生産ラインシミュレーション装置およびプログラム
【課題】生産ラインシミュレーション装置において、生産管理データの入力を容易に行うためのプロセスエディタ機能を提供する。
【解決手段】複数の工程からなる生産ラインにおいて、製品の生産時間および生産能力を演算する生産ラインシミュレーション装置を提供する。プロセスエディタ部40は、工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成する。プロセスエディタ部40は、生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成する。プロセスエディタ部40は、各工程への投入素材数を含む投入ロット領域と、各工程からの排出素材数を含む排出ロット領域とをプロセスセルに表示し、複数のプロセスセル同士で排出ロット領域と投入ロット領域とを関連づけることで、工程間の流れを表現する。
【解決手段】複数の工程からなる生産ラインにおいて、製品の生産時間および生産能力を演算する生産ラインシミュレーション装置を提供する。プロセスエディタ部40は、工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成する。プロセスエディタ部40は、生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成する。プロセスエディタ部40は、各工程への投入素材数を含む投入ロット領域と、各工程からの排出素材数を含む排出ロット領域とをプロセスセルに表示し、複数のプロセスセル同士で排出ロット領域と投入ロット領域とを関連づけることで、工程間の流れを表現する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の生産ラインをシミュレーションする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、あらゆる場面でIT化が進んでおり、製品の生産現場においても、生産効率の向上を目指して生産管理システムの開発が進められている。また、一部の製造現場では、既存の生産ラインのモデルをコンピュータ上に構築してシミュレーションを実行し、生産ラインの性能の検証などに役立てている。
【0003】
例えば、特許文献1では、生産ラインの各工程における稼働状態データを収集し、稼働状態データに基づいて確率モデルを組み込んだ生産シミュレーションモデルを生成し、このモデルにパラメータを入力してシミュレーションを実行する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−148827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存の生産ラインシミュレーション装置の多くは、生産ラインを構成する各装置のパラメータをスプレッドシートに手入力して、生産管理データの入力を行う。しかしながら、生産ラインが大規模化、複雑化するにつれて、スプレッドシートに生産管理データを入力する作業が非常に煩雑になるという問題がある。
【0006】
本発明はこうした現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産ラインシミュレーション装置において、生産管理データの入力を容易に行うためのプロセスエディタ機能を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の生産ラインシミュレーション装置は、複数の工程からなる生産ラインにおいて、製品の生産時間および生産能力を演算する生産ラインシミュレーション装置において、製品の生産開始から終了までに要する工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成するためのプロセスエディタ部を備える。プロセスエディタ部は、生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生産ラインシミュレーション装置において、生産管理データの入力を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る生産ラインシミュレーション装置を含んだ生産管理システムの構成を示す図である。
【図2】生産ラインシミュレーション装置の全体的な処理手順を示す図である。
【図3】生産ラインシミュレーション装置の構成を示す図である。
【図4】レイアウトエディタ表示部によりユーザ端末のディスプレイに表示されるレイアウトエディタ画面の一例を示す図である。
【図5】(a)は、装備パラメータが格納されるテーブルの一例を示す図であり、(b)は、物流装備パラメータが格納されるテーブルの一例を示す図である。
【図6】物流装備パラメータを設定するための入力フォーム画面の一例を示す図である。
【図7】従来のプロセスエディタで使用される生産管理データシートの一例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るプロセスセルを示す図である。
【図9】入力フォーム画面において、工程設定タブが選択された状態を示す図である。
【図10】入力フォーム画面において、使用装備設定タブが選択された状態を示す図である。
【図11】アンパンおよびクリームパンの生産ラインの生産管理データを入力する場合のプロセスエディタ画面例を示す図である。
【図12】アンパンおよびクリームパンの生産ラインの生産管理データを入力する場合のプロセスエディタ画面例を示す図である。
【図13】生産ラインシミュレーション装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】仮想事例の生産ラインを示す図である。
【図15】仮想事例に基づくシミュレーション結果の表である。
【図16】工場のCO2排出量係数の設定画面である。
【図17】CO2排出量結果のグラフである。
【図18】複数のシミュレーション結果についての評価値を表示する一覧表の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、工場の生産ラインにおける製品の生産を、ラインを構成する装置等の実際のレイアウト、各装置における処理能力や処理時間、装置間の移動時間などを反映してシミュレーションする生産ラインシミュレーション装置に関する。ユーザは、装置が提供するレイアウトエディタ機能を利用して画面上に仮想の生産ラインを構築し、またプロセスエディタ機能を利用して生産ライン上の装置の工程を入力することで、複数の工程を経て完成する製品の生産数量や生産時間などをシミュレートすることができる。
【0012】
なお、本明細書では、ある最終製品を得るために複数の工程を接続したものを「生産ライン」と、各工程におかれた機械設備や作業などの機能を「装備」と、各工程に投入される材料、部品、組立品などを「投入素材」と、各工程から排出される材料、部品、組立品などを「排出素材」と、投入素材または排出素材の取り扱い単位を「ロット」と呼ぶ。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る生産ラインシミュレーション装置10を含んだ生産管理システム100の構成を示す。生産管理システム100は、生産管理装置の一例である端末20a〜d、生産ラインシミュレーション装置10、およびこれらを接続するネットワーク12を備える。
【0014】
図2は、本実施形態に係る生産ラインシミュレーション装置10の全体的な処理手順を示す図である。生産ラインシミュレーション装置10では、まずレイアウトエディタを使用して、生産ラインが設置される工場のレイアウトを作成する(S10)。続いて、プロセスエディタを使用して、生産ラインにおける加工、組立、梱包などの各工程の詳細を設定する(S12)。次に、作成されたレイアウトとプロセスフローとを使用して、現実の生産ラインを模したシミュレーションを実行する(S14)。シミュレーション結果が得られると、その結果を利用したCO2排出量計算などの後処理を実行したり、またはシミュレーション結果または計算結果をグラフや表形式にしてユーザ端末に出力したりする(S16)。
【0015】
図3は、生産ラインシミュレーション装置10の構成を示す。生産ラインシミュレーション装置10は、主に、レイアウトエディタ部30、プロセスエディタ部40、シミュレーション実行部50、後処理部60、表示制御部80およびインポート/エクスポート部82を含む。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子で実現でき、ソフトウェア的にはメモリにロードされたコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0016】
ユーザは、生産ラインシミュレーション装置10に接続されたユーザ端末20を介してシミュレーションに必要なデータを入力したり、または出力結果を閲覧したりすることができる。ユーザ端末20は、典型的にはパーソナルコンピュータであり、入力装置としてのマウス、キーボード等、出力装置としてのディスプレイ等、記録装置としてのハードディスクドライブ、記録媒体読み取り装置等を備える。
【0017】
レイアウトエディタ部30は、生産ラインシミュレーションの対象である工場等における装備、人員、輸送手段などのレイアウトを作成するためのレイアウトエディタ画面をユーザ端末20に提供する。また、レイアウトエディタ部30は、レイアウトを構成する装備の詳細情報を設定するための入力フォーム画面もユーザ端末20に提供する。レイアウトエディタ部30で作成されたレイアウトは、シミュレーション実行部50に送られる。
【0018】
プロセスエディタ部40は、生産ラインを構成する各工程の詳細情報を設定するとともに、各工程間のつながりを表現したプロセスフロー図を作成するためのプロセスエディタ画面をユーザ端末20に提供する。プロセスエディタ部40で作成されたプロセスフローは、シミュレーション実行部50に送られる。
【0019】
シミュレーション実行部50は、作成されたレイアウトとプロセスフローに基づき、実際の生産ラインを模したシミュレーションを実行する。
【0020】
後処理部60は、シミュレーション結果に基づき、CO2排出量を計算したり、シミュレーション結果間の優劣を判定するための評価値を算出する。
【0021】
表示制御部80は、レイアウトエディタ部30、プロセスエディタ部40および後処理部60で作成されるレイアウトエディタ画面、プロセスエディタ画面、またはシミュレーション結果のグラフやテーブルなどを、ユーザ端末20に出力する。
【0022】
インポート/エクスポート部82は、シミュレーションで使用される作成済みの生産管理データ、レイアウトシート、各種パラメータ等のデータをインポートしたり、または生産ラインシミュレーション装置10で作成されたこれらのデータをユーザ端末20にエクスポートしたりする。インポート/エクスポート部82は、これらのデータを生産ラインシミュレーション装置10で読み取り可能なデータ形式に変換する機能を備えていてもよい。
【0023】
レイアウトエディタ部30、プロセスエディタ部40、シミュレーション実行部50および後処理部60のさらに詳細な構成および機能については、関連する図面を参照して後述する。
【0024】
次に、レイアウトエディタ部30について詳細を述べる。図3に示したように、レイアウトエディタ部30は、レイアウトエディタ表示部32、入力フォーム制御部34、レイアウトシート保持部36、レイヤ保持部38、パラメータ保持部39を含む。
【0025】
レイアウトエディタ表示部32は、ユーザ端末20のディスプレイ上に、生産ラインのモデルを構築するためのレイアウトエディタを表示させる。レイアウトシート保持部36は、生産ラインのモデルを定義するレイアウトシートを保持する。レイヤ保持部38は、レイアウトシートに重ね合わせることで、生産ラインの工程間で素材の動線を定義するレイヤを保持する。
【0026】
入力フォーム制御部34は、レイアウトエディタ上で、シミュレーションに必要な各種のデータをユーザに入力させる入力フォームを表示させる。入力フォームとしては、装備パラメータ入力フォーム、物流装備パラメータ入力フォーム(図6)などがある。パラメータ保持部39は、入力フォームで設定された、各工程における装備の性能を定義する装備パラメータ、素材を搬送する物流装備の性能を定義する物流装備パラメータなどを保持する。
【0027】
図4は、レイアウトエディタ表示部32によりユーザ端末20のディスプレイに表示されるレイアウトエディタ画面150の一例を示す。ユーザは、レイアウトエディタを用いて、現実のまたは仮想の工場の生産ラインのモデルをコンピュータ上に構築することができる。
【0028】
レイアウトエディタ画面150は、三つの領域から構成される。フロア領域110は、生産ラインのレイアウトシートの縮小画像であるフロア画像112がフロア数に対応して表示される領域である。フロア画像112のうちいずれか一つがユーザの選択によりハイライト表示され、選択されたフロアのレイアウトシートがレイアウト領域130に表示される。この図では三つのフロア画像しか示されていないが、レイアウトシートを作成する実際のフロア数に合わせてフロア画像の数を増減可能である。なお、工場の各階の生産ラインに対応させて複数のフロア画像を設定してもよいし、異なる工場の別個の生産ラインに対応させて複数のフロア画像を設定してもよい。フロア画像同士は、フロア間の移動を定義することで関連づけることができる。例えば、フロア画像が工場の各階の生産ラインに対応している場合は、各フロアのレイアウトシート上で同じ位置にエレベータを配置させることで、フロア間で素材を移動する一つの生産ラインを表すことができる。各フロア画像が別個の生産ラインに対応している場合には、一方の生産ラインの終端と他方の生産ラインの始端とをトラック配送で結ぶと定義することで関連づけることができる。
【0029】
レイアウト領域130には、フロア領域110でハイライト表示されたフロアのレイアウトシート編集画面が表示される。レイアウトシートには、一ますが実際の工場の所定の寸法(例えば、50cm×50cm)に対応するグリッドが表示されていることが望ましいが、この図では見やすさのためにグリッドを省略して記載している。ユーザは、レイアウトシート編集画面において、生産ラインの各工程に対応するアイコン132を選択配置して、実際のラインを縮小したレイアウトシートを作成する。例えばレイアウトシート編集画面の上部に表示されるツールバー(図示せず)の選択や右クリックにより画面上に重畳表示されるアイコンメニューの中から、所望の工程に対応するアイコンを選択することができる。アイコン132は、工程に対応するイラスト表示であってもよいし、図中に示すように四角枠内に文字による説明が付されたものであってもよい。一例として、図中のアイコン132は、「ELV」がエレベータ、「ISP」が検査工程、「MC」が加工工程、「ASM」が組み立て工程を表している。
【0030】
レイアウトシートは、アイコン間の位置関係が実際の各工程間の位置関係に対応するように作成される。例えば、工程「ISP1」と工程「MC2」間の距離が1mであった場合、それぞれのアイコンはグリッド二ます分だけ離れて配置される。
【0031】
レイヤ領域120は、物流装備毎に工程間の搬送ルートを定義するレイヤ122〜128を表示する領域である。図3の例では、レイヤ122は自動搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)の走行する搬送ルートを定義し、レイヤ124はフォークリフトの走行する搬送ルートを定義し、レイヤ126、128は作業者が台車により搬送するルートを定義している。各レイヤ中の黒点は、レイアウト編集画面内の工程アイコンに対応して表示される。
【0032】
レイヤは、物流装備毎に定義される。ユーザは、例えばレイヤ領域120内のいずれかのレイヤをクリックしてレイヤ編集画面(図示せず)を呼び出し、工程に対応する黒点間を線分で結ぶことによって、各物流装備による搬送ルートを定義することができる。例えば、レイヤ122は、工程「MC2」と「ASM1」の間、および工程「ISP3」と「ISP4」の間をAGVにより搬送することを表している。この例では搬送ルートは直線であるが、曲線や折れ曲がり線で搬送ルートを定義してもよい。このようにして作成された全てのレイヤをレイアウトシートに重ね合わせることで、生産ラインのモデルが表現される。
【0033】
後述するように、生産ラインシミュレーション装置10は、工程間での素材の搬送時間を計算するときにレイヤを参照していずれの物流装備が使われるかを認識する。したがって、上述のように複数のレイヤを用いて搬送ルートを定義することで、一つの生産ラインの中で異なる物流装備を混在させたレイアウトシートを作成することができる。また、後述する物流装備パラメータにおいて各物流装備の移動速度、可搬量などを定義することで、工程間の移動時間や搬送量の異なる複雑な生産ラインのシミュレーションが可能になる。
【0034】
図5(a)は、装備パラメータが格納されるテーブル300の一例を示す。本実施形態では、各工程にそれぞれ一つの装備が対応する。装備は、旋盤、混合機、包装機などの機械設備と、梱包などの人力による作業とを含む。
装備名302は、各工程に対応する装備の名称を表す。種類304は、加工、検査、組立などの種類名を表す。故障率306、復旧時間308は、各装備の故障率と、故障時の復旧時間を表す。不良率310は各装備で素材の加工等をしたときの不良品の発生率を表す。バッファ数312は、各装備で加工、検査、組立等をする前に装備で保持できる素材の上限数を表す。故障率、復旧時間、不良率は、生産ラインが既存の場合には生産ラインを構成する各種装置の統計データを利用して設定してもよいし、生産ラインの新設、変更、拡張等を検討する場合には見込み値を設定してもよい。
【0035】
図5(b)は、物流装備パラメータが格納されるテーブル500の一例を示す。物流装備名502は、図3のレイヤで定義した物流装備に対応した名称を設定する。故障率504、復旧時間506は、各物流装備の故障率と、故障時の復旧時間を表す。スピード508は、AGV、フォークリフト、作業者等の移動速度を表す。ロード時間510は、各物流装備が搬送に要する時間を表す。これらの値は、生産ラインが既存の場合には生産ラインを構成する各種装置の統計データを利用して設定してもよいし、生産ラインの新設、変更、拡張等を検討する場合には見込み値を設定してもよい。このように、物流装備毎にパラメータを個別に設定することで、シミュレーション対象の生産ラインの中で複数の物流装備を混在して検証することができる。
【0036】
上述したように、装備パラメータおよび物流装備バラメータは、入力フォーム制御部34が提供する入力フォーム画面を通じて設定することができる。図6は、そのような入力フォーム画面の一例であり、図5(b)のテーブルで示した物流装備パラメータを設定するための画面400を示す。図示するように、入力フォーム画面400は、物流装備名402、故障率404、復旧時間406、スピード408、ロード時間410の入力領域を含む。これらは、図5(b)の項目502〜510にそれぞれ対応している。入力フォーム画面400はさらに、各物流装備が搬送可能なロットサイズ412、物流装備の数414、物流装備が移動中のCO2排出量416、物流装備が停止中のCO2排出量418の入力領域を含む。入力フォーム画面400は、上記以外の項目についての入力領域を含んでいてもよいし、または上記の項目のうち一部についての入力領域を含んでいなくてもよい。
【0037】
図示しないが、装備パラメータを設定するための入力フォーム画面も、項目名が異なるだけで図6と同様の構成を有する。但し、後述するCO2排出量の計算を実行するために、各装備について稼働中のCO2排出量と停止中のCO2排出量を設定するための入力領域が設けられている。
【0038】
続いて、プロセスエディタ部40について説明する。図3に示したように、プロセスエディタ部40は、プロセスエディタ表示部42および生産管理データ保持部46を含む。
【0039】
プロセスエディタ表示部42は、ユーザ端末20のディスプレイ上に、生産ラインを構成する各工程に関するデータを設定するとともに、工程間のつながりを設定するためのプロセスエディタを表示させる。
【0040】
生産管理データ保持部46は、プロセスエディタで設定された、製品の生産開始から終了までに要する工程毎に投入素材に関するデータと排出素材に関するデータとが記載された生産管理データを保持する。
【0041】
図7は、従来のプロセスエディタで使用される生産管理データシート200の一例を示す。この生産管理データシート200は、アンパンとクリームパンの製造ラインについて作成されたものである。生産管理データシート200は、例えばExcelなどのスプレッドシート形式、またはCSVなどのテキスト形式で作成される。
【0042】
「製品名」列202は、製造ラインで生産される製品名を表す。「フロー番号」列204は、工程間の前後のつながりを示すフロー番号を表す。「フロー名」列206は各フローについての名称を表す。「工程」欄208は、各工程の順序、番号、名称、およびステップ番号を表す列が含まれる。また、「工程」欄208には、後述するライン間の合流または分割があることを示す「種類」列209も含まれる。「合流分割」列210は、種類列209で示されたラインの合流先またはラインの分割先をフロー番号によって定義する。「投入素材情報」欄212は、各工程に投入される素材の名称、ロットサイズ、ロット単位およびロット数を表す列が含まれる。同様に、「排出素材情報」欄214は、各工程から排出される素材の名称、ロットサイズ、ロット単位およびロット数を表す列が含まれる。「所要時間」列216は、素材の加工に要する時間を表す。
【0043】
なお、本明細書において、「合流」とは、複数のラインが一つのラインに統合されることを言う。例えば、別々のサブラインで加工された複数の部品の組立、複数の材料の混合、ある部品を別の部品で包む包装などの工程に対応する。二つ以上のサブラインを一つのメインラインに同時に合流させることも可能である。合流工程は、図4のレイアウトエディタ画面では、レイヤ上で所定の工程へと進む物流装備のルートを複数設けることに対応する。
【0044】
「分割」とは、一つのラインが複数のラインに分かれることを言う。例えば、ある工程で切断された部品を別々のラインで引き続き加工したり、素材を小分けするなどの工程に対応する。分割されたラインをさらに別のラインと合流させたり、さらに複数のラインに分割したり、あるいは分割元のラインに再合流させたりすることも可能である。分割工程は、図4のレイアウトエディタ画面では、レイヤ上で所定の工程から別の工程へと進む物流装備のルートを複数設けることに対応する。
【0045】
このような従来の生産管理データシート200を用いる場合、ユーザは、ユーザ端末において前もって作成しておいた生産管理データシートを生産ラインシミュレーション装置にインポートするか、またはシミュレーション装置が提供する生産管理データシート用の入力フォーム上で必要なデータを入力していた。
【0046】
しかしながら、図7に示すような生産管理データシートでは、各工程が一行ずつ並べられているだけなので、工程間のつながりを表現することが難しい。特に、工程が合流されたり、または工程が分割されるような場合は、データシート内の「種類」列209を用いて定義しなくてはならないため、工程の流れを視覚的に把握するのが困難になる。工程が数百にわたったり、複雑な合流、分割を繰り返すような生産ラインでは、この傾向はますます顕著になる。
【0047】
そこで、本実施形態では、生産管理データシートを容易に編集することができ、かつ工程間のつながりを視覚的に把握可能となるプロセスエディタ機能が提供される。
【0048】
プロセスエディタ表示部42は、図8に示すような「プロセスセル」オブジェクト600を使用して生産管理データの入力をユーザに促す。生産ラインを構成する一つの工程が、一つのプロセスセル600に対応する。このプロセスセル600は、一例として、大きな長方形領域601の上下を二つの小さな長方形領域602、604で挟んだ形状をしている。プロセスセル600は、ユーザ端末20のディスプレイに表示されるプロセスエディタの画面上で、所定のメニュー項目を選択したり、ボタンをクリックしたり、アイコンをドラッグアンドドロップしたりすることで、エディタ画面上に任意の数を作成できる。
【0049】
上側の長方形領域(以下「投入ロット領域」という)602は、工程への投入ロット数を表す。下側の長方形領域(以下「排出ロット領域」という)604は、工程からの排出ロット数を表す。図8では、投入ロット数と排出ロット数がともに「1」である。つまり、プロセスセル600に対応するこの工程では、一個のロットに対して何らかの加工や処理を施した上で、一個のロットを排出することを示している。投入ロットの搬入元または排出ロットの搬送先となる工程が複数存在する場合は、長方形領域602または604が対応する数だけ作成される。
【0050】
中央の長方形領域601は、この工程で行われる処理の内容を表す。図示のように、長方形領域601には、「工程名」610、「工程時間」612、「工程分割可能有無」614、「開始時間設定有無」616、「入庫工程設定有無」618、「可用装備台数」620、「工程ID」622が含まれる。「工程名」はその工程の名称である。「工程時間」はその工程で要する作業時間である。「工程分割可能有無」はその工程を分割できるか否かを表すフラグである。「開始時間設定有無」はその工程を開始すべき時間が設定されているか否かを示すフラグである。「入庫工程設定有無」は入庫の工程であるか否かを示すフラグである。「可用装備台数」はその工程で使用できる装備の台数を示す。「工程ID」はその工程に振られたIDである。
【0051】
なお、プロセスセルに上記以外の項目が含まれてもよいし、上記の項目の一部が含まれなくてもよい。また、プロセスセルの形状は、図8に示したものに限られない。
【0052】
複数のプロセスセル600間は、リンク606、608で接続される。上側のリンク606は、投入ロットの搬入元のプロセスセルと接続され、下側のリンク608は、排出ロットの搬送先のプロセスセルと接続される。後述するように、リンクはプロセスエディタ上でマウス等を用いて容易に作成することができる。
【0053】
プロセスセル600へのデータの入力は、図9および図10に示す入力フォーム画面700を介して行われる。入力フォーム画面700は、例えば、ユーザ端末20のディスプレイに表示されているプロセスエディタ上でプロセスセルをダブルクリックしたり、所定のメニュー項目を選択することで表示される。入力フォーム画面700は、工程設定タブ702、工程詳細設定タブ704、使用装備設定タブ706、作業者設定タブ708を含む。これらのタグを選択することで、データの入力項目を切り換えることができる。
【0054】
図9では、工程設定タブ702が選択された状態を示す。ここでは、工程ID710、工程名712、作業時間714、投入ロット情報716および排出ロット情報718を設定することができる。これらは、図7に示した従来の生産管理データシート200における、工程208の番号、工程208の名、所要時間216、投入素材情報212および排出素材情報214にそれぞれ対応している。
【0055】
図10は、使用装備設定タブ706が選択された状態を示す。ここでは、各工程に割り当てる装備を一覧730から選択することができる。この一覧は、レイアウトエディタ部30で設定された装備パラメータを用いて、プロセスエディタ表示部42により作成される。割り当て対象の装備を右側の候補一覧738から選択し「追加」ボタン732を押して左側の一覧730に加えたり、あるいは左側の一覧730から不要な装備を選択し「削除」ボタン734を押して削除したりすることができる。割り当て対象の装備が、レイヤ保持部38に格納されているレイヤ毎に一覧730に表示されるようにしてもよい。この場合、「レイヤ選択」ボタン736を押して所望のレイヤを選択できるようにしてもよい。
【0056】
このように、工程毎に入力フォームを用いてデータを入力し、その内容がプロセスセル内にまとめて表示される。そのため、データを入力中の工程を把握しやすく、また各工程を一目で容易に識別することができる。したがって、データを入力するユーザの負担が軽減される。
【0057】
図11および図12は、本実施形態のプロセスエディタを使用して、アンパンおよびクリームパンの生産ラインの生産管理データを入力する場合のプロセスエディタ画面例を示す。
【0058】
ユーザは、シミュレーション装置によって提供されるプロセスエディタ画面上で、生産ラインを構成する工程毎にプロセスセルを作成していく。この段階では、工程間の順序やつながりを考慮する必要はない。図11は、パンの生産ラインのうち一部の工程に対応するプロセスセルP602、P405、P406、P104、P505、P606が入力し終わった状態を表している。なお、プロセスセルの番号は、図7の生産管理データシート200中の工程番号に対応している。
【0059】
図12は、実際の生産ラインに対応して工程間をリンクで接続した状態を示す。プロセスエディタは、作成されたプロセスセルの上下の長方形領域(すなわち、投入ロット領域と排出ロット領域に対して、それぞれ一つずつポインタ(図示せず)を設定する。ユーザは、エディタ画面上でこのポインタをマウス等でクリックすることで、二つのプロセスセル間に容易にリンクを設定することができる。
【0060】
図12中、プロセスセルP405およびP505で示されるように、投入ロットが二つ以上設定されているプロセスセルは、その工程で複数のサブラインが合流することを表している。このため、各投入ロットがそれぞれ別のプロセスセルの排出ロットとリンクで接続される。また、プロセスセルP104で示されるように、排出ロットが二つ以上設定されているプロセスセルは、その工程で複数のサブラインに分割されることを表している。このため、各排出ロットがそれぞれ別のプロセスセルの投入ロットとリンクで接続される。
【0061】
さらに、リンクで結ばれた排出ロットと投入ロットの数を調整することで、各工程の待機状態を表現することができる。例えば、プロセスセル405では、二つの投入ロットがともに「100」であり、一つの排出ロットが「100」である。これは、対応する工程において、クリームパン100個分のクリームと、100個分のパン生地を受け取り、100個のクリームが入ったパンを排出することを表している。つまり、この工程では、100個分のクリームとパン生地が到着するまで、処理が開始されないで待機することになる。
【0062】
このようにして、シミュレーション対象の生産ラインの工程の流れを表すプロセスフローをプロセスエディタ上で作成することができる。
【0063】
作成されたプロセスフローは、図示しない変換部によって図7のような従来のスプレッドシート形式に変換されて、生産管理データ保持部46に格納されてもよい。格納されたシートは、インポート/エクスポート部82を介して生産管理シートとしてユーザ端末20にエクスポートされてもよい。逆に、プロセスエディタ表示部42は、インポート/エクスポート部82によりインポートされた生産管理シートを解析して、図8のようなプロセスセル形式としてプロセスエディタ上に表示するように動作してもよい。これにより、類似の生産ラインのシミュレーションを行う際に、既存の生産管理シートを活用することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態のプロセスエディタでは、プロセスセルを採用することで、生産管理データの入力、編集作業が容易になる。また、プロセスエディタ上でプロセスセルを画面上で並べ変えてリンクで接続するだけで、工程間のつながりを表現することができる。また、エディタ上で工程の流れを視覚的に把握することができる。さらに、工程間のつながりを容易に変更することができるので、最適な物流動線の検討が容易になる。
【0065】
並列する複数のラインを一つの画面で作成することも可能であり、ライン別に別の色を設定するようにしてもよい。これにより、ライン間の比較が容易になる。
【0066】
続いて、シミュレーション実行部の機能について説明する。図3に示すように、シミュレーション実行部は、演算部54および結果保持部56を含む。
【0067】
演算部54は、プロセスエディタ部40によって作成されたプロセスフローと、レイアウトエディタ部30によって作成されたレイアウトシート、レイヤ、各種パラメータを参照して、生産ラインの各工程における素材の処理数量、処理時間等を演算する。さらに、この演算結果を元に、最終製品の生産個数、生産時間等を演算する。シミュレーションの結果は、結果保持部56に格納される。
【0068】
より具体的には、プロセスエディタ部40によって図12のようなプロセスフローが作成されると、演算部54は、ラインの先頭の工程への投入素材データと、その工程についての装備パラメータとを参照して、工程での処理に要する時間を計算する。その後、排出素材データと、次の工程への搬送ルートと、物流装備パラメータとを参照して、次の工程への搬送に要する時間を計算する。例えば、レイアウトシート上の工程間のグリッド数と、その工程間の搬送ルートを定めたレイヤに対応する物流装備パラメータの速度から、搬送時間を計算することができる。素材の排出後、工程では次の投入素材に関して処理時間を計算する。このように、各工程での素材の処理時間と処理単位、工程間の搬送時間を計算していくことで、稼働時間内での最終製品の生産個数や、所定の生産個数を達成するまでに要する生産時間を求めることができる。
【0069】
なお、このような生産個数や生産時間を演算するシミュレーションの手法自体は公知であるので、本明細書ではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0070】
演算部54は、各工程でロット毎に行った計算のログ(例えば、生産開始時刻、生産所要時間など)を記録してもよい。このログを参照することで、いずれの工程で仕掛かりが発生したか、ラインのどの部分がボトルネックになっているか、素材の投入タイミングが適切かなどを容易に把握することができる。
【0071】
また、装備パラメータに設定された故障率と復旧時間に基づき、演算部54は、装備で確率的に故障が発生することを考慮して上記の計算をすることで、実際の生産ラインの稼働状況をより正確にシミュレーションに反映させることができる。これにより、故障率の高い装備を交換すべきかや交換の費用対効果を、交換した場合の生産個数の増加率をもとにして判断することが可能になる。
【0072】
図13は、本実施形態による生産ラインシミュレーション装置における処理の流れを示すフローチャートである。
まず、ユーザはレイアウトエディタ表示部32が提供するレイアウト画面において、シミュレーションしたい生産ラインを表現するレイアウトシートと、工程間の物流装備を定義するレイヤとを作成する(S30)。作成されたレイアウトシートとレイヤは、それぞれレイアウトシート保持部36、レイヤ保持部38に格納される。また、ユーザは、入力フォーム制御部34が提供する入力フォーム画面において、各工程での装備の性能を定義する装備パラメータと、各物流装備の性能を定義する物流装備パラメータとを作成する(S32)。作成されたパラメータは、パラメータ保持部39に格納される。
【0073】
さらに、ユーザは、プロセスエディタ表示部42が提供するプロセスエディタ画面において、工程間のフローを表現したプロセスフローを作成する(S34)。作成されたプロセスフローは、生産管理データに変換されて生産管理データ保持部46に格納される。さらに、ユーザは生産ラインの稼働時間を設定する(S36)。なお、S30〜S36に関しては順序を任意に変更することができる。
【0074】
演算部54は、生産管理データ、レイアウトシート、レイヤ、各種パラメータを参照して、所与の生産ラインにおける製品の生産時間、生産個数等の計算を実行する(S38)。シミュレーションの結果は、結果保持部56に格納される。(S40)。
【0075】
ユーザは、シミュレーションの結果を参照し、レイアウトシート上での生産ラインの組み替え、装備の一部を別の装備に入れ替え、物流装備の変更などの手段を講じた後にシミュレーションを繰り返して、稼働時間内の生産個数を増加できるかや、所望の期間内に予定の個数を生産できるかなどをチェックすることができる。
【0076】
以上のように、工場における実際の生産ラインと同様の工程からなる生産ラインのモデルをコンピュータ上に構成しシミュレーションを実行することができる。これによって、加工条件などを変更した場合の納期予測、生産計画の立案、工場設計の検証、生産工程の改善検証、装備・人員の配置の検証、近接性分析、ボトルネックの検出および対応、設備状況の判断などに役立てることができる。
【0077】
また、工程間の搬送ルートをレイヤを用いて定義することで、異なる搬送能力を持つ複数の物流装備による移動をシミュレーション対象の生産ライン内で混在させることができる。物流装備の違いによる生産効率の変化も、レイヤを交換することで容易に演算させることができる。
【0078】
また、プロセスエディタ画面においてプロセスフロー図を作成することによって、ライン間の合流や分割といった複雑な工程を含む生産ラインを表現してシミュレーションを行うことが可能になる。これにより、生産ラインシミュレーション装置を幅広い業種に適用することができる。一例として、本発明による生産ラインシミュレーション装置は、生産管理データ中の素材や装備パラメータ等を実際の生産ラインに合わせて適宜作成することによって、自動車産業、精密部品産業、電機・電子部品産業、半導体産業、製薬産業、食品産業など任意の製造業種に適用可能である。
【0079】
続いて、後処理部60の機能について説明する。後処理部60は、CO2排出量計算部70および評価部62を含む。
【0080】
後処理部60は、結果保持部56に格納されたシミュレーション結果を参照して、そのシミュレーション対象の生産ラインを立ち上げたときに工場の全体から排出されるCO2量を算出する演算部72と、CO2排出量の計算に必要となる係数の設定画面をユーザ端末20に出力する係数設定部74を含む。
【0081】
以下、本実施形態におけるCO2排出量の計算について、仮想事例を元に説明する。図14は、仮想事例の生産ラインを示す。図中、正方形は装備を、実線は搬送ルートを示す。ここでは、物流装備の速度を変更した二種類のシミュレーションを実行したものとする。「検証1」では物流装備の速度を20m/分に設定し、「検証2」では物流装備の速度を30m/分に設定した。
【0082】
図15は、仮想事例に基づくシミュレーション実行部によるシミュレーション結果の表900である。シミュレーション結果904に示すように、シミュレーション実行部は、装備可動時間、装備待機時間、物流装備移動時間、物流装備待機時間、工場稼働時間、工場停止時間をそれぞれ算出する。
【0083】
図16は、工場のCO2排出量係数の設定画面950である。図示するように、工場が稼働中の単位面積・単位時間当たりのCO2排出量952と、工場が停止中の単位面積・単位時間当たりのCO2排出量954を設定することができる。装備および物流装備の稼働中および停止中の単位時間当たりCO2排出量は、図6で示したように、それぞれのパラメータ入力フォームで設定することができる。これらのCO2排出量は、実測に基づくものでもよいし、仮想値であってもよい。
【0084】
演算部72は、図15のシミュレーション結果904に基づき、CO2排出量を求める算出する。本実施形態では、演算部72は、装備と物流装備のCO2排出量を別々に計算する。これらについては、稼働時と待機時とでそれぞれCO2排出量を計算する。また、空調や照明といった、生産ラインには含まれない工場自体が排出するCO2排出量も計算する。
【0085】
具体的には、シミュレーション結果904を使用して、以下のE1〜E6を算出する。
・装備稼働時のCO2排出量:E1=Σ{装備稼働時CO2排出量(kg/時)×装備稼働時間(時)}
・装備待機時のCO2排出量:E2=Σ{装備待機時CO2排出量(kg/時)×装備待機時間(時)}
・物流装備稼働時のCO2排出量:E3=Σ{(物流装備稼働時CO2排出量(kg/時)×物流装備稼働時間(時)}
・物流装備待機時のCO2排出量:E4=Σ{(物流装備待機時CO2排出量(kg/時)×物流待機時間(時))}
・工場稼働時のCO2排出量:E5={工場稼働時CO2排出量(kg/時/m2)×工場面積(m2)×工場稼働時間(時)}
・工場停止時のCO2排出量:E6={工場休止時CO2排出量(kg/時/m2)×工場面積(m2)×工場休止時間(時)}
【0086】
なお、装備および物流装備は生産ライン中に複数含まれるので、上記のE1〜E4は、各装備または物流装備の稼働時と待機時についてそれぞれCO2排出量を計算し、これを全装備または全物流装備について合計することで求められる。これに対し、E5、E6は、工場全体について一つずつ算出される。
【0087】
最後に、次式により工場全体から排出されるCO2排出量Eを算出する。
E=E1+E2+E3+E4+E5+E6
【0088】
図15のCO2排出量結果906は、上記のようにして算出されたE1〜E6、Eを示している。また、これらの結果から、単位装備当たりの排出量、単位面積当たりの排出量、単位工程当たりの排出量を算出することができる。
【0089】
図17は、図15のCO2排出量結果906に基づき、演算部72が検証1と検証2についてグラフ化した様子980を示す。図示のように、CO2排出量結果906の項目毎に、異なる色でグラフ表示される。図中、最上部にある太線のグラフが、工場全体の排出量Eを表している。このグラフ化により、各検証におけるCO2排出量を視覚的に把握することができる。
【0090】
一般に、生産ラインの現場では、装備の故障、装備の能力差、生産数量の変更といった予期しない事態が頻発する。本実施形態では、レイアウトエディタおよびプロセスエディタを用いて現場と同じ工程を仮想的に構築した上で、上記のような事象を考慮した生産シミュレーションを複数回実行することができる。そして、このシミュレーション結果のそれぞれについてCO2排出量を計算するので、様々な事象の変化をCO2排出量に直ちに反映させることができる。
【0091】
また、生産シミュレーションの結果を基に排出量を計算することで、製品の生産台数とCO2排出量とが一度に求められる。このため、例えば製品一台当たりのCO2排出量を正確に算出することができる。
【0092】
図18は、評価部62によって作成される、複数のシミュレーション結果を表示する一覧表1000の一例を示す。図示のように、実行されたシミュレーションの結果が列1004に並べられる。シミュレーション結果の各項目が行1002に表されている。「シミュレーション名」は、各シミュレーションに付けられた名前である。「総所要時間」は、与えられた条件の下、シミュレーション対象の生産ラインにおいて全工程を完了するために要した時間である。「レイアウト」は、シミュレーション対象の生産ラインで使用したレイアウトシート名である。「総CO2排出量」は、各シミュレーション結果に基づきCO2排出量計算部で算出された、工場全体からのCO2排出量である。「全体装備稼働率」、「全体物流稼働率」は、シミュレーション対象の生産ラインに含まれる、全ての装備または物流装備の稼働率の平均値である。「最大仕掛在庫量」、「平均仕掛在庫量」は、生産ラインで発生した仕掛在庫量の最大値または平均値である。「最大作業者数」は、生産ラインを稼働させるのに要した作業者数の最大値である。なお、これら以外の項目も一覧表に含められる。
【0093】
さらに、評価部62は、各シミュレーション結果についての評価点を算出することができる。評価点は、例えば以下のようにして算出される。まず、表1000の行1002で示した評価項目毎に、シミュレーション結果の好ましいものから順位(評価順位)を付ける。例えば、「総CO2排出量」であれば、値が小さい方が好ましいので、Sim2が1位、Sim1が2位、Sim3が3位となる。続いて、ユーザが、評価項目毎に、重み付けの順位を付ける。つまり、いずれの評価項目をより重視するかをユーザが設定する。各シミュレーション結果毎に、(評価順位)×(重み付け順位)を全評価項目について計算し、総和をとる。例えば、ある項目に浮いて、評価順位が8位で重み付けが10位であれば、その評価項目は80ポイントである。得られた値をそのシミュレーション結果の評価値とする。評価値が小さいものほど、優れたシミュレーション結果である。
【0094】
この一覧表を参照することで、様々なレイアウトやプロセス条件の組み合わせに対してシミュレーションを繰り返し実行し、その中から最適な組み合わせを選択するユーザの意思決定が容易になる。
【0095】
なお、後処理部60は、上記の他、シミュレーション結果を元にガントチャート、稼働率グラフ、近接性分析結果などを画像として表示する機能を有していてもよい。
【0096】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0097】
10 生産ラインシミュレーション装置、 12 ネットワーク、 20 端末、 30 レイアウトエディタ部、 32 レイアウトエディタ表示部、 34 入力フォーム制御部、 36 レイアウトシート保持部、 38 レイヤ保持部、 40 プロセスエディタ部、 42 プロセスエディタ表示部、 44 入力フォーム制御部、 46 生産管理データ保持部、 48 パラメータ保持部、 50 シミュレーション実行部、 52 ライン構成部、 56 結果保持部、 60 後処理部、 62 評価部、 70 CO2排出量計算部、 72 演算部、 74 係数設定部、 80 表示制御部、 82 インポート/エクスポート部。
【技術分野】
【0001】
本発明は、製品の生産ラインをシミュレーションする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、あらゆる場面でIT化が進んでおり、製品の生産現場においても、生産効率の向上を目指して生産管理システムの開発が進められている。また、一部の製造現場では、既存の生産ラインのモデルをコンピュータ上に構築してシミュレーションを実行し、生産ラインの性能の検証などに役立てている。
【0003】
例えば、特許文献1では、生産ラインの各工程における稼働状態データを収集し、稼働状態データに基づいて確率モデルを組み込んだ生産シミュレーションモデルを生成し、このモデルにパラメータを入力してシミュレーションを実行する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−148827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
既存の生産ラインシミュレーション装置の多くは、生産ラインを構成する各装置のパラメータをスプレッドシートに手入力して、生産管理データの入力を行う。しかしながら、生産ラインが大規模化、複雑化するにつれて、スプレッドシートに生産管理データを入力する作業が非常に煩雑になるという問題がある。
【0006】
本発明はこうした現状に鑑みてなされたものであり、その目的は、生産ラインシミュレーション装置において、生産管理データの入力を容易に行うためのプロセスエディタ機能を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の生産ラインシミュレーション装置は、複数の工程からなる生産ラインにおいて、製品の生産時間および生産能力を演算する生産ラインシミュレーション装置において、製品の生産開始から終了までに要する工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成するためのプロセスエディタ部を備える。プロセスエディタ部は、生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本発明の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、生産ラインシミュレーション装置において、生産管理データの入力を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態に係る生産ラインシミュレーション装置を含んだ生産管理システムの構成を示す図である。
【図2】生産ラインシミュレーション装置の全体的な処理手順を示す図である。
【図3】生産ラインシミュレーション装置の構成を示す図である。
【図4】レイアウトエディタ表示部によりユーザ端末のディスプレイに表示されるレイアウトエディタ画面の一例を示す図である。
【図5】(a)は、装備パラメータが格納されるテーブルの一例を示す図であり、(b)は、物流装備パラメータが格納されるテーブルの一例を示す図である。
【図6】物流装備パラメータを設定するための入力フォーム画面の一例を示す図である。
【図7】従来のプロセスエディタで使用される生産管理データシートの一例を示す図である。
【図8】本発明の一実施形態に係るプロセスセルを示す図である。
【図9】入力フォーム画面において、工程設定タブが選択された状態を示す図である。
【図10】入力フォーム画面において、使用装備設定タブが選択された状態を示す図である。
【図11】アンパンおよびクリームパンの生産ラインの生産管理データを入力する場合のプロセスエディタ画面例を示す図である。
【図12】アンパンおよびクリームパンの生産ラインの生産管理データを入力する場合のプロセスエディタ画面例を示す図である。
【図13】生産ラインシミュレーション装置における処理の流れを示すフローチャートである。
【図14】仮想事例の生産ラインを示す図である。
【図15】仮想事例に基づくシミュレーション結果の表である。
【図16】工場のCO2排出量係数の設定画面である。
【図17】CO2排出量結果のグラフである。
【図18】複数のシミュレーション結果についての評価値を表示する一覧表の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一実施形態は、工場の生産ラインにおける製品の生産を、ラインを構成する装置等の実際のレイアウト、各装置における処理能力や処理時間、装置間の移動時間などを反映してシミュレーションする生産ラインシミュレーション装置に関する。ユーザは、装置が提供するレイアウトエディタ機能を利用して画面上に仮想の生産ラインを構築し、またプロセスエディタ機能を利用して生産ライン上の装置の工程を入力することで、複数の工程を経て完成する製品の生産数量や生産時間などをシミュレートすることができる。
【0012】
なお、本明細書では、ある最終製品を得るために複数の工程を接続したものを「生産ライン」と、各工程におかれた機械設備や作業などの機能を「装備」と、各工程に投入される材料、部品、組立品などを「投入素材」と、各工程から排出される材料、部品、組立品などを「排出素材」と、投入素材または排出素材の取り扱い単位を「ロット」と呼ぶ。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る生産ラインシミュレーション装置10を含んだ生産管理システム100の構成を示す。生産管理システム100は、生産管理装置の一例である端末20a〜d、生産ラインシミュレーション装置10、およびこれらを接続するネットワーク12を備える。
【0014】
図2は、本実施形態に係る生産ラインシミュレーション装置10の全体的な処理手順を示す図である。生産ラインシミュレーション装置10では、まずレイアウトエディタを使用して、生産ラインが設置される工場のレイアウトを作成する(S10)。続いて、プロセスエディタを使用して、生産ラインにおける加工、組立、梱包などの各工程の詳細を設定する(S12)。次に、作成されたレイアウトとプロセスフローとを使用して、現実の生産ラインを模したシミュレーションを実行する(S14)。シミュレーション結果が得られると、その結果を利用したCO2排出量計算などの後処理を実行したり、またはシミュレーション結果または計算結果をグラフや表形式にしてユーザ端末に出力したりする(S16)。
【0015】
図3は、生産ラインシミュレーション装置10の構成を示す。生産ラインシミュレーション装置10は、主に、レイアウトエディタ部30、プロセスエディタ部40、シミュレーション実行部50、後処理部60、表示制御部80およびインポート/エクスポート部82を含む。ここに示す各ブロックは、ハードウェア的には、コンピュータのCPUやメモリをはじめとする素子で実現でき、ソフトウェア的にはメモリにロードされたコンピュータプログラム等によって実現されるが、ここでは、それらの連携によって実現される機能ブロックとして描いている。したがって、これらの機能ブロックはハードウェア、ソフトウェアの組合せによっていろいろなかたちで実現できることは、当業者には理解されるところである。
【0016】
ユーザは、生産ラインシミュレーション装置10に接続されたユーザ端末20を介してシミュレーションに必要なデータを入力したり、または出力結果を閲覧したりすることができる。ユーザ端末20は、典型的にはパーソナルコンピュータであり、入力装置としてのマウス、キーボード等、出力装置としてのディスプレイ等、記録装置としてのハードディスクドライブ、記録媒体読み取り装置等を備える。
【0017】
レイアウトエディタ部30は、生産ラインシミュレーションの対象である工場等における装備、人員、輸送手段などのレイアウトを作成するためのレイアウトエディタ画面をユーザ端末20に提供する。また、レイアウトエディタ部30は、レイアウトを構成する装備の詳細情報を設定するための入力フォーム画面もユーザ端末20に提供する。レイアウトエディタ部30で作成されたレイアウトは、シミュレーション実行部50に送られる。
【0018】
プロセスエディタ部40は、生産ラインを構成する各工程の詳細情報を設定するとともに、各工程間のつながりを表現したプロセスフロー図を作成するためのプロセスエディタ画面をユーザ端末20に提供する。プロセスエディタ部40で作成されたプロセスフローは、シミュレーション実行部50に送られる。
【0019】
シミュレーション実行部50は、作成されたレイアウトとプロセスフローに基づき、実際の生産ラインを模したシミュレーションを実行する。
【0020】
後処理部60は、シミュレーション結果に基づき、CO2排出量を計算したり、シミュレーション結果間の優劣を判定するための評価値を算出する。
【0021】
表示制御部80は、レイアウトエディタ部30、プロセスエディタ部40および後処理部60で作成されるレイアウトエディタ画面、プロセスエディタ画面、またはシミュレーション結果のグラフやテーブルなどを、ユーザ端末20に出力する。
【0022】
インポート/エクスポート部82は、シミュレーションで使用される作成済みの生産管理データ、レイアウトシート、各種パラメータ等のデータをインポートしたり、または生産ラインシミュレーション装置10で作成されたこれらのデータをユーザ端末20にエクスポートしたりする。インポート/エクスポート部82は、これらのデータを生産ラインシミュレーション装置10で読み取り可能なデータ形式に変換する機能を備えていてもよい。
【0023】
レイアウトエディタ部30、プロセスエディタ部40、シミュレーション実行部50および後処理部60のさらに詳細な構成および機能については、関連する図面を参照して後述する。
【0024】
次に、レイアウトエディタ部30について詳細を述べる。図3に示したように、レイアウトエディタ部30は、レイアウトエディタ表示部32、入力フォーム制御部34、レイアウトシート保持部36、レイヤ保持部38、パラメータ保持部39を含む。
【0025】
レイアウトエディタ表示部32は、ユーザ端末20のディスプレイ上に、生産ラインのモデルを構築するためのレイアウトエディタを表示させる。レイアウトシート保持部36は、生産ラインのモデルを定義するレイアウトシートを保持する。レイヤ保持部38は、レイアウトシートに重ね合わせることで、生産ラインの工程間で素材の動線を定義するレイヤを保持する。
【0026】
入力フォーム制御部34は、レイアウトエディタ上で、シミュレーションに必要な各種のデータをユーザに入力させる入力フォームを表示させる。入力フォームとしては、装備パラメータ入力フォーム、物流装備パラメータ入力フォーム(図6)などがある。パラメータ保持部39は、入力フォームで設定された、各工程における装備の性能を定義する装備パラメータ、素材を搬送する物流装備の性能を定義する物流装備パラメータなどを保持する。
【0027】
図4は、レイアウトエディタ表示部32によりユーザ端末20のディスプレイに表示されるレイアウトエディタ画面150の一例を示す。ユーザは、レイアウトエディタを用いて、現実のまたは仮想の工場の生産ラインのモデルをコンピュータ上に構築することができる。
【0028】
レイアウトエディタ画面150は、三つの領域から構成される。フロア領域110は、生産ラインのレイアウトシートの縮小画像であるフロア画像112がフロア数に対応して表示される領域である。フロア画像112のうちいずれか一つがユーザの選択によりハイライト表示され、選択されたフロアのレイアウトシートがレイアウト領域130に表示される。この図では三つのフロア画像しか示されていないが、レイアウトシートを作成する実際のフロア数に合わせてフロア画像の数を増減可能である。なお、工場の各階の生産ラインに対応させて複数のフロア画像を設定してもよいし、異なる工場の別個の生産ラインに対応させて複数のフロア画像を設定してもよい。フロア画像同士は、フロア間の移動を定義することで関連づけることができる。例えば、フロア画像が工場の各階の生産ラインに対応している場合は、各フロアのレイアウトシート上で同じ位置にエレベータを配置させることで、フロア間で素材を移動する一つの生産ラインを表すことができる。各フロア画像が別個の生産ラインに対応している場合には、一方の生産ラインの終端と他方の生産ラインの始端とをトラック配送で結ぶと定義することで関連づけることができる。
【0029】
レイアウト領域130には、フロア領域110でハイライト表示されたフロアのレイアウトシート編集画面が表示される。レイアウトシートには、一ますが実際の工場の所定の寸法(例えば、50cm×50cm)に対応するグリッドが表示されていることが望ましいが、この図では見やすさのためにグリッドを省略して記載している。ユーザは、レイアウトシート編集画面において、生産ラインの各工程に対応するアイコン132を選択配置して、実際のラインを縮小したレイアウトシートを作成する。例えばレイアウトシート編集画面の上部に表示されるツールバー(図示せず)の選択や右クリックにより画面上に重畳表示されるアイコンメニューの中から、所望の工程に対応するアイコンを選択することができる。アイコン132は、工程に対応するイラスト表示であってもよいし、図中に示すように四角枠内に文字による説明が付されたものであってもよい。一例として、図中のアイコン132は、「ELV」がエレベータ、「ISP」が検査工程、「MC」が加工工程、「ASM」が組み立て工程を表している。
【0030】
レイアウトシートは、アイコン間の位置関係が実際の各工程間の位置関係に対応するように作成される。例えば、工程「ISP1」と工程「MC2」間の距離が1mであった場合、それぞれのアイコンはグリッド二ます分だけ離れて配置される。
【0031】
レイヤ領域120は、物流装備毎に工程間の搬送ルートを定義するレイヤ122〜128を表示する領域である。図3の例では、レイヤ122は自動搬送車(AGV:Automated Guided Vehicle)の走行する搬送ルートを定義し、レイヤ124はフォークリフトの走行する搬送ルートを定義し、レイヤ126、128は作業者が台車により搬送するルートを定義している。各レイヤ中の黒点は、レイアウト編集画面内の工程アイコンに対応して表示される。
【0032】
レイヤは、物流装備毎に定義される。ユーザは、例えばレイヤ領域120内のいずれかのレイヤをクリックしてレイヤ編集画面(図示せず)を呼び出し、工程に対応する黒点間を線分で結ぶことによって、各物流装備による搬送ルートを定義することができる。例えば、レイヤ122は、工程「MC2」と「ASM1」の間、および工程「ISP3」と「ISP4」の間をAGVにより搬送することを表している。この例では搬送ルートは直線であるが、曲線や折れ曲がり線で搬送ルートを定義してもよい。このようにして作成された全てのレイヤをレイアウトシートに重ね合わせることで、生産ラインのモデルが表現される。
【0033】
後述するように、生産ラインシミュレーション装置10は、工程間での素材の搬送時間を計算するときにレイヤを参照していずれの物流装備が使われるかを認識する。したがって、上述のように複数のレイヤを用いて搬送ルートを定義することで、一つの生産ラインの中で異なる物流装備を混在させたレイアウトシートを作成することができる。また、後述する物流装備パラメータにおいて各物流装備の移動速度、可搬量などを定義することで、工程間の移動時間や搬送量の異なる複雑な生産ラインのシミュレーションが可能になる。
【0034】
図5(a)は、装備パラメータが格納されるテーブル300の一例を示す。本実施形態では、各工程にそれぞれ一つの装備が対応する。装備は、旋盤、混合機、包装機などの機械設備と、梱包などの人力による作業とを含む。
装備名302は、各工程に対応する装備の名称を表す。種類304は、加工、検査、組立などの種類名を表す。故障率306、復旧時間308は、各装備の故障率と、故障時の復旧時間を表す。不良率310は各装備で素材の加工等をしたときの不良品の発生率を表す。バッファ数312は、各装備で加工、検査、組立等をする前に装備で保持できる素材の上限数を表す。故障率、復旧時間、不良率は、生産ラインが既存の場合には生産ラインを構成する各種装置の統計データを利用して設定してもよいし、生産ラインの新設、変更、拡張等を検討する場合には見込み値を設定してもよい。
【0035】
図5(b)は、物流装備パラメータが格納されるテーブル500の一例を示す。物流装備名502は、図3のレイヤで定義した物流装備に対応した名称を設定する。故障率504、復旧時間506は、各物流装備の故障率と、故障時の復旧時間を表す。スピード508は、AGV、フォークリフト、作業者等の移動速度を表す。ロード時間510は、各物流装備が搬送に要する時間を表す。これらの値は、生産ラインが既存の場合には生産ラインを構成する各種装置の統計データを利用して設定してもよいし、生産ラインの新設、変更、拡張等を検討する場合には見込み値を設定してもよい。このように、物流装備毎にパラメータを個別に設定することで、シミュレーション対象の生産ラインの中で複数の物流装備を混在して検証することができる。
【0036】
上述したように、装備パラメータおよび物流装備バラメータは、入力フォーム制御部34が提供する入力フォーム画面を通じて設定することができる。図6は、そのような入力フォーム画面の一例であり、図5(b)のテーブルで示した物流装備パラメータを設定するための画面400を示す。図示するように、入力フォーム画面400は、物流装備名402、故障率404、復旧時間406、スピード408、ロード時間410の入力領域を含む。これらは、図5(b)の項目502〜510にそれぞれ対応している。入力フォーム画面400はさらに、各物流装備が搬送可能なロットサイズ412、物流装備の数414、物流装備が移動中のCO2排出量416、物流装備が停止中のCO2排出量418の入力領域を含む。入力フォーム画面400は、上記以外の項目についての入力領域を含んでいてもよいし、または上記の項目のうち一部についての入力領域を含んでいなくてもよい。
【0037】
図示しないが、装備パラメータを設定するための入力フォーム画面も、項目名が異なるだけで図6と同様の構成を有する。但し、後述するCO2排出量の計算を実行するために、各装備について稼働中のCO2排出量と停止中のCO2排出量を設定するための入力領域が設けられている。
【0038】
続いて、プロセスエディタ部40について説明する。図3に示したように、プロセスエディタ部40は、プロセスエディタ表示部42および生産管理データ保持部46を含む。
【0039】
プロセスエディタ表示部42は、ユーザ端末20のディスプレイ上に、生産ラインを構成する各工程に関するデータを設定するとともに、工程間のつながりを設定するためのプロセスエディタを表示させる。
【0040】
生産管理データ保持部46は、プロセスエディタで設定された、製品の生産開始から終了までに要する工程毎に投入素材に関するデータと排出素材に関するデータとが記載された生産管理データを保持する。
【0041】
図7は、従来のプロセスエディタで使用される生産管理データシート200の一例を示す。この生産管理データシート200は、アンパンとクリームパンの製造ラインについて作成されたものである。生産管理データシート200は、例えばExcelなどのスプレッドシート形式、またはCSVなどのテキスト形式で作成される。
【0042】
「製品名」列202は、製造ラインで生産される製品名を表す。「フロー番号」列204は、工程間の前後のつながりを示すフロー番号を表す。「フロー名」列206は各フローについての名称を表す。「工程」欄208は、各工程の順序、番号、名称、およびステップ番号を表す列が含まれる。また、「工程」欄208には、後述するライン間の合流または分割があることを示す「種類」列209も含まれる。「合流分割」列210は、種類列209で示されたラインの合流先またはラインの分割先をフロー番号によって定義する。「投入素材情報」欄212は、各工程に投入される素材の名称、ロットサイズ、ロット単位およびロット数を表す列が含まれる。同様に、「排出素材情報」欄214は、各工程から排出される素材の名称、ロットサイズ、ロット単位およびロット数を表す列が含まれる。「所要時間」列216は、素材の加工に要する時間を表す。
【0043】
なお、本明細書において、「合流」とは、複数のラインが一つのラインに統合されることを言う。例えば、別々のサブラインで加工された複数の部品の組立、複数の材料の混合、ある部品を別の部品で包む包装などの工程に対応する。二つ以上のサブラインを一つのメインラインに同時に合流させることも可能である。合流工程は、図4のレイアウトエディタ画面では、レイヤ上で所定の工程へと進む物流装備のルートを複数設けることに対応する。
【0044】
「分割」とは、一つのラインが複数のラインに分かれることを言う。例えば、ある工程で切断された部品を別々のラインで引き続き加工したり、素材を小分けするなどの工程に対応する。分割されたラインをさらに別のラインと合流させたり、さらに複数のラインに分割したり、あるいは分割元のラインに再合流させたりすることも可能である。分割工程は、図4のレイアウトエディタ画面では、レイヤ上で所定の工程から別の工程へと進む物流装備のルートを複数設けることに対応する。
【0045】
このような従来の生産管理データシート200を用いる場合、ユーザは、ユーザ端末において前もって作成しておいた生産管理データシートを生産ラインシミュレーション装置にインポートするか、またはシミュレーション装置が提供する生産管理データシート用の入力フォーム上で必要なデータを入力していた。
【0046】
しかしながら、図7に示すような生産管理データシートでは、各工程が一行ずつ並べられているだけなので、工程間のつながりを表現することが難しい。特に、工程が合流されたり、または工程が分割されるような場合は、データシート内の「種類」列209を用いて定義しなくてはならないため、工程の流れを視覚的に把握するのが困難になる。工程が数百にわたったり、複雑な合流、分割を繰り返すような生産ラインでは、この傾向はますます顕著になる。
【0047】
そこで、本実施形態では、生産管理データシートを容易に編集することができ、かつ工程間のつながりを視覚的に把握可能となるプロセスエディタ機能が提供される。
【0048】
プロセスエディタ表示部42は、図8に示すような「プロセスセル」オブジェクト600を使用して生産管理データの入力をユーザに促す。生産ラインを構成する一つの工程が、一つのプロセスセル600に対応する。このプロセスセル600は、一例として、大きな長方形領域601の上下を二つの小さな長方形領域602、604で挟んだ形状をしている。プロセスセル600は、ユーザ端末20のディスプレイに表示されるプロセスエディタの画面上で、所定のメニュー項目を選択したり、ボタンをクリックしたり、アイコンをドラッグアンドドロップしたりすることで、エディタ画面上に任意の数を作成できる。
【0049】
上側の長方形領域(以下「投入ロット領域」という)602は、工程への投入ロット数を表す。下側の長方形領域(以下「排出ロット領域」という)604は、工程からの排出ロット数を表す。図8では、投入ロット数と排出ロット数がともに「1」である。つまり、プロセスセル600に対応するこの工程では、一個のロットに対して何らかの加工や処理を施した上で、一個のロットを排出することを示している。投入ロットの搬入元または排出ロットの搬送先となる工程が複数存在する場合は、長方形領域602または604が対応する数だけ作成される。
【0050】
中央の長方形領域601は、この工程で行われる処理の内容を表す。図示のように、長方形領域601には、「工程名」610、「工程時間」612、「工程分割可能有無」614、「開始時間設定有無」616、「入庫工程設定有無」618、「可用装備台数」620、「工程ID」622が含まれる。「工程名」はその工程の名称である。「工程時間」はその工程で要する作業時間である。「工程分割可能有無」はその工程を分割できるか否かを表すフラグである。「開始時間設定有無」はその工程を開始すべき時間が設定されているか否かを示すフラグである。「入庫工程設定有無」は入庫の工程であるか否かを示すフラグである。「可用装備台数」はその工程で使用できる装備の台数を示す。「工程ID」はその工程に振られたIDである。
【0051】
なお、プロセスセルに上記以外の項目が含まれてもよいし、上記の項目の一部が含まれなくてもよい。また、プロセスセルの形状は、図8に示したものに限られない。
【0052】
複数のプロセスセル600間は、リンク606、608で接続される。上側のリンク606は、投入ロットの搬入元のプロセスセルと接続され、下側のリンク608は、排出ロットの搬送先のプロセスセルと接続される。後述するように、リンクはプロセスエディタ上でマウス等を用いて容易に作成することができる。
【0053】
プロセスセル600へのデータの入力は、図9および図10に示す入力フォーム画面700を介して行われる。入力フォーム画面700は、例えば、ユーザ端末20のディスプレイに表示されているプロセスエディタ上でプロセスセルをダブルクリックしたり、所定のメニュー項目を選択することで表示される。入力フォーム画面700は、工程設定タブ702、工程詳細設定タブ704、使用装備設定タブ706、作業者設定タブ708を含む。これらのタグを選択することで、データの入力項目を切り換えることができる。
【0054】
図9では、工程設定タブ702が選択された状態を示す。ここでは、工程ID710、工程名712、作業時間714、投入ロット情報716および排出ロット情報718を設定することができる。これらは、図7に示した従来の生産管理データシート200における、工程208の番号、工程208の名、所要時間216、投入素材情報212および排出素材情報214にそれぞれ対応している。
【0055】
図10は、使用装備設定タブ706が選択された状態を示す。ここでは、各工程に割り当てる装備を一覧730から選択することができる。この一覧は、レイアウトエディタ部30で設定された装備パラメータを用いて、プロセスエディタ表示部42により作成される。割り当て対象の装備を右側の候補一覧738から選択し「追加」ボタン732を押して左側の一覧730に加えたり、あるいは左側の一覧730から不要な装備を選択し「削除」ボタン734を押して削除したりすることができる。割り当て対象の装備が、レイヤ保持部38に格納されているレイヤ毎に一覧730に表示されるようにしてもよい。この場合、「レイヤ選択」ボタン736を押して所望のレイヤを選択できるようにしてもよい。
【0056】
このように、工程毎に入力フォームを用いてデータを入力し、その内容がプロセスセル内にまとめて表示される。そのため、データを入力中の工程を把握しやすく、また各工程を一目で容易に識別することができる。したがって、データを入力するユーザの負担が軽減される。
【0057】
図11および図12は、本実施形態のプロセスエディタを使用して、アンパンおよびクリームパンの生産ラインの生産管理データを入力する場合のプロセスエディタ画面例を示す。
【0058】
ユーザは、シミュレーション装置によって提供されるプロセスエディタ画面上で、生産ラインを構成する工程毎にプロセスセルを作成していく。この段階では、工程間の順序やつながりを考慮する必要はない。図11は、パンの生産ラインのうち一部の工程に対応するプロセスセルP602、P405、P406、P104、P505、P606が入力し終わった状態を表している。なお、プロセスセルの番号は、図7の生産管理データシート200中の工程番号に対応している。
【0059】
図12は、実際の生産ラインに対応して工程間をリンクで接続した状態を示す。プロセスエディタは、作成されたプロセスセルの上下の長方形領域(すなわち、投入ロット領域と排出ロット領域に対して、それぞれ一つずつポインタ(図示せず)を設定する。ユーザは、エディタ画面上でこのポインタをマウス等でクリックすることで、二つのプロセスセル間に容易にリンクを設定することができる。
【0060】
図12中、プロセスセルP405およびP505で示されるように、投入ロットが二つ以上設定されているプロセスセルは、その工程で複数のサブラインが合流することを表している。このため、各投入ロットがそれぞれ別のプロセスセルの排出ロットとリンクで接続される。また、プロセスセルP104で示されるように、排出ロットが二つ以上設定されているプロセスセルは、その工程で複数のサブラインに分割されることを表している。このため、各排出ロットがそれぞれ別のプロセスセルの投入ロットとリンクで接続される。
【0061】
さらに、リンクで結ばれた排出ロットと投入ロットの数を調整することで、各工程の待機状態を表現することができる。例えば、プロセスセル405では、二つの投入ロットがともに「100」であり、一つの排出ロットが「100」である。これは、対応する工程において、クリームパン100個分のクリームと、100個分のパン生地を受け取り、100個のクリームが入ったパンを排出することを表している。つまり、この工程では、100個分のクリームとパン生地が到着するまで、処理が開始されないで待機することになる。
【0062】
このようにして、シミュレーション対象の生産ラインの工程の流れを表すプロセスフローをプロセスエディタ上で作成することができる。
【0063】
作成されたプロセスフローは、図示しない変換部によって図7のような従来のスプレッドシート形式に変換されて、生産管理データ保持部46に格納されてもよい。格納されたシートは、インポート/エクスポート部82を介して生産管理シートとしてユーザ端末20にエクスポートされてもよい。逆に、プロセスエディタ表示部42は、インポート/エクスポート部82によりインポートされた生産管理シートを解析して、図8のようなプロセスセル形式としてプロセスエディタ上に表示するように動作してもよい。これにより、類似の生産ラインのシミュレーションを行う際に、既存の生産管理シートを活用することができる。
【0064】
以上説明したように、本実施形態のプロセスエディタでは、プロセスセルを採用することで、生産管理データの入力、編集作業が容易になる。また、プロセスエディタ上でプロセスセルを画面上で並べ変えてリンクで接続するだけで、工程間のつながりを表現することができる。また、エディタ上で工程の流れを視覚的に把握することができる。さらに、工程間のつながりを容易に変更することができるので、最適な物流動線の検討が容易になる。
【0065】
並列する複数のラインを一つの画面で作成することも可能であり、ライン別に別の色を設定するようにしてもよい。これにより、ライン間の比較が容易になる。
【0066】
続いて、シミュレーション実行部の機能について説明する。図3に示すように、シミュレーション実行部は、演算部54および結果保持部56を含む。
【0067】
演算部54は、プロセスエディタ部40によって作成されたプロセスフローと、レイアウトエディタ部30によって作成されたレイアウトシート、レイヤ、各種パラメータを参照して、生産ラインの各工程における素材の処理数量、処理時間等を演算する。さらに、この演算結果を元に、最終製品の生産個数、生産時間等を演算する。シミュレーションの結果は、結果保持部56に格納される。
【0068】
より具体的には、プロセスエディタ部40によって図12のようなプロセスフローが作成されると、演算部54は、ラインの先頭の工程への投入素材データと、その工程についての装備パラメータとを参照して、工程での処理に要する時間を計算する。その後、排出素材データと、次の工程への搬送ルートと、物流装備パラメータとを参照して、次の工程への搬送に要する時間を計算する。例えば、レイアウトシート上の工程間のグリッド数と、その工程間の搬送ルートを定めたレイヤに対応する物流装備パラメータの速度から、搬送時間を計算することができる。素材の排出後、工程では次の投入素材に関して処理時間を計算する。このように、各工程での素材の処理時間と処理単位、工程間の搬送時間を計算していくことで、稼働時間内での最終製品の生産個数や、所定の生産個数を達成するまでに要する生産時間を求めることができる。
【0069】
なお、このような生産個数や生産時間を演算するシミュレーションの手法自体は公知であるので、本明細書ではこれ以上の詳細な説明を省略する。
【0070】
演算部54は、各工程でロット毎に行った計算のログ(例えば、生産開始時刻、生産所要時間など)を記録してもよい。このログを参照することで、いずれの工程で仕掛かりが発生したか、ラインのどの部分がボトルネックになっているか、素材の投入タイミングが適切かなどを容易に把握することができる。
【0071】
また、装備パラメータに設定された故障率と復旧時間に基づき、演算部54は、装備で確率的に故障が発生することを考慮して上記の計算をすることで、実際の生産ラインの稼働状況をより正確にシミュレーションに反映させることができる。これにより、故障率の高い装備を交換すべきかや交換の費用対効果を、交換した場合の生産個数の増加率をもとにして判断することが可能になる。
【0072】
図13は、本実施形態による生産ラインシミュレーション装置における処理の流れを示すフローチャートである。
まず、ユーザはレイアウトエディタ表示部32が提供するレイアウト画面において、シミュレーションしたい生産ラインを表現するレイアウトシートと、工程間の物流装備を定義するレイヤとを作成する(S30)。作成されたレイアウトシートとレイヤは、それぞれレイアウトシート保持部36、レイヤ保持部38に格納される。また、ユーザは、入力フォーム制御部34が提供する入力フォーム画面において、各工程での装備の性能を定義する装備パラメータと、各物流装備の性能を定義する物流装備パラメータとを作成する(S32)。作成されたパラメータは、パラメータ保持部39に格納される。
【0073】
さらに、ユーザは、プロセスエディタ表示部42が提供するプロセスエディタ画面において、工程間のフローを表現したプロセスフローを作成する(S34)。作成されたプロセスフローは、生産管理データに変換されて生産管理データ保持部46に格納される。さらに、ユーザは生産ラインの稼働時間を設定する(S36)。なお、S30〜S36に関しては順序を任意に変更することができる。
【0074】
演算部54は、生産管理データ、レイアウトシート、レイヤ、各種パラメータを参照して、所与の生産ラインにおける製品の生産時間、生産個数等の計算を実行する(S38)。シミュレーションの結果は、結果保持部56に格納される。(S40)。
【0075】
ユーザは、シミュレーションの結果を参照し、レイアウトシート上での生産ラインの組み替え、装備の一部を別の装備に入れ替え、物流装備の変更などの手段を講じた後にシミュレーションを繰り返して、稼働時間内の生産個数を増加できるかや、所望の期間内に予定の個数を生産できるかなどをチェックすることができる。
【0076】
以上のように、工場における実際の生産ラインと同様の工程からなる生産ラインのモデルをコンピュータ上に構成しシミュレーションを実行することができる。これによって、加工条件などを変更した場合の納期予測、生産計画の立案、工場設計の検証、生産工程の改善検証、装備・人員の配置の検証、近接性分析、ボトルネックの検出および対応、設備状況の判断などに役立てることができる。
【0077】
また、工程間の搬送ルートをレイヤを用いて定義することで、異なる搬送能力を持つ複数の物流装備による移動をシミュレーション対象の生産ライン内で混在させることができる。物流装備の違いによる生産効率の変化も、レイヤを交換することで容易に演算させることができる。
【0078】
また、プロセスエディタ画面においてプロセスフロー図を作成することによって、ライン間の合流や分割といった複雑な工程を含む生産ラインを表現してシミュレーションを行うことが可能になる。これにより、生産ラインシミュレーション装置を幅広い業種に適用することができる。一例として、本発明による生産ラインシミュレーション装置は、生産管理データ中の素材や装備パラメータ等を実際の生産ラインに合わせて適宜作成することによって、自動車産業、精密部品産業、電機・電子部品産業、半導体産業、製薬産業、食品産業など任意の製造業種に適用可能である。
【0079】
続いて、後処理部60の機能について説明する。後処理部60は、CO2排出量計算部70および評価部62を含む。
【0080】
後処理部60は、結果保持部56に格納されたシミュレーション結果を参照して、そのシミュレーション対象の生産ラインを立ち上げたときに工場の全体から排出されるCO2量を算出する演算部72と、CO2排出量の計算に必要となる係数の設定画面をユーザ端末20に出力する係数設定部74を含む。
【0081】
以下、本実施形態におけるCO2排出量の計算について、仮想事例を元に説明する。図14は、仮想事例の生産ラインを示す。図中、正方形は装備を、実線は搬送ルートを示す。ここでは、物流装備の速度を変更した二種類のシミュレーションを実行したものとする。「検証1」では物流装備の速度を20m/分に設定し、「検証2」では物流装備の速度を30m/分に設定した。
【0082】
図15は、仮想事例に基づくシミュレーション実行部によるシミュレーション結果の表900である。シミュレーション結果904に示すように、シミュレーション実行部は、装備可動時間、装備待機時間、物流装備移動時間、物流装備待機時間、工場稼働時間、工場停止時間をそれぞれ算出する。
【0083】
図16は、工場のCO2排出量係数の設定画面950である。図示するように、工場が稼働中の単位面積・単位時間当たりのCO2排出量952と、工場が停止中の単位面積・単位時間当たりのCO2排出量954を設定することができる。装備および物流装備の稼働中および停止中の単位時間当たりCO2排出量は、図6で示したように、それぞれのパラメータ入力フォームで設定することができる。これらのCO2排出量は、実測に基づくものでもよいし、仮想値であってもよい。
【0084】
演算部72は、図15のシミュレーション結果904に基づき、CO2排出量を求める算出する。本実施形態では、演算部72は、装備と物流装備のCO2排出量を別々に計算する。これらについては、稼働時と待機時とでそれぞれCO2排出量を計算する。また、空調や照明といった、生産ラインには含まれない工場自体が排出するCO2排出量も計算する。
【0085】
具体的には、シミュレーション結果904を使用して、以下のE1〜E6を算出する。
・装備稼働時のCO2排出量:E1=Σ{装備稼働時CO2排出量(kg/時)×装備稼働時間(時)}
・装備待機時のCO2排出量:E2=Σ{装備待機時CO2排出量(kg/時)×装備待機時間(時)}
・物流装備稼働時のCO2排出量:E3=Σ{(物流装備稼働時CO2排出量(kg/時)×物流装備稼働時間(時)}
・物流装備待機時のCO2排出量:E4=Σ{(物流装備待機時CO2排出量(kg/時)×物流待機時間(時))}
・工場稼働時のCO2排出量:E5={工場稼働時CO2排出量(kg/時/m2)×工場面積(m2)×工場稼働時間(時)}
・工場停止時のCO2排出量:E6={工場休止時CO2排出量(kg/時/m2)×工場面積(m2)×工場休止時間(時)}
【0086】
なお、装備および物流装備は生産ライン中に複数含まれるので、上記のE1〜E4は、各装備または物流装備の稼働時と待機時についてそれぞれCO2排出量を計算し、これを全装備または全物流装備について合計することで求められる。これに対し、E5、E6は、工場全体について一つずつ算出される。
【0087】
最後に、次式により工場全体から排出されるCO2排出量Eを算出する。
E=E1+E2+E3+E4+E5+E6
【0088】
図15のCO2排出量結果906は、上記のようにして算出されたE1〜E6、Eを示している。また、これらの結果から、単位装備当たりの排出量、単位面積当たりの排出量、単位工程当たりの排出量を算出することができる。
【0089】
図17は、図15のCO2排出量結果906に基づき、演算部72が検証1と検証2についてグラフ化した様子980を示す。図示のように、CO2排出量結果906の項目毎に、異なる色でグラフ表示される。図中、最上部にある太線のグラフが、工場全体の排出量Eを表している。このグラフ化により、各検証におけるCO2排出量を視覚的に把握することができる。
【0090】
一般に、生産ラインの現場では、装備の故障、装備の能力差、生産数量の変更といった予期しない事態が頻発する。本実施形態では、レイアウトエディタおよびプロセスエディタを用いて現場と同じ工程を仮想的に構築した上で、上記のような事象を考慮した生産シミュレーションを複数回実行することができる。そして、このシミュレーション結果のそれぞれについてCO2排出量を計算するので、様々な事象の変化をCO2排出量に直ちに反映させることができる。
【0091】
また、生産シミュレーションの結果を基に排出量を計算することで、製品の生産台数とCO2排出量とが一度に求められる。このため、例えば製品一台当たりのCO2排出量を正確に算出することができる。
【0092】
図18は、評価部62によって作成される、複数のシミュレーション結果を表示する一覧表1000の一例を示す。図示のように、実行されたシミュレーションの結果が列1004に並べられる。シミュレーション結果の各項目が行1002に表されている。「シミュレーション名」は、各シミュレーションに付けられた名前である。「総所要時間」は、与えられた条件の下、シミュレーション対象の生産ラインにおいて全工程を完了するために要した時間である。「レイアウト」は、シミュレーション対象の生産ラインで使用したレイアウトシート名である。「総CO2排出量」は、各シミュレーション結果に基づきCO2排出量計算部で算出された、工場全体からのCO2排出量である。「全体装備稼働率」、「全体物流稼働率」は、シミュレーション対象の生産ラインに含まれる、全ての装備または物流装備の稼働率の平均値である。「最大仕掛在庫量」、「平均仕掛在庫量」は、生産ラインで発生した仕掛在庫量の最大値または平均値である。「最大作業者数」は、生産ラインを稼働させるのに要した作業者数の最大値である。なお、これら以外の項目も一覧表に含められる。
【0093】
さらに、評価部62は、各シミュレーション結果についての評価点を算出することができる。評価点は、例えば以下のようにして算出される。まず、表1000の行1002で示した評価項目毎に、シミュレーション結果の好ましいものから順位(評価順位)を付ける。例えば、「総CO2排出量」であれば、値が小さい方が好ましいので、Sim2が1位、Sim1が2位、Sim3が3位となる。続いて、ユーザが、評価項目毎に、重み付けの順位を付ける。つまり、いずれの評価項目をより重視するかをユーザが設定する。各シミュレーション結果毎に、(評価順位)×(重み付け順位)を全評価項目について計算し、総和をとる。例えば、ある項目に浮いて、評価順位が8位で重み付けが10位であれば、その評価項目は80ポイントである。得られた値をそのシミュレーション結果の評価値とする。評価値が小さいものほど、優れたシミュレーション結果である。
【0094】
この一覧表を参照することで、様々なレイアウトやプロセス条件の組み合わせに対してシミュレーションを繰り返し実行し、その中から最適な組み合わせを選択するユーザの意思決定が容易になる。
【0095】
なお、後処理部60は、上記の他、シミュレーション結果を元にガントチャート、稼働率グラフ、近接性分析結果などを画像として表示する機能を有していてもよい。
【0096】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。この実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【符号の説明】
【0097】
10 生産ラインシミュレーション装置、 12 ネットワーク、 20 端末、 30 レイアウトエディタ部、 32 レイアウトエディタ表示部、 34 入力フォーム制御部、 36 レイアウトシート保持部、 38 レイヤ保持部、 40 プロセスエディタ部、 42 プロセスエディタ表示部、 44 入力フォーム制御部、 46 生産管理データ保持部、 48 パラメータ保持部、 50 シミュレーション実行部、 52 ライン構成部、 56 結果保持部、 60 後処理部、 62 評価部、 70 CO2排出量計算部、 72 演算部、 74 係数設定部、 80 表示制御部、 82 インポート/エクスポート部。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の工程からなる生産ラインにおいて、製品の生産時間および生産能力を演算する生産ラインシミュレーション装置において、
製品の生産開始から終了までに要する工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成するためのプロセスエディタ部を備え、
前記プロセスエディタ部は、前記生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成することを特徴とする生産ラインシミュレーション装置。
【請求項2】
前記プロセスエディタ部は、各工程への投入素材数を含む投入ロット領域と、各工程からの排出素材数を含む排出ロット領域とを前記プロセスセルに表示し、複数のプロセスセル同士で前記排出ロット領域と前記投入ロット領域とを関連づけることで、工程間の流れを表現することを特徴とする請求項1に記載の生産ラインシミュレーション装置。
【請求項3】
前記プロセスエディタ部は、複数のプロセスセルの排出ロット領域を、一つのプロセスセルの投入ロット領域に関連づけることで、生産ライン間の合流を表現することを特徴とする請求項2に記載の生産ラインシミュレーション装置。
【請求項4】
前記プロセスエディタ部は、一つのプロセスセルの排出ロット領域を、複数のプロセスセルの投入ロット領域に関連づけることで、生産ラインの分割を表現することを特徴とする請求項2に記載の生産ラインシミュレーション装置。
【請求項5】
製品の生産開始から終了までに要する工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成するためのプロセスエディタ機能と、
前記生産管理データに基づき、複数の工程からなる生産ラインにおける製品の生産時間および生産能力を演算する機能と、
をコンピュータに実現させるための生産ラインシミュレーションプログラムであって、
前記プロセスエディタ機能は、前記生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成することを特徴とする生産ラインシミュレーションプログラム。
【請求項1】
複数の工程からなる生産ラインにおいて、製品の生産時間および生産能力を演算する生産ラインシミュレーション装置において、
製品の生産開始から終了までに要する工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成するためのプロセスエディタ部を備え、
前記プロセスエディタ部は、前記生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成することを特徴とする生産ラインシミュレーション装置。
【請求項2】
前記プロセスエディタ部は、各工程への投入素材数を含む投入ロット領域と、各工程からの排出素材数を含む排出ロット領域とを前記プロセスセルに表示し、複数のプロセスセル同士で前記排出ロット領域と前記投入ロット領域とを関連づけることで、工程間の流れを表現することを特徴とする請求項1に記載の生産ラインシミュレーション装置。
【請求項3】
前記プロセスエディタ部は、複数のプロセスセルの排出ロット領域を、一つのプロセスセルの投入ロット領域に関連づけることで、生産ライン間の合流を表現することを特徴とする請求項2に記載の生産ラインシミュレーション装置。
【請求項4】
前記プロセスエディタ部は、一つのプロセスセルの排出ロット領域を、複数のプロセスセルの投入ロット領域に関連づけることで、生産ラインの分割を表現することを特徴とする請求項2に記載の生産ラインシミュレーション装置。
【請求項5】
製品の生産開始から終了までに要する工程毎に、工程に投入する素材に関する投入素材データ、工程から排出される素材に関する排出素材データ、および工程での所要時間を少なくとも含む生産管理データを作成するためのプロセスエディタ機能と、
前記生産管理データに基づき、複数の工程からなる生産ラインにおける製品の生産時間および生産能力を演算する機能と、
をコンピュータに実現させるための生産ラインシミュレーションプログラムであって、
前記プロセスエディタ機能は、前記生産管理データの少なくとも一部が表示されたプロセスセルオブジェクトを工程毎に作成することを特徴とする生産ラインシミュレーションプログラム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2012−8729(P2012−8729A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−143052(P2010−143052)
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(509161554)株式会社NETS (3)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月23日(2010.6.23)
【出願人】(509161554)株式会社NETS (3)
【出願人】(000201478)前田建設工業株式会社 (358)
【Fターム(参考)】
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