説明

画像処理装置、画像処理方法およびプログラム

【課題】 特定領域の光沢感を向上させ、特定の凹凸を与えて独自の触感を付与することができるように、透明トナーパターンを領域適応的に決定することができる装置や方法を提供する。
【解決手段】 この装置は、無色の記録材を用いて画像形成を行うために無色の記録材のパターンを生成する画像処理装置で、入力された画像を、指定されたアルゴリズムと画像を構成する画素の画素値とを用いて1以上の領域に分割する領域分割部と、分割された各領域を構成する画素の画素値を用いて当該各領域の空間周波数を計算する空間周波数計算部と、計算された空間周波数と予め設定された線幅の万線パターンとを用いて、各領域に対して与える無色の記録材のパターンを生成するパターン生成部とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明なトナーまたはインク等の無色の記録材を利用して画像形成を行うために、その無色の記録材のパターンを生成する画像処理装置、画像処理方法およびその方法を実現するためのコンピュータ可読なプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、デジタルカメラで撮影された写真をプリンタによりきれいに印刷することができるようになってきている。このプリンタでは、通常、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックといった4色のカラートナーやインクを用いて印刷が行われるが、画像の光沢度やトナーの転写効率を改善し、画質を向上させるべく無色透明のトナーが用いられる場合がある。この無色透明のトナーを用いて印刷を行う技術として、以下のような技術が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1では、透明フィルムやOHP用シートにフルカラー画像を形成し、透過型のOHPで投影すると、画像表面に存在する凹凸部により散乱した投影光が無彩色成分を含むことから、投影画像が、表面の反射光を見るプリント画像に比べて色再現範囲が狭く、また、本来再現されるべきカラー色調がグレー色成分を含んだ発色性に乏しい画像となるため、カラートナーに加えて透明トナーを転写体に転写、定着して、画像表面を平滑化し高画質を得ることが提案されている。
【0004】
また、特許文献2では、透明トナーを用いると、従来の4色印刷と比較して総トナー量が大幅に増え、電子写真プロセスにおける一連のプロセスに負荷が大きくかかってくることから、負荷を軽減すべく、CMYKの総トナー量を算出し、その総トナー量から透明トナーの許容量を算出し、その許容量を透明トナーの印字面積率に換算し、その印字面積率によって透明トナー信号をマスク処理するためのマスクパターンを生成し、指定した透明トナー画像とマスクパターンによりマスク処理を行うことが提案されている。
【0005】
特許文献3では、画像の全面に透明トナーによりトナー像を形成すると、透明トナーの消費量がその他のトナーよりも著しく増加し、その結果、透明トナー用の現像剤が他よりも早く劣化するという不都合があり、透明トナーは一般に高価で、ランニングコストが増加するという問題に鑑み、画像データから人物の顔に相当する領域を抽出し、その領域を特徴領域とし、その他の領域を非特徴領域とし、特徴領域に対して非特徴領域よりも多くの透明トナーを付与することが提案されている。
【0006】
また、特許文献4では、視覚および触覚に訴えるテクスチャを、透明トナーを用いて構成し、紙面全体にパターンを与えるだけでなく、特定の有色トナーが乗った領域に対して透明トナーパターンを与えることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記の特許文献1に記載の技術では、画像の特定の領域を選択して、透明トナーパターンを与えることはできない。また、特許文献2に記載の技術では、マスクパターンが、例えば「マル秘」等の文字列を想定しているため、ユーザが透明トナーパターンを与える領域を決定しなければならず、自動化は困難である。
【0008】
特許文献3に記載の技術では、領域分割のための特徴として空間周波数が低い領域を選択することから、低周波数領域で目立つ有色トナーのちらつきを抑えることを目的とし、透明トナー量を領域適応的に調整するのみで、透明トナーパターンを与えることはできない。また、特許文献4に記載の技術では、特定の有色トナーが乗った領域に対して透明トナーパターンを与えることができるが、領域の画像特徴と与えるパターンとの関係を考慮していないため、領域適応性が低い。
【0009】
透明トナーを用いて透明トナーパターンを生成する場合、透明トナーを乗せる画像領域を特定し、どのようなパターンにするかを決定する必要がある。画像領域の特定は、上記の特許文献3にも記載されているように、その領域の特徴を基に行うことが可能である。しかしながら、どのようなパターンにするかを決定する場合、これまでに知られた技術では、領域適応的に決定することはできなかった。これでは、特定の領域の光沢感を向上させたり、画像に特定の凹凸を与えて、独自の触感を付与することはできない。
【0010】
そこで、このような特定領域の光沢感を向上させ、特定の凹凸を与えて独自の触感を付与することができるように、透明トナーパターンを領域適応的に決定することができる装置や方法の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、入力された画像を、予め定められた基準値と画像を構成する画素の画素値とを用いて1以上の領域に分割する領域分割部と、分割された各領域を構成する画素の画素値を用いて当該各領域の空間周波数を計算する空間周波数計算部と、計算された空間周波数と予め設定された線幅の万線パターンとを用いて、各領域に対して与える無色の記録材のパターンを生成するパターン生成部とを含む画像処理装置が提供される。
【0012】
このように、画像を1以上の領域に分割し、各領域につき特徴量である空間周波数を求め、その空間周波数を用い、各領域に対して与えるパターンを生成することで、領域適応的に無色の記録材、具体的には透明トナーのパターンを決定することができる。
【0013】
この画像処理装置は、空間周波数計算部で計算された空間周波数の中で最も多い周波数の値として得られるピーク値と、前記万線パターンの線数を表す万線パターン周波数とを対応付けた1以上の第1テーブルが格納された記憶部を含み、この第1テーブルを用いて、ピーク値から万線パターンの線数を決定することができる。
【0014】
パターン生成部は、各領域につき、上記のピーク値を与える方位から万線パターンを構成する線が延びる方位を決定する。この決定された方位と、上記で決定された線数とから、無色の記録材の万線パターンを生成することができる。
【0015】
上記の記憶部は、領域内の画素数として得られる領域サイズと、使用すべき第1テーブルとを対応付けた第2テーブルを格納することができる。この第2テーブルを用いることにより、無色の記録材により独特の触感を与えるために、特定サイズ以上の領域にのみ万線パターンを与えることが可能となる。
【0016】
また、この記憶部は、領域内の画素の平均輝度と、使用すべき第1テーブルとを対応付けた第3テーブルを格納することができる。この第3テーブルを用いることにより、触感を優先させ、また、印刷面の光沢を優先させることができる。
【0017】
この画像処理装置は、上記の1以上の第1テーブルを提示するテーブル提示部と、ユーザからの選択に応答して、記憶部から選択された第1テーブルを読み出すテーブル読出部とをさらに含むことができる。これにより、ユーザが直接テーブルを選択し、そのテーブルを用いて万線パターンの線数を決定し、無色の記録材のパターンを生成することができる。
【0018】
本発明は、上記の画像処理装置のほか、無色の記録材を用いて画像形成を行うために画像処理装置により前記無色の記録材のパターンを生成する画像処理方法も提供することができる。この方法は、入力された画像を、予め定められた基準値と画像を構成する画素の画素値とを用いて1以上の領域に分割するステップと、分割された各領域を構成する画素の画素値を用いて当該各領域の空間周波数を計算するステップと、計算された空間周波数と予め設定された線幅の万線パターンとを用いて、各領域に対して与える無色の記録材のパターンを生成するステップとを含む構成とされる。
【0019】
本発明ではさらに、上記の画像処理方法をコンピュータに実行させるためのプログラムを提供することができ、このプログラムは、このプログラムを記録する記録媒体からダウンロードする形で提供することもできるし、記録媒体として提供することも可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の画像処理装置のハードウェア構成を示した図。
【図2】画像処理装置の機能ブロック図。
【図3】Haarウェーブレットの例を示した図。
【図4】極座標ヒストグラムを例示した図。
【図5】空間周波数と正規化後の強度との関係を例示した図。
【図6】LUTのデータ構造を例示した図。
【図7】画像処理装置が行う処理を例示したシーケンス図。
【図8】パターン生成部およびレポジトリが行う処理の1つの実施形態を詳細に示したシーケンス図。
【図9】パターン生成部およびレポジトリが行う処理の別の実施形態を詳細に示したシーケンス図。
【図10】領域サイズと平均輝度を管理するためのデータ構造を例示した図。
【図11】領域サイズと使用LUTとを対応付けて格納するデータ構造を例示した図。
【図12】平均輝度と使用LUTとを対応付けて格納するデータ構造を例示した図。
【図13】離散ウェーブレットを用いた空間周波数解析処理の流れを示したフローチャート図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、本実施形態の画像処理装置のハードウェア構成を例示した図である。画像処理装置10は、一般のパーソナルコンピュータ(PC)と同様のハードウェア構成とすることができる。具体的には、図1に示すように、命令列から構成されるプログラムを記憶するメモリ11と、そのメモリ11等に記憶されているプログラムを読み出し実行するCPU12と、プログラムやデータを記憶する記憶装置13と、外部機器との通信を行う通信装置14と、それらの装置を互いに接続する内部バス15とを含んで構成されている。
【0022】
メモリ11は、主記憶装置とも呼ばれ、CPU12が直接アクセスすることができる記憶装置である。メモリ11は、読み書き可能なRAM(Random Access Memory)と、読み出し専用のROM(Read Only Memory)とを含んで構成される。ROMは、入出力を行うためのプログラムであるBIOS(Basic Input Output System)や、ハードウェアを制御するためのプログラムであるファームウェアを記憶する。RAMは、アドレス信号により番地情報を与え、その番地のメモリセルに対して読み出しおよび書き込みを行う。
【0023】
記憶装置13は、補助記憶装置とも呼ばれ、主記憶装置が、電源の供給がなくなると記憶している内容が消えてしまうという揮発性のものが多く、コストも高いことから、プログラムやデータを永続的に記憶するために用いられる記憶装置である。補助記憶装置としては、ハードディスク、CD−ROM、DVD、USB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリーカード、SSD(Solid State Drive)等を挙げることができる。
【0024】
CPU12は、メモリ11や記憶装置13に記憶されているプログラムを命令列の順に読み出し、その命令列を解釈し、実行することによりデータ等の加工を行う。通信装置14は、ネットワーク16とCPU12とを接続し、ネットワーク16を介して情報を受信し、CPU12からの指示を受けて情報をネットワーク16へ送信することにより、情報のやりとりを行う。内部バス15は、これらメモリ11、CPU12、記憶装置13、通信装置14を互いに接続し、データの読み書きや情報のやりとりを可能にする。
【0025】
画像処理装置10は、通信装置14を使用して、ネットワーク16に接続される画像読取装置17、画像出力装置18、記憶装置19との間で画像データの取得、出力、記憶という処理を実行することができる。画像読取装置17としては、例えば、スキャナ装置などの画像を読み取り、画像データとして取得することができる装置を挙げることができる。画像出力装置18としては、画像データを受け付け、それを紙等の印刷媒体へ出力するプリンタを挙げることができる。記憶装置19としては、各種のデータを管理するサーバ装置や、それらのデータを、インデックスを付けて記憶するデータベースを挙げることができる。
【0026】
このように、画像処理装置10は、ネットワーク16を介して画像読取装置17、画像出力装置18、記憶装置19と接続されることから、画像読取装置17により取得される入力画像情報を受け付け、これをメモリ11上に展開し、予め定められた処理方法によりこれを処理し、その結果を記憶装置13や、ネットワーク16を介して記憶装置19に記憶し、また、ユーザからの指示に従い、その展開された処理済み画像情報を、ネットワーク16を介して画像出力装置18へ送信し、画像出力装置18において印刷出力することができる。
【0027】
画像処理装置10は、予め定められた処理方法により、入力画像情報を処理するが、これは、メモリ11等から読み出したプログラムをCPU12が実行することにより実現することができる。プログラムは、複数の命令列から構成され、各命令列が順に実行されるが、各命令列を実行するCPU12を、次に説明する各部として機能させることができる。したがって、画像処理装置10は、次に説明する各部を備えるものと考えることができる。
【0028】
図2は、画像処理装置を構成する機能ブロック図である。この画像処理装置10は、図1に示す画像読取装置17等から入力された画像データにより構成される画像を入力画像(デジタル画像)として受け付ける画像入力部20と、入力画像が多くの場合、RGBカラーで表現されることから、プリンタやプロッタの色材(例えばCMYK)に従って色空間を変換する必要があり、この色変換を行う色空間変換部21とを備える。
【0029】
また、画像処理装置10は、プリンタやプロッタといった画像形成装置が上記のCMYKの4色のトナーのほか、透明トナーを用いて画像形成を行うことから、透明トナーパターン、すなわち無色版を作成する。このための前処理として、入力画像のサイズを拡大または縮小する解像度変換および画像を構成する画素の画素値として用いられる輝度値を平らに滑らかにする平滑化等を行う。これらの処理を行うため、画像処理装置10は解像度変換部22をさらに備える。ここでは透明トナーとしているが、無色の記録材であれば、透明なインク等であってもよい。したがって、その他のカラートナーも、カラーインク等とすることができる。なお、画素値は、画像信号が白黒であれば輝度値が用いられ、カラーであれば輝度値Yや色に関する2つの色信号U、V等が用いられる。
【0030】
この前処理が終了した後、画像処理装置10へ入力された画像を、指定されたアルゴリズムを使用して領域分割を行い、分割された各領域につき画像の特徴量である空間周波数を計算する。そして、その計算された空間周波数を基に、各領域のピーク空間周波数およびその方位を求め、これらから各領域に対して与えるべき透明トナーパターンを決定し、それを生成する。ピーク空間周波数は、その領域内の空間周波数の中で多数を占める空間周波数である。方位は、空間周波数を二次元座標に表した場合の、原点を中心としてその空間周波数が表れる方向である。
【0031】
このことから、画像処理装置10は、領域分割を行う領域分割部23と、特徴量である空間周波数を計算する空間周波数計算部24と、ピーク空間周波数および方位を求め、透明トナーパターンを生成する無色版生成部25とをさらに備える。このとき、無色版生成部25は、ピーク空間周波数および方位から、後述する主要方位における主要空間周波数を求め、その主要空間周波数と透明トナーパターン空間周波数との対応から透明トナーパターンを生成するため、画像処理装置10は、その対応を表すLUT(Look Up Table)26をさらに備える。
【0032】
ここで、領域分割部23は、画像を各領域へ分割するのに、例えばsplit and mergeアルゴリズムを使用して実施することができる。このsplit and mergeアルゴリズムは、画像を均一な領域に分割することを試みるもので、全体画像を1つの領域として初期推定するところから開始し、その領域が実質的に均一であるかどうかを判断する。すなわち、予め定められた基準値を基に判断を行い、均一ではないと判断した場合は、その領域を均等に4つの領域へ分割する。これを分割した各領域についても行い、分割が必要なくなるまでこの処理を繰り返す。その後、その基準値を満足し、互いに隣接し、類似する領域同士を結合していき、結合できるものがなくなった時点で、この処理を終了する。
【0033】
グレースケールの画像に対して言えば、ある領域が、次式1で与えられる強度(明るさ)の標準偏差が閾値未満である場合、実質的に均一であると言うことができ、均一と判断することができる。この式1中、Nは、その領域内の画素数であり、xは、平均強度である。なお、強度としては、輝度値を用いることができる。このため、その領域については分割することなく処理を終了する。一方、閾値以上である場合は、実質的に均一ではないと判断し、さらに4つの領域に分割する。この基準となる閾値は、実験を行う等して予め定められる値とされる。
【0034】
【数1】

【0035】
分割された各領域を結合する場合は、各領域につき、分割する際に計算された平均強度を用い、ある領域の平均強度と、その領域に隣接する領域の平均強度との差が、予め定められる閾値未満である場合に結合することができる。なお、split and mergeアルゴリズムについての詳細は、「Splitting and Merging」(URL:http://homepages.inf.ed.ac.uk/rbf/CVonline/LOCAL_COPIES/MARBLE/medium/segment/split.htm)を参照されたい。
【0036】
上記split and mergeアルゴリズムを用いた領域分割法は、均一な領域を形成していく反復手法であるが、その反復手法の他の例として、領域成長法を挙げることができる。この領域成長法は、シードと呼ばれる基本となる一様な領域を複数与え、分類されていない画素をその与えられた領域に統合する処理を反復する手法である。領域の一様性は、類似度を用いて判断することができ、類似度は、画素の階調値と領域の平均階調値の差分の絶対値や、色空間内での距離等を用いて算出することができる。類似度が基準値としての閾値以上であれば、一様性ありと判断し、それ未満の場合、一様性なしと判断することができる。
【0037】
この領域成長法を実現するためのアルゴリズムとして、watershedアルゴリズムを挙げることができる。このアルゴリズムは、マウス等でユーザが画像の任意の点を中心とした所定の半径の円内をシード領域として指定した領域指定を受け付け、指定された各シード領域に対し、上記のように分類されていない画素をシードに統合する処理を反復することにより拡張していき、画像を各領域に分割する。このアルゴリズムを使用する場合、ユーザとの対話を必要とすることから、領域分割部23は、ユーザからの1以上の領域指定を受け付け、それに応答して、このアルゴリズムを使用して領域分割を実施することができる。
【0038】
領域分割する他の方法としては、クラスタリング手法等を採用することができる。画像を構成する画素からは、輝度や色の情報を得ることができ、複数の画素から構成される画素集合からは、空間周波数や方向等の情報を得ることができる。これらは、画像の特徴量として抽出することができ、各画素を特徴空間に写像すると、有効な特徴量がその空間内で高い密度をもって分布することになる。この特徴量の塊は、画像の部分領域を構成し、クラスタと呼ばれる。
【0039】
クラスタリング手法を実現するためのアルゴリズムとして、Mean Shiftアルゴリズムを挙げることができる。このアルゴリズムは、特徴空間内の蜜な領域が、特徴量データの集まりがどのように分布しているかを示す密度関数の極大値(最頻値)に対応し、その密度関数の勾配が0である点に、その最頻値が位置することから、その勾配が0となる位置を見つけ出す。
【0040】
画像の特徴は、輝度、色、空間周波数、方向といったように複数存在し、その中から任意に選択した特徴の組(特徴セット)をMean Shiftアルゴリズムで使用することができる。このため、領域分割部23は、予め定められた特徴セットを基に、このアルゴリズムを使用して自動領域分割を実施することができる。
【0041】
これらは、領域分割する方法を例示するものであり、これらの方法に限定されるものではなく、これらの方法以外のK-means法等、これまでに知られたいかなる方法でも採用することができる。そして、その方法を適切なアルゴリズムを使用して実現することができる。
【0042】
空間周波数計算部24は、領域分割部23により分割された各領域につき空間周波数を計算するために、例えば、二次元FFT(高速フーリエ変換)等を利用して空間周波数展開を行う。この計算を簡単にするために、RGBカラー画像を一旦グレースケール画像へ変換した後に、二次元FFTをかけることができる。
【0043】
二次元フーリエ変換式は、次の式2で定義される。式2中、f(x,y)は、実領域の二次元関数で、F(u,ν)は、それに対応するフーリエ領域の二次元関数である。また、Nは、サンプリング数である。具体的に言えば、f(x,y)は、画像内の画素の濃淡値(輝度値)であり、F(u,ν)は、uν平面上にある1点の二次元空間周波数である。なお、u、νは0、1、2、…、N−1の値をとる。
【0044】
【数2】

【0045】
また、一般に用いられる二次元離散フーリエ変換式は、次の式3で定義される。ここで、高速フーリエ変換は、離散フーリエ変換をコンピュータ上で高速に計算するアルゴリズムであることから、この二次元離散フーリエ変換式を用いて空間周波数展開を行うことができる。
【0046】
【数3】

【0047】
この式3は、式4のように変形することができる。この式4からも分かるように、二次元の離散フーリエ変換は、二次元配列f(x,y)をxに関して一次元の離散フーリエ変換を行い、その後、yに関して一次元の離散フーリエ変換を行えばよいことを示している。式3で表される離散フーリエ変換は、配列のインデックスを0から始めると都合がいいので、式2をN/2だけシフトした形になっており、このため、式3で計算する際、その計算前にf(x,y)の配列をN/2だけシフトし、計算した後のF(u,ν)もN/2だけシフトする必要がある。
【0048】
【数4】

【0049】
これらf(x,y)、F(u,ν)はいずれも、サンプリング数Nを周期とした周期関数とみなせることから、この場合のシフトは、配列の前半分と後半分とを入れ替えることにより行うことができる。座標系でx座標とy座標が両方とも正の領域を第1象限、x座標が負でy座標が正の領域を第2象限、x座標とy座標が両方とも負の領域を第3象限、x座標が正でy座標が負の領域を第4象限とし、画像を4分割する分割線を座標軸とみなすと、対応する画像内の領域がそれぞれ、第1象限、第2象限、第3象限、第4象限となる。すると、x方向とy方向に別々に入れ替えた配列は、第1象限と第3象限を入れ替え、第2象限と第4象限を入れ替えた配列と等しくなる。
【0050】
これらのことから、二次元フーリエ変換を行う具体的な手順は、実領域の二次元配列f(x,y)の第1象限と第3象限を入れ替え、第2象限と第4象限を入れ替える。次に、上記式3を用いてフーリエ領域の二次元配列F(u,ν)を求め、求めた二次元配列F(u,ν)の第1象限と第3象限を入れ替え、第2象限と第4象限を入れ替えることにより、二次元フーリエ変換を行うことができる。なお、このフーリエ変換についての詳細は、「第5回 フーリエ変換の実際の計算法」(URL:http://www.metro-hs.ac.jp/rs/sinohara/dft_210/mri_genkou5.htm)を参照されたい。
【0051】
上記の二次元フーリエ変換のほか、ウェーブレット変換等を用いることも可能である。フーリエ変換は、時間分解能をもたないことから、短時間フーリエ変換のように、窓関数を乗じて局在性を持たせることで、時間分解能を付与することができる。しかしながら、窓関数の幅が固定されているため、時間分解能が向上しない。これに鑑み、この窓関数に相当するウェーブレット関数がスケールパラメータをもち、そのスケールパラメータによりその幅を適切に選択することができるようにしたものが、ウェーブレット変換である。
【0052】
ウェーブレット変換は、連続ウェーブレット変換と、離散ウェーブレット変換とに分けられる。連続ウェーブレット変換は、スケールパラメータが連続であるが、ウェーブレット関数を構成する基底関数が非直交である。これに対し、離散ウェーブレット変換は、基底関数は直交するが、スケールパラメータが離散的である。このように、2つのウェーブレット変換は大きく異なるため、使用するウェーブレットによって計算効率や解析精度が大きく変化する。
【0053】
計算効率を向上させるためには、離散ウェーブレットの1つである、図3(a)〜(f)に示すようなHaarウェーブレット(離散型二次元ウェーブレット)を用いることができる。このHaarウェーブレットを用いた周波数計算手法は、Integral Imageと呼ばれる中間画像を作成することで、周波数解析の計算コストを大幅に低減することができる。なお、離散ウェーブレット変換の詳細については、「離散ウェーブレット変換」(URL:http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%9B%A2%E6%95%A3%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%96%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%88%E5%A4%89%E6%8F%9B)を参照されたい。また、この離散ウェーブレットを用いた空間周波数解析処理については後述する。
【0054】
任意の形状の領域の二次元空間周波数の計算には様々な方法があるが、その中で最も単純な方法としては、任意の形状の領域の外接矩形をとり、その任意の形状の領域とその外接矩形の間を予め決められた値、例えば0などで埋めることで二次元周波数展開を簡単に行うことができる。
【0055】
このようにして計算された二次元空間周波数情報は、無色版生成部25へ送られ、この無色版生成部25が、この情報を基に、各領域のピーク空間周波数とその方位を求める。まず、主要な方位を求めるために、二次元の空間周波数情報から極座標ヒストグラムを計算する。そして、その極座標系のヒストグラム(極座標ヒストグラム)のピーク値を示す方位を、その領域の主要方位とする。
【0056】
極座標ヒストグラムを計算する方法としては、様々な方法があるが、例えば、二次元周波数分布を予め定められた閾値により二値化し、その頻度を用いてヒストグラムを作成することができる。このとき、ヒストグラムを作成するための角度の分割については、予備実験を行うなどして予め定めておくことができる。例えば、この角度としては、5°毎などとすることができる。
【0057】
実際に極座標ヒストグラムの計算を、図4を参照して説明すると、空間周波数計算部24により計算され得られた二次元の空間周波数情報を図に表したものが、図4(a)に示すようなものである場合、予め定められた閾値以上か未満かにより二値化すると、図4(b)に示すような色の濃い部分のみが残る。図4(a)および(b)では、空間周波数が二次元のx−y座標系に表されており、その色の濃い部分を構成する複数の空間周波数は、約45°の方位にあることがわかる。この方位と、特定の方位に出現する空間周波数の頻度との関係を表すと、図4(c)に示すように「45」と示された方位45°付近に集中したヒストグラムが作成される。主要方位は、このヒストグラムのピーク値を示す方位であり、この図4(c)におけるピーク値が45°であるため、45°と求められる。
【0058】
このようにして主要方位を求めた後、その主要方位における主要空間周波数を算出する。この算出方法も様々なものが存在するが、以下の方法を採用して算出することができる。
【0059】
その1つとして、空間周波数分布が単峰性、すなわち1サイクルにピークが1つだけ存在するものの場合、その空間周波数のピーク値をそのまま主要空間周波数として利用することができる。しかしながら、多くの場合、空間周波数は複雑な分布をもち、一般に高周波成分は低周波成分に比べて弱い。このため、別の方法として、例えば、主要方位内の正規化された空間周波数成分について予め定められた閾値を基に、閾値処理を行い、その閾値を超える最大空間周波数を主要空間周波数とする方法を用い、その方位内の主要な空間周波数を求めることができる。
【0060】
図5は、空間周波数と強度との関係を示した図である。図5では、主要方位内の正規化された空間周波成分をプロットしており、そのため、空間周波成分の強度の最大値は1とされている。また、閾値が約0.5とされており、その0.5以上の空間周波数の範囲が主要空間周波数として求められる。
【0061】
LUT26は、システムが保持する対応テーブルであり、主要空間周波数と万線パターンの周波数とを対応付けて保持する。このテーブルは、予め定められ、図6に示すようなものとされる。ここで、万線パターンは、規則的に密に並んだ平行線で構成されるもので、その線の太さを画像の濃淡に応じて変化させることで階調表現することができるものである。
【0062】
図6に示すテーブルは、向かって左欄に主要空間周波数がcpd(cycle per degree)で与えられ、その右欄に万線パターン周波数が1インチあたりの線数で与えられている。ここでは、テーブルを用いているが、これらの関係に簡単な関係が成立する場合は、テーブルに代えて簡単な関数で表現することができる。
【0063】
無色版生成部25は、このLUT26を用い、各領域に対して求めた主要空間周波数から万線パターン周波数を求め、先に求めた主要方位と、この万線パターン周波数とにより、その領域に与える万線パターンを生成することができる。この万線パターンは、ユーザに対し、透明トナーパターンとして提示され、ユーザからの印刷指示により、印刷時の画像形成において使用される。
【0064】
実際にこの画像処理装置が行う処理を、図7のシーケンス図を参照して説明する。この画像処理装置は、ユーザであるオペレータ60により操作、指示され、その操作や指示等を受け付け、オペレータ60に提示するUI61と、領域分割部62と、パターン生成部63と、リポジトリ64と、プロッタ65とを含んで構成されている。UI61は、画像の入力を受け付ける画像入力部20を含む構成とされ、パターン生成部63は、各領域の空間周波数を計算する空間周波数計算部24、無色版生成部25を含む構成とされ、リポジトリ64は、LUT26を含む構成とされている。領域分割部62は、領域分割部23と同様のものである。
【0065】
オペレータ60は、UI61へ入力画像の検索を指示する。これを受けてUI61は、入力画像の検索で利用されるリポジトリ64へその指示を送る。リポジトリ64は、その指示を受けて、目的の画像を検索し、その画像でよいかどうかを確認するためにUI61へそのデータを送り返し、UI61が表示画面上にそれを表示し、オペレータ60へ提示する。リポジトリ64は、ハードディスクドライブ(HDD)等の記憶装置と、それを管理するためのコントローラ部と、記憶された内容を管理するコンテンツ管理部とを含んで構成される。
【0066】
オペレータ60は、自己が要求した画像がその提示された画像でよい場合には、透明トナーのパターンである無色版の作成をUI61に指示する。UI61は、この指示を受けて、まず、領域分割部62へ入力画像とその指示を送り、それらを受け取った領域分割部62は、その指示を確認し、入力画像を複数の領域に分割する。この分割は、上述した方法により行われる。そして、領域分割部62は、分割した結果をUI61へ返す。
【0067】
リポジトリ64は、UI61へ目的の画像を返すのではなく、その画像のアドレスを指すポインタであってもよく、領域分割部62は、そのポインタを受け付け、そのポインタを使用してリポジトリ64から画像を取得し、複数の領域に分割することも可能である。なお、領域分割部62は、分割に際して、与えられた画像を解析し、予め定められた基準に従い、領域分割を行う。
【0068】
UI61は、その結果を領域情報としてパターン生成部63へ送り、パターン生成部63は、上述したように、各領域の空間周波数を計算し、主要方位および主要空間周波数を算出する。そして、パターン生成部63は、リポジトリ64へ万線パターン周波数の検索指示とともにこの主要空間周波数を送り、リポジトリ64が保持するLUTを参照して万線パターン周波数を取得する。パターン生成部63は、先に算出した主要方位と、取得した万線パターン周波数とから、万線パターンを生成し、それを無色版画像として送信する。
【0069】
無色版画像は、パターン生成部63に保持されてもよいし、リポジトリ64に保存されてもよいが、図7では、UI61へ送られ、UI61に保持される。このとき、UI61へは、無色版画像そのものでなくても、リポジトリ64へ保存したときのそのアドレスを指すポインタを送ることもできる。UI61は、その無色版画像を受け取ると、その画像をオペレータ60の確認のために表示画面に表示し、オペレータ60に提示する。なお、UI61がポインタを受け取った場合は、UI61は、そのポインタが指し示すアドレスに格納された無色版画像を読み出し、それを表示画面に表示してオペレータ60に提示することができる。
【0070】
オペレータ60は、その無色版画像が提示された内容のものでよい場合、次の指示、例えば、印刷指示をUI61に対して送ることができる。UI61は、その印刷指示を受けると、保持している画像と無色版画像をプロッタ65へ送る。
【0071】
プロッタ65は、印刷を行うための機器であり、電子写真方式の機器である場合、プロッタ全体の制御を行うコントローラ、印刷に使用されるトナー、そのトナーが付着されてトナー像が形成される感光体ドラム、所定位置に露光して感光体ドラム表面にトナー像を形成する露光装置、感光体ドラム上に形成されたトナー像を紙面に転写する転写装置、転写されたトナーを紙面に定着させる定着装置、紙を給紙する給紙装置、紙を搬送する紙搬送装置、紙を排紙する排紙装置等を含んで構成される。
【0072】
プロッタ65では、送られてきた無色版画像データを利用し、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のトナーにより4つの版の画像を形成することに加えて、透明トナーにより無色版画像も形成し、それらを紙面に印刷して、グロッサーと呼ばれる高温高圧による印刷表面処理機を通すことで、高い光沢性を有する印刷物が出力される。これにより、プロッタ65による処理を終了するが、印刷が終了した旨のメッセージをUI61へ送る。UI61は、このメッセージを受け取ると、それをオペレータ60へ提示する。これにより、オペレータ60は、印刷が終了したことを知ることができる。
【0073】
グロッサーを通すと、高温高圧により印刷表面が融解し、平坦になることで表面の平滑性が増すため、高い光沢効果を得ることができる。なお、画像透かし等の用途では、グロッサーを通さずに、透明トナーに通常の印刷と同程度の光沢を与えるだけで済ませることも可能である。
【0074】
図7を参照して大まかな画像処理の流れについて説明してきた。そこで、この画像処理について、図8を参照して詳細に説明する。UI61が画像データと指示を領域分割部62へ送るところまでは、上記と同様であるので省略する。領域分割部62は、それらを受け取り、その指示および画像を解釈し、その指示に従い、予め定められた基準に従い、領域分割を行う。領域分割は、この基準に従って画像を4等分していき、また、基準に従って分割した領域を結合することにより行われる。領域分割部62は、このようにして複数の領域に分割した結果、すなわち分割された各領域がどのような形状であるか等の情報をUI61へ送る。
【0075】
UI61は、その分割結果を画面上に表示してオペレータ60に提示する。このとき、UI61は、その領域分割結果を保持する。オペレータ60は、その分割結果が確認し、それでよい場合、「OK」等の承認メッセージをUI61へ送る。UI61は、オペレータ60からそのメッセージを受け取ると、保持している領域分割結果をメッセージとともに領域分割部62へ送り、領域分割部62は、そのメッセージから、クリア版作成指示ではないことを確認し、パターン生成のために、パターン生成部63へその結果を領域情報として、画像およびパターン生成指示とともに送信する。
【0076】
パターン生成部63は、パターン生成指示を受け取ると、同時に送信されてきた画像および領域情報を用いて、空間周波数展開を行う。一般に分割された領域は、必ずしも矩形にはならないため、各領域について外接矩形を形成し、その領域と外接矩形の間を予め定められた値、例えばRGB=(0,0,0)等で埋め、この矩形領域の情報を空間周波数展開し、二次元の空間周波数情報をその領域に対して得る。次に、主要方位を見つけるための前処理として、得られた二次元の空間周波数情報から極座標ヒストグラムを計算する。極座標ヒストグラムは、上述したように、二次元の空間周波数情報を閾値処理して2値情報を求め、その2値情報を基に作成される。作成された極座標ヒストグラムのピーク値を計算することで、その領域の主要方位を求め、それに続いて、主要方位の空間周波数分布を閾値処理することにより、主要空間周波数を求める。
【0077】
パターン生成部63は、リポジトリ64へ万線パターン周波数の検索指示とともに主要空間周波数を送り、リポジトリ64は、自己が保持するLUT内を、その主要空間周波数を基に検索し、その主要空間周波数に対応する万線パターン周波数を取得する。リポジトリ64は、検索して得られた万線パターン周波数をデータとしてパターン生成部63へ送り、先に決定した主要方位と、ここで取得した万線パターン周波数のデータとを用いて、万線パターンを生成する。なお、万線パターンは、各領域につき生成される。
【0078】
万線パターンは、規則的に並んだ平行線で構成されるものであるため、その平行線の方向である主要方位と、その線数である万線パターン周波数とを用いることで、生成することができる。このため、予め定められた幅の線を用いて、その周期(周波数)を調整することで、単位面積当たりの密度を簡単に調整することができる。なお、ここでは線数としているが、線と線の間隔であってもよい。本発明は、この性質を利用し、万線パターン周波数を調整することで、最終的に得られる透明トナー量の面積密度を調整するとともに、印刷された透明トナーにより万線パターン独特の触感を各領域に対して与えることができる。
【0079】
パターン生成部63は、すべての領域について万線パターンを生成したところで、これらから無色版画像を形成し、それをデータとしてUI61へ送る。UI61は、そのデータを無色版画像として表示画面上に表示することによりオペレータ60に提示する。オペレータ60は、その無色版画像が、提示された内容のものでよい場合、次の指示として印刷指示を送る。UI61は、印刷指示を受けると、保持している画像と無色版画像のデータをプロッタ65へ送る。
【0080】
プロッタ65では、上述した4色のトナーにより4つの版の画像を形成することに加えて、透明トナーにより無色版画像も形成し、それらを紙面に印刷して、グロッサーと呼ばれる高温高圧による印刷表面処理機を通すことで、高い光沢性を有する印刷物を出力する。そして、プロッタ65は、印刷が終了した旨のメッセージをUI61へ送り、UI61がそれをオペレータ60へ提示することにより、一連の処理を終了する。
【0081】
次に、本発明の画像形成装置を用いた画像形成処理の別の実施形態について図9を参照して詳細に説明する。UI61が入力画像と指示を領域分割部62へ送るところまでは、図7および図8に示すシーケンス図と同様であるので省略する。また、パターン生成部63がUI61へ無色版画像を送信した後の処理も、図7および図8に示すシーケンス図と同様であるので省略する。したがって、異なる処理の部分のみを以下に説明する。
【0082】
領域分割部62が領域分割を行い、その結果を、領域情報をパターン生成部63へ送ると、パターン生成部63は、その結果から各領域のサイズおよび平均輝度を計算する。平均輝度は、結果としての領域情報から輝度値を単純平均することにより算出することができる。split and mergeアルゴリズム等では、各領域を同定する番号を割り振ることから、領域のサイズや平均輝度は、この領域番号を用いて管理することができる。
【0083】
分割後の画像を解析することで、その他のアルゴリズムの場合でも同様に領域毎にサイズと平均輝度を管理することが可能である。各領域のサイズおよび平均輝度の管理するためのデータ構造例を、図10に示す。領域サイズは、画素数(ピクセル)で、平均輝度は、入力画素の画像フォーマットに従った形、例えば、RGBそれぞれに8ビットのデータ深さが割り振られている場合には、当該領域内のRGB各平面の画素値の平均を取ることにより求めることができる。
【0084】
図10に示すテーブルには、各領域に割り振られた番号に対応する領域サイズ、すなわちその領域の画素数が入れられ、上記で求められた画素値の平均が平均輝度として入れられる。このようにして、領域の数だけテーブルの入力フィールドが設けられ、その入力フィールドへ値が挿入される。このテーブルも、図6に示したLUTと同様に、レポジトリに格納され、管理される。
【0085】
領域のサイズは、透明トナーパターンを生成する際、独特の触感を与えるために、特定のサイズ以上の領域にのみ万線パターンを与えたいときなどに、領域サイズに従って使用するLUTを変更するために用いることができる。このため、図11に示すような、領域サイズとLUTとを対応付けたテーブルを構成し、これをレポジトリに格納し、管理させることができる。
【0086】
図11では、領域サイズが1〜100画素、101〜1000である場合、LUTs1で識別されるLUTを用い、領域サイズが1001〜10000画素である場合、LUTs2で識別されるLUTを用い、領域サイズが10001以上の画素数である場合、LUTs3で識別されるLUTを用いるように構成されている。
【0087】
領域の平均輝度は、透明トナーが印刷面の光沢を変化させる作用があることから、触感を優先させたい場合や印刷面の光沢を優先させたい場合に、それぞれ適したLUTを使い分けるために用いることができる。このため、図12に示すような、領域の平均輝度とLUTとを対応付けたテーブルを構成し、これをレポジトリに格納し、管理させることができる。
【0088】
図12では、平均輝度が1〜50の場合、LUTi1で識別されるLUTを用い、平均輝度が51〜100の場合、LUTi2で識別されるLUTを用い、平均輝度が101〜150の場合、151〜200の場合、201〜255の場合、LUTi3で識別されるLUTを用いるように構成されている。
【0089】
これらの2つのテーブルは、いずれも最終的に万線パターンの周波数を求めるものであるため、領域サイズから求める方法と、平均輝度から求める方法のいずれかを採用する。このため、いずれを選択するかをユーザに提示し、ユーザの選択により、その選択された方法に基づき、テーブルを選択し、そのテーブルから使用すべきLUTを求め、そのLUTを用いて万線パターンを生成することができる。
【0090】
これらの領域のサイズおよび平均輝度を計算し、図10に示すテーブルに挿入した後、上記と同様の二次元FFT等を用いて空間周波数展開を行い、各領域につき空間周波数を計算する。そして、主要方位を求めるために、計算した空間周波数を二値化し、その頻度を用いて極座標ヒストグラムを求める。このヒストグラムから頻度のピーク値を示す方位を主要方位として求める。そして、主要方位内の空間周波数成分につき正規化を行い、それを閾値処理することにより、主要空間周波数を求める。
【0091】
このようにして計算された主要空間周波数、領域のサイズ、平均輝度をレポジトリ64へ送り、レポジトリ64が、図10〜図12に示すようなテーブルを参照し、万線パターン周波数を検索する。ここには図示していないが、予め設定されたテーブル、あるいはいずれのテーブルを使用するかをオペレータ60に選択させ、それに基づき、使用すべきLUTを決定する。
【0092】
例えば、処理すべき領域の領域番号が1で、領域サイズが50画素であるとき、パターン生成部63は、主要空間周波数、平均輝度とともにレポジトリ64へ送り、図11に示すテーブルを採用することが予め設定されているとき、レポジトリ64は、図10に示すテーブルにこれらを記録し、図11に示すテーブルを参照して、使用すべきLUTがLUTs1であることを検出する。そして、レポジトリ64は、LUTs1を読み出し、主要空間周波数を基に、万線パターン周波数を検索し、その結果として線数を得る。
【0093】
レポジトリ64は、検索して得られた線数をパターン生成部63へ返し、パターン生成部63は、レポジトリ64から受け取ったその線数と、自己が先に求めた主要方位とから、透明トナーのパターンである万線パターンを生成する。
【0094】
この万線パターンは、互いに等間隔で平行な線から構成され、その線幅が予め定められているため、その線の方向である方位と、線数とが分かれば作成することができる。この方位が主要方位であり、この線数は万線パターン周波数から得ることができる。パターン生成部63は、このようにして生成した万線パターンをオペレータ60に提示するためにUI61へ送る。これらの処理は、領域の数だけ繰り返される。
【0095】
上述したように、画像は、領域分割部23により上記split and mergeアルゴリズムやMean Shiftアルゴリズム等の適切なアルゴリズムを使用して各領域に分割され、その分割された領域の空間周波数成分を計算する際、空間周波数解析処理が行われる。この処理においては、上記二次元フーリエ変換のほか、ウェーブレット変換を用いることができる。
【0096】
このウェーブレット変換を用いた空間周波数解析処理について、図13を参照して詳細に説明する。図13は、離散ウェーブレットの中のHaarウェーブレットを用いて解析を行う場合の処理の流れを示したフローチャート図である。この処理は、空間周波数計算部24により実行される。
【0097】
Haarウェーブレットは、二次元ウェーブレットであり、このような二次元ウェーブレットを用いた解析には、主要空間周波数が異なる複数の二次元ウェーブレットを用いて処理を行う方法と、入力画像を複数の解像度へ変換し、予め定められた二次元ウェーブレットの組を用いて処理を行う方法とがある。本発明においては、領域ごとのピーク周波数とその方位が分かればよいことから、いずれの方法でも用いることができる。ここでは、後者の二次元ウェーブレットの組を用いて処理を行う方法を採用した場合について説明する。
【0098】
この解析処理は、領域分割部23により入力画像が領域数Nに分割された後に、ステップ1300から開始される。ステップ1305では、領域の1つを選択する。領域分割部23は、N個に分割された各領域に対し、番号等の領域識別情報を割り当てる。空間周波数計算部24は、例えば、この割り当てられた番号の小さい順に1つの領域を選択する。
【0099】
ステップ1310では、入力画像の解像度R0と、予め設定された低解像度化指標rを用い、選択した領域につき、低解像度化を実施する。例えば、入力画像の解像度R0が1500dpiで、指標rが2であれば、1500/2=750dpiの解像度の画像へ低解像度化する。低解像度化は、画素をトリミングまたはビニングすることにより行うことができる。
【0100】
ステップ1315では、その選択した領域の画像に対し、中間画像を生成する。中間画像は、その中間画像中の位置(x,y)にある画素に、入力画像の原点位置(0,0)と位置(x,y)とを結ぶ線分を対角線とする矩形領域内にある画素値の合計値を与える積分画像である。
【0101】
ステップ1320では、生成した中間画像を利用して、その解像度におけるHaarウェーブレットを計算する。図3(a)に示すウェーブレットWを、中間画像を用いて計算する場合(図3(a)中、黒色で示される画素を+1、白色で示される画素を−1とする)、原点位置(0,0)が左上、この中間画像の右下が位置(4,4)として、中間画像の位置(x,y)における値H(x,y)とすれば、Wは、以下の式5ように表すことができる。
【0102】
【数5】

【0103】
ウェーブレットWは、上記式5に示すように1回の減算により計算することができる。また、各方位のウェーブレットは、Voilaによる物体検出アルゴリズム等を用いて計算することができる。この物体検出アルゴリズムについての詳細は、URL:http://en.wikipedia.org/wiki/Viola%E2%80%93Jones_object_detection_frameworkを参照されたい。
【0104】
ステップ1325では、入力画像の解像度R0を、低解像度化指標rで除した値が、最低解像度Rに一致するかどうかを判定する。一致する場合は、最低解像度Rまで低解像度化したことを示すので、ステップ1335へ進み、次の処理を実行する。これに対し、一致しない場合は、最低解像度Rまで低解像度化していないことを示すので、ステップ1330へ進み、さらなる低解像度化を実施する。ステップ1330では、指標rに1を加算し、ステップ1310へ戻る。上記の例でいうと、R0が1500dpiであり、ステップ1330でrが2+1=3となるため、1500/3=500dpiの解像度へ低解像度化されることとなる。
【0105】
ステップ1335では、各解像度につき計算した各方位のウェーブレットから、その選択した領域内の各画素について最大の出力を与えるウェーブレットとその方位を選択する。その後、ステップ1340では、その選択した領域内の各画素について最大出力を与えるウェーブレットおよび方位につき、投票処理を実行し、最も投票が多かったウェーブレットおよび方位をその選択した領域の主要ウェーブレットおよび主要方位として決定する。
【0106】
ステップ1345では、上記のようにして主要ウェーブレットおよび主要方位を決定した領域が分割した領域数のN個に達したかどうかを判定する。すなわち、すべての領域につき決定したかを判定する。達した場合は、ステップ1350へ進み、この空間周波数解析処理を終了する。これに対し、達していない場合は、未決定の領域が存在することを示すことから、ステップ1305へ戻り、次の領域を選択する。
【0107】
Haarウェーブレットについてのみ説明してきたが、同じ離散ウェーブレットであるDaubechiesウェーブレット等を使用して空間周波数解析処理を実行することも可能である。
【0108】
これまで本発明を上述した実施の形態をもって説明してきたが、本発明は上述した実施の形態に限定されるものではなく、他の実施の形態、追加、変更、削除など、当業者が想到することができる範囲内で変更することができ、いずれの態様においても本発明の作用・効果を奏する限り、本発明の範囲に含まれるものである。したがって、本発明は、上記の画像処理装置および画像処理方法のほか、その方法を実行するためのコンピュータ可読なプログラム、そのプログラムが記録された記録媒体も提供することができるものである。
【符号の説明】
【0109】
10…画像処理装置、11…メモリ、12…CPU、13…記憶装置、14…通信装置、15…内部バス、16…ネットワーク、17…画像読取装置、18…画像出力装置、19…記憶装置、20…画像入力部、21…色空間変換部、22…解像度変換部、23…領域分割部、24…空間周波数計算部、25…無色版生成部、26…LUT、60…ユーザ、61…UI、62…領域分割部、63…パターン生成部、64…リポジトリ、65…プロッタ
【先行技術文献】
【特許文献】
【0110】
【特許文献1】特開2003−341186号公報
【特許文献2】特開2007−011028号公報
【特許文献3】特開2007−199291号公報
【特許文献4】特表2008−532066号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無色の記録材を用いて画像形成を行うために前記無色の記録材のパターンを生成する画像処理装置であって、
入力された画像を、指定されたアルゴリズムと前記画像を構成する画素の画素値とを用いて1以上の領域に分割する領域分割部と、
分割された各前記領域を構成する画素の画素値を用いて当該各領域の空間周波数を計算する空間周波数計算部と、
計算された前記空間周波数と予め設定された線幅の万線パターンとを用いて、前記各領域に対して与える前記無色の記録材のパターンを生成するパターン生成部とを含む、画像処理装置。
【請求項2】
前記計算された空間周波数の中で最も多い周波数の値として得られるピーク値と、前記万線パターンの線数を表す万線パターン周波数とを対応付けた1以上の第1テーブルが格納された記憶部を含む、請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記パターン生成部は、前記各領域につき、前記ピーク値を与える方位から前記万線パターンを構成する線が延びる方位を決定する、請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記記憶部は、前記領域内の画素数として得られる領域サイズと、使用すべき前記第1テーブルとを対応付けた第2テーブルを格納する、請求項2または3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記領域内の画素の平均輝度と、使用すべき前記第1テーブルとを対応付けた第3テーブルを格納する、請求項2または3に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記1以上の第1テーブルを提示するテーブル提示部と、ユーザからの選択に応答して、前記記憶部から選択された前記第1テーブルを読み出すテーブル読出部とをさらに含む、請求項2〜5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記空間周波数計算部は、フーリエ変換またはウェーブレット変換を使用して前記空間周波数を計算する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記領域分割部は、ユーザからの1以上の領域指定を受け付けたことに応答して、前記アルゴリズムを使用して前記1以上の領域に分割する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記領域分割部は、予め定められた画像の特徴セットを基に前記アルゴリズムおよび前記画素値を用いて自動的に前記1以上の領域に分割する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項10】
無色の記録材を用いて画像形成を行うために画像処理装置により前記無色の記録材のパターンを生成する画像処理方法であって、
入力された画像を、指定されたアルゴリズムと前記画像を構成する画素の画素値とを用いて1以上の領域に分割するステップと、
分割された各前記領域を構成する画素の画素値を用いて当該各領域の空間周波数を計算するステップと、
計算された前記空間周波数と予め設定された線幅の万線パターンとを用いて、前記各領域に対して与える前記無色の記録材のパターンを生成するステップとを含む、画像処理方法。
【請求項11】
前記生成するステップでは、前記画像処理装置が備える記憶部に格納された1以上の第1テーブルを用い、前記各領域につき、前記計算された空間周波数の中で最も多い周波数の値として得られたピーク値に基づき万線パターンの線数を決定する、請求項10に記載の画像処理方法。
【請求項12】
前記生成するステップでは、前記各領域につき、前記ピーク値を与える方位から前記万線パターンを構成する線が延びる方位を決定する、請求項11に記載の画像処理方法。
【請求項13】
前記生成するステップでは、前記記憶部に格納された第2テーブルを用い、前記領域内の画素数として得られる領域サイズに基づき、使用すべき前記第1テーブルを取得する、請求項11または12に記載の画像処理方法。
【請求項14】
前記生成するステップでは、前記記憶部に格納された第3テーブルを用い、前記領域内の画素の平均輝度に基づき、使用すべき前記第1テーブルを取得する、請求項11または12に記載の画像処理方法。
【請求項15】
前記1以上の第1テーブルをユーザに提示するステップと、ユーザからの選択に応答して、前記記憶部から選択された前記第1テーブルを読み出すステップとをさらに含む、請求項11〜14のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項16】
前記計算するステップでは、フーリエ変換またはウェーブレット変換を使用して前記空間周波数を計算する、請求項10〜15のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項17】
前記分割するステップは、ユーザからの1以上の領域指定を受け付けたことに応答して、前記アルゴリズムを使用して前記1以上の領域に分割する、請求項10〜16のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項18】
前記分割するステップは、予め定められた画像の特徴セットを基に前記アルゴリズムおよび前記画素値を用いて自動的に前記1以上の領域に分割する、請求項10〜16のいずれか1項に記載の画像処理方法。
【請求項19】
請求項10〜18のいずれか1項に記載の画像処理方法を実行するためのコンピュータ可読なプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−210799(P2012−210799A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−226372(P2011−226372)
【出願日】平成23年10月14日(2011.10.14)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】