説明

画像処理装置

【課題】放射線画像の散乱線領域の被写体情報を失うことなく、散乱線領域を黒く塗り潰す画像処理装置を提供する。
【解決手段】放射線情報を蓄積可能な記録プレートを用いて取得された放射線画像に対して、濃度補正処理を施す画像処理装置(56)であって、前記放射線画像は、記録プレートが存在する領域に対応する有効画像領域と、記録プレートが存在しない領域に対応する無効画像領域とを有し、有効画像領域のうち無効画像領域と隣接する予め定められた範囲の領域を補正対象領域して特定する補正対象領域特定部(82)と、有効画像領域側から前記無効画像領域側に向かって存在する補正対象領域の濃度値のトレンドを除去することで、該補正対象領域の画素の濃度値を補正する濃度補正部(84)とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線画像に対して黒化処理を施す画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イメージングプレート(以下、IP)は角隅が丸まった形状を有するので、IPを利用して得られた放射線画像のうち、IPが存在しない角隅に白抜け領域が発生する。また、角隅ではない辺縁部でも、IPを読み取る装置の搬送時のがたつき等に起因して、画像中に白抜け領域が発生することがある。また、白抜け領域と隣接する白抜けしていない画像部分には散乱線の影響が大きくなる領域が発生することがわかっている。この白抜け領域は高輝度であり、散乱線領域の輝度は比較的高いので、放射線画像の視認性の低下や眼精疲労を招くという問題があった。
【0003】
そこで、下記特許文献1は、白抜け領域とIPのエッジ部に発生する散乱線領域に対して黒化処理を自動的に施して黒く塗りつぶす技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−283281号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、散乱線領域を単に黒く塗りつぶすと、散乱線領域に表されている被写体情報が失われてしまう。逆に、散乱線領域を全く塗りつぶさないとすると、散乱線領域の輝度は比較的高いので放射線画像の視認性が悪化してしまう。
【0006】
そこで本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたものであり、散乱線領域の被写体情報を失うことなく、散乱線領域を黒く塗り潰す画像処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、放射線情報を蓄積可能な記録プレートを用いて取得された放射線画像に対して、濃度補正処理を施す画像処理装置であって、前記放射線画像は、前記記録プレートが存在する領域に対応する有効画像領域と、前記記録プレートが存在しない領域に対応する無効画像領域とを有し、前記有効画像領域のうち前記無効画像領域と隣接する予め定められた範囲の領域を補正対象領域として特定する補正対象領域特定部と、前記有効画像領域側から前記無効画像領域側に向かって存在する前記補正対象領域の濃度値のトレンドを除去することで、該補正対象領域の画素の濃度値を補正する濃度補正部と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、固体検出器を用いて取得された放射線画像に対して、濃度補正処理を施す画像処理装置であって、前記放射線画像は、放射線が照射された領域に対応する有効画像領域と、放射線が照射されていない領域に対応する無効画像領域とを有し、前記有効画像領域のうち前記無効画像領域と隣接する予め定められた範囲の領域を補正対象領域として特定する補正対象領域特定部と、前記有効画像領域側から前記無効画像領域側に向かって存在する前記補正対象領域の濃度値のトレンドを除去することで、該補正対象領域の画素の濃度値を補正する濃度補正部と、を備えることを特徴とする。
【0009】
前記濃度補正部は、前記無効画像領域に近い前記補正対象領域の画素程加算する濃度値を高くして、該補正対象領域の画素の濃度値を補正してもよい。
【0010】
前記有効画像領域のうち、前記補正対象領域以外の領域を関心領域とし、前記濃度補正部は、前記関心領域内の加算量マップ算出の基準となる複数の基準画素の濃度値と、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値との差分をとることで、前記補正対象領域の各画素の濃度値に加算する加算量を示す前記加算量マップを算出するマップ算出部と、前記加算量マップに対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ処理部と、前記ローパスフィルタ処理が施された前記加算量マップを前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に加算する濃度値加算部と、を有することで該補正対象領域のトレンドを除去してもよい。
【0011】
前記有効画像領域のうち、前記補正対象領域以外の領域を関心領域とし、前記濃度補正部は、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ処理部と、前記関心領域内の加算量マップ算出の基準となる複数の基準画素の濃度値と、ローパスフィルタ処理が施された補正対象領域の複数の画素の濃度値との差分をとることで、前記補正対象領域の各画素の濃度値に加算する加算量を示す前記加算量マップを算出するマップ算出部と、前記加算量マップを前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に加算する濃度値加算部と、を有することで該補正対象領域のトレンドを除去してもよい。
【0012】
前記マップ算出部は、前記補正対象領域の画素と、該画素と最も距離が短くなる前記基準画素との濃度値の差分をとることで前記加算量マップを算出してもよい。
【0013】
前記有効画像領域のうち、前記補正対象領域以外の領域を関心領域とし、前記濃度補正部は、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ処理部と、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値と、ローパスフィルタ処理が施された前記補正対象領域の複数の画素の濃度値との差分をとることで、前記補正対象領域の複数の画素の差分濃度値を算出する差分濃度値算出部と、前記補正対象領域の複数の画素の差分濃度値に前記関心領域内の基準となる複数の基準画素の濃度値を加算する加算部と、を有することで前記補正対象領域の画素の濃度値を補正してもよい。
【0014】
前記加算部は、前記補正対象領域の画素と、該画素と最も距離が短くなる前記基準画素とを加算してもよい。
【0015】
前記補正対象領域と前記関心領域との境界線は、前記有効画像領域と前記無効画像領域との境界線と平行であってもよい。
【0016】
前記複数の基準画素は、関心領域の画素のうち、前記補正対象領域の画素と隣接する画素であってもよい。
【0017】
補正対象領域特定部は、前記有効画像領域と前記無効画像領域との境界線から一定距離内にある前記有効画像領域内の領域を前記補正対象領域として特定してもよい。
【0018】
前記補正対象領域特定部は、該有効画像領域のうち前記無効画像領域と隣接する予め定められた範囲の前記領域と、前記無効画像領域とを補正対象領域として特定してもよい。
【0019】
前記濃度補正部は、さらに前記無効画像領域の画素の濃度値を予め定められた濃度値に置き換えることで、前記無効画像領域を黒く塗り潰してもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、放射線画像の有効画像領域側から無効画像領域側に向かって存在する散乱線領域を含む補正対象領域の濃度値のトレンドを除去することで、該補正対象領域の画素の濃度値を補正して黒く塗り潰すので、被写体情報を残したまま、散乱線領域を塗り潰すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】放射線撮像装置の一例であるマンモグラフィ装置の外観斜視図である。
【図2】図1のマンモグラフィ装置の要部拡大図である。
【図3】IPに蓄積された放射線画像を読み取って所定の処理を行う画像処理システムの電気的な構成を示すブロック図である。
【図4】画像読取部が読み取った放射線画像の角隅を示す図である。
【図5】図3に示す画像処理装置の構成を示すブロック図である。
【図6】特定される補正対象領域を説明するための図である。
【図7】図3に示す画像処理装置の動作を示すフローチャートである。
【図8】加算量マップの算出を説明するための図である。
【図9】図8の法線Aにおける各画素の濃度値と法線Aにおける補正対象領域の各画素に加算する加算量との関係を示す図である。
【図10】図4に示す放射線画像を画像読取部が読み取った場合に、該放射線画像から算出され、ローパスフィルタ処理がされた加算量マップの画像を示す図である。
【図11】補正対象領域の複数の画素の濃度値に加算量マップを加算したときの、図9に示す法線Aにおける補正対象領域の各画素の濃度値を示す図である。
【図12】図4に示す放射線画像を画像読取部が読み取った場合に、補正対象領域の複数の画素の濃度値に、ローパスフィルタ処理が施された加算量マップが加算された後の放射線画像を示す図である。
【図13】変形例4の濃度補正部の構成を示すブロック図である。
【図14】加算量マップを用いて領域の濃度値を補正した後に、無効画像領域の複数の画素値を予め定められた濃度値に置き換えることで、無効画像領域を黒く塗り潰したときの放射線画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明に係る画像処理装置について、好適な実施の形態を掲げ、添付の図面を参照しながら以下、詳細に説明する。
【0023】
図1は、放射線撮像装置の一例であるマンモグラフィ装置10の外観斜視図、図2は、図1のマンモグラフィ装置10の要部拡大図である。マンモグラフィ装置10は、立設状態に設置される基台部12と、この基台部12の略中央部に配設される旋回軸14に固定される装置本体部16と、被写体18の撮影部位(マンモ)18aに対して放射線(例えば、X線)を照射するモリブデン管球、タングステン管球、又はロジウム管球等の放射線源20を収納し、装置本体部16を構成するアーム部材22の一端部に固定される放射線源収納部24と、マンモ18aを透過した放射線を検出して放射線画像情報を取得する図示しない固体検出器を収納し、装置本体部16を構成するブラケット部材26に固定される撮影台28と、ブラケット部材26に設けられ、撮影台28に対してマンモ18aを押圧して保持する圧迫板30とを備える。
【0024】
固体検出器は、IP(輝尽性発光体プレート)であり、被写体の放射線画像、つまり、マンモ18aを透過した放射線を蓄積することで、放射線画像を得る。IPとは、被写体を透過した放射線を蓄積して、励起光の照射等により、蓄積した放射線をその線量に応じた強度で輝尽発光するものであり、所定の基板上に輝尽性蛍光体が層状に形成された構成を有している。基台部12には、撮影方向等の撮影情報、被写体18のID情報等を表示するとともに、必要に応じてこれらの情報を設定可能な表示操作部32が配設される。
【0025】
次に、画像処理システム50について説明する。図3は、IP52に蓄積された放射線画像を読み取って所定の処理を行う画像処理システム50の電気的な構成を示すブロック図である。画像処理システム50は、IP52、画像読取部54、画像処理装置56、表示制御部58、表示部60、記録制御部62、及び記録媒体64を備える。
【0026】
画像読取部54は、IP52(記録プレート)によって検出された被写体の画像情報を読み取り、該読み取った被写体の放射線画像をデジタル信号に変換して、画像処理装置56に出力する。詳しくは、画像読取部54は、励起光を出力する光源、励起光を走査する走査部、フォトマルチプライヤ、増幅器、及びA/D変換器を有する(図示略)。前記走査部がIP52の表面に対して励起光を走査する。この走査により励起光がIP52に照射され、励起光が照射された箇所から蓄積された被写体の放射線画像に応じた光量で輝尽発光し、前記フォトマルチプライヤは、該輝尽発光した光を電気信号に変換する。前記増幅器は、該変換された電気信号を増幅し、前記A/D変換器は、増幅された電気信号をデジタル信号に変換する。これにより、デジタル信号の放射線画像を得ることができる。
【0027】
画像処理装置56は、画像読取部54が読み取った放射線画像に対して後述する所定の画像処理を施し、該画像処理が施された放射線画像を表示制御部58及び(又は)記録制御部62に出力する。
【0028】
表示制御部58は、放射線画像を液晶ディスプレイ等の表示部60に表示させ、記録制御部62は、放射線画像をフラッシュメモリ、ハードディスク等の記録媒体64に記録する。
【0029】
図4は、画像読取部54が読み取った放射線画像の角隅を示す図である。図4に示すように放射線画像は、IP52が存在する領域に対応する有効画像領域72と、IP52が存在しない領域に対応する無効画像領域74とを有する。上述したようにIP52は、角隅が丸まった形状を有するので、IP52は、放射線が照射されても、角隅では放射線を蓄積することができない。従って、無効画像領域は、高輝度となり、白抜け領域となる。また、有効画像領域72は、IP52のエッジ部分に対応した散乱線領域76を有する。IP52のエッジ部分では放射線が散乱してしまうため、この散乱線領域76は、ぼやけた画像となる。放射線画像の各画素の濃度値は、IP52に入射した放射線量に応じて変わり、入射した放射線量が少ない領域程濃度値が小さくなる。従って、無効画像領域74の濃度値は低くなり、散乱線領域76では、濃度値が変動し、IP52のエッジに近い程濃度値が小さくなる。このようなことから、放射線画像の角隅においては、有効画像領域72側から無効画像領域74側に向かって濃度値のトレンドが発生する。
【0030】
図5は、画像処理装置56の構成を示すブロック図である。画像処理装置56は、無効画像領域検出部80、補正対象領域特定部82、及び濃度補正部84を備える。
【0031】
無効画像領域検出部80は、画像読取部54から送られてきた放射線画像の無効画像領域74を検出する。この無効画像領域74の検出手法としては、例えば、特許第2831892号公報に記載されているように、K平均アルゴリズムによるクラスタリングを用いて背景領域と輪郭領域を分離することで、背景領域と見做すことができる無効画像領域74を検出する。また、特開2004−283281号公報に記載されているように、エッジを検出することで無効画像領域74を検出してもよい。さらに、放射線画像の各画素の濃度値と閾値とを比較し、濃度値が閾値より低い画素群を無効画像領域74として検出してもよい。本実施の形態では、放射線画像の各画素の濃度値と閾値とを比較することで、無効画像領域74を検出する。無効画像領域検出部80は、入力された放射線画像を補正対象領域特定部82に出力するとともに、検出した無効画像領域74を示す情報も出力する。
【0032】
補正対象領域特定部82は、検出された無効画像領域74に基づいて、放射線画像のうち画素の濃度値を補正する補正対象領域を特定する。補正対象領域特定部82は、有効画像領域72のうち無効画像領域74と隣接する予め定められた範囲の領域と、無効画像領域74とを補正対象領域として特定する。補正対象領域特定部82は、入力された放射線画像を濃度補正部84に出力するとともに、特定した補正対象領域を示す情報、及び、無効画像領域74を示す情報も出力する。
【0033】
図6は、特定される補正対象領域90を説明するための図である。有効画像領域72のうち無効画像領域74と隣接する予め定められた範囲の領域とは、例えば、有効画像領域72と無効画像領域74との境界線92から一定距離内にある有効画像領域72内の領域(斜線で示す領域)94であってもよい。前記一定距離は、領域94が散乱線領域76を全て含むようにその長さが決められる。
【0034】
また、有効画像領域72のうち、補正対象領域90(領域94)以外の領域を関心領域96と呼び、関心領域96と補正対象領域90との境界線(関心領域96と領域94との境界線)98と境界線92とは、平行している。なお、境界線92は、有効画像領域72のうち、無効画像領域74の画素と隣接する複数の画素によって形成され、境界線98は、関心領域96のうち、領域94の画素と隣接する複数の画素によって形成される。この境界線98を形成する関心領域96の画素、つまり、境界線98上の複数の画素を基準画素と呼ぶ。
【0035】
濃度補正部84は、入射された放射線画像のうち、有効画像領域72側から無効画像領域74側に向かって存在する補正対象領域90の複数の画素の画素値のトレンドを除去することで、補正対象領域90の画素の濃度値を補正して(黒化処理を施して)該補正対象領域90を黒く塗り潰す。
【0036】
濃度補正部84は、マップ算出部100、ローパスフィルタ処理部102、及び濃度値加算部104を有する。マップ算出部100は、複数の前記基準画素と補正対象領域90内の複数の画素との濃度値の差分をとることで、加算量マップを算出する。この加算量マップは、補正対象領域90内の各画素の濃度値に加算する加算量(濃度値)を表すマップである。マップ算出部100は、補正対象領域90の画素と、該画素と最も距離が短くなる基準画素との濃度値の差分を取ることで加算量マップを算出してもよい。
【0037】
ローパスフィルタ処理部102は、算出された加算量マップに対してローパスフィルタ処理を施すことで加算量マップの高周波成分を除去する。そして、濃度補正部84は、ローパスフィルタ処理が施された加算量マップを補正対象領域90の複数の画素の濃度値に加算することで、該補正対象領域90の画素の濃度値を補正する。
【0038】
次に、画像処理装置56の動作を図7のフローチャートに従って説明する。画像読取部54から放射線画像が画像処理装置56に送られてくると、無効画像領域検出部80は、該送られてきた放射線画像の無効画像領域74を検出する(ステップS1)。
【0039】
次いで、補正対象領域特定部82は、該検出した無効画像領域74に基づいて、放射線画像のうち画素の濃度値を補正する補正対象領域90を特定する(ステップS2)。補正対象領域特定部82は、有効画像領域72のうち無効画像領域74と隣接する予め定められた範囲の領域94と、無効画像領域74とを補正対象領域90として特定する(図6参照)。ここで、散乱線領域76と無効画像領域74のみを補正対象領域90として特定せずに、散乱線領域76を含む領域94と無効画像領域74とを補正対象領域90として特定する理由としては、正確に検出することが困難な散乱線領域76を補正対象領域90に含めるためである。
【0040】
次いで、濃度補正部84のマップ算出部100は、放射線画像の関心領域96の画素の中から、複数の基準画素を特定する(ステップS3)。詳しくは、関心領域96と補正対象領域90との境界線98上にある複数の関心領域96の画素を基準画素として特定する。
【0041】
次いで、濃度補正部84のマップ算出部100は、補正対象領域90の画素と、該画素と最短距離となる基準画素との濃度値の差分を取ることで、補正対象領域90の各画素の濃度値に加算する加算量を示す加算量マップを算出する(ステップS4)。補正対象領域90の画素と、該画素と最短距離となる基準画素との濃度値の差分は、基準画素の濃度値から補正対象領域90の画素の濃度値を減算することで求める。
【0042】
図8は、加算量マップの算出を説明するための図である。マップ算出部100は、補正対象領域90の画素と、該画素と最短距離となる基準画素との濃度値の差分をとるので、減算する補正対象領域90の画素と、基準画素とは境界線98の同一の法線上にあることになる。例えば、図8の補正対象領域90の画素110と最短距離となる基準画素112とは、基準画素112における境界線98の法線A上にある。従って、マップ算出部100は、境界線98の各法線毎に、同一の法線上にある基準画素と補正対象領域90の各画素との濃度値の差分をとることで、加算量マップを算出する。なお、図8では、便宜的に、撮影対象となるマンモ18aを表す。
【0043】
図9は、図8の法線Aにおける各画素の濃度値と法線Aにおける補正対象領域90の各画素に加算する加算量との関係を示す図である。図9の通り、先に説明した閾値より低い領域を無効画像領域74、閾値より高い領域を有効画像領域72とする。無効画像領域74と、散乱線領域76を含む領域94とを補正対象領域90とする。散乱線領域76では、濃度値の変動が激しく発生していることがわかる。
【0044】
法線A上における基準画素の濃度値から補正対象領域90の各画素の濃度値を減算すると、図9に示すように、法線A上における補正対象領域90の各画素に加算する加算量を得ることができる。
【0045】
次いで、濃度補正部84のローパスフィルタ処理部102は、ステップS4で算出した加算量マップに対してローパスフィルタ処理を施すことで、加算量マップの高周波成分を除去する(ステップS5)。加算量マップにローパスフィルタ処理を施すことで、図9に示すように補正対象領域90の各画素に加算する加算量が示す曲線(破線で示す曲線)は滑らかになり、補正対象領域90のうち、濃度値が低い画素程、加算される加算量が大きくなる(つまり、無効画像領域74に近い画素程加算される加算量が大きくなり、無効画像領域74の画素に加算される加算量が最も大きい)。
【0046】
図10は、図4に示す放射線画像を画像読取部54が読み取った場合に、該放射線画像から算出され、ローパスフィルタ処理がされた加算量マップの画像を示す図である。図10に示すように無効画像領域74及び散乱線領域76に対応する画像領域は黒く塗り潰され、散乱線領域76以外の有効画像領域72に対応する画像領域は、白抜け領域となる。
【0047】
次いで、濃度値加算部104は、画像読取部54が読み取った放射線画像の補正対象領域90の複数の画素の濃度値に加算量マップを加算する(ステップS6)。
【0048】
ステップS6では、補正対象領域90の複数の画素の濃度値に、ステップS4で算出した加算量マップを加算せずに、ステップS5でローパスフィルタ処理が施された加算量マップを加算することとしたのは、補正対象領域90の高周波成分は、被写体情報でもあり、ローパスフィルタ処理が施されていない加算量マップを補正対象領域90の複数の画素の濃度値に加算してしまうと、補正対象領域90の被写体情報が失われてしまうため、ローパスフィルタ処理後の加算量マップを加算することで補正対象領域90の被写体情報(高周波成分)を残しながら、補正対象領域90を黒く塗り潰すことができる。
【0049】
図11は、補正対象領域90の複数の画素の濃度値に加算量マップを加算したときの、図9に示す法線Aにおける補正対象領域90の各画素の濃度値を示す図である。図11に示すように、散乱線領域76の被写体情報(高周波成分)が除去されることなく補正対象領域90が黒く塗り潰されており(補正対象領域90の各画素の濃度値が高くなり)、無効画像領域74も同様に黒く塗り潰されている。
【0050】
図12は、図4に示す放射線画像を画像読取部54が読み取った場合に、補正対象領域の複数の画素の濃度値に、ローパスフィルタ処理が施された加算量マップが加算された後の放射線画像を示す図である。図12に示すように、無効画像領域74及び散乱線領域76が黒く略一様に塗り潰されている。
【0051】
このように、複数の基準画素の濃度値から補正対象領域90の複数の画素の濃度値を減算して加算量マップを算出し、該加算量マップにローパスフィルタ処理を施した後、ローパスフィルタ処理が施された加算量マップを補正対象領域90の各画素の濃度値に加算するので、有効画像領域72側から無効画像領域74側に向かって存在する補正対象領域90の画素の濃度値のトレンドを除去することができ、該補正対象領域90を黒く塗り潰すことができる。即ち、散乱線領域76の被写体情報(高周波成分)を残したまま散乱線領域76を黒く塗り潰すことができ、また、無効画像領域74も塗り潰すことができる。放射線画像から散乱線領域76を正確に検出することは難しいが、本実施の形態によれば、散乱線領域76を正確に検出することができなくても、散乱線領域76の被写体情報を除去することなく、散乱線領域76を黒く塗り潰すことができる。また、補正対象領域90のうち、散乱線領域76ではない有効画像領域72の画素の濃度値に加算される加算量は、極めて小さいので、領域94を散乱線領域76より大きい領域にしても、散乱線領域76ではない有効画像領域72の濃度値が、濃度補正によって受ける影響は少なく、補正していないのと同様の結果となり、被写体情報が失われることはない。
【0052】
逆に、補正対象領域90の各画素の濃度値を予め定められた値に置き換える補正を行うと、有効画像領域72の被写体情報が失われてしまうが、本実施の形態ではそのようは不具合は生じない。
【0053】
また、上記実施の形態では、基準画素の濃度値に対して、濃度値が低い補正対象領域90の画素程加算される加算量が大きくなるので、補正対象領域を被写体情報を残したまま略一様に塗り潰すことができる。
【0054】
また、マンモ18aを撮影した場合には、図8に示すように散乱線領域76におけるマンモ18aのエッジの接線は、境界線98の法線Aに近いので、境界線98の法線毎に、基準画素と補正対象領域90の各画素との濃度値の差分を求めて加算量マップを算出することで、精度よく被写体情報を残したまま散乱線領域76を黒く塗り潰すことができる。
【0055】
上記実施の形態は、以下のように変形可能である。
【0056】
(変形例1)上記実施の形態では、マップ算出部100が複数の基準画素の濃度値から補正対象領域90の複数の画素の濃度値を減算して加算量マップを算出し(図7のステップS4)、ローパスフィルタ処理部102が算出した該加算量マップに対してローパスフィルタ処理を施すようにしたが(ステップS5)、ローパスフィルタ処理部102が補正対象領域90の複数の画素の濃度値に対してローパスフィルタ処理を施し、マップ算出部100が複数の基準画素の濃度値からローパスフィルタ処理後の補正対象領域90の複数の画素の濃度値を減算することで加算量マップを求めてもよい。この場合は、求めた加算量マップに対してローパスフィルタ処理を施さなくても、上記実施の形態で得られる加算量マップと同様のものが得られ、有効画像領域72側から無効画像領域74側に向かって存在する補正対象領域90の画素の濃度値のトレンドを除去することができ、該補正対象領域90を黒く塗り潰すことができる。
【0057】
(変形例2)上記実施の形態では、同一の法線上にある基準画素と補正対象領域90の各画素との濃度値の差分をとるようにして、加算量マップを算出するようにしたが、同一の法線上でなくてもよく、例えば、同一の所定の直線上にある基準画素と補正対象領域90の各画素との濃度値の差分をとるようにしてもよい。例えば、y軸方向(放射線画像の縦方向)又はx軸方向(放射線画像の横方向)に平行であり、同一の直線上にある基準画素と補正対象領域90の各画素との濃度値の差分をとるようにしてもよい。
【0058】
(変形例3)上記実施の形態では、関心領域96と補正対象領域90との境界線98上の画素を基準画素としたが、基準画素は、関心領域96内の画素であればよい。
【0059】
(変形例4)変形例4では、画像処理装置56の濃度補正部84を図13に示す濃度補正部120に代えてもよい。変形例4の濃度補正部120は、ローパスフィルタ処理部122、差分濃度値算出部124、及び加算部126を有する。ローパスフィルタ処理部122は、補正対象領域90の複数の画素の濃度値に対してローパスフィルタ処理を施すことで、高周波成分を除去する。差分濃度値算出部124は、補正対象領域90の複数の画素の濃度値と、ローパスフィルタ処理が施された補正対象領域90の複数の画素の濃度値との差分をとることで、補正対象領域90の各画素の差分濃度値を算出する。加算部126は、該算出した補正対象領域90の各画素の差分濃度値に、複数の基準画素の濃度値を加算する。加算部126は、同一の所定の直線(例えば、法線)上にある基準画素と補正対象領域90の各画素とを加算する。変形例4であっても、有効画像領域72側から無効画像領域74側に向かって存在する補正対象領域90の画素の濃度値のトレンドを除去することができ、該補正対象領域90を黒く塗り潰すことができる。
【0060】
(変形例5)図7のステップS6で、濃度補正部84は、補正対象領域90の画素の濃度値に加算量マップを加算することで補正対象領域90の画素を黒く塗り潰した後、さらに、無効画像領域74の画像を黒く塗り潰してもよい。例えば、無効画像領域74の各画素の濃度値を予め定められた濃度値に置き換えることで、該無効画像領域74を黒く塗り潰す。
【0061】
また、上記実施の形態では、図7のステップS2で、補正対象領域特定部82は、領域94と無効画像領域74とを補正対象領域90として特定したが、領域94のみを補正対象領域90として特定してもよい。この場合は、ステップS6で、補正対象領域90として特定された領域94の濃度値が加算量マップによって補正され、被写体情報を残したままの状態で黒く塗り潰されることになる。この場合、無効画像領域74の濃度値が補正されないので、無効画像領域74の複数の画素の濃度値を予め定められた濃度値に置き換えることで、無効画像領域74を黒く塗り潰す。
【0062】
図14は、加算量マップを用いて領域94の濃度値を補正した後に、無効画像領域74の複数の画素値を予め定められた濃度値に置き換えることで、無効画像領域74を黒く塗り潰したときの放射線画像を示す。
【0063】
(変形例6)上記実施の形態では、IP52の全領域に対して放射線を照射した場合を例にしたが、照射野を絞ってIP52の全領域の一部に対して放射線を照射してもよい。この場合は、放射線が照射された領域では被写体の画像情報を得ることができるが、放射線が照射されていない領域では被写体の画像情報を得ることができず、放射線が照射されていない領域は、白抜け領域となる。
【0064】
このように照射野を絞って撮影した場合であっても、放射線が照射された領域と照射されていない領域との間には、放射線が散乱した散乱線領域が発生するので、上記実施の形態と同様の処理によって、散乱線領域の被写体情報を残したながら、散乱線領域を黒く塗り潰すことができ、放射線が照射されていない領域も黒く塗り潰すことができる。
【0065】
詳しくは、本変形例6においては、照射野を絞って撮影されたIP52から読み取った放射線画像のうち、放射線が照射された領域に対応する領域を上記実施の形態で説明した有効画像領域72とし、放射線が照射されていない領域に対応する領域を上記実施の形態で説明した無効画像領域74とし、有効画像領域72と無効画像領域74との間に発生した散乱線領域を上記実施の形態の散乱線領域76とする。そして、図7のフローチャートで示した動作を行うことで、散乱線領域76を含む補正対象領域90を黒く塗り潰すことができる。
【0066】
なお、本変形例6においては、固体検出器は、IP52に限定される必要なく、放射線を電気的に検出することができる電子カセッテ(FPD)等のDR(デジタルラジオグラフィ)パネルであってもよい。
【0067】
(変形例7)上記変形例1〜6を、矛盾が生じない範囲内で任意に組み合わせた態様であってもよい。
【0068】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更又は改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。その様な変更又は改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0069】
10…マンモグラフィ装置 18…被写体
18a…撮影部位 50…画像処理システム
52…IP 54…画像読取部
56…画像処理装置 58…表示制御部
60…表示部 62…記録制御部
64…記録媒体 72…有効画像領域
74…無効画像領域 76…散乱線領域
80…無効画像領域検出部 82…補正対象領域特定部
84、120…濃度補正部 90…補正対象領域
92、98…境界線 94…領域
96…関心領域 100…マップ算出部
102、122…ローパスフィルタ処理部 104…濃度値加算部
124…差分濃度値算出部 126…加算部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射線情報を蓄積可能な記録プレートを用いて取得された放射線画像に対して、濃度補正処理を施す画像処理装置であって、
前記放射線画像は、前記記録プレートが存在する領域に対応する有効画像領域と、前記記録プレートが存在しない領域に対応する無効画像領域とを有し、
前記有効画像領域のうち前記無効画像領域と隣接する予め定められた範囲の領域を補正対象領域として特定する補正対象領域特定部と、
前記有効画像領域側から前記無効画像領域側に向かって存在する前記補正対象領域の濃度値のトレンドを除去することで、該補正対象領域の画素の濃度値を補正する濃度補正部と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項2】
固体検出器を用いて取得された放射線画像に対して、濃度補正処理を施す画像処理装置であって、
前記放射線画像は、放射線が照射された領域に対応する有効画像領域と、放射線が照射されていない領域に対応する無効画像領域とを有し、
前記有効画像領域のうち前記無効画像領域と隣接する予め定められた範囲の領域を補正対象領域として特定する補正対象領域特定部と、
前記有効画像領域側から前記無効画像領域側に向かって存在する前記補正対象領域の濃度値のトレンドを除去することで、該補正対象領域の画素の濃度値を補正する濃度補正部と、
を備えることを特徴とする画像処理装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の画像処理装置であって、
前記濃度補正部は、前記無効画像領域に近い前記補正対象領域の画素程加算する濃度値を高くして、該補正対象領域の画素の濃度値を補正する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記有効画像領域のうち、前記補正対象領域以外の領域を関心領域とし、
前記濃度補正部は、前記関心領域内の加算量マップ算出の基準となる複数の基準画素の濃度値と、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値との差分をとることで、前記補正対象領域の各画素の濃度値に加算する加算量を示す前記加算量マップを算出するマップ算出部と、前記加算量マップに対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ処理部と、前記ローパスフィルタ処理が施された前記加算量マップを前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に加算する濃度値加算部と、を有することで該補正対象領域のトレンドを除去する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記有効画像領域のうち、前記補正対象領域以外の領域を関心領域とし、
前記濃度補正部は、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ処理部と、前記関心領域内の加算量マップ算出の基準となる複数の基準画素の濃度値と、ローパスフィルタ処理が施された補正対象領域の複数の画素の濃度値との差分をとることで、前記補正対象領域の各画素の濃度値に加算する加算量を示す前記加算量マップを算出するマップ算出部と、前記加算量マップを前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に加算する濃度値加算部と、を有することで該補正対象領域のトレンドを除去する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の画像処理装置であって、
前記マップ算出部は、前記補正対象領域の画素と、該画素と最も距離が短くなる前記基準画素との濃度値の差分をとることで前記加算量マップを算出する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の画像処理装置であって、
前記有効画像領域のうち、前記補正対象領域以外の領域を関心領域とし、
前記濃度補正部は、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値に対してローパスフィルタ処理を施すローパスフィルタ処理部と、前記補正対象領域の複数の画素の濃度値と、ローパスフィルタ処理が施された前記補正対象領域の複数の画素の濃度値との差分をとることで、前記補正対象領域の複数の画素の差分濃度値を算出する差分濃度値算出部と、前記補正対象領域の複数の画素の差分濃度値に前記関心領域内の基準となる複数の基準画素の濃度値を加算する加算部と、を有することで前記補正対象領域の画素の濃度値を補正する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項8】
請求項7に記載の画像処理装置であって、
前記加算部は、前記補正対象領域の画素と、該画素と最も距離が短くなる前記基準画素とを加算する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項9】
請求項4〜8のいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記補正対象領域と前記関心領域との境界線は、前記有効画像領域と前記無効画像領域との境界線と平行である
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項10】
請求項4〜9のいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記複数の基準画素は、関心領域の画素のうち、前記補正対象領域の画素と隣接する画素である
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
補正対象領域特定部は、前記有効画像領域と前記無効画像領域との境界線から一定距離内にある前記有効画像領域内の領域を前記補正対象領域として特定する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記補正対象領域特定部は、該有効画像領域のうち前記無効画像領域と隣接する予め定められた範囲の前記領域と、前記無効画像領域とを補正対象領域として特定する
ことを特徴とする画像処理装置。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の画像処理装置であって、
前記濃度補正部は、さらに前記無効画像領域の画素の濃度値を予め定められた濃度値に置き換えることで、前記無効画像領域を黒く塗り潰す
ことを特徴とする画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−59511(P2013−59511A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−200061(P2011−200061)
【出願日】平成23年9月14日(2011.9.14)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】