説明

生産または物流管理装置及び生産または物流管理方法

【課題】離散型シミュレーションの膨大なルール化を排除するとともに実態に即したシミュレーション機能を備えた生産または物流管理装置を提供する。
【解決手段】ものは、台車によってA工程エリア13〜C工程エリア15間を移動する。ものが各工程エリア内の設備に入ったときのIN時刻及びものが各工程エリア内の設備から出たときののOUT時刻は、データ取得端末32に記録される。ものがC工程エリア15内の設備を出たときに、データ取得端末32は、それまでに取得したIN時刻及びOUT時刻と予め設定された設定情報(例えばもの品種など)とを関連付けて工程データを作成する。生産・物流シミュレータ25は、工程データに基づいて、ものが一の工程、移動時間、次工程、さらなる工程を経て、処理が完了するまでの一連の流れを図式化するものチャートを出力する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多変種多変量の生産・物流管理装置または生産・物流管理方法にかかり、詳しくは生産・物流を視覚化する生産・物流の離散型シミュレーションに関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、顧客の嗜好の多角化等に伴い、種々の産業において多変種多変量の生産・物流が適用されている。ここで、多変種多変量の生産・物流とは、工場における物品の製造はもとより、サプライ・チェーンといわれる原材料から顧客までの物品の物流、定期運行の公共交通機関など、多岐に渡るものである。
【0003】
かかる環境の変化は生産・物流の管理にも大きな影響を及ぼし、従来のような連続型のシミュレーションモデルでは十分な管理や分析が困難となっている。そこで、より現実に近いシミュレーションを行って管理精度を向上させるために、必要に応じて離散型シミュレーションが適用されている(特許文献1参照)。
【0004】
一方、生産・物流の効率的な管理をするために、生産・物流の実態を把握する手段として「見える化」がある。「見える化」とは、仕事の流れ、ルール、量、状況、問題点などを見てすぐに把握できるように、定量化または図式化することである。この「見える化」により情報の共有化、可視化、業務の標準化、ルール化、簡素化などが実行され、迅速かつ正確な業務処理と問題解決を図っていくことができる。
【0005】
見える化の一つの手法として「ものチャート」がある。ここで「もの」とは「物品」に限定されず、生産・物流シミュレーションもしくは管理において観測・管理する対象を指している。「ものチャート」は、さまざまなグラフやチャートを用い、対象物自身や工程等から取得されたデータからわかる「もの」の動きを、ビジュアルで表現したものである。「もの」に関わる種々のアイテムごとに、さまざまな切り口のチャートを作成し、マクロの視点で、「もの」の動きを多角的に把握することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献3】特開平7−315284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記した離散型シミュレーションは、対象である「もの」が経由する要素に対して、「もの」がどのように処理等されるかを規定する「ルール化」が必要となる。多変種多変量の対象の規模が拡大するとともに、構成する要素や処理等も増え、膨大なルール化が必要となる。膨大なルールを設定したシミュレーションを実行するためには、高い計算機能力を必要とすることはもとより、計算時間も多大なものとなる。さらに、シミュレーションモデルが複雑化した場合には、計算結果が収束せず、シミュレーションが破綻するおそれがあった。
【0008】
一方、多変種多変量の対象の規模の拡大は、ものチャートも複雑化し、本来ならば業務改善を図るための見える化が、「もの」の動きを多角的に把握するという本来の目的を達成できないおそれがあった。
【0009】
本発明は、離散型シミュレーションと、経由する要素の「ルール」が内包された「ものチャート」とを組み合わせることにより、離散型シミュレーションの膨大なルール化を排除するとともに実態に即したシミュレーションを行う生産・物流管理装置またはその方法を提供することを目的とする。さらに、本発明は、シミュレーションの結果を用いた新たな「ものチャート」を作成することで、生産・物流管理の分析ツールを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決するための本発明の一態様は、予め設定された経路に基づいた複数種類の工程を経由することで物品が処理される多変種多変量の生産・物流において、一の種類の工程には該処理をする複数の設備が含まれ、該物品はそれぞれの工程の設備の一つを経由する物品の生産または物流管理装置に適用することができる。本態様は、一の物品が一の工程に費やす時間である工程時間および前記一の工程から次の工程へ移動する間の待ち時間を含む工程データをそれぞれの物品に対して取得し、取得した物品ごとの工程データを蓄積する工程データ取得装置と、前記工程データを入力することで、前記物品が一の工程、移動時間、次工程、さらなる工程を経て、処理が完了するまでの一連の流れを図式化するものチャートをそれぞれの物品に対して出力する離散型の生産・物流シミュレータとから構成されている。
【0011】
前記構成によれば、従来技術における離散型シミュレータでは各工程や移動時間を予めルール化して生産・物流のシミュレーションを実行するのに対して、本構成では一の物品が一の工程で処理される実時間および次工程への移動時間を取得し、これを工程データとして生産・物流のシミュレーションを実行する。この工程データのデータ構造には従来技術のルール構造が含まれている。すなわち、この工程データは、作業者の質、定常的なトラブルの発生、工場の環境、ルート探索など、従来の離散型データの要素となっていた種々の要因を含むものであり、統合されたマクロ的な離散型データとなっている。このようにルールが含まれた工程データを適用することで、実態に近いシミュレーションとなるとともに計算負荷も軽減されて、従来技術の課題であった、種々の要因をルール化すること、さらには複雑なルールによってシミュレーション計算に膨大な時間を要すること、を解消することができる。以上のように、前記構成は、離散型シミュレーションを実行する上で、予めルールを規定することなく、従来「ものチャート」を作成するために測定した工程データを入力することで、実態の物品の流れを再現することができる。
【0012】
本発明の一側面において、前記工程データには、前記設備の識別や、前記物品が前記一の工程から次の工程へ移動する間に保管される保管置場の識別を含むようにすることができる。
【0013】
前記構成によれば、設備および保管置場を識別することで、物品の流れの「見える化」を向上させることができる。「見える化」の向上によって「ものチャート」による分析を多角的に実行できるようになる。
【0014】
本発明の一側面において、前記工程データは、前記工程の担当者ごとに識別されているようにすることができる。
【0015】
前記構成によれば、担当者ごとの工程データの差異を明確にし、有効な作業手順や作業上の課題を顕在化することができる。
【0016】
本発明の一側面において、前記生産・物流シミュレータは、前記物品の経路を空間的もしくは立体的に表すストリングダイヤグラム(糸引き線図)もしくはガントチャートを出力するようにすることができる。
【0017】
前記構成によれば、検討する視点に応じて、ものチャートを視覚化することができる。
【0018】
本発明の一側面において、前記工程データ取得装置は、前記工程時間もしくは前記待ち時間について、所定のしきい値を超える前記工程データを抽出するように構成することができる。
【0019】
前記構成によれば、異常値の抽出をすることができる。
【0020】
前記した課題を解決するための本発明の一態様は、予め設定された経路に基づいた複数種類の工程を経由することで物品が処理される多変種多変量の生産・物流において、一の種類の工程には該処理をする複数の設備が含まれ、該物品はそれぞれの工程の設備の一つを経由する物品の生産または物流管理方法に適用することができる。本態様は、一の物品が一の工程に費やす時間である工程時間および前記一の工程から次の工程へ移動する間の待ち時間を含む工程データをそれぞれの物品に対して取得する工程データ取得装置が、取得した物品ごとに工程データを蓄積するステップと、前記工程データが入力される離散型の生産・物流シミュレータが、入力された工程データに基づき、前記物品が一の工程、移動時間、次工程、さらなる工程を経て、処理が完了するまでの一連の流れを図式化するものチャートをそれぞれの物品に対して出力するステップとから構成される。
【発明の効果】
【0021】
本発明は、離散型シミュレーションに、経由する要素の「ルール」が内包された「ものチャート」を組み合わせることにより、離散型シミュレーションの膨大なルール化を排除するとともに実態に即したシミュレーションを行う生産・物流管理装置およびその方法を提供することができる。さらに、本発明は、シミュレーションの結果を用いた新たな「ものチャート」を作成することで、生産・物流管理の分析ツールを提供することができる。このように、本発明は、計算機の能力・時間にとらわれず、精度の高いシミュレーションを実行できるとともに、定量的な「見える化」を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】一定期間毎にものの流れの分析が行われる工場を表す図である。
【図2】生産エリアを表す図である。
【図3】A〜C工程エリア間におけるものの運搬経路を表す図である。
【図4】工程データを表す図である。
【図5】工程データ群を表す図である。
【図6】生産・物流シミュレータとこれに接続される表示装置及び入力装置を表す図である。
【図7】全体的なものチャートを表す図である。
【図8】A工程エリアだけ特定の設備に着目した設備別のものチャートを表す図である。
【図9】品種別のものチャートを表す図である。
【図10】A工程エリアの特定の設備だけに着目した特定工程エリアにおける設備別のものチャートを表す図である。
【図11】在庫グラフを表す図である。
【図12】状態・変化テーブルを表す図である。
【図13】設備及び保管置場の利用状況ともの移動経路が表されたストリングダイヤグラムを示す図である。
【図14】運搬者毎に移動経路ラインを識別できるようにしたストリングダイヤグラムを表す図である。
【図15】工程データの取得からものチャート等の作成までの流れを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
図1は、本発明の一実施形態を適用する多種多変量の物品を生産する工場の一例である。本実施形態では、A工程エリア13〜C工程エリア15間を移動する完成前の途中工程品(原材料や中間生成物など)を「もの」と呼ぶが、そのような意味を有する用語(例えば「物品」など)であれば呼び方は限定されない。
【0024】
工場10は、変種変量方式で製品を生産する生産エリア11と、この生産エリア11でのものの流れを管理する管理エリア12とからなる。生産エリア11は、各種生産を行うA〜C工程エリア13〜15及び一時的にものを保管する第1、2在庫置き場16,17を備えている。製品はA工程エリア13、第1在庫置き場16、B工程エリア14、第2在庫置き場17、C工程エリア15の順に運搬され、C工程エリア15を出た時に生産が完了する。なお、本実施形態では、製品は生産エリア11の各工程13〜15の全てを経て完成するものとして説明するが、例えば、途中工程のいくつかを省いても本発明が適用できることは言うまでも無い。
【0025】
生産エリア11においては、各工程エリアでもの生産が行われ、各在庫置き場では次の工程エリアに入る前のものが一時的に保管される。各工程エリア内に入った時刻と出た時刻は、ものの品種などの設定情報と関連付けられた工程データとしてデータ蓄積サーバ20に記録される。データ蓄積サーバ20は、一定期間工程データを蓄積した後は、その一定時間内に蓄積した多数の工程データからなる工程データ群をネットワーク22を通して管理エリア12の生産・物流シミュレータ25に送信する。なお、工程データ群は、ネットワーク22を使わずに、USBメモリなどの記憶媒体で、生産・物流シミュレータ25に直接送信してもよい。
【0026】
管理エリア12では、生産・物流シミュレータ25が、物流管理装置として、データ蓄積サーバ20からの工程データ群に基づき、ものの流れの分析に用いるものチャート等を作成する。作成されたものチャート等は、液晶ディスプレイなどの表示装置26に表示される。なお、生産・物流シミュレータ25にはキーボードやマウスなどの入力装置27が接続されており、この入力装置27による入力指示に従って各種分析結果が出力される。
【0027】
図2に示すように、生産エリア11では、ものは台車30に載せられてA工程エリア13〜C工程エリア15間を移動する。A〜C工程エリアにはそれぞれ複数の設備(A1〜A21、B1〜B5、C1〜C16)が配置されており、台車30は、各工程エリア内のいずれか一つの設備に搬入される。各工程エリアにおける各設備は、いずれの設備に搬入されたかが分かるように、「工程名+番号」からなる識別番号が付けられている。例えば、A工程エリアであればA1〜A21のような識別番号が付けられている。
【0028】
また、第1及び第2在庫置き場16,17には、保管置場(P1〜P45、Q1〜Q45)が複数設けられている。第1及び第2在庫置き場においても、A〜C工程エリアと同様に、台車30は、各置き場内のいずれか1つの保管置場に一時的に止められる。各置き場における各保管置場は、いずれの保管置場に止められたが分かるように、識別番号が付けられている。例えば、第1在庫置き場の場合であれば、P1〜P45のような識別番号が付けられている。
【0029】
図3に示すように、生産エリア11では、互いに品種が異なる多数のものG1〜Gn(nは2以上の自然数)の生産に、それぞれ異なる工程の設備や置き場を使用する。また、生産エリア11では、ものの運搬経路は、品種ごとに変えている。例えば、ものG1の生産には、設備A1、保管置場P2、設備B2、保管置場Q1、設備C2が使用され、この順でものG1が運搬される。一方、ものG1と品種が異なるものG2の生産には、設備A1、保管置場P1、設備B1、保管置場Q2、設備C1が使用され、この順でものG2が運搬される。
【0030】
図2に示すように、台車30を動かす運搬者は、ものの流れの管理するためのデータ取得端末32を所持している。データ取得端末32には、運搬者が運搬するものの品種と、そのものをどの設備及び保管置場に運搬するかについての設定情報が予め入力されている。運搬者は、各工程エリアにおける各設備に入ったときと出たときに、データ取得端末32を操作する。この操作によって、各設備に入ったときの時刻(IN時刻)と各設備から出たときの時刻(OUT時刻)が、設定情報と関連付けられてデータ取得端末32に記録される。
【0031】
これらIN時刻またはOUT時刻がデータ取得端末32に記録されると、データ処理取得端末32aは、それまでに記録された全てのIN時刻またはOUT時刻とそれら時刻に関連付けられた設定情報とに基づき、ある品種のものについて、各工程で処理した設備の識別番号、IN時刻、OUT時刻と、各置き場で保管した保管置場の識別番号とが時系列に沿って並べられた工程データ(図4参照)を取得する。したがって、この工程データの各工程におけるIN時刻及びOUT時刻から各工程で費やす時間である工程時間を求めることができ、一の工程のOUT時刻と次の工程のIN時刻から工程間を移動する間の待ち時間を求めることができる。データ取得端末32はデータ蓄積サーバ20との無線通信が可能であり、もの生産が完了したとき(ものがC工程エリア内の設備を出たとき)に、工程データを無線通信によってデータ蓄積サーバ20に送信する。
【0032】
例えば、図3に示すように、台車30で品種「G1」のものを運搬しており、そのものG1が、設備A1、保管置場P2、設備B2、保管置場Q1、設備C2の順で移動する場合には、図4に示すような「ものG1、設備A1のIN時刻及びOUT時刻、設備B2のIN時刻及びOUT時刻、設備C2のIN時刻及びOUT時刻」からなる工程データ33がデータ蓄積サーバ20に送信される。この工程データ33からは、ものG1についてのA工程の工程時間(5分)、B工程の工程時間(3分)、C工程の工程時間(5分)を求めることができる。また、A工程とB工程間における待ち時間(20分)、B工程とC工程間における待ち時間(12分)を求めることができる。
【0033】
データ蓄積サーバ20は、データ取得端末32からの工程データ33を元にして、図5に示すような工程データ群34を作成する。工程データ群34は、それまでに取得した工程データ33が統合されたものであり、各データは時系列に沿って並べられており、時刻が遅いものほど下方に位置する。データ蓄積サーバ20は、予め設定された一定期間分の工程データ群34が得られると、ネットワーク22を介して、工程データ群を生産・物流シミュレータ25に送信する。なお、本実施形態では、工程データ群を一定時間毎にバッチ式で生産・物流シミュレータ25に送信するが、これに代えて、データ蓄積サーバ20で工程データを受信したら直ぐに、その受信した工程データを生産・物流シミュレータ25に送信してもよい。
【0034】
図6に示すように、生産・物流シミュレータ25は、生産・物流シミュレータソフトの一つである「WITNESS」(登録商標)がインストールされたコンピュータから構成される。生産・物流シミュレータ25は、データ取り込み部35で取り込んだ工程データ群34又はパラメータ入力部36で入力された各種パラメータに基づいて、ものの流れ等の離散型シミュレーションを行う離散型シミュレーション部37を備えている。データ取り込み部35は、離散型のデータをインポートする機能の他に、一定期間毎に、工程データ群を生産・物流シミュレータ25に送信するように、データ蓄積サーバ20に送信要求する機能を備えている。これにより、離散型シミュレーション部37では、リアルタイムで離散型シミュレーションを行うことができる。なお、生産・物流シミュレータ25には、本発明の考え方を適用すれば、「WITNESS」以外の他のアプリケーションを用いてもよい。
【0035】
離散型シミュレーション部37は、工程データ群34を用いて離散型シミュレーションを行う第1処理部40と、入力された各種パラメータに基づいて離散型シミュレーションを行う第2処理部41とを備えている。第1処理部40は、ものチャート作成部42と、在庫グラフ作成部43と、状態・変化テーブル作成部44と、ストリングダイヤグラム作成部45によって、ものチャート等を作成する。また、第1処理部40には、入力装置27による修正指示によって、工程データ群を修正するデータ修正部46を備えている。なお、工程データ群34は一定期間毎に継続して送信されるため、第1処理部40はリアルタイムにものチャート等を作成し、作成したものチャート等を表示装置26に表示することができる。
【0036】
ものチャート作成部42は、工程データ群34の各工程データから、図7に示すように、各設備での及び各保管置場でのリードタイムに対応したリードタイムバー50〜53を作成する。作成したリードタイムバー50〜53は、縦軸「ものの品種」、横軸「時刻」の二次元空間上に、生産開始が早いものほど下方に位置するように配置される。作成されたものチャート55は表示装置26に表示される。なお、本実施形態では、各工程エリアや各在庫置き場に入ってから出てくるまでの時間のことをリードタイムと呼ぶ。
【0037】
このように各設備での及び各保管置場でのリードタイムをリードタイムバーの長さで表すことで、リードタイムが視覚的に把握される。合わせて、リードタームバーをものチャート上に時系列に沿って配列することで、生産エリアで生産されている全てのものの時間的な関係が把握しやすくなる。したがって、ものチャートからは、ものが順番(ルール通り)通りに流れているかどうかを判断することができる。また、ものの流れの良し悪しを判断することができる。例えば、ものG2の場合であれば、リードタイムバー52が示すように、設備B5での処理に多くの時間がかかっているため、ものG2の流れが悪くなっていることが分かる。これに対して、従来技術のようにルールを設定して離散型シミュレーションを行った場合であれば、設備B5での処理の遅れがリードタイムバー52に反映されないことが起こりうる。
【0038】
また、ものチャート作成部42は、全てのリードタイムバーが表された全体的なものチャートだけでなく、目的に応じて、図8に示すように、ある工程エリア内だけ特定の設備に着目した設備別のものチャート56(図8ではA工程エリアだけ設備A1に着目している(ガントチャートともいう))や、図9に示すような特定の品種に着目した品種別のものチャート57をも作成することができる。さらには、図10に示すように、ある工程の特定の設備だけに着目した特定工程エリアにおける設備別のものチャート58(図10ではA工程エリアの設備A1だけに着目している)をも作成することができる。このようなものチャート56〜58を用いることで、従来技術と比べ選択的な評価がしやすくなり、また、その評価は、工程が有する諸要因が実績として含まれている「時間」に基づいているため、正確である。
【0039】
設備別のものチャート56は、全体的なものチャートから、分析対象とする設備を含むリードタイムバーを抽出することで得られる。また、品種別のものチャート57についても、同様にして、全体的なものチャートから、分析対象とする品種についてのリードタイムバーを抽出することで得られる。また、特定工程エリアにおける設備別のものチャート58は、全体的なものチャートから分析対象とする設備を含むリードタイムバーを抽出するとともに、抽出したリードタイムバーのうち分析対象とする設備以外のリードタイムを削除することで得られる。
【0040】
このように、全体的なものチャートに加えて、設備別のものチャート56、品種別のものチャート57、特定工程エリアにおける設備別のものチャート58を用いることで、様々な視点から、ものの流れの傾向を掴むことができる。例えば、特定工程エリアにおける設備別のものチャート58からは、ものG1について、最初のまとめ作りが全て消費された後に次の生産が開始していることがわかる。また作られたものが順番通りに消費された場合には各品種ごとのものチャートが逆三角形型になるが、順番通りに消費されないと、逆三角形型が崩れて、一本だけリードタイムバーが飛び出す現象が発生する。
【0041】
在庫グラフ作成部43は、ものチャート作成部42で作成された全体的なものチャートから、図11に示すような、各時刻におけるものの在庫状況を表す在庫グラフ60を作成する。在庫グラフ60は、全体的なものチャート61におけるリードタイムバーの本数を、各時刻毎にカウントすることで得られる。この在庫グラフ60を用いることで、どの時間帯の在庫を減らすべきか、または全時間帯にわたって在庫を平均化するためにはどのようにものを生産及び運搬すべきかといった在庫に関する具体的な分析を行うことができる。例えば、在庫グラフ60から在庫数が大きい時間帯をピックアップし、このピックアップした時間帯にあるリードタイムバーを詳細分析することで、在庫を減らす解決手段を見い出すことができる。なお、在庫グラフは、ものチャートだけではなく、工程データ群34からも作成することができる。
【0042】
状態・変化テーブル作成部44は、工程データ群34を用いて、図12に示すような、ものの状態情報及び変化情報が時系列に沿って並べられた状態・変化テーブル62を作成する。作成された状態・変化テーブル62は表示装置26に表示される。状態情報は、ある時刻において、生産エリア内にある全てのものがどの設備又は保管置場に位置しているかを示している。状態情報は、「状態1、状態2・・・」のように表され、数字が大きいものほど時刻が遅いことを表している。変化情報は、ある時刻において、生産エリア内にある全てのもののうちどの品種のものが移動し、また、その移動するものはどの設備又は保管置場からどの設備又は保管置場へと移動するかを示している。変化情報は、「変化1、変化2・・・」のように表され、数字が大きいものほど時刻が遅いことを表している。
【0043】
状態・変化テーブル62を用いることで、ものの移動状況を表す変化情報だけでなく、ものが移動しているか否かを表しているものの状態情報を、全ての時間にわたって把握することができる。例えば、時刻「10:00」の状態1においては、生産エリア内に設備A1に位置するものG1と、設備B1に位置するものG3が存在することが分かる。そして、5分後の時刻「10:05」には、ものG1が設備A1から保管置場P2に移動する変化1が生じる。この変化1が生じることで、状態2が作り出される。この状態2からは、ものG1がP2に移動したということに加えて、ものG3がB1にとどまり移動しなかったということをも把握することができる。
【0044】
ストリングダイヤグラム作成部45は、状態・変化テーブル62から、図13に示すような設備及び保管置場の利用状況とものの移動経路とがグラフィック化されたストリングダイヤグラム65を作成する。ストリングダイヤグラム65では、設備または保管置場が使用されているときはハッチングH有りで、使用されていないときはハッチングH無しで表される。また、ものの移動経路は、設備と保管置場間をつなぐ移動経路ラインLで表される。なお、ストリングダイヤグラムは、状態・変化テーブルだけでなく工程データ群34からも作成することができる。また、ストリングダイヤグラム作成部45は、ものの移動経路を平面的に表した二次元ストリングダイヤグラムの他、立体的に表した3次元ストリングダイヤグラムをも作成することができる。
【0045】
図13に示すストリングダイヤグラム65は、状態・変化テーブル62における状態1〜状態5間のものの移動経路と状態5における設備及び保管置場の利用状況を表している。このようにストリングダイヤグラム65は状態・変化テーブル62をグラフィック化したものであるため、ものの変化情報と状態情報を把握し易くなる。
【0046】
ストリングダイヤグラム作成部45は、工程データ群34に運搬者の情報を付加することで、図14に示すように、運搬者毎に移動経路ラインを識別できるようにしたストリングダイヤグラム70も作成することもできる。ストリングダイヤグラム70では、直線の移動経路ラインLSは運搬者Xの運搬経路を、一点鎖線の移動経路ラインLCは運搬者Yの運搬経路を表している。なお、工程データ群34に運搬者の情報を付加するためには、データ取得端末32において、工程データ33と運搬者の情報とを関連付けておく必要がある。
【0047】
図14のストリングダイヤグラム70からは、運搬者の運搬傾向を把握することができる。例えば、どの運搬車がどのあたりを主に運搬しているかを把握することができ、また、第1領域72内で主に運搬を行っている運搬者Xが、ある時刻においてだけ、第1領域72よりも遠く離れた第2領域73を行き来していることも把握することができる。このような状況を把握した場合には、データ修正部46が、運搬者Xが第1領域72内だけで運搬する運搬経路となるように、データ修正部46で工程データ群を修正したり、またデータ取得端末32内の設定情報(例えば運搬先の設備又は保管置場)を変更する改善策を取ることができる。なお、データ修正部46では、工程データ群の中から、工程時間や待ち時間について、一定のしきい値を超える工程データを抽出してもよい。抽出した工程データは、表示装置26に表示することによって、ものの流れに異常があることを報知する。
【0048】
第2処理部41では、入力された各種パラメータに基づいて、待ち行列タイプのシミュレーションを行う。各種パラメータとしては、設備に関するパラメータとして、各設備で取り扱うものの品種、各設備における標準サイクルタイム、別の品種に切り替えるために必要な切替時間があり、ものの運搬に関するパラメータとして、運搬時間、運搬場所、運搬単位、運搬台数、運搬エリアに関する情報がある。これらパラメータは、第2処理部41でシミュレーションを行うために全て必要なものである。
【0049】
第2処理部41においても、シミュレーションの結果、第1処理部40と同様に、ものチャートなどを得ることができる。しかしながら、第2処理部41で得られるものチャート等は、過去の在庫分析やものの流れ分析から経験的に決められたパラメータに基づいて作成されたものであるため、現場のルールや現時点でのものの流れなどが反映されないことがある。特に、本実施形態のように変種変量方式を採用する場合には、反映されない可能性がより高くなる。これに対して、第1処理部40で得られるものチャート等は、実際の現場で得られた工程データ群に基づいて作成されたものであるため、現場で起こっているルールや状況が確実に反映されている。したがって、ものの流れの分析を確実に行うことができる。
【0050】
次に、工程データの取得からものチャート等を作成するまでの流れを、図15のフローチャートに沿って説明する。生産エリア11で生産されるものは、台車30によってA工程エリア13、第1在庫置き場16、B工程エリア14、第2在庫置き場17、C工程エリア15間を移動する。各工程エリアでは、いずれかの設備でものの生産が行われ、各在庫置き場では、いずれかの保管置場でものが一時的に保管される。運搬者は、ものが各工程エリアの設備に搬入されたときにデータ取得端末32を操作することによって、設備に入ったときのIN時刻をデータ取得端末32に記録する。また、運搬者は、ものが設備から搬出したときにデータ取得端末32を操作することによって、設備から出たときのOUT時刻をデータ取得端末32に記録する。
【0051】
A〜C工程エリアの各設備におけるIN時刻とOUT時刻をすべて取得し、ものがC工程エリア内の設備を出たときに、それらIN時刻及びOUT時刻とものの品種などの設定情報とを関連付けた離散型の工程データ33が、データ蓄積サーバ20に送信される。データ蓄積サーバ20では、送信された工程データをそれまでに取得した工程データ33から、工程データ群34を作成する。予め定められた一定期間分の工程データ33の取得が完了すると、データ蓄積サーバ20は工程データ群を生産・物流シミュレータ25に送信する。
【0052】
生産・物流シミュレータ25では、データ蓄積サーバ20からの工程データ群34を、データ取り込み部35で受信する。離散型シミュレーション部37の第1処理部40では、受信した工程データ群34に基づいて、ものチャート等を作成する。第1処理部40では、ものチャート作成部42、在庫グラフ作成部43、状態・変化テーブル作成部44、ストリングダイヤグラム作成部45によって、ものチャート55(又は56、57)、在庫グラフ60、状態・変化テーブル62、ストリングダイヤグラム65(又は70)を作成することができる。いずれを作成するかは、入力装置27の指示に基づいて決められる。作成されたものチャート等は表示装置26に表示される。なお、在庫グラフ60は、工程データ群34だけでなく状態・変化テーブル62に基づいても作成することができる。
【0053】
なお、本実施形態では、工場でものの流れの分析を行うが、これに限らず、工場とは別の場所(例えば、大学などの研究機関や工場と取引等がある関連会社)で分析を行ってもよい。
【0054】
以上、本発明について好適な実施形態を説明した。本発明は、図面に記載したものに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で設計変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の技術思想は、工場における物品の製造はもとより、サプライ・チェーンといわれる原材料から顧客までの物品の物流、定期運行の公共交通機関など、多岐の産業分野に渡り適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
10 工場
25 生産・物流シミュレータ
32 データ取得端末
33 工程データ
34 工程データ群
42 ものチャート作成部
43 在庫グラフ作成部
44 状態・変化テーブル作成部
45 ストリングダイヤグラム作成部
46 データ修正部
55〜57 ものチャート
60 在庫グラフ
62 状態・変化テーブル
65,70 ストリングダイヤグラム
A1〜A21,B1〜B5,C1〜C16 設備
P1〜P45,Q1〜Q45 保管置場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
予め設定された経路に基づいた複数種類の工程を経由することで物品が処理される多変種多変量の生産・物流において、一の種類の工程には該処理をする複数の設備が含まれ、該物品はそれぞれの工程の設備の一つを経由する物品の生産または物流管理装置であって、
一の物品が一の工程に費やす時間である工程時間および前記一の工程から次の工程へ移動する間の待ち時間を含む工程データをそれぞれの物品に対して取得し、取得した物品ごとの工程データを蓄積する工程データ取得装置と、
前記工程データを入力することで、前記物品が一の工程、移動時間、次工程、さらなる工程を経て、処理が完了するまでの一連の流れを図式化するものチャートをそれぞれの物品に対して出力する離散型の生産・物流シミュレータと、を備えることを特徴とする物品の生産または物流管理装置。
【請求項2】
前記工程データには、前記設備の識別を含むことを特徴とする請求項1に記載の物品の生産または物流管理装置。
【請求項3】
前記工程データには、前記物品が前記一の工程から次の工程へ移動する間に保管される保管置場の識別を含むことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の物品の生産または物流管理装置。
【請求項4】
前記工程データは、前記工程の担当者ごとに識別されていることを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載の物品の生産または物流管理装置。
【請求項5】
前記生産・物流シミュレータは、前記物品の経路を空間的もしくは立体的に表すストリングダイヤグラム(糸引き線図)を出力することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の物品の生産または物流管理装置。
【請求項6】
前記生産・物流シミュレータはガントチャートを出力することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれかに記載の物品の生産または物流管理装置。
【請求項7】
前記工程データ取得装置は、前記工程時間もしくは前記待ち時間について、所定のしきい値を超える前記工程データを抽出することを特徴とする請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の物品の生産または物流管理装置。
【請求項8】
予め設定された経路に基づいた複数種類の工程を経由することで物品が処理される多変種多変量の生産・物流において、一の種類の工程には該処理をする複数の設備が含まれ、該物品はそれぞれの工程の設備の一つを経由する物品の生産または物流管理方法であって、
一の物品が一の工程に費やす時間である工程時間および前記一の工程から次の工程へ移動する間の待ち時間を含む工程データをそれぞれの物品に対して取得する工程データ取得装置が、取得した物品ごとに工程データを蓄積するステップと、
前記工程データが入力される離散型の生産・物流シミュレータが、入力された工程データに基づき、前記物品が一の工程、移動時間、次工程、さらなる工程を経て、処理が完了するまでの一連の流れを図式化するものチャートをそれぞれの物品に対して出力するステップと、を備えること特徴とする物品の生産または物流管理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−185779(P2012−185779A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50182(P2011−50182)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年10月23日 社団法人日本経営工学会 九州支部主催の「社団法人日本経営工学会 平成22年度秋季研究大会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成22年11月27日 社団法人日本経営工学会 東関東支部主催の「第12回 日本経営工学会 東関東支部 東関東大学学生論文中間検討会」において文書をもって発表
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】