説明

生理活性物質採取装置および生理活性物質採取方法

【課題】遺伝子導入等の細胞操作にそのまま適用可能な状態で生理活性物質を採取でき、細胞等の生体試料からも直接的に生理活性物質を採取する。
【解決手段】生理活性物質を内在する細胞を含む液体Lまたは生理活性物質を含む液体Lを保持する液体保持部11に、液体に接触状態に設けられた第1電極12と、液体保持部11に対して相対的に移動可能に設けられる第2電極13と、該第2電極13を細胞または液体Lに接触する位置と、該液体Lから離間する位置との間で液体保持部11に対して相対的に移動させる移動手段と、細胞または液体Lに挿入された第2電極13に対して、第1電極12の電位を相対的な基準として生理活性物質の電荷と逆極性にバイアスされた脈流電圧を加える電源15とを備える生理活性物質採取装置1を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質採取装置および生理活性物質採取方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、電極間に電圧をかけて、DNA(DeoxyriboNucleic Acid)を採取する装置としてDNAピンセットが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
このDNAピンセットは、電極となるDNAピンセットの先端をDNA溶液に接触させ、高周波電圧を加えることにより、両電極間にDNAを集めるものであり、電極先端にDNAが付着するためDNA溶液内からDNAを採取することができる。
【非特許文献1】Gen Hashiguchi, et al., “DNAManipulation and Retrieval from an Aqueous Solution with MicromachinedNanotweezers” Analytical Chemistry, vol. 75, No. 17,September 1, 2003, pp.4347-4350
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、DNAピンセットは電極間においてDNAを採取するため、採取されたDNAを遺伝子導入などの細胞操作に適用することが困難であるという問題がある。すなわち、遺伝子導入等の細胞操作を行うには、微細な針部にDNAを保持させる必要があるので、DNAピンセットの先端の電極間に挟まれるようにして採取されたDNAは、そのまま細胞に導入することはできない。
さらに、DNAピンセットは、DNA溶液内のDNAを採取することはできるものの、細胞のような生体試料内から直接採取することができないという不都合がある。
【0004】
本発明は上述した事情に鑑みてなされたものであって、遺伝子導入等の細胞操作にそのまま適用可能な状態で生理活性物質を採取でき、細胞等の生体試料からも直接的に生理活性物質を採取することができる生理活性物質採取装置および生理活性物質採取方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
本発明は、生理活性物質を内在する細胞を含む液体または生理活性物質を含む液体を保持する液体保持部に、前記液体に接触状態に設けられた第1電極と、前記液体保持部に対して相対的に移動可能に設けられる第2電極と、該第2電極を前記細胞または液体に接触する位置と、該液体から離間する位置との間で液体保持部に対して相対的に移動させる移動手段と、前記細胞または液体に挿入された第2電極に対して、前記第1電極の電位を相対的な基準として前記生理活性物質の電荷と逆極性にバイアスされた脈流電圧を加える電源とを備える生理活性物質採取装置を提供する。
【0006】
上記発明においては、前記生理活性物質が、DNA、RNAまたはタンパク質であることが好ましい。
また、上記発明においては、前記生理活性物質が、負の電荷を有するDNAであることとしてもよい。
【0007】
また、上記発明においては、前記電源が前記第2電極に脈流電圧を加えたままの状態で、前記移動手段が前記第2電極を液体保持部に対して相対的に移動させることとしてもよい。
また、本発明は、第1電極が接触状態に配された、生理活性物質を内在する細胞または生理活性物質を含む液体に、第2電極を挿入する工程と、該第2電極に対し、前記第1電極の電位を相対的な基準として前記生理活性物質の電荷と逆極性にバイアスした脈流電圧を加える工程と、該第2電極と前記液体とを離間する位置まで相対的に移動させる工程とを備える生理活性物質採取方法を提供する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、遺伝子導入等の細胞操作にそのまま適用可能な状態で生理活性物質を採取でき、細胞等の生体試料からも直接的に生理活性物質を採取することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の第1の実施形態に係る生理活性物質採取装置1および生理活性物質採取方法について、図1〜図8を参照して説明する。
本実施形態に係る生理活性物質採取装置1は、例えば、図1に示されるように、細胞を観察するための顕微鏡装置2に備えられる。
【0010】
顕微鏡装置2は、図1に示されるように、遺伝子等の生理活性物質を分散させた培養液内に細胞を収容した容器3を載置するステージ4と、該ステージ4上の細胞を照明する照明装置5と、細胞において反射あるいは透過した光、あるいは細胞から発生した蛍光を観察する観察装置6と、ステージ4を駆動制御するステージコントローラ7と、照明装置5および観察装置6を制御する顕微鏡コントローラ8と、観察装置6により得られた画像を処理する画像処理装置9と、該画像処理装置9により処理された画像を表示する表示装置10とを備えている。
【0011】
前記照明装置5には、細胞に対して、観察装置6とは反対側から照明光を照射する透過照明光源5Aおよび、該透過照明光源5Aから発せられた照明光を細胞に集光するコンデンサレンズ5Cと、細胞に対して観察装置6と同一方向から照明光を照射する落射照明光源5Bとが備えられている。
また、観察装置6には、図示しない対物レンズを含む観察光学系と、該観察光学系を介した細胞からの光を撮像して画像を取得するCCD素子6Aと、細胞からの光を直接観察する接眼レンズ6Bとが備えられている。
【0012】
本実施形態に係る生理活性物質採取装置1は、図2に示されるように、ステージ4上の容器3近傍に配置されるDNA溶液保持部11に設けられた第1電極12と、該第1電極12の上方に対向して設けられた第2電極13と、該第2電極13を駆動する駆動ユニット(移動手段)14と、第2電極13に脈流電圧を加える電気信号発生回路(電源)15とを備えている。
【0013】
DNA溶液保持部11は、図2に示されるように、プレート11Aと、該プレート11A表面に敷設されたPt膜からなる第1電極12と、DNA溶液Lの保持される保持領域以外の領域のPt膜を被覆するように設けられた撥水膜11Bとを備えている。これにより、DNA溶液保持部11にDNA溶液Lを載せると、撥水膜11Bが設けられていない保持領域に露出する第1電極12に接触状態にDNA溶液Lが保持されるようになっている。
【0014】
前記第2電極13は、例えば、シリコン基板16の表面に導電膜13Aを製膜することにより構成されている。第2電極13は、カンチレバー状に形成されたシリコン基板16の自由端に突出状態に設けられ、DNA溶液L内に進入可能な針部17を備えている。該針部17にも導電膜13Aが設けられている。
【0015】
前記駆動ユニット14は、X,Y,Z方向に針部17を移動させる、例えば、3軸の直線移動機構を備えている。駆動ユニット14には、該駆動ユニット14を制御する駆動制御装置18が接続されている。駆動制御装置18は、駆動ユニット14を制御する駆動ユニット制御回路18Aおよび前記電気信号発生回路15を備えている。
電気信号発生回路15は、前記第1電極12と第2電極13との間に、図3に示されるような正のバイアスを有する高周波電圧を加えるようになっている。
【0016】
このように構成された本実施形態に係る生理活性物質採取装置1を用いた生理活性物質採取方法について以下に説明する。
本実施形態に係る生理活性物質採取装置1を用いてDNA溶液L内のDNAを採取するには、DNA溶液保持部11の保持領域にDNA溶液Lを保持して、ステージ4近傍に配置し、駆動ユニット制御回路18Aの作動により駆動ユニット14を作動させて第2電極13を移動させる。そして、第2電極13先端の針部17がDNA溶液L内に挿入された状態で駆動ユニット14を停止し、駆動制御装置18に設けられた電気信号発生回路18Bを作動させる。
【0017】
電気信号発生回路18Bの作動により、第1電極12と第2電極13との間に正のバイアスの高周波電圧が加えられる。DNA溶液L内のDNAは、負の電荷を有しているので、これにより、DNAはDNA溶液L内に挿入されている第2電極13の針部17のみに集められる。
【0018】
DNA溶液L内に2つの電極からなるDNAピンセットを刺し入れて、両電極間にDNAを回収する従来の方法と比較すると、DNAを一方の第2電極13のみに回収して、その後の操作を容易にすることができる。すなわち、第2電極13を構成する針部17の先端に付着した状態にDNAを回収できる。したがって、ステージ4上に載置して顕微鏡観察下に配した細胞に、DNAが保持された針部17をそのまま刺し入れて、核内に導入することができる。
【0019】
また、本実施形態に係る生理活性物質採取装置1によれば、第1電極12と第2電極13との間に加える電圧を高周波電圧とすることにより、電流の実効値を抑制し、第2電極13の表面における反応や、DNA溶液L中の対流を防止して、効果的に第2電極13の表面にDNAを回収することができる。
【0020】
ここで、図4に、本実施形態に係る生理活性物質採取装置1を用いて、DNA溶液L中のDNAを第2電極13に回収した実施例を示す。予め蛍光標識したDNAを分散させたDNA溶液L内に第2電極13を差し込んで高周波電圧(1MHz、2.5V、バイアス2.5V)を加え、蛍光顕微鏡により観察した結果、図4に示されるように、第2電極13を差し込んだ右端部分の輝度が大きくなり、DNAが回収されていることがわかる。
【0021】
また、このようにして電圧を加えた第2電極13をDNA溶液Lから引き上げた後に、第2電極13を蛍光観察した結果の輝度値は、図5に示されるように、電圧をかけずにDNA溶液Lに刺し入れて引き上げた第2電極13と比較して2倍以上の値を示していることがわかる。
そして、このようにしてDNAを付着させた第2電極13を、そのまま、図6に矢印で示す細胞Aに刺し入れて遺伝子導入を行い、24時間培養した結果、図7に位相差観察像により示されるように細胞分裂した細胞Aのうち、遺伝子導入を行った細胞Aの遺伝子が発現したことが、図8に蛍光観察像により示されるように確認された。
【0022】
なお、本実施形態に係る生理活性物質採取装置1においては、DNAを分散させたDNA溶液L内に第2電極13を挿入してDNAを回収する例を説明したが、これに代えて、第2電極13を細胞A内に挿入して細胞A内の生理活性物質を採取することとしてもよい。
【0023】
この場合、顕微鏡観察下において細胞Aの位置を確認しながら第2電極13を挿入する必要があるため、プレート11Aとしてガラス基板、第1電極12として透明電極(ITO電極)を用いた細胞保持部11上において細胞Aを培養しておくことが好ましい。そして、上記と同様にして、細胞A内に第2電極13を挿入して、正のバイアスをかけた高周波電圧を加えることにより、細胞A内の生理活性物質を効率的に回収することができる。
また、透明電極に代えて、第1電極12として不透明な電極を採用し、照明光が通過する光路を避けて配置することとしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る生理活性物質採取装置を示す全体構成図である。
【図2】図1の生理活性物質採取装置の電極近傍の構造を示す拡大図である。
【図3】図1の生理活性物質採取装置の電極に加える電圧波形例を示す図である。
【図4】図1の生理活性物質採取装置の電極の周囲にDNAが集まっている様子を示す顕微鏡写真である。
【図5】図4の電極に高周波電圧をかけた場合とかけない場合とのDNAの回収量を比較して示すグラフである。
【図6】図4のように電極に回収されたDNAを導入した細胞を示す顕微鏡写真である。
【図7】図6の細胞を24時間培養した結果の位相差観察像を示す顕微鏡写真である。
【図8】図6の細胞を24時間培養した結果の蛍光観察像を示す顕微鏡写真である。
【符号の説明】
【0025】
A 細胞
L DNA溶液(液体)
1 生理活性物質採取装置
11 DNA溶液保持部(液体保持部)
12 第1電極
13 第2電極
14 駆動ユニット(移動手段)
15 電気信号発生回路(電源)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生理活性物質を内在する細胞を含む液体または生理活性物質を含む液体を保持する液体保持部に、前記液体に接触状態に設けられた第1電極と、
前記液体保持部に対して相対的に移動可能に設けられる第2電極と、
該第2電極を前記細胞または液体に接触する位置と、該液体から離間する位置との間で液体保持部に対して相対的に移動させる移動手段と、
前記細胞または液体に挿入された第2電極に対して、前記第1電極の電位を相対的な基準として前記生理活性物質の電荷と逆極性にバイアスされた脈流電圧を加える電源とを備える生理活性物質採取装置。
【請求項2】
前記生理活性物質が、DNA、RNAまたはタンパク質である請求項1に記載の生理活性物質採取装置。
【請求項3】
前記生理活性物質が、負の電荷を有するDNAである請求項2に記載の生理活性物質採取装置。
【請求項4】
前記電源が前記第2電極に脈流電圧を加えたままの状態で、前記移動手段が前記第2電極を液体保持部に対して相対的に移動させる請求項1に記載の生理活性物質採取装置。
【請求項5】
第1電極が接触状態に配された、生理活性物質を内在する細胞または生理活性物質を含む液体に、第2電極を挿入する工程と、
該第2電極に対し、前記第1電極の電位を相対的な基準として前記生理活性物質の電荷と逆極性にバイアスした脈流電圧を加える工程と、
該第2電極と前記液体とを離間する位置まで相対的に移動させる工程とを備える生理活性物質採取方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−319035(P2007−319035A)
【公開日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−150352(P2006−150352)
【出願日】平成18年5月30日(2006.5.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】