う(Low条件)というものである。この方法は、居室内を一律にスケジュール制御するものである。しかしながら、高照度照明は通常の照明よりもエネルギー消費が大きいから、夜間に十分な睡眠をとれており、日中の覚醒水準が高い人に対しても行う必要があるのかどうか疑問である。また上の方法は個人の生理や意識の状態を反映していないために、個々の物理環境に対する不快感や生産性の低下を招く可能性がある。
これに対して、出願人は、前述の加速度センサを用いて対象者の居眠り状態を検知したときに高照度照明を行うということも検討した。しかし居眠り状態では目を閉じているのであるから、高照度照明をした程度の刺激で意識を覚醒させることは困難である。
そこで本発明は、個人の生理情報に基づいて照度を調整し、意識の状態を好適に維持することが可能な生理情報対応型の照明制御システムを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の手段は、
特定の照明エリア内の照度を検知し、その照度が所定値になるように照明出力を調整するためのフィードバック制御系を具備し、かつ一日のうち一部の時間帯における照度を高めるようにすることが可能な照明制御システムであって、
個人用の照明エリアを照明するための、照明出力を調整可能な照明手段と、
その照明エリア内の照度を検知する照度センサと、
検知された上記照度を目標値に近づけるように照明手段の出力を制御する制御手段と、
照明エリア内の照度に対応して変化する個人の生理情報を検知する生体センサと、
少なくとも個人の生理情報を各個人毎に記録することができる記憶手段と、
生体センサで検知した生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報のデータと比較することで、個人の覚醒水準を、少なくとも、通常覚醒以上の水準と低覚醒の水準との2段階で判定する判定手段と、
判定された覚醒水準に応じて上記制御手段の目標値を自動的に変更する照度調整手段と、
を有し、
この照度調整手段は、判定手段の判定に応答して、制御手段の目標値を通常レベルより高くし、所定長さの高照度照射時間を経過した後に目標値を通常レベルに戻すように構成している。
本手段では、生理情報から、個人の覚醒水準を判定することを提案している。人間の自律神経は、緊張や興奮などのストレスを生ずるときに優位となる交感神経と、リラックスしたときに優位となる副交感神経とがあり、この二つの優劣はさまざまな身体の兆候として現れる。例えば図4に示すような心電図の波形をフーリエ変換したとき、その低周波成分(LF)と高周波成分(HF)とが得られること、LFが交感神経の活性度、HFが副交感神経の活性度の指標となることは従来よく知られている。特許文献5の自動車用の居眠り防止装置は、LF/HF値を検知して覚醒水準が低下したときに、特許文献4のゲーム機は、操作者の生理情報(血圧、脈拍数、体温など)を検知して興奮しすぎたとき、それぞれ警告を発するようにしている。さらに特許文献6の刺激提示装置は、人の体動・呼吸・心拍などの生理情報を検知して、音響・振動の刺激を与える。しかしながら、これらは生理情報から推定される意識の状態が異常な状態になったときに、警告用のシグナルを発するものである。本手段は、単なる警告ではなく、覚醒水準が低くなった人に対して、一日のうちの一部の時間帯に高照度照明を行う制御方式を、個人の生理情報に基づいて適用することを可能とするものである。
「フィードバック制御系」は、照明エリアの照度を一定に保つために用いられる。空調システムなどでは外乱の影響を排除して室温を一定に保つためにフィードバック制御を用いるが、照明系ではそうした制御を行うことは稀である。オフィス照明などにおいては、少なくとも一定の照度を確保できる程度に照明出力を設定すれば足り、外乱(例えば窓から入射する自然光)があっても特に問題にはならないからである。しかし本発明では、照度との関係で生理情報を検知し、人の覚醒を促すことを目的としており、その際に外乱を含めて照明エリア内の照度を一定に保つことが発明の前提になるのである。
【0010】
「生理情報」とは、生理現象の情報をいい、生理現象とは、生物体の生活現象として現れる諸現象のうち、主に人の意思とは関係なく現れるものをいう。例えば心拍、後述のLF/HF、血流、身体表面温度、唾液中のコルチゾール、ヘモグロビン量などである。本発明では、人の意思による動作は、生理現象とは別に、生理情報を評価するために用いる。もっともまぶたの瞬きのように無意識で生ずるが、意識してすることもできるようなものは生理現象に含む。
【0011】
「記憶手段」は、少なくとも個人の生理情報を各個人毎に記憶している。「個人毎に」というのは、複数の人間を対象とする場合には各人ごとに区別してという意味であり、一人を対象とする場合にはそうした区別は必要ない。「生理情報」には、各時刻毎の生理情報の他に生理情報の閾値を含むものとする。記憶手段は、生理情報そのもの、生理情報を採取した時刻(又は時間区分)など関連する情報を対応付け、必要により情報を取捨選択して取り出すことができるデータベースとすることが望ましい。
【0012】
【表1】
【0013】
「判定手段」は、既知の生理情報を基に対象者の覚醒水準を、通常覚醒以上の水準と低覚醒の水準との2段階で判定する。通常覚醒と過覚醒とを区別していないのは、本手段では照度を上げることで覚醒を促すということをテーマとしているからである。通常覚醒から低覚醒へ移行する過程を、3以上の多段階に分けて順次照度の目標値を高めていくような制御方式とすることができる。
生理情報は、表1に示すように覚醒時(はっきり目が醒めているとき)と睡眠時とで異なる数値を示すが、この数値は個人差が大きい。従って当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報のデータに基づいて判定する。なお、通常の職場では過覚醒となることは稀なので、採取された全ての生理情報のうち活動度が低いときの生理情報を除いた情報を、「通常覚醒時の生理情報」とすることができる。
検出された生理情報を過去の通常覚醒時の生理情報と比較する方法としては、両者を直接的に比較する方法と、両者を間接的に比較する方法とを含む。前者として、例えば各時間区分毎に測定した通常覚醒時の生理情報から通常覚醒時と低覚醒時との閾値を計算し、この閾値と測定した生理情報とを比較する方法がある。また後者として、過去の生理情報の集団と新たに測定した生理情報の集団との間に有意の差異があるか否かを統計学的に検定する方法などがある。具体的には後述する。
【0014】
「照度調整手段」は、個人の生理情報に応じてフィードバック制御系の制御手段の目標値を変更するものである。別の言い方をすれば、フィードバック制御系の制御手段が第1の制御装置、照度調整手段が第2の制御装置であり、これら第1、第2の制御装置で照明システム全体をカスケード制御している。照度調整手段は、照度ゼロ(照明オフ)、低照度、高照度の3段階で照度を調整するようにすることができる。低照度から高照度への目標値の変更は自動的に行ってもよいが、利用者本人又は他人の指令によって行うようにしてもよい。照度調整の方式としては、覚醒水準の低下を判定されたときには、一定時間、例えば20分程度は高照度を維持する時間制御を行っている。その理由は、仮に照度を生理情報に完全に追従させると、後述の実験例からわかる通り、オフィスでうつらうつらしているときには、覚醒状態と非覚醒状態とを1分程度の短い間隔で繰り返しており、その度に照明を明るくしたり、暗くしたりしては意味がないからである。
好適な一例として、照度調整手段は、照明エリアの照度を、明暗の変化が人に意識される程度の速さで急速に上昇させ、その照度を一定時間維持した後に元の照度レベルに復帰するように形成することができる。「急速」に数秒から数十秒かけて照度を上げていくということである。通常の目覚まし装置の音や光がオン・オフを一瞬に切り替える制御であるのに対して、本発明では、図3に示すように、経過時間に比例して出力を増加又は減少させる(ランプ制御)など、出力を漸増・漸減する制御方式とすることが好適である。
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
さらに、仕事場を兼ねた照明エリア内での個人の動作を検知する動作検知手段と、生理情報を分析する分析手段とを有し、
分析手段は、検知した動作から個人の活動度を評価し、活動度が高いときの生理情報の値を、活動度の低いときの生理情報と区別して記憶手段に記憶させるように形成し、
この活動度の高いときの生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報として覚醒水準の判定を行うようにしている。
本手段は、生体センサで採取した生理情報を個人の覚醒水準に対応付けるための手法に関する。この対応付けのためには前述の通り、通常覚醒時の生理情報を閾値として採取すればよいのであるが、本手段では、その数値を機械的に自動更新するための構成を提案している。つまり、職場において、意識がはっきりしている状態、例えばキーボードを叩いたり、電話をかけたりして活発に動いている状態を通常覚醒とみなして、その状態での生理情報を蓄積し、蓄積したデータから、通常覚醒時と通常覚醒時との生理情報の閾値を求めるのである。「通常覚醒とみなして」と言っている理由は、厳格に言えば、上記の条件だけでは外出から戻ったばかりで心拍数が上がっている状態などの生理情報として拾ってしまう可能性があるからである。しかし通常の仕事場で過覚醒の状態が出現することは稀であるから、多くのデータの平均値をとれば実用上は問題を生じない。
【0015】
「人の動作」とは、身体の身動き(体動)のうち主に人の意思を反映して行われるものをいう。作業のための手や頭の動き、眼球運動などである。
【0016】
「動作検知手段」とは、広く動作を検知できるものをいい、加速度センサなどの他、赤外線などを利用した非接触の位置センサを含む。なお、「仕事場を兼ねた照明エリア内での」という限定を付けたのは、通勤又は外出時中の動作を除く意味である。そうした条件のもとで測定をすれば通常の職場では過覚醒の状態を除いて生理情報を採取できるからである。
【0017】
「活動度」は、人の動作の頻度又は大きさを表す概念である。活動度の高い・低いをどのように定義するかが問題であるが、本発明では、外見的に明らかに個人が通常覚醒以上の意識状態にあるときを「活動度が高い」とし、それ以外を「活動度が低い」とすれば足りる。これについては後述する。
【0018】
「分析手段」は、例えば心電図データからLF/HFを抽出するなどして生理情報を分析する。また、動作情報から活動度を評価し、活動度の低い状態での生理情報と、活動度の高い状態での生理情報とを区別する機能を有する。
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ
照度調整手段は、判定手段の判定に応じて目標値を自動的に変更する構成に代えて、
上記判定に応じて覚醒水準の低下を知らせる注意喚起部と、
個人が照度上昇指令を入力することができる入力部とを有し、
この照度上昇指令の入力に応じて制御手段の目標値を変更するように構成している。
このようにすることで、本システムの照明方式を利用する各個人の意思を尊重することができるとともに、照度上昇指令のスイッチなどを押す動作をすることで、覚醒作用を高めることも期待される。
第4の手段は、第2の手段又は第3の手段を有し、かつ
上記生体センサは、人の心拍を、拍を打つ時刻とともに心電図様式の情報として検知し、
上記判定手段は、心拍データをフーリエ変換して、高周波数成分(HF)と、低周波成分(LF)とを抽出し、低周波成分に対する高周波成分の割合(LF/HF)が、通常覚醒時の個人の(LF/HF)のデータに比べて高いときに低覚醒の水準と判定するように設計している。
【0019】
本手段では、心拍数から得られる心電図様の情報を生理情報として用いることを提案している。心電図の波形をフーリエ変換したとき、その低周波成分(LF)と高周波成分(HF)とが得られることは従来述べた通りである。LFが交感神経の活性度、HFが副交感神経の活性度にそれぞれ関連しているので、LF/HFを覚醒水準の低下の指標として用いられることも既に説明した通りである。より具体的に説明すると、LFは主に血圧調整の機能と関連しているゆらぎで交感神経と副交感神経の両方に影響を受け、HFは主に呼吸活動からくるゆらぎで副交感神経と強い関係があるとされている。なお、交感神経及び副交感神経の活動の程度を評価する上で、心拍変動性に注目することは重要であるが、この測定値は心臓を支配する交感神経の活動を評価するものである。血管を支配する交感神経の活動を、例えば血流又は血圧や体温などから評価し、それらとの整合性を考えながら検討することが望ましい。
第5の手段は、第2の手段から第4の手段の何れかを有し、かつ
上記照度センサは、個人の頭部近くに取り付け可能であり、
その取り付け状態で、人の鉛直視野角に相当する前方に照度センサの受光面を配向するとともに、
前方以外の方向からの光を遮断する遮光フードを付設している。
オフィス内の照度を表すときには机面上での照度を用いることが一般的であるが、最近ではパーソナルコンピュータの画面に向かい合って作業をする人が多くなっている。机面上の照度は、天井に設置した照明手段の光を主とするのに対して、コンピュータ画面に対面している人の目に入る光は、コンピュータ画面からの光が主、天井からの光が従である。そこで本出願人は、照度センサの好適な一例として、眼鏡のフレームなどに付設した顔面センサを用いることを考案している。
【発明の効果】
【0020】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○個人の生理情報に基づいて高照度照明を行うから、個人の生活リズムに合わせて、日中の覚醒水準を高めることができる。
○意識の覚醒手段として光を用いるから、音や振動などに比べて周囲の人間の作業の妨げとなることがない。
【0021】
第2の手段に係る発明によれば、人間の意思で行われる動作の情報で覚醒水準を判定するから、より的確な判断が可能となる。
第3の手段に係る発明によれば、覚醒のための操作を本人が行うから強制感がない。
【0022】
第4の手段に係る発明によれば、LF及びHFの割合を生理情報とするから信頼性の高い判断を行うことができる。
第5の手段に係る発明によれば、照度センサが鉛直視野角の光を受光するようにしたから、照度の的確な制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1から図14には、本発明の第1実施形態に係る照明システムに関する説明が記載されている。
【0024】
このシステムは、照明手段2と、照度センサ4と、制御手段6と、生体センサ8と、分析手段12と、記憶手段14と、判定手段16と、照度調整手段18とを有する。
【0025】
照明手段2は、各個人用に設定されている。各照明手段は、個人の仕事場の照度を調整できるようにしている。図示例では、人の真上から光を照射しているが、例えば顔の正面から光を照射するように照明手段をセットすることもできる。
照度センサ4は、個人の仕事場の照度を検出して検出値を制御手段に出力する。照度センサは、机面などの作業場所付近の固定箇所に取り付けてもよいが、図5に示す例では、眼鏡のフレームに取り付けている。これにより顔面の照度を測定することができ、個人の目に感じる明るさに近い入力データが得られる。さらに図示例の照度センサ4は、受光面を前方に向けて、受光面の後方側から前方へ拡開する遮光用のフード5を突出している。この遮光用のフード5は、図6に示すように人の鉛直視野角以外の方向からの入射光を遮るように形成している。水平方向に対するフード5の上壁の傾斜角度θ1は60°、同方向に対するフードの下壁の傾斜角度θ2は70°、水平方向に対するフードの左右壁の傾斜角度θ3は65°である。もっとも上記構成からフードを省略したものを用いてもよい。図7に、後述の実験例においてフード付きの照度センサ4で測定した照度の経時変化を示すグラフを示す。このグラフにおいて10:00〜10:20、11:00〜11:20、13:10〜13:30、15:00、16:10〜16:30頃にそれぞれほぼ平坦なピークが現われており、各時刻により高照度照明が行われたことを反映している。各ピークの頂が平らなのはフィードバック制御の作用であると考えられる。時間帯により観測された照度(顔面照度)には若干のばらつきがあるが、これは、被験者の姿勢などにより顔面に入る光の量が変化するためと理解される。12:00〜13:00の照度の大きな上昇は、休憩時間に太陽光などを浴びたためであり、本システムの照明とは無関係であると推測される。
【0026】
制御手段6は、検出された照度が目標値より小さいときには照明出力を小さく、目標値より大きいときには照明出力を大きくするようにフィードバック制御を行う。この目標値は、後述の照度調整手段から入力される。
【0027】
生体センサ8は、個人の生理情報を検知する。本実施形態の生体センサは、心臓のパルスを検出するもので既知の構成である。こうしたセンサは、人間の胸部に貼り付け可能な生体電極であって、人体の電気信号(心臓より発生する心室パルス電圧波形)を高感度で検出するものである。この信号を図示しない心電計により増幅し、ノイズを除去し、デジタル信号化して心電図とすればよい。なお、個人の席から人が離れて、再び着座したときには、着座後一定時間の生理情報は記憶から除外することが望ましい。歩くなどの運動をすることで、心拍数が通常よりも増大するからである。そうしたデータが記憶手段に蓄積されると、生理情報の平均値がずれてくる可能性がある。
【0028】
分析手段12は、まず個人の心電図様式のデータを分析する。図4に示すような心電図の波形で一番大きくスパイク状にでる波をR波といい、R波とR波との間隔をRR間隔といっている(図4参照)。
上記分析手段12の主たる機能は、心電図データからRR間隔変動を取り出し、高周波成分(HF)と低周波成分(LF)とを抽出し、その比率を求めることである。従来周知の如くRR間隔変動をフーリエ変換すると、横軸に周波数を、縦軸に強度をとったグラフ(パワースペクトル)において、高周波側及び低周波側に2つのピークが表れる。各ピークを含む2つの周波数区分で強度の積分値を採ったものが、高周波成分(HF)及び低周波成分(LF)である。日中の覚醒水準を表す指標としては(LF/HF)が有効である。この指標を一定の時間区分毎に判定手段及び記憶手段に出力する。この他に、副交感神経が優位であるとき(リラックスしているとき)、心拍数の減少、RR間隔の延長、RR間隔のばらつき増加が大きいなどの現象が現れる。これらの情報を補助情報として時間区分毎に出力するようにしてもよい。もっとも、生理情報を分析せずに用いることができるときには、分析手段は省略することができる。
また分析手段の従たる機能として、通常覚醒と低覚醒との閾値など後の判定作業に必要な分析を行うようにするとよい。閾値を計算するときには、観測時間を一定巾の時間区分に区切って生理情報と活動度を採取し、そして全ての時間区分から活動度の低いときの時間区分を除いて、残った時間区分毎に生理情報の下限値を求め、それら下限値の平均値を、閾値とすればよい。また分析手段が閾値の候補値を人に提示し、提示された数値から人が閾値を決定するようにしてもよい。なお、閾値に代えて統計学的処理を行う場合については、後述する。
【0029】
記憶手段14は、個人毎に、この個人時の通常覚醒の生理情報の閾値を記憶している。さらに記憶手段14は、分析手段から入力された各時間区分毎の生理情報を、その区分内の照度など関連情報と対応付けて、データベース化している。この機能により例えば一日のうち任意の時間帯の生理情報を取り出すことができる。
【0030】
判定手段16は、分析手段12から出力された生理情報の閾値と、各時間区分の生理情報とを比較して、低覚醒の水準か否かを判定する。LF/HFのように変動の大きい変数では普通に閾値を設定してしまうと始終注意喚起の表示が出る可能性がある。それを避けるためには例えば時間区分単位で連続して複数回(例えば2回)閾値を下回ったときに、注意喚起の表示が出るようにしてもよい。さらに後述のT検定などの統計的手法を用いてもよい。もっとも休み時間には、緊張が緩んだ状態にあってよいのであるから、この判定は勤務時間中に限って行うように設計する。判定手段は、個人が低覚醒状態にあると判断したときには、判定信号を照度調整手段へ出力する。
【0031】
照度調整手段18は、判定手段16からの判定信号に従って、所定の手順に従って照度の目標値を制御手段6に出力する。この際に照度調整手段は、注意信号があったときに直ちに目標値を自動的に送信するように構成してもよいのであるが、好適な本実施形態においては、照度調整手段18は、注意喚起部20と入力部22とを具備しており、利用者の指令を待って照度を上昇させるようにしている。
上記注意喚起部20は、覚醒水準の低下が検出されると、利用者に注意を促す。その方法はいろいろであるが、本実施形態のようなオフィス環境では、例えば利用者が使用するパーソナルコンピュータの画面に「覚醒水準が低下しています。照明を明るくしますか。Yes NO」のような勧告を行うようにしてもよい。そしてコンピュータのインターフェイス(マウスやキーボード)である入力部22を操作して、指令を入力するようにすればよい。
変形例として、トラックの運転席などの照明では、同様の勧告を音声で行い、運転席のスイッチである入力部22から指令を入力するようにしてもよい。工場などの作業ではブザーやランプなどで注意を喚起してもよい。
上述のそれぞれの場合において、注意喚起部20は、その注意に対して利用者の応答がないときには、一定の時間間隔をおいて繰り返し注意を行う。そして、再度の(或いは一連の)注意に全く利用者からの応答がないときには、応答できないほどに覚醒水準が低下しているものと判断して、自動的に照度を上昇させるものとしてもよい。
そして照度調整手段は、所定時間が経過したときには目標値を元の照度に戻すように構成する。通常時の照度は750lx、高照度照明のときの照度は2500lxとするとよい。具体的には、上記照度上昇指令があったときには、照度調整手段は、図3に示す如く通常の照度レベルLx1から高照度レベルLx2までΔt1の時間をかけて上昇させる。そしてTの間、照度をLx2に維持した後にΔt2の時間をかけて、元の照度レベルLx1に戻る。好適な一例では、Δt1=Δt2=1分、T=20分である。警告の手段として光などの刺激を使うときには、相手を覚醒させたあとで刺激を解消することが通常であるのに対して、本発明では覚醒後も高照度状態を維持する。高照度状態の中で仕事をしながら、生体のリズムの乱れを整えることが目的だからである。さらに好適な一例では、Lx1=600lx、Lx2=2500lxである。これらの数値は適宜変更することができるが、Lx2の数値は通常の作業に支障を生じない範囲にとどめる。
上記分析手段12、判定手段16、及び照度調整手段18は、コンピュータで構成することができる。
図8には、本システムによる照明の制御の流れのうち主要な部分をフローチャートで描いている。制御手段により照度を基準値(Lx1)に保つための制御の流れは、通常のフィードバック系の制御であるので省略している。同図の制御方法は、利用者の指令を待って照度を上げる半自動であり、また、指令があったときには覚醒水準とは関係なく一定時間照度を上げる時間制御である。しかしながら前述の通り全自動方式にすることもできるし、時間制御に代えて、覚醒水準が通常覚醒に戻るまで高照度を継続するように、生理情報を照度調整手段の入力側にフィードバックさせることも可能である。照度を上昇させた後一定の時間が経て照度を戻すまでの行程は、一定の制御サイクルのなかで行う。
【0032】
本システムを使用するときには、システムを個人に適用する初期の使用において、通常覚醒と低覚醒との閾値に相当する生理情報の決定を行う。そのためには、生理情報の変位を照度に連動させずに、本人の生理情報の採取のみを行う。もっとも簡単に行うときには、食事中や外出から戻った直後、出社直後のように経験的に生理情報が通常の勤務時間中に比べて変動し易い時間区分を除外して、それ以外の時間の情報を用いればよい。また本システムと無関係に通常覚醒時に個人の生理情報を試験してもよい。閾値を機械的に設定する方法については後述する。
【0033】
上記構成によれば、利用者の体調や生体リズムに対応して光環境を適正に保つことができる。また、日中の覚醒水準を高めることで夜間の不眠防止にもつながるものと期待される。
[実験例]
本発明の効果を測定するために、図9に示す3つの状況で比較実験を行った。
Case1は、通常レベルの照度を行う照明方式である。通勤時間のうち太陽光に被曝する午前8時から8時半までは、天井面照度を5000lxの環境とし、午前7時から午前8時まで、及び午前8時半から午後9時までの天井面照度を500lxとする。なお、天井面照度とは天井面で設置したセンサで測定した照度であるものとする。照明器具は天井面に設置しているが、主に下向きに光を照射するので、天井面照度は机上照度より小である。
Case2は、一日のうち予め決まった時間帯に高照度照明を行う従来のサーカディアン照明方式である。Case1と比較すると、前8時半から午前12時、及び午後1時から2時までの間を高照度照射をしている。その間の天井面照度は2500lxである。連日に亘る高照度照射の影響を見るために同じ人物に対して2日間実験を行った。
Case3は、被検者が自分で眠くなったと判断したときにシステムに指令して高照度照明を行うという本発明の照明方式である。高照度照射の時間は5分間である。照明器具の出力は、天井面照度2500lxを上限として、100%、70%、50%を選択できるようにした。またCase2と同様に同じ人物に対して3日間実験を行った。
【0034】
実験対象は、体表面温度T、心電図及びそこから得られるLF/HF、心拍数(表中で拍数という)、RR間隔(CVという)などである。
【0035】
実験条件は次の通りである。まず睡眠時間6時間以下の者を被検者とした。ここでは被験者1人分のデータを示している。照度センサは図5に示すセンサ4を使用する。この照度センサーでの測定間隔は40Hzである。Case1は1日、Case2は2日、Case3は3日に亘って24時間を一分間隔で数値を測定した。
【0036】
上記3つのケースのうち本発明に相当するCase3のLF/HFを図10に、Case3の心拍数を図11に、Case3のHFを図12にそれぞれ描いた。これらの図表中データが欠損している時間帯は、トイレへ行くなどしてデータを取れなかった時間である。
実験では、表2及び表3に示すように1分毎の各種の生理情報を測定した。Case1及びCase2のデータを表2に、Case3のデータを表3にそれぞれ示している。
【0037】
【表2】
【0038】
前述の通り起きている時のLF/HFは約4.9±0.9、睡眠時のそれは1.7±2.7程度である。これをCase1のデータに当て嵌めると25分間の間に意識が覚醒状態と睡眠状態とを行ったり来たりしており、うつらうつらしている状態であることが判る。心拍数とLF/HFとはぴったり一致しているわけではないが、心拍数がピークになるときには、その前後でLF/HFもピークとなる。
【0039】
【表3】
【0040】
表3は、本発明の方法で採取したデータを示している。この表は、主としてこのような要領でデータをとったことを示すだけであり、表1の通常照明及び従来のカーディアン照明と比較するために示しているのではない。同時刻での各種方法での生理情報の大小を比較しても、偶々その時刻に疲れが出たというだけのことで、有意の結果は得られない。意味のある観察をするためには或る程度の長さでの時間平均を見る必要があるが、それに関しては後述する。
図13は、本実験の結果のうちLF/HFの数値を十分間毎に集計・平均したものを、まとめたものを示している。既述の表1によれば、LF/HFは起きている時に約4.9±0.9、睡眠時に1.7±2.7である。そこでLF/HFが4未満の数値を低覚醒状態と考えるものとし、とくに3未満の数字を図中で太枠で囲った。また各時間区分において5分間の高照度照射に対して*を一つ、10分間の高照度照射に*を二つ付して表した。
図13の結果をさらに集計したのが、次の表4である。これは10分間の時間区分単位で低覚醒の状態が何回出現したかを数えたものである。通常照明のCase1では、LF/HFが4未満の事象が21回出現しているのに対して、従来のサーカディアン照明であるCase2では、同様の事象が両日ともに11回、14回であり、トータルではかなりの改善が見られる。さらに本発明の照明方式であるCase3では、同様の事象が初日に13回、2日目に6回、3日目に7回出現している。つまり初日こそCase2と同程度であるが、2日目、3日目にはCase2よりもさらに改善が見られる。
【0041】
【表4】
【0042】
図13に戻ると、通常の照明であるCase1では、9時〜10時半、午後1時〜4時の時間帯ではっきりと低覚醒状態が見受けられる。一律の高照明であるCase2では、午後の時間帯に覚醒状態の改善が見られる。しかしながらある程度高覚醒状態が続いた後に不意に眠気に襲われるという傾向が残っている。これは、高照度照明による覚醒効果があるものの、長時間高照度が続くとその状態になれてしまい、眠気に襲われるものと思われる。本発明による照明方法の場合には、3日連続の試験のうち初日の試験ではCase2と同然であるが、2,3日目では覚醒水準が良くなっている。これには次のような理由が考えられる。
第1に、一日目の高照度照射で日中の覚醒水準が上がった結果として、夜間にしっかりと睡眠をとることができ、翌日以降の日中の覚醒状態が改善されたということである。その証拠に午前九時台前半の数値を比べると、1日目が2.67、2.03なのに対して、2日目が6.43,7.45、3日目が3.91、4.65である。1日目に比べて、2日目、3日目の方が覚醒状態がよい。朝方の覚醒状態の良さは、その日の高照度照明の作用よりも、前日の眠りの質の違いと解釈することが妥当である。
第2に、被験者自らがスイッチを押すことで覚醒作用が高まると同時に、時間を経るに従い好適なスイッチの押し方を習得したと考えられる。Case3において、被験者は、例えば10:00〜10:09及び14:00〜14:09の時間区分に強い眠気を感じているが、この時間区分では一度も照度上昇指令のスイッチを押していない。これは何故かと言えばLF/HFの平均値が3未満の強い眠気に襲われてからスイッチを押すのは無理ということである。そうなる前に軽く眠気を感じた段階でスイッチを押すことが肝要である。
例えば1/10の16:30〜16:39の時間区分には*が一つついている。この時間区分のLF/HFは7.1であり、その前の区分のLF/HFは5.56である。一見するとこの数字からは通常覚醒のようである。しかしこの数字は平均値であり、1分単位で見ると一時的にLF/HFが2〜4程度の眠気に襲われている。自分では一瞬眠くなっただけと思っていても、注意喚起の表示が現れたら早めにスイッチを押す必要がある。Case3において午後の大半に良好な覚醒状態が得られているのは、こうした好適な使用方法が原因だと思われる。*のマークがあるところは、その直前でLF/HFの下降が観察され、平均値では判らないものの、被験者が瞬間的な眠気を感じていることが見て取れる。
次に本発明に係るCase3において、高照度照明を行った回数を次の表5に示す。1日目は38回、2日目は25回、3回目は16回の照射を行っている。一回の照射時間は5分間であるから、日間の照射時間は、1日目で190分、2日目で125分、3日目で80分である。Case2では、天井面照度2500lx(Case3の100%出力と同じ)で240分の照射を行っている。Case3はCase2よりも照射時間が短くかつ相当の時間に亘り単位時間当たりの照射出力も小さい。従ってCase3での照射エネルギーは、Case2でのそれよりも小さいことが分かる。
【0043】
【表5】
【0044】
図14は、Case2とCase3の3日目との睡眠時のLF/HF、HFの比較を示している。HFはCase3の方が高く、従って良好な睡眠が得られていることがわかる。
上記の実験結果からは、この実験の方式には改善の余地があることが分かる。例えばLF/HFの平均値が3未満の低覚醒状態を検知したときには、被験者がスイッチを押すのを待たずに自動的に高照度照射を行うことが望ましい。また光の照射方向も天井からだけではなく、顔面にほぼ垂直に別の光源を設置することも考えられる。そうした改良すべき点があっても、本発明であるCase3の方式は、消費エネルギーを低減しながら、Case2の方式と同等、条件によってはそれ以上の日中覚醒作用及び夜間安眠作用を発揮するという可能性を示した。
[実施例1]
覚醒水準の判定を統計学的に行う手法の一つとしてT検定を用いることについて説明する。T検定とは、2つの集団の平均値に有意の差異があるかどうかの判定である。本発明において、2つの集団の一つは、本発明を実施する当日における、個人の一定長さの時間帯に亘る生理情報の測定データ(被判定集団)である。他の一つは、当該個人について実施日以前に記録された同じ生理情報のデータ(母集団)である。LF/HFのように時刻毎の変動の大きい変数では、統計的手法によって良好な制御が可能である。
検定の方法は、2つの集団の情報の分散が同じかどうかで若干異なる。この方法は既知のことであるので簡単に説明すると、分散が同じであるときには、比較する両群をX1…Xn及びY1…Ynとし、まず両群の標本平均X*、Y*を並びに不偏分散UX及びUYを求める。次に両群をあわせた分散の推定値Ue[={(m−1)UX+(n−1)UY}/(m+n−2)]を計算する。これから検定統計量{t0=│X*−Y*│/{Ue(m−1+n−1)}を算出する。自由度v=m+n−2のt分布におけるt零の上側のρ値を求め、有意水準αと比較する。ρ<αなら両群の平均には有意の差異があるということになる。
すなわち、過去の測定データの平均と比べて覚醒水準が低いということである。本実施形態では、現在の情報の集団を過去の情報に対して検定し、有意の差異を検証するから、信頼性が高い。もっとも或る程度の情報量の蓄積があることが前提となる。母集団の方は、過去に測定された全ての生理情報のうち、低覚醒時の生理情報を除いたものを用いることが望ましい。その方法として、好適な第2の実施形態の如く人の活動度に基づいて低覚醒時の生理情報を除外することもできる。しかしより簡易な方法として、例えば測定された全ての生理情報のうち、通常覚醒状況の悪い9時直後、及び14時前後の時間帯を省いて残りの時間帯を通常覚醒状態とみなしてもよい。上記の手順を本発明の構成にあてはめると、分析手段12が各群の標本平均及び不偏分散、両群の分散値の算出、及びρ値の決定を行い、判定手段16がρ値と有意水準との比較を行うようにすればよい。
【0045】
図15及び図16は、本発明の第2の実施形態に係るシステムの制御の方式を示している。この実施形態では、個人から生体情報を採取することと並行して、この個人の動作を検知し、動作が活発であると評価される時間区分の生理情報に基づいて、生理情報の閾値を自動更新することを内容としている。
本実施形態の照明システムは、動作検知手段10を有する。動作検知手段は、人体の適所に装着可能な加速度センサとすることができる。装着場所は、人体のうち通常覚醒時に動きが大きく、かつ低覚醒時に動きが小さい場所とするとよい。図示例にあっては手首に装着する腕時計型としている。また加速度センサに代えて、例えば座布団形のエアセルとエアセルへの空気の出入りを検知する検知手段(圧力センサ)とを備え、座者の体重移動を検知するように構成してもよい。
分析手段は、動作検知手段10が検知する測定値から活動度を判定する。好適な一例として、通常覚醒時に固有の動きの回数及び頻度で判定することができる。例えば加速度センサで検出するタイピング動作や、上記座布団型の圧力センサで検出する、椅子から身を起こす動作などである。そうした動作が所定の回数及び大きさに達しないときには活動度が低いと判定して構わない。目が醒めていることが確実な状態での生理情報を選択して、覚醒水準の判定のための閾値などの計算に用いればよい。
【0046】
そして本実施形態において、分析手段12は、動作検知手段10からの加速度情報を受信し、一定の時間間隔毎に加速度の大きさを計算する。そして分析手段12は、各時間区分での加速度の大きさが基準値を超えるときには活動度が大であると、また基準値を超えないときには活動度が小であるとそれぞれ評価する。この評価は、各時間区分の生理情報と対応付けられて関連情報として記憶手段に入力される。
【0047】
さらに分析手段12は、一定の制御サイクル毎に、記憶手段14から、活動度が大であるときの時間区分の生理情報の下限値を抽出する。そしてそれら下限値の平均値を閾値として計算し、記憶手段14に戻す。記憶手段では、新たな閾値を古い数値に上書きする。
【0048】
上記構成において、初期使用の際には第1の実施形態と同様に試験的に通常覚醒時の生理情報を採取して、これを閾値の初期値とすればよい。そしてシステムを使っている間に活動度が大きいときの生理情報のデータが蓄積され、閾値の値が順次更新される。
【0049】
この第2実施形態のシステムのフローチャートを記載すると図16のようになる。システムの一部について生理情報と活動度という二つの変数を取り扱っていることが特徴である。
[実施例2]
動作検知手段10としては従来公知のさまざまな体動センサを用いることができる。また天井などの適所に設置した赤外線センサにより、個人が一定の座席から或る程度以上身を動かした態を検知するようにしてもよい。さらにコンピュータのオペレータがキーボードやマウスなどに情報を入力する状態を検知するようにしてもよい。
【0050】
図17は、本発明の第3の実施形態に係るシステムの制御の方式を示している。照度の上昇に対する身体の反応には個人差がある。本実施形態では、そうした個人差を高照度照明時の照度の設定値に反映させるための工夫をしている。具体的には、一定時間高照度照明を行った後の生理情報を判定手段16に送り、生理情報の適正値と比較して、覚醒水準の適正・不適正の判断を照度調整手段18に送る。照度調整手段では、覚醒水準が不適正と判断したときには、次回の高照度照射の際に照度レベルをΔL上昇させて、Lx2+ΔLを目標値として制御手段に出力する。その高照度照明の制御が完了したら、Lx2+ΔLを新たなLx2として同様の手順を繰り返す。こうすることで高照度の設定値Lx2を個人にとって適正なレベルに上げることができる。図17では、Lx2を上昇する過程のみを説明しているが、逆の過程も同様の手順で実現することができる。幾度かの制御サイクルで同じ設定値Lx2で生理情報が適正値より所定巾以上に大きいときには、設定値を−ΔLだけ下げる。次の高照度照射には下げた照度で照射を行い、この高照度照射が終了したら、ΔLx2−ΔLを新たなLx2として同様の手順を繰り返せばよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る照度制御システムの全体構成例である。
【図2】図1のシステムのブロック線図である。
【図3】図1のシステムの照度調整手段の調整方式の一例を示す図である。
【図4】心電図の構造の説明図である。
【図5】図1のシステムの照度センサの使用状態の斜視図である。
【図6】照度センサの側面図及び平面図である。
【図7】図5の照度センサの一つで測定した鉛直視野角内での照明変化を示す図である。
【図8】図1のシステムの照度制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】図1のシステムの効果確認のための実験の方式を説明する図である。
【図10】図1のシステムで照射実験を行ったときの人体のLF/HFの変位を示すグラフである。
【図11】図10の照射実験を行ったときの人体の心拍数の変位を示すグラフである。
【図12】図10の照射実験を行ったときの人体のHFの変位を示すグラフである。
【図13】本発明の照明条件(Case3)、通常の照明条件(Case1),及び従来のスケジュール制御型のサーカディアン照明の条件(Case2)で照射実験を行ったときのLF/HFを平均した値を示す表である。
【図14】図13にいうCase3及びCase2の条件での睡眠時のHF及びLF/HFを比較した図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る照度制御システムの全体構成を示す図である。
【図16】図15のシステムのブロック線図である。
【図17】本発明の第3の実施形態に係る照度制御システムの制御の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
2…照明手段 4…照度センサ 5…フード 6…制御手段 8…生体センサ
10…動作検知手段 12…分析手段
14…記憶手段 16…判定手段 18…照度調整手段
20…注意喚起部 22…入力部
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理情報対応型の照明制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、日中の大半をオフィスなどの光環境の中で過ごす人が多くなり、こうした光環境が睡眠・目覚めなどの生体リズムに与える影響が注目されている。
【0003】
一般にオフィスにおける照度設定は机上面照度で750lx前後とするのが一般的となっているが、この照度は物が適正に見えるかどうかを基準としているに過ぎない。
【0004】
人の生理現象の周期性のうち、明るいときに覚醒水準が高く、暗いときに覚醒水準が低くなることをサーカディアン・リズムといい、これを生体センサで測定することは既知である(特許文献1の段落0004、0010など参照)。
【0005】
本明細書において、「覚醒水準」とは意識がはっきりしていることの程度を表す。作業に適した程よい緊張状態を「通常覚醒」と、過度の刺激や運動により興奮し、過剰に緊張した状態を「過覚醒」と、疲労や睡眠不足で緊張が解けた状態を「低覚醒」という。
【0006】
人間は昔から明るい太陽の光の下で活動しており、上記の生体リズムが出来ている。このリズムが崩れることは日中の覚醒水準の低下及び夜間の不眠の原因となりうる。
上記の観点から、一日を通じて照度一定であった従来のオフィス照明に対して、一定の時間帯に机上面照度2500lx程度の高照度光照射を行うオフィス・サーカディアン照明システムが提案されている(非特許文献1)。
【0007】
なお、受光面の照度を希望値にするために、その照度を検知し、検出値を照明回路の出力にフィードバックする制御方法は従来から公知である(特許文献2)。また照明に関する発明ではないが、身体の動きを加速度センサで検知して居眠り状態(居眠り運転)を判定する技術が知られている(特許文献3)。
【特許文献1】特開平5−3877
【特許文献2】特開平11−233268
【特許文献3】特開2000−315287
【特許文献4】特開2004−209126
【特許文献5】特開平8−299443
【特許文献6】特開平4−269972
【非特許文献1】松下電工技報Vol.53 No.1「オフィス用『サーカディアン照明システム』の心理的効果」野口公喜 2005年2月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
非特許文献1の照明システムは、午前中の2時間(9:00〜11:00)及び午後の約1時間(12:40〜13:40)において机上面照度2500lxの高照度照射を行い(High条件、残りの時間帯は机上面照度750lxの通常照射を行う(Low条件)というものである。この方法は、居室内を一律にスケジュール制御するものである。しかしながら、高照度照明は通常の照明よりもエネルギー消費が大きいから、夜間に十分な睡眠をとれており、日中の覚醒水準が高い人に対しても行う必要があるのかどうか疑問である。また上の方法は個人の生理や意識の状態を反映していないために、個々の物理環境に対する不快感や生産性の低下を招く可能性がある。
これに対して、出願人は、前述の加速度センサを用いて対象者の居眠り状態を検知したときに高照度照明を行うということも検討した。しかし居眠り状態では目を閉じているのであるから、高照度照明をした程度の刺激で意識を覚醒させることは困難である。
そこで本発明は、個人の生理情報に基づいて照度を調整し、意識の状態を好適に維持することが可能な生理情報対応型の照明制御システムを提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の手段は、
特定の照明エリア内の照度を検知し、その照度が所定値になるように照明出力を調整するためのフィードバック制御系を具備し、かつ一日のうち一部の時間帯における照度を高めるようにすることが可能な照明制御システムであって、
個人用の照明エリアを照明するための、照明出力を調整可能な照明手段と、
その照明エリア内の照度を検知する照度センサと、
検知された上記照度を目標値に近づけるように照明手段の出力を制御する制御手段と、
照明エリア内の照度に対応して変化する個人の生理情報を検知する生体センサと、
少なくとも個人の生理情報を各個人毎に記録することができる記憶手段と、
生体センサで検知した生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報のデータと比較することで、個人の覚醒水準を、少なくとも、通常覚醒以上の水準と低覚醒の水準との2段階で判定する判定手段と、
判定された覚醒水準に応じて上記制御手段の目標値を自動的に変更する照度調整手段と、
を有し、
この照度調整手段は、判定手段の判定に応答して、制御手段の目標値を通常レベルより高くし、所定長さの高照度照射時間を経過した後に目標値を通常レベルに戻すように構成している。
本手段では、生理情報から、個人の覚醒水準を判定することを提案している。人間の自律神経は、緊張や興奮などのストレスを生ずるときに優位となる交感神経と、リラックスしたときに優位となる副交感神経とがあり、この二つの優劣はさまざまな身体の兆候として現れる。例えば図4に示すような心電図の波形をフーリエ変換したとき、その低周波成分(LF)と高周波成分(HF)とが得られること、LFが交感神経の活性度、HFが副交感神経の活性度の指標となることは従来よく知られている。特許文献5の自動車用の居眠り防止装置は、LF/HF値を検知して覚醒水準が低下したときに、特許文献4のゲーム機は、操作者の生理情報(血圧、脈拍数、体温など)を検知して興奮しすぎたとき、それぞれ警告を発するようにしている。さらに特許文献6の刺激提示装置は、人の体動・呼吸・心拍などの生理情報を検知して、音響・振動の刺激を与える。しかしながら、これらは生理情報から推定される意識の状態が異常な状態になったときに、警告用のシグナルを発するものである。本手段は、単なる警告ではなく、覚醒水準が低くなった人に対して、一日のうちの一部の時間帯に高照度照明を行う制御方式を、個人の生理情報に基づいて適用することを可能とするものである。
「フィードバック制御系」は、照明エリアの照度を一定に保つために用いられる。空調システムなどでは外乱の影響を排除して室温を一定に保つためにフィードバック制御を用いるが、照明系ではそうした制御を行うことは稀である。オフィス照明などにおいては、少なくとも一定の照度を確保できる程度に照明出力を設定すれば足り、外乱(例えば窓から入射する自然光)があっても特に問題にはならないからである。しかし本発明では、照度との関係で生理情報を検知し、人の覚醒を促すことを目的としており、その際に外乱を含めて照明エリア内の照度を一定に保つことが発明の前提になるのである。
【0010】
「生理情報」とは、生理現象の情報をいい、生理現象とは、生物体の生活現象として現れる諸現象のうち、主に人の意思とは関係なく現れるものをいう。例えば心拍、後述のLF/HF、血流、身体表面温度、唾液中のコルチゾール、ヘモグロビン量などである。本発明では、人の意思による動作は、生理現象とは別に、生理情報を評価するために用いる。もっともまぶたの瞬きのように無意識で生ずるが、意識してすることもできるようなものは生理現象に含む。
【0011】
「記憶手段」は、少なくとも個人の生理情報を各個人毎に記憶している。「個人毎に」というのは、複数の人間を対象とする場合には各人ごとに区別してという意味であり、一人を対象とする場合にはそうした区別は必要ない。「生理情報」には、各時刻毎の生理情報の他に生理情報の閾値を含むものとする。記憶手段は、生理情報そのもの、生理情報を採取した時刻(又は時間区分)など関連する情報を対応付け、必要により情報を取捨選択して取り出すことができるデータベースとすることが望ましい。
【0012】
【表1】
【0013】
「判定手段」は、既知の生理情報を基に対象者の覚醒水準を、通常覚醒以上の水準と低覚醒の水準との2段階で判定する。通常覚醒と過覚醒とを区別していないのは、本手段では照度を上げることで覚醒を促すということをテーマとしているからである。通常覚醒から低覚醒へ移行する過程を、3以上の多段階に分けて順次照度の目標値を高めていくような制御方式とすることができる。
生理情報は、表1に示すように覚醒時(はっきり目が醒めているとき)と睡眠時とで異なる数値を示すが、この数値は個人差が大きい。従って当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報のデータに基づいて判定する。なお、通常の職場では過覚醒となることは稀なので、採取された全ての生理情報のうち活動度が低いときの生理情報を除いた情報を、「通常覚醒時の生理情報」とすることができる。
検出された生理情報を過去の通常覚醒時の生理情報と比較する方法としては、両者を直接的に比較する方法と、両者を間接的に比較する方法とを含む。前者として、例えば各時間区分毎に測定した通常覚醒時の生理情報から通常覚醒時と低覚醒時との閾値を計算し、この閾値と測定した生理情報とを比較する方法がある。また後者として、過去の生理情報の集団と新たに測定した生理情報の集団との間に有意の差異があるか否かを統計学的に検定する方法などがある。具体的には後述する。
【0014】
「照度調整手段」は、個人の生理情報に応じてフィードバック制御系の制御手段の目標値を変更するものである。別の言い方をすれば、フィードバック制御系の制御手段が第1の制御装置、照度調整手段が第2の制御装置であり、これら第1、第2の制御装置で照明システム全体をカスケード制御している。照度調整手段は、照度ゼロ(照明オフ)、低照度、高照度の3段階で照度を調整するようにすることができる。低照度から高照度への目標値の変更は自動的に行ってもよいが、利用者本人又は他人の指令によって行うようにしてもよい。照度調整の方式としては、覚醒水準の低下を判定されたときには、一定時間、例えば20分程度は高照度を維持する時間制御を行っている。その理由は、仮に照度を生理情報に完全に追従させると、後述の実験例からわかる通り、オフィスでうつらうつらしているときには、覚醒状態と非覚醒状態とを1分程度の短い間隔で繰り返しており、その度に照明を明るくしたり、暗くしたりしては意味がないからである。
好適な一例として、照度調整手段は、照明エリアの照度を、明暗の変化が人に意識される程度の速さで急速に上昇させ、その照度を一定時間維持した後に元の照度レベルに復帰するように形成することができる。「急速」に数秒から数十秒かけて照度を上げていくということである。通常の目覚まし装置の音や光がオン・オフを一瞬に切り替える制御であるのに対して、本発明では、図3に示すように、経過時間に比例して出力を増加又は減少させる(ランプ制御)など、出力を漸増・漸減する制御方式とすることが好適である。
第2の手段は、第1の手段を有し、かつ
さらに、仕事場を兼ねた照明エリア内での個人の動作を検知する動作検知手段と、生理情報を分析する分析手段とを有し、
分析手段は、検知した動作から個人の活動度を評価し、活動度が高いときの生理情報の値を、活動度の低いときの生理情報と区別して記憶手段に記憶させるように形成し、
この活動度の高いときの生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報として覚醒水準の判定を行うようにしている。
本手段は、生体センサで採取した生理情報を個人の覚醒水準に対応付けるための手法に関する。この対応付けのためには前述の通り、通常覚醒時の生理情報を閾値として採取すればよいのであるが、本手段では、その数値を機械的に自動更新するための構成を提案している。つまり、職場において、意識がはっきりしている状態、例えばキーボードを叩いたり、電話をかけたりして活発に動いている状態を通常覚醒とみなして、その状態での生理情報を蓄積し、蓄積したデータから、通常覚醒時と通常覚醒時との生理情報の閾値を求めるのである。「通常覚醒とみなして」と言っている理由は、厳格に言えば、上記の条件だけでは外出から戻ったばかりで心拍数が上がっている状態などの生理情報として拾ってしまう可能性があるからである。しかし通常の仕事場で過覚醒の状態が出現することは稀であるから、多くのデータの平均値をとれば実用上は問題を生じない。
【0015】
「人の動作」とは、身体の身動き(体動)のうち主に人の意思を反映して行われるものをいう。作業のための手や頭の動き、眼球運動などである。
【0016】
「動作検知手段」とは、広く動作を検知できるものをいい、加速度センサなどの他、赤外線などを利用した非接触の位置センサを含む。なお、「仕事場を兼ねた照明エリア内での」という限定を付けたのは、通勤又は外出時中の動作を除く意味である。そうした条件のもとで測定をすれば通常の職場では過覚醒の状態を除いて生理情報を採取できるからである。
【0017】
「活動度」は、人の動作の頻度又は大きさを表す概念である。活動度の高い・低いをどのように定義するかが問題であるが、本発明では、外見的に明らかに個人が通常覚醒以上の意識状態にあるときを「活動度が高い」とし、それ以外を「活動度が低い」とすれば足りる。これについては後述する。
【0018】
「分析手段」は、例えば心電図データからLF/HFを抽出するなどして生理情報を分析する。また、動作情報から活動度を評価し、活動度の低い状態での生理情報と、活動度の高い状態での生理情報とを区別する機能を有する。
第3の手段は、第2の手段を有し、かつ
照度調整手段は、判定手段の判定に応じて目標値を自動的に変更する構成に代えて、
上記判定に応じて覚醒水準の低下を知らせる注意喚起部と、
個人が照度上昇指令を入力することができる入力部とを有し、
この照度上昇指令の入力に応じて制御手段の目標値を変更するように構成している。
このようにすることで、本システムの照明方式を利用する各個人の意思を尊重することができるとともに、照度上昇指令のスイッチなどを押す動作をすることで、覚醒作用を高めることも期待される。
第4の手段は、第2の手段又は第3の手段を有し、かつ
上記生体センサは、人の心拍を、拍を打つ時刻とともに心電図様式の情報として検知し、
上記判定手段は、心拍データをフーリエ変換して、高周波数成分(HF)と、低周波成分(LF)とを抽出し、低周波成分に対する高周波成分の割合(LF/HF)が、通常覚醒時の個人の(LF/HF)のデータに比べて高いときに低覚醒の水準と判定するように設計している。
【0019】
本手段では、心拍数から得られる心電図様の情報を生理情報として用いることを提案している。心電図の波形をフーリエ変換したとき、その低周波成分(LF)と高周波成分(HF)とが得られることは従来述べた通りである。LFが交感神経の活性度、HFが副交感神経の活性度にそれぞれ関連しているので、LF/HFを覚醒水準の低下の指標として用いられることも既に説明した通りである。より具体的に説明すると、LFは主に血圧調整の機能と関連しているゆらぎで交感神経と副交感神経の両方に影響を受け、HFは主に呼吸活動からくるゆらぎで副交感神経と強い関係があるとされている。なお、交感神経及び副交感神経の活動の程度を評価する上で、心拍変動性に注目することは重要であるが、この測定値は心臓を支配する交感神経の活動を評価するものである。血管を支配する交感神経の活動を、例えば血流又は血圧や体温などから評価し、それらとの整合性を考えながら検討することが望ましい。
第5の手段は、第2の手段から第4の手段の何れかを有し、かつ
上記照度センサは、個人の頭部近くに取り付け可能であり、
その取り付け状態で、人の鉛直視野角に相当する前方に照度センサの受光面を配向するとともに、
前方以外の方向からの光を遮断する遮光フードを付設している。
オフィス内の照度を表すときには机面上での照度を用いることが一般的であるが、最近ではパーソナルコンピュータの画面に向かい合って作業をする人が多くなっている。机面上の照度は、天井に設置した照明手段の光を主とするのに対して、コンピュータ画面に対面している人の目に入る光は、コンピュータ画面からの光が主、天井からの光が従である。そこで本出願人は、照度センサの好適な一例として、眼鏡のフレームなどに付設した顔面センサを用いることを考案している。
【発明の効果】
【0020】
第1の手段に係る発明によれば、次の効果を奏する。
○個人の生理情報に基づいて高照度照明を行うから、個人の生活リズムに合わせて、日中の覚醒水準を高めることができる。
○意識の覚醒手段として光を用いるから、音や振動などに比べて周囲の人間の作業の妨げとなることがない。
【0021】
第2の手段に係る発明によれば、人間の意思で行われる動作の情報で覚醒水準を判定するから、より的確な判断が可能となる。
第3の手段に係る発明によれば、覚醒のための操作を本人が行うから強制感がない。
【0022】
第4の手段に係る発明によれば、LF及びHFの割合を生理情報とするから信頼性の高い判断を行うことができる。
第5の手段に係る発明によれば、照度センサが鉛直視野角の光を受光するようにしたから、照度の的確な制御が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1から図14には、本発明の第1実施形態に係る照明システムに関する説明が記載されている。
【0024】
このシステムは、照明手段2と、照度センサ4と、制御手段6と、生体センサ8と、分析手段12と、記憶手段14と、判定手段16と、照度調整手段18とを有する。
【0025】
照明手段2は、各個人用に設定されている。各照明手段は、個人の仕事場の照度を調整できるようにしている。図示例では、人の真上から光を照射しているが、例えば顔の正面から光を照射するように照明手段をセットすることもできる。
照度センサ4は、個人の仕事場の照度を検出して検出値を制御手段に出力する。照度センサは、机面などの作業場所付近の固定箇所に取り付けてもよいが、図5に示す例では、眼鏡のフレームに取り付けている。これにより顔面の照度を測定することができ、個人の目に感じる明るさに近い入力データが得られる。さらに図示例の照度センサ4は、受光面を前方に向けて、受光面の後方側から前方へ拡開する遮光用のフード5を突出している。この遮光用のフード5は、図6に示すように人の鉛直視野角以外の方向からの入射光を遮るように形成している。水平方向に対するフード5の上壁の傾斜角度θ1は60°、同方向に対するフードの下壁の傾斜角度θ2は70°、水平方向に対するフードの左右壁の傾斜角度θ3は65°である。もっとも上記構成からフードを省略したものを用いてもよい。図7に、後述の実験例においてフード付きの照度センサ4で測定した照度の経時変化を示すグラフを示す。このグラフにおいて10:00〜10:20、11:00〜11:20、13:10〜13:30、15:00、16:10〜16:30頃にそれぞれほぼ平坦なピークが現われており、各時刻により高照度照明が行われたことを反映している。各ピークの頂が平らなのはフィードバック制御の作用であると考えられる。時間帯により観測された照度(顔面照度)には若干のばらつきがあるが、これは、被験者の姿勢などにより顔面に入る光の量が変化するためと理解される。12:00〜13:00の照度の大きな上昇は、休憩時間に太陽光などを浴びたためであり、本システムの照明とは無関係であると推測される。
【0026】
制御手段6は、検出された照度が目標値より小さいときには照明出力を小さく、目標値より大きいときには照明出力を大きくするようにフィードバック制御を行う。この目標値は、後述の照度調整手段から入力される。
【0027】
生体センサ8は、個人の生理情報を検知する。本実施形態の生体センサは、心臓のパルスを検出するもので既知の構成である。こうしたセンサは、人間の胸部に貼り付け可能な生体電極であって、人体の電気信号(心臓より発生する心室パルス電圧波形)を高感度で検出するものである。この信号を図示しない心電計により増幅し、ノイズを除去し、デジタル信号化して心電図とすればよい。なお、個人の席から人が離れて、再び着座したときには、着座後一定時間の生理情報は記憶から除外することが望ましい。歩くなどの運動をすることで、心拍数が通常よりも増大するからである。そうしたデータが記憶手段に蓄積されると、生理情報の平均値がずれてくる可能性がある。
【0028】
分析手段12は、まず個人の心電図様式のデータを分析する。図4に示すような心電図の波形で一番大きくスパイク状にでる波をR波といい、R波とR波との間隔をRR間隔といっている(図4参照)。
上記分析手段12の主たる機能は、心電図データからRR間隔変動を取り出し、高周波成分(HF)と低周波成分(LF)とを抽出し、その比率を求めることである。従来周知の如くRR間隔変動をフーリエ変換すると、横軸に周波数を、縦軸に強度をとったグラフ(パワースペクトル)において、高周波側及び低周波側に2つのピークが表れる。各ピークを含む2つの周波数区分で強度の積分値を採ったものが、高周波成分(HF)及び低周波成分(LF)である。日中の覚醒水準を表す指標としては(LF/HF)が有効である。この指標を一定の時間区分毎に判定手段及び記憶手段に出力する。この他に、副交感神経が優位であるとき(リラックスしているとき)、心拍数の減少、RR間隔の延長、RR間隔のばらつき増加が大きいなどの現象が現れる。これらの情報を補助情報として時間区分毎に出力するようにしてもよい。もっとも、生理情報を分析せずに用いることができるときには、分析手段は省略することができる。
また分析手段の従たる機能として、通常覚醒と低覚醒との閾値など後の判定作業に必要な分析を行うようにするとよい。閾値を計算するときには、観測時間を一定巾の時間区分に区切って生理情報と活動度を採取し、そして全ての時間区分から活動度の低いときの時間区分を除いて、残った時間区分毎に生理情報の下限値を求め、それら下限値の平均値を、閾値とすればよい。また分析手段が閾値の候補値を人に提示し、提示された数値から人が閾値を決定するようにしてもよい。なお、閾値に代えて統計学的処理を行う場合については、後述する。
【0029】
記憶手段14は、個人毎に、この個人時の通常覚醒の生理情報の閾値を記憶している。さらに記憶手段14は、分析手段から入力された各時間区分毎の生理情報を、その区分内の照度など関連情報と対応付けて、データベース化している。この機能により例えば一日のうち任意の時間帯の生理情報を取り出すことができる。
【0030】
判定手段16は、分析手段12から出力された生理情報の閾値と、各時間区分の生理情報とを比較して、低覚醒の水準か否かを判定する。LF/HFのように変動の大きい変数では普通に閾値を設定してしまうと始終注意喚起の表示が出る可能性がある。それを避けるためには例えば時間区分単位で連続して複数回(例えば2回)閾値を下回ったときに、注意喚起の表示が出るようにしてもよい。さらに後述のT検定などの統計的手法を用いてもよい。もっとも休み時間には、緊張が緩んだ状態にあってよいのであるから、この判定は勤務時間中に限って行うように設計する。判定手段は、個人が低覚醒状態にあると判断したときには、判定信号を照度調整手段へ出力する。
【0031】
照度調整手段18は、判定手段16からの判定信号に従って、所定の手順に従って照度の目標値を制御手段6に出力する。この際に照度調整手段は、注意信号があったときに直ちに目標値を自動的に送信するように構成してもよいのであるが、好適な本実施形態においては、照度調整手段18は、注意喚起部20と入力部22とを具備しており、利用者の指令を待って照度を上昇させるようにしている。
上記注意喚起部20は、覚醒水準の低下が検出されると、利用者に注意を促す。その方法はいろいろであるが、本実施形態のようなオフィス環境では、例えば利用者が使用するパーソナルコンピュータの画面に「覚醒水準が低下しています。照明を明るくしますか。Yes NO」のような勧告を行うようにしてもよい。そしてコンピュータのインターフェイス(マウスやキーボード)である入力部22を操作して、指令を入力するようにすればよい。
変形例として、トラックの運転席などの照明では、同様の勧告を音声で行い、運転席のスイッチである入力部22から指令を入力するようにしてもよい。工場などの作業ではブザーやランプなどで注意を喚起してもよい。
上述のそれぞれの場合において、注意喚起部20は、その注意に対して利用者の応答がないときには、一定の時間間隔をおいて繰り返し注意を行う。そして、再度の(或いは一連の)注意に全く利用者からの応答がないときには、応答できないほどに覚醒水準が低下しているものと判断して、自動的に照度を上昇させるものとしてもよい。
そして照度調整手段は、所定時間が経過したときには目標値を元の照度に戻すように構成する。通常時の照度は750lx、高照度照明のときの照度は2500lxとするとよい。具体的には、上記照度上昇指令があったときには、照度調整手段は、図3に示す如く通常の照度レベルLx1から高照度レベルLx2までΔt1の時間をかけて上昇させる。そしてTの間、照度をLx2に維持した後にΔt2の時間をかけて、元の照度レベルLx1に戻る。好適な一例では、Δt1=Δt2=1分、T=20分である。警告の手段として光などの刺激を使うときには、相手を覚醒させたあとで刺激を解消することが通常であるのに対して、本発明では覚醒後も高照度状態を維持する。高照度状態の中で仕事をしながら、生体のリズムの乱れを整えることが目的だからである。さらに好適な一例では、Lx1=600lx、Lx2=2500lxである。これらの数値は適宜変更することができるが、Lx2の数値は通常の作業に支障を生じない範囲にとどめる。
上記分析手段12、判定手段16、及び照度調整手段18は、コンピュータで構成することができる。
図8には、本システムによる照明の制御の流れのうち主要な部分をフローチャートで描いている。制御手段により照度を基準値(Lx1)に保つための制御の流れは、通常のフィードバック系の制御であるので省略している。同図の制御方法は、利用者の指令を待って照度を上げる半自動であり、また、指令があったときには覚醒水準とは関係なく一定時間照度を上げる時間制御である。しかしながら前述の通り全自動方式にすることもできるし、時間制御に代えて、覚醒水準が通常覚醒に戻るまで高照度を継続するように、生理情報を照度調整手段の入力側にフィードバックさせることも可能である。照度を上昇させた後一定の時間が経て照度を戻すまでの行程は、一定の制御サイクルのなかで行う。
【0032】
本システムを使用するときには、システムを個人に適用する初期の使用において、通常覚醒と低覚醒との閾値に相当する生理情報の決定を行う。そのためには、生理情報の変位を照度に連動させずに、本人の生理情報の採取のみを行う。もっとも簡単に行うときには、食事中や外出から戻った直後、出社直後のように経験的に生理情報が通常の勤務時間中に比べて変動し易い時間区分を除外して、それ以外の時間の情報を用いればよい。また本システムと無関係に通常覚醒時に個人の生理情報を試験してもよい。閾値を機械的に設定する方法については後述する。
【0033】
上記構成によれば、利用者の体調や生体リズムに対応して光環境を適正に保つことができる。また、日中の覚醒水準を高めることで夜間の不眠防止にもつながるものと期待される。
[実験例]
本発明の効果を測定するために、図9に示す3つの状況で比較実験を行った。
Case1は、通常レベルの照度を行う照明方式である。通勤時間のうち太陽光に被曝する午前8時から8時半までは、天井面照度を5000lxの環境とし、午前7時から午前8時まで、及び午前8時半から午後9時までの天井面照度を500lxとする。なお、天井面照度とは天井面で設置したセンサで測定した照度であるものとする。照明器具は天井面に設置しているが、主に下向きに光を照射するので、天井面照度は机上照度より小である。
Case2は、一日のうち予め決まった時間帯に高照度照明を行う従来のサーカディアン照明方式である。Case1と比較すると、前8時半から午前12時、及び午後1時から2時までの間を高照度照射をしている。その間の天井面照度は2500lxである。連日に亘る高照度照射の影響を見るために同じ人物に対して2日間実験を行った。
Case3は、被検者が自分で眠くなったと判断したときにシステムに指令して高照度照明を行うという本発明の照明方式である。高照度照射の時間は5分間である。照明器具の出力は、天井面照度2500lxを上限として、100%、70%、50%を選択できるようにした。またCase2と同様に同じ人物に対して3日間実験を行った。
【0034】
実験対象は、体表面温度T、心電図及びそこから得られるLF/HF、心拍数(表中で拍数という)、RR間隔(CVという)などである。
【0035】
実験条件は次の通りである。まず睡眠時間6時間以下の者を被検者とした。ここでは被験者1人分のデータを示している。照度センサは図5に示すセンサ4を使用する。この照度センサーでの測定間隔は40Hzである。Case1は1日、Case2は2日、Case3は3日に亘って24時間を一分間隔で数値を測定した。
【0036】
上記3つのケースのうち本発明に相当するCase3のLF/HFを図10に、Case3の心拍数を図11に、Case3のHFを図12にそれぞれ描いた。これらの図表中データが欠損している時間帯は、トイレへ行くなどしてデータを取れなかった時間である。
実験では、表2及び表3に示すように1分毎の各種の生理情報を測定した。Case1及びCase2のデータを表2に、Case3のデータを表3にそれぞれ示している。
【0037】
【表2】
【0038】
前述の通り起きている時のLF/HFは約4.9±0.9、睡眠時のそれは1.7±2.7程度である。これをCase1のデータに当て嵌めると25分間の間に意識が覚醒状態と睡眠状態とを行ったり来たりしており、うつらうつらしている状態であることが判る。心拍数とLF/HFとはぴったり一致しているわけではないが、心拍数がピークになるときには、その前後でLF/HFもピークとなる。
【0039】
【表3】
【0040】
表3は、本発明の方法で採取したデータを示している。この表は、主としてこのような要領でデータをとったことを示すだけであり、表1の通常照明及び従来のカーディアン照明と比較するために示しているのではない。同時刻での各種方法での生理情報の大小を比較しても、偶々その時刻に疲れが出たというだけのことで、有意の結果は得られない。意味のある観察をするためには或る程度の長さでの時間平均を見る必要があるが、それに関しては後述する。
図13は、本実験の結果のうちLF/HFの数値を十分間毎に集計・平均したものを、まとめたものを示している。既述の表1によれば、LF/HFは起きている時に約4.9±0.9、睡眠時に1.7±2.7である。そこでLF/HFが4未満の数値を低覚醒状態と考えるものとし、とくに3未満の数字を図中で太枠で囲った。また各時間区分において5分間の高照度照射に対して*を一つ、10分間の高照度照射に*を二つ付して表した。
図13の結果をさらに集計したのが、次の表4である。これは10分間の時間区分単位で低覚醒の状態が何回出現したかを数えたものである。通常照明のCase1では、LF/HFが4未満の事象が21回出現しているのに対して、従来のサーカディアン照明であるCase2では、同様の事象が両日ともに11回、14回であり、トータルではかなりの改善が見られる。さらに本発明の照明方式であるCase3では、同様の事象が初日に13回、2日目に6回、3日目に7回出現している。つまり初日こそCase2と同程度であるが、2日目、3日目にはCase2よりもさらに改善が見られる。
【0041】
【表4】
【0042】
図13に戻ると、通常の照明であるCase1では、9時〜10時半、午後1時〜4時の時間帯ではっきりと低覚醒状態が見受けられる。一律の高照明であるCase2では、午後の時間帯に覚醒状態の改善が見られる。しかしながらある程度高覚醒状態が続いた後に不意に眠気に襲われるという傾向が残っている。これは、高照度照明による覚醒効果があるものの、長時間高照度が続くとその状態になれてしまい、眠気に襲われるものと思われる。本発明による照明方法の場合には、3日連続の試験のうち初日の試験ではCase2と同然であるが、2,3日目では覚醒水準が良くなっている。これには次のような理由が考えられる。
第1に、一日目の高照度照射で日中の覚醒水準が上がった結果として、夜間にしっかりと睡眠をとることができ、翌日以降の日中の覚醒状態が改善されたということである。その証拠に午前九時台前半の数値を比べると、1日目が2.67、2.03なのに対して、2日目が6.43,7.45、3日目が3.91、4.65である。1日目に比べて、2日目、3日目の方が覚醒状態がよい。朝方の覚醒状態の良さは、その日の高照度照明の作用よりも、前日の眠りの質の違いと解釈することが妥当である。
第2に、被験者自らがスイッチを押すことで覚醒作用が高まると同時に、時間を経るに従い好適なスイッチの押し方を習得したと考えられる。Case3において、被験者は、例えば10:00〜10:09及び14:00〜14:09の時間区分に強い眠気を感じているが、この時間区分では一度も照度上昇指令のスイッチを押していない。これは何故かと言えばLF/HFの平均値が3未満の強い眠気に襲われてからスイッチを押すのは無理ということである。そうなる前に軽く眠気を感じた段階でスイッチを押すことが肝要である。
例えば1/10の16:30〜16:39の時間区分には*が一つついている。この時間区分のLF/HFは7.1であり、その前の区分のLF/HFは5.56である。一見するとこの数字からは通常覚醒のようである。しかしこの数字は平均値であり、1分単位で見ると一時的にLF/HFが2〜4程度の眠気に襲われている。自分では一瞬眠くなっただけと思っていても、注意喚起の表示が現れたら早めにスイッチを押す必要がある。Case3において午後の大半に良好な覚醒状態が得られているのは、こうした好適な使用方法が原因だと思われる。*のマークがあるところは、その直前でLF/HFの下降が観察され、平均値では判らないものの、被験者が瞬間的な眠気を感じていることが見て取れる。
次に本発明に係るCase3において、高照度照明を行った回数を次の表5に示す。1日目は38回、2日目は25回、3回目は16回の照射を行っている。一回の照射時間は5分間であるから、日間の照射時間は、1日目で190分、2日目で125分、3日目で80分である。Case2では、天井面照度2500lx(Case3の100%出力と同じ)で240分の照射を行っている。Case3はCase2よりも照射時間が短くかつ相当の時間に亘り単位時間当たりの照射出力も小さい。従ってCase3での照射エネルギーは、Case2でのそれよりも小さいことが分かる。
【0043】
【表5】
【0044】
図14は、Case2とCase3の3日目との睡眠時のLF/HF、HFの比較を示している。HFはCase3の方が高く、従って良好な睡眠が得られていることがわかる。
上記の実験結果からは、この実験の方式には改善の余地があることが分かる。例えばLF/HFの平均値が3未満の低覚醒状態を検知したときには、被験者がスイッチを押すのを待たずに自動的に高照度照射を行うことが望ましい。また光の照射方向も天井からだけではなく、顔面にほぼ垂直に別の光源を設置することも考えられる。そうした改良すべき点があっても、本発明であるCase3の方式は、消費エネルギーを低減しながら、Case2の方式と同等、条件によってはそれ以上の日中覚醒作用及び夜間安眠作用を発揮するという可能性を示した。
[実施例1]
覚醒水準の判定を統計学的に行う手法の一つとしてT検定を用いることについて説明する。T検定とは、2つの集団の平均値に有意の差異があるかどうかの判定である。本発明において、2つの集団の一つは、本発明を実施する当日における、個人の一定長さの時間帯に亘る生理情報の測定データ(被判定集団)である。他の一つは、当該個人について実施日以前に記録された同じ生理情報のデータ(母集団)である。LF/HFのように時刻毎の変動の大きい変数では、統計的手法によって良好な制御が可能である。
検定の方法は、2つの集団の情報の分散が同じかどうかで若干異なる。この方法は既知のことであるので簡単に説明すると、分散が同じであるときには、比較する両群をX1…Xn及びY1…Ynとし、まず両群の標本平均X*、Y*を並びに不偏分散UX及びUYを求める。次に両群をあわせた分散の推定値Ue[={(m−1)UX+(n−1)UY}/(m+n−2)]を計算する。これから検定統計量{t0=│X*−Y*│/{Ue(m−1+n−1)}を算出する。自由度v=m+n−2のt分布におけるt零の上側のρ値を求め、有意水準αと比較する。ρ<αなら両群の平均には有意の差異があるということになる。
すなわち、過去の測定データの平均と比べて覚醒水準が低いということである。本実施形態では、現在の情報の集団を過去の情報に対して検定し、有意の差異を検証するから、信頼性が高い。もっとも或る程度の情報量の蓄積があることが前提となる。母集団の方は、過去に測定された全ての生理情報のうち、低覚醒時の生理情報を除いたものを用いることが望ましい。その方法として、好適な第2の実施形態の如く人の活動度に基づいて低覚醒時の生理情報を除外することもできる。しかしより簡易な方法として、例えば測定された全ての生理情報のうち、通常覚醒状況の悪い9時直後、及び14時前後の時間帯を省いて残りの時間帯を通常覚醒状態とみなしてもよい。上記の手順を本発明の構成にあてはめると、分析手段12が各群の標本平均及び不偏分散、両群の分散値の算出、及びρ値の決定を行い、判定手段16がρ値と有意水準との比較を行うようにすればよい。
【0045】
図15及び図16は、本発明の第2の実施形態に係るシステムの制御の方式を示している。この実施形態では、個人から生体情報を採取することと並行して、この個人の動作を検知し、動作が活発であると評価される時間区分の生理情報に基づいて、生理情報の閾値を自動更新することを内容としている。
本実施形態の照明システムは、動作検知手段10を有する。動作検知手段は、人体の適所に装着可能な加速度センサとすることができる。装着場所は、人体のうち通常覚醒時に動きが大きく、かつ低覚醒時に動きが小さい場所とするとよい。図示例にあっては手首に装着する腕時計型としている。また加速度センサに代えて、例えば座布団形のエアセルとエアセルへの空気の出入りを検知する検知手段(圧力センサ)とを備え、座者の体重移動を検知するように構成してもよい。
分析手段は、動作検知手段10が検知する測定値から活動度を判定する。好適な一例として、通常覚醒時に固有の動きの回数及び頻度で判定することができる。例えば加速度センサで検出するタイピング動作や、上記座布団型の圧力センサで検出する、椅子から身を起こす動作などである。そうした動作が所定の回数及び大きさに達しないときには活動度が低いと判定して構わない。目が醒めていることが確実な状態での生理情報を選択して、覚醒水準の判定のための閾値などの計算に用いればよい。
【0046】
そして本実施形態において、分析手段12は、動作検知手段10からの加速度情報を受信し、一定の時間間隔毎に加速度の大きさを計算する。そして分析手段12は、各時間区分での加速度の大きさが基準値を超えるときには活動度が大であると、また基準値を超えないときには活動度が小であるとそれぞれ評価する。この評価は、各時間区分の生理情報と対応付けられて関連情報として記憶手段に入力される。
【0047】
さらに分析手段12は、一定の制御サイクル毎に、記憶手段14から、活動度が大であるときの時間区分の生理情報の下限値を抽出する。そしてそれら下限値の平均値を閾値として計算し、記憶手段14に戻す。記憶手段では、新たな閾値を古い数値に上書きする。
【0048】
上記構成において、初期使用の際には第1の実施形態と同様に試験的に通常覚醒時の生理情報を採取して、これを閾値の初期値とすればよい。そしてシステムを使っている間に活動度が大きいときの生理情報のデータが蓄積され、閾値の値が順次更新される。
【0049】
この第2実施形態のシステムのフローチャートを記載すると図16のようになる。システムの一部について生理情報と活動度という二つの変数を取り扱っていることが特徴である。
[実施例2]
動作検知手段10としては従来公知のさまざまな体動センサを用いることができる。また天井などの適所に設置した赤外線センサにより、個人が一定の座席から或る程度以上身を動かした態を検知するようにしてもよい。さらにコンピュータのオペレータがキーボードやマウスなどに情報を入力する状態を検知するようにしてもよい。
【0050】
図17は、本発明の第3の実施形態に係るシステムの制御の方式を示している。照度の上昇に対する身体の反応には個人差がある。本実施形態では、そうした個人差を高照度照明時の照度の設定値に反映させるための工夫をしている。具体的には、一定時間高照度照明を行った後の生理情報を判定手段16に送り、生理情報の適正値と比較して、覚醒水準の適正・不適正の判断を照度調整手段18に送る。照度調整手段では、覚醒水準が不適正と判断したときには、次回の高照度照射の際に照度レベルをΔL上昇させて、Lx2+ΔLを目標値として制御手段に出力する。その高照度照明の制御が完了したら、Lx2+ΔLを新たなLx2として同様の手順を繰り返す。こうすることで高照度の設定値Lx2を個人にとって適正なレベルに上げることができる。図17では、Lx2を上昇する過程のみを説明しているが、逆の過程も同様の手順で実現することができる。幾度かの制御サイクルで同じ設定値Lx2で生理情報が適正値より所定巾以上に大きいときには、設定値を−ΔLだけ下げる。次の高照度照射には下げた照度で照射を行い、この高照度照射が終了したら、ΔLx2−ΔLを新たなLx2として同様の手順を繰り返せばよい。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の実施形態に係る照度制御システムの全体構成例である。
【図2】図1のシステムのブロック線図である。
【図3】図1のシステムの照度調整手段の調整方式の一例を示す図である。
【図4】心電図の構造の説明図である。
【図5】図1のシステムの照度センサの使用状態の斜視図である。
【図6】照度センサの側面図及び平面図である。
【図7】図5の照度センサの一つで測定した鉛直視野角内での照明変化を示す図である。
【図8】図1のシステムの照度制御の流れを示すフローチャートである。
【図9】図1のシステムの効果確認のための実験の方式を説明する図である。
【図10】図1のシステムで照射実験を行ったときの人体のLF/HFの変位を示すグラフである。
【図11】図10の照射実験を行ったときの人体の心拍数の変位を示すグラフである。
【図12】図10の照射実験を行ったときの人体のHFの変位を示すグラフである。
【図13】本発明の照明条件(Case3)、通常の照明条件(Case1),及び従来のスケジュール制御型のサーカディアン照明の条件(Case2)で照射実験を行ったときのLF/HFを平均した値を示す表である。
【図14】図13にいうCase3及びCase2の条件での睡眠時のHF及びLF/HFを比較した図である。
【図15】本発明の第2の実施形態に係る照度制御システムの全体構成を示す図である。
【図16】図15のシステムのブロック線図である。
【図17】本発明の第3の実施形態に係る照度制御システムの制御の流れを示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0052】
2…照明手段 4…照度センサ 5…フード 6…制御手段 8…生体センサ
10…動作検知手段 12…分析手段
14…記憶手段 16…判定手段 18…照度調整手段
20…注意喚起部 22…入力部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の照明エリア内の照度を検知し、その照度が所定値になるように照明出力を調整するためのフィードバック制御系を具備し、かつ一日のうち一部の時間帯における照度を高めるようにすることが可能な照明制御システムであって、
個人用の照明エリアを照明するための、照明出力を調整可能な照明手段と、
その照明エリア内の照度を検知する照度センサと、
検知された上記照度を目標値に近づけるように照明手段の出力を制御する制御手段と、
照明エリア内の照度に対応して変化する個人の生理情報を検知する生体センサと、
少なくとも個人の生理情報を各個人毎に記録することができる記憶手段と、
生体センサで検知した生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報のデータと比較することで、個人の覚醒水準を、少なくとも、通常覚醒以上の水準と低覚醒の水準との2段階で判定する判定手段と、
判定された覚醒水準に応じて上記制御手段の目標値を自動的に変更する照度調整手段と、
を有し、
この照度調整手段は、判定手段の判定に応答して、制御手段の目標値を通常レベルより高くし、所定長さの高照度照射時間を経過した後に目標値を通常レベルに戻すように構成したことを特徴とする、生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項2】
さらに、仕事場を兼ねた照明エリア内での個人の動作を検知する動作検知手段と、生理情報を分析する分析手段とを有し、
分析手段は、検知した動作から個人の活動度を評価し、活動度が高いときの生理情報の値を、活動度の低いときの生理情報と区別して記憶手段に記憶させるように形成し、
この活動度の高いときの生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報として覚醒水準の判定を行うようにしたことを特徴とする、請求項1記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項3】
照度調整手段は、判定手段の判定に応じて目標値を自動的に変更する構成に代えて、
上記判定に応じて覚醒水準の低下を知らせる注意喚起部と、
個人が照度上昇指令を入力することができる入力部とを有し、
この照度上昇指令の入力に応じて制御手段の目標値を変更するように構成したことを特徴とする、請求項2記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項4】
上記生体センサは、人の心拍を、拍を打つ時刻とともに心電図様式の情報として検知し、
上記判定手段は、心拍データをフーリエ変換して、高周波数成分(HF)と、低周波成分(LF)とを抽出し、低周波成分に対する高周波成分の割合(LF/HF)が、通常覚醒時の個人の(LF/HF)のデータに比べて高いときに低覚醒の水準と判定するように設計したことを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項5】
上記照度センサは、個人の頭部近くに取り付け可能であり、
その取り付け状態で、人の鉛直視野角に相当する前方に照度センサの受光面を配向するとともに、
前方以外の方向からの光を遮断する遮光フードを付設したことを特徴とする、請求項2から請求項4のいずれかに記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項1】
特定の照明エリア内の照度を検知し、その照度が所定値になるように照明出力を調整するためのフィードバック制御系を具備し、かつ一日のうち一部の時間帯における照度を高めるようにすることが可能な照明制御システムであって、
個人用の照明エリアを照明するための、照明出力を調整可能な照明手段と、
その照明エリア内の照度を検知する照度センサと、
検知された上記照度を目標値に近づけるように照明手段の出力を制御する制御手段と、
照明エリア内の照度に対応して変化する個人の生理情報を検知する生体センサと、
少なくとも個人の生理情報を各個人毎に記録することができる記憶手段と、
生体センサで検知した生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報のデータと比較することで、個人の覚醒水準を、少なくとも、通常覚醒以上の水準と低覚醒の水準との2段階で判定する判定手段と、
判定された覚醒水準に応じて上記制御手段の目標値を自動的に変更する照度調整手段と、
を有し、
この照度調整手段は、判定手段の判定に応答して、制御手段の目標値を通常レベルより高くし、所定長さの高照度照射時間を経過した後に目標値を通常レベルに戻すように構成したことを特徴とする、生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項2】
さらに、仕事場を兼ねた照明エリア内での個人の動作を検知する動作検知手段と、生理情報を分析する分析手段とを有し、
分析手段は、検知した動作から個人の活動度を評価し、活動度が高いときの生理情報の値を、活動度の低いときの生理情報と区別して記憶手段に記憶させるように形成し、
この活動度の高いときの生理情報を、当該個人の過去の通常覚醒時の生理情報として覚醒水準の判定を行うようにしたことを特徴とする、請求項1記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項3】
照度調整手段は、判定手段の判定に応じて目標値を自動的に変更する構成に代えて、
上記判定に応じて覚醒水準の低下を知らせる注意喚起部と、
個人が照度上昇指令を入力することができる入力部とを有し、
この照度上昇指令の入力に応じて制御手段の目標値を変更するように構成したことを特徴とする、請求項2記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項4】
上記生体センサは、人の心拍を、拍を打つ時刻とともに心電図様式の情報として検知し、
上記判定手段は、心拍データをフーリエ変換して、高周波数成分(HF)と、低周波成分(LF)とを抽出し、低周波成分に対する高周波成分の割合(LF/HF)が、通常覚醒時の個人の(LF/HF)のデータに比べて高いときに低覚醒の水準と判定するように設計したことを特徴とする、請求項2又は請求項3に記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【請求項5】
上記照度センサは、個人の頭部近くに取り付け可能であり、
その取り付け状態で、人の鉛直視野角に相当する前方に照度センサの受光面を配向するとともに、
前方以外の方向からの光を遮断する遮光フードを付設したことを特徴とする、請求項2から請求項4のいずれかに記載の生理情報対応型の照明制御システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
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【図17】
【公開番号】特開2009−266482(P2009−266482A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−112861(P2008−112861)
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年4月23日(2008.4.23)
【出願人】(000003621)株式会社竹中工務店 (1,669)
【Fターム(参考)】
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