説明

画像処理装置、画像処理方法及びプログラム

【課題】重み係数の決定を用いることなく精度よく処理対象画像における輝度値のムラを除去する。
【解決手段】行列変換部12は、処理対象画像を当該処理対象画像の各画素の輝度値を要素とする画像行列に変換する。また、平滑化部13は、行列変換部12が変換した画像行列に対して平滑化行列の畳み込み演算を行うことで、処理対象画像を平滑化した平滑化画像の各画素の輝度値を要素とする平滑化画像行列を生成する。次に、除算部16は、画像行列を平滑化画像行列により除算処理した除算処理行列を算出し、画像変換部19が、除算部16が算出した除算処理行列を画像に変換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明のいくつかの態様は、処理対象画像から空間周波数の低い輝度値のムラを除去し、所定の抽出対象を抽出する画像処理装置、画像処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、セキュリティーに対する要求の高まりを受けて、個人の認証についての重要性が急速に増大している。中でも指紋、虹彩、静脈等本人固有の身体的な特徴を利用したバイオメトリクス認証が実用化されている。
そして、身に着けた認証センサーをトランスポンダーとして利用することにより、ユーザーによる特別な認証動作を行わずに個人認証を行うことができる。このような次世代個人認証を行うために、常時装着可能な静脈認証センサーの開発が求められている。
また、医療分野では、下肢に多く見られる静脈瘤の診断などに用いる静脈血管周辺組織の観察の手段として携帯型の静脈透視技術が求められている。
【0003】
従来、静脈認証センサーは、光を体内に入射し、体内で透過または反射した光を集光することで、静脈像を取得している。しかし、この方法によって透視画像を撮影すると、例えば腱や骨等の血管以外の生体構造等によって観測域内の光強度分布が局所的に不均一となり、生成した透視画像に輝度値のムラが生じるため、明瞭な静脈像を取得することができない。
【0004】
従来は、認証に利用する静脈像の空間周波数成分以外を減算処理によって除去することで上述した問題を解決していた(例えば、非特許文献1を参照)。
つまり、撮影した透視画像(原画像)に対し、所定ピクセル数の低域通過フィルターを作用させ、原画像を平滑化する。次に、原画像と平滑化された画像との差分を画素毎にとることで低周波成分を抑制し、輝度値のムラを抑制した静脈像を得ることができる。このとき、平滑化された画像に補正割合として適当な重み係数を乗じてから減算を行うことで、より明瞭な静脈像を得ることができる。
このような画像ムラ除去方法は式(1)のように表せる。
【0005】
【数1】

【0006】
ただし、forig(x,y)、fLPF(x,y)、及びfsub(x,y)は、それぞれ原画像、低域通過フィルターによって平滑化された画像、及び差分処理画像においてx座標の値がx、y座標の値がyである画素の輝度値を示す離散変数x、yの関数を示すものである。
また、αは差分の重み係数である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Miyuki Kono, Hironori Ueki, and Shin-ichiro Uemura, “Near-infrared finger vein patterns for personal identification,” Applied Optics, Vol. 41, Issue 35, pp. 7429-7436
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の画像ムラ除去方法では、原画像毎に重み係数αの適切な値が異なるため、画像毎に重み係数αの適切な値を検出する必要があった。重み係数αの検出を人手によって行う場合、静脈認証センサーによる自動的な認証ができなくなってしまい、また重み係数αの検出に多大な労力を費やさなければならないという問題があった。また、重み係数αを固定値として計算することもできるが、その場合、画像毎に抽出する静脈像の明瞭度が異なってしまうという問題があった。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、重み係数の決定を用いることなく精度よく処理対象画像における輝度値のムラを除去する画像処理装置、画像処理方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のいくつかの態様は上記の課題を解決するためになされたものであり、複数の画素に対する第1の画像行列を生成する第1の画像行列生成手段と、前記複数の画素が表示する処理対象画像に対して平滑化を行うことにより得られる第1の平滑化画像に対する第2の画像行列を生成する第2の画像行列生成手段と、前記第1の画像行列の第1の部分を前記第1の部分に対応する前記第2の画像行列の第2の部分により除算する除算手段と、前記除算手段により算出された第3の画像行列を変換する画像変換手段と、を備え、前記第1の画像行列は、前記複数の画素の各々に対して設定された輝度値を要素としている、ことを特徴とする画像処理装置である。すなわち、前記画像処理装置は、処理対象画像と平滑化した処理対象画像の各画素間の変化率を画像に出力することでムラの除去を行う。したがって、補正割合を示す重み係数を用いることなく処理対象画像における輝度値のムラを除去することができる。
【0010】
また、本発明のいくつかの態様は、前記第3の画像行列に対して平滑化を行い、第4の画像行列を生成する第4の画像行列生成手段をさらに備える、ことを特徴とする。これにより、画像変換手段は高周波ノイズを除去した画像を出力することができる。
【0011】
また、本発明のいくつかの態様は、前記平滑化が前記処理対象画像から所定の抽出対象の空間周波数以上の周波数成分を除去することによって行われる、ことを特徴とする。これにより、除算手段は、抽出対象の空間周波数より低い空間周波数成分を除去することができる。
【0012】
また、本発明のいくつかの態様は、前記平滑化が前記処理対象画像から前記抽出対象の空間周波数の3倍乃至6倍の平滑化であることが望ましい。
【0013】
また、本発明のいくつかの態様は、前記第2の画像行列生成手段は、前記処理対象画像の各画素の輝度値を要素とする画像行列と全ての要素の値が等しい正方行列との畳み込み演算を行うことで前記第2の画像行列を生成する、ことを特徴とする。
【0014】
また、本発明のいくつかの態様は、前記処理対象画像が血管透視画像であり、抽出対象が血管像である、ことを特徴とする。すなわち、前記画像ムラ除去装置を血管透視画像に対して用いることで、血管透視画像における輝度値のムラを除去し、血管像を鮮明にすることができる。
【0015】
また、本発明のいくつかの態様は、前記画像変換手段は、前記第3の画像行列の要素の最小値と最大値とに基づいて相対的に画素の各々に対する輝度値を決定する、ことを特徴とする。これにより、前記画像変換手段が各要素の値をそのまま輝度値として画像に変換した場合と比較して、コントラストが高い画像を生成することができる。
【0016】
また、本発明のいくつかの態様は、画像処理装置を用いた画像処理方法であって、第1の画像行列生成手段は、複数の画素の各々に対して設定された輝度値を要素とする第1の画像行列を生成し、第2の画像行列生成手段は、前記複数の画素が表示する処理対象画像に対して平滑化を行うことにより得られる第1の平滑化画像に対する第2の画像行列を生成し、除算手段は、前記第1の画像行列の第1の部分を前記第1の部分に対応する前記第2の画像行列の第2の部分により除算し、画像変換手段は、前記除算手段により算出された第3の画像行列を変換し、ことを特徴とする。
【0017】
また、本発明のいくつかの態様は、処理対象画像における輝度値のムラを除去し、所定の抽出対象を抽出する画像ムラ除去装置を、複数の画素に対する第1の画像行列を生成する第1の画像行列生成手段、前記複数の画素が表示する処理対象画像に対して平滑化を行うことにより得られる第1の平滑化画像に対する第2の画像行列を生成する第2の画像行列生成手段、前記第1の画像行列の第1の部分を前記第1の部分に対応する前記第2の画像行列の第2の部分により除算する除算手段、前記除算手段により算出された第3の画像行列を変換する画像変換手段、として動作させ、前記第1の画像行列は、前記複数の画素の各々に対して設定された輝度値を要素としている、ことを特徴とするプログラムである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】画像ムラ除去装置の構成を示す概略ブロック図である。
【図2】画像ムラ除去装置の動作を示すフローチャートである。
【図3】各ステップにおける行列の内容を示す図である。
【図4】従来の手法と本発明による手法とを比較する図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の一実施形態による画像ムラ除去装置(画像処理装置)の構成を示す概略ブロック図である。
画像ムラ除去装置10は、対象画像記憶部11、行列変換部12(第1の画像行列生成手段)、平滑化部13(第2の画像行列生成手段)、行列抽出部14、15、除算部16(除算手段)、平滑化部17(第4の画像行列生成手段)、行列抽出部18、画像変換部19(画像変換手段)を備える。
処理対象画像記憶部11は、画像のムラを除去する対象となる処理対象画像を記憶する。本実施形態では、処理対象画像が血管透視画像であり、抽出対象が静脈像(血管像)である場合を説明する。
行列変換部12は、画像を行列に変換する。
平滑化部13、17は、入力された行列に対して所定の平滑化行列の畳み込み演算を行う。
行列抽出部14、15、18は、入力された行列から部分行列を抽出する。
除算部16は、行列の要素毎の除算を行う。
画像変換部19は、行列を画像に変換する。
【0020】
そして、画像ムラ除去装置10において、行列変換部12は、処理対象画像を当該処理対象画像の各画素の輝度値を要素とする画像行列に変換し、平滑化部13は、行列変換部12が変換した画像行列に対して平滑化行列の畳み込み演算を行うことで、処理対象画像を平滑化した平滑化画像の各画素の輝度値を要素とする平滑化画像行列を生成し、除算部16は、画像行列を平滑化画像行列により除算処理した除算処理行列を算出し、画像変換部19は、除算部16が算出した除算処理行列を画像に変換する。
これにより、重み係数の決定を用いることなく処理対象画像における輝度値のムラを除去することができる。
【0021】
次に、画像ムラ除去装置10の動作を説明する。
図2は、画像ムラ除去装置10の動作を示すフローチャートである。
図3は、各ステップにおける行列の内容を示す図である。
なお、図3では、説明のため、各行列を画像に変換したものを示している。また、各画像は、行列の要素の最小値と最大値とに基づいて相対的に各画素の輝度値を決定している。
まず、画像ムラ除去装置10に接続された静脈認証センサー(図示せず)は、生体の透過画像を撮影すると、処理対象画像記憶部11に透過画像を処理対象画像として登録する。
行列変換部12は、処理対象画像記憶部11が記憶する処理対象画像を取得し、当該処理対象画像の各画素の輝度値を要素とするm×nの画像行列A(第1の画像行列)を生成する(ステップS1)。また、mは、処理対象画像のy軸方向の画素数を示し、nは、処理対象画像のx軸方向の画素数を示す。
図3(1)は、ステップS1で生成される画像行列Aを示している。図3(1)の画像は、処理対象画像と同一のものとなる。
【0022】
行列変換部12が画像行列Aを生成すると、平滑化部13は、行列変換部12が変換した画像行列Aに対して平滑化行列Bの畳み込み演算を行うことで、平滑化画像行列C(第2の画像行列)を算出する(ステップS2)。
図3(2)は、平滑化行列Bを示している。
ここで、平滑化行列Bは、全ての要素の値が等しいm×nの行列である。また、m及びnは、奇数であり、静脈像(0.5mm〜5mm前後)の空間周波数より低い空間周波数に対応する要素数であり、静脈像の空間周波数の1/3倍〜1/6倍の空間周波数に対応する要素数であることが望ましい。ここで、空間周波数とは、単位長に含まれる構造の繰り返しの回数を示す。
なお、平滑化行列Bを予め定義し、平滑化部13の内部メモリ等に記憶させておき、平滑化部13は、内部メモリから平滑化行列Bを読み出して畳み込み演算を行うようにしても良い。
【0023】
なお、平滑化画像行列Cは、処理対象画像を平滑化した平滑化画像の各画素の輝度値を要素とする行列と等価である。
このとき、畳み込み演算は、以下の式によって表せる。
【0024】
【数2】

【0025】
ただし、f(m,n)、f(m,n)及びf(m,n)は、それぞれ画像行列A、平滑化行列B、及び平滑化画像行列Cのm行n列の要素を示す離散変数m、nの関数を示すものである。また、演算子*は畳み込み演算を示すものである。このとき、平滑化画像行列Cは、(m+m−1)×(n+n−1)の行列となる。
図3(3)は、ステップS2で算出される平滑化画像行列Cを示している。図3(3)の画像は、図3(1)の画像と比較して多少ぼやけた画像となっている。また、図3(3)の画像は、縁部の輝度値が低くなっている。これは、行列のエッジ部の畳み込み演算において行列の範囲外の値をゼロとして計算することとなり、平滑化画像行列Cのエッジ部はゼロを加えて畳み込み演算を行った値が含まれるためである。
【0026】
平滑化部13が平滑化画像行列Cを算出すると、行列抽出部14は、平滑化画像行列Cから、エッジにゼロを加えずに畳み込み演算された部分行列を示す有効平滑化画像行列C´を抽出する(ステップS3)。以下に、この処理を行う理由を説明する。
行列のエッジ部における畳み込み演算は、行列の範囲外の値をゼロとして計算することとなるため、図3(3)に示すように、出力される平滑化画像行列Cのエッジ部には行列の範囲外の値によって畳み込み演算を行った値が含まれる。この部分を除去することで平滑化画像行列Cの要素のみを用いて畳み込み演算を行った行列を抽出することができる。
【0027】
有効平滑化画像行列C´は、平滑化画像行列Cの第m行目〜第m行目、第n列目〜第n列目を抽出することで得られる。すなわち、有効平滑化画像行列C´は、(m−m+1)×(n−n+1)の行列となる。
図3(4)は、ステップS3で抽出される有効平滑化画像行列C´を示している。図3(4)の画像は、図3(3)に示す平滑化画像行列Cの縁部の輝度値が低い部分を除去したものとなっている。
【0028】
行列抽出部14が有効平滑化画像行列C´を抽出すると、行列抽出部15は、画像行列Aから有効平滑化画像行列C´と同じ型の部分行列を示す有効画像行列A´を抽出する(ステップS4)。すなわち、有効画像行列A´は、(m−m+1)×(n−n+1)の行列となる。
図3(5)は、ステップS4で抽出される有効画像行列A´を示している。図3(5)の画像は、図3(4)の画像と同じ大きさとなっている。
有効画像行列A´は、画像行列Aの第(1+(m−1)/2)行目〜第(m−(m−1)/2)行目、第(1+(n−1)/2)列目〜第(n−(n−1)/2)列目を抽出することで得られる。これによって、行列抽出部15は、行列抽出部14が抽出した部分行列に相当する部分を抽出することができる。
【0029】
行列抽出部15が有効画像行列A´を抽出すると、除算部16は、行列抽出部15が抽出した有効画像行列A´の要素(第1の部分)を行列抽出部14が抽出した有効平滑化画像行列C´において有効画像行列A´の要素に対応する要素(第2の部分)により除算処理し、静脈像強調画像行列D(第3の画像行列)を算出する(ステップS5)。すなわち、式(3)による計算を実行する。
【0030】
【数3】

【0031】
ただし、fA´(m,n)、fC´(m,n)及びf(m,n)は、それぞれ有効画像行列A´、有効平滑化画像行列B´、及び静脈像強調画像行列Dのm行n列の要素を示す離散変数m、nの関数を示すものである。
なお、静脈像強調画像行列Dは、(m−m+1)×(n−n+1)の行列となる。また、静脈像強調画像行列Dは、有効平滑化画像行列C´や有効画像行列A´と比較して各要素の値が大きくなっている。これは、各要素を除算したためである。
【0032】
図3(6)は、上述したステップS5で算出される静脈像強調画像行列Dを示している。図3(6)の画像は、図3(1)の画像と比較して輝度値のムラが少なく、静脈像が明瞭な画像となっている。しかし、図3(6)の画像には、静脈像より空間周波数が高い皮膚のしわ等の高周波ノイズが映りこんでいる。
【0033】
そこで、除算部16が静脈像強調画像行列Dを算出すると、平滑化部17は、静脈像強調画像行列Dに対して平滑化行列Eの畳み込み演算を行い、静脈像行列F(第4の画像行列)を算出することで高周波ノイズの除去を行う。(ステップS6)。
図3(7)の画像は、平滑化行列Eを示している。
ここで、平滑化行列Eは、全ての要素が等しい値のm×nの行列である。なお、m及びnは、奇数であり、静脈像の空間周波数より高い空間周波数に対応する要素数である。なお、平滑化行列Eを予め定義し、平滑化部17の内部メモリ等に記憶させておき、平滑化部17は、内部メモリから平滑化行列Eを読み出して畳み込み演算を行うようにしても良い。また、平滑化行列Bと平滑化行列Eとは異なる行列であることが望ましい。
【0034】
畳み込み演算は、式(2)と同様の手法によって行われる。このとき、静脈像行列Fは、(m−m+m)×(n−n+n)の行列となる。
図3(8)の画像は、ステップS6で算出される静脈像行列Fを示している。図3(8)の画像は、図3(6)の画像と比較して皮膚のしわ等のノイズが薄くなっている。また、図3(8)の画像は、上述した図3(3)と同様に、縁部の輝度値が低くなっている。
なお、図3(8)の画像は、説明のためコントラストを高くし、輝度値を低くしたものであり、実際は縁部以外の画素の輝度値が高く、全体的に白っぽい画像となる。これは、有効平滑化画像行列C´や有効画像行列A´と比較して各要素の値が大きい静脈像強調画像行列Dに対して畳み込み演算を行うために、静脈像行列Fは、縁部の要素の値が小さく、内部の要素の値が大きい行列となるためである。
【0035】
平滑化部17が静脈像行列Fを算出すると、行列抽出部18は、静脈像行列Fから、エッジにゼロを加えずに畳み込み演算された部分行列を示す有効静脈像行列F´を抽出する(ステップS7)。有効静脈像行列F´は、静脈像行列Fの第m行目〜第(m−m+1)行目、第n列目〜第(n−n+1)列目を抽出することで得られる。すなわち、有効静脈像行列F´は、(m−m−m+2)×(n−n−n+2)の行列となる。
図3(9)の画像は、上述したステップS7で抽出される有効静脈像行列F´を示している。図3(9)の画像は静脈像行列Fの縁部の輝度値が低い部分を除去したものとなっている。
【0036】
行列抽出部18が有効静脈像行列F´を抽出すると、画像変換部19は、有効静脈像行列F´を画像に変換する(ステップS8)。これにより、画像ムラ除去装置10は、処理対象画像における輝度値のムラを除去した画像を出力することができる。また、このとき、画像変換部19は、画像の各画素の輝度値を、有効静脈像行列F´の要素の最小値と最大値とに基づいて相対的に決定する。これにより、各要素の値をそのまま輝度値として画像に変換した場合と比較して、コントラストが高い画像を生成することができる。
また、当該画像は、静脈像強調画像行列Dを画像に変換したものを平滑化した画像と等価であり、静脈像強調画像行列Dを画像に変換したものから皮膚のしわ等の高周波ノイズを除去した画像となる。また、ステップS8で得られる画像は、図3(9)の画像と同一のものである。
【0037】
このように、本実施形態によれば、除算部16が画像行列Aから抽出した有効画像行列A´を平滑化画像行列Cから抽出した有効平滑化画像行列C´により除算することで、処理対象画像から抽出対象を抽出する。
通常、画質を改善するという目的からすると、背景のコントラストの緩やかな変化を取り除くため、低周波成分を取り除く処理を行う。すなわち、低域遮断フィルターを設計する。したがって、処理対象画像を示す行列の各要素から低周波成分を抽出した画像を示す行列の各要素を減算することによって低周波成分を除去することが考えられる。しかし、本発明では、各要素を除算することで、すなわち処理対象画像とその低周波成分画像の各画素間の変化率を画像に出力することで、低周波成分の除去を行っている。
これにより、補正割合を示す重み係数を用いることなく処理対象画像における輝度値のムラを除去することができる。
【0038】
図4は、従来の手法と本発明による手法とを比較する図である。
図4(1)は、輝度値のムラを除去する前の処理対象画像を示している。
図4(2)、図4(3)は、従来の手法により、減算を行うことで輝度値のムラを除去した画像を示している。図4(2)は、式(1)に示す重み係数αの値を0.5とした場合、図4(3)は、式(1)に示す重み係数αの値を0.9とした場合における出力画像である。図4(2)、図4(3)が示すように、重み係数αの値が変化することで結果として得られる静脈像の明瞭度が変化することがわかる。
図4(4)は、本発明による手法で除算を行うことで輝度値のムラを除去した画像を示している。
このように、本発明による手法によって、従来の手法と同等の結果を得ることができ、さらに本発明による手法では従来の手法と比較して重み係数αの決定が不要であることから、より実用性の高い方法であると言える。
【0039】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
例えば、平滑化部13、17は、平滑化行列の畳み込み演算によって平滑化を行う場合を説明したが、これに限られず、他の周波数解析法(例えばフーリエ変換)により処理対象画像の周波数成分を抽出し、当該周波数成分から所定の周波数より高い周波数成分を除去する等、他の方法で平滑化を行っても良い。
【0040】
上述の画像ムラ除去装置10は、内部にコンピューターシステムを有している。そして、上述した各処理部の動作は、プログラムの形式でコンピューター読み取り可能な記録媒体に記憶されており、このプログラムをコンピューターが読み出して実行することによって、上記処理が行われる。ここでコンピューター読み取り可能な記録媒体とは、磁気ディスク、光磁気ディスク、CD−ROM、DVD−ROM、半導体メモリ等をいう。また、このコンピュータープログラムを通信回線によってコンピューターに配信し、この配信を受けたコンピューターが当該プログラムを実行するようにしても良い。
【0041】
また、上記プログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであっても良い。さらに、前述した機能をコンピューターシステムにすでに記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であっても良い。
【符号の説明】
【0042】
10…画像ムラ除去装置 11…処理対象画像記憶部 12…行列変換部 13、17…平滑化部 14、15、18…行列抽出部 16…除算部 19…画像変換部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の画素に対する第1の画像行列を生成する第1の画像行列生成手段と、
前記複数の画素が表示する処理対象画像に対して平滑化を行うことにより得られる第1の平滑化画像に対する第2の画像行列を生成する第2の画像行列生成手段と、
前記第1の画像行列の第1の部分を前記第1の部分に対応する前記第2の画像行列の第2の部分により除算する除算手段と、
前記除算手段により算出された第3の画像行列を変換する画像変換手段と、を備え、
前記第1の画像行列は、前記複数の画素の各々に対して設定された輝度値を要素としている、
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記第3の画像行列に対して平滑化を行い、第4の画像行列を生成する第4の画像行列生成手段をさらに備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記平滑化は、前記処理対象画像から所定の抽出対象の空間周波数以上の周波数成分を除去すること行う、
ことを特徴とする請求項1または請求項2の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記平滑化は、前記処理対象画像から前記抽出対象の空間周波数の3倍乃至6倍の平滑化である、
ことを特徴とする請求項1または請求項3の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記第2の画像行列生成手段は、前記処理対象画像の各画素の輝度値を要素とする画像行列と全ての要素の値が等しい正方行列との畳み込み演算を行うことで前記第2の画像行列を生成する、
ことを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記処理対象画像は、血管透視画像であり、抽出対象は血管像である、
ことを特徴とする請求項1から請求項5の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記画像変換手段は、前記第3の画像行列の要素の最小値と最大値とに基づいて相対的に画素の各々に対する輝度値を決定する、
ことを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
画像処理装置を用いた画像処理方法であって、
第1の画像行列生成手段は、複数の画素の各々に対して設定された輝度値を要素とする第1の画像行列を生成し、
第2の画像行列生成手段は、前記複数の画素が表示する処理対象画像に対して平滑化を行うことにより得られる第1の平滑化画像に対する第2の画像行列を生成し、
除算手段は、前記第1の画像行列の第1の部分を前記第1の部分に対応する前記第2の画像行列の第2の部分により除算し、
画像変換手段は、前記除算手段により算出された第3の画像行列を変換し、
ことを特徴とする画像処理方法。
【請求項9】
処理対象画像における輝度値のムラを除去し、所定の抽出対象を抽出する画像ムラ除去装置を、
複数の画素に対する第1の画像行列を生成する第1の画像行列生成手段、
前記複数の画素が表示する処理対象画像に対して平滑化を行うことにより得られる第1の平滑化画像に対する第2の画像行列を生成する第2の画像行列生成手段、
前記第1の画像行列の第1の部分を前記第1の部分に対応する前記第2の画像行列の第2の部分により除算する除算手段、
前記除算手段により算出された第3の画像行列を変換する画像変換手段、として動作させ、
前記第1の画像行列は、前記複数の画素の各々に対して設定された輝度値を要素としている、
ことを特徴とするプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−211757(P2010−211757A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60044(P2009−60044)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【出願人】(504173471)国立大学法人北海道大学 (971)
【Fターム(参考)】