説明

生薬の生菌数測定方法

【課題】迅速かつ簡便に、生薬中の微生物の生菌数を測定する方法の提供。
【解決手段】ペプトン食塩緩衝液と被験生薬試料を収納袋に収容し、該収納袋をストマッカーにより1秒間あたり5ストロークの間隔で30秒以上処理をし、その後自動生菌数測定装置で生菌数を測定する方法。最後の工程で濃色の生薬を測定するときは、試料溶液を希釈する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生薬中の微生物生菌数を、迅速かつ簡便に測定する方法である。
【背景技術】
【0002】
医薬品に比べ、生薬は天然物由来のため微生物が付着している可能性が高く、多くの微生物が生薬中に付着したまま製剤化されると、消費者に被害を及ぼす可能性がある。そこで、生薬中の微生物の数を正しく把握しておくことが必要である。
【0003】
従来、生菌数を測定する方法として、例えば生薬を寒天培地上で培養して生成するコロニー数を求める方法(カンテン平板混釈法)が知られている。しかしながら、この方法は手間がかかると共に、測定結果を得られるまでに長時間を要するなどの問題があった。
【0004】
例えば、カンテン平板混釈法は試験の準備に2時間,培養に5日間かかり,試験結果を得るまでに長い時間を要し、混釈や集落数のカウント、廃棄物の処理等試験工数が多いため作業時間も長い。また、全ての工程を人の手により行うため、転記ミスや結果に個人差が発生する可能性もあった。

【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭57−74095号公報
【特許文献2】特開昭62−138185号公報
【特許文献3】特開平1−124767号公報
【特許文献4】米国特許第4,336,337号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来の問題点を解消し、微生物の生菌数を迅速かつ簡便に測定する方法を提供することを目的とするものである。

【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明は、生薬の微生物生菌数測定において、以下の工程を備えてなることを特徴とする微生物生菌数の測定方法を提供するものである。
(1)ペプトン食塩緩衝液と被験生薬試料を混合する。
(2)得られた混合物をストマッカーにより1秒間あたり5ストローク以上の間隔で30秒以上の処理をする。
(3)その後、自動生菌数測定装置で生菌数を測定する。
【0008】
本発明は、上記(3)の工程において、試料溶液を希釈することで、濃色の生薬を測定することもできる。
【0009】
また、本発明の対象とする微生物は、細菌および真菌である。

【発明の効果】
【0010】
本発明の方法によれば、カンテン平板混釈法と同等な結果が得られ、迅速、かつ簡便に、生菌数を測定することができる。
すなわち、培養期間が従来の5日間から、細菌の場合は2日間に、真菌の場合は3日間に短縮された。また、複数の希釈段階を用意する必要がなく、培地の準備が不要で、すぐに試験を開始でき、菌数カウントを省略できるため工数が削減された。

【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】ストローク回数による生菌数の変化(処理時間30秒)
【図2】ストローク回数による生菌数の変化(処理時間60秒)
【図3】処理方法の違いによる生菌数の変化(細菌)
【図4】処理方法の違いによる生菌数の変化(真菌)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施例によりさらに詳細に説明する。

【0013】
(1)生薬試料の準備
測定に用いる生薬を、ペプトン食塩緩衝液とよく混合できるように適宜刻む。全形生薬を小片または小塊に切断または粉砕、あるいは粗切、中切または細切したものを使用する。
【0014】
(2)前処理
ストマフィルター中に、日本薬局方に定められたペプトン食塩緩衝液90mLと刻んだ生薬試料10gを入れる。
その後、当該混合液から生薬付着菌を回収するためにストマッカーで処理を行う。ストマッカー処理は、例えば5ストローク/秒で30秒が望ましい。6ストローク/秒以上であっても生薬付着菌の回収効果に影響はなく、ストローク数が増えることでストマフィルターへの衝撃が大きくなり、破損する可能性があるからである。また処理時間は、30秒以上であっても生薬付着菌の回収効果に影響がないからである。
なお、ストマッカー処理に代えて、振盪機で15分間振盪(振盪法)させても良い。
【0015】
(3)測定
シスメックス株式会社製の自動生菌数測定装置を用いて、生菌数の個数を自動で測定する。
【0016】
(4)試料溶液の希釈
上記混合液の色調が濃色の場合には、生薬の色素が検出時の蛍光を妨害するため、測定不能となる。このような場合は、ペプトン食塩緩衝液で適宜希釈し、測定するとよい。なお、ペプトン食塩緩衝液に代えて滅菌したリン酸緩衝液でもよい。
1/40希釈:混合液1mLを培地3mLに添加
1/400希釈:混合液0.1mLを培地3.9mLに添加
1/4000希釈:混合液1mLにペプトン食塩緩衝液9mLを加え、10倍希釈したもの0.1mLを培地3.9mLに添加。
【0017】
(試験例1)
前処理におけるストマッカーでの、スロトーク回数および処理時間を以下の条件で試験し、生菌数を比較した。

試料:5種の以下に示す標準菌株
・Escherichia coli ATCC8739
・Bacillus subtilis ATCC6633
・Aspergillus brasiliensis ATCC16404
・Salmonella enterica subsp.enterica serovar Abony NCTC6017
・Candida albicans ATCC10231

試験方法:
ペプトン食塩緩衝液400mLに標準菌株1mLを加え、90mLずつストマフィルターに分注し、ストマッカーにより5、6、7、8 ストローク/秒、30秒または60秒の条件で処理をする。
細菌は、SCDカンテン培地で混釈し、33℃で培養し、真菌は、PDカンテン培地で混釈し、23℃で培養する。5〜7日後,生菌数を測定する。
【0018】
図1,2に示すとおり、5ストローク/秒以上でも変化はないことから、5ストローク/秒のストロークで十分であることが示された。また、ストローク時間は30秒でも60秒でも変化がないことから、30秒間で十分であることが示された。
【0019】
(試験例2)
同一の生薬試料において、ストマッカー処理とJP法(振盪法)での生菌数を比較した。

試料:図3,4に示す以下の生薬

試験方法:
ペプトン食塩緩衝液90mLに試料10gを加え、ストマッカーにより5ストローク/秒、30秒及び60秒の条件で処理(ストマッカー処理)を行い、並びに振盪機により15分間振盪(振盪法)させた。
細菌は、SCDカンテン培地で混釈し、33℃で培養し、真菌は、PDカンテン培地で混釈し、23℃で培養する。5〜7日後、生菌数を測定する。
【0020】
図3、4に示すように、ストマッカー処理とJP法では同等の結果を得た。
【0021】
(試験例3)
希釈された生薬試料を3条件で希釈し、自動生菌数測定装置とJP法での生菌数を比較した。

試料:表1および表2に示す13種類の生薬

試験方法:
ペプトン食塩緩衝液90mLに試料10gを加え、ストマッカーにより5ストローク/秒、30秒及び60秒の条件で処理(ストマッカー処理)を行い、並びに振盪機により15
分間振盪(振盪法)させた。
その後、細菌は48時間後、真菌は72時間後に自動生菌数測定装置にて生菌数を測定(自動生菌数測定装置)した。
一方、JP法では、細菌をSCDカンテン培地で混釈し、33℃で培養し、真菌は、PDカンテン培地で混釈し、23℃で培養した。そして5〜7日後に生菌数を測定する。
【0022】
細菌の測定結果を表1に、真菌の測定結果を表2に示す。
判定は、カンテン平板混釈法の生菌数の対数と自動生菌数測定装置の生菌数の対数の差を算出し、1以下の場合は数値に差が無いとして判定○とし、1以上の場合は差があるとして判定×とした。
表1および表2に示すように、生薬に応じて1/4000希釈までを利用すれば、自動生菌数測定装置での測定はJP法と同等の結果を得られることを確認した。

【0023】
【表1】

【0024】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
生薬の微生物生菌数測定において、以下の工程を備えてなる微生物生菌数の測定方法。(1)ペプトン食塩緩衝液と被験生薬試料を混合する。
(2)得られた混合物をストマッカーにより1秒間あたり5ストローク以上の間隔で30秒以上の処理をする。
(3)その後、自動生菌数測定装置で生菌数を測定する。
【請求項2】
上記(3)の工程において、濃色の生薬を測定するときは、試料溶液を希釈することを特徴とする請求項1記載の微生物生菌数の測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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