説明

男性の生殖能診断用の方法及びキット

男性の生殖能診断用の方法及びキットが開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は男性の生殖能を診断するための方法及びキットに関する。
【背景技術】
【0002】
初回受胎を企図するカップルの約15%が失敗を経験する。過去20年以上にわたる入手可能なデータは、これらのケースの約30%において、男性のみの病態が見られ、他の20%においては男性及び女性双方の異常であることを明らかにする。従って、不妊カップルの約50%は少なくとも部分的に男性の因子が原因である。
【0003】
男性不妊症は、人口比率に大きく影響を与える顕著な医学的問題である。男性不妊症の原因の約半数は通常、徹底的な評価後でさえも、同定されうる特定の原因を呈さない。
【0004】
男性の生殖能と関連する主因子のうちの3つ:運動精子の数又は割合、移動速度、及びその方向は一般的には、受精の成功に有害であると認識される。最も発生する欠陥は精子の運動特性に関するものであり、特に精子の前方に移動する能力、すなわち末端部(鞭毛)の有効な拍動によって支配及び惹起される移動に関する。この移動又はいわゆる精子の直進運動性は、ほとんどのIVF実験室で、男性不妊症の指示薬を最も予期するものであると見なされる。
【0005】
男性の生殖能に関する世界保健機関(WHO)の診断基準は、男性の生殖能を支配する主要な因子は、精液量、精子細胞密度、運動性、前進性、及び形態である。「正常」に関するWHOの指標はミリリットルにつき1000万の運動精子である。
【0006】
従来、直進運動性(前進性)は実験室の訓練された技術者によるサンプルの(光)顕微鏡分析によって判定及び定量化される。サンプルは観察され、運動性の割合、密度、形態的に異常な割合、及び前進性といった精子細胞組成物のいくつかの態様が定量化される。多くの方法が、サンプル中の精子の運動性及び数を評価するために存在する。述べられるように、技術分野に共通するのは顕微鏡分析方法であり、一般的には病院又は民間試験所で行われる。最近では、精子の検出を単純化するのを目的とする数多くの試験キットが開発されている。
【0007】
国際公開第95/29188号はヒト精子のSP−10抗原に対する抗体による試験を開示する。欧州特許出願公開第0387873号はヒト精子アクロソームに特異的な抗体が結合される固体ビーズを用いるキットを開示する。ビーズはサンプルと混合され、インキュベートされ、分離され、洗浄され、ビーズに結合された精子の数が、好適には顕微鏡の補助を伴う試験によって測定される。国際公開第97/40386号は、ヒト精巣上体精子タンパク質である+kLの免疫検出によるキットを開示する。サンプル中の精子はダルベッコリン酸緩衝食塩水中で遠心分離によって3回洗浄される。サンプルは95℃で熱変性され、14000gで遠心分離され、上澄みがその後分析に用いられる。
【0008】
最近では、基礎精液分析を行うことができる、使い捨ての商品が市販されている。精液の質を試験するための比色分析は当該技術分野で既知である。例えば、Genosis社(英国キングストンアポンテムズ)は、国際公開第2001/060968号に開示される商標名「Fertell」で販売される製品を生成している。Fertellの男性の生殖能試験は精液を曝露して、液体の充填されたチャンバを泳動させ、精子が卵子に到達しようとするときに進むプロセスを模倣する。精子の存在はコロイド金と接合される抗CD59モノクローナル抗体で検出される。抗体に結合される精子はニトロセルロースの細片上で捕捉されるが、未反応の接合体は過剰な緩衝剤で細片から洗浄される。
【0009】
国際公開第99/66331号は、サンプル中の非運動精子及び/又は運動性の低減を伴う精子から運動精子を分離するか、あるいは運動精子を検出する方法及びキットを開示する。その発明の方法は、25ないし2,500ミクロンの多孔質層上へ精子のサンプルを沈着するステップと;サンプル中に含まれる任意の運動精子がその層を通って検出ゾーンに移動するのを可能にし、運動精子が検出されるステップと;を具える。
【0010】
米国特許出願公開第2005287571号は、精子に結合されるEP2Dのレベルに基づいて男性の生殖能を評価する方法、及び男性の生殖能を評価するためのキットを開示する。
【発明の概要】
【0011】
当該技術分野で開示された診断キット及び方法の主な弱点の1つは、簡単、迅速、かつ正確な方法で運動精子と非運動性の精子との間を区別しないことである。更に、既知の診断キットの多くは、消費者に利用可能なキットのコストを増加させる成分、及び/又は、家庭用途に役立たない方法とを含む。
【0012】
本発明の発明者は、要求される直進運動性を有するとその精子の存在とその定量化を検出するための方法及びキットの開発に成功した。本発明の方法及びキットは、男性の生殖能を診断するための現存又は既知の方法及びキットと比較して以下の利点を有する:
(1)診断方法は医療施設外部で、かつ快適に男性対象の自宅で行うことができ、従って、このような設備に行き、その分析用のサンプルを生成しなければならない初期の困難を克服する;
(2)診断方法はその実行又は(すなわち、サンプル中の運動精子の有無の)分析時に医療関係者の関与を要求しない;
(3)診断の実行及び結果の分析にほんの数分しかかからない;
(4)本方法の実施の成功に大量の精子が要求されない;
(5)診断方法が対象が選択する任意の時間で実行できる;
(6)診断はカップルの関係の初期段階で実行でき、生殖能の問題の存在を同定できる;
(7)本発明の方法を実行するために用いられるキットは廉価である;
(8)キットは男性の生殖能の判定用と、更には、直進運動性を有する精子の非運動精子に対する比率を判定用の双方で用いられうる
(9)キットは精子、精子に存在する他の細胞(白血球及び未成熟精子細胞)及び精液のデータを提供する精漿のpH、その生存能、及び生殖能を判定するために用いることができる;
(10)キットは精液中の細胞の濃度を判定するために用いることができる;
(11)キットは選択的に、子宮内精子注入(IUI)で用いるための精子を調製する前に、精子洗浄手段を更に含むことができ、精子に生存及び受精の良好な機会を与える;
(12)本発明のキット及び方法は、ヒトの精子を分析するだけではなく、設定された実験から離れた分野である動物の精子に対して用いることができる。
【0013】
従って、本発明の第1の態様においては、男性の生殖能を診断する方法が提供され、当該方法は、
(a)精子を含むサンプルと接触するときに測定可能な精子の特性のうちの少なくとも1つを変えることが可能な薬剤の近く(すなわち、直接接触なしに、)に、精子のサンプル(例えば、診断前に即時に、又は診断前に随時、対象から得られる)を配置するステップと、
(b)前記サンプル中の精子が前記薬剤の方に移動し、かつ接触するのに十分な時間を与えるステップと、
(c)前記サンプル中の直進運動性を有する精子の有無を判定するステップと;
を具え、前記薬剤の物理的特性のうちの少なくとも1つにおける変化は、直進運動性を有する精子の存在を示す。
【0014】
本方法は更に、いくつかの実施形態においては、直進運動性を有する精子の数を判定し、これによって男性の生殖能を診断するステップを具える。
【0015】
本発明のいくつかの実施形態においては、精子のサンプルは物理的な障壁の上に置かれ、物理的な障壁はサンプルと試薬との間を分離し、精子の通過を可能にする。サンプルは一般的には射精液、すなわち男性対象によって又は医学的操作を通して回収される精子を含む精液であるか、あるいは、非ヒトのオスの生殖能を評価すべき場合は、精子サンプルは当該技術分野で既知の方法によって取得してもよい。
【0016】
サンプルは更に、対象の精液又は精子を含む任意のサンプルであってもよい。このサンプルは、男性対象による能動的な射精を通して障壁上に直接的に、あるいは対象又は医療関係者によって収集された後に間接的に、配置(沈着)してもよい。
【0017】
精子サンプルは男性対象から直接的に、あるいは女性の膣又は人工膣から得られるサンプルであってもよく、前記サンプルは有効な分析用に十分な量である。いくつかの実施例においては、その量は0.3ml未満であり、他の実施例においては、その量は0.3mlより多い。
【0018】
更なる実施形態においては、本発明のキット及び方法で用いられる精子サンプルは新しい精子サンプルである。いくつかの他の実施形態においては、精子サンプルは保存された精液サンプルである。精液サンプルを保存する、例えば診断前に精液サンプルを凍結するための任意の保存方法を用いてもよい。解凍された精液サンプルは、当該技術分野で既知の、精子をろ過する任意の方法を用いて、精子を凍結する際に用いられた基質を除去するようにろ過してもよい。
【0019】
本発明のキットで用いられる物理的な障壁は、以下の特徴:
(i)信頼性のある無傷の障壁を提供するのに十分な粘性と、
(ii)そこを通る精子の運動性を促進するのに十分な流動性と、
(iii)精子が精子に又はキットの任意の成分に固着するのを防ぐ能力と、
(iv)精子に無害な効果と、
のうちの少なくとも1つを有するように選択される。
【0020】
一方の側面でサンプルと、他方の側面で試薬と接触する物理的な障壁によって、定性的及び/又は定量的分析のために用いられる試薬に隣接して又はその近くに、サンプルを配置することが可能になる。いくつかの実施形態においては、キットが少なくとも2の障壁を具える場合、障壁のうちの少なくとも一方はサンプルと接触し、及び/又は、他方の少なくとも1つは試薬と接触する。1以上の更なる障壁が更にあってもよい。障壁の材料のいずれかは、精子以外のサンプル成分の、そこを通る移動又は拡散を不可能にするように十分な容積又は厚さにすべきである。実際に、運動精子が障壁を通過する能力は能動的に前進する能力と共に為され、及び障壁の材料内に又はそこを通って受動的に分散する能力と共に為されないようにしなければならない。
【0021】
発明者が行ったように、前進性運動精子を含まない精漿は、その流体の成分のいずれもが障壁を通過しないため、試薬の測定可能な特性のうちの少なくとも1つにいずれの変化をも与えない。
【0022】
更には、物理的な障壁は、サンプル中の精子とも、あるいは精子を含むサンプルのいずれの成分とも相互作用せず、前記薬剤の測定可能な特性のうちの少なくとも1つに任意の変化を誘発しないものである。
【0023】
いくつかの実施形態においては、障壁は液状障壁である。液状障壁が用いられる場合、前記障壁は多様な量のポリビニルピロリドン(PVP)を含有する懸濁液を含んでもよく、油、水、又はその混合物に混合してもよい。一般的には、PVPの濃度は0.05ないし0.5mg/ml、いくつかの実施形態においては0.1ないし0.3mg/mlである。懸濁液は更に、分散剤、あるいはカルボキシルメチルセルロースナトリウム、ヒアルロナート、スルホコハク酸ジオクチルカルシウム、又は前記懸濁液に組み合わされ、かつ、本明細書中に記載のような本発明のキットで用いられる障壁の所望の特性を増加できる他の材料といった他の成分を含んでもよい。
【0024】
液状障壁は更に、鉱油といった油、グリセリン、プロピレングリコール、又は粘液を含んでもよい。いくつかの実施形態においては、障壁は鉱油を含むか、又は鉱油であり、あるいは組織の培養で用いるために好適なものである。
【0025】
他の実施形態においては、前記障壁が固体、半固体、又はゲル状の障壁であってもよい。
【0026】
障壁は単一成分の障壁又は複数成分の障壁であってもよく、例えば2の異なる油といった少なくとも2の異なる障壁の材料で構成され、各々は他の2の異なる(混合又は層化された)固体、油の障壁、及び固体の障壁等に非混和性であってもよい。多様な障壁の材料は、例えば、その粘性及び多孔性等によって相互に関連づけて構成してもよい。
【0027】
いくつかの実施形態においては、障壁は2の異なる材料から構成され;第1は鉱油層であり、第2はそこを通って精子の移動を可能にするように選択される寸法の孔を有する固体性の網といった固体基質である。固体性の網は障壁層と薬剤との間、又は障壁層の上方に配置してもよく、これによって、障壁の材料と精子を含むサンプルとの間を分離する。
【0028】
一般的には、固体基質が用いられる場合、50ないし200ミクロンの寸法の範囲にある孔を有するべきである。
【0029】
いくつかの実施形態においては、固体性の網は絹製の網である。このような1の商業上利用可能な網はNitrexである。
【0030】
他の実施形態においては、液体のPVP障壁(可変比率の水/油/PVPを含む)は、鉱油層と、又は固体基質と組み合わせてもよい。
【0031】
本発明の方法又はキットは、下に更に述べるように、薬剤の方向の障壁を通る運動性の低減を伴う非運動性の精子の移動を防ぐために、いずれか1つの更なる化学的又は物理的手段の使用又は存在を要求しない。以下に説明するように、障壁の材料及び/又は用いられる構成は実質的に直進運動性を有する精子のみの移動を可能にするのに十分であることが分かる。
【0032】
本発明の範囲内では、「薬剤(agent)」は精子と接触していずれか1つの測定可能な、例えば物理的な特性を変える化学物質である。このような物理的特性は以下の測定可能な特性:呈色、整合性、物理的状態(例えば、固体ないし液体)、いずれか1つの電気的特性、又はいずれか1つの測定可能な分光学的特性の間で選択してもよい。いくつかの実施形態においては、物理的特性の変化は肉眼によって認知可能である。いくつかの他の実施形態においては、物理的特性の変化は、分光学的に同定及び/又は測定される。
【0033】
一般的には、薬剤は、本方法又はキットで用いられる他の成分(すなわち、試薬)、例えば障壁の材料と接触して前記少なくとも1の測定可能な特性を変えない。
【0034】
いくつかの実施形態においては、物理的特性は呈色であり、精子と接触時の変化は、肉眼で同定及び/又は測定される。
【0035】
他の実施形態においては、薬剤は精子と接触してその呈色及び/又は濃淡(色相)を変える指示薬であり、呈色及び/又は濃淡の前記変化は定性的及び/又は定量的に測定可能であり、男性不妊症の診断及び直進運動性を呈する精子の割合の判定のうちの双方又は一方を可能にする。薬剤は、例えば、ブラッドフォード、ビウレット、及びローリーという名称で商業上利用可能な1以上の試薬であってもよい。これらのアッセイ試薬は商業上利用可能なものとして用いてもよく、当該技術分野で既知の手順によって調製してもよい。
【0036】
いくつかの実施形態においては、指示薬はブラッドフォードである。
【0037】
「ブラッドフォード(Bradford)」は、測定されるタンパク質のアミノ酸組成に依存する、サンプル中のタンパク質の濃度を測定するために用いられる分光学的分析アッセイである。本アッセイは染料クーマシーにおける光吸収の変化に基づくものである。ブラッドフォード試薬生成物はリン酸及びメタノール中のブリリアントブルーGからなる。今までは、精子の検出及び/又は定量化に対するブラッドフォードアッセイは報告されていなかった。
【0038】
精子と接触時のブラッドフォードの呈色の変化は一般的には、サンプル中の精子の有無と、運動精子の量(一般的には運動性の割合で測定可能)とに依存して、灰紫(grey−violate)色(又は任意の初期呈色)から青の色相(又は初期呈色に依存するその他の色相)になる。以下に示すように、呈色の変化は、本方法で用いられるサンプルの量から独立した、運動精子の数の指標となりうる。
【0039】
呈色の強度は、診断キットの一部となりうる事前較正された呈色基準と比較してもよい。従って、本発明の方法は更に、精子と接触する薬剤の呈色を、定性的及び/又は定量的な判定用の事前較正された呈色基準と比較するステップを具えてもよい。例えば、得られた呈色を事前較正された基準と比較することによって、男性対象は試験サンプル中の精子濃度が特定の容量中の精子の標準数より多いかどうか、例えば、2000万/mlより多い(陽性試験と見なされうる)か、2000万/ml未満(陰性試験と見なされうる)かを同定できる。
【0040】
他の実施形態においては、指示薬はビウレット試薬である。「ビウレット試薬(Biuret reagent)」は酒石酸カリウムナトリウムKNaC・4HOと共に水酸化カリウム(KOH)及び硫酸銅(II)(CuSO)で生成される。青色の試薬は精子の存在下で紫色/淡紅色に変化する。
【0041】
更なる実施形態においては、指示薬はローリー蛋白分析で用いられる試薬である。
【0042】
いくつかの更なる実施形態においては、サンプル中の精子の濃度は、精子組織に特異的なタンパク質抗原に特異的な第1の抗体を、前記抗体が前記サンプル中にある任意の抗原を結合可能にする条件下で用いることによって判定し、二次抗体の有無で前記結合の頻度を判定し、前記結合の発生頻度は前記サンプル中の精子濃度全体を表わす。本明細書中で用いられる抗体は、精子の中心小体の抗体、精漿のヘパリン結合性タンパク質に対する抗体、抗ダイニン(Dyenin:細胞質又は軸糸)抗体、及び精子のアクロソーム領域に結合する抗体といった、当該技術分野で既知の、任意の型の精子検出抗体であってもよい。
【0043】
抗体検出が用いられるいくつかの場合においては、精子サンプルは収集時に即時に凍結され、前記サンプル中に存在する抗原の分解を防ぐ。
【0044】
障壁を通る薬剤方向の精子の能動的な移動は、重力によって、例えば、薬剤の上部の位置にサンプルを配置することによって実現してもよく、これによって重力方向への精子の移動を可能にする。他の実施形態においては、移動は、精子が障壁を通過するように負荷された強制的な移動である。このような強制的な移動によって、横向きのキットの構成が可能となり、サンプルは指示薬剤の脇、例えば、指示薬剤の右又は左に配置され、垂直構造のように薬剤の上方である必要がなくなる。
【0045】
いくつかの実施形態においては、薬剤は薬剤方向の移動において精子を補助する少なくとも1の化学誘引物質の近くに配置してもよい。
【0046】
その態様の別のものにおいては、本発明の方法は更に、本明細書中で開示されるような生殖能の診断を、精子洗浄ステップと組合わせることを可能にし、これによって、生殖能の診断前に、又はそれと並行して、総ての精子が当該技術分野に既知のいずれか1つの手順(例えば、http://sharedjourney.com/iui/sperm_washing.html参照)によって洗浄され、IUI用の精子を調製し、これによって精子の生存及び受精のための良好な機会を与える。このような方法は、単一の元の射精液の量が2のサンプルに分割され、一方は生殖能の可能性をアッセイするのに用いられ、他方はIUI用に調製されるという利点を有する。
【0047】
当該技術分野で既知のように、精子洗浄は精液から精子細胞を分離し、死んだ、あるいはゆっくりと移動する精子、ならびに受精を低下させうる更なる化学物質を除去するのを助ける。従って、精子が一度洗浄されると、受胎を実現するためにIUIで用いることができる。
【0048】
精子洗浄手順は、子宮中で有害反応を生じさせうる、化学物質の除去のために精子洗浄溶液の使用を具えてもよい。用いられる精子洗浄溶液は、当該技術分野で既知の任意の精子洗浄溶液であってもよい。例えば、溶液は、デキストラン、イオジキサノール、スクロース、ポリマー、ナイコデンツ、又はポリビニルピロリドンといった密度勾配化合物、被覆シリカ、平衡塩類溶液、及び巨大分子を含んでもよい。
【0049】
本発明の更に別の態様においては、サンプルの受胎能を判定するための、あるいは2以上の精子サンプル間で受胎能を有するものを同定するための方法が提供され、当該方法は、
(i)男性対象(例えば、ドナー)から少なくとも1の精子サンプルを取得するステップであって、更なるサンプル(例えば、同一対象からの)が経時的に取得されうるステップと、
(ii)前記少なくとも1の精子サンプルの各々からアリコートを取得するステップと、
(iii)受胎能を判定するために、本発明の方法によって各アリコートを試験するステップと、
(iv)サンプルが受胎能を有するか否か、あるいは受胎能を有する前記少なくとも1の精子サンプルを判定するステップと、
を具える。
【0050】
いくつかの実施形態においては、前記方法は更に、本明細書中に記載のような精子洗浄ステップを具える。いくつかの更なる実施形態においては、受胎能を有する精子サンプル、すなわち、必要な数の運動精子を有するものは、授精、例えば、人工生殖技術(ART)を用いるために用いてもよい。
【0051】
本診断方法は精子サンプルの受胎能を検出するように精子サンプルをスクリーニングするために用いられる。スクリーニングはいくつかの実施形態においては、運動精子の数を判定することに基づく。本発明の方法を用いて、多数のこのようなサンプル間で、受胎能を有するサンプルを同定でき、あるいは経時的に個体の精子の質(例えば、運動精子の割合等)の変化(例えば、変動)を判定できる。
【0052】
従って、本発明は更に、不妊症の可能性のある男性を同定するか、あるいは、対象の生殖能に影響を与えうる事象、例えば、放射線治療、精管切除術、生殖器官の損傷、加齢、一般的な医学的状態、及び医師によって同定される他の事象などの後に、男性の生殖能を評価することに関する。本発明の方法、特にその定量的態様を用いて、サンプル中の運動精子の数を推定できる。例えば、1mlにつき約2000万未満の精子の素量化はサンプルが低い受胎能を有することを示すと取られ;1mlにつき約2000万より多く、かつ1mlにつき約4000万未満の精子はサンプルがボーダーラインの受胎脳を有することを示し;1mlにつき約4000万より多い精子はサンプルが高い受胎脳を有することを示しうる。
【0053】
更なる別の態様においては、本発明は多数の単一試薬及び装置を具える精子診断キットを提供し、いくつかの実施形態においては箱にパッケージングされる。男性の生殖能を判定するための方法、あるいは本明細書中で開示するその他の方法で用いるキットは、
(i)精子を含むサンプルを保持するための少なくとも1の容器と、
(ii)精子を含むサンプルと接触するときに測定可能な精子の特性のうちの少なくとも1つを変えることが可能な、少なくとも1の薬剤を含む第1の区画を第1の末端で有し、前記サンプルを保持するための第2の区画を第2の末端で有し、サンプル中の精子の通過を許容するが、前記サンプルと前記薬剤との間の直接的接触を許容しない方法で、前記第1の区画が、障壁によって前記第2の区画から分離されるレセプタクルと、
(iii)使用説明書と、
を具える。
【0054】
本明細書中で用いられるような用語「区画(compartment)」は、物理的手段によって他方から分離される任意のチャンバ、あるいは、いずれかの物理的手段によっても他の容積部から分離されないレセプタクルの容積部であってもよい。
【0055】
キットは更に、精子サンプルを保持し、前記サンプルを2以上の分画に分離するための少なくとも1の測定ユニットを具えてもよい。キットは更に、精子洗浄を可能にするように、精子洗浄溶液を保持する少なくとも1の更なるレセプタクルを具えてもよい。
【0056】
キットは更に、収集を促進するための(例えば、漏斗形の)精子分離手段を含んでもよい。
【0057】
キットは更に、上に詳述したような、サンプル中の精子の濃度を判定するための少なくとも1の事前較正された呈色基準を具えてもよい。
【0058】
本発明のキットは、診断を行う男性が操作してもよく、医師の関与がない。
【0059】
本発明の方法及びキットは更に、動物、特に、イヌ、雄ウシ、雄ウマ、ウサギ等といった、ヒトと同一次元の規模の精子の濃度とサイズを有する動物に対する生殖能を判定するのに有用となりうる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本発明を理解し、かつ実際にどのように実行しうるかを理解すべく、複数の実施形態は、添付の図面を引用して、限定しない実施例のみによって記載される。
【0061】
【図1】図1は本発明の一実施形態による一般的なキットの構成の概略的な表現である。
【図2】図2A及び2Bは、本発明のキットの2の実施形態の概略的な表現である。
【図3】図3は、本発明のキットの更なる実施形態の概略的な例示である。
【図4】図4は、本発明のキットの更なる別の実施形態の概略的な例示である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
本明細書中に開示される方法及びキットは、実行および動作が容易であり、約15分未満で完了しうる。本明細書中に述べたように、本方法及びキットは例えば、食事、睡眠、運動、喫煙又は他の発癌物質への曝露、アルコール又は薬物の摂取といった因子における変化の、その後に生成された精子サンプルの生殖能での効果をモニタリングするのに有用となりうる情報を提供する。
【0063】
更に本方法及びキットは、特定の男性の生殖能又は避妊治療が有効であるか否か、あるいは同一の男性から実質的に取得された精子が受胎を惹起する能力を有するか否かを示しうる。更に本方法及びキットは、特定の精子サンプルがARTでの使用に好適であるか否かを判定するのに有用となりうる。
【0064】
本発明のキットの1の例示的な実施形態が図1に例示される。例えば、指示薬12といった薬剤と、男性対象からの射精液(運動精子及び非運動精子の双方を含みうる)のサンプル16がその上にある障壁14とを保持するための容器10が配置される。容器10は図4の構成に例示されるように、異なる形状の土台を有してもよい。容器10は実質的に矩形形状を有するように例示されているが、精子サンプルを収集及び捕捉する際に男性のドナーを補助するように、漏斗様の構成といった、任意に選択される形状を有するように構成してもよい。容器10はガラス又はプラスチックといった任意の好適な生体適合性材料から生成してもよい。容器は任意の大きさであってもよい。精子サンプル16の容器10への添加時に、障壁層14の上部で運動精子は、容器10の底部に含まれる指示薬剤12の方向に、障壁14を通って移動し始める。十分な期間が経過した(約15分)後、かつ、サンプルが運動精子を含む場合、呈色の変化が指示薬剤12で観察される。任意の物理的仕切りによって分離されることはないが、容積部12、14、及び16の各々は本明細書中で区画と称される。
【0065】
容器は選択的に、例えばIUIの手順前に、死んだ、あるいはゆっくりと移動する精子、ならびに受精を低下させうる更なる化学物質を除去するための精子洗浄溶液Bを保持する更なるレセプタクルAを具えてもよい。これにより、精子サンプルは分割され、1の分画は生殖能の診断用に用いられる一方、別の分画は本明細書中に記載のように精子洗浄溶液を用いて洗浄されうる。精子洗浄ステップの後に、別の精子サンプルの分画は、IUIで用いるために貯蔵される更なるレセプタクルCに移動してもよい。本発明のいくつかの実施形態においてはレセプタクルAは、精子サンプルを配置するのに用いられるシリンジ又は使い捨てピペットを係合するために、頂部にねじ山の外面を有する。
【0066】
本発明の実行時に、より大きな又は小さなレセプタクルを用いてもよく、更には本発明の範囲内となりうる。これらの他の大きさによって、特定の診断目的及び用いられるIUI手順用の精子診断/洗浄を最大化するための、異なる量のサンプル、精子洗浄溶液、及び障壁の材料が許容される。
【0067】
代替的に図2Aに示されるように、精子サンプル16は容器10の底部に含まれる指示薬12を有する容器20に添加され、障壁層14の上に配置され、例えば、添加された精子サンプルから障壁の材料を保護する絹の層18によって境界をつけられる。別の絹の層18Aは更に、図2Bに示されるように指示薬剤12と障壁層14との間に配置されてもよい。
【0068】
本発明のキットの別の例示的な実施形態においては、図3に示されるように、容器30が容器の底部で指示薬剤12を保持するように構成され、障壁層14は指示薬剤12と、指示薬12と同一か、あるいは同一ではない別の指示薬剤12Aの別の容積部との間に配置され、別の障壁層は指示薬12と精子のサンプル16との間を分離する。前と同じく、障壁層14及び14Aの各々は、絹の層といった固体基質でその側面の一方及び双方で境界付けてもよい。
【0069】
上に示したように、容器は実質的に垂直又は水平であってもよく、他方の側面に対して一方で構成される異なる区画は、上述の実施形態のいずれか1つと同様の配列である。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
男性の生殖能を診断する方法であって、当該方法が、
(a)精子を含むサンプルと接触するときに測定可能な精子の特性のうちの少なくとも1つを変えることが可能な薬剤の近くに、精子のサンプルを配置するステップと、
(b)前記サンプル中の精子が前記薬剤の方に移動し、かつ接触するのに十分な時間を与えるステップと、
(c)前記サンプル中の直進運動性を有する精子の有無を判定するステップと;
を具え、前記薬剤の物理的特性のうちの少なくとも1つにおける変化が、直進運動性を有する精子の存在を示すことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記測定可能な精子の特性のうちの少なくとも1つを変えることが可能な薬剤が指示薬であることを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2に記載の方法において、前記指示薬がブラッドフォードであることを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項2に記載の方法において、前記指示薬がビウレット試薬であることを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項2に記載の方法において、前記指示薬がローリー蛋白分析によって取得されることを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記精子のサンプルが物理的な障壁の上に置かれ、前記物理的な障壁が前記サンプルと前記試薬との間を分離し、前記精子の通過を可能にすることを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項6に記載の方法において、前記障壁が液状障壁であることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項6に記載の方法において、前記障壁が固体、半固体、又はゲル状であることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法において、前記固体が50ないし200ミクロンの寸法の範囲の孔を有する固体の基質であることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項8又は9に記載の方法において、前記基質が絹製の網であることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項6ないし10のいずれか1項に記載の方法において、前記障壁が単一成分の障壁であることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項6ないし10のいずれか1項に記載の方法において、前記障壁が複数成分の障壁であることを特徴とする方法。
【請求項13】
請求項6、7、11、12のいずれか1項に記載の方法において、前記障壁が少なくとも1のポリビニルピロリドン、油、水、及びその混合物を含む懸濁液の形態であることを特徴とする方法。
【請求項14】
請求項13に記載の方法において、前記油が鉱油であることを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項6ないし14のいずれか1項に記載の方法において、前記障壁がグリセリン、プロピレングリコール及び粘液のうちの少なくとも1つを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項16】
請求項1ないし15のいずれか1項に記載の方法において、前記薬剤の物理的特性のうちの少なくとも1つにおける変化が、肉眼によって同定可能及び/又は測定可能であることを特徴とする方法。
【請求項17】
請求項1ないし16のいずれか1項に記載の方法において、当該方法が前記サンプル中の精子の濃度を判定するステップを更に具えることを特徴とする方法。
【請求項18】
請求項1ないし17のいずれか1項に記載の方法において、前記薬剤が少なくとも1の化学誘引物質の近くに配置されることを特徴とする方法。
【請求項19】
精子サンプルにおける受胎能を同定する方法であって、当該方法が、
(a)男性対象から少なくとも1の精子サンプルを取得するステップと、
(b)前記少なくとも1の精子サンプルの各々からアリコートを取得するステップと、
(c)受胎能を判定するために、請求項1ないし18のいずれか1項に記載の方法によって各アリコートを試験するステップと、
(d)受胎能を有する前記少なくとも1の精子サンプルを判定するステップと、
を具えることを特徴とする方法。
【請求項20】
請求項1ないし19のいずれか1項に記載の方法において、当該方法が精子洗浄ステップを更に具え、これによって前記診断前に、又は並行して、総ての精子が洗浄されることを特徴とする方法。
【請求項21】
男性の生殖能を判定するための方法で用いるキットであって、当該キットが、
(a)精子を含むサンプルを保持するための少なくとも1の容器と、
(b)精子を含むサンプルと接触するときに測定可能な精子の特性のうちの少なくとも1つを変えることが可能な、少なくとも1の薬剤を含む第1の区画を第1の末端で有し、前記サンプルを保持するための第2の区画を第2の末端で有し、液通を許容するが、前記サンプルと前記薬剤との間の直接的接触を許容しない方法で、前記第1の区画が、障壁によって前記第2の区画から分離されるレセプタクルと、
(c)使用説明書と、
を具えることを特徴とするキット。
【請求項22】
請求項21に記載のキットが、精子分離手段を更に具えることを特徴とするキット。
【請求項23】
請求項21に記載のキットが、前記サンプル中の精子の濃度を判定するための、少なくとも1の事前較正された呈色基準を更に具えることを特徴とするキット。
【請求項24】
請求項21ないし23のいずれか1項に記載のキットにおいて、当該キットが精子サンプルを保持し、前記サンプルを2以上の分画に分離するための少なくとも1の測定ユニットを更に具えることを特徴とするキット。
【請求項25】
請求項21ないし24のいずれか1項に記載のキットにおいて、当該キットが、精子洗浄溶液を保持することによって精子洗浄を可能にするために、少なくとも1の更なるレセプタクルを更に具えることを特徴とするキット。
【請求項26】
請求項1ないし20のいずれか1項に記載の方法、又は請求項21ないし25のうちのいずれか1項に記載のキットにおいて、前記サンプルが収集時に即時に凍結されることを特徴とする方法又はキット。
【請求項27】
本願明細書及び図面に開示される方法。
【請求項28】
本願明細書及び図面に開示されるキット。


【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2011−515677(P2011−515677A)
【公表日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−500349(P2011−500349)
【出願日】平成21年3月22日(2009.3.22)
【国際出願番号】PCT/IL2009/000320
【国際公開番号】WO2009/116051
【国際公開日】平成21年9月24日(2009.9.24)
【出願人】(510251084)
【氏名又は名称原語表記】ZANBAR,Tidhar
【Fターム(参考)】