説明

画像処理装置、方法およびプログラム

【課題】ループ状の部分を含む血管において、分枝元の枝から分枝した部分血管における血流の方向を特定する。
【解決手段】 画像処理装置1に、グラフ構造を基準点Sから下流側に辿っていく経路上に位置する分枝ノードBにおいて、分枝元の枝E1上に位置する複数のノードP11〜P15の位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBに向かう側の向きを有するように規定された第1のベクトルと、枝E1から分枝した枝E3上に位置する複数のノードP31〜P35の位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBから離れる側の向きを有するように規定された第2のベクトルとがなす角θを用いて、枝E3における血流の方向が分枝ノードBから離れる方向である尤度を算出し、算出された尤度を用いてその枝E3における血流の方向が分枝ノードBから離れる方向であるか分枝ノードBに向かう方向であるかを判定する判定手段30を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ループ状の部分を含む血管において、分枝元の枝から分枝した部分血管における血流の方向を特定する画像処理装置、方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
肝臓・肺などの人体の様々な臓器において手術を行う際には、手術をよりスムーズに進められるようにするため、術前に手術をどのように行うかを綿密に計画することが重要であり、手術の計画を立てる際には対象の臓器における血管の走行および各血管における血流の方向を正確に把握しておくことが必要とされている。
【0003】
特許文献1には、特定の臓器において腫瘍を含む患部を切除する手術を行う際にその切除すべき領域を適切に決定できるようにするため、血管における血流の方向はその血管を表す木構造を起始部(根)から離れる側に辿っていく方向であるとの認識のもと、画像データから対象の血管が撮影された木構造の領域を抽出し、抽出された領域を画像表示装置上に表示させ、さらに、表示された領域上の任意の位置を指定する操作者の入力に応じて、その指定された位置から末梢部までの支配領域を特定し、他の領域と識別可能に表示することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4688361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、対象の血管が心臓、肝臓、肺、腎臓、胃等の木構造を有する血管であれば、その構造を起始部から離れる側に辿っていく経路は常に一意であることから、その辿っていく方向をその血管における血流の方向とする上記特許文献1に記載の方法により血流の方向を特定することが可能であるが、対象の血管がたとえば図7に示すようなループ状の部分を含む血管である場合、その構造を起始部から離れる側に辿っていく経路は複数通り存在し、単純にその辿っていく方向を血流の方向として特定する上記特許文献1に記載の方法では、血流の方向を正しく特定することができないという問題がある。なお、図7は大腸の血管を示すものであって、図中点線で囲んでいる部分A等にループ状の部分が存在する。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑み、ループ状の部分を含む血管において、分枝元の枝から分枝した部分血管における血流の方向を特定することができる画像処理装置、方法およびプログラムを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像処理装置は、入力装置による操作者の入力に応じて、予め取得しておいたループ状の部分を含む血管の構造を表すグラフ構造上に基準点を設定する基準点設定手段と、グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝において、基準点より血流の下流側を決定する下流側決定手段と、グラフ構造の前記基準点から前記決定された血流の下流側に辿っていく経路上に位置する任意の分枝ノードにおいて、分枝元の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードに向かう側の向きを有するように規定された第1のベクトルと、分枝元の枝から分枝したいずれか一本の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードから離れる側の向きを有するように規定された第2のベクトルとがなす角θ(0<θ<180°)を用いて、その一本の枝における血流の方向が分枝ノードから離れる方向である尤度を角θが小さいほど大きい値となるように算出し、算出された尤度を用いてその一本の枝における血流の方向が分枝ノードから離れる方向であるか分枝ノードに向かう方向であるかを判定する判定手段とを備えたことを特徴とする。
【0008】
ここで、グラフ構造とは、ノード群とノード間の連結関係を表すエッジ群で構成されるものをいう。
【0009】
上記本発明の画像処理装置において、判定手段は、前記尤度を、分枝元の枝上に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて規定された第1の代表値が、前記一本の枝上に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて規定された第2の代表値より大きいほど大きい値となるように算出するものであってもよい。ここで、血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて規定された代表値(第1の代表値、第2の代表値)というのは、血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径の全体的な大きさが大きくなればなるほど大きくなるような値を意味する。その典型的な例として平均値、最大値、最小値等がある。
【0010】
この場合、尤度Lの算出は、たとえば下記式(1)により行うことができる。下記式(1)において、V1は第1のベクトルを表し、V2は第2のベクトルを表し、F(V1,V2)は第1のベクトルV1と第2のベクトルV2がなす角θが小さいほど大きい値となる関数を表す。R1は第1の代表値を表し、R2は第2の代表値を表し、G(R1,R2)は第1の代表値R1から第2の代表値R2を減算した差(あるいは、第2の代表値R2に対する第1の代表値R1の比)が大きいほど大きい値となる関数を表す。また、W1,W2は上記各関数を重み付けする係数である。
【数1】

【0011】
本発明の画像処理装置において、判定手段は、第1の代表値や第2の代表値は用いることなく、第1のベクトルV1と第2のベクトルV2がなす角θの情報のみに基づいて前記判定を行うものである場合、角θそのものを尤度として使用して前記判定を行うことができる。たとえば、判定手段は、角θが所定の閾値より大きい場合、前記一本の枝における血流の方向が分枝ノードに向かう方向であると判定し、角θが閾値を超えない場合、前記一本の枝における血流の方向が分枝ノードから離れる方向であると判定することができる。
【0012】
また、本発明の画像処理装置において、判定手段は、分枝元の枝から分枝した複数の枝の各々について前記尤度を用いた判定を行った結果、複数の枝における血流の方向が全て分枝ノードに向かう方向であると判定された場合、複数の枝の中でその枝について算出された前記尤度が最も大きい一本の枝における血流の方向は分枝ノードから離れる方向であると判定するものであってもよい。
【0013】
また、本発明の画像処理装置において、下流側決定手段は、基準点の前後に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて、基準点の両側のうち血管の径の平均値が他方より小さい方を血流の下流側として決定するものであってもよいし、グラフ構造の基準点が位置する枝をディスプレイ等の表示装置上に表示させ、基準点の両側のうちいずれか一方を選択するマウスやキーボード等の入力装置による操作者の入力を受け付けて、その選択された方を血流の下流側として決定するものであってもよい。
【0014】
また、本発明の画像処理装置は、血管を表す画像の表示態様として上流側表示を選択する操作者による入力に応じて、血管を表す画像中の血管を表す領域全体のうちグラフ構造の前記設定された基準点より上流側に位置する部分に対応する部分領域を、他の領域よりも操作者に認識しやすい態様で画像表示装置上に表示させるとともに、表示態様として下流側表示を選択する操作者による入力に応じて、血管を表す画像中の血管を表す領域全体のうちグラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝の基準点より下流側の部分と判定手段によりその血流の方向が分枝ノードから離れる方向であると判定された枝の部分に対応する部分領域を、他の領域よりも操作者に認識しやすい態様で画像表示装置上に表示させる表示制御手段を備えたものであってもよい。
【0015】
ここで、血管を表す領域全体のうち特定の部分領域を他の領域よりも操作者に認識しやすい態様で画像表示装置上に表示させる具体例としては、たとえば、血管を表す領域全体のうち特定の部分領域のみを画像表示装置上に表示させて他の領域は表示対象から除外すること、特定の部分領域を目立つ色で着色した血管を表す領域全体を画像表示装置上に表示させること等がある。
【0016】
また、本発明の画像処理装置は、血管を表す画像中の血管を表す領域全体のうち、グラフ構造の前記設定された基準点より上流側に位置する部分に対応する第1の部分領域と、グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝の下流側の部分と判定手段によりその血流の方向が分枝ノードから離れる方向であると判定された枝の部分に対応する第2の部分領域とを互いに区別可能に異なる色で画像表示装置上に表示させる表示制御手段を備えたものであってもよい。
【0017】
この表示制御手段は、血管を表す画像中の血管を表す領域全体のうち、判定手段によりその血流の方向が分枝ノードに向かう方向であると判定された枝の部分に対応する第3の部分領域を、第1の部分領域および第2の部分領域と区別可能に異なる色で画像表示装置上に表示させるものであってもよい。
【0018】
また、本発明の画像処理方法は、上記画像処理装置の各手段が行う処理を、少なくとも1台のコンピュータにより実行する方法である。
【0019】
本発明の画像処理プログラムは、上記画像処理方法を少なくとも1台のコンピュータに実行させるプログラムである。このプログラムは、CD−ROM,DVDなどの記録メディアに記録され、またはサーバコンピュータに付属するストレージやネットワークストレージにダウンロード可能な状態で記録されて、ユーザに提供される。
【発明の効果】
【0020】
本発明の画像処理装置、方法およびプログラムによれば、入力装置による操作者の入力に応じて、予め取得しておいたループ状の部分を含む血管の構造を表すグラフ構造上に基準点を設定し、グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝において、基準点より血流の下流側を決定する下流側決定手段と、グラフ構造の前記基準点から前記決定された血流の下流側に辿っていく経路上に位置する任意の分枝ノードにおいて、分枝元の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードに向かう側の向きを有するように規定された第1のベクトルと、分枝元の枝から分枝したいずれか一本の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードから離れる側の向きを有するように規定された第2のベクトルとがなす角θ(0<θ<180°)を用いて、その一本の枝における血流の方向が分枝ノードから離れる方向である尤度を角θが小さいほど大きい値となるように算出し、算出された尤度を用いてその一本の枝における血流の方向が分枝ノードから離れる方向であるか分枝ノードに向かう方向であるかを判定することにより、ループ状の部分を含む血管において、分枝元の枝から分枝した部分血管における血流の方向を特定することができる。
【0021】
上記本発明の画像処理装置、方法およびプログラムにおいて、判定処理が、前記尤度を、分枝元の枝上に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて規定された第1の代表値が、前記一本の枝上に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて規定された第2の代表値より大きいほど大きい値となるように算出するものである場合には、ループ状の部分を含む血管において、分枝元の枝から分枝した部分血管における血流の方向をより正確に特定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態に係る画像処理装置の概略構成を示す図
【図2】判定手段による判定処理を説明するための図
【図3】判定手段による第1および第2のベクトルの取得方法を説明するための図
【図4】判定手段による第1および第2の代表値の取得方法を説明するための図
【図5】判定手段による判定結果の一例を示す図
【図6】表示制御手段により表示される下流側表示モードによる画像の一例を示す図
【図7】ループ状の部分を含む血管の一例を示す図するための図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の画像処理装置および方法ならびにプログラムの実施形態について説明する。図1は本発明の実施形態となる画像処理装置1の概略構成図である。なお、図1のような画像処理装置1の構成は、補助記憶装置に読み込まれた画像処理プログラムをコンピュータ上で実行することにより実現される。このとき、この画像処理プログラムは、CD−ROM等の記憶媒体に記憶され、もしくはインターネット等のネットワークを介して配布され、コンピュータにインストールされる。図1の画像処理装置1は、たとえば医者等が手術の計画を立てるため、大腸の血管などループ状の部分を含む血管を表す画像を表示させて、血管の走行や血流の方向を観察する場合に、その観察に適した表示を提供するものであって、グラフ抽出手段10、基準点設定手段20、下流側決定手段30、判定手段40、表示制御手段50を備えている。以下、本実施の形態では、本発明におけるループ状の部分を含む血管が大腸の血管である場合について説明する。
【0024】
グラフ抽出手段10は、大腸の血管が表された3次元画像Vから血管を表すグラフ構造を抽出する。具体的には、まず、3次元画像Vから大腸の血管の画像的特徴および/または構造的特徴を有する領域を抽出し、その領域を細線化して得られた細線を分岐点および所定の距離などで分割することにより仮のグラフ構造を生成する。ここで、3次元画像Vは、データ記憶手段に記憶されたたとえばCT装置、MRI装置、超音波診断装置等により取得された多数の2次元画像からなるものである。
【0025】
次に、生成された仮のグラフ構造を構成する複数の候補点(ノード)の0中から、形状モデル記憶手段DBに記憶された大腸の血管の形状モデルに一致もしくは最も類似する構造を形成する複数の候補点を、形状モデルを構成する複数の教師ラベル(ノード)の各々に対応する対応点として選択し、選択された複数の対応点を形状モデルに略一致するように接続することによりグラフ構造を生成し、抽出する。ここで、形状モデルは、大腸の血管の一般的な形状を表すグラフ構造であって、たとえば多数のサンプル画像を学習することによって取得することができる。
【0026】
なお、上記対応点の選択は、たとえば下記式(2)で表すコスト関数Fの最小化を達成する最適解(対応関係)を求めることにより行う。ここで、Rは許容解xにおける候補点と教師ラベルの対応づけの集合を表し、θaは集合Rに属する任意の対応づけaに対するコストを表し、θabは、集合Rに属する2つの対応づけaとbの組み合わせに対するコストを表す。
【数2】

【0027】
基準点設定手段20は、ディスプレイ等の画像表示装置3上に表示されている3次元画像Vに対して、その画像表示装置上の任意の位置を指定するマウスやキーボード等の入力装置2による操作者の入力に応じて、その指定された位置に対応する3次元画像V上の位置を特定し、特定された3次元画像V上の位置が前記抽出されたグラフ構造上に有る場合にはその位置に、特定された位置がグラフ構造上にない場合にはその特定された位置から最も近いグラフ構造上の位置に、基準点Sを設定する。
【0028】
下流側決定手段30は、グラフ構造の前記設定された基準点Sの前後に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて、基準点の両側のうち血管の径の平均値が他方より小さい方を血流の下流側として決定するものである。
【0029】
判定手段40は、グラフ構造を基準点Sから前記決定された血流の下流側に辿っていく経路上に位置する任意の分枝ノードBにおいて、分枝元の枝から分枝した枝のそれぞれにおける血流の方向を判定するものであって、下記式(1)により、その各枝における血流の方向が分枝ノードBから離れる方向である尤度Lを算出し、算出された尤度Lが所定の閾値より大きい場合、その枝における血流の方向が分枝ノードBから離れる方向であると判定し、尤度Lが閾値を超えない場合、その枝における血流の方向が分枝ノードBに向かう方向であると判定する。
【数3】

【0030】
上記式(1)において、V1は分枝元の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBに向かう側の向きを有する第1のベクトルを表し、V2は分枝元の枝から分枝した枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBから離れる側の向きを有する第2のベクトルを表し、F(V1,V2)は第1のベクトルV1と第2のベクトルV2がなす角θが小さいほど大きい値となる関数を表す。
【0031】
また、R1は分枝元の枝上に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて規定された代表値(たとえば、平均値)表し、R2は分枝元の枝から分枝した枝上に位置する複数のノードに対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径に基づいて規定された代表値(たとえば、平均値)表し、G(R1,R2)は第1の代表値R1から第2の代表値R2を減算した差が大きいほど大きい値となる関数を表す。また、W1,W2は上記各関数を重み付けする係数である。
【0032】
なお、前記閾値としては、第1のベクトルV1と第2のベクトルV2がなす角θが90°以下で、かつ、第1の代表値が第2の代表値よりも大きい場合に算出される尤度Lの値よりは小さく、第1のベクトルV1と第2のベクトルV2がなす角θが90°より大きく、かつ、第1の代表値が第2の代表値よりも小さい場合に算出される尤度Lの値よりは大きい値を設定する。
【0033】
たとえば、図2に示す分枝元の枝E1から分枝した枝E2における血流の方向を判定する際、図3に示すように、分枝元の枝E1上に位置する5つのノードP11〜P15の位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBに向かう側の向きを有する第1のベクトルV1を取得するとともに、枝E2上に位置する5つのノードP21〜P25の位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBから離れる側の向きを有する第2のベクトルV2を取得し、それらの第1のベクトルV1および第2のベクトルV2を関数Fに渡して上記式(1)の第1項の値を求める。このとき、第1項の値は第1のベクトルV1および第2のベクトルV2がなす角βが小さいほど大きい値となる。
【0034】
また、図4に示すように、分枝元の枝E1上に位置する5つのノードP11〜P15に対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径R11〜R15の平均値を第1の代表値R1として取得するとともに、枝E2上に位置する5つのノードP21〜P25に対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径R21〜R25の平均値を第2の代表値R2として取得し、それらの第1の代表値R1および第2の代表値R2を関数Gに渡して上記式(1)の第2項の値を求める。このとき、血管の径は、3次元画像Vから大腸の血管の画像的特徴および/または構造的特徴を有する血管領域RVを求め、その走行方向に直行する断面の径を求めることにより取得することができる(特開2010−220742公報参照)。そして、それらの各求められた第1項および第2項の値を足し合わせて尤度Lを算出し、算出された尤度Lを前記閾値と比較して、その枝E2における血流の方向を判定する。
【0035】
また、図2に示す分枝元の枝E1から分枝した枝E3における血流の方向を判定する際には、図3に示すように、分枝元の枝E1上に位置する5つのノードP11〜P15の位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBに向かう側の向きを有する第1のベクトルV1を取得するとともに、枝E3上に位置する5つのノードP31〜P35の位置に基づく方向を有し、かつ、分枝ノードBから離れる側の向きを有する第2のベクトルV3を取得し、それらの第1のベクトルV1および第2のベクトルV3を(式中の変数V1に第1のベクトルV1が代入され、変数V2に第2のベクトルV3が代入されるように)関数Fに渡して上記式(1)の第1項の値を求める。このとき、第1項の値は第1のベクトルV1および第2のベクトルV3がなす角αが小さいほど大きい値となる。
【0036】
また、図4に示すように、分枝元の枝E1上に位置する5つのノードP11〜P15に対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径R11〜R15の平均値を第1の代表値R1として取得するとともに、枝E3上に位置する5つのノードP31〜P35に対応する血管上の複数の位置それぞれにおける血管の径R31〜R35の平均値を第2の代表値R3として取得し、それらの第1の代表値R1および第2の代表値R3を(式中の変数R1に第1の代表値R1が代入され、変数R2に第2の代表値R3が代入されるように)関数Gに渡して上記式(1)の第2項の値を求める。そして、それらの各求められた第1項および第2項の値を足し合わせて尤度Lを算出し、算出された尤度Lを前記閾値と比較して、その枝E2における血流の方向を判定する。
【0037】
また、判定手段40は、分枝元の枝から分枝した複数の枝の各々について前記尤度Lを用いた判定を行った結果、複数の枝における血流の方向が全て分枝ノードBに向かう方向であると判定された場合、複数の枝の中でその枝について算出された前記尤度Lが最も大きい一本の枝における血流の方向は分枝ノードBから離れる方向であると判定する機能を備えている。
【0038】
たとえば、図2に示す分枝元の枝E1から分枝した2本の枝E2,E3の各々について前記尤度Lを用いた判定を行った結果、両方の枝における血流の方向が全て分枝ノードBに向かう方向であると判定された場合、それらの枝E2,E3のうちその枝について算出された尤度Lが大きい方の枝における血流の方向は分枝ノードBから離れる方向であると判定する。
【0039】
表示制御手段50は、ディスプレイ等の画像表示装置3における3次元画像V等の血管を表す画像の表示を制御するものであって、たとえば図5に示すような判定手段40による前記判定の結果に基づいて、画像中の大腸の血管を表す領域を、前記グラフ構造の基準点Sより上流側に位置する部分に対応する第1の部分領域RUと、グラフ構造の基準点Sが位置する枝の基準点Sより下流側の部分と判定手段40によりその血流の方向が分枝ノードBから離れる方向であると判定された枝の部分に対応する第2の部分領域RDと、判定手段40によりその血流の方向が分枝ノードBに向かう方向であると判定された枝の部分に対応する第3の部分領域RBの3つの領域に区分し(図6参照)、第1の部分領域RUと第2の部分領域RDの2つの領域を、あるいは、第1の部分領域RUと第2の部分領域RD、および第3の部分領域RBの3つの領域を互いに区別可能に異なる色で表した画像を画像表示装置3上に表示させる。
【0040】
また、表示制御手段50は、画像中の大腸の血管を表す領域全体のうち、第1の部分領域RUを第2の部分領域RDや第3の部分領域RBよりも操作者に認識しやすい態様で表示させる上流側表示モードと、第2の部分領域RDを第1の部分領域RUや第3の部分領域RBよりも操作者に認識しやすい態様で表示させる下流側表示モードとを有し、マウスやキーボード等の入力装置2によりそのいずれか一方の表示モードを選択する操作者の入力に応じて、その選択された表示モードによる画像を画像表示装置3上に表示させる機能を備えている。たとえば、下流側表示モードを選択する操作者による入力を受けて、図6に示すような、第1の部分領域RUや第3の部分領域RBは表示対象から除外し、第2の部分領域RDのみを表示した画像を画像表示装置3上に表示させる。
【0041】
さらに、表示制御手段50は、第2の部分領域RDと、第3の部分領域RBの分枝ノードBから所定の範囲内に位置する部分領域との集合である第4の部分領域を、他の領域よりも操作者に認識しやすい態様で表示させる機能も備えている。この第4の部分領域は、基準点Sから下流側の血管部分を切除する切除手術における切除すべき領域に対応しており、第4の部分領域が他の血管を表す領域と接続している位置は、切除手術を行う際に血流をクリップで止めておくべき位置に対応しているため、このような表示を提供することにより、医者等の操作者による切除手術を計画作業を支援し、その作業効率を向上させることができる。
【0042】
上記構成により、画像処理装置1においては、まず、操作者による要求に応じてデータ記憶手段に記憶されている3次元画像Vが読み出され、グラフ抽出手段10が3次元画像Vから血管を表すグラフ構造を抽出し、表示制御手段50が3次元画像Vを画像表示装置3に表示させる。その後、基準点設定手段20が3次元画像V上の任意の位置を指定する操作者の入力を受け付け、その入力により指定された位置に対応するグラフ構造上の位置に基準点Sを設定する。
【0043】
その後、後述する方法により基準点Sが位置する枝における血流の方向が特定されると、判定手段40が、グラフ構造を基準点Sから下流側に辿りながらその経路上に位置する分枝ノードにおいて順次、分枝元の枝から分枝した枝のそれぞれにおける血流の方向を判定する。判定手段40は、その判定により血流の方向が分枝ノードから離れる方向である枝を新たに特定し、その枝を通るように前記経路を延長させ、延長された経路上に位置する分枝ノードにおいてさらに判定を行う、という処理を繰り返し行う。これにより、基準点Sからグラフ構造の末梢部までの経路上に位置する全ての分枝ノードにおいて、分枝元の枝から分枝した枝のそれぞれにおける血流の方向を判定する。
【0044】
その後、表示制御手段50が、判定手段40による判定の結果に基づいて、画像中の血管を表す領域を第1の部分領域RU、第2の部分領域RDおよび第3の部分領域RBの3つの領域に区分し、たとえばそれらの領域を互いに区別可能に異なる色で表した画像など、初期表示として予め設定しておいた表示態様による画像を画像表示装置3上に表示させる。表示制御手段50は、表示中の画像とは異なる表示態様による画面表示を選択する操作者による入力がなされたかをさらに検出し、当該入力がなされた場合には、その選択された表示モードによる画像に表示を切り替える。
【0045】
ここで、基準点Sが位置する枝における血流の方向は、基準点Sから前後にそれぞれ5点〜10点のノードにおける血管の径を調べて、血管の径が細くなっていく方向をその枝における血流の方向として特定するようにしてもよいし、操作者にその枝のどちらか上流かの情報を入力させ、その情報に基づいて特定するようにしてもよい。
【0046】
なお、上記実施の形態では、判定手段40が分枝の角度と血管の径の両方の情報に基づいて前記判定を行うものである場合について説明したが、分枝の角度の情報のみに基づいて前記判定を行うようにしてもよい。たとえば図2に示す分枝元の枝E1から分枝した枝E2における血流の方向を判定する際、第1のベクトルV1と第2のベクトルV2とがなす角βが90度より大きい場合、その枝E2における血流の方向が分枝ノードBに向かう方向であると判定し、角θが90度を超えない場合、その枝E2における血流の方向が分枝ノードから離れる方向であると判定することができる。
【0047】
また、上記実施の形態では、グラフ抽出手段10が3次元画像Vを画像解析することにより血管を表すグラフ構造を直接抽出するものである場合について説明したが、そのグラフ構造が既に抽出されて記録媒体に記録されている場合には、別途抽出するまでもなく、その記録媒体からグラフ構造のデータを読み出して以降の処理に提供すればよい。
【符号の説明】
【0048】
1 画像処理装置
10 グラフ抽出手段
20 基準点設定手段
30 下流側決定手段
40 判定手段
50 表示制御手段
S 基準点
B 分枝ノード
E1 分枝元の枝
E2,E3 分枝した枝
V1 第1のベクトル
V2,V3 第2のベクトル
RU 第1の部分領域
RD 第2の部分領域
RM 第3の部分領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力装置による操作者の入力に応じて、予め取得しておいたループ状の部分を含む血管の構造を表すグラフ構造上に基準点を設定する基準点設定手段と、
前記グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝において、前記基準点より血流の下流側を決定する下流側決定手段と、
前記グラフ構造の前記基準点から前記決定された血流の下流側に辿っていく経路上に位置する任意の分枝ノードにおいて、分枝元の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、前記分枝ノードに向かう側の向きを有するように規定された第1のベクトルと、前記分枝元の枝から分枝したいずれか一本の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、前記分枝ノードから離れる側の向きを有するように規定された第2のベクトルとがなす角θを用いて、前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向である尤度を前記なす角θが小さいほど大きい値となるように算出し、該算出された尤度を用いて前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向であるか前記分枝ノードに向かう方向であるかを判定する判定手段と
を備えたことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記判定手段が、前記尤度を、前記分枝元の枝上に位置する複数のノードに対応する前記血管上の複数の位置それぞれにおける前記血管の径に基づいて規定された第1の代表値が、前記一本の枝上に位置する複数のノードに対応する前記血管上の複数の位置それぞれにおける前記血管の径に基づいて規定された第2の代表値より大きいほど大きい値となるように算出するものであることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記判定手段が、前記分枝元の枝から分枝した複数の枝の各々について前記尤度を用いた判定を行った結果、前記複数の枝における血流の方向が全て前記分枝ノードに向かう方向であると判定された場合、前記複数の枝の中でその枝について算出された前記尤度が最も大きい一本の枝における血流の方向は前記分枝ノードから離れる方向であると判定するものであることを特徴とする請求項1または2記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記判定手段が、前記角θが所定の閾値より大きい場合、前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードに向かう方向であると判定し、前記角θが前記閾値を超えない場合、前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向であると判定するものであることを特徴とする請求項1記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記下流側決定手段が、前記基準点の前後に位置する複数のノードに対応する前記血管上の複数の位置それぞれにおける前記血管の径に基づいて、前記基準点の両側のうち前記血管の径の平均値が他方より小さい方を前記血流の下流側として決定するものであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記血管を表す画像の表示態様として上流側表示を選択する操作者による入力に応じて、前記血管を表す画像中の前記血管を表す領域全体のうち前記グラフ構造の前記設定された基準点より上流側に位置する部分に対応する部分領域を、他の領域よりも前記操作者に認識しやすい態様で前記画像表示装置上に表示させるとともに、前記表示態様として下流側表示を選択する操作者による入力に応じて、前記血管を表す画像中の前記血管を表す領域全体のうち前記グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝の前記基準点より下流側の部分と前記判定手段によりその血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向であると判定された枝の部分に対応する部分領域を、他の領域よりも前記操作者に認識しやすい態様で前記画像表示装置上に表示させる表示制御手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記血管を表す画像中の前記血管を表す領域全体のうち、前記グラフ構造の前記設定された基準点より上流側に位置する部分に対応する第1の部分領域と、前記グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝の下流側の部分と前記判定手段によりその血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向であると判定された枝の部分に対応する第2の部分領域とを互いに区別可能に異なる色で前記画像表示装置上に表示させる表示制御手段を備えたことを特徴とする請求項1から5のいずれか1項記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記表示制御手段が、前記血管を表す画像中の前記血管を表す領域全体のうち、前記判定手段によりその血流の方向が前記分枝ノードに向かう方向であると判定された枝の部分に対応する第3の部分領域を、前記第1の部分領域および前記第2の部分領域と区別可能に異なる色で前記画像表示装置上に表示させるものであることを特徴とする請求項7記載の画像処理装置。
【請求項9】
入力装置による操作者の入力に応じて、予め取得しておいたループ状の部分を含む血管の構造を表すグラフ構造上に基準点を設定する処理と、
前記グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝において、前記基準点より血流の下流側を決定する処理と、
前記グラフ構造の前記基準点から前記決定された血流の下流側に辿っていく経路上に位置する任意の分枝ノードにおいて、分枝元の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、前記分枝ノードに向かう側の向きを有するように規定された第1のベクトルと、前記分枝元の枝から分枝したいずれか一本の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、前記分枝ノードから離れる側の向きを有するように規定された第2のベクトルとがなす角θを用いて、前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向である尤度を前記なす角θが小さいほど大きい値となるように算出し、該算出された尤度を用いて前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向であるか前記分枝ノードに向かう方向であるかを判定する処理と
を少なくとも1台のコンピュータにより実行することを特徴とする画像処理方法。
【請求項10】
前記判定処理が、前記尤度を、前記分枝元の枝上に位置する複数のノードに対応する前記血管上の複数の位置それぞれにおける前記血管の径に基づいて規定された第1の代表値が、前記一本の枝上に位置する複数のノードに対応する前記血管上の複数の位置それぞれにおける前記血管の径に基づいて規定された第2の代表値より大きいほど大きい値となるように算出するものであることを特徴とする請求項9記載の画像処理方法。
【請求項11】
コンピュータを、
入力装置による操作者の入力に応じて、予め取得しておいたループ状の部分を含む血管の構造を表すグラフ構造上に基準点を設定する基準点設定手段と、
前記グラフ構造の前記設定された基準点が位置する枝において、前記基準点より血流の下流側を決定する下流側決定手段と、
前記グラフ構造の前記基準点から前記決定された血流の下流側に辿っていく経路上に位置する任意の分枝ノードにおいて、分枝元の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、前記分枝ノードに向かう側の向きを有するように規定された第1のベクトルと、前記分枝元の枝から分枝したいずれか一本の枝上に位置する複数のノードの位置に基づく方向を有し、かつ、前記分枝ノードから離れる側の向きを有するように規定された第2のベクトルとがなす角θを用いて、前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向である尤度を前記なす角θが小さいほど大きい値となるように算出し、該算出された尤度を用いて前記一本の枝における血流の方向が前記分枝ノードから離れる方向であるか前記分枝ノードに向かう方向であるかを判定する判定手段として機能させるための画像処理プログラム。
【請求項12】
前記判定手段が、前記尤度を、前記分枝元の枝上に位置する複数のノードに対応する前記血管上の複数の位置それぞれにおける前記血管の径に基づいて規定された第1の代表値が、前記一本の枝上に位置する複数のノードに対応する前記血管上の複数の位置それぞれにおける前記血管の径に基づいて規定された第2の代表値より大きいほど大きい値となるように算出するものであることを特徴とする請求項11記載の画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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