説明

生理活性物質徐放用材料

【課題】 薬剤の徐放性、安全性、及び、組織界面での生体親和性に優れる生理活性物質徐放用材料を提供すること。
【解決手段】 本発明の生理活性物質徐放用材料は、トリメチレンカーボネートと、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを構成単位とする共重合体からなり、前記トリメチレンカーボネートと前記糖類との単量体のモル比が99:1〜35:65であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ドラッグデリバリーシステム(薬物放出制御システム)に好適に使用することができる生理活性物質徐放用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体へ薬剤を効果的に、かつ、副作用を抑制しつつ投与するために、薬剤の血中濃度が一定期間、最低有効濃度と副作用発現濃度との間となるように、薬剤放出速度、薬剤放出量を制御し、製剤からの連続的放出を目的とするドラッグデリバリーシステムが提案されている。
しかしながら、多くの疾患で必要とされていることは体内の特定の組織又は部位(標的部位)に薬剤が有効濃度領域で維持されることであり、薬剤が一定の血中濃度で維持される時間的調節薬物送達システムでは、投与回数の削減と任意時間での徐放化は達成されるものの正常な細胞にも投与した薬剤が作用するため、ドラッグデリバリーシステムとしては改善の余地があった。
即ち、ドラッグデリバリーシステムには、時間的調節のみならず、空間的な調節であるターゲッティング(標的指向性)が併せて求められており、両者を達成させ、薬剤の副作用をさらに低減させることが求められている。
【0003】
標的部位に薬剤を集中させる方法としては、例えば、細胞表面の抗原を特異的に認識する抗体を用いた抗原抗体反応を利用する方法が提案されている。この方法では、薬剤を直接抗体と結合させたり、抗体と結合したリポソームに薬剤を含有させたりしている。
また他の方法としては、磁性体を含有させた薬剤を標的部位に磁場を与えて誘導させる方法や、薬剤を含有した微粒子が、その粒径により特定の臓器に集積する性質を利用する方法も提案されている。
しかしながら、これらの方法はin vitroの試験では効果を示したとしても、動物におけるin vivoの試験では、充分な効果を示さない、あるいは動物種での差が大きいとの問題があり、実用化が進んでいないのが現状である。
【0004】
これに対し、時間的調節とターゲッティング(標的指向性)との両者を達成するために、徐放化させた薬剤を局所投与する方法も提案されている。この方法では、薬剤が所定の濃度で標的部位と接触するため薬効を発現しつつ、副作用も低減させうる可能性がある。これに用いられる局所投与可能な徐放化薬剤とするため、適合する基材として種々の高分子材料が提案されている。
【0005】
具体的には、例えば、生体内で、非分解性かつ不溶性の材料であるエチレン−酢酸ビニル共重合体、シリコン樹脂等が基材として提案されている。
しかしながら、このような材料を生体内に局所投与した場合には、薬剤が放出された後も基材は残存することとなり、残存物が生体に影響を及ぼす場合にはこれを取り除く必要があった。
【0006】
また、水溶性ポリマーであるポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルセルロース、キトサン等を基材として用いる方法も提案されている。しかしながら、生体内で薬剤を含有した基材が短時間で溶解するため薬剤の放出量と速度とを調整することが困難であった。
【0007】
また、生体内で分解性を有する天然素材である、コラーゲン、ゼラチン、アルブミン、フィブリン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン等の多糖類を含む天然素材を基材として使用することも提案されている。
しかしながら、これら材料は、天然の素材であるが故に、組成、分子量、保水性等が一定せず、また、反応・精製処理の過程で抗原性等を有する物質の除去が完全に行われていないと使用時に免疫学的な問題を生じることがあった。加えて、これらの材料は親水性が高いため生体内の体液がマトリックス内に急速に浸透し、これによって薬剤の放出速度が不連続性を生ずるという問題もあった。
【0008】
更には、合成系の生分解性材料として、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリε−カプロラクトン、ポリトリメチレンカーボネート、又はこれらの共重合体等のヒドロキシカルボン酸を基本骨格とした脂肪族ポリエステル、脂肪族ポリカーボネートを使用することも提案されている(例えば、非特許文献1参照)。
しかしながら、これら脂肪族ポリエステル等と薬剤とからなる徐放化製剤では、薬剤の放出速度がポリマー中に浸透する水に対する薬剤の溶解速度を律速とするため、薬剤の放出が進行するに従いマトリックス表面からの薬剤の存在部位までの距離が長くなることで、薬剤の放出量と時間との調節が困難となるという問題あった。
更に、放出に際して徐放化薬剤の表面からの薬剤の初期突出を生ずる、及び、オリゴマーへの分解時に急激な薬剤放出が生ずる等、放出量が調節しにくいという問題も抱えていた。
【0009】
また、薬剤の放出を安定化させる基材として、グルコースやフルクトースとヒドロキシカルボン酸との反応生成物が提案されている。そして、このような反応生成物は、グルコース等のポリオールとポリ乳酸の親水性と疎水性のバランスによりデポ製剤に適することが示されている(例えば、特許文献1参照)。
しかしながら、ポリ乳酸のような脂肪族ポリエステルが基材中にセグメントとして存在すると、その剛直性により基材の組織界面に対する密着性が不充分となるため、標的部位で薬剤を効果的に細胞に導くには不十分であった。
【0010】
また、特許文献2には、生理活性物質徐放用材料として、トリメチレンカーボネートを90モル%以上含有する重合体が開示されている。
一般に、脂肪族ポリエステルやトリメチレンカーボネートのような脂肪族ポリカーボネートは、ポリエチレンテレフタレートやポリテトラフルオロエチレンと同様に細胞表面との接着性が劣ることが知られており、例えば、ティシュエンジニアリングに使用される培養足場としての脂肪族ポリエステルでは、細胞表面との接着性が低いことを改善するために、コラーゲンを足場表面にコーティングする方法が採用されている。
即ち、トリメチレンカーボネートを90モル%以上含有する重合体からなる生理活性物質徐放用材料では、細胞表面との接着性(細胞等への吸着し易さ)に劣る傾向にあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特公平8−19226号公報
【特許文献2】特開2003−306543号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】A. J. Domb, J. Kost, D. M. Wiseman, “Handbook of Biodegradable Polymers”, CRC Press(米), 1997, Vol. 7, p. 3〜202
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
このように、生理活性物質徐放用材料については、現在まで数多くの研究がなされているものの、薬剤の徐放性、安全性、及び、徐放化製剤と組織との界面での生体親和性の点で、生理活性物質徐放用材料に要求される特性が充分に満足されていないのが現状であった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究を重ね、その結果、トリメチレンカーボネートと特定の糖類とを構成単位とする共重合体が生理活性物質徐放用材料として極めて優れることを見出し、本発明を完成させた。
【0015】
即ち、本発明の生理活性物質徐放用材料は、トリメチレンカーボネートと、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを構成単位とする共重合体からなり、上記トリメチレンカーボネートと上記糖類との単量体のモル比が99:1〜35:65であることを特徴とする。
【0016】
また、上記糖類が含有するピラノース環及びフラノース環には、陰イオン性官能基が結合していないことが望ましい。
また、上記糖類は、還元性を有さない糖類であることが望ましい。
【0017】
上記生理活性物質徐放用材料において、上記糖類は、しょ糖、シュークロースモノカプレート、シュークロースモノラウレート、及び、メチルα−D−グルコシドからなる群から選択される少なくとも1種であることが望ましい。
また、上記生理活性物質徐放用材料において、上記共重合体中の金属含量は、0.5ppm(重量比)以下であることが望ましい。
【0018】
本発明の生理活性物質徐放用材料の製造方法は、トリメチレンカーボネートとピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを重合させる際に、金属触媒及び開始剤を添加しないことを特徴とする製造方法である。
【0019】
上記生理活性物質徐放用材料の製造方法おいては、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類と、溶融させたトリメチレンカーボネートとを、減圧下で重合させることが望ましい。また、この場合、重合反応を、20Pa以下の圧力下、及び、120℃以下の温度で行うことが望ましい。
【0020】
また、上記生理活性物質徐放用材料の製造方法おいては、トリメチレンカーボネートと、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを、水の存在下において、窒素雰囲気下で重合させることも望ましい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の生理活性物質徐放用材料は上述した構成からなるため、薬剤の徐放性、安全性及び、組織と徐放化製剤との界面での生体親和性に優れ、ドラッグデリバリーシステム用の基材として好適に使用することができる。
具体的には、トリメチレンカーボネートと特定の糖類との共重合体であるため薬剤の徐放性に優れることとなる。
この理由は、トリメチレンカーボネート由来の疎水性セグメントと糖類由来の親水性セグメントが結合していることで、親水基により生体内の水が表面だけでなく内部まで浸透し、薬剤が水に分散した拡散層の容積が大となる。そのため、濃度勾配が一定に保たれる領域が増加し、生理活性物質徐放用材料の外部の水層との薬剤の濃度勾配差が一定に保たれるからであると考えられる。
また、上記共重合体は、トリメチレンカーボネートのセグメントがポリマー鎖中に存在することで、 生理活性物質徐放用材料自体が適度な軟らかさを有するため、生体組織の表面形状に対応し易くなる。
【0022】
また、共重合体は生分解性の共重合体であり、安全性に優れている。そして、薬剤の放出とともに、生体内で分解された生理活性物質徐放用材料も毒性を示さない化合物であり、代謝系から生体外へ排出され生体内に残留しないという特徴を有する。
【0023】
また、構成単位として特定の糖類、即ち、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類が用いられているため生体親和性に優れることとなる。
ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類は、生体内の細胞表面に膜蛋白質や糖脂質として存在する特異的な認識シグナルとして機能する糖鎖認識レセプター等との相互作用が高いため、生体組織への親和性、細胞の界面での密着性は格段に高くなるからである。
また、上記生理活性物質徐放用材料は、適度な強度と立体骨格上に多くの水酸基が存在するため、分解特性と徐放特性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】実施例1〜6で製造した生理活性物質徐放用材料の薬剤放出試験の結果を示すグラフである。
【図2】比較例1〜4で製造した生理活性物質徐放用材料の薬剤放出試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を説明する。
本発明の生理活性物質徐放用材料は、トリメチレンカーボネートと、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを構成単位とする共重合体からなる。
【0026】
上記ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類としては、例えば、しょ糖、シュークロースモノカプレート、シュークロースモノラウレート、メチルα−D−グルコシド、マルトース、ラクトース、トレハロース、ネオトレハロース、イソトレハロース、ラフィノース、アミロース、アミロペクチン、シクロデキストリン、セルロース、レンチナン、シゾフィラン、UDP−ガラクトース等が挙げられる。
これらのなかでは、しょ糖、シュークロースモノカプレート、シュークロースモノラウレート、メチルα−D−グルコシドが望ましい。その理由は、トリメチレンカーボネートと糖類との反応時における個々の水酸基から伸張するトリメチレンカーボネート鎖の立体障害が少なくなるため、トリメチレンカーボネート鎖長が一定となり易く、得られる共重合体の分子量を調節し易くなるからである。
【0027】
上記ピラノース環やフラノース環に陰イオン性官能基が結合していない糖類としては、しょ糖、シュークロースモノカプレート、シュークロースモノラウレート、メチルα−D−グルコシドが望ましい。その理由は、上記ピラノース環やフラノース環に陰イオン性官能基が結合した糖類を使用すると、トリメチレンカーボネートホモポリマーが形成され易い傾向にあるからである。
【0028】
また、上記ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類は、還元性を有さない糖類であることが望ましい。
その理由は、還元性を有する糖類を使用した場合、上記と同様トリメチレンカーボネートホモポリマーが形成され易い傾向にあるからである。
上記還元性を有さない糖類としては、しょ糖、シュークロースモノカプレート、シュークロースモノラウレート、メチルα−D−グルコシドが望ましい。
【0029】
上記共重合体において、上記トリメチレンカーボネートと上記糖類との単量体のモル比は、99:1〜35:65である。
上記トリメチレンカーボネートのモル比が99を超えると、共重合体の生体界面に対する接着性が低下することとなり、更には、共重合体の分解速度が低下する。
分解速度が低下すると、上記生理活性物質徐放用材料を局所投与用徐放性薬剤の担体として使用した場合に、薬剤放出後も長期間生体内に生理活性物質徐放用材料が残存するとの不都合が生じる。
一方、上記共重合体において、トリメチレンカーボネートの比率が少なくなると共重合体の親水性が強くなる。そして、トリメチレンカーボネートのモル比が35未満となると、
共重合体の親水性が強くなりすぎて、使用時に、膨潤により形状が崩壊し、局所投与用徐放性薬剤の担体として使用できなくなる。
また、重合の際にトリメチレンカーボネートモノマー分子の周囲を取り囲んでいる糖類分子数が多くなり、その水酸基から重合が急激に開始するため局所的に反応が進行、停止し、結果的に生成物は糖類が主要構成単位を占める組成となりやすく、目的の組成の材料が得られ難くなる。
【0030】
また、本発明の生理活性物質徐放用材料において、上記モル比を上記範囲内で調節することにより、含有させた薬剤の放出速度を調節することができ、具体的には、トリメチレンカーボネートのモル比を低くすることにより、放出速度を速くすることができ、反対にトリメチレンカーボネートのモル比を高くすることにより、長期間に渡って徐々に薬剤を放出する(放出速度を遅くする)ことができる。
【0031】
上記共重合体の分子量は、数平均分子量として600〜50000であることが望ましく、薬剤との混和性や放出性、組織との接着性の観点から600〜35000であることがより望ましい。
上記数平均分子量が、600未満では、生理活性物質徐放用材料として要求される強度を確保することができない上、基材が水溶性となるため薬剤の放出速度が大きくなり、血中濃度の調節が困難となる。一方、50000を超えると、分解速度が遅くなり、薬剤の放出速度が低下し、有効な血中濃度に達し難くなる。
【0032】
上記生理活性物質徐放用材料において、共重合体中の金属含有量は、0.5ppm以下であることが望ましく、上記金属含有量は、少なければ少ないほど望ましい。
共重合体中の金属含有量が0.5ppmを超えると、生体内に残留した金属が、生体内でイオン化し、発ガン、アレルギー等の発現の原因となることがあるからである。
【0033】
上記生理活性物質徐放用材料において、望ましい共重合体中の金属含有量は、上述した通り、0.5ppm以下であるが、このような金属含量は「ICP発光分析法」による分析における検出限界以下であり、上記共重合体は実質的に金属成分を含有しないことが望ましい。
また、上記共重合体中の金属含有量を0.5ppm以下とするには、例えば、後述する本発明の製造方法、即ち、金属触媒や開始剤を添加せずに単量体成分の重合を行えばよい。
【0034】
上記共重合体は、構成単位として、上記トリメチレンカーボネート及び上記糖類以外に、必要に応じて、本発明の目的を損なわない範囲で、他の単量体成分が重合されていてもよい。
上記他の単量体成分としては、例えば、乳酸、グリコール酸、β−ヒドロキシ酪酸、4−ヒドロキシ吉草酸、6−ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸類、ラクチド、
グリコリド、ε−カプロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、p−ジオキサノン等のラクトン類等が挙げられる。これらのなかでは、乳酸、グリコール酸、ラクチド、グリコリドが望ましい。また、上記乳酸は、D体であってもよいし、L体であってもよい。
また、上記他の単量体成分を含有する場合、その含有量は、全単量体成分の10モル%未満であることが望ましい。
【0035】
このような構成からなる本発明の生理活性物質徐放用材料は、ドラッグデリバリーシステム用の基材として、好適に使用することができる。
即ち、生理活性物質等の薬理学的活性剤を含有させ、これを生体内で安定に放出させつつ、標的部位に局在させる基材として好適に使用することができる。
なお、この場合、薬理学的活性剤を安定に放出させるために、含有させる薬理学的活性剤の種類に応じて、上記共重合体の組成比や分子量等を適宜調整することが望ましい。
具体的には、例えば、水溶性で比較的低分子量の薬剤を含有させる場合はトリメチレンカーボネート含量を多くし、かつ、分子量を高くすることが好ましく、水に対する溶解度の低い親油性薬剤を含有させる場合には、糖類含量を多くし、かつ、分子量を低くすることが好ましい。
なお、上記生理活性物質徐放用材料に薬理学的活性剤を含有させる方法については、後述する。
【0036】
本発明の生理活性物質徐放用材料を用いるのに好適な薬理学的活性作用としては、例えば、消炎沈痛作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗腫瘍作用、免疫調節作用等が挙げられる。
また、これらの作用を有する生理活性物質としては、例えば、抗生物質、アルキル化剤、制癌剤、免疫抑制剤、免疫刺激剤、血圧降下剤、神経成長因子、成長分化因子、軟骨由来成長因子、骨盤成長因子、上皮成長因子、線維芽細胞由来成長因子、血小板由来成長因子、コロニー刺激因子、エリスロポエチン、インターロイキン1、2、3、インターフェロンα、β、γ、トランスフォーミング成長因子、インシュリン、カルシトニン、免疫グロブリン、プロスタグランジン等が挙げられる。
また、これら以外にも、例えば、アンチセンスDNA、プラスミッドDNA、si−RNA等の遺伝子も含有させることが可能であり、これらの遺伝子は単独で含有させても良いし、2種以上併用して含有させてもよい。
【0037】
また、上記薬理学的活性剤は、多孔質化されたヒドロキシアパタイト、バイオグラス、セラピタール、トリカルシウムホスフェート、テトラカルシウムホスフェート、カルシウムアルミネート、炭酸カルシウム等に予め含浸させるか、又は、これらの微粉末と予め混合した状態で、上記生理活性物質徐放用材料に含有させてもよい。
また、上記薬理学的活性剤を含有した上記生理活性物質徐放用材料は、さらに水溶性のグリセリン、クエン酸トリエチル、ポリエチレングリコール等との複合体としてもよく、これにより、薬物徐放の効果を複合的に発現させることもできる。
また、上記薬理学的活性剤を含有した上記生理活性物質徐放用材料は、骨膜等の生体組織と複合化させることもできる。
このような構成からなる本発明の生理活性物質徐放用材料は、例えば、後述する本発明の製造方法により製造することができる。
【0038】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明の製造方法は、本発明の生理活性物質徐放用材料の製造方法であって、トリメチレンカーボネートとピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを重合させる際に、金属触媒及び開始剤を添加しないことを特徴とする。
本発明の製造方法では、上記トリメチレンカーボネートと上記糖類とを重合させる。ここで、上記トリメチレンカーボネート及び上記糖類については、既に説明した通りである。
【0039】
上記トリメチレンカーボネートと上記糖類とを重合させる方法としては、例えば、溶融させたトリメチレンカーボネートに上記糖類を添加した後、減圧下で重合させる方法(方法(1))を用いることができる。ここで、重合反応は、20Pa以下の圧力下、及び、120℃以下の温度で行うことが望ましい。また、重合反応は、窒素雰囲気下で行ってもよい。
また、例えば、トリメチレンカーボネートと上記糖類とを水の存在下において、窒素雰囲気下で重合させる方法(方法(2))も用いることができる。この方法において、トリメチレンカーボネートと上記糖類とは必ずしも水に完全に溶解している必要はなく、両者が共存している状態でも良い。この場合、水が触媒的な作用をして両者を反応させると考えられる。尚、両者を均一に反応させるためには、両者を水に完全に溶解させた後、重合させることが好ましい。
更には、例えば、塩化メチレン、クロロホルム、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジオキサン等の溶媒中での溶液重合、懸濁重合又は乳化重合させる方法(方法(3))も用いることができる。
【0040】
これらのなかでは、方法(1)及び(2)が望ましい。
その理由は、以下の通りである。
即ち、方法(1)を用いた場合には、反応系には反応させる化合物しか存在していないため、コンタミする不純物はなく、それが起因して起こる副反応は殆ど起こらない点で有利である。また、方法(2)を用いた場合には、水を使用することで、水溶性の材料との反応では不均一反応が起こりにくく、それによる収率低下を防ぐことができる点で有利である。
【0041】
上記重合反応における反応温度は、通常30〜150℃であり、熱分解し易い糖類との反応を無触媒で行うことを考慮すると、上記反応温度の上限は、120℃が望ましい。
また、上記重合反応の反応時間は、最大16時間程度で十分である。反応温度が90℃の場合、反応原料の量や反応原料の種類(糖類の種類)にもよるが、通常、8時間で約99%の重合率を示すからである。
【0042】
上記重合反応終了後、必要に応じて、反応生成物(共重合体)の精製を行う。
上記精製は、例えば、反応生成物をアセトン、クロロホルム等の溶媒に溶解し再沈殿法により行えばよい。
即ち、溶媒に反応生成物を溶解した後、未反応の糖類を除去し、メタノール、エタノール、エーテル、石油エーテル、ヘキサン等をその溶液の6〜10容量倍加えて反応生成物を析出させ、不純物となる低分子量のポリマーやホモポリマー、未反応原料を除去する。
更に糖類が残存する場合には、水や、水−エタノール等の混合溶媒で抽出を行えばよい。
【0043】
このような工程を行うことにより、本発明の生理活性物質徐放用材料を好適に製造することができる。
また、本発明の製造方法では、金属触媒及び開始剤を添加せずに重合反応を行うことが極めて重要である。このような方法で重合反応を行うことにより、重合反応終了後、煩雑な触媒除去処理等を行うことなく、得られる共重合体を金属含有量が0.5ppm以下で、実質的に金属を含有してないものとすることができる。
そして、このような金属を含有しない共重合体は、極めて安全性に優れるため、上述したように生理活性物質徐放用材料として好適である。
【0044】
本発明の生理活性物質徐放用材料は、上記薬理学的活性剤を含有させることにより、徐放化製剤として好適に使用することができる。
上記薬理学的活性剤を上記生理活性物質徐放用材料に含有させる方法としては、従来公知の方法を用いることができる。
具体的には、例えば、上記生理活性物質徐放用材料を溶媒に溶解あるいは分散させた後、薬理学的活性剤を均一に分散させ、その後、溶媒を除去する方法等を用いることができる。
この場合、使用する溶媒としては、例えば、アセトン、塩化メチレン、クロロホルム、エタノール等が挙げられる。これらの溶媒は、目的に応じて、単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0045】
また、上記薬理学的活性剤を上記生理活性物質徐放用材料に含有させた複合体(徐放化製剤)は、例えば、フィルム状、多孔質体、これらを粉砕した微粒子の形態等で使用することができる。
また、上記徐放化製剤が薬理学的活性剤として、耐熱性の高い薬剤を含有している場合は、加熱下で混合することも可能である。
【0046】
また、上記徐放化製剤がマイクロスフェアーの場合、該マイクロスフェアーは、上記薬理学的活性剤と上記生理活性物質徐放用材料とを溶媒に分散させた後、ポリビニルアルコールを溶解した水溶液に滴下乳化させ、乳化液から溶媒を除去し、さらに水で洗浄・濾過することにより調製することができる。
【0047】
また、上記生理活性物質徐放用材料は、低分子量のものと組み合わせて流動性を増大させて使用することも可能であり、任意の剤形を調製することも可能である。
【実施例】
【0048】
以下、本発明について実施例を掲げてさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0049】
(実施例1)
温度計、排気口を備えた内容量100mlの反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)20g、しょ糖(アルドリッチ社製、試薬)1.4gを加えて、これを13Paの圧力下、90℃で8時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにアセトンに溶解し、アセトンと等量のヘキサン中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料13gを得た。
得られた生理活性物質徐放用材料の組成(モル比)をH−NMRにより求めた結果、生理活性物質徐放用材料中のトリメチレンカーボネートとしょ糖の各々の構成単位のモル比は、95:5であった。
また、この生理活性物質徐放用材料の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で求めると数平均分子量は9000であった。
【0050】
(実施例2)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)20g、しょ糖(アルドリッチ社製、試薬)3.4gを加えて、これを13Paの圧力下、90℃で8時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにアセトンに溶解し、アセトンと等量のヘキサン中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料15gを得た。
得られた生理活性物質徐放用材料の組成(モル比)をH−NMRにより求めた結果、生理活性物質徐放用材料中のトリメチレンカーボネートとしょ糖の各々の構成単位のモル比は、75:25であった。
また、この生理活性物質徐放用材料の分子量をGPCで求めると数平均分子量は4700であった。
【0051】
(実施例3)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)20g、しょ糖(アルドリッチ社製、試薬)8.4gを加えて、これを13Paの圧力下、90℃で6時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにアセトンに溶解し、アセトンと等量のヘキサン中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料15gを得た。
得られた生理活性物質徐放用材料の組成(モル比)をH−NMRにより求めた結果、生理活性物質徐放用材料中のトリメチレンカーボネートとしょ糖の各々の構成単位のモル比は、55:45であった。
また、この生理活性物質徐放用材料の分子量をGPCで求めると数平均分子量は1700であった。
【0052】
(実施例4)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)20g、しょ糖(アルドリッチ社製、試薬)4.3gを加えて、これを13Paの圧力下、90℃で6時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにアセトンに溶解し、アセトンと等量のヘキサン中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料15gを得た。
得られた生理活性物質徐放用材料の組成(モル比)をH−NMRにより求めた結果、生理活性物質徐放用材料中のトリメチレンカーボネートとしょ糖の各々の構成単位のモル比は、50:50であった。
また、この生理活性物質徐放用材料の分子量をGPCで求めると数平均分子量は1940であった。
【0053】
(実施例5)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)20g、しょ糖(アルドリッチ社製、試薬)3.4gを加えて、これを13Paの圧力下、90℃で1時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにアセトンに溶解し、アセトンと等量のヘキサン中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料14gを得た。
得られた生理活性物質徐放用材料の組成(モル比)をH−NMRにより求めた結果、生理活性物質徐放用材料中のトリメチレンカーボネートとしょ糖の各々の構成単位のモル比は、35:65であった。
また、この生理活性物質徐放用材料の分子量をGPCで求めると数平均分子量は1620であった。
【0054】
(実施例6)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)20g、メチル−α−D−グルコシド(アルドリッチ社製、試薬)5.8gを加えて、これを13Paの圧力下、90℃で10時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにアセトンに溶解し、アセトンと等量のヘキサン中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料17gを得た。
得られた生理活性物質徐放用材料の組成(モル比)をH−NMRにより求めた結果、生理活性物質徐放用材料中のトリメチレンカーボネートとメチル−α−D−グルコシドの各々の構成単位のモル比は、60:40であった。
また、この生理活性物質徐放用材料の分子量をGPCで求めると数平均分子量は1500であった。
【0055】
<薬剤放出試験>
実施例1〜6で得られた生理活性物質徐放用材料各1gをジクロロメタンに溶解し、これにテトラカイン0.004gを混合した。次に減圧下で溶媒を除去し、徐放性製剤を得た。
次に、得られた徐放性製剤をリン酸緩衝生理食塩水に浸漬し、テトラカインの経時毎の生理食塩水中への溶出量を分光光度計により測定した。結果を表1及び図1に示した。
その結果、実施例1〜6の生理活性物質徐放用材料は徐々に分解して薬剤を放出し、薬剤放出後に消失することが明らかとなった。
【0056】
【表1】

【0057】
(比較例1)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)20g、しょ糖(アルドリッチ社製、試薬)3.1gを加えて、これを13Paの圧力下、90℃で8時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにアセトンに溶解し、アセトンと等量のヘキサン中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料12gを得た。
得られた生理活性物質徐放用材料の組成(モル比)をH−NMRにより求めた結果、生理活性物質徐放用材料中のトリメチレンカーボネートとしょ糖の各々の構成単位のモル比は、30:70であった。
また、この生理活性物質徐放用材料の分子量をGPCで求めると数平均分子量は1400であった。
【0058】
(比較例2)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)40gを加え、これに触媒として水7gを加えた。90℃で1時間反応を行った後、13Paの圧力下、160℃で7時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにクロロホルムに溶解し、約3倍のメタノール中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料18gを得た。この生理活性物質徐放用材料の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)から求めると数平均分子量は3000であった。
【0059】
(比較例3)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)40gを加え、これに触媒として水7gを加えた。90℃で1時間反応を行った後、13Paの圧力下、160℃で15時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにクロロホルムに溶解し、約3倍のメタノール中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料24gを得た。この生理活性物質徐放用材料の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)から求めると数平均分子量は6000であった。
【0060】
(比較例4)
実施例1と同様の反応容器に、トリメチレンカーボネート(東京化成社製、試薬)40gを加え、これに触媒として水7gを加えた。90℃で1時間反応を行った後、13Paの圧力下、160℃で23時間反応を行った。反応後、得られた共重合体を約10w/v%となるようにクロロホルムに溶解し、約3倍のメタノール中で共重合体を析出させることにより精製処理を行った。処理後、生理活性物質徐放用材料31gを得た。この生理活性物質徐放用材料の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)から求めると数平均分子量は8000であった。
【0061】
<薬剤放出試験>
比較例1〜4で得られた生理活性物質徐放用材料各1gをジクロロメタンに溶解し、これにテトラカイン0.004gを混合した。次に減圧下で溶媒を除去し、徐放性製剤を得た。
次に、得られた徐放化製剤をリン酸緩衝生理食塩水に浸漬し、テトラカインの経時毎の生理食塩水中への溶出量を分光光度計により測定した。結果を表2及び図2に示した。
その結果、比較例1の生理活性物質徐放用材料では、薬剤放出試験中に膨潤し形状が崩壊して薬剤が急速に溶出してしまい、徐放用材料として適さないことが明らかとなった。
また、比較例2〜4の生理活性物質徐放用材料では、長期にわたって薬剤を放出し、一定の割合に達すると放出が停止することが明らかとなった。
【0062】
【表2】

【0063】
実施例1〜6、及び、比較例1〜4の結果から、トリメチレンカーボネートと、特定の糖類とを構成単位し、両者のモル比が99:1〜35:65の共重合体からなる生理活性物質徐放用材料が徐放用材料として好適であることが明らかとなった。
【0064】
(実施例7)
実施例3で得られた生理活性物質徐放用材料500mgを、マーカー遺伝子として大腸菌のβ−ガラクトシダーゼの遺伝子(LacZ)をコードしたアデノウイルスベクターPBS分散液10μLと37℃で混合した。次にそれをヌードマウス背部に移植した。72時間後、ヌードマウス背部組織をX−gal染色液(インビトロジェン社製、ベータギャル染色キット)を用いて染色し、顕微鏡で観察を行った。その結果、ウイルスベクターが組織内に浸透していること、LacZ遺伝子が発現していることが確認された。
このことからも、本発明の生理活性物質徐放用材料が、徐放用材料として好適であることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トリメチレンカーボネートと、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを構成単位とする共重合体からなり、前記トリメチレンカーボネートと前記糖類との単量体のモル比が99:1〜35:65であることを特徴とする生理活性物質徐放用材料。
【請求項2】
前記糖類が含有するピラノース環及びフラノース環には、陰イオン性官能基が結合していない請求項1に記載の生理活性物質徐放用材料。
【請求項3】
前記糖類は、還元性を有さない糖類である請求項1又は2に記載の生理活性物質徐放用材料。
【請求項4】
前記糖類は、しょ糖、シュークロースモノカプレート、シュークロースモノラウレート、及び、メチルα−D−グルコシドからなる群から選択される少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の生理活性物質徐放用材料。
【請求項5】
前記共重合体中の金属含量は、0.5ppm以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の生理活性物質徐放用材料。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の生理活性物質徐放用材料の製造方法であって、
トリメチレンカーボネートとピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを重合させる際に、金属触媒及び開始剤を添加しないことを特徴とする生理活性物質徐放用材料の製造方法。
【請求項7】
ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類と、溶融させたトリメチレンカーボネートとを、減圧下で重合させる請求項6に記載の生理活性物質徐放用材料の製造方法。
【請求項8】
重合反応を、20Pa以下の圧力下、及び、120℃以下の温度で行う請求項7に記載の生理活性物質徐放用材料の製造方法。
【請求項9】
トリメチレンカーボネートと、ピラノース環及び/又はフラノース環を少なくとも1個含有する糖類とを、水の存在下において、窒素雰囲気下で重合させる請求項6に記載の生理活性物質徐放用材料の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2011−122007(P2011−122007A)
【公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−278716(P2009−278716)
【出願日】平成21年12月8日(2009.12.8)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】