説明

画像形成方法及び画像表示体

【課題】 回折光によって表現される色に加えて黒も表現することができるフルカラー画像を形成する画像形成方法を提供する。
【解決手段】 特定方向に観察される回折光の色が互いに異なる複数の回折格子R,G、Bのそれぞれが積層された転写シート20から複数の回折格子R、G、Bのそれぞれを基材30上に転写すると共に、黒インクで構成された黒インク層34を基材30上に形成することにより、各画素の表現すべき色を各回折格子R、G、Bに対応する色の輝度の組合せ及び黒インク34によって表現するカラー画像を基材30上に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回折構造を含むカラー画像を形成する画像形成方法及びその画像形成方法によって形成された画像表示体に関する。
【背景技術】
【0002】
特定の観察方向の回折光が互いに異なる複数の回折格子が形成された転写シートから、各回折格子を被転写体に転写することによって、回折格子を含むカラー画像(以下、「カラー回折格子画像」という時がある。)を形成する画像形成方法は既に知られている(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−123299号公報
【特許文献2】特開平9−472255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、加色混合に基づいた回折光によるカラー表現では、黒を表現することはできない。このため、黒として表現したい領域には回折格子を形成せず、当該領域を透明若しくは鏡面とすることにより、黒色が観察できるようにすることも考えられている。しかし、一般的に使用されるプリンタ印刷は滅色混合に基づいたカラー表現であるため、被転写基材としては白地の印画紙やカード等が用いられることが多い。白地の被転写基材にカラー回折格子画像を形成した場合、回折格子が形成されない部分は下地の白色がそのまま見えてしまい、意図したカラー画像と異なるイメージのものが形成される問題がある。
【0005】
そこで、本発明は、回折光によって表現される色に加えて黒も表現することができるフルカラー回折格子画像を形成する画像形成方法及びその画像形成方法によって形成された画像表示体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の方法により上述した課題を解決する。なお、本発明の理解を容易にするために添付図面の参照符号を括弧書きにて付記するが、それにより本発明が図示の形態に限定されるものではない。
【0007】
本発明の画像形成方法は、所定の基材(10、30、41)上に、特定方向に観察される回折光の色が互いに異なる複数の回折格子(R,G、B)のそれぞれが積層された転写シート(20)から前記複数の回折格子のそれぞれを転写すると共に黒インクで構成される黒インク層(11)を形成し、各画素の表現すべき色を前記各回折格子に対応する色の輝度の組合せ及び前記黒インクによって表現するカラー画像(A)を前記基材上に形成するにより上記の課題を解決する。
【0008】
本発明の画像形成方法によれば、黒インクを基材上に形成するので、基材の色に拘わらず回折光の組合せからは得られない黒を表現することができる。また、黒インクは光を吸収するので、回折光の組合せによって得られる各色をより鮮明に観察することができる。複数の回折格子は組合せによって黒を除いた各色を表現できるものであればよく、例えば、赤(R)、緑(G)、青(B)の各色に対応する3つの回折格子とすればフルカラー画像を表現することができる。転写シートの使用には、各回折格子毎に別々の転写シートを使用する場合と、各回折格子が面順次に積層されたものを使用する場合とを含む。
【0009】
本発明の画像形成方法は、前記黒インクで構成される黒インク層(11)を有する黒インク転写シート(16)から、前記黒インク層を前記基材上に転写する黒インク形成工程と、前記基材に形成された前記黒インク層上に、前記各色に対応する回折格子を、前記各色の輝度が前記表現すべき色に応じた輝度になるように形成する回折格子形成工程とを有していてもよい。
【0010】
これにより、黒インクによる階調表現や高い印字解像度を必要とせずに、容易に黒を含めたフルカラー画像を得ることができる。黒インクの転写方法は、溶融型転写でもよいし昇華型転写でもよい。各回折格子は網点状に転写されるので、面積階調によって表現すべき色に応じた輝度になるように輝度を調整する。この輝度の調整方法は従来既知の方法によって行えばよい。
【0011】
また、本発明の画像形成方法は、前記各色に対応する回折格子を、前記各色の輝度が前記表現すべき色に応じた輝度になるように前記基材上に形成する回折格子形成工程と、前記黒インクで構成される黒インク層(11)を有する黒インク転写シート(16)を使用して、前記表現すべき色に応じて前記基材上に設けられるべき前記複数の回折格子のすきま(33)を埋めるようにして、前記黒インク層を前記基材上に形成する黒インク形成工程とを有していてもよい。
【0012】
この画像形成方法では、各回折格子は従来既知の方法によって基材上に形成され、どの回折格子も形成されていない部分は黒インクで埋められる。これによって、黒を含めたフルカラー画像を形成することができる。通常、黒インクを形成する解像度は回折格子を形成する解像度よりも高くすることが可能なので、より繊細な階調表現を実現することができる。黒インクの形成方法は溶融型転写でも昇華型転写でもよい。更に、基材上に形成される黒インクを面積階調又は濃度階調によって階調表現し、所望のイメージのカラー画像を形成してもよい。尚、回折格子形成工程と黒インク形成工程とで実施される順序は問わない。
【0013】
更に、本発明の画像形成方法は、前記カラー画像の各画素(40)を前記複数の回折格子によって埋めるように、前記各回折格子を前記基材上に形成する回折格子形成工程と、前記基材上に形成された前記各回折格子において、その回折格子に対応する色の輝度が、前記表現すべき色に応じた輝度になるように、前記黒インクで構成される黒インク層(11)を有する黒インク転写シート(16)を使用して前記黒インク層を前記各回折格子上に形成する黒インク形成工程とを有していてもよい。
【0014】
この画像形成方法では、画素を埋めるように形成された各回折格子に対して、黒インクの階調によって各回折格子に対応する色の輝度を調整し、各画素の表現すべき色を表現する。各画素には回折格子が形成されているので、回折格子が形成されていない領域は存在せず、基材の色が見えることはない。画素に形成される複数の回折格子のそれぞれは、黒インクによって輝度の調整がされ最終的に表現すべき色が表現できればよく、等面積に形成されてもよいし、回折格子によって異なる面積で形成されてもよい。回折格子の形成方法は問わない。黒インクの形成方法は溶融型転写でもよいし昇華型転写でもよい。溶融型転写の場合は面積階調によって輝度を調整し、昇華型転写の場合は濃度階調によって輝度を調整する。
【0015】
また、本発明は、上記画像形成方法によって形成された画像表示体として具現化されてもよい。
【発明の効果】
【0016】
以上のように、本発明によれば、複数の回折格子と共に黒インクを基材上に形成することにより、回折光によって表現される色に加えて黒も表現することができるフルカラー画像を形成する画像形成方法等を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
図1は、本発明の画像表示体としてのカラー画像Aの一例を示す図である。カラー画像Aは、複数の回折格子として回折格子R、回折格子G、及び回折格子Bの組合せによって色が表現され、また、黒インクによって黒色が表現されたフルカラー回折格子画像である。回折格子R、回折格子G、回折格子Bは、それぞれ特定の観察方向の回折光の色が赤、緑、青である回折格子である。以下、回折格子R、回折格子G、回折格子Bを特に区別する必要のない場合は回折格子RGBという。黒インクが設けられたカラー回折格子画像として態様の異なる3種のカラー画像A及びその形成方法にそれぞれについて説明する。
【0018】
1.第1の形態
第1の形態のカラー画像Aは、図2に示すように、基材10上に黒インク層11が積層され、その上に複数の回折格子RGBの網点12によって構成される回折格子層13が積層されている。いずれの回折格子RGBも形成されない部分14は黒インク層11が最上層となるので、カラー画像Aを正面から見ると、回折格子RGBが形成されていない部分14は黒インクで埋められているように見える。
【0019】
次に、第1の形態におけるカラー画像Aの形成方法について説明する。本形態における画像形成方法は、まず黒インク形成工程を行い、次に回折格子形成工程を行う。黒インク形成工程では、図3(a)に示すように、黒インクで構成された黒インク層11が基材シート15上に積層された黒インク転写シート16にサーマルヘッド17を押し当てることにより、黒インク層11を基材10全体へ転写する。基材10の色は特に限定されない。例えば通常印刷で使用される白地のものでよい。基材10上に黒インク層11が転写されたようすを図3(b)に示す。
【0020】
回折格子形成工程では、図4に示すように、回折格子R、回折格子G及び回折格子Bが面順次に形成された回折格子形成層18が基材シート19上に積層された回折格子転写シート20を使用する。回折格子転写シート20にサーマルヘッド17を押し当て、各色に対応する回折格子RGBが各画素の表現すべき色に応じた面積率で網点状に黒インク層11へ形成されるように、回折格子形成層18を黒インク層11へ転写する。
【0021】
回折格子RGBの表現すべき色に応じた面積率は従来既知の方法によって取得すればよい。例えば、元データの輝度を3分の1にし、各画素の色をRGB分解し、分解されたRGBの輝度に応じた各回折格子の面積率を求めればよい。面積率100%を輝度100、面積率0%を輝度0に対応させた場合、R、G、Bの輝度が100、50、25の時は回折格子R、回折格子G、回折格子Bの面積率はそれぞれ100%、50%、25%である。各画素において求められた面積率で、回折格子RGBが黒インク層11上に形成されるようにサーマルヘッド17の動作を制御すればよい。
【0022】
以上の方法によって、図2に示す本形態におけるカラー画像Aを得ることができる。上述したように、いずれの回折格子RGBも形成されない部分14には黒インク層11が最上層となるので、基材10の色がそのまま見えることはなくなり、また、黒によって光を吸収するので回折格子RGBの組合せによって表現される各色も鮮明に表現することができる。
【0023】
2.第2の形態
本発明の第2の形態におけるカラー画像Aは、図5に示すように、基材30上に、回折格子RGBの複数の網点31で構成される回折格子層32が形成され、回折格子層32においていずれの回折格子RGBも形成されていない部分33に、当該部分33を埋めるように黒インク34が設けられている。
【0024】
以下、図5に示す第2の形態におけるカラー画像Aの形成方法について説明する。本形態における画像形成方法は、まず回折格子形成工程を行い、次に黒インク形成工程を行う。但し、逆の順序でもよい。回折格子形成工程では、図6(a)に示すように、第1の形態と同様の回折格子転写シート20に、サーマルヘッド35を押し当てることにより、回折格子形成層18を基材30に転写する。各画素について表現すべき色に応じて回折格子形成層18を第1の形態と同様の要領で転写すればよい。基材30上に各回折格子RGBが網点状に転写され、回折格子層32が形成されたようすを図6(b)に示す。基材30の色は通常使用する白地のものでもよく、特に限定されない。
【0025】
黒インク形成工程では、図7に示すように、第1の形態と同様の黒インク転写シート16を使用して、回折格子RGBが形成されていない部分33に黒インク層11を転写する。サーマルヘッド36は、回折格子形成工程において使用したものと同じであるが、リボン材料の違いにより、黒インクの方がより高い解像度で印字することができる。この場合、サーマルヘッドの解像度はより精細な画像を形成可能な黒インク側に合わせて用意する。
【0026】
以上の方法によって、図5に示す本形態におけるカラー画像Aを得ることができる。上述したように、いずれの回折格子RGBも形成されない部分33には黒インク34が形成されるので、基材30の色がそのまま見えることはなくなり、また、黒によって光を吸収するので回折格子RGBの組合せによって表現される各色も鮮明に表現することができる。
【0027】
3.第3の形態
本発明の第3の形態におけるカラー画像Aの画素40は、図8に示すように、基材41と、回折格子R、回折格子G、及び回折格子Bが設けられた回折格子層42と、黒インクで構成される黒インク層43とがこの順で積層されて構成される。回折格子層42の各回折格子RGBは、画素40を3等分した領域をそれぞれ埋めるように、すなわち面積率100%で形成されている。また、黒インク層43は昇華型転写により形成されたもので黒インクの濃度階調を有している。
【0028】
図8では、回折格子R上に設けられた黒インクの濃度が一番低く、回折格子B上に設けられた黒インクの濃度が一番高い状態を示す。黒インクの濃度によって下に位置する回折格子RGBに対応する色の輝度が調節される。輝度が調節された色の組合せによって画素40が表現すべき色が表現される。他の画素も表現すべき色に応じて黒インクの濃度は異なるだけで画素40と同様の構成である。
【0029】
次に、第3の形態のカラー画像Aの形成方法について説明する。本形態における画像形成方法は、まず回折格子形成工程を行い、次に黒インク形成工程を行う。回折格子形成工程では、図9(a)に示すように、上記形態と同様の回折格子転写シート20に、サーマルヘッド45を押し当てることにより、回折格子形成層18を基材41に転写する。本形態では、図9(b)に示すように各画素を3等分した領域のそれぞれに各回折格子RGBを面積率100%で転写する。これにより、基材41は回折格子RGBによって埋められたことになる。基材41の色は通常使用する白地のものでもよく、特に限定されない。
【0030】
黒インク形成工程では、図10に示すように、上記形態と同様の黒インク転写シート16にサーマルヘッド46を押し当て、基材上に形成された回折格子層42上へ黒インク層11を昇華転写する。各画素において、表現すべき色に応じた各回折格子RGBの輝度が決定されるので、基材41上の各回折格子RGBが当該輝度になるように、各回折格子RGBに設ける黒インクの濃度を調節する。
【0031】
複製したい元画像がある場合は、各画素の色をRGB分解し、RGBの各色の輝度を求める。これによって、表示すべき色に応じた各回折格子RGBの輝度を、画素40毎に決定することができ、各色が当該決定された輝度になるように、各回折格子RGB上に昇華する黒インクの濃度、すなわち量を調節すればよい。
【0032】
以上の方法によって、図8に示す本形態におけるカラー画像Aを得ることができる。上述したように、基材41上全体に回折格子RGBが形成されるので、基材41の色がそのまま観察されることはなくなり、また、黒によって光を吸収するので回折格子RGBの組合せによって表現される各色も鮮明に表現することができる。
【0033】
本発明は上述した形態に限らず、種々の形態にて実施してよい。本形態では、回折格子Rの網点、回折格子Gの網点、回折格子Bの網点はそれぞれ重ならないように形成したが、重なってもよい。黒インク転写シート16及び回折格子転写シート20には、必要に応じて剥離層や接着層、背面滑性層を設けてもよい。
【0034】
第3の形態における黒インク形成工程では、溶融型転写によって黒インクを転写してもよい。この場合は、各回折格子RGBの輝度を黒インクによる面積階調によって調整する。また、元画像において輝度が0の画素については、回折格子RGBを転写しなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の画像表示体であるカラー画像を示す図。
【図2】第1の形態のカラー画像の断面図。
【図3】(a)は第1の形態において黒インク層が転写されるようすを示す図であり、(b)は基材上に黒インク層が形成されたようすを示す断面図。
【図4】第1の形態における回折格子形成工程を示す図。
【図5】第2の形態のカラー画像の断面図。
【図6】(a)は第2の形態において回折格子形成層が転写されるようすを示す図であり、(b)は基材上に回折格子形成層が網点状に形成されたようすを示す断面図。
【図7】第2の形態における黒インク形成工程を示す図。
【図8】第3の形態のカラー画像を構成する画素の断面図。
【図9】(a)は第3の形態において回折格子形成層が転写されるようすを示す図であり、(b)は複数の回折格子が形成された画素を示す正面図。
【図10】第3の形態における黒インク形成工程を示す図。
【符号の説明】
【0036】
A 画像表示体
11、34 黒インク層
R、G、B 回折格子
12、31 網点
16 黒インク転写シート
20 回折格子転写シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の基材上に、特定方向に観察される回折光の色が互いに異なる複数の回折格子のそれぞれが積層された転写シートから前記複数の回折格子のそれぞれを転写すると共に黒インクで構成される黒インク層を形成し、各画素の表現すべき色を前記各回折格子に対応する色の輝度の組合せ及び前記黒インクによって表現するカラー画像を前記基材上に形成する画像形成方法。
【請求項2】
前記黒インクで構成される黒インク層を有する黒インク転写シートから、前記黒インク層を前記基材上に転写する黒インク形成工程と、
前記基材に形成された前記黒インク層上に、前記各色に対応する回折格子を、前記各色の輝度が前記表現すべき色に応じた輝度になるように形成する回折格子形成工程とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記各色に対応する回折格子を、前記各色の輝度が前記表現すべき色に応じた輝度になるように前記基材上に形成する回折格子形成工程と、
前記黒インクで構成される黒インク層を有する黒インク転写シートを使用して、前記表現すべき色に応じて前記基材上に設けられるべき前記複数の回折格子のすきまを埋めるようにして、前記黒インク層を前記基材上に形成する黒インク形成工程とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記カラー画像の各画素を前記複数の回折格子によって埋めるように、前記各回折格子を前記基材上に形成する回折格子形成工程と、
前記基材上に形成された前記各回折格子において、その回折格子に対応する色の輝度が、前記表現すべき色に応じた輝度になるように、前記黒インクで構成される黒インク層を有する黒インク転写シートを使用して前記黒インク層を前記各回折格子上に形成する回折格子形成工程とを有する、ことを特徴とする請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの1項の画像形成方法によって形成された画像表示体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−301081(P2006−301081A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−119655(P2005−119655)
【出願日】平成17年4月18日(2005.4.18)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】