説明

画像取得装置、画像取得方法及び画像取得プログラム

【課題】蛍光標識としての輝点の検出精度の向上を図ることのできる画像取得装置を提供する。
【解決手段】蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する励起光を照射する光源と、生体サンプルの撮像対象を拡大する対物レンズを含む光学系と、対物レンズにより拡大される撮像対象の像が結像される撮像素子と、生体サンプルの厚み方向に光学系の焦点位置を移動させる焦点可動部と、それぞれ生体サンプルの厚み方向の輝点検出範囲の長さ未満の所定のスキャン長を有し、かつ厚み方向での中心位置が相互に異なる複数のスキャン範囲が予め設定され、当該スキャン範囲毎に、光学系の焦点位置を移動させながら撮像素子を露光させて生体サンプルの蛍光像を取得するデータ処理部とを具備する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本技術は、顕微鏡を用いて画像を取得する画像取得装置、画像取得方法及び画像取得プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
一部の乳がん患者のがん細胞では正常細胞に比べてHER2受容体というタンパク質が多くみられるという。そこで手術により摘出したサンプルをHER2(Human Epithelial growth factor Receptor type 2)検査法により検査し、その結果をもとに手術後に患者に投与する薬剤を選択することが行われる。HER2検査法では、手術により摘出したサンプル(乳腺組織)がHER−2DNAプローブキットのPathVysionと呼ばれる試薬により染色される。この試薬は、HER2蛋白質をコードするHER2/neu遺伝子、及び17番染色体のセントロメア領域のアルファサテライトDNA配列にそれぞれハイブリダイセーションするプローブが含まれる。
【0003】
サンプルに対してプローブを励起させるための励起光が照射されると、該プローブが励起されて蛍光を発する。このときHER2/neu遺伝子及びアルファサテライトDNA配列にそれぞれハイブリダイセーションするプローブがそれぞれ異なる波長の蛍光を発する。すなわち、HER2/neu遺伝子は赤色を呈する蛍光を発し、アルファサテライトDNA配列は緑色を呈する蛍光を発する。診断においては、細胞核内のHER2/neu遺伝子の蛍光標識である赤色を呈する輝点の数とアルファサテライトDNA配列の蛍光標識である緑色を呈する輝点の数の比に基づいて、HER2/neu遺伝子の増加の判断がなされる。アルファサテライトDNA配列の蛍光標識の数に対するHER2/neu遺伝子の蛍光標識の数が2.2以上であればHER2陽性反応と判定される(非特許文献1参照)。
【0004】
また、特許文献1には、生体サンプルの蛍光像からターゲットの細胞を標識する輝点を検出する技術に関して、生体サンプルの対象とすべき部位の厚さ方向に対物レンズの焦点を移動させると同時に、撮像素子に結像される対物レンズにより拡大される部位の像を面方向に移動させる生体サンプル像取得装置が開示されている。この生体サンプル像取得装置では、蛍光マーカが発光することにより得られる輝点と該ノイズにより発生する輝点とを区別することを可能とすることで、輝点の検出精度を向上できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−107669公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】HER2検査ガイド、第3版、トラスツズマブ病理部会作成、2009年9月、第10頁<FISH法判定方法>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、蛍光顕微鏡で観察される像の解像度および輝点の輝度は、光学系の開口数(NA)が高いほど高くなるので、開口数(NA)が高い光学系を用いた顕微鏡のほうが、上記の診断の正確性が高められる傾向にある。しかし、光学系の開口数(NA)を高くすると、焦点深度が狭くなってしまうので、焦点深度から外れた位置にある輝点の蛍光像がぼけてしまい、様々な輝度とサイズの輝点の像が混在することによって正確に輝点の数を得ることができなくなる。
【0008】
そこで、焦点位置を変えてその都度画像を撮影し、各撮影画像の中から輝点毎に焦点の合った画像を探し、その画像から輝点の輝度とサイズを測定する方法が考えられる。しかし、この方法によると、撮影枚数分の画像データを保存するための大容量のメモリが必要になるとともに、1つの細胞核内の輝点を拾い上げるために複数の画像データを参照しなければならず、多くの工数がかかり非効率であった。
【0009】
以上のような事情に鑑み、本技術の目的は、蛍光標識としての輝点の検出精度の向上を図ることのできる画像取得装置、画像取得方法および画像取得プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の課題を解決するため、本技術の一形態に係る画像取得装置は、蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する励起光を照射する光源と、前記生体サンプルの撮像対象を拡大する対物レンズを含む光学系と、前記対物レンズにより拡大される前記撮像対象の像が結像される撮像素子と、前記生体サンプルの厚み方向に前記光学系の焦点位置を移動させる焦点可動部と、それぞれ前記生体サンプルの厚み方向の輝点検出範囲の長さ未満の所定のスキャン長を有し、かつ前記厚み方向での中心位置が相互に異なる複数のスキャン範囲が予め設定され、当該スキャン範囲毎に、前記光学系の焦点位置を移動させながら前記撮像素子を露光させて前記生体サンプルの蛍光像を取得するデータ処理部とを具備する。
【0011】
上記の画像取得装置において、前記生体サンプルの厚み方向において隣り合うスキャン範囲の中心位置どうしの距離が前記所定のスキャン長より短いことが、より望ましい。
【0012】
上記の画像取得装置において、前記データ処理部は、前記スキャン範囲毎の蛍光像の周波数解析を行い、高周波数成分を最も多く含む蛍光像を判定するものであってよい。
【0013】
上記の画像処理装置において、前記データ処理部は、前記判定された蛍光像における細胞核毎に所定の輝度およびサイズの条件を満たす輝点の数を計数するものであってよい。
生体サンプルは、手術により摘出されたサンプルとすることができる。
【0014】
本技術の他の形態に係る画像取得方法は、蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する蛍光標識に対する励起光を照射し、それぞれ前記生体サンプルの厚み方向の輝点検出範囲の長さ未満の所定のスキャン長を有し、かつ前記厚み方向での中心位置が相互に異なる複数のスキャン範囲が予め設定され、当該スキャン範囲毎に、対物レンズを含む光学系の焦点位置を移動させ、前記スキャン範囲毎の前記焦点位置の移動中、撮像素子を露光させて、当該スキャン範囲毎の蛍光像を取得する。
【0015】
本技術の他の形態に係る画像取得プログラムは、蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する蛍光標識に対する励起光を光源より照射させ、それぞれ前記生体サンプルの厚み方向の輝点検出範囲の長さ未満の所定のスキャン長を有し、かつ前記厚み方向での中心位置が相互に異なる複数のスキャン範囲が予め設定され、当該スキャン範囲毎に、対物レンズを含む光学系の焦点位置を移動させ、前記スキャン範囲毎の前記焦点位置の移動中、撮像素子を露光させて、当該スキャン範囲毎の蛍光像を取得することを、コンピュータに実行させるものである。
【発明の効果】
【0016】
以上のように本技術によれば、蛍光標識としての輝点の検出精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本技術の第1の実施形態に係る画像取得装置を示す模式図である。
【図2】図1の画像取得装置の画像取得対象である生体サンプルを示す図である。
【図3】図1の画像取得装置におけるデータ処理部のハードウェア構成を示すブロック図である。
【図4】典型的な画像取得装置による生体サンプルの蛍光像取得処理を説明するための図である。
【図5】典型的な画像取得装置により撮影された生体サンプル像の例を示す図である。
【図6】図1の画像取得装置による生体サンプルの蛍光像取得処理を説明するための図である。
【図7】図1の画像取得装置による生体サンプルの蛍光像取得処理のための機能ブロック図である。
【図8】図1の画像取得装置による生体サンプルの蛍光像取得処理のフローチャートである。
【図9】図1の画像取得装置による撮像対象の領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本技術に係る実施の形態を説明する。
<第1の実施形態>
[画像取得装置の構成]
図1は、第1の実施形態に係る画像取得装置100を示す模式図である。同図に示すように、本実施形態における画像取得装置100は、顕微鏡10と、データ処理部20とを有する。
【0019】
[顕微鏡の構成]
顕微鏡10は、ステージ11、光学系12、光源13及び撮像素子14を有する。
ステージ11は、例えば組織切片、細胞、染色体等の生体高分子等の生体サンプルSPLを載置可能な載置面を有し、当該載置面に対してその平行方向(x−y平面方向)及び垂直方向(z軸方向)へ移動可能とされている。ここで、生体サンプルSPLは、例えば、HER2(Human Epithelial growth factor Receptor type 2)検査法による検査対象である、手術により摘出したサンプルなどとすることができる。
【0020】
図2は、上記ステージ11に載置される生体サンプルSPLをステージ11の側面方向から示した図である。同図に示すように、生体サンプルSPLは、Z方向に例えば数μmから数十μmの厚さを有し、スライドガラスSG及びカバーガラスCGに挟まれて所定の固定手法により固定されている。生体サンプルSPLは蛍光染色剤によって染色されている。蛍光染色剤は同一の光源から照射される励起光によって蛍光を発する染色剤である。蛍光染色剤としては、例えば、DAPI(4',6-diamidino-2-phenylindole)、SpAqua、SpGreenなどを挙げることができる。
【0021】
図1に戻り、ステージ11の上方には光学系12が配置される。光学系12は、対物レンズ12A、結像レンズ12B、ダイクロイックミラー12C、エミッションフィルタ12D及び励起フィルタ12Eを有する。光源13は、例えば水銀ランプ等の電球やLED(Light Emitting Diode)などであり、生体サンプルに付された蛍光標識に対する励起光を照射するものである。
【0022】
励起フィルタ12Eは、生体サンプルSPLの蛍光像を得る場合に、光源13から出射された光のうち蛍光色素を励起する励起波長の光のみを透過させることで励起光を生成する。ダイクロイックミラー12Cは、当該励起フィルタで透過されて入射する励起光を反射させて対物レンズ12Aへ導く。対物レンズ12Aは、当該励起光を生体サンプルSPLへ集光する。そして対物レンズ12A及び結像レンズ12Bは、生体サンプルSPLの像を所定の倍率に拡大し、当該拡大像を撮像素子14の撮像面に結像させる。
【0023】
生体サンプルSPLに励起光が照射されると、生体サンプルSPLの各組織に結合している染色剤が蛍光を発する。この蛍光は、対物レンズ12Aを介してダイクロイックミラー12Cを透過し、エミッションフィルタ12Dを介して結像レンズ12Bへ到達する。エミッションフィルタ12Dは、上記対物レンズ12Aによって拡大された、励起フィルタ12Eを透過した光を吸収し発色光の一部のみを透過する。当該外光が喪失された発色光の像は、上述のとおり、結像レンズ12Bにより拡大され、撮像素子14上に結像される。
【0024】
撮像素子14としては、例えばCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等が用いられる。撮像素子14は、RGB(Red、Green、Blue)の色別に光を受けて電気信号に変換する光電変換素子を有し、入射光からカラー画像を得るカラーイメージャである。
【0025】
データ処理部20は、光源13を駆動させ、撮像素子14を用いて生体サンプルSPLの蛍光像を取得し、これをサンプルデータとして保存する。
【0026】
[データ処理部の構成]
図3は、データ処理部20のハードウェアの構成を示すブロック図である。
データ処理部20は、例えばPC(Personal Computer)により構成され、撮像素子14より取得した生体サンプルSPLの蛍光像を、例えばJPEG(Joint Photographic Experts Group)等の任意形式のデジタル画像データとして保存する。
【0027】
同図に示すようにデータ処理部20は、CPU(Central Processing Unit)21、ROM(Read Only Memory)22、RAM(Random Access Memory)23、操作入力部24、インターフェイス部25、表示部26及び記憶部27を有し、これら各ブロックがバス28を介して接続されている。
【0028】
ROM22は、各種の処理を実行するためのファームウェア等の複数のプログラムやデータを固定的に記憶する。RAM23は、CPU21の作業用領域として用いられ、OS(Operating System)、実行中の各種アプリケーション、処理中の各種データを一時的に保持する。
【0029】
記憶部27は、例えばHDD(Hard Disk Drive)や、フラッシュメモリ、その他の固体メモリ等の不揮発性メモリである。当該記憶部27には、OSや各種アプリケーション、各種データが記憶される。特に本実施形態では、記憶部27には、撮像素子14から取り込まれた蛍光画像データや、蛍光画像データを処理する画像処理アプリケーションも記憶される。
【0030】
インターフェイス部25は、顕微鏡10のステージ11、光源13及び撮像素子14をそれぞれ駆動するコントロール基板(ステージ駆動部15、光源駆動部16、撮像制御部17)とそれぞれ接続され、所定の通信規格により当該コントロール基板とデータ処理部20との間で信号のやり取りを行う。ここで、ステージ11とステージ駆動部15は、生体サンプルの厚み方向に光学系12の焦点位置を移動させる焦点可動部である。
【0031】
CPU21は、ROM22や記憶部27に格納された複数のプログラムのうち、操作入力部24から与えられる命令に対応するプログラムをRAM23に展開し、当該展開されたプログラムにしたがって、表示部26及び記憶部27を適宜制御する。
【0032】
操作入力部24は、例えばマウス等のポインティングデバイス、キーボード、タッチパネル、その他の操作装置である。
【0033】
表示部26は、例えば液晶ディスプレイ、EL(Electro-Luminescence)ディスプレイ、プラズマディスプレイ、CRT(Cathode Ray Tube)ディスプレイ等である。当該表示部26は、データ処理部20に内蔵されていてもよいし、データ処理部20に外部接続されていてもよい。
【0034】
[典型的な生体サンプルの蛍光像取得処理]
本実施形態の画像取得装置100による生体サンプルの蛍光像取得処理の説明に入る前に、典型的な生体サンプルの蛍光像取得処理とその課題について説明する。
【0035】
図4は、典型的な画像取得装置による生体サンプルの蛍光像取得処理を説明するための図である。
この典型的な方法では、例えば、所要の解像度と輝点の輝度が得られるように選定された開口数(NA)を有する光学系の焦点位置Zaを生体サンプルSPLの中間の高さに合せて撮影することによって生体サンプルの蛍光像を得る。この典型的な方法によれば、図5に示すように、生体サンプルSPLの中間の高さZa付近に存在する輝点の像(例えばP1)は明るくはっきりしたものとなる。しかし、P2、P3、P4のように、焦点位置Zaから離れた位置に存在する輝点の蛍光像は、その高さZaからの距離に応じた分ぼやけたものとなり、輝点として判定するための輝度やサイズ(面積)などの条件を満たすかどうかを正確に判定することが困難になる。
【0036】
精度的な問題を解消する方法しては、焦点位置を所定量ずつずらしてその都度画像を撮影し、各撮影画像の中から輝点毎に焦点の合った蛍光像を探し、その蛍光像から輝点の輝度とサイズを測定する方法が他の典型例として考えられる。しかし、この方法では、撮影枚数分の画像データを保存するための大容量のメモリが必要になるとともに、1つの細胞核内の輝点の蛍光像を拾い上げるために複数の画像データを参照しなければならず、多くの工数がかかり非効率である。
【0037】
本実施の形態の画像取得装置100は、焦点位置を生体サンプルの厚さ方向における輝点検出範囲の一端から第1の所定量移動させながら撮像素子14を連続的に露光させることによって平均画像を撮影する。ここで、連続して露光が行われる間の焦点位置の移動範囲を「スキャン範囲」と呼ぶこととする。この画像取得装置100は、上記の処理を、スキャン範囲を前回のスキャン範囲に対して中心位置を第2の所定量だけずらして同様に繰り返す。この画像取得装置100は、スキャン範囲の末端が生体サンプルの輝点検出範囲の他端に到達するまで上記の処理を繰り返す。これにより、中心位置が異なる複数のスキャン範囲の生体サンプル蛍光像が得られる。また、各スキャン範囲の生体サンプル蛍光像においては、生体サンプル中の各輝点P1−P4が同様にある程度ぼけた像として得られる。
【0038】
図6を用いて、本実施形態の生体サンプルの蛍光像取得処理の方法をより詳細に説明する。図6において、Zrは生体サンプルSPLの輝点検出範囲である。ここでは輝点検出範囲Zrは生体サンプルSPLの略厚さの範囲としているが、生体サンプルSPLの厚さの範囲より少なくとも上下いずれか一方に拡げた範囲としても構わない。また、輝点検出範囲Zrは生体サンプルSPLの略厚さの範囲より少なくとも上下いずれか一方に若干狭めた範囲としてもよい。
【0039】
Zscan_1、Zscan_2、Zscan_3、Zscan_4は個々のスキャン範囲であり、各スキャンは例えば、Zscan_1、Zscan_2、Zscan_3、Zscan_4の順で行われる。あるいは、逆にZscan_4、Zscan_3、Zscan_2、Zscan_1の順に行われてもよい。この例ではスキャン範囲の数を"4"としているが、本技術は複数回であればよく、4回未満でも4回以上でもよい。
【0040】
初回のスキャン範囲Zscan_1は、輝点検出範囲Zrの一端から輝点検出範囲Zrの他端に向けて第1の所定量Z1だけ移動したところまでの範囲である。よってスキャン範囲の長さはZ1である。このZ1は全てのスキャン範囲Zscan_1、Zscan_2、Zscan_3、Zscan_4において共通である。
【0041】
2回目のスキャン範囲Zscan_2はその中心位置が初回のスキャン範囲Zscan_1の中心位置から輝点検出範囲Zrの他端に向けて第2の所定量G1だけずれた範囲である。
【0042】
同様に3回目のスキャン範囲Zscan_3はその中心位置が2回目のスキャン範囲Zscan_2の中心位置から輝点検出範囲Zrの他端に向けて第2の所定量G1だけずれた範囲である。
【0043】
同様に4回目のスキャン範囲Zscan_4はその中心位置が3回目のスキャン範囲Zscan_3の中心位置から輝点検出範囲Zrの他端に向けて第2の所定量G1だけずれた範囲である。
【0044】
ここで、生体サンプルの厚み方向(z方向)において互いに隣り合う2つのスキャン範囲の中心位置どうしの距離である第2の所定量G1は個々のスキャン範囲の長さである第1の所定量Z1より小さく設定される。これにより、生体サンプルの輝点検出範囲の全体を網羅し、かつ輝点検出範囲をより高い分解能で分けた複数の生体サンプル蛍光像が得られる。
【0045】
なお、輝点検出範囲Zr、第1の所定量(スキャン長)Z1、第2の所定量G1の具体的な値としては、例えば、Zr=6μmの場合で、Z1は3μm程度、G1は1μmとすることができる。また、第1の所定量(スキャン長)Z1は光学系の焦点深度に対して2−4倍程度、第2の所定量G1は焦点深度に対して1−2倍程度とすることができる。但し、これらの値は、生体サンプルの厚さや光学系の開口数(NA)などの諸条件に応じて適宜決められるべき値であるため、本技術は上記の値に限定されるものではない。但し、第1の所定量(スキャン長)Z1は輝点検出範囲Zrより小さいことは必須条件である。また、第2の所定量G1はすべて同一である必要はない。例えば、輝点検出範囲Zrにおける中間部分の隣り合う各スキャン範囲の中心位置間のずれ量を両端部分の隣り合う各スキャン範囲の中心位置間のずれ量よりも小さくして、中間部分の分解能をより高くしてもよい。
【0046】
画像取得装置100は、それぞれのスキャン範囲において撮像素子14を連続的に露光させることで、スキャン範囲毎の平均画像としての生体サンプル蛍光像を取得する。そして画像取得装置100は、各スキャン範囲の生体サンプル蛍光像の周波数解析を行い、複数の生体サンプル蛍光像の中で、高周波数成分を最も多く含む生体サンプル蛍光像を判定する。すなわち、スキャン中に焦点の合った輝点の数が最も多いスキャン範囲の生体サンプル蛍光像は、高周波数成分を最も多く含む生体サンプル蛍光像であると言うことができる。したがって、このスキャン範囲の生体サンプル蛍光像を、輝点を検出して細胞核毎の輝点の数を計数するための画像として選択すれば、一枚の画像からでも精度良く輝点の計数を行うことができる。
【0047】
[画像取得装置によるサンプル像取得処理の具体的な内容]
データ処理部20のCPU21はROM22や記憶部27に格納された複数のプログラムのうち、操作入力部24から与えられる命令に対応するプログラムをRAM23に展開する。CPU21は、この展開されたプログラム(画像取得プログラム)に基づいて生体サンプルの蛍光像取得処理を実行する。
【0048】
図7はこの生体サンプルの蛍光像取得処理のための機能ブロック図である。図8はこの生体サンプルの蛍光像取得処理のフローチャートである。
【0049】
ステージ制御部31は、生体サンプルSPLの対象とすべき部位(以下、これをサンプル部位とも呼ぶ)が撮像範囲に位置するようステージ11を順次移動させて、例えば図9に示すように、該撮像範囲ARに対して生体サンプルSPLを割り当てる。なお、図9では、撮像範囲ARに割り当てるべき生体サンプルSPLの領域が重ならない態様となっているが、隣接する領域の一部が重なる態様であってもよい。
【0050】
まず、ステップS101(図8参照)にて、撮像範囲毎のサンプル部位について、複数のスキャン範囲の生体サンプル蛍光像の撮影が行われる。すなわち、ステージ制御部31は、図6に示したように、ステージ11をz軸方向(対物レンズ12Aの光軸方向)にスキャン範囲毎に移動させる。
【0051】
一方、画像取得部32は、上記のスキャン範囲毎に撮像素子14を露光させるように撮像制御部17に指令を送る。画像取得部32は、上記のスキャン範囲毎の撮像素子14の露光により得られるサンプル部位の蛍光像を撮像制御部17を介して撮像素子14から取得する。これにより、撮像範囲毎のサンプル部位について、複数のスキャン範囲の生体サンプル蛍光像が得られる(ステップS101)。
【0052】
続いて、ステップS102にて、画像取得部32は、取得した各スキャン範囲のサンプル部位の蛍光像の周波数解析をそれぞれ行う(ステップS102)。画像取得部32は、各スキャン範囲のサンプル部位の蛍光像の中で、高周波数成分を最も多く含むサンプル部位の蛍光像を判定する(ステップS103)。この後、画像取得部32は、各スキャン範囲のサンプル部位の蛍光像のうち、高周波数成分を最も多く含むものとして判定されたサンプル部位の蛍光像以外の蛍光像を削除する(ステップS104)。
【0053】
以上の動作はすべてのサンプル部位について繰り返される。
すべてのサンプル部位について、上記の特定の周波数成分を最も多く含むスキャン範囲のサンプル部位の蛍光像が判定されたところで(ステップS105のYES)、画像取得部32は、これらのサンプル部位の蛍光像を、所定の連結アルゴリズムを用いて連結することによって全体の生体サンプル蛍光像を生成する(ステップS106)。これにより、輝点の蛍光像の輝度およびサイズ(面積)の測定に最も好適な一枚の生体サンプル蛍光像が得られる。
【0054】
続いて、輝点解析部33による輝点の解析が行われる(ステップS107)。すなわち、輝点解析部33は、画像取得部32により生成された生体サンプル蛍光像から、細胞核(図6のC)が呈するとして設定される核マーカ色に対応する画素であり、閾値以上の輝度となる画素が隣接する領域を細胞核として検出する。続いて、輝点解析部33は、検出された細胞核内の標的マーカおよび対照マーカとしての輝点(図6のP1−P4)をそれぞれ検出する。すなわち、輝点解析部33は、標的マーカに設定されたマーカ色を呈し、かつ閾値以上の輝度の画素がほぼ円形状に所定の数(面積)以上隣接するという条件を満足する領域(輝点)を標的マーカとして検出する。同様に、輝点解析部33は、対照マーカに設定されたマーカ色を呈し、かつ閾値以上の輝度の画素がほぼ円形状に所定の数(面積)以上隣接するという条件を満足する領域(輝点)を対照マーカとして検出する。
【0055】
そして輝点解析部33は、細胞核毎に、検出された標的マーカおよび対照マーカのそれそれの数を計数し、輝点の解析結果としてデータ記録部34に供給する。
【0056】
一方、データ記録部34は、画像取得部32によって連結された生体サンプル蛍光像をJPEG(Joint Photographic Experts Group)など所定の圧縮形式のサンプルデータに符号化してデータ記憶部35に記録する。データ記録部34は、輝点解析部33による輝点の解析結果を受けて、その結果のデータをデータ記憶部35にサンプルデータと関連付けて記録する(ステップS107)。
【0057】
以上のように、本実施形態の画像取得装置100は、それぞれのスキャン範囲において撮像素子14を連続的に露光させることで、生体サンプルSPLのスキャン範囲毎の平均画像としての生体サンプル蛍光像を取得する。画像取得装置100は、それぞれの生体サンプル蛍光像の周波数解析を行い、複数の生体サンプル蛍光像の中で、高周波数成分を最も多く含む生体サンプル蛍光像つまりスキャン中に焦点の合った輝点の像の数が最も多いスキャン範囲の生体サンプル蛍光像を判定し、この生体サンプル蛍光像を輝点の解析に用いる画像とする。これにより、この画像取得装置100は、一枚の画像からでも精度良く輝点を検出することができ、細胞核内の輝点の数を精度良く計数することができる。また、輝点の解析対象となる生体サンプル蛍光像を記憶するメモリの容量を削減することができる。
【0058】
なお、上述の実施形態の顕微鏡20の構成において、対物レンズ12Aは接眼レンズとすることもできる。
【0059】
また、上述の実施形態では、焦点位置を移動させるためにステージ11を移動させることとしたが、光学系12の対物レンズ12Aを移動させるようにしてもよい。
【0060】
上述の実施の形態では、データ処理部20にデータ記憶部35を設けて、これに生体サンプル蛍光像と蛍光マーカの検出結果を記録することとしたが、外部の記憶装置に記録するようにしてもよい。
【0061】
顕微鏡10とデータ処理部20との接続には、バス伝送路の他、ローカルエリアネットワークやインターネット、デジタル衛星放送等の有線又は無線の伝送媒体を用いることができる。
【0062】
なお、本技術は以下のような構成も採ることができる。
(1)蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する励起光を照射する光源と、
前記生体サンプルの撮像対象を拡大する対物レンズを含む光学系と、
前記対物レンズにより拡大される前記撮像対象の像が結像される撮像素子と、
前記生体サンプルの厚み方向に前記光学系の焦点位置を移動させる焦点駆動部と、
それぞれ前記撮像対象の厚さ未満の範囲で予め決められた第1の所定量を有し、かつ全体として前記撮像対象の厚さを網羅する複数のスキャン範囲であって、それぞれの中心の位置が異なるように設定された複数のスキャン範囲毎に、前記光学系の焦点位置を移動させながら前記撮像素子を露光させて、当該スキャン範囲毎の蛍光像を取得するように制御を行うデータ処理部と
を具備する画像取得装置。
(2)前記(1)に記載の画像取得装置であって、
前記複数のスキャン範囲のそれぞれの中心の位置は、前記第1の所定量未満の第2の所定量の間隔で等間隔にずれて設定される
画像取得装置。
(3)前記(1)から(2)のうちいずれか1つに記載の画像取得装置であって、
前記データ処理部は、前記スキャン範囲毎の蛍光像の周波数解析を行い、高周波数成分を最も多く含む蛍光像を判定する
画像取得装置。
(4)前記(1)から(3)のうちいずれか1つに記載の画像取得装置であって、
前記データ処理部は、前記判定された蛍光像における細胞核毎に所定の輝度およびサイズの条件を満たす輝点の数を計数する
画像取得装置。
(5)前記(1)から(4)のうちいずれか1つに記載の画像取得装置であって、
前記生体サンプルは手術により摘出されたサンプルである
画像取得装置。
【0063】
本発明はこの実施形態にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において変更され得る。
【符号の説明】
【0064】
10…顕微鏡
11…ステージ
12…光学系
13…光源
14…撮像素子
20…データ処理部
31…ステージ制御部
32…画像取得部
33…輝点解析部
34…データ記録部
35…データ記憶部
100…画像取得装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する励起光を照射する光源と、
前記生体サンプルの撮像対象を拡大する対物レンズを含む光学系と、
前記対物レンズにより拡大される前記撮像対象の像が結像される撮像素子と、
前記生体サンプルの厚み方向に前記光学系の焦点位置を移動させる焦点可動部と、
それぞれ前記生体サンプルの厚み方向の輝点検出範囲の長さ未満の所定のスキャン長を有し、かつ前記厚み方向での中心位置が相互に異なる複数のスキャン範囲が予め設定され、当該スキャン範囲毎に、前記光学系の焦点位置を移動させながら前記撮像素子を露光させて前記生体サンプルの蛍光像を取得するデータ処理部と
を具備する画像取得装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像取得装置であって、
前記生体サンプルの厚み方向において隣り合うスキャン範囲の中心位置どうしの距離が前記所定のスキャン長より短い
画像取得装置。
【請求項3】
請求項2に記載の画像取得装置であって、
前記データ処理部は、前記スキャン範囲毎の蛍光像の周波数解析を行い、高周波数成分を最も多く含む蛍光像を判定する
画像取得装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像取得装置であって、
前記データ処理部は、前記判定された蛍光像における細胞核毎に所定の輝度およびサイズの条件を満たす輝点の数を計数する
画像取得装置。
【請求項5】
蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する蛍光標識に対する励起光を照射し、
それぞれ前記生体サンプルの厚み方向の輝点検出範囲の長さ未満の所定のスキャン長を有し、かつ前記厚み方向での中心位置が相互に異なる複数のスキャン範囲が予め設定され、当該スキャン範囲毎に、対物レンズを含む光学系の焦点位置を移動させ、
前記スキャン範囲毎の前記焦点位置の移動中、撮像素子を露光させて、当該スキャン範囲毎の蛍光像を取得する
画像取得方法。
【請求項6】
蛍光標識が付された生体サンプルに当該蛍光標識に対する蛍光標識に対する励起光を光源より照射させ、
それぞれ前記生体サンプルの厚み方向の輝点検出範囲の長さ未満の所定のスキャン長を有し、かつ前記厚み方向での中心位置が相互に異なる複数のスキャン範囲が予め設定され、当該スキャン範囲毎に、対物レンズを含む光学系の焦点位置を移動させ、
前記スキャン範囲毎の前記焦点位置の移動中、撮像素子を露光させて、当該スキャン範囲毎の蛍光像を取得することを、
コンピュータに実行させる画像取得プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−109077(P2013−109077A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252643(P2011−252643)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】