説明

画像処理装置および画像処理方法

【課題】独立成分分析(ICA)を用いたノイズ除去処理では、被写体像の細かなテクスチャ成分までもが除去されてしまう。
【解決手段】基底画像生成部304で、入力画像に基底変換を施して互いの相関が小さい複数の基底画像を生成し、ヒストグラム生成部305で基底画像毎に画素値の1次元ヒストグラムを生成する。回復LUT生成部307で、該ヒストグラムと入力画像のノイズ特性データを用いて、ノイズ混入前後の画素値を対応づけるLUTを生成する。基底画像回復部308で、該LUTを用いて画素値をノイズ混入前の画素値に補正し、逆基底変換部309で逆基底変換を施してノイズ除去された出力画像を生成する。これにより、被写体像の細かなテクスチャ成分を保存したノイズ低減処理が、より少ないメモリ量によって実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像に対するノイズ低減処理を行う画像処理装置および画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、デジタルカメラやスキャナ等の撮像装置により撮影された画像にはノイズが含まれている。被写体像にノイズが混入すると、撮影画像の画質を低下させるという問題がある。
【0003】
従来、様々なノイズ低減処理方法が提案されているが、それらは主として、平滑化フィルタによる処理をベースとしている。通常、被写体像は低周波成分に比べて高周波成分の強度が弱いため、画像の高周波領域ではノイズが支配的となる。そこで高周波成分を抑圧する平滑化フィルタを画像に適用すれば、被写体像の低〜中周波成分を保存しつつ、ノイズを低減し得る。しかし、このような平滑化フィルタをベースとする技術では、ノイズを低減するとともに被写体像の高周波成分も抑圧してしまう。その結果、被写体像の細かなテクスチャ成分が除去されてしまうという課題があった。
【0004】
そこで、平滑化フィルタベースとは異なるノイズ除去処理の手法として、独立成分分析(ICA)と呼ばれる手法が提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このICA手法によれば、画像にノイズが加わるとICA基底の係数が変化することに着目し、ICA基底の係数に補正をかけた後に画像を復元することで、ノイズ成分を除去している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Image Denoising by Sparse Code Shrinkage, Aapo Hyvarinen, Parik Hoyer and Erkki Oja, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記ICA手法を用いたノイズ除去処理においては、ICA基底の係数を補正する際に、値の小さい係数を常にノイズ成分とみなす。したがって、被写体像の細かなテクスチャ成分までもが除去されてしまうという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題を解決するためになされたものであり、被写体像の細かなテクスチャ成分を保存するようなノイズ低減処理を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するための一手段として、本発明の画像処理装置は以下の構成を備える。
【0009】
すなわち、ベクトル空間で表わされる入力画像からノイズを除去した出力画像を生成する画像処理装置であって、前記入力画像と、該入力画像における画素値毎のノイズの混入度合いを示すノイズ特性データを入力する入力手段と、前記ベクトル空間における前記入力画像に基底変換を施して、互いの相関が小さい複数の基底画像を生成する基底変換手段と、前記基底画像毎に、画素値の出現頻度を示すヒストグラムを生成するヒストグラム生成手段と、前記基底画像毎に、前記ヒストグラムと前記ノイズ特性データを用いて、画素値とノイズ混入前の画素値を対応づけるテーブルを生成するテーブル生成手段と、前記基底画像毎に、前記テーブルを用いて画素値をノイズ混入前の画素値に補正する補正手段と、該補正された複数の前記基底画像に逆基底変換を施して前記出力画像を生成する逆基底変換手段と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、被写体像の細かなテクスチャ成分を保存するようなノイズ低減処理を好適に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に係る第1実施形態における装置構成の構成を示すブロック図、
【図2】信号処理部の構成を示すブロック図、
【図3】ノイズ低減処理にかかるブロック構成を示す図、
【図4】ヒストグラム回復の概念図、
【図5】LUT作成方法、及びLUTを説明する図、
【図6】多次元ヒストグラムの特徴を示す図、
【図7】ノイズ低減処理を示すフローチャート、である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施形態について図面を用いて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る本発明を限定するものでなく、また本実施の形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。
【0013】
<第1実施形態>
●概要
上述したように独立成分分析(ICA)を用いたノイズ除去処理では、ICA基底の係数を補正する際に、値の小さい係数が常にノイズ成分とみなされ、被写体像の細かなテクスチャ成分も除去されてしまう。そこで出願人は、入力画像のヒストグラムと、画素値毎のノイズの混入度合いを示すノイズ特性データに基づいたノイズ低減処理方法を提案した。この方法では、画像に対するノイズの混入をヒストグラムに対するフィルタ処理と見なし、逆フィルタによる回復を行う。これにより、細かなテクスチャ成分の除去を抑制し、好ましいノイズ低減が実現可能である。この手法における処理結果はヒストグラムの次元数に左右されるため、多次元のヒストグラムを利用すると、より好適である。
【0014】
しかしながら、多次元のヒストグラムを利用してノイズ低減を行う場合、ヒストグラムを格納するためのメモリ量が指数的に増大してしまう。例えば、8ビット入力画像の1次元ヒストグラムを保持するためには256個のデータが格納できればよいが、n次元のヒストグラムを保持するためには256のn乗個のデータを格納しなければならない。また、多次元のヒストグラムを処理するためにその演算量も膨大となってしまう。
【0015】
そこで本実施形態では、被写体像の細かなテクスチャ成分を保存するようなノイズ低減処理を、少ないメモリ構成かつ少ない演算量で好適に実現するために、多次元ヒストグラムに代えて1次元ヒストグラムを用いる手法を示す。
【0016】
本実施形態においてはまず、ベクトル空間で表わされる入力画像に対し、基底画像間の相関が小さくなるような基底変換を施し、該基底画像毎の1次元ヒストグラムを生成する。そして、該1次元ヒストグラムと、入力画像における画素値毎のノイズ混入度合いを示すノイズ特性データに基づき、基底画像毎にノイズ混入前後の画素値を対応づけるテーブル生成を行い、該テーブルに基づき回復基底画像を生成する。そして、複数の回復基底画像に逆基底変換を施すことで、ノイズ混入前の入力画像を推定した回復画像を得る。
【0017】
●装置構成
図1は、本実施形態における画像処理装置の構成を示すブロック図である。同図において撮像部101は、ズーム/フォーカス/ぶれ補正/レンズ、絞り、シャッター、光学LPF、IRカットフィルタ、カラーフィルタ、及びCMOSやCCDなどのセンサなどから構成され、被写体から入射される光量を検知する。A/D変換部102は、センサが検知した被写体から入射される光量をデジタル信号値に変換する。信号処理部103は、入力されたデジタル信号値に対して、ノイズ低減処理、ホワイトバランス処理、エッジ強調処理、色変換処理、ガンマ処理を行い、デジタル画像データを生成する。D/A変換部104は、デジタル画像データに対しアナログ変換を行って、表示部113に出力する。エンコーダ部105は、デジタル画像データをJPEGやMPEG等のファイルフォーマットの画像データに変換する処理を行う。メディアインタフェース106は、PCその他メディア(例えば、ハードディスク、メモリーカード、CFカード、SDカード、USBメモリ)に画像処理装置をつなぐためのインタフェースである。
【0018】
CPU107は、画像処理装置内の各構成の処理に関わり、ROM108やRAM109に格納された命令を順に読み込み、本実施形態の各種処理を実行する。また、ROM108とRAM109は、その処理に必要なプログラム、データ、作業領域などをCPU107に提供する。撮像系制御部110は、フォーカスの合焦、シャッターの開閉、絞り調節などの、CPU107から指示された撮像部101の制御を行う。操作部111は、タッチパネルやボタン、モードダイヤルなどにより構成され、これらを介して入力されたユーザ指示を受け取る。キャラクタジェネレータ112は、表示などのための文字やグラフィックなどを生成する。表示部113は、一般的には液晶ディスプレイが広く用いられており、キャラクタジェネレータ112やD/A変換部104から受け取った画像データで示される画像や文字、グラフィックの表示を行う。また、タッチスクリーン機能を有していても良く、その場合は、ユーザ指示を操作部111の入力として扱うことも可能である。
【0019】
なお、本実施形態における画像処理装置としては、図1に示す構成以外にも考えられる。例えば、デジタルカメラ等の撮像装置で撮影されたデジタル画像データを、ネットワークやメディアを介してコンピュータが取得し、コンピュータにあるアプリケーションが本実施形態の一連の処理を実施するような構成であっても良い。
【0020】
本実施形態におけるノイズ低減処理は、信号処理部103において実行されることが好適である。信号処理部103では、入力されたデジタル画像データに対して画質向上のため様々な処理を行う。図2に、信号処理部103の詳細構成を示す。まず、ノイズ低減処理部201は、以下に詳述するノイズ低減処理を実行する。ノイズ低減処理が施された画像データは、ホワイトバランス制御部202により画像のホワイトバランスが調整される。その後、エッジ強調部203により画像データにより示される画像の鮮鋭性を向上させるためのエッジ強調処理がなされる。そして、色変換部204による色再現性を向上させるための色変換処理や、ガンマ処理部205による画像データに対するガンマ処理が施される。信号処理部103によるこれら一連の処理結果は、D/A変換部104やエンコーダ部105に送られる。なお、ノイズ低減処理部201によるノイズ低減処理は、必ずしもホワイトバランス制御部202の前段で行なう必要はなく、例えば色変換部204やガンマ処理部205の後段にてノイズ低減処理を行なっても良い。
【0021】
●ノイズ低減処理
図3に、ノイズ低減処理部201の詳細構成を示し、その動作を図7のフローチャートを用いて説明する。ノイズ低減処理部201では、1次元ヒストグラムを用いたノイズ低減処理を行うことを特徴とする。
【0022】
まずS701で入力部301が、A/D変換部102から入力画像を取得する。この入力画像は、撮像部101で被写体を撮影することによって得られた自然画像である。入力部301はさらに、該入力画像の総画素数と、撮像部101による画素値毎のノイズの混入度合いを示すノイズ特性データを、ROM108あるいはRAM109から取得する。なお、入力画像の総画素数については、入力された入力画像を解析することによって取得しても良い。
【0023】
ここでノイズ特性データとは、ある画素値(理想画素値)が画像処理装置に入力された際に、その画素値がノイズの影響によりどのようなデジタル値(実際画素値)に変換されるかを、確率で示したテーブルである。具体的には、理想画素値からなるサンプル画像を撮像部101にて撮影し、A/D変換部102を介して出力された実際画素値に基づいてノイズ特性データを算出して、予めROM108あるいはRAM109に格納している。ノイズ特性データはすなわち、撮像部101に固有のデータである。
【0024】
次にS702で画像分割部302が、入力画像を所定サイズに分割する。本実施形態では簡単のため、入力画像のサイズを縦横300x300画素とし、これを横3画素×縦3画素=9画素の部分画像に分割するとする。したがって本実施形態では、100×100=10000枚の部分画像が得られる。以下、この部分画像を、分割入力画像と称する。ここで、部分画像のサイズとしては特に規定されないが、部分画像の枚数分、後段の処理が繰り返されることから、適当な枚数となるように設定すればよい。
【0025】
次にS703で、基底係数生成部303および基底画像生成部304により、分割入力画像を基底変換した基底画像を得る。まず基底係数生成部303で、分割入力画像に対して基底変換を行うことにより、基底係数データを得る。基底変換の方法としては、主成分分析や独立成分分析等の周知の直交基底変換手法が適用可能である。本実施形態では、分割入力画像の画素値を要素とする9行10000列の分割入力画像行列に対する基底変換により、9行9列の基底係数行列が得られる。そして基底画像生成部304が、分割入力画像と基底係数行列から基底画像を生成する。すなわち、基底係数行列と分割入力画像行列の積を算出することで、9行10000列の基底画像行列が得られる。そして、基底画像行列の各行を縦横100x100画素の画像の画素値とみなすと、9枚の画像が得られる。この9枚の画像が基底画像である。本実施形態では、基底画像間の関係が無相関(好ましくは独立)になっていることを特徴とする。この基底画像の相関性については後述する。
【0026】
次にS704でヒストグラム生成部305が、各基底画像について、画素値に対する画素数(出現頻度)を総画素数で除算することによって、1次元ヒストグラムを生成する。生成された1次元ヒストグラムは、基底画像中の画素値がXである画素の画素数を第X要素とするベクトルにより表す。なお、ここで生成される1次元ヒストグラムとしては、総画素数で除算することなく、単に各画素値の画素数の頻度からなるヒストグラムであっても良い。
【0027】
次にS705でヒストグラム回復部306が、ノイズ混入前の画像のヒストグラムを回復するための回復行列を生成し、S706で該回復行列を1次元ヒストグラムに適用することによって回復ヒストグラムを算出する。算出された回復ヒストグラムは、ノイズ特性データとともに回復LUT生成部307へ入力される。回復ヒストグラムは、画像にノイズが加わるとヒストグラムにローパスフィルタがかかるという性質を利用して作成され、具体的には基底画像の総画素数、ノイズ特性データ、及び1次元ヒストグラムから生成される。なお、回復行列の詳細については詳細を後述する。
【0028】
ここで図4(a)を用いて、本実施形態におけるヒストグラム回復の概念を説明する。同図によればヒストグラム回復により、基底画像の1次元ヒストグラム806がより先鋭化し、回復ヒストグラム807へと変換される。また図4(b)に、図4(a)に示す1次元ヒストグラム806、および先鋭化された回復ヒストグラム807のそれぞれの周波数成分808,809を示す。同図によれば、先鋭化された回復ヒストグラム807の高周波成分は、基底画像の1次元ヒストグラム806の高周波成分よりも大きいことが分かる。
【0029】
次にS707で回復LUT生成部307が、ノイズ特性データおよび回復ヒストグラムから回復LUT(ルックアップテーブル)を作成し、保存する。回復LUTは、入力画像の画素値を、ノイズ混入前の画素値として推定される値、すなわちノイズを除去した理想画素値に変換するためのテーブルである。
【0030】
ここで図5を用いて、回復LUT生成の概念を説明する。同図において、基底画像の画素値(実際画素値)をX'、該X'に対するノイズ混入前の画素値(理想画素値)をXとする。まずノイズ特性データより、ノイズ混入によってX'となりうるXの確率分布(第1の確率分布)として、X'を中心とするノイズ変動特性分布801が得られる。ノイズ変動特性分布801は、Xに関する確率分布とみなせる。同様に、基底画像の1次元ヒストグラムを先鋭化した回復ヒストグラム807も、Xに関する確率分布とみなせる。したがってこの2つの確率分布の積が、理想画素値Xの確率分布802(第2の確率分布)として得られる。この確率分布802において最も尤もらしいXの値は、確率分布802が最大値をとる画素値である。このように、確率分布802における最大確率となる画素値を理想画素値Xとして決定することで、実際画素値X'と理想画素値Xを対応付ける回復LUTを作成することができる。図5(b)に、回復LUTの例を示す。
【0031】
次にS708で基底画像回復部308が、基底画像に回復LUTを適用して画素値を補正することで、回復基底画像を得る。このとき、基底画像の画素にノイズ混入前の理想画素値が割り当てられるため、該処理によって得られる回復基底画像はノイズ混入前の推定画像となる。ここで得られる回復基底画像は、基底画像に比べてノイズが低減されたものとなる。
【0032】
次にS709で逆基底変換部309が、回復基底画像に対して逆基底変換を行って回復画像を生成する。詳細には、まず回復基底画像の画素値を要素とする9行10000列の回復基底画像行列を作成する。次に、基底係数生成部303で生成された基底係数行列の逆行列と、回復基底画像行列の積を算出することにより、回復画像行列が得られる。ここで得られる回復画像行列の要素は、ノイズが低減された分割画像の画素値に相当する。
【0033】
次にS710で画像結合部310が、逆基底変換部309から出力された回復分割画像を入力画像と同様の形態につなぎ合わせることで、入力画像からノイズを低減した出力画像(回復画像)が得られる。
【0034】
以上のようにノイズ低減処理部201においては、図3を用いて説明した動作により、入力画像からノイズを低減した回復画像を得ることができる。なお、得られた回復画像は、信号処理部103における他処理に出力される。
【0035】
●回復行列
以下、ヒストグラム回復部306における回復行列の生成、およびそれを用いたヒストグラム回復処理について詳細に説明する。
【0036】
まず、基底画像の総画素数を用いて、ノイズ特性データ中の正規化画素頻度を算出し、この正規化画素頻度を要素として持つ行列をDとする。行列Dの要素Dijは、ノイズ混入前にj番目であった画素値が、ノイズ混入によってi番目の画素値になる確率を表している。また、基底画像の1次元ヒストグラムを、ベクトル表記でp'(x)とする。ここでxは画素値である。同様に、ノイズ混入前の画像のヒストグラムを、ベクトル表記でp(x)とする。このとき、行列Dおよびベクトルp'(x)とp(x)の間には、以下の式(1)に示す関係が成り立つ。
【0037】
p'(x)=Dp(x) …(1)
式(1)はすなわち、ノイズ特性を示す行列Dと、ノイズ混入前の画像のヒストグラムp(x)との積により、ノイズ混入後の画像のヒストグラムp'(x)(基底画像の1次元ヒストグラム)が表されることを示している。ノイズ混入前の画像のヒストグラムp(x)を導出するには、以下の式(2)に示すように、行列Dの逆行列D-1を式(1)の両辺に乗ずれば良い。
【0038】
p(x)=D-1p'(x) …(2)
本実施形態では、このD-1を回復行列として使用する。そして式(2)の演算によって算出されるp(x)がすなわち、ヒストグラム回復部306において出力される回復ヒストグラムである。
【0039】
なお、行列Dの特性によっては、ベクトルpを正確に算出できない場合がある。例えば、行列Dが非正方行列や非正則行列であった場合には、逆行列の演算が困難となってベクトルpが正確に算出できない。このような場合には、行列Dの疑似逆行列を用いれば良い。
【0040】
●ノイズ低減処理の原理
以下、本実施形態における基底画像の1次元ヒストグラムを用いたノイズ低減処理の原理について、図6を用いて簡単に説明する。図6は、多次元ヒストグラムを用いたノイズ除去処理の様子を示す図である。同図において、1401は入力画素値、1402は入力画像の多次元ヒストグラム(この例ではX,Yの2次元ヒストグラム)である。また、1403は回復ヒストグラム(本実施形態における図5の807に対応)、1404は入力画素値1401を中心とする円形状をなすノイズ変動特性分布(同、図5の801に対応)、である。また1405は、回復ヒストグラム1403とノイズ変動特性分布1404の積であり、すなわちノイズ混入前の画素値の確率分布(同、図5の802に対応)である。また1406は、ノイズ混入前の画素値の確率分布1405において、最大確率すなわち重心に相当する出力画素値である。
【0041】
多次元ヒストグラム1402にも示されるように、一般に自然画像における各画素のX値とY値との間には相関がある。換言すると「X値の確率が、Y値の確率に影響を与える」ということであり、X値の生起確率P(X)及びY値の生起確率P(Y)、X値,Y値の同時生起確率P(X,Y)について、P(X,Y)≠P(X)P(Y)であることを意味する。
【0042】
これに対し、入力画像に対して独立成分分析による基底変換を行うことで、変換後の値(基底画像)を独立とすることができ、X値の確率とY値の確率を独立として扱えるようになる。即ち、変換後の値をXp、Ypとした時、P(Xp,Yp)=P(Xp)P(Yp)となる。したがって本実施形態では、基底画像の1次元ヒストグラムに相当する生起確率P(Xp)及びP(Yp)を用いて、ノイズ低減処理を実現することができる。
【0043】
なお、本実施形態では基底変換に独立成分分析を用いる例を示したが、本発明の基底変換処理はこの方法に限定されない。本発明における基底変換処理の目的は、変換後データ間の独立性を、元データ間の独立性よりも高くすることにある。したがって、上記P(Xp,Yp)=P(Xp)P(Yp)なる完全な独立関係を満たすことは、最も好ましいが必須ではない。すなわち本実施形態の基底変換では、入力画素のX値およびY値を、以下の式(3)を満たすXp値およびYp値に変換できれば良い。
【0044】
|P(X,Y)−P(X)P(Y)|>|P(Xp,Yp)−P(Xp)P(Yp)| …(3)
したがって本実施形態では、基底係数生成部303における基底変換において上記(3)式を満たすために、必ずしも独立成分分析でなく、主成分分析を用いた基底変換を行っても良い。発明者の実験によると、基底変換に主成分分析を用いても、多くの場合はノイズ低減効果が得られることが確認されている。
【0045】
なおここでは、2次元ヒストグラムを2種類の1次元ヒストグラムに分解する例を示したが、分解する次元数は限定されない。例えば本実施形態で説明したように、9次元のヒストグラムを9種類の1次元ヒストグラムに分解しても良いし、3種類の3次元ヒストグラムに分解しても良い。
【0046】
以上説明したように本実施形態によれば、画像に対するノイズの混入をヒストグラムに対するフィルタ処理と見なし、逆フィルタによる回復を行うことで、細かなテクスチャ成分の除去を抑制したノイズ低減処理を行う。このとき、多次元のヒストグラムではなく、独立した複数の1次元ヒストグラムを利用することによって、ヒストグラムを格納するためのメモリ量かつ演算量を抑制することができる。
【0047】
<他の実施形態>
本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベクトル空間で表わされる入力画像からノイズを除去した出力画像を生成する画像処理装置であって、
前記入力画像と、該入力画像における画素値毎のノイズの混入度合いを示すノイズ特性データを入力する入力手段と、
前記ベクトル空間における前記入力画像に基底変換を施して、互いの相関が小さい複数の基底画像を生成する基底変換手段と、
前記基底画像毎に、画素値の出現頻度を示すヒストグラムを生成するヒストグラム生成手段と、
前記基底画像毎に、前記ヒストグラムと前記ノイズ特性データを用いて、画素値とノイズ混入前の画素値を対応づけるテーブルを生成するテーブル生成手段と、
前記基底画像毎に、前記テーブルを用いて画素値をノイズ混入前の画素値に補正する補正手段と、
該補正された複数の前記基底画像に逆基底変換を施して前記出力画像を生成する逆基底変換手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記ノイズ特性データは、前記入力画像におけるノイズ混入前の画素値が、ノイズ混入によって変換される画素値毎の確率を示すデータであることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記入力画像は、撮像装置によって撮影された自然画像であり、
前記ノイズ特性データは、前記撮像装置に応じて予め作成されたデータであることを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記テーブル生成手段は、前記基底画像毎に、
前記ノイズ特性データより、ノイズ混入前の理想画素値がノイズ混入によって変換される画素値毎の確率を要素とする行列の逆行列を算出し、
該逆行列を前記ヒストグラムに乗じて回復ヒストグラムを生成し、
当該基底画像における画素値ごとに、前記ノイズ特性データから取得される前記理想画素値の第1の確率分布を前記回復ヒストグラムに乗じることで、該理想画素値の第2の確率分布を取得し、
該第2の確率分布において最大確率を示す前記理想画素値を、当該基底画像の画素値と対応づけることで前記テーブルを生成する
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記基底変換手段は、前記入力画像に対して独立成分分析または主成分分析による基底変換を施すことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
さらに、前記入力画像を所定サイズに分割して分割画像を生成する分割手段を有し、
前記基底変換手段は、前記分割画像ごとに前記基底画像を生成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
入力手段、基底変換手段、ヒストグラム生成手段、テーブル生成手段、補正手段、および逆基底変換手段を有する画像処理装置において、ベクトル空間で表わされる入力画像からノイズを除去した出力画像を生成する画像処理方法であって、
前記入力手段が、前記入力画像と、該入力画像における画素値毎のノイズの混入度合いを示すノイズ特性データを入力する入力ステップと、
前記基底変換手段が、前記ベクトル空間における前記入力画像に基底変換を施して、互いの相関が小さい複数の基底画像を生成する基底変換ステップと、
前記ヒストグラム生成手段が、前記基底画像毎に、画素値の出現頻度を示すヒストグラムを生成するヒストグラム生成ステップと、
前記テーブル生成手段が、前記基底画像毎に、前記ヒストグラムと前記ノイズ特性データを用いて、画素値とノイズ混入前の画素値を対応づけるテーブルを生成するテーブル生成ステップと、
前記補正手段が、前記基底画像毎に、前記テーブルを用いて画素値をノイズ混入前の画素値に補正する補正ステップと、
前記逆基底変換手段が、該補正された複数の前記基底画像に逆基底変換を施して前記出力画像を生成する逆基底変換ステップと、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項8】
コンピュータで実行されることにより、該コンピュータを請求項1乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−212229(P2012−212229A)
【公開日】平成24年11月1日(2012.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−76395(P2011−76395)
【出願日】平成23年3月30日(2011.3.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】