説明

男性ホルモン様作用を呈する医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品および動物用飼料

【課題】男性ホルモン様作用を呈し、安全性および有効性を有する医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品または動物用料を得る。
【手段】6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを有効成分として含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする。前記有効成分はアブラナ科植物に含まれ、水とエタノールの混合溶剤によって抽出され、あるいはメタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、ヘキサンおよびジエチルエーテルの群から選択される一種または複数種の有機溶剤によって抽出される。また、この有効成分は化学合成によって得られるものであってもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は男性ホルモン様作用を呈する有効性および安定性を有する医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品または動物用試料に関する。
【背景技術】
【0002】
男性ホルモン様作用物質には強壮・精力減退の改善、筋力低下の改善、更年期障害の予防、脱毛の促進といった効果が期待されている。現在、このような作用を持つものとして、化学合成されたステロイド剤等が知られているが、近年食品由来で安全性および有効性が認められ、科学的根拠のあるものが求められている。
【0003】
6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートは、本ワサビ、西洋ワサビ等のアブラアナ科植物等に含まれる成分である。本ワサビ、西洋ワサビは、古来より食されたきた安全性の高い植物である。近年の研究により、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートに、抗菌活性(Onoら)、解毒代謝酵素誘導性(Morimitsuら、2002年)、がん転移抑制(Fukeら)、血小板凝集抑制(Morimitsuら、2002年)、炎症抑制(Utoら)、神経突起伸長作用(Shibataら)等の効果があることが、明らかにされている。しかしながら、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートが男性ホルモン様作用を有するという報告は全くない。
上記の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートに顕著な男性ホルモン様作用があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【非特許文献1】Ono et al., Biosci. Biotech. Biochem., 62, 363, 1998
【非特許文献2】Morimitsu et al., J. Biol. Chem., 277, 3456, 2002
【非特許文献3】Fuke et al., Cancer. Detect. Prev., 30, 174, 2006
【非特許文献4】Morimitsu et al., Mech. Ageing. Dev., 116, 125, 2000
【非特許文献5】Uto et al., Biochem. Pharmacol., 70, 1211, 2005
【非特許文献6】Shibata et al., J. Neurochem., 107, 1248, 2008
【非特許文献7】Kjaer et al., Acta chem., Scand., 11, 1298, 1957
【非特許文献8】伊奈ら、ニューフレーバー、25, 12, 1991
【非特許文献9】Jed W. Fahey et al., Phytochemistry, 56, 5, 2001
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は男性ホルモン様作用を呈し、安全性および有効性を有する医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品または動物用試料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述課題を解決するため、本発明の医薬品によれば、〔化1〕で示される6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを有効成分として含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする。
【0006】
【化1】

さらに、上述の課題を解決するため、本発明の医薬部外品によれば、前述〔化1〕のイソチオシアネートを有効成分として含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする。
【0007】
さらにまた、上述の課題を解決するため、本発明の化粧品によれば、前述〔化1〕のイソチオシアネートを有効成分として含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする。
【0008】
さらに、上述の課題を解決するため、本発明の飲食品によれば、前述〔化1〕のイソチオシアネートを有効成分として含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする。
【0009】
さらに、上述の課題を解決するため、本発明の動物用試料によれば、前述〔化1〕のイソチオシアネートを有効成分として含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明は、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを有効成分として含有することにより男性ホルモン様作用を呈した安定性ならびに有効性を有する医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品または動物用試料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に関わる6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートは、化学的な合成法により得ることができる。6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの化学合成法は具体的に説明すると以下のとおりである。
【0012】
原理的にはKjaer等の方法にしたがう。6−クロロヘキサノールを用い、CH3−SNaと還流して6−メチルチオヘキサノールを得る。これに塩化チオニル(SOCl2)を作用させて、6−クロロヘキシルメチルサルファイドを得る。次にガブリエル法を用いて、フタルイミドカリウム塩により、アミノ基を導入し、N−(6−メチルチオヘキシル)−フタルイミドを生成する。これにヒドラジン水和物を加えて還流し、6−メチルチオヘキシルアミンを得た後、チオカルボニルクロライドを作用させて、6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートを得る。
【0013】
さらに、前項で得られた6−メチルチオヘキシルイソチオシアネートを、m−クロロ過安息香酸でメチルチオ基を酸化し、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを得る(Morimitsuら、2002年)。
【0014】
また、本発明に関わる6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートは、アブラナ科植物等に含まれており、これらの植物からの溶媒抽出もしくは粉砕によって得ることができる。
【0015】
前項のアブラナ科植物は、本ワサビ(Wasabia japonica (Miq) Matsumura)、西洋ワサビ(Armoracia rusticana Gaert., Mey. Et Scherb.)、アレチナズナ(Alyssum alyssoides)、Desert alyssum(Alyssum desertorum)、学名Alyssum granatense、学名Alyssum minutum、Yellowtuft(Alyssum murale)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)、Drummond’s rockcress(Arabis drummondii)、ハタザオ(Arabis glabra)、Holboell’s rockcress(Arabis holboellii)、Fewleaf rockcress(Arabis sparsiflora)、学名Bornmuellera dieckii、Lenspod whitetop(Cardaria chalapensis)、Chalapa hoary-cress(Cardaria braba ssp. Chalapensis)、学名Christolea crassifolia、Spectacle pod(Dimorphocarpa wislizenii)、Callifornia shieldpod(Dithyrea californica)、Erysimum asperum(Western wallflower)、Swiss wallflower(Erysimum rhaeticum)、ハナダイコン(Hesperis matronalis)、学名Hesperis pendula、ゴンダソウ(Lunaria annua)、Perennila honesty(Lunaria rediviva)、African mustard(Malcolmia africana)、ヨルザキアラセイトウ(Matthiola bicornis)、Bicolor fanmustard(Nerisyrenia camporum)、Earleaf bladderpod(Lesquerella auriculata)、Duch river bladderpod(Lesquerella densipila)、Roughpod bladderpod(Lesquerlla lasiocarpa ssp. Lasiocarpa)、Nashville mustard(Lesquerella lescurii)、Lyrate bladderpod (Lesquerella lyrata)、Roundleaf bladderpod (Lesquerella ovalifolia ssp. ovalifolia)、Spring creek bladderpod(Lesquerella perforata)、Stones river bladderpod(Lesqucrella stonensis)、ニワナズナ(Lobularia maritima)、Horned hedge-mustard(Notoceras bicorne)、Pointtip twinpod(Physaris floribunda)等をさす(伊奈ら、Jed W. Faheyら)。
【0016】
なかでも本ワサビは、日本国内で入手しやすく、6−メチルスルフィニルへキシルイソチオシアネートが多く含まれている。本ワサビの部位別では、本ワサビ根茎、本ワサビ葉、本ワサビ茎順に多く含まれており、含量の多い本ワサビ根茎からの溶媒抽出が望ましい。また、各部位や各植物を単独で、あるいは任意の比で混合して使用することもできる。
【0017】
6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートは、水とエタノールの混合溶媒、もしくは、エタノール、メタノール、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、ジエチルエーテル等の有機溶媒による抽出処理から得ることができる。
【0018】
本発明に関わる男性ホルモン様作用剤を製造するには、上記の方法で製造した6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを用いることができ、常法にしたがって、公知の無毒性担体と組み合わせて製剤化すればよい。本発明に関わる男性ホルモン様作用剤は、種々の剤型での投与が可能であり、例えば、経口投与剤としては錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤等の固形剤、溶液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤、凍結乾燥製剤等が挙げられ、非経口投与剤としては、注射剤のほか、坐剤、噴霧剤、液剤、クリーム剤、パップ剤、プラスター剤、軟膏剤、塗布剤、経皮吸収剤等が挙げられ、これらの製剤は製剤上の常套手段により調製することができる。上記の無毒性担体としては、例えば、グルコース、乳糖、ショ糖、澱粉、マンニトール、デキストリン、脂肪酸グリセリド、ポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルデンプン、エチレングリコール、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アミノ酸、アルブミン、水、生理食塩水等が挙げられる。また、必要に応じて、安定化剤、滑剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤等の慣用の添加剤を適宜添加することができる。本発明に関わる男性ホルモン様作用剤において、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの投与量は、患者の年齢、体重、症状、疾患の程度、投与スケジュール、製剤形態等により、適宜選択・決定されるが、例えば、一日あたり0.00001〜0.2g/kg体重程度とされ、一日数回に分けて投与してもよい。
【0019】
また、本発明に関わる6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートは、男性ホルモン様作用を目的として、食品として摂取することもできる。本発明に関わる6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを含有することを特徴とする食品は、特定保健用食品、栄養機能食品、または健康食品として位置付けることができる。機能性食品としては、例えば、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートに適当な助剤を添加した後、慣用の手段を用いて、食用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル剤、ソフトカプセル剤、ペースト状等に形成したものを用いることができる。この食品は、そのまま食用に供してもよく、また種々の食品(例えばハム、ソーセージ、かまぼこ、ちくわ、パン、バター、粉乳、菓子等)に添加して使用したり、水、酒類、果汁、牛乳、清涼飲料水等の飲物に添加して使用してもよい。かかる食品の形態における本発明の6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの摂取量は年齢、体重、症状、疾患の程度、食品の形態等により適宜選択・決定されるが、例えば、一日あたり0.00001〜0.2g/kg体重程度とされる。
【0020】
以下に本発明をより詳細に説明するために実施例を挙げるが、本発明はこれらによって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0021】
6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの精嚢腺に対する作用
7週齢、雄のddYマウスの精巣を摘出し、翌日から一日一回、実施例1のコーン油に溶かした6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート溶液0.2ml(30mg/kg)を経口投与し、コントロール群にはコーン油0.2mlを経口投与した。また、同時に各群にテストステロン(2.0mg/ml)を腹腔内投与して精嚢腺を大きくさせた。10日間投与を行い、最終投与の翌日に解剖し、精嚢腺を湿重量で評価した。その結果を表1に示す。数値は平均値±標準誤差を示す。
【0022】
【表1】

【0023】
精嚢腺の重量が、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートの経口投与により明らかに増加した。
【0024】
腎臓の重量は、コントロール群と6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート30mg/kg投与群に差は見られなかった。また、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネート経口投与により、死亡、および/あるいは、体重減少したマウスは生じなかった。
【0025】
以上の結果から、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートがin vivoで経口投与によって、男性ホルモン様作用を示し、かつ、毒性を示さないことがあきらかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明により、6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを有効成分とする男性ホルモン様作用を目的とした医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品または動物用試料を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔化2〕で示される6−メチルスルフィニルヘキシルイソチオシアネートを有効成分として含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする医薬品。
【化2】

【請求項2】
請求項1の有効成分がアブラナ科植物に含まれる請求項1に記載の医薬品。
【請求項3】
請求項1の有効成分が水とエタノールの混合溶剤によって抽出される請求項1に記載の医薬品。
【請求項4】
請求項1の有効成分がメタノール、エタノール、酢酸エチル、アセトン、ヘキサン、およびジエチルエーテルの群から選択される一種または複数種の有機溶剤によって抽出される請求項1に記載の医薬品。
【請求項5】
請求項1の有効成分が化学的合成により得られる請求項1に記載の医薬品。
【請求項6】
請求項1の有効成分を含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする医薬部外品。
【請求項7】
請求項1の有効成分を含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする化粧品。
【請求項8】
請求項1の有効成分を含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする飲食品。
【請求項9】
請求項1の有効成分を含有し、男性ホルモン様作用を呈することを特徴とする動物用試料。


























【公開番号】特開2010−184892(P2010−184892A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−29687(P2009−29687)
【出願日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【出願人】(591011007)金印株式会社 (20)
【出願人】(300076688)有限会社湘南予防医科学研究所 (54)
【Fターム(参考)】