生理活性物質採取装置及び生体情報取得方法
【課題】簡便かつ低侵襲に、常時、生体から生理活性物質を採取することが可能な生理活性物質取得装置の提供。
【解決手段】生体の体表表面Sから生理活性物質を取得するために体表表面Sに当接される採取部1と、採取部1に溶媒を送液する送液手段と、を備え、採取部1には、送液手段から送液されて流路121通流する溶媒を体表表面Sに接触させる開口124が設けられている生理活性物質採取装置を提供する。この生理活性物質採取装置では、採取部1において生体の体表表面Sに溶媒を接触させることにより、該溶媒中に生理活性物質を採取することができる。
【解決手段】生体の体表表面Sから生理活性物質を取得するために体表表面Sに当接される採取部1と、採取部1に溶媒を送液する送液手段と、を備え、採取部1には、送液手段から送液されて流路121通流する溶媒を体表表面Sに接触させる開口124が設けられている生理活性物質採取装置を提供する。この生理活性物質採取装置では、採取部1において生体の体表表面Sに溶媒を接触させることにより、該溶媒中に生理活性物質を採取することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質採取装置及び生体情報取得方法に関する。より詳しくは、生体の体表表面から生理活性物質を取得するための生理活性物質採取装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体のストレスや情動、月経周期等に関する情報(以下、「生体に関する情報」もしくは「生体情報」という)を取得するための方法として、従来、問診や官能アンケート等による心理学的評価や、脳波や筋電等による生理学的検査、作業成績等による行動計測などに基づく生体情報取得方法が知られている。例えば、特許文献1には、心拍数に基づいて月経周期を判定するための技術が開示されている。また、特許文献2には、体温変動や心拍数をモニターする生活活性度モニターシステムが開示されている。
【0003】
さらに、近年では、より簡便な手法として、血液や尿、唾液中に含まれる生理活性物質を指標として、生体に関する情報を取得する技術が開発されてきている。例えば、特許文献3には、唾液における副腎皮質ステロイド及び/又はその代謝産物の濃度を指標とするストレスの定量方法が開示されている。また、特許文献4には、血液等に含まれるβ−エンドルフィンやドーパミン、免疫グロブリンA、プラスタグランジンD2などを指標として、ストレスを快と不快の両面で把握する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−94969号公報
【特許文献2】特許第2582957号公報
【特許文献3】特開平11−38004号公報
【特許文献4】特開2000−131318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液や尿、唾液中に含まれる生理活性物質を指標とした生体情報取得方法は、心理学的評価や生理学的検査、行動計測等による方法に比べ、簡便であり、大型の装置を必要としないという利点がある。
【0006】
一方で、これらの方法では、生理活性物質の定量のため、採血や尿及び唾液を採取する作業が必須となる。このため、例えば、血液を用いる場合には、採血によって被験者に精神的・肉体的負荷が生じるという問題がある。加えて、採血に伴う精神的・肉体的負荷そのものがストレスとなって、被験者のストレスや情動等に変化が生じ、正確な生体情報を取得できない可能性があった。
【0007】
また、尿や唾液を用いる場合には、採血において問題となる医療行為性を回避して、被験者に対する精神的・肉体的負荷についても軽減を図ることが可能である。しかしながら、経時的な採取もしくは常時採取が難しく、また尿や唾液の採取時とこれらに含まれる生理活性物質の生体内代謝時とにずれが存在するため、生体情報をリアルタイムに取得することが難しいという問題がある。また、尿や唾液の採取は、精神的・肉体的負荷は低いものの、被験者に採取作業を強く意識させるため、やはり正確な生体情報を取得できないおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、簡便かつ低侵襲に、常時、生体から生理活性物質を採取することが可能な生理活性物質取得装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、生体の体表表面から生理活性物質を取得するために前記体表表面に当接される採取部と、採取部に溶媒を送液する送液手段と、を備え、採取部には、送液手段から送液されて通流する前記溶媒を前記体表表面に接触させる開口が設けられている生理活性物質採取装置を提供する。この生理活性物質採取装置では、採取部において生体の体表表面に溶媒を接触させることにより、該溶媒中に生理活性物質を採取できる。
この生理活性物質採取装置は、前記開口において前記体表表面に接触した前記溶媒を排液する導出部と、溶媒を吸収保持する吸収体を導出部に送る供給手段と、を備える。これにより、この生理活性物質採取装置では、採取部において生体の体表表面に接触させた生理活性物質を含む溶媒を、吸収体に吸収保持させた状態で保存できる。前記供給手段は、芯体に巻き取られた前記吸収体を、芯体を回転させることにより繰り出して前記導出部に送るものとできる。さらに、前記溶媒を吸収保持した吸収体から溶媒を気化させて除去する乾燥手段を設けてもよい。
また、この生理活性物質採取装置は、前記採取部に空気を送気する送気手段を備え、採取部に前記溶媒及び空気を選択的に導入するものとできる。採取部に溶媒及び空気を選択的に導入することで、採取部において生体の体表表面に接触する溶媒を所定容量毎に空気により分断して送液し、回収することができる。
この生理活性物質採取装置において、前記採取部は、前記溶媒が通流される流路と、流路への溶媒の導入口と、流路からの溶媒の排出口と、流路の導入口と排出口との間に位置する前記開口と、が形成された基板を含んでなり、基板は、採取部において交換可能に配されていることが望ましい。
また、この生理活性物質採取装置には、前記生理活性物質を定量する定量部と、生理活性物質の定量値に基づいて前記生体に関する情報を自動判定により取得する判定部と、を設けてもよい。この場合、前記生理活性物質は、例えばコルチゾール類、モノアミン類、エストロゲン類あるいは成長ホルモンとすることで、前記情報としてそれぞれ前記生体のストレス、情動、月経周期、運動の効果に関する情報を取得することが可能である。
【0010】
本発明において、「生体に関する情報」には、ストレスや情動、月経周期、運動の効果等に関する情報の他、例えば、眠気(覚醒レベル)や健康状態、概日リズム(生体リズム)などが含まれる。また、「情動」には、興奮や恐怖、怒り、攻撃性、快感、不安などが含まれる。
【0011】
また、「生理活性物質」には、生体内に存在する物質であって、生体に対して生理作用ないしは薬理作用を有することにより、生体のストレスや情動、月経周期、代謝等の変化に関与する物質が広く包含されるものとする。具体的には、コルチゾールやエストラジオールなどのステロイドホルモンや、アドレナリンやドーパミンなどのカテコールアミン、オキシトシンやエンドルフィンなどの生理活性ペプチド等が含まれる(後掲「表1」参照)。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、簡便かつ低侵襲に、常時、生体から生理活性物質を採取することが可能な生理活性物質取得装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置の概略構成を説明する斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置の概略構成を説明する上面図である。
【図3】生理活性物質採取装置における溶媒の流れを説明するブロック図である。
【図4】採取部の構成を説明する模式図である。
【図5】生体表面から生理活性物質を取得するための操作を説明する模式図である。
【図6−1】ホルダーの構成を説明する模式図である。
【図6−2】ホルダーの動作を説明する模式図である。
【図7】供給手段の動作を説明する模式図である。
【図8】吸収体の形状を説明する模式図である。
【図9】採取部の変形例の構成を説明する模式図である。
【図10】採取部の他の変形例の構成を説明する模式図である。
【図11】採取部の他の変形例の構成を説明する模式図である。
【図12】指の皮膚表面から生理活性物質を取得するための方法を説明する模式図である(実施例1)。
【図13】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、1名の被験者についてコルチゾール量を測定した結果(実施例1)を示す図である。
【図14】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、6名の被験者についてコルチゾール量を測定した結果(実施例1)を示す図である。
【図15】標準品コルチゾール溶液について得られたSPRカーブを示す図である(実施例1)。
【図16】標準品コルチゾール溶液について得られたSPRシフトのプロットと検量線を示す図である(実施例1)。
【図17】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、ノルエピネフリン量及びL−ドーパ量を測定した結果(実施例2)を示す図である。
【図18】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、セロトニン量を測定した結果(実施例3)を示す図である。
【図19】酵素免疫測定法(ELISA)を用い、エストラジオール量を測定した結果(実施例4)を示す図である。
【図20】酵素免疫測定法(ELISA)を用い、成長ホルモン量を測定した結果(実施例5)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。
1.本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置
(1)概要
(2)全体構成
(3)採取部
(4)供給手段
2.第一実施形態の変形例に係る生理活性物質採取装置
(1)第一変形例
(2)第二変形例
(3)第三変形例
3.生体情報取得方法
(1)生理活性物質の抽出
(2)生理活性物質の定量
(3)生体情報の取得
【0015】
1.本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置
(1)概要
本発明者らは、生体情報を精度良くセンシングすることを目的とし、生体からの生理活性物質の採取手法について鋭意検討を行った。その結果、実施例において詳説するように、指や掌などの体表表面から生理活性物質を取得し得ることを初めて見出した。
【0016】
従来、生理活性物質については、血液や尿、唾液等からの取得が技術常識となっている。本発明者らの知る限り、生体の体表表面から生理活性物質を取得できたとの報告はこれまでなされていない。
【0017】
体表表面から生理活性物質が取得される機序について、その詳細は不明であるが、例えば、汗や皮脂中に分泌された生理活性物質が体表表面に存在している可能性が考える。もしくは、血中の生理活性物質が体表表面の細胞を透過して体表表面に存在している可能性も考えられる。生理活性物質の多くは、脂溶性及び細胞膜透過性を有していることから、皮脂中への分泌又は細胞透過によって体表表面に存在する生理活性物質が取得されている可能性が高いと考えられる。
【0018】
本発明は、以上のような新規知見に基づきなされたものであり、生体の体表表面から生理活性物質を取得することが可能な生理活性物質採取装置を提供するものである。
【0019】
(2)全体構成
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置の概略構成を説明する模式図であり、図1は斜視図を、図2は上面図を示す。
【0020】
図中、符号Aで示す生理活性物質採取装置は、生体の体表表面(以下、「生体表面」という)から生理活性物質を取得するために生体表面に当接される採取部1と、採取部1に溶媒を送液する送液手段と、採取部1に空気を送気する送気手段と、採取部1で生体表面に接触した溶媒を排液する導出部6と、を含んで構成されている。使用される溶媒は、水や各種有機溶媒であってよく、例えば、エタノール水を用いることができる。
【0021】
図中、符号2は、送液手段を構成する溶媒タンク2を示す。送液手段は、溶媒タンク2に加えて、溶媒タンク2内の溶媒を採取部1に送液するためのポンプやチューブ、バルブ等から構成される。また、符号3は、送気手段を構成する空気タンクを示す。送気手段は、空気タンク3に加えて、空気タンク3内の空気を採取部1に送液するためのポンプやチューブ、バルブ等から構成される。空気タンク3は、ごみやちりがチューブ内やバルブ内に吸引されるのを防止するためのフィルターの役割を果たす。
【0022】
導出部6は、管状に形成され、採取部1から送液される生体表面に接触後の溶媒を端部の孔から排液できるように構成されている。導出部6は溶媒を下方に位置する吸収体5上に導出するために機能し、吸収体5上に溶媒を断続的に滴下あるいは連続的に垂下する。使用される吸収体5は、溶媒に対する吸収性がある素材であればよく、例えばろ紙や、アガロースゲル、セファロースゲル、シリカゲル、アルミナゲル等の担体を膜状に形成したものあるいはこれらの担体を金属やポリマーなどの基材上に製膜したものなどが用いられる。
【0023】
図3に、生理活性物質採取装置Aにおける溶媒の流れをブロック図により示す。
【0024】
採取部1には、溶媒タンク2から、送液のための流路が接続されている。また、採取部1には、空気タンク3から、送気のための流路が接続されている。さらに、採取部1には、生体表面に接触後の溶媒と空気を導出部6に送るための流路が接続されている。これらの流路には、汎用のチューブを採用できる。各流路にはそれぞれ送液あるいは送気のための汎用のポンプ(符号21,31,61参照)が配設される。
【0025】
溶媒タンク2と採取部1を接続するチューブと、空気タンク3と採取部1を接続するチューブは、採取部1の上流において合流している。図中、符号22,32は、この合流部と溶媒タンク2あるいは空気タンク3との間にそれぞれ設けられるバルブを示す。生理活性物質採取装置Aは、バルブ22,32の開閉を図示しない全体制御部によって制御することによって、採取部1に溶媒及び空気を選択的に導入する。なお、図中、符号62は、採取部1と導出部6とを接続するチューブに設けられるバルブを示す。バルブ62は、全体制御部によって開閉を制御され、導出部6からの溶媒の排液を開始あるいは停止させるために機能する。なお、全体制御部は、図1中、符号8で示したコントロールボックス内に設けられている。
【0026】
生理活性物質採取装置Aにおいて、溶媒が通流するチューブやバルブ、ポンプには、生理活性物質が付着し難い材質のもの、あるいは生理活性物質を吸着し難くする表面処理が施されたものを用いることが好ましい。
【0027】
再度、図1及び図2を参照して説明する。図中、符号7は、導出部6の孔から排液される溶媒を受容する廃液受容部7(以下、「廃液トレイ7」と称する)を示す。廃液トレイ7によって集められた溶媒は、廃液タンク4に送液されて貯留される。導出部6は、図に示すような吸収体5への溶媒排液位置と、廃液トレイ7への溶液排液位置と、の間を移動可能な構成とされている。導出部6を移動させるための駆動手段には、従来公知のホルダーや送りねじ、ガイド、モータ等が用いられる。
【0028】
図2中、符号71は、移動する導出部6を通過させるために廃液トレイ7に設けられた切欠を示す。切欠71は、廃液トレイ7の導出部6側の側壁に、導出部6の太さよりも幅広く側壁の一部を切り欠くことによって設けられる。切欠71を設けることによって、水平方向のみの移動によって、導出部6を、吸収体5への溶媒排液位置と廃液トレイ7への溶液排液位置との間で行き来させられる。
【0029】
吸収体5は、芯体に巻きとられた状態で格納され、芯体を回転させることによって繰り出されて、溶媒排液位置にある導出部6の下方に送られる。導出部6において、送り込まれる吸収体5上に溶媒を断続的に滴下あるいは連続的に垂下することにより、吸収体5にサンプルを吸収保持させていく(詳しくは、図7を参照して後述する)。なお、ここでいう「サンプル」は、生体表面に接触後の生体内物質を含む溶媒を意味し、加えて比較のために採取された生体表面に接触させていない溶媒も含み得るものとする。
【0030】
このようにサンプルを吸収体5に吸収保持させて回収することにより、サンプルをチューブなどの容器内に溶液状態で回収する方法に比べて、サンプル中の生体内物質を安定に保存できる。また、装置の構成を簡略化して、装置を小型化できる。
【0031】
図中、符号10は、溶媒タンク2、空気タンク3及び廃液タンク4を交換するために開閉される下部カバーを示す。
【0032】
(3)採取部
次に、図4及び図5を参照して、採取部1の構成を説明する。図4は、採取部1の構成を説明する模式図であり、(A)は上面図を、(B)は(A)中P−P断面における断面図を示す。また、図5は、生体表面から生理活性物質を取得するための操作を説明する断面模式図である。
【0033】
採取部1は、大略、固定基板11と採取基板12とからなっている。固定基板11は、生理活性物質採取装置Aの装置本体に固定して設けられており、採取基板12は、固定基板11上に取り外して交換できるように配されている。
【0034】
採取基板12には、溶媒が送液されて通流する流路121と、流路121への溶媒の導入口122と、流路121からの溶媒の排出口123とが形成されている。固定基板11には、溶媒タンク2からの送液される溶媒が流れる流路111と、導出部6に送液される溶媒が流れる流路112とが形成されている。図中、矢印F1及びF2は、固定基板11のこれらの流路に送液される溶媒の流れ、あるいは流路から排液される溶媒の流れを示す。
【0035】
採取基板12には、流路121の導入口122と排出口123との間において上部に開放された開口124が形成されている。開口124は、流路121内を通流する溶媒を生体表面に接触させるために機能する。すなわち、図5に示すように、溶媒が通流する流路121の開口124に生体表面Sを密着させると、流路121内に充満した溶媒が生体表面Sに接触し、生体表面Sに存在する生理活性物質が溶媒中に採取される。生体表面Sに接触した溶媒は、矢印F2に従って導出部6に送液される。
【0036】
この際、図3で説明したバルブ22,32の開閉を制御して溶媒タンク2及び空気タンク3から採取部1に溶媒及び空気を選択的に導入することによって、生体表面Sに接触する溶媒を、所定容量毎に空気により分断して、導出部6に送液することができる。具体的には、開口124に生体表面Sを密着させた状態で、所定容量の溶媒を流路121に送液後、流路121に空気を送ることにより、流路121内における溶媒の流れを空気によって分断する。その後、再度、所定容量の溶媒を流路121に送液する。このように、空気の導入と溶媒の導入とを繰り返すことで、生体表面Sに接触後の溶媒を所定容量ごとに空気により分断された状態で導出部6へ送り出すことができる。これにより、回収されるサンプルにおける生理活性物質の希釈を抑制でき、異なる生体や生体表面の異なる部位から採取されたサンプルを区分して異なる容器内に回収できる。
【0037】
ここでは、生体表面Sとして指先を例示した。生理活性物質の取得部位である体表表面Sは、指や掌などの皮膚表面が簡便であるが、特に限定はされない。開口124は、生理活性物質の取得部位に応じて、該部位の皮膚表面を密着させ易いような形状に形成されることが望ましい。開口124と体表表面Sを密着させるため、粘着テープやバンドル等を用いて生体表面Sを採取基板12に固定してもよい。
【0038】
採取基板12は、上述したように、固定基板11上に交換可能に配されている。これにより、例えば、生理活性物質の取得部位の形や大きさに応じて開口124の形状を異ならせた複数種類の採取基板12を適宜交換して取り付けることが可能となる。また、異なる生体や生体表面の異なる部位からサンプル採取する場合や同一の生体や生体表面から異なる時刻にサンプルを採取する場合に、その都度新しい採取基板12を取り付けられ、サンプル間のクロスコンタミネーションを防止することが可能となる。なお、採取基板12を交換しない場合には、サンプル間のクロスコンタミネーションを防止するため、採取部1に溶媒あるいは洗浄液を所定時間通流して洗浄操作を行うことが望ましい。
【0039】
固定基板11の溶媒タンク2からの送液される溶媒が流れる流路111と、採取基板12の導入口122は、接続管113によって連通されている(図4参照)。また、固定基板11の導出部6に送液される溶媒が流れる流路112と、採取基板12の排出口123も、接続管113によって連通される。接続管113は、好ましくは、流路111及び流路112の一部に圧入して固定され、硬質な材料(例えば金属)製とされる。接続管113は、採取基板12を固定基板11に取り付ける際に、それぞれが導入口122と排出口123に嵌入されることにより、溶媒の流路となるとともに、固定基板11上における採取基板12の位置決め手段としても機能する。
【0040】
固定基板11に採取基板12を取り付ける際、両者の連結部位である接続管113周辺から溶媒の漏れが生じることを防止するため、固定基板11に採取基板12との間には、密封部材13を挟みこむことが望ましい。密封部材13には、シリコンゴム等の弾性を有する材料が好適に用いられる。密封部材13は、採取基板12と同程度の大きさのシート状に形成することが好ましい。
【0041】
固定基板11及び採取基板12の材質としては、石英又はホウ珪酸ガラス等のガラス材料やポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコンゴムあるいはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などが使用可能である。基板に配設される流路等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行うことができる。流路等の表面には、生理活性物質を吸着し難くする処理を施すことが好ましい。表面処理としては、例えば、2-methacryloyoxyethyl phosphorylcholine(MPC)やpolyethylene glycol(PEG)による処理が挙げられる。なお、採取基板12については、ディスポーザブルとすることが好ましい。
【0042】
図6-1、図6-2は、固定基板11に取り付けられた採取基板12を保持するためのホルダーの構成と動作を説明する模式図であり、(A)は上面図を、(B)、(C)は断面図を示す。
【0043】
図中、符号14で示すホルダーは、上板141と下板142とこれらを連結するヒンジ143とを含んでなる。上板141には、保持される採取基板12の開口124に対応する位置に窓144が設けられている。採取基板12を交換する際、上板141は、ヒンジ143を支点として図中矢印方向に開閉が可能な構成とされている((C)参照)。
【0044】
固定基板11は、ホルダー14の下板142によって予め装置本体に固定される。ホルダー14は、上板141と下板142との間に固定基板11と採取基板12とを挟持して、固定基板11に取り付けられた採取基板12を上板141によって押圧する。これにより、ホルダー14は、固定基板11と採取基板12を、両基板間に挟み込まれた密封部材13(図5参照)を介して密着させて保持し、接続管113周辺からの溶媒の漏れを防止する。
【0045】
(4)供給手段
続いて、図7を参照して、供給手段の動作を説明する。
【0046】
生体内物質採取装置Aにおいて、導出部6から排液される溶媒を吸収保持するための吸収体5は、第一の芯体91を含んでなる供給手段によって導出部6の下方に送られる。吸収体5は、第一の芯体91に予め巻き取られた状態で格納されており、第一の芯体91の回転によって導出部6の下方に繰り出される。図中、矢印は、吸収体5の送り方向を示す。
【0047】
溶媒タンク2から採取部1に送液され、生体表面Sに接触された溶媒は、導出部6から断続的に滴下あるいは連続的に垂下される。導出部6の下方に送られた吸収体5は、この溶媒を受容して吸収する。そして、溶媒を保持した吸収体5は、さらに第二の芯体92に送られ、巻き取られて保存される。なお、導出部6の端部の孔からの溶媒の排液は、図3で説明したバルブ62と全体制御部により適切なタイミングで制御される。
【0048】
このようにサンプルを吸収保持させた吸収体5を第二の芯体92によって巻き取って保存することで、サンプルをチューブなどの容器内に溶液状態で回収して保存する方法に比べて、サンプル中の生体内物質を安定に保存することができる。また、装置の構成を簡略化して、装置を小型化することができる。
【0049】
さらに、サンプルを吸収保持させた吸収体5から溶媒を乾燥気化させて除去することにより、サンプルを溶液状態で保存する方法に比べて、生体内物質を一層安定に保存し、分解し難くすることができる。溶媒の気化は、自然乾燥によって行うことができるが、より好適にはブロワー(送風装置)やヒータ等の乾燥手段により行い得る。
【0050】
吸収体5は、第一の芯体91あるいは第二の芯体92への巻き取りのため、帯状(テープ形状)に成形されることが望ましい。図8(A)に、テープ形状とした吸収体5と、導出部6から滴下された溶媒Dを模式的に示す。滴下された溶媒Dが吸収体5の反対面に染み出すのを防止するため、吸収体5の反対面には溶媒を透過しない材料をコーティングすることが好ましい。
【0051】
異なる生体や生体表面の異なる部位からサンプルを採取したり、同一の生体や生体表面から異なる時刻あるいは経時的にサンプルを採取する場合には、溶媒D同士が拡散により混合することを防止する必要がある。そのため、テープ形状とした吸収体5には、所定間隔で溶媒を浸透させない材料を含浸させておき、該材料により区分された区画毎に溶媒Dを滴下していくことが好ましい。
【0052】
また、溶媒D同士の拡散による混合を防止するため、図8(B)に示すように、所定形状(図では円形)に成形した吸収体5を、溶媒が浸透しない材料からなる、テープ形状の基材51上に配置した構成も採用できる。この場合、吸収体5は、基材51上に剥離可能に配置してもよい。基材51の材料は、使用する溶媒の種類に応じて適宜選択され得る。基材51には、例えば汎用のプラスチックフィルムを用いることができる。
【0053】
ここでは、溶媒を吸収後の吸収体5を第二の芯体92に巻き取って保存する場合を説明した。吸収体5を巻き取ることで、装置内での吸収体5の格納効率が高まるため、多量のサンプルを採取する際に好適となる。ただし、生理活性物質取得装置Aにおいて、第二の芯体92は必須の構成とはならないものとする。すなわち、溶媒を吸収後の吸収体5は巻き取られることなく、装置本体に設けた排出口から順次外部に送り出されてくるようにしてもよい。
【0054】
また、図8(B)で説明したように、吸収体5を基材51上に剥離可能に配置した場合には、溶媒を吸収後の吸収体5を基材51から剥がす機構を設け、剥離した吸収体5を装置内で重ね合わせて保存してもよい。
【0055】
さらに、生理活性物質取得装置Aにおいて、吸収体5を導出部6に送る供給手段は、ここで説明した第一の芯体91を含む構成に限定さることはないものとする。すなわち、供給手段には、予め所定形状に切断されたカード状の吸収体5を一つずつ導出部6に搬入し、かつ、溶媒吸収後の吸収体5を導出部6から搬出する構成なども採用できる。
【0056】
以上に説明した生理活性物質取得装置Aによれば、指や掌などの体表表面から生理活性物質を取得することにより、従来の血液や尿、唾液中から生理活性物質を採取する方法に比べ、より簡便かつ低侵襲に生理活性物質を採取できる。また、体表表面に存在する生理活性物質を取得することで、血液や尿、唾液等とは異なり、被験者に採取作業を強く意識させることなく、生理活性物質を取得できる。
【0057】
さらに、生理活性物質取得装置Aでは、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を取得するため、生理活性物質を経時的にもしくは常時採取することができる。また、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を採取することで、生理活性物質の採取時と、生理活性物質の生体内代謝時と、を一致させることができる。
【0058】
2.第一実施形態の変形例に係る生理活性物質採取装置
第一実施形態に係る生理活性物質採取装置Aでは、採取部1を、装置本体に固定された固定基板11に、ホルダー14によって採取基板12を取り付けて構成する例を説明した。この他、採取部1の構成は、以下に説明する変形例を採用することもできる。
【0059】
(1)第一変形例
図9は、本発明に係る生理活性物質採取装置が備える採取部の変形例の構成を説明する模式図である。図は、採取部において、生体表面から生理活性物質を取得するための操作を示している。本変形例に係る採取部は、採取基板12を固定基板11及び装置本体から分離させた状態で、生体表面Sからの生理活性物質の採取を行い得る構成とされている。
【0060】
採取基板12は、図示しない固定基板11とチューブ114,115によって接続されている。固定基板11側から送液される溶媒(及び空気)は、チューブ114を通って流路121に導入され、開口124において生体表面Sに接触した後、チューブ115を通って固定基板11側に送液される。図中、符号123は、流路121の導入口122及び排出口123に嵌入されて設けられ、チューブ114,115が接続される差込口を示す。差込口125は、金属製あるいはプラスチック製の管であってよい。
【0061】
本変形例に係る採取部は、採取基板12を装置本体から分離できる構成であるため、チューブ114,115の長さを適宜設定することにより、例えば、手元にて指先を採取基板12に押し付ける操作を行うことができる。あるいは、採取基板12を体幹皮膚表面などに貼り付けて生理活性物質を採取することもできる。体幹皮膚表面から生理活性物質を採取する場合には、採取基板12は、粘着テープを用いて皮膚に貼り付けたり、バンドル等を用いて体幹に巻き付ければよい。
【0062】
(2)第二変形例
図10は、本発明に係る生理活性物質採取装置が備える採取部の他の変形例の構成を説明する模式図あり、(A)は上面図を、(B)は(A)中P−P断面における断面図を示す。本変形例に係る採取部は、採取基板12内に、開口124において生体表面に接触した溶媒を貯留するための回収領域126を形成している。
【0063】
採取基板12の導入口122には差込口125が設けられており、差込口125には固定基板11から送液される溶媒を流路121に導入するためのチューブ114が接続されている。流路121に導入され、開口124において生体表面に接触した溶媒は、回収領域126内に導入されて貯留される。図中、符号127は、回収領域126の内部に存在する空気が、導入されてくる溶媒によって押し出されて排気される空気抜き穴を示す。
【0064】
本変形例に係る採取部は、サンプルを採取基板12の内部構成として設けた回収領域126に貯留する構成であるため、サンプルを単回あるいは少数回採取する際の使用に適する。サンプルの採取毎に採取基板12を交換するようにすることで、サンプル間のクロスコンタミネーションを排除できる。また、導出部6を含む回収手段を使用する必要がなくなるため、サンプル採取をより簡便に行うことができる。
【0065】
採取基板12への回収領域126や空気抜き穴127の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行えばよい。回収領域126は複数設けてもよく、この場合には開口124下流の流路121を分岐させて各回収領域126に接続する。流路121の各回収領域126への分岐部には、溶媒をいずれかひとつの回収領域126に送流するための切換バルブを設けてもよい。
【0066】
(3)第三変形例
図11は、本発明に係る生理活性物質採取装置が備える採取部の他の変形例の構成を説明する模式図あり、(A)は上面図を、(B)は(A)中P−P断面における断面図を示す。本変形例に係る採取部は、採取基板12内に溶媒を予め収容可能な溶媒収容領域128を形成している。
【0067】
溶媒収容領域128には、1回あるいは少数回のサンプルの採取に必要な溶媒を予め注入して貯留させておくことができる。採取基板12の導入口122には差込口125が設けられており、差込口125には固定基板11から送気される空気を流路121に導入するためのチューブ114が接続されている。流路121に空気が導入されてくると、溶媒収容領域128内に予め収容されている溶媒が空気によって押し出され、開口124において生体表面に接触し、さらに回収領域126内に導入されて貯留される。
【0068】
本変形例に係る採取部は、サンプルの採取を採取基板12の内部構成として設けた溶媒収容領域128に予め貯留させた溶媒により行うことができるため、サンプル毎に溶媒の種類を変更して採取を行う場合に好適である。
【0069】
採取基板12への溶媒収容領域128の成形も、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行い得る。
【0070】
3.生体情報取得方法
次に、本発明に係る生理活性物質採取装置を用いた生体情報取得方法について説明する。
【0071】
上述したように、本発明に係る生理活性物質採取装置では、体表表面に存在する生理活性物質を取得することで、血液や尿、唾液等とは異なり、被験者に採取作業を強く意識させることなく、生理活性物質を取得できる。また、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を取得するため、生理活性物質を経時的にもしくは常時採取することができる。さらに、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を採取することで、生理活性物質の採取時と、生理活性物質の生体内代謝時と、を一致させることができる。
【0072】
従って、本発明に係る生理活性物質採取装置によれば、被験者においてストレスや情動等の変化を引き起こすことなく、生理活性物質を採取して、採取された生理活性物質を被験者から経時的にもしくは常時取得し、その定量値から生体情報をリアルタイムにセンシングすることが可能となる。
【0073】
(1)生理活性物質の抽出
本発明に係る生理活性物質採取装置では、採取部において生体表面にから取得された生理活性物質は、吸収体に保持された状態で保存される。吸収体からの生理活性物質の抽出は、吸収体を抽出溶媒中に浸漬することによって行い得る。あるいは、吸収体に抽出溶媒を滴下し十分に吸収させた後、遠心分離を行って抽出することもできる。
【0074】
吸収体をテープ形状とした場合(図8(A)参照)には、必要に応じて吸収体を切断し、溶媒を満たしたチューブ等に投入する。また、吸収体を所定形状に成形し、テープ形状の基材上に配置した場合(図8(B)参照)には、基材から吸収体を切り出して用いる。吸収体を基材から剥離可能としている場合には、剥がした吸収体をそのまま溶媒を満たしたチューブ等に投入すればよい。
【0075】
生理活性物質の抽出のための溶媒は、採取のために用いた溶媒と同一であっても異なっていてもよい。例えば、採取のためには生体表面に接触させても害のない溶媒を用い、抽出のためには生理活性物質を溶出させ易い溶媒を用いることが考えられる。
【0076】
(2)生理活性物質の定量
溶媒中に再溶出された生理活性物質の定量は、液体クロマトグラフィー(HPLC)、表面プラズモンセンサー(SPR)や水晶発振子マイクロバランスセンサー(QCM)等により行うことができる。この他、定量は、酵素免疫測定法、放射免疫測定法等の公知手法で行うこともできる。
【0077】
HPLCやSPR、QCMによれば、酵素免疫測定法や放射免疫測定法で必要とされる標識化(ラベリング)の工程を省くことができるため、定量作業をを簡略化できる。加えて、測定精度の観点から、SPR又はQCMを採用することがさらに望ましい。HPLCでは、クロマトグラフ上のピークとして生理活性物質を検出しているため、ピーク強度に夾雑物のシグナルやノイズが入ると、測定精度が低下する場合がある。これに対して、SPR又はQCMでは、センサ表面に固相化した抗体により生理活性物質を検出するため、抗体の特異性に基づいて高い測定精度を得ることができる。また、SPR及びQCMでは、HPLCに比して、スループットが高いという利点もある。
【0078】
(3)生体情報の取得
生体情報の取得は、生理活性物質の定量値を指標として行う。具体的には、例えば、多数の健常者の一日の所定時間範囲にわたる生理活性物質量を測定し、測定結果より標準的な生理活性物質量濃度の変化範囲を規定する標準変化曲線を算出する。そして、被験者の生理活性物質量をこの標準変化曲線と比較し、生体情報の判定を行う。
【0079】
本発明に係る生理活性物質取得装置を用いて取得される生体情報には、ストレスや情動、月経周期、運動の効果等に関する情報の他、例えば、眠気(覚醒レベル)や健康状態、概日リズム(生体リズム)などが挙げられる。
【0080】
このうち、ストレスに関しては、生体へのストレス負荷量と、コルチゾール、コルチコステロン及びコルチゾン(以下、これらを総称して「コルチゾール類」という)の分泌量との間に相関があることが良く知られている(上記特許文献3及び特許文献4参照)。なお、ここで「分泌量」は、血中への分泌量、すなわち「血中濃度」と同義に用いるものとする。
【0081】
興奮や恐怖、怒り、攻撃性、快感、不安、悲哀などの情動については、ノルエピネフリンやエピネフリン、ドーパミン及びこれらの前駆物質となるL−ドーパ(以下、これらを総称して「カテコールアミン類」という)の分泌量との相関が知られている。また、カテコールアミン類とともにモノアミン類として分類されるセロトニンの分泌量についても、情動との相関が明らかにされている。
【0082】
例えば、被験者に不安や恐怖を抱かせるような心理社会的テストを行わせた場合、その前後において唾液中ノルアドレナリン量が変化することが報告されている(”Study of salivary catecholamines using fμLly automated colμMn-switching high-performance liquid chromatography.” Journal of Chromatography. B, Biomedical Sciences and Applications,. 1997 JμL 4;694(2):305-16参照)。
【0083】
さらに、良く知られているように、エステロン(E1)、エストラジオール(E2)及びエストリオール(E3)(以下、これらを総称して「エストロゲン類」という)は生体の月経周期を制御し、月経周期と相関して分泌量が変化する。
【0084】
また、効果的な運動を行うことで成長ホルモンの分泌が促進されることが知られている。成長ホルモンの分泌は筋肉や骨の成長を促進し、体脂肪動員を促して脂肪燃焼効率を高めるため、筋肉増強やダイエット等の運動による効果は成長ホルモンの分泌量に相関すると考えられる。
【0085】
従って、例えば、コルチゾール類の定量値に基づけば、生体に負荷されるストレスに関する情報を得ることができる。具体的には、例えば、多数の健常者のコルチゾール類分泌量を測定し、測定結果から標準的なコルチゾール類濃度の変化範囲を規定する標準変化曲線を算出する。そして、被験者のコルチゾール類分泌量を測定し、この標準変化曲線と比較する。比較の結果、例えば標準変化曲線を逸脱している場合には、当該被験者が慢性ストレスを有していると判定できる。
【0086】
また、例えば、被験者の平常時のコルチゾール類分泌量を測定し、この測定結果から標準変化曲線を算出して、ある時点における当該被検者のコルチゾール類分泌量と比較することにより、その時点における当該被験者のストレス状態もしくはリラックス状態を判定できる。
【0087】
コルチゾール類、モノアミン類、エストロゲン類及び成長ホルモンの他、指標とされる生理活性物質及び生体情報の組合せとしては、「表1」に示す組合せが公知である。本発明においても、これらの組合せを採用し、生理活性物質の定量値と生体情報との正又は負の相関に基づいて、生体情報に関する情報を得ることができる。
【0088】
【表1】
【0089】
なお、「表1」に示す生理活性物質は例示であって、この他にも、カテコールアミン類では、例えば、メタネフリンやノルメタネフリン、3−メトキシ−4ヒドロキシマンデル酸、3−メトキシ−4ヒドロキシフェニルグリコール、3,4−ジヒドキシマンデル酸、3,4−ジヒドキシフェニルグリコール、3,4−ジヒドキシフェニル酢酸、3−メトキシチラミン、ホモバニリン酸、5−ヒドロキシインドール酢酸、バニリルマンデル酸などが生体情報の指標となり得る。また、ステロイドホルモンでは、例えば、アルドステロンやデオキシコルチステロン、アンドロステンジオン、プロゲステロン、11−デオキシコルチコステロン、プレグネノロン、11−デオキシコルチゾール、17−ヒドロキシプロゲステロン、17−ヒドロキシプレグネノロン、コレカルシフェロール(ビタミンD)などが生体情報の指標となり得る。
【0090】
さらに、生体情報の指標となり得る生理活性物質として以下が挙げられる。向下垂体ホルモンとして、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)や成長ホルモン放出ホルモン(GRH)、ソマトスタチン(成長ホルモン分泌抑制ホルモン)、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、プロラクチン放出ホルモン(PRH)、プロラクチン抑制ホルモン(PIH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)など。甲状腺ホルモンとして、サイロキシンやトリヨードサイロキシンなど。クロモグラニンAや副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、黄体形成ホルモン(LH)、インスリン様成長因子I(IGF-I)、プロラクチン、プロオピオメラノコルチン(POMC)、オキシトシン、α-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)、グルカゴン、グレリン、ガラニン、モチリン、レプチン、ガストリン、コレシストキニン、セレクチン、アクチビン、インヒビン、ニューロテンシン、ボンベシン、サブスタンスP、アンギオテンシンI,II、エンケファリン、オレキシンA,B、アナンダミド、アセチルコリン、ヒスタミン、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸、ピリミジン、アデノシン、アデノシン3リン酸(ATP)、GABA、FMRFアミド、ペプチドYY、アグーチ関連ペプチド(AGRP)、コカイン-アンフェタミン調節性転写産物(CART)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、グルカゴン様ペプチド1,2(GLP-1, 2)、血管作動性小腸ペプチド(VIP)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、メラニン凝集ホルモン(MCH)などの各種ホルモン及び神経伝達物質。
【0091】
また、これらの生理活性物質と生体情報の対応もここに示すものに限られず、例えば、セロトニンは情動の他に、統合失調症や不眠症の指標ともなり得るし、エストロゲン類は月経周期の他に、不妊症や更年期症状、躁鬱状態の指標ともなり得る。この他にも、生理活性物質と対応生体情報の組み合わせは、現在までに明らかにされている全ての組み合わせが適用され得る。
【0092】
本発明に係る生体情報取得方法は、例えば「表1」に示したような生理活性物質を指標として生体の健康状態を知り、各種疾患の診断や予防、予後観察を行うために活用できる。具体的には、例えば、コルチゾール類の測定を行うことにより、慢性ストレスの有無を診断して、慢性ストレスの予防や予後観察に役立てることができる。また、例えば、カテコールアミン類の測定によりカルチノイド腫瘍の有無を診断等したり、セロトニンの測定により統合失調や不眠症、内因性欝、ダンピング症候群、偏頭痛の診断等を行ったりすることも考えられる。さらに、エストロゲン類の測定を行えば、月経周期を簡便に診断できる他、不妊症や、乳癌・子宮筋腫・子宮内膜症等のエストロゲン依存性疾患、更年期症状などの診断等に役立てることもできる。
【0093】
また、成長ホルモンは、加齢に伴って分泌量が低下することが知られており、炭水化物、タンパク質及び脂質の代謝に機能して糖尿病や高血圧症、高脂血症等の生活習慣病の発症にも関与することが知られている。この他、成長ホルモン関連疾患として、成長ホルモンの分泌量減少を伴う成長ホルモン分泌不全性低身長症や下垂体機能低下症、甲状腺機能低下症、肥満症、成長ホルモンの分泌量増加を伴う巨人症や末端肥大症、異所性成長ホルモン生産腫瘍、神経性食欲不振症等の極度の低栄養、慢性腎不全などの疾患がある。従って、本発明に係る生理活性物質測定方法を用いて成長ホルモンの測定を行うことにより、老化の程度の判定や、生活習慣病や成長ホルモン関連疾患の診断等を行うことができる。
【実施例】
【0094】
<実施例1:コルチゾール類の定量>
1.皮膚表面からのコルチゾールの取得
6名の被験者について、1日3回(10時、14時、18時)、4日間、以下の2通りの方法により、指の皮膚表面からコルチゾールを取得した。
【0095】
(1)マイクロチューブによる採取
エタノールを含ませたペーパータオルで人差し指の指先を軽く拭いた。1%エタノール水50μLが入ったマイクロチューブの上部開口を人差し指の指先に当て、マイクロチューブの下端を親指で保持した(図12(A)参照)。人差し指と親指でマイクロチューブを挟持した状態で、マイクロチューブを逆さにして、人差し指の皮膚表面に1%エタノール水を1分間接触させた。ここで、始めにペーパータオルで指先を拭く目的は、皮膚表面に存在する夾雑物を取り除くことの他、皮膚表面にコルチゾールが蓄積している可能性を想定し、これを取り除くことを目的としている。
(2)シリンジによる採取
エタノールを含ませたペーパータオルで人差し指の指先を軽く拭いた。シリンジの先端に1%エタノール水50μLを充填し、シリンジを人差し指の指先に当てた状態で、シリンジを親指と中指で保持した(図12(B)参照)。右手でシリンジのピストンを引っ張ってシリンジ内を陰圧とし、皮膚表面にシリンジを吸い付け、人差し指の皮膚表面に1%エタノール水を1分間接触させた。この方法によれば、(1)のマイクロチューブによる採取に比べ、皮膚表面に接触させた1%エタノール水を、シリンジ内の陰圧に基づいて高収率に回収することが可能である。
【0096】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量
皮膚表面に接触させた1%エタノール水(以下、単に「サンプル」という)40μLをバイアルに回収した。このサンプル30μLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0097】
前処理カラムにはCAPCELLPAK MF Ph-1(カラムサイズ1.5mmID×35mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、2.5%アセトニトリル水を流速100μL/minで送液した。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 UG120(カラムサイズ1.5mmID×250mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、10mM Phosphate buffer(pH 6.8)/CH3CN = 78/22を流速100μL/minで送液した。検出は紫外線吸光度検出器(波長242nmUV)にて行い、測定時間は50minとした。
【0098】
始めに、標準品コルチゾール(和光純薬)を0.5μMコルチゾール/コルチゾン水溶液として調製し、予備検討を行った。この予備検討により、前処理カラムから分析カラムへのバルブ切換え時間(測定開始後2.7-4.4分)及びコルチゾールの流出時間(同36-38分)を確認した。
【0099】
図13に、1名の被験者において1日3回(10時、14時、18時)採取を行ったサンプルについて、コルチゾール量を測定した結果を示す。図中、符号pで示す標準品のピークに一致して、各時刻のサンプル(符号s10, s14, s18参照)でコルチゾールのピークが確認できる(ブロック矢印参照)。なお、図中、符号nは、皮膚に接触させていない1%エタノール水の測定結果を示している。
【0100】
ベースラインに基づきピーク面積を算出し、検量線を用いて算出されたコルチゾール量(pg)を、図14に示す。図は、6名の被験者(被験者A〜F)について、4日間測定を行った結果を示している。個人差及び測定時刻間での差は見られるものの、少ない場合で数pg、多い場合には300pgのコルチゾールが皮膚表面から採取できることが確認された。
【0101】
3.表面プラズモンセンサー(SPR)を用いた定量
実施例1で説明した方法(シリンジによる採取)により調製したサンプルについて、表面プラズモンセンサー(BiacoreX、ビアコア株式会社)を用いた間接競合SPRにより分析を行った。分析は以下の手順に従った。
【0102】
(1)SPRセンサ表面へのコルチゾールの固相化
SPRセンサには、予め表面にストレプトアビジンが固相化されたSA Chip (ビアコア株式会社)を用いた。標準品コルチゾールをビオチン化した。得られたビオチン化コルチゾールをAcetate 4.0 (ビアコア株式会社)に溶解し、流速10 μL/minで100 μLインジェクションを行い、アビジンビオチン反応によってSPRセンサ表面にコルチゾールを固相化した。固相化するコルチゾールは、約150 RUとした。
【0103】
(2)検量線の作成
始めに、10 mM DMSO(Dimethyl sμLfoxide)溶液とした標準品コルチゾールを、1%エタノール水を用いて段階希釈し、コルチゾール濃度100, 50, 25, 12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0.78 nMの標準溶液を作製した。各濃度の標準溶液40 μLを、5 ng/mL抗コルチゾール抗体溶液40 μLと十分混合し、結合反応を行なわせた。結合反応後の標準サンプル溶液25 μLを、10 μL/min、25℃でインジェクションした。なお、抗コルチゾール抗体にはAbcam社マウスモノクローナル抗体(XM210)を、ランニングバッファーにはHBS-EPバッファー(ビアコア株式会社)を用いた。
【0104】
各濃度のコルチゾール溶液について得られたSPRカーブを、図15に示す。図中、0secで生じている約850 RU(Resonace Unit)のピークシフトは、ランニングバッファーから標準サンプル溶液への切換えに伴うバルク効果である。このバルク効果は、標準サンプル溶液からランニングバッファーへの切換えにより、150 secで消失している。
【0105】
0〜150secでは、センサ基板表面に固相化されたコルチゾールへの抗コルチゾール抗体の結合により、RUの経時的な増加が観察されている。RUの増加量は、高濃度の標準品コルチゾール溶液ほど小さく、低濃度の標準品コルチゾール溶液ほど大きくなっていることが確認される。これは、間接競合SPRの測定原理が機能していることを示している。
【0106】
図16(A)は、インジェクション終了後60secのRUを、ベースラインとの比較により算出して得たプロットを示す。
【0107】
(3)サンプルの測定
実施例1調製したサンプル40 μLを、抗コルチゾール抗体溶液40 μLと十分混合し、結合反応を行なわせた。結合反応後の標準サンプル溶液40 μLを、20μL/min、25℃でインジェクションした。同様の条件で作成した検量線を、図16(B)に示す。
【0108】
8名の被験者(被験者a〜h)について、検量線を用いて算出されたコルチゾール量(pg)を、「表2」に示す。各被験者において、数十pgのコルチゾールを検出することができた。
【0109】
【表2】
【0110】
<実施例2:カテコールアミン類の定量>
1.皮膚表面からのノルエピネフリン及びL−ドーパの取得
実施例1の「1.皮膚表面からのコルチゾールの取得」中、「(1)マイクロチューブによる採取」に記載の方法に従って、皮膚表面からノルエピネフリン及びL−ドーパを採取した。ただし、本実施例では、溶媒には水を使用し、皮膚表面に対する接触時間を3分間とした。
【0111】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)40μLをバイアルに回収した。このサンプル30μLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0112】
前処理カラムにはCAPCELLPAK MF Ph-1(カラムサイズ1.5mmID×35mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、2.5%アセトニトリル水を流速100μL/minで送液した。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 MGII S5(カラムサイズ2.0mmI.D.×250mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、移動相は、A/B=90/10((A)1.0mM オクタンスルホン酸ナトリウム、0.02mM EDTA-2Na、10mM KH2PO4、0.05vol% H3PO4、(B)CH3CN)とし、流速200μL/minで送液した。検出は電気化学検出器(ECD OX 800mV)にて行い、測定時間は30minとした。インジェクション量は2μL又は5μLとした。
【0113】
測定結果を、図17に示す。「Sample-1」は、上記サンプルの濃縮液で得られたクロマトグラムを、「Sample-2」及び「Sample-3」は濃縮しないサンプルで得られたクロマトグラムを示す。また「STD」は、標準品溶液(ノルエピネフリン、エピネフリン、L−ドーパ、ドーパミン、セロトニンを含む溶液)で得られたクロマトグラムを示す。
【0114】
Sample-1〜3のクロマトグラムにおいて、ノルエピネフリン及びL−ドーパに対応するピークが検出されている。一方、エピネフリン、ドーパミン及びセロトニンに対応するピークは検出されなかった。
【0115】
ベースラインに基づきピーク面積を算出し、検量線を用いて算出されたノルエピネフリン量及びL−ドーパ量(pg)を、「表3」に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
ノルエピネフリンは、サンプルの濃縮を行っていないSample-2及びSample-3では、検出限界未満(N.D.)となったが、濃縮したSample-1では数〜数十pg程度であった。また、L−ドーパは、Sample-1〜3の全てで数〜数十pg程度と定量された。この結果から、皮膚表面から数〜数十pg程度のノルエピネフリン及びL−ドーパの採取が可能であることが確認できた。
【0118】
<実施例3:セロトニンの定量>
1.皮膚表面からのセロトニンの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面からセロトニンを採取した。
【0119】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)100 μLをバイアルに回収した。このサンプル100 μLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0120】
前処理カラムにはCAPCELL PAK C18 MGII S5(カラムサイズ2.0mmID×35mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 UG120 S3(カラムサイズ1.5mmID×250mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、移動相は、A/B=87/13((A)4mM SodiμM 1-OctanesμLfonate、0.02mM EDTA-2Na、5mM KH2PO4(pH3.4)、(B)CH3CN)とし、流速100μL/minで送液した。検出は電気化学検出器(ECD OX 750mV(Ag/AgCl))にて行い、測定時間は40minとした。インジェクション量は1μLとした。
【0121】
測定結果を、図18に示す。「Sample」は、上記サンプルの100 倍濃縮液で得られたクロマトグラムを、「Standard」は、標準品セロトニン(和光純薬)の0.1μM溶液で得られたクロマトグラムを示す。
【0122】
サンプル及び標準品セロトニンのクロマトグラムにおいて、溶出時間36〜38分にピークが検出されている。クロマトグラムの面積からセロトニン濃度を算出したところ、サンプルの100 倍濃縮液のセロトニン濃度は約4.4ng/mLであり、人差し指の皮膚表面から約0.044 ng/mLのセロトニンが採取できた。
【0123】
<実施例4:エストラジオールの定量>
1.皮膚表面からのエストラジオールの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面からエストラジオールを採取した。エストラジオールの採取は、8名の被験者から行った。
【0124】
2.酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:ELIZA)を用いた定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)100 μLをバイアルに回収した。このサンプル100 μLを、市販のELISAキット(High Sensitivity SALIVARY 17β-ESTRADIOL ENZYME IMMNOASSAY KIT、SALIMETRICS社)を用いた分析に供した。
【0125】
キット添付の標準品エストラジオールの測定により検量線を作成し、サンプル中のエストラジオール濃度を算出した結果を図19に示す。各サンプル中のエストラジオール濃度は、2〜23pg/ml程度であった。この結果から、人差し指の皮膚表面から数〜数十pg程度のエストラジオールの採取が可能であることが確認できた。
【0126】
<実施例5:成長ホルモンの定量>
1.皮膚表面からの成長ホルモンの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面から成長ホルモンを採取した。ただし、ここでの採取は、親指の皮膚表面から行った。成長ホルモンの採取は、3名の被験者から行った。
【0127】
2.酵素免疫測定法(ELIZA)を用いた定量
サンプル100μLをバイアルに回収し、市販のELISAキット(hGH ELISA、Roche社)を用いた分析に供した。
【0128】
キット添付の標準品成長ホルモンの測定により検量線を作成し、サンプル中の成長ホルモン濃度を算出した結果を図20に示す。図中、s1はサンプルの10倍濃縮液、s2は25倍濃縮液である。親指の皮膚表面から0.29〜0.51pg/mLの成長ホルモンを採取することができた。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に係る生理活性物質取得装置によれば、生体から簡便かつ低侵襲に、常時、生理活性物質を採取することができる。この装置を用いれば、取得された生理活性物質の定量値に基づいて正確な生体情報を取得できるため、本発明は、例えば、家庭におけるヘルスケア分野やゲームなどのエンタテイメント分野における生体情報センシングに応用され得る。
【符号の説明】
【0130】
A:生理活性物質採取装置、S:生体表面、D:溶媒、1:採取部、11:固定基板、111,112,121:流路、113:接続管、114,115:チューブ、12:採取基板、122:導入口、123:排出口、124:開口、125:差込口、126:回収領域、127:空気抜き穴、128:溶媒収容領域、13:密封部材、14:ホルダー、141:上板、142:下板、143:ヒンジ、144:窓、2:溶媒タンク、21,31,61:ポンプ、22,32,62:バルブ、3:空気タンク、4:排液タンク、5:容器、51:基材、6:導出部、7:廃液トレイ、71:切欠、8:コントロールボックス、91:第一の芯体、92:第二の芯体、10:下部カバー
【技術分野】
【0001】
本発明は、生理活性物質採取装置及び生体情報取得方法に関する。より詳しくは、生体の体表表面から生理活性物質を取得するための生理活性物質採取装置等に関する。
【背景技術】
【0002】
生体のストレスや情動、月経周期等に関する情報(以下、「生体に関する情報」もしくは「生体情報」という)を取得するための方法として、従来、問診や官能アンケート等による心理学的評価や、脳波や筋電等による生理学的検査、作業成績等による行動計測などに基づく生体情報取得方法が知られている。例えば、特許文献1には、心拍数に基づいて月経周期を判定するための技術が開示されている。また、特許文献2には、体温変動や心拍数をモニターする生活活性度モニターシステムが開示されている。
【0003】
さらに、近年では、より簡便な手法として、血液や尿、唾液中に含まれる生理活性物質を指標として、生体に関する情報を取得する技術が開発されてきている。例えば、特許文献3には、唾液における副腎皮質ステロイド及び/又はその代謝産物の濃度を指標とするストレスの定量方法が開示されている。また、特許文献4には、血液等に含まれるβ−エンドルフィンやドーパミン、免疫グロブリンA、プラスタグランジンD2などを指標として、ストレスを快と不快の両面で把握する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−94969号公報
【特許文献2】特許第2582957号公報
【特許文献3】特開平11−38004号公報
【特許文献4】特開2000−131318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
血液や尿、唾液中に含まれる生理活性物質を指標とした生体情報取得方法は、心理学的評価や生理学的検査、行動計測等による方法に比べ、簡便であり、大型の装置を必要としないという利点がある。
【0006】
一方で、これらの方法では、生理活性物質の定量のため、採血や尿及び唾液を採取する作業が必須となる。このため、例えば、血液を用いる場合には、採血によって被験者に精神的・肉体的負荷が生じるという問題がある。加えて、採血に伴う精神的・肉体的負荷そのものがストレスとなって、被験者のストレスや情動等に変化が生じ、正確な生体情報を取得できない可能性があった。
【0007】
また、尿や唾液を用いる場合には、採血において問題となる医療行為性を回避して、被験者に対する精神的・肉体的負荷についても軽減を図ることが可能である。しかしながら、経時的な採取もしくは常時採取が難しく、また尿や唾液の採取時とこれらに含まれる生理活性物質の生体内代謝時とにずれが存在するため、生体情報をリアルタイムに取得することが難しいという問題がある。また、尿や唾液の採取は、精神的・肉体的負荷は低いものの、被験者に採取作業を強く意識させるため、やはり正確な生体情報を取得できないおそれがあった。
【0008】
そこで、本発明は、簡便かつ低侵襲に、常時、生体から生理活性物質を採取することが可能な生理活性物質取得装置を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題解決のため、本発明は、生体の体表表面から生理活性物質を取得するために前記体表表面に当接される採取部と、採取部に溶媒を送液する送液手段と、を備え、採取部には、送液手段から送液されて通流する前記溶媒を前記体表表面に接触させる開口が設けられている生理活性物質採取装置を提供する。この生理活性物質採取装置では、採取部において生体の体表表面に溶媒を接触させることにより、該溶媒中に生理活性物質を採取できる。
この生理活性物質採取装置は、前記開口において前記体表表面に接触した前記溶媒を排液する導出部と、溶媒を吸収保持する吸収体を導出部に送る供給手段と、を備える。これにより、この生理活性物質採取装置では、採取部において生体の体表表面に接触させた生理活性物質を含む溶媒を、吸収体に吸収保持させた状態で保存できる。前記供給手段は、芯体に巻き取られた前記吸収体を、芯体を回転させることにより繰り出して前記導出部に送るものとできる。さらに、前記溶媒を吸収保持した吸収体から溶媒を気化させて除去する乾燥手段を設けてもよい。
また、この生理活性物質採取装置は、前記採取部に空気を送気する送気手段を備え、採取部に前記溶媒及び空気を選択的に導入するものとできる。採取部に溶媒及び空気を選択的に導入することで、採取部において生体の体表表面に接触する溶媒を所定容量毎に空気により分断して送液し、回収することができる。
この生理活性物質採取装置において、前記採取部は、前記溶媒が通流される流路と、流路への溶媒の導入口と、流路からの溶媒の排出口と、流路の導入口と排出口との間に位置する前記開口と、が形成された基板を含んでなり、基板は、採取部において交換可能に配されていることが望ましい。
また、この生理活性物質採取装置には、前記生理活性物質を定量する定量部と、生理活性物質の定量値に基づいて前記生体に関する情報を自動判定により取得する判定部と、を設けてもよい。この場合、前記生理活性物質は、例えばコルチゾール類、モノアミン類、エストロゲン類あるいは成長ホルモンとすることで、前記情報としてそれぞれ前記生体のストレス、情動、月経周期、運動の効果に関する情報を取得することが可能である。
【0010】
本発明において、「生体に関する情報」には、ストレスや情動、月経周期、運動の効果等に関する情報の他、例えば、眠気(覚醒レベル)や健康状態、概日リズム(生体リズム)などが含まれる。また、「情動」には、興奮や恐怖、怒り、攻撃性、快感、不安などが含まれる。
【0011】
また、「生理活性物質」には、生体内に存在する物質であって、生体に対して生理作用ないしは薬理作用を有することにより、生体のストレスや情動、月経周期、代謝等の変化に関与する物質が広く包含されるものとする。具体的には、コルチゾールやエストラジオールなどのステロイドホルモンや、アドレナリンやドーパミンなどのカテコールアミン、オキシトシンやエンドルフィンなどの生理活性ペプチド等が含まれる(後掲「表1」参照)。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、簡便かつ低侵襲に、常時、生体から生理活性物質を採取することが可能な生理活性物質取得装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置の概略構成を説明する斜視図である。
【図2】本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置の概略構成を説明する上面図である。
【図3】生理活性物質採取装置における溶媒の流れを説明するブロック図である。
【図4】採取部の構成を説明する模式図である。
【図5】生体表面から生理活性物質を取得するための操作を説明する模式図である。
【図6−1】ホルダーの構成を説明する模式図である。
【図6−2】ホルダーの動作を説明する模式図である。
【図7】供給手段の動作を説明する模式図である。
【図8】吸収体の形状を説明する模式図である。
【図9】採取部の変形例の構成を説明する模式図である。
【図10】採取部の他の変形例の構成を説明する模式図である。
【図11】採取部の他の変形例の構成を説明する模式図である。
【図12】指の皮膚表面から生理活性物質を取得するための方法を説明する模式図である(実施例1)。
【図13】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、1名の被験者についてコルチゾール量を測定した結果(実施例1)を示す図である。
【図14】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、6名の被験者についてコルチゾール量を測定した結果(実施例1)を示す図である。
【図15】標準品コルチゾール溶液について得られたSPRカーブを示す図である(実施例1)。
【図16】標準品コルチゾール溶液について得られたSPRシフトのプロットと検量線を示す図である(実施例1)。
【図17】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、ノルエピネフリン量及びL−ドーパ量を測定した結果(実施例2)を示す図である。
【図18】高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用い、セロトニン量を測定した結果(実施例3)を示す図である。
【図19】酵素免疫測定法(ELISA)を用い、エストラジオール量を測定した結果(実施例4)を示す図である。
【図20】酵素免疫測定法(ELISA)を用い、成長ホルモン量を測定した結果(実施例5)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について図面を参照しながら説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。説明は以下の順序で行う。
1.本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置
(1)概要
(2)全体構成
(3)採取部
(4)供給手段
2.第一実施形態の変形例に係る生理活性物質採取装置
(1)第一変形例
(2)第二変形例
(3)第三変形例
3.生体情報取得方法
(1)生理活性物質の抽出
(2)生理活性物質の定量
(3)生体情報の取得
【0015】
1.本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置
(1)概要
本発明者らは、生体情報を精度良くセンシングすることを目的とし、生体からの生理活性物質の採取手法について鋭意検討を行った。その結果、実施例において詳説するように、指や掌などの体表表面から生理活性物質を取得し得ることを初めて見出した。
【0016】
従来、生理活性物質については、血液や尿、唾液等からの取得が技術常識となっている。本発明者らの知る限り、生体の体表表面から生理活性物質を取得できたとの報告はこれまでなされていない。
【0017】
体表表面から生理活性物質が取得される機序について、その詳細は不明であるが、例えば、汗や皮脂中に分泌された生理活性物質が体表表面に存在している可能性が考える。もしくは、血中の生理活性物質が体表表面の細胞を透過して体表表面に存在している可能性も考えられる。生理活性物質の多くは、脂溶性及び細胞膜透過性を有していることから、皮脂中への分泌又は細胞透過によって体表表面に存在する生理活性物質が取得されている可能性が高いと考えられる。
【0018】
本発明は、以上のような新規知見に基づきなされたものであり、生体の体表表面から生理活性物質を取得することが可能な生理活性物質採取装置を提供するものである。
【0019】
(2)全体構成
図1及び図2は、本発明の第一実施形態に係る生理活性物質採取装置の概略構成を説明する模式図であり、図1は斜視図を、図2は上面図を示す。
【0020】
図中、符号Aで示す生理活性物質採取装置は、生体の体表表面(以下、「生体表面」という)から生理活性物質を取得するために生体表面に当接される採取部1と、採取部1に溶媒を送液する送液手段と、採取部1に空気を送気する送気手段と、採取部1で生体表面に接触した溶媒を排液する導出部6と、を含んで構成されている。使用される溶媒は、水や各種有機溶媒であってよく、例えば、エタノール水を用いることができる。
【0021】
図中、符号2は、送液手段を構成する溶媒タンク2を示す。送液手段は、溶媒タンク2に加えて、溶媒タンク2内の溶媒を採取部1に送液するためのポンプやチューブ、バルブ等から構成される。また、符号3は、送気手段を構成する空気タンクを示す。送気手段は、空気タンク3に加えて、空気タンク3内の空気を採取部1に送液するためのポンプやチューブ、バルブ等から構成される。空気タンク3は、ごみやちりがチューブ内やバルブ内に吸引されるのを防止するためのフィルターの役割を果たす。
【0022】
導出部6は、管状に形成され、採取部1から送液される生体表面に接触後の溶媒を端部の孔から排液できるように構成されている。導出部6は溶媒を下方に位置する吸収体5上に導出するために機能し、吸収体5上に溶媒を断続的に滴下あるいは連続的に垂下する。使用される吸収体5は、溶媒に対する吸収性がある素材であればよく、例えばろ紙や、アガロースゲル、セファロースゲル、シリカゲル、アルミナゲル等の担体を膜状に形成したものあるいはこれらの担体を金属やポリマーなどの基材上に製膜したものなどが用いられる。
【0023】
図3に、生理活性物質採取装置Aにおける溶媒の流れをブロック図により示す。
【0024】
採取部1には、溶媒タンク2から、送液のための流路が接続されている。また、採取部1には、空気タンク3から、送気のための流路が接続されている。さらに、採取部1には、生体表面に接触後の溶媒と空気を導出部6に送るための流路が接続されている。これらの流路には、汎用のチューブを採用できる。各流路にはそれぞれ送液あるいは送気のための汎用のポンプ(符号21,31,61参照)が配設される。
【0025】
溶媒タンク2と採取部1を接続するチューブと、空気タンク3と採取部1を接続するチューブは、採取部1の上流において合流している。図中、符号22,32は、この合流部と溶媒タンク2あるいは空気タンク3との間にそれぞれ設けられるバルブを示す。生理活性物質採取装置Aは、バルブ22,32の開閉を図示しない全体制御部によって制御することによって、採取部1に溶媒及び空気を選択的に導入する。なお、図中、符号62は、採取部1と導出部6とを接続するチューブに設けられるバルブを示す。バルブ62は、全体制御部によって開閉を制御され、導出部6からの溶媒の排液を開始あるいは停止させるために機能する。なお、全体制御部は、図1中、符号8で示したコントロールボックス内に設けられている。
【0026】
生理活性物質採取装置Aにおいて、溶媒が通流するチューブやバルブ、ポンプには、生理活性物質が付着し難い材質のもの、あるいは生理活性物質を吸着し難くする表面処理が施されたものを用いることが好ましい。
【0027】
再度、図1及び図2を参照して説明する。図中、符号7は、導出部6の孔から排液される溶媒を受容する廃液受容部7(以下、「廃液トレイ7」と称する)を示す。廃液トレイ7によって集められた溶媒は、廃液タンク4に送液されて貯留される。導出部6は、図に示すような吸収体5への溶媒排液位置と、廃液トレイ7への溶液排液位置と、の間を移動可能な構成とされている。導出部6を移動させるための駆動手段には、従来公知のホルダーや送りねじ、ガイド、モータ等が用いられる。
【0028】
図2中、符号71は、移動する導出部6を通過させるために廃液トレイ7に設けられた切欠を示す。切欠71は、廃液トレイ7の導出部6側の側壁に、導出部6の太さよりも幅広く側壁の一部を切り欠くことによって設けられる。切欠71を設けることによって、水平方向のみの移動によって、導出部6を、吸収体5への溶媒排液位置と廃液トレイ7への溶液排液位置との間で行き来させられる。
【0029】
吸収体5は、芯体に巻きとられた状態で格納され、芯体を回転させることによって繰り出されて、溶媒排液位置にある導出部6の下方に送られる。導出部6において、送り込まれる吸収体5上に溶媒を断続的に滴下あるいは連続的に垂下することにより、吸収体5にサンプルを吸収保持させていく(詳しくは、図7を参照して後述する)。なお、ここでいう「サンプル」は、生体表面に接触後の生体内物質を含む溶媒を意味し、加えて比較のために採取された生体表面に接触させていない溶媒も含み得るものとする。
【0030】
このようにサンプルを吸収体5に吸収保持させて回収することにより、サンプルをチューブなどの容器内に溶液状態で回収する方法に比べて、サンプル中の生体内物質を安定に保存できる。また、装置の構成を簡略化して、装置を小型化できる。
【0031】
図中、符号10は、溶媒タンク2、空気タンク3及び廃液タンク4を交換するために開閉される下部カバーを示す。
【0032】
(3)採取部
次に、図4及び図5を参照して、採取部1の構成を説明する。図4は、採取部1の構成を説明する模式図であり、(A)は上面図を、(B)は(A)中P−P断面における断面図を示す。また、図5は、生体表面から生理活性物質を取得するための操作を説明する断面模式図である。
【0033】
採取部1は、大略、固定基板11と採取基板12とからなっている。固定基板11は、生理活性物質採取装置Aの装置本体に固定して設けられており、採取基板12は、固定基板11上に取り外して交換できるように配されている。
【0034】
採取基板12には、溶媒が送液されて通流する流路121と、流路121への溶媒の導入口122と、流路121からの溶媒の排出口123とが形成されている。固定基板11には、溶媒タンク2からの送液される溶媒が流れる流路111と、導出部6に送液される溶媒が流れる流路112とが形成されている。図中、矢印F1及びF2は、固定基板11のこれらの流路に送液される溶媒の流れ、あるいは流路から排液される溶媒の流れを示す。
【0035】
採取基板12には、流路121の導入口122と排出口123との間において上部に開放された開口124が形成されている。開口124は、流路121内を通流する溶媒を生体表面に接触させるために機能する。すなわち、図5に示すように、溶媒が通流する流路121の開口124に生体表面Sを密着させると、流路121内に充満した溶媒が生体表面Sに接触し、生体表面Sに存在する生理活性物質が溶媒中に採取される。生体表面Sに接触した溶媒は、矢印F2に従って導出部6に送液される。
【0036】
この際、図3で説明したバルブ22,32の開閉を制御して溶媒タンク2及び空気タンク3から採取部1に溶媒及び空気を選択的に導入することによって、生体表面Sに接触する溶媒を、所定容量毎に空気により分断して、導出部6に送液することができる。具体的には、開口124に生体表面Sを密着させた状態で、所定容量の溶媒を流路121に送液後、流路121に空気を送ることにより、流路121内における溶媒の流れを空気によって分断する。その後、再度、所定容量の溶媒を流路121に送液する。このように、空気の導入と溶媒の導入とを繰り返すことで、生体表面Sに接触後の溶媒を所定容量ごとに空気により分断された状態で導出部6へ送り出すことができる。これにより、回収されるサンプルにおける生理活性物質の希釈を抑制でき、異なる生体や生体表面の異なる部位から採取されたサンプルを区分して異なる容器内に回収できる。
【0037】
ここでは、生体表面Sとして指先を例示した。生理活性物質の取得部位である体表表面Sは、指や掌などの皮膚表面が簡便であるが、特に限定はされない。開口124は、生理活性物質の取得部位に応じて、該部位の皮膚表面を密着させ易いような形状に形成されることが望ましい。開口124と体表表面Sを密着させるため、粘着テープやバンドル等を用いて生体表面Sを採取基板12に固定してもよい。
【0038】
採取基板12は、上述したように、固定基板11上に交換可能に配されている。これにより、例えば、生理活性物質の取得部位の形や大きさに応じて開口124の形状を異ならせた複数種類の採取基板12を適宜交換して取り付けることが可能となる。また、異なる生体や生体表面の異なる部位からサンプル採取する場合や同一の生体や生体表面から異なる時刻にサンプルを採取する場合に、その都度新しい採取基板12を取り付けられ、サンプル間のクロスコンタミネーションを防止することが可能となる。なお、採取基板12を交換しない場合には、サンプル間のクロスコンタミネーションを防止するため、採取部1に溶媒あるいは洗浄液を所定時間通流して洗浄操作を行うことが望ましい。
【0039】
固定基板11の溶媒タンク2からの送液される溶媒が流れる流路111と、採取基板12の導入口122は、接続管113によって連通されている(図4参照)。また、固定基板11の導出部6に送液される溶媒が流れる流路112と、採取基板12の排出口123も、接続管113によって連通される。接続管113は、好ましくは、流路111及び流路112の一部に圧入して固定され、硬質な材料(例えば金属)製とされる。接続管113は、採取基板12を固定基板11に取り付ける際に、それぞれが導入口122と排出口123に嵌入されることにより、溶媒の流路となるとともに、固定基板11上における採取基板12の位置決め手段としても機能する。
【0040】
固定基板11に採取基板12を取り付ける際、両者の連結部位である接続管113周辺から溶媒の漏れが生じることを防止するため、固定基板11に採取基板12との間には、密封部材13を挟みこむことが望ましい。密封部材13には、シリコンゴム等の弾性を有する材料が好適に用いられる。密封部材13は、採取基板12と同程度の大きさのシート状に形成することが好ましい。
【0041】
固定基板11及び採取基板12の材質としては、石英又はホウ珪酸ガラス等のガラス材料やポリジメチルシロキサン(PDMS)等のシリコンゴムあるいはポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂、シクロオレフィンコポリマー(COC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)などが使用可能である。基板に配設される流路等の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行うことができる。流路等の表面には、生理活性物質を吸着し難くする処理を施すことが好ましい。表面処理としては、例えば、2-methacryloyoxyethyl phosphorylcholine(MPC)やpolyethylene glycol(PEG)による処理が挙げられる。なお、採取基板12については、ディスポーザブルとすることが好ましい。
【0042】
図6-1、図6-2は、固定基板11に取り付けられた採取基板12を保持するためのホルダーの構成と動作を説明する模式図であり、(A)は上面図を、(B)、(C)は断面図を示す。
【0043】
図中、符号14で示すホルダーは、上板141と下板142とこれらを連結するヒンジ143とを含んでなる。上板141には、保持される採取基板12の開口124に対応する位置に窓144が設けられている。採取基板12を交換する際、上板141は、ヒンジ143を支点として図中矢印方向に開閉が可能な構成とされている((C)参照)。
【0044】
固定基板11は、ホルダー14の下板142によって予め装置本体に固定される。ホルダー14は、上板141と下板142との間に固定基板11と採取基板12とを挟持して、固定基板11に取り付けられた採取基板12を上板141によって押圧する。これにより、ホルダー14は、固定基板11と採取基板12を、両基板間に挟み込まれた密封部材13(図5参照)を介して密着させて保持し、接続管113周辺からの溶媒の漏れを防止する。
【0045】
(4)供給手段
続いて、図7を参照して、供給手段の動作を説明する。
【0046】
生体内物質採取装置Aにおいて、導出部6から排液される溶媒を吸収保持するための吸収体5は、第一の芯体91を含んでなる供給手段によって導出部6の下方に送られる。吸収体5は、第一の芯体91に予め巻き取られた状態で格納されており、第一の芯体91の回転によって導出部6の下方に繰り出される。図中、矢印は、吸収体5の送り方向を示す。
【0047】
溶媒タンク2から採取部1に送液され、生体表面Sに接触された溶媒は、導出部6から断続的に滴下あるいは連続的に垂下される。導出部6の下方に送られた吸収体5は、この溶媒を受容して吸収する。そして、溶媒を保持した吸収体5は、さらに第二の芯体92に送られ、巻き取られて保存される。なお、導出部6の端部の孔からの溶媒の排液は、図3で説明したバルブ62と全体制御部により適切なタイミングで制御される。
【0048】
このようにサンプルを吸収保持させた吸収体5を第二の芯体92によって巻き取って保存することで、サンプルをチューブなどの容器内に溶液状態で回収して保存する方法に比べて、サンプル中の生体内物質を安定に保存することができる。また、装置の構成を簡略化して、装置を小型化することができる。
【0049】
さらに、サンプルを吸収保持させた吸収体5から溶媒を乾燥気化させて除去することにより、サンプルを溶液状態で保存する方法に比べて、生体内物質を一層安定に保存し、分解し難くすることができる。溶媒の気化は、自然乾燥によって行うことができるが、より好適にはブロワー(送風装置)やヒータ等の乾燥手段により行い得る。
【0050】
吸収体5は、第一の芯体91あるいは第二の芯体92への巻き取りのため、帯状(テープ形状)に成形されることが望ましい。図8(A)に、テープ形状とした吸収体5と、導出部6から滴下された溶媒Dを模式的に示す。滴下された溶媒Dが吸収体5の反対面に染み出すのを防止するため、吸収体5の反対面には溶媒を透過しない材料をコーティングすることが好ましい。
【0051】
異なる生体や生体表面の異なる部位からサンプルを採取したり、同一の生体や生体表面から異なる時刻あるいは経時的にサンプルを採取する場合には、溶媒D同士が拡散により混合することを防止する必要がある。そのため、テープ形状とした吸収体5には、所定間隔で溶媒を浸透させない材料を含浸させておき、該材料により区分された区画毎に溶媒Dを滴下していくことが好ましい。
【0052】
また、溶媒D同士の拡散による混合を防止するため、図8(B)に示すように、所定形状(図では円形)に成形した吸収体5を、溶媒が浸透しない材料からなる、テープ形状の基材51上に配置した構成も採用できる。この場合、吸収体5は、基材51上に剥離可能に配置してもよい。基材51の材料は、使用する溶媒の種類に応じて適宜選択され得る。基材51には、例えば汎用のプラスチックフィルムを用いることができる。
【0053】
ここでは、溶媒を吸収後の吸収体5を第二の芯体92に巻き取って保存する場合を説明した。吸収体5を巻き取ることで、装置内での吸収体5の格納効率が高まるため、多量のサンプルを採取する際に好適となる。ただし、生理活性物質取得装置Aにおいて、第二の芯体92は必須の構成とはならないものとする。すなわち、溶媒を吸収後の吸収体5は巻き取られることなく、装置本体に設けた排出口から順次外部に送り出されてくるようにしてもよい。
【0054】
また、図8(B)で説明したように、吸収体5を基材51上に剥離可能に配置した場合には、溶媒を吸収後の吸収体5を基材51から剥がす機構を設け、剥離した吸収体5を装置内で重ね合わせて保存してもよい。
【0055】
さらに、生理活性物質取得装置Aにおいて、吸収体5を導出部6に送る供給手段は、ここで説明した第一の芯体91を含む構成に限定さることはないものとする。すなわち、供給手段には、予め所定形状に切断されたカード状の吸収体5を一つずつ導出部6に搬入し、かつ、溶媒吸収後の吸収体5を導出部6から搬出する構成なども採用できる。
【0056】
以上に説明した生理活性物質取得装置Aによれば、指や掌などの体表表面から生理活性物質を取得することにより、従来の血液や尿、唾液中から生理活性物質を採取する方法に比べ、より簡便かつ低侵襲に生理活性物質を採取できる。また、体表表面に存在する生理活性物質を取得することで、血液や尿、唾液等とは異なり、被験者に採取作業を強く意識させることなく、生理活性物質を取得できる。
【0057】
さらに、生理活性物質取得装置Aでは、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を取得するため、生理活性物質を経時的にもしくは常時採取することができる。また、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を採取することで、生理活性物質の採取時と、生理活性物質の生体内代謝時と、を一致させることができる。
【0058】
2.第一実施形態の変形例に係る生理活性物質採取装置
第一実施形態に係る生理活性物質採取装置Aでは、採取部1を、装置本体に固定された固定基板11に、ホルダー14によって採取基板12を取り付けて構成する例を説明した。この他、採取部1の構成は、以下に説明する変形例を採用することもできる。
【0059】
(1)第一変形例
図9は、本発明に係る生理活性物質採取装置が備える採取部の変形例の構成を説明する模式図である。図は、採取部において、生体表面から生理活性物質を取得するための操作を示している。本変形例に係る採取部は、採取基板12を固定基板11及び装置本体から分離させた状態で、生体表面Sからの生理活性物質の採取を行い得る構成とされている。
【0060】
採取基板12は、図示しない固定基板11とチューブ114,115によって接続されている。固定基板11側から送液される溶媒(及び空気)は、チューブ114を通って流路121に導入され、開口124において生体表面Sに接触した後、チューブ115を通って固定基板11側に送液される。図中、符号123は、流路121の導入口122及び排出口123に嵌入されて設けられ、チューブ114,115が接続される差込口を示す。差込口125は、金属製あるいはプラスチック製の管であってよい。
【0061】
本変形例に係る採取部は、採取基板12を装置本体から分離できる構成であるため、チューブ114,115の長さを適宜設定することにより、例えば、手元にて指先を採取基板12に押し付ける操作を行うことができる。あるいは、採取基板12を体幹皮膚表面などに貼り付けて生理活性物質を採取することもできる。体幹皮膚表面から生理活性物質を採取する場合には、採取基板12は、粘着テープを用いて皮膚に貼り付けたり、バンドル等を用いて体幹に巻き付ければよい。
【0062】
(2)第二変形例
図10は、本発明に係る生理活性物質採取装置が備える採取部の他の変形例の構成を説明する模式図あり、(A)は上面図を、(B)は(A)中P−P断面における断面図を示す。本変形例に係る採取部は、採取基板12内に、開口124において生体表面に接触した溶媒を貯留するための回収領域126を形成している。
【0063】
採取基板12の導入口122には差込口125が設けられており、差込口125には固定基板11から送液される溶媒を流路121に導入するためのチューブ114が接続されている。流路121に導入され、開口124において生体表面に接触した溶媒は、回収領域126内に導入されて貯留される。図中、符号127は、回収領域126の内部に存在する空気が、導入されてくる溶媒によって押し出されて排気される空気抜き穴を示す。
【0064】
本変形例に係る採取部は、サンプルを採取基板12の内部構成として設けた回収領域126に貯留する構成であるため、サンプルを単回あるいは少数回採取する際の使用に適する。サンプルの採取毎に採取基板12を交換するようにすることで、サンプル間のクロスコンタミネーションを排除できる。また、導出部6を含む回収手段を使用する必要がなくなるため、サンプル採取をより簡便に行うことができる。
【0065】
採取基板12への回収領域126や空気抜き穴127の成形は、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行えばよい。回収領域126は複数設けてもよく、この場合には開口124下流の流路121を分岐させて各回収領域126に接続する。流路121の各回収領域126への分岐部には、溶媒をいずれかひとつの回収領域126に送流するための切換バルブを設けてもよい。
【0066】
(3)第三変形例
図11は、本発明に係る生理活性物質採取装置が備える採取部の他の変形例の構成を説明する模式図あり、(A)は上面図を、(B)は(A)中P−P断面における断面図を示す。本変形例に係る採取部は、採取基板12内に溶媒を予め収容可能な溶媒収容領域128を形成している。
【0067】
溶媒収容領域128には、1回あるいは少数回のサンプルの採取に必要な溶媒を予め注入して貯留させておくことができる。採取基板12の導入口122には差込口125が設けられており、差込口125には固定基板11から送気される空気を流路121に導入するためのチューブ114が接続されている。流路121に空気が導入されてくると、溶媒収容領域128内に予め収容されている溶媒が空気によって押し出され、開口124において生体表面に接触し、さらに回収領域126内に導入されて貯留される。
【0068】
本変形例に係る採取部は、サンプルの採取を採取基板12の内部構成として設けた溶媒収容領域128に予め貯留させた溶媒により行うことができるため、サンプル毎に溶媒の種類を変更して採取を行う場合に好適である。
【0069】
採取基板12への溶媒収容領域128の成形も、ガラス製基板層のウェットエッチングやドライエッチングによって、またプラスチック製基板層のナノインプリントや射出成型、機械加工によって行い得る。
【0070】
3.生体情報取得方法
次に、本発明に係る生理活性物質採取装置を用いた生体情報取得方法について説明する。
【0071】
上述したように、本発明に係る生理活性物質採取装置では、体表表面に存在する生理活性物質を取得することで、血液や尿、唾液等とは異なり、被験者に採取作業を強く意識させることなく、生理活性物質を取得できる。また、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を取得するため、生理活性物質を経時的にもしくは常時採取することができる。さらに、体表表面に分泌又は透過される生理活性物質を採取することで、生理活性物質の採取時と、生理活性物質の生体内代謝時と、を一致させることができる。
【0072】
従って、本発明に係る生理活性物質採取装置によれば、被験者においてストレスや情動等の変化を引き起こすことなく、生理活性物質を採取して、採取された生理活性物質を被験者から経時的にもしくは常時取得し、その定量値から生体情報をリアルタイムにセンシングすることが可能となる。
【0073】
(1)生理活性物質の抽出
本発明に係る生理活性物質採取装置では、採取部において生体表面にから取得された生理活性物質は、吸収体に保持された状態で保存される。吸収体からの生理活性物質の抽出は、吸収体を抽出溶媒中に浸漬することによって行い得る。あるいは、吸収体に抽出溶媒を滴下し十分に吸収させた後、遠心分離を行って抽出することもできる。
【0074】
吸収体をテープ形状とした場合(図8(A)参照)には、必要に応じて吸収体を切断し、溶媒を満たしたチューブ等に投入する。また、吸収体を所定形状に成形し、テープ形状の基材上に配置した場合(図8(B)参照)には、基材から吸収体を切り出して用いる。吸収体を基材から剥離可能としている場合には、剥がした吸収体をそのまま溶媒を満たしたチューブ等に投入すればよい。
【0075】
生理活性物質の抽出のための溶媒は、採取のために用いた溶媒と同一であっても異なっていてもよい。例えば、採取のためには生体表面に接触させても害のない溶媒を用い、抽出のためには生理活性物質を溶出させ易い溶媒を用いることが考えられる。
【0076】
(2)生理活性物質の定量
溶媒中に再溶出された生理活性物質の定量は、液体クロマトグラフィー(HPLC)、表面プラズモンセンサー(SPR)や水晶発振子マイクロバランスセンサー(QCM)等により行うことができる。この他、定量は、酵素免疫測定法、放射免疫測定法等の公知手法で行うこともできる。
【0077】
HPLCやSPR、QCMによれば、酵素免疫測定法や放射免疫測定法で必要とされる標識化(ラベリング)の工程を省くことができるため、定量作業をを簡略化できる。加えて、測定精度の観点から、SPR又はQCMを採用することがさらに望ましい。HPLCでは、クロマトグラフ上のピークとして生理活性物質を検出しているため、ピーク強度に夾雑物のシグナルやノイズが入ると、測定精度が低下する場合がある。これに対して、SPR又はQCMでは、センサ表面に固相化した抗体により生理活性物質を検出するため、抗体の特異性に基づいて高い測定精度を得ることができる。また、SPR及びQCMでは、HPLCに比して、スループットが高いという利点もある。
【0078】
(3)生体情報の取得
生体情報の取得は、生理活性物質の定量値を指標として行う。具体的には、例えば、多数の健常者の一日の所定時間範囲にわたる生理活性物質量を測定し、測定結果より標準的な生理活性物質量濃度の変化範囲を規定する標準変化曲線を算出する。そして、被験者の生理活性物質量をこの標準変化曲線と比較し、生体情報の判定を行う。
【0079】
本発明に係る生理活性物質取得装置を用いて取得される生体情報には、ストレスや情動、月経周期、運動の効果等に関する情報の他、例えば、眠気(覚醒レベル)や健康状態、概日リズム(生体リズム)などが挙げられる。
【0080】
このうち、ストレスに関しては、生体へのストレス負荷量と、コルチゾール、コルチコステロン及びコルチゾン(以下、これらを総称して「コルチゾール類」という)の分泌量との間に相関があることが良く知られている(上記特許文献3及び特許文献4参照)。なお、ここで「分泌量」は、血中への分泌量、すなわち「血中濃度」と同義に用いるものとする。
【0081】
興奮や恐怖、怒り、攻撃性、快感、不安、悲哀などの情動については、ノルエピネフリンやエピネフリン、ドーパミン及びこれらの前駆物質となるL−ドーパ(以下、これらを総称して「カテコールアミン類」という)の分泌量との相関が知られている。また、カテコールアミン類とともにモノアミン類として分類されるセロトニンの分泌量についても、情動との相関が明らかにされている。
【0082】
例えば、被験者に不安や恐怖を抱かせるような心理社会的テストを行わせた場合、その前後において唾液中ノルアドレナリン量が変化することが報告されている(”Study of salivary catecholamines using fμLly automated colμMn-switching high-performance liquid chromatography.” Journal of Chromatography. B, Biomedical Sciences and Applications,. 1997 JμL 4;694(2):305-16参照)。
【0083】
さらに、良く知られているように、エステロン(E1)、エストラジオール(E2)及びエストリオール(E3)(以下、これらを総称して「エストロゲン類」という)は生体の月経周期を制御し、月経周期と相関して分泌量が変化する。
【0084】
また、効果的な運動を行うことで成長ホルモンの分泌が促進されることが知られている。成長ホルモンの分泌は筋肉や骨の成長を促進し、体脂肪動員を促して脂肪燃焼効率を高めるため、筋肉増強やダイエット等の運動による効果は成長ホルモンの分泌量に相関すると考えられる。
【0085】
従って、例えば、コルチゾール類の定量値に基づけば、生体に負荷されるストレスに関する情報を得ることができる。具体的には、例えば、多数の健常者のコルチゾール類分泌量を測定し、測定結果から標準的なコルチゾール類濃度の変化範囲を規定する標準変化曲線を算出する。そして、被験者のコルチゾール類分泌量を測定し、この標準変化曲線と比較する。比較の結果、例えば標準変化曲線を逸脱している場合には、当該被験者が慢性ストレスを有していると判定できる。
【0086】
また、例えば、被験者の平常時のコルチゾール類分泌量を測定し、この測定結果から標準変化曲線を算出して、ある時点における当該被検者のコルチゾール類分泌量と比較することにより、その時点における当該被験者のストレス状態もしくはリラックス状態を判定できる。
【0087】
コルチゾール類、モノアミン類、エストロゲン類及び成長ホルモンの他、指標とされる生理活性物質及び生体情報の組合せとしては、「表1」に示す組合せが公知である。本発明においても、これらの組合せを採用し、生理活性物質の定量値と生体情報との正又は負の相関に基づいて、生体情報に関する情報を得ることができる。
【0088】
【表1】
【0089】
なお、「表1」に示す生理活性物質は例示であって、この他にも、カテコールアミン類では、例えば、メタネフリンやノルメタネフリン、3−メトキシ−4ヒドロキシマンデル酸、3−メトキシ−4ヒドロキシフェニルグリコール、3,4−ジヒドキシマンデル酸、3,4−ジヒドキシフェニルグリコール、3,4−ジヒドキシフェニル酢酸、3−メトキシチラミン、ホモバニリン酸、5−ヒドロキシインドール酢酸、バニリルマンデル酸などが生体情報の指標となり得る。また、ステロイドホルモンでは、例えば、アルドステロンやデオキシコルチステロン、アンドロステンジオン、プロゲステロン、11−デオキシコルチコステロン、プレグネノロン、11−デオキシコルチゾール、17−ヒドロキシプロゲステロン、17−ヒドロキシプレグネノロン、コレカルシフェロール(ビタミンD)などが生体情報の指標となり得る。
【0090】
さらに、生体情報の指標となり得る生理活性物質として以下が挙げられる。向下垂体ホルモンとして、コルチコトロピン放出ホルモン(CRH)や成長ホルモン放出ホルモン(GRH)、ソマトスタチン(成長ホルモン分泌抑制ホルモン)、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)、プロラクチン放出ホルモン(PRH)、プロラクチン抑制ホルモン(PIH)、甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)など。甲状腺ホルモンとして、サイロキシンやトリヨードサイロキシンなど。クロモグラニンAや副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)、黄体形成ホルモン(LH)、インスリン様成長因子I(IGF-I)、プロラクチン、プロオピオメラノコルチン(POMC)、オキシトシン、α-メラニン細胞刺激ホルモン(α-MSH)、グルカゴン、グレリン、ガラニン、モチリン、レプチン、ガストリン、コレシストキニン、セレクチン、アクチビン、インヒビン、ニューロテンシン、ボンベシン、サブスタンスP、アンギオテンシンI,II、エンケファリン、オレキシンA,B、アナンダミド、アセチルコリン、ヒスタミン、グルタミン酸、グリシン、アスパラギン酸、ピリミジン、アデノシン、アデノシン3リン酸(ATP)、GABA、FMRFアミド、ペプチドYY、アグーチ関連ペプチド(AGRP)、コカイン-アンフェタミン調節性転写産物(CART)、カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)、グルカゴン様ペプチド1,2(GLP-1, 2)、血管作動性小腸ペプチド(VIP)、ガストリン放出ペプチド(GRP)、メラニン凝集ホルモン(MCH)などの各種ホルモン及び神経伝達物質。
【0091】
また、これらの生理活性物質と生体情報の対応もここに示すものに限られず、例えば、セロトニンは情動の他に、統合失調症や不眠症の指標ともなり得るし、エストロゲン類は月経周期の他に、不妊症や更年期症状、躁鬱状態の指標ともなり得る。この他にも、生理活性物質と対応生体情報の組み合わせは、現在までに明らかにされている全ての組み合わせが適用され得る。
【0092】
本発明に係る生体情報取得方法は、例えば「表1」に示したような生理活性物質を指標として生体の健康状態を知り、各種疾患の診断や予防、予後観察を行うために活用できる。具体的には、例えば、コルチゾール類の測定を行うことにより、慢性ストレスの有無を診断して、慢性ストレスの予防や予後観察に役立てることができる。また、例えば、カテコールアミン類の測定によりカルチノイド腫瘍の有無を診断等したり、セロトニンの測定により統合失調や不眠症、内因性欝、ダンピング症候群、偏頭痛の診断等を行ったりすることも考えられる。さらに、エストロゲン類の測定を行えば、月経周期を簡便に診断できる他、不妊症や、乳癌・子宮筋腫・子宮内膜症等のエストロゲン依存性疾患、更年期症状などの診断等に役立てることもできる。
【0093】
また、成長ホルモンは、加齢に伴って分泌量が低下することが知られており、炭水化物、タンパク質及び脂質の代謝に機能して糖尿病や高血圧症、高脂血症等の生活習慣病の発症にも関与することが知られている。この他、成長ホルモン関連疾患として、成長ホルモンの分泌量減少を伴う成長ホルモン分泌不全性低身長症や下垂体機能低下症、甲状腺機能低下症、肥満症、成長ホルモンの分泌量増加を伴う巨人症や末端肥大症、異所性成長ホルモン生産腫瘍、神経性食欲不振症等の極度の低栄養、慢性腎不全などの疾患がある。従って、本発明に係る生理活性物質測定方法を用いて成長ホルモンの測定を行うことにより、老化の程度の判定や、生活習慣病や成長ホルモン関連疾患の診断等を行うことができる。
【実施例】
【0094】
<実施例1:コルチゾール類の定量>
1.皮膚表面からのコルチゾールの取得
6名の被験者について、1日3回(10時、14時、18時)、4日間、以下の2通りの方法により、指の皮膚表面からコルチゾールを取得した。
【0095】
(1)マイクロチューブによる採取
エタノールを含ませたペーパータオルで人差し指の指先を軽く拭いた。1%エタノール水50μLが入ったマイクロチューブの上部開口を人差し指の指先に当て、マイクロチューブの下端を親指で保持した(図12(A)参照)。人差し指と親指でマイクロチューブを挟持した状態で、マイクロチューブを逆さにして、人差し指の皮膚表面に1%エタノール水を1分間接触させた。ここで、始めにペーパータオルで指先を拭く目的は、皮膚表面に存在する夾雑物を取り除くことの他、皮膚表面にコルチゾールが蓄積している可能性を想定し、これを取り除くことを目的としている。
(2)シリンジによる採取
エタノールを含ませたペーパータオルで人差し指の指先を軽く拭いた。シリンジの先端に1%エタノール水50μLを充填し、シリンジを人差し指の指先に当てた状態で、シリンジを親指と中指で保持した(図12(B)参照)。右手でシリンジのピストンを引っ張ってシリンジ内を陰圧とし、皮膚表面にシリンジを吸い付け、人差し指の皮膚表面に1%エタノール水を1分間接触させた。この方法によれば、(1)のマイクロチューブによる採取に比べ、皮膚表面に接触させた1%エタノール水を、シリンジ内の陰圧に基づいて高収率に回収することが可能である。
【0096】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量
皮膚表面に接触させた1%エタノール水(以下、単に「サンプル」という)40μLをバイアルに回収した。このサンプル30μLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0097】
前処理カラムにはCAPCELLPAK MF Ph-1(カラムサイズ1.5mmID×35mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、2.5%アセトニトリル水を流速100μL/minで送液した。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 UG120(カラムサイズ1.5mmID×250mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、10mM Phosphate buffer(pH 6.8)/CH3CN = 78/22を流速100μL/minで送液した。検出は紫外線吸光度検出器(波長242nmUV)にて行い、測定時間は50minとした。
【0098】
始めに、標準品コルチゾール(和光純薬)を0.5μMコルチゾール/コルチゾン水溶液として調製し、予備検討を行った。この予備検討により、前処理カラムから分析カラムへのバルブ切換え時間(測定開始後2.7-4.4分)及びコルチゾールの流出時間(同36-38分)を確認した。
【0099】
図13に、1名の被験者において1日3回(10時、14時、18時)採取を行ったサンプルについて、コルチゾール量を測定した結果を示す。図中、符号pで示す標準品のピークに一致して、各時刻のサンプル(符号s10, s14, s18参照)でコルチゾールのピークが確認できる(ブロック矢印参照)。なお、図中、符号nは、皮膚に接触させていない1%エタノール水の測定結果を示している。
【0100】
ベースラインに基づきピーク面積を算出し、検量線を用いて算出されたコルチゾール量(pg)を、図14に示す。図は、6名の被験者(被験者A〜F)について、4日間測定を行った結果を示している。個人差及び測定時刻間での差は見られるものの、少ない場合で数pg、多い場合には300pgのコルチゾールが皮膚表面から採取できることが確認された。
【0101】
3.表面プラズモンセンサー(SPR)を用いた定量
実施例1で説明した方法(シリンジによる採取)により調製したサンプルについて、表面プラズモンセンサー(BiacoreX、ビアコア株式会社)を用いた間接競合SPRにより分析を行った。分析は以下の手順に従った。
【0102】
(1)SPRセンサ表面へのコルチゾールの固相化
SPRセンサには、予め表面にストレプトアビジンが固相化されたSA Chip (ビアコア株式会社)を用いた。標準品コルチゾールをビオチン化した。得られたビオチン化コルチゾールをAcetate 4.0 (ビアコア株式会社)に溶解し、流速10 μL/minで100 μLインジェクションを行い、アビジンビオチン反応によってSPRセンサ表面にコルチゾールを固相化した。固相化するコルチゾールは、約150 RUとした。
【0103】
(2)検量線の作成
始めに、10 mM DMSO(Dimethyl sμLfoxide)溶液とした標準品コルチゾールを、1%エタノール水を用いて段階希釈し、コルチゾール濃度100, 50, 25, 12.5, 6.25, 3.13, 1.56, 0.78 nMの標準溶液を作製した。各濃度の標準溶液40 μLを、5 ng/mL抗コルチゾール抗体溶液40 μLと十分混合し、結合反応を行なわせた。結合反応後の標準サンプル溶液25 μLを、10 μL/min、25℃でインジェクションした。なお、抗コルチゾール抗体にはAbcam社マウスモノクローナル抗体(XM210)を、ランニングバッファーにはHBS-EPバッファー(ビアコア株式会社)を用いた。
【0104】
各濃度のコルチゾール溶液について得られたSPRカーブを、図15に示す。図中、0secで生じている約850 RU(Resonace Unit)のピークシフトは、ランニングバッファーから標準サンプル溶液への切換えに伴うバルク効果である。このバルク効果は、標準サンプル溶液からランニングバッファーへの切換えにより、150 secで消失している。
【0105】
0〜150secでは、センサ基板表面に固相化されたコルチゾールへの抗コルチゾール抗体の結合により、RUの経時的な増加が観察されている。RUの増加量は、高濃度の標準品コルチゾール溶液ほど小さく、低濃度の標準品コルチゾール溶液ほど大きくなっていることが確認される。これは、間接競合SPRの測定原理が機能していることを示している。
【0106】
図16(A)は、インジェクション終了後60secのRUを、ベースラインとの比較により算出して得たプロットを示す。
【0107】
(3)サンプルの測定
実施例1調製したサンプル40 μLを、抗コルチゾール抗体溶液40 μLと十分混合し、結合反応を行なわせた。結合反応後の標準サンプル溶液40 μLを、20μL/min、25℃でインジェクションした。同様の条件で作成した検量線を、図16(B)に示す。
【0108】
8名の被験者(被験者a〜h)について、検量線を用いて算出されたコルチゾール量(pg)を、「表2」に示す。各被験者において、数十pgのコルチゾールを検出することができた。
【0109】
【表2】
【0110】
<実施例2:カテコールアミン類の定量>
1.皮膚表面からのノルエピネフリン及びL−ドーパの取得
実施例1の「1.皮膚表面からのコルチゾールの取得」中、「(1)マイクロチューブによる採取」に記載の方法に従って、皮膚表面からノルエピネフリン及びL−ドーパを採取した。ただし、本実施例では、溶媒には水を使用し、皮膚表面に対する接触時間を3分間とした。
【0111】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)40μLをバイアルに回収した。このサンプル30μLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0112】
前処理カラムにはCAPCELLPAK MF Ph-1(カラムサイズ1.5mmID×35mm、カラム温度35℃、SHISEIDO)を用い、2.5%アセトニトリル水を流速100μL/minで送液した。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 MGII S5(カラムサイズ2.0mmI.D.×250mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、移動相は、A/B=90/10((A)1.0mM オクタンスルホン酸ナトリウム、0.02mM EDTA-2Na、10mM KH2PO4、0.05vol% H3PO4、(B)CH3CN)とし、流速200μL/minで送液した。検出は電気化学検出器(ECD OX 800mV)にて行い、測定時間は30minとした。インジェクション量は2μL又は5μLとした。
【0113】
測定結果を、図17に示す。「Sample-1」は、上記サンプルの濃縮液で得られたクロマトグラムを、「Sample-2」及び「Sample-3」は濃縮しないサンプルで得られたクロマトグラムを示す。また「STD」は、標準品溶液(ノルエピネフリン、エピネフリン、L−ドーパ、ドーパミン、セロトニンを含む溶液)で得られたクロマトグラムを示す。
【0114】
Sample-1〜3のクロマトグラムにおいて、ノルエピネフリン及びL−ドーパに対応するピークが検出されている。一方、エピネフリン、ドーパミン及びセロトニンに対応するピークは検出されなかった。
【0115】
ベースラインに基づきピーク面積を算出し、検量線を用いて算出されたノルエピネフリン量及びL−ドーパ量(pg)を、「表3」に示す。
【0116】
【表3】
【0117】
ノルエピネフリンは、サンプルの濃縮を行っていないSample-2及びSample-3では、検出限界未満(N.D.)となったが、濃縮したSample-1では数〜数十pg程度であった。また、L−ドーパは、Sample-1〜3の全てで数〜数十pg程度と定量された。この結果から、皮膚表面から数〜数十pg程度のノルエピネフリン及びL−ドーパの採取が可能であることが確認できた。
【0118】
<実施例3:セロトニンの定量>
1.皮膚表面からのセロトニンの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面からセロトニンを採取した。
【0119】
2.高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)100 μLをバイアルに回収した。このサンプル100 μLを、高速液体クロマトグラフィー(NANOSPACE SI-2、SHISEIDO)を用いた分析に供した。
【0120】
前処理カラムにはCAPCELL PAK C18 MGII S5(カラムサイズ2.0mmID×35mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、分析カラムにはCAPCELLPAK C18 UG120 S3(カラムサイズ1.5mmID×250mm、カラム温度40℃、SHISEIDO)を用いた。また、移動相は、A/B=87/13((A)4mM SodiμM 1-OctanesμLfonate、0.02mM EDTA-2Na、5mM KH2PO4(pH3.4)、(B)CH3CN)とし、流速100μL/minで送液した。検出は電気化学検出器(ECD OX 750mV(Ag/AgCl))にて行い、測定時間は40minとした。インジェクション量は1μLとした。
【0121】
測定結果を、図18に示す。「Sample」は、上記サンプルの100 倍濃縮液で得られたクロマトグラムを、「Standard」は、標準品セロトニン(和光純薬)の0.1μM溶液で得られたクロマトグラムを示す。
【0122】
サンプル及び標準品セロトニンのクロマトグラムにおいて、溶出時間36〜38分にピークが検出されている。クロマトグラムの面積からセロトニン濃度を算出したところ、サンプルの100 倍濃縮液のセロトニン濃度は約4.4ng/mLであり、人差し指の皮膚表面から約0.044 ng/mLのセロトニンが採取できた。
【0123】
<実施例4:エストラジオールの定量>
1.皮膚表面からのエストラジオールの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面からエストラジオールを採取した。エストラジオールの採取は、8名の被験者から行った。
【0124】
2.酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:ELIZA)を用いた定量
皮膚表面に接触させた水(以下、単に「サンプル」という)100 μLをバイアルに回収した。このサンプル100 μLを、市販のELISAキット(High Sensitivity SALIVARY 17β-ESTRADIOL ENZYME IMMNOASSAY KIT、SALIMETRICS社)を用いた分析に供した。
【0125】
キット添付の標準品エストラジオールの測定により検量線を作成し、サンプル中のエストラジオール濃度を算出した結果を図19に示す。各サンプル中のエストラジオール濃度は、2〜23pg/ml程度であった。この結果から、人差し指の皮膚表面から数〜数十pg程度のエストラジオールの採取が可能であることが確認できた。
【0126】
<実施例5:成長ホルモンの定量>
1.皮膚表面からの成長ホルモンの取得
実施例2と同様の方法に従って、皮膚表面から成長ホルモンを採取した。ただし、ここでの採取は、親指の皮膚表面から行った。成長ホルモンの採取は、3名の被験者から行った。
【0127】
2.酵素免疫測定法(ELIZA)を用いた定量
サンプル100μLをバイアルに回収し、市販のELISAキット(hGH ELISA、Roche社)を用いた分析に供した。
【0128】
キット添付の標準品成長ホルモンの測定により検量線を作成し、サンプル中の成長ホルモン濃度を算出した結果を図20に示す。図中、s1はサンプルの10倍濃縮液、s2は25倍濃縮液である。親指の皮膚表面から0.29〜0.51pg/mLの成長ホルモンを採取することができた。
【産業上の利用可能性】
【0129】
本発明に係る生理活性物質取得装置によれば、生体から簡便かつ低侵襲に、常時、生理活性物質を採取することができる。この装置を用いれば、取得された生理活性物質の定量値に基づいて正確な生体情報を取得できるため、本発明は、例えば、家庭におけるヘルスケア分野やゲームなどのエンタテイメント分野における生体情報センシングに応用され得る。
【符号の説明】
【0130】
A:生理活性物質採取装置、S:生体表面、D:溶媒、1:採取部、11:固定基板、111,112,121:流路、113:接続管、114,115:チューブ、12:採取基板、122:導入口、123:排出口、124:開口、125:差込口、126:回収領域、127:空気抜き穴、128:溶媒収容領域、13:密封部材、14:ホルダー、141:上板、142:下板、143:ヒンジ、144:窓、2:溶媒タンク、21,31,61:ポンプ、22,32,62:バルブ、3:空気タンク、4:排液タンク、5:容器、51:基材、6:導出部、7:廃液トレイ、71:切欠、8:コントロールボックス、91:第一の芯体、92:第二の芯体、10:下部カバー
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の体表表面から生理活性物質を取得するために前記体表表面に当接される採取部と、
採取部に溶媒を送液する送液手段と、を備え、
採取部には、送液手段から送液されて通流する前記溶媒を前記体表表面に接触させる開口が設けられている生理活性物質採取装置。
【請求項2】
前記開口において前記体表表面に接触した前記溶媒を排液する導出部と、
溶媒を吸収保持する吸収体を導出部に送る供給手段と、を備える請求項1記載の生理活性物質採取装置。
【請求項3】
前記供給手段は、芯体に巻き取られた前記吸収体を、芯体を回転させることにより繰り出して前記導出部に送るものである請求項2記載の生理活性物質採取装置。
【請求項4】
前記溶媒を吸収保持した吸収体から溶媒を気化させて除去する乾燥手段を備える請求項3記載の生理活性物質採取装置。
【請求項5】
前記採取部に空気を送気する送気手段を備え、採取部に前記溶媒及び空気を選択的に導入する請求項4記載の生理活性物質採取装置。
【請求項6】
前記採取部は、前記溶媒が通流される流路と、流路への溶媒の導入口と、流路からの溶媒の排出口と、流路の導入口と排出口との間に位置する前記開口と、が形成された基板を含んでなり、
基板は、採取部において交換可能に配されている請求項1〜5記載のいずれか一項に記載の生理活性物質採取装置。
【請求項7】
請求項6記載の生理活性物質採取装置により取得された前記生理活性物質を定量する手順と、
生理活性物質の定量値に基づいて前記生体に関する情報を取得する手順と、を含む生体情報取得方法。
【請求項8】
前記生理活性物質をコルチゾール類とし、前記情報として前記生体のストレスに関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
【請求項9】
前記生理活性物質をモノアミン類とし、前記情報として前記生体の情動に関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
【請求項10】
前記生理活性物質をエストロゲン類とし、前記情報として前記生体の月経周期に関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
【請求項11】
前記生理活性物質を成長ホルモンとし、前記情報として前記生体における運動の効果に関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
運動の効果を知る
【請求項1】
生体の体表表面から生理活性物質を取得するために前記体表表面に当接される採取部と、
採取部に溶媒を送液する送液手段と、を備え、
採取部には、送液手段から送液されて通流する前記溶媒を前記体表表面に接触させる開口が設けられている生理活性物質採取装置。
【請求項2】
前記開口において前記体表表面に接触した前記溶媒を排液する導出部と、
溶媒を吸収保持する吸収体を導出部に送る供給手段と、を備える請求項1記載の生理活性物質採取装置。
【請求項3】
前記供給手段は、芯体に巻き取られた前記吸収体を、芯体を回転させることにより繰り出して前記導出部に送るものである請求項2記載の生理活性物質採取装置。
【請求項4】
前記溶媒を吸収保持した吸収体から溶媒を気化させて除去する乾燥手段を備える請求項3記載の生理活性物質採取装置。
【請求項5】
前記採取部に空気を送気する送気手段を備え、採取部に前記溶媒及び空気を選択的に導入する請求項4記載の生理活性物質採取装置。
【請求項6】
前記採取部は、前記溶媒が通流される流路と、流路への溶媒の導入口と、流路からの溶媒の排出口と、流路の導入口と排出口との間に位置する前記開口と、が形成された基板を含んでなり、
基板は、採取部において交換可能に配されている請求項1〜5記載のいずれか一項に記載の生理活性物質採取装置。
【請求項7】
請求項6記載の生理活性物質採取装置により取得された前記生理活性物質を定量する手順と、
生理活性物質の定量値に基づいて前記生体に関する情報を取得する手順と、を含む生体情報取得方法。
【請求項8】
前記生理活性物質をコルチゾール類とし、前記情報として前記生体のストレスに関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
【請求項9】
前記生理活性物質をモノアミン類とし、前記情報として前記生体の情動に関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
【請求項10】
前記生理活性物質をエストロゲン類とし、前記情報として前記生体の月経周期に関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
【請求項11】
前記生理活性物質を成長ホルモンとし、前記情報として前記生体における運動の効果に関する情報を取得する請求項7記載の生体情報取得方法。
運動の効果を知る
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6−1】
【図6−2】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図18】
【図19】
【図20】
【図13】
【図14】
【図15】
【図17】
【公開番号】特開2012−42310(P2012−42310A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−183121(P2010−183121)
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年8月18日(2010.8.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】
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