説明

生理活性物質と相互作用する低分子化合物のスクリーニング方法

【課題】 生理活性物質に対する相互作用が弱い低分子化合物を検出する場合、あるいは複数の低分子化合物が共存することによって生理活性物質に対して作用を発揮する場合であっても、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を効率的にスクリーニングすることを可能とするような低分子化合物のスクリーニング方法を提供すること。
【解決手段】 天然物又はそれに由来する試料をDMSO(ジメチルスルフォキサイド)水溶液で抽出することにより低分子化合物を含む抽出物を調製する工程、及び得られた抽出物と生理活性物質とを接触し、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する工程を含む、生理活性物質と相互作用する低分子化合物のスクリーニング方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質と相互作用する低分子化合物のスクリーニング方法に関する。より詳細には、本発明は、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を表面プラズモン共鳴分析によって検出する低分子化合物のスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特定保険食品に代表される各種の健康食品が注目されている。これらの食品には、疾患あるいは健康を維持するうえで重要な役割を担う生理活性物質に対する作用を有する低分子化合物が含まれている場合がある。このような低分子化合物は、医薬品とは異なり、生理活性物質に対して強い相互作用を有するものではなく、また複数の低分子化合物が共存することによって生理活性物質に対する作用を発揮する場合もある。このような理由から、特定の生理活性物質への相互作用の有無を確認する手法によって上記したような低分子化合物を検出することは困難であった。
【0003】
現在、臨床検査等で免疫反応など分子間相互作用を利用した測定が数多く行われているが、従来法では煩雑な操作や標識物質を必要とするため、標識物質を必要とすることなく、測定物質の結合量変化を高感度に検出することのできるいくつかの技術が使用されている。例えば、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術である。SPR測定技術はチップの金属膜に接する有機機能膜近傍の屈折率変化を反射光波長のピークシフト又は一定波長における反射光量の変化を測定して求めることにより、表面近傍に起こる吸着及び脱着を検知する方法である。SPR測定において一般に使用される測定チップは、透明基板(例えば、ガラス又は樹脂)、蒸着された金属膜、及びその上に生理活性物質を固定化できる官能基を有する薄膜からなり、その官能基を介し、金属表面に生理活性物質を固定化する。該生理活性物質と検体物質間の特異的な結合反応を測定することによって、生体分子間の相互作用を分析することができる。
【0004】
また、生体内でのタンパクの作用機序を解明していくプロテオミクスが近年注目されている。プロテオミクスの解析ではタンパク同士の相互作用を解明するために多くの手法が構築されている。具体的には、表面プラズモン共鳴、NMR、LC-MSなどの手法が用いられている。しかしながら、これらの手法は分子量の大きいタンパク同士の解析でしか用いられていないのが現状である。
【0005】
【非特許文献1】Analytical Chemistry, JANUARY 1, 2 5 A (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記した従来技術の問題を解消することを解決すべき課題とした。即ち、本発明は、生理活性物質に対する相互作用が弱い低分子化合物を検出する場合、あるいは複数の低分子化合物が共存することによって生理活性物質に対して作用を発揮する場合であっても、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を効率的にスクリーニングすることを可能とするような低分子化合物のスクリーニング方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討した結果、天然物又はそれに由来する試料をDMSO(ジメチルスルフォキサイド)水溶液で抽出することにより低分子化合物を含む抽出物を調製することによって、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を効率的にスクリーニングできることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明によれば、天然物又はそれに由来する試料をDMSO(ジメチルスルフォキサイド)水溶液で抽出することにより低分子化合物を含む抽出物を調製する工程、及び得られた抽出物と生理活性物質とを接触し、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する工程を含む、生理活性物質と相互作用する低分子化合物のスクリーニング方法が提供される。
【0009】
好ましくは、DMSO水溶液の濃度は1質量%以上20質量%以下である。
好ましくは、天然物又はそれに由来する試料を乾燥粉末化し、得られた粉末をDMSO水溶液で抽出することによって低分子化合物を含む抽出物を調製する。
好ましくは、天然物又はそれに由来する試料を遠心分離した上澄み液を乾燥粉末化し、得られた粉末をDMSO水溶液で抽出することによって低分子化合物を含む抽出物を調製する。
【0010】
好ましくは、表面プラズモン共鳴分析により生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する。
好ましくは、生理活性物質を固定化した基板に低分子化合物を含む抽出物を接触させ、表面プラズモン共鳴分析により生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する。
【0011】
好ましくは、生理活性物質と相互作用する低分子化合物の構造を質量分析法により決定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明による生理活性物質と相互作用する低分子化合物のスクリーニング方法によれば、生理活性物質に対する相互作用が弱い低分子化合物を検出する場合、あるいは複数の低分子化合物が共存することによって生理活性物質に対して作用を発揮する場合であっても、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を効率的にスクリーニングすることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明による生理活性物質と相互作用する低分子化合物のスクリーニング方法においては、天然物又はそれに由来する試料をDMSO(ジメチルスルフォキサイド)水溶液で抽出することにより低分子化合物を含む抽出物を調製し、次いで得られた抽出物と生理活性物質とを接触し、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出することを特徴とする。
【0014】
本発明で言う天然物とは、動物、植物、菌又は微生物などを構成する任意の物質の全てを意味し、これらの組織、器官、細胞、並びにこれらの細胞培養物や細胞培養後の培養液、体液、組織抽出液などを含むものとする。
【0015】
低分子化合物と生理活性物質との相互作用の解析においては、共存する高分子化合物の濃度を低くすることが重要である。高分子化合物は、各種の分析法において、その分子量の大きさから大きなノイズを与えることとなる。本発明では、天然物又はそれに由来する試料をDMSO(ジメチルスルフォキサイド)水溶液で抽出することにより天然高分子成分を除去することができる。好ましくは、天然物又はそれに由来する試料を乾燥粉末化し、得られた粉末をDMSO水溶液で抽出することによって低分子化合物を含む抽出物を調製することができる。
【0016】
天然物又はそれに由来する試料の乾燥のための方法は特に限定されないが、例えば、減圧乾燥、高温乾燥、風による乾燥、凍結乾燥法などを用いることができる。また、高分子化合物の濃度を下げることを目的として、分子量分画フィルターによる方法、吸着カラムによる方法、磁気ビーズで吸着させる方法、遠心分離により沈降させる方法などを併用してもよい。例えば、天然物又はそれに由来する試料を、上記した方法の何れか1以上の方法で処理してから、乾燥粉末化し、得られた粉末をDMSO水溶液で抽出することによって低分子化合物を含む抽出物を調製することができる。特に好ましくは、天然物を遠心分離した上澄み液を乾燥粉末化し、得られた粉末をDMSO水溶液で抽出することによって低分子化合物を含む抽出物を調製することができる。
【0017】
本発明で用いるDMSO水溶液の濃度は1質量%以上20質量%以下が好ましく、5質量%以上15質量%以下がさらに好ましい。本発明で用いるDMSO水溶液は、リン酸緩衝液などを用いて調製することができる。
【0018】
本発明では、生理活性物質と低分子化合物との相互作用を非電気化学的方法により検出することができる。非電気化学的方法としては、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術、水晶発振子マイクロバランス(QCM)測定技術、金のコロイド粒子から超微粒子までの機能化表面を使用した測定技術などが挙げられる。本発明において好ましくは、表面プラズモン共鳴(SPR)測定技術を用いることができる。
【0019】
表面プラズモン共鳴分析によって生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する場合には、例えば、誘電体ブロックとこの誘電体ブロックの一面に形成された金属膜とから構成され、上記誘電体ブロックが、前記光ビームの入射面、出射面および前記金属膜が形成される一面の全てを含む1つのブロックとして形成され、この誘電体ブロックに前記金属膜が一体化されている測定チップを用いて表面プラズモン共鳴分析を行うことができる。
【0020】
金属膜を構成する金属としては、表面プラズモン共鳴が生じ得るようなものであれば特に限定されない。好ましくは金、銀、銅、アルミニウム、白金等の自由電子金属が挙げられ、特に金が好ましい。それらの金属は単独又は組み合わせて使用することができる。また、上記金属膜への付着性を考慮して、基板と金属からなる層との間にクロム等からなる介在層を設けてもよい。
【0021】
金属膜の膜厚は任意であるが、例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、0.1nm以上500nm以下であるのが好ましく、特に1nm以上200nm以下であるのが好ましい。500nmを超えると、媒質の表面プラズモン現象を十分検出することができない。また、クロム等からなる介在層を設ける場合、その介在層の厚さは、0.1nm以上、10nm以下であるのが好ましい。
【0022】
金属膜の形成は常法によって行えばよく、例えば、スパッタ法、蒸着法、イオンプレーティング法、電気めっき法、無電解めっき法等によって行うことができる。
【0023】
金属膜は好ましくは基板上に配置されている。ここで、「基板上に配置される」とは、金属膜が基板上に直接接触するように配置されている場合のほか、金属膜が基板に直接接触することなく、他の層を介して配置されている場合をも含む意味である。本発明で使用することができる基板としては例えば、表面プラズモン共鳴測定装置用を考えた場合、一般的にはBK7等の光学ガラス、あるいは合成樹脂、具体的にはポリメチルメタクリレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィンポリマーなどのレーザー光に対して透明な材料からなるものが使用できる。このような基板は、好ましくは、偏光に対して異方性を示さずかつ加工性の優れた材料が望ましい。
【0024】
金属膜は、最表面に生理活性物質を固定化することができる官能基を有することが好ましい。ここで言う「最表面」とは、「金属膜から最も遠い側」という意味である。
【0025】
好ましい官能基としては−OH、−SH、−COOH、−NR1R2(式中、R1及びR2は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−CHO、−NR3NR1R2(式中、R1、R2及びR3は互いに独立に水素原子又は低級アルキル基を示す)、−NCO、−NCS、エポキシ基、またはビニル基などが挙げられる。ここで、低級アルキル基における炭素数は特に限定されないが、一般的にはC1〜C10程度であり、好ましくはC1〜C6である。
【0026】
最表面にそれらの官能基を導入する方法としては、例えば、それらの官能基の前駆体を含有する高分子を金属表面あるいは金属膜上にコーティングした後、化学処理により最表面に位置する前駆体からそれらの官能基を生成させる方法が挙げられる。
【0027】
上記のようにして得られた測定チップにおいて、上記の官能基を介して生理活性物質を共有結合させることによって、金属膜に生理活性物質を固定化することができる。
【0028】
本発明の測定チップの表面上に固定される生理活性物質としては、測定対象物と相互作用するものであれば特に限定されず、例えば免疫蛋白質、酵素、微生物、核酸、低分子有機化合物、非免疫蛋白質、免疫グロブリン結合性蛋白質、糖結合性蛋白質、糖を認識する糖鎖、脂肪酸もしくは脂肪酸エステル、あるいはリガンド結合能を有するポリペプチドもしくはオリゴペプチドなどが挙げられる。
【0029】
免疫蛋白質としては、測定対象物を抗原とする抗体やハプテンなどを例示することができる。抗体としては、種々の免疫グロブリン、即ちIgG、IgM、IgA、IgE、IgDを使用することができる。具体的には、測定対象物がヒト血清アルブミンであれば、抗体として抗ヒト血清アルブミン抗体を使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を抗原とする場合には、例えば抗アトラジン抗体、抗カナマイシン抗体、抗メタンフェタミン抗体、あるいは病原性大腸菌の中でO抗原26、86、55、111 、157 などに対する抗体等を使用することができる。
【0030】
酵素としては、測定対象物又は測定対象物から代謝される物質に対して活性を示すものであれば、特に限定されることなく、種々の酵素、例えば酸化還元酵素、加水分解酵素、異性化酵素、脱離酵素、合成酵素等を使用することができる。具体的には、測定対象物がグルコースであれば、グルコースオキシダーゼを、測定対象物がコレステロールであれば、コレステロールオキシダーゼを使用することができる。また、農薬、殺虫剤、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、抗生物質、麻薬、コカイン、ヘロイン、クラック等を測定対象物とする場合には、それらから代謝される物質と特異的反応を示す、例えばアセチルコリンエステラーゼ、カテコールアミンエステラーゼ、ノルアドレナリンエステラーゼ、ドーパミンエステラーゼ等の酵素を使用することができる。
【0031】
微生物としては、特に限定されることなく、大腸菌をはじめとする種々の微生物を使用することができる。
核酸としては、測定の対象とする核酸と相補的にハイブリダイズするものを使用することができる。核酸は、DNA(cDNAを含む)、RNAのいずれも使用できる。DNAの種類は特に限定されず、天然由来のDNA、遺伝子組換え技術により調製した組換えDNA、又は化学合成DNAの何れでもよい。
低分子有機化合物としては通常の有機化学合成の方法で合成することができる任意の化合物が挙げられる。
【0032】
非免疫蛋白質としては、特に限定されることなく、例えばアビジン(ストレプトアビジン)、ビオチン又はレセプターなどを使用できる。
免疫グロブリン結合性蛋白質としては、例えばプロテインAあるいはプロテインG、リウマチ因子(RF)等を使用することができる。
糖結合性蛋白質としては、レクチン等が挙げられる。
脂肪酸あるいは脂肪酸エステルとしては、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、ステアリン酸エチル、アラキジン酸エチル、ベヘン酸エチル等が挙げられる。
【0033】
生理活性物質が抗体や酵素などの蛋白質又は核酸である場合、その固定化は、生理活性物質のアミノ基、チオール基等を利用し、金属表面の官能基に共有結合させることで行うことができる。
【0034】
上記のようにして生理活性物質を固定化した測定チップは、当該生理活性物質と相互作用する低分子化合物の検出のために使用することができる。
【0035】
表面プラズモン共鳴の現象は、ガラス等の光学的に透明な物質と金属薄膜層との境界から反射された単色光の強度が、金属の出射側にある試料の屈折率に依存することによるものであり、従って、反射された単色光の強度を測定することにより、試料を分析することができる。
【0036】
表面プラズモンが光波によって励起される現象を利用して、被測定物質の特性を分析する表面プラズモン測定装置としては、Kretschmann配置と称される系を用いるものが挙げられる(例えば特開平6−167443号公報参照)。上記の系を用いる表面プラズモン測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されて試料液などの被測定物質に接触させられる金属膜と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して表面プラズモン共鳴の状態、つまり全反射減衰の状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0037】
なお上述のように種々の入射角を得るためには、比較的細い光ビームを入射角を変化させて上記界面に入射させてもよいし、あるいは光ビームに種々の角度で入射する成分が含まれるように、比較的太い光ビームを上記界面に収束光状態であるいは発散光状態で入射させてもよい。前者の場合は、入射した光ビームの入射角の変化に従って、反射角が変化する光ビームを、上記反射角の変化に同期して移動する小さな光検出器によって検出したり、反射角の変化方向に沿って延びるエリアセンサによって検出することができる。一方後者の場合は、種々の反射角で反射した各光ビームを全て受光できる方向に延びるエリアセンサによって検出することができる。
【0038】
上記構成の表面プラズモン測定装置において、光ビームを金属膜に対して全反射角以上の特定入射角で入射させると、該金属膜に接している被測定物質中に電界分布をもつエバネッセント波が生じ、このエバネッセント波によって金属膜と被測定物質との界面に表面プラズモンが励起される。エバネッセント光の波数ベクトルが表面プラズモンの波数と等しくて波数整合が成立しているとき、両者は共鳴状態となり、光のエネルギーが表面プラズモンに移行するので、誘電体ブロックと金属膜との界面で全反射した光の強度が鋭く低下する。この光強度の低下は、一般に上記光検出手段により暗線として検出される。なお上記の共鳴は、入射ビームがp偏光のときにだけ生じる。したがって、光ビームがp偏光で入射するように予め設定しておく必要がある。
【0039】
この全反射減衰(ATR)が生じる入射角、すなわち全反射減衰角(θSP)より表面プラズモンの波数が分かると、被測定物質の誘電率が求められる。この種の表面プラズモン測定装置においては、全反射減衰角(θSP)を精度良く、しかも大きなダイナミックレンジで測定することを目的として、特開平11−326194号公報に示されるように、アレイ状の光検出手段を用いることが考えられている。この光検出手段は、複数の受光素子が所定方向に配設されてなり、前記界面において種々の反射角で全反射した光ビームの成分をそれぞれ異なる受光素子が受光する向きにして配設されたものである。
【0040】
そしてその場合は、上記アレイ状の光検出手段の各受光素子が出力する光検出信号を、該受光素子の配設方向に関して微分する微分手段が設けられ、この微分手段が出力する微分値に基づいて全反射減衰角(θSP)を特定し、被測定物質の屈折率に関連する特性を求めることが多い。
【0041】
また、全反射減衰(ATR)を利用する類似の測定装置として、例えば「分光研究」第47巻 第1号(1998)の第21〜23頁および第26〜27頁に記載がある漏洩モード測定装置も知られている。この漏洩モード測定装置は基本的に、例えばプリズム状に形成された誘電体ブロックと、この誘電体ブロックの一面に形成されたクラッド層と、このクラッド層の上に形成されて、試料液に接触させられる光導波層と、光ビームを発生させる光源と、上記光ビームを上記誘電体ブロックに対して、該誘電体ブロックとクラッド層との界面で全反射条件が得られるように種々の角度で入射させる光学系と、上記界面で全反射した光ビームの強度を測定して導波モードの励起状態、つまり全反射減衰状態を検出する光検出手段とを備えてなるものである。
【0042】
上記構成の漏洩モード測定装置において、光ビームを誘電体ブロックを通してクラッド層に対して全反射角以上の入射角で入射させると、このクラッド層を透過した後に光導波層においては、ある特定の波数を有する特定入射角の光のみが導波モードで伝搬するようになる。こうして導波モードが励起されると、入射光のほとんどが光導波層に取り込まれるので、上記界面で全反射する光の強度が鋭く低下する全反射減衰が生じる。そして導波光の波数は光導波層の上の被測定物質の屈折率に依存するので、全反射減衰が生じる上記特定入射角を知ることによって、被測定物質の屈折率や、それに関連する被測定物質の特性を分析することができる。
【0043】
なおこの漏洩モード測定装置においても、全反射減衰によって反射光に生じる暗線の位置を検出するために、前述したアレイ状の光検出手段を用いることができ、またそれと併せて前述の微分手段が適用されることも多い。
【0044】
また、上述した表面プラズモン測定装置や漏洩モード測定装置は、創薬研究分野等において、所望のセンシング物質に結合する特定物質を見いだすランダムスクリーニングへ使用されることがあり、この場合には前記薄膜層(表面プラズモン測定装置の場合は金属膜であり、漏洩モード測定装置の場合はクラッド層および光導波層)上に上記被測定物質としてセンシング物質を固定し、該センシング物質上に種々の被検体が溶媒に溶かされた試料液を添加し、所定時間が経過する毎に前述の全反射減衰角(θSP)の角度を測定している。
【0045】
試料液中の被検体が、センシング物質と結合するものであれば、この結合によりセンシング物質の屈折率が時間経過に伴って変化する。したがって、所定時間経過毎に上記全反射減衰角(θSP)を測定し、該全反射減衰角(θSP)の角度に変化が生じているか否か測定することにより、被検体とセンシング物質の結合状態を測定し、その結果に基づいて被検体がセンシング物質と結合する特定物質であるか否かを判定することができる。
【0046】
なお、被検体とセンシング物質の結合状態を測定するためには、全反射減衰角(θSP)の角度そのものを必ずしも検出する必要はない。例えばセンシング物質に試料液を添加し、その後の全反射減衰角(θSP)の角度変化量を測定して、その角度変化量の大小に基づいて結合状態を測定することもできる。前述したアレイ状の光検出手段と微分手段を全反射減衰を利用した測定装置に適用する場合であれば、微分値の変化量は、全反射減衰角(θSP)の角度変化量を反映しているため、微分値の変化量に基づいて、センシング物質と被検体との結合状態を測定することができる(本出願人による特願2000−398309号参照)。このような全反射減衰を利用した測定方法および装置においては、底面に予め成された薄膜層上にセンシング物質が固定されたカップ状あるいはシャーレ状の測定チップに、溶媒と被検体からなる試料液を滴下供給して、上述した全反射減衰角(θSP)の角度変化量の測定を行っている。
【0047】
さらに、ターンテーブル等に搭載された複数個の測定チップの測定を順次行うことにより、多数の試料についての測定を短時間で行うことができる全反射減衰を利用した測定装置が、特開2001−330560号公報に記載されている。
【0048】
以下の実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0049】
<測定表面の作成>
生理活性物質固定化用チップ(CM5:ビアコア社製)を表面プラズモン共鳴バイオセンサー(ビアコア社製、BIACORE3000)のカートリッジブロック上に設置し、1−エチル−2,3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド(400mM)とN−ヒドロキシスクシンイミド(100mM)との混合液100μlを流速10μl/minで測定セルに流した。次に、チロシナーゼ(バイオジェネシス社製)溶液(100μg/ml、Acetate5.0(ビアコア社製、pH7.4))100μlを流速10μl/minで測定セルに注入することで、チロシナーゼを共有結合で固定化した。その後、エタノールアミン・HCl溶液(1M、pH8.5)100μLを流速10μL/minで測定セルに流すことにより残存したCOOH基をブロックした。チロシナーゼの固定量は、4000RUであった。
【0050】
次に、アルブチン(和光純薬製)を1質量%となるように添加した麦芽抽出物(和光純薬(株)製)を遠心分離して上澄み液を回収し、回収した上澄み液を凍結乾燥して粉末を得た。この粉末を、DMSOを10質量%含む等張のリン酸緩衝液で抽出することによって溶液Aを調製した。
【0051】
アルブチンを含まない麦芽抽出物を上記と同様に処理することによって溶液Bを調製した。
【0052】
また、アルブチン(和光純薬製)を1質量%となるように添加した麦芽抽出物(和光純薬(株)製)を遠心分離して上澄み液を回収し、回収した上澄み液を凍結乾燥して粉末を得た。この粉末をDMSOを含まないリン酸緩衝液で抽出したのち、DMSOを10質量%となるように添加することによって、等張の溶液Cを調製した。
【0053】
溶液A、B及びC各100μlをチロシナーゼを固定したチップ上に流速10μl/minで注入した。溶液B及び溶液Cでは、結合信号は検出できなかったが、溶液Aでは、信号が約20RU検出された。
【0054】
以上の結果から、DMSO水溶液による抽出によって低分子化合物を含む抽出物を調製する本発明の方法によって、天然物からの抽出物が、ターゲットとなる生理活性物質と相互作用する成分を含むか含まないかの判定が可能であり、本発明の方法が低分子化合物の有効なスクリーニング方法であることが実証された。
【0055】
また、Biacore社SurfacePrepUnitを使用することによって生理活性物質に結合した低分子化合物を回収することも可能であり、MS測定によりアルブチンに対応する分子量272のピークが観測された。即ち、低分子化合物の場合は、MSの手法を用いて構造を決定することができることが分かった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然物又はそれに由来する試料をDMSO(ジメチルスルフォキサイド)水溶液で抽出することにより低分子化合物を含む抽出物を調製する工程、及び得られた抽出物と生理活性物質とを接触し、生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する工程を含む、生理活性物質と相互作用する低分子化合物のスクリーニング方法。
【請求項2】
DMSO水溶液の濃度が1質量%以上20質量%以下である、請求項1に記載のスクリーニング方法。
【請求項3】
天然物又はそれに由来する試料を乾燥粉末化し、得られた粉末をDMSO水溶液で抽出することによって低分子化合物を含む抽出物を調製する、請求項1又は2に記載のスクリーニング方法。
【請求項4】
天然物又はそれに由来する試料を遠心分離した上澄み液を乾燥粉末化し、得られた粉末をDMSO水溶液で抽出することによって低分子化合物を含む抽出物を調製する、請求項1から3の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項5】
表面プラズモン共鳴分析により生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する、請求項1から4の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項6】
生理活性物質を固定化した基板に低分子化合物を含む抽出物を接触させ、表面プラズモン共鳴分析により生理活性物質と相互作用する低分子化合物を検出する、請求項1から5の何れかに記載のスクリーニング方法。
【請求項7】
生理活性物質と相互作用する低分子化合物の構造を質量分析法により決定することをさらに含む、請求項1から6の何れかに記載のスクリーニング方法。




【公開番号】特開2007−85769(P2007−85769A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−272103(P2005−272103)
【出願日】平成17年9月20日(2005.9.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】