説明

田植機

【課題】植付爪への動力伝達を遮断させる際に前記植付爪を上部停止位置まで回動させる状態と前記植付爪への動力伝達を遮断させる際に前記植付爪をその時点の位置から回動させることのない状態とを選択可能な田植機を提供する。
【解決手段】田植機100は、走行部10と、植付爪56を有する植付部50と、植付クラッチ170と、伝動クラッチ140とを備える。植付クラッチ170は、植付爪56への動力を接続時に伝達可能とする一方、切断時に遮断するように構成されるとともに、接続状態から切断状態に切り替わるとき、切断動作の開始から終了までの間に、植付爪56がその基準位置に移動するように、植付爪56への動力を伝達可能に構成される。伝動クラッチ140は、エンジン12から植付爪56へ至る動力伝達経路うちの植付クラッチ170よりも上流側に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、田植機に関する。
【背景技術】
【0002】
田植機は、走行部と、この走行部に連結された植付部とを備えている。前記走行部は動力源を有し、前記植付部は植付用ミッションケース、植付爪、及び苗載台を有する。前記植付爪は、前記植付用ミッションケースに回転可能に取り付けられている。そして、前記動力源が動力伝達機構を介して前記植付用ミッションケースと連結されて、動力源からの動力によって前記植付爪が回転可能とされている。
【0003】
前記植付用ミッションケースには、クラッチ機構(植付クラッチ)が設けられている。前記植付爪は、操作レバーの操作によって、前記植付クラッチが接続状態とされたときに回転し、前記植付クラッチが切断状態とされたときに停止する。そして、植付クラッチは、接続状態から切断状態に移行される際には、植付爪が圃場面や苗載台に接触する位置で回転停止されないように、前記植付爪を所定の上部停止位置(基準位置)まで回動させつつ動力伝達を遮断するように構成されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実公昭60−21929号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前記植付部の上昇動作に応じて前記植付クラッチが接続状態から切断状態へ移行するように構成された田植機も存在する。この構成の場合、例えば、圃場の端付近まで植付作業を行った後に田植機を方向転換させる際に、前記田植機を移動させながら前記植付部を上昇させると、前記植付クラッチが前記植付爪を上部停止位置まで回動させつつ動力伝達を遮断させることになる。この際、前記植付爪が苗載台上の苗マットから苗を取り出して既に保持していると、前記植付爪が上部停止位置まで回動される途中において保持している前記苗を放出する苗捨て動作を行ってしまう。この苗捨て動作の時点で前記植付部は圃場面から上昇されているため、前記植付爪が放出した苗は圃場に植え付けられることなく圃場面(水面)に浮遊した状態となる。
【0006】
本発明は、植付爪への動力伝達を遮断させる際に前記植付爪を上部停止位置まで回動させる状態と前記植付爪への動力伝達を遮断させる際に前記植付爪をその時点の位置から回動させることのない状態とを選択可能な田植機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る田植機は、走行部と、植付部と、植付クラッチと、伝動クラッチとを備える。前記走行部は、動力源を有する。前記植付部は、植付爪を有し、前記走行部に昇降可能に連結される。前記植付爪は、動力が前記動力源から伝達されることによって移動しながら苗載台上の苗マットから苗を取り出して圃場に植付けるように構成されている。前記植付クラッチは、前記植付爪への動力を接続時に伝達可能とする一方、切断時に遮断するように構成されるとともに、接続状態から切断状態に切り替わるとき、切断動作の開始から終了までの間に、前記植付爪がその基準位置に移動するように、前記植付爪への動力を伝達可能に構成される。前記伝動クラッチは、前記動力源から前記植付爪へ至る動力伝達経路のうちの前記植付クラッチよりも伝動方向上流側に配置される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る田植機によれば、前記植付爪への動力を遮断する際に、前記植付爪を前記基準位置へ移動させるか、又はその時点の位置に保持するかを選択することができる。
即ち、前記植付爪への動力を遮断する際に、前記伝動クラッチを接続状態に保持したままで前記植付クラッチを接続状態から切断状態へ切り替えた場合には、前記植付爪を前記基準位置へ移動させることができる。
一方、前記植付爪への動力を遮断する際に、前記伝動クラッチを接続状態から切断状態へ切り替えた場合には、前記植付爪をその時点の位置に保持することができる。
【0009】
例えば、前記植付クラッチは、伝動方向上流側に位置する駆動軸に設けられた駆動側のクラッチ形成体と、前記駆動軸と同軸上に配置された従動軸に設けられた従動側のクラッチ形成体と、前記従動軸又は前記従動側のクラッチ形成体に設けられたカム溝であって、アクチュエータからの駆動力を受けて前記従動軸を軸線回りに所定位置(即ち、前記従動軸に作動連結された前記植付爪を上部停止位置に位置させる位置)まで回転させつつ前記駆動軸から離間させるカム溝とを有し得る。
【0010】
ここで、前記アクチュエータの小型化及びコスト低廉化のために、好ましくは、前記アクチュエータの駆動力の大きさは、前記従動軸が前記駆動軸によって軸線回りに回転されている状態においては前記従動軸を軸線回りに所定位置まで回転させつつ前記駆動軸から離間させることが可能であるが、前記駆動軸が回転停止している状態においては前記従動軸を軸線回りに回転させつつ前記駆動軸から離間させることができない程度に設定される。
【0011】
したがって、前記伝動クラッチが接続状態とされることで前記駆動軸が回転し、且つ、前記植付クラッチが接続状態とされることで前記従動軸が前記駆動軸と共に軸線回りに回転している状態で、前記アクチュエータから前記従動軸に駆動力が付加されると、前記従動軸は軸線回りに所定位置まで回転しつつ前記駆動軸から離間され、これにより、前記植付爪への動力伝達が遮断されつつ前記植付爪は上部停止位置まで回動される。
【0012】
これに対し、前記植付クラッチの切断動作と略同時又は前記植付クラッチの切断動作よりも早く前記伝動クラッチが切断状態とされていると、この伝動クラッチの切断動作によって前記植付爪への動力伝達が遮断され、この際、前記植付爪はその時点の位置に固定される。
なお、前記植付クラッチを切断状態へ移行させるべく前記アクチュエータが駆動力を前記従動軸に付加したとしても、前述の通り、前記駆動軸及び前記従動軸が停止している状態では前記アクチュエータの駆動力のみによっては前記従動軸を軸線回りに所定位置まで回転させつつ前記駆動軸から離間させることはできない。したがって、前記植付爪は上部停止位置まで回動されることなく、その位置で停止されたままとなる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】田植機の構成を示す側面図。
【図2】植付爪付近の構成を示す側面図。
【図3】田植機の動力伝達構造を示す図。
【図4】株間変速部における動力伝達構造を示す図。
【図5】切断状態である伝動クラッチ及び連動機構の一部の構成を示す一部断面図。
【図6】接続状態である伝動クラッチ及び連動機構の一部の構成を示す一部断面図。
【図7】植付部の下降動作に連動して切断状態から接続状態に切り替わった時点における伝動クラッチ及び連動機構の一部の構成を示す一部断面図。
【図8】植付クラッチの構成を示す断面図。
【図9】植付部の下降時における連動機構の残部の構成を示す側面図。
【図10】植付部の上昇時における連動機構の残部の構成を示す側面図。
【図11】植付部の下降途中における連動機構の残部の構成を示す側面図。
【図12】制御ブロック図。
【図13】融通機構の変形例を示す図。(a)植付クラッチが接続状態である場合における前記融通機構を示す図。(b)植付クラッチが切断状態である場合における前記融通機構を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら説明する。図面において、同一の引用符号は、対応する又は同一の要素を示す。
【0015】
まず、乗用田植機100の概略構成について説明する。
【0016】
図1及び図2に示すように、田植機100は、走行部10と、植付部50とを備えている。
【0017】
走行部10は、車体フレーム11と、動力源と、走行ミッション部13と、左右の前車輪15と、左右の後車輪18とを有する。
【0018】
車体フレーム11は田植機100の車体長方向(前後方向)及び車体幅方向(左右方向)に延びるように設けられている。動力源であるエンジン12は、車体フレーム11の前端部に支持されて、ボンネット30によって覆われている。
【0019】
走行ミッション部13は、エンジン12の後方に配置されて、車体フレーム11の前部に支持されている。走行ミッション部13の左側部には、左フロントアクスルケース17が設けられている。走行ミッション部13の右側部には、右フロントアクスルケース17が設けられている。
【0020】
左側の前車輪15は、走行ミッション部13の左側方に配置されて、左フロントアクスルケース17に前車軸16を介して取り付けられている。右側の前車輪15は、走行ミッション部13の右側方に配置されて、右フロントアクスルケース17に前車軸16を介して取り付けられている。
【0021】
走行ミッション部13の後部には、リヤアクスルケース20がパイプ状の連結体21を介して連結されている。リヤアクスルケース20は、走行ミッション部13の後方に配置されて、車体フレーム11の後部に支持されている。
【0022】
左側の後車輪18は、リヤアクスルケース20の左側方に配置されて、このリヤアクスルケース20の左側部に後車軸19を介して取り付けられている。右側の後車輪18は、リヤアクスルケース20の右側方に配置されて、このリヤアクスルケース20の右側部に後車軸19を介して取り付けられている。
【0023】
また、ボンネット30の後方には、カバー体31が車体フレーム11を上方から覆うように設けられている。カバー体31は段差を有し、この段差を境として前半部と後半部に分けられている。カバー体31の後半部は、田植機100の上下方向において前半部よりも高い位置に配置されている。
【0024】
ボンネット30の後方であってカバー体31の上方には、運転席32が設けられている。運転席32は、ボンネット30と対向するように、カバー体31の後半部上に配置されている。カバー体31の前半部上は、運転席32に着席した田植機100の操縦者の足置き場、又は操縦者の通路となる。
【0025】
ボンネット30の上端部には、操作部35が設けられている。操作部35は、表示部と、ステアリングホイール36と、主変速レバーと、昇降操作部材と、植付操作部材とを有する。前記昇降操作部材は植付部50を昇降操作するためのものであり、前記植付操作部材は植付部50を駆動操作するためのものである。本実施形態においては、前記昇降操作部材及び前記植付操作部材は、一つの操作レバー38として構成しているが、その構成は特に限定するものではない。
【0026】
ステアリングホイール36は、ボンネット30の上方に配置され、支軸を介して回転可能に設けられている。操作レバー38は、ステアリングホイール36の右側方に配置されて、複数の方向へ傾動操作可能に設けられている。
【0027】
図1及び図2に示すように、植付部50は、走行部10の後部に昇降リンク機構70を介して上下方向へ昇降可能に連結されている。植付部50は、植付フレーム51と、植付ミッション部52と、連動ケース53と、複数の植付ケース54と、複数のロータリケース55と、複数の植付爪56と、苗載台57と、複数のフロート58を有する。
【0028】
植付ミッション部52は、植付部50の前部に配置されて、植付フレーム51に支持されている。連動ケース53は、植付ミッション部52から左右方向へ延びるように設けられている。
【0029】
複数の植付ケース54は、それぞれ前後方向へ延びるように設けられ、連動ケース53の後方において左右方向へ所定間隔ごとに配置されている。複数の植付ケース54の前端部は、連動ケース53に連結されている。
【0030】
複数のロータリケース55は2つ(2条分)ずつ各植付ケース54の後部に取り付けられている。各ロータリケース55は、その中央部で各植付ケース54に左右方向に延びる植付回転軸137を介して回転可能に支持され、植付回転軸137回りに回転可能とされている。
【0031】
複数の植付爪56は、2つずつ各ロータリケース55に取り付けられている。2つの植付爪56はロータリケース55の回転軸心を中心とした対称位置に配置され、ロータリケース55に対して左右方向の軸線回りに回転可能とされている。2つの植付爪56は、ロータリケース55が植付回転軸137回りに回転することによって、植付回転軸137のまわりを移動する。
【0032】
苗載台57は、複数の植付ケース54の上方に配置され、植付フレーム51に取り付けられている。苗載台57は、上下方向へ延びるように設けられ、左右方向へ横送り可能に構成されている。苗載台57は、その上に載置した苗マットを上下方向へ縦送り可能に構成されている。
【0033】
複数のフロート58は、それぞれ前後方向へ延びるように設けられ、複数の植付ケース54の下方において左右方向へ所定間隔ごとに配置されている。複数のフロート58は、圃場Gの圃場面(水面)Wに対して接地追従可能なように、植付フレーム51及び植付ケース54に上下方向へ揺動可能に支持されている。
【0034】
図1及び図9に示すように、昇降リンク機構70は、植付部50を走行部10に上下方向へ昇降可能に連結するためのものであり、走行部10と植付部50との間に設けられている。昇降リンク機構70は、上部リンク71と、下部リンク72と、アーム73と、中間リンク74と、昇降用アクチュエータとを備えている。
【0035】
上部リンク71は、前後方向へ延びるように設けられている。上部リンク71の前端部は走行部10の車体フレーム11に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。上部リンク71の後端部は植付部50の植付フレーム51に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
【0036】
下部リンク72は、前後方に延びるように設けられて、上部リンク71よりも下方に配置されている。下部リンク72は、上部リンク71と平行に並べられている。下部リンク72の前端部は、車体フレーム11に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。下部リンク72の後端部は、植付フレーム51に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
【0037】
アーム73は、上部リンク71と下部リンク72との間に配置されている。アーム73は、下部リンク72の前端部に連結されて、上部リンク71側に向かって突出するように設けられている。
【0038】
中間リンク74は、前後方向へ延びるように設けられて、上部リンク71と下部リンク72との間に配置されている。中間リンク74の前端部は、アーム73の突出端部に回動可能に連結されている。中間リンク74の後端部は、下部リンク72の前後中途部に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
【0039】
昇降用アクチュエータは、本実施形態においては、昇降シリンダ75であり、油圧シリンダで構成されている。昇降シリンダ75は、上部リンク71及び下部リンク72よりも前方に配置されて、車体フレーム11に支持されている。昇降シリンダ75のロッドは、アーム73の突出端部及び中間リンク74の前端部に左右方向の軸線回りに回動可能に連結されている。
【0040】
植付部50が田植機100の上下方向において最下降位置又は最下降位置と最上昇位置との間に配置されている場合に、昇降シリンダ75が短縮したとき、上部リンク71及び下部リンク72はそれぞれの後端部が上方へ移動するように回動する。これにより、植付部50が現在位置から上昇することになる。
【0041】
一方、植付部50が田植機100の上下方向において最上昇位置又は最上昇位置と最下降位置との間に配置されている場合に、昇降シリンダ75が伸長したとき、上部リンク71及び下部リンク72はそれぞれの後端部が下方へ移動するように回動する。これにより、植付部50が現在位置から下降することになる。
【0042】
このような構成において、田植機100の植付作業が開始される際には、操縦者によって操作レバー38が操作されて、植付部50が昇降リンク機構70によってフロート58が圃場面Wに接地するまで下降させられるとともに、エンジン12の動力が複数のロータリケース55及び複数の植付爪56に伝達される。その結果、各ロータリケース55は一方向へ等速回転し、各植付爪56は駆動する。
【0043】
この状態で、田植機100が走行を開始すると、各ロータリケース55が1回転する間に、このロータリケース55に取り付けられた2つの植付爪56がそれぞれ1株分の苗を横送り及び縦送りされる苗載台57上の苗マットから取り出して、フロート58により整地された圃場Gに植え付ける。田植機100の移動中、この植え付けが連続的に行われて、植付作業が実施される。
【0044】
次に、田植機100の動力伝達構造について説明する。
【0045】
図3に示すように、エンジン12の出力軸81は走行ミッション部13の入力軸82にベルト伝動機構を介して連結されている。ここで走行ミッション部13は、静油圧式無段変速装置83と、前車輪変速機構84と、後車輪伝動機構85と、動力取出機構86とを備えている。
【0046】
静油圧式無段変速装置83は、走行ミッション部13の入力軸82に連結されている。前車輪変速機構84は、静油圧式無段変速装置83にギヤ機構を介して連結されるとともに、前車軸16を介して左右の各前車輪15に連結されている。
【0047】
後車輪伝動機構85は、静油圧式無段変速装置83にギヤ機構を介して連結されるとともに、リヤアクスル伝動軸87を介してリヤアクスルケース20内の後車輪変速機構88に連結されている。後車輪変速機構88は、後車軸19を介して左右の各後車輪18に連結されている。
【0048】
動力取出機構86は、静油圧式無段変速装置83にギヤ機構を介して連結されるとともに、第1伝動軸91を介して伝動機構90に連結されている。伝動機構90は、エンジン12から植付部50(ロータリケース55及び植付爪56)に至る動力伝達経路うちの走行ミッション部13よりも下流側に配置され、第2伝動軸92及び第3伝動軸93を介して株間変速部110の入力軸115に連結されている。
【0049】
ここで伝動機構90は伝動クラッチ140を有する。伝動クラッチ140は、第1伝動軸(駆動軸)91と第2伝動軸(従動軸)92との間に設けられ、走行ミッション部13の動力取出機構86よりも前記動力伝達経路の下流側に位置する植付部50への動力を伝達又は遮断可能とする。伝動クラッチ140は、走行ミッション部13よりも前記動力伝達経路の下流側であって、後述の植付クラッチ170よりも前記動力伝達経路の上流側に配置されている。
【0050】
図4に示すように、株間変速部110は、株間変速機構112と、植付クラッチ170と、外部動力取出機構113を有する。この株間変速部110は、植付部50への動力を変速することによって、植付株間を調整するためのものである。
【0051】
株間変速機構112は、複数のギヤ列を入力軸115、出力軸116、カウンター軸117、及びスライド軸118を備えている。株間変速機構112は、操作部35に設けられた株間変速レバー連結され、その操作に応じて変速段を変更させることができるように構成されている。
【0052】
入力軸115は、株間変速ケース114の内外に延びるように設けられている。出力軸116は、株間変速ケース114の内外に延びるように設けられ、入力軸115と同軸線上に配置されている。出力軸116は、植付ミッション部52の入力軸と連結されている。
【0053】
カウンター軸117は、入力軸115及び出力軸116と平行に並べられ、入力軸115及び出力軸116と対向するように配置されている。スライド軸118は、出力軸116に相対回転可能に外嵌され、カウンター軸117と対向するように配置されている。
【0054】
入力軸115とカウンター軸117との間には、複数のギヤ列のうち高低速2段の主変速ギヤ列が介設されている。出力軸116とカウンター軸117との間には、前記複数のギヤ列のうち高低速3段の副変速ギヤ列が介設されている。
【0055】
植付クラッチ170は、スライド軸(駆動軸)118と出力軸(従動軸)116との間に設けられ、動力取出機構86よりも前記動力伝達経路の下流側に位置する植付部50(ロータリケース55及び植付爪56)への動力を伝達又は遮断可能とする。つまり、前記動力伝達構造においては、エンジン12及び走行ミッション部13と植付部50との間には、植付クラッチ170及び伝動クラッチ140の2つのクラッチが設けられている。
【0056】
外部動力取出機構113においては、伝動軸121が入力軸115に連結され、出力軸122が伝動軸121に連結されている。出力軸122は、株間変速ケース114の内部から外部へ突出するように設けられている。田植機100に装着される外部装置(例えば、施肥装置)は、この出力軸122から動力を取り出すことができるようになっている。
【0057】
植付ミッション部52の入力軸は、伝動機構を介して複数の伝動軸135に連結されている。図2に示すように、各伝動軸135は、各植付ケース54内に設けられ、ロータリケース55の植付回転軸137に連結されている。ロータリケース55の植付回転軸137は、植付爪56の駆動軸に連結されている。
【0058】
このような構成により、前記動力伝達構造において、エンジン12からの動力は走行ミッション部13に伝達された後、前車輪15に伝達可能とされる。また、エンジン12の動力は走行ミッション部13に伝達された後、後車輪18に伝達可能とされるとともに、植付部50に伝達可能とされる。エンジン12の動力は植付部50に伝達されたとき、植付ミッション部52から複数のロータリケース55及び複数の植付爪56に伝達可能とされる。
【0059】
そして、本実施形態においては、二つのクラッチ、即ち伝動クラッチ140及び植付クラッチ170が走行ミッション部13と植付ミッション部52との間に設けられている。そのため、二つのクラッチがともに接続状態であれば、エンジン12の動力が植付部50の各ロータリケース55及び各植付爪56に伝達される一方、二つのクラッチのうち少なくとも一方が切断状態であれば、エンジン12の動力が各ロータリケース55及び各植付爪56に伝達されないようになっている。
【0060】
次に、伝動機構90の伝動クラッチ140について説明する。
【0061】
図5、図6、及び図7に示すように、伝動クラッチ140は、本実施形態においては機械式のクラッチ(爪クラッチ)で構成されて、伝動クラッチケース145に収容されている。伝動クラッチケース145は、走行ミッション部13の側部近傍に設けられている。但し、伝動クラッチケース145は、株間変速部110の株間変速ケース114と一体的に構成してもよい。
【0062】
伝動クラッチ140は、本実施形態においては、第1クラッチ形成体(駆動側クラッチ形成体)141及び第2クラッチ形成体(従動側クラッチ形成体)142を有する伝動クラッチ本体と、伝動クラッチ付勢部材143とを備えている。伝動クラッチ140は、第1伝動軸(駆動軸)91と第2伝動軸(従動軸)92との間に設けられている。第2伝動軸92は、第1伝動軸91よりも前記動力伝達経路の下流側に配置されている。
【0063】
伝動クラッチ本体のうち第1クラッチ形成体141は爪部141aを有する。第1クラッチ形成体141は、第1伝動軸91に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動不能に外嵌されている。第1伝動軸91と第2伝動軸92とは、同軸線上に配置されて、相対回転可能に連結されている。
【0064】
伝動クラッチ本体のうち第2クラッチ形成体142は爪部142a及び係合部142bを有する。第2クラッチ形成体142は、第2伝動軸92に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動可能に外嵌されて、爪部142aが第1クラッチ形成体141の爪部141aと対向するように配置されている。
【0065】
第2クラッチ形成体142の爪部142aは、第2クラッチ形成体142が第1クラッチ形成体141に近づく方向へ移動したとき、第1クラッチ形成体141の爪部141aと係合可能とされている。第2クラッチ形成体142の爪部142aは、第2クラッチ形成体142が第1クラッチ形成体141から離れる方向へ移動したとき、第1クラッチ形成体141の爪部141aとの係合状態を解除可能とされている。
【0066】
第2クラッチ形成体142の係合部142bは、爪部142aよりも動力伝達経路の下流側に配置されている。係合部142bは、凹状の溝として第2クラッチ形成体142の周面に形成され、その内部に後述する連動機構200の伝動クラッチ側連動部材210を係合させることができるようになっている。
【0067】
伝動クラッチ付勢部材143はスプリング等で構成されている。伝動クラッチ付勢部材143は、第2クラッチ形成体142よりも前記動力伝達経路の下流側に配置されて、第2伝動軸92に外嵌されている。伝動クラッチ付勢部材143は、第2クラッチ形成体142の爪部142aが第1クラッチ形成体141の爪部141aと係合するように、当該第2クラッチ形成体142を付勢する。
【0068】
このような構成において、伝動クラッチ140が図5に示すように切断状態である場合に外部から操作力を受けなければ、第2クラッチ形成体142が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって移動して、図6及び図7に示すように第2クラッチ形成体142の爪部142aが第1クラッチ形成体141の爪部141aと係合する。これにより、伝動クラッチ140が接続状態になって、動力が第1伝動軸91から第2伝動軸92に伝達可能となる。
【0069】
一方、図6及び図7に示すように伝動クラッチが接続状態である場合に、連動機構200の動作に応じて、第2クラッチ形成体142が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力に抗して移動したとき、図5に示すように第2クラッチ形成体142の爪部142aと第1クラッチ形成体141の爪部141aとの係合が解除される。これにより、伝動クラッチ140が接続状態から切断状態に切り替えられて、動力が第1伝動軸91から第2伝動軸92に伝達されなくなる。
【0070】
次に、株間変速部110の植付クラッチ170について説明する。
【0071】
植付クラッチ170は、接続状態から切断状態に移行される際には、植付爪56が圃場面Wや苗載台57に接触する位置で回転停止されないように、植付爪56を後述する所定の上部停止位置(基準位置)まで回動させつつ動力伝達を遮断することができるように構成されている。具体的には、本実施形態においては、図8に示すように、植付クラッチ170は、第3クラッチ形成体(駆動側クラッチ形成体)173及び第4クラッチ形成体(従動側クラッチ形成体)174を有する植付クラッチ本体と、カム体175と、植付クラッチ付勢部材177とを備えている。植付クラッチ170には、植付クラッチ作動部材176を有する連動機構180が設けられている。植付クラッチ170は株間変速ケース114に収容されている。
【0072】
植付クラッチ本体のうち第3クラッチ形成体173は、伝動方向上流側に配置され、その伝動方向上流側から回転動力が入力されるように構成されている。第3クラッチ形成体173は爪部を有する。第3クラッチ形成体173は、スライド軸118の後端部に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動不能に外嵌されている。
【0073】
植付クラッチ本体のうち第4クラッチ形成体174は、伝動方向下流側に配置され、植付爪56に作動連結された状態で第3クラッチ形成体173に対して係脱可能に構成されている。第4クラッチ形成体174は爪部及び連結部を有する。第4クラッチ形成体174は、出力軸116に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動可能に外嵌され、爪部が第3クラッチ形成体173の爪部と対向するように配置されている。連結部は、爪部よりも前記動力伝達経路の下流側に配置されている。
【0074】
第4クラッチ形成体174の爪部は、第4クラッチ形成体174が第3クラッチ形成体173に近づく近接方向へ移動したとき、第3クラッチ形成体173の爪部と係合可能とされている。第4クラッチ形成体174の爪部は、第4クラッチ形成体が第3クラッチ形成体173から離れる離間方向へ移動したとき、第3クラッチ形成体173の爪部との係合状態を解除可能とされている。
【0075】
カム体175は、植付クラッチ作動部材176からの駆動力(クラッチ切断操作力)を受けて第4クラッチ形成体174(出力軸116)を軸線回りに所定位置(即ち、前記出力軸116に作動連結された前記植付爪56を後述の上部停止位置に位置させる位置)まで回転させつつ第3クラッチ形成体173(スライド軸118)から離間させるカム溝175aを有する。本実施形態において、カム溝175aは、カム体175の外周面の周方向の所定範囲に形成され、傾斜面からなるカム面を有している。なお、カム体175は、第4クラッチ形成体174の連結部に相対回転不能且つその軸線方向へ摺動不能に外嵌されて、この第4クラッチ形成体174と連結されているが、第4クラッチ形成体174と一体的に形成してもよい。
【0076】
植付クラッチ付勢部材177はスプリング等で構成されている。植付クラッチ付勢部材177は、第4クラッチ形成体174よりも前記動力伝達経路の下流側に配置されて、出力軸116に外嵌されている。植付クラッチ付勢部材177は、第4クラッチ形成体174の爪部が第3クラッチ形成体173の爪部と係合するように、当該第4クラッチ形成体174を付勢する。
【0077】
植付クラッチ作動部材176は、本実施形態においてはソレノイド式のアクチュエータであり、カム体175のカム溝175a(第4クラッチ形成体174)にクラッチ切断操作力を付加し得るものである。植付クラッチ作動部材176には、作動片178が設けられている。作動片178は、カム体175と対向するように配置され、植付クラッチ作動部材176からのクラッチ切断操作力によりカム体175に対して進退可能とされている。即ち、作動片178は、カム体175のカム溝175aにクラッチ切断操作力を付加するように、カム溝175aと係合する進出位置まで進出可能とされている。作動片178は、前記進出位置からカム溝175aとの係合を解除される後退位置まで後退可能とされている。
【0078】
このような構成において、植付クラッチ作動部材176の作動片178が前記後退位置にある場合に、カム体175のカム溝175aが植付クラッチ作動部材176からクラッチ切断操作力を受けないとき、第4クラッチ形成体174が植付クラッチ付勢部材177の付勢力によって前記近接方向へ移動する。この際、作動片178はカム体175に接触しない。その結果、第4クラッチ形成体174の爪部が第3クラッチ形成体173の爪部と係合して、植付クラッチ170が接続状態となる。したがって、動力が株間変速部110から植付部50(ロータリケース55及び植付爪56)へ伝達される。
【0079】
ここで、カム体175のカム溝175aが植付クラッチ作動部材176からクラッチ切断操作力を受けたときであっても、必ずしも植付クラッチ170が接続状態から切断状態へ移行しないように、植付クラッチ作動部材176のクラッチ切断操作力が設定されている。
詳しく説明すると、従動側の第4クラッチ形成体174(出力軸116)が駆動側の第3クラッチ形成体173(スライド軸118)によって軸線回りに回転されている状態においてはカム体175のカム溝175aが植付クラッチ作動部材176からクラッチ切断操作力を受けると植付クラッチ170が切断状態となり、第3クラッチ形成体173が回転停止している状態においてはカム体175のカム溝175aが植付クラッチ作動部材176からクラッチ切断操作力を受けたとしても植付クラッチ170が接続状態を維持する。即ち、第3クラッチ形成体173の回転により第4クラッチ形成体174が軸線回りに回転している状態では、第4クラッチ形成体174を第3クラッチ形成体173から離間させつつ回転させることができるが、第3クラッチ形成体173が回転していない状態では第4クラッチ形成体174を第3クラッチ形成体173から離間させつつ回転させることはできない。
【0080】
そして、このように第4クラッチ形成体174の爪部が第3クラッチ形成体173の爪部に係合している場合に、第3クラッチ形成体173に回転動力が伝動方向上側から入力されているとき、植付クラッチ作動部材176の作動片178が後退位置からカム体175のカム溝175aに対して進出し、作動片178とカム溝175aとが係合すると、作動片178が進出するに従って、カム体175及び第4クラッチ形成体174が植付クラッチ付勢部材177の付勢力に抗して前記離間方向へ移動しつつ軸線回りに一定量だけ回転する。これにより、第4クラッチ形成体174の爪部と第3クラッチ形成体173の爪部との係合が解除されて、植付クラッチ170が切断動作を終了する。すなわち、植付クラッチ170が接続状態から切断状態に切り替えられる。したがって、動力が株間変速部110から植付部50へ伝達されなくなる。
【0081】
また、この際には、出力軸116の一定量の回転によって、出力軸116(第4クラッチ形成体174)に作動連結された植付回転軸137が出力軸116の回転量に応じて回転する。その結果、ロータリケース55が回転し、この回転に伴って植付爪56が駆動しつつ上部停止位置まで移動して停止する。こうして、植付クラッチ170が接続状態から切断状態に切り替えられる際には、植付爪56が植付クラッチ170の切断動作開始時にどのような位置にあろうと上部停止位置まで戻るようになっている。
【0082】
ここで、前記上部停止位置とは、あらかじめ設定された植付爪56の基準位置であり、ロータリケース55の回転が停止した際に植付爪56が圃場面Wや苗載台57と接触しない位置である。植付爪56は上部停止位置にある場合、例えば図2に示すように苗載台57の下端部とフロート58の上面との間に位置することになる。
【0083】
好ましくは、植付クラッチ作動部材176が駆動されてから作動片178がカム体175(第4クラッチ形成体174)に作用するまでの間に時間的な遅れが生じるように、植付クラッチ作動部材176と作動片178との間に融通機構が介挿される。
この融通機構によれば、植付クラッチ作動部材176の駆動開始後に即座に作動片178がカム体175に作用しないため、第3クラッチ形成体173が回転停止している状態(例えば、田植機100の発進直前の停止状態)で植付クラッチ作動部材176が駆動された場合に、植付クラッチ作動部材176が回転停止状態のカム体175に付加する駆動力を可及的に減少させることができる。従って、植付クラッチ作動部材176にかかる負荷の低減を図りつつ、作動片178をカム体175に有効に作用させることが可能となる。
【0084】
具体的には、本実施形態においては、図8に示すように、前記融通機構はバネ179で構成されている。植付クラッチ170が接続状態から切断状態へ移行する際、例えば、第3クラッチ形成体173が回転停止している状態であれば、バネ179は次のように作用することになる。
即ち、植付クラッチ作動部材176が植付クラッチ切断方向へ駆動されると、植付クラッチ作動部材176の駆動によってバネ179を介して作動片178が押動されて、カム体175に接触する。植付クラッチ作動部材176が植付クラッチ切断方向へ駆動され続けると、バネ179が所定量だけ圧縮される。この状態では、作動片178はカム体175に接触したまま移動されない。
そして、バネ179が所定量だけ圧縮されて保有弾性(バネ179の付勢力)が高まると、バネ179が所定量だけ圧縮された状態で植付クラッチ作動部材176の植付クラッチ切断方向への駆動力がクラッチ切断操作力としてバネ179を介して作動片178に伝達されて、この作動片178が押される。この状態で、第4クラッチ形成体174(第3クラッチ形成体173)が回動して、作動片178がカム体175のカム溝175aに係合すると、作動片178はカム溝175aの周方向の端部に至るまで当該カム溝175aのカム面に沿って移動する。この作動片178の移動により第4クラッチ形成体174が第3クラッチ形成体173から離間しつつ軸線回りに回動し、その結果、植付クラッチ170が切断され、植付爪56が上部停止位置まで移動する。植付爪56が上部停止位置まで移動した後、植付クラッチ作動部材176がさらにクラッチ切断方向へ駆動されると、バネ179が最大圧縮状態となって、作動片178が移動されなくなる。
【0085】
また、前記融通機構は、例えば、カム192で構成することも可能である。
図13(a)に、植付クラッチ170が接続状態である場合における前記融通機構の状態を示す。図13(b)に、植付クラッチ170が切断状態である場合における前記融通機構を示す。
【0086】
この場合、図13(a)及び(b)に示すように、ソレノイド式のアクチュエータである植付クラッチ作動部材176の代わりに、ワイパーモータ191が用いられる。そして、このワイパーモータ191と作動片178との間に、大径部192aと小径部192bとを有し、回動軸194回りに回動可能とされたカム192と、ワイパーモータ191の駆動軸191aに噛合され、且つ回動軸194回りに回動可能とされたギヤ195と、一端部196aがカム192のカム面にバネ(図示せず)により押圧可能とされ、他端部196bが作動片178に連結された回動アーム196であって、回動軸194と平行な支軸197回りに回動可能とされた回動アーム196とが備えられる。回動アーム196は、略L字状をなすように一端部196aと他端部196bの間で屈曲又は湾曲され、その屈曲部分で支軸197に支持される。
【0087】
このような構成において、植付クラッチ170が接続状態から切断状態へ移行する際、例えば、第3クラッチ形成体173が回転停止している状態であれば、カム192は次のように作用することになる。
即ち、図13(a)に示す状態で前記ワイパーモータ191が植付クラッチ切断方向へ駆動されると、その駆動軸191aの回動によりギヤ195が図13(a)の矢印方向へ回動軸194回りに回動し、これに伴ってカム192もギヤ195と同一方向に回動する。これにより、回動アーム196の一端部とカム192の大径部192aとの係合が解除され、前記バネによる付勢力によって回動アーム196が回動できる状態となる。回動アーム196は支軸197回りに図13(a)の矢印方向へ回動し、この回動アーム196の回動により作動片178が押動されて、カム体175に接触する。
ここで、第4クラッチ形成体174(第3クラッチ形成体173)が回転停止している状態のため、作動片178がそれ以上は移動されなくなって、回動アーム196の一端部196aがカム192と係合されない状態となる。この状態から第4クラッチ形成体174が回動して、作動片178がカム溝175aと係合すると、前記バネによる付勢力を利用し作動片178はカム溝175aの周方向の端部に至るまで当該カム溝175aのカム面に沿って移動する。この作動片178の移動により第4クラッチ形成体174が第3クラッチ形成体173から離間しつつ軸線回りに回動し、その結果、植付クラッチ170が切断され、植付爪56が上部停止位置まで移動する。植付爪56が上部停止位置まで移動したときには、図13(b)に示すように、回動アーム196の一端部196aが小径部192bと係合した状態となり、作動片178が移動されなくなる。
【0088】
なお、カム192が図13(b)に示す回動位置にある状態で前記ワイパーモータ191が植付クラッチ接続方向へ駆動される際には、植付クラッチ作動部材176のクラッチ接続方向への駆動力が大径部192aと小径部192bとの間の押動面192cを介して回動アーム196、延いては作動片178に伝達されるため、前記植付クラッチ作動部材176が駆動されてから作動片178がカム体175のカム溝175aとの係合を解除するように移動するまでの間に時間的な遅れはほとんど生じることがない。
【0089】
次に、伝動クラッチ140及び植付クラッチ170を接続状態又は切断状態にするための構造について説明する。
【0090】
図5、図6、図7、図8、図9、図10、図11、及び図12に示すように、田植機100は、連動機構200と牽制機構250とを備える。
【0091】
連動機構200は、植付クラッチ170の伝動状態(接続状態と切断状態)の切替に応じて伝動クラッチ140の伝動状態(接続状態と切断状態)が切り替わるように、植付クラッチ170及び伝動クラッチ140間を作動連結する。
【0092】
本実施形態において、連動機構200は、基本的に、植付クラッチ170が切断状態に切り替えられるとき、伝動クラッチ140を切断状態に切り替え、且つ、植付クラッチ170が接続状態に切り替えられるとき、伝動クラッチ140を接続状態に切り替えられるように、植付クラッチ170及び伝動クラッチ140間を作動連結する。
【0093】
図5、図6及び図7に示すように、連動機構200は、伝動クラッチ側連動部材210と、植付クラッチ側連動部材220とを備える。
【0094】
伝動クラッチ側連動部材210は、伝動クラッチ140の伝動状態の切替に応じて移動する。伝動クラッチ側連動部材210は、伝動クラッチ側第1連動部材211と、伝動クラッチ側第2連動部材212とを有する。
【0095】
伝動クラッチ側第1連動部材211は、伝動クラッチケース145内で第2クラッチ形成体142近傍に設けられている。伝動クラッチ側第1連動部材211の長手方向の一端部は、第2クラッチ形成体142の係合部142bに係合されている。伝動クラッチ側第1連動部材211の長手方向の他端部は、第1基準軸241に連結されている。第1基準軸241は、第2伝動軸92と略直交する方向へ延びるように設けられ、伝動クラッチケース145に回動可能に支持されている。
【0096】
こうして、伝動クラッチ側第1連動部材211は、第1基準軸241回りにクラッチ接続方向又はクラッチ切断方向へ揺動可能とされている。ここで、クラッチ接続方向とは第1伝動軸91及び第2伝動軸92の軸線方向のうち第2クラッチ形成体142が第1クラッチ形成体141に近づく方向であり、クラッチ切断方向とは第1伝動軸91及び第2伝動軸92の軸線方向のうち第2クラッチ形成体142が第1クラッチ形成体141から離れる方向である。
【0097】
伝動クラッチ側第2連動部材212は、伝動クラッチケース145外で伝動クラッチ側第1連動部材211に沿って延びるように設けられている。伝動クラッチ側第2連動部材212の長手方向の一端部は第1基準軸241に連結されている。伝動クラッチ側第2連動部材212の長手方向の他端部は自由端とされている。
【0098】
こうして、伝動クラッチ側第2連動部材212は、伝動クラッチ側第1連動部材211と一体的に、第1基準軸241回りにクラッチ接続方向又はクラッチ切断方向へ揺動可能とされている。
【0099】
また、伝動クラッチ側第2連動部材212の自由端側である他端部には、第1基準軸241の軸線方向へ延びる係合突起215が設けられている。
【0100】
植付クラッチ側連動部材220は、植付クラッチ170の伝動状態の切替に応じて移動する。植付クラッチ側連動部材220は、植付クラッチ側第1連動部材221と、植付クラッチ側第2連動部材222と、植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223とを有する。
【0101】
植付クラッチ側第1連動部材221は、伝動クラッチケース145外で伝動クラッチ側第2連動部材212よりもクラッチ切断方向側に配置されている。植付クラッチ側第1連動部材221の長手方向の一端部は第1基準軸241に相対回転可能に外嵌されている。植付クラッチ側第1連動部材221の長手方向の他端部は伝動クラッチ側第2連動部材212の先端部付近に配置されている。
【0102】
こうして、植付クラッチ側第1連動部材221は、第1基準軸241回りにクラッチ接続方向又はクラッチ切断方向へ揺動可能とされている。本実施形態においては、構造を簡略化するために、植付クラッチ側第1連動部材221を第1基準軸241回りに揺動可能としているが、第1基準軸241と平行な第2基準軸を設けて、植付クラッチ側第1連動部材221をこの第2基準軸回りに揺動可能としてもよい。
【0103】
植付クラッチ側第2連動部材222は係合面222aを有する。植付クラッチ側第2連動部材222は、概ね第2伝動軸92の軸線方向へ延びるように設けられている。植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向の一端部は、植付クラッチ側第1連動部材221の先端部に第1基準軸241と平行な第3基準軸243を介して連結されている。植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向の他端部は、自由端とされ、伝動クラッチ側第2連動部材212の先端部近傍であって係合突起215よりも第1基準軸241から離れた位置に配置されている。
【0104】
そして、植付クラッチ側第2連動部材222は、第3基準軸243回りに伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215に近づく一方側、又は係合突起215から離れる他方側へ揺動可能とされている。
【0105】
係合面222aは、押動面222bとカム面222cとを有する。係合面222aは、植付クラッチ側第2連動部材222の一端部と他端部との間であって、植付クラッチ側第2連動部材222の係合突起215と対向する端面に長手方向へわたって形成されて、この係合突起215と係合可能とされている。
【0106】
押動面222bは、植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向中途部に備えられている。押動面222bは、伝動クラッチ側連動部材210が第1基準軸241回りにクラッチ接続方向へ揺動している場合に、係合面222aが係合突起215に係合された状態で、植付クラッチ側第1連動部材221が第1基準軸241回りにクラッチ切断方向へ揺動されると、係合突起215を介して伝動クラッチ側連動部材210を第1基準軸241回りにクラッチ切断方向へ押動することができるように構成されている。
【0107】
カム面222cは、植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向の他端部に備えられている。カム面222cは、植付クラッチ側第2連動部材222が第3基準軸243回りに他方側へ揺動されることによって植付クラッチ170が切断状態でありながら伝動クラッチ140が接続状態とされている際に係合突起215と係合することができるように構成されている。
【0108】
植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223は、植付クラッチ側第2連動部材222の長手方向の中途部と、植付クラッチ側第1連動部材221のうち第3基準軸243よりも第1基準軸241に近い部分との間に介設されている。この植付クラッチ側第2連動部材222はスプリング等で構成されている。
【0109】
植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223は、伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215が植付クラッチ側第2連動部材222の係合面222aと係合するように、植付クラッチ側第2連動部材222を第3基準軸243回りに一方側へ付勢する。
【0110】
また、植付クラッチ側連動部材220と植付クラッチ作動部材176との間には、リンク部材225が介設されている。リンク部材225は、植付クラッチ作動部材176(植付クラッチ170)の接続動作に連動して、植付クラッチ側第2連動部材222をクラッチ接続方向へ移動させることができるように構成されている。リンク部材225は、植付クラッチ作動部材176(植付クラッチ170)の切断動作に連動して、植付クラッチ側第2連動部材222をクラッチ切断方向へ移動させることができるように構成されている。
【0111】
そして、植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210は、連係状態と解除状態とをとり得るように構成されている。前記連係状態は、植付クラッチ170の接続状態から切断状態への切替動作に応じて伝動クラッチ140が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力に抗して接続状態から切断状態へ切り替わるように互いに連係された状態である。前記解除状態は、植付クラッチ170の伝動状態の如何に拘わらず伝動クラッチ140が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって接続状態をとることを許容するように互いの連係状態が解除された状態である。
【0112】
牽制機構250は、植付クラッチ170がクラッチ切断状態のままで伝動クラッチ140がクラッチ接続状態となることを許容するように、連動機構200の作用を禁止する。そして、牽制機構250は、植付部50の上昇位置から下降位置への下降動作に応じて植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210が前記解除状態となるように、植付部50及び連動機構200間を作動連結する。
【0113】
図9、図10、及び図11に示すように、牽制機構250は、植付部側第1連動部材251と、植付部側第2連動部材252と、長尺の連結部材253とを備える。
【0114】
植付部側第1連動部材251は、昇降リンク機構70の下部リンク72の前端部付近に設けられ、下部リンク72に沿って延びるように設けられている。植付部側第1連動部材251の長手方向の一端部は、下部リンク72の前端部に連結する第4基準軸244に連結されている。植付部側第1連動部材251の長手方向の他端部は自由端とされている。第4基準軸244は、左右方向へ延びるように設けられている。
【0115】
こうして、植付部側第1連動部材251は、植付部50の上昇動作及び下降動作に連動して第4基準軸244回りに上昇方向及び下降方向へ揺動可能とされている。すなわち、植付部側第1連動部材251は、下部リンク72が上昇方向(上方)へ回動するときに上昇方向へ揺動し、下部リンク72が下降方向(下方)へ回動するときに下降方向へ揺動するようになっている。
【0116】
植付部側第2連動部材252は接触部252a及び連結部252bを有する。植付部側第2連動部材252は主に植付部側第1連動部材251よりも植付部50に近い側に設けられている。植付部側第2連動部材252の長手方向の中央部は支持フレーム271に第4基準軸244と平行な第5基準軸245を介して支持され、第5基準軸245回りに揺動可能とされている。支持フレーム271は、車体フレーム11に固定されている。
【0117】
植付部側第2連動部材252の長手方向の一端部は、植付部側第1連動部材251の他端部と対向するように配置されている。植付部側第2連動部材252の長手方向の他端部は、前後方向において第5基準軸245を挟んで前記一端部と反対側に配置されている。
【0118】
接触部252aは、植付部側第2連動部材252の一端部に設けられている。接触部252aは、植付部側第1連動部材251の前記他端部と上下方向において重なるように配置され、植付部側第1連動部材251が揺動するときにその他端部と一時的に接触可能とされている。
【0119】
連結部252bは、植付部側第2連動部材252の前記他端部に設けられている。連結部252bと、支持フレーム271のうち連結部252bよりも植付部50に近い側に位置する部分との間には、中立位置付勢部材255が介設されている。中立位置付勢部材255はスプリング等で構成されている。
【0120】
中立位置付勢部材255は、植付部側第2連動部材252が第5基準軸245回りに揺動して中立位置に復帰するように、植付部側第2連動部材252を付勢する。ここでの中立位置とは、植付部側第2連動部材252の一端部と他端部とが上下方向において略同一の高さ位置なって、長尺の連結部材253が植付部側第2連動部材252を引っ張らない位置である。
【0121】
こうして、植付部側第2連動部材252は、第5基準軸245回りに揺動可能とされ、植付部側第1連動部材251の第4基準軸244回り上昇方向及び下降方向への揺動に応じて第5基準軸245回りに上昇方向及び下降方向へ揺動して、その一方向への揺動時に接触部252aと連結部252bとを上下反対方向へ移動させることができるようになっている。また、植付部側第2連動部材252は、植付部側第1連動部材251とは独立して第5基準軸245回りに揺動可能とされ、中立位置に復帰できるようになっている。
【0122】
ここでは、植付部側第2連動部材252が第5基準軸245回りに上昇方向へ揺動するとき、接触部252aが上昇方向へ移動し、且つ連結部252bが下降方向へ移動する。植付部側第2連動部材252が第5基準軸245回りに下降方向へ揺動するとき、接触部252aが下降方向へ移動し、且つ連結部252bが上昇方向へ移動する。
【0123】
長尺の連係部材253は、ワイヤで構成され、植付クラッチ側第2連動部材222と植付部側第2連動部材252との間に介設されている。連係部材253の一端部は、植付クラッチ側第1連動部材221の他端部にて支持されながら、この支持部側から植付クラッチ側第2連動部材222の中途部に連結されている。連係部材253の他端部は、植付部側第2連動部材252よりも下方で支持フレーム271にて支持されながら、この支持部側からその上方に位置する植付部側第2連動部材252の連結部252bに連結されている。
【0124】
また、図12に示すように、田植機100は、植付クラッチ170を接続状態又は切断状態に切り替えるために、制御装置260を備えている。
【0125】
制御装置260は、演算装置(CPU)と記憶装置とを備えている。記憶装置は、例えば、制御プログラムや制御データ等を記憶するROM、設定値等を電源を切っても失われない状態で保存し且つ前記設定値等が書き換え可能とされたEEPROM、及び前記演算部による演算中に生成されるデータを一時的に保持するRAM等を含む記憶部を有する。
【0126】
制御装置260は、上昇操作検出装置261、下降操作検出装置262、植付クラッチ接続操作検出装置263及び植付クラッチ切断操作検出装置264と接続されるとともに、最上昇検出装置265及び最下降検出装置266と接続されている。制御装置260は、また植付クラッチ170の植付クラッチ作動部材176及び昇降シリンダ75の電磁弁268と接続されている。
【0127】
上昇操作検出装置261は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。上昇操作検出装置261は、操作レバー38に対して植付部50を上昇させるための上昇操作が行われたときに、この上昇操作を検出するように構成される。
【0128】
下降操作検出装置262は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。下降操作検出装置262は、操作レバー38に対して植付部50を下降させるための下降操作が行われたときに、この下降操作を検出するように構成される。
【0129】
植付クラッチ接続操作検出装置263は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。植付クラッチ接続操作検出装置263は、操作レバー38に対して植付クラッチ170を接続するための接続操作が行われたときに、この接続操作を検出するように構成される。
【0130】
植付クラッチ切断操作検出装置264は、例えばリミットスイッチで構成されて、操作レバー38の基端部に設けられる。植付クラッチ切断操作検出装置264は、操作レバー38に対して植付クラッチ170を切断するための切断操作が行われたときに、この接続操作を検出するように構成される。
【0131】
最上昇検出装置265は、例えばロータリポテンショメータで構成され、昇降リンク機構70に設けられる。最上昇検出装置265は、昇降リンク機構70の動作により植付部50が走行部10に対して最上昇位置まで移動したことを検出するように構成される。この載上昇位置は、任意に設定され得る。
【0132】
最下降検出装置266は、例えばロータリポテンショメータで構成され、昇降リンク機構70に設けられる。最下降検出装置266は、昇降リンク機構70の動作により植付部50が走行部10に対して最下降位置まで移動したことを検出するように構成される。この最下降位置は、フロート58が圃場面Wに接地する植付作業位置である。
【0133】
制御装置260は、上昇操作検出装置261によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が上昇操作されたと判定した場合、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降シリンダ75を収縮させる。これにより、植付部50が走行部10に対して上昇する。
【0134】
制御装置260は、下降操作検出装置262によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が下降操作されたと判定した場合、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降シリンダ75を伸長させる。これにより、植付部50が走行部10に対して下降する。
【0135】
制御装置260は、植付クラッチ接続操作検出装置263によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が接続操作されたと判定した場合、植付クラッチ170の植付クラッチ作動部材176に制御信号を出力して、作動片178を後退位置まで後退させる。これにより、植付クラッチ170が接続状態となる。
【0136】
制御装置260は、植付クラッチ切断操作検出装置264によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が接続操作されたと判定した場合、植付クラッチ170の植付クラッチ作動部材176に制御信号を出力して、作動片178を進出位置まで進出させる。これにより、植付クラッチ170が切断状態となる。
【0137】
制御装置260は、植付部50が上昇しているとき、最上昇検出装置265によって検出された検出信号に基づいて植付部50が最上昇位置に至ったと判定した場合、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降シリンダ75の収縮動作を停止させる。これにより、植付部50の上昇が停止して、植付部50が最上昇位置に位置することになる。
【0138】
制御装置260は、植付部50が下降しているとき、最下降検出装置266によって検出された検出信号に基づいて植付部50が最下降位置に至ったと判定した場合、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降シリンダ75の伸長動作を停止させる。これにより、植付部50の下降が停止して、植付部50が最下降位置に位置することになる。
【0139】
また、制御装置260は、植付部50が最下降位置に位置し且つ植付クラッチ170が接続されている状態で、上昇操作検出装置261によって検出された検出信号に基づいて操作レバー38が上昇操作されたと判定した場合には、電磁弁268に制御信号を出力して、昇降シリンダ25を収縮させるとともに、植付クラッチ作動部材176に制御信号を出力して、作動片178を進出位置まで進出させる。これにより、植付部50が上昇し且つ植付クラッチ170が切断される。
【0140】
このような構成において、例えば、次のように伝動クラッチ140及び植付クラッチ170それぞれの接続状態と切断状態とが植付部50の昇降動作に関連して切り替えられる。
【0141】
田植機100は直進走行しながら植付作業を行っているときに、畔際に至ると植付作業を一旦停止して方向転換のために旋回し、旋回後に再び直進走行しながら植付作業を行う。このように田植機100が旋回する場合、その旋回開始時に操縦者によって操作レバー38が上昇操作される。この上昇操作によって、植付部50が最下降位置から上昇させられるとともに、植付クラッチ170が接続状態から図8に示す切断状態に切り替えられる。
【0142】
そして、植付クラッチ170の接続状態から切断状態への切替に連動して、伝動クラッチ140が連動機構200により図6に示す接続状態から図5に示す切断状態に切り替えられる。この際、連動機構200において、植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210は連係状態となっている。
【0143】
具体的には、植付クラッチ170が切断動作を開始すると、連動機構200が作動して、伝動クラッチ140が切断動作を開始する。連動機構200において、植付クラッチ作動部材176の動作によって植付クラッチ側第2連動部材222がリンク部材225を介してクラッチ切断方向へ引っ張られて移動する。
【0144】
この際には植付クラッチ側第2連動部材222の係合面222aのうち押動面222bが伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215と係合していることから、植付クラッチ側第2連動部材222の移動によって伝動クラッチ側連動部材210(伝動クラッチ側第1連動部材211及び伝動クラッチ側第2連動部材212)が第1基準軸241回りにクラッチ切断方向へ揺動する。
【0145】
そのため、伝動クラッチ140の第2クラッチ形成体142がクラッチ切断方向へ移動し、第2クラッチ形成体142の爪部142aと第1クラッチ形成体141の爪部141aとの係合が解除される。これにより、伝動クラッチ140の切断動作が終了し、伝動クラッチ140が接続状態から切断状態に切り替えられる。
【0146】
ここで、伝動クラッチ140は、植付クラッチ作動部材176の作動片178が切断動作を行うために例えば若干量だけ動作した時点で切断状態となるようにリンク部材225で植付クラッチ170と作動連結されて、その切断動作が植付クラッチ170の切断動作よりも早く終了するように構成されている。
【0147】
伝動クラッチ140の切断動作が終了したとき、植付クラッチ170の第3クラッチ形成体173に回転動力が入力されないことから、第3クラッチ形成体173が停止状態となって、植付クラッチ作動部材176がクラッチ切断操作力をカム体175のカム溝175aに付加しようとしても、第3クラッチ形成体173に係合している第4クラッチ形成体174が軸線回りに回転しない。よって、植付クラッチ170の切断動作が進まず、出力軸116は前述のように一定量回転しない。ここでは、植付クラッチ作動部材176のクラッチ切断操作力が前述の通り設定されているため、カム体175のカム溝175aがこの操作力を受けても第4クラッチ形成体174(出力軸116)は第3クラッチ形成体173(スライド軸118)に対して離間しつつ回転しない。そのため、ロータリケース55は植付爪56が前記上部停止位置まで移動するように回動せず、ひいてはこのロータリケース55に取り付けられた植付爪56は、伝動クラッチ140の切断時点における位置から移動しない。
【0148】
したがって、田植機100の旋回のために植付部50が最下降位置から上昇させられるとき、植付爪56が苗を苗載台57上の苗マットから取り出して保持している場合でも、可及的速やかに植付爪56が実質的に停止した状態となって移動することもないので、操作レバー38の操作後に田植機100が旋回のために移動を開始しても、苗が上昇中の植付部50の植付爪56から放出されない。この苗は、植付部50の上昇時は植付爪56に保持される。
【0149】
植付部50の上昇中、牽制機構250において植付部側第1連動部材251が図9に示す状態から下部リンク72と一体的に第4基準軸244回りに上昇方向へ揺動し、この植付部側第1連動部材251の他端部が植付部側第2連動部材252の接触部252aに下方から接触する。植付部側第1連動部材251の他端部は、植付部50の上昇に従って接触部252aを押し上げるように植付部側第2連動部材252を揺動させる。
【0150】
そして、植付部50が所定の高さ位置まで上昇すると、植付部側第1連動部材251の前記他端部と接触部252aとの接触状態が解除される。その後、植付部側第2連動部材252が前記中立位置に戻り、図10に示すように植付部側第1連動部材251の前記他端部は接触部252aよりも上方に位置することになる。
【0151】
植付部側第2連動部材252の接触部252aが植付部側第1連動部材251の他端部により押し上げられるとき、植付部側第2連動部材252が揺動して、その連結部252bが下降方向へ移動する。その結果、連係部材253は、連結部252bによって下降方向へ押されるが、連結部252bと植付クラッチ側第2連動部材222との間で弛む。
【0152】
そのため、植付クラッチ側第2連動部材222は植付部側第2連動部材252に連係して動作せず、伝動クラッチ側第2連動部材212及び伝動クラッチ側第1連動部材211も動作しない。したがって、伝動クラッチ140は、植付部50の上昇時に、連動機構200を介して植付部50の上昇の影響を受けず、伝動状態を変えずに保持する。
【0153】
このように操作レバー38が上昇操作された後、田植機100の旋回が終了したとき、植付作業を再開するために、操縦者によって操作レバー38が下降操作される。この下降操作によって、植付部50が最上昇位置から最下降位置まで下降させられる。
【0154】
植付部50の下降途中、牽制機構250において植付部側第1連動部材251が図10に示す状態から下部リンク72と一体的に第4基準軸244を支点として下降方向へ揺動する。植付部50が設定高さ位置に至ると、植付部側第1連動部材251の他端部が植付部側第2連動部材252の接触部252aに上方から接触する。図11に示すように、植付部側第1連動部材251の他端部は、植付部50の下降に従って植付部側第2連動部材252の接触部252aを押し下げるように、植付部側第2連動部材252を揺動させる。
【0155】
そして、植付部50が前記設定高さ位置から所定量だけ下降すると、植付部側第1連動部材251の他端部と植付部側第2連動部材252の接触部252aとの接触状態が解除される。その後、植付部側第2連動部材252が前記中立位置に復帰し、図9に示すように植付部側第1連動部材251の他端部が接触部252aよりも下方に位置することになる。前記設定高さ位置は、植付部50がこの位置になれば植付爪56が圃場Gに近づくように適宜設定され得る。
【0156】
図11に示すように、植付部側第2連動部材252の接触部252aが植付部側第1連動部材251の他端部により押し下げられるとき、植付部側第2連動部材252が揺動して、その連結部252bが上昇方向へ移動する。その結果、連係部材253が連結部252bによって上昇方向へ引っ張られ、これに連動して植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210が解除状態となる。
【0157】
すなわち、連動機構200において、植付クラッチ側第2連動部材222が植付クラッチ側連像部材係合用付勢部材223の付勢力に抗して伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215から離れる方向(他方側)へ揺動し、その押動面222bと伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215との係合状態が解除される。こうして、牽制機構250が連動機構200の作用を禁止する状態となる。
【0158】
この状態では、伝動クラッチ側第2連動部材212が植付クラッチ側第2連動部材222によって規制されずにクラッチ接続方向へ揺動可能となる。そのため、伝動クラッチ140において、伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって、第2クラッチ形成体142がクラッチ接続方向へ移動し、その爪部142aが第1クラッチ形成体141の爪部141aと係合する。こうして、伝動クラッチ140は、植付部50の下降途中に、連動機構200の動作に応じて接続動作を行い、切断状態から接続状態に切り替えられる。
【0159】
植付部50の下降時に伝動クラッチ140が接続状態になった後、これよりも前記動力伝達経路の下流側にある株間変速部110においてスライド軸118から第3クラッチ形成体173に動力が伝達される。そのため、植付クラッチ作動部材176の作動片178が進出位置に至るように第4クラッチ形成体174(カム体175)が軸線回りに回転し、植付部50の上昇時に伝動クラッチ140の切断によって途中で停止していた植付クラッチ170の切断動作が終了する。
【0160】
したがって、植付クラッチ170が完全に切断状態になる。同時に、出力軸116が第4クラッチ形成体174ともに回転するため、出力軸116の回転に応じてロータリケース55が回転して、このロータリケース55に取り付けられた植付爪56が上部停止位置まで駆動しながら移動する。
【0161】
この際、植付部50が前記設定高さ位置よりも下降して植付爪56が圃場Gに近接した位置にあるため、植付爪56が苗を保持している場合には、この苗は植付爪56が上部停止位置まで移動する過程で圃場Gに植え付けられることになる。また、伝動クラッチ140は接続状態であるが、植付クラッチ170は切断状態であるため、エンジン12の動力は植付部50に伝達されない。
【0162】
伝動クラッチ140が接続されたとき、第2クラッチ形成体142のクラッチ接続方向への移動によって、伝動クラッチ側第1連動部材211がクラッチ接続方向へ揺動する。これに伴って伝動クラッチ側第2連動部材212もクラッチ接続方向へ揺動する。
【0163】
そのため、植付部側第2連動部材252が中立位置に戻ったとき、連係部材253の引っ張りが解除されて、植付クラッチ側第2連動部材222は植付クラッチ側連像部材係合用付勢部材223の付勢力によって伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215に近づく方向(一方側)へ揺動する。植付クラッチ側第2連動部材222は、図7に示すように係合面222aのうちカム面222cが係合突起215に係合した状態で停止する。この状態で、伝動クラッチ140は接続状態に保持される。
【0164】
植付部50が最下降位置に至ったとき、伝動クラッチ140は接続状態となって、植付クラッチ170は切断状態となる。また、植付爪56は、伝動クラッチ140の切断によって停止した位置から上部停止位置に戻されている。この状態で田植機100が植付作業のために適切な位置まで移動した後、操作レバー38が接続操作される。この接続操作によって、植付クラッチ170が切断状態から接続状態に切り替えられる。
【0165】
植付クラッチ170が接続動作を開始すると、連動機構200が作動する。連動機構200において、植付クラッチ作動部材176の動作によって植付クラッチ側第2連動部材222がリンク部材225を介してクラッチ接続方向へ押されて移動する。この植付クラッチ側第2連動部材222の移動によって、そのカム面222cと伝動クラッチ側第2連動部材212の係合突起215との係合状態が解除され、押動面222bが係合突起215と係合する。こうして、植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210が解除状態から連係状態となる。
【0166】
この際、伝動クラッチ側第2連動部材212は植付クラッチ側第2連動部材222の移動に伴っては揺動しない。つまり、伝動クラッチ140の接続状態は保持される。したがって、伝動クラッチ140及びその前記動力伝達経路の下流側にある植付クラッチ170の二つのクラッチがともに接続状態となって、エンジン12の動力が植付部50に伝達されることになる。したがって、植付爪56を駆動させて、植付作業を再開することが可能となる。
【0167】
以上のように、本発明の実施形態に係る田植機100は、走行部10と、植付部50と、植付クラッチ170と、伝動クラッチ140とを備える。走行部10は、エンジン(動力源)12を有する。植付部50は、植付爪56を有し、走行部10に昇降可能に連結される。植付爪56は、動力がエンジン12から伝達されることによってロータリケース55の回転に伴って移動しながら苗載台57上の苗マットから苗を取り出して圃場Gに植付けるように構成されている。植付クラッチ170は、植付爪56への動力を接続時に伝達可能とする一方、切断時に遮断するように構成されるとともに、接続状態から切断状態に切り替わるとき、切断動作の開始から終了までの間に、植付爪56がその基準位置(上部停止位置)に移動するように、植付爪56への動力を伝達可能に構成される。伝動クラッチ140は、エンジン12から植付爪56へ至る動力伝達経路うちの植付クラッチ170よりも上流側に配置される。
【0168】
この構成によれば、植付爪56への動力を遮断する際に、植付爪56を前記基準位置へ移動させるか、又はその時点の位置に保持するかを選択することができる。即ち、植付爪56への動力を遮断する際に、伝動クラッチ140を接続状態に保持したままで植付クラッチ170を接続状態から切断状態へ切り替えた場合には、植付爪56を前記基準位置へ移動させることができる。一方、植付爪56への動力を遮断する際に、伝動クラッチ140を接続状態から切断状態へ切り替えた場合には、植付爪56をその時点の位置に保持することができる。
【0169】
例えば、植付作業の中断又は終了に伴って植付部50を上昇させるとともに植付クラッチ170を切断しようとするとき、伝動クラッチ140を植付クラッチ170の切断動作と略同時又は植付クラッチ170の切断動作よりも早く切断すると、動力伝達経路うちの伝動クラッチ140よりも下流側への動力を遮断して、植付爪56の基準位置への移動を停止させることができる。したがって、植付爪56を基準位置へ戻すための構成を備えながら、植付作業の中断又は終了時点で植付爪56が苗載台57上の苗マットから苗を取り出して保持していた場合であっても、植付部50が上昇するときに植付爪56が基準位置へ移動するのを阻止して、植付爪56に保持された苗が当該植付爪56から脱落したり飛散したりして圃場Gに放出されることを防止できる。
【0170】
また、本発明の実施形態に係る田植機100は、連動機構200と、牽制機構250とをさらに備える。連動機構200は、植付クラッチ170の伝動状態の切替に応じて伝動クラッチ140の伝動状態が切り替わるように植付クラッチ170及び伝動クラッチ140間を作動連結する。連動機構200は、植付クラッチ170が切断動作を開始したあと、その切断動作を終了するまでのうちできるだけ早い時期に伝動クラッチ140を切断状態とさせるように構成されている。牽制機構250は、植付クラッチ170がクラッチ切断状態のままで伝動クラッチ140がクラッチ接続状態となることを許容するように連動機構200の作用を禁止する。
【0171】
田植機100においては、伝動クラッチ140は、伝動クラッチ本体(第1クラッチ形成体141及び第2クラッチ形成体142)と伝動クラッチ付勢部材143とを有し、外部からの操作力を受けない状態においては伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって接続状態に維持されるように構成されている。
【0172】
連動機構200は、植付クラッチ側連動部材220と、伝動クラッチ側連動部材210とを有する。植付クラッチ側連動部材220は、植付クラッチ170の伝動状態の切替に応じて移動する。伝動クラッチ側連動部材210は、伝動クラッチ140の伝動状態の切替に応じて移動する。
【0173】
植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210は、連係状態と解除状態とをとり得るように構成される。前記連係状態は、植付クラッチ170の接続状態から切断状態への切替動作に応じて伝動クラッチ140が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力に抗して接続状態から切断状態へ切り替わるように互いに連係された状態である。前記解除状態は、植付クラッチ170の伝動状態の如何に拘わらず伝動クラッチ140が伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によって接続状態をとることを許容するように互いの連係状態が解除された状態である。
【0174】
牽制機構250は、植付部50の上昇位置から下降位置への下降動作に応じて植付クラッチ側連動部材220及び伝動クラッチ側連動部材210が解除状態となるように、植付部50及び連動機構200間を作動連結している。
【0175】
また、田植機100において、植付クラッチ170は、植付クラッチ本体(第3クラッチ形成体173及び第4クラッチ形成体174)と植付クラッチ作動部材176とを有する。植付クラッチ作動部材176は、操作レバー38に対する人為操作に応じて前記植付クラッチ本体に対してクラッチ断接動作を行うものである。
【0176】
伝動クラッチ側連動部材210は、第1基準軸241回りにクラッチ接続方向及びクラッチ切断方向へ揺動可能とされ且つ自由端側に係合突起215が設けられている。
【0177】
植付クラッチ側連動部材220は、植付クラッチ側第1連動部材221と、植付クラッチ側第2連動部材222と、植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223とを含む。植付クラッチ側第1連動部材221は、植付クラッチ作動部材176のクラッチ接続動作及びクラッチ切断動作に応じて第1基準軸241と平行な第2基準軸(第1基準軸241)回りにクラッチ接続方向及びクラッチ切断方向へ揺動する。植付クラッチ側第2連動部材222は、第2基準軸(第1基準軸241)と平行な第3基準軸243回りに揺動可能に植付クラッチ側第1連動部材221に連結され且つ係合突起215と係合する係合面222aが設けられている。植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材223は、係合突起215が係合面222aと係合するように植付クラッチ側第2連動部材222を第3基準軸243回りに一方側へ付勢する。
【0178】
係合面222aは、押動面222bを有する。押動面222bは、係合面222aが係合突起215に係合された状態で植付クラッチ側第1連動部材221が第2基準軸(第1基準軸241)回りにクラッチ切断方向へ揺動されると係合突起215を介して伝動クラッチ側連動部材210を第1基準軸241回りにクラッチ切断方向へ押動する。
【0179】
牽制機構250は、植付部側第1連動部材251と、植付部側第2連動部材252と、長尺の連結部材253とを含む。植付部側第1連動部材251は、植付部50の上昇動作及び下降動作に連動して第4基準軸244回りに上昇方向(上方)及び下降方向(下方)に揺動する。植付部側第2連動部材252は、第4基準軸244と平行な第5基準軸245回り揺動可能とされている。植付部側第2連動部材252は、植付部側第1連動部材251の第4基準軸244回りに上昇方向及び下降方向への揺動に応じて第5基準軸245回りに上昇方向及び下降方向へ揺動すると共に植付部側第1連動部材251とは独立して第5基準軸245回りに揺動可能とされる。長尺の連結部材253は、一端部が植付クラッチ側第2連動部材222に連結され且つ他端部が植付部側第2連動部材252に連結されている。
【0180】
長尺の連結部材253は、植付部50の下降動作時には植付部側第2連動部材252の第5基準軸245回り下降方向への揺動動作に連動して係合面222aが係合突起215から離間する方向へ植付クラッチ側第2連動部材222を第3基準軸243回りに他方側へ揺動させて、伝動クラッチ140が植付クラッチ170の伝動状態の如何に拘わらず伝動クラッチ付勢部材143の付勢力によってクラッチ接続状態をとることを許容しつつ、植付部50の上昇動作時には係合面222aが係合突起215に係合された状態で植付部側第2連動部材252が第5基準軸245回りに上昇方向へ揺動することを許容するように弛む。
【0181】
係合面222aは、さらに、カム面222cを有する。カム面222cは、植付クラッチ側第2連動部材222が第3基準軸243回りに他方側へ揺動されることで植付クラッチ170が切断状態でありながら伝動クラッチ140が接続状態とされている際に係合突起215と係合する。
【0182】
係合突起215がカム面222cと係合している状態で植付クラッチ170が切断状態から接続状態へ切り替えられて植付クラッチ側第1連動部材221が第2基準軸(第1基準軸241)回りクラッチ接続方向へ揺動されると、係合突起215及びカム面222cによって植付クラッチ側第2連動部材222が第3基準軸243回りに他方側へ揺動されて係合突起215が押動面222bと係合する状態へ復帰する。
【0183】
また、田植機100において、第1基準軸241が前記第2基準軸は同軸上とされている。本実施形態においては、第1基準軸241が前記第2基準軸を兼用する構成として、構造を簡略化している。
【0184】
また、田植機100は、植付部側第2連動部材252を第5基準軸245回り中立位置に復帰させる中立位置付勢部材255を備えている。
【0185】
この構成によれば、例えば、植付作業の中断又は終了に伴って植付部50が上昇させられるとき、伝動クラッチ140が植付クラッチ170の切断動作と略同時又は植付クラッチ170の切断動作よりも早く切断されると、植付クラッチ170に動力が伝達されない。その結果、植付爪56が基準位置に移動しない。したがって、植付作業の中断又は終了時点で、植付爪56が苗載台57上の苗マットから苗を取り出して保持していた場合であっても、植付部50が上昇するときに植付爪56の基準位置への移動を阻止して、植付爪56に保持された苗が当該植付爪56から脱落したり飛散したりして、圃場Gに放出されることを防止できる。
【0186】
さらに、植付作業の開始に伴って植付部50を下降させるとき、その下降途中で伝動クラッチ140が接続して、切断動作途中の植付クラッチ170に動力が伝達される。その結果、植付クラッチ170が切断動作を再開させ、この切断動作の終了時に植付爪56が上部停止位置(基準位置)に移動する。この際、植付部50の下降によって植付爪56は圃場Gに近づいているため、植付爪56に保持されている苗は、植付爪56が基準位置へ移動するまでに圃場Gに植え付けられる。したがって、前記苗は植付爪56から脱落したり飛散したりして、圃場Gに放出されない、即ち圃場面(水面)Wに浮遊する状態とならない。
【0187】
また、植付部50を下降させた状態で田植機100を移動させるとき、植付爪56が苗マット及び圃場面Wに接しない上部停止位置にあるため、植付爪56が圃場Gの耕盤g上で下引きずられて変更等することがなく、苗詰まりも発生しない。
【0188】
なお、本発明は、ここで説明した実施形態の他にも、前述の説明の観点からさまざまな変更形態及び変形形態をとり得る。そのため、添付の請求の範囲内において、本発明をここでの説明とは異なる他の方法で実行することは考えられることである。
【符号の説明】
【0189】
10 走行部
12 エンジン
50 植付部
56 植付爪
57 苗載台
140 伝動クラッチ
170 植付クラッチ
200 連動機構
210 伝動クラッチ側連動部材
220 植付クラッチ側連動部材
250 牽制機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源を有する走行部と、
動力が前記動力源から伝達されることによって移動しながら苗載台上の苗マットから苗を取り出して圃場に植付けるように構成された植付爪を有し、前記走行部に昇降可能に連結された植付部と、
前記植付爪への動力を接続時に伝達可能とする一方、切断時に遮断するように構成されるとともに、接続状態から切断状態に切り替わるとき、切断動作の開始から終了までの間に、前記植付爪がその基準位置に移動するように、当該植付爪への動力を伝達可能に構成された植付クラッチと、
前記動力源から前記植付爪へ至る動力伝達経路のうちの前記植付クラッチよりも伝動方向上流側に配置された伝動クラッチとを備える田植機。
【請求項2】
前記植付クラッチの伝動状態の切替に応じて前記伝動クラッチの伝動状態が切り替わるように前記植付クラッチ及び前記伝動クラッチ間を作動連結する連動機構と、
前記植付クラッチがクラッチ切断状態のままで前記伝動クラッチがクラッチ接続状態となることを許容するように前記連動機構の作用を禁止する牽制機構とをさらに備える請求項1に記載の田植機。
【請求項3】
前記伝動クラッチは、伝動クラッチ本体と伝動クラッチ付勢部材とを有し、外部からの操作力を受けない状態においては前記伝動クラッチ付勢部材の付勢力によって接続状態に維持されるように構成されており、
前記連動機構は、前記植付クラッチの伝動状態の切替に応じて移動する植付クラッチ側連動部材と、前記伝動クラッチの伝動状態の切替に応じて移動する伝動クラッチ側連動部材とを有し、
前記植付クラッチ側連動部材及び前記伝動クラッチ側連動部材は、前記植付クラッチの接続状態から切断状態への切替動作に応じて前記伝動クラッチが前記伝動クラッチ付勢部材の付勢力に抗して接続状態から切断状態へ切り替わるように互いに連係された連係状態と、前記植付クラッチの伝動状態の如何に拘わらず前記伝動クラッチが前記伝動クラッチ付勢部材の付勢力によって接続状態をとることを許容するように互いの連係状態が解除された解除状態とをとり得るように構成され、
前記牽制機構は、前記植付部の上昇位置から下降位置への下降動作に応じて前記植付クラッチ側連動部材及び前記伝動クラッチ側連動部材が解除状態となるように、前記植付部及び前記連動機構間を作動連結していることを特徴とする請求項2に記載の田植機。
【請求項4】
前記植付クラッチは、植付クラッチ本体と人為操作に応じて前記植付クラッチ本体に対してクラッチ断接動作を行う植付クラッチ作動部材とを有し、
前記伝動クラッチ側連動部材は、第1基準軸回りにクラッチ接続方向及びクラッチ切断方向へ揺動可能とされ且つ自由端側に係合突起が設けられており、
前記植付クラッチ側連動部材は、前記植付クラッチ作動部材のクラッチ接続動作及びクラッチ切断動作に応じて前記第1基準軸と平行な第2基準軸回りにクラッチ接続方向及びクラッチ切断方向へ揺動する植付クラッチ側第1連動部材と、前記第2基準軸と平行な第3基準軸回りに揺動可能に前記植付クラッチ側第1連動部材に連結され且つ前記係合突起と係合する係合面が設けられた植付クラッチ側第2連動部材と、前記係合突起が前記係合面と係合するように前記植付クラッチ側第2連動部材を前記第3基準軸回りに一方側へ付勢する植付クラッチ側連動部材係合用付勢部材とを含み、
前記係合面は、前記係合面が前記係合突起に係合された状態で前記植付クラッチ側第1連動部材が前記第2基準軸回りにクラッチ切断方向へ揺動されると前記係合突起を介して前記伝動クラッチ側連動部材を前記第1基準軸回りにクラッチ切断方向へ押動する押動面を有し、
前記牽制機構は、前記植付部の上昇動作及び下降動作に連動して第4基準軸回りに上昇方向及び下降方向に揺動する植付部側第1連動部材と、前記第4基準軸と平行な第5基準軸回り揺動可能とされた植付部側第2連動部材であって、前記植付部側第1連動部材の前記第4基準軸回りに上昇方向及び下降方向への揺動に応じて前記第5基準軸回りに上昇方向及び下降方向へ揺動すると共に前記植付部側第1連動部材とは独立して前記第5基準軸回りに揺動可能とされた植付部側第2連動部材と、一端部が前記植付クラッチ側第2連動部材に連結され且つ他端部が前記植付部側第2連動部材に連結された長尺の連結部材とを含み、
前記長尺の連結部材は、前記植付部の下降動作時には前記植付部側第2連動部材の前記第5基準軸回り下降方向への揺動動作に連動して前記係合面が前記係合突起から離間する方向へ前記植付クラッチ側第2連動部材を前記第3基準軸回りに他方側へ揺動させて、前記伝動クラッチが前記植付クラッチの伝動状態の如何に拘わらず前記伝動クラッチ付勢部材の付勢力によってクラッチ接続状態をとることを許容しつつ、前記植付部の上昇動作時には前記係合面が前記係合突起に係合された状態で前記植付部側第2連動部材が前記第5基準軸回りに上昇方向へ揺動することを許容するように弛み、
前記係合面は、さらに、前記植付クラッチ側第2連動部材が前記第3基準軸回りに他方側へ揺動されることで前記植付クラッチが切断状態でありながら前記伝動クラッチが接続状態とされている際に前記係合突起と係合するカム面を有し、
前記係合突起が前記カム面と係合している状態で前記植付クラッチが切断状態から接続状態へ切り替えられて前記植付クラッチ側第1連動部材が前記第2基準軸回りクラッチ接続方向へ揺動されると、前記係合突起及び前記カム面によって前記植付クラッチ側第2連動部材が前記第3基準軸回りに他方側へ揺動されて前記係合突起が前記押動面と係合する状態へ復帰することを特徴とする請求項3に記載の田植機。
【請求項5】
前記第1基準軸及び前記第2基準軸は同軸上とされていることを特徴とする請求項4に記載の田植機。
【請求項6】
前記植付部側第2連動部材を前記第5基準軸回り中立位置に復帰させる中立位置付勢部材を備えていることを特徴とする請求項4又は5に記載の田植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−111028(P2013−111028A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260949(P2011−260949)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000006781)ヤンマー株式会社 (3,810)
【Fターム(参考)】