説明

生理活性物質ビセライドA、ビセライドB及びビセライドC、それらの製造法並びにそれらの用途

【課題】薬剤耐性癌細胞に対して有効な新規な抗癌剤。
【解決手段】下記式(I)


で表される生理活性物質ビセライドA、若しくは下記式(II)


で表される生理活性物質ビセライドB、若しくは下記式(III)


で表される生理活性物質ビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医薬、特に細胞増殖阻害剤として有用な新規ビセライド誘導体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、抗癌剤としては、非特許文献1に示されているように、アドリアマイシン、シスプラチン、タキソール、ビンクリスチン等が知られている。しかしこれら抗癌剤に対して耐性を示す多剤耐性癌も多く認められており、治療上の問題となっている。
【0003】
一方、ウニ受精卵の細胞分裂を阻害する物質として海洋生物等より単離されたトリデカノリド誘導体の癌細胞に対する増殖抑制効果が、特許文献1には記載されている。しかしヒト癌細胞、特に固形癌に対して直接増殖抑制作用を示すかはこれまで知られておらず、まして臨床上問題となっている多剤耐性癌細胞に有効であるかは不明であった。
【0004】
【特許文献1】特開2000−229977号公報
【非特許文献1】塚越 茂、癌化学療法の変遷、癌と化学療法 26:Supplement 1、23−31(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、医薬、特に抗癌剤として有用な新規細胞増殖阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、海洋原索動物の一種であるホヤが産生する新規生理活性物質ビセライドA、ビセライドB及びビセライドCまたはそれらの薬理学上許容される塩が細胞の増殖を阻害することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は
(1)下記式(I)
【0008】
【化1】

【0009】
で表される生理活性物質ビセライドA、若しくは下記式(II)
【0010】
【化2】

【0011】
で表される生理活性物質ビセライドB、若しくは下記式(III)
【0012】
【化3】

【0013】
で表される生理活性物質ビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩、
(2)下記の理化学的性質をもつ生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩
【0014】
a)ビセライドA
1)分子式:C253310Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定)
2)分子量:528.98(ESI−MS法により測定した(M+Na)=551.1654)
3)水素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 6.08 (dd、J = 10.8、7.1 Hz、1H)、5.84 (dd、J = 11.1、5.2 Hz、1H)、5.38 (d、J = 8.6 Hz、1H)、5.32 (m、1H)、5.30 (m、1H)、4.96 (d、J = 12.9 Hz、1H)、4.70 (d、J = 12.9 Hz、1H)、4.53 (t、J = 8.6 Hz、1H)、3.94 (m、1H)、3.91 (dd、J = 8.6、3.7 Hz、1 H)、3.55 (m、1H)、3.04 (s、2H)、2.88 (dd、J = 12.0、5.2 Hz、1H)、2.83 (dd、J = 12.0、11.1 Hz、1H)、2.61 (m、1H)、2.45 (m、1H)、2.31 (m、1H)、2.28 (m、1H)、2.09 (m、1H)、2.07 (s、3H)、2.02 (s、3H)、1.82 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.39 (m、1H)
4)炭素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 175.4、172.5、171.1、169.4、135.9、135.0、134.0、133.6、130.7、125.8、84.5、78.1、76.7、67.8、66.5、65.5、45.7、38.8、38.7、35.5、29.0、27.7、21.0、20.9、17.3
5)呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性、
【0015】
b)ビセライドB
1)分子式:C303911Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定)
2)分子量:611.08(ESI−MS法により測定した(M+Na)=633.2071)
3)水素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 6.31 (s、1H)、6.10 (s、1H)、6.08 (dd、J = 10.9、7.3 Hz、1H)、5.83 (dd、J = 11.2、5.0 Hz、1H)、5.39 (d、J = 8.7 Hz、1H)、5.32 (m、1H)、5.30 (m、1H)、4.96 (d、J = 13.0 Hz、1H)、4.82 (d、J = 13.9 Hz、1H)、4.76 (d、J = 13.9 Hz、1H)、4.70 (d、J = 13.0 Hz、1H)、4.53 (t、J = 8.7 Hz、1H)、3.92 (m、1H)、3.90 (dd、J = 8.7、3.7 Hz、1H)、3.54 (m、1H)、3.12 (s、2H)、2.88 (dd、J = 12.5、5.0 Hz、1H)、2.83 (dd、J = 12.5、11.2 Hz、1H)、2.61 (m、1H)、2.45 (m、1H)、2.36 (m、3H)、2.30 (m、1H)、2.27 (m、1H)、2.08 (m、1H)、2.07 (s、3H)、2.02 (s、3H)、1.81 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.38 (m、1H)
4)呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性、
【0016】
c)ビセライドC
1)分子式:C2331Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定)
2)分子量:486.94(ESI−MS法により測定した(M+Na)=509.1531)
3)水素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 6.04 (dd、J = 10.8、7.3 Hz、1H)、5.85 (dd、J = 11.6、4.5 Hz、1H)、5.38 (d、J = 8.6 Hz、1H)、5.31 (m、1H)、5.29 (m、1H)、4.53 (t、J = 8.6 Hz、1H)、4.35 (d、J = 14.5 Hz、1H)、4.31 (d、J = 14.5 Hz、1H)、3.95 (m、1H)、3.91 (dd、J = 8.6、3.7 Hz、1 H)、3.51 (m、1H)、3.04 (s、2H)、2.85 (dd、J = 12.0、4.5 Hz、1H)、2.79 (dd、J = 12.0、11.6 Hz、1H)、2.59 (m、1H)、2.46 (m、1H)、2.31 (m、1H)、2.28 (m、1H)、2.08 (m、1H)、2.03 (s、3H)、1.83 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.39 (m、1H)
4)炭素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 175.4、171.3、169.7、137.9、135.0、133.5、130.9、130.7、126.5、84.5、78.1、76.7、68.0、66.5、62.5、45.7、38.8、38.7、35.5、29.0、27.4、21.0、17.3
5)呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性、
【0017】
(3)(1)又は(2)に記載の生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩を有効成分とする医薬、
(4)(1)又は(2)に記載の生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩を有効成分とする細胞増殖阻害剤、
(5)(1)又は(2)に記載の生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩を有効成分とする抗癌剤、
(6)(1)又は(2)に記載の生理活性物質ビセライドA及び/又はビセライドB及び/又はビセライドCを生産する能力を有するホヤより、生理活性物質ビセライドA及び/又はビセライドB及び/又はビセライドCを採取することを特徴とする生理活性物質ビセライドA及び/又はビセライドB及び/又はビセライドCの製造法、
に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明のビセライドA、ビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩は、細胞増殖抑制作用を示し、抗癌剤、特に多剤耐性能を示す癌に対する化学療法剤等として利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下に本発明の詳細について述べる。
【0020】
本発明のビセライドA、ビセライドB、若しくはビセライドC(以下ビセライド類という)はそれぞれ上記の物理化学的性質を有し、上記式(I)、式(II)、式(III)で表される。ビセライドAは、ビセライドCの一級の水酸基がアセトキシ基に、ビセライドBはビセライドAのカルボキシル基がエステル基に変換された構造である。
【0021】
本発明のビセライド類は、該ビセライド類を生産する海洋動物より採取することが可能である。ビセライド類を生産する海洋動物として、海洋原索動物の一種であるホヤ、好ましくはDidemnidae科のホヤが挙げられる。
ビセライド類は、通常物質の採取に用いられる方法、たとえば吸着クロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー等を適宜組み合わせ、あるいは必要に応じてそれらを繰り返すことによって純粋に単離することができる。
【0022】
本発明において薬理学上許容される塩とは、通常取り得る塩であれば特に限定されないが、例えばアルカリ金属との塩、即ち、ナトリウム塩、カリウム塩等が好ましい。
【0023】
本発明のビセライド類または薬理学上許容し得る塩を医薬として使用する場合は、単独または担体、賦形剤、希釈剤、溶解補助剤等の製薬上許容し得る添加剤と混合して粉剤、顆粒剤、錠剤、カブレット剤、カプセル剤、注射剤、座剤、軟膏剤等の製剤形態で、経口または非経口的(全身投与、局所投与等)に安全に投与される。製剤中の本発明化合物または製薬上許容し得る塩の含量は、製剤により種々異なるが、通常0.1〜100重量%であることが好ましい。投与量は投与経路、患者の年齢並びに予防または治療すべき実際の症状等により異なるが、例えば成人に経口投与する場合、有効成分として1日0.01mg〜2000mg、好ましくは0.01mg〜800mgとすることができ、1日1〜数回に分けて投与できる。
【0024】
ビセライド類又はそれらの薬理学上許容される塩に悪影響を与えない限り、医薬用に用いられる種々の医薬用添加剤、すなわち、担体やその他の助剤、例えば安定剤、防腐剤、無痛化剤、乳化剤等を製剤においては使用してもよい。該製剤において、ビセライド類又はそれらの薬理学上許容される塩の含量は製剤形態等により広範囲に変えることが可能であり、一般には0.01〜100%(重量)、好ましくは0.1〜70%(重量)含有する。
【0025】
ビセライド類又はそれらの薬理学上許容される塩を有効成分とする医薬品は、好ましくは細胞増殖阻害剤として胃癌、肺癌、大腸癌、膵臓癌、肝癌、卵巣癌、乳癌、前立腺癌、脳腫瘍、白血病等に用いられる抗癌剤として使用される。
【実施例】
【0026】
以下に本発明化合物の製造例について、実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。また、本発明化合物の有効性を示すために、本発明の代表化合物の薬理試験結果を試験例に示す。なお、実施例のMS(ESI)は、 Applied Biosystems QStar/Pulsar i spectrometerを使用し測定した値である。
【0027】
ビセライドA、ビセライドB、ビセライドCの単離
沖縄県本部町備瀬崎で採集したDidemnidae科のホヤ1.7kgをミキサーを用いて粉砕し、メタノール 2.0Lで5日間浸出した。この混合物を吸引ろ過し、ろ液を1Lの水混合物になるまで減圧濃縮した。得られたメタノール抽出物を酢酸エチル(3回×1.0L)で分配し、酢酸エチル層を減圧濃縮した。水層は500mLの水混合物になるまで濃縮し、更にn-ブタノール(3回×300mL)で分配し、n-ブタノール層を減圧濃縮して油状物を得た。酢酸エチル層から得られた油状物をさらに90%メタノール(500mL)とヘキサン(3回×500mL)で分配した。
【0028】
90%メタノール抽出物(1.5g)について、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(シリカゲル15.0g)を行った。吸着後クロロホルム75mLでカラムを洗浄し、以降クロロホルム/メタノールが20/1液75mL、10/1液75mL、5/1液75mL、2/1液75mL、1/1液200mLで順次溶出分離し、6画分を得た。第2溶出画分(536.8mg)を更に、Cosmosil 75C18−OPN(10.0g)を用いて、ODSシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行った。メタノール/水が60/40液30mL、80/20液30mL、80/20液30mL、及びメタノール200mLにより分離して4画分を得た。
【0029】
得られた第2溶出画分(27.0mg)について、Develosil ODS−HG−5(φ20mm×250mm)カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーを実施した。溶媒としてメタノール/水/トリフルオロ酢酸(70/30/0.1)を用い、流速5.0mLで行い、溶出物をUV215nmの吸収で検出した。3回の精製により、ビセライドA(溶出時間18.5分)を1.2mg、ビセライドB(溶出時間24.5分)を160μg得た。
【0030】
n−ブタノール抽出物(1.8g)について、Cosmosil 75C18−OPN(33.0g)を用いたODSシリカゲルカラムクロマトグラフィーを実施した。メタノール/水が60/40液100mL、80/20液100mL、80/20液100mL、及びメタノール200mLにより分離して、4画分を得た。得られた第1溶出画分(301.5mg)を、更にCosmosil 75C18−OPN(6.0g)によるODSシリカゲルカラムクロマトグラフィーにかけた。メタノール/水が20/80液30mL、80/20液30mL、及びメタノール100mLにより分離して3画分を得た。得られた第2溶出画分(80.4mg)をDevelosil ODS−HG−5(φ20mm×250mm)カラムを用いた高速液体クロマトグラフィーにより分離した。溶媒としてメタノール/水/トリフルオロ酢酸(55/45/0.1)液を用い、流速5.0mL/分で行い、溶出物をUV215nmの吸収で検出した。精製操作を5回行い、ビセライドC(溶出時間30.1分)を1.9mg得た。
【0031】
以下にビセライドA、ビセライドB、ビセライドCの理化学的性質を示す。なお、アニスアルデヒドによる呈色反応試験は該ビセライド誘導体をシリカゲルプレートに吸着させ、p−アニスアルデヒド(和光純薬工業株式会社)(9.3mL)、酢酸(3.8mL)をエタノール(340mL)に溶かし、濃硫酸(12.5mL)を添加したアニスアルデヒド溶液を噴霧し、ホットプレート上で加熱して行った。
【0032】
a)ビセライドA
H−NMR(CDOD)δ (ppm): 6.08 (dd、J = 10.8、7.1 Hz、1H)、5.84 (dd、J = 11.1、5.2 Hz、1H)、5.38 (d、J = 8.6 Hz、1H)、5.32 (m、1H)、5.30 (m、1H)、4.96 (d、J = 12.9 Hz、1H)、4.70 (d、J = 12.9 Hz、1H)、4.53 (t、J = 8.6 Hz、1H)、3.94 (m、1H)、3.91 (dd、J = 8.6、3.7 Hz、1 H)、3.55 (m、1H)、3.04 (s、2H)、2.88 (dd、J = 12.0、5.2 Hz、1H)、2.83 (dd、J = 12.0、11.1 Hz、1H)、2.61 (m、1H)、2.45 (m、1H)、2.31 (m、1H)、2.28 (m、1H)、2.09 (m、1H)、2.07 (s、3H)、2.02 (s、3H)、1.82 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.39 (m、1H)
14C−NMR(CDOD)δ (ppm): 175.4、172.5、171.1、169.4、135.9、135.0、134.0、133.6、130.7、125.8、84.5、78.1、76.7、67.8、66.5、65.5、45.7、38.8、38.7、35.5、29.0、27.7、21.0、20.9、17.3
MS(ESI、POS):
m/z:found,551.1654(M+Na)
Calcd.for C253310Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定),528.98
呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性。
【0033】
b)ビセライドB
H−NMR(CDOD)δ (ppm): 6.31 (s、1H)、6.10 (s、1H)、6.08 (dd、J = 10.9、7.3 Hz、1H)、5.83 (dd、J = 11.2、5.0 Hz、1H)、5.39 (d、J = 8.7 Hz、1H)、5.32 (m、1H)、5.30 (m、1H)、4.96 (d、J = 13.0 Hz、1H)、4.82 (d、J = 13.9 Hz、1H)、4.76 (d、J = 13.9 Hz、1H)、4.70 (d、J = 13.0 Hz、1H)、4.53 (t、J = 8.7 Hz、1H)、3.92 (m、1H)、3.90 (dd、J = 8.7、3.7 Hz、1H)、3.54 (m、1H)、3.12 (s、2H)、2.88 (dd、J = 12.5、5.0 Hz、1H)、2.83 (dd、J = 12.5、11.2 Hz、1H)、2.61 (m、1H)、2.45 (m、1H)、2.36 (m、3H)、2.30 (m、1H)、2.27 (m、1H)、2.08 (m、1H)、2.07 (s、3H)、2.02 (s、3H)、1.81 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.38 (m、1H)
MS(ESI、POS):
m/z:found,633.2071(M+Na)
Calcd.for C303911Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定),611.08
呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性。
【0034】
c)ビセライドC
H−NMR(CDOD)δ (ppm): 6.04 (dd、J = 10.8、7.3 Hz、1H)、5.85 (dd、J = 11.6、4.5 Hz、1H)、5.38 (d、J = 8.6 Hz、1H)、5.31 (m、1H)、5.29 (m、1H)、4.53 (t、J = 8.6 Hz、1H)、4.35 (d、J = 14.5 Hz、1H)、4.31 (d、J = 14.5 Hz、1H)、3.95 (m、1H)、3.91 (dd、J = 8.6、3.7 Hz、1 H)、3.51 (m、1H)、3.04 (s、2H)、2.85 (dd、J = 12.0、4.5 Hz、1H)、2.79 (dd、J = 12.0、11.6 Hz、1H)、2.59 (m、1H)、2.46 (m、1H)、2.31 (m、1H)、2.28 (m、1H)、2.08 (m、1H)、2.03 (s、3H)、1.83 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.39 (m、1H)
14C−NMR(CDOD)δ (ppm): 175.4、171.3、169.7、137.9、135.0、133.5、130.9、130.7、126.5、84.5、78.1、76.7、68.0、66.5、62.5、45.7、38.8、38.7、35.5、29.0、27.4、21.0、17.3
MS(ESI、POS)
m/z:found,509.1531(M+Na)
Calcd.for C2331Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定),486.94
呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性。
【0035】
試験例
以下に本発明のビセライド類の生理活性について述べる。
【0036】
細胞増殖抑制作用
試験例1
10%牛胎児血清(Moregate社製)を添加したRPMI1640培地(イワキ社製)を用いて、ヒト乳癌細胞MDA−MB−231(ATCC)、又はヒト肺癌細胞NCI−H460(ATCC)を37℃、5%CO下で培養した。これらの細胞をMDA−MB−231は1ウェルあたり4000個、NCI−H460は1ウェルあたり1500個ずつをそれぞれ96穴プレートへ播種し、1日間培養した後、ビセライドA、ビセライドB、及びビセライドCを添加した。また対照としてシスプラチン(日本化薬株式会社)を添加した。更に3日間培養した後、細胞をメタノールで固定し、メチレンブルー色素を用いて染色した。染色後色素を0.3%塩酸水にて抽出し、660nmの吸光度を測定し、後述の方法により増殖阻害活性の指標としてIC50値を求めた。増殖阻害活性は、化合物を添加しない細胞の吸光度に対する化合物添加群の吸光度の減少率で表され、用量−反応曲線からIC50値を求め、その値を表1に示した。
【0037】
IC50値は薬剤無処理の細胞から得られた吸光度:C、細胞無添加のウェルから得られた吸光度:B、薬剤処理の細胞から得られた吸光度:Tより以下の数式(I)を用いて薬剤処理による増殖阻害率を求めた。
【0038】
薬剤処理による増殖阻害率=100−100×(T−B)/(C−B) (I)
【0039】
次に、log(薬剤濃度)をX軸、各薬剤濃度における増殖阻害率をY軸に、Y軸値が50を挟み、かつ相関係数が0.9以上となるような複数の点を選択してY=aX+bの式に直線回帰した後、以下の数式(II)に値を代入し、IC50を求めた。
【0040】
IC50=10(50−b)/a (II)
【0041】
結果
表1
ビセライドA、ビセライドB、ビセライドC及びシスプラチンの細胞増殖抑制作用
IC50(μM)
細胞種
化合物 MDA−MB−231 NCI−H460
ビセライドA 2.29 2.12
ビセライドB 0.44 1.00
ビセライドC 20.23 15.50
シスプラチン 5.11 0.44
【0042】
以上の結果から明らかな様に、ビセライドA、ビセライドB及びビセライドCは、哺乳動物の癌細胞に対する細胞増殖抑制作用を示した。
【0043】
試験例2
10%牛胎児血清(Moregate社製)を添加したRPMI1640培地(イワキ社製)を用いて、ヒト乳癌細胞MDA−MB−231、ヒト肺癌細胞HOP18(ATCC)、ヒト肺癌細胞NCI−H460、又はヒト大腸癌細胞DLD−1(国立衛生試験所)を37℃、5%CO下で培養した。MDA−MB−231及びNCI−H460は実験1と同数、HOP18は1ウェルあたり5000個、DLD−1は1ウェルあたり2000個をそれぞれ96穴プレートへ播種し、1日間培養した後、ビセライドA、ビセライドC、またはアドリアマイシン(協和発酵株式会社)を添加した。更に3日間培養した後、細胞をメタノールで固定し、メチレンブルー色素を用いて染色した。染色後色素を0.3%塩酸にて抽出し、660nmの吸光度を測定し、上記の方法によりIC50値を求め、その値を表2に示した。
【0044】
10%牛胎児血清を添加したRPMI1640培地を用いて、マウスリンパ性白血病細胞P388(癌研究所)又はそのアドリアマイシン耐性株P388/ADR(癌研究所)を、37℃、5%CO下で培養した。この細胞を96穴プレートへ播種し、1日間培養した後、ビセライドA、ビセライドBまたはアドリアマイシンを添加した。更に2日間培養した後、0.16mg/mL WST−1(同仁化学研究所社製)及び3.3μg/mL 1−methoxy−5−methyl phenazinium methylsulfate(同仁化学研究所社製)を培養液に加え、4時間培養した。450nmの吸光度から660nmの吸光度を減じた値を求め、上記の方法によりIC50値を求め、その値を表2に示した。
【0045】
結果
表2
ビセライドA、ビセライドC及びアドリアマイシンの細胞増殖抑制作用
細胞名 IC50(μM)
化合物
細胞種 ビセライドA ビセライドC アドリアマイシン
MDA−MB−231 3.72 25.5 0.186
HOP18 9.35 82.7 0.159
NCI−H460 3.54 18.0 0.00823
DLD−1 0.513 17.1 0.190
P388 3.72 21.2 0.0252
P388/ADR 7.78 34.6 5.79
【0046】
以上の結果から明らかな様に、ビセライドA及びビセライドCは、哺乳動物の癌細胞に対する細胞増殖抑制作用を有し、多剤耐性癌細胞(P388/ADR)に対しても感受性細胞(P388)とほぼ同程度の細胞増殖阻害作用を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

で表される生理活性物質ビセライドA、若しくは下記式(II)
【化2】

で表される生理活性物質ビセライドB、若しくは下記式(III)
【化3】

で表される生理活性物質ビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩。
【請求項2】
下記の理化学的性質をもつ生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩
a)ビセライドA
1)分子式:C253310Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定)
2)分子量:528.98(ESI−MS法により測定した(M+Na)=551.1654)
3)水素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 6.08 (dd、J = 10.8、7.1 Hz、1H)、5.84 (dd、J = 11.1、5.2 Hz、1H)、5.38 (d、J = 8.6 Hz、1H)、5.32 (m、1H)、5.30 (m、1H)、4.96 (d、J = 12.9 Hz、1H)、4.70 (d、J = 12.9 Hz、1H)、4.53 (t、J = 8.6 Hz、1H)、3.94 (m、1H)、3.91 (dd、J = 8.6、3.7 Hz、1 H)、3.55 (m、1H)、3.04 (s、2H)、2.88 (dd、J = 12.0、5.2 Hz、1H)、2.83 (dd、J = 12.0、11.1 Hz、1H)、2.61 (m、1H)、2.45 (m、1H)、2.31 (m、1H)、2.28 (m、1H)、2.09 (m、1H)、2.07 (s、3H)、2.02 (s、3H)、1.82 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.39 (m、1H)
4)炭素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 175.4、172.5、171.1、169.4、135.9、135.0、134.0、133.6、130.7、125.8、84.5、78.1、76.7、67.8、66.5、65.5、45.7、38.8、38.7、35.5、29.0、27.7、21.0、20.9、17.3
5)呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性。
b)ビセライドB
1)分子式:C303911Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定)
2)分子量:611.08(ESI−MS法により測定した(M+Na)=633.2071)
3)水素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 6.31 (s、1H)、6.10 (s、1H)、6.08 (dd、J = 10.9、7.3 Hz、1H)、5.83 (dd、J = 11.2、5.0 Hz、1H)、5.39 (d、J = 8.7 Hz、1H)、5.32 (m、1H)、5.30 (m、1H)、4.96 (d、J = 13.0 Hz、1H)、4.82 (d、J = 13.9 Hz、1H)、4.76 (d、J = 13.9 Hz、1H)、4.70 (d、J = 13.0 Hz、1H)、4.53 (t、J = 8.7 Hz、1H)、3.92 (m、1H)、3.90 (dd、J = 8.7、3.7 Hz、1H)、3.54 (m、1H)、3.12 (s、2H)、2.88 (dd、J = 12.5、5.0 Hz、1H)、2.83 (dd、J = 12.5、11.2 Hz、1H)、2.61 (m、1H)、2.45 (m、1H)、2.36 (m、3H)、2.30 (m、1H)、2.27 (m、1H)、2.08 (m、1H)、2.07 (s、3H)、2.02 (s、3H)、1.81 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.38 (m、1H)
4)呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性。
c)ビセライドC
1)分子式:C2331Cl(高分解能質量スペクトル(HRMS)法により測定)
2)分子量:486.94(ESI−MS法により測定した(M+Na)=509.1531)
3)水素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 6.04 (dd、J = 10.8、7.3 Hz、1H)、5.85 (dd、J = 11.6、4.5 Hz、1H)、5.38 (d、J = 8.6 Hz、1H)、5.31 (m、1H)、5.29 (m、1H)、4.53 (t、J = 8.6 Hz、1H)、4.35 (d、J = 14.5 Hz、1H)、4.31 (d、J = 14.5 Hz、1H)、3.95 (m、1H)、3.91 (dd、J = 8.6、3.7 Hz、1 H)、3.51 (m、1H)、3.04 (s、2H)、2.85 (dd、J = 12.0、4.5 Hz、1H)、2.79 (dd、J = 12.0、11.6 Hz、1H)、2.59 (m、1H)、2.46 (m、1H)、2.31 (m、1H)、2.28 (m、1H)、2.08 (m、1H)、2.03 (s、3H)、1.83 (s、3H)、1.53 (m、1H)、1.39 (m、1H)
4)炭素核磁気共鳴スペクトル(溶媒CDOD):
δ (ppm): 175.4、171.3、169.7、137.9、135.0、133.5、130.9、130.7、126.5、84.5、78.1、76.7、68.0、66.5、62.5、45.7、38.8、38.7、35.5、29.0、27.4、21.0、17.3
5)呈色反応:アニスアルデヒド−硫酸に陽性。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩を有効成分とする医薬。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩を有効成分とする細胞増殖阻害剤。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の生理活性物質ビセライドA、若しくはビセライドB、若しくはビセライドC、又はそれらの薬理学上許容される塩を有効成分とする抗癌剤。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の生理活性物質ビセライドA及び/又はビセライドB及び/又はビセライドCを生産する能力を有するホヤより、生理活性物質ビセライドA及び/又はビセライドB及び/又はビセライドCを採取することを特徴とする生理活性物質ビセライドA及び/又はビセライドB及び/又はビセライドCの製造法。

【公開番号】特開2006−69947(P2006−69947A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−254312(P2004−254312)
【出願日】平成16年9月1日(2004.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成16年3月11日 社団法人日本化学会発行の「日本化学会第84春季年会 講演予稿集2」に発表
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】