説明

甲板昇降式作業台船及び洋上風力発電施設の施工方法

【課題】外洋の厳しい海象、気象条件下に於いて、モノパイル又はタワー一体式風車等の洋上風力発電施設を搭載し、搬送し、建て起こしを可能にした、作業効率、安定性及び安全性に優れた甲板昇降式作業台船を提供する。
【解決手段】台船本体2と、油圧ジャッキアップシステムにより台船本体2を昇降自在に移動させる複数のレグ3,3…とを備え、モノパイル又はタワー一体式風車4を倒伏状態又は斜め倒伏状態で、台船本体2の甲板上を移動自在に保持すると共に、倒伏状態又は斜め倒伏状態から建て起こし自在の建て起こし装置5を台船本体2の甲板上に設置した甲板昇降式作業台船1を提供する。前記建て起こし装置5は、台船本体2の甲板上に敷設されたガイドレール11上を走行自在のベースフレーム12と、ベースフレーム12に建て起こし自在に支承され、モノパイル又はタワー一体式風車4を着脱自在に保持する支持リーダーフレーム14とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外洋の厳しい海象、気象条件下に於いて、モノパイル又はタワー一体式風車等の洋上風力発電施設を搭載し、搬送し、建て起こしを可能にした、作業効率、安定性及び安全性に優れた甲板昇降式作業台船、及び、洋上風力発電施設の施工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
風力発電は、石油代替エネルギー源として優れており、又、地球温暖化防止等の環境対策に有効なエネルギー源である。
風力発電の発電施設の設置場所としては、陸上と洋上のいずれも可能であるが、つぎのような点で洋上は陸上よりも風力発電に有利な条件を備えている。
(1)洋上では、一般的に陸上と比べて風速が強く、又、良好で安定した風が吹く。
(2)洋上には障害物が少なく、騒音、電波障害も少ない。
(3)大型化しつつある風車の機材を運搬設置する施工コストの低減が図れる。
(4)大規模な電力消費地帯は沿岸区域に集中しており、その他の電力系設備も沿岸部の方が整備されている傾向があるため、洋上の方が送電コスト等が安くなる。
このように、洋上は陸上よりも風力発電に有利な条件を備えている。洋上風力発電施設は、多くの国に於いて採用されており、一般的に沿岸から数百m〜数kmの距離に設置されている。
【0003】
この種技術の先行文献としては、例えば、特許文献1がある。
特許文献1には、陸上にて、箱型の浮体上に、筒状の風車基礎部を立設して海上に仮係留し、風車基礎部に風車本体を搭載して洋上風力発電装置を形成し、洋上風力発電装置を引船で設置海域に曳航し、洋上風力発電装置をクレーン船で支持しながら浮体内にバラストを注入し、洋上風力発電装置をクレーン船で吊り下げて基礎本体を海底地盤に据え付ける、浅水深向け着底式洋上風力発電装置の設置方法が記載されている。
【0004】
又、本願出願人は、「甲板昇降式作業台船及び洋上風力発電施設の施工方法」(特願2010−048051)を既に出願している。
この発明は、台船本体と、台船本体甲板上に敷設された走行レール上を走行自在の走行桁と、走行桁上に敷設された移動レール上を移動自在の移動作業台車と、移動作業台車上に旋回自在に架装されるブーム旋回台と、ブーム旋回台上に取り付けられるツインブームとを備えた甲板昇降式作業台船により、洋上風力発電施設の作業効率、安定性及び安全性に優れた施工を可能にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−69025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この種技術に於いては、現時点で次のような課題がある。
(1)施工条件の厳しい外洋海域への進出と施設大型化に伴い、工事設備費が増大する。そのためのコストダウンを図ることが望まれている。
(2)モノパイル基礎は、大口径化(φ5.0m以上)、重量化(500Ton以上)、長尺化(60m以上)する傾向がある。そのための構造物施工の安定、安全性の確保、ならびに、洋上運搬の安全化、スピーディな建て込みが望まれている。
(3)作業可能日数内(3月〜10月)での設置目標機数の施工の確保が望まれている。
(4)洋上での建て込みに於いて、垂直精度の確保が望まれている。
(5)超大型杭打機械の吊り込み(210Ton)打設のための中型SEP(Self Elevating Platform:甲板昇降式作業台船)に搭載(1100Ton以内)可能なクローラクレーン選定が必要である。
(6)SEP搭載荷重(1100Ton)以内の作業装置の開発が望まれている。
(7)風車組立時の風速による作業限界を引き上げ(10m/sec以下から15m/sec以下に引き上げ)、組立日数の短縮化を図ることが望まれている。
【0007】
以上の現状に鑑み、本発明は、外洋の厳しい海象、気象条件下に於いて、モノパイル又はタワー一体式風車等の洋上風力発電施設を搭載し、搬送し、建て起こしを可能にした、作業効率、安定性、安全性及びコストダウンに優れた甲板昇降式作業台船、及び、洋上風力発電施設の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決すべく、本発明は以下の構成を提供する。
請求項1に係る発明は、台船本体と、
前記台船本体の隅部に遊挿自在に垂直方向に延びて設けられ、油圧ジャッキアップシステムにより前記台船本体を昇降自在に移動させる複数のレグとを備えた甲板昇降式作業台船に於いて、
モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で、前記台船本体の甲板上を移動自在に保持すると共に、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態から建て起こし自在の建て起こし装置を前記台船本体の甲板上に設置したことを特徴とする甲板昇降式作業台船を提供するものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、前記台船本体の甲板上に前記タワー一体式風車のトップタワーを受け止める移動自在の風車移動式受台を備えたことを特徴とする請求項1記載の甲板昇降式作業台船を提供するものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記建て起こし装置は、前記台船本体の甲板上に敷設されたガイドレール上を走行自在のベースフレームと、
ブラケットを介して前記ベースフレームに建て起こし自在に支承され、前記モノパイル又はタワー一体式風車を着脱自在に保持する支持リーダーフレームとを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の甲板昇降式作業台船を提供するものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、前記ベースフレームと、前記支持リーダーフレームとに前記支持リーダーフレームを建て起こし自在の建て起こし油圧シリンダが架設されていることを特徴とする請求項3記載の甲板昇降式作業台船を提供するものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、前記ベースフレームの後部に、前記ベースフレームを押し出し、引き出し自在の押し引き出し油圧シリンダが配設され、前記ベースフレームの後部下部に、前記ベースフレームの前記ガイドレールからの浮き上がりを防止する浮き上がり防止装置が配設され、前記ベースフレームの下部に、前記ベースフレームを移動自在に支えるためのチルタンクが配設されていることを特徴とする請求項3又は4記載の甲板昇降式作業台船を提供するものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、前記支持リーダーフレームに、前記モノパイル又はタワー一体式風車の下部を保持自在の下部保持装置と、前記モノパイル又はタワー一体式風車の上部が所定姿勢を超えて倒れないように支持する上部倒れ防止装置とを備えたことを特徴とする請求項3乃至5のうちいずれか一に記載の甲板昇降式作業台船を提供するものである。
【0014】
請求項7に係る発明は、前記台船本体の甲板の前端部に、前記モノパイルの下端部を吊り下げ自在のジャッキ装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一に記載の甲板昇降式作業台船を提供するものである。
【0015】
請求項8に係る発明は、台船本体に設置され、台船本体上でモノパイル又はタワー一体式風車を保持自在、移動自在及び建て起こし自在の建て起こし装置を用いて、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で台船本体上に保持し、
前記台船本体により、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で施工現場まで搬送し、
施工現場に於いて、前記建て起こし装置を用いて、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で前記台船本体上を所定位置まで移動させ、
前記建て起こし装置を用いて、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態から鉛直状態に建て起こし、
建て起こした前記モノパイル又はタワー一体式風車を前記建て起こし装置及びジャッキ装置を用いて所定位置まで降下させることを特徴とする洋上風力発電施設の施工方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の請求項1記載の発明によれば、外洋の厳しい海象、気象条件下に於いて、モノパイル又はタワー一体式風車等の洋上風力発電施設を搭載し、搬送し、建て起こしを可能にした、作業効率、安定性、安全性及びコストダウンに優れた甲板昇降式作業台船を提供することができる。
又、本発明の甲板昇降式作業台船は、風車組立時の風速による作業限界を引き上げることができ、組立日数の短縮化を図ることができる。
【0017】
本発明の請求項2記載の発明によれば、請求項1記載の発明の効果に加え、風車移動式受台により、タワー一体式風車のトップタワーを移動自在に受け止めることができる。
【0018】
本発明の請求項3記載の発明によれば、請求項1又は2記載の発明の効果に加え、ベースフレームにより、モノパイル又はタワー一体式風車を移動させることができ、支持リーダーフレームにより、モノパイル又はタワー一体式風車を保持し、且つ、建て起こすことが可能になる。
【0019】
本発明の請求項4記載の発明によれば、請求項3記載の発明の効果に加え、建て起こし油圧シリンダにより、支持リーダーフレームを建て起こすことができる。
【0020】
本発明の請求項5記載の発明によれば、請求項3又は4記載の発明の効果に加え、押し引き出し油圧シリンダにより、ベースフレームを押し出し、引き出すことが可能となり、浮き上がり防止装置により、ベースフレームのガイドレールからの浮き上がりを防止することが可能となり、チルタンクにより、ベースフレームを円滑に移動自在に支えることが可能となる。
【0021】
本発明の請求項6記載の発明によれば、請求項3乃至5のうちいずれか一に記載の発明の効果に加え、下部保持装置により、モノパイル又はタワー一体式風車の下部を保持することが可能となり、上部倒れ防止装置により、モノパイル又はタワー一体式風車の上部が所定姿勢を超えて倒れないように支持することが可能となる。
【0022】
本発明の請求項7記載の発明によれば、請求項1乃至6のうちいずれか一に記載の発明の効果に加え、ジャッキ装置により、モノパイルの下端部を吊り下げることが可能となる。
【0023】
本発明の請求項8記載の発明によれば、外洋の厳しい海象、気象条件下に於いて、モノパイル又はタワー一体式風車等の洋上風力発電施設を搭載し、搬送し、建て起こし、所定位置まで降下させることを可能にした、作業効率、安定性、安全性及びコストダウンに優れた洋上風力発電施設の施工方法を提供することができる。
又、本発明の洋上風力発電施設の施工方法によれば、風車組立時の風速による作業限界を引き上げることができ、組立日数の短縮化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】(a)本発明に係る甲板昇降式作業台船にタワー一体式風車を搭載した状態を示す正面図である。(b)本発明に係る甲板昇降式作業台船にタワー一体式風車を搭載した状態を示す平面図である。(c)本発明に係る甲板昇降式作業台船と風車移動式受台の側面図である。
【図2】(a)本発明に係るベースフレームの一部拡大正面図である。(b)前図2(a)のB−B線断面図である。(c)前図2(a)のC−C線断面図である。
【図3】(a)本発明に係る支持リーダーフレームの正面図である。(b)本発明に係る支持リーダーフレームの平面図である。(c)本発明に係る支持リーダーフレームの主桁の断面図である。(d)前図3(a)のC矢視図である。(e)前図3(a)のA矢視図である。(f)前図3(a)のB矢視図である。
【図4】(a)本発明に係る下部保持装置の側面図である。(b)本発明に係る下部保持装置の正面図である。(c)本発明に係る下部保持装置の平面図である。
【図5】(a)本発明に係る上部倒れ防止装置の側面図である。(b)本発明に係る上部倒れ防止装置の正面図である。
【図6】(a)本発明に係る甲板昇降式作業台船にモノパイルを搭載したモノパイル曳航時荷姿を示す正面図である。(b)本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載したモノパイルを前方に移動させた状態を示す正面図である。(c)本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載したモノパイルを45度建て起こした状態を示す正面図である。(d)本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載したモノパイルを90度建て起こした状態を示す正面図である。
【図7】(a)本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載したモノパイルを降下させる直前の状態を示した正面図である。(b)本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載したモノパイルを降下させる直前の状態を示した平面図である。(c)本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載したモノパイルを降下させる直前の状態を示した側面図である。(d)本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載した建て起こし装置を後退させた状態を示した一部平面図である。
【図8】本発明に係る甲板昇降式作業台船に搭載したタワー一体式風車を建て起こした状態を示す正面図である。
【図9】本発明に係る甲板昇降式作業台船によりモノパイル上にタワー一体式風車を接続した状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、実施例を示した図面を参照しつつ本発明の実施の形態を説明する。
図1に於いて、1は、本発明の甲板昇降式作業台船であり、甲板昇降式作業台船1は、平面視略方形の台船本体2と、台船本体2の各隅部に遊挿自在に垂直方向に延びて設けられ、油圧ジャッキアップシステム(図示せず)により台船本体2を昇降自在に移動させる複数のレグ3,3…とを備え、モノパイル(図示せず)又はタワー一体式風車{タワー(トップタワー、ミドルタワー及びボトムタワー)にナセル、ハブ及びブレードを取り付けたもの}4を倒伏状態又は斜め倒伏状態で、台船本体2の甲板上を移動自在に保持すると共に、モノパイル又はタワー一体式風車4を倒伏状態又は斜め倒伏状態から建て起こし自在の建て起こし装置5を台船本体2の甲板上に設置したものである。
【0026】
前記建て起こし装置5は、台船本体2の甲板上に敷設されたガイドレール11上を走行自在のベースフレーム12と、ブラケット13を介してベースフレーム12に建て起こし自在に支承され、モノパイル又はタワー一体式風車4を着脱自在に保持する支持リーダーフレーム14とを備えている。
そして、前記ベースフレーム12と、支持リーダーフレーム14とに支持リーダーフレーム14を建て起こし自在の建て起こし油圧シリンダ15が架設されている。
又、前記甲板昇降式作業台船1は、台船本体2の甲板上にタワー一体式風車4を斜め倒伏状態で保持する時、タワー一体式風車4のトップタワー16部分を受け止める移動自在の風車移動式受台17を備えている。
前記風車移動式受台17は、受台用油圧シリンダ18によって押し出し或いは引き出されて、ガイドレール11上を走行自在に構成される。
又、台船本体2の甲板の前端部{図1(b)に於いて右端部)}には、建て起こし装置5の両側方にモノパイルの下端部を吊り下げ自在のジャッキ装置19を備えている。
【0027】
図2に示す如く、前記ベースフレーム12の後部には、ベースフレーム12を押し出し、引き出し自在の押し引き出し油圧シリンダ21が配設され、ベースフレーム12の後部下部に、ベースフレーム12のガイドレール11からの浮き上がりを防止する浮き上がり防止装置22が配設され、ベースフレーム12の下部に、ベースフレーム12を移動自在に支えるためのチルタンク23が配設されている。
【0028】
図3に示す如く、支持リーダーフレーム14には、支持リーダーフレーム14の前端部{図3(a)に於いて右端部。建て起こした姿勢では下端部。}にモノパイル又はタワー一体式風車の下部を保持自在の下部保持装置31が備えられ、後端部{図3(a)に於いて左端部。建て起こした姿勢では上端部。}にモノパイル又はタワー一体式風車の上部が所定姿勢を超えて倒れないように支持する上部倒れ防止装置32が備えられ、支持リーダーフレーム14の略中間部にモノパイル又はタワー一体式風車の中間部を支える支持台33が備えられている。
【0029】
図4は、前記下部保持装置31を示しており、下部保持装置31は支持リーダーフレーム14の前端部両側部から立設する立設部34,34の上端部に開閉自在に支承され、倒伏状態又は斜め倒伏状態のモノパイル又はタワー一体式風車の左右下側を保持する円弧状の左右下部保持アーム35,35と、左右下部保持アーム35,35を締付ける下部保持アーム締め付けシリンダ36と、立設部34,34の上端部に開閉自在に支承され、倒伏状態又は斜め倒伏状態のモノパイル又はタワー一体式風車の左右上側を保持する円弧状の左右上部保持アーム37,37と、左右上部保持アーム37,37の夫々の上端に開穿された孔37a,37aを位置合わせして孔37a,37aにピン37bを差し入れることにより、左右上部保持アーム37,37を締付ける上部保持アーム締め付けシリンダ38とを備えている。
倒伏状態又は斜め倒伏状態のモノパイル又はタワー一体式風車は、左右下部保持アーム35,35と、左右上部保持アーム37,37とにより、下部側と、上部側とを保持され、下部保持アーム締め付けシリンダ36と、上部保持アーム締め付けシリンダ38とにより、所定の力で締付けられる。
【0030】
図5は、上部倒れ防止装置32を示しており、上部倒れ防止装置32は支持リーダーフレーム14の後端部(建て起こした姿勢では上端部)に設置され、倒伏状態又は斜め倒伏状態のモノパイル又はタワー一体式風車の下側をその円弧状の形状に沿って支持する支持台39と、支持台39の左右上端部に開閉自在に支承され、倒伏状態又は斜め倒伏状態のモノパイル又はタワー一体式風車の左右上側を保持する円弧状の左右上部保持アーム40,40と、左右上部保持アーム40,40を夫々締付け自在に開閉させる左右上部保持アーム開閉シリンダ41,41とを備えている。
【0031】
次に、前記甲板昇降式作業台船1を用いた洋上風力発電施設の施工方法について説明する。
先ず、洋上風力発電施設の基礎となるモノパイルの施工方法について図6に従って説明する。
図6(a)は、モノパイル曳航時の荷姿を示している。
具体的には、陸上の岸壁に搬送されたモノパイル51を、陸上に配置したクレーン等(図示せず)を用いて吊下し、レグ3,3…を介して上昇させた台船本体2上の建て起こし装置5上に吊り降ろし、モノパイル51を建て起こし装置5に保持させた後、レグ3,3…を介して台船本体2を降下させて海上に浮かべた状態を図6(a)に示している。
モノパイル51を建て起こし装置5に保持させる時、建て起こし装置5は、ベースフレーム12が押し引き出し油圧シリンダ21によって、後方側{図6(a)に於いて左方側}に引き寄せられた位置にあり、支持リーダーフレーム14は、略水平状態の姿勢にあり、開いた状態の下部保持装置31と、開いた状態の上部倒れ防止装置32と、支持台33上に、モノパイル51が倒伏状態に載置されると、モノパイル51は、下部保持装置31によって締め付けられ、上部倒れ防止装置32によって倒れないように保持され、モノパイル51全体が、建て起こし装置5に保持される。
【0032】
次に、甲板昇降式作業台船1はモノパイル51を倒伏状態で施工現場まで搬送する。
施工現場に到着すると、図6(b)に示す如く、レグ3を降下させて、甲板昇降式作業台船1を所定高さに固定し、押し引き出し油圧シリンダ21によりベースフレーム12を前方に押し出した後、図6(c)に示す如く、建て起こし油圧シリンダ15により、支持リーダーフレーム14が建て起こされると、モノパイル51が図6(d)に示す如く建て起こされる。
【0033】
図7(a)〜(c)は、モノパイル51が建て起こされて、モノパイル51を降下させる直前の様子を示したものである。
モノパイル51を降下させる前に、図7(a)〜(b)に示すようにモノパイル51の下端部にジャッキ装置19のワイヤロープ52を掛け、下部保持装置31と上部倒れ防止装置32の締め付けを緩めてジャッキ装置19によりモノパイル51を降下させる。
モノパイル51は降下しながら、甲板昇降式作業台船1に搭載された図示しない位置決め保持装置により、位置決めされ、図示しない杭打ち込み装置により杭打ちされる。
尚、杭打ちされたモノパイル51の上端部には、タワー一体式風車4の下端部を接続するためのスリーブ53が予め配設されている。
【0034】
次に、洋上風力発電施設の主要部分となるタワー一体式風車の施工方法について説明する。
図1は、タワー一体式風車曳航時の荷姿を示している。
具体的には、陸上の岸壁に搬送されたタワー一体式風車4を、陸上に配置したクレーン等(図示せず)を用いて吊下し、レグ3,3…を介して上昇させた台船本体2上の建て起こし装置5上に吊り降ろし、タワー一体式風車4を建て起こし装置5に保持させた後、レグ3,3…を介して台船本体2を降下させて海上に浮かべた状態を図1に示している。
タワー一体式風車4を建て起こし装置5に保持させる時、建て起こし装置5は、ベースフレーム12が押し引き出し油圧シリンダ21によって、前方側{図1(a)に於いて右方側}に所定寸法押し出された位置にあり、支持リーダーフレーム14は、建て起こし油圧シリンダ15によって、斜め水平状態の姿勢にあり、開いた状態の下部保持装置31と、開いた状態の上部倒れ防止装置32と、風車移動式受台17上に、タワー一体式風車4が斜め倒伏状態に載置されると、タワー一体式風車4は、下部を下部保持装置31によって締め付けられ、中間部を上部倒れ防止装置32によって保持されて、建て起こし装置5に保持され、上部を風車移動式受台17上に支持される。
【0035】
次に、甲板昇降式作業台船1はタワー一体式風車4を斜め倒伏状態で施工現場まで搬送する。
施工現場に到着すると、レグ3を降下させて、甲板昇降式作業台船1を所定高さに固定し、図8に示す如く、曳航時の荷姿の姿勢の状態から、或いは、押し引き出し油圧シリンダ21によりベースフレーム12を適宜前方に押し出した後、図8の実線に示す如く、建て起こし油圧シリンダ15により、支持リーダーフレーム14を建て起こし、タワー一体式風車4を建て起こす。
次に、図9に示す如く、先に杭打ちされたモノパイル51の上端のスリーブ(図7に於いて53)にタワー一体式風車4の下端部を接合して洋上風力発電施設を完成する。
【0036】
本発明の甲板昇降式作業台船及び洋上風力発電施設の施工方法によって、次のような効果が期待できる。
(1)建て起こし装置によって、クローラクレーンを必要としないモノパイルの建て込みが可能になる。
(2)パイル建て込み装置が前後にスライド移動方式であるので、打ち込み位置の精度を高めることができる。
(3)支持リーダーフレームに沿い取り付けられた上部倒れ防止装置及び下部保持装置により垂直精度を保つことができる。
(4)洋上風力発電施設部材を岸壁で建て起こし装置にセットアップし、固縛できるので、洋上風力発電施設部材を洋上を安定して安全に運搬できる。
(5)SEP搭載クローラクレーンの選定は、吊り込み最大荷重が杭打機械210Tonとなって800Tonクローラクレーンでよい。
(6)予め、SEPに設備した建て起こし装置にモノパイルがセットされているので、作業の流れが、SEP据付−パイル建て起こし−杭打ハンマーセット−パイル打設と極めてスムーズである。
(7)マスト(タワー)、ナセル、ハブ・ブレード等の風車パーツの一体化、組立、建て起こし装置への傾斜(斜め倒伏状態)セットアップ固縛、洋上運搬、設置場所での建て起こし、基礎パイルスリーブへの取り付け等、作業が連続的に行える。
(8)建て起こし装置の開発によってモノパイル(500Ton)吊り込みに超大型クレーンの必要性がなくなり、従って大型SEPを採用する必要がなく、大幅にコストダウンが可能である。
(9)風速による作業制限が15m/sec以下になって作業効率が向上する。
(10)風車組立時の作業員の省力化が図れる(例えば10人から6人にすることができる。)。
【符号の説明】
【0037】
1 甲板昇降式作業台船
2 台船本体
3 レグ
4 タワー一体式風車
5 建て起こし装置
11 ガイドレール
12 ベースフレーム
13 ブラケット
14 支持リーダーフレーム
15 建て起こし油圧シリンダ
16 トップタワー
17 風車移動式受台
19 ジャッキ装置
21 押し引き出し油圧シリンダ
22 浮き上がり防止装置
23 チルタンク
31 下部保持装置
32 上部倒れ防止装置
51 モノパイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
台船本体と、
前記台船本体の隅部に遊挿自在に垂直方向に延びて設けられ、油圧ジャッキアップシステムにより前記台船本体を昇降自在に移動させる複数のレグとを備えた甲板昇降式作業台船に於いて、
モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で、前記台船本体の甲板上を移動自在に保持すると共に、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態から建て起こし自在の建て起こし装置を前記台船本体の甲板上に設置したことを特徴とする甲板昇降式作業台船。
【請求項2】
前記台船本体の甲板上に前記タワー一体式風車のトップタワーを受け止める移動自在の風車移動式受台を備えたことを特徴とする請求項1記載の甲板昇降式作業台船。
【請求項3】
前記建て起こし装置は、前記台船本体の甲板上に敷設されたガイドレール上を走行自在のベースフレームと、
ブラケットを介して前記ベースフレームに建て起こし自在に支承され、前記モノパイル又はタワー一体式風車を着脱自在に保持する支持リーダーフレームとを備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の甲板昇降式作業台船。
【請求項4】
前記ベースフレームと、前記支持リーダーフレームとに前記支持リーダーフレームを建て起こし自在の建て起こし油圧シリンダが架設されていることを特徴とする請求項3記載の甲板昇降式作業台船。
【請求項5】
前記ベースフレームの後部に、前記ベースフレームを押し出し、引き出し自在の押し引き出し油圧シリンダが配設され、前記ベースフレームの後部下部に、前記ベースフレームの前記ガイドレールからの浮き上がりを防止する浮き上がり防止装置が配設され、前記ベースフレームの下部に、前記ベースフレームを移動自在に支えるためのチルタンクが配設されていることを特徴とする請求項3又は4記載の甲板昇降式作業台船。
【請求項6】
前記支持リーダーフレームに、前記モノパイル又はタワー一体式風車の下部を保持自在の下部保持装置と、前記モノパイル又はタワー一体式風車の上部が所定姿勢を超えて倒れないように支持する上部倒れ防止装置とを備えたことを特徴とする請求項3乃至5のうちいずれか一に記載の甲板昇降式作業台船。
【請求項7】
前記台船本体の甲板の前端部に、前記モノパイルの下端部を吊り下げ自在のジャッキ装置を備えたことを特徴とする請求項1乃至6のうちいずれか一に記載の甲板昇降式作業台船。
【請求項8】
台船本体に設置され、台船本体上でモノパイル又はタワー一体式風車を保持自在、移動自在及び建て起こし自在の建て起こし装置を用いて、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で台船本体上に保持し、
前記台船本体により、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で施工現場まで搬送し、
施工現場に於いて、前記建て起こし装置を用いて、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態で前記台船本体上を所定位置まで移動させ、
前記建て起こし装置を用いて、前記モノパイル又はタワー一体式風車を倒伏状態又は斜め倒伏状態から鉛直状態に建て起こし、
建て起こした前記モノパイル又はタワー一体式風車を前記建て起こし装置及びジャッキ装置を用いて所定位置まで降下させることを特徴とする洋上風力発電施設の施工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−76622(P2012−76622A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−224164(P2010−224164)
【出願日】平成22年10月1日(2010.10.1)
【出願人】(594062938)第一建設機工株式会社 (5)
【出願人】(510060707)熊進開発株式会社 (3)
【Fターム(参考)】