説明

産業用車両における換向装置のトー角調整方法およびトー角調整機構

【課題】構造が簡単で、トー角調整作業の作業性をよくする。
【解決手段】アクスルビーム11の両端部に、キングピン12を介して左右方向に回動自在に支持された左右のステアリングナックル13に、車輪14をそれぞれ回転自在に設け、ステアリングハンドルの操作により、アクスルビーム11に取り付けられたステアシリンダ15の出力ロッド15R,15Lを相対方向に出退駆動し、出力ロッド15R,15Lにナックルアーム16を介してステアリングナックル13を左右方向に回動させるナックルアーム16を設けた産業用車両の換向装置において、アクスルビーム11とステアシリンダ15との間にシム31を介在させて、アクスルビーム11に対してステアシリンダ15を前後方向に変位させ、車輪14のトー角を調整する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォークリフトトラックなどの産業用車両における換向装置のトー角調整方法およびトー角調整機構に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば図10に示すように、フォークリフトトラックの後部に設けられて換向装置を有するリアアクスルは、アクスルビーム1の両端部にキングピン2を介して左右方向に回動自在に支持されたステアリングナックル3,3と、左右のステアリングナックル3,3にそれぞれ回転自在に支持された車輪4,4と、アクスルビーム1に固定されたダブルロッド形のステアシリンダ5と、ステアシリンダ5の左右の出力ロッド5R,5Lと前記ステアリングナックル3,3に設けられた受動アーム3Aとの間に連結されたナックルアーム6とを具備している。
【0003】
このようにダブルロッド形のステアシリンダ5をアクスルビーム1に固定した換向装置において、車輪4のトー角を調整するものとして、ステアリングナックル3の受動アーム3Aにボールジョイント7を介してナックルアーム6を連結している。このボールジョイント7は、連結部から伸びナックルアーム6の雌ねじ穴6Hに嵌合されたねじ軸8Sと、ねじ軸8Sに嵌合されたロックナット8Nとを有するねじ式調整機構8を有し、このねじ式調整機構8により、ナックルアームを伸縮して車輪4のトー角を調整することができる。
【0004】
また特許文献1には、出力ロッドとタイロッドとを、偏心部を有する連結ピンで連結したものが開示されている。
さらに特許文献2には、出力ロッドとタイロッドとの連結部と、タイロッドとナックルアームとの連結部とに、偏心部を有する連結ピンを設けるとともに、これら連結ピンを回り止めする回り止め部材を設けたものが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−76977号公報
【特許文献2】特開2000−38151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、先の従来例では、トー角を調整する場合、ナックルアーム6をステアシリンダ5の出力ロッド5R,5Lから分離した後、ロックナット8Nを緩めナックルアーム6を回転してねじ軸8Sの長さを調整し、再度、ナックルアーム6と出力ロッド5R,5Lとを連結している。したがって、調整作業に時間がかかって作業性が悪く、また使用するボールジョイントが大変高価であるという問題があった。
【0007】
特許文献1および2では、ステアリングにより常時回転力が加わる連結ピンに偏心部を設けたので、偏心部の回り止め機構が必要で、構造が複雑になりやすく高価になること、調整範囲が偏心部の偏心距離の範囲に規制されることなどの問題があった。
【0008】
本発明は上記問題点を解決して、トー角調整作業の作業性がよく、構造が簡単で、調整範囲も広くできる換向装置のトー角調整機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の発明は、アクスルビームの両端部に設けられて、車輪をそれぞれ回転自在に支持するとともに、当該車輪と共にキングピンを中心として左右方向に回動自在に支持されたステアリングナックルと、アクスルビームに沿って左右方向に取り付けられステアリングハンドルの操作により左右の出力ロッドが相対方向に出退駆動されるダブルロッド形のステアシリンダと、当該ステアシリンダの左右の出力ロッドと左右の前記ステアリングナックルとの間にそれぞれ連結されて出力ロッドの往復動を前記ステアリングナックルの左右方向の回転動に変換するナックルアームとを具備した産業用車両の換向装置におけるトー角調整方法であって、
アクスルビームに対してステアシリンダを前後方向に変位させることにより、前記ナックルアームを介して前記ステアリングナックルを前記キングピンを中心に左右方向に回動させ、車輪のトー角を調整するものである。
【0010】
請求項2記載の発明は、アクスルビームの両端部に設けられて、車輪をそれぞれ回転自在に支持するとともに、当該車輪と共にキングピンを中心として左右方向に回動自在に支持されたステアリングナックルと、アクスルビームに沿って左右方向に取り付けられステアリングハンドルの操作により左右の出力ロッドを相対方向に出退駆動されるダブルロッド形のステアシリンダと、当該ステアシリンダの出力ロッドと前記ステアリングナックルとの間に連結されて出力ロッドの往復動を前記ステアリングナックルの左右方向の回転動に変換するナックルアームとを具備した産業用車両の換向装置におけるトー角調整調整機構であって、
アクスルビームとステアシリンダとの間に介在されてステアシリンダを前後方向に変位させるトー角調整部材を設け、
ステアシリンダを前後方向に変位させることにより、前記ナックルアームを介して前記ステアリングナックルを前記キングピンを中心に左右方向に回動させて車輪のトー角を調整するように構成されたものである。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項2記載の構成において、
トー角調整部材は、厚みの異なるものに交換可能な単数または複数のシムにより構成され、
当該シムは、装着時にアクスルビームまたはステアシリンダに対して適正位置に保持可能な位置決め部を有するものである。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項2記載の構成において、
トー角調整部材は、テーパ面を有する楔部材と、前記テーパ面に摺接するテーパ受面を有する受部材と、前記楔部材および前記受部材の一方をテーパ面の傾斜方向にスライドさせてステアシリンダを変位させる調整固定部材とを有する調整具により構成されたものである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1記載の構成によれば、アクスルビームに対してステアシリンダを前後方向に変位させることにより、キングピンを中心として車輪を左右方向に回動させて、車輪のトー角を調整することができる。したがって、トー角を容易にかつ短時間で調整することができ、トー角の調整範囲を十分に確保することができる。
【0014】
請求項2記載の構成によれば、トー角調整部により、アクスルビームに対してステアシリンダを前後方向に変位させることにより、キングピンを中心として車輪を左右方向に回動させて、車輪のトー角を調整することができる。したがって、トー角調整部によりステアシリンダを前後方向に変位させるだけの簡単な構成で、トー角の調整作業を容易かつ短時間で行うことができ、構造が簡単で、トー角の調整範囲も十分広くに確保することができる。
【0015】
請求項3記載の構成によれば、アクスルビームとステアシリンダとの間に介在されて異なる厚みのシムと交換することにより、簡単な構成で、ステアシリンダを前後方向に変位させてトー角を調整することができる。またシムに設けられた位置決め部により、シムを適正位置に保持して容易に装着することができる。
【0016】
請求項4記載の構成によれば、楔部材と受部材の一方をテーパ面の傾斜方向にスライドさせる調整具により、短時間でステアシリンダを前後方向に変位させることができ、トー角の調整作業の作業性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係るトー角調整機構を有する換向装置の実施例を示し、リアアクスルを示す平面図である。
【図2】ステアシリンダとシムを示す分解斜視図である。
【図3】シムを取り付けたステアシリンダとアクスルビームの縦板の取付部を示す平面図である。
【図4】図3に示すA−A断面図である。
【図5】(a)、(b)はそれぞれシムの例2を示す斜視図である。
【図6】シムの例3を示す斜視図である。
【図7】調整具の例1を示す平面視の断面図である。
【図8】調整具の例2を示し、(a)は平面視の断面図で、(b)は(a)に示すB−B断面図である。
【図9】調整具の例3を示す側面視の断面図である。
【図10】従来のトー角調整装置を有する換向装置を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0018】
以下、本発明に係るフォークリフトトラックの後部で、換向装置を有するリアアクスルの実施例を図面に基づいて説明する。
図1はリアアクスルの平面図で、11は、後部の車輪14,14間に左右(幅)方向に配置されたアクスルビームで、このアクスルビーム11は、車体10に前後方向のボス軸11a,11aを介して両端側が上下方向に揺動自在となるように支持され、これら両端部でサスペンション装置(図示せず)により弾性支持されている。そしてアクスルビーム11には左右方向に伸びる縦板11Pが設けられている。このアクスルビーム11の左右両端部に、上下方向のキングピン12,12を介してステアリングナックル13,13がそれぞれ左右方向に回動自在に支持され、これらステアリングナックル13,13に車輪14,14がそれぞれ回転自在に支持されている。またこれらステアリングナックル13,13内には、たとえば制動ブレーキ(図示せず)が内装される。
【0019】
アクスルビーム11の縦板11Pの後面で中央部には、ステアリングハンドル(図示せず)の操作により出力ロッド15R,15Lが相対方向に出退駆動されるダブルロッド形のステアシリンダ15が取り付けられている。このステアシリンダ15には、図示しないが、たとえばステアリングハンドルの回転方向、回転量に応じてオービットロール装置から吐出、吸引される圧油量で出退駆動されるパワーシリンダが使用される。
【0020】
左右のステアリングナックル13,13に、それぞれ受動アーム13Aが後方に突設され、この受動アーム13A,13Aと出力ロッド15R,15Lとの間に、上下方向の連結ピン17,18を介してナックルアーム16,16が回動自在に連結されている。そして、連結ピン17,18の少なくとも一方に、連結の自由度を向上させる球面ブッシュ19が装着され、これら球面ブッシュ19によりステアシリンダ15とステアリングナックル13との取付誤差を許容している。
【0021】
したがって、ステアリングハンドルの操作により、ステアシリンダ15の出力ロッド15R,15Lが出退されると、ナックルアーム16,16を介してステアリングナックル13,13がキングピン12,12を中心に左右方向に回動され、車輪14が転舵される。
【0022】
設定時に、ステアリングハンドルが直進状態で、車体10の前後方向軸CLに対して、左右の車輪14,14が設定トー角θとなるように設定されるが、製造組立時の誤差により、実際の車輪14,14の(計測)設定トー角が設定トー角θからずれることがあるため、本発明に係るトー角調整機構が設けられている。
【0023】
(トー角調整機構の例1)
このトー角調整機構は、アクスルビーム11の縦板11Pとステアシリンダ15との間に介在されて、厚みの異なるものと交換することにより、アクスルビーム11に対してステアシリンダ15を前後方向に変位可能なシム(トー角調整部材)31により構成される。
【0024】
ステアシリンダ15は、図2〜図4に示すように、シリンダチューブ21の両端側に、油給排出用のポート25,25がそれぞれ形成されたロッドカバー22が取り付けられ、これらロッドカバー22,22に、出力ロッド15R,15Lの出退を案内するグランド23,23が設けられている。またこれらロッドカバー22の上部および下部にボス部26がそれぞれ突設されて左右方向の穴部26aが貫通され、これら左右のロッドカバー22でボス部26の穴部26aにわたってタイロッド24がそれぞれ貫通され、これらタイロッド24の両端ねじ部に装着されたロックナット24Nにより、左右のロッドカバー22が互いに締結されている。さらにロッドカバー22,22の前面(取付面)側に、固定用ねじ穴27,27が形成された上下一対の取付ブロック28,28がそれぞれ突設され、固定ボルト30がアクスルビーム11の縦板11Pに形成されたボルト穴29から挿入され、シム31を通過して取付ブロック28の固定用ねじ穴27に装着され、これによりステアシリンダ15がアクスルビーム11の縦板11Pに固定されている。
【0025】
(シムの例1)
トー角調整部材であるシム31は、縦板11Pと取付ブロック28との間に介装される上下一対の調整板部32と、これら上下の調整板部32を連結する連結板部33と、一方の調整板部32の外辺部から後方に90度で折り曲げられた位置決め板部(位置決め部)34からなり、上下の調整板部32には、固定ボルト30に外嵌される装着穴35がそれぞれ形成され、これら装着穴35は、内辺部に開口された切り欠き状の長穴に形成されている。また位置決め板部34は、ロッドカバー22のボス部26まで伸び、タイロッド24の両端ねじ部が嵌合可能なガイド穴34aが形成されている。このガイド穴34aをタイロッド24に嵌合して両端ねじ部に仮止ナット36を装着固定することで、シム31をステアシリンダ15に位置決め固定して、調整板部32を適正位置に保持することができる。
【0026】
なお、調整板部32が、縦板11Pとロッドカバー22の間に挿入され、固定ボルト30を締め付けてシム31が固定された後、仮止ナット36を取り外すが、仮止ナット36を装着したまま残しておくこともできる。
【0027】
また、この位置決め板部34は、ビスなどの係止具によりガイド穴34aを介して縦板11Pやアクスルビーム11の他の部位や、ステアシリンダ15の他の部位に位置決め固定するようにしてもよい。さらに位置決め板部34のガイド穴34aは、1つの辺に開口された切り欠き状の長穴であってもよい。
【0028】
これらシム31は、左右一対が使用され、厚みの異なる複数の調整板部32を有するものが複数組用意される。
なお、通常、車輪14のトー角θの調整では、左右の車輪14のトー角θが互いにずれることはほとんどないが、左右の車輪14でトー角θがずれた場合でも、左右に使用する調整板部32の異なる厚みのシム31を使用することで、左右の車輪14でトー角θを一致させることができる。
【0029】
上記構成において、基準厚みの調整板部32を有するシム31を、縦板11Pとステアシリンダ15との間に介在させて、固定ボルト30により、ステアシリンダ15を縦板11Pに取り付け、車輪14のトー角θを計測する。そして、計測トー角θが設定トー角の閾値からずれた場合には、異なる厚みの調整板部32を有するシム31に交換する。すなわち、図1に示すように、左右の車輪14が内側に+θで向くトーインの場合には、基準厚みの調整板部32より小さい厚みの調整板部32を有するシム31に交換する。また左右の車輪14が外側に−θで向くトーアウトの場合には、基準厚みの調整板部32より大きい厚みの調整板部32を有するシム31に交換する。ここで、ステアシリンダ15の前後方向の変位調整範囲をたとえば3mmとし、調整板部32の基準厚みを1.5mmとした場合、たとえば0.3mmまたは0.5mmずつ厚みの異なる調整板部32を有するシム31を複数用意しておく。もちろん、ズレ防止構造とすることで、複数枚のシム31を重ね合わせて、必要な厚みの調整板部32を有するシム31を形成してもよい。
【0030】
シム31の交換に際しては、仮止ナット36が取り外された状態で、4本の固定ボルト30を緩めて、左右のシム31をそれぞれ外側に引き出すことにより、シム31を取り外し、目的の厚みの調整板部32を有するシム板31を外側から挿入し、位置決め板部34のガイド穴34aをタイロッド24の両端ねじ部に嵌合した後、仮止ナット36で仮固定し、4本の固定ボルト30を締め付ければよい。これにより、ステアシリンダ15が前後に位置変更されてトー角θが適正位置に調整される。
【0031】
(シムの例2)
図5に示すシム37は、位置決め板部34を上下2箇所設けたもので、シム31と同様の作用効果を奏することができる。
【0032】
(シムの例3)
図6は、左右の調整板部42を一体化したシム41を示す。すなわち、このシム41は、縦板11Pの背面と取付ブロック28の底面との間に介装される四隅の調整板部42と、上下の調整板部42をそれぞれ連結する連結板部43と、左上部の調整板部42の外辺部から90度折り曲げられて後方に伸びる位置決め板部44と、上部の調整板部42の上辺部から後方に折り曲げられた左右の調整板部42を連結する一体化板部46からなり、調整板部42には、固定ボルト30が挿入される装着穴45が、右辺部に開口されて左辺側に伸びる長穴に形成されている。前記位置決め板部44は、ロッドカバー22のボス部26まで伸び、タイロッド24の両端ねじ部に嵌合可能なガイド穴44aが形成されている。
【0033】
上下一対で左右2組の調整板部42を一体化板部46により一体化したことで、4個の調整板部42の位置が確定され、シム41の着脱を容易かつ正確に行うことができ、またシム41の数を半減できることから、取り扱いが容易となる。
【0034】
以上のように、ステアシリンダ15とアクスルビーム11の間に設けられたトー角調整機構を、異なる厚みの調整板部32,42を有するシム31,37,41を交換するように構成したので、アクスルビーム11に対してステアシリンダ15の位置を前後方向に変位させて、キングピン2を中心として車輪14を左右方向に回動させ、車輪14のトー角θを調整することができる。したがって、トー角θの調整作業も容易でかつ短時間に行うことができ、構造が簡単で、トー角θの調整範囲も十分広くとることができる。またシム31,37,41を使用することで、従来のように高価なボールジョイントを使用しなくてもすみ、製造コストを低減することができる。
【0035】
また、上下の調整板部32を連結板部33で連結した左右一対のシム31,37に、位置決め板部34に設けたことにより、ステアシリンダ15をステアリングナックル11に取付ける時に、ステアシリンダ15の適正位置に調整板部32を保持することができ、装着を容易に行うことができる。また調整板部32に形成された装着穴35を内辺部に開放された長穴とすることにより、固定ボルト30を取り外すことなく、シム31,37を着脱することができる。
【0036】
さらに、シム41では、一体化板部46で左右の調整板部32を連結することにより、一度の作業でシム41を着脱することができる。
(トー角調整機構の例2)
このトー角調整機構は、アクスルビーム11に対してステアシリンダ15を変位させるための、図7〜図9に示す調整具51,61,71により構成されたものである。
【0037】
(調整具の例1)
図7に示すように、左右一体形の調整具51であって、縦板11Pの背面に所定範囲で左右方向にスライド自在に配置された楔ブロック(楔部材)52と、この楔ブロック52の背面に摺接して配置されガイド体54を介して前後方向に出退自在に配置された受ブロック(受部材)53と、この受ブロック53の背面に固定された取付ブロック55と、楔ブロック52を左右方向にスライドさせるとともに、調整位置で楔ブロック52をロックする調整固定部材56と、縦板11P、楔ブロック52、受ブロック53および取付ブロック55をそれぞれ四隅位置で貫通して、ステアシリンダ15をアクスルビーム11の縦板11Pに固定する固定ボルト57とを具備している。
【0038】
前記楔ブロック52は、その背面で前後に所定角αで傾斜するテーパ面52aが左右方向に沿って形成されるとともに、四隅位置に固定ボルト57が挿通される左右方向のガイド長穴52bがそれぞれ形成されている。受ブロック53は、前面にテーパ面52aと対称な角−αで傾斜されて摺接されるテーパ受面53aが形成されている。そして、受ブロック53および取付ブロック55の四隅位置に、固定ボルト57が貫通される取付穴がそれぞれ形成されている。
【0039】
調整固定部材56はねじ式で、縦板11Pの背面で楔ブロック52の左右両側に突設された支持ブロック56aに、一対の雌ねじ穴56cが左右方向にそれぞれ形成され、これら雌ねじ穴56cに、ロックナット56d付きの調整ボルト56bがそれぞれ嵌合され、調整ボルト56bの先端部が楔ブロック52の左右側面にそれぞれ当接されている。
【0040】
したがって、固定ボルト57とロックナット56dとを緩めた後、調整ボルト56bを回転して出退させ楔ブロック52を左右方向にスライドさせることにより、テーパ面52aとテーパ受面53aの作用で受ブロック53および取付ブロック55を前後方向に平行移動させてステアシリンダ15の前後位置を調整することができる。そしてロックナット56dにより調整ボルト56bを固定した後、固定ボルト57を締め付けてステアシリンダ15を固定する。
【0041】
上記調整具の例1によれば、調整ボルト56bを出退させて楔ブロック52のテーパ面52aと受ブロック53のテーパ受面53aの作用により、ステアシリンダ15の前後位置を調整してトー角θを容易に調整することができる。
【0042】
(調整具の例2)
図8に示すように、左右分離形の調整具61であって、縦板11Pの背面で左右両側に、所定範囲で左右方向にスライド自在に配置された左右一対の楔ブロック(楔部材)62,62と、これら楔ブロック62,62に摺接されて前後方向に出退自在な受ブロック(受部材)63,63と、この受ブロック63,63の背面に固定されるとともにガイド体64を介して前後方向に出退自在に配置された取付ブロック65,65と、楔ブロック62,62を左右方向にスライドさせてステアシリンダ15の位置を調整するとともに調整位置で楔ブロック52をロックする調整固定部材66,66と、縦板11P、楔ブロック62、受ブロック63および取付ブロック65をそれぞれ上下位置で貫通して、ステアシリンダ15をそれぞれ縦板11Pに固定する固定ボルト67,67とを具備している。
【0043】
前記楔ブロック52は、その背面に前後に所定角βで傾斜するテーパ面62aが左右方向に沿って形成されるとともに、上下位置に固定ボルト67が挿通される左右方向のガイド長穴62bがそれぞれ形成されている。受ブロック63は、前面にテーパ面62aに対称な角−βで傾斜されて摺接されるテーパ受面63aが形成されている。そして、受ブロック63および取付ブロック65の四隅位置に、固定ボルト67が貫通される取付穴がそれぞれ形成されている。
【0044】
調整固定部材66はねじ軸式で、楔ブロック62,62には、中央部に左右方向の雌ねじ穴62c,62dが形成されるとともに、雌ねじ穴62c,62dを挟んで上下一対のガイド穴62e,62eが互いに平行に形成されている。また縦板11Pの背面で楔ブロック62の左右両側に突設された左右のガイド体64,64に、雌ねじ穴62c,62dに嵌合された調整ねじ軸66Sの両端部が貫通されて回転自在に支持され、さらに左右のガイド体64,64に、ガイド穴62dにそれぞれスライド自在に嵌合されたガイドロッド66Gの両端部が固定されている。そして調整ねじ軸66Sの左右両側に、雌ねじ穴62c,62dにそれぞれ螺合する右ねじ部66Rと左ねじ部と66Lがそれぞれ形成されている。またこの調整ねじ軸66Sは、ガイド体64に設けられたロック用ビス66Bにより固定可能に構成されている。
【0045】
したがって、ロック用ビス66Bと固定ボルト67とをそれぞれ緩めた後、調整ねじ軸66Sを所定方向に回転させることにより、右ねじ部66Rと左ねじ部66Lの作用で、楔ブロック62を接近離間する左右方向にスライドさせ、テーパ面62aとテーパ受面63aの作用により、受ブロック63および取付ブロック65を前後方向に変位させ、ステアシリンダ15の前後位置を調整することができる。そして、ロック用ビス66Bにより調整ねじ軸66Sを固定した後、固定ボルト67を締め付けてステアシリンダ15を固定する。
【0046】
上記調整具の例2によれば、調整ねじ軸66Sを回転させるだけで左右の楔ブロック62をそれぞれスライドさせて、楔ブロック62のテーパ面62aと受けブロック63のテーパ受面63aの作用により、ステアシリンダ15を前後方向に平行移動させて前後位置を調整し、これにより、キングピン12を中心として車輪14を左右方向に回動させてトー角θを調整することができる。また左右の楔ブロック62のテーパ面62aが左右対称に傾斜して形成されることから、ステアシリンダを安定して固定することができる。
【0047】
(調整具の例3)
図9に示すように、左右分離形の調整具71であるが、調整具61が左右の楔ブロック62を1本の調整ねじ軸66Sによりスライドさせたのに対して、この調整具71では、左右の楔ブロック52をそれぞれの調整ボルト56bで変位させたものである。この調整具71は、調整具51と同一に構成されるが、楔ブロック52のスライド方向が上下方向とされ、左右対称のもの2個を独立して配置したものであるため、同一部材には同一符号を付して説明を省略する。
【0048】
この調整具71によれば、左右に2個を配置することにより、全体をコンパクト化できるとともに、左右の車輪14におけるトー角θのずれを調整することができる。
【符号の説明】
【0049】
10 車体
11 アクスルビーム
11P 縦板
12 キングピン
13 ステアリングナックル
14 車輪
15 ステアシリンダ
15R,15L 出力ロッド
16 ナックルアーム
17,18 連結ピン
27 固定用ねじ穴
28 取付ブロック
30 固定ボルト
31 シム
32 調整板部
33 連結板部
34 位置決め板部
34a ガイド穴
35 装着穴
36 仮止ナット
37 シム
41 シム
42 調整板部
43 連結板部
44 位置決め板部
44a ガイド穴
45 装着穴
46 一体化板部
51,61 調整具
52,62 楔ブロック
52a,62a テーパ面
53,63 受ブロック
53a,63a テーパ受面
55 取付ブロック
56 調整固定部材
56b 調整ボルト
66 調整固定部材
66S 調整ねじ軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクスルビームの両端部に設けられて、車輪をそれぞれ回転自在に支持するとともに、キングピンを中心として当該車輪と共にキングピンを中心として左右方向に回動自在に支持されたステアリングナックルと、アクスルビームに沿って左右方向に取り付けられステアリングハンドルの操作により左右の出力ロッドが相対方向に出退駆動されるダブルロッド形のステアシリンダと、当該ステアシリンダの左右の出力ロッドと左右の前記ステアリングナックルとの間にそれぞれ連結されて出力ロッドの往復動を前記ステアリングナックルの左右方向の回転動に変換するナックルアームとを具備した産業用車両の換向装置におけるトー角調整方法であって、
アクスルビームに対してステアシリンダを前後方向に変位させることにより、前記ナックルアームを介して前記ステアリングナックルを前記キングピンを中心に左右方向に回動させ、車輪のトー角を調整する
ことを特徴とする産業用車両における換向装置のトー角調整方法。
【請求項2】
アクスルビームの両端部に設けられて、車輪をそれぞれ回転自在に支持するとともに、当該車輪と共にキングピンを中心として左右方向に回動自在に支持されたステアリングナックルと、アクスルビームに沿って左右方向に取り付けられステアリングハンドルの操作により左右の出力ロッドを相対方向に出退駆動されるダブルロッド形のステアシリンダと、当該ステアシリンダの出力ロッドと前記ステアリングナックルとの間に連結されて出力ロッドの往復動を前記ステアリングナックルの左右方向の回転動に変換するナックルアームとを具備した産業用車両の換向装置におけるトー角調整機構であって、
アクスルビームとステアシリンダとの間に介在されてステアシリンダを前後方向に変位させるトー角調整部材を設け、
ステアシリンダを前後方向に変位させることにより、前記ナックルアームを介して前記ステアリングナックルを前記キングピンを中心に左右方向に回動させて車輪のトー角を調整するように構成された
ことを特徴とする産業用車両における換向装置のトー角調整機構。
【請求項3】
トー角調整部材は、厚みの異なるものに交換可能な単数または複数のシムにより構成され、
当該シムは、装着時にアクスルビームまたはステアシリンダに対して適正位置に保持可能な位置決め部を有する
ことを特徴とする請求項2記載の産業用車両における換向装置のトー角調整機構。
【請求項4】
トー角調整部材は、テーパ面を有する楔部材と、前記テーパ面に摺接するテーパ受面を有する受部材と、前記楔部材および前記受部材の一方をテーパ面の傾斜方向にスライドさせてステアシリンダを変位させる調整固定部材とを有する調整具により構成された
ことを特徴とする請求項2記載の産業用車両における換向装置のトー角調整機構。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−105081(P2011−105081A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−260549(P2009−260549)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000003241)TCM株式会社 (319)
【Fターム(参考)】