説明

画像処理装置、顕微鏡システム、画像処理方法、及び画像処理プログラム

【課題】生体組織標本の切片標本を撮像して得られた一連の標本画像に対し、もとの生体組織標本をスライスした順序に対応した並び順を付与することができる画像処理装置等を提供する。
【解決手段】生体組織標本をスライスし染色を施した複数の切片標本に対応する複数の画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該種類ごとの画像である要素画像を作成する要素画像作成部452と、複数の画像間で、同じ種類の要素画像の連続性を評価する連続性評価アルゴリズム453a、453b、…を有し、連続性の評価結果に基づいて、複数の画像の並び順を判定する連続性評価部453とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、顕微鏡により取得された生体組織の標本画像を処理する画像処理装置、顕微鏡システム、画像処理方法、及び画像処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、生体組織標本、特に病理標本においては、臓器摘出や針生検等によって得た標本を厚さ数ミクロン程度にスライスした後、様々な所見を得るために顕微鏡で拡大観察することが広く行われている。近年では、標本をスライスして得た切片標本の観察像を電子的な画像データに変換し、画像処理装置において一連の切片標本の画像を3次元的に構成して3D表示を行ったり、比較診断のために1つの画面に複数枚の画像を並べて表示することも多い。
【0003】
例えば、特許文献1には、複数の連続切片画像の輪郭についての位置データを取り込み、この位置データをワールド座標に変換した位置データに基づいて立体像を再構築することが開示されている。
【0004】
特許文献2には、スライス断面像を二値化し、距離変換により骨格画像を作成し、この骨格画像に基づいて抽出した特徴点によりスライス断面像を位置合わせして3次元画像を構築することが開示されている。
【0005】
特許文献3には、連続切片画像の立体像を合成する際の前処理として、各切片画像から背景を除去することが開示されている。
【0006】
生体組織標本をスライスした切片標本は、ほぼ無色透明に近いため、通常、観察に先立って染色が施される。染色手法としては多数のものが知られているが、病理標本に関しては、青紫色のヘマトキシリンと赤色のエオジンの2種の色素を使用するヘマトキシリン−エオジン染色(以下、HE染色と記す)を行うのが一般的である。HE染色が施された標本においては、細胞核や骨組織等が青紫色に染色され、細胞質や結合組織、赤血球等が赤色に染色されるので、観察者は、これらの組織構成要素を容易に視認できるようになる。それにより、観察者は、切片標本内の細胞核等の組織構成要素の大きさや位置関係等を把握することができ、切片標本の状態を形態学的に判断することが可能となる。
【0007】
生体組織標本の染色に関する技術として、特許文献4には、HE染色を施した標本をマルチバンド撮像した画像に対し、各画素の画素値に基づいて当該標本画像の各位置におけるスペクトル(分光透過率)を推定すると共に、このスペクトルに基づいて当該位置における色素量を推定し、さらに、色素量分布に基づいて各位置における色素量を補正することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平3−75508号公報
【特許文献2】特開昭64−1081号公報
【特許文献3】特開2000−293692号公報
【特許文献4】特開2009−14355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、1つの生体組織標本から得られた複数の切片標本は、通常、切片標本を載置するスライドガラスに貼付されたラベルの番号等により管理される。近年では、切片標本の順序を示すバーコードラベルがスライドガラスに貼付される場合もある。
【0010】
しかしながら、生体組織標本をスライスして切片標本を作成する作業は人手に負うことが多い。このため、ラベルの番号やバーコード等が適切に管理されていない場合には、各切片の連続性が不明となり、もとの生体組織標本をスライスした順序で標本画像を取得できなくなってしまう。それにより、もとの生体組織標本を正確に表す3D画像の取得が困難となったり、比較診断のために標本画像を適切な順序で並べることが困難になるという問題があった。
【0011】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、生体組織標本の切片標本を撮像して得られた一連の標本画像に対し、もとの生体組織標本をスライスした順序に従う正確な並び順を付与することができる画像処理装置、顕微鏡システム、画像処理方法、及び画像処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る画像処理装置は、生体組織標本をスライスし染色を施した複数の切片標本に対応する複数の画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該種類ごとの画像である要素画像を作成する要素画像作成部と、前記複数の画像間で、同じ種類の前記要素画像の連続性を評価する連続性評価部を有し、該連続性の評価結果に基づいて、前記複数の画像の並び順を判定する並び順判定部とを備えることを特徴とする。
【0013】
上記画像処理装置は、前記複数の画像から、前記切片標本が連続すると推定される複数の画像を連続切片候補画像群として選択する画像選択部をさらに備え、前記並び順判定部は、前記連続切片候補画像群間の並び順を判定することを特徴とする。
【0014】
上記画像処理装置において、前記画像選択部は、前記複数の画像から輪郭を抽出する輪郭抽出部と、前記輪郭に基づいて、前記複数の画像の内の任意の画像と他の画像との間における類似判定を行う類似判定部と、前記類似判定部により、互いに類似すると判定された画像を前記連続切片候補画像群として抽出する画像抽出部とを有することを特徴とする。
【0015】
上記画像処理装置において、前記画像選択部は、前記複数の画像の各画像から背景を抽出する背景抽出部と、前記背景に基づいて、前記複数の画像の内の任意の画像と他の画像との間における類似判定を行う類似判定部と、前記類似判定部により、互いに類似すると判定された画像を前記連続切片候補画像群として抽出する画像抽出部とを有することを特徴とする。
【0016】
上記画像処理装置において、前記要素画像作成部は、前記各画像内の画素の色特徴量を取得する色特徴量取得部と、前記色特徴量の分布を作成し、該分布を、前記少なくとも1種類の組織構成要素に対応する少なくとも1つのクラスに分類するクラス分類部と、各クラスに属する色特徴量に対応する画素を抽出して、前記クラス毎の画像を前記要素画像として作成するクラス別画像作成部とを有することを特徴とする。
【0017】
上記画像処理装置において、前記色特徴量は、前記画像内の各画素位置に対応する標本部分における前記色素の色素量であり、前記色特徴量取得部は、前記各画像内の各画素の画素値に基づき、前記各画素位置における色成分のスペクトルを推定するスペクトル推定部と、前記色成分のスペクトルに基づいて、前記標本部分における前記色素量を推定する色素量推定部とを含み、前記クラス分類部は、前記色素量を成分とする色特徴量空間において前記色素量の分布をクラスタリングすることにより、前記色素量の分布を分類することを特徴とする。
【0018】
上記画像処理装置において、前記色特徴量取得部は、前記複数の画像間における前記色素量の分布を均質化する色素量補正部をさらに備え、前記クラス分類部は、前記色素量補正部によって補正された前記色素量の分布を分類することを特徴とする。
【0019】
上記画像処理装置において、前記連続性評価部は、前記組織構成要素ごとに定められた連続性評価アルゴリズムを適用することにより、前記要素画像同士の連続性の評価を行うことを特徴とする。
【0020】
上記画像処理装置において、前記連続性評価部は、前記組織構成要素の特性と、前記生体組織標本の部位と、前記所定の色素との内の少なくとも1つに基づいて前記連続性の評価を行うことを特徴とする。
【0021】
上記画像処理装置において、前記少なくとも1種類の組織構成要素は、細胞膜、細胞質、細胞核、血管、血液、及び腔の内の少なくともいずれかを含み、前記連続性評価部は、前記細胞膜と、前記細胞核と、前記血液と、前記腔との内のいずれかに対応する要素画像に基づいて、前記連続性を評価することを特徴とする。
【0022】
上記画像処理装置は、前記並び順判定部による判定結果に基づいて、前記複数の画像を3次元的に構成する3次元画像構成部をさらに備えることを特徴とする。
【0023】
上記画像処理装置は、前記要素画像における前記組織構成要素の位置に基づいて、前記複数の画像間における位置合わせを行う位置合わせ部をさらに備えることを特徴とする。
【0024】
本発明に係る顕微鏡システムは、上記画像処理装置と、体組織標本をスライスした切片に対して所定の色素により染色を施して得た複数の切片標本の観察像を生成する顕微鏡装置と、前記観察像に対応するディジタル画像を取得する画像取得部とを備えることを特徴とする。
【0025】
本発明に係る画像処理方法は、生体組織標本をスライスし染色を施した複数の切片標本に対応する複数の画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該種類ごとの画像である要素画像を作成する要素画像作成ステップと、前記複数の画像間で、同じ種類の前記要素画像の連続性を評価し、該連続性の評価結果に基づいて、前記複数の画像の並び順を判定する並び順判定ステップとを含むことを特徴とする。
【0026】
本発明に係る画像処理プログラムは、生体組織標本をスライスし染色を施した複数の切片標本に対応する複数の画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該種類ごとの画像である要素画像を作成する要素画像作成ステップと、前記複数の画像間で、同じ種類の前記要素画像の連続性を評価し、該連続性の評価結果に基づいて、前記複数の画像の並び順を判定する並び順判定ステップとをコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、画像内の色特徴量に基づいて抽出した組織構成画像に対応する要素画像同士の連続性に基づいて複数の画像間の並び順を判定するので、一連の画像に対し、もとの生体組織標本をスライスした順序に従う正確な並び順を付与することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】図1は、本発明の実施の形態1に係る顕微鏡システムの構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、図1に示す顕微鏡装置の構成例を示す模式図である。
【図3】図3は、図1に示す画像選択部の構成例を示すブロック図である。
【図4】図4は、図1に示す顕微鏡システムの動作を示すフローチャートである。
【図5】図5は、図1に示す画像処理装置の処理対象である標本画像の一例を示す図である。
【図6】図6は、図1に示す要素画像作成部の動作を示すフローチャートである。
【図7】図7は、図5に示す標本画像内の画素の色素量をプロットした色特徴量空間を示す図である。
【図8】図8は、色素量の補正方法を説明する図である。
【図9】図9は、図5に示す標本画像から抽出された細胞膜の要素画像を示す図である。
【図10】図10は、図5に示す標本画像から抽出された細胞核の要素画像を示す図である。
【図11】図11は、図5に示す標本画像から抽出された赤血球の要素画像を示す図である。
【図12】図12は、図5に示す標本画像から抽出された腔の要素画像を示す図である。
【図13】図13は、図5に示す標本画像から抽出された切片標本の皺の要素画像を示す図である。
【図14】図14は、図5に示す標本画像から抽出されたゴミの要素画像を示す図である。
【図15】図15は、腔の要素画像に対する連続性評価アルゴリズムが適用された場合の連続性評価部の動作を示すフローチャートである。
【図16】図16は、2つの標本画像の連続性の評価方法を説明する図である。
【図17】図17は、一連の標本画像の並び順の入れ替え方法を説明する図である。
【図18】図18は、変形例1における画像選択部の構成を示すブロック図である。
【図19】図19は、標本画像を用いて位置合わせを行った場合の結果を説明する図である。
【図20】図20は、要素画像を用いて位置合わせを行った場合の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る画像処理装置、顕微鏡システム、画像処理方法、及び画像処理プログラムの実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、これらの実施の形態により本発明が限定されるものではない。また、各図面の記載において、同一部分には同一の符号を付して示している。
【0030】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1に係る顕微鏡システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、実施の形態1に係る顕微鏡システム1は、標本の観察像を生成する顕微鏡装置10と、標本が載置されたスライドを該顕微鏡装置10に順次供給するスライドローダー20と、顕微鏡装置10が生成した観察像を撮像して標本画像を取得する画像取得部30と、画像取得部30が取得した標本画像を処理する画像処理装置40とを備える。
【0031】
図2は、顕微鏡装置10及びスライドローダー20の構成を概略的に示す模式図である。
図2に示すように、顕微鏡装置10は、略C字形のアーム部100と、該アーム部100に取り付けられた標本ステージ101と、該標本ステージ101と対向して配置された対物レンズ102と、アーム部100に取り付けられた三眼鏡筒ユニット103と、該三眼鏡筒ユニット103を介して設けられた接眼レンズユニット104と、三眼鏡筒ユニット103に連結された結像レンズユニット105とを有する。また、結像レンズユニット105の端部には、画像取得部30が設けられている。アーム部100には、照明系として、透過照明用光源106a及び透過照明光学系106bと、落射照明用光源107a及び落射照明光学系107bと、複数の光学キューブ108a、108bを切換可能に保持するキューブユニット108とが設けられている。このような顕微鏡装置10には、画像処理装置40の制御の下で、顕微鏡装置10の各部に制御信号を出力する顕微鏡コントローラ110が接続されている。
【0032】
標本ステージ101には、標本ステージ101を3次元的に移動させる駆動装置101aが設けられている。駆動装置101aは、顕微鏡コントローラ110の制御の下で標本ステージ101を対物レンズの光軸方向(Z方向)に変化させることにより、焦点合わせを行う。また、駆動装置101aは、顕微鏡コントローラ110の制御の下で標本ステージ101をXY平面内で移動させることにより、対物レンズ102の視野を変化させる。
【0033】
対物レンズ102は、倍率が互いに異なる複数の対物レンズ(例えば、対物レンズ102’)を保持可能なレボルバ109に取り付けられている。このレボルバ109を回転させて、標本ステージ101と対向する対物レンズ102、102’を変更することにより、視野内の画像の倍率を変化させることができる。
【0034】
三眼鏡筒ユニット103は、対物レンズ102から入射した標本SPの観察光を、画像取得部30の方向と接眼レンズユニット104の方向とに分岐する。接眼レンズユニット104は、ユーザが標本SPを直接観察するためのものである。
【0035】
結像レンズユニット105には、複数のズームレンズと、これらのズームレンズの位置を変化させる駆動部(いずれも図示せず)とを含むズーム部が設けられている。ズーム部は、顕微鏡コントローラ110の制御の下でズームレンズの位置を調整することにより、撮像視野内の撮像対象を拡大又は縮小させる。
【0036】
透過照明光学系106bは、透過照明用光源106aから出射した透過照明光を集光して観察光路Lの方向に導く種々の光学部材(コレクタレンズ、フィルタユニット、視野絞り、シャッタ、開口絞り、コンデンサ光学素子ユニット、トップレンズユニット等)を含む。一方、落射照明光学系107bは、落射照明用光源107aから出射した落射照明光を集光して観察光路Lの方向に導く種々の光学部材(フィルタユニット、シャッタ、視野絞り、開口絞り等)を含む。
【0037】
キューブユニット108は、内部に複数の光学キューブ108a、108bを備え、例えば透過明視野観察や蛍光観察といった各種検鏡法に応じて、観察光路L上に配置される光学キューブを切り替える。
【0038】
スライドローダー20は、標本が載置された標本スライドSP1、SP2、…を収納して標本ステージ101との間で運搬する運搬装置である。スライドローダー20には、画像処理装置40の制御の下で動作するローダー制御部210が接続されている。スライドローダー20は、ローダー制御部210の制御により、顕微鏡コントローラ110の制御の下で位置を変化させる標本ステージ101の動きと連動して、観察対象の標本スライドSP1、SP2、…を順次供給すると共に、観察済みの標本スライドSP1、SP2、…を回収する。また、スライドローダー20には、バーコードリーダ220が設けられている。バーコードリーダ220は、顕微鏡装置10に供給される標本スライドに貼付されたバーコードラベルを読み取り、読み取り信号を画像処理装置40に送信する。それにより、画像処理装置40において、顕微鏡装置10で観察中の標本スライドと画像取得部30が撮像した標本画像の画像データとが対応付けられる。
【0039】
画像取得部30は、例えばCCD等の撮像素子を含み、各画素において互いに異なる複数の波長帯域(バンド)における画素レベル(画素値)を持つカラー画像を撮像可能なマルチバンドカメラによって実現される。画像取得部30は、対物レンズ102にから出射し、結像レンズユニット105を介して入射した光(観察光)を受光し、観察光に対応する画像データを生成して画像処理装置40に出力する。なお、本実施の形態ではマルチバンドカメラを使用しているが、マルチバンドカメラを使用せずに、一般的に使用されるRGBカメラと、該RGBカメラとは別体の色測定用のセンサとを設け、センサ及びRGBカメラの画像の両方を使用して、色特徴を取得(スペクトルや色素量を推定)する構成としても良い。例えば、特開2011−99823号公報に記載された顕微鏡システムのような構成としても良い。
【0040】
画像処理装置40は、当該画像処理装置40に対する指示や情報の入力を受け付ける入力部41と、画像取得部30から出力された顕微鏡画像の入力を受け付けるインタフェースである画像入力部42と、顕微鏡画像やその他の情報を表示する表示部43と、記憶部44と、顕微鏡画像に対して所定の画像処理を施す演算部45と、これらの各部の動作及び画像取得部30の動作を制御する制御部46とを備える。
【0041】
入力部41は、キーボード、各種ボタン、各種スイッチ等の入力デバイスや、マウスやタッチパネル等のポインティングデバイスを含み、これらのデバイスを介して入力された信号を受け付けて制御部46に入力する。
【0042】
表示部43は、例えば、LCD(Liquid Crystal Display)やEL(Electro Luminescence)ディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等の表示装置によって実現され、制御部46から出力された制御信号に従って、各種画面を表示する。
【0043】
記憶部44は、更新記録可能なフラッシュメモリ、RAM、ROM等の半導体メモリや、内蔵若しくはデータ通信端子で接続されたハードディスク、MO、CD−R、DVD−R等の記録媒体及び該記録媒体に記録された情報を読み取る読取装置等によって実現される。記憶部44は、画像取得部30から出力された画像データや、演算部45及び制御部46がそれぞれ実行する各種プログラムや各種設定情報を記憶する。具体的には、記憶部44は、画像取得部30が撮像した一連の切片標本に対応する標本画像に対し、もとの生体組織標本をスライスした順序に従う正確な並び順を付与する画像処理プログラム441を記憶する。また、記憶部44は、画像処理プログラム441を実行する際に用いられる種々のデータ(例えば、HE染色が施された標準標本における色素量分布等の教師データ、各種色素に関する情報、演算式及び係数等)を記憶する。
【0044】
演算部45は、記憶部44に記憶された各種プログラムを例えばCPU等のハードウェアに読み込むことにより、記憶部44に記憶された画像データに対応する一連の標本画像に対し、生体組織標本をスライスした順序に従う正確な並び順を付与する画像処理を実行する。
【0045】
より詳細には、演算部45は、一連の標本画像の内で、切片標本が連続すると推定される標本画像の組み合わせを、連続切片候補画像群として選択する画像選択部451と、各標本画像の色特徴量に基づいて標本画像内から少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、抽出した組織構成要素が種類ごとに写った画像である要素画像を作成する要素画像作成部452と、標本画像間において対応する要素画像を比較して連続性を評価する連続性評価アルゴリズム453a、453b、…を含み、この連続性の評価結果に基づいて標本画像間の並び順を判定する並び順判定部としての連続性評価部453とを有する。
【0046】
ここで、組織構成要素とは、切片標本を構成する各要素のことであり、具体的には、細胞膜、細胞質、細胞核、血管、血液、腔(管状組織の断面や細胞質の隙間)といった生体組織を構成する要素の他、切片標本を作成する際に生じた切片の皺やゆがみ、スライド内に生じた泡、スライド上に付着したゴミ等が含まれる。
【0047】
上記演算部45の構成の内、連続性評価部453は、組織構成要素毎に作成された連続性評価アルゴリズム453a、453b、…に従って、標本画像間の連続性を判定し、この連続性に基づき、並び順を判定する。
【0048】
また、演算部45は、連続性評価部453による判定結果に基づいて、一連の標本画像に対して並び順を付与する並び順付与部454と、並び順が連続する標本画像間において位置合わせを行う位置合わせ部455と、各標本画像に付与された並び順に従って、一連の標本画像の並べ替えを行う並べ替え部456と、位置合わせ及び並び順が入れ替えられた一連の標本画像から3次元的な画像(以下、3D画像という)を構成する3D画像構成部457とを有する。
【0049】
図3は、画像選択部451の内部構成を示すブロック図である。図3に示すように、画像選択部451は、一連の標本画像の任意の標本画像から輪郭を抽出する輪郭抽出部451aと、抽出した輪郭を用いて、上記任意の標本画像と他の標本画像との間における類似判定を行う類似判定部451bと、この類似判定の結果に基づいて、全体形状がある程度類似していると判定される標本画像同士を連続切片候補画像群として抽出する画像抽出部451cとを有する。
【0050】
また、要素画像作成部452は、標本画像内の各画素の画素値に基づき、各画素位置における色成分のスペクトル(分光透過率)を推定するスペクトル推定部452aと、色成分のスペクトルに基づいて、当該画素位置に対応する標本部分における色素量を推定する色素量推定部452bと、推定された色素量を標準標本に関する情報に基づいて補正する色素量補正部452cと、推定又は補正された色素量を成分とする色特徴量空間に色特徴量の分布を作成し、該分布を組織構成要素に対応するクラスに分類するクラス分類部452dと、各クラスに属する色特徴量に対応する画素を抽出して、クラス毎の画像を要素画像として作成するクラス別画像作成部452eとを有する。なお、スペクトル推定部452aと、色素量推定部452bと、色素量補正部452cとは、色特徴量取得部として設けられている。
【0051】
制御部46は、記憶部44に記憶された各種プログラムを例えばCPU等のハードウェアに読み込むことにより実現される。制御部46は、記憶部44に記憶された各種データや入力部41から入力される各種情報に基づき、顕微鏡装置10、スライドローダー20、画像取得部30、及び画像処理装置40の各部に指示やデータの転送を行うことにより、顕微鏡システム1全体の動作を統括的に制御する。
このような画像処理装置40は、例えばパーソナルコンピュータやワークステーション等の汎用の装置によって実現される。
【0052】
次に、顕微鏡システム1の動作について説明する。図4は、顕微鏡システム1の動作を示すフローチャートである。
顕微鏡システム1は、生体組織標本をスライスして得た各切片標本にHE染色を施すことにより一連の切片標本を作成し、これらの一連の切片標本を撮像して得た一連の標本画像に対して、もとの生体組織標本をスライスした順序に従う正確な並び順を付与して並び替える処理を実行する。
【0053】
まず、ステップS10において、画像取得部30は、スライドローダー20によって顕微鏡装置10に供給される切片標本を、標本ステージ101をXY平面内で移動させることにより対物レンズ102の視野を変化させつつマルチバンドで順次撮像し、撮像した画像をつなぎ合わせることにより、1つの切片標本全体に対応する画像(標本画像)の画像データを画像処理装置40に出力する。画像取得部30は複数の切片標本に対してこれらの動作を順次実施し、複数の標本画像を得る。画像処理装置40は、受け取った画像データを記憶部44に記憶させる。図5は、そのようにして取得された標本画像の一例を示す図である。
【0054】
なお、以下の説明においては、所謂バーチャルスライド装置に本発明を適用した例を記載するが、本発明はこれに限るものではなく、例えば、標本の1視野を撮影した画像に対して、以下の説明と同様の処理を実施してもよい。
【0055】
ステップS11において、画像選択部451は、記憶部44に記憶された画像データに対応する一連の標本画像から、連続切片候補画像群を選択する。より詳細には、輪郭抽出部451aは、任意の標本画像を抽出し、この標本画像に対してエッジ処理等の公知の輪郭抽出法を適用して、輪郭を抽出する。続いて、類似判定部451bは、抽出した輪郭をテンプレートとして、他の標本画像に対してテンプレートマッチング処理を行う。画像抽出部451cは、その際に算出した類似度が所定の閾値以上となる標本画像同士を、連続切片候補画像群として抽出する。
【0056】
なお、輪郭抽出部451aは、輪郭抽出する標本画像を、一連の標本画像の中からランダムに抽出しても良いし、一連の標本画像から所定の間隔で抽出しても良い。或いは、ユーザが選択した標本画像に対応する入力信号を入力部41が受け付けた場合には、輪郭抽出部451aは、その入力信号に従って標本画像を抽出しても良い。
【0057】
続くステップS12において、要素画像作成部452は、各標本画像に対し、少なくとも1種類の組織構成要素を抽出して要素画像を作成する(参考:特開2009−14355号公報)。
【0058】
図6は、要素画像作成部452の詳細な動作を示すフローチャートである。
ステップS121において、スペクトル推定部452aは、標本画像内の各画素位置における各バンドの画素値を取得し、ウィナー(Wiener)推定により、各画素位置における色成分のスペクトルを推定する。
【0059】
ステップS122において、色素量推定部452bは、ステップS121において推定されたスペクトルに基づいて、各画素位置に対応する標本部分に固定された色素量を推定する。ここでは、細胞核を染色したヘマトキシリン(以下、色素Hと記す)、細胞質を染色したエオジン(以下、色素Eと記す)、及び赤血球を染色したエオジン(以下、色素Rと記す)の量を推定する。この色素量は、Lambert−Beer則に従って、画素位置xにおける波長成分λの分光透過率t(x,λ)を与える次式(1)を、複数の波長成分λに関して連立させた連立方程式を解くことによって算出される。
【数1】

式(1)において、係数kH(λ)、kE(λ)、kR(λ)は、色素H、色素E、及び色素Rにそれぞれ対応する係数であり、波長に依存して決まる物質固有の値である。また、値dHは色素Hの色素量、値dEは色素Eの色素量、値dRは色素Rの色素量をそれぞれ表す。
【0060】
ステップS123において、クラス分類部452dは、ステップS122において推定した色素量(dH,dE)を成分とする色特徴量空間において色素量の分布を作成し、それらの分布をクラスタリングする。図7は、図5に示す標本画像Mの各画素位置における色素量(dH,dE)をプロットした色特徴量空間を示す図である。
【0061】
ステップS124において、色素量補正部452cは、HE染色が施された標準標本に関する情報に基づいて色素量の分布を補正する。図8は、色素量分布の補正方法を説明する図である。色素量補正部452cは、まず、記憶部44に予め記憶されている教師データの内から、HE染色を施した標準標本を撮像して得られた画像(以下、標準画像という)における色素量分布D0と、色素量分布D0の分布範囲ΔdH及びΔdEを取得する。次いで、色素量補正部452cは、処理対象である標本画像の色素量分布D1を分布範囲ΔdH及びΔdEを対応させるべく、色素量分布D1のシフト、拡大、縮小等の処理を行う。このような処理を各標本画像に対して実行することにより、複数の標本画像間における色の分布が均質化される。
【0062】
ステップS125において、クラス分類部452dは、補正済みの色素量分布をクラスタリングする。なお、クラスタリングの手法としては、分水嶺処理、階層法、k-means法、期待値最大化アルゴリズム(EMアルゴリズム)、自己組織化マップ等の公知の手法を用いることができる。それにより、図7に示すクラスタa1〜a7が得られる。
【0063】
さらに、クラス分類部452dは、各クラスタa1〜a7の重心位置を取得する。そして、各重心位置を標準画像の色素量分布D0におけるクラスタの重心と比較することにより、クラスタa1〜a7を、組織構成要素に対応するクラスに分類する。例えば、図7の場合、クラスタa3、a4はエオジンの色素量が多いので細胞質に対応するクラスc1と特定される。クラスタa5、a7及びクラスタa2の一部はヘマトキシリンの色素量が適度に多いので細胞核に対応するクラスc2と特定される。クラスタa1は赤血球に対応するクラスc3と特定される。クラスタa6は色素が非常に薄いので腔に対応するクラスc4と特定される。画像内に写されたゴミや皺等についてもこれらの例と同様に、クラスタとクラスとの対応づけを行うことができる。例えば、ゴミや皺や泡等は黒色に近いため、ヘマトキシリンが非常に濃いクラスタa2に一旦分類される。このクラスタa2をさらに詳細に分類することで、皺(クラスc5)、ゴミ(クラスc6)、及び細胞核のうち色素の濃い部分にそれぞれ対応するクラスを特定することができる。
【0064】
なお、クラス分類結果による各クラスと組織構成要素との対応は一対一に限ることなく、クラス分類の方法によっては、例えば1つの組織構成要素に対応するクラスが複数存在する場合もある。これらのクラスタリング方法は組織構成要素や染色方法等によって適応的に決定すればよい。
【0065】
ステップS126において、クラス別画像作成部452eは、各クラスに分類された色素量に対応する画素領域を標本画像から抽出することにより、クラス別(即ち、組織構成要素毎)の要素画像を作成する。
【0066】
各クラスの組織構成要素に対応する画素を抽出した画像の例を図9〜図14に示す。図9に示す要素画像M−c1は、クラスc1に対応する画素を抽出した細胞質を表す画像である。図10に示す要素画像M−c2は、クラスc2に対応する画素を抽出した細胞核を表す画像である。図11に示す要素画像M−c3は、クラスc3に対応する画素を抽出した赤血球画像である。図12に示す要素画像M−c4は、クラスc4に対応する画素を抽出した腔を表す画像である。図13に示す要素画像M−c5は、クラスc5に対応する画素を抽出した皺を表す画像である。図14に示す要素画像M−c6は、クラスc6に対応する画素を抽出したゴミを表す画像である。
この後、動作はメインルーチンに戻る。
【0067】
ステップS13において、連続性評価部453は、複数の標本画像間における連続性を、所定のクラスの要素画像を用いて評価する。なお、この評価は、ステップS11において連続切片候補と判定された標本画像間で行われる。
【0068】
ここで、標本画像から抽出された各組織構成要素は、その組織構成要素の種類ごとの特性や、もとの生体組織標本の部位や、切片標本を染色した色素等に応じた特徴を有している。例えば、細胞核や赤血球のサイズは非常に小さいので、隣接する切片標本間において同じ断面形状が現れることはまれである。反対に、細胞質、血管、腔等のサイズは、比較的大きいので、隣接する切片標本間において類似した断面形状が現れることが多い。また、しわやゴミは切片標本を作成する際に個別に生じているので、隣接する切片標本間における連続性の評価に用いることができない。
【0069】
連続性評価部453が保有する連続性評価アルゴリズム453a、453b、…は、組織構成要素の種類毎の特性や生体組織標本の部位の特徴や色素の特徴のように、予め知られている情報(これらを先見情報ともいう)に基づいて作成されている。
【0070】
以下、一例として、腔の要素画像に対して作成された連続性評価アルゴリズムを説明する。図15は、腔の要素画像に対する連続性評価アルゴリズムが適用された場合における連続性評価部453の動作を示すフローチャートである。
【0071】
まず、ステップS131において、連続性評価部453は、標本画像M1、M2、M3…に対して共通に作成された要素画像から、腔の要素画像M1−c4、M2−c4、M3−c4…を選択する(図16参照)。
【0072】
ステップS132において、連続性評価部453は、各要素画像M1−c4、M2−c4、M3−c4…から、サイズの小さい腔P1、P2、P3、…を削除する。
【0073】
続いて、連続性評価部453は、要素画像M1−c4、M2−c4、M3−c4…の1つひとつに対して、ステップS133〜S135の処理を行う。まず、ステップS133において、連続性評価部453は、要素画像M1−c4、M2−c4、M3−c4…のいずれかをピックアップする。続くステップS134において、連続性評価部453は、ピックアップした要素画像とそれ以外の全ての要素画像との類似度を、例えばパターンマッチング等の公知の手法を用いて算出する。そして、ステップS135において、算出した類似度を記憶部44に記憶させる。
【0074】
ステップS136において、連続性評価部453は、算出した全ての類似度を総合的に評価して、要素画像M1−c4、M2−c4、M3−c4…間相互の類似度が最も高くなるような並び順を検出する。その際には、全ての画像の組み合わせにおいて画像間の類似度を算出して並べ替えたり、最初に2枚のペア画像を設定し、ペア画像間の類似度を計算して並べ替えを繰り返すなど、公知のソート方法を用いる。例えば、類似度マップ、複合ソート法等の手法を用いて、要素画像M1−c4、M2−c4、M3−c4…相互のソートを行えば良い。
この後、動作はメインルーチンに戻る。
【0075】
ステップS14において、並び順付与部454は、ステップS16において検出された要素画像M1−c1、M2−c2、M3−c2…の並び順を、標本画像M1、M2、M3…に対して付与する。
【0076】
ステップS15において、並べ替え部456は、図17に示すように、ステップS14において付与された並び順に従って、標本画像M1、M2、…を並べ替える。例えば、図17においては、標本画像M2と標本画像M4とが入れ替えられている。
【0077】
ステップS16において、位置合わせ部455は、並び順が隣接する標本画像同士(例えば、標本画像M1とM4、M4とM3、M3とM2、…)の位置合わせを、ステップS13において選択した要素画像M1−c4、M2−c4、M3−c4…における組織構成要素の位置を基準として実行する。
【0078】
ステップS17において、3D画像構成部457は、ステップS16において位置合わせされた標本画像を3次元的に構成した3D画像を生成する。
【0079】
ステップS18において、演算部45は、標本画像M1、M2、…の並び順情報及び位置合わせ情報と、生成した3D画像とを出力する。それに応じて、制御部46は、出力された情報を記憶部44に記憶させると共に、3D画像を表示部に表示させる。
【0080】
以上説明したように、実施の形態1によれば、標本画像の色特徴量に基づいて抽出され、先見情報に基づいて選択された要素画像を用いて標本画像間の連続性を評価し、その評価結果に基づいて、標本画像の並び順を判定する。そのため、切片標本の作成時に生じた切片のしわやゆがみ、或いは、泡やゴミ等の不要物の影響を受けることなく、各標本画像に対して正確な並び順を付与することができる。従って、一連の切片標本の並び順や、切片標本の撮像順が混乱してしまった場合においても、もとの生体組織標本をスライスした順序に従う正確な並び順で一連の標本画像を並べることが可能となる。
【0081】
また、実施の形態1によれば、先見情報に基づいて選択された要素画像に基づいて、標本画像間の位置合わせを行うので、切片標本の作成時に生じた切片の皺やゆがみ、或いは、泡やゴミ等の不要物の影響を受けることなく、正確な位置合わせを行うことが可能となる。従って、このように位置合わせされた一連の標本画像を用いて、もとの生体組織標本の形状等を正確に反映した3D画像を構成することが可能となる。
【0082】
また、実施の形態1において、連続性評価部453は、画像選択部451により互いにある程度類似すると判定された連続切片候補画像同士の連続性を評価するので、演算量を低減させることが可能となる。
なお、画像選択部451は必ずしも設ける必要はなく、画像選択部451を設けない場合には、連続性評価部453は、一連の標本画像内の全ての標本画像の組み合わせについて連続性を評価すればよい。
【0083】
また、実施の形態1においては、色素量補正部により均質化された色素量の分布に基づいて要素画像を作成する。従って、切片標本の作成条件や撮像条件が異なる場合(切片標本の作成者や施設が異なる場合、染色色素のメーカーが異なる場合、撮像システム1を構成する各機器の型番が異なる場合等)においても、結果のばらつきを抑制することができる。
【0084】
なお、上記実施の形態1においては、腔の要素画像を用いて標本画像の連続性を評価しているが、腔以外にも、細胞膜や細胞質や血管や乳腺などのように、複数の切片にわたって存在する組織構成要素の要素画像を用いて標本画像の連続性を評価しても良い。
また、複数の組織構成要素の画像を用いて総合的に連続性を評価しても良い。
【0085】
(変形例1)
次に、実施の形態1の変形例1について説明する。
図18は、図1に示す画像選択部451の別の構成例を示すブロック図である。図18に示すように、画像選択部451の変形例である画像選択部471は、一連の標本画像の各々に対して二値化処理を施すことにより、背景を抽出する背景抽出部471aと、抽出された背景に基づいて、複数の標本画像間における類似判定を行う類似判定部471bと、類似判定部471bにより互いにある程度類似すると判定された複数の標本画像を連続切片候補画像群として抽出する画像抽出部471cとを有する。この場合、連続性評価部453は、画像抽出部471cによって抽出された連続切片候補画像間における連続性を評価する。
【0086】
(変形例2)
次に、実施の形態1の変形例2について説明する。
画像処理装置40は、並び順の入れ替え後の標本画像に対応するバーコードラベルをプリントアウトする出力装置を備えても良い。この場合、出力されたバーコードラベルを、スライドローダー20に収納されている各標本スライドSP1、SP2、…に貼付することにより、これらの標本スライドSP1、SP2、…を適切に管理することが可能となる。
【0087】
(変形例3)
次に、実施の形態1の変形例3について説明する。
上記実施の形態1においては、標本画像間の連続性の評価や位置合わせを、所定の要素画像を用いて行った。しかしながら、連続性評価部453は、ゴミや皺等の組織構成要素を標本画像から除去した後の画像(以下、除去済み標本画像という)を直接用いて連続性の評価を行っても良い。同様に、位置合わせ部455は、除去済み標本画像を直接用いて位置合わせを行っても良い。さらに、3D画像構成部457も、除去済み標本画像から3D画像を構成しても良い。
【0088】
(実施の形態2)
次に、本発明の実施の形態2について説明する。
実施の形態2においては、要素画像作成部452において作成した要素画像を、一連の標本画像から抽出した2枚の標本画像間における位置合わせに用いても良い。
【0089】
ここで、図19に示すように、標本画像MA、MBを互いに位置合わせする場合を考える。これらの標本画像MA、MBには、各種組織構成要素(例えば、標本画像MA上の腔ma1及びゴミma2、標本画像MB上の腔mb1)が写っている。このような標本画像MA、MBを直接位置合わせすると、組織構成要素(例えば、ゴミma2)の形状や輝度によっては、互いに異なる組織構成要素同士(例えば、腔ma2に対してゴミmb1)が位置合わせされてしまう場合がある。この場合、位置合わせされた標本画像MA、MBを用いて3D画像を構成すると、もとの生体組織標本の立体形状を再現することができなくなってしまう。また、比較診断のために2枚の標本画像同士を位置合わせして重ねたり、並べたりして表示するような場合に、表示がずれて2つの画像の差分をわかりやすく表示することができなくなってしまう。
【0090】
そこで、実施の形態2においては、図20に示すように、まず、標本画像MA、MBから、互いに対応する組織構成要素(腔ma1、mb1)の要素画像MA−c1、MB−c1を抽出し、要素画像MA−c1、MB−c1同士で位置合わせを行う。この際に用いる要素画像は、先見情報に基づいて決定すると良い。そして、位置合わせ済みの要素画像MA−c1、MB−c1を基準として、標本画像MA、MBの相対的な位置を決定する。
【0091】
以上説明した実施の形態2によれば、任意の2枚の標本画像に対して、精度の高い位置合わせを行うことができる。従って、そのように互いに位置合わせされた一連の標本画像から3D画像を構成する場合には、もとの生体組織標本の立体形状が正確に反映された出力画像を得ることが可能となる。また、比較診断のために2枚の標本画像同士を位置合わせして重ねたり、並べたりして表示するような場合にも、正確な位置合わせが行われ、2つの画像の差分をわかりやすく表示することが可能となる。
【0092】
以上説明した実施の形態1及び2においては、1つの生体組織標本を複数の切片にスライスした複数の切片標本を順次撮像して得られた複数の標本画像に対する画像処理について説明した。しかしながら、上記実施の形態1、2及び変形例1〜3は、厚みのある標本に対し、焦点を変化させながら撮像した複数の断面画像に対する画像処理に適用することも可能である。この場合においても、各断面画像から算出した色特徴量(色素量)分布に基づいて作成した要素画像を用いて、断面画像間の連続性を判断して並び順を決定したり、位置合わせを行うことができる。また、このような場合、顕微鏡システムにおいて自動で焦点を変えながら標本を撮像しても良いし、使用者が手動で焦点を変えながら標本を撮像しても良い。特に、手動で焦点を変えながら撮像を行う場合には、焦点の設定順序を間違えたり、ある焦点位置を間違えて飛ばしたため、後で追加撮像を行ったり、最初は荒く焦点を変えながら撮像を行い、後でより細かく焦点を変えながら撮像を行うなどすることがある。そのようなときには、取得された画像の順番と焦点位置の変動とが一定の規則で対応していないという状況が生じ得る。また、撮像中に若干標本位置がずれてしまうこともある。しかしながら、本実施の形態によれば、上記のような場合にも複数の画像の正確な並び順を自動で決定することができ、撮像の手間をより省くことができる。
【0093】
以上説明した実施の形態1、2及び変形例1〜3はそのままに限定されるものではなく、各実施の形態及び変形例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明を形成することができる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を除外して形成してもよい。あるいは、異なる実施の形態に示した構成要素を適宜組み合わせて形成してもよい。
【0094】
(付記1)
生体組織標本をスライスした切片に対して所定の色素により染色を施して得た複数の切片標本に対応する複数の画像を処理する画像処理装置であって、
前記複数の画像の各画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該組織構成要素が種類ごとに写った画像である要素画像を作成する要素画像作成部と、
前記要素画像における前記組織構成要素の位置に基づいて、前記複数の画像間における位置合わせを行う位置合わせ部と
を備えることを特徴とする画像処理装置。
(付記2)
前記要素画像作成部は、
前記各画像内の画素の色特徴量を取得する色特徴量取得部と、
前記色特徴量の分布を作成し、該分布を、前記少なくとも1種類の組織構成要素に対応する少なくとも1つのクラスに分類するクラス分類部と、
各クラスに属する色特徴量に対応する画素を抽出して、前記クラス毎の画像を前記要素画像として作成するクラス別画像作成部と、
を有することを特徴とする付記1に記載の画像処理装置。
(付記3)
前記色特徴量は、前記画像内の各画素位置に対応する標本部分における前記色素の色素量であり、
前記色特徴量取得部は、
前記各画像内の各画素の画素値に基づき、前記各画素位置における色成分のスペクトルを推定するスペクトル推定部と、
前記色成分のスペクトルに基づいて、前記標本部分における前記色素量を推定する色素量推定部と、
を含み、
前記クラス分類部は、前記色素量を成分とする色特徴量空間において前記色素量の分布をクラスタリングすることにより、前記色素量の分布を分類することを特徴とする付記2に記載の画像処理装置。
(付記4)
前記色特徴量取得部は、前記複数の画像間における前記色素量の分布を均質化する色素量補正部をさらに備え、
前記クラス分類部は、前記色素量補正部によって補正された前記色素量の分布を分類することを特徴とする付記3に記載の画像処理装置。
(付記5)
前記少なくとも1種類の組織構成要素は、細胞膜、細胞質、細胞核、血管、血液、及び腔の内のいずれかを含むことを特徴とする付記1〜4のいずれか1つに記載の画像処理装置。
(付記6)
付記1〜5のいずれか1つに記載の画像処理装置と、
生体組織標本をスライスした切片に対して所定の色素により染色を施して得た複数の切片標本の観察像を生成する顕微鏡装置と、
前記観察像に対応するディジタル画像を取得する画像取得部と、
を備えることを特徴とする顕微鏡システム。
(付記7)
前記複数の切片標本がそれぞれ載置された複数のスライドを前記顕微鏡装置に供給するスライド運搬装置をさらに備えることを特徴とする付記6に記載の顕微鏡システム。
(付記8)
生体組織標本をスライスした切片に対して所定の色素により染色を施して得た複数の切片標本に対応する複数の画像を処理する画像処理方法であって、
前記複数の画像の各画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該組織構成要素が種類ごとに写った画像である要素画像を作成する要素画像作成ステップと、
前記要素画像における前記組織構成要素の位置に基づいて、前記複数の画像間における位置合わせを行う位置合わせステップと
を含むことを特徴とする画像処理方法。
(付記9)
生体組織標本をスライスした切片に対して所定の色素により染色を施して得た複数の切片標本に対応する複数の画像を処理する画像処理プログラムであって、
前記複数の画像の各画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該組織構成要素が種類ごとに写った画像である要素画像を作成する要素画像作成ステップと、
前記要素画像における前記組織構成要素の位置に基づいて、前記複数の画像間における位置合わせを行う位置合わせステップと
をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラム。
【符号の説明】
【0095】
1 顕微鏡システム
10 顕微鏡装置
100 アーム部
101 標本ステージ
101a 駆動装置
102、102’ 対物レンズ
103 三眼鏡筒ユニット
104 接眼レンズユニット
105 結像レンズユニット
106a 透過照明用光源
106b 透過照明光学系
107a 落射照明用光源
107b 落射照明光学系
108 キューブユニット
108a、108b 光学キューブ
109 レボルバ
110 顕微鏡コントローラ
20 スライドローダー
210 ローダー制御部
220 バーコードリーダ
30 画像取得部
40 画像処理装置
41 入力部
42 画像入力部
43 表示部
44 記憶部
45 演算部
441 画像処理プログラム
451 画像選択部
451a 輪郭抽出部
451b 類似判定部
451c 画像抽出部
452 要素画像作成部
452a スペクトル推定部
452b 色素量推定部
452c 色素量補正部
452d クラス分類部
452e クラス別画像作成部
453 連続性評価部
453a、453b、… 連続性評価アルゴリズム
454 並び順付与部
455 位置合わせ部
456 並べ替え部
457 3D画像構成部
46 制御部
471 画像選択部
471a 背景抽出部
471b 類似判定部
471c 画像抽出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体組織標本をスライスし染色を施した複数の切片標本に対応する複数の画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該種類ごとの画像である要素画像を作成する要素画像作成部と、
前記複数の画像間で、同じ種類の前記要素画像の連続性を評価する連続性評価部を有し、該連続性の評価結果に基づいて、前記複数の画像の並び順を判定する並び順判定部と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記複数の画像から、前記切片標本が連続すると推定される複数の画像を連続切片候補画像群として選択する画像選択部をさらに備え、
前記並び順判定部は、前記連続切片候補画像群間の並び順を判定することを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記画像選択部は、
前記複数の画像から輪郭を抽出する輪郭抽出部と、
前記輪郭に基づいて、前記複数の画像の内の任意の画像と他の画像との間における類似判定を行う類似判定部と、
前記類似判定部により、互いに類似すると判定された画像を前記連続切片候補画像群として抽出する画像抽出部と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記画像選択部は、
前記複数の画像の各画像から背景を抽出する背景抽出部と、
前記背景に基づいて、前記複数の画像の内の任意の画像と他の画像との間における類似判定を行う類似判定部と、
前記類似判定部により、互いに類似すると判定された画像を前記連続切片候補画像群として抽出する画像抽出部と、
を有することを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記要素画像作成部は、
前記各画像内の画素の色特徴量を取得する色特徴量取得部と、
前記色特徴量の分布を作成し、該分布を、前記少なくとも1種類の組織構成要素に対応する少なくとも1つのクラスに分類するクラス分類部と、
各クラスに属する色特徴量に対応する画素を抽出して、前記クラス毎の画像を前記要素画像として作成するクラス別画像作成部と、
を有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記色特徴量は、前記画像内の各画素位置に対応する標本部分における前記色素の色素量であり、
前記色特徴量取得部は、
前記各画像内の各画素の画素値に基づき、前記各画素位置における色成分のスペクトルを推定するスペクトル推定部と、
前記色成分のスペクトルに基づいて、前記標本部分における前記色素量を推定する色素量推定部と、
を含み、
前記クラス分類部は、前記色素量を成分とする色特徴量空間において前記色素量の分布をクラスタリングすることにより、前記色素量の分布を分類することを特徴とする請求項5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記色特徴量取得部は、前記複数の画像間における前記色素量の分布を均質化する色素量補正部をさらに備え、
前記クラス分類部は、前記色素量補正部によって補正された前記色素量の分布を分類することを特徴とする請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記連続性評価部は、前記組織構成要素ごとに定められた連続性評価アルゴリズムを適用することにより、前記要素画像同士の連続性の評価を行うことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記連続性評価部は、前記組織構成要素の特性と、前記生体組織標本の部位と、前記所定の色素との内の少なくとも1つに基づいて前記連続性の評価を行うことを特徴とする請求項8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記少なくとも1種類の組織構成要素は、細胞膜、細胞質、細胞核、血管、血液、及び腔の内の少なくともいずれかを含み、
前記連続性評価部は、前記細胞膜と、前記細胞核と、前記血液と、前記腔との内のいずれかに対応する要素画像に基づいて、前記連続性を評価することを特徴とする請求項8又は9に記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記並び順判定部による判定結果に基づいて、前記複数の画像を3次元的に構成する3次元画像構成部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記要素画像における前記組織構成要素の位置に基づいて、前記複数の画像間における位置合わせを行う位置合わせ部をさらに備えることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の画像処理装置と、
生体組織標本をスライスした切片に対して所定の色素により染色を施して得た複数の切片標本の観察像を生成する顕微鏡装置と、
前記観察像に対応するディジタル画像を取得する画像取得部と、
を備えることを特徴とする顕微鏡システム。
【請求項14】
生体組織標本をスライスし染色を施した複数の切片標本に対応する複数の画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該種類ごとの画像である要素画像を作成する要素画像作成ステップと、
前記複数の画像間で、同じ種類の前記要素画像の連続性を評価し、該連続性の評価結果に基づいて、前記複数の画像の並び順を判定する並び順判定ステップと、
を含むことを特徴とする画像処理方法。
【請求項15】
生体組織標本をスライスし染色を施した複数の切片標本に対応する複数の画像に対し、該画像内の各画素の色特徴量に基づいて少なくとも1種類の組織構成要素を抽出し、該種類ごとの画像である要素画像を作成する要素画像作成ステップと、
前記複数の画像間で、同じ種類の前記要素画像の連続性を評価し、該連続性の評価結果に基づいて、前記複数の画像の並び順を判定する並び順判定ステップと、
をコンピュータに実行させることを特徴とする画像処理プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図8】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−113818(P2013−113818A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−263132(P2011−263132)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000000376)オリンパス株式会社 (11,466)
【Fターム(参考)】