説明

産業資材用膜材及びその熱融着接合体

【課題】良好な柔軟性を有し、熱融着接合が可能で、かつ、耐熱性に優れる産業資材用膜材と、その産業資材用膜材同士を熱融着接合した耐熱クリープ性に優れた熱融着接合体の提供。
【解決手段】本発明の産業資材用膜材は、繊維性基布と、その少なくとも1面上に形成された熱可塑性樹脂層とを含む積層体であって、前記熱可塑性樹脂層を可撓性高分子材料と、インターカレート層状粘土鉱物と、及び架橋剤とを質量比100:1〜50:0.1〜15の範囲で含んでなるものとし、前記インターカレート層状粘土鉱物として、層状粘土鉱物の層間に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基およびメルカプト基から選ばれた官能基を有する化合物およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種以上の有機化合物を挿入してなる化学修飾体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、良好な柔軟性を有し、熱融着接合が可能で、引裂強力に優れ、なおかつ、接合部の耐熱クリープ性に優れ、特に中大型テント、テント倉庫、日除けテント、建築物天井膜、建築物壁膜、トラック幌、トラックシート、水槽、及びフレキシブルコンテナバッグなどの膜構造物用途に好適に用いられる産業資材用膜材と、それによって得られる上記膜構造物に用いる熱融着接合体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
中大型テント、テント倉庫、日除けテントなどの膜構造物、及びフレキシブルコンテナバッグなどの原反として、繊維性基布に熱可塑性樹脂をコーティング法やディッピング法により被覆したり、カレンダー法やTダイ押出し法によって成型したフィルムを積層することで防水層を形成した、産業資材用膜材が用いられている。膜構造物を形成する際には、膜材から切り出したパーツの端部を重ね合わせた状態で熱可塑性樹脂同士を溶融させて接合する、いわゆる熱融着縫製が行われるが、接合部分において熱可塑性樹脂層のみで接合されており、繊維性基布は一体化していないため、もともと接合部の強度は膜材自体の強度よりも劣るものであり、膜材が高温に曝された際に樹脂が軟化して接合部の耐久性(耐熱クリープ性)が得られにくい問題がある。すなわち、中大型テント、テント倉庫、日除けテントなどの膜構造物では、特に夏場など、太陽熱により膜材表面温度が60℃を超える事があり、防水層の熱可塑性樹脂が軟化して、接合部が破壊し易くなる。また、石油化学品工場では製造直後の樹脂ペレットを1t単位でフレキシブルコンテナバッグに充填する際に、冷却が不充分な60〜70℃の樹脂ペレットが充填されることがあり、樹脂ペレットの熱によって接合部の熱可塑性樹脂が軟化し、輸送時および保管時にフレキシブルコンテナバッグが変形したり、破袋したりする事がある。
【0003】
耐熱クリープ性を向上させるために、繊維性基布と熱可塑性樹脂層の間の接着性を向上させる対応が考えられ、例えば、熱可塑性樹脂層を構成する樹脂と接着性の良い素材からなる繊維を混撚した糸を用いた繊維性基布を用いることで、接着性を向上させる試みが行われている(例えば、特許文献1参照)。この方法によれば、常温での接着性は向上するものの、耐熱クリープ性の向上は充分ではなく、しかも膜材の風合いが硬くなり縫製作業性や施工性が損なわれ、接着性が向上することで基布の織り目が樹脂によって強く拘束されて引裂強力が低くなるという問題があった。接着性向上のために、ポリウレタンと架橋剤の混合液を用いて繊維性基布に接着処理を施し、その接着処理層を介して熱可塑性樹脂を積層する方法も行われており、これにより接着性も耐熱クリープ性も向上するが、特許文献1の技術同様、得られる膜材の風合いが硬くなり、引裂強力が低下する問題を有していた。熱可塑性樹脂層を構成する樹脂組成物に、イソシアネート系化合物とポリオールを加える方法も行われており、繊維性基布と熱可塑性樹脂層の間の接着性が向上し、かつ、架橋により熱可塑性樹脂層の耐熱性が向上する。しかし、この方法では、熱可塑性樹脂層形成の段階において樹脂組成物中で架橋が進行して、加工安定性が損なわれる事があり、得られる膜材の風合いが硬くなり、引裂強力が低下し、更に熱可塑性樹脂層が架橋することにより熱融着接合が困難になる問題も生じていた。
【0004】
充填材として無機化合物(層状粘土鉱物、シリカ粒子など)を分散させることで、熱可塑性樹脂の靭性や耐熱性を向上させる方法も知られている(例えば、特許文献2参照)。これは、熱可塑性樹脂が充填材により補強されて、高温下での樹脂の流動が抑制されることを応用したもので、応力がかからない状態での寸法安定性や形状保持性には、比較的少量の充填材添加でも効果が得られるものである。しかし、膜材の接合部の様に強い応力がかかる部分の高温時の耐久性を向上させるためには少量の充填材では効果が得られず、多量に加えると加工性が損なわれ、樹脂強度が低下し、さらに得られる膜材の風合いが硬くなる問題を有していた。
【0005】
加工安定性を損なわずに、耐熱クリープ性を向上させる事ができる方法として、本出願人は、エチレンー酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリル酸(エステル)共重合樹脂から選ばれた1種以上のエチレン系共重合樹脂100質量部に対して、架橋剤として環状イミノエーテル基含有共重合樹脂0.5〜20質量部を含む樹脂層を、繊維性基布の両面に積層する方法(特許文献3参照)を提案した。この方法によれば、繊維性基布と被覆樹脂の密着性向上と樹脂の軟化温度向上を同時に行うことができ、加工安定性も損なわれないが、樹脂層が架橋しているため、引裂強度や、熱融着接合性が低下する問題を有していた。また、反応性及び相溶性の観点から、この方法に用いることのできる樹脂には制約があり、樹脂の選択によっては架橋剤の効果が得られなかったり、樹脂層形成自体が困難となることがあるなど、汎用性の低い方法であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平07−54239号公報
【特許文献2】特開2008−63577号公報
【特許文献3】特開2006−45685号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、以上の様な従来技術の課題を解決し、柔軟性と引裂強力を犠牲にする事無く、熱融着接合が可能で、かつ、耐熱性に優れる産業資材用膜材と、その産業資材用膜材同士を熱融着接合することで、接合部の耐熱クリープ性に優れ、膜材の温度が60を超える様な状況においても、接合部が破壊したり変形したりしにくい熱融着接合体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討の結果、繊維基布とその少なくとも1面上に形成された熱可塑性樹脂層とを含む積層体において、前記熱可塑性樹脂層が、特定の官能基を有する有機化合物を挿入した層状粘土鉱物と、架橋剤とを、特定の比率で含むことで、柔軟性、引裂強力および熱可塑性樹脂層の熱溶融性を犠牲にする事無く、耐熱クリープ性を向上させることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち本発明の産業資材用膜材は、繊維性基布と、その少なくとも1面上に形成された熱可塑性樹脂層とを含む積層体であって、前記熱可塑性樹脂層が可撓性高分子材料と、インターカレート層状粘土鉱物と、及び架橋剤とを質量比100:1〜50:0.1〜15の範囲で含み、前記インターカレート層状粘土鉱物が、層状粘土鉱物の層間に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基およびメルカプト基から選ばれた官能基を有する化合物およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種以上の有機化合物を挿入してなる化学修飾体であって、前記架橋剤が、イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物、アジリジン系化合物、及びカルボジイミド系化合物から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。本発明の産業資材用膜材は、前記熱可塑性樹脂層において、前記架橋剤と前記層状粘土鉱物の層間の有機化合物との付加反応により、架橋構造が形成されていることが好ましい。本発明の熱融着接合体は、請求項1または2に記載の産業資材用膜材同士による熱融着接合体であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の産業資材用膜材は、熱融着接合性や柔軟性、引裂強力などを犠牲にする事無く、接合部の耐熱クリープ性に優れている。そのため、本発明の熱融着接合体は、中大型テント、テント倉庫、日除けテント、建築物天井膜、建築物壁膜、トラック幌、トラックシート、水槽、及びフレキシブルコンテナバッグなどの膜構造物用途に適して用いる事ができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明におけるインターカレート層状粘土鉱物の一例を示す図
【図2】熱可塑性樹脂層中で、インターカレート層状粘土鉱物層間の有機化合物と架 橋剤による架橋構造が形成されている状態を示す図
【図3】実施例・比較例における耐熱クリープ試験に用いた試験片の斜視図
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の産業資材用膜材は、繊維性基布と、その少なくとも1面上に形成された熱可塑性樹脂層とを含む積層体である。その製造方法に特に限定は無いが、例えば、繊維性基布上に、液状の組成物を用いてコーティング加工(片面加工、または両面加工)や、ディッピング加工(両面加工)、により熱可塑性樹脂層を形成する帆布状の膜材であってもよく、繊維性基布の片面又は両面に、フィルム状またはシート状の熱可塑性樹脂層を積層したターポリン状の膜材であってもよい。ディッピング加工またはコーティング加工に用いる加工液としては、軟質ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル、有機溶剤に可溶化した可撓性樹脂、水中で乳化重合された可撓性樹脂エマルジョン(ラテックス)、あるいは可撓性樹脂を水中に強制分散させ安定化したディスパージョン樹脂などの水分散樹脂、などを用いることができる。また、フィルム状またはシート状の熱可塑性樹脂層は、例えばカレンダー成型法、Tダイス押出法またはキャスティング法により得る事ができる。
【0013】
本発明の熱可塑性樹脂層は、可撓性高分子材料と、インターカレート層状粘土鉱物と、架橋剤とを必須成分として含み、その含有量は可撓性高分子材料100質量部に対して、インターカレート層状粘土鉱物が1〜50質量部(より好ましくは3〜30質量部)、架橋剤が0.1〜15質量部(より好ましくは0.3〜10質量部)である。本発明において、それぞれの含有量がこの範囲を満たすことで、樹脂の加工性、柔軟性および熱融着接合性を損なう事無く、耐熱クリープ性の高い産業資材用膜材を得ることができる。インターカレート層状粘土鉱物が可撓性高分子材料100質量部に対して1質量部未満であると、添加の効果が得られず、耐熱クリープ性がほとんど向上しないことがある。インターカレート層状粘土鉱物が50質量部を超えると、コーティング加工あるいはディッピング加工の場合、加工液の粘度が高くなりすぎて加工性が低下したり、経時的に粘度が上がり、加工安定性が損なわれることがある。また、カレンダー成型法、Tダイス押出法またはキャスティング法の場合、成型時の樹脂の流動性が悪くなり、加工性が低下することがある。架橋剤が可撓性高分子材料100質量部に対して0.1質量部未満であると添加の効果がほとんど得られず、耐熱クリープ性が向上しないことがある。架橋剤が15質量部を超えると、得られる膜材の柔軟性が損なわれる事があり、また、コーティング加工あるいはディッピング加工の場合、加工液のポットライフが短くなり加工安定性が低下することがあり、カレンダー成型法、Tダイス押出法またはキャスティング法の場合、加工時の樹脂の流動性が悪くなったり、成型機の金属部分(カレンダーのロールや、Tダイのリップなど)に焼きつくなどの問題を起こす事がある。
【0014】
熱可塑性樹脂層に用いる可撓性高分子材料としては、塩化ビニル樹脂、塩化ビニル系共重合体樹脂、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合体樹脂、ウレタン樹脂、ウレタン系共重合体樹脂、アクリル樹脂、アクリル系共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル系共重合体樹脂、スチレン樹脂、スチレン系共重合体樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエステル系共重合体樹脂、およびフッ素含有共重合体樹脂を単独で、もしくは、2種以上併用して用いることができる。本発明においては、得られる産業資材用膜材の熱融着性を阻害しない観点から、可撓性高分子材料と後述する架橋剤とは反応しないか、あるいは反応しにくい事が好ましく、上述の可撓性高分子材料の内、塩化ビニル樹脂(可塑剤、安定剤等を配合した軟質〜半硬質塩ビ)、オレフィン樹脂、オレフィン系共重合体樹脂、フッ素含有共重合体樹脂等を特に好ましく用いることができる。
【0015】
本発明において、インターカレート層状粘土鉱物とは、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基およびメルカプト基から選ばれた官能基を有する化合物、およびそれらの塩、から選ばれる少なくとも1種以上の有機化合物を、層状粘土鉱物の層間に挿入してなる化学修飾体である。
【0016】
層間に挿入する化合物としては、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基およびメルカプト基から選ばれた官能基を有する有機化合物であれば特に限定無く用いることができるが、粘土鉱物の層間表面が帯びている電荷によって層間に固定され、さらに、固定された状態で、後述する架橋剤との反応性も有している事が好ましい。その様な化合物としては、例えば、アミノ基とその他の官能基(カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基およびメルカプト基から選ばれる1種以上)を1分子中に有する化合物とその塩、及び、アミノ基、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基、メルカプト基を有するベタイン系化合物とその塩、などがあげられる。以下にそれらの有機化合物を例示するが、本発明で用いる有機化合物を限定するものではない。
【0017】
1分子中にアミノ基とカルボキシル基とを有する化合物としては、例えばグリシン、ロイシン、システイン、チロシン、フェニルアラニン、アラニン、セリン、イソロイシン、バリン、スレオニン、メチオニン、トリプトファン、ヒスチジン、アミノ酪酸、アミノ吉草酸、アミノペンタン酸、アミノヘキサン酸、アミノドデカン酸、アミノシクロプロパン−1−カルボン酸、アミノイソ酪酸、アミノクロトン酸など1分子中にアミノ基とカルボキシル基をひとつずつ有する化合物、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノシクロペンタンジカルボン酸、アミノシクロプロパンジカルボン酸、5−アミノ−1,3−ベンゼンジカルボン酸、アミノマレイン酸、アミノアジピン酸,アミノスベリン酸など1分子中にアミノ基ひとつとカルボキシル基二つを有する化合物、および、グルタミン、リジン、アスパラギン、アルギニン、ジアミノ安息香酸、ジアミノ酪酸など1分子中に二つ以上のアミノ基とひとつのカルボキシル基を有する化合物、などを例示することができる。
【0018】
1分子中にアミノ基とスルホン酸基を有する化合物としては、例えば、アミノメタンスルホン酸、2−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸、2−アミノ−1,4−ベンゼンジスルホン酸、o−アミノベンゼンスルホン酸、1−アミノ−4−ブロモアントラキノン−2−スルホン酸、4−アミノ−2−クロロトルエン−5−スルホン酸、S−(2−アミノエチル)チオスルホン酸、3−アミノ−4−ヒドロキシ−5−ニトロベンゼンスルホン酸、4−アミノ−5−メトキシ−2−メチルベンゼンスルホン酸、3−アミノ−1,5−ナフタレンジスルホン酸、4−アミノナフタレン−1−スルホン酸、4−アミノナフタレン−1−スルホン酸、4−アミノ−5−ナフトール−2,7−ジスルホン酸、1−アミノ−2−ナフトール−4−スルホン酸、アニリン−2,5−ジスルホン酸などを例示することができる。
【0019】
1分子中にアミノ基と水酸基を有する化合物としては、例えば、グルコサミン、N−アセチル−D−グルコサミン、ガラクトサミンなどのアミノ糖、(モノ、ジ、トリ)エタノールアミン、N−メチルエタノールアミンなどのアミノアルコール、p−アセトアミノフェノール、2−アミノ−4−クロロフェノール、5−アミノ−o−クレゾール、3−アミノ−4−ヒドロキシベンゼンスルホンアミド、4−アミノ−3−メチルフェノール、2−アミノ−4−ニトロフェノール、2−アミノ−5−ニトロフェノール、m−アミノフェノール、2,4−ジアミノフェノール、m−ジエチルアミノフェノール、4−ヒドロキシジフェニルアミン、ジアミノフェノール、チロシンなどアミノ基とフェノール基を有する化合物、などを例示することができる。
【0020】
1分子中にアミノ基とメルカプト基を有する化合物としては、例えば、アミノベンゼンチオール、2−メルカプトエチルアミン(システアミン)などを例示することができる。
【0021】
ベタイン系化合物としては、例えば、アルキルベタイン化合物(トリメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリルジメチルアミノ酢酸ベタイン、ラウリン酸アミドプロピルベタイン、ステアリルジメチルアミノ酢酸ベタインなど)、アルキルイミダゾール化合物(2−アルキル-N-カルボキシメチル−N−ヒドロキシエチル・イミダゾリウムベタインなど、)、スルホベタイン化合物(アルキルスルホンベタイン、アルキルヒドロキシスルホベタインなど)、チオベタイン化合物(アルキルチオベタイン)などを例示することができる。
【0022】
本発明で用いられる層状粘土鉱物は、層間に有機化合部を挿入可能な層状無機化合物であれば特に限定は無く、例えば、スメクタイト族(モンモリロナイト、サポナイト等)、バーミキュライト(3八面体型及び2八面体型)、雲母族(白雲母、黒雲母、真珠雲母、パラゴナイト、プロゴパイト、クリントナイト等)、蛇紋石−カオリン族(カオリナイト、クリソタイル、オーディナイト等)、緑泥石族(クロノクリア、シャモサイト等)、金属リン酸塩、およびハイドロタルサイト様化合物(一般式[M2+1−x3+(OH)][An−x/n・mHO]で表される層構造を有する複水酸化物。式中M2+は2価の金属イオンを表し、M3+は3価の金属イオンを表し、An−はn価の層間陰イオンを表す。)などから適宜選択して用いる事ができる。これらの層状粘土鉱物は天然から産出されるものであってもよい。これらの内、層間に交換性陽イオンを有するスメクタイト族や雲母族、および、層間に交換性陰イオンを有するハイドロタルサイト様化合物が特に好ましく用いられる。
【0023】
有機化合物を層状粘土鉱物の層間に挿入する方法については特に限定は無く、有機化合物を含む溶液と層状粘土鉱物を懸濁させる方法、層状粘土鉱物に有機化合物の蒸気を接触させる方法、層状粘土鉱物の合成時の溶媒に有機化合物を介在させる方法、等から適宜選択して採用する事ができる。
【0024】
本発明において、熱可塑性樹脂層に含まれる架橋剤としては、イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物、アジリジン系化合物、及びカルボジイミド系化合物、から選ばれた少なくとも1種が用いられ、これらは単独で用いてもよいし、また2種以上を併用して用いても良い。
【0025】
イソシアネート系化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの脂肪族ジイソシアネート類、イソホロンジイソシアネート、及び水添トリレンジイソシアネートなどの脂環式ジイソシアネート類、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、及びキシレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート、トリス(ヘキサメチレンイソシアネート)イソシアヌレート、及びトリス(3−イソシアネートメチルベンジル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート類、上述の化合物のイソシアネート基末端をフェノール類、オキシム類、アルコール類、又はラクタム類等のブロック化剤でブロックして得られるブロックイソシアネート化合物類、並びに、上述の化合物のイソシアネート基の一部にエチレングリコールなど親水性単量体が付加された変性イソシアヌレート化合物類などを例示することができる。
【0026】
オキサゾリン系化合物としては、オキサゾール−4−カルボン酸の脱炭酸反応によるオキサゾールから誘導、生成される化合物を好適に用いることができ、例えば、2−オキサゾリン、4−メチル−2−オキサゾリン、2,2′−ビス(2−オキサゾリン)、1,3−ビス(4,5−ジヒドロ-2-オキサゾリル)ベンゼン、1,2−ビス(4,4−ジメチル−2−オキサゾリン−2−イル)エタンなど、単官能及び多官能オキサゾリン化合物、並びにスチレン、アクリルなどのポリマーにオキサゾリル基をグラフトした多官能オキサゾリンポリマーなどを例示することができる。
【0027】
アジリジン系化合物としては、分子内にアジリジニル基を含有したものであればよく、例えば、ジフェニルメタン−ビス−4−4′−N−N′−ジエチレンウレアなど、分子内に2個のアジリジニル基を含有した化合物や、2,2−ビスハイドロキシメチルブタノール−トリス〔3−(1−アジリジニル)プロピオネート〕など分子内に3個のアジリジニル基を含有した化合物などが挙げられる。
【0028】
カルボジイミド系化合物としては、有機ジイソシアネートをホスホレン化合物、金属カルボニル錯体化合物及び燐酸エステルなどのカルボジイミド化を促進する触媒の存在下に反応させることにより得られたものを好適に用いることができ、例えば、ジプロピルカルボジイミド、ジヘキシルカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジ−P−トルオイルカルボジイミド、トリイソプロピルベンゼンポリカルボジイミドなどが挙げられる。
【0029】
これらの架橋剤の内イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物が特に好ましく用いられる。
【0030】
ここで、本発明について、図を用いて説明する。図1は本発明で用いるインターカレート層状粘土鉱物(1)の一例を示した図である。図1の例では、層状粘土鉱物としてモンモリロナイトが用いられ、その層間に有機化合物としてグリシン(2)が挿入されている。モンモリロナイトは層間に交換性陽イオンを有する層状粘土鉱物であり、グリシンは1分子中にアミノ基(4)とカルボキシル基(5)を一つずつ有する有機化合物である。グリシンの挿入されたモンモリロナイトを得るには、例えば、グリシンの水溶液を撹拌しながらモンモリロナイトを徐々に加えて懸濁する方法を挙げることができる。これによりモンモリロナイトの層間の交換性陽イオンがグリシンに置き換えられて、図1の様なインターカレート層状粘土鉱物を得ることができる。モンモリロナイト単位層の表面(3)は負電荷(図示しない)を帯びており、その電荷により、グリシンのアミノ基(4)側が引き寄せられて固定され、カルボキシル基(5)はフリーな状態となっている。図2は、熱可塑性樹脂層中で、層間の有機化合物と架橋剤による架橋構造が形成されている状態の一例を示す図である。図2の例では、熱可塑性樹脂層は可撓性高分子材料(図示しない)と、図1のインターカレート層状粘土鉱物と、架橋剤としてイソシアネート基を2個有するヘキサメチレンジイソシアネート(6)とを含んでいる。グリシン(2)のカルボキシル基(5)が、ヘキサメチレンジイソシアネート(6)のイソシアネート基と反応する事によって、モンモリロナイトの単位層のネットワークが形成されている。
【0031】
樹脂中に充填剤を加えることで、樹脂の耐熱性を向上させることができることは背景技術において既に述べたが、本発明においては熱可塑性樹脂層に加えられる層状粘土鉱物の量が比較的少なく、充填材だけで耐熱クリープ性を向上させるには本来不充分である。しかし、本発明の熱可塑性樹脂層は、図2の様に、熱可塑性樹脂層中において層状粘土鉱物の単位層がネットワークを形成しているため、柔軟性、引裂強力、および熱融着性を犠牲にする事無く、高温下での樹脂の流動を抑制することができ、熱融着接合部の耐熱クリープ性を向上させることができる。
【0032】
本発明の熱可塑性樹脂層は、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、この他に必要に応じて公知の添加剤を含んでいても良い。添加剤としては、例えば、帯電防止剤、難燃剤、可塑剤、可撓性付与剤、層状粘土鉱物以外の無機充填剤、有機樹脂粒子、接着剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定剤、滑剤、加工助剤、レベリング剤、消泡剤、抗菌剤、防黴剤、有機顔料、無機顔料、蓄光顔料、蛍光増白剤、蛍光顔料などが挙げられる。
【0033】
本発明において繊維性基布に用いられる繊維としては、ポリプロピレン繊維、ポリエチレン繊維、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、ビニロン繊維などの合成繊維、木綿、麻などの天然繊維、アセテートなどの半合成繊維、ガラス繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、炭素繊維などの無機繊維が挙げられ、これらは単独または2種以上からなる混用繊維によって構成されていてもよく、その形状はマルチフィラメント糸条、短繊維紡績糸条、モノフィラメント糸条、スプリットヤーン糸条、テープヤーン糸条などいずれであってもよい。本発明に使用する繊維性基布は織布、編布のいずれでもよく、織布の場合平織、綾織、繻子織、模紗織などいずれの構造をとるものでもよいが、平織織物は、得られる産業資材用膜材の縦緯物性バランスに優れているため好ましく用いられる。編布としてはラッセル編の緯糸挿入トリコットが好ましく用いられる。これら編織物は、少なくともそれぞれ、糸間間隙をおいて平行に配置された経糸及び緯糸を含む糸条により構成された粗目状の編織物(空隙率は最大80%、好ましくは5〜50%)、及び非粗目状編織物(糸条間に実質上間隙が形成されていない編織物)を包含する。繊維性基布には必要に応じて撥水処理、吸水防止処理、接着処理、難燃処理などが施されていても良い。
【0034】
本発明の産業資材用膜材は、特に中大型テント、テント倉庫、日除けテントなどの原反に用いる場合、初期外観を維持するために、熱可塑性樹脂層上に少なくとも1層の防汚層を設けてもよい。防汚層の形成方法及び素材に特に限定はなく、例えば、溶剤に可溶化されたアクリル系樹脂もしくはフッ素系樹脂の少なくとも1種以上からなる樹脂溶液を塗布して形成した塗膜、これらにシリカ微粒子、またはコロイダルシリカを含む塗膜、オルガノシリケート及び/又はその縮合体を含む塗布剤で塗布し親水性被膜層を形成したもの、光触媒性無機材料(例えば光触媒性酸化チタン)と結着剤とを含む塗布剤を塗布し光触媒層を形成したもの、少なくとも最外表面がフッ素系樹脂により形成されたフィルムを接着剤もしくは熱溶融加工により積層したもの等から適宜選択して用いることができる。
【0035】
本発明の産業資材用膜材の接合・縫製は、高周波ウエルダー融着法、熱板融着法、熱風融着法、超音波融着法などの熱融着法で行われる事が好ましく、中でも特に高周波ウエルダー融着法が効率的で好ましい。本発明の熱可塑性樹脂層において、層状粘土鉱物の層間に挿入された有機化合物と架橋剤とは、繊維性基布上に熱可塑性樹脂層を形成する工程でその一部が反応して架橋構造を形成するが、有機化合物が層状粘土鉱物の層間に存在するため、充分に反応が進んでいるとは言えない。しかし、熱融着法による接合に際して、接合部の温度が熱可塑性樹脂の融点以上に上昇し、溶融状態で圧着されることでずり応力が加えられ、そこに含まれる架橋剤と層状粘土鉱物の層間の有機化合物との架橋構造の形成を促す効果が得られる。それにより、特に接合部においては高温時の樹脂の流動性が抑制されて、接合直後から高い耐熱クリープ性を示すことができる。
【実施例】
【0036】
本発明を下記実施例、および比較例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0037】
以下実施例・比較例において、以下の繊維性基布を用いた。
<繊維性基布>
経糸、緯糸ともにポリエステル短繊維紡績糸295.3dtex(20番手)双糸を配置し、経糸打ち込み密度が55本/25.4mm、緯糸打ち込み密度が48本/25.4mmであり、質量230g/mの非粗目状平織物。
【0038】
実施例及び比較例の組成物や得られた膜材について、以下の評価を行った。
<加工安定性>
実施例及び比較例で熱可塑性樹脂層形成に用いた組成物について、BH型回転粘度計(東京計器(株)製、6号ローター、回転数20回/分)を使用し、室温20℃、湿度65%の雰囲気において、加工液調整直後と8時間経過後にそれぞれ粘度を測定して、粘度変化の大小から、加工安定性を以下の様に評価した。
1:8時間経過後の粘度測定値が、加工液調整直後の2倍以下であり、加工安定性に優
れる。
2:8時間経過後の粘度測定値が加工液調整直後の2倍を越え3倍未満である。
3:8時間未満で粘度測定値が加工液調整直後の3倍を越える。
<柔軟性>
実施例及び比較例で得られた膜材から、150mm幅×50mm長にカットした供試片を採取し、丸めて直径40mm×長さ50mmの円筒を作成し(のりしろをシアノアクリレート系瞬間接着剤で固定した。)、10℃雰囲気下で50%圧縮時(直径が20mmになるまで潰した状態)の応力を測定して、以下の様に評価した。なお、柔軟性を評価する試験機としてループ・ステフネス・テスター((株)東洋精機製作所製)を使用した。
1:応力が1N以下であり柔軟性に優れる
2:応力が1Nを超えて2N以下であり、柔軟性がやや劣る
3:応力が2Nを超え柔軟性に劣る
<引裂強力>
JISL1096 A−1法(シングルタング法)により引裂強力を測定し、その結果を下記の様に評価した。
1:78N以上
2:78N未満
<熱融着接合性>
実施例及び比較例で得られた膜材から20cm四方にカットした供試片を2枚採取し、それぞれのヨコ方向(緯糸方向)の端部同士を、4cm幅で直線状に平行に重ね合わせ、4cm幅×30cm長のウエルドバー(平刃)を装着した高周波ウエルダー融着機(山本ビニター(株)製YF−7000型:出力7KW)を用い、膜材の高周波融着接合を行って接合試料を作成し、熱融着接合性を評価した。
1:融着が容易である
※ウェルダー融着条件:融着時間5秒、冷却時間5秒、陽極電流0.8A
2:融着条件を強く、かつ長くすることで融着可能である。
※ウェルダー融着条件:融着時間10秒、冷却時間10秒、陽極電流1.0A
3:融着条件を強く、かつ長くしても融着しない。
※ウェルダー融着条件:融着時間10秒、冷却時間10秒、陽極電流1.0A
なお、融着したかどうかは、融着操作後に充分冷却してから接合部分を強制的に剥離し
たときに、熱可塑性樹脂層同士の界面剥離でなく、樹脂の凝集破壊、あるいは繊維性基
布と熱可塑性樹脂層との界面で剥離したものを、融着したものと判断した。
<耐熱クリープ性>
上記の熱融着性評価と同様にして作成した接合試料から、融着接合部を含む幅3cm×長 さ30cmの試料(図3参照)を6片採取し、これを耐熱クリープ試験片とし、クリープ試験機(東洋精機製作所(株)製:100LDR型)を使用して、60℃と65℃の温度条件で各3片ずつ、392N(40kgf)の荷重をかけて、48時間の耐熱クリープ性試験を行い、その結果を下記のように評価した。
1:48時間経過しても接合部に異常なく良好であった。
2:12時間を越え、48時間未満で接合部が破断した。(破断時間表記)
3:12時間以内に接合部が破断した。(破断時間表記)
なお、同条件で行った3片の内、最も悪い結果であった試料の評価を採用した。
【0039】
[実施例1]
繊維性基布を、下記配合1より調整したディッピング加工用ポリ塩化ビニル樹脂組成物ペーストゾルのバス中に浸漬し、これを引き上げると同時にマングルロールで圧搾し、150℃で1分間ゲル化した後、190℃で1分間熱処理を行った。これにより繊維基布の両面への付着、および内部含浸した状態で、ポリ塩化ビニル樹脂組成物が320g/m付着して、インターカレート層状粘土鉱物と、架橋剤とを含んだ熱可塑性樹脂層形成された実施例1の膜材を得た。実施例1で用いた組成物及び得られた膜材について各種評価を行い、結果を表1に示した。
なお、配合1では、モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアF)の層間にグルタミン酸(和光純薬社製)を挿入したインターカレート層状粘土鉱物と、架橋剤としてイソシアネート系化合物(日本ポリウレタン工業社製、ヘキサメチレンジイソシアネート(商品名HDI))を用いた。また、インターカレート層状粘土鉱物のインターカレーション量は、元素分析から、モンモリロナイトの1組成式((Ca,Na)1/3Al5/3Mg1/3Si10(OH)・mHO)に対してグルタミン酸0.75分子であった。
(配合1)ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1600) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
安定剤:Ba−Zn系安定剤 2質量部
TiO:顔料 20質量部
インターカレート層状粘土鉱物 10質量部
ヘキサメチレンジイソシアネート 2質量部
希釈溶剤:トルエン 20質量部

【0040】
[実施例2]
架橋剤を、イソシアネート系化合物(ヘキサメチレンジイソシアネート)2質量部から、オキサゾリン系化合物(東京化成工業社製:1,3−ビス(4,5−ジヒドロ−2−オキサゾリル)ベンゼン)2質量部に置き換え、インターカレート層状粘土鉱物として、モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアF)の層間にアミノメタンスルホン酸(メルク社製)を挿入したものを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例2の膜材を得た。実施例2で用いた組成物及び得られた膜材について各種評価を行い、結果を表1に示した。
なお、インターカレート層状粘土鉱物のインターカレーション量は、元素分析から、モンモリロナイトの1組成式に対してアミノメタンスルホン酸0.50分子であった。
【0041】
[実施例3]
架橋剤を、イソシアネート系化合物(ヘキサメチレンジイソシアネート)2質量部から、カルボジイミド系化合物の50%トルエン溶液(日清紡ケミカル社製、商品名:カルボジライトV−03)4質量部に置き換えた以外は、実施例1と同様にして実施例3の膜材を得た。実施例3で用いた組成物及び得られた膜材について各種評価を行い、結果を表1に示した。
【0042】
[実施例4]
架橋剤を、イソシアネート系化合物(ヘキサメチレンジイソシアネート)2質量部から、アジリジン系化合物の50%MEK溶液(相互薬工社製、商品名:TAZM)4質量部に置き換え、インターカレート層状粘土鉱物として、モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアF)の層間にアミノベンゼンチオール(東京化成工業社製)を挿入したものを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例4の膜材を得た。実施例4で用いた組成物及び得られた膜材について各種評価を行い、結果を表1に示した。 なお、インターカレート層状粘土鉱物のインターカレーション量は、元素分析から、モンモリロナイトの1組成式に対してアミノベンゼンチオール0.66分子であった。
【0043】
[実施例5]
インターカレート層状粘土鉱物として、モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアF)の層間にN−アセチル−D−グルコサミン(東京化成工業社製)を挿入したものを用いた以外は、実施例1と同様にして実施例5の膜材を得た。実施例5で用いた組成物及び得られた膜材について各種評価を行い、結果を表1に示した。
なお、インターカレート層状粘土鉱物のインターカレーション量は、元素分析から、モンモリロナイトの1組成式に対してN−アセチルグルコサミン0.45分子であった。
【0044】
[実施例6]
インターカレート層状粘土鉱物として、モンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアF)の層間にトリメチルアミノ酢酸ベタイン(旭化成ケミカルズ社製、商品名:アミノコート)を挿入したものを用いた以外は、実施例2と同様にして実施例6の膜材を得た。実施例6で用いた組成物及び得られた膜材について各種評価を行い、結果を表1に示した。
なお、インターカレート層状粘土鉱物のインターカレーション量は、元素分析からモンモリロナイトの1組成式に対してトリメチルアミノ酢酸ベタイン0.61分子であった。
【0045】
[実施例7]
配合1の代わりに下記配合2を用いた以外は、実施例1と同様にして実施例7の膜材を得た。実施例7で用いた組成物及び得られた膜材について各種評価を行い、結果を表1に示した。
(配合2)ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1600) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
安定剤:Ba−Zn系安定剤 2質量部
TiO:顔料 20質量部
インターカレート層状粘土鉱物 25質量部
ヘキサメチレンジイソシアネート 5質量部
希釈溶剤:トルエン 20質量部

【0046】
[比較例1]
配合1からインターカレート層状粘土鉱物を省略した以外は、実施例1と同様にして比較例1の膜材を得た。比較例1で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価を行い、結果を表2に示した。
【0047】
[比較例2]
配合1から架橋剤を省略した以外は、実施例1と同様にして比較例2の膜材を得た。比較例2で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価の結果を表2に示す。
【0048】
[比較例3]
インターカレート層状粘土鉱物の代わりに、層間に有機化合物を挿入していないモンモリロナイト(クニミネ工業社製、商品名:クニピアF)を用いた以外は実施例1と同様にして、比較例3の膜材を得た。比較例3で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価の結果を表2に示す。
【0049】
[比較例4]
配合1の代わりに下記配合3を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例4の膜材を得た。比較例4で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価の結果を表2に示す。
(配合3)ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル配合
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1600) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
安定剤:Ba−Zn系安定剤 2質量部
白顔料:TiO 20質量部
インターカレート層状粘土鉱物 100質量部
ヘキサメチレンジイソシアネート 20質量部
紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系) 0.5質量部
希釈溶剤:トルエン 20質量部
【0050】
[比較例5]
配合3から架橋剤(ヘキサメチレンジイソシアネート)を省略した以外は比較例4と同様にして比較例5の膜材を得た。比較例5で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価の結果を表2に示す。
【0051】
[比較例6]
配合1の代わりに下記配合4を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例6の膜材を得た。比較例6で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価の結果を表2に示す。
なお、配合4は、インターカレート層状粘土鉱物を含まず、ポリオールポリエーテル系ウレタン(日本ポリウレタン工業社製、商品名:ニッポラン3016)とイソシアネート系化合物を含む組成物である。
(配合4)ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル配合
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1600) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
安定剤:Ba−Zn系安定剤 2質量部
白顔料:TiO 20質量部
ポリオールポリエーテル系ウレタン 10質量部
ヘキサメチレンジイソシアネート 2質量部
紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系) 0.5質量部
希釈溶剤:トルエン 20質量部

【0052】
[比較例7]
下記配合5を用いた以外は、実施例1と同様にして比較例7の膜材を得た。比較例7で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価の結果を表2に示す。
なお、配合5では、インターカレート層状粘土鉱物を含まず、架橋剤としてオキサゾリン基含有ポリスチレン(日本触媒社製、商品名:エポクロスRPS1005)を用いた。
(配合5)ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル配合
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1600) 100質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
安定剤:Ba−Zn系安定剤 2質量部
白顔料:TiO 20質量部
オキサゾリン基含有反応性ポリスチレン 2質量部
紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系) 0.5質量部
希釈溶剤:トルエン 20質量部

【0053】
[比較例8]
配合5のポリ塩化ビニル樹脂100質量部の内30質量部を塩ビ・酢ビ共重合樹脂(カネカ社製、商品名:PHC−72、酢ビ含量8%)に置き換えた下記配合6を用いた以外は、比較例7と同様にして比較例8の膜材を得た。比較例8で用いた組成物及び得られた膜材について、各種評価の結果を表2に示す。
(配合6)ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾル配合
乳化重合ポリ塩化ビニル樹脂(重合度1600) 70質量部
塩ビ・酢ビ共重合樹脂 30質量部
フタル酸ジ−2−エチルヘキシル(可塑剤) 70質量部
三酸化アンチモン(難燃剤) 10質量部
安定剤:Ba−Zn系安定剤 2質量部
白顔料:TiO 20質量部
オキサゾリン基含有反応性ポリスチレン 2質量部
紫外線吸収剤(ベンゾトリアゾール系) 0.5質量部
希釈溶剤:トルエン 20質量部

【0054】
【表1】

【0055】
【表2】

【0056】
実施例1〜7及び比較例1〜8の膜材は、ポリ塩化ビニル樹脂ペーストゾルをディッピング加工することにより、ポリエステル短繊維紡績糸を用いた非粗目状平織物からなる繊維性基布の内部及び両面に、含浸被覆した可撓性樹脂層を有する膜材である。
【0057】
実施例1〜6は、インターカレート層状粘土鉱物の層間有機化合物と架橋剤の組み合わせをそれぞれ変えた例であり、樹脂100質量部に対して、インターカレート層状粘土鉱物10質量部、架橋剤(固形分)2質量部と、わずかな添加量であるにもかかわらず、これらの何れか一方を含まない比較例1および2、層間に有機化合物を含まない層状粘土鉱物を用いた比較例3に比べて耐熱クリープ性が大きく向上しており、しかも加工安定性、柔軟性、引裂強力、および膜材の熱融着接合性は比較例1〜3と同程度であった。
【0058】
実施例7はインターカレート層状粘土鉱物と架橋剤の量を実施例1より増やした例であり、加工安定性や、得られる膜材の柔軟性、熱融着接合性に影響を与える事無く、耐熱クリープ性が更に向上していた。一方、インターカレート層状粘土鉱物と架橋剤の量を更に増した比較例4では加工安定性が低下し、柔軟性が損なわれ、熱融着接合性が低下していた。また、比較例4と同量のインターカレート層状粘土鉱物を含み、架橋剤を省略した比較例5は、比較例1〜3に比べると耐熱クリープ性の向上がみられるものの、各実施例には劣り、また、加工安定性や得られる膜材の柔軟性も各実施例および比較例1〜3より劣っていた。
【0059】
比較例6は、実施例1からインターカレート層状粘土鉱物を省略し、ポリオールポリエーテル系ウレタンと架橋剤(イソシアネート系化合物)を含む配合を用いたものである。この配合は、ウレタンとイソシアネートの付加反応によって液粘度の上昇が大きく、加工安定性が劣り、得られた膜材の樹脂層が架橋していたため柔軟性が損なわれ、かつ、引裂強力が低く、熱融着接合が困難であった。
【0060】
比較例7は実施例1からインターカレート層状粘土鉱物を省略し、架橋剤としてオキサゾリン基含有ポリスチレンを加えたものである。ポリ塩化ビニル樹脂はオキサゾリン基含有ポリスチレンとは反応しないため、加工安定性は優れるものの、耐熱クリープ性の向上はみられず、比較例1〜3と同程度であった。比較例8は、比較例7のポリ塩化ビニル樹脂100質量部の内30質量部を塩ビ・酢ビ共重合樹脂に置き換えたものである。塩ビ・酢ビ共重合樹脂とオキサゾリン基含有ポリスチレンの反応により、耐熱クリープ性は比較例7に比べて向上したが各実施例には及ばず、また引裂強力や熱融着接合性が低下していた。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明によれば、良好な柔軟性を有し、熱融着接合が可能で、かつ、耐熱性に優れる産業資材用膜材を提供する事が可能となり、その産業資材用膜材同士の熱融着接合物は、耐熱クリープ性に優れるので、膜材の温度が60℃を超えるような状況で使用される中大型テント、テント倉庫、日除けテント、建築物天井膜、建築物壁膜、トラック幌、トラックシート、水槽、及びフレキシブルコンテナバッグなどに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0062】
1:インターカレート層状粘土鉱物
2:グリシン
3:モンモリロナイト単位層の表面
4:アミノ基
5:カルボキシル基
6:ヘキサメチレンジイソシアネート
7:実施例および比較例で得た膜材
8:耐熱クリープ試験片
9:接合部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維性基布と、その少なくとも1面上に形成された熱可塑性樹脂層とを含む積層体であって、前記熱可塑性樹脂層が可撓性高分子材料と、インターカレート層状粘土鉱物と、及び架橋剤とを質量比100:1〜50:0.1〜15の範囲で含み、前記インターカレート層状粘土鉱物が、層状粘土鉱物の層間に、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、スルホン酸基およびメルカプト基から選ばれた官能基を有する化合物およびそれらの塩から選ばれる少なくとも1種以上の有機化合物を挿入してなる化学修飾体であって、前記架橋剤が、イソシアネート系化合物、オキサゾリン系化合物、アジリジン系化合物、及びカルボジイミド系化合物から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする産業資材用膜材。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂層において、前記架橋剤と前記層状粘土鉱物の層間の有機化合物との付加反応により、架橋構造が形成されている、請求項1に記載の産業資材用膜材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の産業資材用膜材同士による熱融着接合体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−83021(P2013−83021A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−224461(P2011−224461)
【出願日】平成23年10月12日(2011.10.12)
【出願人】(000239862)平岡織染株式会社 (81)
【Fターム(参考)】