説明

画像処理装置、電子機器

【課題】 回路規模を小さく抑えながらも、複数のフィルターの出力を合成した画像が不自然にならない画像処理装置を提供する。
【解決手段】 フィルター部30と、フィルター部30が含むフィルターのフィルター処理に関する閾値を設定する閾値設定部22と、を含み、フィルター部30は、第1のフィルター37と、第1のフィルターの入力信号を1階微分した信号を入力信号とする第2のフィルター38と、を含み、閾値設定部22は、第1のフィルターの閾値に基づいて、第2のフィルターの閾値を定める。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置、電子機器等に関する。
【背景技術】
【0002】
画像処理装置において高画質の画像を得るためにはノイズ除去の処理が必要である。例えばデータが圧縮された画像では、ブロック単位の処理で生じるブロックノイズや高周波成分除去によるモスキートノイズ等が含まれている。一方、メリハリのある見栄えのよい画像を得るために、高域強調の画像処理が行われることが好ましい。エッジ部分を強調することで、解像感の高い出力画像を得ることが可能になる。
【0003】
これら両方の処理を実現するために、従来の画像処理装置では、ローパスフィルター等によって入力画像(以下、原画像とも表現する)のノイズを除去した後に、高域強調処理を行うことがあった。つまり、ノイズ除去のためのフィルターと、高域強調のためのフィルターをシーケンシャルに接続する構成がとられることがあった。
【0004】
ここで、ノイズ除去という一種の平滑化処理と高域強調処理とは互いに反対の性質を有する画像処理である。そのため、同じ領域の画素値に対して両方の処理が施されると、一方の処理の効果を他方が弱める可能性がある。そこで、単純に両処理のためのフィルターをシーケンシャルに接続するだけでは十分な効果を得ることは困難であった。
【0005】
そこで、特許文献1の発明は、特定の周波数帯域の近傍の成分を取り出して処理の内容を変化させることで、ノイズ除去に伴う解像度の低下を生じないようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−199695号公報
【特許文献2】特開2009−253341号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1の発明は、特定の周波数帯域の近傍の成分を取り出した中間画像を生成する必要があり、メモリー等のリソースを多く必要とする。また、処理の内容を変化させるための判断を行う処理手段も必要となり、回路規模が大きくなるという問題がある。
【0008】
そこで、特許文献2の発明のように、ノイズ除去のためのフィルターと、高域強調のためのフィルターをパラレルに備えて、処理結果を合成することで回路規模を小さくすることが考えられる。
【0009】
しかし、特許文献2が開示する構成を単純に適用しても、これらのフィルターは互いに反対の性質を有するため、合成によって不連続な画像が発生するおそれがある。また、合成によって、一方のフィルター処理の効果を他方が弱めてしまうおそれもある。結果として、出力される画像は不自然なものとなる可能性が高い。
【0010】
本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものである。本発明のいくつかの態様によれば、回路規模を小さく抑えながらも、複数のフィルターの出力を合成した画像が不自然にならない画像処理装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、画像処理装置であって、フィルター部と、前記フィルター部が含むフィルターのフィルター処理に関する閾値を設定する閾値設定部と、を含み、前記フィルター部は、第1のフィルターと、前記第1のフィルターの入力信号を1階微分した信号を入力信号とする第2のフィルターと、を含み、前記閾値設定部は、前記第1のフィルターの閾値に基づいて、前記第2のフィルターの閾値を定める。
【0012】
(2)この画像処理装置において、前記フィルター部は、注目画素と周辺画素の画素値の差分に基づく第1の信号を入力信号とするノイズ除去フィルターを前記第1のフィルターとし、前記第1の信号を1階微分した第2の信号を入力信号とする高域強調フィルターを前記第2のフィルターとしてもよい。
【0013】
これらの発明の画像処理装置は、フィルター部に第1のフィルターと、第1のフィルターの入力信号を1階微分した信号を入力信号とする第2のフィルターと、を含む。そして、第1のフィルターの閾値に基づいて、第2のフィルターの閾値を定める。画像処理装置は、第2のフィルターの閾値を定めるのに、例えば第1のフィルターの閾値を入力値とするテーブルによって第2のフィルターの閾値を定めることができる。そのため、回路規模を小さく抑えることが可能である。
【0014】
このとき、第1のフィルターと第2のフィルターの閾値は、一方の変化に連動して変化する。そのため、例えば原画像の平均輝度の変化に基づいて第1のフィルターの閾値が変化した場合、第2のフィルターの閾値も連動して変化する。そのため、例えば排他的処理といった第1のフィルターと第2のフィルターとの間の関連性を、常に保つことが可能になる。
【0015】
ここで、第1のフィルターはノイズ除去フィルターであって、第2のフィルターは高域強調フィルターであってもよい。ノイズ除去フィルターの入力信号は、注目画素と周辺画素の画素値の差分に基づく第1の信号である。そして、高域強調フィルターの入力信号は、第1の信号を1階微分した第2の信号である。
【0016】
ここで、信号とは空間的にとらえた画素値の集合を指す。例えば、注目画素と水平方向の2つの隣接画素の画素値を、走査時の画素の順番に従って並べたものも信号の一部である。なお、信号とは空間的のみならず、時間的にとらえた画素値の集合を指してもよい。例えば、画像において特定の位置にある画素について、数フレームにおける画素値の集合を指して信号としてもよい。
【0017】
また、閾値とはフィルター処理の性質を定める値である。例えば、ノイズ除去フィルターが非線形関数F(x)に従う場合、xの絶対値が閾値未満の場合に、F(x)=0であってもよい。また、xの絶対値が閾値以上の場合に、F(x)=xであってもよい。また、閾値は1つに限らず、複数あってもよい。
【0018】
(3)この画像処理装置において、入力画素値に基づいて、前記第1のフィルターの閾値を定める解析情報を生成する解析部と、前記入力画素値、前記第1のフィルターの出力値、および前記第2のフィルターの出力値に基づいて出力画素値を生成する合成部と、を含んでもよい。
【0019】
(4)この画像処理装置において、前記合成部は、前記入力画素値、前記第1のフィルターの出力値、および前記第2のフィルターの出力値の和を前記出力画素値としてもよい。
【0020】
これらの発明の画像処理装置は解析部と合成部を含む。解析部は、入力画素値に基づいて第1のフィルターの閾値を定める解析情報を生成する。解析情報は、例えば入力画素値についての輝度の情報であってもよい。第1のフィルターの閾値を解析情報に基づいて動的に変化させることが可能であるため、局所的な特徴(例えば、平均輝度の大きな変化)に応じた適切なフィルター処理を行うことができる。
【0021】
解析部は、現在の入力画素値だけでなく、バッファー等に保持した過去の入力画素値も用いて解析を行ってもよい。例えばフレームバッファーを備えていて、前のフレームの画像に基づいて必要な解析情報を生成してもよい。このとき、前のフレーム画像から平均輝度を取得して解析情報として生成してもよい。
【0022】
合成部は、並列に処理を行う第1のフィルター、第2のフィルターの出力を合成する。並列にフィルターを配置して、それらの出力を合成する構造であるので回路規模は小さい。さらに、これらの発明では、例えば一方のみが非ゼロの値を出力する、といった第1のフィルターと第2のフィルターとの間の関連性が常に保たれている。
【0023】
そのため、第1のフィルター、第2のフィルターの閾値が変動しても、合成部においては、例えば単純な加減算といった一定の合成処理を行うだけでよい。例えばフィルター処理後の出力値を解析して判断する手段を必要としないため、合成部についても回路規模は小さい。
【0024】
ここで、合成部は、入力画素値、第1のフィルターの出力値、および第2のフィルターの出力値の和を出力画素値としてもよい。合成処理は単純にこれらの出力値を加算するだけであるので、合成部は加算器だけで構成され、回路規模削減の効果が大きい。
【0025】
(5)この画像処理装置において、前記閾値設定部は、下記式(1)によって前記第2のフィルターの閾値を定めてもよい。
【0026】
【数1】

但し、εは、前記第1のフィルターの閾値の1つであり、Cは、前記第2のフィルターのεに対応する閾値である。
【0027】
(6)この画像処理装置において、前記閾値設定部は、下記式(2)によって前記第2のフィルターの閾値を定めてもよい。
【0028】
【数2】

但し、εは、前記第1のフィルターの閾値の1つであり、Cは、前記第2のフィルターのεに対応する閾値であり、Nは、固定値である2以上の整数である。
【0029】
(7)この画像処理装置において、前記フィルター部は、異なる2つの閾値を有する前記第1のフィルターを含んでもよい。
【0030】
(8)この画像処理装置において、前記フィルター部は、前記第1のフィルターの異なる2つの閾値の一方を固定値としてもよい。
【0031】
これらの発明では、上記の式(1)によってフィルターの閾値の間の関係を定めてもよい。フィルター部は、第1のフィルターと、第1のフィルターの入力信号を1階微分した信号を入力信号とする第2のフィルターと、を含む。式(1)は、第1のフィルターの入力信号と第2のフィルターの入力信号との関係を表すものである。これにより、第1のフィルターの閾値εと、第2のフィルターの閾値Cとが1対1に対応する。
【0032】
ここで、これらの発明では、上記の式(2)によってフィルターの閾値の間の関係を定めてもよい。式(1)と比べて、ルート計算を必要としないため、閾値設定部の回路規模を抑えることができる。式(2)のNは例えば2である。このとき、閾値設定部は、第2のフィルターの閾値Cを第1のフィルターの閾値εを2倍にするだけで求めることができる。つまり、1ビットのシフト動作で第2のフィルターの閾値Cを定めることができるので、更に回路規模を抑えることができる。
【0033】
ここで、第1のフィルターの閾値εはε、εの2つであってもよい。このとき、第2のフィルターの閾値Cも2つである。つまり、ε、εのそれぞれに対応してC、Cの2つの閾値を有することになる。
【0034】
この場合において、ε、εの一方が固定値であってもよい。例えば、εが固定値の場合には、対応するCも固定値である。すると、εの変動に応じてCを生成するテーブルが不要となり、更に回路規模を抑えることができる。
【0035】
(9)この画像処理装置において、前記フィルター部は、同じ注目画素について、多段階に前記第1のフィルターおよび前記第2のフィルターによるフィルター処理を施してもよい。
【0036】
(10)この画像処理装置において、前記フィルター部は、少なくとも垂直方向、水平方向の2段階で、前記第1のフィルターおよび前記第2のフィルターによるフィルター処理を施してもよい。
【0037】
これらの発明では、同じ注目画素について、多段階に第1、第2のフィルターによるフィルター処理を施す。そのため、フィルターの回路規模を抑えることが可能である。ここで、多段階とは、例えば垂直方向、水平方向の2段階であってもよい。また、斜め方向の処理が行われてもよいし、フレームバッファーを有する場合にはフレーム間でのフィルター処理を行ってもよい。
【0038】
ただし、第1のフィルターによって垂直方向のフィルター処理が行われる場合には、第2のフィルターでも垂直方向のフィルター処理を行う必要がある。それぞれの段階において、第1のフィルターの入力信号を1階微分した信号が、第2のフィルターの入力信号であるという関係を満たすためである。
【0039】
(11)本発明は、前記のいずれかに記載の画像処理装置を含む電子機器である。
【0040】
本発明の電子機器は、回路規模を小さく抑えながらも、複数のフィルターの出力を合成した画像が不自然にならない画像処理装置を含む。そのため、自然でメリハリのある画像の表示等が可能である。ここで、電子機器に含まれる画像処理装置は、画像処理回路といったハードウェアであってもよいし、ソフトウェアで画像処理の機能が実現されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】第1実施形態の画像処理装置のブロック図。
【図2】図2(A)〜図2(C)は画像信号、勾配、ラプラシアンの関係を表す図。
【図3】図3(A)〜図3(B)は第1、第2のフィルターの閾値の対応を示す図。
【図4】図4(A)は原画像の図。図4(B)は入力画素値の方向を説明する図。
【図5】変形例の画像処理装置のブロック図。
【図6】図6(A)〜図6(B)は変形例における第1、第2のフィルターの閾値の対応を示す図。
【図7】適用例の電子機器のブロック図。
【図8】図8(A)は電子機器の例であるパーソナルコンピューターの図。図8(B)は電子機器の例であるプロジェクターの図。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
【0043】
1.第1実施形態
本発明の第1実施形態について図1〜図4を参照して説明する。
【0044】
1.1.画像処理装置の構成
図1は、第1実施形態における画像処理装置10のブロック図を示す。画像処理装置10は、解析部20、閾値設定部22、フィルター部30、合成部40を含む。
【0045】
フィルター部30は、第1のフィルター37と第2のフィルター38とを含む。本実施形態では、第1のフィルター37はノイズ除去を行うεフィルターである。第1のフィルター37は、入力画素値200と2つの閾値ε224、閾値ε225を受け取り、出力値237を生成する。
【0046】
第2のフィルター38は画像のエッジ部分を強調する高域強調フィルターである。第2のフィルター38は、入力画素値200と2つの閾値C226、閾値C227を受け取り、出力値238を生成する。なお、第1のフィルター37、第2のフィルター38の詳細については後述する。
【0047】
解析部20は、入力画素値200に基づいて、閾値ε224および閾値ε225を定めるための解析情報220を生成する。解析情報220は、本実施形態のように輝度に関する平均値であってもよいし、最大値、最小値、中央値、その他の統計値であってもよい。
【0048】
ここで、解析部20はフレームバッファーを備え、入力画素値200を保存して1フレーム分の画素について輝度の平均値を求めてもよい。また、符号化などの処理の単位である画素ブロック(例えば8画素×8画素)毎に、そのブロックに含まれる画素についての輝度の平均値を求めてもよい。なお、入力画素値200は、例えばYUV形式などの輝度情報を含む画素値であってもよいし、他の形式であって解析部20が演算で輝度を求めてもよい。また、画素値の各成分は例えば8ビットの信号であって0〜255の値をとってもよい。
【0049】
閾値設定部22は、解析情報220を受け取り、第1のフィルター37、第2のフィルター38の閾値を生成する。閾値設定部22は、第1のテーブル24、第2のテーブル25、第1の変換部26、第2の変換部27を含む。ここで、第1のテーブル24、第2のテーブル25は、解析情報220を変換して、それぞれ閾値ε224、閾値ε225を出力する。
【0050】
第1の変換部26、第2の変換部27は、それぞれ閾値C226、閾値C227を出力する。ここで、第1の変換部26、第2の変換部27は、解析情報220に基づいてこれらの閾値を演算で求めるのではなく、それぞれ閾値ε224、閾値ε225から後述する関係式に基づいてこれらの閾値を求める。
【0051】
合成部40は、入力画素値200、第1のフィルターの出力値237、および第2のフィルターの出力値238に基づいて出力画素値202を生成する。具体的には、合成部40は、入力画素値200、出力値237、238を単純に加算して出力画素値202を生成する。そのため、合成部40は加算器で構成でき、回路規模を小さくすることができる。
【0052】
1.2.第1および第2のフィルター
1.2.1.両フィルターの連動性
本実施形態の画像処理装置10では、フィルター部30はεフィルターである第1のフィルター37と、高域強調フィルターである第2のフィルター38を含む。なお、以下においては、第1のフィルター37の閾値ε224、閾値ε225をそれぞれ単にε、εとも表す。そして、第2のフィルター38の閾値C226、閾値C227をそれぞれ単にC、Cとも表す。
【0053】
ここで、第1の変換部26においてεとCとが対応付けられ、第2の変換部27においてεとCとが対応付けられている。本実施形態における関係式は、下記式(1)である。
【0054】
【数1】

但し、式(1)のεがε、εの場合、CはそれぞれC、Cに対応する。また、変形例として、Nを2以上の整数とする下記の式(2)が用いられてもよい。
【0055】
【数2】

式(1)および式(2)の詳しい説明は後述するが、これらの関係式によって、εの変動があっても、第1のフィルター37と第2のフィルター38との間の関連性が保たれることになる。
【0056】
1.2.2.第1のフィルターの定義式
本実施形態の第1のフィルター37は、下記式(3)〜式(5)を満たす。
【0057】
【数3】

ここで、式(3)のkは注目画素を中心とする領域における周辺画素を表す番号である。本実施形態の入力画素値200は、注目画素の画素値を含む複数の画素値で構成されている。このとき、x(n)は入力画素値200のうちの注目画素の画素値が対応する。
【0058】
そして、x(n+k)は入力画素値200のうちの注目画素以外の周辺画素の画素値が対応する。そして、1次元画像の場合、k=−1、又は+1である。また、式(3)のΔEPS(n)は、サンプリングタイミングnにおける出力値237である。
【0059】
また、式(3)のαは式(5)を満たすローパスフィルター係数である。関数F(h)は、hを差分値(ここでは、周辺画素の画素値と注目画素の画素値との差分)として式(4)を満たす非線形関数である。なお、ε、εはともに正の閾値であって、ε<εを満たすものとする。
【0060】
なお、別の実施形態として、第1のフィルター37は、|x(n+k)−x(n)|>εとなるkをカウントし、そのカウント値が一定値以上の場合にF(h)=hとする非線形フィルターであってもよい。
【0061】
1.2.3.第2のフィルターの定義式
本実施形態の第2のフィルター38は、下記式(6)〜式(7)を満たす。
【0062】
【数4】

ここで、式(6)は1次元画像の高域強調フィルターの式である。βは強度係数であり、固定値であってもよい。本実施形態の入力画素値200は、注目画素の画素値を含む複数の画素値で構成されている。このとき、x(n)は入力画素値200のうちの注目画素の画素値が対応する。そして、x(n−1)、x(n+1)は入力画素値200のうちの注目画素に隣接する画素の画素値である。また、式(6)のΔEDGE(n)は、サンプリングタイミングnにおける出力値238である。
【0063】
関数G(h)は、hを高域成分として式(7)を満たす非線形関数である。なお、C、Cはともに正の閾値であって、C<Cを満たすものとする。
【0064】
1.2.4.第1、第2のフィルターの入力信号の関係
ここで、図2(A)は、1次元画像の画素値を空間上における画素順(n)に並べて関数f(n)として表したものである。この関数f(n)をnで1階微分したものは、図2(B)のようになる。これは、画素値の傾き、すなわち画素値の差分を表す。また、さらにnで微分すると、図2(C)のようになる。これは、画素値からなる関数f(n)のラプラシアンである。
【0065】
ここで、式(3)は、画素値の差分(第1の信号)を入力信号とするフィルターを定義する式である。また、式(6)は、画素値からなる関数f(n)のラプラシアン(第2の信号)を入力信号とするフィルターを定義する式である。
【0066】
よって、本実施形態の第1のフィルター37は、第1の信号を入力信号とするノイズ除去フィルター(εフィルター)であり、第2のフィルター38は、第1の信号を1階微分した第2の信号を入力信号とする高域強調フィルターである。なお、再び図1を参照するものとする。
【0067】
ここで、下記の式(8)を満たすパラメーターtを導入する。なお、εは第1のフィルター37の閾値の1つであって、第1の信号における1つの値である。
【0068】
【数5】

ここで、式(8)の両辺を微分すると、下記の式(9)のような式が得られる。
【0069】
【数6】

このとき、第1の信号を微分したものは第2の信号である。式(9)は、第2の信号における1つの値Cが、第1の信号のεに対応した値であることを示している。つまり、第1のフィルター37の閾値εに対応させて、第2のフィルター38の閾値Cを定めることができる。
【0070】
ここで、上記の式(8)および式(9)から、εとCとを直接関連付けると前記の式(1)のようになる。そして、本実施形態では、第1の変換部26、第2の変換部27がε、εから式(1)に従ってそれぞれC、Cを生成する。具体的には下記の式(10)の通りである。
【0071】
【数7】

図3(A)〜図3(B)は、本実施形態における、第1、第2のフィルターの閾値の対応を示す図である。図3(A)は第1のフィルターにおける非線形関数F(h)の出力を表す。図3(A)の差分値とは、式(4)のhである。また、図3(B)は第2のフィルターにおける非線形関数G(h)の出力を表す。図3(B)の高域成分とは、式(7)のhである。図3(A)〜図3(B)によって、第1のフィルターにおける閾値−ε、−ε、ε、εは、それぞれ第2のフィルターにおける閾値−C、−C、C、Cに対応することがわかる。
【0072】
ここで、第1のフィルターへの入力hk0に対応する第2のフィルターへの入力をhとする。このとき、例えばε<hk0<εならば(図3(A))、C<h<Cとの関係が成り立つ(図3(B))。この例では、高域強調フィルター(第2のフィルター)の出力ΔEDGE(n)は非ゼロの値であるが、εフィルター(第1のフィルター)の出力ΔEPS(n)はゼロになる。
【0073】
この例のように、閾値を式(1)によって対応づけることで、本実施形態の高域強調フィルター(第1のフィルター)とεフィルター(第2のフィルター)とが排他的に実施される。よって、それぞれのフィルターの出力を合成しても、一方の処理の効果を他方が弱めるといった問題が生じない。そのため、不自然な画像が生成されることを回避することができる。なお、排他的に実施とは、排他的に非ゼロの値を出力することをいう。
【0074】
1.2.5.多段階処理
ここで、本実施形態の第1のフィルター、第2のフィルターは共に1次元画像を扱う。このことは、フィルターの演算処理の負荷を軽減し、回路規模を小さくする効果がある。しかし、一般に画像処理においては、2次元以上の画像処理ができることが好ましい。
【0075】
本実施形態では、同時に処理する第1のフィルターと第2のフィルターの入力信号の方向が同じであれば、水平方向、垂直方向、斜め方向のいずれも扱うことが可能である。よって、1つの注目画素について、例えば、最初のステップで垂直方向の入力信号を処理し、次のステップで水平方向の入力信号を扱うことで実質的に2次元処理を実現することが可能である。
【0076】
図4(A)は、原画像300と入力画素値200(図1参照)の対応を説明するための図である。原画像300は水平方向にN画素、垂直方向にM画素を含む。その画素Pijは画素の位置に応じて添え字が付されている。添え字iはMまでの自然数であり垂直方向のiライン目の画素であることを示す。添え字jはNまでの自然数であり水平方向のjカラム目の画素であることを示す。
【0077】
例えば、図4(A)の領域302は、注目画素P34を中心とした3×3の領域の画素を表す。本実施形態の画像処理装置10は、このような3×3の領域のうち必要な画素の画素値を入力画素値200(図1参照)として受け取ってもよい。また、3×3の領域の画素値を入力画素値200として受け取って、必要に応じて画像処理装置10が画素を選択してもよい。
【0078】
図4(B)は、3×3の領域のうち必要な画素の画素値を選択する方法の1つの例を示すものである。例えば、メモリーREG〜REGに注目画素X(n)および周辺画素X〜X3、〜Xの画素値を保存する。そして、例えば第1のフィルター、第2のフィルターが水平方向Dの処理をする場合には、入力画素値200として画素X、X(n)、Xの画素値を受け取る。また、垂直方向Dの処理をする場合には、入力画素値200として画素X、X(n)、Xの画素値を受け取る。そして、斜め方向Dの処理をする場合には、入力画素値200として画素X、X(n)、Xの画素値を受け取ってもよい。
【0079】
なお、図2(A)〜図2(C)においてnは空間上における画素順としたが、nを時間軸上における画素順としても、フィルターにおける扱いは同じである。つまり、画像の特定位置の画素の複数フレームにおける画素値の変化を1次元画像の関数f(n)としてもよい。そして、例えば2次元処理に時間軸方向も加えて3次元処理をすることも可能である。
【0080】
1.3.合成部
再び図1を参照すると、本実施形態の合成部40は、入力画素値200、第1のフィルターの出力値237、および第2のフィルターの出力値238から、下記の式(11)に従って出力画素値202を求める。
【0081】
【数8】

ここで、y(n)は出力画素値202であり、x(n)は入力画素値200のうちの注目画素の画素値である。ΔEPS(n)、ΔEDGE(n)は、それぞれ出力値237、238であって、前記の式(3)、式(6)で定義される。
【0082】
図3(A)〜図3(B)を用いて説明したように、本実施形態では高域強調フィルター(第1のフィルター)とεフィルター(第2のフィルター)とが排他的に実施される。よって、合成部はこれらのフィルターの出力値と注目画素の画素値とを単純に加算するだけでよい。したがって、合成部は加算器だけで構成することが可能であり、回路規模を小さくすることが可能である。
【0083】
このように、本実施形態の画像処理装置は、回路規模を小さく抑えながらも、高域強調フィルター(第1のフィルター)とεフィルター(第2のフィルター)の関連性を保つことで、合成した画像が不自然にならないようにできる。
【0084】
2.変形例
本実施形態の変形例について図5〜図6を参照して説明する。なお、図1〜図4と同じ要素には同じ符号を付しており説明を省略する。
【0085】
図5は、変形例の画像処理装置10Aのブロック図である。第1実施形態(図1参照)の場合と異なり、閾値ε、Cは記憶部50から固定値としてフィルター部に供給される。このとき、閾値設定部22Aは、第1のテーブル24、第1の変換部26だけを含み、閾値ε、Cだけが変動する。
【0086】
変形例の画像処理装置10Aは、閾値設定部22が第2のテーブル25(図1参照)、第2の変換部27(図1参照)を含まないため、さらに回路規模を小さくすることができる。なお、記憶部50は、例えばROMやRAMでもよいし、その他のメモリーであってもよい。
【0087】
ここで、変形例においては、第1の変換部26は前記の式(1)に代えて、前記の式(2)に従って閾値Cを定めてもよい。例えば、式(2)においてN=2とすると、閾値Cは下記の式(12)のようになる。
【0088】
【数9】

このとき、第1の変換部26は、ルート計算を必要としないため、閾値設定部の回路規模を抑えることができる。
【0089】
この場合において、第1、第2のフィルターの閾値の対応は図6(A)〜図6(B)のようになる。式(12)によってCを定義しているため、第1実施形態とは異なり、第1、第2のフィルターの出力が共にゼロとなる区間R−、R+が存在する。しかし、これらの区間については、注目画素の元の画素値がそのまま出力されることになる(式(11)でΔEPS(n)=ΔEDGE(n)=0)。
【0090】
したがって、変形例でも、出力する画像が不自然にならないようにでき、第1実施形態に比べて更に回路規模を小さくすることが可能になる。なお、その他の構成については、第1実施形態と同じであり、説明を省略する。
【0091】
3.適用例
本発明の電子機器への適用例について図7〜図8を参照にして説明する。図7は適用例に係る電子機器1のブロック図である。電子機器1は、CPU2、入力部3、記憶部4、表示部5、画像処理部10Bを含む。画像処理部10Bは、第1実施形態の画像処理装置10又は変形例の画像処理装置10Aに対応する。
【0092】
CPU2は、他のブロックを制御し様々な演算や処理を行う。CPU2は、例えば記憶部4からプログラムを読み込み、プログラムに従って画像処理部10Bにノイズ除去、高域強調を実行させてもよい。
【0093】
入力部3は、電子機器1の内部又は外部からデータなどを受け取る。入力部3は、例えば入力画像のデータを受け取り、画像処理部10Bが受け取るのに適したフォーマットの画素値へと変換してもよい。
【0094】
記憶部4は、例えばDRAMやSRAMなどのメモリーであってもよいし、ROMを含んでいてもよい。CPU2が使用するプログラムは、例えば記憶部4が含むROMに書かれていてもよい。
【0095】
表示部5は、画像処理部10Bでノイズ除去、高域強調を行った画像を出力するためのものである。例えばLCDや電気泳動表示装置であってもよい。
【0096】
例えば電子機器1において、CPU2はリセット後にプログラムを記憶部4から読み込み、コマンドによって画像処理部10Bに画像処理を自動実行させる。このとき、画像処理部10Bによってノイズ除去されながらも、高域強調もされている、自然でメリハリのある画像が表示部5に出力される。
【0097】
図8(A)に、電子機器1の1つであるパーソナルコンピューター970の外観図の例を示す。このパーソナルコンピューター970は、表示部5として写真、動画などの画像を表示するLCD975を備える。パーソナルコンピューター970が画像処理部10Bを含むことで、小型サイズでありながら、自然でメリハリのある画像をLCD975に表示することができる。
【0098】
図8(B)に、電子機器1の1つであるプロジェクター980の外観図の例を示す。このプロジェクター980は、表示部5に対応する投影部985からスクリーン989に画像を拡大して表示する。このとき、画像は拡大されるため、ノイズが含まれていると非常に目立ち、高域強調されていないと解像度が低下した印象を与える。プロジェクター980が画像処理部10Bを含むことで、小型サイズでありながら、ノイズが除去されて、解像感の高い画像を投影することが可能になる。
【0099】
本実施形態の画像処理装置は、これらの例に限らず、画像を表示させる様々な電子機器に適用可能である。いずれの場合にも、小型サイズでありながら、自然でメリハリのある画像表示を行う電子機器を提供できる。
【0100】
4.その他
これらの例示に限らず、本発明は、実施の形態で説明した構成と実質的に同一の構成(例えば、機能、方法および結果が同一の構成、あるいは目的および効果が同一の構成)を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成の本質的でない部分を置き換えた構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成と同一の作用効果を奏する構成又は同一の目的を達成することができる構成を含む。また、本発明は、実施の形態で説明した構成に公知技術を付加した構成を含む。
【符号の説明】
【0101】
1…電子機器、2…CPU、3…入力部、4…記憶部、5…表示部、10,10A,10B…画像処理装置(画像処理部)、20…解析部、22,22A…閾値設定部、24…第1のテーブル、25…第2のテーブル、26…第1の変換部、27…第2の変換部、30…フィルター部、37…第1のフィルター、38…第2のフィルター、40…合成部、50…記憶部、200…入力画素値、202…出力画素値、220…解析情報、224…閾値ε、225…閾値ε、226…閾値C、227…閾値C、237,238…出力値、300…原画像、302…領域、970…パーソナルコンピューター、975…LCD、980…プロジェクター、985…投影部、989…スクリーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルター部と、
前記フィルター部が含むフィルターのフィルター処理に関する閾値を設定する閾値設定部と、を含み、
前記フィルター部は、
第1のフィルターと、
前記第1のフィルターの入力信号を1階微分した信号を入力信号とする第2のフィルターと、を含み、
前記閾値設定部は、
前記第1のフィルターの閾値に基づいて、前記第2のフィルターの閾値を定める画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置において、
前記フィルター部は、
注目画素と周辺画素の画素値の差分に基づく第1の信号を入力信号とするノイズ除去フィルターを前記第1のフィルターとし、
前記第1の信号を1階微分した第2の信号を入力信号とする高域強調フィルターを前記第2のフィルターとする画像処理装置。
【請求項3】
請求項1乃至2のいずれかに記載の画像処理装置において、
入力画素値に基づいて、前記第1のフィルターの閾値を定める解析情報を生成する解析部と、
前記入力画素値、前記第1のフィルターの出力値、および前記第2のフィルターの出力値に基づいて出力画素値を生成する合成部と、を含む画像処理装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像処理装置において、
前記合成部は、
前記入力画素値、前記第1のフィルターの出力値、および前記第2のフィルターの出力値の和を前記出力画素値とする画像処理装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかに記載の画像処理装置において、
前記閾値設定部は、
下記式(1)によって前記第2のフィルターの閾値を定める画像処理装置。
【数1】

但し、
εは、前記第1のフィルターの閾値の1つであり、
Cは、前記第2のフィルターのεに対応する閾値である。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかに記載の画像処理装置において、
前記閾値設定部は、
下記式(2)によって前記第2のフィルターの閾値を定める画像処理装置。
【数2】

但し、
εは、前記第1のフィルターの閾値の1つであり、
Cは、前記第2のフィルターのεに対応する閾値であり、
Nは、固定値である2以上の整数である。
【請求項7】
請求項5乃至6のいずれかに記載の画像処理装置において、
前記フィルター部は、
異なる2つの閾値を有する前記第1のフィルターを含む画像処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の画像処理装置において、
前記フィルター部は、
前記第1のフィルターの異なる2つの閾値の一方を固定値とする画像処理装置。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれかに記載の画像処理装置において、
前記フィルター部は、
同じ注目画素について、多段階に前記第1のフィルターおよび前記第2のフィルターによるフィルター処理を施す画像処理装置。
【請求項10】
請求項9に記載の画像処理装置において、
前記フィルター部は、
少なくとも垂直方向、水平方向の2段階で、前記第1のフィルターおよび前記第2のフィルターによるフィルター処理を施すノイズ除去装置。
【請求項11】
請求項1乃至10のいずれかに記載の画像処理装置を含む電子機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2013−41404(P2013−41404A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177634(P2011−177634)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】