説明

生鮮食品のための、キトサン、界面活性剤、およびポリエチレングリコールを含有するコーティング組成物

本発明は、食品の表面に水性のコーティング組成物を適用することを含む、食品のコーティング方法に関する。本発明のさらなる主題は、先のコーティング組成物及び、先のコーティング組成物でコーティングされた食品である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の表面に水性コーティング組成物を適用することを含む、食品のコーティング方法に関する。本発明のさらなる主題は、先のコーティング組成物および、先のコーティング組成物でコーティングされた食品である。好ましい実施形態を他の好ましい実施形態と組み合わせることは、本発明の範囲に含まれる。
【0002】
食品、特に生鮮果実および野菜の最大の損失は、収穫から消費までの間に起こる。食品コーティングは、果実および野菜、ならびに加工食品をより長く新鮮な状態に保ち、さらに化学的汚染および微生物汚染、ならびに/または酸化的腐敗からそれらを保護する方法である。果実および野菜を乾燥から守ることも意図するものである。汚染食品は、毒物ならびに細菌およびウイルス感染に起因して、人口に占める罹患率および死亡率のかなりの部分に関与する。食品の酸化的変化は、特に、食品の官能特性の喪失、脂肪の酸敗臭、および必須栄養素の分解をもたらす。これは、味、香り、および色に悪影響を及ぼし、毒性を有する可能性のある脂質過酸化生成物が形成され、ビタミンが破壊される。これらの例には、ポリフェノールオキシダーゼの活性化および発色カロテノイドの酸化分解に起因するカットフルーツ(リンゴ、バナナ)の非酵素的褐色化、ならびに内在性ビタミンであるリボフラビンによる脂質およびタンパク質の光酸化的変化(日光臭)がある。さらに、食品表面の物理的刺激に対する安定化は、多くの態様にとって望ましい。食品表面の亀裂は、視認できる外観を損なうのみならず、微生物の侵入リスクを伴う。リンゴ、洋ナシ、およびバナナなどの果実は、概して、保存可能期間を延ばすように調節または変更されたガス雰囲気下で保存される。こうした食品を表面処理組成物で処理すること(コーティング)は、上記の代わりとなる方法、または上記に追加の方法であって、それによって呼吸および乾燥および微生物腐敗を減らし、保存可能期間を延ばすことができる。しかしながら、生鮮果実および野菜のコーティングの成功は、そうでないと異臭が発生するので、内部のガスの組成によって決まる。
【0003】
ワックスは早くも12および13世紀には果実用の最初の可食性コーティング材料として使用された。膜を形成することができる他の多数のポリマーが食品用のコーティング組成物として知られている。これらには、ワックスの他に、固形脂肪、炭水化物およびタンパク質、ならびに樹脂および合成ポリマーがある。炭水化物はたとえば、セルロース、デンプン、ペクチン、アルギン酸、グアー、カラギーナン、カロブビーン粉、キトサン、プルラン、およびキサンタンである。現在使用されているタンパク質は、カゼイン酸、乳清タンパク質、ケラチン、コラーゲン、ダイズタンパク質単離物、およびゼインである。ワックスには、蜜ろう、ポリコサノール、およびカルナウバワックスがある。シェラックは、食用に適した唯一の樹脂である。合成ポリマーはたとえば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ酢酸ビニル(PVAc)、ポリビニルアルコール(PVA)、またはポリアクリレートである。
【0004】
果実および野菜などの食品の収穫後処理の方法は現在、業界において、さまざまな機械で行われているが、こうした機械は果実もしくは野菜のそれぞれの種類ごとに特化されている。たとえば、US 5,148,738は、固体の、破片を含む食料品を化学的に処理するための装置を記載するが、それはスクラブ洗浄ステーション、ならびにそのステーションの上にある液体散布の手段を含む装置である。WO 2003/047370は、農産物洗浄機および選別機を含む、農産物処理機を明らかにする。US 3,998,330は、コンベヤー手段を含む、サイズによる分離のための装置を開示する。US 5,806,686は、分類されていないピースからあらかじめ定められた寸法サイズの選定されたピースを分類するための、仕分け装置を明らかにする。US 4,262,477は、畑からトマトを収穫するための手段、振動手段、およびサイズ分類手段を有する、トマト収穫機を開示する。これらの収穫後の方法は、確実に操作するために、取り扱う食品についてある程度の機械的性質が必要である。特にサイズ分類法は、迅速で確実な仕分けのために、処理する食品の外部表面が非常になめらかである必要がある。現在、潤滑性を向上させるためにワックスもしくは油をコーティングに加えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5,148,738号
【特許文献2】国際公開第2003/047370号パンフレット
【特許文献3】米国特許第3,998,330号
【特許文献4】米国特許第5,806,686号
【特許文献5】米国特許第4,262,477号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
食品を被覆するための改良されたコーティングを見いだすことが本発明の目的であって、そのコーティングはより好ましい使用特性を有し、官能的もしくは審美的特性を損なう原因とならない。もう1つの目的は、信頼性のある処理(サイズ選別およびコーティングなど)を可能にする、改良されたコーティングを見いだすことであった。そのほかに、食品、特にトマトのコーティングを達成することを目的としたが、このコーティング食品は、堅さを維持し、しなびたり腐敗したりすることが減少し、油っぽい感じが減り、安定した均一のピンク色から赤色を達成する。さらに、迅速かつ確実な収穫後処理、たとえばサイズ選別、を可能にするコーティングを特定することを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的は、水性コーティング組成物を食品表面に適用することを含む、食品をコーティングするための方法によって達成されたが、このコーティング組成物は、キトサン、酸、界面活性剤、および少なくとも5重量%のポリアルキレングリコールを含有する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
食品は、あらゆるタイプの食用生産物であって、たとえば、果実(たとえば、ナシ状果、核果、または核のない小果実)、野菜、観賞植物、乳製品、ソーセージおよびハム製品、卵、またはベーカリー製品などである。好ましい食品は、果実もしくは野菜である。
【0009】
適当な果実はたとえば、リンゴ(たとえば「フジ」、「ガーラ」、「ゴールデン・デリシャス」、「グラニー・スミス」、「レッド・デリシャス」)、アンズ、ナシ、アボカド、バナナ、ブラックベリー、特産物、パンノキの実、キイチゴの実、ウチワサボテンの実、カンタロープ、チェリモヤ、サクランボ、クリ、ナツメヤシ、ドライフルーツおよびナッツ、ドリアン、フェイジョア、イチジク、グーズベリー、ブドウ、グレープフルーツ、グアバ、カンロメロン、ジャックフルーツ、中国ナツメヤシ、キウィフルーツ、レモン、ライム、リュウガン、ビワ、ライチ、マンダリン/タンジェリン、マンゴー、マンゴスチン、メロン、カンタロープ、メロン、カンロメロン、ネクタリンおよびモモ、ドライナッツおよびフルーツ、オリーブ、オレンジ、パパイヤ(papaya)、パッションフルーツ、パパイヤ(pawpaw)、モモおよびネクタリン、洋ナシ(たとえば、「アンジュー」、「ボスク」、「コミス」、「バートレット」)、ペピーノ、カキ、パイナップル、プランテン、プラム、ザクロ、カリン、ランブータン、サポーテ(サポジラ)、スターフルーツ(カランボラ)、イチゴ、コダチトマト、タンジェリン/マンダリン、スイカである。好ましい果実は、リンゴ、洋ナシ、プラム、モモ、サクランボ、イチゴ、ラズベリー、ブラックベリー、グーズベリー、バナナ、ブドウ、マンゴー、パパイヤ、パイナップル、アボカド、オレンジ、レモン、グレープフルーツおよびマンダリンである。
【0010】
適当な野菜はたとえば、アーティチョーク、アスパラガス、マメ(ビーンズ)、サヤマメ、ベルギーエンダイブ(チコリ)、ピーマン、ブロッコリ、芽キャベツ、キャベツ、ニンジン、カリフラワー、セロリ、スイートコーン、キュウリ、ウリ科(特にカボチャ属)、ナス、ニンニク、ハーブ、クズイモ、レタス、結球レタス、ロメインレタス、マッシュルーム、ノパリートス(サボテンの茎)、オクラ、乾燥タマネギ、グリーンオニオン、ネギ、パプリカ、エンドウ、ペッパー、ピーマン、ジャガイモ、早生穀物、カボチャおよび冬カボチャ、赤チコリ、ダイコン、スプラウト、種子、ホウレンソウ、スカッシュ、サツマイモ、トマティロ(ホオズキ)、トマト(たとえば、ラウンドトマト、ローマトマト、またはミニトマト)である。好ましい野菜は、ホウレンソウ、レタス、アスパラガス、キャベツ、ニンジン、タマネギ、トマト、ジャガイモ、ウリ科植物、パプリカ、ピーマン、キュウリ、およびナスである。
【0011】
適当な鑑賞植物はたとえば、アルストロメリア、アネモネ、アンスリウム、シノブボウキ、アスター、カスミソウ、ゴクラクチョウカ、ブバルディア、カラー、カーネーション、キク、ラッパズイセン、デルフィニウム、エメラルド・ヤシ、ユーカリ、フリージア、ガーベラ、ショウガ、グラジオラス、ヘリコニア、セイヨウヒイラギ、ハックルベリー、アヤメ、レザーリーフファン、レモンリーフ、リアトリス、ラン、プロテア、バラ、キンギョソウ、スターチス、ヒマワリ、アメリカナデシコ、スイートピー、ゲッカコウ、およびイエローアスターである。
【0012】
食品は特に、トマト(たとえば緑熟トマト)、ピーマン、メロン、キュウリおよびナスであるが、中でも特にトマトが好ましい。
【0013】
コーティング組成物は、少なくとも1つのキトサンを含有する。キトサンはよく知られた多糖である(Hirano, Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2005,“Chitin and Chitosan”)。「キトサン」という用語は、キトサン、キトサン誘導体、ならびにキトサンおよびキトサン誘導体の混合物に関するが、好ましくはキトサンのみに関する。キトサンは、直鎖β1→4結合したグルコサミンおよびN-アセチルグルコサミンに関するものである。それは、(たとえばエビに由来する)キチンもしくはそのナトリウム塩から、高温にて水酸化ナトリウム水溶液で処理することによって、または酵素を用いて、製造することができる。反応条件に応じて、高度にN-脱アセチル化された、または部分的にN-脱アセチル化されたキトサンが作られる。典型的には、コロイド滴定によって測定される脱アセチル化は、50から99.9%、好ましくは70から99.8%、そしてもっとも好ましくは90から99.7%である。粘性も通常、脱アセチル化と関係している。典型的には、1重量% 酢酸中1重量% キトサン溶液の粘性は(Brookfield粘度測定によって、30 rpmでスピンドルを用いて25℃にて測定され)5から500 mPas、好ましくは10から300 mPasである。米国食品医薬品局によるGRAS認証を有するキトサンが、純度および品質として好ましい。
【0014】
キトサン誘導体およびその調製もよく知られている(Hirano, Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, 2005,“Chitin and Chitosan”; Prashanth and Tharanathan, Trends Food Sci. Technol. 2007, 18, 117-131)。これらは、アミノ基における反応(たとえば、N-アセチル化、N-アルキリデンおよびN-アルキリデン誘導体の形成、N-アルキル化、ならびにN-アリール化)によって、またはヒドロキシ基での反応によって調製される。好ましくは、キトサン誘導体はアミノ基での反応によって調製される。
【0015】
典型的には、コーティング組成物は、0.1〜15重量%、好ましくは0.3〜5重量%、より好ましくは、0.5〜3.5重量% キトサンを含有する。
【0016】
好ましい実施形態において、本発明の方法は、コーティング組成物を水で希釈することを含んでいてもよい。典型的には、コーティング組成物は、コーティング組成物に対する水の比率として、1 : 3 〜10 : 1、好ましくは1 : 1 〜 6 : 1、特に2 : 1 〜 4 : 1の量の水で希釈される。通常、食品に適用される、希釈されたコーティング組成物は、0.05 〜8重量%、好ましくは0.1 〜4重量%、より好ましくは0.2 〜3.0重量%、特に0.2 〜1.5重量% キトサンを含有する。
【0017】
コーティング組成物は、水性コーティング組成物である。通常、コーティング組成物は、少なくとも10重量%、好ましくは40重量%の水分を含んでいる。典型的には、コーティング組成物は、95重量%以下、好ましくは85重量%以下、より好ましくは75重量%以下の水分を含有する。
【0018】
コーティング組成物は、少なくとも1つの酸を含有する。適当な酸には、有機もしくは無機酸が含まれる。好ましいのは有機酸である。適当な有機酸としては、酢酸、クエン酸、乳酸、リンゴ酸、プロピオン酸、およびコハク酸がある。好ましい酸は酢酸である。酸は、さまざまな濃度の水溶液の形で添加することができる。通常、加える酸の量は、コーティング組成物において求められるpH値に応じて決まる。
【0019】
酸の濃度は、たとえ酸の水溶液を使用する場合であっても、純粋な酸に関するものである。好ましくは、酸の濃度は、水性コーティング組成物の望ましいpH値によって決まってくるが、そのpH値はpH 3.5〜7.0、好ましくは4.5〜6.0、より好ましくは5.0〜5.6である。したがって、酸の濃度は通常、前記の望ましいpHとなるよう調整される。典型的には、コーティング組成物は、0.01〜5重量%の酸(酢酸など)、好ましくは0.1〜3重量%、より好ましくは0.3〜2.0重量%を含有する。
【0020】
コーティング組成物は、少なくとも1つのポリアルキレングリコールを含有する。ポリアルキレングリコールは、アルキレングリコールモノマー単位からなるポリマーである(たとえば、ポリエチレングリコールはエチレングリコールモノマー単位からなる)。適当なポリアルキレングリコールは、ポリマー分子の両端に遊離のヒドロキシル基を有する可能性があり、または、C1からC18アルキル(好ましくはメチル基)でエーテル化された1つもしくは複数のヒドロキシル基を有する可能性がある。また、エステル化可能なカルボキシ基を有する、ポリエチレングリコールの誘導体も好適である。少なくとも2つの異なるアルキレングリコールモノマー単位で作られた統計的共重合体もしくはブロック共重合体も、適当なポリアルキレングリコールである。ポリアルキレングリコールのブロック共重合体の例は、ポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール-ブロック共重合体である。ブロック共重合体はAB型またはABA型とすることができる。
【0021】
好ましいポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラヒドロフラン、またはポリブチレングリコールである。より好ましくは、ポリアルキレングリコールは、ポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールである。適当なポリエチレングリコールは、市販されており、たとえばCarbowax(商標名)およびCarbowax(商標名)Sentry シリーズ(Dowより入手可能)、Lipoxol(商標名)シリーズ(Brenntagより入手可能)、Lutrol(商標名)シリーズ(BASFより入手可能)、ならびにPluriol(商標名)シリーズ(BASFより入手可能)などである。
【0022】
好ましい実施形態において、ポリアルキレングリコールは、融点が50℃未満、より好ましくは40℃未満、もっとも好ましくは30℃未満である。
【0023】
別の好ましい態様において、ポリアルキレングリコールは、粘度が50℃で、200 mm2/s以下、好ましくは100 mm2/s以下、より好ましくは50 mm2/s以下である。粘度はDIN 51562に記載の方法で測定することができる。
【0024】
通常、ポリアルキレングリコールは、平均分子量が150 〜20000 g/molの範囲にあるが、好ましくは150 〜5.000 g/mol、より好ましくは150 〜1000 g/mol、もっとも好ましくは180 〜650 g/molである。分子量は、このポリマーの平均分子量に対応する。それはDIN 53240のヒドロキシル価に基づいて計算することができる。
【0025】
コーティング組成物は、少なくとも5重量%、好ましくは少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも13重量%、さらにより好ましくは少なくとも15重量%、そしてもっとも好ましくは少なくとも18重量%のポリアルキレングリコールを含有する。好ましくは、コーティング組成物は、65重量%以下、より好ましくは55重量%以下、もっとも好ましくは45重量%以下のポリアルキレングリコールを含有する。もう1つの好ましい実施形態において、コーティング組成物は、5 〜65 重量%、好ましくは12 〜55重量%、より好ましくは15 〜55重量%、そして特に好ましくは18 〜43重量% のポリエチレングリコールを含有する。前記のポリアルキレングリコールの重量%は、コーティング組成物の総重量を基準とする。
【0026】
コーティング組成物は、少なくとも1つの界面活性剤を含有する。適当な界面活性剤は、アニオン性、カチオン性、非イオン性、および両性界面活性剤、ブロックポリマー、および高分子電解質である。界面活性剤の混合物も適している。好ましい界面活性剤は、非イオン性界面活性剤、特に、エトキシ化ソルビタンなどの、糖をベースとする界面活性剤である。
【0027】
適当なアニオン界面活性剤は、スルホン酸、硫酸、リン酸、またはカルボン酸のアルカリ塩、アルカリ土類塩、またはアンモニウム塩である。スルホン酸塩の例は、アルキルアリールスルホン酸塩、ジフェニルスルホン酸塩、αオレフィンスルホン酸塩、脂肪酸および油のスルホン酸塩、エトキシ化アルキルフェノールスルホン酸塩、縮合ナフタレンスルホン酸塩、ドデシル-およびトリデシルベンゼンスルホン酸塩、ナフタレンおよびアルキルナフタレンスルホン酸塩、スルホコハク酸塩、またはスルホスクシンアミド酸塩である。硫酸塩の例は、脂肪酸および油の硫酸塩、エトキシ化アルキルフェノール硫酸塩、アルコール硫酸塩、エトキシ化アルコール硫酸塩、または脂肪酸エステル硫酸塩である。リン酸塩の例はリン酸エステル塩である。カルボン酸塩の例は、アルキルカルボン酸塩およびカルボキシル化アルコールまたはアルキルフェノールエトキシレートである。
【0028】
適当なカチオン界面活性剤の例は、第4級界面活性剤、たとえば1つもしくは2つの疎水性基を有する第4級アンモニウム化合物、または長鎖第1級アミンの塩である。適当な両性界面活性剤は、アルキルベタインおよびイミダゾリンである。適当なブロックポリマーは、酸化ポリエチレンおよび酸化ポリプロピレンのブロックを含むA-BまたはA-B-A型、またはアルカノール、酸化ポリエチレンおよび酸化ポリプロピレンを含むA-B-C型のブロックポリマーである。適当な高分子電解質はポリ酸またはポリ塩基である。ポリ酸の例は、ポリアクリル酸のアルカリ塩である。ポリ塩基の例は、ポリビニルアミンまたはポリエチレンアミンである。
【0029】
適当な非イオン性界面活性剤は、アルコキシレート、N-アルキル化脂肪酸アミド、アミン酸化物、エステル、または糖をベースとする界面活性剤である。アルコキシレートの例は、アルコキシ化された、アルコール、アルキルフェノール、アミン、アミド、アリールフェノール、脂肪酸、または脂肪酸エステルなどの化合物である。酸化エチレンおよび/または酸化プロピレンは、アルコキシ化のために用いられるが、酸化エチレンが好ましい。N-アルキル化脂肪酸アミドの例は、脂肪酸グルカミド、または脂肪酸アルカノールアミドである。エステルの例は、脂肪酸エステル、グリセロールエステル、またはモノグリセリドである。糖をベースとする界面活性剤の例は、ソルビタン、エトキシ化ソルビタン、スクロースおよびグルコースエステル、またはアルキルポリグルコシドである。
【0030】
好ましい界面活性剤は、ソルビタン、およびエトキシ化ソルビタンなどの、糖をベースとする界面活性剤である。ソルビタンは、モノアンヒドロソルビットおよびその誘導体、たとえばエーテルおよびエステルである。好ましいソルビタンは、ソルビタンの脂肪酸エステル(たとえば、モノオレイン酸ソルビタン、モノラウリン酸ソルビタン、もしくはモノステアリン酸ソルビタン)および、好ましくはソルビタンのエトキシ化脂肪酸エステルである。エトキシ化ソルビタンはソルビタンのモル当たり10〜200モル(好ましくは15〜100モル)の酸化エチレンを含んでいることが好ましい。
【0031】
コーティング組成物は、少なくとも0.1%の界面活性剤を含有することができる。その濃度は、組成物中に存在するすべての界面活性剤の総計に関するものである。好ましくは、コーティング組成物は、少なくとも0.5重量%、より好ましくは1.0重量%、もっとも好ましくは2.0重量%、そして特に好ましくは5重量%の界面活性剤、たとえば糖をベースとする界面活性剤を含有する。コーティング組成物は、30重量%以下、好ましくは15重量%以下の界面活性剤を含有することができる。別の好ましい実施形態において、コーティング組成物は、0.1〜30重量%の界面活性剤、より好ましくは1.0〜20重量%、そしてもっとも好ましくは5〜15重量%の界面活性剤を含有する。
【0032】
コーティング組成物は、さらに添加物を含有してもよいが、それはたとえば酸化防止剤、殺菌剤、被膜を形成する合成ポリマー、発芽抑制剤、消泡剤、または防腐剤である。
【0033】
消泡剤の例は、シリコーン・エマルション(たとえば、Silikon(登録商標)SRE、Wacker, Germany、またはRhodorsil(糖緑商標)、Rhodia, France)、長鎖アルコール、脂肪酸、脂肪酸塩、有機フッ素化合物、およびそれらの混合物である。
【0034】
適当な防腐剤はたとえば、メチルパラベン、エチルパラベン、プロピルパラベン、ブチルパラベン、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カルシウム、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸カリウム、および亜硫酸水素ナトリウムである。
【0035】
酸化防止剤の例は、アスコルビン酸およびその塩、イソアスコルビン酸およびその塩、パルミチン酸アスコルビルおよびステアリン酸アスコルビル、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシアニソール、エトキシキン、ノルジヒドログアヤレト酸およびその塩、クエン酸イソプロピル、没食子酸エステル、トコフェロール、SH構造を有する化合物、たとえばシステイン、N-アセチルシステイン、亜硫酸塩、抗酸化作用のある抽出物、たとえば、ローズマリー抽出物である。
【0036】
殺菌剤の例は、過酸化物、たとえば、過酸化水素もしくは過酸化ベンゾイルである。これらは通常、0.01〜5重量%、好ましくは0.05〜1重量%までの量で使用される。
【0037】
適当な被膜形成性合成ポリマーは、通常、エチレン性不飽和モノマーに基づくポリマーである。好ましい被膜形成性合成ポリマーは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(N-ビニルピロリドン)、ポリ酢酸ビニル(PVAc; たとえば、US 3262785に記載)、ポリビニルアルコール(PVA; たとえば、US 6,6165,529に記載)、ポリアクリレート、またはポリビニルアルコール-ポリエーテル グラフトコポリマー(たとえば、WO 2005/055741に記載)である。
【0038】
発芽抑制剤の例は、クロルプロファム、プロファム、またはカルボンである。
【0039】
本発明のコーティング組成物は、コーティングに、すぐれた潤滑性を与える。したがって、コーティング組成物は、食品用の他の多くのコーティング組成物のように油およびワックスを追加する必要がない。食品コーティング用の油の例は、パラフィンオイル、鉱油、ヒマシ油、ラード油、獣脂、ナタネ油、サラダ油(キャノーラ、ピーナッツ、コーン、またはダイズ)である。ワックスの例は、パラフィン、カルナウバ、蜜蝋、カンデリラ、およびポリエチレンワックスである。油および/またはワックスをベースとする、このような市販のコーティング組成物は、水で薄めずに、すなわち100%の製品として、適用されることが多い。ワックスをベースとする製品は多くの場合、使用前に融解しておく必要がある。したがって、このような油およびワックスなどの疎水性化合物は通常、キトサンベースのコーティング組成物のような水溶液とは混和しない。典型的には、本発明のコーティング組成物は、50重量%未満、好ましくは30重量%未満、より好ましくは10重量%未満、そして特に1重量%未満の油およびワックスを含有する。
【0040】
本発明の方法は、果実および野菜の収穫後処理に特に有用である。こうした収穫後の方法は、確実に操作するために、取り扱う食品の、ある程度の機械的性質が必要である。したがって、本発明は特に、その後のサイズ選別法と結びつけることに特に適している。サイズ選別は長年来、食品加工において非常に重要なステップである(Sargent et al., Applied Eng. Agriculture, 1991 7(6) 724-728)。
【0041】
本発明のコーティング組成物は、さまざまなプロセスで、たとえば、コーティング組成物のタンクもしくはバットに食品を浸漬すること、コーティング組成物を食品上にスプレーすること、霧状ミストによって霧で覆うこと、もしくはコーティング組成物の流れ落ちるカーテン、すなわち滝のようなところに食品を通過させること、またはナイフコーティングによって、適用することができる。好ましくは、浸漬、またはスプレーによって、特にスプレーによって、適用される。さらに、食品はその後、温風を送り込むこと、マイクロ波放射、または赤外線放射によって、乾燥することができる。乾燥工程の間に、水性コーティング組成物は、食品の表面上に乾燥したコーティング組成物を形成する。全体のコーティング工程は、バッチ式もしくは連続式として計画することができる。
【0042】
コーティング組成物は、食品の表面に適用される。通常、表面は食品の外側の領域である。表面には、元の食品(たとえば、畑で生育した果実および野菜)の表面、および加工された食品(たとえば、食品くずを取り除いた後、またはスライスした後)の表面がある。水性コーティング組成物を表面に適用した後、前記組成物は、特に食品を乾燥した後、表面上にコーティング層を形成する。
【0043】
コーティング層の厚さは(乾燥したコーティングに関する測定として)、食品およびコーティングの機能に応じて、0.2〜200μm、好ましくは1〜75μmとすることができる。フィルムの厚さはこの場合、適用される溶液の濃度によってコントロールすることができる。
【0044】
本発明のコーティング組成でコーティングされた食品は、追加の前処理なしで殺菌するために、放射線照射するか、または気体の組成を調整した空気に暴露することができる。さらに、食品はあらかじめ熱処理することができる。
【0045】
特定の理論に制約されるつもりはないが、本発明の組成物によるコーティングは、呼吸交換、すなわち農産物への酸素の透過、農産物からのエチレンおよび二酸化炭素などの気体の透過、および水蒸気の透過を制限するが阻止はしないと考えられる。これは成熟および熟成過程を長引かせ、その結果、収穫から消費までの間の許容される貯蔵時間を延ばすことができる。
【0046】
本発明はまた、キトサン、酸、界面活性剤、および少なくとも5重量%のポリアルキレングリコールを含有する水性コーティング組成物に関する。前記コーティング組成物の成分に関する適切で好ましい実施形態は、上記に記載する。
【0047】
好ましくは、本発明のコーティング組成物は、
0.1 〜15重量% キトサン、
0.01 〜5重量% 酸、
0.1 〜30重量% 界面活性剤、
5 〜65重量% ポリアルキレングリコール、および
95重量% 以下の水を含有する。
【0048】
より好ましくは、本発明のコーティング組成物は、
0.3 〜5重量% キトサン、
0.1 〜3重量% 酸、
1.0 〜20重量% 界面活性剤、
10 〜55重量% ポリアルキレングリコール、および
85重量% 以下の水を含有する。
【0049】
もっとも好ましくは、本発明のコーティング組成物は、
0.5 〜3.5重量% キトサン、
0.3 〜2重量% 酸、
5 〜15重量% 界面活性剤、
18 〜43重量% ポリアルキレングリコール、および
75重量% 以下の水を含有する。
【0050】
本発明はまた、本発明のコーティング組成物でコーティングされた食品に関する。食品は、本発明の方法でコーティングすることができる。食品に関する適切で好ましい実施形態は上記に記載する。
【0051】
本発明はいくつかの利点を提供する:従来の冷蔵の必要性をなくす、または有意に低下させることができるので、その方法および組成物は節約になる。冷蔵の必要性を低下させ、かつ劣化損失を減らすことによって達成されるコスト削減は、熟成過程が始まった場合に必要とされる追加処理のコストをカバーする、またはそれを越えることができる。
【0052】
コーティングされた食品は、収穫後処理の方法において、すぐれた処理安定性を有する。高い潤滑性によって、迅速および確実な処理(特にサイズ選別)が、コーティングされた食品、たとえばトマトについて、可能となる。高い潤滑性を達成するために油もしくはワックスを追加する必要はほとんどない。これは、持続的な処理にはきわめて有用であって、なぜならば、油もしくはワックスは結果的に設備機材(特にサイズ選別基材及び包装ライン)に粘着性のある堆積をもたらすからである。こうした粘着性の堆積は、結果として、設備機材を洗浄するために、コストのかかる処理の中断をもたらす。
【0053】
緑熟トマトで緑から赤への着色を早く進行させることによって、エチレンガス処理時間を最大1日短縮することが可能となり(通常これが、こうしたタイプのトマトを操作するボトルネックとなっている)、結果的に、全体としてより効率的なパック詰め操作がもたらされる。エチレンガス処理中にトマトをより均一に色づかせること(緑からピンクもしくは赤色に)によって、ガス処理後のパック詰めラインにおいてやり直しとなることが多い、ある種のトマト(すなわち、ローマトマトまたはサラデット(サラダ用品種)トマト)を、第二のの色のために詰め直したり等級を付け直したりすることなく出荷することが可能となる。この結果、相当の時間と労力の節約になる。もう1つの利点は、収穫およびパック詰めの際に付けられた開いた傷(押し傷、ひっかき傷など)を「治癒」させること、ならびにパック詰めされた農産物内で菌が「巣作り」したり増殖したりするのを防止することであって、その結果、腐敗が減少し、送り先の町で詰め直し作業時に等級付けされる品質が向上する。堅さを維持することは、食品加工業者にとって、薄切りおよび角切りトマトの取り扱いやすさのために有利である。加えて、茎の付いた状態で市場に出された温室育ちのトマトは、より長い間、緑色の茎のままであった。
【0054】
さらに、ブドウはボトリチス病の発生率の低下、および緑色の茎の維持を示した。これは、ボトリチス菌に対抗するSO2パッドを、緑の茎がより長い間、緑色であるという付加価値とともに置き換えるものであると思われる。
【0055】
本発明は以下の実施例でさらに例証されるが、限定されない。
【0056】
(実施例)
【実施例1】
【0057】
コーティング組成物の調製
初期量の温水に、非イオン性界面活性剤B(エトキシ化ソルビタン脂肪酸エステル)、消泡剤、および防腐剤を加えた。成分を溶解させた後、キトサン(ポリ-D-グルコサミン、白色粉末、pH5.7より低いpHで水に溶解)および酢酸を添加した。室温まで冷却した後、ポリエチレングリコール(平均分子量400 g/mol)および非イオン性界面活性剤A(エトキシ化ソルビタン脂肪酸エステル)を、撹拌しながら添加した。最後に、混合物を、撹拌しながら、1000mlの容積となるよう水でフィルアップした。成分量を表1にまとめる。表1の比較用コーティング組成物(「比較」、本発明によらない)は、水性ワックスエマルション(カルナウバワックス、25重量% 固形分)を追加して含有するものとした。
【表1】

【実施例2】
【0058】
トマトの腐敗および萎凋を遅らせる
4回分のそれぞれ約40個のトマトをコーティング製剤A、B、および「比較」(いずれも、キトサンの終濃度0.5重量%となるよう水で希釈)で処理し、20℃(68 F)にて4日間保存した。約15〜18 mlの水性コーティング溶液を用いて、25ポンド(11.3 kg)のトマトを均一にコーティングした。その後、トマトを13℃(55 F)にて暗下で保存した。保存の結果を表2に示す。
【0059】
コーティングの6日後に、ピンク、薄赤、もしくは赤色となったトマトの総計パーセンテージとして、果実成熟を測定した(「着色」)。
【0060】
コーティングの13日および22日後に、腐敗を目視で分析して、腐敗のなんらかの兆候があるかどうかを検知した。腐敗の兆候のあるトマトのパーセンテージは、表2で与えられる。さらに、コーティングの22日後に、萎びたもののパーセンテージを目視で分析して、萎びたものがあるかどうかを検知した。萎びたトマトのパーセンテージは表2で与えられる。
【表2】

【0061】
第2の実験において、4回分のそれぞれ約40個のトマトを上記のように処理して保存した。果実成熟はコーティングの4日および7日後に測定した。腐敗はコーティングの14、18、および21日後に測定した(表3)。
【表3】

【0062】
結論として、本発明のコーティング製剤は、腐敗を減少させ、色の発現を増加させる一方、堅さは維持した(萎びることが少ないことによって示される)。腐敗および果実成熟を遅らせることに関して、この製剤は、最先端の製剤と同様にすぐれている。
【実施例3】
【0063】
潤滑性
さまざまなコーティング組成物の潤滑性を、レオメーター(回転シリンダー型)で分析した。組成物を下部の金属プレートに載せた。上部の金属プレートを、一定の間隙幅で20℃にて100 rpmの速度で回転させる。20μmの間隙幅で、トルクを測定した(表4)。比較のために、市販のカルナウバワックスエマルションを使用した(12重量%カルナウバワックス、<10重量%シェラック、<10重量%アニオン性乳化剤を含有する水性カルナウバワックスエマルション、pH 9-11)。
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
食品をコーティングする方法であって、食品の表面に水性コーティング組成物を適用することを含み、前記コーティング組成物はキトサン、酸、界面活性剤及び少なくとも5重量%のポリアルキレングリコールを含む、前記方法。
【請求項2】
ポリアルキレングリコールが150〜20000 g/molの範囲の平均分子量を有する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ポリアルキレングリコールが50℃未満の融点を有する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールまたはポリプロピレングリコールである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
酸が有機酸である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
コーティング組成物が少なくとも0.1重量%の界面活性剤を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
界面活性剤が非イオン性界面活性剤である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
コーティング組成物が1.0重量%未満の油とワックスを含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
食品が果実または野菜である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載のコーティング組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載のコーティング組成物でコーティングされた食品。
【請求項12】
食品が果実または野菜である、請求項11に記載の食品。

【公表番号】特表2013−514066(P2013−514066A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543640(P2012−543640)
【出願日】平成22年12月13日(2010.12.13)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069449
【国際公開番号】WO2011/073115
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(508020155)ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア (2,842)
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】D−67056 Ludwigshafen, Germany
【Fターム(参考)】