説明

甲状腺眼症の治療のための方法、組成物及び製剤

【解決課題】甲状腺眼症及び関連する症状(例えばグレーブス眼症)を治療するための組成物、製剤、方法及びシステムに関する。
【解決手段】患者に、全身的若しくは局所的にβアドレナリン作用アゴニストを(例えば遅延放出型の結晶微粒子懸濁液として)投与するステップを有してなる。該方法は更に、βアドレナリン受容体脱感作を減少させるための化合物(例えばグルココルチコステロイド)を、βアドレナリン作用アゴニストの投与前に投与してもよく、又は共投与してもよい。該方法は、眼に局所的に免疫抑制剤(例えばラパマイシン)を、βアドレナリン作用アゴニストを投与する前に投与してもよい。本願明細書に記載されている組成物には、遅延放出型の結晶微粒子懸濁液の形態の、βアドレナリン作用アゴニストの眼科用医薬組成物、又はβアドレナリン作用アゴニスト溶液と上記結晶微粒子懸濁液との混合物が包含される。上記組成物には、遅延放出型結晶微粒子懸濁液の形態の、βアドレナリン受容体脱感作を減少させるための化合物の眼科用医薬組成物も包含される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、甲状腺眼症の治療のための方法、組成物及び製剤の提供に関する。
【0002】
本特許出願は、2006年10月17日に出願の米国仮特許出願第60/852221号、2007年1月29日に出願の第60/898009号、及び2007年4月13日に出願の第60/919011号の優先権を主張し、それらの全開示内容を参照により本願明細書に援用する。
【背景技術】
【0003】
グレーブス病は、年間で1000人に1人の割合で、女性において発症する公知の疾患である。グレーブス病の患者のうち25〜50%は、甲状腺機能亢進症に加え、眼の臨床病変(すなわち甲状腺眼症)が進行する。グレーブス眼症(GO)は、甲状腺眼症の典型的な形態である。GOの患者の一部は、軽度の眼の不快感を示すのみであるが、一方、3〜5%の患者において、複視を伴う重度の痛み及び炎症、又は視力喪失が生じるこることさえある。
【0004】
GOの臨床症状及び徴候の機構は、眼窩内の組織容積が顕著に増加することによって説明できる。眼窩組織の膨張により、眼球の前方への移動、静脈の障害及び眼窩からのリンパ流出が生じる。これらの変化は、サイトカイン及び他の炎症調節因子の局所的産生と相まって、眼球突出、眼窩周囲浮腫、結膜紅斑及び結膜浮腫(図1)を生じさせる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、甲状腺眼症の治療のための方法、組成物及び製剤の提供に関する。
本発明では、長時間作用型β2アドレナリン受容体アゴニストと、標的組織において前記長時間作用型β2アドレナリン受容体アゴニストに対するβアドレナリン受容体脱感作を減少させる化合物とを含んでなる組成物を、眼内の標的の脂肪蓄積と接触させることによって、甲状腺眼症を治療するための、組成物、製剤、方法及びシステムを開示する。上記組成物は、幾つかの実施形態では、例えば眼球後(眼の後部)へ注入され、及び/又は経眼投与される。グルココルチコステロイドは、眼窩及び眼窩脂肪組織に存在する、炎症細胞及び炎症性サイトカインの放出を減少させる更なる効果を発揮する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
したがって、本願明細書で提供される一態様は、患者(例えば甲状腺眼症に罹患する患者)の眼窩脂肪の蓄積を、患者に治療上有効量の少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、治療上有効量のβ受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物とを投与することによって減少させる方法に関する。幾つかの実施形態では、上記の治療を必要とする患者は、グレーブス眼病に罹患する。幾つかの実施形態では、上記の治療を必要とする患者は、外眼筋肥大に罹患する。幾つかの実施形態では、上記患者は、眼球突出に罹患する。
【0007】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニスト又は脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物の投与は、非経口的、経口的、眼内、眼窩内、筋円錐内、点眼、眼球後、眼窩周囲、局所、筋肉内、経皮、舌下、鼻腔内又は吸入により行われる。
【0008】
幾つかの実施形態では、β受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物は、少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストの前(例えば約3日〜約7日前)に投与される。幾つかの実施形態では、前記少なくとも1つの化合物の投与は、眼内、眼窩内、点眼、眼窩周囲、眼球後、筋円錐内経路によって行われる。幾つかの実施形態では、前記少なくとも1つの化合物は、結晶微粒子懸濁液の形で投与される。
【0009】
幾つかの実施形態では、前記少なくとも1つの化合物は経口投与され、前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストは点眼により投与される。点眼により投与される少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストは、結晶微粒子製剤の形態で投与される。
【0010】
幾つかの実施形態では、患者に投与される前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストは、長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つの化合物はグルココルチコステロイドであり、長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストはサルメテロール、フォルモテロール又はそれらの組み合わせである。幾つかの実施形態では、投与される上記βアドレナリン作用アゴニストは、β2アドレナリン受容体に対して選択的なβアドレナリン作用アゴニストである。幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストは、サルメテロール、フォルモテロール又はそれらの任意の組み合わせを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストはサルメテロールを含んでなり、かつサルメテロールの治療上有効量は、約0.01μg/日〜約100μg/日(例えば約1μg/日〜約100μg/日、約10μg/日〜約100μg/日又は約50μg/日〜約100μg/日)のサルメテロールである。他の実施形態では、上記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストはフォルモテロールを含んでなり、かつフォルモテロールの治療上有効量は、約0.001μg/日〜約50μg/日(例えば0.01μg/日〜約1.0μg/日、約0.1μg/日〜約10μg/日、約1μg/日〜約20μg/日又は約5μg/日〜約40μg/日)である。
【0011】
幾つかの実施形態では、上記βアドレナリン受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物は、グルココルチコステロイド、抗ヒスタミン剤又はそれらの任意の組み合わせである。幾つかの実施形態では、上記βアドレナリン受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物は、デキサメタゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、フルチカゾンプロピオネート、ブデソニド、ケトチフェン又はそれらの任意の組み合わせを含んでなる。
【0012】
幾つかの実施形態では、患者は、少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、少なくとも1つのβアドレナリン受容体脱感作を減少させるための化合物と、の投与前に、眼内、眼窩内、点眼、眼窩周囲、眼球後、筋円錐内経路によって、治療上有効量の免疫抑制剤を投与される。幾つかの実施形態では、上記免疫抑制剤は、結晶微粒子懸濁液の形で投与される。
【0013】
本願明細書で提供される他の態様は、治療を必要とする患者に、治療上有効量の少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストを含んでなる組成物を投与することによる、眼球突出の治療方法である。
【0014】
幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストは、長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストは、β2アドレナリン受容体に対して選択的なβアドレナリン作用アゴニストを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストは、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、エフォルモテロール(eformoterol)、イソプロテレノール、アルブテロール又はフェノテロールを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記組成物は、少なくとも1つの長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストと、少なくとも1つの短時間作用型βアドレナリン作用アゴニストとの混合物を含んでなる。幾つかの実施形態では、上記組成物はまた、治療上有効量のヒアルロニダーゼを含んでなる。
【0015】
幾つかの実施形態では、上記組成物はサルメテロールを含んでなり、患者は約0.01μg/日〜約100μg/日の治療上有効量のサルメテロールを投与される。他の実施形態では、上記組成物はフォルモテロールを含んでなり、患者は約0.001μg/日〜約50μg/日の治療上有効量のフォルモテロールを投与される。
【0016】
幾つかの実施形態では、上記組成物の投与は、非経口、経口的、眼内、眼窩内、眼窩周囲、点眼、眼球後、筋円錐内、局所、筋肉内、経皮、舌下、鼻腔内又は吸入により行われる。
【0017】
本願明細書で提供される他の態様は、治療上有効量の1つ以上のアドレナリン受容体経路を刺激する化合物と、治療上有効量の、少なくとも1つのβアドレナリン受容体脱感作を減少させるための化合物とを、患者に投与することによる、治療を必要とする患者の眼窩脂肪の蓄積を減少させる方法である。幾つかの実施形態では、上記1つ以上のアドレナリン受容体経路を刺激する化合物は、カテコールアミン、αアドレナリン作用性アンタゴニスト、フォルスコリン、アミノフィリン又はその類縁体を含んでなる。
【0018】
本願明細書で提供される更に他の態様は、眼科的に許容できる賦形剤と、治療上有効量の酢酸メチルプレドニゾロン又はフルチカゾンプロピオネートとを、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる、眼科用医薬組成物である。幾つかの実施形態では、上記眼科用医薬組成物は更に、可溶化された酢酸メチルプレドニゾロン又は可溶化されたフルチカゾンプロピオネートを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記眼科用医薬組成物は更に、治療上有効量の少なくとも1つの長時間作用型β2アゴニストを、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる。
【0019】
本願明細書で提供される他の態様は、眼科的に許容できる賦形剤と、治療上有効量の少なくとも1つの長時間作用型β2アゴニストとを、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる眼科用医薬組成物である。幾つかの実施形態では、上記少なくとも1つの長時間作用型β2アゴニストは、サルメテロール又はフォルモテロールを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記眼科用医薬組成物は更に、治療上有効量の少なくとも1つの可溶化された長時間作用型β2アゴニストを含んでなる。幾つかの実施形態では、上記眼科用医薬組成物は更に、治療上有効量の、βアドレナリン受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物を、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる。
【0020】
本願明細書において提供される更なる態様は、眼窩脂肪の蓄積を伴う疾患の治療用薬剤の製造への、少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、少なくとも1つのβアドレナリン受容体脱感作を減少させるための化合物との使用である。
【0021】
本願明細書で提供される他の態様は、眼窩脂肪の蓄積を伴う疾患の治療方法への、少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、少なくとも1つのβアドレナリン受容体脱感作を減少させるための化合物との使用である。
【0022】
(参照による援用)本願明細書において言及される全ての刊行物及び特許出願は、あたかもそれらの個々の刊行物又は特許出願が、具体的かつ個別的に開示されたかのように、参照により本願明細書に援用される。
【0023】
本発明の新規な特徴は、添付の特許請求の範囲に具体的に記載される。本発明の特徴及び効果は、実施的な実施形態(本発明の原理の利用形態)を記載する以下の詳細な説明、及び添付の図面を参照することにより、より詳細に理解できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】脂肪細胞における脂肪分解の概略図を示す。
【図2】培養された脂肪細胞における、長時間作用型β2アゴニスト フォルモテロールの投与量に依存した、3時間の培養後の脂肪分解の誘導を示す棒グラフである。
【図3】培養された脂肪細胞における、長時間作用型β2アゴニスト サルメテロールの投与量に依存した、3時間の培養後の脂肪分解の誘導を示す棒グラフである。
【図4】培養された脂肪細胞における、グルココルチコステロイド ブデソニドの投与量に依存した、短いインキュベート時間(3時間)後の脂肪分解の誘導、及び長いインキュベート時間(18時間)後の脂肪分解の抑制を示す棒グラフである。
【図5】培養された脂肪細胞における、長時間作用型β2アゴニスト サルメテロール単独の投与量に依存した、18時間にわたる脂肪分解の抑制、及び、グルココルチコステロイド ブデソニドとの組み合わせで投与した場合の、サルメテロールの投与量に依存した、18時間後の脂肪分解の誘導を示す棒グラフである。
【図6】3日の治療間にわたる、ビヒクル溶液(2%のPEG)、フォルモテロール単独、又はブデソニド+フォルモテロールを注入された脂肪パッドにおける、精巣上体の脂肪パッド重量の、動物内における相違(左の脂肪パッド 対 右の脂肪パッド)の平均値を示す棒グラフである。
【図7】β2アゴニスト フォルモテロール及びグルココルチコステロイド ブデソニドの2つの異なる投与量の組合せで、3日間処置したときの脂肪パッド質量の、投与量に依存した減少を示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
CTスキャンの結果によると、GOに罹患する大多数の患者は、眼窩脂肪及び外眼筋がともに肥大しており、それ以外の患者は、脂肪組織又は外眼筋の病変のみが存在している。外眼筋細胞自体は、疾患の初期、進行期において障害を受けないが、それは、それ自身が自己免疫による攻撃の標的でないことを示唆するものである。むしろ、外眼筋の肥大は、筋周膜の結合組織内における親水性ムコ多糖類(特にヒアルロナンなど)の蓄積の結果である。疾病後期における回復の際、筋肉内での炎症プロセスにより、それらが線維状及び無秩序の状態のままとなる。
【0026】
眼窩内の脂肪/結合組織量の増加により、外眼筋拡大の場合よりも、全体的な眼窩組織体積の顕著な肥大を生じさせると考えられる。CTによる分析により、これらの患者の眼球突出測定値が、脂肪のコンパートメント量と非常に密接に相関することが示される。この脂肪組織体積の肥大は、付随的な浮腫を有するヒアルロナン蓄積、及びこれらの組織内での新しく分化した脂肪細胞集団の出現の両方の結果であると考えられる。
【0027】
GOにおける眼窩組織の組織学的検査により、主に浮腫を有するヒアルロナン蓄積、脂肪のコンパートメントの肥大及びTリンパ球による組織への浸潤から、特徴的な変化が生じることが明らかとなる。この症状における眼窩脂肪細胞は分化されていると考えられるが、体内の他の脂肪細胞(例えば皮下脂肪若しくは網脂肪)より小さい。GOの眼窩脂肪細胞では、PPAR−γ、アディポネクチン及びレプチンのmRNA転写産物が増えている。更に、眼窩脂肪細胞では、1型11−β−ヒドロキシステロイドデヒドロゲナーゼ(コーチゾンの活性型コルチゾールへの変換に関与する酵素)のレベルが低い。
【0028】
これらの組織から得られる細胞を使用した研究により、眼窩線維芽細胞が、これらの多様な細胞内プロセスに関与しうる眼窩細胞であることが示されている。これらの細胞は、サイトカイン及び他の免疫調節物質による刺激に対して特に感受性が高く、これらの刺激によりCD40の発現が増加し、大量のヒアルロナンを合成し、炎症性サイトカインを分泌する。更に、線維芽細胞の前脂肪細胞部分集団は、TSHRを高発現する成熟脂肪細胞に分化できる。線維芽細胞は、IGF−IRを発現することも示されている。グレーブス病の患者のIgGに結合したとき、これらの受容体は下流のシグナル伝達を開始させ、RANTES及びIL−16の産生を生じさせ、局所的なリンパ球浸潤を生じさせる。グレーブス病における眼窩合併症の相対的な部位特異性は、免疫調節物質に対するこれらの線維芽細胞の相対的な感受性、並びに、これらの部位の固有の解剖学的特徴の両方から説明することができ、それにより、低圧で作動するリンパ管及び静脈チャネルを圧縮させる素因ともなりうる。
【0029】
脂肪組織は、生体における主要なエネルギー貯蔵組織である。脂肪細胞は、このエネルギーをトリグリセリドの形で貯蔵する。トリグリセリドは、貯蔵脂肪から動員され、ホルモン誘導によるトリグリセリド加水分解を経て、生体に熱エネルギーを提供する。このプロセスにより、血液中に遊離型若しくは非エステル型の脂肪酸とグリセロールが放出され、他の体組織で使用される。貯蔵脂肪からのトリグリセリドへの分解は、脂肪分解と称される。新規な脂肪細胞の増殖が生じるが、それは脂肪生成と称される。
【0030】
カテコールアミンは、アドレナリン受容体を介する、主要な脂肪組織の調節物質である。脂肪組織は、β1、β2及びβ3アドレナリン受容体、並びにα2アドレナリン受容体を有する。脂肪組織中のβ受容体に対するβアゴニストの結合により、脂肪細胞での脂肪分解を生じさせ、一方、α受容体アゴニストの結合により、脂肪分解が阻害されうる。またβ受容体の活性化により、脂肪生成が阻害されうる。ヒトにおいて、β2受容体は通常、脂肪細胞表面に最も多く存在し、β受容体刺激による脂肪分解の主要な調節因子である。βアゴニストによる脂肪分解の刺激は、アデニル酸シクラーゼ及びサイクリックアデノシン一リン酸(サイクリックAMP(cAMP))の産生の増加により媒介される。α2受容体は、成熟脂肪細胞における脂肪分解を減少させる。α2アドレナリン受容体は、前脂肪細胞の増殖に関与すると考えられる。グルココルチコステロイドは、脂肪組織に許容的作用を及ぼし、カテコールアミン刺激に対する脂肪細胞の反応(例えば脂肪分解)を強化すると考えられる。この許容的作用は、β受容体及び細胞内セカンドメッセンジャーに関与する他の構成要素の上方制御に起因すると考えられる。
【0031】
GOの治療では、肥大した眼窩脂肪組織量の減少を標的にする必要がある。ゆえに、脂肪細胞体積を脂肪分解により減少させる製剤は、この症状において有用であると考えられる。更に、炎症プロセス、及び脂肪組織の肥大に関与しうる眼窩内の炎症細胞を減少させることにより、眼窩組織の体積を更に減少させることが可能となる。更に、眼窩内でのヒアルロナン蓄積の治療により、更なる体積減少、及び眼障害の緩和が可能となる。最後に、脂肪生成の阻害により、上記の症状が改善されうる。
【0032】
皮下組織へのアドレナリン作用活性成分(βアゴニスト及びα2アンタゴニスト)の輸送が提案されており、それにより、局所的な脂肪の減少、及び局所的な脂肪蓄積による外観悪化の改善が示されている。例えば、イソプロテレノール11及びヨヒンビン8により、女性の大腿部の周径が減少することが示されている。これらの脂肪分解物質(特にβアゴニスト)は活性を示す期間が短く、脂肪組織から急速に除去されうるため、上記脂肪分解は注入後のごく短い時間においてのみ生じ、それにより、複数回注入にもかかわらず、潜在的な効果が低いものとなりうる。更に、脂肪細胞のβアゴニストに対する長期の曝露により、受容体の脱感作及び下方制御が生じ、また脂肪分解活性が損なわれる。受容体に対するこれらの効果を減少又は防止する手段により、治療効果が改善されうる。それにもかかわらず、アドレナリン作動薬及びグルココルチコステロイドを使用してGOにおける脂肪細胞を処理して、脂肪分解を誘導し、脂肪生成を阻害するストラテジーにより、臨床徴候及び症状に関与する組織塊を顕著に減少させることができると考えられる。
【0033】
眼窩組織塊を減少させて、甲状腺眼症(例えばグレーブス眼症又は「GO」)を治療するための医薬組成物、製剤、方法及びシステムに関する実施形態が、本願明細書において記載されている。眼窩組織塊を減少させることにより、眼球突出を減少させ、視力喪失及び複視を回復させ又は防止し、痛みを緩和することが可能となる。この組織塊の減少は、以下のうちの少なくとも1つを実施することにより可能となる:眼窩脂肪塊の減少、炎症(例えば炎症細胞及びサイトカイン)の減少、グリコサミノグリカン(GAG)蓄積の減少。脂肪塊の減少は、アドレナリン作用系の調節により実施できる。本願明細書において用いられ及び/又は参照される用語「調節」とは、その通常の意味において一般的に用いられ、具体的には、アドレナリン受容体におけるアゴニスト活性、アドレナリン受容体におけるアンタゴニスト活性、及び/又は受容体シグナリング経路の変調のことを指す。例えば図1において図示されるように、受容体のシグナリング経路の変化の1例では、サイクリックAMPの増加が関与する。幾つかの実施形態では、調節とは、受容体の上方制御又はアドレナリン受容体の数の増加、受容体の非活性化又は隔離の減少、受容体活性の変化(例えば活性の増加)、及び/又は受容体の親和性の変化のことを指す。アドレナリン受容体の調節は、好ましくはグルココルチコステロイド又は抗ヒスタミン剤を用いて実施でき、またそれにより、炎症を減少させる作用が発揮される。グリコサミノグリカン蓄積は、グルココルチコステロイドを用いて同様に減少させることができ、更にヒアルロン酸を分解させる酵素(例えば組換えヒトヒアルロニダーゼ)を用いて減少させることもできる。
【0034】
眼窩組織における脂肪塊の減少は好ましくは、脂肪分解を開始させ、脂肪生成を阻害し、又は脂質蓄積を減少させることによって、非除去的な方法により実施できる。ホスファチジルコリン又はデオキシコール酸エステルなどの脂肪を減少させて除去する方法は、後眼部における使用の場合には問題点が存在する。すなわち、非選択的な組織の破壊により、神経又は筋肉の損傷が生じ、又は瘢痕化及び線維症の原因ともなりうる。脂肪分解の刺激、脂肪生成の阻害及び脂質蓄積の減少は、βアドレナリン受容体の刺激により実施できる。βアドレナリン受容体の刺激はまた、グレーブス病の眼窩脂肪細胞において上方制御されることが公知の、例えばPPAR−γ、アディポネクチン及びレプチンなどの細胞内転写を抑止すると考えられる。例えば、βアドレナリン受容体の刺激により、分化した脂肪細胞のPPAR−γ及びアディポネクチン発現が減少されうる。脂肪組織におけるアドレナリン受容体の持続的な調節がなされた場合、幾つかの実施形態では、持続的な脂肪分解、脂肪細胞の脂質含有量の低下、脂肪細胞のサイズ減少、脂肪組織塊又は脂肪蓄積の減少、及び/又は減少、の幾つかの組合せが生じると考えられる。幾つかの実施形態では、持続的なアドレナリン作用性調節を介した、脂肪組織及び脂肪細胞の眼窩内蓄積の、選択的な減少が生じる。幾つかの実施形態では、持続的なアドレナリン作用性調節により、脂肪細胞増殖(脂肪生成)の持続的な阻害が生じる。
【0035】
開示される、様々な実施態様の医薬組成物は、少なくとも1つの選択的なβ2アドレナリン受容体アゴニスト(例えば長時間作用型の選択的なβ2アゴニスト)と、β受容体の脱感作(例えば1つ以上のβ受容体アゴニストに対する標的組織の脱感作)を減少させ、更に炎症を減少させる、少なくとも1つの化合物(例えばグルココルチコステロイド又はケトチフェン又はその類縁体)との組み合わせを含有する。脱感作という用語には、短期の脱感作(タキフィラキシ)、並びに長期の脱感作、並びにその他の期間にわたる脱感作のいずれも包含される。β2アドレナリン受容体アゴニストは、本明細書において「β2アゴニスト」及び「β2受容体アゴニスト」と称される。特に明記しない限り、β2アドレナリン受容体アゴニストと称するときは、それらの類縁体、生理的に許容できる塩及び/又は溶媒和化合物も包含される。上記組成物の幾つかの実施形態では、長時間作用型の選択的なβ2アゴニストとグルココルチコステロイドとを、約100:1〜約1:100の比率で含んでなる。
【0036】
上記のように、脂肪分解活性、脂肪細胞の増殖阻害及び脂質蓄積の減少は、脂肪組織及び/又は脂肪細胞におけるアドレナリン受容体の調節によって媒介されると考えられる。幾つかの実施形態では、減少療法は、1つ以上のアドレナリン受容体アゴニスト及び/又は受容体経路を刺激する化合物(例えばカテコールアミン、βアゴニスト、αアンタゴニスト、フォルスコリン、アミノフィリン、その類縁体又はそれらの組み合わせ)による、長期にわたる曝露又はそれらの持続的な活性により強化される。
【0037】
幾つかの実施形態では、1つ以上の、長時間作用型の、実質的に選択的なβ2受容体アゴニストを含んでなる医薬組成物を用いることにより、持続的なアドレナリン作用性調節がなされる。持続的な活性を示す医薬組成物の幾つかの実施形態では、1つ以上の、適切な長時間作用型の、選択的なβ2アゴニスト(例えばサルメテロール1、フォルモテロール2、バンブテロール3、エフォルモテロール(eformoterol)、それらの生理的に許容できる塩若しくは溶媒和化合物、又はそれらの組み合わせ)を含んでなる。
【化1】

【0038】
持続的なアドレナリン作用性調節は、典型的なアドレナリン作用組成物によっては観察できない。なぜなら、アドレナリン作用化合物は、一般的に親水性であるため、その一部が血液及び/又はリンパ液を通じて脂肪組織から急速に除去されるからである。更に、アドレナリン作動薬(特にβ受容体アゴニスト)に対する脂肪組織の長期の曝露により、受容体のリン酸化及び隔離を介した受容体脱感作が生じると考えられる。これらの影響により、アドレナリン作用を調節する組成物の、脂肪組織を治療する効果が制限され、それによりタキフィラキシ(生体が、初回のアゴニスト投与後の投与に対する反応を急速に減少させる症状)が生じ、所望の脂肪分解及び脂肪生成抑止効果が制限されると考えられる。その結果、治療効果が短期間しか見られなくなる。
【0039】
上記のように、短時間作用型β2アゴニストは、しばしばタキフィラキシを生じさせる。しかしながら、好ましい実施形態の長時間作用型の選択的なβ2アゴニストは、実質的に選択的なβ2受容体活性及び高い親油性を有するため、長時間作用型β2アゴニストの活性が、短時間作用型β2アゴニストと比較して、脂肪組織においてより長期間持続する。部分的なβ2受容体アンタゴニスト活性(サルメテロールを用いて生じる)により、完全なアドレナリン作用アゴニストへの脂肪細胞の連続的な曝露によって生じうる脱感作が防止される。更に、サルメテロールは、受容体の内部移行及び分解を生じさせ、長期間の受容体の下方制御を生じさせるアレスチンのシグナル伝達を完全に活性化することができない。短時間作用型β2アゴニストと比較し、長時間作用型の選択的なβ2アゴニストはより半減期が長いため、投与後の脂肪分解もまた、長期間行われる。長い半減期及び活性の組合せにより、医薬組成物の投与頻度を減少させることができる。したがって、幾つかの実施形態では、組成物の連日投与又は1日2回以上での投与を行う必要がない。更に、好ましい実施形態の長時間作用型の選択的なβ2アゴニストは、β2受容体に対するより大きな選択性を示し、それにより低い投与量でも、短時間作用型β2アゴニストと実質的に同等の治療的有効性を有する化合物となりうる。更に、β2活性がより選択的になることにより、心臓への副作用(心臓のβ1受容体刺激によってしばしば誘導される)を防止することができる。
【0040】
上記のように、脂肪分解、並びに/又は脂肪生成及び脂質蓄積の阻害は、β1、β2又はβ3受容体サブタイプにより刺激される。すなわち、1、2及び/又は3つの全ての受容体に対するアゴニストは、脂肪分解を刺激し、及び/又は脂肪生成を阻害できる。β2受容体活性は、ヒトにおいて、特に抗炎症ステロイド又はグルココルチコステロイドの存在下で、脂肪分解の刺激にとり重要であると考えられる。
【0041】
長時間作用型の選択的なβ2アゴニスト(例えばサルメテロール1(±2−(ヒドロキシメチル)−4−[1−ヒドロキシ−2−[6−(4−フェニルブトキシ)ヘキシルアミノ]エチル]−フェノール、CAS登録番号94749−08−3)、及びフォルモテロール2(±N−[2−ヒドロキシ−5−[1−ヒドロキシ−2−[1−(4−メトキシフェニル)プロパン−2−イルアミノ]エチル]−フェニル]メタンアミド、CAS登録番号73573−87−2))が、幾つかの実施形態において好ましい。上記組成物の幾つかの実施形態では、生理的に許容できる塩又は溶媒和化合物(例えばキシナホ酸サルメテロール及び/又はフォルモテロールフマル酸エステル)として、1つ以上の長時間作用型の選択的なβ2アゴニストを含んでなる。多くのケースにおいて、β2アゴニストの塩及び/又は溶媒和化合物が所望の活性を示すと考えられる。したがって、特に明記しない限り、活性成分(例えばサルメテロール1、フォルモテロール2、イソプロテレノール4、アルブテロール5、フェノテロール及びフォルスコリン)というときは、その化合物自体、並びに、その生理的に許容できる類縁体、塩及び/若しくは溶媒和化合物、又はそれらの組み合わせが包含される。
【化2】

【0042】
幾つかの好適な長時間作用型βアゴニストは、高い固有のアデニル酸シクラーゼ活性を示し、それによりcAMP合成を増加させる。例えば、幾つかの実施形態では、長時間作用型β2選択的アゴニストとして、フォルモテロール2を含んでなる。それはより高い薬効、低い全身効果、高い固有のアデニレートシクラーゼ活性、及び/又はサイクリックAMP(脂肪分解の調節物質)の増加などの、幾つかの組合せを示す。
【0043】
幾つかの好ましい実施形態では、フォルモテロール2は、その生理的に許容できる塩及び/又は溶媒和化合物として存在する。フォルモテロール2の適切な生理的に許容できる塩としては、例えば、無機酸及び有機酸などに由来する酸付加塩、例えば塩酸塩、臭化素水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、フマル酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、4−メトキシ安息香酸塩、2−ヒドロキシ安息香酸塩、4−ヒドロキシ安息香酸塩、4−クロロ安息香酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、酢酸塩コハク酸塩、乳酸塩、グルタル酸塩、グルコン酸塩、トリカルバリル酸塩、ヒドロキシナフタレンカルボン酸塩、オレイン酸塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。好ましい実施形態では、フォルモテロール2を、そのフマル酸エステル塩として及び/又は二水和物として含んでなる。脂肪組織の治療のための、フォルモテロール2の適切な組織内濃度としては、約1pM〜約100μM、好ましくは約0.1nM〜約10μM、例えば約1nM〜約1μM、約40nM〜約3μM、約0.1μM〜約1μM、又は、約0.1nM〜約10μMの範囲内での、他の任意の組織内フォルモテロール濃度が挙げられる。
【0044】
幾つかの実施形態では、サルメテロールは、本願明細書に記載されている組成物及び方法において用いられる。サルメテロール1は部分的なアゴニスト活性を示し、それは受容体脱感作を減少させ、またアレスチンのシグナル伝達を制限し、それにより受容体の下方制御を減少させると考えられる。幾つかの実施形態では、サルメテロール1は、その生理的に許容できる塩及び/又は溶媒和化合物として存在する。サルメテロール1の適切な生理的に許容できる塩として、限定されないが、例えば、無機酸及び有機酸に由来する酸付加塩、例えば塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩、リン酸塩、マレイン酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩、安息香酸塩、4−メトキシ安息香酸塩、2−ヒドロキシ安息香酸塩、4−ヒドロキシ安息香酸塩、4−クロロ安息香酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、メタンスルホン酸塩、アスコルビン酸塩、サリチル酸塩、酢酸塩、フマル酸塩、コハク酸塩、乳酸塩、グルタル酸塩、グルコン酸塩、トリカルバリル酸塩、ヒドロキシナフタレンカルボン酸塩、1−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸塩、3−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸塩、オレイン酸塩、それらの組み合わせなどが挙げられる。幾つかの実施形態では、サルメテロール1は、1−ヒドロキシ−2−ナフタレンカルボン酸塩(ヒドロキシナフトン酸塩)として提供される。
【0045】
幾つかの実施形態では、脂肪組織治療のためのサルメテロール1の適切な組織内濃度としては、約1pM〜約100μM、好ましくは約1.0nM〜約1μM例えば約10nM〜約1μM、約40nM〜約3μM、約0.1μM〜約1μM、又は、約1.0nMから約10μMの範囲内の、他の任意の組織内サルメテロール濃度が挙げられる。
【0046】
幾つかの実施形態では、投与される長時間作用型の選択的なβ2アゴニストはフォルモテロールであり、フォルモテロールの治療上有効量は、約0.001〜約100μ/日、例えば約0.001〜約50、0.01〜約1.0、約0.1〜約10、約1〜約20、約5〜約40、約25〜約75、約50〜約100μ/日のフォルモテロール、又は、約0.001μg/日〜約100μ/日の範囲内の、他の任意のフォルモテロールの投与量である。
【0047】
幾つかの実施形態では、投与される長時間作用型の選択的なβ2アゴニストはサルメテロールであり、投与されるサルメテロールの治療上有効量は、約0.01μg/日〜約1000μg/日、例えば約0.1μg/日〜約100μg/日、約1μg/日〜約100μg/日、約10μg/日〜約100μg/日、約50μg/日〜約100μg/日、又は、約0.01μg/日〜約1000μg/日の範囲内の、他の任意のサルメテロールの投与量である。
【0048】
本明細書で用いられる「治療上有効量」とは、1つ以上の、治療しようとする疾患若しくは症状の徴候を除去するのに十分な、投与物質(例えば長時間作用型β2アゴニスト)又は化合物の量のことを指す。それによる結果は、疾患の徴候、症状又は原因の減少及び/又は緩和、又は他のあらゆる生体システムの変化であってもよい。例えば、治療用途における「有効量」とは、過度の好ましくない副作用を生じさせずに、疾患の徴候を臨床的に顕著に減少させるのに必要となる、本願明細書で開示されるような化合物を含有する組成物の量のことである。個々のケースにおいては、適当な「有効量」は、例えば投与量逐次漸増試験を使用して決定できる。用語「治療上有効量」には、例えば予防的有効量が包含される。本願明細書において開示される化合物の「有効量」(例えばそれ単独で、又は他の化合物と組み合わせて使用される選択的なβ2アゴニスト(例えばβ2アドレナリン受容体脱感作を減少させるための化合物))とは、過度の好ましくない副作用を生じさせずに所望の薬理学的効果又は治療効果を達成するのに効果的な量のことである。「有効量」又は「治療上有効量」は、β2アゴニスト及びβ2アゴニストと組み合わせて使用する化合物(例えばグルココルチコステロイド)の代謝の個人差、年齢、体重、患者の健康状態、治療しようとする症状、治療しようとする症状の重篤度及び担当医師の判断などにより、患者ごとに変化しうるものと理解される。
【0049】
幾つかの実施態様では、1つ以上のβアドレナリン作用アゴニストの光学的に純粋な異性体を含んでなり、それにより、脂肪分解を改善し、脂肪生成の阻害、潜在的な副作用の減少を生じさせることができる。幾つかの実施形態では、これらの光学的に純粋な異性体の使用により、例えば、生理的効果を有さない、生理的な効果が少ない、負の効果を有する、及び/又は徐々に好ましくない生理的な効果を示す、1つ以上の異性体を除去することによって活性成分をより多く含有する製剤の調製が可能となる。ラセミ混合物の望ましくない結合を取り除くことにより、活性を有する異性体(又はユートマー)が単離され、それにより、不活性成分が除去され、所与の製剤中にユートマーが多量に添加される。
【0050】
分子中に2つの立体中心が存在する場合、通常、(R*,R*)及び(R*,S*)と称される2つのジアステレオマーとそれらのエナンチオマーとが生成する。ジアステレオマーは、エナンチオマーでない立体異性体であり、すなわち、1つのジアステレオ異性体の鏡像が、他のジアステレオ異性体と重なり合わない。エナンチオマーは、互いに鏡像の関係にある立体異性体である。ラセミ化合物は、エナンチオマーの1:1混合物である。(R*,R*)ジアステレオマーのエナンチオマーは、(R,R)及び(S,S)エナンチオマーと称され、互いに鏡像の関係にあり、したがって幾つかの共通の化学及び物理的な特性(例えば融点)を有する。同様に、(R,S)及び(S,R)異性体は、(R*,S*)エナンチオマーのエナンチオマーである。例えば、フォルモテロール2は(R,R)−及び(S,S)−異性体が1:1の比率で存在するラセミ化合物として得られ、典型的には、フマル酸塩の二水和物として得られる。幾つかの実施形態では、(R,R)エナンチオマーである(R,R)−フォルモテロール)を含んでなり、それは長時間作用型β2アゴニストとしての活性が強い。幾つかの実施形態では、他のβ2アゴニスト(例えば(R)−サルメテロール)の光学的に純粋な異性体を含んでなる。
【0051】
更に、幾つかの実施形態では、少なくとも1つの長時間作用型の選択的なβ2アゴニストは親油性が高く、それにより、脂肪組織中において持続的な活性を示す医薬組成物が提供される。高い脂溶性により、脂肪組織におけるβ2アゴニストの滞留時間が延長され、それにより、幾つかの実施態様において、持続放出及び/又は制御放出用の担体の必要性がなくなるか又は減少する。持続放出用担体(例えば持続放出ポリマー)を含んでなる製剤においては、以下に詳述するように、β2アゴニストの高い親油性により、持続放出担体への取り込みが促進される。
【0052】
サルメテロール1及びフォルモテロール2は高い脂質可溶性を有し、それにより、脂肪組織及び/又は1つ以上の脂肪細胞において、それらの滞留時間が延長される。上記組成物の幾つかの実施形態では、親油性の高いβアゴニストを含んでなり、それらが脂肪組織内で分配され、隔離されるため、持続放出若しくは制御放出用の担体の必要性が減少するか又はなくなり、治療効果が延長される。幾つかの実施形態では、少なくとも約1000又は少なくとも約10,000〜1の油水分配係数を有するβアゴニストが用いられる。例えば、サルメテロール1は、アルブテロール5(短時間作用型の親水性βアゴニスト)より少なくとも10,000倍親油性が高い。更に、サルメテロール1及びフォルモテロール2は抗炎症性特性を有し、後述するようにGOの治療において用いられる。幾つかの実施形態では、それらはまた良好な細胞外マトリックスの変化を促進し、流体の蓄積を減少させ、GO及び眼窩脂肪蓄積の治療効果を改善する。
【0053】
持続的なβアドレナリン作用活性は更に、上記のようなアドレナリン作用アゴニストへの脂肪細胞の連続的な曝露によって生じうる脱感作(タキフィラキシ)を防止することにより、強化される。「β受容体の脱感作を減少させる(例えばβアゴニストに対する標的組織の脱感作を減少させる)化合物」には、β受容体アゴニストに対する標的組織の寛容を減少させる全ての適切な化合物が包含され、グルココルチコステロイド及び適切な抗ヒスタミン剤(例えばケトチフェン)及び甲状腺ホルモン(例えばT3及びT4)などが挙げられる。グルココルチコステロイドは、本願明細書において「抗炎症ステロイド」、「グルココルチコステロイド」及び/又は「副腎皮質ステロイド」と称される。グルココルチコステロイドは、β2受容体の数を増加させることによって、眼窩脂肪の蓄積を感作し、それにより、脂肪の蓄積よりも脂肪分解又は脂肪の減少を促進すると考えられる。グルココルチコステロイドはまた、α2受容体の数を減少させることができる。グルココルチコステロイドはまた、特にβアゴニストと同時に投与されるとき、受容体の下方制御を安定させるか又は減少させることができる。注意すべき点は、グレーブス病及びGOは通常、男性より女性において頻繁に生じる。エストロゲンは、女性の皮下脂肪組織におけるα2アドレナリン受容体の発現を誘導でき、それによりβ2受容体のα2受容体に対するβ2比率が1未満となる。β2受容体のα−2受容体に対する比率が約1を超えることで、脂肪細胞において、脂肪の蓄積よりも脂肪の減少が生じると考えられる。幾つかの実施形態の、1つ以上のグルココルチコステロイドを含んでなる組成物は、βアドレナリン作用刺激による脂肪分解又は脂肪生成の阻害に抵抗を示す、β2受容体の数が減少した、及び/又は、α2受容体の数が増加した脂肪領域(例えば(特に女性の)皮下脂肪組織)を治療するのに効果的である。
【0054】
すなわち、βアドレナリン受容体の脱感作を減少させるためのグルココルチコステロイド又は他の化合物は、βアゴニストへの曝露の間、脂肪分解、脂肪生成阻害及び/又は局所的な脂肪減少を促進すると考えられる。幾つかの実施形態では、脂肪分解活性を増加させるグルココルチコステロイドによる脂肪細胞の処理により、脂肪分解活性と、標的組織におけるβ受容体数の両方が維持及び/又は増加される。適切なグルココルチコステロイドの例としては、デキサメタゾン6、フルチカゾンプロピオネート7、ブデソニド8、プレドニゾロン9、メチルプレドニゾロン10及びそれらの類縁体などが挙げられる。幾つかの実施形態では、グルココルチコステロイドはデキサメタゾンである。幾つかの実施形態では、グルココルチコステロイドはメチルプレドニゾロン、6(9−フルオロ−11,17−ジヒドロキシ−17−(2−ヒドロキシアセチル)−10,13,16−トリメチル−6,7,8,11,12,14,15,16−オクタヒドロシクロペンタ[a]フェナントレン−3−オン(CAS登録番号50−02−2)及び/又はフルチカゾンプロピオネート7である。
【0055】
上記のように、幾つかの実施態様では、β受容体脱感作を減少させるための適切な化合物はケトチフェン11であり、それは抗ヒスタミン剤としても有用である。上記組成物の幾つかの実施形態では、β2アゴニストに対する脂肪組織の脱感作を減少させるための1つの化合物を含んでなる。
【0056】
幾つかの実施形態では、β受容体脱感作を減少させるための複数の化合物(例えば複数のグルココルチコステロイド)が用いられる。幾つかの好ましい実施形態では、少なくとも1つのグルココルチコステロイドと、抗ヒスタミン剤のケトチフェン又はケトチフェンの類縁体とを含んでなる。
【化3】

【化4】

【0057】
幾つかの実施形態では、少なくとも1つのβ2受容体の活性又は密度が、特にβアゴニストの存在下で、抗炎症ステロイド又はケトチフェン投与に応答して、ヒト眼窩脂肪細胞において増加する。幾つかの実施形態では、β2受容体の活性及び/又は密度を増加させることにより、長時間及び短時間作用型のβ2アゴニストの効果が強化される。すなわち、幾つかの実施形態では、グルココルチコステロイドにより眼窩脂肪が感作され、β2受容体刺激、脂肪分解、脂肪生成の阻害及び/又はアポトーシス、及び/又はβ2アドレナリン受容体のα2アドレナリン受容体に対する比率の増加を生じさせ、それにより、脂肪組織のバランスが、脂肪の蓄積から脂肪の減少の方向へシフトする。幾つかの実施形態では、β2受容体数が、特にグルココルチコイド、ケトチフェン又は甲状腺ホルモンによって、特にβ2アドレナリン作用アゴニストとの共投与により増加するか又は維持される。
【0058】
グルココルチコステロイド又は抗ヒスタミン剤などの抗炎症剤の添加により、眼窩における、炎症細胞の減少及び炎症性反応の減少という更なる効果が得られる。GOにおける眼窩及び眼窩脂肪は、拡散したリンパ球浸潤(リンパ球の凝集又は集簇巣を含む)を有する。眼窩(例えば外眼筋)の他の組織は、同様の白血球浸潤を有する。マスト細胞が多量に存在しうる。これらのリンパ球によるサイトカイン分泌は、細胞性及び体液性の医薬による反応と整合する。グルココルチコステロイドは、白色細胞の蓄積、サイトカイン分泌を減少させ、白色細胞のアポトーシスを誘導できる。これらの効果は、長時間作用型の選択的なβ2アゴニストによって強化できる。更に、長時間作用型の選択的なβ2アゴニストは、白色細胞において(あるいは脂肪細胞においても)グルココルチコステロイド受容体の核への移行を調節し、安定させ、促進し、また抗炎症効果を更に強化できる。グルココルチコステロイド及び長時間作用型βアゴニストは、肥満細胞を安定させることができ、相加的に又は相乗的に機能することができる。ケトチフェンは肥満細胞を安定させることもでき、またTNF−α(リンパ球により促進された細胞性の炎症反応における主要なサイトカイン)を阻害することもできる。
【0059】
本願明細書に記載されている治療法で使用するグルココルチコステロイドの、適当な組織内濃度は、約0.001μM〜約10mM、例えば約1.0μM〜約5mM、約40μM〜約3mM、約100μM〜約1mM、又は、約10μM〜約10mMの範囲内の、他の任意の組織内グルココルチコステロイド濃度であってもよい。
【0060】
幾つかの実施形態では、投与されるグルココルチコステロイドはブデソニドであり、ブデソニドの薬理学的有効量は、約1.0〜約320μg/日、例えば約80〜約300、約100〜約280、約120〜約260、約140〜約240、約160〜約220、約180〜約200、約185〜約195μg/日のブデソニド、又は、約60〜約320μg/日の範囲内の、他の任意のブデソニド投与量である。
【0061】
幾つかの実施形態では、投与されるグルココルチコステロイドはフルチカゾンであり、フルチカゾンの治療上有効量は、約1.0〜約500μg/日、例えば約120〜約480、約140〜約460、約160〜約440、約180〜約420、約200〜約400、約220〜約380、約240〜約360、約260〜約340、約275〜約310、又は約290〜約300μg/日のフルチカゾン、又は、約100〜約500μg/日の範囲内の、他の任意のフルチカゾン投与量である。
【0062】
幾つかの実施形態では、投与されるグルココルチコステロイドは、約1.0μg/日〜10,000μg/日若しくはそれ以上、例えば50〜5,000、100〜5,000、500〜5000、700〜3,000、800〜2500、1000〜2000、又は、約1.0〜10,000μg/日の範囲内の、他の任意の投与量におけるメチルプレドニゾロンである。幾つかの実施形態では、メチルプレドニゾロンコハク酸エステルは、可溶化されてもよく、又は、結晶微粒子状の酢酸メチルプレドニゾロン懸濁液と共投与することにより、迅速放出と持続放出とを生じさせてもよい。
【0063】
上記組成物の幾つかの実施形態では、更なる任意成分を含んでなる。例えば、特にGOの際の眼の眼窩及び眼窩脂肪蓄積中には、大量のグリコサミノグリカン(実質的にヒアルロン酸を含んでなる)が含まれる。幾つかの状況では、例えばこのヒアルロン酸を分解して、眼窩外へ、βアドレナリン作用アゴニスト及びグルココルチコステロイドの製剤の拡散を改善するのが有利である。更に、ヒアルロン酸を分解することにより、更に眼窩組織塊を減少させ、また眼窩浮腫を減少させることができ、それにより眼球突出及びGO症状が改善される。上記組成物の幾つかの実施形態では、ヒアルロニダーゼ(例えば組換えヒトヒアルロニダーゼ、Hylenex、Halozyme Therapeutics社、サンディエゴ、CA)などの、ヒアルロン酸を分解する酵素を含んでなる。
【0064】
上記組成物の幾つかの実施形態では、1つ以上の抗脂肪分解を遮断する薬剤を含んでなり、例えば選択的なα2受容体アンタゴニスト(フェントラミン12(CAS登録番号73−05−2)、又はヨヒンビン13(CAS登録番号146−48−5)は、局所的な脂肪蓄積において、抗脂肪分解活性を遮断する。脂肪細胞及び脂肪組織における抗脂肪分解効果は、脂肪蓄積が生じている皮下及び局所領域において、典型的に観察される。例えば、βアゴニストに曝露させた際、皮下脂肪は内蔵脂肪より低い脂肪分解速度を示す。幾つかの実施形態では、眼窩脂肪を抗脂肪分解遮断剤に曝露することにより、脂肪分解活性を改善できる。
【化5】

【0065】
上記組成物の幾つかの実施形態では、長時間作用型の選択的なβ2アゴニストの効果を増強する他のアドレナリン作動薬を含んでなる。例えば、アミノフィリン14(1,3−ジメチル−7H−プリン−2,6−ジオン、ジエチルアミン、CAS登録番号317−34−0)及びテオフィリン15(CAS登録番号58−55−9)は、サイクリックAMPの分解を遮断する脂肪分解物質である。
【化6】

【0066】
他の任意成分は、βアゴニスト結合により生じる二次的シグナルを増加させる。例えば、幾つかの実施形態では、上記組成物はフォルスコリン16(CAS登録番号66575−29−9)を含んでなり、それは、アデニル酸シクラーゼを刺激し、それにより、長時間作用型βアゴニストにより開始されるサイクリックAMPの合成を増加させる。サイクリックAMPの濃度増加により、脂肪分解活性の維持が助長される。
【化7】

【0067】
上記組成物の幾つかの実施形態では、長時間作用型βアゴニスト及びグルココルチコステロイドとの組み合わせで、成長ホルモンを含んでなり、それにより脂肪分解が刺激されると考えられる。
【0068】
上記組成物の他の実施形態では、更に、1つ以上の非選択的βアゴニスト(例えばイソプロテレノール4)及び/又は短時間作用型の選択的なβ2アゴニスト(例えばテルブタリン)を含んでなる。幾つかの組成物は、α2アンタゴニスト又はその生理的に許容できる塩若しくは溶媒和化合物のうちの少なくとも1つを含んでなる。
【0069】
上記組成物の幾つかの実施形態では、例えば、Remington:The Science And Practice OfPharmacy(21版.,Lippincott Williams&Wilkins)に説明されるような、あらゆる適切な方法により投与され、製剤化されることができる。典型的な投与経路としては、限定されないが、非経口、経口、眼内、眼窩内、眼窩周囲、点眼、眼球後、局所、筋肉内、経皮、舌下、鼻腔内又は吸入経路が挙げられる。幾つかの実施形態では、上記組成物は、例えば眼窩又は眼窩脂肪蓄積などの、治療しようとする領域への注入用に製剤化される。
【0070】
幾つかの実施形態では、βアゴニスト、β受容体脱感作を防止するための化合物、あるいはその両方を、結晶微粒子懸濁液として製剤化して放出を延長させ、それにより更にアドレナリン作用性調節を持続させる。
【0071】
注射可能な製剤を調製するための賦形剤を使用してもよい。典型的には、上記賦形剤は眼科的に許容できるものである。換言すれば、上記賦形剤は、それが投与される眼に対して、長期の又は永続的な悪影響を実質的に及ぼさない。眼科的に許容できる担体の例としては、水(蒸留水又は脱イオン水)、生理食塩水及び他の水性媒体などが挙げられる。本発明の化合物は、好ましくはそれらの投与用に使用される担体中に溶解させ、それにより、上記化合物が溶液の形態で眼に投与される。あるいは、適切な担体中の、1つ以上の活性化合物の懸濁液(例えば結晶微粒子懸濁液)を使用してもよい。幾つかの実施形態では、1つ以上のβ2受容体アゴニスト又はグルココルチコステロイドは、例えば溶液、懸濁液、ゲル及び/又はエマルジョンとして、液体担体中に製剤化される。幾つかの実施形態では、適切な親油性物質、例えば修飾された油脂(例えばCremophor(登録商標)、BASF社)、大豆油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、誘導体化ポリエーテル、それらの組み合わせなどを含有する。以下に詳述するように、幾つかの実施形態では、少なくとも1つのβ2受容体アゴニスト及び/又はグルココルチコステロイドに使用するための、マイクロ微粒子担体及び/又はナノ微粒子担体を含んでなる。幾つかの実施形態では、1つ以上の持続放出若しくは制御放出用の担体又は物質(例えばポリマー微小球体)を含んでなる。幾つかの実施形態では、微細化されたβ2受容体アゴニスト又はグルココルチコステロイドの粒子を安定に懸濁させるのに適する賦形剤を含んでなる。
【0072】
注射可能な製剤は、単一のニードル(複数のニードル)の使用、及び/又は、ニードルのない注入装置の使用など、いかなる手段によっても投与される。幾つかの実施形態では、適切な担体中に製剤化された、組織内投与用の活性成分が、注入により輸送される。幾つかの実施形態では、輸送はニードルによる単回注入を有してなる。幾つかの実施形態では、輸送は多数のニードルアレイを使用した注入を有してなり、幾つかの実施形態では、標的組織への製剤の広範囲な分散がなされる。幾つかの実施形態では、眼窩脂肪の適当な層への分散を可能にする方法で、製剤が注射される。幾つかの実施形態では、上記製剤は、眼窩に添加される体積を減少させるために、小さいアリコートで注入され、その量は約0.1mL〜約0.5mLであってもよい。幾つかの実施形態では、使用する注入装置は、眼窩後若しくは筋円錐内空間への輸送を促進するため、カーブしたニードルを有してもよい。
【0073】
幾つかの実施形態では、β2アゴニストと脱感作を減少させる化合物とは、別々の製剤として投与(例えば注入)されるか、又は、長時間作用型β2アゴニストの注入の後に、別のルートで(例えばグルココルチコステロイドを)経口投与により投与される。幾つかの実施形態では、脱感作を減少させる化合物は、β2アゴニストの前に投与される。他の実施形態では、β2アゴニストは、脱感作を減少させる化合物の前に投与される。
【0074】
脱感作を減少させる化合物の投与とβ2アゴニストの投与との間の間隔は、約5分〜7日まで、例えば30分、1時間、6時間、12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日又は7日、又は、約5分〜約7日の範囲内の、他の任意の時間間隔であってもよい。好ましい実施形態では、脱感作を減少させる化合物(例えばグルココルチコステロイド)は、β2アゴニストの(例えば眼に対する眼科用製剤の局所適用による)投与から、最高で約7日前、例えば3日、4日、5日、6日、7日、又は8日、9日若しくは10日前に経口投与される。
【0075】
他の実施形態では、β2アゴニストは、β受容体脱感作を減少させる化合物(例えばグルココルチコステロイド)と(例えば同じ製剤の一部として)共投与される。
【0076】
幾つかの実施形態では、製剤、治療される患者は、デポー製剤を提供され、それは、β2アゴニスト又はβ受容体の脱感作を阻害するための化合物(例えばグルココルチコステロイド)の持続的又は制御放出を提供するための、1つ以上の持続放出剤又は制御放出剤を含んでなる。かかる製剤において、β2アゴニスト、β受容体脱感作を減少させるための化合物、又はその両方は、制御放出剤又は担体中に封入され、結合し、及び/又はコンジュゲートされる。幾つかの実施形態では、生物学的適合性を有する、生物分解可能な持続放出又は制御放出型製剤は、数週間から数ヶ月にわたり、組織において局所的に活性を提供する。好適な持続放出若しくは制御放出剤又は担体としては、ポリマー、高分子、活性成分のコンジュゲート、ヒドロゲル、それらの混合物などが挙げられる。持続放出担体の幾つかの実施態様は、脂肪(例えばリポソーム)に関する。好ましくは、上記持続放出材料は、単位時間あたりの活性成分の輸送が、具体的には少なくとも約3日、より具体的には少なくとも約4日、最高1年にわたり、実質的に等しい量となるように選択される。数回にわたる持続放出製剤の注射を長期間にわたり行い、単一の領域を治療することができる。幾つかの実施形態では、持続放出は、結晶状の薬剤微粒子の懸濁液として、β2アゴニスト、β受容体の脱感作を減少させるための化合物、又はその両方を製剤化することによりなされる。
【0077】
幾つかの実施形態では、上記持続放出剤は、例えばポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ(ラクチドグリコリド)、ポリ乳酸、ポリエチレングリコール酸、ポリ無水物、ポリオルトエステル、ポリエーテルエステル、ポリカプロラクトン、ポリエステルアミド、ポリカーボネート、ポリシアノアクリレート、ポリウレタン、ポリアクリレートなどのポリマー、及び上記のブレンド、混合物又は共重合体を含んでなり、それらは1つ以上の活性成分(例えばβアゴニスト及び/又はグルココルチコステロイド)を封入、結合又はコンジュゲートするために用いられる。持続放出ポリマーの幾つかの好ましい実施形態では、活性成分の1つ以上がコンジュゲートしたポリエチレングリコール類を含んでなる。幾つかの好ましい実施形態では、上記持続放出剤は、ポリ(ラクチドグリコリド)(PLGA、ポリ(乳酸・グリコール酸))共重合体17を含んでなる。
【化8】

【0078】
持続放出物質の幾つかの実施形態では、1つ以上のヒドロゲル(修飾されたアルギネートなど)を含んでなる。好適な修飾されたアルギネートの例としては、国際公開第98/12228号パンフレットにおいて開示されるそれらが挙げられる。持続放出剤の幾つかの実施形態では、アルブミン系のナノ粒子担体又は賦形剤を含んでなる。
【0079】
幾つかの実施形態では、プレポリマー溶液を含んでなる製剤を、標的組織部位に注射し、そこにおいて、in vivoでの重合(例えば光重合)又は凝集(例えば熱感受性ゲル化材の使用による)をその後生じさせる。
【0080】
幾つかの実施形態では、制御放出材料は、特定の組織縮小の用途のために設計された、放出特性を示す。幾つかの実施形態では、上記持続放出又は制御放出剤は、微粒子(例えば微小球体)において調製され、それを注射可能な溶液及び/又はゲルとして製剤化する。幾つかの実施形態では、上記微粒子は、約10μm〜約100μmの粒径を有し、通常同一のサイズである。幾つかの実施形態では、アルギネート及び/又はポリ(ラクチド−グリコリド)17を含んでなる製剤を、注射可能なゲルとして提供するか、又は微小球体に加工する。他の実施形態では、β2アゴニスト又はグルココルチコステロイド(又は他のβ受容体脱感作を減少させるための化合物)を、結晶微粒子として形成する。微粒子の形成に適する、注射可能な、生物分解性の、生物学的適合性を有する適切な材料の他の例としては、キトサン、デキストラン、ヒドロキシアパタイト及びシリコンが挙げられる。
【0081】
微小球体及び/又は微粒子は、溶媒蒸発及び/又はエマルジョン重合などの、あらゆる方法を使用して形成できる。幾つかの実施形態では、上記微小球体は、約5μm〜約60μm、好ましくは約20μmの平均粒径を有する。幾つかの実施形態では、PLGAは、所望の、1つ以上の活性成分の放出の速度に応じて、グリコリドに対するラクチドの比率を変化させることにより製造される。この共重合体の分解速度は、その結晶化度及び製剤中のグリコリドの比率と比例するため、ラクチド及び/又はグリコリドの非ラセミ混合物は、結晶化度を増加させ、分解速度を低下させる。より高いグリコリドの比率により、分解速度が増加する。幾つかの実施形態では、約65%〜75%のラクチド:約25%〜35%のグリコリドの比率とすることにより、約2週〜約45日にわたる、活性成分の放出が提供される。他の実施形態では、ラクチド:グリコリドの比率は約0:100〜約100:0であり、それにより、他の放出速度が提供される。
【0082】
微小球体又は微粒子の幾つかの実施形態では、中空の及び/又は多孔質の内部を含んでなる。幾つかの実施形態では、上記微小球体は中実若しくは多孔性の外殻を含んでなる。
【0083】
幾つかの実施形態では、多孔質の外殻及び/又は微小球体を含んでなる製剤は、1つ以上の活性成分の最初の大量放出と、それに続くポリマー性の微小球体の分解による持続放出との、1つ以上の活性成分の二段階放出プロフィールを示す。最初の大量放出により、組織に対して、1つ以上の活性成分が、脂肪分解/脂肪生成抑制及び抗炎症作用にとり有効な濃度で添加され、それに続いて、所望の濃度が維持された遅延放出がなされる。幾つかの実施形態では、異なる微小球体構造及び活性成分放出プロフィールにより、眼窩の脂肪組織及び脂肪細胞に対する治療効果が最適化され、またアドレナリン受容体の調節及び白色細胞の浸潤に対する効果を通じて、炎症が軽減する。幾つかの好ましい実施形態では、長時間作用型の選択的なβ2アドレナリン作動薬(例えばサルメテロール1及び/又はフォルモテロール2)の局所的な組織濃度は、約1.0pM〜約10μM、例えば約0.01μM〜約10μM、約0.1μM〜約5μM、0.5μM〜約4μMの濃度、又は、約0.001μM〜約10μMの範囲内の、他の任意の濃度に維持される。グルココルチコステロイドの持続的な局所的組織濃度は、約0.01μM〜10mMの範囲であってもよい。
【0084】
幾つかの実施形態では、1つ以上の上記活性成分は、ポリマー微小球体に対して約10〜12重量%の比率で、ポリマーに封入され、結合し、及び/又はコンジュゲートする。担体(例えば微粒子又は微小球体)に対する、活性成分の重量%としての量を、本明細書において「活性成分担持(loading)」と称する。本明細書における「担持される」及び「担持」という用語は、活性成分が、担体に実質的に封入され、結合し、及び/又はコンジュゲートしていることを指す。幾つかの実施形態では、活性成分担持は、最高約75%である。すなわち、幾つかの好適な製剤は、1つ以上のβ2アドレナリン作用活性成分(例えばサルメテロール1、フォルモテロール2及び/又はそれらの生理的に許容できる塩及び溶媒和化合物)を、ポリマー性微小球体上に、約10〜約200mgのポリマーあたり約1mg〜約20mgの活性成分で担持された状態で含んでなる。幾つかの実施形態では、この活性成分担持を有する製剤は、脂肪分解及び/又は脂肪生成の阻害を生じるのに適切な濃度で、約15日〜約45日間にわたり、活性成分を放出することが十分可能である。同様に、薬学的に許容できる形態のグルココルチコステロイドであるブデソニド及びフルチカゾンの場合、抗炎症効果を生じさせるためには、約10〜約200mgのポリマーあたり、約1mg〜約20mgの活性成分で担持させてもよい。
【0085】
幾つかの実施形態では、2つ以上の活性成分が、同じ微粒子内(例えばリポソーム又はPLGA)に担持される。すなわち、幾つかの実施形態では、アドレナリン作用化合物の内部にグルココルチコステロイドを封入しているポリマーが、脂肪組織に同時に輸送される。あるいは、2つの活性成分が、別々の微粒子に担持される。次に2つのタイプの微小球体を混合し、β受容体アゴニストとグルココルチコステロイドとの所望の比率を有する製剤を得、次に同時に投与する。あるいは、上記2つのタイプの微粒子を順次投与する。
【0086】
1つ以上の活性成分を含んでなる上記微小球体は、約0.5mL〜10mLの、適当な生理的に許容できる液体担体中に懸濁される。別々の活性成分を有する微小球体を使用した幾つかの実施形態では、上記微小球体は液体担体中で混合される。他の実施形態では、各タイプの微小球体は、別々に液体担体と混合される。幾つかの実施形態では、上記液体担体は、薬学的に許容できる形態及び量(1.0〜15IU/ml)のヒアルロニダーゼを含有してもよい。本明細書では、1IUのヒアルロニダーゼとは、標準的なヒアルロニダーゼ調製物1I.U.(国際単位)と同じ、ヒアルロン酸及びアルブミンの混合物における濁度減少をもたらすものとして定義する。Mathewsら(1966),Methods Enzymol.8,654−662を参照のこと。幾つかの実施形態では、微小球体懸濁液を次に、0.1〜0.5mLのアリコートとして、眼窩内又は後眼部に注入する。あるいは、上記の注入は、各活性成分を封入している2つの微小球体製剤を使用して、同じ場所において、別個に、及び順次行われる。
【0087】
幾つかの実施形態では、グルココルチコステロイド(例えばデキサメタゾン6、ブデソニド8及び/又はフルチカゾンプロピオネート7)は、抗炎症剤としても機能し、それにより、製剤の投与により生じた(例えば持続放出製剤中のポリマー、ポリマー性微小球体及び/又はリポソームによって生じた)炎症が軽減される。
【0088】
PLGA 15微小球体は、親水性化合物より迅速に、疎水性化合物を封入する。親水性活性成分の担持量を増加させるため、幾つかの実施形態では、上記のように、微小球体をポリエチレングリコール単位で修飾する。特定のサイズの微小球体は実質的に、血液に吸収されず、又はリンパ系により除去されず、それにより、所望の部位における1つ以上の活性成分の放出が提供される。例えば、幾つかの実施形態では、上記微小球体は約20μm〜約200μmの粒径である。幾つかの実施形態では、微小球体のサイズもまた、組織における1つ以上の活性成分の放出プロフィールに影響を及ぼす。一般に、大きい微小球体は、長期間の、より均一な放出プロフィールを提供する傾向がある。
【0089】
例示的な実施形態では、持続放出製剤は、約0.5mg〜約7.5mg(例えば約0.7、1、1.5、2.0、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、又は、約0.5mg〜7.5mgの範囲内の、他の任意の量)のサルメテロール1及び/又はフォルモテロール2と、約1.5mg〜約7.5mg(例えば約2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、又は、約1.5〜約7.5mgの範囲内の、他の任意の量)のデキサメタゾン6、フルチカゾンプロピオネート7及び/又はブデソニド8とを、約100mgの、約70のラクチド:30のグリコリドの比率のポリ乳酸グリコリド(PLGA)15共重合体微小球体中に封入された状態で含んでなる。持続放出製剤中の各活性成分の量は、必要な制御/持続放出の日数に依存する(例えば約3日、4日、5日、6日、7日、8日、9日又は約10日)。幾つかの実施形態では、上記の共重合体比率及び活性成分のカプセル化により、1日あたり最高約1.0μg(例えば、1日あたり約0.02、0.04、0.06、0.07、0.1、0.2、0.4、0.5、0.6、0.8、又は、約0.02μg〜約100.0μgの範囲内の、他の任意の量)のサルメテロール1、及び/又は、最高約0.5μg(例えば1日あたり約0.02、0.04、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、又は、約0.02μg〜約0.5μgの範囲内の、他の任意の量)のフォルモテロール、並びに、1日あたり最高5μg(例えば1日あたり約0.2、0.4、0.5、0.7、0.9、1.0、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、又は、約0.2〜約5μgの範囲内の、他の任意の量)のフルチカゾン及び/又はブデソニド6が、約1mgの共重合体あたり、最高約30日間にわたり輸送される。他の例示的実施形態では、投与される持続放出製剤は、β2アドレナリン作用アゴニストと共に酢酸メチルプレドニゾロンを、結晶微粒子懸濁液として含有する。β2アドレナリン作用アゴニストは、溶液として製剤化されてもよく、又は結晶微粒子懸濁液として製剤化されてもよい。幾つかの実施形態では、持続放出製剤はまた、可溶性のメチルプレジニゾロンコハク酸エステルを含んでなり、それにより、結晶形態の酢酸メチルプレドニゾロンによる持続的な効果に加えて、迅速な効果(迅速放出のため)が提供される。
【0090】
幾つかの実施形態では、1つ以上のβ2アゴニストとメチルプレドニゾロンとが、投与(例えば注入)の前に混合されて準備される。他の実施形態では、1つ以上のβ2アゴニストとメチルプレドニゾロンとが、投与(例えば注入)の時点で混合される。
【0091】
幾つかの実施形態では、選択された、グルココルチコステロイドの持続的放出製剤(例えばメチルプレドニゾロンの結晶懸濁液、メチルプレドニゾロンの溶液又は結晶懸濁液と溶液との組合せ)は、単独で、β2アゴニストの最高約7日前(例えば少なくとも12時間、1日、2日、3日、4日、5日、6日、又は、約12時間〜約7日の範囲内の、他の任意の時間範囲)に輸送され、それにより、β受容体の上方制御が可能となる。
【0092】
幾つかの実施形態では、治療される患者に対して、非持続放出製剤が提供される。幾つかの実施形態では、非持続放出製剤が単独投与された後、1つ以上の長時間作用型の選択的なβ2アゴニストの活性が、約4時間〜約24時間で提供され、例えばβ2アゴニスト活性が6時間、8時間、10時間、12時間、16時間、18時間、21時間、又は、約4時間〜約24時間の範囲内の、他の任意の時間で提供される。
【0093】
他の実施形態では、治療される患者に対して、活性の持続が約4時間未満(例えば約3.5時間、3時間、2.5時間、2時間、1.5時間、1.3時間、約1時間、0.5時間、又は、約4時間未満〜約0.5時間の範囲内の、他の任意の時間)である、選択的な短時間作用型β2アゴニストを含んでなる、非持続放出製剤が提供される。
【0094】
例示的実施形態では、非持続放出型の注射用製剤は、約100μg〜約250μg(例えば105、110、125、150、175、190、200、210、225、又は、約100μg〜約250μgの範囲内の、他の任意の量)のキシナホ酸サルメテロールと、約500μg〜約1000μg(例えば600、650、700、730、740、800、825、875、900、930、950、又は、約500μg〜約1000μgの範囲内の、他の任意の量)のフルチカゾンプロピオネートとを、最高約10mL量(例えば0.3、0.5、0.7、1.1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、5、6、7、8、9、又は、約0.3〜約10mLの範囲内の、他の任意の体積)の、眼窩への投与に適する賦形剤中に製剤化された状態で含んでなる。上記の賦形剤濃度は、1%以下(例えば、0.05%、0.2%、0.3%、0.4%、0.5%、0.6%、0.8%、又は、約0.05%〜1%未満の範囲内の、他の任意の濃度)に維持されてもよい。
【0095】
幾つかの実施形態では、本願明細書において記載されている製剤は、あらゆる適切な方法を使用して、経眼輸送(例えば局所的な点眼として、又は眼瞼下に配置した貯蔵部を通じて輸送)されてもよい。
【0096】
他の実施形態では、輸送される製剤は、長時間作用型β2アゴニスト(例えばフォルモテロール2、サルメテロール1、又はバンブテロール3)を含んでなり、グルココルチコステロイドの局所適用が適切である。幾つかの実施形態では、経皮で輸送可能な持続放出製剤は、上記のように、生物分解可能な、生物学的適合性を有する、活性成分−ポリマー製剤又はリポソーム製剤を含んでなる。
【0097】
本発明の幾つかの実施形態では、1つ以上の免疫抑制剤(例えばラパマイシン、シロリムス又はエベロリムス)を含んでなる製剤を局所的に輸送することにより、線維芽細胞の激増、及び前脂肪細胞の脂肪細胞への変換を阻害するステップを有してなる、甲状腺眼症の治療方法が提供される。幾つかの実施形態では、上記免疫抑制剤は、当該1つ以上の免疫抑制剤を結晶微粒子懸濁液中に含んでなる持続放出製剤(例えばデポー製剤)の形態で投与される。他の実施形態では、上記持続放出製剤は、上記1つ以上の免疫抑制薬を担持するポリマー微粒子(本願明細書に記載のもの)を含んでなる。持続放出型の免疫抑制製剤の投与は、眼窩内、眼窩周囲又は眼球後部への注入により行われてもよい。
【0098】
幾つかの実施形態では、甲状腺ホルモンを上記の製剤のうちの1つに含有させ、β受容体を上方制御するか又は細胞表面のβ受容体数を増加させ、並びに、α受容体を下方制御するか又は細胞表面のα受容体数を減少させる。チロキシン(T4)18及びトリヨードサイロニン(T3)19の両方、並びにこれらのホルモンの立体異性体が、この目的に用いられる。レボチロキシンはチロキシンの立体異性体であり、それは長い半減期を有しうる。これらの甲状腺ホルモンを、βアゴニストと混合して、眼窩、眼窩周囲若しくは眼球の後部に注入して投与できる。上記1つ以上の甲状腺ホルモンを、上記の通り、持続放出製剤(例えばポリマー又はリポソーム)中でβアゴニストと混合して、投与頻度を減少させることができる。T3及びT4は、注入及び持続放出のために、ポリラクチドのポリマー微小球体、又はポリラクチド/グリコリド中で、選択的な長時間作用型β2アゴニストと混合してもよい。
【化9】

【0099】
幾つかの実施形態では、上記の製剤は更に、フラボン及びフラビノン群に属する1つ以上のフラボノイド(例えばケルセチン及びフィセチン)を含有する。それらはcAMPホスホジエステラーゼの阻害剤として作用し、それによりβアドレナリン作動性シグナル伝達が強化される。
【実施例】
【0100】
以下の具体的な実施例は、単なる例示を目的とするものであり、いかなる形であれ、開示された部分以外の部分を制限するものではないと解釈すべきである。当業者であれば、更なる努力を行うことなく、本願明細書における説明に基づき、本発明を最大限に利用できると考えられる。本願明細書において引用される全ての刊行物は、それらの全開示内容を本願明細書に援用するものとする。URL又はそれ以外の識別子又はアドレスを参照する場合、かかる識別子が変化することもあり、またインターネットに関する特定の情報が出入りすることもありうると理解されるが、同等の情報は、インターネットを検索により見出すことができる。それに対する参照は、かかる情報の入手可能性及び一般的な普及の証拠でもある。
【0101】
実施例1:βアゴニスト及びグルココルチコステロイドによる、ラット脂肪細胞のin
vitro脂肪分解アッセイ
【0102】
in vitro脂肪分解アッセイにおいて、細胞培地中のグリセロールを、過酸化水素による化学的な酸化の後、分光光度計による測定により検出した。3時間にわたり、グリセロールを測定した。後で詳述するように、βアゴニスト単独、グルココルチコステロイド単独又はそれらの2つの組合せへの、1時間以上のプレインキュベート時間にわたる曝露後の、培養されたヒト脂肪細胞における脂肪分解のレベルを試験した。
【0103】
[前脂肪細胞の単離、及び脂肪細胞への分化]
ヒト皮下の脂肪細胞を、脂肪分解アッセイにおいて用いた。脂肪組織を脂肪吸引又は脂肪切除により回収し、また前脂肪細胞を以下の通りに単離した。簡潔には、脂肪組織を細かく切り刻み、酸素を豊富に含有する振とうチャンバ(5%のCO、75ストローク/分)において、1%のウシ血清アルブミン及び0.1%のコラゲナーゼを含むクレープス−リンガー重炭酸塩バッファ中で、37℃で1時間インキュベートした。懸濁液を、400μmナイロンメッシュで濾過し、100gで1分間遠心分離した。上清中の前脂肪細胞を2度洗浄し、次に細胞/ウェルの密度で、96ウェルプレートに播いた。前脂肪細胞を7日間維持培地で培養し、それらを脂肪細胞に分化させた。試薬:洗浄緩衝液(無血清クレープス・リンガー緩衝液(KRB)、[Sigma、K4002−10X1L]):4℃で保存した。アッセイ緩衝液(1%のFBSを有するKRB、[Gibco(26140−079)社製のFBS]):4℃で保存した。維持培地:4℃で保存した。グリセロール試薬A(Zen−Bio社、RGTL−15又はRGTL−40):再調製した後、遮光して4℃で保存した。グリセロールストック溶液(1M):洗浄緩衝液(無血清)中にグリセロール[SigmaG2025−500ML]を希釈して調製し、−20℃で保存した。
【0104】
[脂肪分解アッセイ]
脂肪分解アッセイの21時間前に、各ウェルから培地を除去し、適当な薬剤又はDMSO(ビヒクル)濃度(下記の実験計画のセクションを参照)を含んでなる維持培地75μlで置換した。各試験薬剤又はコントロール処理を、8つのウェル/群(96ウェルプレートあたり12の処理群)にアプライした。脂肪分解アッセイの3時間前に、各ウェルを洗浄用緩衝液(200μl/洗浄)で2回洗浄し、アッセイ用緩衝液中に試験溶液又はコントロール溶液を含有する溶液(75μl/ウェル)で満たし、次に3時間(すなわちアッセイ用緩衝液中のグリセロール含量を測定するまでの間)インキュベートした。幾つかの群においては、3時間のインキュベート(以下の試験群及びコントロール群を参照)の間にのみ、薬剤を添加した。アッセイの1時間前に、200μM〜3.125μMにわたる、7つのグリセロールスタンダードを、アッセイ用緩衝液による連続希釈により調製した。
【0105】
インキュベート後の各々ウェルのアッセイ用緩衝液中のグリセロール含量を、脂肪分解の指標として用いた。グリセロールの増加は脂肪分解を示す。グリセロール濃度は、市販のグリセロールアッセイキット(Randox Laboratory、英国)による比色アッセイで測定し、グリセロールの連続希釈剤標準曲線(3μM〜200μM)と比較することにより定量した。各々ウェルのグリセロール濃度を、細胞密度に対して標準化した。
【0106】
[実験計画]
以下の各々のコントロール群又は実験群において、n=8は、96ウェル細胞培養プレートからの8ウェルにおけるグリセロール測定値に対応する。
【0107】
【表1】

【0108】
図2に示すように、3時間の培養後、長期作用型β2アドレナリン受容体アゴニストのフォルモテロールは、投与量依存的に脂肪分解を誘導し、6倍増加させた。10−6M以上の濃度では、イソプロテレノールで観察された場合より大きかった。同様に、長期作用型β2アドレナリン受容体アゴニストのサルメテロールも、3時間の培養後、脂肪分解の投与量依存的な増加を誘導したが、その効果(僅かに2倍を超える脂肪分解の増加)は、フォルモテロールの場合に観察されたものほど強くなかった。サルメテロールにより誘導された脂肪分解は、イソプロテレノールで観察されたものと同等若しくはそれ以下であった。
【0109】
図3に示すように、グルココルチコステロイドであるブデソニドは、3時間、脂肪分解のわずかな増加(最高約1.5倍)を誘導したが、イソプロテレノール(約2.5倍)で観察された場合より低かった。対照的に、ブデソニドのみによる18時間の培養により、実際にin vitroで脂肪分解のわずかな抑制が生じた。
【0110】
サルメテロール(10−6M)を用いた脂肪細胞の18時間にわたる培養により、脂肪分解(図4)が減少した。同様に、18時間のイソプロテレノールによる処理により、脂肪分解が減少した。しかしながら、18時間のインキュベートの間、サルメテロールとブデソニドとを組み合わせたとき、脂肪分解の増加が観察された(図4)。
【0111】
これらのデータに基づいて、フォルモテロール及びサルメテロールを用いて、3時間にわたり脂肪細胞を培養することにより、脂肪分解を効果的に誘導すると結論づけた。しかしながらサルメテロールは、18時間用いたとき、実際に脂肪分解を減少させ、受容体脱感作又は下方制御すると考えられる。更に、サルメテロールはグルココルチコステロイドであるブデソニドの存在下で、18時間後においても、脂肪分解を誘導することができる。すなわち、ブデソニドを用いることにより、脂肪分解を誘導するβ2アドレナリン作用アゴニストの能力を、おそらくβ2アドレナリン受容体の下方制御を防止することにより長時間維持又は回復させることができる。
【0112】
実施例2:βアゴニスト及びグルココルチコステロイドによる脂肪生成の阻害
【0113】
かかる脂肪生成阻害の非限定的な例を、以下に示す。
[細胞培養]
3T3−L1前脂肪細胞系(ATCC、Manassas、VA)を、10%の仔牛血清及び1%のペニシリン/ストレプトマイシン抗生物質を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)中に、T75mlフラスコあたり4×105細胞で播いた。細胞を、37℃(5%のCO)でインキュベートした。3日後に、細胞をトリプシンにより剥離し、計数し、2mLの培地中、ウェルあたり6×105細胞で、24ウェルプレートに再懸濁した。1〜2日後に細胞はほぼコンフルエントとなり、脂肪生成の準備がなされた。
【0114】
[脂肪生成の材料]
脂肪生成開始培地:DMEM/10%ウシ胎仔血清/0.5mMのmMX/1μMデキサメタゾン。脂肪生成進行培地:DMEM/10%ウシ胎仔血清/10μg/mLインスリン。脂肪生成維持培地:DMEM/10%ウシ胎仔血清。ネガティブコントロール培地:DMEM/10%仔牛血清。
【0115】
[脂肪生成プロトコル]
1.8mLの培地をウェルから除去し、ウェルあたり2mLで脂肪生成開始培地を添加した。プレートを37℃(5%のCO)で48時間インキュベートした。2mLの培地を除去し、2mLの脂肪生成進行培地を各ウェルに添加した。プレートを37℃(5%のCO2)で48時間インキュベートした。2mLの培地を除去し、2mLの脂肪生成維持培地を各ウェルに添加した。プレートと37℃(5%のCO)で少なくとも48時間インキュベートした。細胞内の油滴が、少なくとも5日間細胞内に蓄積した。
【0116】
[実験計画]
脂肪生成の前に、3T3−L1前脂肪細胞を、β2アゴニスト及び/又はグルココルチコステロイドにより、異なるステージで前処理した。脂肪生成開始培地の添加の24時間前に、細胞を以下のとおり処理した。群1:処理なし。群2:10−10Mサルメテロール。群3:10−8Mサルメテロール。群4:10−6Mサルメテロール。群5:10−4Mサルメテロール。群6:10−10Mサルメテロール+10−6Mブデソニド。群7:10−8Mサルメテロール+10−6Mブデソニド。群8:10−6Mサルメテロール+10−6Mブデソニド。群9:10−4Mサルメテロール+10−6Mブデソニド。群10:10−6Mブデソニド。群11:10−10Mブデソニド。群12:10−6Mカプサイシン(周知の脂肪生成阻害剤)。他の細胞のセットでは、脂肪生成進行培地の添加の24時間前に、上記の群で処理し、更に他のセットでは、脂肪生成維持培地の添加の24時間前に処理した。コントロールのセットでは、細胞を、ネガティブコントロール培地の添加の24時間前に、上記の群で処理した。12の群の他の2つのセットのうち、1つのセットでは、サルメテロールを長時間作用型β2アゴニスト(フォルモテロール)で置換し、その他のセットでは、短時間作用型β2アゴニスト(アルブテロール)で置換した。
【0117】
[細胞内脂質の視覚化]
脂肪生成維持培地の添加の5日後に細胞を回収した。細胞培地を除去し、プレートをリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2回洗浄した。0.5mLのOil Red O溶液(60%のイソプロパノール中の0.36%のOil Red O)を各ウェルに添加し、プレートを室温で15分間インキュベートした。染色溶液を除去し、ウェルを60%のイソプロパノールで3回洗浄した。染色されたプレートは、視覚分析のため撮影及び/又はスキャンされた。脂質は赤く染色された。
【0118】
[脂質の定量]
0.25mLのDye Extraction Solution(CHEMICON
International)を、染色後のウェルに添加した。プレートを15〜30分間、オービタルシェーカ又はロッカーの上に置いた。抽出された色素を含有する溶液をキュベットへ移し、520nmの吸収度を分光光度計で測定した。
【0119】
実施例3:グルココルチコステロイドとβ2アゴニストとの組み合わせによる、精巣上体の脂肪パッドの重量の減少
【0120】
グルココルチコステロイドが、実施例1にて説明した上記のin vitro脂肪分解データと整合した態様で、in vivoで脂肪を減少できるか否かの解析を試みた。そこで、長期作用型β2アドレナリン作用アゴニストのフォルモテロール単独で、及びブデソニドとの組み合わせで処理したラットの精巣上体の脂肪パッド重量を測定した。
【0121】
雄のスピローグ・ドーリー・ラット(〜500g)を、Matrx 3000vaporizerを使用して、4%イソフルラン下で麻酔した。次に動物に対して、下記の表2に記載のように、脂肪パッドの後部端から前方5mmの位置に、0.4mLのビヒクル(2%のPEG)、ビヒクル中のフォルモテロール(3.48μg/mL、投与量=1.39μg)、又はビヒクル中のフォルモテロール(3.48μg/mL)+ブデソニド(10μg/mL、投与量=1.39μgのフォルモテロール及び4μgのブデソニド)を注射した。各動物において、片側を薬剤で処理し、もう片側をビヒクル(2%のPEG)で処理し、各群は、薬剤及びビヒクルに関して左右のバランスを合わせた(表2を参照)。
【0122】
【表2】

【0123】
24及び48時間後に注入を繰り返し、合計3回注入した。最後の注入の24時間後に、過剰量のペントバルビタール(150mg/kg)をi.p.注射して動物を安楽死させ、各動物から左右の精巣上体の脂肪パッドを摘出し、秤量した(表3及び図6に結果を示す)。対応のある(paired)t検定及び通常のt検定を用いて統計処理した。
【0124】
【表3】

【0125】
表3において示した、フォルモテロール単独及びフォルモテロール+ブデソニド処理によるデータを、対応のあるスチューデントt検定で分析し、その結果を表4に示す。
【0126】
【表4】

【0127】
表4に示すように、群1の動物(フォルモテロール単独で処理)は、通常の未処理コントロールと整合した相違及び可変性を示した。フォルモテロール単独による平均処理効果は、+0.028g±0.140gであった。統計分析では0.63のp値であり、治療効果に向かう傾向と整合していなかった。一方、群2の動物(フォルモテロール+ブデソニドで治療される)では、治療効果が示された。平均治療効果は、p値=0.079で、−0.353±0.270であった。
【0128】
また、薬剤の単独処理と併用処理との間の効果の有意差、更には併用処理と無処理の対照動物との間の有意差の有無に関して統計分析(スチューデントt検定)を行った。これらの統計分析の結果を表5に示す。
【0129】
【表5】

【0130】
表5及び図6に示すように、群2と群1との統計的な相違がみられた(p=0.05)。群2 対 無処理の動物における、平均脂肪パッド重量の減少に関する有意差(p=0.013)が見られた。
【0131】
フォローアップ試験として、上記のアッセイにおいて、フォルモテロール+ブデソニドの、脂肪パッド質量を減少させる能力を解析した。図7に示すように、1.4μg/日フォルモテロール+4.0μg/日ブデソニドの併用による投与により、処理群 対 無処理群での、精巣上体の平均重量に関して有意差が見られた(p=0.01)。同様に、低用量の組合せ(0.7μg/日フォルモテロール+2.0μg/日ブデソニド、1日おきで投与した)においても、併用投与群と無処理の対照動物との有意差がみられた(p=0.04)。
【0132】
これらのデータ及びそれらの分析に基づき、長時間作用型β2アゴニスト(例えばフォルモテロール)とグルココルチコステロイド(例えばブデソニド)との組合せが、in
vivoで脂肪分解及び脂肪減少を誘導するのに効果的であると結論づけた。
【0133】
実施例4:βアゴニスト及びグルココルチコステロイドを含有する組成物を用いた、グレーブス眼病の治療に関する臨床試験
かかるグレーブス眼症の治療に関する臨床試験の非限定的な例を、以下に示す。
【0134】
[患者の選抜]
18歳以上で、投与された薬剤に対する過敏症がない患者を選抜した。彼らは、超音波検査法、眼球突出度計測法、MRI、又はCTにより、グレーブス眼症を伴う眼球突出症と診断された。特に、他の徴候の有無にかかわらず、0.5mm又は3mm以上の、一側性又は両側性眼球突出を有する患者を選択した。患者はまた、複視、眼球運動の到達点(extreme position)の狭小化、及び明らかな運動の制限、角膜潰瘍化、痛み、美容の悪化及び生活の質の低下を示していた。患者は甲状腺機能亢進症のため、甲状腺摘出術を受けていた。他のステロイド治療を、甲状腺機能亢進症の治療のために用いてはならなかった。全ての試験は、研究所の倫理委員会の承認、及び患者の同意により実施した。
【0135】
[試験計画]
試験1:
これは、サルメテロール(長時間作用型β2アゴニスト)及びブデソニド(グルココルチコステロイド)の併用療法に関する、多施設治験の、用量漸増試験である。患者に毎日、薬剤を含む非経口組成物を注射して投与した。眼球突出の改善又は部分的若しくは完全な応答を示さないが、1週間の治療の後においても疾患状態が安定している患者に、最初投与したときより高い投与量で更に1週間治療を受けさせた。3〜6人の患者の一団では、併用薬剤の投与量を漸増させ、それにより最大許容投与量(MID)を決定した。MTDは、3人のうちの2人、又は6人のうちの2人の患者が用量制限毒性を経験する寸前の投与量として定義した。
【0136】
試験2:
これは、多施設ランダム化治験である。試験期間を60日とした。患者を、18の治療群のうちのいずれか1つに無作為に入れた。群1では、患者に、MIDで毎日、フォルモテロール又はサルメテロールを単独で投与した。群2では、患者に、MTDで毎日、ブデソニドを単独投与した。群3では、患者に、MTDで、サルメテロール及びブデソニドを併用投与した。群4では、患者に、サルメテロール又はフォルモテロールを毎日、及び1日おきにブデソニドを投与した。群5では、患者に、毎日ブデソニド、及び1日おきにサルメテロール又はフォルモテロールを投与した。群6では、患者に、奇数日にブデソニド、及び偶数日にサルメテロールを投与した。群7から12では、投与量をMIDの4分の1にした以外は、群1から6と同様の投与計画を適用した。群13から18では、投与量をMIDの10分の1にした以外は、群1から6と同様の投与計画を適用した。治療群に加えて、対照群では、無処理のままにした。
【0137】
[エンドポイント評価]
試験の終了時において、患者を、眼球突出の減少、眼窩脂肪の体積及び外眼筋の減少について評価した。閉瞼及び眼球運動の改善に関しても評価した。60日以内で20%減少した場合、陽性の結果として推定した。
【0138】
実施例5:医薬組成物
かかる医薬組成物の非限定的な例を、以下に示す。
【0139】
[非経口組成物]
実施例5A:
約100μgのフォルモテロールの水溶性塩及び約3mgのケトチフェンを、DMSO中に溶解させ、次に10mLの0.9%の無菌の生理食塩水と混合し、注入投与に適する非経口医薬組成物を調製した。混合物を、注入投与に適する投与単位形態に取り込ませた。
【0140】
実施例5B:
約50μgのサルメテロールの水溶性塩及び約100μgのフルチカゾンプロピオネートをDMSO中に溶解させ、次に、約20%(v/v)のPEG−400を含んでなる0.9%の無菌の生理食塩水10mLと混合し、注入投与に適する非経口医薬組成物を調製した。ヒアルロニダーゼを混合物に添加し、8IU/mLの最終濃度とした。得られる混合物を、注入投与に適する投与単位形態に取り込ませた。
【0141】
実施例5C:
約50〜100μgのサルメテロールの水溶性塩を、DMSO中に溶解させ、次に、約20%(v/v)のPEG−400を含んでなる0.9%の無菌の生理食塩水10mLと混合し、注入投与に適する非経口医薬組成物を調製した。混合物を、注入投与に適する投与単位形態に取り込ませた。
【0142】
実施例5D:
約50μgのフルチカゾンプロピオネートの水溶性塩を、DMSO中に溶解させ、次に、0.9%の無菌の生理食塩水10mLと混合し、注入投与に適する非経口医薬組成物を調製した。ヒアルロニダーゼを混合物に添加し、10IU/mLの最終濃度にした。得られる混合物を、注入投与に適する投与単位形態に取り込ませた。
【0143】
[局所用ゲル組成物]
実施例5E:
約100mgのサルメテロール及び約100mgのプレドニゾロンを、1.75gのヒドロキシプロピルセルロース、10mLのプロピレングリコール、10mLのイソプロピルミリステート及び100mLの精製されたアルコールUSPと混合し、医薬用局所用組成物を調製した。得られるゲル混合物を次に容器(例えばチューブ)に取り込ませた。局所投与に適していた。
【0144】
実施例5F:
約100mgのフォルモテロール及び約100mgのブデソニドを、約10mgのヒアルロニダーゼ、1.75gのヒドロキシプロピルセルロース、10mLのプロピレングリコール、10mLのイソプロピルミリステート及び100mLの精製されたアルコールUSPと混合し、医薬用局所用組成物を調製した。得られるゲル混合物を次に容器(例えばチューブ)に取り込ませた。局所投与に適していた。
【0145】
実施例5G:
約100mgのサルメテロールを、約10mLのPEG−400、1.75gのヒドロキシプロピルセルロース、10mLのイソプロピルミリステート及び100mLの精製されたアルコールUSPと混合し、医薬用局所用組成物を調製した。得られるゲル混合物を次に容器(例えばチューブ)に取り込ませた。局所投与に適していた。
【0146】
実施例5H:
約100mgのプレドニゾロンを、約10mLのPEG−400、1.75gのヒドロキシプロピルセルロース、10mLのイソプロピルミリステート及び100mLの精製されたアルコールUSPと混合し、医薬用局所用組成物を調製した。得られるゲル混合物を、次に容器(例えばチューブ)に取り込ませた。局所投与に適していた。
【0147】
[点眼用溶液組成物]
実施例5I:
約100mgのサルメテロールの化合物及び約100mgのブデソニドを、0.9gのNaClを含有する100mLの純水溶液と混合し、0.2μmフィルタを使用して濾過し、点眼用溶液組成物を調製した。得られる等張溶液を次に、眼への輸送ユニット(例えば点眼容器)に入れた。点眼による投与に適していた。
【0148】
実施例5J:
約100mgのフォルモテロールの化合物及び約100mgのブデソニドを、0.9gのNaClを、約10%(v/v)のPEG−400を含有する純水100mL中に含有する溶液と混合し、0.2μmフィルタを使用して濾過し、点眼用溶液組成物を調製した。得られる等張溶液を次に、眼への輸送ユニット(例えば点眼容器)に入れた。点眼による投与に適していた。
【0149】
実施例5K:
約100mgのフォルモテロールの化合物及びヒアルロニダーゼ(10IU/mLの最終濃度に)を、0.9gのNaClを、約10%(v/v)のPEG−400を含有する純水100mL中に含有する溶液と混合し、0.2μフィルタを使用して濾過し、点眼用溶液組成物を調製した。得られる等張溶液を次に、眼への輸送ユニット(例えば点眼容器)に入れた。点眼による投与に適していた。
【0150】
実施例5L:
約100mgのケトチフェンの化合物を、0.9gのNaClを、約20%(v/v)のPEG−400を含有する純水100mL中に含有する溶液と混合し、0.2μmフィルタを使用して濾過し、点眼用溶液組成物を調製した。得られる等張溶液を次に、眼への輸送ユニット(例えば点眼容器)に入れた。点眼による投与に適していた。
【0151】
[経口組成物]
【0152】
実施例5M:
約100mgのプレドニゾロンの化合物と750mgの澱粉を混合し、医薬用経口組成物を調製した。堅いゼラチンカプセル(経口投与に適する)などの投与単位に、上記混合物を入れた。
【0153】
実施例5N:
約50mgのブデソニドの化合物と375mgのゼラチンを混合し、医薬用経口組成物を調製した。堅いゼラチンカプセル(経口投与に適する)などの投与単位に、上記混合物を入れた。
【0154】
実施例5O:
約200mgのケトチフェンの化合物と1500mgのヒドロキシプロピルメチルセルロースを混合し、医薬用経口組成物を調製した。堅いゼラチンカプセル(経口投与に適する)などの投与単位に、上記混合物を入れた。
【0155】
実施例5P:
約50mgのフルチカゾンプロピオネートの化合物と600mgの澱粉を混合し、医薬用経口組成物を調製した。堅いゼラチンカプセル(経口投与に適する)などの投与単位に、上記混合物を入れた。
【0156】
実施例6:βアゴニスト及びグルココルチコステロイドの投与計画:
かかる投与計画の非限定的な例を、以下に示す。
【0157】
実施例6A:
グレーブス眼症に罹患する患者に、治療1日目、及びその後の奇数治療日に、治療上有効量の組成物5Cを投与した。偶数日には、患者に、治療上有効量の組成物5Dを投与した。
【0158】
実施例6B:
グレーブス眼症に罹患する患者に、治療1日目、及びその後の奇数治療日に、治療上有効量の組成物5Dを投与した。偶数日には、患者に、治療上有効量の組成物5Cを投与した。
【0159】
実施例6C:
グレーブス眼症に罹患する患者に、毎日、治療上有効量の組成物5Cを投与した。偶数日には、患者に、治療上有効量の組成物5Dを投与した。
【0160】
実施例6D:
グレーブス眼症に罹患する患者に、毎日、治療上有効量の組成物5Dを投与した。偶数日には、患者に、治療上有効量の組成物5Cを投与した。
【0161】
実施例6E:
グレーブス眼症に罹患する患者に、治療1日目に治療上有効量の組成物5Cを投与し、その後2日の休日を置いた。2日目の休日には、患者に、治療上有効量の組成物5Dを投与した。その後、この投与を繰り返した。
【0162】
実施例6F:
グレーブス眼症に罹患する患者に、治療1日目に治療上有効量の組成物5Dを投与し、その後2日の休日を置いた。2日目の休日はに、患者に、治療上有効量の組成物5Cを投与した。その後、この投与を繰り返した。
【0163】
実施例6G:
グレーブス眼症に罹患する患者に、治療1日目及びその後の奇数治療日には、治療上有効量の組成物5Mを投与した。偶数日には、患者に、治療上有効量の組成物5Cを投与した。
【0164】
実施例6H:
グレーブス眼症に罹患する患者に、毎日、治療上有効量の組成物5Cを投与した。偶数日には、患者に、治療上有効量の組成物5Mを投与した。
【0165】
本願明細書に記載されている実施例及び実施態様は、単なる例示を目的とするものであることを理解すべきである。またその様々な修飾又は変形は、本発明の技術思想、及び本願明細書の範囲、及び添付の特許請求の範囲に包含される。本願明細書において引用される全ての刊行物、特許及び特許出願は、全開示内容を本願明細書に援用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の眼窩脂肪の蓄積を減少させる方法であって、患者に
(a)治療上有効量の少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、
(b)治療上有効量の、βアドレナリン受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物とを投与することを有してなる方法。
【請求項2】
前記患者が、甲状腺眼症に罹患する、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記投与が、非経口、経口、眼内、眼窩内、点眼、眼窩周囲、眼球後、筋円錐内、局所、筋肉内、経皮、舌下、鼻腔内又は吸入投与によりなされる、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも1つの化合物が、少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストの前に投与される、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記少なくとも1つの化合物が、少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストの約3日〜約7日前に投与される、請求項4記載の方法。
【請求項6】
前記少なくとも1つの化合物の投与が、眼内、眼窩内、点眼、眼窩周囲、眼球後、筋円錐内投与によってなされる、請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも1つの化合物が、結晶微粒子懸濁液の形態で投与される、請求項6記載の方法。
【請求項8】
前記少なくとも1つの化合物が、経口投与であり、前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、点眼により投与される、請求項4記載の方法。
【請求項9】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、結晶微粒子懸濁液の剤形で投与される、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項11】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、β2アドレナリン受容体に対して選択的なβアドレナリン作用アゴニストを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項12】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、サルメテロール、フォルモテロール又はそれらの任意の組み合わせを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項13】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、サルメテロールを含んでなり、サルメテロールの治療上有効量が、約0.01μg/日〜約100μg/日である、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、フォルモテロールを含んでなり、フォルモテロールの治療上有効量が、約0.001μg/日〜約50μg/日である、請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記少なくとも1つの化合物が、グルココルチコステロイド、抗ヒスタミン剤又はそれらの任意の組み合わせを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項16】
前記少なくとも1つの化合物が、デキサメタゾン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、フルチカゾンプロピオネート、ブデソニド、ケトチフェン又はそれらの任意の組み合わせを含んでなる、請求項1記載の方法。
【請求項17】
前記少なくとも1つの化合物が、グルココルチコステロイドであり、前記少なくとも1つの長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストが、サルメテロール、フォルモテロール又はそれらの組み合わせである、請求項6記載の方法。
【請求項18】
更に、少なくとも1つの化合物を投与する前に、眼内、眼窩内、点眼、眼窩周囲、眼球後、筋円錐内経路により、治療上有効量の免疫抑制剤を投与するステップを有してなる、請求項1記載の方法。
【請求項19】
治療上有効量の前記免疫抑制剤が、結晶微粒子懸濁液の形態で投与される、請求項18記載の方法。
【請求項20】
治療上有効量の少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストを含んでなる組成物を患者に投与することを含んでなる、眼球突出症の治療方法。
【請求項21】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストを含んでなる、請求項20記載の方法。
【請求項22】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、β2アドレナリン受容体に対して選択的なβアドレナリン作用アゴニストを含んでなる、請求項20記載の方法。
【請求項23】
前記少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストが、サルメテロール、フォルモテロール、バンブテロール、エフォルモテロール、イソプロテレノール、アルブテロール又はフェノテロールを含んでなる、請求項20記載の方法。
【請求項24】
前記組成物が、少なくとも1つの長時間作用型βアドレナリン作用アゴニストと、少なくとも1つの短時間作用型βアドレナリン作用アゴニストとの混合物を含んでなる、請求項20記載の方法。
【請求項25】
前記組成物が、サルメテロールを含んでなり、サルメテロールの治療上有効量が約0.01μg/日〜約100μg/日である、請求項23記載の方法。
【請求項26】
前記組成物が、フォルモテロールを含んでなり、フォルモテロールの治療上有効量が約0.001μg/日〜約50μg/日である、請求項23記載の方法。
【請求項27】
前記投与が、非経口、経口的、眼内、眼窩内、筋円錐内、点眼、眼球後、局所、筋肉内、経皮、舌下、鼻腔内又は吸入投与によりなされる、請求項23記載の方法。
【請求項28】
前記組成物が更に、治療上有効量のヒアルロニダーゼを含んでなる、請求項20記載の方法。
【請求項29】
患者の眼窩脂肪の蓄積を減少させる方法であって、
(a)治療上有効量の1つ以上のアドレナリン受容体経路を刺激する化合物と、
(b)治療上有効量のβアドレナリン受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物とを患者に投与するステップを有してなる方法。
【請求項30】
前記1つ以上のアドレナリン受容体経路を刺激する化合物が、カテコールアミン、αアドレナリン作用性アンタゴニスト、フォルスコリン、アミノフィリン又はその類縁体を含んでなる、請求項29記載の方法。
【請求項31】
眼科的に許容できる賦形剤と、治療上有効量の酢酸メチルプレドニゾロン又はフルチカゾンプロピオネートとを、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる、眼科用医薬組成物。
【請求項32】
更に、可溶化された酢酸メチルプレドニゾロン又は可溶化されたフルチカゾンプロピオネートを含んでなる、請求項31記載の眼科用医薬組成物。
【請求項33】
更に、治療上有効量の、少なくとも1つの長時間作用型β2アゴニストを、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる、請求項33記載の眼科用医薬組成物。
【請求項34】
眼科的に許容できる賦形剤と、治療上有効量の、少なくとも1つの長時間作用型β2アゴニストとを、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる、眼科用医薬組成物。
【請求項35】
前記少なくとも1つの長時間作用型β2アゴニストが、サルメテロール又はフォルモテロールを含んでなる、請求項34記載の眼科用医薬組成物。
【請求項36】
更に、治療上有効量の、少なくとも1つの可溶化された長時間作用型β2アゴニストを含んでなる、請求項34記載の眼科用医薬組成物。
【請求項37】
更に、治療上有効量の、βアドレナリン受容体脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物を、結晶微粒子懸濁液の形態で含んでなる、請求項34記載の眼科用医薬組成物。
【請求項38】
少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、βアドレナリン作用アゴニストに対する標的組織の脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物との、眼窩脂肪の蓄積を伴う疾患の治療用薬剤の製造への使用。
【請求項39】
少なくとも1つのβアドレナリン作用アゴニストと、βアドレナリン作用アゴニストに対する標的組織の脱感作を減少させるための少なくとも1つの化合物との、眼窩脂肪の蓄積を伴う疾患の治療方法への使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−144565(P2012−144565A)
【公開日】平成24年8月2日(2012.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−95792(P2012−95792)
【出願日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【分割の表示】特願2009−533423(P2009−533423)の分割
【原出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(509108928)リセラ,インク. (3)
【Fターム(参考)】