画像処理装置および色処理方法
パッチデータに基づくパッチをメディア上に形成する形成手段と、前記メディアの紙白部分を測温して紙白温度を得る測温手段と、前記メディア上に形成された前記パッチを測色することにより測色値を得る測色手段と、前記パッチデータと前記紙白温度とに基づいて、前記測色手段で測色された際の前記パッチの温度である測色温度を推定する推定手段と、該推定された測色温度に基づいて、前記測色値を補正する補正手段と、を有する画像処理装置を、本発明は提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明画像処理装置および色処理方法に関し、特に、温度に依存して変動する、印刷物の測色値を補正する色処理を行う画像処理装置および色処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、着色物体の測色値は温度によって変化し、この現象はサーモクロミズムと称される。サーモクロミズムは、測定対象物の温度に応じた誤差を測色値に与えるため、高精度な測色が要求される場合に問題になる。
【0003】
誤差の起因となる色変動は、温度に応じてほぼ線形的でありかつ可逆的であることが分かっている。ここで図10に、電子写真プリンタ装置にて印刷されたカラーチャート(以下パッチ)を、分光反射率測定によって解析した結果を示す。図10によれば、色変動が、メディアに含まれる蛍光増白剤などの蛍光物質の影響による変動と、トナー成分などの非蛍光物質の影響による変動と、に分けられることが分かる。さらに、蛍光物質の分光反射率は図11に示すように温度に依存してチャートの縦方向に変化し、非蛍光物質の分光反射率は図12に示すように温度に依存してチャートの横方向に変化する。
【0004】
一般的な印刷に用いられるメディアには、白色度を増すために、紫外光を吸収して可視域で蛍光を発する蛍光増白剤を含むものがある。蛍光増白剤による蛍光増白効果は温度に依存して増減するため、蛍光増白剤を含むメディアへ出力された印刷物の測色値も、温度に依存して変化してしまう。
【0005】
ここで、一般的な印刷装置内部における、色安定化処理およびカラーマッチング処理について説明する。従来より、電子写真プリンタ装置のような印刷装置において所望の色を出力するために、色変換ルックアップテーブル(以下、LUT)が用いられている。色変換LUTには、印刷装置をある一定状態に保つためのキャリブレーションに用いるLUTや、ICCプロファイルに代表されるようなカラーマッチングに用いるためのLUT等がある。これらの色変換LUTを作成するために、例えばIT8 7/3パッチ等の、複数個の色票を印刷装置から出力する。分光測光器等の測色器を用いてこれら複数個の色票を測色することで測色値を得て、デバイス値とデバイス非依存値との対応付けを行い、色変換LUTを作成する。この作成されたLUTを用いることにより、デバイス間の色味の違いや、プリンタエンジンの変動による色味の違いを吸収し、カラーマッチングおよび色安定化を図ることができる。
【0006】
最近では、電子写真プリンタ内部に搭載されたカラーセンサを利用して、このLUTがリアルタイムに生成されている。このようなプリンタは、定着直後のパッチを内蔵のカラーセンサで検知し、パッチの測色値をLUT生成処理にフィードバックしている。
【0007】
しかしながら、一般の電子写真プリンタにおいて、定着直後のパッチは非常に高温状態(約70℃)であるため、上述したサーモクロミズムのためにパッチの測色値が変化してしまう。そのため、ユーザが印刷物を観る環境(室温)に適したLUTを、精度良く作成することができないという問題があった。
【0008】
したがって、プリンタ装置において、測色時の温度を考慮して測色値の補正を行う技術が必要とされている。例えば、図13に示すように、定着直後のメディア温度を考慮してLUTを作成するプリンタ装置が提案されている(例えば、日本国特許第3555706号参照)。図13に示すプリンタ装置1によれば、測色値補正部114を用いて、メディアに印刷された任意のパッチ(プリンタによる任意の再現色)の測色値の温度変動に関する補正を行うことにより、任意の対象温度における測色値を生成することを特徴とする。
【0009】
ここで図14に、測色値補正部114における動作概要を示す。同図に示すように測色値補正部114には、カラーマッチング部111から、測色対象であるパッチのデバイス値(パッチデータ)1112が入力される。さらに、測色値補正部114には、エンジン部内の温度センサ部およびカラーセンサ部の出力値である、パッチ温度1221および測色値1231が入力される。そして、指定された対象温度と、予め設定された基準パッチの温度特性LUT1141とを用いて、測色値の補正を行うことによって、測色値補正部114は補正後の測色値1142を出力する。
【0010】
しかしながら、上記のような従来の、測色値の補正を行うプリンタを含む一般の電子写真プリンタにおいては、定着直後であれば全てのパッチが一定の温度を保っているが、定着後に用紙が一定距離搬送された時点では、パッチ毎に温度が異なってくる。これは、パッチ毎にトナーの載り量等が異なるために、パッチ毎に比熱が異なり、温度降下量に差が発生するためである。
【0011】
このため、パッチの温度に応じた測色値補正をより正確に行うためには、計測するパッチのそれぞれに対する放射温度計等を用いて、測色ごとに逐一、対象となるパッチ温度を測色と同時に計測する必要があり、システムが複雑化および高価格化してしまう。
【0012】
このように、定着直後のパッチ温度は変化してしまうため、パッチ温度に応じた測色値補正を適切に行うことは困難であった。
【発明の概要】
【0013】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、以下の機能を有する画像処理装置および色処理方法を提供する。すなわち、メディア上に形成された任意色のパッチについて、パッチ形成後の温度降下量を考慮し、パッチ温度を推定することによって、パッチ測色値の適切な補正を可能とする。
【0014】
本発明に係る画像処理装置は以下の構成を備える。
【0015】
すなわち、本発明に係る画像処理装置は、
パッチデータに基づくパッチをメディア上に形成する形成手段と、
前記メディアの紙白部分を測温して紙白温度を得る測温手段と、
前記メディア上に形成された前記パッチを測色することにより測色値を得る測色手段と、
前記パッチデータと前記紙白温度とに基づいて、前記測色手段で測色された際の前記パッチの温度である測色温度を推定する推定手段と、
該推定された測色温度に基づいて、前記測色値を補正する補正手段と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明のさらなる特徴が(添付の図面を参照して)続く例示的な実施形態の説明から明らかとなるだろう。
【0017】
【図1】本発明に係る一実施形態における、温度降下量補正部を組み込んだプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態における測色値補正部の動作概要を示す図である。
【図3】本実施形態における温度降下量補正部の構成例を説明する図である。
【図4】本実施形態における温度降下量特性テーブルの作成処理を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態における温度降下量テーブルの特性を示す図である。
【図6】本実施形態における温度降下量の補正処理を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態の変形例におけるプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本実施形態の変形例における測色値補正部の構成例を説明する図である。
【図9】本実施形態の変形例における温度降下量補正部を必要としないプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】代表的なパッチの分光反射率についてのサーモクロミズム現象を示すグラフである。
【図11】蛍光物質の温度変化による分光反射率の変化を示すグラフである。
【図12】非蛍光物質の温度変化による分光反射率の変化を示すグラフである。
【図13】従来技術における測色値温度補正を行うプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図14】従来技術における測色値温度補正部の動作概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して、本発明をその例示的な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態において示す構成は一例に過ぎず、本発明は図示された構成に限定されるものではない。
【0019】
<第1実施形態>
●装置構成
本実施形態では、カラーセンサを搭載した電子写真方式のプリンタ装置において、測色値の補正を行う例について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態におけるプリンタ装置の構成を示すブロック図である。プリンタ装置1は、印刷ジョブを実行する前または印刷ジョブの実行中に、キャリブレーション用のパッチを出力し、これを内蔵のカラーセンサを用いて測色する。そして、プリンタ装置1は、該測色値に基づいて補正テーブルを作成・更新することによって、装置における色再現性を保つ。
【0021】
プリンタ装置1の機能部位は、コントローラ部11とエンジン部12に大別される。コントローラ部11には、カラーマッチング部111とキャリブレーション部112、LUT生成部113、測色値補正部114、および温度降下量補正部115がある。なお、コントローラ部11には、その他の画像処理に関するさまざまな機能部位が存在するが、ここでは、本実施形態に直接関係しないものについては説明を省略する。
【0022】
カラーマッチング部111では、ICCプロファイルのようなカラーマッチング用LUT1111を用いた、色調整が行われる。キャリブレーション部112では、キャリブレーション用LUT1121を用いて、印刷状態を一定に保つための画像補正(キャリブレーション)が行われる。すなわち、カラーマッチング部111より出力される、画像形成対象となる画像データ(デバイス値)のCMYK値を、キャリブレーション用LUT1121を用いて多次元で変換することにより、補正後のCMYK値を得る。
【0023】
温度降下量補正部115は、カラーマッチング部111から得られるデバイス値(パッチデータ)1112に基づいて、エンジン部12内の温度センサ部122から得られる温度1221に対して補正を施すことによって、補正温度1151を生成する。該補正温度1151はすなわち、該パッチデータに基づくパッチが、カラーセンサ部123で測色された際の温度である、パッチ測色温度を推定したものである。
【0024】
ここで図3に、温度降下量補正部115における動作概要を示す。同図に示すように温度降下量補正部115は、パッチの温度降下量の特性を示す温度降下量テーブル1201と、補正量計算部1202から構成される。温度降下量補正部115においては、補正量計算部1202が、予め作成された温度降下量テーブル1201を参照して補正量を算出するが、この温度降下量テーブル1201の作成方法については後述する。
【0025】
測色値補正部114は、温度降下量補正部115で推定されたパッチ測色温度に基づいて、パッチ測色値に対する温度変動に関する補正を行うことにより、予め定められた任意の温度(対象温度)におけるパッチ測色値を推定する。
【0026】
ここで図2に、測色値補正部114の動作概要を示す。同図に示すように測色値補正部114には、カラーマッチング部111からのデバイス値1112と、温度降下量補正部115で補正されたパッチ測色温度1151と、エンジン部12内のカラーセンサ部123からの測色値1231が入力される。そして、指定された対象温度と、予め設定された基準パッチの温度特性LUT1141とを用いて、測色値の補正を行うことによって、補正後の測色値1142を出力する。
【0027】
なお、本実施形態における測色値補正部114におけるパッチ測色値の推定処理は、上記の関連技術と同様に行えばよいため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0028】
LUT生成部113は、測色値補正部114において補正された、対象温度における補正後の測色値1142を用いて、キャリブレーション部112内のキャリブレーション用LUT1121を生成する。
【0029】
一方、エンジン部12は、メディア上に形成されたパッチを加熱及び加圧によって定着させる定着部121と、メディア上のパッチまたは紙の白色部分を測温する温度センサ部122と、メディア上のパッチを測色するカラーセンサ部123と、を備える。なお、エンジン部12にはその他にも、メディアに画像を形成するためのさまざまな機能部位が存在するが、ここでは、本実施形態に直接関係しないものについては説明を省略する。
【0030】
定着部121は、ローラやベルトの組み合わせによって構成され、ハロゲンヒータなどの熱源を内蔵し、メディア上に付着したトナーを熱と圧力によって溶解及び定着させる。温度センサ部122及びカラーセンサ部123は、定着部121から排紙口への搬送経路上に設置されており、パッチの温度とパッチの色度値をそれぞれ計測する。
【0031】
本実施形態のプリンタ装置1においては、温度センサ部122とカラーセンサ部123とは所定の距離を有して配置されているため、パッチ定着直後のメディアがこれらのセンサ間を搬送される間の温度降下は、パッチによって異なる。本実施形態においては、温度センサ部122で測定したパッチ温度を、温度降下量補正部115がパッチの温度降下量を考慮して補正する。以下ではまず、パッチの温度降下量の補正に必要となる、温度降下量テーブルの作成処理について説明する。その後、プリンタ装置1における、温度降下量テーブルを用いたパッチ温度降下量の補正処理について説明する。
【0032】
●パッチ温度降下量特性テーブル作成処理
以下、温度降下量補正部115におけるパッチの温度降下量を補正するのに必要となる、温度降下量テーブル1201を予め作成する処理について、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理はプリンタ装置1において実行されるが、このとき、カラーセンサ部123の位置に搬送されてきたメディア上の温度を計測するための特別な温度センサ(以下、特別温度センサ)が、温度センサ部122とは別に設けられる必要がある。特別温度センサとしては例えば、放射温度計等を用いることができる。
【0033】
まずステップS1001において、ターゲットとなるメディア(記録用紙)を用意がされ、プリンタ装置1は、該ターゲットメディア上に、着色試料の載り量が最大となる載り量最大パッチを形成する。該載り量最大パッチとして、例えば、プリンタ装置1は、シアンと、マゼンタと、イエローと、ブラックとの印刷可能な各トナーを、それぞれ100%の濃度で、計400%濃度のパッチを印刷すればよい。
【0034】
続いてステップS1002において、載り量最大パッチがカラーセンサ部123を通過する位置における温度が、上述した特別温度センサ(不図示)によって、載り量最大パッチ温度Tmとして計測される。すなわち、ステップS1001で載り量最大パッチが印刷されたターゲットメディアは、カラーセンサ部123付近に搬送され、該載り量最大パッチがカラーセンサ部123を通過する際に、特別温度センサによって載り量最大パッチ温度Tmが計測される。
【0035】
次にステップS1003において、カラーセンサ部123を通過する際のターゲットメディアの紙白部分の温度が、特別温度センサ(不図示)により測色時紙白温度Twとして計測される。ここでターゲットメディアの紙白部分とはすなわち、着色試料の載り量がない紙白パッチに相当する。
【0036】
なおこのとき温度センサ部122において、ターゲットメディアが温度センサ部122を通過する際に、温度T0(測温時紙白温度)を計測しておく。そして、ここで測定された温度T0(測温時紙白温度)と温度Tw(測色時紙白温度)の関係、具体的にはその差分である温度差を、センサ間温度差として算出しておく。
【0037】
次にステップS1004において、ステップS1002及びS1003で得た、載り量最大パッチ温度Tmと、測色時紙白温度Twと、パッチにおける着色試料の載り量(以下、パッチ載り量)との関係に基づき、図5に示す温度降下量テーブル1201を作成する。図5によれば、ターゲットメディア上に形成されたパッチの温度が、そのパッチ載り量に応じて変化することが分かる。そこで、その変化が線形であると仮定して、任意のパッチ載り量について、該パッチがカラーセンサ部123通過する時の温度(パッチ測色温度)を推定することができる。
【0038】
以上のように作成された温度降下量テーブル1201(図5)とセンサ間温度差とが、本実施形態のプリンタ装置1がパッチ温度降下量を補正する際に参照される。そのため、温度降下量テーブル1201は温度降下量補正部115内に保持され、さらにセンサ間温度差も同様に温度降下量補正部115内の不図示のメモリに保持される。
【0039】
●パッチ温度の降下量を補正する処理
以下、上述したように作成された温度降下量テーブル1201を参照してパッチ温度降下量を補正する処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。なお図6は、温度降下量補正部115が行うパッチ温度降下量の補正処理と、その後に測色値補正部114が行う、温度による測色値変動の補正処理を示すものである。
【0040】
まずステップS1301において、デバイスカラー値(C0,M0,Y0,K0)で構成されるパッチが印刷される。ここで印刷するパッチは任意の色でよく、目的に応じて任意のパッチを印刷することができる。
【0041】
次にステップS1302において、エンジン部12内で定着部121を通ってカラーセンサ部123へ搬送されるメディアの紙白部分の温度を、温度センサ部122が計測する。ここで計測された温度を、メディア紙白温度Tw0とする。
【0042】
次にステップS1303において、エンジン部12内でカラーセンサ部123は当該パッチを測色し、測色値1231を得る。
【0043】
次にステップS1304では、温度降下量補正部115の補正量計算部1202がパッチ載り量を算出し、該パッチ載り量に基づいてパッチの補正温度(パッチ測色温度)1151を算出する。
【0044】
まず、パッチ(C0,M0,Y0,K0)がメディア上に形成される際に使用される着色試料の載り量を示す全体載り量PQ(%)を、以下の式(1)により算出する。
PQ=C0+M0+Y0+K0 ・・・(1)
【0045】
次に、図5に示す温度降下量テーブルと、その作成時に算出されたセンサ間温度差と、に基づいて、該パッチに対する補正温度Tc(パッチ測色温度1151)を以下の(2)式により算出する。
Tc=Tw0+(Tm−Tw)×PQ/400+(Tw−T0) ・・・(2)
【0046】
(2)式における右辺第2項、すなわち(Tm−Tw)×PQ/400は、出力パッチの比熱に依存する補正量を示しており、図5に示す温度降下量テーブルを用いたパッチ温度の補正が行われている。図11から分かるようにこの右辺第2項で算出される値はすなわち、温度降下量テーブルに基づくパッチ測色温度と、メディア紙白温度Tw0との温度差に相当する。したがって、この温度差が、右辺第1項のメディア紙白温度Tw0に加算される。
【0047】
また、(2)式における右辺第3項、すなわち(Tw−T0)は、上述したステップS1003において既に算出されているセンサ間温度差である。(2)式では、温度センサ部122が計測しメディア紙白温度Tw0に対してセンサ間温度差が加算されることによって、カラーセンサ部123の位置における紙白温度への補正が行われる。
【0048】
最後にステップS1305では測色値補正部114は、上記補正温度Tcを用いてパッチ測色値を補正する測色値補正を行う。すなわち図2に示すように、ステップS1303で得られたパッチの測色値1231を、ステップS1304で得られたパッチ測色温度1151(Tc)と、パッチを印刷する際に使用したデバイス値(CMYK)1112と、に基づいて補正する。
【0049】
以上説明した様に本実施形態によれば、任意の色のパッチについて、その定着直後からカラーセンシングまでの温度変化を考慮して、適切な測色値の補正を行うことができる。したがって、適切な測色値が得られるため、より適切な色処理を行うことが可能となる。
【0050】
なお本発明は、パッチ定着後のメディア搬送に伴う、パッチ温度の降下量を補正することを特徴としているため、補正後のパッチ温度の利用方法については、本実施形態の例に限定されない。
【0051】
<変形例>
●温度センサの他の構成
上述したように本実施形態では例として、温度センサ部122が搬送時のメディア紙白温度Tw0を計測し、カラーセンサ部123において計測されるであろう紙白の温度へと温度が補正される。温度センサ部122に代えて、定着直後の雰囲気温度と、通常は定着器ローラ内に装備されている温度センサと、を用いる構成であっても、カラーセンサ部123におけるメディアの紙白温度を推定することができる。
【0052】
●温度センサを省略
また、本実施形態では例として、搬送されるメディアの紙白温度Tw0として、温度センサ部122からの信号が毎回温度降下量補正部115に入力され、パッチの温度推定が行われる。ここで、温度センサ部122で測定されるメディア紙白温度Tw0が一定であり、かつ、カラーセンサ部123の位置における載り量最大パッチ温度Tm、および測色時紙白温度Twがそれぞれほぼ一定である場合について考える。この場合、補正温度Tcを得る補正式を、以下の(3)式のように、より簡易に表すことができる。
Tc=Tw+(Tm−Tw)×PQ/400 ・・・(3)
【0053】
この場合、図1に示すプリンタ装置1の構成に含まれる温度センサ部122による計測が不要となるため、プリンタ装置1を、図7に示されるようなより簡易な構成とすることができる。
【0054】
●温度降下量補正部を省略
上記の図7に示す構成においては、図2に示すように測色値補正部114内に保持される、温度変化に応じた測色値の変動量を、複数の基準パッチ毎に測定することにより作成された温度特性LUT1141に、上記(3)式による補正温度Tcを反映させることができる。すなわち、複数の基準パッチについて上記補正式(3)を用いて温度降下量を求めた結果を、温度特性LUT1141に合成することが可能である。この合成の結果、測色値補正部114は図8に示すように動作するため、測色値の補正にかかる計算コストを削減できる。そしてこの場合、図7における温度降下量補正部115が不要となるため、図9に示されるような、より簡易な構成が実現される。
【0055】
●各トナー色で比熱が異なる場合
また本実施形態では、シアンと、マゼンタと、イエローと、ブラックとのトナーのそれぞれについて、単位量あたりの比熱が等しいことを前提として、各色の載り量を合算することにより得られる全体載り量PQを用いた補正式(1),(2)による補正を行った。しかし、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのそれぞれのトナーの単位量あたりの比熱が、それぞれa,b,c,dであり、それぞれが異なる場合には、全体載り量PQに代えてパッチ比熱量PEを算出し、これに基づく補正が行われればよい。すなわち、以下の式(4),(5)による補正を行えば良い。
PE=a×C0+b×M0+c×Y0+d×K0 ・・・(4)
Tc=Tw0+(Tm−Tw)×PE/(a+b+c+d)+(Tw−T0) ・・・(5)
【0056】
●他の定着方法
上述した第1実施形態では、例として、一般に加温及び加圧による定着処理直後のメディアは温度が均一となることを前提として、紙搬送に伴う温度降下を、最大載り量パッチとメディア紙白(紙白パッチ)との双方の温度降下量から推定された。
【0057】
しかし、例えばUV定着のような、他の定着方法を採用したシステムにおいては、吸収される熱エネルギー量がパッチの色ごとに異なるため、温度初期値が異なり、従ってカラーセンサ部123の位置で計測されるパッチ温度が、パッチの色毎に異なってしまう。
【0058】
そこでこのような場合には、代表的なデバイス値のパッチ(基準パッチ)のそれぞれについてカラーセンサ部123の位置の温度を計測し、複数のデバイス値を持つ多次元の温度降下量テーブル1201を構成する。これにより、任意のパッチの温度降下量は、温度降下量テーブル1201に対し、該パッチのデバイス値に応じたLUT補間を行うことによって推定される。
【0059】
<他の実施形態>
本発明の態様はまた、上述の実施形態の機能を実行するための、メモリデバイスに格納されたプログラムを読み出し実行する、システム又は装置のコンピュータ(又はCPU若しくはMPUのようなデバイス)によっても実現されうる。また、方法によっても実現されることができ、この方法の各工程はシステム又は装置のコンピュータによって、例えば上述の実施形態の機能を実行するための、メモリデバイスに格納されたプログラムを読み出し実行することにより実行される。この目的のために、例えばネットワークを介して、又はメモリデバイスとして働く様々な形式の記録媒体(例えばコンピュータ読み取り可能な媒体)から、プログラムはコンピュータへと与えられる。
【0060】
本発明が例示的な実施形態に関連して説明されたが、本発明は開示された例示的な実施形態に限定されないことが理解されるべきである。続く請求の範囲には、構成及び機能の全ての変形例及び均等物が包含されるように、最も広い解釈が与えられるべきである。
【0061】
本願は、2009年3月11日に出願された日本国特許出願番号2009−058696の利益を主張し、この日本国特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【技術分野】
【0001】
本発明画像処理装置および色処理方法に関し、特に、温度に依存して変動する、印刷物の測色値を補正する色処理を行う画像処理装置および色処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、着色物体の測色値は温度によって変化し、この現象はサーモクロミズムと称される。サーモクロミズムは、測定対象物の温度に応じた誤差を測色値に与えるため、高精度な測色が要求される場合に問題になる。
【0003】
誤差の起因となる色変動は、温度に応じてほぼ線形的でありかつ可逆的であることが分かっている。ここで図10に、電子写真プリンタ装置にて印刷されたカラーチャート(以下パッチ)を、分光反射率測定によって解析した結果を示す。図10によれば、色変動が、メディアに含まれる蛍光増白剤などの蛍光物質の影響による変動と、トナー成分などの非蛍光物質の影響による変動と、に分けられることが分かる。さらに、蛍光物質の分光反射率は図11に示すように温度に依存してチャートの縦方向に変化し、非蛍光物質の分光反射率は図12に示すように温度に依存してチャートの横方向に変化する。
【0004】
一般的な印刷に用いられるメディアには、白色度を増すために、紫外光を吸収して可視域で蛍光を発する蛍光増白剤を含むものがある。蛍光増白剤による蛍光増白効果は温度に依存して増減するため、蛍光増白剤を含むメディアへ出力された印刷物の測色値も、温度に依存して変化してしまう。
【0005】
ここで、一般的な印刷装置内部における、色安定化処理およびカラーマッチング処理について説明する。従来より、電子写真プリンタ装置のような印刷装置において所望の色を出力するために、色変換ルックアップテーブル(以下、LUT)が用いられている。色変換LUTには、印刷装置をある一定状態に保つためのキャリブレーションに用いるLUTや、ICCプロファイルに代表されるようなカラーマッチングに用いるためのLUT等がある。これらの色変換LUTを作成するために、例えばIT8 7/3パッチ等の、複数個の色票を印刷装置から出力する。分光測光器等の測色器を用いてこれら複数個の色票を測色することで測色値を得て、デバイス値とデバイス非依存値との対応付けを行い、色変換LUTを作成する。この作成されたLUTを用いることにより、デバイス間の色味の違いや、プリンタエンジンの変動による色味の違いを吸収し、カラーマッチングおよび色安定化を図ることができる。
【0006】
最近では、電子写真プリンタ内部に搭載されたカラーセンサを利用して、このLUTがリアルタイムに生成されている。このようなプリンタは、定着直後のパッチを内蔵のカラーセンサで検知し、パッチの測色値をLUT生成処理にフィードバックしている。
【0007】
しかしながら、一般の電子写真プリンタにおいて、定着直後のパッチは非常に高温状態(約70℃)であるため、上述したサーモクロミズムのためにパッチの測色値が変化してしまう。そのため、ユーザが印刷物を観る環境(室温)に適したLUTを、精度良く作成することができないという問題があった。
【0008】
したがって、プリンタ装置において、測色時の温度を考慮して測色値の補正を行う技術が必要とされている。例えば、図13に示すように、定着直後のメディア温度を考慮してLUTを作成するプリンタ装置が提案されている(例えば、日本国特許第3555706号参照)。図13に示すプリンタ装置1によれば、測色値補正部114を用いて、メディアに印刷された任意のパッチ(プリンタによる任意の再現色)の測色値の温度変動に関する補正を行うことにより、任意の対象温度における測色値を生成することを特徴とする。
【0009】
ここで図14に、測色値補正部114における動作概要を示す。同図に示すように測色値補正部114には、カラーマッチング部111から、測色対象であるパッチのデバイス値(パッチデータ)1112が入力される。さらに、測色値補正部114には、エンジン部内の温度センサ部およびカラーセンサ部の出力値である、パッチ温度1221および測色値1231が入力される。そして、指定された対象温度と、予め設定された基準パッチの温度特性LUT1141とを用いて、測色値の補正を行うことによって、測色値補正部114は補正後の測色値1142を出力する。
【0010】
しかしながら、上記のような従来の、測色値の補正を行うプリンタを含む一般の電子写真プリンタにおいては、定着直後であれば全てのパッチが一定の温度を保っているが、定着後に用紙が一定距離搬送された時点では、パッチ毎に温度が異なってくる。これは、パッチ毎にトナーの載り量等が異なるために、パッチ毎に比熱が異なり、温度降下量に差が発生するためである。
【0011】
このため、パッチの温度に応じた測色値補正をより正確に行うためには、計測するパッチのそれぞれに対する放射温度計等を用いて、測色ごとに逐一、対象となるパッチ温度を測色と同時に計測する必要があり、システムが複雑化および高価格化してしまう。
【0012】
このように、定着直後のパッチ温度は変化してしまうため、パッチ温度に応じた測色値補正を適切に行うことは困難であった。
【発明の概要】
【0013】
本発明は上述した問題を解決するためになされたものであり、以下の機能を有する画像処理装置および色処理方法を提供する。すなわち、メディア上に形成された任意色のパッチについて、パッチ形成後の温度降下量を考慮し、パッチ温度を推定することによって、パッチ測色値の適切な補正を可能とする。
【0014】
本発明に係る画像処理装置は以下の構成を備える。
【0015】
すなわち、本発明に係る画像処理装置は、
パッチデータに基づくパッチをメディア上に形成する形成手段と、
前記メディアの紙白部分を測温して紙白温度を得る測温手段と、
前記メディア上に形成された前記パッチを測色することにより測色値を得る測色手段と、
前記パッチデータと前記紙白温度とに基づいて、前記測色手段で測色された際の前記パッチの温度である測色温度を推定する推定手段と、
該推定された測色温度に基づいて、前記測色値を補正する補正手段と、
を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
本発明のさらなる特徴が(添付の図面を参照して)続く例示的な実施形態の説明から明らかとなるだろう。
【0017】
【図1】本発明に係る一実施形態における、温度降下量補正部を組み込んだプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本実施形態における測色値補正部の動作概要を示す図である。
【図3】本実施形態における温度降下量補正部の構成例を説明する図である。
【図4】本実施形態における温度降下量特性テーブルの作成処理を示すフローチャートである。
【図5】本実施形態における温度降下量テーブルの特性を示す図である。
【図6】本実施形態における温度降下量の補正処理を示すフローチャートである。
【図7】本実施形態の変形例におけるプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図8】本実施形態の変形例における測色値補正部の構成例を説明する図である。
【図9】本実施形態の変形例における温度降下量補正部を必要としないプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図10】代表的なパッチの分光反射率についてのサーモクロミズム現象を示すグラフである。
【図11】蛍光物質の温度変化による分光反射率の変化を示すグラフである。
【図12】非蛍光物質の温度変化による分光反射率の変化を示すグラフである。
【図13】従来技術における測色値温度補正を行うプリンタ装置の構成を示すブロック図である。
【図14】従来技術における測色値温度補正部の動作概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付の図面を参照して、本発明をその例示的な実施形態に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態において示す構成は一例に過ぎず、本発明は図示された構成に限定されるものではない。
【0019】
<第1実施形態>
●装置構成
本実施形態では、カラーセンサを搭載した電子写真方式のプリンタ装置において、測色値の補正を行う例について説明する。
【0020】
図1は、本実施形態におけるプリンタ装置の構成を示すブロック図である。プリンタ装置1は、印刷ジョブを実行する前または印刷ジョブの実行中に、キャリブレーション用のパッチを出力し、これを内蔵のカラーセンサを用いて測色する。そして、プリンタ装置1は、該測色値に基づいて補正テーブルを作成・更新することによって、装置における色再現性を保つ。
【0021】
プリンタ装置1の機能部位は、コントローラ部11とエンジン部12に大別される。コントローラ部11には、カラーマッチング部111とキャリブレーション部112、LUT生成部113、測色値補正部114、および温度降下量補正部115がある。なお、コントローラ部11には、その他の画像処理に関するさまざまな機能部位が存在するが、ここでは、本実施形態に直接関係しないものについては説明を省略する。
【0022】
カラーマッチング部111では、ICCプロファイルのようなカラーマッチング用LUT1111を用いた、色調整が行われる。キャリブレーション部112では、キャリブレーション用LUT1121を用いて、印刷状態を一定に保つための画像補正(キャリブレーション)が行われる。すなわち、カラーマッチング部111より出力される、画像形成対象となる画像データ(デバイス値)のCMYK値を、キャリブレーション用LUT1121を用いて多次元で変換することにより、補正後のCMYK値を得る。
【0023】
温度降下量補正部115は、カラーマッチング部111から得られるデバイス値(パッチデータ)1112に基づいて、エンジン部12内の温度センサ部122から得られる温度1221に対して補正を施すことによって、補正温度1151を生成する。該補正温度1151はすなわち、該パッチデータに基づくパッチが、カラーセンサ部123で測色された際の温度である、パッチ測色温度を推定したものである。
【0024】
ここで図3に、温度降下量補正部115における動作概要を示す。同図に示すように温度降下量補正部115は、パッチの温度降下量の特性を示す温度降下量テーブル1201と、補正量計算部1202から構成される。温度降下量補正部115においては、補正量計算部1202が、予め作成された温度降下量テーブル1201を参照して補正量を算出するが、この温度降下量テーブル1201の作成方法については後述する。
【0025】
測色値補正部114は、温度降下量補正部115で推定されたパッチ測色温度に基づいて、パッチ測色値に対する温度変動に関する補正を行うことにより、予め定められた任意の温度(対象温度)におけるパッチ測色値を推定する。
【0026】
ここで図2に、測色値補正部114の動作概要を示す。同図に示すように測色値補正部114には、カラーマッチング部111からのデバイス値1112と、温度降下量補正部115で補正されたパッチ測色温度1151と、エンジン部12内のカラーセンサ部123からの測色値1231が入力される。そして、指定された対象温度と、予め設定された基準パッチの温度特性LUT1141とを用いて、測色値の補正を行うことによって、補正後の測色値1142を出力する。
【0027】
なお、本実施形態における測色値補正部114におけるパッチ測色値の推定処理は、上記の関連技術と同様に行えばよいため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0028】
LUT生成部113は、測色値補正部114において補正された、対象温度における補正後の測色値1142を用いて、キャリブレーション部112内のキャリブレーション用LUT1121を生成する。
【0029】
一方、エンジン部12は、メディア上に形成されたパッチを加熱及び加圧によって定着させる定着部121と、メディア上のパッチまたは紙の白色部分を測温する温度センサ部122と、メディア上のパッチを測色するカラーセンサ部123と、を備える。なお、エンジン部12にはその他にも、メディアに画像を形成するためのさまざまな機能部位が存在するが、ここでは、本実施形態に直接関係しないものについては説明を省略する。
【0030】
定着部121は、ローラやベルトの組み合わせによって構成され、ハロゲンヒータなどの熱源を内蔵し、メディア上に付着したトナーを熱と圧力によって溶解及び定着させる。温度センサ部122及びカラーセンサ部123は、定着部121から排紙口への搬送経路上に設置されており、パッチの温度とパッチの色度値をそれぞれ計測する。
【0031】
本実施形態のプリンタ装置1においては、温度センサ部122とカラーセンサ部123とは所定の距離を有して配置されているため、パッチ定着直後のメディアがこれらのセンサ間を搬送される間の温度降下は、パッチによって異なる。本実施形態においては、温度センサ部122で測定したパッチ温度を、温度降下量補正部115がパッチの温度降下量を考慮して補正する。以下ではまず、パッチの温度降下量の補正に必要となる、温度降下量テーブルの作成処理について説明する。その後、プリンタ装置1における、温度降下量テーブルを用いたパッチ温度降下量の補正処理について説明する。
【0032】
●パッチ温度降下量特性テーブル作成処理
以下、温度降下量補正部115におけるパッチの温度降下量を補正するのに必要となる、温度降下量テーブル1201を予め作成する処理について、図4のフローチャートを用いて説明する。なお、本処理はプリンタ装置1において実行されるが、このとき、カラーセンサ部123の位置に搬送されてきたメディア上の温度を計測するための特別な温度センサ(以下、特別温度センサ)が、温度センサ部122とは別に設けられる必要がある。特別温度センサとしては例えば、放射温度計等を用いることができる。
【0033】
まずステップS1001において、ターゲットとなるメディア(記録用紙)を用意がされ、プリンタ装置1は、該ターゲットメディア上に、着色試料の載り量が最大となる載り量最大パッチを形成する。該載り量最大パッチとして、例えば、プリンタ装置1は、シアンと、マゼンタと、イエローと、ブラックとの印刷可能な各トナーを、それぞれ100%の濃度で、計400%濃度のパッチを印刷すればよい。
【0034】
続いてステップS1002において、載り量最大パッチがカラーセンサ部123を通過する位置における温度が、上述した特別温度センサ(不図示)によって、載り量最大パッチ温度Tmとして計測される。すなわち、ステップS1001で載り量最大パッチが印刷されたターゲットメディアは、カラーセンサ部123付近に搬送され、該載り量最大パッチがカラーセンサ部123を通過する際に、特別温度センサによって載り量最大パッチ温度Tmが計測される。
【0035】
次にステップS1003において、カラーセンサ部123を通過する際のターゲットメディアの紙白部分の温度が、特別温度センサ(不図示)により測色時紙白温度Twとして計測される。ここでターゲットメディアの紙白部分とはすなわち、着色試料の載り量がない紙白パッチに相当する。
【0036】
なおこのとき温度センサ部122において、ターゲットメディアが温度センサ部122を通過する際に、温度T0(測温時紙白温度)を計測しておく。そして、ここで測定された温度T0(測温時紙白温度)と温度Tw(測色時紙白温度)の関係、具体的にはその差分である温度差を、センサ間温度差として算出しておく。
【0037】
次にステップS1004において、ステップS1002及びS1003で得た、載り量最大パッチ温度Tmと、測色時紙白温度Twと、パッチにおける着色試料の載り量(以下、パッチ載り量)との関係に基づき、図5に示す温度降下量テーブル1201を作成する。図5によれば、ターゲットメディア上に形成されたパッチの温度が、そのパッチ載り量に応じて変化することが分かる。そこで、その変化が線形であると仮定して、任意のパッチ載り量について、該パッチがカラーセンサ部123通過する時の温度(パッチ測色温度)を推定することができる。
【0038】
以上のように作成された温度降下量テーブル1201(図5)とセンサ間温度差とが、本実施形態のプリンタ装置1がパッチ温度降下量を補正する際に参照される。そのため、温度降下量テーブル1201は温度降下量補正部115内に保持され、さらにセンサ間温度差も同様に温度降下量補正部115内の不図示のメモリに保持される。
【0039】
●パッチ温度の降下量を補正する処理
以下、上述したように作成された温度降下量テーブル1201を参照してパッチ温度降下量を補正する処理について、図6のフローチャートを用いて説明する。なお図6は、温度降下量補正部115が行うパッチ温度降下量の補正処理と、その後に測色値補正部114が行う、温度による測色値変動の補正処理を示すものである。
【0040】
まずステップS1301において、デバイスカラー値(C0,M0,Y0,K0)で構成されるパッチが印刷される。ここで印刷するパッチは任意の色でよく、目的に応じて任意のパッチを印刷することができる。
【0041】
次にステップS1302において、エンジン部12内で定着部121を通ってカラーセンサ部123へ搬送されるメディアの紙白部分の温度を、温度センサ部122が計測する。ここで計測された温度を、メディア紙白温度Tw0とする。
【0042】
次にステップS1303において、エンジン部12内でカラーセンサ部123は当該パッチを測色し、測色値1231を得る。
【0043】
次にステップS1304では、温度降下量補正部115の補正量計算部1202がパッチ載り量を算出し、該パッチ載り量に基づいてパッチの補正温度(パッチ測色温度)1151を算出する。
【0044】
まず、パッチ(C0,M0,Y0,K0)がメディア上に形成される際に使用される着色試料の載り量を示す全体載り量PQ(%)を、以下の式(1)により算出する。
PQ=C0+M0+Y0+K0 ・・・(1)
【0045】
次に、図5に示す温度降下量テーブルと、その作成時に算出されたセンサ間温度差と、に基づいて、該パッチに対する補正温度Tc(パッチ測色温度1151)を以下の(2)式により算出する。
Tc=Tw0+(Tm−Tw)×PQ/400+(Tw−T0) ・・・(2)
【0046】
(2)式における右辺第2項、すなわち(Tm−Tw)×PQ/400は、出力パッチの比熱に依存する補正量を示しており、図5に示す温度降下量テーブルを用いたパッチ温度の補正が行われている。図11から分かるようにこの右辺第2項で算出される値はすなわち、温度降下量テーブルに基づくパッチ測色温度と、メディア紙白温度Tw0との温度差に相当する。したがって、この温度差が、右辺第1項のメディア紙白温度Tw0に加算される。
【0047】
また、(2)式における右辺第3項、すなわち(Tw−T0)は、上述したステップS1003において既に算出されているセンサ間温度差である。(2)式では、温度センサ部122が計測しメディア紙白温度Tw0に対してセンサ間温度差が加算されることによって、カラーセンサ部123の位置における紙白温度への補正が行われる。
【0048】
最後にステップS1305では測色値補正部114は、上記補正温度Tcを用いてパッチ測色値を補正する測色値補正を行う。すなわち図2に示すように、ステップS1303で得られたパッチの測色値1231を、ステップS1304で得られたパッチ測色温度1151(Tc)と、パッチを印刷する際に使用したデバイス値(CMYK)1112と、に基づいて補正する。
【0049】
以上説明した様に本実施形態によれば、任意の色のパッチについて、その定着直後からカラーセンシングまでの温度変化を考慮して、適切な測色値の補正を行うことができる。したがって、適切な測色値が得られるため、より適切な色処理を行うことが可能となる。
【0050】
なお本発明は、パッチ定着後のメディア搬送に伴う、パッチ温度の降下量を補正することを特徴としているため、補正後のパッチ温度の利用方法については、本実施形態の例に限定されない。
【0051】
<変形例>
●温度センサの他の構成
上述したように本実施形態では例として、温度センサ部122が搬送時のメディア紙白温度Tw0を計測し、カラーセンサ部123において計測されるであろう紙白の温度へと温度が補正される。温度センサ部122に代えて、定着直後の雰囲気温度と、通常は定着器ローラ内に装備されている温度センサと、を用いる構成であっても、カラーセンサ部123におけるメディアの紙白温度を推定することができる。
【0052】
●温度センサを省略
また、本実施形態では例として、搬送されるメディアの紙白温度Tw0として、温度センサ部122からの信号が毎回温度降下量補正部115に入力され、パッチの温度推定が行われる。ここで、温度センサ部122で測定されるメディア紙白温度Tw0が一定であり、かつ、カラーセンサ部123の位置における載り量最大パッチ温度Tm、および測色時紙白温度Twがそれぞれほぼ一定である場合について考える。この場合、補正温度Tcを得る補正式を、以下の(3)式のように、より簡易に表すことができる。
Tc=Tw+(Tm−Tw)×PQ/400 ・・・(3)
【0053】
この場合、図1に示すプリンタ装置1の構成に含まれる温度センサ部122による計測が不要となるため、プリンタ装置1を、図7に示されるようなより簡易な構成とすることができる。
【0054】
●温度降下量補正部を省略
上記の図7に示す構成においては、図2に示すように測色値補正部114内に保持される、温度変化に応じた測色値の変動量を、複数の基準パッチ毎に測定することにより作成された温度特性LUT1141に、上記(3)式による補正温度Tcを反映させることができる。すなわち、複数の基準パッチについて上記補正式(3)を用いて温度降下量を求めた結果を、温度特性LUT1141に合成することが可能である。この合成の結果、測色値補正部114は図8に示すように動作するため、測色値の補正にかかる計算コストを削減できる。そしてこの場合、図7における温度降下量補正部115が不要となるため、図9に示されるような、より簡易な構成が実現される。
【0055】
●各トナー色で比熱が異なる場合
また本実施形態では、シアンと、マゼンタと、イエローと、ブラックとのトナーのそれぞれについて、単位量あたりの比熱が等しいことを前提として、各色の載り量を合算することにより得られる全体載り量PQを用いた補正式(1),(2)による補正を行った。しかし、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのそれぞれのトナーの単位量あたりの比熱が、それぞれa,b,c,dであり、それぞれが異なる場合には、全体載り量PQに代えてパッチ比熱量PEを算出し、これに基づく補正が行われればよい。すなわち、以下の式(4),(5)による補正を行えば良い。
PE=a×C0+b×M0+c×Y0+d×K0 ・・・(4)
Tc=Tw0+(Tm−Tw)×PE/(a+b+c+d)+(Tw−T0) ・・・(5)
【0056】
●他の定着方法
上述した第1実施形態では、例として、一般に加温及び加圧による定着処理直後のメディアは温度が均一となることを前提として、紙搬送に伴う温度降下を、最大載り量パッチとメディア紙白(紙白パッチ)との双方の温度降下量から推定された。
【0057】
しかし、例えばUV定着のような、他の定着方法を採用したシステムにおいては、吸収される熱エネルギー量がパッチの色ごとに異なるため、温度初期値が異なり、従ってカラーセンサ部123の位置で計測されるパッチ温度が、パッチの色毎に異なってしまう。
【0058】
そこでこのような場合には、代表的なデバイス値のパッチ(基準パッチ)のそれぞれについてカラーセンサ部123の位置の温度を計測し、複数のデバイス値を持つ多次元の温度降下量テーブル1201を構成する。これにより、任意のパッチの温度降下量は、温度降下量テーブル1201に対し、該パッチのデバイス値に応じたLUT補間を行うことによって推定される。
【0059】
<他の実施形態>
本発明の態様はまた、上述の実施形態の機能を実行するための、メモリデバイスに格納されたプログラムを読み出し実行する、システム又は装置のコンピュータ(又はCPU若しくはMPUのようなデバイス)によっても実現されうる。また、方法によっても実現されることができ、この方法の各工程はシステム又は装置のコンピュータによって、例えば上述の実施形態の機能を実行するための、メモリデバイスに格納されたプログラムを読み出し実行することにより実行される。この目的のために、例えばネットワークを介して、又はメモリデバイスとして働く様々な形式の記録媒体(例えばコンピュータ読み取り可能な媒体)から、プログラムはコンピュータへと与えられる。
【0060】
本発明が例示的な実施形態に関連して説明されたが、本発明は開示された例示的な実施形態に限定されないことが理解されるべきである。続く請求の範囲には、構成及び機能の全ての変形例及び均等物が包含されるように、最も広い解釈が与えられるべきである。
【0061】
本願は、2009年3月11日に出願された日本国特許出願番号2009−058696の利益を主張し、この日本国特許出願は参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パッチデータに基づくパッチをメディア上に形成する形成手段と、
前記メディアの紙白部分を測温して紙白温度を得る測温手段と、
前記メディア上に形成された前記パッチを測色することにより測色値を得る測色手段と、
前記パッチデータと前記紙白温度とに基づいて、前記測色手段で測色された際の前記パッチの温度である測色温度を推定する推定手段と、
該推定された測色温度に基づいて、前記測色値を補正する補正手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記推定手段は、複数のパッチに対する測色温度を示すテーブルに基づいて、前記測色温度を推定し、
前記テーブルは、前記形成手段によって前記複数のパッチデータに基づく複数のパッチが形成されたメディアが前記測色手段を通過する際に前記測温手段とは異なるセンサによって測温された、前記複数のパッチの測色時の温度に基づいて作成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記テーブルを作成する際に形成される前記複数のパッチは、着色試料の載り量が最大であるパッチと、着色試料が載っていない紙白パッチとを含むことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記推定手段は、
前記パッチの前記測色温度と前記紙白温度との温度差を、前記テーブルに基づいて算出し、
前記紙白温度に対して前記温度差を加算することによって、前記測色温度を推定する
ことを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記推定手段は、
前記パッチデータに基づくパッチを前記形成手段が形成する際に使用される着色試料の載り量を算出し、
該載り量に基づいて前記温度差を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記推定手段は、
前記パッチデータに基づいて前記パッチの比熱量を算出し、
該比熱量に基づいて前記温度差を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記推定手段は、前記テーブルを作成する際に測定された前記紙白パッチの前記測色時の温度と、前記テーブルを作成する際に前記測温手段によって測定された紙白パッチの温度との差分を、前記紙白温度に対して加算することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記パッチデータおよび前記測色値、および前記測色温度に基づいて、前記メディア上に形成された前記パッチを予め定められた温度下で測色することにより得られる測色値を推定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
メディア上にパッチを形成する形成手段と、該形成されたパッチの温度を計測する測温手段と、該パッチの色を計測する測色手段と、を備える画像処理装置における色処理方法であって、
前記形成手段により、パッチデータに基づくパッチをメディア上に形成する形成ステップと、
前記測温手段により、前記メディアの紙白部分を測温して紙白温度を得る測温ステップと、
前記測色手段により、前記メディア上に形成された前記パッチを測色して測色値を得る測色ステップと、
前記パッチデータと前記紙白温度とに基づいて、前記測色手段で測色された際の前記パッチの温度である測色温度を推定する推定ステップと、
該推定された測色温度に基づいて、前記測色値を補正する測色値補正ステップと、
を有することを特徴とする色処理方法。
【請求項10】
前記推定ステップにおいては、複数のパッチに対する測色温度を示すテーブルに基づいて、前記測色温度を推定し、
前記テーブルは、前記形成手段によって前記複数のパッチデータに基づく複数のパッチが形成されたメディアが、前記測色手段を通過する際に、前記測温手段とは異なるセンサによって測温された、前記複数のパッチの測色時の温度に基づいて作成されている
ことを特徴とする請求項9に記載の色処理方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の色処理方法における各ステップを実行するようにコンピュータを制御するためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記憶したコンピュータ可読な記憶媒体。
【請求項1】
パッチデータに基づくパッチをメディア上に形成する形成手段と、
前記メディアの紙白部分を測温して紙白温度を得る測温手段と、
前記メディア上に形成された前記パッチを測色することにより測色値を得る測色手段と、
前記パッチデータと前記紙白温度とに基づいて、前記測色手段で測色された際の前記パッチの温度である測色温度を推定する推定手段と、
該推定された測色温度に基づいて、前記測色値を補正する補正手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
前記推定手段は、複数のパッチに対する測色温度を示すテーブルに基づいて、前記測色温度を推定し、
前記テーブルは、前記形成手段によって前記複数のパッチデータに基づく複数のパッチが形成されたメディアが前記測色手段を通過する際に前記測温手段とは異なるセンサによって測温された、前記複数のパッチの測色時の温度に基づいて作成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記テーブルを作成する際に形成される前記複数のパッチは、着色試料の載り量が最大であるパッチと、着色試料が載っていない紙白パッチとを含むことを特徴とする請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記推定手段は、
前記パッチの前記測色温度と前記紙白温度との温度差を、前記テーブルに基づいて算出し、
前記紙白温度に対して前記温度差を加算することによって、前記測色温度を推定する
ことを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記推定手段は、
前記パッチデータに基づくパッチを前記形成手段が形成する際に使用される着色試料の載り量を算出し、
該載り量に基づいて前記温度差を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記推定手段は、
前記パッチデータに基づいて前記パッチの比熱量を算出し、
該比熱量に基づいて前記温度差を算出する
ことを特徴とする請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記推定手段は、前記テーブルを作成する際に測定された前記紙白パッチの前記測色時の温度と、前記テーブルを作成する際に前記測温手段によって測定された紙白パッチの温度との差分を、前記紙白温度に対して加算することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記補正手段は、前記パッチデータおよび前記測色値、および前記測色温度に基づいて、前記メディア上に形成された前記パッチを予め定められた温度下で測色することにより得られる測色値を推定することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項9】
メディア上にパッチを形成する形成手段と、該形成されたパッチの温度を計測する測温手段と、該パッチの色を計測する測色手段と、を備える画像処理装置における色処理方法であって、
前記形成手段により、パッチデータに基づくパッチをメディア上に形成する形成ステップと、
前記測温手段により、前記メディアの紙白部分を測温して紙白温度を得る測温ステップと、
前記測色手段により、前記メディア上に形成された前記パッチを測色して測色値を得る測色ステップと、
前記パッチデータと前記紙白温度とに基づいて、前記測色手段で測色された際の前記パッチの温度である測色温度を推定する推定ステップと、
該推定された測色温度に基づいて、前記測色値を補正する測色値補正ステップと、
を有することを特徴とする色処理方法。
【請求項10】
前記推定ステップにおいては、複数のパッチに対する測色温度を示すテーブルに基づいて、前記測色温度を推定し、
前記テーブルは、前記形成手段によって前記複数のパッチデータに基づく複数のパッチが形成されたメディアが、前記測色手段を通過する際に、前記測温手段とは異なるセンサによって測温された、前記複数のパッチの測色時の温度に基づいて作成されている
ことを特徴とする請求項9に記載の色処理方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の色処理方法における各ステップを実行するようにコンピュータを制御するためのプログラム。
【請求項12】
請求項11に記載のプログラムを記憶したコンピュータ可読な記憶媒体。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公表番号】特表2012−514739(P2012−514739A)
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−544201(P2011−544201)
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/JP2010/053475
【国際公開番号】WO2010/103983
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月25日(2010.2.25)
【国際出願番号】PCT/JP2010/053475
【国際公開番号】WO2010/103983
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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