説明

画像処理装置及び画像処理方法

【課題】 減色処理において、にじみが支配的になったヒストグラムから、簡易的に精度よく文字色を選択する。
【解決手段】 色相環において設定した複数の領域と輝度方向に設定した複数の輝度レベルとに基づいて構成される複数の階級を定め、入力画像から各階級の頻度分布を作成し、階級間の色相差が所定の閾値以上あるか否かを判定する。ここで、所定の閾値以上あると判定した場合は色相が最大の階級の色情報と色相が最小の階級の色情報とを代表色として選定する。一方、所定の閾値以上ないと判定した場合は、頻度分布が最大の階級の色情報と当該最大の階級から最も輝度差がある階級の色情報とを代表色として選定する。そして、入力画像に含まれる各画素値を選定された代表色に置換する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入力画像の代表色を選定して減色処理を行う画像処理装置及び画像処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、情報の電子化が進み、紙文書を保存するのではなく、紙文書をスキャナ等で読み込み、電子データとして保存し、その電子データを他装置に送信するシステムが普及している。また、紙文書そのものに使われる色も白黒の2値からカラー化(多値化)が進んでいる。
【0003】
電子データとして保存される電子文書には、可読性向上や高圧縮性を実現させるために文字部は鮮明な色が、背景は均一な色が求められている。しかし、実際に紙文書を電子化する際には、各種のノイズやにじみ、むらなどが発生する。特に、スクリーン等を使用したハーフトーンで構成されたカラー文書では、スクリーンの構成要素(網点と称す)そのものの色に起因したにじみ、むらなどが発生し、可読性や画質に影響を及ぼす。
【0004】
このため、文書の電子化処理において、画像中から代表色を選定し減色する減色処理を行うのが一般的である。
【0005】
スキャン画像の減色処理は、一般的にスキャナや複合機などの機器に組み込み、リアルタイムで稼働させることが想定される。よって、減色処理には高精度もさることながら、高速化と省メモリ化が求められる。
【0006】
タイル単位での減色処理における領域境界に発生したにじみの色を判定する技術が公開されている(例えば、特許文献1参照)。まず、入力画像を規定のサイズのタイルに分割し、色頻度分布生成用の低解像度画像とエッジ頻度分布生成用のエッジ画像を生成する。低解像度画像のある画素を第一の頻度分布(色頻度分布)のある階級(binと称す)に加算した際に、加算画素と同じ位置の画像の画素がエッジ領域であれば、第二の頻度分布(エッジ頻度分布)に加算する。
【0007】
このようにして作った2つの頻度分布のうち、第一の頻度分布の頻度上位3色を候補色とし、候補色の第二の頻度分布が大きければ、その色は領域の境界部にある色、すなわち、にじみと判断し、候補色から外している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2010−268438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
また、一般的に、タイル中の背景と前景の境界長が短ければ、両方の色が混じって発生する境界のにじみの出現頻度は前景色及び背景色よりも小さい。よって、タイル画像中の出現頻度が高い色が当該タイル画像における前景や背景となる重要な色とみなせるので、頻度の高い色を代表色に選択するのが一般的である。
【0010】
一方、図5に示す(F)のように、複雑な漢字の一部等で出現し易い前景と背景の境界が多いタイルでは、前景や背景そのものを表現している色よりも、境界のにじみの方が、出現頻度が大きくなる場合がある。
【0011】
そのため、代表色の選択基準を画素の出現頻度だけとすると、選ばれるべきではない色、すなわちにじみが代表色となってしまう場合がある。
【0012】
また、特許文献1の技術では、色のにじみを判定するために別途エッジ画像と第二の頻度分布を利用する分のメモリが必要になる。
【0013】
本発明は、にじみが支配的になったヒストグラムから、簡便に精度よく文字色を選択可能な装置及び方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の画像処理装置は、彩度と色相とによって構成される色相環を所定の基準に基づいて分割することによって、前記色相環における複数の領域を設定し、更に、所定の色空間の輝度方向を分割することにより複数の輝度レベルを設定し、前記色相環において設定した複数の領域と前記輝度方向に設定した複数の輝度レベルとに基づいて構成される複数の階級を定める色空間分割手段と、
第1の画像データに含まれる全ての画素を対象として、前記色空間分割手段で決定された各階級に属する画素の数を計数することにより頻度分布を作成するとともに、各階級に属する画素の色情報の平均値を当該各階級の色情報として求める頻度分布作成手段と、
前記頻度分布作成手段で求めた前記各階級の色情報に基づいて、階級間の色相差が所定の閾値以上あるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段で前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上あると判定した場合は、前記色相が最大の階級の色情報と前記色相が最小の階級の色情報とを代表色として選定する一方、前記判定手段で前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上ないと判定した場合は、前記頻度分布作成手段で作成した頻度分布が最大の階級の色情報と当該最大の階級から最も輝度差がある階級の色情報とを代表色として選定する代表色選定手段と、
前記第1の画像データに含まれる画素の各画素値を、前記選定された代表色を用いて置換する置換手段と、
を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、減色処理において、にじみが支配的になったヒストグラムから、簡便に精度よく文字色を選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】第1の実施形態による画像処理システムの全体構成を示すブロック図。
【図2】画像処理装置100の機能構成を示すブロック図。
【図3】(A)は入力画像の一例を示す図、(B)は複数のタイル画像を示す図。
【図4】HSV色空間を説明するための図。
【図5】(A)〜(C)は色相環を示す図、(D)〜(F)はヒストグラムを示す図。
【図6】(A)は頻度分布を示す図、(B)は頻度分布のデータ構造を示す図。
【図7】複数の色相範囲にbinが存在する場合の処理を示すフローチャート。
【図8】同一色相範囲にのみbinが存在する場合の処理を示すフローチャート。
【図9】第2の実施形態による代表色選定処理を示すフローチャート
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら発明を実施するための形態について詳細に説明する。尚、以下の実施形態はあくまで例示であり、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。
【0018】
[第1の実施形態]
まず、第1の実施形態として、本発明に係る画像処理装置と、パーソナルコンピュータ(PC)とがネットワークを介して相互に接続される画像処理システムを例に挙げて説明する。
【0019】
<システム構成>
図1は、第1の実施形態による画像処理システムの全体構成を示すブロック図である。画像処理装置100は、原稿画像を読み取り、画像データを生成するスキャナ101及び外部装置とデータの入出力を行うためのネットワークI/F105を備えている。一方、PC120は、画像処理装置100とLAN110などのネットワークで接続され、画像処理装置100から送信されたデータを受信する。
【0020】
画像処理装置100は、スキャナ101により読み取った画像データ又はネットワークI/F105を介して外部装置から取得した画像データに画像処理を施すための処理プログラムを実行するCPU102を有する。更に、画像処理装置100は、処理プログラムを実行する際のワークメモリやデータの一時的な保存等に利用されるメモリ103、及びプログラムやデータを格納するハードディスク104を備えている。
【0021】
図2は、画像処理装置100の機能構成を示すブロック図である。尚、以下で説明する処理部は、CPU102が各種の処理プログラムを実行することによって実現されることを想定するが、その一部又は全部を電気回路(ASIC等)で構成するようにしてもよい。
【0022】
図2において、画像入力部201は、スキャナ101により読み取った画像データ又はネットワークI/F105を介して外部装置から取得した画像データを入力する。ここでは、入力される画像データは、RGBの色空間で表現され、解像度が600dpiとして生成されたカラー画像であるとして説明する。尚、画素値としては、24ビット(各色8ビット)で表現され、各色0〜255の値をとり得る。
【0023】
図3に示す(A)は、画像入力部201から入力された入力画像の一例を示す図である。入力画像300の色情報は、背景領域301、文字領域302、画像領域304でそれぞれ異なり、領域303は背景領域301と文字領域302との境界で発生したにじみとする。また、領域305は背景領域301と画像領域304との境界で発生したにじみとする。ここで、背景領域301は有彩色赤、文字領域302は背景領域301よりも濃い有彩色赤、画像領域304は有彩色黄色とし、色は網点で表現している。尚、にじみは、原稿に元々存在するもの(印刷時に生じたもの)に由来するか、スキャナ101による原稿画像の読み取り時に生じるものである。
【0024】
ここで図2に戻り、タイル分割部202は、入力部201から入力された画像データを予め定められたサイズの複数のタイル画像(第1の画像データ)に分割する。タイル状に分割して順に処理していくことで、処理時に必要となるメモリ量を少なくすることができる。図3に示す(B)は、分割された複数のタイル画像を示す図であり、この例では、入力画像300を、32画素四方を1単位として18分割したものである。以下の処理は、タイル単位に分割した入力タイル203に対して実行する。
【0025】
以下の説明のために、タイルの縦、横それぞれに番号を振り、タイルの位置は(縦番号、横番号)で定義する。図3に示す(B)の例では、最も左かつ最も上のタイルの位置は(0,0)、最も右かつ最も下のタイルの位置は(2,5)となる。
【0026】
ここで図2に戻り、ヒストグラム生成部204は、色空間分割部205、頻度分布生成部206で構成される。色空間分割部205で用いられる色空間は、HSV色空間のため、色空間分割部205にはRGB色空間からHSV色空間への変換処理が含まれる。尚、ヒストグラム生成部204の詳細については更に後述する。
【0027】
一色多色判定部207は、タイル画像が背景のみ(1色)か、前景があるのか(多色)を判定する。ここではヒストグラムの分散(画素が加算されたbinの数、binが存在する色相範囲の数及び輝度レベルの数)を参照し、分散が所定の値より大きい場合は多色、そうでない場合は1色とする。ここで、binは、度数分布を表現するヒストグラムにおける階級である。
【0028】
代表色選定部208は、ヒストグラム生成部204が生成したヒストグラムからタイル内の代表色の色情報(代表色情報210)を決定する。この代表色選定部208は、頻度最大bin判定部209を有する。尚、代表色選定部208の詳細は更に後述する。
【0029】
色置換部211は、入力タイル203の画素単位の色情報と代表色選定部208で決定された代表色情報210との色間の距離を求め、入力画像に最も距離が近い代表色に色を置き換える量子化処理を行う。この結果、タイル単位に減色処理が行われた量子化タイル212が生成される。
【0030】
この例では、色置換部211は、注目画素と代表色のRGB空間のユークリッド距離を計算しているが、色空間、距離算出方法はこれに限られるものではない。
【0031】
次に、本発明に係る画像処理装置のヒストグラム生成部204、代表色選定部208について詳細に説明する。まず、ヒストグラム生成部204の色空間分部205による処理を説明する。
【0032】
<色空間分割>
色空間分割部205は、頻度分布作成部206の頻度分布情報を生成するために用いる複数のbinを決定する。
【0033】
まず、各画素に対応するRGB画素値から、HSV色空間の色相(H)と彩度(S)の値、及びYUV色空間の輝度(Y)の値を導出する。HSV色空間は、図4に示すような色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)により構成される円錐として示される。ここで、半径方向が彩度であり、円錐の中心線からの距離に対応する0〜1の値により表される。円の中心(S=0)では無彩色であり、遠い方(1に近い値)がより鮮やかな有彩色になる。また、色相は円周方向(円の角度方向)に対応しており、0〜360度の値により色相を表現する。例えば、0度は赤系の色、50度は黄系の色、120度は緑系の色、200度は青系の色に対応する。明度Vは色の明るさを示し、0〜100(%)の値で示され、値が大きくなるにつれ明るくなる。尚、0%は黒色、100%は白色に対応している。
【0034】
RGB画素値(R,G,B)の値の最大値をMAXとし、最小値をMINとしたとき、HSV画素値(H,S,V)の各値は以下のように算出される。
【0035】
H=60×(G−B)/(MAX−MIN)+0 if MAX=R
H=60×(B−R)/(MAX−MIN)+120 if MAX=G
H=60×(R−G)/(MAX−MIN)+240 if MAX=B
S=(MAX−MIN)
V=MAX
ここで、RGBの各値は、0〜255の範囲で表されるものとする。尚、HSV色空間の明度Vよりも、YUV色空間の輝度Yの方がより人間の目で見た場合の明るさの感覚に近い。このため、第1の実施形態においては、明度Vの替わりにYUV色空間の輝度Yを用いる。
【0036】
すなわち、第1の実施形態では、HSV色空間の色相及び彩度と、YUV色空間の輝度とを用いるものとする。以下では、HSV色空間の色相及び彩度、YUV色空間の輝度により表される色空間をY/HS色空間と呼ぶ。尚、輝度Yの値は、RGB画素値(R,G,B)から以下のように算出される。
【0037】
Y=0.29891×R+0.58661×G+0.11448×B
上記の数式により、RGB画素値から、H,S,Yの値が算出できる。
【0038】
次に、色相及び彩度における閾値と、輝度における閾値とを設定することにより色空間を分割する。輝度方向については、一次元の線形であるため、輝度値を所定の輝度閾値に基づいて分割するとよい。以下では、輝度レベルを16段階に設定した場合を例に挙げて説明する。このとき、各輝度値間の15個(所定のP個)の輝度閾値に基づいて、16個(P+1個)の領域(Y0〜Y15)に分割される。
【0039】
図4に示す下段は、色相と彩度とにより表現される色相環401を複数の領域402〜406に分割する例を示す図である。まず、色相環401を無彩色領域(低彩度領域)と有彩色領域(高彩度領域)に分ける。上述のように、彩度は、色相環における半径方向の距離で表現でき、色相環の原点に近いほど白、灰色、黒などの無彩色に近づき、逆に原点から離れるほど鮮やかな有彩色となる。そこで、所定の彩度閾値S’(所定閾値)を設定し、彩度が当該彩度閾値S’より小さい範囲を、無彩色の領域402(H0)とする。
【0040】
次に、有彩色領域の分割について説明する。色相は、色相環における位相で表現されるため、色相環上を設定した角度で分割し、有彩色領域を区分する。第1の実施形態では、色空間を4等分、すなわち、90度間隔で区分色相値を設定し、有彩色領域403〜406をH1〜H4まで設定する。
【0041】
色相分割に際しての基準となるH1の区分色相値は、タイル画像に含まれる画素を順に走査し、最初に発見された彩度閾値S’以上の彩度を有する画素の色相値に±45度加算したものとする。以下、具体例を挙げて説明する。
【0042】
図5に示す(A)は、図3に示すタイル画像(0,0)の色相環である。まず、H1の区分色相値は、タイル画像(0,0)を順に走査していき、彩度閾値S’以上を有する画素を発見すると、当該最初に発見した画素(基準画素)の画素値501を中心に±45度で色相環の分割位置を決定する。そして、90度間隔で区分色相値を設定することで、有彩色領域H1〜H4に分割する。色分布502は、タイル画像(0,0)をすべて走査した後の、画素値の分布を示している。このタイルに含まれているのは薄い赤の背景領域301に濃い赤の文字領域302のため、この2つの領域の色相に大きな差がない。よって、色相環上の色分布502は背景領域301、文字領域302の両方の画素値が含まれている。
【0043】
図5に示す(B)は、図3に示すタイル画像(0,3)の色相環である。まず、H1の区分色相値は、タイル画像(0,3)を順に走査し、最初に発見された彩度閾値S’以上の画素値503を中心に±45度で決定し、有彩色領域が分割される。色分布504、505、506は、タイル画像(0,3)をすべて走査した後の、画素値の分布を示している。このタイルに含まれているのは、薄い赤の背景領域301に、黄色い画像領域304なので、色相環上の色分布504は背景領域301、色分布505は画像領域304である。背景の赤と前景の黄色には色相に差があるため、色分布504と色分布505は色相環では離れて存在している。しかし、背景と文字の境界に発生したにじみの領域305があるため、文字と背景の色分布をつなぐ形でにじみの色分布506が色相環上に存在している。
【0044】
図5に示す(C)は、図3に示すタイル画像(1,4)の色相環である。まず、H1の区分色相値は、タイル画像(1、4)を順に走査し、最初に発見された彩度閾値S’以上の画素値507を中心に±45度で決定し、有彩色領域が分割される。色分布508、509、510は、タイル画像(1、4)をすべて走査した後の、画素値の分布を示している。タイル画像(1,4)は図5に示す(B)で説明したタイル画像(0,3)と同じく、薄い赤の背景領域301に、黄色い画像領域304が含まれている。色相環上の色分布508は背景領域301、色分布509は画像領域304、色分布510はにじみの領域305に相当する。
【0045】
尚、以下の説明では、色相と彩度とにより表現される色相環401を分割したときの各領域(無彩色の領域H0と、分割された有彩色領域H1〜H4)とをまとめて、色相範囲と呼ぶこととする。
【0046】
<頻度分布情報の生成>
頻度分布生成部206は、まず色空間分割部205で輝度方向に分割した輝度レベルY(Y0〜Y15)と、色相と彩度で表される色相環を分割して求めた色相範囲H(H0〜H4)とで構成される二次元配列を作る。この二次元配列それぞれの配列要素(=階級(bin))に含まれるタイル画像内の画素の出現回数を計数(カウント)する。
【0047】
図6に示す(A)は、頻度分布の配列を示す図である。この(A)の頻度分布の各binには、各binに対応する輝度レベル及び色相範囲の色情報を持つタイル画像の画素出現数と、カウントされた画素に対応する色情報(色相、彩度、RGB)の平均値とを格納する。
【0048】
図6に示す(B)は、頻度分布のデータ構造を示す図である。頻度分布はbinの配列と色空間分割で定義した有彩色領域の区分の色相値を保持する。頻度分布作成では、画素の色情報がどのbinに当てはまるか否かを判定し、該当するbinの画素出現数を加算(インクリメント)する。これと同時にbinの色情報に、画素の色情報をそれぞれ加算する。
【0049】
すべてのタイル画像の画素を判定した後、各binの色情報を画素出現数で除算する。すなわち、binに加算された画素の色情報の平均値を算出し、この値を当該binの色情報と確定する。
【0050】
図5に示す(D)〜(F)は、色相範囲及び輝度レベルによって定義された各binの頻度分布の例を示している。第1の実施形態で作成した頻度分布は、1つのタイル画像につき、5つの色相範囲の輝度ヒストグラムを作るのと等しい。また、入力画像の色は網点で表現されているため、本来人の目で見えているのは1色であっても、網点構成点の影響で画素単位の色情報にばらつきがある。このため、ヒストグラムでは複数の輝度レベルのbinに画素が加算されるのが一般的である。
【0051】
<代表色の決定>
代表色選定部208は、頻度分布生成部206で生成された情報に基づき代表色を決定する。もし、一色多色判定部207で1色、すなわち前景が存在しないと判定された場合、タイル画像の代表色はそのタイル画像の画素の色情報の平均値とすればよい。ここでは、一色多色判定で、多色、すなわち前景が存在する場合の代表色決定について詳細を説明する。
【0052】
一般的には、タイル画像中の出現頻度が高い色が当該タイル画像の背景代表色であるとみなせる。また、印刷物は人の目に見やすいように前景と背景の輝度や色相に差をつけてデザインするケースがほとんどであるため、頻度最大の色から輝度や色相に差がある色を文字の代表色に採用することができる。
【0053】
以上のことから、代表色の算出に用いるべきbinの特徴を以下にまとめる。
*頻度が高いbin
*頻度が高いbinと比べて輝度レベルに差があるbin
*色相範囲が異なるbin
第1の実施形態では、ヒストグラム上で画素が加算された色相範囲の数により、代表色選択アルゴリズムを切り替えるため、アルゴリズムは2種類用意する。
(1)複数の色相範囲にbinが存在する場合
(2)同一色相範囲にのみbinが存在する場合
上記2種類のアルゴリズムの詳細を順に説明する。まず、上記(1)のアルゴリズムを詳細に説明する。複数の色相範囲にbinが存在するヒストグラムとなったタイルとは、入力画像の背景色と前景色の色相が異なり、色空間分割時にはそれぞれの色が別々の色相範囲に分配された状態である(色相環:図5の(B))。ヒストグラムで見ると、図5に示す(E)のように背景色binと前景色binは異なる色相範囲(図5(E)ではH1とH2)に出現する。
【0054】
このことから、複数の色相範囲にbinがあるヒストグラムの場合は、それぞれの色相範囲の頻度最大のbinと、そのbinから輝度レベルに差があるbinとを代表色に選べばよい。
【0055】
上述の複数の色相範囲にbinが存在する場合の代表色選定処理を、図7を用いて説明する。この処理は、binが存在する色相範囲毎に実施する。まず、S701において、ある色相範囲での頻度最大のbinの色情報を代表色に採用し、S702へ遷移する。このS702では、この色相範囲に含まれる色の輝度レベルに差があるか否かを判定する。具体的には、無彩色領域H0ではH0の範囲で画素加算されたbinの数の大小で判断すればよい。
【0056】
また、有彩色領域H1〜H4における輝度差の有無の判定基準は無彩色領域と異なる。なぜなら、印刷物での有彩色の表現には網点が使われるため、表現したい色が1色であっても網点の構成の関係で画素単位の色情報は輝度差が発生しやすい。このため、画素加算されたbinの数だけでは、色相範囲中に代表色となるべきbinが複数存在するか否かを判断することができない。よって、確実に輝度の差があるかを確認するため、binが連続して存在しているか否かを判定基準とする。すなわち、色相範囲中にbinが連続していれば、輝度レベルに差がないと判断し、逆にbinが飛び石に存在していれば、この色相範囲は輝度レベルに差があるとみなす。
【0057】
S702で輝度レベルに差がある(YES)と判定されれば、S703へ遷移し、N0であれば、この色相範囲の代表色選択は終了し、他の色相範囲の代表色選択に移行する。このS703では、S701で選択した頻度最大のbinに対して同一色相範囲内で最も輝度レベルに差があるbinの色情報を代表色に採用する。具体的には、頻度最大binから輝度方向に一番離れた位置にあるbinである。
【0058】
上述の代表色選択処理をタイル画像(0,3)のヒストグラム図5に示す(E)に適応した場合、H1とH2それぞれにおいて輝度レベルに差がないと判定されるので、選ばれる代表色はH[1]Y[7]とH[2]Y[11]となる。
【0059】
次に、上記(2)のアルゴリズムを詳細に説明する。同一の色相範囲にbinが存在するヒストグラムとなったタイルとは、色相は近いもしくは無彩色であり、濃度に差をつけた前景と背景の色の組み合わせ(色相環:図5の(A))が想定される。ヒストグラムでみると、図5に示す(D)のように、前景色binと背景色binは同じ色相範囲に出現している。このような同一の色相範囲だけにbinが出現した場合は、色相範囲内で頻度最大binが背景色、その背景色から最も輝度差のあるbinが前景の文字色となる。
【0060】
以上のことから、無彩色相範囲H0にのみbinが存在するならば、頻度最大binとそこから最も輝度レベルに差があるbinを代表色に選択すればよい。
【0061】
しかし、色相環が図5の(C)、ヒストグラムが図5の(F)のように、色相範囲H1を区分する際に用いた基準画素が前景と背景の境界で発生したにじみの場合、本来異なる色相範囲に区分されるべき前景色と背景色が同一の色相区分に配置されることがある。
【0062】
こういった場合、図5に示す(A)に挙げた前景と背景の色相が近い場合と同様の処理ではうまくいかないケースが出てくる。それは、タイル中の前景領域の形状が複雑なため、背景と前景との境界領域が多くなり、前景や背景そのものを表している色の出現頻度よりも、境界のにじみの色の出現頻度が高いケースである。
【0063】
このケースに対応するため、同一の有彩色相範囲にのみbinが出現したヒストグラムから代表色を選択する場合には、頻度最大のbinを代表色とすべきか否かを判定する。同一の有彩色相範囲H1にだけbinが出現した場合の代表色決定処理の詳細を、図8を用いて説明する。S801は各binの色情報を参照し、色相に差があるか否かを判定する。具体的には、最大色相値のbinと最小色相値のbinを抽出し、その差が一定以上(所定の閾値以上)あれば、階級間の色相差があると判断する。
【0064】
S801において、階級間の色相差が一定以上あるならば(YESならば)、S802へ遷移し、色相最大のbinと色相最小のbinを代表色に選択する。しかし、NOであれば、S803へ遷移し、頻度最大binと頻度最大binから最も輝度差のあるbinを代表色に選択する。
【0065】
図5に示す(D)、(F)のヒストグラムを具体例にする。まず、図5に示す(D)のヒストグラムの場合、図5に示す(A)のとおり、色相の差は小さい。このため、S803に進み、代表色は頻度最大のH[1]Y[7]、そこから輝度レベルに差があるH[1]Y[3]を代表色に選択する。
【0066】
次に、図5に示す(F)のヒストグラムの場合、図5に示す(C)のとおり、色相の差が大きい。このため、S802に進み、代表色は色相最大、最小のH[1][6]、H[1][12]を代表色に選択する。
【0067】
第1の実施形態によれば、にじみが支配的な画像であっても、簡易的な処理で精度よく代表色を選択することが可能となる。
【0068】
[第2の実施形態]
次に、図面を参照しながら本発明に係る第2の実施形態を詳細に説明する。第1の実施形態では、同一の有彩色相範囲H1にのみbinがあった場合について、binの色相差に基づいて、頻度最大binを代表色に採用すべきか否かを判定した。第2の実施形態では、複数の色相範囲にbinがある場合についても、頻度最大binを代表色に採用すべきか否かを判定する。
【0069】
図9は、複数の色相範囲にbinがある場合の代表色選定処理を示すフローチャートである。この処理は、binが存在する色相範囲毎に実施する。まず、S901において、ある色相範囲に含まれるbinの色情報を参照し、色相に差があるか否かを判定する。具体的には、同一色相範囲に含まれる最大色相値のbinと最小色相値のbinを抽出し、その差が一定以上あれば、階級間の色相差があると判断する。
【0070】
S901で、階級間の色相差が大きいならば(YESならば)、S902へ遷移し、色相最大のbinと色相最小のbinを代表色に選択し、この色相範囲からの代表色選定処理を終了する。しかし、NOであれば、S903へ遷移し、判定対象の色相範囲内で頻度最大のbinを代表色に採用し、S904へ遷移する。S904、S905の輝度レベル判定処理は図7に示すS702、S703と同義であるため、ここでの説明を省く。
【0071】
尚、第1の実施形態では、同一の有彩色相範囲H1にのみ頻度最大bin判定を行ったが、無彩色相範囲H0にのみbinがある場合にも頻度最大binが代表色か否かの判定を実行してもよい。この場合、すべてのbinの色相値の平均が0に近い場合は、色相が不定になるため、全binの色相値の平均が無彩色領域と有彩色領域を区分する所定閾値S’に近い時に実施する。
【0072】
[他の実施形態]
また、本発明は、以下の処理を実行することによっても実現される。即ち、上述した実施形態の機能を実現するソフトウェア(プログラム)を、ネットワーク又は各種記憶媒体を介してシステム或いは装置に供給し、そのシステム或いは装置のコンピュータ(またはCPUやMPU等)がプログラムを読み出して実行する処理である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
彩度と色相とによって構成される色相環を所定の基準に基づいて分割することによって、前記色相環における複数の領域を設定し、更に、所定の色空間の輝度方向を分割することにより複数の輝度レベルを設定し、前記色相環において設定した複数の領域と前記輝度方向に設定した複数の輝度レベルとに基づいて構成される複数の階級を定める色空間分割手段と、
第1の画像データに含まれる全ての画素を対象として、前記色空間分割手段で決定された各階級に属する画素の数を計数することにより頻度分布を作成するとともに、各階級に属する画素の色情報の平均値を当該各階級の色情報として求める頻度分布作成手段と、
前記頻度分布作成手段で求めた前記各階級の色情報に基づいて、階級間の色相差が所定の閾値以上あるか否かを判定する判定手段と、
前記判定手段で前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上あると判定した場合は、前記色相が最大の階級の色情報と前記色相が最小の階級の色情報とを代表色として選定する一方、前記判定手段で前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上ないと判定した場合は、前記頻度分布作成手段で作成した頻度分布が最大の階級の色情報と当該最大の階級から最も輝度差がある階級の色情報とを代表色として選定する代表色選定手段と、
前記第1の画像データに含まれる画素の各画素値を、前記選定された代表色を用いて置換する置換手段と、
を有することを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
画像データを入力する入力手段と、
前記入力手段で入力された画像データを複数のタイル画像に分割する分割手段と、を更に有し、
前記第1の画像データは、前記分割手段で分割されたタイル画像であることを特徴とする請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記頻度分布作成手段で作成した頻度分布に基づいて画素の数が計数された階級の全てが、前記色相環において設定した複数の領域のうちの2つ以上の領域に属するか、1つの領域に属するかを判定する手段と、
前記2つ以上の領域に属すると判定された場合、それぞれの領域について、当該領域に属する階級のうちで前記頻度分布の頻度が最大の階級の色情報を代表色とし、更に、当該領域に属する階級のうちで前記頻度分布の頻度が最大の階級から一定以上の輝度差がある階級があれば当該階級の色情報も代表色に選定する手段と、を更に有し、
前記1つの領域に属すると判定された場合は、前記判定手段と前記代表色選定手段とによって前記代表色を選定するように処理することを特徴とする請求項1又は2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記頻度分布作成手段で作成した頻度分布に基づいて画素の数が計数された階級の全てが、前記色相環において設定した複数の領域のうちの2つ以上の領域に属するか、1つの領域に属するかを判定する手段と、
前記2つ以上の領域に属すると判定された場合、それぞれの領域について、
前記頻度分布作成手段で求めた前記各階級の色情報に基づいて、階級間の色相差が所定の閾値以上あるか否か判定し、
前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上あると判定した場合は、前記色相が最大の階級の色情報と前記色相が最小の階級の色情報とを代表色として選定する一方、
前記判定手段で前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上ないと判定した場合は、当該領域に属する階級のうちで前記頻度分布の頻度が最大の階級の色情報を代表色とし、更に、当該領域に属する階級のうちで前記頻度分布の頻度が最大の階級から一定以上の輝度差がある階級があれば当該階級の色情報も代表色に選定する手段と、を更に有し、
前記1つの領域に属すると判定された場合は、前記判定手段と前記代表色選定手段とによって前記代表色を選定するように処理することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記色空間分割手段は、前記第1の画像データに含まれる画素を順に走査し、最初に発見された所定の閾値以上の彩度を有する画素を基準画素として前記色相環を分割することによって、前記色相環における複数の領域を設定し、更に、所定の色空間の輝度方向を分割することにより複数の輝度レベルを設定し、前記色相環において設定した複数の領域と前記輝度方向に設定した複数の輝度レベルとに基づいて構成される複数の階級を定めることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
画像処理装置の画像処理方法であって、
色空間分割手段が、彩度と色相とによって構成される色相環を所定の基準に基づいて分割することによって、前記色相環における複数の領域を設定し、更に、所定の色空間の輝度方向を分割することにより複数の輝度レベルを設定し、前記色相環において設定した複数の領域と前記輝度方向に設定した複数の輝度レベルとに基づいて構成される複数の階級を定める色空間分割工程と、
頻度分布作成手段が、第1の画像データに含まれる全ての画素を対象として、前記色空間分割手段で決定された各階級に属する画素の数を計数することにより頻度分布を作成するとともに、各階級に属する画素の色情報の平均値を当該各階級の色情報として求める頻度分布作成工程と、
判定手段が、前記頻度分布作成工程で求めた前記各階級の色情報に基づいて、階級間の色相差が所定の閾値以上あるか否かを判定する判定工程と、
代表色選定手段が、前記判定工程において前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上あると判定した場合は、前記色相が最大の階級の色情報と前記色相が最小の階級の色情報とを代表色として選定する一方、前記判定工程において前記階級間の色相差が前記所定の閾値以上ないと判定した場合は、前記頻度分布作成手段で作成した頻度分布が最大の階級の色情報と当該最大の階級から最も輝度差がある階級の色情報とを代表色として選定する代表色選定工程と、
置換手段が、前記第1の画像データに含まれる画素の各画素値を、前記選定された代表色を用いて置換する置換工程と、
を有することを特徴とする画像処理方法。
【請求項7】
コンピュータを請求項1乃至5の何れか1項に記載の画像処理装置の各手段として機能させるためのプログラム。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−102300(P2013−102300A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243973(P2011−243973)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】