説明

画像形成方法

【課題】複雑かつ微細な突起パターンを有する基材に対し、その突起上に高精度に印刷を施すことにより、偽造が困難なセキュリティ性の高い画像形成方法を提案すること。
【解決手段】少なくとも基材と、この基材の片面上に配置された複数の突起と、前記複数の突起上に被膜されたインク層を備えた画像形成方法であって、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の複数の突起に対し、インクを吐出して供給し、インク層を形成する工程、を含むことを特徴とする画像形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セキュリティ部材、例えばパスポート、ドライビングライセンス、クレジットカード等の偽造防止、改ざん防止、真贋判定、複写防止等のセキュリティ性確保が必要とされる部材に適用する画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パスポート、クレジットカード等の貴重品は、偽造され難い事が要求される。この偽造防止策として、基材に文字または模様パターンに配列された微細な凹凸加工を施し、改ざんしにくく、改ざんされても、目視で容易に確認することが出来る技術などが知られている。(特許文献1)。
また、凹部の線を利用し、潜像画像を出現させる技術としては、基材の表面に、文字や数字などの潜像パターン及び/またはそのパターンの周囲部が、ピッチ幅0.2〜1mmの圧印加工による万線状凹凸で形成されていて、その潜像パターンの周囲部に潜像パターンを形成する万線状凹凸と略直角の万線状凹凸が施されている有価証券類が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−195030公報
【特許文献2】特開2002−154262公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、セキュリティ情報の画像形成手段には、昇華染料の熱転写や、顔料などの薄膜色材層の画像転写等、一般家庭に普及していない専用装置で実施される事が多かった。しかしながら近年、安価で高精度なインクジェットプリンタなどが普及しており、非接触での画像形成方法である利点もあり、セキュリティ部材への画像形成手段としても使用されるようになって来ている。従って特許文献1や特許文献2のような凹凸パターンを有する比較的単純な画像形成体は、偽造や改ざんも比較的容易となってきている。
【0005】
本発明は、このような従来の問題を解決する事を目的としたもので、複雑かつ微細な突起パターンを有する基材に対し、その突起上に高精度に印刷を施すことにより、偽造が困難なセキュリティ性の高い画像形成方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する為の発明の構成を以下に示す。
(請求項1)
少なくとも基材と、この基材の片面上に配置された複数の突起と、前記複数の突起上に被膜されたインク層を備えた画像形成方法であって、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の複数の突起に対し、インクを吐出して供給し、インク層を形成する工程、を含むことを特徴とする画像形成方法。
(請求項2)
少なくとも基材と、この基材の片面上に配置された複数の突起と、前記複数の突起上に皮膜されたインク層を備えた画像形成方法であって、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の1つの突起に対して2箇所以上にインクを吐出して供給し、インク層を形成する工程、を含むことを特徴とする請求項1記載の画像形成方法。
(請求項3)
少なくとも基材と、この基材の片面上の配置された2種以上の高さを持つ複数の突起と、前記複数の突起上に皮膜されたインク層を備えた画像形成方法であって、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の複数の突起に対し、インクを吐出して供給し、インク層を形成する工程、を含むことを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の画像形成方法。
(請求項4)
前記インクジェットヘッドの隣り合うノズルの距離のうちインクジェットヘッドを突起に対して相対的に走査する際の走査方向に垂直な成分を、前記基材の隣り合う突起の距離のうちインクジェットヘッドの主走査方向に垂直な成分の整数分の1となるように、インクジェットヘッドの向きを前記走査方向に対してインクジェットヘッドを傾けて配置し、前記突起にインクを吐出して供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成方法。
(請求項5)
前記インクジェットヘッドは多相分割駆動であり、前記複数のノズルは周期性を有する複数の相を割り当てられており、前記ノズルからインクを吐出して供給する工程は、前記複数の相のうちの一部の特定相に限定しておこなうことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の画像形成方法。
(請求項6)
前記基材上の複数の複数の突起に対しインクを吐出して供給した後、前記突起上のインクを乾燥および/または固化しインク層を形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の画像形成方法。
(請求項7)
前記突起上に供給されたインクを乾燥および/または固化させる工程を、加熱、送風、減圧、光照射、電子線照射のいずれか1又は2以上の組合せによっておこなうことを特徴とする請求項6に記載の画像形成方法。
(請求項8)
前記インクジェットヘッドのノズルによるインクの吐出工程と、前記突起上に供給されたインクを乾燥および/または固化させる工程とを1つの突起に対して交互に複数回行ってインク層を形成し、インクを乾燥および/または固化させることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の画像形成方法。
(請求項9)
前記インクジェットヘッドにインクを供給するインク供給経路において、インクが少なくともインク循環ポンプとインクジェットヘッド内を循環しており、かつ、インクの循環経路において均熱部によりインクの温度が一定に保たれていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の画像形成方法。
(請求項10)
複数のインクジェットヘッドのインクとして、2以上の種類のインクを供給し、前記突起に対し該2種類以上のインクを吐出し供給することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の画像形成方法。
(請求項11)
前記突起及び突起上に形成されたインク層に対し、表面に保護層を形成させる事を特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0007】
(請求項1の発明の効果)
この発明によれば、前記突起に対して、インクジェットによりインク皮膜を形成させる位置を精密に制御することにより、複雑な形状の基材に対して精密な画像形成が可能であり、偽造防止・改ざん防止効果が高い。
(請求項2乃至3の発明の効果)
この発明によれば、前記突起に対して、インクジェットによりインク皮膜を形成させる位置を精密に制御する事により、観察する方向によって異なる画像や色を出現させる事が可能となる。また、再現したい画像によって、基材の突起パターンを変更する必要はない。
(請求項4の発明の効果)
この発明によれば、例えば前記基材に配置される隣り合う突起の距離などが異なるワークがあった場合に、前記ワークに併せて、インクジェットヘッドに備えられた複数のノズル間の距離そのものを変更させたインクジェットヘッドを用いることなく、高精度なインク皮膜位置制御を行う事が可能となる。つまり、低コストで汎用性の高い画像形成方法である。
(請求項5の発明の効果)
この発明によれば、インクジェットヘッドのノズルにおいて、周期性を有する複数の相が、その相毎に分割されて駆動する多相分割駆動のインクジェットヘッドを用いており、ノズルの位置に応じて、前記ノズルからインクを吐出して供給する工程を、その内の1相以上の特定相を割り当てて用いて行うこととしている。
このように、多相分割方式を用いてインクジェットヘッドからのインクの吐出のコントロールを行い、さらに使用する相を複数層の一部の特定相に限定することによって、隣接ノズルの圧力や電気的な干渉を時間差でずらすことが出来るため吐出が安定し、吐出タイミングの制御を容易にすることができ、より精度よく塗布できる。
また、ノズル詰りなどが原因で、ある特定の相における吐出が不可能になった場合に、別の相を吐出に割り当てることでリカバリーをすることができる。例えば、2相分割駆動や3相分割駆動といった多相分割で駆動している各吐出相に対して、使用している吐出相での各ノズルにおいて不吐出(ミスファイヤ)や吐出飛行曲がり(ミスディレクション)、吐出ドロップの形状不良(スプラッシュ)等の吐出不良が生じた場合、吐出する駆動相を他の相にシフトするので、例えば、3相分割で各層をA相、B相、C相とわけてA相のみ使用しているケースでは、A相ノズルで圧電素子の劣化やノズル穴近傍への堆積物による不吐出等起きた場合、B相にインクの吐出を移して、B相基準でノズル位置と突起を位置あわせして塗布出来るので、インクジェットヘッドを交換する等せず瞬時に塗布を再開出来るので、フェールセーフ性の高い画像形成方法が構築できる。
(請求項6及び7の発明の効果)
この発明によれば、インクジェットヘッドにより供給したインクを塗布後に乾燥および/または固化しインク層を形成する工程をさらに含むため、基材にインク層を迅速に形成することができる。乾燥工程を含まない場合は、複数インク種を吐出する際の混色や、突起の形状、インク層形成位置によってはインク層形成面積や位置ズレ等の問題が発生しうるが、乾燥工程を含むことによりこのような問題を解消する事が可能となる。
(請求項8の発明の効果)
この発明によれば、前記インクジェットヘッドによるインクの塗布工程と、前記乾燥および/または固化工程を交互に複数回行ってインク層を形成し、突起に塗布されたインクを乾燥および/または固化させることでより短時間で形成することができる。塗布工程の後には乾燥工程または固化工程の一方のみ設けてもよいし、乾燥工程および固化工程の両方を設けてもよい。突起に対し複数回インクを吐出しインク層を形成する場合には、1回もしくは複数回の吐出毎に乾燥および/または固化工程を設けることにより、乾燥が無い場合や自然乾燥に比べ、多量のインクを塗布する事が容易となる。
(請求項9の発明の効果)
この発明によれば、前記微少ドロップを吐出するインクジェットヘッドが、インクを吐出するノズルのインクを循環させているので、インク充填が簡単であるばかりでなく、不使用時にインクを抜いて回収することが出来るので、インクの変質を防止できる。
さらに、塗布時にノズル近傍に空気や異物といったパーティクルの発生や、通過することで不吐出等の吐出不良が発生してしまうケースでも、即時、循環しているインクで押し流されるので、吐出不良が発生しにくいばかりでなく、発生しても復活することができる。
さらに、インクジェットヘッドのノズル近傍には循環液、例えば、水や不活性液体(商品名:フロリナート等)を通してノズル近傍温度を一定に保つことで、塗布中の環境変化や吐出アクチュエータである圧電セラミック等の発熱による温度上昇による塗布中のインクの粘度変化と、それに伴う吐出量変動の影響を最小にする事ができる。また、高温におけるインクの劣化も防ぐ事ができる。さらに、対象となる突起を低温に冷やしておいて、塗布後のインク粘度を意図的に上昇させて液だれを防止すること等を実施しても、塗布するノズル近傍のインクは絶えず最適温度を保つことができる。
(請求項10の発明の効果)
この発明によれば、複数種類のインクを用いて、フルカラー画像や観察方向によって色の異なる画像を出現させるなどの意匠性の高いセキュリティ印刷が可能となる。
(請求項11の発明の効果)
この発明によれば、インク層形成済みの前記突起およびインク層の表面に保護層を設ける事により、インク層の剥がれや突起の破壊などの物理的な破壊の防止や、化学的な侵食に対しても耐性を持たせることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の基材上に配置される突起形状の一例を示す。
【図2】本発明の画像形成方法におけるインクジェット塗布装置を説明する斜視透視図を示す。
【図3】本発明の画像形成方法におけるインクジェット塗布装置を説明する平面模式図を示す。
【図4】本発明のインクジェット塗布装置のインクジェットヘッドユニットの説明図を示す。
【図5】図5に本発明におけるインクジェットヘッドのノズルから突起表面までの距離の関係を表す説明図を示した
【図6】本発明のインクジェットヘッドを傾けたときのノズルピッチの説明図を示す
【図7】本発明のインクジェットヘッドにおける多相分割駆動の説明図を示す
【図8】本発明の乾燥、固化手段の説明図を示す
【図9】図9は、2次元的に塗布パターンを作成する説明図である。
【図10】図10は、インクジェットヘッドへのインク供給経路の説明図である。
【図11】図11に表面保護層を形成させる装置の説明図を示す
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の詳細な形態について説明する。
本発明は、少なくとも基材とこの基材上に設けられた多数の微細な突起を備えたものである。突起の素材として、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、テフロン(登録商標)、アクリル樹脂、ポリアミド、ポリアセタール、ポリカーボネート、ガラス繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック、生分解性プラスチック等の樹脂。または、銀、銅、鉛、亜鉛、金、ニッケル、クロム、チタンからなる群より1種類若しくは2種類以上の金属を使用しても良い。
【0010】
基板上の微細突起の配列パターンはインクジェットヘッドのノズル間隔が一定であることから、正方格子状であることが好ましい。正方格子上の配列パターンから塗布しないノズルを選択する事は容易なため、歯抜けの正方格子パターンでも容易に塗布する事ができる。また、微細突起の間隔はノズル間隔に近いと有利である。基材の大きさは、インクジェットヘッドを走査方向と直交方向に動かして塗布するか、インクジェットヘッドを複数個配列することでノズル幅の倍数塗布可能であり、ステージの大きさにより、塗布範囲は決まる。
【0011】
図1に本発明の突起形状の一例の説明図を示す。突起1の形状としては、突起先端形状が丸型のもの2、針状のもの3、4、段差があるもの6、くぼみが付いているもの5、7を用いることができるがこれらに限定されるものではない。
【0012】
インクとしては、色材は顔料や染料、溶媒は水系や溶剤系、光硬化樹脂など様々な組み合わせが考えられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。インクの粘度は4mPa・s〜20mPa・sの範囲であると、吐出したインク液滴が球状になり、安定的に精度良く吐出できるため、この範囲に調整することが好ましい。
【0013】
また、本発明の微細突起を備えた基材は、板状、シート状、フィルム状であればよく、限定されるものではない。また、突起と一体に作成されていてもよいし、突起と異なる材料であってもかまわない。
【0014】
次に本発明に用いるインクジェット装置の一実施形態について図面を用いて説明する。
図2及び3にインクジェット塗布装置の説明図を示す。塗布装置の装置構成として、基材8を載せ、1方向(Y方向)に精度良く搬送する搬送ステージ9と、基材に塗布する為のインクが供給されたインクジェットヘッド10と、該インクジェットヘッド10を基材から一定高さを保持するインクジェットヘッドユニット11が備えられている。
図3では、インクジェットヘッド10がY方向に2列配置されているが、図2のようにインクジェットヘッド10は1列に配置されていてもよいし、3列以上に配置されてもよい。また、インクジェットヘッド10は1つであってもかまわない。インクジェットヘッド10は複数のノズル12を備える。図3ではノズル12は1列に配置されているが、2列以上であってもかまわない。
【0015】
インクジェットヘッド10はインクタンク13と配管14により接続されており、ポンプ15によりインクジェットヘッドにインクが送液される。また、インクジェットヘッド10はインクジェット制御盤16とケーブル17により接続されており、インクジェットヘッドのノズルからのインクの吐出が制御されている。
【0016】
搬送ステージ9により搬送される基材18は複数の突起を備える。また、搬送ステージはガイドレール19上を走行可能となっており、これにより、1方向(Y方向)に搬送することができる。また、ガイドレール19はスケール20を備え、搬送ステージを精度よく搬送することを可能としている。また、図2に示したとおり、搬送される基材は、インクジェットヘッド10により突起にインクが塗布された後、乾燥手段、固化手段21に搬送され、突起上のインクを乾燥および/または固化させることもできる。また、インクジェットヘッド10は基材の微細突起が設けられている基材面に対して垂直方向を回転軸として回転可能な機構を備える。インクジェットヘッドが回転可能な機構を備えることにより、インクジェットヘッドの向きを搬送方向(Y方向)に対して傾けることができる。また、インクジェットヘッドユニット11は搬送方向に直交移動(X方向)することが可能なレール22を備える。
【0017】
インクジェットヘッド10は、インクを吐出する複数のノズル12を備えており、このノズル12は、インクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査する走査方向に対して所定の等間隔になるように配置されている。インクジェットヘッド10はインクタンク13からインクが供給される。また、インクジェットヘッド10には、インクジェットヘッド10のノズルからインクを吐出制御するためのインクジェットヘッド制御盤が備えられている。搬送ステージ9上の基材上の突起がノズルの下を通過するタイミングに合わせ、インクジェットヘッド制御盤により制御されたインクがインクジェットヘッドのノズルより吐出される。これによりノズルから吐出された液滴が突起に塗布される。
【0018】
インクジェットヘッド10のノズル12から微細突起先端までの距離を300μm〜1000μmとすることによって、高精度な塗布が可能となる。距離が300μm以下であると、インクジェットヘッドと微細突起が接触する危険性が高まり、1000μm以上であると、吐出飛行曲がり(ミスディレクション)が発生し易い。
【0019】
また、インクジェットヘッドのノズルの吐出性を回復する為のメンテナンス装置23が備えられている。このメンテナンス装置23はノズル面をウエスやフィルム等でワイピングの実施や液を吐出する為のポット等が備えられており、一般的なインクジェットヘッドのメンテナンス機構が利用可能である。
【0020】
図4にインクジェット塗布装置のインクジェットヘッドユニットの説明図を示す。インクジェットヘッドユニット24は、搬送ステージ9の上に設置された基材18上とメンテナンス装置23上を一方向(Y方向)に搬送することが可能となっている。
【0021】
基材上の突起にインクを吐出する際には基材上にインクジェットヘッドユニット11が搬送され、インクジェットヘッド10におけるノズルの吐出性をメンテナンスする際にはインクジェットヘッドユニット11はメンテナンス装置23上に搬送される。ケーブルベア24は配管、ケーブルを収納しており、それぞれインクタンク、インクジェットヘッド制御盤と接続されている。
【0022】
図5にインクジェットヘッドのノズルから突起表面までの距離の関係を表す説明図を示した。図5に示すように、インクジェットヘッド10のノズルから基材表面までの距離の関係において300〜1000μmであるならば、精度良くインクが飛行するので、突起の高さが異なるパターンにも塗工可能である。距離が300μm未満であると、インクジェットヘッドと突起が接触する危険性が高まり、1000μmを超えると、吐出飛行曲がり(ミスディレクション)が発生し易い。
【0023】
本発明の画像形成方法におけるインクジェット塗布装置にあっては、基材の突起にインクを吐出するインクジェットヘッドを搭載し、基材を搬送する為の搬送ステージの動きとインクジェットヘッドのノズルからの吐出タイミングと突起の位置とを同期させて吐出の位置合せをおこなうインクジェット塗布装置であり、搬送速度に変動があっても、影響されずに塗布位置が決まることが好ましい。なお、搬送同期には搬送される搬送ステージに搬送位置が検出できる、例えばリニアゲージ等のエンコーダーを設け、その位置情報を基本に塗布位置を決定させることができる。基材を搬送する為の搬送ステージの動きと吐出タイミングと突起の位置と同期してノズルからのインクの吐出の位置合せをおこなう。なお、基材の位置を決めるために、インクジェット塗布装置はアライメント用カメラと画像処理ユニットが備えられていると好ましい。
【0024】
本発明の画像形成方法にあっては、インクジェットヘッドのノズルからインクを吐出するに際し、機材に対して1つ以上のインクの微少ドロップを連続して吐出し、その微少ドロップの数を選択することで、1ドロップ単位での塗布量を制御することが可能となる。例えば、インクジェットと塗布装置において、微少ドロップを6pl(ピコリッター:ピコは10のマイナス12乗)とし、各ノズルを4ビットレジスタでドロップ数管理すれば、0〜15ドロップ、すなわち、まったく塗布しない、と6pl、12pl、18pl・・・90plまで16段階の吐出量の調整が可能となる。このように、塗布するところでは6plから90plまで6pl刻みで微少ドロップの数を選択することにより高精度な吐出量の調整ができる。
【0025】
本発明の画像形成方法にあっては、図2及び3に示したインクジェット塗布装置を用い、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の前記複数の突起が設けられた面に対し、インクを吐出して供給し、突起上にインク層が形成される。なお、本発明にあっては、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記機材に対して相対的に走査される。図2及び3に示すように、基材を走査してもかまわないし、インクジェットヘッドを走査してもかまわない。また、基材とインクジェットヘッドの両方を走査してもかまわない。
【0026】
本発明の画像形成方法にあっては、インクジェットヘッドの隣り合うノズルの距離のうちインクジェットヘッドの主走査方向に垂直な成分を、前記基材の隣り合う突起の距離のうちインクジェットヘッドの主走査方向に垂直な成分の整数分の1となるように、インクジェットヘッドの向きを配置し、前記突起にインクを吐出して供給することが好ましい。また、インクジェットヘッドの向きを配置するのに際し、主走査方向に対してインクジェットヘッドを傾けることが好ましい。
【0027】
図6にインクジェットヘッドを傾けたときのノズルピッチを示した説明図を示す。インクジェットヘッドのノズル列を、微細突起が配列された基材から微細突起の突起先端に向かう方向に向くように配置し、等間隔に配列された複数の微細突起を相対的に走査させる。このとき、インクジェットヘッドのノズル間隔のうち、インクジェットヘッドの前記走査方向に直交する成分において前記基材の隣り合う突起の距離のうちインクジェットヘッドの走査方向に直交する成分の整数分の1となるように、インクジェットヘッドを傾けて配置する。すなわち、インクジェットヘッドの配列として、インクジェットヘッドに開けられているノズルが並んだ列、すなわちノズル配列の軸が基材の搬送方向に対して任意の角度で傾けている。ノズル配列軸を傾けることで、ノズルピッチを調整可能である。傾けていない場合のノズルピッチをAとすると、角度θ傾けることにより、ノズルピッチはA×cosθとなる。基材の突起物ピッチBが決まっている場合、そのピッチにノズルピッチを合わせるために、cosθ=B÷Aとしてθを求めることが可能である。
【0028】
突起物ピッチBがノズルピッチAより大きい場合は、ひとつノズルを飛ばして、cosθ=B÷2Aとしてθを求めてもよい。本発明の実施形態において、周期性を有する複数の相が、その相毎に分割されて駆動する、多相分割駆動のインクジェットヘッドを用いており、ノズルの位置に応じて、前記ノズルからインクを吐出して供給する工程を、その内の1相以上の特定相を割り当てて用いて行う事としている。その場合、同じ相のノズルピッチをAとする。突起1がノズルの下を通過するタイミングに合わせ、インクジェットヘッド10が制御された微少ドロップの吐出動作を実施する。ノズル12から吐出された液滴が突起1に塗布される。
【0029】
本発明の画像形成方法にあっては、インクジェットヘッドは多相分割駆動とすることができ、多層分割駆動により複数のノズルは周期性を有する複数の相を割り当てられており、前記ノズルからインクを吐出して供給する工程は、前記複数の相のうちの一部の特定相に限定しておこなうことができる。
【0030】
図7に本発明のインクジェットヘッドにおける多相分割駆動の説明図を示す。図7は、インクジェットヘッド10と、このインクジェットヘッド10に配置されたノズル12の一例である。インクジェットヘッド10には、ノズルがN個配置されているものとし、便宜的に各ノズルには左端部ないし右端部から1、2、3・・・と順番に自然数の番号Nが付与されているものとする。各ノズル12からはインクが吐出され、各ノズルの吐出のタイミング、回数、インクの吐出量等は独立して制御できる。そして、ノズルは列ごとにA相のノズル1,2、3・・・N、B相のノズル1、2、3…N、C相のノズル1,2、3・・・Nに分割されている。分割されたA相,B相,C相は周期性を有する。
【0031】
ここで、例えば、インクを吐出する際にA相のノズル1、2、3・・・Nを用い、B相、C相からはインクを吐出しない。これにより、隣接ノズルの圧力や電気的な干渉を時間差でずらすことが出来るため吐出が安定し、吐出タイミングの制御を容易にすることができ、より精度よく塗布できる。また、A相、B相、C相のノズルの吐出は、吐出ごとに切り替えることもできるし、A相に吐出不良が生じた場合に吐出する駆動相をB相、C相に切り替えることもできる。
【0032】
図8に塗布装置の乾燥手段、固化手段の図を示す。基材の搬送方向に対し、塗布部の延長に乾燥手段、固化手段21が備えられている。インクジェットヘッドより塗布された基材が載った搬送ステージが乾燥および/または固化手段21に入ることで、突起状のインクが乾燥および/または固化することが可能となる。乾燥手段および/または固化手段は加熱、送風、減圧、光照射、電子線照射の何れかの方法またはその2種類以上の組み合わせによる。なお、本発明の塗布方法においては、乾燥および/または固化工程により、突起状のインクを完全に乾燥もしくは固化させるのではなく、半乾燥もしくは半固化状態としてもよい。
【0033】
(固化手段の一例)
図8の上から1番目の図は加熱乾燥の場合であり、ここでは例としてIR(赤外)パネルヒーター25により輻射熱を加えることで加熱乾燥させる。
図8の上から2番目の図は送風乾燥の場合であり、クロスフローファン26を用いてインクジェット側から搬送装置の奥に向かって送風させ、乾燥する。また、ファンの手前部分にヒーターを設置する事で温風を送る事も可能になる。
図8の上から3番目の図は減圧乾燥の場合であり、乾燥手段に設けられたエア配管から真空チャンバー27により減圧を行い奥に行くほど真空状態なる。
図8の上から4番目の図は、UV硬化等の光照射での光硬化の場合であり、ランプハウス28内に例えば蛍光灯、ハロゲンランプ、LED、無電極UVのランプ等の光源29を用いて光を照射させる。
図8の上から5番目の図は電子線照射での硬化場合であり、電子線放出機30を用いて電子線を照射させる。
【0034】
これらの固化手段により、突起形状へのインクジェットでの塗布で問題であった、インクが先端からこぼれてしまうという欠点を解決することが可能となった。何れの方法においても1往復毎の乾燥が可能である。
本発明の画像形成方法にあっては、材料の異なる2種類以上のインクを用いることにより、フルカラー画像や観察方向によって色の異なる画像を出現させるなどの意匠性の高いセキュリティ印刷が可能となる。
【0035】
図9に2次元的に塗布パターンを作成する説明図を示す。例えば、くぼみのある突起6に対してインク層A及びインク層Bのような2次元的な塗布パターンを形成させた場合、視野Aで観察した場合はインク層Aのみ、視野Bで観察した場合はインク層Bのみ、基材の上面から観察した場合はインク層A及びインク層Bの両方が確認できる。つまり、観察方向によって確認できる画像を変更させる事が可能となる。
【0036】
図10にインクジェットヘッドへのインク供給経路の説明図を示す。ここでは矢印の方向にインク循環されている循環インク供給系を例にしている。
インクタンク13より、インクを下流に送り出す。インクタンクには液面センサー若しくは重量計によりインク残量が把握できることが望ましい。インクタンクからインクジェットヘッドユニットに循環ポンプ31によるインク送液をおこなうインク循環経路を持っている。インク循環経路中に異物を除去する為のフィルターがあり、循環中にインクが固まって異物となっても捕捉可能である。インクとして金属含有インクを用いる場合には金属微粒子の粒径は100nm未満が好ましく、フィルターの径は1〜10μmが好ましい。循環経路内には脱気機能をもつ脱気ユニット32と粘度調整機能をもつ粘度調整タンク33が設けられている。
【0037】
インクジェットヘッドへのインク供給経路において脱気ユニット32はインク供給口と排出口を持ち、真空ポンプ34等の脱気機能を持った配管が脱気ユニット上部から脱気ユニット内のエアを抜く機構となっており、一般的な耐圧タンクで作成可能である。
【0038】
粘度調整タンク33はユニット内にインクを攪拌するための攪拌板35が備わっている。この攪拌板はモーターで回転するが、その回転数やトルクを算出し、その値から粘度を粘度モニター36で把握することが可能である。インクの粘度が上昇する事でノズルが詰まりやすく不吐出の原因となる為、希釈溶液タンク37から粘度調整ユニットに希釈溶液が送られ、任意の粘度、例えば10mPa・sまで下がると希釈溶液の送液は停止される。インクの管理は粘度ではなく、液濃度センサーを取り付けることで、液濃度上昇時に希釈液を追加する効果を持たせても良い。
また、循環経路内の配管にインクを均熱化するための均熱部を有することで、温度変化によるインク粘度の変化を抑えることが可能である。
【0039】
インクジェットヘッドに供給されるインクは、インクジェットヘッドノズル近傍を含む流路において、循環する経路をもっている。すなわちインクはインクジェットヘッドに供給する為のインクINポートからインクは供給され、ノズル近傍の液室を通って、インクOUTポートから出て行く。インクINポートから入ったインクがノズルからのみ吐出するシングルエンドと呼ばれるインクジェットヘッドを使用しても塗布は可能であるが、この場合、インクジェットヘッド内のエアを抜く場合、エアを押し出すか、間歇的に液を送る事で液出しを行って、上部にエアを送る必要があるので、多量のインクを必要としてしまう。
【0040】
インクジェットヘッドは、塗布時のノズル駆動の際に熱を発する。その際、排熱の為の機能を付ける事が好ましい。インクジェットヘッドには排熱板が取り付いている物もあるが、インクジェットヘッドに循環水を流す為のポートがある場合は、インクジェットヘッド内に温度調整された循環水を流すことでインクジェットヘッドのノズル近傍温度を調整し一定温度に保つことが可能である。なお、循環水としては、防腐剤入りの水や不活性液体を用いることが好ましい。
【0041】
図11に、表面保護層を形成させる装置の説明図を示す。前記装置は基材の固定ユニット41、転写ローラ42、巻き出しローラ43、巻き取りローラ44から成る。巻き出しローラ43及び巻き出しローラ44には保護層が予め渡工された保護層転写フィルムが装着されている(A)。転写ローラ42は、保護層転写開始位置にて基材18に対して保護層を転写させる為の圧力を掛ける為、基材に対して下降する(B)。保護層を転写させるのに必要な圧力に達した後、保護層転写位置終端まで転写ローラ42は水平に回転移動し、前記突起及び突起上に形成されたインク層を保護する為の保護層46が形成される(C)。
【符号の説明】
【0042】
1 …突起
9 …搬送ステージ
10…インクジェットヘッド
11…インクジェットヘッドユニット
12…ノズル
13…インクタンク
14…配管
15…ポンプ
16…インクジェットヘッド制御盤
17…ケーブル
18…基材
19…ガイドレール
20…スケール
21…乾燥手段、固化手段
22…レール
23…メンテナンス装置
24…ケーブルベア
25…IRパネルヒーター
26…クロスフローファン
27…真空チャンバー
28…ランプハウス
29…ランプ
30…電子線放出機
31…循環ポンプ
32…脱気ユニット
33…粘度調整タンク
34…真空ポンプ
35…攪拌板
36…粘度モニター
37…希釈溶液タンク
38…バルブ
39…圧力センサー
40…フィルター
41…固定ユニット
42…転写ローラ
43…巻き出しローラ
44…巻取りローラ
45…保護層転写フィルム
46…保護層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも基材と、この基材の片面上に配置された複数の突起と、前記複数の突起上に被膜されたインク層を備えた画像形成方法であって、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の複数の突起に対し、インクを吐出して供給し、インク層を形成する工程、を含むことを特徴とする画像形成方法。
【請求項2】
少なくとも基材と、この基材の片面上に配置された複数の突起と、前記複数の突起上に皮膜されたインク層を備えた画像形成方法であって、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の1つの突起に対して2箇所以上にインクを吐出して供給し、インク層を形成する工程、を含むことを特徴とする請求項1記載の画像形成方法。
【請求項3】
少なくとも基材と、この基材の片面上の配置された2種以上の高さを持つ複数の突起と、前記複数の突起上に皮膜されたインク層を備えた画像形成方法であって、複数のノズルを備えたインクジェットヘッドを前記突起に対して相対的に走査し、前記基材の複数の突起に対し、インクを吐出して供給し、インク層を形成する工程、を含むことを特徴とする請求項1及び2のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記インクジェットヘッドの隣り合うノズルの距離のうちインクジェットヘッドを突起に対して相対的に走査する際の走査方向に垂直な成分を、前記基材の隣り合う突起の距離のうちインクジェットヘッドの主走査方向に垂直な成分の整数分の1となるように、インクジェットヘッドの向きを前記走査方向に対してインクジェットヘッドを傾けて配置し、前記突起にインクを吐出して供給することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記インクジェットヘッドは多相分割駆動であり、前記複数のノズルは周期性を有する複数の相を割り当てられており、前記ノズルからインクを吐出して供給する工程は、前記複数の相のうちの一部の特定相に限定しておこなうことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項6】
前記基材上の複数の複数の突起に対しインクを吐出して供給した後、前記突起上のインクを乾燥および/または固化しインク層を形成することを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項7】
前記突起上に供給されたインクを乾燥および/または固化させる工程を、加熱、送風、減圧、光照射、電子線照射のいずれか1又は2以上の組合せによっておこなうことを特徴とする請求項6に記載の画像形成方法。
【請求項8】
前記インクジェットヘッドのノズルによるインクの吐出工程と、前記突起上に供給されたインクを乾燥および/または固化させる工程とを1つの突起に対して交互に複数回行ってインク層を形成し、インクを乾燥および/または固化させることを特徴とする請求項6または7のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項9】
前記インクジェットヘッドにインクを供給するインク供給経路において、インクが少なくともインク循環ポンプとインクジェットヘッド内を循環しており、かつ、インクの循環経路において均熱部によりインクの温度が一定に保たれていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項10】
複数のインクジェットヘッドのインクとして、2種類以上のインクを供給し、前記突起に対し該2種類以上のインクを吐出し供給することを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の画像形成方法。
【請求項11】
前記突起及び突起上に形成されたインク層に対し、表面に保護層を形成させる事を特徴とする請求項1乃至10のいずれかに記載の画像形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−71441(P2013−71441A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214581(P2011−214581)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ケーブルベア
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】