説明

画像処理装置、画像処理システム、画像処理方法およびプログラム

【課題】良好な再構成画像を生成する。
【解決手段】画像処理装置3は、光検出器2への投影線上でボクセルから放出され検出された光子の計数結果に基づいて投影線毎に投影値を算出する投影データ生成部31と、投影値の集合を複数のサブセットに分割し、サブセット毎に、投影値を使用した反復演算を実行することによりボクセル毎の濃度を推定する濃度推定部32とを備える。各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定物から放出された光を検出し、その検出結果に基づいて被測定物の内部構造を表す2次元画像または3次元画像を再構成するための画像処理技術に関する。
【背景技術】
【0002】
人体などの被測定物を透過したX線、あるいは被測定物から放出されたγ線といった放射線を検出し、その検出結果に基づいて被測定物の内部構造の2次元画像または3次元画像を再構成するための画像処理技術の研究開発が進められている。このような画像処理技術は、X線CT装置(X線コンピュータ断層撮影装置)や陽電子放射断層撮像装置(PET:Positron Emission Tomography)装置で使用されている。
【0003】
画像再構成のアルゴリズムとしては、ML−EM(最尤推定−期待値最大化:Maximum Likelihood - Expectation Maximization)法やOS−EM(Ordered Subsets - Expectation Maximization)法などの逐次近似的な画像再構成法が広く知られている。ML−EM法では、後に詳述するように、k回目(kは2以上の整数)の濃度値を使用してk+1回目の濃度値を算出するという逐次演算が実行される。ML−EM法は、各回で全ての投影データを使用した逐次演算を実行するので膨大な計算量を必要とし、濃度値が収束するまでに非常に時間がかかるという問題がある。OS−EM法は、投影データをいくつかのサブセット(部分集合)に分割し、サブセットごとに逐次演算を実行することで計算時間の短縮を図るアルゴリズムである。よって、ML−EM法は、サブセットの数を1つとした場合のOS−EM法と同じである。また、サブセットの数が多いほどに、濃度値の収束に要する時間も短くなる。
【0004】
ML−EM法は、たとえば、非特許文献1や非特許文献2に開示されており、OS−EM法は、たとえば、非特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】L. A. Shepp and Y. Vardi, "Maximum likelihood reconstruction for emission tomography," IEEE Trans. Med. Imaging, 1982, Vol. MI-1, No. 2, pp. 113-122.
【非特許文献2】K. Lange and R. Carson, "EM reconstruction algorithms for emission and transmission tomography," J. Comput. Assist. Tomogra., 1984, Vol. 8, No. 2, pp. 306-316.
【非特許文献3】H. M. Hudson and R. S. Larkin, "Accelerated image reconstruction using ordered subsets of projection data," IEEE Trans. Med. Imaging, 1994, Vol. 13, pp. 601-609.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
OS−EM法に基づいた逐次演算により濃度値が一様にかつ精度良く収束するためには、異なるサブセット間で投影方向の統計誤差の偏りが低いことが要求される。特に、互いに対向する一対の検出プレートを有する対向型PET装置では、後述するように、一対の検出プレートの検出器要素の対で投影方向が決まるので、逐次演算で考慮しなければならない投影方向の範囲(バラツキ)が広い。それ故、サブセットの構成法が悪ければ、或るサブセットで投影方向の偏りが生じてしまい、濃度値の精度や収束速度が低くなることがある。
【0007】
上記に鑑みて本発明の目的は、サブセット間で投影方向の統計誤差の偏りを極力小さくし得、これにより良好な再構成画像を得ることを可能にする画像処理装置、画像処理システム、画像処理方法およびプログラムを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して、前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理装置が提供される。この画像処理装置は、光検出器への投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出する投影データ生成部と、前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定する濃度推定部と、を備えており、前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されている。
【0009】
本発明によれば、被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して、前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理システムが提供される。この画像処理システムは、互いに対向する一対の検出プレートを有する光検出器と、前記一対の検出プレートを結ぶ投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出する投影データ生成部と、前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定する濃度推定部と、を備えており、前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されている。
【0010】
本発明によれば、被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して、前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理方法が提供される。この画像処理方法は、(a)光検出器への投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出するステップと、(b)前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定するステップと、を備えており、前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されている。
【0011】
本発明によれば、被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して前記被測定物の内部構造を表す画像を生成するために、コンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み出されて画像再構成処理をコンピュータに実行させるプログラムが提供される。この画像再構成処理は、(a)光検出器への投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出する処理と、(b)前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定する処理と、を含み、前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されている。
【発明の効果】
【0012】
上述の通り、本発明による画像処理装置、画像処理システム、画像処理方法およびプログラムでは、投影値の集合を複数のサブセットに分割し、サブセット毎に、投影値を使用した反復演算を実行することによりボクセル毎の濃度が推定される。各サブセットは、投影線の方位が均等に分布するように構成されているので、異なるサブセット間の投影方向の統計誤差の偏りを低く抑えることができる。したがって、各ボクセルの濃度を正確に算出することができ、良好な再構成画像を得ることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る一実施形態の画像再構成システム(画像処理システム)の概略構成を示す機能ブロック図である。
【図2】投影線を説明するための模式図である。
【図3】(A)〜(C)は、X軸方向への傾きを有する投影方向の3つのパターンを概略的に例示する図である。
【図4】サブセットの構造を模式的に示す図である。
【図5】画像処理装置の動作手順の一例を概略的に示すフローチャートである。
【図6】画像再構成処理の手順の一例を概略的に示すフローチャートである。
【図7】画像処理装置の動作手順の他の例を概略的に示すフローチャートである。
【図8】画像再構成処理の手順の他の例を概略的に示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る実施の形態について図面を参照しつつ説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同一符号を付し、その詳細な説明は重複しないように適宜省略される。
【0015】
図1は、本発明に係る一実施形態の画像再構成システム(画像処理システム)1の概略構成を示す機能ブロック図である。この画像再構成システム1は、光検出器である対向型PET装置2と、画像処理装置3とを備えている。対向型PET装置2は、互いに対向する一対の検出プレート10A,10Bを有しており、これら検出プレート10A,10B間に挟み込まれた被測定物20から放出された光子対を検出する。一方、画像処理装置3は、光子対の検出結果に基づいて被測定物20の内部構造を表す2次元画像または3次元画像を推定(再構成)する機能を有している。
【0016】
対向型PET装置2は、更に、検出プレート10A,10Bを並進移動または回転移動させる駆動機構41を有している。人体などの被測定物20は、これら検出プレート10A,10Bによって挟み込まれる。
【0017】
一方の検出プレート10Aは、格子状に配列された検出器要素11A,…,11Aを有しており、これら検出器要素11A,…,11Aは、X−Y平面に沿ってマトリクス状に配列されている。他方の検出プレート10Bも、格子状に配列された検出器要素11B,…,11Bを有しており、これら検出器要素11B,…,11Bは、X−Y平面に沿ってマトリクス状に配列されている。また、検出器要素群11A,…,11Aの配列と検出器要素11B,…,11Bの配列は、検出プレート10Aと検出プレート10Bとの重心Oに関して点対称の関係を有している。
【0018】
駆動機構41は、画像処理装置3に組み込まれた制御部40からの制御信号に応じて、一対の検出プレート10A,10Bを駆動する機能を有する。本実施形態では、駆動機構41は、検出プレート10A,10Bの間の間隔を狭めたり、一対の検出プレート10A,10BをX軸の周りに回転させたり、一対の検出プレート10A,10BをX軸方向に移動させたりすることができる。ユーザは、キーボードやポインティングデバイスなどの入力操作部51を通じて制御部40に指示を入力することにより、駆動機構41に検出プレート10A,10Bを駆動させることができる。
【0019】
被測定物20の内部には、陽電子を発生させる放射性同位元素(RI:Radioactive Isotope)が分布している。たとえば、被測定物20が人体や動物などの被検体であれば、この被検体に放射性同位元素を投与することで放射線同位元素を被測定物20内に分布させることができる。陽電子は、放射性同位元素の崩壊過程で発生する。陽電子が被測定物20内の電子と相互作用して消滅すると、約511keVのエネルギーを持つ2本のガンマ線(光子対)が発生し、これらガンマ線は互いに反対方向に放出される。よって、陽電子が消滅した地点に関して点対称性を有する一対の検出器要素11A,11Bが、それぞれ、当該2本のガンマ線をほぼ同時に検出することとなる。よって、光子対をそれぞれ検出した一対の検出器要素11A,11Bを結ぶ線(投影線)上に、陽電子が消滅した地点が存在する。
【0020】
検出器要素11A,11Bとしては、入射光に応じた蛍光出力を与えるシンチレータが使用される。シンチレータは、X線やガンマ線などの高エネルギー放射線の光子を、よりエネルギーの低い多数の光子(蛍光)に変換する結晶体である。この種の結晶体としては、たとえば、BGO(BiGe12)やLSO(Lu(SiO)O:Ce)などの公知の結晶体を使用すればよい。検出プレート10A,10Bは、それぞれ、検出器要素11A,11Bで生成された蛍光出力を増幅し、電気信号に変換する。その電気信号は、光子を検出した検出器要素11A,11Bの番地情報とともに、画像処理装置3の投影データ生成部31に転送される。
【0021】
投影データ生成部31は、検出プレート10A,10Bから転送された電気信号に基づいて、検出器要素11A,11Bが検出した光子対を計数し、この計数結果に基づいて投影線毎の実測投影データの値(投影値)を算出する。実測投影データは、メモリ37内のデータ記憶部38に格納される。図2は、投影線を説明するための模式図である。図2に示されるように、被測定物20内の或る投影線PL上の陽電子消滅地点(線源)から放出された光子対が、検出プレート10A,10Bの一対の検出器要素11A,11Bで検出される。
【0022】
投影データ生成部31は、投影線PL上で放出された光子対を計数し、この計数結果に基づいて投影線PLの投影値yを算出する。ここで、添え字iは、投影線を一意に表す番号である。投影線PLは、一方の検出プレート10Aの検出器要素11Aと他方の検出プレート10Bの検出器要素11Bとを結ぶラインであるから、検出器要素11A,11Bの組み合わせの数だけ投影線が存在することとなる。本実施形態では、n個(nは正整数)の投影線PL(すなわち、検出器要素11A,11Bのn個の組み合わせ)が存在するものとする(i=1〜n)。たとえば、癌細胞のように活性の高い部位には線源が高密度で集中する傾向にあるので、投影線PL上に癌細胞が存在すると、この投影線PLに対応する投影値yは比較的大きな値を示すこととなる。
【0023】
濃度推定部32は、被測定物20が配置されている領域内に複数のボクセルBを立体的に配列した解析モデルを使用して画像再構成処理を実行する。ここで、ボクセルBは、立方形状または直方形状の微少な六面体要素からなる。本実施形態では、m個のボクセルBが配列されているものとする(j=1〜m)。
【0024】
濃度推定部32は、データ記憶部38から投影値の集合{y}を読み出し、OS(Ordered Subset)アルゴリズムに従ってこの投影値の集合{y}を複数のサブセット(部分集合)S〜SΜ(Mは2以上の整数)に分割する。そして、濃度推定部32は、サブセット毎に、画像再構成法に従って投影値{y}を使用した反復演算を実行することにより、ボクセルB毎の放射能濃度(以下、単に「濃度」と呼ぶ。)xを推定する。
【0025】
本実施形態では、投影値の集合{y}は、投影線PLの方向(以下、投影方向と呼ぶ。)に基づいて複数のサブセットS〜Sに分割される。ここで、各サブセットSμは、自己に属する投影値{y}に対応する投影線の方位が所定の方位範囲内で均等に分布するように構成されていることに特徴がある。対向型PET装置2の場合、投影線PLの平均方位は、検出プレート10A,10Bの検出面の法線方向と略一致する。このため、各サブセットSμに属する投影値{y}に対応する投影線の方位は、その法線方向を中心にした広い範囲に亘って均等に分布する。
【0026】
このようなサブセットSμの構成方法を以下に説明する。投影線の方位としてP個の方位(Pは、十分大きな正整数)が存在するものとする。これらP個の方位の中から、当該方位の傾きの小さい順または大きい順にp個置き(pは、Pよりも小さな正整数)に選択された方位の部分集合に対応する投影値の集合を1つのサブセットSμとすることができる。ここでの「傾き」は、或る基準方向(たとえば、検出プレート10A,10Bの検出面の法線方向)に対する所定方向(X軸方向やY軸方向)への傾きをいう。
【0027】
たとえば、P個の方位の中から、X軸方向への傾きの小さい順に1個置きに選択された偶数番目の方位を部分集合SDX1とし、P個の方位のうち残りの奇数番目の方位を部分集合SDX2とすることができる。更に、部分集合SDX1の中から、Y軸方向への傾きの小さい順に1個置きに選択された偶数番目の方位を部分集合SDX1Y1とし、部分集合SDX1のうち残りの奇数番目の方位を部分集合SDX1Y2とすることができる。一方、部分集合SDX2の中から、Y軸方向への傾きの小さい順に1個置きに選択された偶数番目の方位を部分集合SDX2Y1とし、部分集合SDX2のうち残りの奇数番目の方位を部分集合SDX2Y2とすることができる。この結果、P個の方位の集合は、4つの部分集合SDX1Y1,SDX1Y2,SDX2Y1,SDX2Y2に分割される。この場合、投影値の集合{y}は、投影線の方位の部分集合SDX1Y1,SDX1Y2,SDX2Y1,SDX2Y2にそれぞれ対応する4つのサブセットS,S,S,Sに分割される。
【0028】
図3(A)〜(C)は、X軸方向への傾きを有する投影方向の3つのパターンを概略的に例示する図である。図3(A)〜(C)において、一方の検出プレート10Aの検出器要素11AのX軸方向の位置は変数xで表され、他方の検出プレート10Bの検出器要素11BのX軸方向の位置は変数xで表される。このように投影線PLの傾き(すなわち投影方向の傾き)は、検出器要素11A,11Bの組み合わせにより定まる。
【0029】
図4は、投影線PLのX軸方向への傾きをdx=x−xで表した場合のサブセットの構成方法を説明するための図である。図4に示されるように、ハッチングが付されていないサブセットSは、投影線PLのX軸方向への傾きdx,−dxの大きさがともに偶数の場合の投影値の部分集合である。また、ハッチングが付されたサブセットSは、投影線PLのX軸方向への傾きdx,−dxの大きさがともに奇数の場合の投影値の部分集合である。たとえば、図4において傾きdxがゼロの場合の投影線PLは、図3(A)に示すようなパターンを構成し、図4において傾きdx,−dxの大きさがともに1の場合の投影線PLは、図3(B)に示すようなパターンを構成する。また、図4において傾きdxと傾き−dxの大きさとが略等しい場合の投影線PLは、図3(C)に示すようなパターンを構成することとなる。
【0030】
X軸方向の傾きに加えてY軸方向への傾きも考慮すれば、X軸方向の傾きとY軸方向の傾きとの組み合わせで、合計4つのサブセットを構成することができる。このようにサブセットを構成することで、異なるサブセット間の投影方向の統計誤差の偏りを低く抑えることができる。
【0031】
図1に示されるように、濃度推定部32は、前方投影算出部33、後方投影算出部34および濃度算出部35という機能ブロックを有する。これら機能ブロック33〜35は、OS−EM法に従った反復演算を実行する。OS−EM法では、μ番目のサブセットSμの反復演算には、以下の推定式(1)が使用される。
【0032】
【数1】

【0033】
ただし、推定式(1)中のCは、次式(1A)で与えられる。
【0034】
【数2】

【0035】
上記推定式(1)中、kは、反復回数であり、x(k−1)は、(k−1)回目の処理におけるj番目のボクセルBの放射能濃度であり、yは、i番目の投影線PL(検出器要素11A,11Bのi番目の組み合わせ)についての投影値である。サブセットSμは、投影値yの部分集合であるが、上式(1),(1A)では、説明の便宜上、サブセットSμは、投影値yの添え字iの部分集合とされている。また、x(k)は、k回目の処理におけるj番目のボクセルBの放射能濃度である。よって、(k−1)回目の濃度x(k−1)から、k回目の濃度x(k)が算出される。初期値x(k=0)は正の実数であれば、どのような値に設定されてもよい。
【0036】
推定式(1)において、Cijは、j番目のボクセルBから飛来した光子対がi番目の検出器要素対(検出器要素11A,11Bのi番目の組み合わせ)で検出される確率(検出確率)である。ボクセルBから飛来した光子対がi番目の検出器要素対に入射する数は、検出確率Cijに依存する。検出確率CijとCの値は、予め算出されたうえでパラメータ格納部39に格納されている。
【0037】
検出確率Cijは、行列(「システムマトリクス」と呼ばれている。)のi行j列目の要素とみなすことができる。検出確率Cijの値には、放射線の散乱や減衰などの物理的要因を組み込むことが可能であるが、本実施形態では、検出確率Cijの値は、i番目の検出器要素対に対するj番目のボクセルBの幾何学的位置のみにより予め定められるものとする。
【0038】
次に、図5および図6を参照しつつ、画像処理装置3の動作を以下に説明する。図5は、画像処理装置3の動作手順の一例を概略的に示すフローチャートであり、図6は、μ番目のサブセットSμについての画像再構成処理の手順の一例を概略的に示すフローチャートである。
【0039】
図5を参照すると、先ず、ステップS9では、濃度推定部32は、サブセットSμの添え字(サブセット番号)μの値を1に初期化する。次のステップS10では、濃度推定部32は、パラメータ格納部39から、検出確率{Cij}(i∈Sμ)と係数{C}とを読み出す。続けて、濃度推定部32は、データ記憶部38から投影値{y}(i∈Sμ)を読み出す(ステップS11)。なお、本実施形態では、検出確率{Cij}(i∈Sμ)、係数{C}および投影値{y}(i∈Sμ)が一括して読み出されるが、これに限定されず、必要なときに読み出されてもよい。
【0040】
続けて、濃度推定部32は、放射能濃度{x}の値を初期化し(ステップS12)、その後、画像再構成処理(ステップS13)を実行する。
【0041】
図6は、図5のステップS13の画像再構成処理の手順を示すフローチャートである。図6を参照すると、先ず、濃度推定部32は、反復回数kの上限を適切な値に設定する(ステップS130)。次に、反復回数kの値が1に初期化される(ステップS131)。その後、図1の前方投影算出部33は、次式(2)に従い、検出確率Cirと推定濃度x(k−1)との積和演算を実行して前方投影値{p}(={p,p,…})を算出する(ステップS132)。
【0042】
【数3】

【0043】
上記ステップS132の処理が終了した後、図1の後方投影算出部34は、次式(3)に従い、投影値yと前方投影値pの逆数との積qを算出するとともに、検出確率Cijと当該積qとの第2の積和演算を実行して後方投影値{D}={D,D,…,D}を算出する(ステップS133)。
【0044】
【数4】

【0045】
そして、濃度算出部35は、j=1〜mについて、後方投影値Dを用いて、k回目の推定濃度{x}={x(k)}={D・x(k−1)/C}を算出する(ステップS134)。
【0046】
その後、濃度算出部35は、濃度{x}が収束したか否かを判定する(ステップS135)。具体的には、対数尤度関数(または尤度関数)を用いて濃度{x}の収束の有無を判定することが可能である。非特許文献1(L. A. Shepp and Y. Vardi, "Maximum likelihood reconstruction for emission tomography," IEEE Trans. Med. Imaging, 1982, v. 1, pp. 113-122.)によれば、上式(1)は、ポアッソン分布の式により与えられる対数尤度関数L({x})に基づいて導出される。濃度算出部35は、ステップS134で算出された濃度{x}を入力としたときの対数尤度関数L({x})の出力値が飽和し略一定に達した場合に、濃度{x}が収束したと判定することができる(ステップS135のYES)。このとき、濃度{x}は、当該サブセットSμについての濃度{x}μとしてメモリに記憶される(ステップS139)。その後、処理は図5のステップS14に移行する。
【0047】
一方、濃度{x}が収束しないと判定された場合(ステップS135のNO)、濃度算出部35は、更に、反復回数kが上限に達したか否かを判定する(ステップS136)。反復回数kが上限に達しない場合(ステップS136のNO)は、反復回数kがインクリメントされ(ステップS137)、ステップS132の処理が反復される。濃度{x}が収束しないまま、最終的に反復回数kが上限に達したとき(ステップS136のYES)は、濃度算出部35は、濃度{x}を当該サブセットSμに関する濃度{xμとしてメモリに記憶する(ステップS139)。その後、処理は図5のステップS14に移行する。
【0048】
その後、濃度推定部32は、サブセット番号μが最大値Mであるか否かを判定する(図5のステップS14)。サブセット番号μが最大値Mでないと判定された場合(ステップS14のNO)、濃度推定部32は、サブセット番号μをインクリメントして(ステップS15)、ステップS10を実行する。
【0049】
サブセット番号μが最大値Mに達したと判定された場合(ステップS14のYES)、濃度算出部35は、全てのサブセットS〜Sに関するM組の濃度{xμ=1,{xμ=2,…,{xμ=Mに基づいて最終的に一組の推定放射能濃度{x}を算出する(ステップS16)。たとえば、各ボクセルについて、M個の濃度x(μ=1),x(μ=2),…,x(μ=M)を平均化することで最終的な推定濃度xを算出することができる。あるいは、濃度{xμ=1,{xμ=2,…,{xμ=Mのうち最も収束の良好な一組の濃度を推定放射能濃度として算出してもよい。
【0050】
その後、図1の表示制御部36は、濃度算出部35から出力された推定放射能濃度{x}から2次元または3次元の再構成画像を生成し、この再構成画像をディスプレイ50に表示させることができる。あるいは、濃度算出部35から出力された推定濃度値{x}は、メモリ37に記憶されてもよい。
【0051】
次に、図7および図8を参照しつつ、再構成画像の他の生成方法について説明する。図7は、画像処理装置3の動作手順の他の例を概略的に示すフローチャートであり、図8は、画像再構成処理の手順の他の例を概略的に示すフローチャートである。
【0052】
図7を参照すると、先ず、ステップS10Tでは、濃度推定部32は、パラメータ格納部39から、検出確率{Cij}と係数{C}とを読み出す。続けて、濃度推定部32は、データ記憶部38から投影値{y}を読み出す(ステップS11T)。なお、本実施形態では、検出確率{Cij}、係数{C}および投影値{y}が一括して読み出されるが、これに限定されず、必要なときに読み出されてもよい。
【0053】
続けて、濃度推定部32は、放射能濃度{x}の値を初期化し(ステップS12T)、その後、画像再構成処理(ステップS13T)を実行する。
【0054】
図8は、図7のステップS13Tの画像再構成処理の手順を示すフローチャートである。図8を参照すると、先ず、濃度推定部32は、反復回数kの上限を適切な値に設定する(ステップS130)。次に、反復回数kの値が1に初期化されるとともに、サブセット番号μの値が1に初期化される(ステップS141)。その後、図1の前方投影算出部33は、上式(2)に従い、検出確率Cirと推定濃度x(k−1)との積和演算を実行して前方投影値{p}(={p,p,…})を算出する(ステップS132)。
【0055】
上記ステップS132の処理が終了した後、図1の後方投影算出部34は、上式(3)に従い、投影値yと前方投影値pの逆数との積qを算出するとともに、検出確率Cijと当該積qとの第2の積和演算を実行して後方投影値{D}={D,D,…,D}を算出する(ステップS133)。
【0056】
そして、濃度算出部35は、j=1〜mについて、後方投影値Dを用いて、k回目の推定濃度{x}={x(k)}={D・x(k−1)/C}を算出する(ステップS134)。
【0057】
その後、濃度推定部32は、サブセット番号μが最大値Mであるか否かを判定する(ステップS142)。サブセット番号μが最大値Mでないと判定された場合(ステップS142のNO)、濃度推定部32は、サブセット番号μをインクリメントするとともに、反復回数kをインクリメントして(ステップS143)、ステップS132に処理を戻す。その後、以前のサブセットSμ−1に関してステップS134で算出された推定濃度{x(k−1)}を用いて、新たなサブセットSμに関する推定濃度{x(k)}が算出される(ステップS132〜S134)。
【0058】
ステップS142でサブセット番号μが最大値Mであると判定されたとき(ステップS142のYES)、濃度算出部35は、濃度{x}(={x(k)})が収束したか否かを判定する(ステップS135)。濃度{x}が収束したと判定されたとき(ステップS135のYES)、処理は図5のステップS14に移行する。
【0059】
一方、濃度{x}が収束しないと判定された場合(ステップS135のNO)、濃度算出部35は、更に、反復回数kが上限に達したか否かを判定する(ステップS136)。反復回数kが上限に達しない場合(ステップS136のNO)は、反復回数kがインクリメントされるとともにサブセット番号μが初期値(=1)に設定される(ステップS137T)。次いで、ステップS132の処理が反復される。濃度{x}が収束しないまま、最終的に反復回数kが上限に達したとき(ステップS136のYES)、以上の処理は終了する。
【0060】
その後、表示制御部36は、濃度算出部35から出力された推定放射能濃度{x}から2次元または3次元の再構成画像を生成し、この再構成画像をディスプレイ50に表示させることができる。あるいは、濃度算出部35から出力された推定濃度値{x}は、メモリ37に記憶されてもよい。
【0061】
上述した通り、本実施形態の画像再構成システム1は、投影線PLの方向に基づいて投影値の集合{y}を複数のサブセットS〜Sに分割し、サブセットSμ毎に、投影値{y}(i∈Sμ)を使用した反復演算を実行することによりボクセル毎の濃度{x}を推定する。ここで、各サブセットSμは、投影線PLの方位が所定の方位範囲内で均等に分布するように構成されているので、異なるサブセット間の投影方向の統計誤差の偏りを極力抑えることができる。したがって、各ボクセルの濃度を正確に算出することができ、良好な再構成画像を得ることが可能である。
【0062】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べた。図1の画像処理装置3の機能ブロック31〜36の全部または一部は、半導体集積回路などのハードウェアで実現されてもよいし、あるいは、不揮発性メモリや光ディスクなどの記録媒体に記録されたプログラムまたはプログラムコードで実現されてもよい。このようなプログラムまたはプログラムコードは、機能ブロック31〜36の全部または一部の処理を、CPUなどのプロセッサを有するコンピュータに実行させるものである。
【0063】
また、データ記憶部38やパラメータ格納部39は、揮発性メモリまたは不揮発性メモリなどの記録媒体(たとえば、半導体メモリや磁気記録媒体)と、この記録媒体に対してデータの書込と読出を行うための回路やプログラムとで構成することができる。データ記憶部38やパラメータ格納部39は、予め記録媒体の所定の記憶領域上に構成されていてもよいし、あるいは、画像処理装置3の動作時に割り当てられた適当な記憶領域上に構成されてもよい。
【0064】
上記実施形態は本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。たとえば、上記実施形態では、一対の検出プレート10A,10Bを使用し、これら検出プレート10A,10Bの検出面は平面であったが、これらに限定されるものではない。図1の対向型PET装置2に代えて、連続的に分布する単一の検出面あるいは3個以上の検出面を有する検出装置を使用してもよい。また、検出面の形状は平面に限定されるものではなく曲面であってもよい。
【0065】
また、上記実施形態では、投影値の集合{y}は、投影線PLの方位(投影方向)に基づいて複数のサブセットS〜Sに分割されたが、これに限定されるものではない。たとえば、投影値yがランダムにサブセットS〜Sに振り分けられてもよい。この場合でも、各サブセットにおいて投影線PLの方位が略均等に分布するので、異なるサブセット間の投影方向の統計誤差の偏りを低く抑えることができるので、良好な再構成画像を得ることが可能である。
【0066】
上記実施形態では、画像処理装置3は対向型PET装置2に適用されたが、これに限定されるものではない。画像処理装置3は、X線CT装置などの他の検出装置にも適用することが可能である。
【0067】
上記実施形態では、画像再構成法としてOS−EM法(すなわち、上記実施形態のOS(Ordered Subset)アルゴリムが適用されたML−EM法)が使用されているが、これに限定されるものではない。ML−EM法に限らず、MAP−EM(Maximum A Posteriori - Expectation Maximization)法などの他の統計的画像再構成にOSアルゴリズムを適用することも可能である。
【符号の説明】
【0068】
1 画像再構成システム
2 対向型PET装置
3 画像処理装置
10A,10B 検出プレート
11A,11B 検出器要素
20 被測定物
31 投影データ生成部
32 濃度推定部
33 前方投影算出部
34 後方投影算出部
35 濃度算出部
36 表示制御部
37 メモリ
38 データ記憶部
39 パラメータ格納部
40 制御部
41 駆動機構
50 ディスプレイ
51 入力操作部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して、前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理装置であって、
光検出器への投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出する投影データ生成部と、
前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定する濃度推定部と、
を備え、
前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されていることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記投影線の方位にはP個の方位(Pは正整数)が存在し、
前記各サブセットに属する投影値は、前記P個の方位の中から、前記投影線の傾きの順にp個置きに(p<P)抽出された方向に対応した値である、画像処理装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像処理装置であって、
前記複数のサブセットは、
前記P個の方向のうち偶数番目の方向に対応する投影値からなる第1のサブセットと、
前記P個の方向のうち奇数番目の方向に対応する投影値からなる第2のサブセットと、
を含む、画像処理装置。
【請求項4】
請求項1から3のうちのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記光検出器は、互いに対向する一対の検出プレートを有し、
前記投影線は、前記一対の検出プレートのうち一方の検出器要素と、前記一対の検出プレートのうち他方の検出器要素とを結ぶ線である、画像処理装置。
【請求項5】
請求項4に記載の画像処理装置であって、前記検出器要素は、入射光に応じた蛍光出力を与えるシンチレータ結晶体を含む、画像処理装置。
【請求項6】
請求項1から5のうちのいずれか1項に記載の画像処理装置であって、前記画像再構成法は、OS−EM(Ordered Subsets - Expectation Maximization)法である、画像処理装置。
【請求項7】
被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して、前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理システムであって、
互いに対向する一対の検出プレートを有する光検出器と、
前記一対の検出プレートを結ぶ投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出する投影データ生成部と、
前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定する濃度推定部と、
を備え、
前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されていることを特徴とする画像処理システム。
【請求項8】
被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して、前記被測定物の内部構造を表す画像を生成する画像処理方法であって、
(a)光検出器への投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出するステップと、
(b)前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定するステップと、
を備え、
前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されていることを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
被測定物が置かれている領域内に複数のボクセルを立体的に配列した解析モデルを使用して前記被測定物の内部構造を表す画像を生成するために、コンピュータ読み取り可能な記録媒体から読み出されて画像再構成処理をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記画像再構成処理は、
(a)光検出器への投影線上で前記ボクセルから放出され当該光検出器で検出された光子の計数結果に基づいて前記投影線毎に投影値を算出する処理と、
(b)前記投影値の集合を複数のサブセットに分割し、前記サブセット毎に、画像再構成法に従って前記投影値を使用した反復演算を実行することにより前記ボクセル毎の濃度を推定する処理と、
を含み、
前記各サブセットは、自己に属する投影値に対応する投影線の方位が均等に分布するように構成されていることを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−203807(P2010−203807A)
【公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−47177(P2009−47177)
【出願日】平成21年2月27日(2009.2.27)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(509023137)医療法人みやぎクリニック (4)
【Fターム(参考)】