説明

画像形成方法

【課題】耐マーカー性に優れた画像を形成することが可能な画像形成方法を提供する。
【解決手段】インクジェット用インクを用いる画像形成方法である。インクジェット用インクをインクジェット方式によって記録媒体に付与して画像を形成する第一の工程と、前記インクジェット用インクの流動性を低下させる凝集剤を含む処理液を前記記録媒体に付与する第二の工程と、前記第一の工程及び第二の工程の後に、液体組成物を付与する第三の工程と、を有し、インクジェット用インクは、色材と、水性媒体と、を含み、液体組成物は、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体上にインクジェット用インクをインクジェット方式によって付与し、画像を形成することが行われている。そして、形成される画像の耐候性等の物性を向上させるために、画像が形成された記録媒体に処理液をさらに付与する技術が知られている。例えば、特許文献1には、画像が形成された記録物に対して、エチレン−ポリビニルアルコール共重合体等の水溶性樹脂を含有する水溶液を付与する処理方法が記載されている。この処理方法によれば、画像が形成された記録物の耐候性、光沢、及び耐擦過性が向上するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第01/068377号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者等が検討したところ、特許文献1に記載の処理方法によって処理して得られる記録物に水性マーカーを付与した際には、印字汚れが生ずる場合のあることが判明した。すなわち、上記処理方法によっては、記録物(画像)の耐マーカー性を向上させることが困難であることが分かった。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明の課題とするところは、耐マーカー性に優れた画像を形成することが可能な画像形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題は、以下に示す本発明によって達成される。すなわち、本発明は、インクジェット用インクを用いる画像形成方法であって、前記インクジェット用インクをインクジェット方式によって記録媒体に付与して画像を形成する第一の工程と、前記インクジェット用インクの流動性を低下させる凝集剤を含む処理液を前記記録媒体に付与する第二の工程と、前記第一の工程及び第二の工程の後に、前記画像が形成された前記記録媒体に液体組成物を付与する第三の工程と、を有し、前記インクジェット用インクは、色材と、水性媒体と、を含み、前記液体組成物は、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする画像形成方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の画像形成方法によれば、耐マーカー性に優れた画像を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(1)画像形成方法
次に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。まず、本発明の画像形成方法によって形成される画像(記録物)の耐マーカー性が向上する推定メカニズムについて説明する。本発明で用いる液体組成物に含まれる所定の化合物(アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンの少なくともいずれか)は、いずれも撥水性の高い化合物である。このため、記録媒体上に予め形成されたインクジェット用インクからなる画像(インク層)上に、これらの化合物が付与されると、このインク層の上に撥水層が形成される。マーカー液は水性であるため、形成された撥水層が、インクジェット用インクとマーカー液との接触を阻害し、耐マーカー性が向上するものと推測される。
【0009】
本発明の画像形成方法は、インクを記録媒体に付与する第一の工程と、処理液を記録媒体に付与する第二の工程と、第一の工程及び第二の工程の後に液体組成物を記録媒体に付与する第三の工程とを有する。第一の工程や第二の工程よりも前に第三の工程を行うと、アルキルケテンダイマー等の化合物の撥水効果によって、次に付与されるインクジェット用インク又は処理液がはじかれてしまい、形成される画像の品位が損なわれてしまう。また、後に付与するインクジェット用インクや処理液がはじかれないように、アルキルケテンダイマー等の化合物の量等を調整した場合には、アルキルケテンダイマー等の化合物がインクジェット用インク中の固形分に被覆されてしまう。このため、撥水化効果が十分に発揮されず、形成される画像の耐マーカー性が不十分になる。
【0010】
(第一の工程)
第一の工程は、インクジェット用インク(以下、単に「インク」又は「着色インク」とも記す)をインクジェット方式によって記録媒体に付与して画像を形成する工程である。インクには、顔料等の色材と、水性媒体とが含まれている。インクジェット方式によって付与されるインクの液滴(インク液滴)の大きさは1〜40pLであることが好ましい。 インク液滴の吐出速度は5〜20m/sであることが好ましい。また、インクジェット方式によってインクを吐出するための記録ヘッドの駆動周波数は、1kHz以上であることが好ましい。なお、記録ヘッドの解像度は300dpi以上であることが好ましい。インクジェット方式としては、ピエゾ方式をはじめとする周知の方式のいずれであっても採用することができる。なかでも、熱エネルギーを利用してインク中又は反応液中に気泡を生じさせ、生じた気泡の圧力によってインク又は反応液を吐出する方式が最も好ましい。
【0011】
記録媒体の種類は特に限定されず、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、普通紙、光沢紙、特殊紙、布、フィルム、OHPシート、汎用印刷紙等を記録媒体とすることができるが、普通紙を用いることが好ましい。なかでも、一般的にコピー用紙として用いられている、サイズ度10S以上、透気度5〜50Sの普通紙が好ましい。
【0012】
(第二の工程)
第二の工程は、インクジェット用インクの流動性を低下させる凝集剤を含む処理液を記録媒体に付与する工程である。第二の工程は、第一の工程の後に行っても、前に行ってもよいが、第三の工程よりも前に行う。このような凝集剤を含有する処理液を記録媒体に付与することで、形成される画像の耐マーカー性をさらに高めつつ、同時に画像(印字)濃度をも向上させることが可能となる。また、カラーブリードを抑制することもできる。なお、記録媒体に処理液を付与する方式としては、インクジェット方式が好ましい。処理液は、インクを付与する、或いはインクを付与した記録媒体の領域の少なくとも一部に付与することが好ましい。
【0013】
(第三の工程)
第三の工程は、第一の工程及び第二の工程後の記録媒体に液体組成物を付与する工程である。液体組成物は、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含む。液体組成物は、記録媒体の少なくとも一部の領域において、先に付与されたインク及び処理液と接触するように付与されることが好ましい。液体組成物は、記録媒体全面に付与してもよい。第一の工程及び第二の工程後の記録媒体に液体組成物を付与する方式(方法)として、インクジェット方式を用いることができる。その他、第一の工程及び第二の工程後の記録媒体を液体組成物中に浸漬させる浸漬方法;第一の工程後の記録媒体にバーコーター、オフセット印刷機、スクリーン印刷機、ロールコーター等により液体組成物を付与する塗布方法を用いることができる。
【0014】
記録媒体に付与されるアルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンの総量は、乾燥した場合の付与量として、0.05〜5μg/mm2であることが好ましい。これらの化合物の総量が0.05μg/mm2未満であると、撥水効果が得られにくくなる傾向にある。一方、これらの化合物の総量が5μg/mm2超であると、これらの化合物が画像上に析出し易くなる傾向にある。
【0015】
色材として顔料を含むインクと、処理液のみを記録媒体に付与して画像を形成した場合、顔料がメディア最表層に露出して定着することになるため、画像は高発色になるが、耐マーカー性は不十分となる。本発明においては、インクと処理液を記録媒体に付与して画像を形成した後に、さらに液体組成物を付与するため、高発色であると同時に、優れた耐マーカー性をも有する画像を形成することができる。
【0016】
(2)液体組成物
液体組成物には、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物が含まれている。
【0017】
(アルキルケテンダイマー)
アルキルケテンダイマーの種類は特に限定されないが、炭素数8〜30の脂肪酸を出発原料とする混合アルキルケテンダイマーであることが好ましい。出発原料となる脂肪酸の炭素数が8未満であると、得られるアルキルケテンダイマーの疎水性が小さくなるので、撥水効果が得られにくくなる傾向にある。
【0018】
アルキルケテンダイマーは、水性分散液の状態で用いることが実用上好ましい。すなわち、水中に分散されたアルキルケテンダイマーを用いることが好ましい。アルキルケテンダイマーの水性分散液を調製する方法は特に制限されない。具体的な調製方法としては、高圧ホモジナイザー等を用いてアルキルケテンダイマーを乳化する高圧乳化法;反転乳化法等を挙げることができる。アルキルケテンダイマーの水性分散液を調製する際には、必要に応じて、カチオン化澱粉等のカチオン性保護コロイド、ノニオン性保護コロイド、アニオン性保護コロイド等を使用してもよい。また、アニオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤、カチオン性界面活性剤を使用してもよい。これらのコロイドや乳化剤等は、それぞれ一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルキルケテンダイマーのアルキル基に官能基を化学的に修飾した、分散剤を用いなくとも水に分散可能なアルキルケテンダイマーを用いてもよい。
【0019】
(アルケニルコハク酸無水物及びアルキルコハク酸無水物)
アルケニルコハク酸無水物(ASA)及びアルキルコハク酸無水物の種類は特に限定されない。但し、アルケニルコハク酸無水物のアルケニル基、及びアルキルコハク酸無水物のアルキル基は、いずれも炭素数8〜22であることが好ましく、炭素数16〜18であることがさらに好ましい。これらの基の炭素数が8未満であると、アルケニルコハク酸無水物及びアルキルコハク酸無水物の疎水性が小さくなるので、撥水効果が得られにくくなる傾向にある。一方、これらの基の炭素数が22超であると、液体組成物中におけるアルケニルコハク酸無水物及びアルキルコハク酸無水物の分散安定性が低下する場合がある。
【0020】
アルケニルコハク酸無水物やアルキルコハク酸無水物も、アルキルケテンダイマーと同様に、水性分散液の状態で用いることが実用上好ましい。これらの化合物の水性分散液の具体的な調製方法としては、これらの化合物を水に加えた後に、ユニバーサルホモジナイザー、ホモミキサー、超音波乳化機、家庭用ミキサー、又はホモジナイザー等の乳化装置を使用して乳化させる方法を挙げることができる。なお、乳化させる際には乳化剤を用いることが好ましい。乳化剤の具体例としては、カチオン化澱粉、カチオン性ポリアクリルアミド、アニオン性ポリアクリルアミド、両性のポリアクリルアミド、ポリビニルアルコール、ゼラチン等の高分子乳化剤;アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両性の低分子界面活性剤等を挙げることができる。これらの乳化剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、アルケニル基やアルキル基に官能基を化学的に修飾した、分散剤を用いなくとも水に分散可能なアルケニルコハク酸無水物やアルキルコハク酸無水物を用いてもよい。
【0021】
(アルキルケトン)
アルキルケトンとしては、アルキル基の炭素数が8〜30であるものが好ましい。アルキル基の炭素数が8未満であると、疎水性が小さくなるので、撥水効果が得られにくくなる傾向にある。アルキルケトンとしては、ステアロン、パルミトン、14−ヘプタコサノン、及びラウロンが好ましい。これらのアルキルケトンは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。アルキルケトンを含有する液体組成物を用いる場合、アルキルケトンを溶解又は分散させうる溶剤を併用することが好ましい。このような溶剤の具体例としては、クロロホルム、ヘキサン、ベンゼン等の有機溶媒を挙げることができる。また、アルキルケトンのアルキル基に官能基を化学的に修飾した、分散剤を用いなくとも水に分散可能なアルキルケトンを用いてもよい。すなわち、アルキルケトンが水中に分散されたアルキルケトン水性分散液を液体組成物として用いることができる。
【0022】
アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンの合計の含有量は、液体組成物の全量を基準として0.005〜25質量%であることが好ましく、0.01〜5質量%であることがさらに好ましい。これらの化合物の合計の含有量が0.005質量%未満であると、撥水効果が得られにくくなる傾向にある。なお、これらの化合物の合計の含有量を25質量%以下とすると、液体組成物中におけるこれらの化合物を良好な分散状態で保持することができる。
【0023】
(3)インク
インクには、色材と、水性媒体とが含まれている。
【0024】
(色材)
色材の種類は特に限定されず、顔料と染料のいずれであっても好適に用いることができる。
【0025】
(顔料)
顔料としては、カーボンブラック等の無機顔料や有機顔料等、公知のものを使用することができる。また、顔料は水に不溶又は難溶であってもよい。顔料の具体例としては、商品名「カラーブラックFW18」(デグサ製)、商品名「No.2600」(三菱化学製)を挙げることができる。これらの顔料は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。また、カラー顔料を用いてもよい。顔料の含有量は、インク全量を基準として0.5〜15質量%であることが好ましく、1〜10質量%であることがさらに好ましい。顔料は、インク中で分散された状態で存在していることが好ましい。顔料を分散させる方法としては、分散樹脂を用いる方法や、顔料の表面を処理(改質)して顔料自身の親水性を高める方法等を挙げることができる。
【0026】
分散樹脂の具体例としては、スチレン−アクリル酸ポリマー、ウレタンポリマー、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。分散樹脂の重量平均分子量は1,000〜200,000であることが好ましく、3,000〜150,000であることがさらに好ましい。また、分散樹脂の酸価は20mgKOH/g以上であることが好ましく、50〜250mgKOH/gであることがさらに好ましい。分散樹脂の酸価が上記の範囲内であると、形成される画像の耐水性が向上する。また、分散樹脂の含有量は、インク全量を基準として、固形分で2〜20質量%であることが好ましい。分散樹脂の含有量を上記の範囲内とすることで、形成される画像の耐マーカー性をさらに向上させることができる。
【0027】
表面を処理(改質)した顔料(以下、「表面改質顔料」とも記す)としては、その粒子表面に直接又は他の原子団を介して間接的に結合した少なくとも一種の親水性基を有する顔料を挙げることができる。親水性基の具体例としては、−COOM1、−SO31、及び−PO3H(M12等のアニオン性基を挙げることができる。なお、式中のM1は水素原子、アルカリ金属、アンモニウム、又は有機アンモニウム基を示す。
【0028】
例えば、カーボンブラック粒子を次亜塩素酸ソーダで酸化処理することにより、カーボンブラック粒子の表面に−COONa基が導入された表面改質顔料を得ることができる。 このような表面改質顔料としては、種々の特性を満足するように合成したものを用いてもよいが、市販品を用いることもできる。表面改質顔料の市販品の具体例としては、商品名「COB−O−JET400」(CABOT製)等を挙げることができる。
【0029】
顔料の最大粒径は、分散安定性の観点から500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることが好ましい。また、顔料の平均粒径は、分散安定性の観点から10〜150nmであることが好ましい。なお、本明細書における「平均粒径」とは、メジアン径であるD50粒径を測定して得た平均粒径を意味する。D50粒径を測定する方法としては、例えば、粒度分布測定機(商品名「マイクロトラック UPA EX−150」、日機装製)を用いる方法を挙げることができる。より具体的には、まず、顔料を含む分散液やインクをイオン交換水で希釈した後、超音波洗浄器にて分散処理し、サンプル濃度指数を0.04に調整した測定用試料を得る。次いで、得られた測定用試料について上記のような粒度分布測定器を使用することで、顔料の平均粒径を測定することができる。
【0030】
(染料)
染料としては、アニオン性染料、カチオン性染料、及び分散染料等の各種染料を用いることができる。なかでも、溶解安定性及び信頼性の点からアニオン性染料が好ましい。一般分類としては、酸性染料、直接染料、反応性染料、分散染料、食品用色素、及び蛍光増白剤等のなかから、目的等に応じた染料を適宜選択すればよい。
【0031】
(水性媒体)
水性媒体としては、水、又は水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を用いることができる。なかでも、水と水溶性有機溶剤との混合溶媒を用いることが好ましい。水としては、脱イオン水(イオン交換水)を用いることが好ましい。水の含有量は、インク全量を基準として40〜90質量%であることが好ましい。また、水溶性有機溶剤の含有量は、インク全量を基準として5〜40質量%であることが好ましい。
【0032】
水溶性有機溶剤の種類は特に限定されず、公知の水溶性の有機溶剤を用いることができる。水溶性有機溶剤の具体例としては、ヘキサンジオール、ポリエチレングリコール、2−ピロリドン、グリセリン等を挙げることができる。
【0033】
(樹脂)
インクには、樹脂を含有させることが好ましい。また、樹脂は、エマルションの状態でインク中に存在する「樹脂エマルション」であることが好ましい。樹脂エマルションと顔料とを含有するインクを用いて画像を形成した場合、記録媒体に付与された顔料は、樹脂エマルションによって結着される。このため、顔料は記録媒体上に強固に保持され、画像の耐マーカー性をさらに向上させることができる。
【0034】
樹脂エマルションとしては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂等の樹脂エマルションを挙げることができる。これらの樹脂エマルションのなかでも、スチレン−アクリル酸系共重合体、スチレン−アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル系共重合体、スチレン−マレイン酸系共重合体、スチレン−マレイン酸−アクリル酸アルキルエステル系共重合体、スチレン−メタクリル酸系共重合体、スチレン−メタクリル酸−アクリル酸アルキルエステル系共重合体、スチレン−マレイン酸−ハーフエステル系共重合体の樹脂エマルションが好ましい。また、市販品の樹脂エマルションを用いることもできる。樹脂エマルションの市販品の具体例としては、商品名「SF830」、「SF840」(いずれも星光PMC製)等を挙げることができる。インクに対する樹脂エマルションの添加量は適宜決定してよいが、例えば、インク全量を基準として、固形分で2〜20質量%とすることが好ましい。
【0035】
(4)処理液
第二の工程において用いられる処理液は、インクの流動性を低下させる成分である凝集剤を含む。
【0036】
(凝集剤)
凝集剤の種類は、インクに含まれる成分と凝集反応を生起しうるものであれば特に限定されないが、イオン性有機化合物や水溶性金属化合物が好適に用いられる。なお、これらの凝集剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。イオン性有機化合物としては、カチオン性ポリマー、カチオン性界面活性剤、アニオン性ポリマー、及びアニオン性界面活性剤等を好適に用いることができる。
【0037】
水溶性金属化合物としては、インクに含まれる成分との凝集反応性を高めるために、金属カチオンの価数が2価以上である多価金属塩(水溶性多価金属塩化合物)を用いることが好ましい。但し、金属カチオンの価数が4価であるもの等、過度に反応性の強い金属カチオンを含む多価金属塩を用いると、処理液自体が画像形成(印字記録)前に凝集反応を起こしてしまう場合がある。このため、処理液に含有させる水溶性多価金属塩化合物としては、処理液自体の凝集反応を起こさせることなく、画像形成(印字記録)後にインクに含まれる成分を凝集させうる性質を有するものが好ましい。
【0038】
上記のような性質を有する水溶性多価金属塩化合物の具体例としては、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マンガン、硫酸ニッケル、硫酸鉄(II)、硫酸銅(II)、硫酸亜鉛、硝酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硝酸コバルト、硝酸ストロンチウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅(II)、硝酸ニッケル(II)、硝酸鉛(II)、硝酸マンガン(II)、塩化ニッケル(II)、塩化カルシウム、塩化スズ(II)、塩化ストロンチウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム等を挙げることができる。
【0039】
凝集剤の含有量は、処理液の全量を基準として1.0〜15.0質量%であることが好ましく、3.0〜10.0質量%であることがさらに好ましい。
【0040】
樹脂及び顔料を含むインクと、処理液とを用いる場合においては、インクと処理液の組み合わせ(インクセット)としては、インクと処理液との接触により生成する顔料凝集物の凝集粒径が大きくなるような組み合わせが好ましい。具体的には、インクと処理液を2:1の体積比で混合した混合物に、21.4W/cm2の強度で50秒間超音波を照射した場合に、総粒子体積に占める10μm以下の粒子の合計の体積割合が20%以下となる樹脂と凝集剤の組み合わせが好ましい。このような要件を満たすインクセットを用いることで、形成される画像の耐マーカー性をさらに向上させることができる。なお、インクに含まれる樹脂とは、分散樹脂、及び樹脂エマルションを構成する樹脂を意味する。
【0041】
上記の要件(総粒子体積に占める10μm以下の粒子の合計の体積割合)は、例えば、インク及び/又は反応液に水溶性樹脂が一定割合以上で含有されていることで実現される。樹脂の含有量(固形分)が多いインクと、処理液とが接触すると、凝集剤の作用で凝集した顔料の粒径(顔料の凝集粒径)がより大きくなる。このため、凝集粒径が大きくなるほど、マーカーペンに顔料が付着しにくくなるので、耐マーカー性が向上すると推測される。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、下記実施例によって限定されるものではない。なお、文中「部」及び「%」とあるのは、特に断りのない限り、いずれも質量基準を意味する。
【0043】
(1)ASA分散体の調製
ミキサー(商品名「ミルサー」、Iwatani製)の容器に、ASA(商品名「AS1532、星光PMC製)48.8gと、乳化剤(商品名「SP1800」、星光PMC製)40gを入れた。30秒間攪拌して、ASA濃度15%のASA分散体を得た。
【0044】
(2)液体組成物(液体組成物1〜8)の調製
表1に示す各成分を混合し、十分に攪拌することで液体組成物1〜8を得た。
【0045】

【0046】
(3)顔料分散液の調製
(分散液(1))
機械的攪拌装置を備えた500mLナスフラスコを超音波発生装置の槽内に入れた。このナスフラスコに、ビニル樹脂(スチレン−アクリル酸ランダムコポリマー、星光PMC製、酸価:98mgKOH/g、固形分濃度:20質量%)6g、及びテトラヒドロフラン50mLを入れ、超音波をかけながらよく攪拌した。別の容器に、カーボンブラックFW18(デグサ製、DBP吸油量:161mL/100g、一次粒径:15nm)12gを入れ、テトラヒドロフラン50mLを添加した。顔料(カーボンブラック)表面が溶媒で十分濡れるまで遊星式攪拌機(クラボウ製)にて混合した後、ナスフラスコ中に添加してよく混合した。
【0047】
水酸化カリウム水溶液を、ビニル樹脂の中和率が100%となるように滴下注入して転相させた後、60分間プレミキシングを行った。その後、ナノマイザ(商品名「NM2−L200AR」、吉田機械興業製)を用いて2時間分散を行った。ロータリエバポレータを用いてテトラヒドロフランを留去した後、濃度調整を行って顔料濃度6質量%の分散液(1)(平均粒径:91nm)を得た。分散液中の顔料(カーボンブラック)の平均粒径は、粒度分布測定装置(商品名「マイクロトラックUPA150−EX」、日機装製)を使用して測定した。なお、分散液をイオン交換水で希釈した後、超音波洗浄器を使用して分散処理し、サンプル濃度指数を0.04として平均粒径を測定した。
【0048】
(分散液(2))
ビニル樹脂に代えて、ウレタン樹脂(商品名「SF830」、星光PMC製)12gを用いたこと以外は、前述の分散液(1)の場合と同様にして、顔料濃度6%の分散液(2)(平均粒径:79nm)を得た。
【0049】
(4)インク(インク1〜5)の調製
表2に示す各成分を混合し、十分に攪拌することでインク1〜5を得た。
【0050】

【0051】
(5)処理液の調製
表3に示す各成分を混合し、十分に攪拌することで処理液を得た。
【0052】

【0053】
(6)画像形成(実施例1〜15、比較例1〜8)
熱エネルギーの作用によりインクを吐出させるインクジェット記録装置を使用し、表4に示す液体組成物、インク、及び処理液の組み合わせで記録媒体上に画像形成(印字)を行って印字物を得た。より具体的には、まず、インクジェット記録装置を用いて、処理液とインクとをこの順に記録媒体上に付与した。温度25℃、相対湿度50%環境下で24時間乾燥させた後、表4に示す付与方法にて液体組成物を付与した。液体組成物を付与後、温度25℃、相対湿度50%環境下で24時間乾燥することにより印字物を得た。但し、「実施例15」については、インクと処理液をこの順に記録媒体上に付与し、温度25℃、相対湿度50%環境下で24時間乾燥させた後、表4に示す付与方法にて液体組成物を付与した。次いで、温度25℃、相対湿度50%環境下で24時間乾燥することにより印字物を得た。また、「比較例6」については、記録媒体に液体組成物を付与した後、温度25℃、相対湿度50%環境下で24時間乾燥してからインクと処理液を印字し、次いで温度25℃、相対湿度50%環境下で24時間乾燥することにより印字物を得た。なお、記録媒体としては、A4サイズの普通紙(商品名「GF500」、キヤノン製)を用いた。また、インクジェット記録装置としては、1ドット当たりの吐出量が5pL、記録密度が1200×1200dpi、駆動条件が駆動周波数10kHzである装置を使用した。表4に液体組成物を付与した順序を示す。表4中の「後」とは、処理液及びインクを付与した後に液体組成物を付与したことを意味する。また、表4中の「前」とは、液体組成物を先に付与した後に、処理液及びインクを付与したことを意味する。
【0054】
(7)評価
(耐マーカー性の評価)
擦過性評価装置(商品名「HEIDON」、新東科学製)と、マーカーペン(商品名「プロパス 黄色」、三菱鉛筆製)を使用し、室温で乾燥させた印字物の印字部の同じ場所を、連続3回マーカーペンで擦過した。なお、擦過の条件は、荷重:300g、擦過速度:3.0m/minとした。擦過後、非印字部の汚れと印字部の剥がれを観察し、以下の基準に従って耐マーカー性を評価した。評価結果を表4に示す。
【0055】
[耐マーカー性の評価基準]
◎:3回の擦過で非印字部の汚れ及び印字部の剥がれが全くない。
○:2回の擦過まで非印字部の汚れ及び印字部の剥がれが全くない。
△:1回の擦過まで非印字部の汚れ及び印字部の剥がれが全くない。
×:1回の擦過で非印字部の汚れ又は印字部の剥がれが認められる。
【0056】
(画像濃度の評価)
グレタグ濃度計(グレタグマクベス製)を使用して印字部の光学濃度(O.D.値)を測定し、以下の基準に従って画像濃度を評価した。評価結果を表4に示す。
【0057】
[画像濃度の評価基準]
○:O.D.値が1.4以上。
×:O.D.値が1.4未満。
【0058】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクジェット用インクを用いる画像形成方法であって、
前記インクジェット用インクをインクジェット方式によって記録媒体に付与して画像を形成する第一の工程と、
前記インクジェット用インクの流動性を低下させる凝集剤を含む処理液を前記記録媒体に付与する第二の工程と、
前記第一の工程及び前記第二の工程の後に、前記記録媒体に液体組成物を付与する第三の工程と、を有し、
前記インクジェット用インクは、色材と、水性媒体と、を含み、
前記液体組成物は、アルキルケテンダイマー、アルケニルコハク酸無水物、アルキルコハク酸無水物、及びアルキルケトンからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含むことを特徴とする画像形成方法。
【請求項2】
前記第二の工程の後に、前記第一の工程を行う請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記化合物が、アルキルケテンダイマー又はアルケニルコハク酸無水物であり、
前記液体組成物は、水をさらに含む請求項1又は2に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記凝集剤が、多価金属塩である請求項1乃至3のいずれか一項に記載の画像形成方法。

【公開番号】特開2013−980(P2013−980A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−134378(P2011−134378)
【出願日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】