説明

生理活性物質含有粒子の製造方法

【課題】水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する薬物について、製剤操作上簡便な方法により、溶出性が改善された固形製剤を提供すること。
【解決手段】水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成する生理活性物質粒子に水溶性添加剤微粒子又は不溶性添加剤微粒子を分散懸濁した水溶性高分子溶液を単層もしくは複数層被覆することにより、溶出性が改善された固形製剤の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する薬物を含有する製剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
薬物によっては、固形製剤化が困難な物性を示すものがある。たとえば、バルサルタン(日本医薬品一般名称)、もしくは薬学的に許容されるその塩は、水に難溶性であり、平均粒子径が5μm程度で見掛比重が0.01g/ml〜0.2g/mlと嵩高く、流動性は極めて悪い。さらに、水を添加することでその粒子表面に粘着性ゲル膜を形成し、粒子内部への水の浸透が阻害され、結果において、薬物の溶出が遅延する。
【0003】
従来技術の具体例として、特許文献1では、崩壊剤と結合剤の配合比率を最適化し、バルサルタン錠の小型化が図られている。特許文献2ではバルサルタンと添加剤を60μm〜600μmに粉砕・篩過したのち、崩壊剤と充填剤の配合比率を最適化し、バルサルタンカプセルに比べて1.2倍高いバイオアベイラビリティを示す組成物が示されている。特許文献3では充填剤、微結晶セルロースと崩壊剤、クロスポビドンの比率がバイオアベイラビリティ特性に影響を与えることが示されている。これらの製造法は非水下で打錠用粒子加工がなされているため(特許文献1〜3)、生産性が極めて悪い。また、湿式造粒法による製造が下記の2つの特許に記載されている。特許文献4ではバルサルタンの粒子径と結合剤、滑沢剤の比率がスティッキング、錠剤硬度、溶出性に影響を与えることを見出し、適切な比率を特定している。特許文献5では、乳糖を含まず、コアの水分を3%以下とすることで、溶出性が低下しないバルサルタン製剤を提供している。
しかしながら、湿式造粒法を用いた製造では、生産性、操作性の面から、未だ満足すべきものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−238637号公報
【特許文献2】特開2007−91758号公報
【特許文献3】特開2010−90169号公報
【特許文献4】WO 2006/066961号公報
【特許文献5】特表2010−535754号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する薬物について、製剤操作上簡便な方法により、溶出性が改善された固形製剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
通常の流動層造粒操作で、バルサルタン及びD-マンニトールにポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体〔大同化成工業社製POVACOAT(登録商標)の5%水溶液を用いて試作造粒を行ったところ、バルサルタンがやや撥水性であるため造粒の進行が緩慢であり、得られた造粒物は見掛比重が0.2以下と嵩高く、流動性が極めて悪い粒子であった。この粒子に崩壊剤及び滑沢剤を混合して打錠した錠剤の溶出試験を行った結果、バルサルタンの溶出率は15分で約5%と極めて低い値であった。崩壊状況を観察すると、粒子表面に形成されたバルサルタンに由来するゲル状膜を介して薬物粒子の相互付着により綿状の凝集粒子塊となり単位粒子に分散崩壊していない状態が観察された。このため塊状物内部からの溶出が緩慢で溶出率が低下していると推察された。そこで、バルサルタンを含有する造粒物に、不溶性添加剤微粒子を分散懸濁した水溶性高分子をスプレーして被覆し、得られた粒子に崩壊剤及び滑沢剤を混合して打錠した錠剤を製造した。この錠剤の溶出試験を行ったところ、バルサルタンに由来する綿状の凝集塊は解消され、15分後の溶出率は著しく改善される傾向が認められた。この知見に基づき、さらに改良を加え、本発明を完成することができた。
【0007】
すなわち、本発明によれば、下記(1)〜(6)の発明を提供することができる。
(1)水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成する生理活性物質粒子に水溶性添加剤微粒子又は不溶性添加剤微粒子を分散懸濁した水溶性高分子溶液を単層もしくは複数層被覆することを特長とする、溶出性が改善された固形製剤の製造方法。
(2)生理活性物質がバルサルタン、もしくは薬学的に許容されるその塩である(1)に記載の固形製剤。
(3)水溶性添加剤微粒子が糖類または糖アルコールである(1)及び(2)に記載の固形製剤。
(4)不溶性添加剤微粒子がタルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、硬化油又はフマル酸ステアリルナトリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である(1)及び(2)に記載の固形製剤。
(5)水溶性高分子がセルロース誘導体、ポビドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体又はポリビニルアルコールグラフトコポリマーからなる群より選ばれる1種または2種以上である(1)及び(2)に記載の固形製剤。
(6)固形製剤が口腔内崩壊錠である(1)〜(5)に記載の固形製剤。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、水との接触により粒子表層にゲル層膜を形成し、崩壊、溶出が遅延する生理活性物質に、水溶性添加剤微粒子又は不溶性添加剤微粒子を分散懸濁した水溶性高分子溶液を被覆することにより、製剤操作上簡便な方法で、ゲル層膜の形成による綿状の凝集塊を生じることなく、生理活性物質の溶出性を改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例3及び比較例1で得た錠剤について溶出試験(試験液:水、パドル回転数:50rpm)によりバルサルタンの溶出量を測定し、その結果を溶出率として示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施に当たり、流動層装置に仕込まれた粒子の粒子径や粒子物性に応じた適正な流動状態(特に過大風量は避ける)を確認しながら、粉体物性(粒子径・形状・溶解度等)に応じたスプレーミスト径・液の粘度等を選定する。
すなわち、流動する粒子サイズに対して、付着した結合剤液滴径が大きいと、近傍にある粒子と付着するが、このことは、粒子の運動エネルギーに起因する分離力とスプレー液滴による結合力とのバランスで決まる。すなわち、分離力が結合力より勝る場合では、粒子の付着・凝集は抑制され、分離力<結合力では、粒子は付着・凝集する。しかし、同じ液滴径であっても、初期の粒子サイズが小さい時には、付着・凝集に寄与しても、粒子径が有る大きさまで成長すると、質量の増加に伴い分離力が大きくなるので、粒子成長は抑制され、この結果粒度分布のシャープな造粒物が得られる。
【0011】
本発明において、液に配合する水溶性添加剤微粒子又は不溶性添加剤微粒子の平均粒子径は、造粒物の平均粒子径の約5.0μm程度以下が好ましい。これにより、バルサルタン粒子の表面がゲル化する速度を抑制し、分散性の良い粒子集合体に造粒すると、操作風量を増加させることで、粒子表面の付着凝集力も抑制され、流動化による分離力が強くなりさらなる造粒は抑制される。
【0012】
本発明において使用される賦形剤としては、結晶セルロース、トウモロコシ澱粉、バレイショ澱粉、部分アルファー化澱粉等が挙げられる。これら賦形剤はその一部、またはすべてを結合剤溶液中に溶解もしくは分散・懸濁しても良い。また、崩壊剤としては、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロースカルシウム、カルボシキメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、部分アルファー化デンプン及びクロスカルメロースナトリウム等の通常に固形製剤用として用いられる崩壊剤が挙げられるが、好ましくはクロスカルメロースナトリウムである。
【0013】
本発明において使用される糖類又は糖アルコールとしては、乳糖、トレハロース、D−マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、還元パラチノース、白糖、ショ糖、ブドウ糖等が挙げられ、これらは単品あるいは複数種を組み合わせて使用することも可能である。
その他、使用することができる製剤上の添加物としては、通常使用されている賦形剤、崩壊剤、結合剤、矯味矯臭剤、着色剤、等張化剤等その他の添加剤が適宜使用できる。さらに、これらの添加剤の表面を安定化剤等を用いて被覆して使用して良い。
【実施例】
【0014】
実施例1
バルサルタン200g及びD−マンニトール100gを混合し均一分散した後、噴流流動層造粒機(パウレック社製:MP−01−SPC型)に投入し、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体18.8gを精製水480gに溶解させた後、タルク101.3gを添加し、均一分散させた溶液をスプレー添加した。得られた造粒物168gに低置換度ヒドロキシプロピルセルロース69.6g及びステアリン酸マグネシウム2.4gを混合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
バルサルタン 80.0
D−マンニトール 40.0
タルク 40.5
ポリビニルアルコール・アクリル酸
・メタクリル酸メチル共重合体 7.5
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 69.6
ステアリン酸マグネシウム 2.4
【0015】
実施例2
バルサルタン200gを噴流流動層造粒機(パウレック社製:MP−01−SPC型)に投入し、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体18.8g及びD−マンニトール50gを精製水480gに溶解させた液をスプレー添加した。得られた造粒物107.5gに低置換度ヒドロキシプロピルセルロース46.5g及びステアリン酸マグネシウム1.0gを混合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
バルサルタン 80.0
D−マンニトール 20.0
ポリビニルアルコール・アクリル酸
・メタクリル酸メチル共重合体 7.5
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 46.5
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【0016】
実施例3
バルサルタン200g及びD−マンニトール50gを混合し均一分散した後、噴流流動層造粒機(パウレック社製:MP−01−SPC型)に投入し、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体18.8gを精製水480gに溶解させた後、タルク82.5gを添加し、均一分散させた溶液をスプレー添加した。得られた造粒物140.5gにクロスカルメロースナトリウム58.5g及びステアリン酸マグネシウム1.0gを混合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
バルサルタン 80.0
D−マンニトール 20.0
タルク 33.0
ポリビニルアルコール・アクリル酸
・メタクリル酸メチル共重合体 7.5
クロスカルメロースナトリウム 58.5
ステアリン酸マグネシウム 1.0
【0017】
実施例4
バルサルタン200g及びD−マンニトール50gを混合し均一分散した後、噴流流動層造粒機(パウレック社製:MP−01−SPC型)に投入し、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体18.8gを精製水480gに溶解させた後、ステアリン酸マグネシウム82.5gを添加し、均一分散させた溶液をスプレー添加した。得られた造粒物140.5gにクロスカルメロースナトリウム58.5g及びステアリン酸マグネシウム1.0gを混合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
バルサルタン 80.0
D−マンニトール 20.0
ポリビニルアルコール・アクリル酸
・メタクリル酸メチル共重合体 7.5
クロスカルメロースナトリウム 58.5
ステアリン酸マグネシウム 34.0
【0018】
比較例1
バルサルタン200g及びD−マンニトール100gを混合し均一分散した後、噴流流動層造粒機(パウレック社製:MP−01−SPC型)に投入し、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体18.8gを精製水480gに溶解させた溶液をスプレー添加した。得られた造粒物127.5gに低置換度ヒドロキシプロピルセルロース51.0g及びステアリン酸マグネシウム1.5gを混合して打錠し、下記組成の錠剤を得た。
[成 分] [1錠当たりの重量(mg)]
バルサルタン 80.0
D−マンニトール 40.0
ポリビニルアルコール・アクリル酸
・メタクリル酸メチル共重合体 7.5
低置換度ヒドロキシプロピルセルロース 51.0
ステアリン酸マグネシウム 1.5
【0019】
試験例1
実施例1〜4及び比較例1で得た錠剤について溶出試験(試験液水、パドル回転数50rpm)によりバルサルタンの溶出率を測定し、表1の結果を得た。
【表1】


表1の結果から、本発明に係る実施例1〜4の錠剤は、比較例1の錠剤と比べ、バルサルタンの溶出率を極めて効果的に改善し得ることが判った。
【産業上の利用可能性】
【0020】
水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成し、崩壊、溶出が遅延する生理活性物質粒子に水溶性添加剤微粒子又は不溶性添加剤微粒子を分散懸濁した水溶性高分子溶液を被覆することで、製剤操作上簡便な方法により、生理活性物質粒子表面のゲル化を抑制し、溶出性が改善された固形製剤を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水との接触により粒子表面に粘着性のゲル層を形成する生理活性物質粒子に水溶性添加剤微粒子又は不溶性添加剤微粒子を分散懸濁した水溶性高分子溶液を単層もしくは複数層被覆することを特長とする、溶出性が改善された固形製剤の製造方法。
【請求項2】
生理活性物質がバルサルタン、もしくは薬学的に許容されるその塩である請求項1に記載の固形製剤。
【請求項3】
水溶性添加剤微粒子が糖類または糖アルコールである請求項1及び2に記載の固形製剤。
【請求項4】
不溶性添加剤微粒子がタルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、硬化油又はフマル酸ステアリルナトリウムからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1及び2に記載の固形製剤。
【請求項5】
水溶性高分子がセルロース誘導体、ポビドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルアルコール・アクリル酸・メタクリル酸メチル共重合体又はポリビニルアルコールグラフトコポリマーからなる群より選ばれる1種または2種以上である請求項1及び2に記載の固形製剤。
【請求項6】
固形製剤が口腔内崩壊錠である請求項1〜5に記載の固形製剤。


【図1】
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【公開番号】特開2013−23463(P2013−23463A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−158671(P2011−158671)
【出願日】平成23年7月20日(2011.7.20)
【出願人】(593030071)大原薬品工業株式会社 (40)
【Fターム(参考)】