説明

甲状腺機能低下症を治療する方法

本発明は、成年において甲状腺機能低下症を治療する方法であって、0.005〜0.03μg/kg(体重)/時間/日の用量で、Tを長期間投与することを含む方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2003年2月11に出願された米国特許出願第10/364,800号の利益を主張する。
【背景技術】
【0002】
[発明の背景]
甲状腺機能低下症は、甲状腺による甲状腺ホルモンの不十分な分泌を特徴とする状態である。甲状腺機能低下症の考え得る原因の1つは、ヨウ素欠乏に起因する甲状腺ホルモンの不適切な合成である。この形態の甲状腺機能低下症は、被験体にヨウ素化した塩を供給することにより元に戻すことができる。甲状腺機能低下症はまた、甲状腺ホルモン合成における遺伝的異常性、甲状腺の自己免疫的または他の破壊、あるいは不適切なレベルの甲状腺刺激ホルモン(TSH)(二次性甲状腺機能低下症)または甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン(TRH)(三次性甲状腺機能低下症)に起因して起こり得る。視床下部の下垂体刺激帯から放出されるTRHは、腺下垂体におけるTSHの合成に影響を及ぼし、順次TSHは、甲状腺ホルモンであるテトラヨードサイロニン(サイロキシン、すなわちT)およびトリヨードサイロニン(T)の合成を制御する(Human Physiology, Schmidt R.F. and Thews G. (eds), Springer-Verlag, New York 1983, pp 670-674)。
【0003】
は、Tにとってプロホルモンであり、Tがその生物学的効果を発揮する前に、Tに変換されなくてはならない。核甲状腺ホルモン受容体へのTの結合が、甲状腺ホルモンの効果の大部分を開始すると考えられている。Tは、Tの親和性よりも約10倍高い親和性で、この受容体に結合する。循環Tの約80%が、特に肝臓、腎臓、下垂体および中枢神経系中の酵素によるTからTへの甲状腺外変換から生じる。Tはまた、アミノ酸チロシンのヨウ素化およびカップリングにより、Tと一緒に甲状腺で合成される(Physician's Desk Reference, 56th ed. (Montvale, NJ: Medical Economics Company, Inc., 2002, p 1825)。Tは、身体のたいていの組織による酸素(O)消費を増強し、基礎代謝速度を増加し、炭水化物、脂質およびタンパク質の代謝に影響を与えることが知られている(Physician's Desk Reference, 56th ed. Montvale, NJ: Medical Economics Company, Inc., 2002, p 1825)。
【0004】
胚期間および若年期間中の甲状腺欠損は、精神遅滞をもたらし、小児期中では、甲状腺欠損は、成長を妨げる。成年における甲状腺欠損は、身体的および精神的活性の減少(Dugbartey A.T. Arch. Intern. Med. 158: 1413-8, 1998)および皮膚の肥厚化(粘液水腫)(Human Physiology, Schmidt R.F. and Thews G. (eds), Springer-Verlag, New York 1983, pp 670-674)を引き起こす。甲状腺機能低下性の心臓表現型としては、収縮性機能の悪化、心拍出量の減少、および筋細胞遺伝子発現の改変が挙げられる(Ojamaa et al. CVR&R 23: 20-6, 2002; Danzi and Klein, Thyroid 12 (6): 467-72, 2002)。甲状腺機能低下症はまた、血管平滑筋抵抗の有意な増加を伴う血管リモデリングおよび高血圧に関する潜在性を引き起こす。甲状腺機能低下症は、甲状腺ホルモンの減少したレベルに応答して起こる甲状腺刺激ホルモン(TSH)の増加した生産に起因する甲状腺の顕著な腫脹(甲状腺腫)に関連し得る(Human Physiology, Schmidt R.F. and Thews G. (eds), Springer-Verlag, New York 1983, pp 670-674)。成年では、すべての原因からの甲状腺機能低下症の平均発生数は、女性に関しては4.1/1000および男性に関しては0.6/1000と報告されている(Vanderpump et al., Clin. Endocrinol. 43:55-68, 1995)。別の研究からは、成年での中程度の甲状腺不全の有病率は、女性に関しては20歳で4%から65歳で17%に及び、男性に関しては20歳で2%から65歳で7%に及ぶ(Danese et al. J. Clin. Endocrinol. Metab. 85: 2993-3001, 2000)ことが報告された。
【0005】
は、一般的にほとんどの形態の甲状腺機能低下症を伴う患者を治療するための置換または補助療法で投与される(Wiersinga W.M. Horm. Res. 56(Suppl 1):74-81, 2001; Danese et al. J. Clin. Endocrinol. Metab. 85:2993-3001, 2000; Adlin V. Am. Fam. Physician 57:776-80, 1998)。対比して、Tは、無数の合併症がその使用に付随していることから、ごく稀に投与される。Tの長期間または慢性的投与は、酸素消耗性効果、不整脈および狭心症の増悪に関する懸念に起因して、歴史的に禁忌を示されてきた。特に、優勢なパラダイムは、Tが、付随する血液供給の増加を伴わない心臓によるO消費、すなわち、アンギナ、細動および他の心臓状態の発症に関する古典的なシナリオを増加するため、長期間の治療には適さないとみなしている(Levine, H.D., Am. J. Med., 69:411-18, 1980、Klemperer et al., N. Engl. J. Med., 333:1522-27, 1995およびKlein and Ojamaa, Am. J. Cardiol, 81:490-91, 1998)。例えば、H.D. Levine(Am. J. Med., 69:411-18, 1980)は、甲状腺ホルモンの投与および甲状腺機能正常(正常)状態への回復は、甲状腺機能低下症および冠状動脈疾患を伴う患者における心臓問題を実際に誘導または増悪させることさえ提唱した。甲状腺ホルモン療法は、心臓血管系、特に冠状動脈の完全性が疑わしい多数の状況では、非常に慎重に使用すべきであるとよく知られている(Physician's Desk Reference, 56th ed. (Montvale, NJ: Medical Economics Company, Inc., 2002, pp 1817,1825)。
【0006】
甲状腺ホルモン置換療法は、TおよびTの組合せを用いて実施されており、ここではTの用量はTの用量を上回り、4対1の比のT対Tが好ましい(米国特許第5,324,522号明細書に概説)。Tは、Tの同時投与とともに使用するための持続性または持効性放出投薬形態で使用されており、ここでは調製物は、T1部に対してT1〜50部を含有し、日用量は、T 25〜200μgおよびT 5〜25μgである(米国特許第5,324,522号明細書)。TおよびTの両方を含有する調製物は、甲状腺機能低下症患者によっては、T療法単独と比較して、クオリティ・オブ・ライフ(生活の質)を改善し得ることが提唱されている(Wiersinga W.M. Horm. Res. 56(Suppl 1):74-81, 2001)。実際に、甲状腺癌または自己免疫甲状腺炎を伴う甲状腺機能低下症患者において(Bunevicius and Prange, Int. J. Neuropsychopharmacol. 3: 167-174, 2000)、あるいはグレーヴズ病のための甲状腺切除後に(Bunevicius, Endocrine 18(2):129-33, 2002)、T単独と比較して、複合TおよびT置換療法を用いて、精神向上が報告されている。
【0007】
を単独で使用する場合には、中程度の甲状腺機能低下症の治療に関して現在推奨されている成人の出発用量は、1日1回経口により25μgであり、通常の維持用量は、1日当たり25〜75μgである(Physician's Desk Reference, 56th ed. Montvale, NJ: Medical Economics Company, Inc., 2002, p 1818)。T25〜50μgの開始静脈内用量は、成年における粘液水腫昏睡/前昏睡期の緊急治療において推奨されており、療法の最初の数日では、1日当たりT少なくとも65μgの静脈内投与が、より低い死亡率に関連している(Physician's Desk Reference, 56th ed. (Montvale, NJ: Medical Economics Company, Inc., 2002, p 1826)。
【0008】
はまた、約5μg/日〜約50μg/日の用量を用いて、うっ血性心不全の治療用に患者に投与されている(米国特許第6,288,117 B1号明細書)。0.05〜0.15μg/kg/時間の用量でのTの急性連続注入は、複雑な先天性心臓疾患の治療のための手術後に、乳幼児、小児および18歳以下の年齢の患者に使用されている(Chowdhury et al., Am. J. Cardiology 84: 1107-9, 1999, J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 122: 1023-5)。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
[発明の概要]
甲状腺ホルモンの高用量投与、およびTおよびTの複合投与の優勢を教示する従来技術に反して、本発明は、成年における甲状腺機能低下症を治療するための低用量のTの長期間の連続投与に関する。低用量のTの長期間の連続投与は、甲状腺機能低下被験体におけるTの血清レベルを首尾よく正常化するだけでなく、高用量のTもしくはT/T複合療法に伴って生じ得る有害な副作用を回避または低減すると考えられる。
【0010】
[発明の詳細な説明]
本発明は、Tの長期間の連続投与による甲状腺機能低下症を有する成年における甲状腺機能低下症の治療方法に関する。「甲状腺機能低下症を治療する」という用語は、本明細書中で使用する場合、甲状腺機能低下症の任意の1つまたはそれ以上の症状を治療することを包含する。本明細書中で使用する場合、「成年」という用語は、思春期を完了した人を意味するのに使用される。
【0011】
本明細書中で使用する場合、「T」は、トリヨードサイロニンを指す。Tを、T生物活性を有するTフラグメントまたはT生物活性を有するT機能的変異体で置換いうることもまた、本発明の範囲内である。Tの機能的変異体としては、アミノ酸基がT中に一般的に存在するアミノ酸基に代わって置換したTの変異体、およびTならびにさらなるアミノ酸を含むか、あるいは任意の1つまたはそれ以上の炭水化物、脂質または核酸をさらに含む変異体が挙げられるが、これらに限定されない。TフラグメントおよびTの変異体は、Tの生物活性と同じ生物活性またはTと比較して増強もしくは低減された生物活性を有し得る。本明細書中で使用する場合、Tならびにそのフラグメントまたは変異体は、Tを包含しない。
【0012】
合成Tは、市販されており、Jones Pharma Incorporated (St. Louis, MO)から入手可能であり得る。リオサイロニンナトリウムは、Tの合成調製物であり、経口(Cytomel)および静脈内(Triostat)配合物で購入することができる。Cytomel錠剤は、天然甲状腺ホルモンの合成形態であるリオサイロニン(L−トリヨードサイロニン)であり、ナトリウム塩として利用可能である(Physician's Desk Reference, 56th ed. Montvale, NJ: Medical Economics Company, Inc., 2002, p 1817)。Tの天然調製物は、動物甲状腺に由来し得る。天然調製物は、乾燥甲状腺およびサイログロブリンを含む。乾燥甲状腺は、ヒトにおいて食品用に使用される家畜(例えば、ウシまたはブタ甲状腺)に由来し、サイログロブリンは、ブタの甲状腺に由来する。
【0013】
本発明の方法は、T欠損した患者を治療するのに使用される。かかる患者では、長期間にわたって投与される低用量のTが、規則的な(例えば、毎日1回)高用量のTの長期間投与に一般的に付随する最低限の有害な副作用を伴って、または有害な副作用を全く伴わずに、患者において、血清Tを正常レベル(80〜180ng/dl)へ回復させるか、あるいは正常以上の血清Tレベルにわずかに上昇させることが期待される。
【0014】
好ましい患者の分類の1つは、TをTに変換することが欠乏している被験体である(例えば、De Groot, J. Clin. Endocrinology Metabolism 84:151-64, 1999)。
【0015】
本発明の方法では、Tは、0.005〜0.03μg/kg(体重)/時間/日の用量で投与される。好ましくは、Tは、0.0075〜0.02μg/kg(体重)/時間/日の用量で投与される。より好ましくは、Tは、0.01〜0.015μg/kg(体重)/時間/日の用量で投与される。好ましい実施形態では、Tは、約0.01μg/kg(体重)/時間/日の用量で投与される。好ましくは、Tの日用量は、8〜50μgである。例えば、70kgの人に関しては、0.005μg/kg(体重)/時間/日の用量は、T8.4μgの日用量をもたらす。より好ましくは、Tの日用量は、12〜35μgである。最も好ましくは、Tの日用量は、17〜25μgである。好ましい実施形態では、Tの日用量は、17μgである。Tの実際の好ましい用量は、患者の容態の重篤性およびTの代謝における個々の変動を含む各場合の特定の要因に依存し、当該技術分野の専門家により容易に決定される。
【0016】
「長期間の投与」という用語は、本明細書中で使用する場合、少なくとも1週間の期間、および好ましくは少なくとも3週間の期間を指すが、Tを男性または女性の生涯にわたって被験体に投与することができることは、本発明の範囲内である。Tの用量は、経口投与、注射、経皮投与および注入(例えば、浸透圧ミニポンプによる)を含むが、これらに限定されない既知の手順によりヒトまたは動物患者に投与され得る。
【0017】
は、医薬上許容可能なキャリア中に配合することができる。経口投与に関して、Tの用量の配合物は、カプセル、錠剤、粉末、顆粒として、あるいは懸濁液として提示され得る。好ましくは、Tの用量は、Tの単回日用量が投与され得るように、持続放出性または制御放出性配合物で提示される。具体的な持続放出性配合物は、米国特許第5,324,522号明細書、同第5,885,616号明細書、同第5,922,356号明細書、同第5,968,554号明細書、同第6,011,011号明細書および同第6,039,980号明細書(これらは、参照されて本明細書の一部とする)に記載されている。Tの配合物は、ラクトース、マンニトール、コーンスターチまたはポテトスターチのような従来の添加物を有してもよい。配合物はまた、結晶セルロース、セルロース誘導体、アラビアゴム、コーンスターチまたはゼラチンのような結合剤とともに提示してもよい。さらに、配合物は、コーンスターチ、ポテトスターチまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムのような崩壊剤とともに提示してもよい。最終的に、配合物は、タルクまたはステアリン酸マグネシウムのような潤滑剤とともに提示してもよい。
【0018】
注射に関して、Tの用量は、好ましくは患者の血液と等張性である滅菌水溶液と組み合わせてもよい。かかる配合物は、水溶液を生じるように、生理学的に適合性の物質(例えば、塩化ナトリウム、グリシン等)を含有し、かつ生理学的条件と適合可能な緩衝pHを有する水中で、固体有効成分を溶解すること、続いて上記水溶液を滅菌させるにより調製され得る。配合物は、密封アンプルまたはバイアルのような単位または多用量容器中に存在し得る。配合物はまた、筋膜上、皮内、筋内、脈管内、静脈内、実質または皮下を含む任意の注射様式により送達され得るが、これらに限定されない。
【0019】
経皮投与に関して、Tの用量は、Tの用量に対する皮膚の浸透性を増大し、かつ皮膚を通っておよび血流へとTの用量が浸透するのを可能にする皮膚浸透増進剤(例えば、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、イソプロパノール、エタノール、オレイン酸、N−メチルピロリドン等)と組み合わせてもよい。T/増進剤組成物はまた、高分子物質(例えば、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、エチレン/酢酸ビニル、ポリビニルピロリドン等)とさらに組み合わせて、ゲル形態で組成物を提供してもよく、この組成物は、塩化メチレンのような溶媒中に溶解させて、所望の粘度に蒸発させ、続いて裏当て材料に塗布して、パッチを提供してもよい。
【0020】
本発明のTの用量はまた、浸透圧もしくは他のミニポンプから放出または送達されてもよい。基本的な浸透圧ミニポンプからの放出速度は、放出口に配置される微孔性高速応答(fast-response)ゲルにより調節され得る。浸透圧ミニポンプは、Tの放出を制御するのに、あるいはTの送達を標的化するのに有用である。
【0021】
本発明の好ましい実施形態では、Tは、治療的用量のTの投与の非存在下で投与される。
【0022】
本明細書中に記載するような低用量のTの長期間の連続投与は、TもしくはT/T複合療法の高用量投与により生じ得る有害な副作用を回避または減衰させることができると考えられる。かかる副作用としては、筋衰弱、骨量の減少、骨粗しょう症、体重の減少、熱不耐性の誘導または悪化、神経質、疲労、被刺激性、うつ病(激越性うつ病を含む)および睡眠障害を含む神経心理学的変化、ならびに心臓肥大、頻拍、狭心症および心不整脈(細動を含む)を含む心臓障害が挙げられるが、これらに限定されない(例えば、The Thyroid, Braverman LE and Utiger RD(eds), Lippincott Williams & Wilkins, 2000)。
【0023】
本発明はまた、Tの制御放出用の配合物を提供し、ここでTは、0.005〜0.03μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される。好ましくは、Tは、0.0075〜0.02μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される。より好ましくは、Tは、0.01〜0.015μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される。好ましい実施形態では、Tは、約0.01μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される。好ましくは、Tの日用量は、8〜50μgである。より好ましくは、Tの日用量は、12〜35μgである。最も好ましくは、Tの日用量は、17〜25μgである。好ましい実施形態では、Tの日用量は、約17μgである。実際の好ましいTの用量は、患者の容体の重篤性およびTの代謝における個々の変動を含む各場合の特定の要因に依存する。
【0024】
本発明は、以下の実験の詳細の節において記載されるが、実験の詳細は、本発明の理解を助長するために記述するものであり、いかなる場合においても添付の特許請求の範囲で規定するような本発明の範囲を限定すると解釈されるべきではない。
【実施例】
【0025】
[実験の詳細]
方法および材料−動物研究。研究は、体重180〜225gの成年SDラットを用いて行った。甲状腺切除は、甲状腺の外科的除去により実施した。Tは、Sigma(St. Louis, MO)から入手し、ボーラス注射またはミニ浸透圧ポンプ(Alza, Palo Alto, CA)による一定注入のいずれかにより皮下投与した。血液は、ラジオイムノアッセイによるTの血清レベルの測定用に、眼窩後隙から定期的に採取した(DiaSorin, Stillwater, MN)。動物を屠殺した後、心臓の左心室を液体窒素中で即座に凍結した後、これまでに記載されるようにRNA抽出用に処理した(Balkman et al. Endocrinology 130:1002-6, 1992)。α−ミオシン重鎖(α−MHC)ヘテロ核(hn)RNAに関する総左心室RNAの逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)アッセイを、これまでに記載されるように実施した(Danzi and Klein, Thyroid 12(6): 467-72, 2002)。結果は、平均値±SEで表す。
【0026】
[実施例1]
ラットにおけるTの血清半減期。
甲状腺切除したマウスに、T1μgのボーラス注射を施した。注射後のTの血清レベルの測定により、Tは、7時間の半減期を有することが示された(図1)。この値は、一般的に報告されている値である約2〜1/2日よりも相当短い(Physician's Desk Reference, 56th ed. (Montvale, NJ: Medical Economics Company, Inc., 2002) 1817)。
【0027】
[実施例2]
一定T注入は、甲状腺機能低下性被験体においてTの血清レベルを正常にまで回復させ、かつ不都合な副作用を回避するが、ボーラスT注射は、甲状腺機能低下性被験体においてTの血清レベルを正常にまで回復させず、かつ不都合な副作用を回避しない。正常なラットは、平均約95ng/dlの血清Tレベルを有する(図2のEu)。甲状腺切除したラットにおける7日間のTの注入(0.042μg/hr)後、血清Tレベルは、正常に回復した(7dポンプ、図2)。対比して、甲状腺切除したラットにおいて単回ボーラス注射として投与した同じ日用量のTの毎日の注射(T1μg/日)は、血清Tレベルを正常に回復させなかった(7d注射、図2)。一定T注入は、正常レベルへの血清Tの回復をもたらしたのに対して、ボーラスT注射は、血清Tレベルに対する効果が相当小さかったという事実にもかかわらず、Tの毎日のボーラス注射はまた、望ましくない心臓肥大をもたらしたのに対して、Tの一定注入は心臓肥大をもたらさなかった。
【0028】
[実施例3]
一定T注入は、甲状腺機能低下性被験体において心臓機能を正常にまで回復させるが、ボーラスT注射は、甲状腺機能低下性被験体において心臓機能を正常にまで回復させない。心臓特異的遺伝子α−ミオシン重鎖(α−MHC)の発現は、正常な心臓機能の高感度の指標である(Ojamaa et al. CVR&R 23:20-6, 2002; Danzi and Klein, Thyroid 12(6):467-72, 2002; Ojamma and Klein, Endorcrinology 132: 1002-6, 1993)。甲状腺切除したラットでは、α−MHCの発現は、非常に低減している(図4)。図3に示されるように、Tのボーラス注射は、α−MHC発現の一過性の増加から明らかなように、心臓に対して一過性の効果をもたらす。しかしながら、血清Tレベルに対する効果と同様に、Tの一定注入は、α−ミオシンHC発現を正常にまで回復させるのに対して、Tのボーラス注射は、α−ミオシンHC発現を正常にまで回復させない(図4)。
【0029】
[実施例4]
種々の濃度でのT注入の効果。
甲状腺機能低下性ラットにおける血清Tレベルおよび他のパラメータに対する種々の濃度でのT注入の効果を表1に示す。1μg/日で1週間のTの注入は、甲状腺機能低下性ラットにおいて、血清Tレベルを正常にまで回復させた。対比して、2.5、5.0および7.0μg/日の濃度でのTの注入は、血清Tレベルを正常以上にまで著しく上昇させた。7.0μg/日の濃度でのTの注入はまた、心拍数および体重に対する心臓の重量の比の両方を正常以上にまで著しく上昇させた。1μg/日の濃度でのTの注入は、1週間よりも長い期間連続した場合に、心拍数および心臓の大きさを甲状腺機能正常対照の心拍数および心臓の大きさへと正常化すると予測される。
【0030】
[実施例5]
ラットおよびヒトにおけるT用量の比較。
の代謝クリアランス率(MCR)は、ヒトよりもラットでは約13.5倍速い。ラットに関するTのMCRは、176ml/hr/kgであると報告されている(Goslings et al., Endocrinology 98:666-75, 1976)。同様に、甲状腺機能低下性ヒトに関するTのMCRは、11.4L/日/mであると報告されている(Bianchi et al., J. Clin. Endocrinol. Metab. 46:203-14, 1997)。70kgのヒトが1.91mであると仮定すると、ヒトに関するTのMCRは、約13ml/hr/kgである。ラットはヒトよりも約13.5倍高いTのMCRを有するため、等価な結果をもたらすためには、T注入は、ラットよりもヒトでは、約13.5倍低い濃度で施さすべきである。
【0031】
本明細書中で言及した刊行物はすべて、それらの全体が参照により本出願に援用される。上述の本発明は、明瞭性および理解の目的で、多少詳細に記載してきたが、添付の特許請求の範囲における本発明の真の範囲を逸脱することなく、形態および詳細における様々な変更を行うことができることが、本開示に目を通すことで当業者に理解されよう。
【0032】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】3匹の甲状腺切除したラットにおけるT1μgの単回静脈内注射後の、時間の関数としてのTの血清レベル。挿入物は、注射の30分〜24時間後のTレベルの常用対数プロットを示す。Tの半減期は、7時間であると確定された。
【図2】Tの血清レベルは、連続T注入により回復されるが、同量のTのボーラス注射では回復されない。T血清レベルは、正常(Eu)ラット、甲状腺切除した(Tx)ラット、0.042μg/hrでのT注入の7日後のTxラット(7dポンプ)、および7日間のT1μg/日のボーラス注射後のTxラット(7日注射)に関して示している。各群につきラット3匹。
【図3A】Tのボーラス注射は、甲状腺切除したラットにおいて心臓特異的遺伝子α−ミオシン重鎖(α−MHC)の発現の一過性の増加をもたらす。α−MHCヘテロ核(hn)RNAのレベルを、T1μgのボーラス注射後の様々な時点で示している。臭化エチジウムで染色して、かつ紫外光で可視化したα−MHC hnRNA PCR産物を示す代表的なアガロースゲル。PCRフラグメントサイズは、335塩基対(bp)である。
【図3B】Tのボーラス注射は、甲状腺切除したラットにおいて心臓特異的遺伝子α−ミオシン重鎖(α−MHC)の発現の一過性の増加をもたらす。α−MHCヘテロ核(hn)RNAのレベルを、T1μgのボーラス注射後の様々な時点で示している。3匹のラットに関する甲状腺機能正常(正常)値のパーセントとして示した左心室RNA由来のhnRNA α−MHC335bpフラグメントの定量化。
【図4】心臓特異的遺伝子α−ミオシン重鎖(α−MHC)の発現は、連続T注入により正常レベルに回復されるが、ボーラスT注射によっては回復されない。データは、正常な甲状腺機能正常ラット、甲状腺切除した(Tx)ラット、およびTのボーラス注射(各日T1μgの単回注射を2日間)後またはTの連続注入(0.042μg/時間を48時間)後の甲状腺切除したラットに関して示している。T連続注入は、α−MHC遺伝子発現を正常に回復させたが、Tのボーラス注射は、正常のほんの60%の心臓での転写をもたらした。各群当たり200グラムのラット3匹。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
甲状腺機能低下症を有する成年被験体において、甲状腺機能低下症を治療する方法であって、前記被験体において甲状腺機能低下症を治療するのに有効な0.005〜0.03μg/kg(体重)/時間/日の用量で、前記成年被験体へTを長期間投与することを含む方法。
【請求項2】
は、0.0075〜0.02μg/kg(体重)/時間/日の用量で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
は、0.01〜0.015μg/kg(体重)/時間/日の用量で投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
は、約0.01μg/kg(体重)/時間/日の用量で投与される、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
の日用量は、8〜50μgである、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
の日用量は、12〜35μgである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
の日用量は、17〜25μgである、請求項3に記載の方法。
【請求項8】
の日用量は、約17μgである、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
は、医薬上許容可能なキャリア中に配合される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
は、持続放出性配合物中で投与される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
は、毎日投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
は、経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
は、注入により投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
は、毎日投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
は、経口投与される、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
は、一日に一度、持続放出性配合物中で経口投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記成年は、TをTに変換することが欠乏している、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
は、治療的用量のTの投与の欠如下で投与される、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
は、0.005〜0.03μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される配合物。
【請求項20】
は、0.0075〜0.02μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される、請求項19に記載の配合物。
【請求項21】
は、0.01〜0.015μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される、請求項20に記載の配合物。
【請求項22】
は、約0.01μg/kg(体重)/時間/日の用量で放出される、請求項20に記載の配合物。
【請求項23】
の日用量は、8〜50μgである、請求項19に記載の配合物。
【請求項24】
の日用量は、12〜35μgである、請求項20に記載の配合物。
【請求項25】
の日用量は、17〜25μgである、請求項21に記載の配合物。
【請求項26】
の日用量は、約17μgである、請求項22に記載の配合物。

【図1】
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【図2】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【公表番号】特表2006−517588(P2006−517588A)
【公表日】平成18年7月27日(2006.7.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−503412(P2006−503412)
【出願日】平成16年2月6日(2004.2.6)
【国際出願番号】PCT/US2004/003620
【国際公開番号】WO2004/071432
【国際公開日】平成16年8月26日(2004.8.26)
【出願人】(501324834)ザ・フェインスタイン・インスティチュート・フォー・メディカル・リサーチ (14)
【氏名又は名称原語表記】The Feinstein Institute for Medical Research
【住所又は居所原語表記】350 Community Drive, Manhasset, NY 11030, U.S.A.
【Fターム(参考)】