説明

画像処理装置及び画像処理方法

【課題】彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍である印刷装置に利用される圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減する。
【解決手段】プリンター20は、印刷ヘッド31がカラー(彩色)の印刷用のノズル解像度に対して黒(無彩色)の印刷用のノズル解像度がX倍であり、Yプレーンに対してCb,Cr(C,C)プレーンを1/Xの間引率で画素を間引きしてJPEGデータ(圧縮データ)を解凍する。このように、ノズル解像度に合わせて、C,Cプレーンを間引きして解凍処理可能である。また、Yプレーンの解像度に対しC,Cプレーンの解像度が等倍であるJPEGデータを取得したときには、Yプレーンに対してC,Cプレーンの間引率を1/Xに設定し、設定された間引率でJPEGデータを解凍するものとしてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像処理装置及び画像処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像処理装置としては、サンプリング対象のJPEG画像に対しハフマン復号化、ランレングスハフマン復号化及び逆量子化を行い、得られた8×8のブロックの各々に対して全64画素のうち画素値取得対象の画素を選択し、選択した画素のみについて逆DCT演算を行うことにより、圧縮画像をサンプリングして表示するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、選択した画素のみについて逆DCT演算を行うことから、圧縮画像をサンプリングして表示するための処理負担を軽減してその処理時間長を短縮することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−271794号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、黒の解像度とカラーの解像度とが異なるノズルを備えた印刷装置がある。このような印刷装置において、黒の解像度とカラーの解像度とを考慮したJPEG圧縮データの解凍処理は考えられていなかった。このような印刷装置に用いる圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間を低減することが求められていた。
【0005】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍である印刷装置に利用される圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる画像処理装置及び画像処理方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の画像処理装置は、
彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍(Xは2以上の整数)である印刷装置に用いられ、無彩色及び彩色のプレーンを有しDCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データを解凍して画像データを生成する画像処理装置であって、
無彩色のプレーンに対して彩色のプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きして前記圧縮データを解凍する解凍処理手段、
を備えたものである。
【0008】
この画像処理装置では、彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍である印刷装置で利用される、無彩色及び彩色のプレーンを有しDCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データを解凍して画像データを生成する際に、無彩色のプレーンに対して彩色のプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きして圧縮データを解凍する。このように、ノズル解像度に合わせて、彩色のプレーンを間引きして解凍処理可能であり、例えば逆量子化処理や逆DCT演算処理などを省略することができる。したがって、彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍である印刷装置に利用される圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。ここで、彩色の印刷用のノズルはカラーのノズル、無彩色の印刷用のノズルは黒のノズルとしてもよいし、彩色のプレーンはCbプレーンやCrプレーンとし、無彩色のプレーンはYプレーンとしてもよい。また、「間引率」とは、間引き前の画素数に対する間引き後の縦横の画素数の比率をいうものとし、間引率1は間引きなしであり、間引率1/2,1/4,1/8となると画像データの画素数が小さくなるように間引きを行うものとする。このとき、前記解凍処理手段は、前記設定された間引率を用いて画素を間引きして逆量子化及び逆DCT演算を行い前記画像データを生成するものとしてもよい。
【0009】
本発明の画像処理装置は、前記無彩色プレーンの解像度に対し前記彩色プレーンの解像度が等倍である前記圧縮データを取得したときには、前記無彩色のプレーンに対して前記彩色のプレーンの間引率を1/Xに設定する間引率設定手段、を備え、前記解凍処理手段は、前記間引率設定手段により設定された間引率で前記取得した圧縮データを解凍するものとしてもよい。こうすれば、圧縮データの内容に合わせて、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。このとき、前記間引率設定手段は、前記圧縮データを取得したときには前記無彩色プレーンの解像度と前記彩色プレーンの解像度とに基づき、前記無彩色プレーンの解像度に対し前記彩色プレーンの解像度が等倍であるときには、前記無彩色プレーンの間引率に対して前記彩色のプレーンの間引率を1/X倍に設定する一方、前記無彩色プレーンの解像度に対し前記彩色プレーンの解像度が1/X倍であるときには前記無彩色プレーンの間引率に対して前記彩色のプレーンの間引率を等倍に設定するものとしてもよい。
【0010】
間引率を設定する態様を採用した本発明の画像処理装置において、前記間引率設定手段は、指定された印刷サイズと解凍後の画像サイズとに基づいて定められる縮小倍率に応じて間引率を設定し、彩色の解像度に対して無彩色の解像度をX倍で印刷するときには、前記無彩色のプレーンに対して前記彩色のプレーンの間引率を1/Xに設定するものとしてもよい。こうすれば、印刷サイズと画像サイズとをも考慮し、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間を更に低減することができる。
【0011】
間引率を設定する態様を採用した本発明の画像処理装置において、前記間引率設定手段は、前記解凍後の画像サイズが指定された印刷サイズ以上となるように前記間引率を設定するものとしてもよい。こうすれば、印刷画像の画質低下をより抑制しつつ、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。
【0012】
本発明の画像処理装置において、彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度が2n倍(nは正数)であり、前記解凍処理手段は、無彩色のプレーンに対して彩色のプレーンを1/2nの間引率で画素を間引きして前記圧縮データを解凍するものとしてもよい。圧縮データは、2n×2nのプレーンを有するため、間引処理をより簡素化可能であり、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより容易に低減することができる。
【0013】
本発明の画像処理装置において、前記圧縮データは、JPEGデータ、MPEGデータのうちいずれか1以上であるものとしてもよい。
【0014】
本発明の画像処理方法は、
彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍である印刷装置に用いられ、無彩色及び彩色のプレーンを有しDCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データを解凍する画像処理方法であって、
無彩色のプレーンに対して彩色のプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きして前記圧縮データを解凍するステップ、
を含むものである。
【0015】
この画像処理方法では、画像処理装置と同様に、ノズル解像度に合わせて、彩色のプレーンを間引きして解凍処理可能であり、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。なお、この画像処理方法において、上述した画像処理装置の種々の態様を採用してもよいし、また、上述した画像処理装置の各機能を実現するようなステップを追加してもよい。
【0016】
本発明のプログラムは、上述した画像処理方法の制御方法の各ステップを1以上のコンピューターに実現させるものである。このプログラムは、コンピューターが読み取り可能な記録媒体(例えばハードディスク、ROM、FD、CD、DVDなど)に記録されていてもよいし、伝送媒体(インターネットやLANなどの通信網)を介してあるコンピューターから別のコンピューターへ配信されてもよいし、その他どのような形で授受されてもよい。このプログラムを1つのコンピューターに実行させるか又は複数のコンピューターに各ステップを分担して実行させれば、上述した画像処理方法の各ステップが実行されるため、この画像処理方法と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】プリンターシステム10の構成の概略を示す構成図。
【図2】印刷ヘッド31の構成の概略を示す構成図。
【図3】印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図4】間引解凍処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【図5】間引解凍処理の概念図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態の一例を図面を用いて説明する。図1は本実施形態であるプリンターシステム10の構成の概略を示す構成図である。本実施形態のプリンターシステム10は、本発明の画像処理装置としてのプリンター20と、プリンター20に接続され入力装置47及びディスプレイ48を備え印刷指示などを行うパソコン(PC)40とを備えている。プリンター20は、プリンター20の全体をコントロールするコントローラー21と、ガラス面に載置された読取原稿を読み取る読取機構25と、着色剤を用い印刷媒体に画像を形成する印刷機構26とを備えている。また、プリンター20は、外部機器との情報のやりとりを行うインターフェイス(I/F)27と、各種情報の表示やユーザーからの入力を受け付ける操作パネル28と、メモリーカードとのデータの入出力を司るメモリーカードリーダー30とを備えている。このプリンター20は、読取機構25と印刷機構26とを備え、プリンター機能、スキャナー機能及びコピー機能を有するマルチファンクションプリンターとして構成されている。このプリンター20では、コントローラー21や読取機構25、印刷機構26、I/F27、操作パネル28及びメモリーカードリーダー30は、バス29によって電気的に接続されている。
【0019】
コントローラー21は、CPU22を中心とするマイクロプロセッサーとして構成されており、一時的にデータを記憶したりデータを保存したりするRAM23と、各種処理プログラムを記憶しデータを書き換え可能なフラッシュメモリー24とを備えている。このコントローラー21は、画像読取処理を実行するよう読取機構25を制御すると共に、印刷処理を実行するよう印刷機構26を制御する。
【0020】
また、このコントローラー21は、機能ブロックとして、間引率設定部36、解凍処理部37及び補正実行処理部38を備えている。間引率設定部36は、圧縮データであるJPEGデータを解凍する際に画素を間引く間引率を設定する処理を実行する。この間引率設定部36は、詳しくは後述するが、印刷ヘッド31のノズル解像度に合わせ、JPEGデータのYプレーン(無彩色プレーン)に対しCb,Crプレーン(彩色プレーン;以下C,Cプレーンとも称する)の間引率を1/X倍に設定する処理を実行する。なお、間引率とは、間引き前の画素数に対する間引き後の縦横の画素数の比率をいうものとし、間引率1は間引きなしであり、間引率1/2,1/4,1/8となると画像データの画素数が小さくなるように間引きを行うものとする。解凍処理部37は、間引率設定部36により設定された間引率を用いて画素を間引きして逆量子化及び逆DCT演算を行いJPEGデータを解凍して画像データを生成する処理を実行する。補正実行処理部36は、画像に対して補正を実行する処理部であり、画像をサンプリングすることにより得られた補正値を用いて各種補正処理(例えばシャープネスやコントラストなど)を画像データに反映させる処理を実行する。
【0021】
読取機構25は、フラットベッド式であり、原稿台に載置された原稿を画像データ(圧縮データ)として読み取る読取センサーと、原稿を読み取る際に読取センサーを移動させる移動機構とを備えた周知のイメージスキャナーとして構成されている。読取センサーは、原稿に向かって発光したあとの反射光をレッド(R)、グリーン(G)、ブルー(B)の各色に分解してスキャンデータとするセンサーである。
【0022】
印刷機構26は、印刷媒体へインクを吐出することにより印刷を行う印刷ヘッド31と、印刷ヘッド31へインクを供給するカートリッジ34とを備えた周知のインクジェット方式のカラープリンター機構として構成されている。印刷ヘッド31は、圧電素子に電圧をかけることによりこの圧電素子を変形させてインクを加圧する方式によりノズルから各色のインクを吐出する。なお、インクへ圧力をかける機構は、ヒーターの熱による気泡の発生によるものとしてもよい。
【0023】
印刷ヘッド31は、図2に示すように、CMYの各色のインクを個別に吐出可能なノズル32C,32M,32Yが記録紙Sの搬送方向(副走査方向)に沿って配置されたノズル群33C,33M,33Yと、ブラック(K)のインクを吐出可能なノズル32Kが副走査方向に沿って配置されたノズル群33K1,33K2とが形成されている。ここで、各ノズル群の構成について、シアン(C)のノズル群33Cを例に挙げて説明する。ノズル群33Cは、2つのノズル列C1,C2からなり、各ノズル列C1,C2はそれぞれピッチが所定長さLとなるようにノズル32Cが配置されている。また、ノズル列C1のノズル32Cとノズル列C2のノズル32Cとは副走査方向に沿って千鳥(ジグザグ)になるよう配置され、そのピッチが所定長さLの半分の長さL/2となっている。本実施形態では、所定長さLはドットが150dpiの解像度となるように設定されており、ノズル列C1によって形成されるドットとノズル列C2によって形成されるドットとが副走査方向に交互に一列に並ぶように印刷を行なうことにより、シアン(C)のドットの解像度は300dpiとなる。マゼンタ(M)のノズル群33Mおよびイエロー(Y)のノズル群33Yも同様に構成され、得られる解像度は300dpiとなる。また、ブラック(K)のノズル群33K1,33K2も同様にそれぞれ2つのノズル列K11,K12および2つのノズル列K21,K22からなる。さらに、ノズル群33K1のノズル32Kとノズル群33K2のノズル32Kとの副走査方向のピッチが長さL/2の半分の長さL/4となるよう配置されている。このため、ノズル群33K1によって形成されるドットとノズル群33K2によって形成されるドットとが副走査方向に交互に一列に並ぶように印刷を行なうことにより、ブラック(K)のドットの解像度は600dpiとなる。このように、印刷ヘッド31は、合計10列のノズル列を備え、CMYのドットの解像度が300dpi、Kのドットの解像度が600dpiとなるよう構成されている。即ち、CMYのノズル密度に比してKのノズル密度が2倍(X倍,2n倍)高密度となっている。この印刷機構26では、ノズル群33K1,K2を用いることにより黒の解像度をカラーに対してX倍(ここではX=2)の解像度で印刷する黒解像度X倍印刷モードや、ノズル群33K1を用いることにより黒とカラーとを同じ解像度で印刷する通常印刷モードとを実行することができる。
【0024】
操作パネル28は、表示部28aと操作部28bとを備えている。表示部28aには、メニューの選択や設定を行う各種操作画面などが表示される。また、操作部28bは、電源をオンオフするための電源キーやカーソルを上下左右に移動させるカーソルキー、入力をキャンセルするキャンセルキー,選択内容を決定する決定キーなどがあり、コントローラー21へユーザーの指示を入力できるようになっている。
【0025】
メモリーカードリーダー30は、スロットに挿入されたメモリーカードとの間でデータの入出力を行う。このメモリーカードリーダー30は、メモリーカードが装着されているとき、メモリーカードに保存されているファイルを読み出してコントローラー21に送信したりコントローラー21からの命令を入力しこの命令に基づいてメモリーカードにデータを書き込んだりする。
【0026】
次に、こうして構成された本実施形態のプリンター20の動作、特に、JPEGデータを解凍し、解凍した画像を印刷処理する際の動作について説明する。ここでは、主として、メモリーカードに記憶されたJPEGデータを読み込み、画素の間引処理を行い、このJPEGデータを解凍する処理について具体的に説明する。まずユーザーは、メモリーカードリーダー30にメモリーカードを装着し、図示しない印刷選択画面で印刷を行うJPEGデータを選択する。ユーザーは、操作部28bの各種キーを操作して印刷したい画像を選択し、図示しない印刷実行キーを押下する。すると、CPU22は、フラッシュメモリー24に記憶された印刷処理ルーチンを実行する。図3は、コントローラー21のCPU22により実行される印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンでは、CPU22は、間引率設定部36、解凍処理部37及び補正実行処理部38を利用してJPEGデータの解凍処理(印刷用画像の生成処理)を行う。
【0027】
図3の印刷処理ルーチンを開始すると、CPU22は、まず、JPEGデータのタグに格納された情報や、操作パネル28での入力内容から印刷設定の情報を取得する(ステップS100)。印刷設定情報には、JPEGデータのコンポーネントの情報(4:4:4、4:2:2及び4:2:0)や、黒の解像度をカラーの解像度に比してX倍(X=2)で印刷する黒解像度X倍印刷モードが選択されているか、通常印刷モードが選択されているかの情報が含まれている。また、印刷設定情報には、JPEGデータの画像サイズや、印刷用紙のサイズ(印刷サイズ)、シャープネス処理、コントラスト処理、ノイズ除去処理などの補正処理を実行するか否かの情報が含まれている。
【0028】
次に、CPU22は、印刷サイズとJPEGデータの画像サイズとから、1/8以上の縮小印刷が可能であるか否かを判定し(ステップS110)、1/8以上の縮小印刷が可能であるときには、JPEGデータのYプレーンの間引率を1/8に設定すると共に、C,Cプレーンの間引率を1/8に設定する(ステップS120)。一方、1/8以上の縮小印刷が可能でないときには、1/4以上の縮小印刷が可能であるか否かを判定し(ステップS130)、1/4以上の縮小印刷が可能であるときには、Yプレーンの間引率を1/4に設定すると共に、C,Cプレーンの間引率を1/4に設定する(ステップS140)。一方、1/4以上の縮小印刷が可能でないときには、1/2以上の縮小印刷が可能であるか否かを判定し(ステップS150)、1/2以上の縮小印刷が可能であるときには、Yプレーンの間引率を1/2に設定すると共に、C,Cプレーンの間引率を1/2に設定する(ステップS160)。一方、1/2以上の縮小印刷が可能でないときには、Yプレーンの間引率を1に設定すると共に、C,Cプレーンの間引率を1に設定する(ステップS170)。即ち、間引処理を行わないよう間引率を設定する。このように、解凍後の画像サイズが指定された印刷サイズ以上となるように間引率を設定するのである。なお、間引率の設定は、間引率設定部36を利用して行われる。
【0029】
ステップS120,ステップS140,ステップS160及びステップS170で間引率を設定したあと、CPU22は、黒解像度X倍印刷モードが選択されているか否かを判定し(ステップS180)、黒解像度X倍印刷モードが選択されているときには、YプレーンとC,Cプレーンとが同解像度であるか否かを判定する(ステップS190)。ここでは、JPEGデータのコンポーネントが4:4:4及び4:2:2であるときは、YプレーンとC,Cプレーンとが同解像度であると判定し、JPEGデータのコンポーネントが4:2:0であるときは、Yプレーンに対しC,Cプレーンが1/2の同解像度であると判定するものとする。YプレーンとC,Cプレーンとが同解像度であるときには、C,Cプレーンの間引率が変更可能であるか否かを判定する(ステップS200)。この判定は、例えば、C,Cプレーンの間引率が1/8であるときに間引率が変更可能でないものと判定するものとする。さて、ステップS180で黒解像度X倍印刷モードが選択されていないとき、即ち通常印刷モードが選択されているとき、ステップS190でYプレーンとC,Cプレーンとが同解像度でないとき、即ちC,CプレーンがYプレーンの1/2の解像度であるとき、又は、ステップS200でC,Cプレーンの間引率が変更可能でないとき(間引率1/8)には、ステップS120〜S170で設定された間引率のまま、間引解凍処理を実行する(ステップS210)。
【0030】
ここで、間引解凍処理について説明する。図4は、間引解凍処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、解凍処理部37を利用して実行される。このルーチンを実行すると、CPU22は、JPEGデータをエントロピー復号(ハフマン復号)し(ステップS300)、グループ復号し(ステップS310)、ランレングス復号する(ステップS320)。この結果、N×N(例えばN=8)の量子化前のDCT係数の周波数ブロックが得られる。この状態で、N×Nのブロックから所望の値だけを用いる、いわゆる間引処理が可能な状態になる。次に、CPU22は、間引解凍処理を行うか否かを設定された間引率に基づいて判定し(ステップS330)、間引解凍処理を行わない場合は(間引率=1)、DCT係数を全選択し(ステップS340)、DCT係数の周波数ブロックに対してDCT係数の逆量子化を行い(ステップS350)、逆離散コサイン変換(IDCT)を行い(ステップS360)、最小符号化ユニット(MCU)処理及び色変換を行い(ステップS370)、画像データを記憶し(ステップS380)、このルーチンを終了する。この処理の中で、逆DCT演算が最も処理負担が大きく、処理に時間を要する。この逆DCT演算などは、特開2002−271794号公報などに詳しいのでその説明を省略する。また、MCU処理及び色変換は、例えば、処理で得られた画素値を経験的に定められた補正係数を用いて補正するものとしてもよい。なお、DCT係数の逆量子化、逆離散コサイン変換は、Y,C,Cの各プレーン毎に行うものとする。
【0031】
一方、ステップS330で間引解凍処理を行う場合は、DCT係数を間引き選択する(ステップ390)。図5は、間引解凍処理の概念図である。図5に示すように、8×8のDCT係数の周波数ブロックを間引率1/2で間引きする場合は、例えば、8×8ブロックの全64個のうち、縦横それぞれ1/2を乗じた4×4個、計16個が分散的に残るように、以降の処理を行う周波数成分を選択する。また、間引率1/4で間引きする場合は、例えば、8×8ブロックの全64個のうち、縦横それぞれ1/4を乗じた2×2個、計4個が分散的に残るように、以降の処理を行う周波数成分を選択する。また、間引率1/8で間引きする場合は、例えば、8×8ブロックの全64個のうち、縦横それぞれ1/8を乗じた1個が残るように、以降の処理を行う周波数成分を選択する。そして、選択したDCT係数に対して、上記ステップS350〜S380と同様の、DCT係数の逆量子化、IDCT、MCU処理及び色変換を行い、各プレーンの画素とするのである。なお、各DCT係数を処理する際には、図5上段に示すように、ジグザグスキャンするものとしてもよい。こうすれば、より処理の高速化を図ることができる。このように、処理負担の大きい逆DCT演算の回数を間引率に応じて低減することができ、処理負担及び処理時間の低減をより図ることができる。また、ステップS180で黒解像度X倍印刷モードでない場合、YプレーンとC,Cプレーンとが同解像度でない場合、C,Cプレーンの間引率が変更可能でない場合(間引率1/8)には、ステップS120〜S170で設定した間引率のまま間引処理を実行するのである。
【0032】
さて、図3の印刷処理ルーチンの説明に戻る。ステップS180で黒解像度X倍印刷モードが選択されており、ステップS190でYプレーンとC,Cプレーンとが同解像度であり、ステップS200でC,Cプレーンの間引率が変更可能であるときには、C,Cプレーンの間引率を更に1/X倍(ここではX=2)に設定し(ステップS220)、ステップS210の間引解凍処理を実行する。即ち、黒のノズル解像度に対してカラーのノズル解像度が1/Xとなる設定で印刷するときには、Yプレーンの解像度に対してC,Cプレーンの解像度が1/Xとなるように間引率を設定するのである。こうすれば、C,Cプレーンの間引率が更に1/Xとなるので、上述したステップS120〜S170で設定した間引率で解凍処理を行うよりも、更に解凍処理の負担及び処理時間を低減することができる。
【0033】
ステップS210で間引解凍処理を実行したあと、CPU22は、必要に応じてC,Cのプレーンの解像度がYプレーンの解像度と同じになるよう画素の単純水増し処理を行い(ステップS230)、YCC−YCC色変換を行うエンハンス処理を実行する(ステップS240)。エンハンス処理は、補正実行処理部38が行うものとし、例えば、経験的に得られたYCC−YCC対応関係(例えばルックアップテーブル)を用いて、解凍した画像の色をプリンター20に適する色に補正する処理としてもよい。続いて、YCCからCMYKの画像データへのインク色変換処理を実行し(ステップS250)、印刷処理を実行し(ステップS260)、このルーチンを終了する。インク色変換は、経験的に得られたYCC−CMYK対応関係(例えばルックアップテーブル)を用いて、プリンター20で用いるインク色に変換する処理を行う。印刷処理において、通常印刷モードでの印刷では、ノズル群33C,33M,33Y,33K1を用いて印刷処理を実行する。一方、黒解像度X倍印刷モードでの印刷では、更にノズル群33K2を用いて黒の解像度がX倍となるよう印刷処理を実行する。
【0034】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の間引率設定部36が間引率設定手段に相当し、解凍処理部37が解凍処理手段に相当する。なお、本実施形態では、プリンター20の動作を説明することにより本発明の画像処理方法の一例も明らかにしている。
【0035】
以上詳述した本実施形態のプリンター20によれば、印刷ヘッド31がカラー(彩色)の印刷用のノズル解像度に対して黒(無彩色)の印刷用のノズル解像度がX倍であり、Yプレーンに対してC,Cプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きしてJPEGデータ(圧縮データ)を解凍する。このように、ノズル解像度に合わせて、C,Cプレーンを間引きして解凍処理可能であり、例えば逆量子化処理や逆DCT演算処理などを省略することができる。したがって、JPEGデータの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。また、Yプレーンの解像度に対しC,Cプレーンの解像度が等倍であるJPEGデータを取得したときには、Yプレーンに対してC,Cプレーンの間引率を1/Xに設定し、設定された間引率でJPEGデータを解凍するため、JPEGデータの内容に合わせて、解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。更に、指定された印刷サイズと解凍後の画像サイズとに基づいて定められる縮小倍率に応じて間引率を設定し、カラーの解像度に対して黒の解像度をX倍で印刷するときには、Yプレーンに対してC,Cプレーンの間引率を1/Xに設定するため、印刷サイズと画像サイズとをも考慮し、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間を更に低減することができる。更にまた、解凍後の画像サイズが指定された印刷サイズ以上となるように間引率を設定するため、印刷画像の画質低下をより抑制しつつ、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。そして、カラーのノズル解像度に対して黒のノズル解像度が2n倍であり、Yプレーンに対してC,Cプレーンを1/2nの間引率で画素を間引きして圧縮データを解凍するため、圧縮データは2n×2nのプレーンを有することから、間引処理をより簡素化可能であり、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより容易に低減することができる。そしてまた、画像データとしてよく用いられるJPEGデータを間引解凍処理するから、本発明を適用する意義が高い。そして更に、プリンター20などの機器では、コントローラーの性能に限りがあることから、本発明を適用する意義が高い。
【0036】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0037】
例えば、上述した実施形態では、間引率設定部36により、間引率を設定するものとしたが、Yプレーンに対してC,Cプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きして圧縮データを解凍するものとすれば、特にこれに限定されず、間引率の設定を省略してもよい。例えば、4:4:4及び4:2:2のコンポーネントのJPEGデータを、黒解像度X倍印刷モードでのみ印刷するものとしてもよい。こうしても、圧縮データの解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。
【0038】
上述した実施形態では、Yプレーンの解像度とC,Cプレーンの解像度とに基づき、Yプレーンの解像度に対しC,Cプレーンの解像度が等倍であるときには、Yプレーンの間引率に対してC,Cプレーンの間引率を1/X倍に設定する一方、Yプレーンの解像度に対しC,Cプレーンの解像度が1/X倍であるときにはYプレーンの間引率に対してC,Cプレーンの間引率を等倍に設定するものとしたが、特にこれに限定されず、各プレーンの解像度の考慮を省略してもよい。こうしても、Yプレーンに対してC,Cプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きして圧縮データを解凍するものとすれば、解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。
【0039】
上述した実施形態では、指定された印刷サイズと解凍後の画像サイズとに基づいて定められる縮小倍率に応じて間引率を設定し、カラーの解像度に対して黒の解像度をX倍で印刷(黒解像度X倍印刷)するときには、Yプレーンに対してC,Cプレーンの間引率を1/Xに設定するものとしたが、特にこれに限定されず、縮小倍率に基づく間引率の設定を省略してもよいし、黒解像度X倍印刷に限定せずにYプレーンに対してC,Cプレーンの間引率を1/Xに設定するものとしてもよい。こうしても、解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。
【0040】
上述した実施形態では、解凍後の画像サイズが指定された印刷サイズ以上となるように間引率を設定するものとしたが、印刷サイズを考慮せずに間引率を設定するものとしてもよい。こうしても、解凍処理の負担及び処理時間をより低減することができる。
【0041】
上述した実施形態では、カラーのノズル解像度に対して黒のノズル解像度が2倍(X倍)であり、Yプレーンに対してC,Cプレーンを1/2の間引率で画素を間引きするものとしたが、特にこれに限定されず、Xは2以上の整数であれば特に限定されない。また、X=2n(nは正数)としてもよい。圧縮データは2n×2nのプレーンを有することから、間引処理をより簡素化可能である。
【0042】
上述した実施形態では、メモリーカードリーダー30に装着されたメモリーカードに記憶された圧縮データを解凍して印刷するものとしたが、DCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データを解凍して画像データを生成するものとすれば特にこれに限定されず、例えば、読取機構25で読み取った圧縮データを解凍する際や、PC40から送信された圧縮データを解凍する際としてもよい。
【0043】
上述した実施形態では、圧縮データをJPEGデータとして説明したが、無彩色及び彩色のプレーンを有しDCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データであれば特にこれに限定されず、例えば、MPEGデータとしてもよい。また、上述した実施形態では、カラーのノズル及び黒のノズルとして説明したが、彩色の印刷用のノズルは及び無彩色の印刷用のノズルとしてもよい。また、Cb,CrプレーンやYプレーンとして説明したが、彩色のプレーンや無彩色のプレーンとしてもよい。
【0044】
上述した実施形態では、印刷、スキャン及びコピーを実行可能なマルチファンクションプリンターを本発明の画像処理装置として説明したが、プリンター単体やスキャナー単体、FAXなどとしてもよい。あるいは、DCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データを解凍して画像データを生成する装置であれば特に限定されず、例えば、パソコンやノートパソコンなどの情報処理機器、デジタルスチルカメラやデジタルビデオカメラなどの撮影機器、デジタルテレビやHDDレコーダーなどの映像機器、携帯用及び家庭用のゲーム機器、携帯電話などの通信機器などとしてもよい。また、読取機構25は、原稿を固定し読取センサーを移動して画像を読み取るフラットベッド式としたが、読取センサーを固定し原稿を移動して読み取る方式を採用してもよい。また、印刷機構26は、インクジェット方式としたが、電子写真方式や、熱転写方式、ドットインパクト方式としてもよい。また、プリンター20の態様で本発明を説明したが、画像処理方法の態様としてもよいし、この方法のプログラムの態様としてもよい。
【符号の説明】
【0045】
10 プリンターシステム、20 プリンター、21 コントローラー、22 CPU、23 RAM、24 フラッシュメモリー、25 読取機構、26 印刷機構、27 インターフェイス(I/F)、28 操作パネル、28a 表示部、28b 操作部、29 バス、30 メモリーカードリーダー、31 印刷ヘッド、32C,32M,32Y,32K ノズル群、33C,33M,33Y,33K1,33K2 ノズル、34 カートリッジ、36 間引率設定部、37 解凍処理部、38 補正実行処理部、40 パソコン(PC)、47 入力装置、48 ディスプレイ、S 記録紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍(Xは2以上の整数)である印刷装置に用いられ、無彩色及び彩色のプレーンを有しDCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データを解凍して画像データを生成する画像処理装置であって、
無彩色のプレーンに対して彩色のプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きして前記圧縮データを解凍する解凍処理手段、
を備えた画像処理装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像処理装置であって、
前記無彩色プレーンの解像度に対し前記彩色プレーンの解像度が等倍である前記圧縮データを取得したときには、前記無彩色のプレーンに対して前記彩色のプレーンの間引率を1/Xに設定する間引率設定手段、を備え、
前記解凍処理手段は、前記間引率設定手段により設定された間引率で前記取得した圧縮データを解凍する、画像処理装置。
【請求項3】
前記間引率設定手段は、前記圧縮データを取得したときには前記無彩色プレーンの解像度と前記彩色プレーンの解像度とに基づき、前記無彩色プレーンの解像度に対し前記彩色プレーンの解像度が等倍であるときには、前記無彩色プレーンの間引率に対して前記彩色のプレーンの間引率を1/X倍に設定する一方、前記無彩色プレーンの解像度に対し前記彩色プレーンの解像度が1/X倍であるときには前記無彩色プレーンの間引率に対して前記彩色のプレーンの間引率を等倍に設定する、請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記間引率設定手段は、指定された印刷サイズと解凍後の画像サイズとに基づいて定められる縮小倍率に応じて間引率を設定し、彩色の解像度に対して無彩色の解像度をX倍で印刷するときには、前記無彩色のプレーンに対して前記彩色のプレーンの間引率を1/Xに設定する、請求項2又は3に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記間引率設定手段は、前記解凍後の画像サイズが指定された印刷サイズ以上となるように前記間引率を設定する、請求項2〜4のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項6】
彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度が2n倍(nは正数)であり、
前記解凍処理手段は、無彩色のプレーンに対して彩色のプレーンを1/2nの間引率で画素を間引きして前記圧縮データを解凍する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記圧縮データは、JPEGデータ、MPEGデータのうちいずれか1以上である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の画像処理装置。
【請求項8】
彩色の印刷用のノズル解像度に対して無彩色の印刷用のノズル解像度がX倍である印刷装置に用いられ、無彩色及び彩色のプレーンを有しDCT演算を伴う圧縮方式の圧縮データを解凍する画像処理方法であって、
無彩色のプレーンに対して彩色のプレーンを1/Xの間引率で画素を間引きして前記圧縮データを解凍するステップ、
を含む画像処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−103337(P2013−103337A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246192(P2011−246192)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】