説明

画像形成方法および画像形成装置

【課題】インクの色材を凝集させるための凝集液からなる凝集液層の上にインクを着弾させて画像を形成する際、該凝集液層の水分量を規定することで画像の記録品位の低下を抑制する。
【解決手段】インクの色材を凝集させるための凝集液と、前記凝集液と反応して増粘化した凝集液層100を形成する実質的に無色な反応液40とを、中間転写体2の上に付与する付与工程と、前記付与工程によって形成された前記凝集液層100の上にインク20及び30を付与して中間画像を形成する中間画像形成工程と、形成された前記中間画像を記録媒体に転写する転写工程と、を有し、前記凝集液層の水分量は凝集液層に対して40質量%以上55質量%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中間転写体を用いた転写式のインクジェット記録技術に関する。
【背景技術】
【0002】
転写式インクジェット記録において、例えば、特許文献1などに開示される、中間転写体上に中間画像を形成する前処理として、中間転写体表面に着弾したインクの色材を速やかに凝集させる色材凝集成分を含有した凝集液を塗布しておくことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004−90595公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したような凝集液による凝集液層の水分量が過少であると、その上に着弾したインクの水分は浸透圧の差によって凝集液層側へ流れ込んで極端に乾燥して硬化(リジット化)する。そうした場合、リジット化したインクのインク層を着弾面として着弾する2次色目のインクに凝集成分が浸透せずに2次色目のインクの流動性が低下しないままドット口径が広がって、滲みを生じる可能性がある。
【0005】
逆に凝集液層の水分量が過多であると、その上に着弾した1次色目のインクから凝集液層側へ水分の移動がほとんど生じないで十分にリジット化されない。そうしたリジット化が十分でない1次色目のインク層の上に2次色目のインクが着弾すると、2次色目のインクは貫通しないで広がらず、転写後の画像にスジを生じる可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、転写式インクジェット記録において、適度な水分量を有した凝集液層を形成することで、その上に着弾するインクが適度なドット口径を有して広がって、上述したような記録品位の低下を抑制するための方法および装置の実現である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の画像形成方法は、インクの色材を凝集させるための凝集液と、前記凝集液と反応して増粘化した凝集液層を形成する実質的に無色な反応液とを、中間転写体の上に付与する付与工程と、前記付与工程によって形成された前記凝集液層の上にインクを付与して中間画像を形成する中間画像形成工程と、形成された前記中間画像を記録媒体に転写する転写工程と、を有し、前記凝集液層の水分量は凝集液層に対して40質量%以上55質量%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、凝集液層の上にインクを重ねて吐出して多次色画像を形成する際に、2次色目以降のインクが適度なドット口径を有して拡がって、ドットの滲み、およびドットの口径が十分でないことによるスジの発生などの記録品位の低下が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】画像形成装置の全体構成を示す断面図
【図2】中間画像を形成して転写するまでのプロセスを説明するための図
【発明を実施するための形態】
【0010】
本実施形態は、転写式インクジェット記録の中間転写体上に凝集液を塗布して凝集液層を形成して該凝集液層の上にインク画像を形成する際に、インク着弾面となる凝集液層を適度な水分量を有する層とするものである。
【0011】
本実施形態において、凝集液は色材を凝集させるための色材凝集成分を含有し、反応液は凝集液と反応して凝集することで凝集液を増粘化する反応体を含有する。そのような凝集液と反応液が中間転写体上で付与されて混ざり合うことで、増粘化された凝集液層が形成される。本実施形態は、このようにして増粘化される凝集液層の水分量が40質量%以上55質量%以下であることを規定して、そのような範囲内の水分量である凝集液層を形成することによって、上述したような画像品位の低下を抑制するものである。
【0012】
本願発明が以上のように凝集液層の水分量を規定することの意義について、推測されるメカニズムを記載する。
【0013】
凝集液層の水分量を1次色インクの水分量よりも少なくすると、凝集液層の上に着弾した1次色目のインクに含まれる水分は浸透圧の差によって凝集液層側へ流れ込む。水分量が低下した1次色目のインクは、凝集液との反応も相まってリジット化が促進される。凝集液層の水分量が凝集液層に対して40質量%未満の場合、上記のメカニズムで1次色目のインクの水分が著しく凝集液層側へ流れ込んで、1次色目のインクのインク層が過剰にリジット化される。そのような過剰にリジット化された1次色目のインク層の上に着弾する2次色目のインクは、1次色目のインク層によってブロックされて凝集液に含まれる凝集成分が十分に浸透されないために増粘化が不十分で「滲み」を生じると考えられる。
【0014】
また逆に、凝集液層の水分量が凝集液層に対して55質量%を超えて大きくなると、凝集液層への1次色目のインクの水分量の移行が十分でないために、1次色目のインクによってなるインク層のリジット化が十分でない。そのような1次色目のインクのインク層の上に着弾する2次色目のインクは、該インク層を貫通してしまって広がらず所定のドット口径を有さない。所定のドット口径を有さない記録領域は、ドットとドットとの間に空白領域が生じてそれが「スジ」として視認される。
【0015】
このように、凝集液層の水分量が過少であると、多次色目のインクドットに「滲み」が生じ、凝集液層の水分量が過剰であると、多次色目のインクドットのドット口径が小さくなって、転写後の画像に「スジ」が視認されることが推測される。
【0016】
図1は実施形態の画像形成装置の全体構成を示す断面図である。中間転写体1は回転体からなり、その表面には表面層2を有している。中間転写体1の周囲には、インクの色材を凝集させるための凝集液を付与する液体塗布部3、付与された凝集液と反応して増粘化した凝集液層を形成するための反応液を付与するヘッド4、中間画像を形成するインクジェットヘッド5、中間画像を記録媒体に転写する転写ローラ10が設けられている。インクジェットヘッド5と転写ローラ10の間には、付与されたインクの水分を短時間に減少させるために、水分除去部7と加熱部8が設けられている。転写ローラ10と液体塗布部3の間には、転写後の中間転写体上の残存インクを除去するために、クリーニング部12が設けられている。記録媒体9に転写された画像を短時間に定着させるために、定着ローラ11が設けられている。
【0017】
中間転写体1は図中の矢印方向に回転し、表面層2には、液体塗布部3によって凝集液が付与され、続いてヘッド4によって反応液が付与される。次いで、複数色に対応した複数のノズル列を有するインクジェットヘッドユニット5から、画像データに応じてインクが付与され、中間画像が形成される。形成された中間画像は、水分除去部7および加熱部8によって、転写の前に転写に適したインク粘度とされる。そして、転写ローラ10によって記録媒体9の記録面に中間画像が転写される。転写後は、クリーニング部12により中間転写体の表面がクリーニングされる。以上を1サイクルとして、中間転写体1が回転を繰り返すことで、記録媒体9には最終画像が繰り返し形成される。なお、液体塗布部3とヘッド4の並び順序を入れ替えて、反応液、凝集液の順に付与するようにしてもよい。また、液体塗布部3とヘッド4を同じ位置に設けて、凝集液と反応液の液体を同時に付与するようにしてもよい。
【0018】
中間転写体1は、ローラ状、ベルト状のものを使用することができる。転写時の加圧に耐え得る剛性や寸法精度、回転のイナーシャ軽減等の要求特性から、例えばアルミニウム合金等の軽量金属製のドラム形状の中間転写体を用いる。
【0019】
表面層2は中間転写体を繰り返し使用しない場合はインク浸透性(インク吸収性)を有してもかまわないが、繰り返し使用する場合はインク非浸透性(インク非吸収性)の材料が用いられる。
【0020】
インク浸透性であってもクリーニングにより清浄化できる材料であれば繰り返し使用することができる。しかし、浸透性材料はインク転写率が、より多くのインクを中間転写体上に付与させなければならなくなるため、材料使用効率の面でも、画像品質の面でも、中間転写体のクリーニング性の面でも好ましいとはいえない。中間転写体の表面層としては、転写率、クリーニング性の面から、好ましくはインク非浸透性(インク非吸収性)の材料であり、好ましくは離型性を高める処理がなされた材料である。ここで、離型性とは、表面にインク、色材凝集成分、透明インクの材料が接着しにくく後に剥離可能な特性を示すものである。離型性が高いほど、クリーニング時の負荷やインクの転写率の面で有利である反面、材料の臨界表面張力が低くなり、インク等の液体が付着しても弾かれやすく、画像を保持するのが難しい。好適な離型性材料としての目安は、臨界表面張力が30mN/m以下、もしくは水に対する接触角が75°以上を示すものである。具体的には、表面層2は、中間転写体1の表面層2に対して、例えば、テフロン(登録商標)加工やシリコーンオイルを付与する等の剥離性を高める表面処理によって形成される。
【0021】
液体塗布部3(第1付与手段)は、ここではロールコータを例示しているが、これに限定されるものではない。ロールコータのほかには、スプレーコータ、スリットコータ等がある。
【0022】
反応液付与部4(第2付与手段)は、ここではヘッド4を例示しているが、これに限定されるものではない。ヘッドのほかには、液体塗布部3と同様にしてロールコータなどのローラを用いてもよい。ヘッド4およびインクジェットヘッド5は、多数のノズルからインクなどの液体を吐出するものであり、サーマル方式、ピエゾ方式、静電方式、MEMS方式などいずれであってもよい。また、これらはラインヘッド、シリアルヘッドいずれであってもよい。
【0023】
中間転写体上に中間画像を形成して転写するまでは、大きく4つの工程(a)〜(d)に分けることができる。以下、工程ごとに詳しく説明する。図2は各工程における中間転写体表面の様子を示す。以下の文中における表現として、「中間転写体表面」とは「中間転写体上の表面層の表面」の意味とする。
【0024】
(a)凝集液を付与する工程
工程(a)では、液体塗布部3(第1付与手段)を用いて、中間転写体の表面層2に色材凝集成分を含有する凝集液を付与する(図2(a)参照)。ここで、色材凝集成分とは、中間転写体表面の上に着弾したインクの色材を速やかに凝集させることで、インクの粘性を高めて中間画像を転写体上に保持する材料である。
【0025】
色材凝集成分としては、一般的な染料インク、及び顔料インクに対して、金属イオンを用いることが特に有効である。色材凝集成分として使用する金属イオンとしては、例えば、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+及びZn2+等の二価の金属イオンや、Fe3+及びAl3+等の三価の金属イオンが挙げられる。そして、これらのイオンを付与する場合には、金属塩水溶液として付与することが望ましい。金属塩の陰イオンとしては、Cl、NO3−、SO4−、I、Br、ClO3−、RCOO(Rは、アルキル基)等が挙げられる。
【0026】
また、水素イオン濃度(pH)を変化させる緩衝能を有する有機酸化合物を用いてもよい。有機酸化合物としては、有機カルボン酸、有機スルホン酸等などが挙げられる。具体的には、ポリアクリル酸、酢酸、メタンスルホン酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、又はこれらの塩等の中から選ばれることが好ましい。これらの化合物は、1種類で使用されてもよく、2種類以上併用されてもよい。
【0027】
また、有機酸化合物は着色インクの凝集性能の観点からpHは1.0〜4.0であることが好ましく、pHは1.0〜3.5であることがより好ましく、pHは1.0〜3.0であることが特に好ましい。
【0028】
色材凝集成分の付与量としては、例えば、金属イオンの総電荷数が、着色インク中の逆極性イオンの総電荷数の等倍以上となるようにすることが望ましい。このためには、先に列挙した金属塩の10質量%程度の濃度の水溶液を使用すればよく、塗布量は、薄膜で十分に機能するものとなる。
【0029】
また、転写性や最終的に形成された画像の堅牢性を向上させるために、樹脂成分を添加させることもできる。水溶性樹脂や水溶性架橋剤を添加することも出来る。用いられる材料としては色材凝集成分と共存できるものであれば制限は無い。水溶性樹脂としては特に、反応性の高い金属塩を色材凝集成分として用いる場合にはPVA(ポリビニルアルコール),PVP(ポリビニルピロリドン)などが好適に用いられる。水溶性架橋剤としては、インク中の色材分散のために好適に用いられるカルボン酸と反応する、オキザゾリンやカルボジイミドが好適に用いられる。
【0030】
さらには、中間転写体表面上に濡れ性向上成分を付与するために、界面活性剤を添加させることもできる。ここで、濡れ性向上成分とは、中間転写体表面の濡れ性(親和性)を向上させる材料のことであり、中間転写体表面の表面エネルギを高めることで、後続して付与される凝集液を弾きにくくする役割を担う。
【0031】
濡れ性向上成分を付与する理由は、上述した通り、中間転写体表面上に凝集液を均一に付与するため、あるいは中間転写体表面上の所望の位置で凝集液を保持できるようにするためである。凝集液が均一に付与されておらず直接中間転写体上にインクが着弾する場所が存在する場合、そのような場所において、インクの色材の凝集が速やかに起こらずに流動性を有したまま隣り合うインクのドット同士が混ざる「ブリーディング」を生じる可能性がある。使用できる界面活性剤としては特に限定を受けない。例えば、一般的な、陽イオン系界面活性剤、陰イオン系界面活性剤、非イオン系界面活性剤、両性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、及びシリコーン系界面活性剤等の中から用いる表面層に応じて選択することができる。また、これらの材料を2種類以上混合して用いることも可能である。中でも、フッ素系若しくはシリコーン系の界面活性剤は効果が高く、好適な材料である。濡れ性向上成分の付与量は凝集液を均一に付与させることができる範囲で自由であるが、画像安定性や乾燥性の面から、付与量は少ない方が好適である。又、付与エリア(付与位置)を限定することも可能であり、たとえば画像形成エリア(画像固定成分とインクが付与される位置)のみに付与することで材料使用効率や乾燥性を向上させることもできる。
【0032】
(b)反応液を付与する工程
工程(b)では、凝集液が付与された中間転写体1の表面層2に、反応液付与部4(第2の付与手段)によって、凝集液と反応して増粘化した凝集液層100を形成するための反応液40を付与する。(図2(b)参照。)
凝集液に含まれる色材凝集成分と反応して増粘化するための反応体として、実質的に無色のアニオン性ポリマーが特に好適に用いられる。このように、実質的に無色の反応体を含んで他の着色物質を含まない反応液は、着色されたインクによって形成される実際のインク画像の色味に影響を与えない。本明細書中において「実質的に無色」とは、化合物が固体として存在する際、該化合物を0.1g/mの薄さに延ばしたものに対して光照射部から光を照射した際の可視領域での吸光濃度が0.1以下であることを意味する。以下、「実質的に無色」を、単に「無色」とも記載する。
【0033】
実質的に無色のアニオン性ポリマーは、例えば、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリメチルメタクリレートなど一部のメタアクリル酸共重合体、カルボキシルメチルセルロースなど一部のセルロース類がある。
【0034】
これらのアニオン性ポリマーは、官能基としてカルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、およびこれらが金属塩や有機アミンにより中和されたアニオン性基を有することが好ましく、特に、カルボキシル基を有するアクリルポリマーやウレタンポリマーが好ましい。
【0035】
また、実質的に無色の反応体として、他にもシリカやアルミナなどの一部の金属酸化物も使用できる。これらは、液体中で金属酸化物イオンとしてマイナスの電荷を有したイオンとなって、上述したような色材凝集成分と反応して凝集体を形成して凝集液層を増粘化する。
【0036】
後に説明する実施例1では、工程(a)において色材凝集成分として金属イオン、工程(b)において反応体としてアニオン性ポリマーを使用する。凝集促進液の金属イオンがカチオン性を示し、実質的に無色の反応体のアニオン性ポリマーがアニオン性を示して互いに逆極性を有する。これらを各々含んだ凝集液と反応液とが中間転写体上において混合される際、互いに反応することで凝集反応が起こって凝集体が形成される。こうして凝集体が形成されることで凝集液層の粘性が増大して凝集液層100が形成される。
【0037】
なお、このようにして形成される凝集液層の降伏値は0.5Pa以上であることが好ましい。降伏値が0.5Pa以上であることによって、凝集液層をインク着弾面として着弾する1次色目のインクが凝集液層の中に貫通せずにその上に堆積することで所定のドット口径をもって広がる。このように、降伏値が0.5Pa以上であることによって1次色目のインクのドット口径のばらつきを低減し、転写後の記録品位をより一層向上させることが可能となる。なお、本発明における「降伏値」は、E型粘度計(東機産業株式会社社製)によって測定することにより得られる「ずり応力」と「ずり速度」をCASSON式に代入することで算出されるものである。
【0038】
本実施形態では、これらの工程(a)および工程(b)を経て凝集液層を形成する際に、凝集液層の水分量が該凝集液層に対して40質量%以上55質量%以下の範囲内となるように調整する。そのことによって、1次色目のインクに含まれる水分の適量が該凝集液層に吸収されて適度にリジット化することで、2次色目以降のインクは滲みを生じないで、且つ、適度なドット口径をもって堆積する。
【0039】
(c)中間画像形成工程
工程(c)では、凝集液と実質的に無色の反応液が中間転写体1の表面層2の上に付与されて反応することで形成された凝集液層100に対し、図2(c)に示すように、画像データに応じてインクジェットヘッド5から所望の色に対応した1次色目のインクを吐出する。凝集液層100上に付与された1次色目のインクは、図2(d)に示すように、凝集液に含まれる色材凝集成分と反応することで凝集して1次色目のインク像21を形成する。
【0040】
続いて、図2(e)に示すように、1次色目のインクのインク像21の上に2次色目のインク30がインクジェットヘッド5から吐出され、本実施形態の適度な水分量をもった凝集液層の上に堆積したインク像21の上には、2次色目のインクが所定のドット口径をもって堆積して2次色目のインク像31を形成する。(図2(f)参照。)
工程(c)で使用されるインクは特に限定されるものではなく、インクの色材として一般的なア二オン型染料や負電荷を帯びた自己分散型の顔料、及びこれを溶解及び/又は分散するための水系の液媒体を有する水系インクを好適に用いることができる。特に、負電荷を帯びた自己分散型の顔料は、色材凝集成分に金属イオンを用いた際に堅牢性の高い良好な画像を形成する。
【0041】
具体的に染料としては、例えば、C.Iダイレクトブルー6、8、22、34、70、71、76、78、86、142、199、C.Iアシッドブルー9、22、40、59、93、102、104、117、120、167、229、C.Iダイレクトレッド1、4、17、28、83、227、C.Iアシッドレッド1、4、8、13、14、15、18、21、26、35、37、249、257、289、C.Iダイレクトイエロー12、24、26、86、98、132、142、C.Iアシッドイエロー1、3、4、7、11、12、13、14、19、23、25、34、44、71、C.Iフードブラック1、2、C.Iアシッドブラック2、7、24、26、31、52、112、118等が挙げられる。
【0042】
顔料としては、例えば、C.Iピグメントブルー1、2、3、15:3、16、22、C.Iピグメントレッド5、7、12、48(Ca)、48(Mn)、57(Ca)、112、122、C.Iピグメントイエロー1、2、3、13、16、83、カーボンブラックNo2300、900、33、40、52、MA7、8、MCF88(三菱化成製)、RAVEN1255(コロンビア製)、REGAL330R、660R、MOGUL(キャボット製)、Color Black FW1、FW18、S170、S150、Printex35(デグッサ製)等が挙げられる。
【0043】
これらの顔料は、形態としての限定を受けず、例えば、自己分散タイプ、樹脂分散タイプ、マイクロカプセルタイプ等のものをいずれも使用することが可能である。その際に使用する顔料の分散剤としては、水溶性で、重量平均分子量が1,000〜15,000程度の分散樹脂が好適に使用できる。具体的には、例えば、ビニル系水溶性樹脂、スチレン及びその誘導体、ビニルナフタレン及びその誘導体、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル、アクリル酸及びその誘導体、マレイン酸及びその誘導体、イタコン酸及びその誘導体、フマル酸及びその誘導体からなるブロック共重合体或いはランダム共重合体、又、これらの塩等が挙げられる。これらインク材料は、染料種、顔料種、分散形態、分散剤それぞれに2種類以上を混合して用いることも可能である。
【0044】
また、最終的に形成された画像の堅牢性を向上させるために、水溶性樹脂や水溶性架橋剤を添加することも出来る。用いられる材料としてはインク成分と共存できるものであれば制限は無い。水溶性樹脂としては上述した分散樹脂等を更に添加することが好適に用いられる。水溶性架橋剤としては、反応性の遅いオキザゾリンやカルボジイミドがインク安定性の面で好適に用いられる。
【0045】
上述した色材と共にインクを構成する水系液媒体中には、有機溶剤を含有させることができ、この有機溶剤量は、画像転写時のインクの物性を決める重要な要因となる。中間転写体から記録媒体に転写するときのインクは、ほぼ色材と高沸点有機溶剤だけとなるためである。使用する有機溶剤としては、以下に挙げるような水溶性の溶剤が好適に用いられる。
【0046】
例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、トリエチレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、グリセリン等が挙げられ、これらの中から選択して、2種類以上を混合して用いることもできる。又、粘度、表面張力等を調整する成分として、インク中に、エチルアルコールやイソプロピルアルコール等のアルコール類や、界面活性剤を添加することもできる。
【0047】
インクを構成する成分の配合比についても限定を受けることがなく、選択したインクジェット記録方式やヘッドの吐出力、ノズル径等から吐出可能な範囲で、適宜に調製することが可能である。一般的には、質量基準で、色剤0.1〜10%、樹脂成分0.1〜20%、溶剤5〜40%、界面活性剤0.01〜5%以下とし、残りを純水で調整したインクを用いることができる。
【0048】
中間転写体の表面層にインクを吐出する場合、工程(a)および工程(b)によって形成された凝集液層100の上に、転写によって像が反転することを考慮してインクの吐出を行う。つまり、転写先である記録媒体に形成されるべき画像をミラー反転されたミラー画像が中間転写体上に形成されるようにする。
【0049】
中間画像形成から転写までの時間の短縮化は、全体の印刷スループットの向上に寄与する。中間画像形成から転写までの間に水分除去部7および加熱部8によって、水分除去を促進することで時間を短縮化している。
(d)転写工程
転写ローラ10によって、中間転写体1の表面層2の上に形成された中間画像を記録媒体9に転写する。この段階では、中間転写体1上で、中間画像のインクは適度に高粘度化されているので、インク吸収量の少ない印刷用紙やインク吸収量の無いフィルム等の記録媒体上にも良好な画像を形成させることができる。
【0050】
本実施形態における技術的な要点は、中間画像を形成するための前処理として形成される凝集液層が適度な水分量を有することである。これによって、上述したようなメカニズムで該凝集液層の上に形成される多次色画像における「滲み」の発生および「スジ」の発生が抑制されて良好な画像が形成される。
【実施例】
【0051】
次に、より具体的な実施例および比較例について説明する。なお、文中「部」および「%」とあるのは、特に断りのない限り質量基準である。本実施例における「降伏値」は、E型粘度計(東機産業株式会社社製)によって測定することにより得られる「ずり応力」と「ずり速度」をCASSON式に代入することで算出されたものである。
【0052】
<実施例1>
(a)凝集液を付与する工程
本実施例では、中間転写体1としてアルミニウム製のドラムを用いて、ゴム硬度40°のシリコーンゴム(信越化学製 KE12)を0.5mmの厚さでコーティングすることでその表面層2を形成した。そのような中間転写体表面に、ロールコータ3にて、以下に示す凝集液(A)を塗布した。塗布厚みは約1μmとした。
【0053】
[凝集液(A)]
・グリセリン :20部
・塩化カルシウム・4水和物 :16部
・アセチレノールEH (川研ファインケミカル製) :1部
・イオン交換水 :63部
上記の溶剤および色材凝集成分などを混合し、十分に攪拌した後、ポアサイズ3μmのミクロフィルター(富士フイルム製 FM300)によって加圧濾過することで凝集液(A)を調製した。
【0054】
(b)反応液を付与する工程
次に、スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体(酸価180mg、重量平均分子量4000)を反応体として含有する実質的に無色の反応液(B)をヘッド4(ノズル密度1200dpi、吐出量3pl、駆動周波数12kHz)にて付与した。
【0055】
[反応液(B)]
・グリセリン :56.1部
・スチレン−アクリル酸―アクリル酸エチル共重合体
(酸価180mg、重量平均分子量400) :1.8部
・アセチレノールEH (川研ファインケミカル製) :0.5部
・イオン交換水 :40部
・塩化カルシウム・4水和物 :1.6部
上記の溶剤および実質的に無色の反応体などを混合し、十分に攪拌した後、ポアサイズ3μmのミクロフィルター(富士フイルム製 FM300)によって加圧濾過することで反応液(B)を調製した。
【0056】
なお、本実施例においては、凝集液と反応液とを1:10の質量割合で付与した。そのために、本実施例の凝集液層の水分量は、凝集液の水分量と反応液の水分量とが1:10で寄与するとして算出した。すなわち実施例1では、凝集液層の水分量は、(凝集液のイオン交換水の質量部)×1/11+(反応液のイオン交換水の質量部)×10/11=42.1部(質量%)と算出した。また、凝集液層の降伏値は1.5Paであった。
【0057】
(c)中間画像形成工程
ヘッド4(ノズル密度1200dpi、吐出量3pl、駆動周波数12kHz)にて、上述した(a)および(b)で、増粘化した凝集液層100が形成された中間転写体上に、ミラー反転させた文字画像を形成した。ここでは、インクとして、以下の組成のものを用いた。
【0058】
[使用するインク]
本実施例においては、1次色インクとしてシアンインクを、2次色インクとしてイエローインクを使用した。各々のインクの組成は下記のとおりである。
(1次色インク)
・ピグメントブルー15 :2部
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体
(酸価180、重量平均分子量4000) :2部
・グリセリン :25.5部
・界面活性剤(川研ファインケミカル製アセチレノールEH) :0.5部
・イオン交換水 :70部
(2次色インク)
・ピグメントイエロー74 :2部
・スチレン−アクリル酸−アクリル酸エチル共重合体
(酸価180、重量平均分子量4000) :2部
・グリセリン :25.5部
・界面活性剤(川研ファインケミカル製アセチレノールEH) :0.5部
・イオン交換水 :70部
上記の溶剤および色材などを混合し、十分攪拌した後、ポアサイズ3μmのミクロフィルター(富士フィルム製 FM300)によって加圧濾過することでインクを調製した。
【0059】
<実施例2>
本実施例は、実施例1の反応液(B)のイオン交換水の含有率が45部に変化し、グリセリンの含有率が51.1部に変化する、さらには工程(b)を経て形成される凝集液層の水分量が46.6部(質量%)、降伏値が1Paに変化すること以外、実施例1と同じである。
【0060】
<実施例3>
本実施例は、実施例1の反応液(B)のイオン交換水の含有率が54部に変化し、グリセリンの含有率が42.1部に変化する、さらには工程(b)を経て形成される凝集液層の水分量が54.8部(質量%)、降伏値が0.8Paに変化すること以外、実施例1と同じである。
【0061】
また、本実施形態の凝集液層の水分量が40%〜55%であることを満たさないものを比較例とした。
【0062】
<比較例1>
本実施例は、実施例1の反応液(B)のイオン交換水の含有率が35部に変化し、グリセリンの含有率が61.1部に変化する、さらには工程(b)を経て形成される凝集液層の水分量が37.5部(質量%)、降伏値が2Paに変化すること以外、実施例1と同じである。
【0063】
<比較例2>
本実施例は、実施例1の反応液(B)のイオン交換水の含有率が37部に変化し、グリセリンの含有率が59.1部に変化する、さらには工程(b)を経て形成される凝集液層の水分量が39.4部(質量%)、降伏値が1.7Paに変化すること以外、実施例1と同じである。
【0064】
<比較例3>
本実施例は、実施例1の反応液(B)のイオン交換水の含有率が58部に変化し、グリセリンの含有率が38.1部に変化する、さらには工程(b)を経て形成される凝集液層の水分量が58.5部(質量%)、降伏値が0.7Paに変化すること以外、実施例1と同じである。
【0065】
<比較例4>
本実施例は、実施例1の反応液(B)のイオン交換水の含有率が60部に変化し、グリセリンの含有率が36.1部に変化する、さらには工程(b)を経て形成される凝集液層の水分量が60.3部(質量%)、降伏値が0.6Paに変化すること以外、実施例1と同じである。
【0066】
表1は、これらの実施例1〜3および比較例1〜4の反応液(B)の成分を示す表である。
【0067】
【表1】

【0068】
さらには、これらの実施例1〜3および比較例1〜4が工程(d)を経たのちに記録媒体上に形成された画像を下記の方法で評価した。
【0069】
(評価)
評価する際、オーロラコート紙(日本製紙社製、坪量127.9g/m)を記録媒体として使用した。
【0070】
記録媒体上の10cm×10cmの領域において、上述した要領で実施例1〜3および比較例1〜4の各々について、シアンインク(1次色目のインク)の上にイエローインク(2次色目のインク)を重ねてベタ画像を形成したものを評価した。
【0071】
(結果)
表2は、これらの実施例1〜3および比較例1〜4の凝集液層の水分量および降伏値と各々の評価結果を示した表であり、評価としては順に、2次色目のインクドット口径(μm)、滲み率(%)、滲みによる記録品位の低下、スジが視認されるかどうかを示した。
【0072】
表2に示す滲み率(%)は、(1次色画像上に着弾した2次色目の実測されたドット口径)/(2次色目インクの所定のドット口径)×100によって算出される。およそ、滲み率が106%以下の場合は、滲みが目視によって視認されない程度で「滲みによる記録品位の低下」を「なし」とする。滲み率が106%を超える場合は、滲みが目視によっても視認されて「滲みによる記録品位の低下」を「あり」とた。
【0073】
画像を10cm離れた距離から目視で観察した際、スジが視認される場合を「あり」とし、スジが視認されない場合を「なし」とした。
【0074】
【表2】

【0075】
以上のように、凝集液層の水分量が規定の40質量%未満の比較例1および比較例2は、1次色目のインクによるインク層のリジット化が顕著となることで、2次色目のインクに凝集成分が浸透せずに「滲み」が発生したと推測される。また逆に、凝集液層の水分量が規定の55質量%を超える比較例3および比較例4は、1次色目のインク層が十分にリジット化しないことで、2次色目のインクが1次色目のインク層に貫通して十分なドット口径を有さないことで「スジ」が発生すると推測される。
【0076】
このような結果からも、本実施形態に記載するように、凝集液層の水分量を規定することによって、2次色目のインクは滲みを生じないで適度なドットの口径を有してスジが視認されることがなく、高品位な記録が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクの色材を凝集させるための凝集液と、前記凝集液と反応して増粘化した凝集液層を形成する反応液とを、中間転写体の上に付与する付与工程と、
前記付与工程によって形成された前記凝集液層の上にインクを付与して中間画像を形成する中間画像形成工程と、
形成された前記中間画像を記録媒体に転写する転写工程と、を有し、
前記凝集液層の水分量は凝集液層に対して40質量%以上55質量%以下であることを特徴とする画像形成方法。
【請求項2】
前記付与工程は、前記中間転写体の上に前記凝集液を付与した後に前記反応液を付与する請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記凝集液は、色材を凝集させるための色材凝集成分を含有し、
前記色材凝集成分は、金属イオンである請求項1または2のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記反応液は、前記凝集液と反応することによって凝集体を形成する反応体を含有し、
前記反応体はアニオン性ポリマーである請求項1〜3のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記凝集液層の降伏値は、0.5Pa以上である請求項1〜4のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項6】
中間転写体と、
インクの色材を凝集させるための凝集液を、前記中間転写体に付与する第1付与手段と、
前記凝集液と反応して増粘化した凝集液層を形成する反応液を、前記中間転写体に付与する第2付与手段と、
前記中間転写体の上で前記凝集液および前記反応液が付与された領域にインクを付与して中間画像を形成するインクジェットヘッドと、
形成された前記中間画像を記録媒体に転写する転写手段と、
を有し、
前記凝集液層の水分量は凝集液層に対して40質量%以上55質量%以下であることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−94963(P2013−94963A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−236470(P2011−236470)
【出願日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】