説明

画像処理装置

【課題】画像診断能の向上。
【解決手段】記憶部2は、脳の神経組織に関する3次元の神経画像と脳の腫瘍に関する3次元の腫瘍画像とを記憶する。合成画像発生部4は、神経画像と腫瘍画像との合成画像を発生する。神経指標値決定部5は、合成画像内の腫瘍画像に由来する腫瘍領域に対する、神経画像に由来する神経領域の解剖学的走行状態に関する指標値を決定する。表示画像発生部6は、決定された指標値に応じた情報値が合成画像に含まれる前記腫瘍領域に割り付けられた2次元の情報画像を、合成画像に基づいて発生する。表示部7は、発生された情報画像を表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳内の癌組織を治療する際、癌組織に隣接する神経組織を温存させたまま治療することが重要である。そのため腫瘍と神経との位置関係を出来るだけわかりやすく表示し、治療計画を立てる上でのガイダンスとして使用できる技術の開発が望まれている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
目的は、画像診断能の向上を可能とする画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本実施形態に係る画像処理装置は、脳の神経組織に関する3次元の神経画像と前記脳の腫瘍に関する3次元の腫瘍画像とを記憶する記憶部と、前記神経画像と前記腫瘍画像との合成画像を発生する合成画像発生部と、前記合成画像内の前記腫瘍画像に由来する腫瘍領域に対する前記神経画像に由来する神経領域の解剖学的走行状態に関する指標値を決定する決定部と、前記決定された指標値に応じた情報値が前記合成画像に含まれる前記腫瘍領域に割り付けられた2次元の情報画像を前記合成画像に基づいて発生するカラー画像発生部と、前記発生された情報画像を表示する表示部と、を具備する。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【図1】本実施形態に係る画像処理装置の構成を示す図。
【図2】本実施形態の実施例1に係る神経指標値決定部の処理を説明するための図。
【図3】本実施形態の実施例2に係る神経指標値決定部の処理を説明するための図。
【図4】図3の局所領域に入り込んでいる神経領域の一例を示す図。
【図5】腫瘍と神経束との位置関係を示す図。
【図6】本実施形態の実施例3に係る神経指標値決定部の構成を示す図。
【図7】本実施形態の実施例3に係る制御部の制御のもとに行われる、実施例3に係る画像処理の典型的な流れを示す図。
【図8】図7のステップSA8において表示部により表示される、カラー画像内の腫瘍領域と神経領域とを示す図。
【図9】図7のステップSA8において表示部により表示される、カラー画像内の腫瘍領域と神経領域とを示す他の図。
【図10】本実施形態の変形例に係る神経指標値決定部の構成を示す図。
【図11】本実施形態の変形例に係る制御部の制御のもとに行われる、変形例に係る画像処理の典型的な流れを示す図。
【図12】図11のステップSB2における到達点特定部の処理を説明するための図であり、多重合成画像における腫瘍領域RT、神経領域RN、及び脳領域表面SBを示す図。
【図13】図11のステップSB4において表示部により表示される多重カラー画像の一例を示す図。
【図14】本実施形態の変形例に係る表示部により表示される模擬的脳画像(ブロードマンの脳地図)を示す図。
【図15】変形例に係る表示部により表示される、神経領域の到達点が強調されたブロードマンの脳地図の表示例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0006】
以下、図面を参照しながら本実施形態に係わる画像処理装置を説明する。
【0007】
図1は、本実施形態に係る画像処理装置1の構成を示す図である。図1に示すように、画像処理装置1は、記憶部2、抽出部3、合成画像発生部4、神経指標値決定部5、表示画像発生部6、表示部7、操作部8、及び制御部9を備えている。
【0008】
記憶部2は、被検体の脳の神経組織に関する3次元の機能画像(以下、神経画像と呼ぶことにする。)のデータを記憶する。神経画像は、磁気共鳴イメージング装置により被検体の脳を撮像することにより発生された拡散強調画像に線維追跡技術(トラクトグラフィとも呼ばれる)を施すことにより発生される。神経画像の各ボクセルのボクセル値は、拡散に関する指標値に対応する。拡散に関する指標値としては、例えば、ADC(apparent diffusion coefficient)やFA(fractional anisotropy)、RA(relative anisotropy)、VR(volume ratio)等が利用されている。線維追跡技術は、拡散テンソルの最大固有値に対応する固有ベクトルが示す方向にあるボクセルを追跡する方法である。また、記憶部2は、被検体の脳に関する3次元の形態画像(以下、脳画像と呼ぶことにする。)のデータを記憶している。脳画像は、磁気共鳴イメージング装置やX線コンピュータ断層撮影装置、X線診断装置、核医学診断装置等の医用画像診断装置により被検体の脳を撮像することにより発生される。脳画像と神経画像とは、同一の被検体に関する画像であり、略同時期に撮像されたものである。この被検体の脳には、腫瘍が発生しているものとする。腫瘍は、癌等の悪性腫瘍であっても、良性腫瘍であってもどちらでもよい。また、記憶部2は、後述する画像処理プログラムを記憶している。
【0009】
ここで、3次元の画像は、X、Y、Zの直交3次元座標により規定される複数の画素(ボクセル)により構成されているとする。すなわち、3次元の画像は、いわゆるボリューム画像である。2次元の画像は、X、Yの直交2次元座標により規定される複数の画素(ピクセル)により構成されているとする。
【0010】
抽出部3は、腫瘍領域が有しうるボクセル値に基づいて脳画像から腫瘍領域を抽出する。抽出された腫瘍領域に関する形態画像を腫瘍画像と呼ぶことにする。具体的には、抽出部3は、脳画像に閾値処理や領域抽出勝利等の画像処理を施すことにより脳画像から腫瘍領域を抽出する。腫瘍領域に関する腫瘍画像のデータは、記憶部2に記憶される。また、抽出部3は、脳領域表面が有しうるボクセル値に基づいて脳画像から脳領域表面を抽出する。抽出された脳領域表面に関する形態画像を脳表面画像と呼ぶことにする。脳表面画像のデータは、記憶部2に記憶される。
【0011】
合成画像発生部4は、画像処理により神経画像と腫瘍画像との合成画像を発生する。神経画像と腫瘍画像とが磁気共鳴イメージング装置により発生された場合、神経画像と腫瘍画像とは、撮像段階において機械的に位置合わせされている。この場合、神経画像と腫瘍画像との画像処理による位置合わせは不要である。一方、腫瘍画像が磁気共鳴イメージング装置以外の他の医用画像診断装置により発生された場合、神経画像と腫瘍画像との機械的な位置合わせはなされていない。この場合、神経画像と腫瘍画像との画像処理による位置合わが必要である。例えば、合成画像発生部4は、神経画像と腫瘍画像とにそれぞれ設定された解剖学的に同一な少なくとも1つの特徴点を利用して位置合わせを行う。位置合わせ後、合成画像発生部4は、位置合わせされた神経画像と腫瘍画像とを合成し、合成画像を発生する。また、合成画像発生部4は、同様の方法により、神経画像と腫瘍画像と脳表面画像との合成画像(以下、多重合成画像と呼ぶことにする。)を発生することもできる。
【0012】
神経指標値決定部5は、合成画像又は多重合成画像内に含まれる腫瘍領域と神経領域との幾何学的配置関係に基づいて、腫瘍領域に対する神経領域の解剖学的走行状態を表現する指標値(以下、神経指標値と呼ぶことにする。)を決定する。神経指標値は、具体的には、腫瘍領域と神経領域との間の距離や、腫瘍領域に含まれる神経領域の量、腫瘍領域に入り込んでいる全神経領域に占める、腫瘍領域内で途切れている神経領域の割合に規定される。
【0013】
表示画像発生部6は、決定された神経指標値に応じたカラー値が合成画像に含まれる腫瘍領域に割付けられた2次元の画像(以下、カラー画像と呼ぶことにする。)を、合成画像に基づいて発生する。具体的には、表示画像発生部6は、合成画像に含まれる腫瘍領域に神経指標値に応じたRGB(赤,緑,青)のカラー値を割付ける。この際、表示画像発生部6は、合成画像に含まれる神経領域に特定のカラー値を割付けても良い。次に表示画像発生部6は、カラー値が割付けられた合成画像に3次元画像処理を施し、2次元のカラー画像を発生する。3次元画像処理としては、例えば、ボリュームレンダリング、サーフェスレンダリング、画素値投影処理、MPR(multi-planar reconstruction)等が挙げられる。画素値投影処理としては、典型的には、最大値投影法(MIP:maximum intensity projection)が採用されるとよい。なお、カラー値の割付は、3次元画像処理前でなく、3次元画像処理後に行われても良い。また、表示画像発生部6は、同様の3次元画像処理により、多重合成画像に基づいて、神経指標値に応じたカラー値が腫瘍領域に割付けられた2次元の画像(以下、多重カラー画像と呼ぶことにする。)を発生することもできる。3次元画像処理の処理対象は、合成画像や多重合成画像に限定されない。例えば、表示画像発生部6は、神経画像や腫瘍画像、脳画像に3次元画像処理を施してもよい。
【0014】
表示部7は、発生されたカラー画像や多重カラー画像等の種々の表示画像を表示機器に表示する。表示機器としては、例えばCRTディスプレイや、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ、プラズマディスプレイ等が挙げられる。
【0015】
操作部8は、ユーザからの各種指令や情報入力を入力機器を介して受け付ける。入力機器としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、スイッチボタン等の選択デバイス、あるいはキーボード等が挙げられる。
【0016】
制御部9は、画像処理装置1の中枢として機能する。制御部9は、記憶部2に記憶されている画像処理プログラムを読み出し、腫瘍等のカラー表示のための画像処理プログラムに従って画像処理装置1内の各部2,3,4,5,6,7,8を制御する。
【0017】
次に本実施形態に係る画像処理装置1の詳細について説明する。画像処理装置1の動作は、神経指標値の種類に応じて複数の実施例に分けられる。以下、各実施例について説明する。
【0018】
[実施例1]
実施例1に係る神経指標値は、合成画像又は多重合成画像内の腫瘍領域と神経領域との間の距離(以下、腫瘍―神経間距離と呼ぶことにする。)に設定される。実施例1に係る神経指標値決定部5は、腫瘍領域と神経領域との幾何学的配置関係に基づいて腫瘍―神経間距離を計算する。なお以下の説明においては、腫瘍―神経間距離の計算は、合成画像を利用して行われるとする。
【0019】
図2は、制御部9の制御のもとに行われる、実施例1に係る神経指標値決定部5の処理を説明するための図である。図2に示すように、合成画像は、腫瘍領域RTと複数の神経領域RNとを含んでいるとする。各神経領域RNは、脳内の1本の神経束に対応している。まず、神経指標値決定部5は、腫瘍領域RTの表面、内部、又は全体に含まれる複数のボクセルVOを特定する。特定対象のボクセルを表面のボクセルとするか、内部のボクセルとするかは、全体のボクセルとするかは、ユーザにより操作部8を介して任意に設定される。特定されたボクセルを処理対象ボクセルVOと呼ぶことにする。複数の処理対象ボクセルVOが特定されると神経指標値決定部5は、各処理対象ボクセルVOについて以下の処理を行う。まず、神経指標値決定部5は、各処理対象ボクセルVOの垂線PEを算出する。垂線PEが算出されると神経指標値決定部5は、処理対象ボクセルVOから腫瘍領域RT外部に向かう垂線PE上において処理対象ボクセルVOに一番近い位置に存在する神経領域RNのボクセルVNを特定する。そして神経指標値決定部5は、特定された神経領域のボクセルRNと処理対象ボクセルVOとの間の距離(腫瘍―神経間距離)を算出する。このようにして、各処理対象ボクセルVOについて腫瘍―神経間距離を算出すると神経指標値決定部5は、神経指標値の計算処理を終了する。各処理対象ボクセルVOの座標と腫瘍―神経間距離とのデータは、表示画像発生部6に供給される。
【0020】
神経指標値決定部5からの各処理対象ボクセルの座標と腫瘍―神経間距離とのデータを利用して、表示画像発生部6は、各処理対象ボクセルに腫瘍―神経間距離に応じたカラー値を割付ける。具体的には、表示画像発生部6は、腫瘍―神経間距離とカラー値とを関連付けたカラーテーブルを保持している。このカラーテーブルを利用して、表示画像発生部6は、各処理対象ボクセルについて腫瘍―神経間距離に応じたカラー値を特定し、特定されたカラー値を処理対象ボクセルに割付ける。例えば、腫瘍領域に接近しているほど濃い赤色が割付けられ、腫瘍領域に離反している濃い青色等の他の色が割付けられると良い。そして表示画像発生部6は、カラー値が割付けられた合成画像に上述の3次元画像処理を施し、2次元のカラー画像を発生する。発生されたカラー画像は、表示部7により表示される。この際、ユーザに腫瘍―神経間距離と画面上の色との対応関係を提示するため、腫瘍―神経間距離とカラー値との対応関係を色で示すカラーバーがカラー画像とともに表示されると良い。
【0021】
カラー画像に含まれる腫瘍領域の各ピクセルは、腫瘍―神経間距離に応じた色で表示される。従ってユーザは、腫瘍領域内のピクセルの色を識別することで容易に腫瘍近傍の神経の走行状態、具体的には、腫瘍と神経との間の距離を把握することができる。
【0022】
なお実施例1における処理は、合成画像に対して施されるとした。しかしながら、本実施形態は、これに限定されない。例えば、多重合成画像に対して上述の処理を行っても良い。これにより、腫瘍領域と神経領域と脳表面との位置関係を1つの画像で明瞭に把握することができる。
【0023】
また、表示される画像は、カラー画像や多重カラー画像のみに限定されない。例えば、表示部7は、3次元の脳画像のMPR画像やボリュームレンダリング画像にカラー画像や多重カラー画像を重ねて表示しても良い。
【0024】
[実施例2]
実施例2に係る神経指標値は、合成画像又は多重合成画像内の腫瘍領域に含まれる神経領域の量である。実施例2に係る神経指標値決定部5は、腫瘍領域と神経領域との幾何学的配置関係に基づいて腫瘍領域内の神経領域の量を計算する。なお以下の説明においては、神経領域の量の計算は、合成画像を利用して行われるとする。
【0025】
図3は、制御部9の制御のもとに行われる、実施例2に係る神経指標値決定部5の処理を説明するための図である。図3に示すように、腫瘍領域RTに神経領域RNが入り込んでいる場合がある。以下、具体的に腫瘍領域RTに入り込んでいる神経領域RNの腫瘍領域RT内の量の計算方法について説明する。まず神経指標値決定部5は、腫瘍領域RTに複数の局所領域RLを設定する。局所領域RLには、複数のボクセルが含まれている。各局所領域RLの大きさと形状とは、操作部8を介してユーザ等により任意に設定可能である。複数の局所領域RLは、腫瘍領域RTの全体に分布するように設定されても、特定の部位に限局的に分布するように設定されてもどちらでもよい。複数の局所領域RLが特定されると神経指標値決定部5は、各局所領域について以下の処理を行う。神経指標値決定部5は、各局所領域RLに含まれる神経領域RNの量を算出する。神経領域RNの量は、神経領域RNを構成するボクセル数、又は神経領域RNの本数により規定される。ボクセル数とするか、本数とするかは、ユーザにより操作部8を介して任意に設定可能である。なお神経画像は、神経領域RNを神経束単位で1本1本画像処理的に認識可能な空間解像度を有している。
【0026】
図4は、局所領域RLに入り込んでいる神経領域RNの一例を示す図である。図4の(a)は、局所領域RL内に3本の神経領域RNが存在する場合の様子を示しており、図4の(b)は、局所領域RL内に1本の神経領域RNが存在する場合の様子を示している。神経指標値決定部5は、例えば、神経領域RNが有しうるボクセル値範囲を統合条件として局所領域RL内のボクセルを探索し、統合条件を満たすボクセルを次々に統合していく。そして神経指標値決定部5は、統合されたボクセルの個数を計数する。あるいは、神経指標値決定部5は、各統合されたボクセル領域を1本の神経領域RNとみなし、ボクセル領域の個数を神経領域RNの本数とみなして計数する。このようにして、神経指標値決定部5は、各局所領域RLについて神経領域RNの量を計算することができる。各局所領域RLについて神経領域RNの量を算出すると神経指標値決定部5は、神経指標値の計算処理を終了する。各局所領域RLの座標と神経領域RN内のボクセルの個数又は神経領域の本数とのデータは、表示画像発生部6に供給される。
【0027】
神経指標値決定部5からの各局所領域の座標と神経領域内のボクセルの個数又は神経領域の本数とのデータを利用して、表示画像発生部6は、各局所領域に神経領域内のボクセルの個数又は神経領域の本数に応じたカラー値を割付ける。具体的には、表示画像発生部6は、神経領域内のボクセルの個数又は神経領域の本数とカラー値とを関連付けたカラーテーブルを保持している。このカラーテーブルを利用して、表示画像発生部6は、各局所領域について神経領域内のボクセルの個数又は神経領域の本数に応じたカラー値を特定し、特定されたカラー値を局所領域内のボクセルに割付ける。例えば、神経領域内のボクセルの個数が多いほど濃い赤色が割付けられ、少ないほど濃い青色等の他の色が割付けられると良い。また、神経領域の本数が多いほど濃い赤色が割付けられ、少ないほど濃い青色等の他の色が割付けられると良い。そして表示画像発生部6は、カラー値が割付けられた合成画像に上述の3次元画像処理を施し、2次元のカラー画像を発生する。発生されたカラー画像は、表示部8により表示される。
【0028】
カラー画像に含まれる腫瘍領域の各ピクセルは、その近傍に存在する神経領域の量に応じた色で表示される。例えば、腫瘍領域内の神経領域が含まれない箇所と腫瘍領域内の神経領域が含まれる箇所とは、異なる色で表示される。従ってユーザは、腫瘍領域内のピクセルの色を観察することで容易に腫瘍内の神経の走行状態、具体的には、腫瘍内の神経の量を把握することができる。
【0029】
なお実施例2における処理は、合成画像に対して施されるとした。しかしながら、実施例2は、これに限定されない。例えば、多重合成画像に対して上述の処理を行っても良い。これにより、腫瘍領域と神経領域と脳表面との位置関係を1つの画像で明瞭に把握することができる。
【0030】
また、表示される画像は、カラー画像や多重カラー画像のみに限定されない。例えば、表示部7は、3次元の脳画像のMPR画像やボリュームレンダリング画像にカラー画像や多重カラー画像を重ねて表示しても良い。
【0031】
[実施例3]
実施例3に係る神経指標値は、合成画像又は多重合成画像に含まれる腫瘍領域に入り込んでいる全神経領域に占める、腫瘍領域内の途切れている神経領域の割合である。実施例3に係る神経指標値決定部5は、腫瘍領域と神経領域との幾何学的配置関係に基づいて、腫瘍領域内の全神経領域に占める、途切れている神経領域の割合を決定する。なお以下の説明においては、割合の決定は、合成画像を利用して行われるとする。
【0032】
まずは実施例3の背景から説明する。図5は、腫瘍と神経束との位置関係を示す図である。図5に示すように、腫瘍と神経束との位置関係は、大よそ4種類に大別される。すなわち、神経束が腫瘍に近接している、すなわち、腫瘍に入り込んでいない場合(図5の(a))、神経束が腫瘍に入り込んでおり、腫瘍内において途切れていない場合(図5の(b))、神経束が腫瘍の周囲の浮腫に入り込んでいる場合(図5の(c))、神経束が腫瘍に入り込んでおり、腫瘍内において途切れている場合(図5の(d))がある。
【0033】
腫瘍が悪性の場合、腫瘍細胞の構造が破綻している事が多い。そのため、悪性腫瘍の中を通過する神経束は、可視化されにくい。腫瘍が良性の場合、腫瘍細胞の構造が破綻していない事が多い。そのため、神経束は、悪性腫瘍の場合に比して可視化されやすい。換言すれば、腫瘍に接続している神経束が腫瘍内部で途切れている場合、その腫瘍は悪性の疑いがあるといえる。すなわち、腫瘍領域に入り込んでいる全神経領域に占める、途切れている神経領域の割合は、腫瘍の悪性度を計る1つの指標として機能する。そこで、実施例3に係る画像処理装置1は、この割合を決定し、決定された割合に応じたカラー値が割付けられたカラー画像を発生し、発生されたカラー画像を表示する。
【0034】
図6は、実施例3に係る神経指標値決定部5の構成を示す図である。図6に示すように、神経指標値決定部5は、内包関係判定部51、途切れ判定部52、割合設定部53、及び割合計算部54を有する。
【0035】
内包関係判定部51は、合成画像内の腫瘍領域に神経領域が入り込んでいるか否かをボクセル値に基づいて判定する。途切れ判定部52は、内包関係判定部51により腫瘍領域に神経領域が入り込んでいると判定された場合、腫瘍領域内において神経領域が繋がっているか否か、すなわち、神経領域が途切れているか否かを画素値の連続性に基づいて判定する。割合設定部53は、内包関係判定部51により腫瘍領域に神経領域が入り込んでいないと判定された場合、その旨の既定値を神経指標値に設定する。途切れ判定部52により腫瘍領域内において神経領域が繋がっていると判定された場合、割合設定部53は、その旨の既定値を神経指標値に設定する。割合計算部54は、途切れ判定部52により腫瘍領域内において神経領域が途切れていると判定された場合、腫瘍領域に入り込んでいる全神経領域に占める、腫瘍領域内で途切れている神経領域の割合を計算する。
【0036】
図7は、制御部9の制御のもとに行われる、実施例3に係る画像処理の典型的な流れを示す図である。制御部9は、例えば、ユーザからの操作部8を介した画像処理の開始要求を受けて、実施例3に係る画像処理を開始する。
【0037】
まず制御部9は、神経指標値決定部5の内包関係判定部51に判定処理を行わせる(ステップSA1)。ステップSA1において内包関係判定部51は、腫瘍領域に神経領域が入り込んでいるか否かを、神経領域の周囲のボクセルのボクセル値に基づいて判定する。まず、内包関係判定部51は、合成画像において腫瘍領域と神経領域とを特定する。腫瘍領域と神経領域とが特定されると内包関係判定部51は、腫瘍領域と神経領域との位置関係に基づいて腫瘍領域に神経領域が含まれているか否かを判定する。例えば、神経領域の近傍が腫瘍領域を構成するボクセルに囲まれている場合、内包関係判定部51は、腫瘍領域に神経領域が入り込んでいると判定する。一方、神経領域の近傍が腫瘍領域を構成するボクセルに囲まれていない場合、内包関係判定部51は、腫瘍領域に神経領域が入り込んでいないと判定する。
【0038】
ステップSA1において腫瘍領域に神経領域が入り込んでいないと判定された場合(ステップSA1:NO)、制御部9は、割合設定部53に設定処理を行わせる(ステップSA2)。ステップSA2において割合設定部53は、腫瘍領域に神経領域が入り込んでいないことに対応する既定値を神経指標値に設定する。既定値は、ステップSA5において計算される割合が有しうる数値範囲、例えば割合が百分率により計算される場合、0より大きく100以下の数値範囲に重複しない値に設定される。ステップSA2における既定値は、例えば、ユーザにより操作部8を介して、上述の制限範囲内で任意の値に設定可能である。ステップSA2における既定値としては、例えば、−1等に設定されると良い。
【0039】
ステップSA1において腫瘍領域に神経領域が入り込んでいると判定された場合(ステップSA1:YES)、制御部9は、神経指標値決定部5の途切れ判定部52に判定処理を行わせる(ステップSA3)。ステップSA3において途切れ判定部52は、神経領域が腫瘍領域内で途切れているか否かを画素値の連続性に基づいて判定する。具体的には、途切れ判定部52は、まず、合成画像内の神経領域を腫瘍領域に向かって追跡し、神経領域が途切れている部分(すなわち、神経領域の端点)を特定する。次に途切れ判定部52は、途切れている部分が腫瘍領域に含まれているか否かを判定する。例えば、途切れ判定部52は、途切れている部分の近傍が腫瘍領域に囲まれている場合、その神経領域が腫瘍領域内で途切れていると判定する。一方、途切れ判定部52は、途切れている部分の近傍が腫瘍領域に囲まれていない場合、その神経領域が腫瘍領域内で途切れていないと判定する。この処理は、途切れている神経領域が特定されるまで、腫瘍領域内の全ての神経領域について行われる。
【0040】
ステップSA3において途切れている神経領域がないと判定された場合(ステップSA3:NO)、制御部9は、割合設定部53に設定処理を行わせる(ステップSA4)。ステップSA4において割合設定部53は、腫瘍領域内において途切れている神経領域が含まれていないことに対応する既定値を神経指標値に設定する。既定値は、ステップSA5において計算される割合が有しうる数値範囲、例えば、0より大きく100以下の数値範囲に重複しない値に設定される。ステップSA4において設定される既定値は、ステップSA2において設定される既定値と同一でも異なっていてもどちらでも良い。ステップSA4における既定値は、例えば、ユーザにより操作部8を介して、上述の制限範囲内で任意の値に設定可能である。ステップSA4における既定値としては、例えば、0等に設定されると良い。
【0041】
ステップSA3において途切れている神経領域があると判定された場合(ステップSA3:YES)、制御部9は、神経指標値決定部5の割合計算部54に計算処理を行わせる(ステップSA5)。ステップSA5において割合計算部54は、腫瘍領域に入り込んでいる全神経領域に占める、腫瘍領域内で途切れている神経領域の割合を計算する。具体的には、割合計算部54は、まず、腫瘍領域に入り込んでいる全ての神経領域の本数を計数する。次に割合計算部54は、各神経領域が腫瘍領域内で途切れているか否かを判定し、途切れていると判定された神経領域の本数を計数する。そして割合計算部54は、腫瘍領域に入り込んでいる神経領域の本数に対する、腫瘍領域内で途切れている神経領域の本数の割合を計算する。割合は、単純に比率で計算されても良いし、百分率で計算されてもよい。この割合は、神経指標値として扱われる。
【0042】
ステップSA5が行われると制御部9は、表示画像発生部6に割付処理を行わせる(ステップSA6)。ステップSA6において表示画像発生部6は、ステップSA2,SA4において設定された既定値、及びステップSA5において計算された割合に応じたカラー値を腫瘍領域に割付ける。例えば、割合が多いほど濃い赤色のカラー値が割付けられ、少ないほど濃い青色等の他の色のカラー値が割付けられると良い。典型的には、腫瘍領域には、その腫瘍領域内における神経領域の接続状態に応じた単一のカラー値が割付けられることとなる。
【0043】
ステップSA6が行われると制御部9は、表示画像発生部6に発生処理を行わせる(ステップSA7)。ステップSA7において表示画像発生部6は、ステップSA6において発生された、カラー値が割付けられた3次元の合成画像に3次元画像処理を施し、2次元のカラー画像を発生する。
【0044】
ステップSA7が行われると制御部9は、表示部7に表示処理を行わせる(ステップSA8)。ステップSA8において表示部7は、ステップSA7において発生された2次元のカラー画像を表示する。
【0045】
図8は、表示部7により表示される、カラー画像内の腫瘍領域RTと神経領域RNとを示す図である。図8に示すように、カラー画像に含まれる腫瘍領域RTの各ピクセルは、腫瘍領域RNに入り込んでいる全神経領域に占める、途切れている神経領域の割合に応じた色で表示される。割合が大きい腫瘍領域は、途切れている神経を多く含んでいる腫瘍に対応している。反対に割合が小さい腫瘍領域は、途切れている神経をあまり含んでいない腫瘍に対応している。例えば、腫瘍領域に入り込んでいる全ての神経領域が途切れていない場合(図8の(a))、すなわち、割合が0%の場合、その腫瘍領域は濃い青で表示される。例えば、割合が30%の場合(図8の(b))、その腫瘍領域は薄い青で表示される。例えば、割合が60%の場合(図8の(c))、その腫瘍領域は薄い赤で表示される。腫瘍領域に入り込んでいる全ての神経領域が途切れている場合、すなわち、割合が100%の場合(図8の(d))、その腫瘍領域は濃い赤で表示される。なおステップSA1において腫瘍領域に神経領域が入り込んでいないと判定された場合、実質的に割合0%に相当する。従って、腫瘍領域に入り込んでいる全ての神経領域が途切れておらず(割合0%)、且つ腫瘍領域の中を神経領域が通過していない場合、例えば、その腫瘍領域は、濃い青や他の色(例えば、緑)で表示されるとよい。このような腫瘍領域内の各ピクセルの色を観察することで、ユーザは、容易に腫瘍の中の神経束の走行状態、具体的には、腫瘍内の途切れている神経領域の割合を把握することができる。これによりユーザは、腫瘍の悪性度を把握することができる。
【0046】
なお、単一の腫瘍領域を構成する全てのボクセルに同一のカラー値を割付けなくとも良い。図9は、表示部7により表示される、カラー画像内の腫瘍領域RTと神経領域RNとを示す他の図である。図9に示すように、表示画像発生部6は、例えば、神経領域RNの途切れ部分が他と比べて多く分布している腫瘍領域RT内の領域RDに、その旨のカラー値を割付けても良い。これにより、表示部7は、腫瘍領域RT内の領域RDを他の領域とは異なる色で表示することできる。換言すれば、表示部7は、腫瘍領域RT全体から途切れ部分の多い領域RDを色で強調することができる。従ってユーザは、途切れ部分の多い領域RDを色の違いにより容易に把握することができる。
【0047】
また、腫瘍領域に入り込んでいる全神経領域に占める、途切れている神経領域の割合を計算するとしたが、実施例3はこれに限定されない。この場合、割合設定部は、ステップSA3において神経領域が腫瘍領域内で途切れていると判定された場合、その旨の既定値を神経指標値に設定してもよい。この既定値は、ステップSA4における既定値とは異なる色に設定される。これによりユーザは、腫瘍領域の色を識別することで腫瘍が悪性であるか否かを色で判別することができる。
【0048】
なお、表示される画像は、カラー画像や多重カラー画像のみに限定されない。例えば、表示部7は、3次元の脳画像のMPR画像やボリュームレンダリング画像にカラー画像や多重カラー画像を重ねて表示しても良い。
【0049】
[変形例]
腫瘍が悪性の場合、腫瘍を全摘出する必要がある。この場合、一緒に摘出される神経束に応じた障害が被検体に発生するおそれがある。従って、悪性腫瘍に繋がっている神経束が脳のどの領域に繋がっているか、換言すれば、その神経束による脳への影響範囲を提示する事は、臨床上大変重要である。
【0050】
変形例に係る画像処理装置1は、多重カラー画像を表示する際、腫瘍に接続している神経の脳内における到達点を強調する。以下に変形例に係る画像処理装置1について説明する。なお以下の説明において、実施例3と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0051】
図10は、変形例に係る神経指標値決定部5の構成を示す図である。図5に示すように、神経指標値決定部5は、内包関係判定部51、途切れ判定部52、割合設定部53、割合計算部54、及び到達点特定部55を有する。
【0052】
到達点特定部55は、内包関係判定部51により腫瘍領域に神経領域が入り込んでいると判定された場合、多重合成画像において、腫瘍領域に入り込んでいる神経領域の脳領域上の到達点を特定する。
【0053】
図11は、変形例に係る制御部9の制御のもとに行われる、変形例に係る画像処理の典型的な流れを示す図である。制御部9は、例えば、ユーザからの操作部8を介した画像処理の開始要求を受けて、変形例に係る画像処理を開始する。
【0054】
まず制御部9は、神経指標値決定部5の内包関係判定部51に判定処理を行わせる(ステップSB1)。ステップSB1において内包関係判定部51は、合成画像又は多重合成画像に含まれる腫瘍領域に神経領域が入り込んでいるか否かを判定する。ステップSB1の処理は、ステップSA1と同様の処理のため、ここでの説明を省略する。
【0055】
ステップSB1において神経領域が腫瘍領域に入り込んでいないと判定された場合(ステップSB1:NO)、制御部9は、変形例に係る画像処理を終了する。この場合、制御部9は、例えば、実施例3に係る画像処理のステップSA2→SA6→SA7→SA8の順番に処理を行うと良い。
【0056】
ステップSB1において腫瘍領域に神経領域が入り込んでいると判定された場合(ステップSB1:YES)、制御部9は、到達点特定部55に特定処理を行わせる(ステップSB2)。ステップSB2において到達点特定部55は、多重合成画像内において神経領域の脳領域表面上の到達点を特定する。以下、ステップSB2の処理を、図12を参照しながら説明する。図12は、多重合成画像における腫瘍領域RT、神経領域RN、及び脳領域表面SBを示す図である。まず到達点特定部55は、多重合成画像において、ボクセル値に基づいて神経領域RNと脳領域表面SBとを特定する。次に到達点特定部55は、神経領域RNを脳領域表面SBに向けて追跡し、神経領域RNと脳領域表面SBとの交点PRを特定する。この交点PRが到達点PRに設定される。より詳細には、到達点PRは、互いに隣り合う神経領域RNを構成するボクセルと脳領域表面SBを構成するボクセルとに設定される。多重合成画像における到達点PRの座標のデータは、表示画像発生部6に供給される。
【0057】
ステップSB2が行われると表示画像発生部6は、ステップSB2において特定された到達点が色で強調された2次元の多重カラー画像を多重合成画像に基づいて発生する。具体的には、表示画像発生部6は、まず、到達点に設定されたボクセルに、到達点であることを示す特定のカラー値を割付ける。特定のカラー値は、脳領域表面から到達点を色で区別可能な値に設定される。なお、カラー値が割付けられるボクセルは、厳密に神経領域と脳領域表面との交点に限定されない。例えば、交点を含む所定の大きさの領域にカラー値が割付けられても良い。これにより、交点が微小な場合においても到達点の視認性を向上することができる。カラー値が割付けられると表示画像発生部6は、カラー値が割付けられた多重合成画像に3次元画像処理を施し、到達点が色で強調された2次元の多重カラー画像を発生する。
【0058】
ステップSB3が行われると制御部9は、表示部7に表示処理を行わせる(ステップSB4)。ステップSB4において表示部7は、ステップS3において発生された多重カラー画像を表示する。
【0059】
図13は、ステップSB4において表示部7により表示される多重カラー画像IMCの一例を示す図である。図13に示すように、表示部7は、多重カラー画像IMCを表示する際、腫瘍領域RTに入り込んでいる神経領域RNの脳領域表面SB上の到達点を含む所定の大きさの領域RRを色で強調する。なお、到達点のみが色で強調されてもよい。この多重カラー画像を観察すればユーザは、容易に神経領域の脳領域表面上の到達点を把握することができる。また、医学知識の豊富なユーザは、脳領域表面上の到達点の位置を把握することで、悪性腫瘍に繋がっている神経束を摘出することで被検体に起こりうる障害を予測することができる。
【0060】
多重カラー画像を表示する際、表示部7は、脳を模擬的に表現する画像(以下、模擬的脳画像と呼ぶことにする。)を並べて表示すると良い。以下、この模擬的脳画像の表示処理について説明する。
【0061】
例えば、記憶部2は、複数の断面位置あるいは視点方向にそれぞれ対応する複数の模擬的脳画像のデータを記憶している。模擬的脳画像としては、例えば、ブロードマンの脳地図が採用される。ブロードマンの脳地図は、図14に示すように、標準的な脳の形態を示す模擬的な脳の画像である。ブロードマンの脳地図は、脳機能や組織構造等に応じた区域毎に脳機能の識別番号が割り振られている。
【0062】
到達点が強調された多重カラー画像を表示する際、表示部7は、腫瘍領域に入り込んでいる神経領域の解剖学的位置に対応する断面位置あるいは視点方向のブロードマンの脳地図を記憶部2から読み出して、到達点が強調された多重カラー画像に並べて表示する。例えば、到達点特定部55により特定される到達点の位置に対応する断面位置あるいは視点方向のブロードマンの脳地図が表示部7により読み出される。このようにして、ブロードマンの脳地図と到達点が強調された多重カラー画像とが並べて表示されることにより、ユーザは、ブロードマンの脳地図における到達点の位置を推定することで悪性腫瘍に繋がっている神経の影響範囲を容易に知ることができ、ひいては、悪性腫瘍に繋がっている神経束を全摘出することで被検体に起こりうる障害を予測することができる。
【0063】
ブロードマンの脳地図を表示する際、表示部7は、ブロードマンの脳地図における到達点の位置を明瞭にするため、ブロードマンの脳地図において神経領域の到達点を強調するとよい。図15は、神経領域の到達点が強調されたブロードマンの脳地図の表示例を示す図である。図15に示すように、ブロードマンの脳地図は、アプリケーションウィンドウWA内に表示されると良い。アプリケーションウィンドウWAには、到達点に対応する断面位置あるいは視点方向に関するブロードマンの脳地図ITBや他の断面位置あるいは視点方向に関するブロードマンの脳地図IOBが表示される。図15において、ブロードマンの脳地図ITBは、脳の内側表面に関し、ブロードマンの脳地図IOBは、脳の外側表面に関する。ブロードマンの脳地図ITBには、腫瘍領域に入り込んだ神経領域の到達点を含む所定の大きさ及び形状の領域RSが表示される。領域RSは、例えば、以下のように設定される。
【0064】
例えば、表示画像発生部6は、ブロードマンの脳地図ITBと到達点が特定された多重カラー画像とにフィッティング処理を施すことにより、ブロードマンの脳地図ITBにおける神経領域の到達点を算出する。次に表示部7は、算出された到達点を含む所定の大きさの領域RSをブロードマンの脳地図ITBに設定する。そして表示部7は、ブロードマンの脳地図ITBを表示する際、設定された領域RSを色等で強調する。領域RSの大きさ及び形状や領域RSの表示色は、ユーザにより操作部8を介して任意に設定可能である。なお、表示部7は、ブロードマンの脳地図ITBを表示する際、算出されたブロードマンの脳地図上の到達点のみを色等で強調してもよい。
【0065】
上述において、到達点を強調する際、到達点を含む所定の大きさ及び形状の領域をも強調するとした。悪性腫瘍に繋がっている神経の影響範囲をより明瞭に示すため、表示部7は、ブロードマンの脳地図や多重カラー画像において、腫瘍領域に入り込んでいる神経領域に対応する神経の影響範囲を色等で強調してもよい。以下に、この処理の具体例を説明する。
【0066】
神経の影響範囲は、神経の種類に応じて医学的に決定される。神経の種類は、例えば、神経の解剖学的な位置に応じて特定することができる。記憶部2は、複数の区分のうちの1つの区分が色で強調された模擬的脳画像(例えば、ブロードマンの脳地図)を記憶している。1区分が強調された模擬的画像は、全ての区分について用意されている。これら1区分が強調された模擬的画像のセットは、複数の断面や視線方向について用意されている。各模擬的脳画像は、識別番号で管理されている。例えば、表示部7は、模擬的脳画像の識別番号と、その模擬的脳画像において強調されている影響範囲に影響を与える神経束の種類とを対応付けたテーブルを有している。
【0067】
到達点特定部55により到達点が特定された場合、表示部7は、到達点に到達している神経領域の解剖学的位置に基づいて、この神経領域に対応する神経束の種類を特定する。次に表示部7は、上述のテーブルを利用して特定された神経束の種類から模擬的脳画像の識別番号を特定し、特定された識別番号に関連付けられている模擬的脳画像を記憶部2から読み出す。そして表示部7は、読み出された模擬的画像を表示する。表示される模擬的脳画像は、到達点に到達する神経束の影響範囲が色で強調されている。従って、表示部7は、悪性腫瘍に繋がっている神経の影響範囲をより明瞭に示すことができる。
【0068】
なお、本実施形態により腫瘍の位置と腫瘍に繋がっている神経の影響範囲との対応関係を知ることができる。例えば、記憶部2は、処理対象の腫瘍領域の位置毎に、腫瘍領域に繋がっている神経領域に対応する影響範囲が色等で強調された模擬的画像のデータを関連付けて記憶する。これにより、記憶部2は、腫瘍の位置と腫瘍に繋がっている神経の影響範囲との対応関係をデータベース化して蓄積することが出来る。蓄積されたデータは、ユーザにより操作部8を介して読み出し、表示部7により表示可能である。
【0069】
これで、実施例1、実施例2、実施例3、及び変形例の説明を終了する。
【0070】
上記実施形態によれば、本実施形態に係る画像処理装置1は、少なくとも合成画像発生部4、神経指標値決定部5、表示画像発生部6、及び表示部7を有している。合成画像発生部4は、神経画像と腫瘍画像との合成画像を発生する。神経指標値決定部5は、腫瘍画像に由来する腫瘍領域に対する、神経画像に由来する神経領域の解剖学的走行状態を数値で表現した神経指標値を決定する。表示画像発生部6は、神経指標値に応じたカラー値が腫瘍領域に割付けられたカラー画像を合成画像に基づいて発生する。表示部7は、カラー画像を表示する。従ってユーザは、カラー画像を観察することで、腫瘍に対する神経束の解剖学的走行状態を色の違いで把握することができる。より詳細には、腫瘍と神経束との位置関係、腫瘍内部の神経の状態、腫瘍の悪性度、腫瘍を治療する上でのリスクを把握することができる。このように画像処理装置1は、治療方針の立案、治療の可否の判断、インフォームドコンセント等多くの有用な情報を提供することができる。従って、画像処理装置1により画像診断能が向上する。
【0071】
かくして本実施形態によれば、画像診断能の向上が実現する。
【0072】
なお、上記の説明においては、神経指標値に応じた情報は、カラー値であるとした。しかしながら、本実施形態はこれに限定されなに。例えば、神経指標値に応じた情報は、グレー値であってもよい。この場合、例えば、表示画像発生部6は、神経指標値に応じたグレー値が合成画像に含まれる腫瘍領域に割付けられた2次元のグレー画像を、合成画像に基づいて発生する。この際、表示画像発生部6は、合成画像に含まれる神経領域に特定のグレー値を割付けても良い。次に表示画像発生部6は、グレー値が割付けられた合成画像に3次元画像処理を施し、2次元のグレー画像を発生する。3次元画像処理としては、例えば、ボリュームレンダリング、サーフェスレンダリング、画素値投影処理、MPR(multi-planar reconstruction)等が挙げられる。画素値投影処理としては、典型的には、最大値投影法(MIP:maximum intensity projection)が採用されるとよい。なお、グレー値の割付は、3次元画像処理前でなく、3次元画像処理後に行われても良い。また、表示画像発生部6は、同様の3次元画像処理により、多重合成画像に基づいて、神経指標値に応じたグレー値が腫瘍領域に割付けられた2次元の多重グレー画像を発生することもできる。表示部7は、発生されたグレー画像や多重グレー画像等の種々の表示画像を表示機器に表示する。
【0073】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【符号の説明】
【0074】
1…画像処理装置、2…記憶部、3…抽出部、4…合成画像発生部、5…神経指標値決定部、6…表示画像発生部、7…表示部、8…操作部、9…制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脳の神経組織に関する3次元の神経画像と前記脳の腫瘍に関する3次元の腫瘍画像とを記憶する記憶部と、
前記神経画像と前記腫瘍画像との合成画像を発生する合成画像発生部と、
前記合成画像内の前記腫瘍画像に由来する腫瘍領域に対する前記神経画像に由来する神経領域の解剖学的走行状態に関する指標値を決定する決定部と、
前記決定された指標値に応じた情報が前記合成画像に含まれる前記腫瘍領域に割り付けられた2次元の情報画像を前記合成画像に基づいて発生する情報画像発生部と、
前記発生された情報画像を表示する表示部と、
を具備する画像処理装置。
【請求項2】
前記画像発生部は、前記情報画像として、前記決定された指標値に応じたカラー値が前記合成画像に含まれる前記腫瘍領域に割り付けられた2次元のカラー画像を前記合成画像に基づいて発生する、請求項1記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記決定部は、前記指標値として、前記腫瘍領域に含まれる複数の画素の各々から前記神経領域までの距離を計算する、請求項1記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記決定部は、前記指標値として、前記腫瘍領域内の複数の局所領域の各々について、前記局所領域内の前記神経領域の本数又は前記神経領域を構成するボクセルの個数を計数する、請求項1記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記決定部は、
前記腫瘍領域内において前記神経領域が繋がっているか否かを画素値の連続性に基づいて判定する判定部と、
前記決定部は、前記神経領域が繋がっていると判定された場合、前記神経領域が繋がっていることを示す第1の既定値を前記指標値に設定し、前記神経領域が繋がっていないと判定された場合、前記神経領域が繋がっていないことを示す第2の既定値を前記指標値に設定する設定部と、を備える、
請求項1記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記記憶部は、さらに前記脳の形態を表現する3次元の脳画像を記憶し、
前記合成部は、前記脳画像と前記腫瘍画像と前記神経画像との多重合成画像を発生し、
前記情報画像発生部は、前記指標値に応じた情報が前記多重合成画像に含まれる前記腫瘍領域に割り付けられた2次元の多重情報画像を発生し、
前記表示部は、前記発生された多重情報画像を表示する、
請求項1記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記決定部は、前記腫瘍領域と前記神経領域とが接触しているか否かを判定する判定部と、前記腫瘍領域と前記神経領域とが接触していると判定された場合、前記脳画像に含まれる脳領域表面のうちの前記神経領域の到達点を特定する特定部と、をさらに備え、
前記表示部は、前記多重情報画像を表示する際、前記特定された到達点を強調する、
請求項6記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記表示部は、前記多重情報画像を表示する際、前記神経領域に対応する神経の種類に応じて医学的に決定される、前記到達点を含む前記脳領域表面内の前記神経の影響範囲を強調する、請求項7記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記表示部は、前記脳領域における前記神経領域の解剖学的位置に対応するブロードマンの脳地図を表示する、請求項7記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記表示部は、前記ブロードマンの脳地図を表示する際、前記神経領域に対応する神経の種類に応じて医学的に決定される、前記到達点を含む前記ブロードマンの脳地図上の前記神経の影響範囲を強調する、請求項9記載の画像処理装置。
【請求項11】
前記神経画像は、磁気共鳴イメージング装置により前記脳を撮像することにより発生された拡散強調画像に線維追跡技術を施すことにより発生される、請求項1記載の画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−235934(P2012−235934A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−107557(P2011−107557)
【出願日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【出願人】(594164531)東芝医用システムエンジニアリング株式会社 (892)
【Fターム(参考)】