説明

画像形成装置

【課題】通信速度に応じた適切な画像形成処理を行う。
【解決手段】無線USBで接続されたホスト機器から画像データの印刷指示がなされると、画像データの受信を開始し(ステップS100)、1パス分の画像データを受信するまで待った後(ステップS110)、1パス分の画像データ量と1パス分の画像データの受信に要した時間から通信速度V1を導出する(ステップS120)。そして、画像データの受信と印刷とを並列的に行っても一時停止することなく印刷が完了できるとみなせる程度に通信速度が高速であるか否かを通信速度V1が閾値Vref以上か否かによって判定する(ステップS130)。ステップS130で否定的な判定がなされると、画像データを全て受信してから印刷を行い(ステップS140〜S150)、ステップS130で肯定的な判定がなされると、画像データの受信と印刷とを並列的に行う(ステップS160〜S180)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の機器を無線通信により接続することで、有線通信と比較して接続の自由度を増し、ユーザの利便性を向上させることが行われている。例えば、特許文献1には、距離情報を用いて無線接続の確立・切断制御を行うことによりユーザの簡単な操作での無線接続を実現する無線通信装置が提案されている。
【特許文献1】特開2007−158447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、無線通信には、有線通信に比べてノイズや機器間距離の影響で通信速度が低下しやすいという問題がある。ここで、プリンタは画像データを受信してバッファに記憶させる処理と記憶した画像データを読み出して印刷する処理とを並列的に行うことで全体の処理時間の短縮を図っていることが多い。このようなプリンタにおいては、通信速度が低下すると画像データを受信してバッファに記憶させる処理が遅くなり、画像データを印刷する処理を一時停止する必要が生じる。しかし、インクジェットプリンタの場合には、印刷処理を一時停止すると先に印刷したインクが乾いてインクの色の重ね合わせがうまくいかなくなり、画質が低下してしまうという問題がある。
【0004】
本発明は、上述した課題に鑑みなされたものであり、通信速度に応じた適切な画像形成処理を行うことを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0006】
本発明の画像形成装置は、
ホスト装置から通信により画像データを受信し、該画像データに基づく画像をターゲットに形成する画像形成装置であって、
前記ホスト装置と通信を行って前記画像データを受信する通信手段と、
前記受信した画像データを記憶可能な記憶手段と、
ノズルから前記ターゲット上の一部に流体を吐出して前記記憶手段に記憶された画像データに基づく画像の一部を該ターゲットに形成する部分画像形成処理を複数回行うことで該画像を該ターゲットに形成する画像形成処理を行うにあたり、いずれかの部分画像形成処理と他の部分画像形成処理とで少なくとも一部が重なるように該流体を吐出する画像形成手段と、
前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が所定の基準速度を上回るときには、前記受信した画像データが前記記憶手段に記憶されるよう制御すると共に前記画像形成手段が前記画像形成処理を行うよう制御する並列制御を行い、前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が前記基準速度を下回るときには、前記受信した画像データが前記記憶手段に記憶されるよう制御して該記憶手段が該画像データを全て記憶した後に前記画像形成手段が前記画像形成処理を行うよう制御する直列制御を行う制御手段と、
を備えたものである。
【0007】
本発明の画像形成装置では、ホスト装置との通信速度が所定の基準速度を上回るときには、ホスト装置から受信した画像データが記憶手段に記憶されるよう制御すると共に画像形成手段がノズルからターゲット上の一部に流体を吐出して記憶手段に記憶された画像データに基づく画像の一部をターゲットに形成する部分画像形成処理を複数回行ってターゲットに画像を形成する画像形成処理を行うよう制御する並列制御を行う。また、ホスト装置との通信速度が基準速度を下回るときには、ホスト装置から受信した画像データが記憶手段に記憶されるよう制御して記憶手段が画像データを全て記憶した後に画像形成手段が画像形成処理を行うよう制御する直列制御を行う。こうすることで、通信速度が基準速度を上回るときには並列制御を行って画像形成処理をより早く完了し、通信速度が基準速度を下回るときには直列制御を行って画像形成処理が一時停止することによる画質の低下を防止する。したがって、通信速度に応じた適切な画像形成処理を行うことができる。
【0008】
本発明の画像形成装置において、前記通信手段は、前記ホスト装置と無線通信を行って前記画像データを受信する手段としてもよい。無線通信は有線通信と比較して通信速度が低下しやすいため、本発明を適用する意義が高い。
【0009】
本発明の画像形成装置において、前記部分画像形成処理は、前記ノズルを主走査方向に1回移動して前記流体により前記ターゲット上に1パス分の画像データに基づく画像を形成する処理であり、前記画像形成処理は、前記部分画像形成処理と、前記主走査方向に交差する副走査方向に該ターゲットを所定量搬送する搬送処理と、を交互に行うことにより前記画像データに基づく画像を該ターゲットに形成する手段であり、前記制御手段は、前記画像形成処理における最初の前記1パス分の画像データ量を、該最初の1パス分の画像データを前記通信手段が受信するのに要した時間で除すことにより、前記通信速度を導出する手段としてもよい。こうすれば、実際に画像データを受信する速度に基づいて並列制御と直列制御とのいずれかを行うため、いずれの制御を行うかをより適切に判断できる。また、もともと画像形成処理を行えない期間である、最初の1パス分の画像データを受信するまでの期間を利用して通信速度を導出するため、処理時間を増大させずにより適切な判断ができる。
【0010】
本発明の画像形成装置において、前記制御手段は、前記並列制御中に、前記記憶手段が前記画像データを記憶する処理よりも前記画像形成処理の方が前記画像データの処理速度が速く前記画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときには、(1)該並列制御を中止して前記直列制御を行う、又は、(2)前記ホスト装置のユーザに前記並列制御を中止して前記直列制御に切り替えるか前記並列制御を継続するかの指示を求める通知を前記通信手段が前記ホスト装置に行うよう制御し、該ホスト装置から前記直列制御に切り替える旨の指示を前記通信手段が受信したときには、該並列制御を中止して前記直列制御を行い、該ホスト装置から前記並列制御を継続する旨の指示を前記通信手段が受信したときには、前記画像形成処理を適宜一時停止させながら前記並列制御を継続する手段としてもよい。画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときには並列制御を中止して直列制御を行うものとすれば、画像形成処理の一時停止が何度も発生して画質が低下するのを防止できる。また、画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときにユーザからの指示により並列制御を中止して直列制御に切り替えるか並列制御を継続するかを決定するものとすれば、画像形成処理の一時停止が何度も発生することによる画質の低下の防止と、並列制御による画像形成処理の完了までの時間の短縮とのいずれを重視するかをユーザが選択できる。この場合において、前記制御手段は、前記並列制御を中止して前記直列制御を行うときには、そのときの前記通信速度が前記基準速度を下回るよう該基準速度を変更する手段としてもよい。こうすれば、以降はそのときと同じ通信速度であっても最初から直列制御を行うことになり、画像形成処理の一時停止を防止できる。
【0011】
上述した通信手段が無線通信を行う形態の画像形成装置において、前記ホスト装置と前記画像形成装置との距離を測定する距離測定手段、を備え、前記制御手段は、前記測定した距離が所定の基準距離を下回るときには、前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が前記基準速度を上回るとみなして前記並列制御を行い、前記測定した距離が前記基準距離を上回るときには、前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が前記基準速度を下回るとみなして前記直列制御を行う手段としてもよい。一般に無線通信においては距離が遠いほど通信速度が低下する場合が多いため、このようにしても適切な画像形成処理を行うことができる。
【0012】
この場合において、前記制御手段は、前記並列制御中に、前記記憶手段が前記画像データを記憶する処理よりも前記画像形成処理の方が前記画像データの処理速度が速く前記画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときには、(1)該並列制御を中止して前記直列制御を行う、又は、(2)前記ホスト装置のユーザに前記並列制御を中止して前記直列制御に切り替えるか前記並列制御を継続するかの指示を求める通知を前記通信手段が前記ホスト装置に行うよう制御し、該ホスト装置から前記直列制御に切り替える旨の指示を前記通信手段が受信したときには、該並列制御を中止して前記直列制御を行い、該ホスト装置から前記並列制御を継続する旨の指示を前記通信手段が受信したときには、前記画像形成処理を適宜一時停止させながら前記並列制御を継続する手段としてもよい。画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときには並列制御を中止して直列制御を行うものとすれば、画像形成処理の一時停止が何度も発生して画質が低下するのを防止できる。また、画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときにユーザからの指示により並列制御を中止して直列制御に切り替えるか並列制御を継続するかを決定するものとすれば、画像形成処理の一時停止が何度も発生することによる画質の低下の防止と、並列制御による画像形成処理の完了までの時間の短縮とのいずれを重視するかをユーザが選択できる。さらに、この場合において、前記制御手段は、前記並列制御を中止して前記直列制御を行うときには、そのときの前記測定した距離が前記基準距離を上回るよう該基準距離を変更する手段としてもよい。こうすれば、以降はそのときと同じ距離であっても最初から直列制御を行うことになり、画像形成処理の一時停止を防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明の実施形態であるプリンタ20を含む無線USBシステム10の構成の概略を示す構成図である。この無線USBシステム10は、USBデバイスとしての機能を備えており画像データの印刷を行うプリンタ20と、USBホストとしてプリンタ20と無線(ワイヤレス)USBを介して情報のやりとりを行うユーザパソコン(PC)70とによって構成されている。
【0014】
プリンタ20は、装置全体の制御を司るコントローラ30と、着色剤としてインクを用いて記録紙Sに印刷を行う印刷機構40と、ユーザへ情報を表示可能でありユーザの指示を入力可能である操作パネル50と、外部機器(例えばユーザPC70)との間で無線によりデータの送受信を行うUSB装置60と、を備えている。コントローラ30は、CPU31を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、各種プログラムを記憶したROM32と、画像データを記憶するバッファ34を備え一時的にデータを記憶可能なRAM33と、を備えている。このコントローラ30は、バス25を介して印刷機構40や操作パネル50、USB装置60と接続されている。印刷機構40は、インクジェット方式で印刷処理を行う機構であり、図示しないが、各色のインクを個別に収容したインクカートリッジと、各インクカートリッジから供給された各インクに圧力をかけてノズルから記録紙Sに向かってインクを吐出してドットを形成するヘッドと、記録紙Sを送り出す搬送ローラとを備えている。この印刷機構40は、ヘッドを主走査方向に移動させて1パス分の画像を形成する処理と、主走査方向と直交する搬送方向(副走査方向)に記録紙Sを送り出す処理とを交互に行ってバッファ34に記憶された画像データに基づく画像を記録紙Sに形成する。印刷機構40が画像を形成する様子の一例として、記録紙Sに三角形上の画像Aを形成するときの印刷機構40の動作を図2に示す。なお、図2では左右方向が主走査方向を表し、上下方向が搬送方向を表す。図2に示すように、まず、ヘッドが左端の位置から右方向に移動しながら画像Aのうち1パス目に印刷される領域A1にインクを吐出する。続いて、記録紙Sを所定量だけ搬送方向に搬送したあと、ヘッドを左方向に移動しながら2パス目に印刷される領域A2にインクを吐出する。同様にして、1パス分の画像形成と記録紙Sとの搬送を繰り返し、最終的に4パス分の処理により領域A1〜A4すなわち画像Aが記録紙Sに形成される。なお、印刷機構40は、ヘッドから各色のインクのドットが記録紙S上で重なるように吐出することで、色を混ぜて印刷できる色の種類を増やしたり、ドット間の不要な隙間(バンディング)が発生するのを防止したりして画質の向上を図っている。このドットの重ね合わせは、1パス中においてだけでなく各パス間においても行われる(図2の領域A2と領域A3の境界の拡大部分を参照)。操作パネル50は、ユーザがプリンタ20に対して各種の指示を入力するためのデバイスであり、各種の指示に応じた文字や画像が表示される表示部51や、ユーザの指示を各種ボタンにより入力可能である操作部52などが設けられている。USB装置60は、無線で接続された外部機器との情報のやり取りを制御するUSBコントローラ61と、USBホスト機器とのデータの送受信を無線で行う送受信機62と、を備えている。
【0015】
ユーザPC70は、周知の汎用パソコンであり、各種制御を実行するCPU81や各種制御プログラムを記憶するROM82、データを一時記憶するRAM83などを備えたコントローラ80と、各種アプリケーションプログラムや各種データファイルを記憶する大容量メモリであるHDD84と、外部機器(例えばプリンタ20)との間で無線によりデータの送受信を行うUSB装置90と、を備えている。USB装置90は、無線で接続された外部機器と情報のやり取りを制御するUSBコントローラ91と、USBデバイス機器とのデータの送受信を無線で行う送受信機92と、を備えている。また、ユーザPC70は、各種情報を画面表示するディスプレイ85やユーザが各種指令を入力するキーボード及びマウス等の入力装置86を備えている。このユーザPC70は、インストールされたプログラムによりプリンタ20に対して画像データの印刷を指示する。
【0016】
次に、こうして構成された本実施形態のプリンタ20の動作、特に、ユーザPC70からの指示により画像データを受信し、受信した画像データに基づく画像を印刷機構40によって記録紙Sに印刷する際の動作について説明する。
【0017】
図3は、印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、プリンタ20とユーザPC70とが無線USBで接続されており、ユーザが入力装置86を操作して、指定した画像データ(例えば、HDD84に記憶されている画像データ)を印刷するようプリンタ20に指示したときに実行される。この印刷処理ルーチンが実行されると、CPU31は、まず、USBコントローラ61に画像データの受信を開始させると共に経過時間Tのカウントを開始する(ステップS100)。これにより、USBコントローラ61は、ユーザPC70の送受信機92から送信される画像データを送受信機62に受信させ、受信した画像データをバッファ34に記憶する処理を開始する。そして、CPU31は、1パス分の画像データがバッファ34に記憶されたか否かを判定し(ステップS110)、肯定的な判定がなされるまでステップS110の処理を繰り返す。
【0018】
ステップS110で肯定的な判定がなされると、CPU31は、ユーザPC70とプリンタ20との通信速度V1を導出する(ステップS120)。通信速度V1は、最初の1パス分の画像データ量をステップS110で肯定的な判定がなされたときの経過時間Tで除すことにより導出する。そして、通信速度V1が閾値Vref以上であるか否かを判定する(ステップS130)。ここで、閾値Vrefは、ユーザPC70とプリンタ20との通信速度が閾値Vrefを上回っていれば通信速度が十分速いとみなせるように定めた通信速度の基準値である。なお、通信速度が十分速いとは、画像データの受信と並列的に画像データの印刷を行っても一時停止することなく印刷が完了できるとみなせる程度に通信速度が高速であることを意味する。この閾値Vrefの値は、ヘッドや搬送ローラの動作速度など、印刷機構40の動作速度に基づいてあらかじめ設定することができる。また、閾値Vrefをユーザが任意の値に設定できるものとしてもよい。
【0019】
ステップS130で否定的な判定がなされると、画像データの受信と並列的に画像データの印刷を行うと画像データの受信が間に合わずに印刷を一時停止することになり画質の低下が起きると判断して、USBコントローラ61が画像データを全て受信してバッファ34に記憶するまで待ち(ステップS140)、画像データが全て記憶されると、バッファ34に記憶した画像データを印刷するよう印刷機構40を制御して(ステップS150)、本ルーチンを終了する。これにより、印刷機構40はバッファ34に記憶された画像データを取得して、1パス分の印刷と記録紙Sの搬送とを繰り返し、画像データに基づく画像を記録紙Sに形成する。なお、画像データが全てバッファ34に記憶された後にバッファ34に記憶した画像データを印刷することを、以降は直列印刷処理と表記する。
【0020】
一方、ステップS130で肯定的な判定がなされると、バッファ34に次に印刷すべき1パス分の画像データが記憶されているか否かを判定する(ステップS160)。いま、印刷を開始していない状態について考えており、ステップS110で少なくとも最初の1パス分の画像データはバッファ34に記憶されているので、ここでは肯定的な判定がなされる。ステップS160で肯定的な判定がなされると、バッファ34に記憶されている画像データのうち、次に印刷すべき1パス分の画像データの印刷と記録紙Sの搬送とを行うよう印刷機構40を制御する(ステップS170)。いま、印刷を開始していない状態について考えているので、最初の1パス分の画像データに基づく1パス分の画像が記録紙Sに印刷されることになる。そして、次のパスがあるか否かを判定し(ステップS180)、肯定的な判定がなされたときには、ステップS160の処理を実行して、バッファ34に次に印刷すべき1パス分の画像データが記憶されているか否かを判定する。画像データを受信する速度が十分速く、ステップS170で1パス分の印刷をしている間に次の1パス分の画像データがバッファ34に記憶されていれば、ステップS160では常に肯定的な判定がなされ、以降はステップS160〜S180の処理が繰り返される。そして、ステップS180で否定的な判定がなされると、画像データの印刷が全て完了したと判断して本ルーチンを終了する。これにより、画像データの受信と並列的に画像データの印刷を行って記録紙Sに画像データに基づく画像を形成する。なお、画像データの受信と並列的に画像データの印刷を行うことを、以降は並列印刷処理と表記する。
【0021】
一方、ステップS170で1パス分の印刷をしている間に次の1パス分の画像データがバッファ34に記憶されていない場合には、ステップS160で否定的な判定がなされる。これは例えば、ノイズやUSB装置60,90の処理速度の低下によりユーザPC70とプリンタ20との通信速度が低下した場合や、閾値Vrefが適正な値でない場合に発生する。ステップS160で否定的な判定がなされると、並列印刷処理継続フラグFが値1であるか否かを調べる(ステップS190)。並列印刷処理継続フラグFについては後述するが、本ルーチンの開始時には初期値0に設定されているため、ここでは否定的な判定がなされる。この状態は、このまま並列印刷処理を継続すると画像データの受信が間に合わず画像データの印刷を一時停止する必要があり、パス間でのインクのドットの重ね合わせがうまくいかず画質の低下が起きる状態である。そこで、CPU31は、並列印刷処理を中止して直列印刷処理に切り替えるか並列印刷処理を継続するかのいずれかの指示をユーザに要求するようUSBコントローラ61を制御する(ステップS200)。これにより、USBコントローラ61は、送受信機62からユーザPC70の送受信機92に指示を要求する旨の要求信号を送信する。そして、ユーザPC70では、送受信機92が受信した要求信号がUSBコントローラ91を介してCPU81に送信され、CPU81は図示しない指示要求画面をディスプレイ85に表示してユーザに指示を要求する。ユーザが入力装置86を操作して、印刷画質を優先したいときには直列印刷処理に切り替える旨を入力し、印刷速度を優先したいときには並列印刷処理を継続する旨を入力すると、CPU81がUSBコントローラ91を制御してユーザの指示をプリンタ20に送信する。
【0022】
プリンタ20のCPU31は、ステップS200の処理を実行した後、送受信機62が指示を受信するまで待ち(ステップS210)、受信した指示が直列印刷処理に切り替える指示か並列印刷処理を継続する指示か判定する(ステップS220)。そして、直列印刷処理に切り替える旨の指示であったときには、そのとき送受信機62が受信している単位時間あたりの画像データ量として通信速度V2を導出する(ステップS230)。続いて、通信速度V2が閾値Vref以上であるか否かを判定し(ステップS240)、肯定的な判定がなされると、閾値Vrefの値を式(1)で導出した値に変更する(ステップS250)。すなわち、現在の通信速度V2が閾値Vref以上であるにも関わらず、上述したステップS160では否定的な判定がなされているため、閾値Vrefの値が不適切であると判断して、通信速度V2が閾値Vrefを下回るように閾値Vrefの値を変更するのである。これにより、今回は並列印刷処理を途中で中止しているので少なくとも一度は印刷処理の一時停止が発生してしまうが、次回以降に印刷処理ルーチンを実行するときにはこのときの通信速度V2と同じ通信速度であってもステップS130で否定的な判定がなされて最初から直列印刷処理がなされ、並列印刷処理の一時停止を防止できることになる。なお、式(1)に記載の値αは正数であり、導出した通信速度V2の誤差を考慮した値や並列印刷処理の一時停止をより防止するための余裕を持たせた値としてあらかじめ設定される値である。一方、通信速度が一時的に低下した状態のときには、ステップS240で否定的な判定がなされ、CPU31は閾値Vrefの変更を行わない。そして、ステップS250の処理を実行するかステップS240で否定的な判定がなされると、上述したステップS140,S150の処理に進んで直列印刷処理を行い、本ルーチンを終了する。
【0023】
Vref=V2+α (1)
【0024】
一方、ステップS220で判定した指示が並列印刷処理を継続する旨の指示であるときには、並列印刷処理継続フラグFを値1に設定して(ステップS260)、ステップS160に進む。ここで、並列印刷処理継続フラグFは、画像データの受信が間に合わずに画像データの印刷を一時停止して画質が低下することになっても、並列印刷処理を継続して印刷処理を早く終了させるようユーザが指示した場合に値1に設定されるフラグである。そして、ステップS160でまだ次に印刷すべき1パス分のデータがバッファ34に記憶されていないときには否定的な判定がなされてステップS190に進むが、並列印刷処理継続フラグFは値1に設定されているので、ステップS190で肯定的な判定がなされて、ステップS160の処理に戻る。以降はステップS160,190の処理を繰り返して印刷を一時停止し、次に印刷すべき1パス分のデータがバッファ34に記憶されるとステップS160で肯定的な判定がなされてステップS170に進み、1パス分の印刷を行う。このようにして、次に印刷すべきパスがなくなるまで、印刷を一時停止しながら並列印刷処理を継続するのである。そして、全てのパスの印刷が終了するとステップS180で否定的な判定がなされて本ルーチンを終了する。なお、本ルーチンを終了すると、並列印刷処理継続フラグFは値0に初期化される。
【0025】
ここで、本実施形態の構成要素と本発明の構成要素との対応関係を明らかにする。本実施形態の送受信機62が通信手段に相当し、バッファ34が記憶手段に相当し、印刷機構40が画像形成手段に相当し、CPU31及びUSBコントローラ61が制御手段に相当する。
【0026】
以上詳述した実施形態によれば、通信速度V1が閾値Vref以上のときには並列印刷処理を行い、閾値Vref未満の時には直列印刷処理を行う。こうすることで、通信速度が閾値Vref以上のときには画像データの受信及び記憶と画像データの印刷とを並列的に行うため画像の印刷をより早く完了できる。また、通信速度が閾値Vref未満のときには画像データを全て受信してから印刷を行うため、1パス分の印刷の繰り返しが一時停止することによる画質の低下を防止できる。また、プリンタ20とユーザPC70とは無線USBで接続されているので有線接続と比較して通信速度が低下しやすく、通信速度V1に応じて直列印刷処理と並列印刷処理とのいずれを行うかを決定する意義が高い。さらに、通信速度V1は最初の1パス分の画像データ量を、最初の1パス分の画像データを受信するのに要した時間で除すことにより導出しているので、実際に画像データを受信する速度に基づいて直列印刷処理と並列印刷処理とのいずれを行うかを適切に判断できる。しかも、印刷機構40が印刷を行えない期間である、最初の1パス分の画像データを受信するまでの期間を利用して通信速度V1を導出するため、処理時間を増大させずに適切な判断ができる。さらにまた、並列印刷処理中に、画像データの受信が間に合わずに画像データの印刷を一時停止する必要があると判断したときには、指示をユーザPC70に要求し、ユーザPC70から受信した指示に応じて直列印刷処理に切り替えるか並列印刷処理を継続するかを決定するため、印刷画質と印刷速度のいずれを重視するかをユーザが選択できる。さらにまた、並列印刷処理を中止して直列印刷処理を行うときには、そとのきの通信速度V2が閾値Vrefを下回るように閾値Vrefを変更するため、次回以降に印刷処理ルーチンを実行するときにはこのときの通信速度V2と同じ通信速度であっても最初から直列印刷処理がなされ、並列印刷処理の一時停止を防止できる。
【0027】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0028】
例えば、印刷処理ルーチンにおいて、ステップS230〜S250の処理を省略し、ステップS220で判定した指示が直列印刷処理に切り替える旨の指示であるときにはステップS140に進んで直列印刷処理を行ってもよい。また、ステップS190〜S260の処理を省略し、ステップS160で否定的な判定がなされるとステップS140に進んで直列印刷処理を行ってもよいし、ステップS160で否定的な判定がなされると次に印刷すべき1パス分の画像データがバッファ34に記憶されるまでステップS160の処理を繰り返し、印刷処理の一時停止が発生しても並列印刷処理を継続してもよい。
【0029】
上述した実施形態では、通信速度V1は最初の1パス分の画像データ量をステップS110で肯定的な判定がなされたときの経過時間Tで除すことにより導出しているが、他の方法で導出してもよい。例えばステップS110で肯定的な判定がなされたときのごく短い単位時間あたりの画像データ量として導出してもよいし、ユーザPC70とプリンタ20との無線USBによる接続が確立したときの通信速度を通信速度V1としてもよい。
【0030】
上述した実施形態では、プリンタ20とユーザPC70とは無線USBにより無線接続されているものとしたが、他の方式の無線接続や有線接続であってもよい。
【0031】
上述した実施形態では、プリンタ20とユーザPC70と通信速度が閾値Vref以上か否かにより並列印刷処理と直列印刷処理とのいずれを行うかを判定しているが、プリンタ20とユーザPC70との距離を測定し、測定した距離が所定の閾値Drefを下回るか上回るかによって判定してもよい。距離の測定は、例えば、無線USBで採用されている無線通信方式であるUWB(Ultra Wide Band)の有する位置測定機能を利用して行ってもよいし、プリンタ20が他の方式で距離を測定する装置を備えているものとして、これを利用して行ってもよい。距離の測定方法としては、例えば、測定対象機器にパルス列を送信して、測定対象機器からのパルス列の返信を受信し、パルス列の往復時間に基づいて測定する方法が挙げられる。この場合、測定対象機器がパルス列の返信に要した処理時間である返信遅れ時間を受信して、往復時間と返信遅れ時間との差に基づいて測定してもよい。また、閾値Drefの値は、機器間の距離が閾値Drefを下回るときに通信速度が閾値Vrefを上回るとみなせる距離として、実験により設定することができる。距離によって並列印刷処理と直列印刷処理とのいずれを行うかを判定する場合には、図3の印刷処理ルーチンのステップS120で通信速度V1の代わりに距離D1を導出し、ステップS130で距離D1が閾値Dref以下であるか否かを判定すればよい。また、ステップS230ではそのときの距離D2を導出し、ステップS240で距離D2が閾値Dref以下であるか否かを判定し、ステップS250で閾値Dref=D2−βとすればよい(βは正数)。値βは、距離D2の誤差を考慮した値や並列印刷処理の一時停止をより防止するための余裕を持たせた値としてあらかじめ設定すればよい。
【0032】
上述した実施形態では、ユーザPC70がプリンタ20に画像データを印刷するよう指示しているが、例えばデジタルカメラなど、他のどのようなホスト装置が画像データの印刷を指示するものとしてもよい。また、プリンタ20と複数のホスト装置とが接続されているものとしてもよい。例えば2つのホスト装置が接続されており、通信速度の遅い一方のホスト装置から印刷が指示され、その直後に通信速度の速い他方のホスト装置から印刷が指示され、画像データの受信を平行して行う場合、一方のホスト装置に指示された印刷を並列印刷処理してしまうと、通信速度が遅く並列印刷処理の一時停止が起きて印刷機構40の占有時間が長くなってしまう。その結果、他方のホスト装置からの印刷指示に対しては画像データの受信が完了しても印刷を開始できないことがある。しかし、上述した印刷処理ルーチンにより通信速度の遅い一方の装置の印刷を直列印刷処理するものとすれば、先に他方のホスト装置からの印刷指示を並列印刷処理により完了することができる。このように、プリンタ20と複数のホスト装置とが接続されている場合に上述した印刷処理ルーチンを実行して並列印刷処理の一時停止を防止することで、1つのホスト装置による印刷機構40の占有時間が長くなるのを防止し、他のホスト装置からの指示による印刷の待ち時間を削減できる。
【0033】
上述した実施形態では、印刷機構40は各インクに圧力をかけて記録紙Sに吐出するインクジェット方式の機構としたが、インクへ圧力をかける機構は、圧電素子の変形によるものとしてもよいしヒータの熱による気泡の発生によるものとしてもよい。また、印刷機構40は、図2のように奇数番目のパスをヘッドの往路で作成し偶数番目のパスをヘッドの復路で作成するものとしたが、全てのパスを往路で作成するものとしてもよい。さらに、印刷機構40は、各パス間の領域が隣接しパスの境界上でドットが重なるように印刷を行うものとしたが、各パス間の領域の少なくとも一部が重なるように印刷を行うものとしてもよい。さらにまた、印刷機構40は、1パス分を1回のインクの吐出で印刷できるヘッドを有しており、1回の吐出と記録紙Sの搬送とを繰り返して印刷を行うラインプリンタとしてもよい。
【0034】
上述した各実施形態では、本発明の画像形成装置をインクジェット式の印刷機構40を備えたプリンタ20に具体化した例を示したが、インク以外の他の液体や機能材料の粒子が分散されている液状体(分散液)、ジェルのような流状体などを噴射する流体噴射装置に具体化してもよいし、流体として噴射可能な固体を噴射する流体噴射装置に具体化してもよい。例えば、ディスプレイ、EL(エレクトロルミネッセンス)ディスプレイ及び面発光ディスプレイの製造などに用いられる電極材や色材などの材料を溶解した液体を噴射する液体噴射装置、同材料を分散した液状体を噴射する液状体噴射装置、精密ピペットとして用いられ試料となる液体を噴射する液体噴射装置としてもよい。また、光通信素子等に用いられる微小半球レンズ(光学レンズ)などを形成するために紫外線硬化樹脂等の透明樹脂液を基板上に噴射する液体噴射装置、基板などをエッチングするために酸又はアルカリ等のエッチング液を噴射する液体噴射装置、ジェルを噴射する流状体噴射装置、トナーなどの粉体を噴射する粉体噴射式記録装置としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本実施形態であるプリンタ20を含む無線USBシステム10の構成図。
【図2】記録紙Sに画像Aを形成するときの印刷機構40の動作の説明図。
【図3】印刷処理ルーチンの一例を示すフローチャート。
【符号の説明】
【0036】
10 無線USBシステム、20 プリンタ、25 バス、30 コントローラ、31 CPU、32 ROM、33 RAM、34 バッファ、40 印刷機構、50 操作パネル、51 表示部、52 操作部、60 USB装置、61 USBコントローラ、62 送受信機、70 ユーザパソコン、80 コントローラ、81 CPU、82 ROM、83 RAM、84 HDD、85 ディスプレイ、86 入力装置、90 USB装置、91 USBコントローラ、92 送受信機、S 記録紙。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホスト装置から通信により画像データを受信し、該画像データに基づく画像をターゲットに形成する画像形成装置であって、
前記ホスト装置と通信を行って前記画像データを受信する通信手段と、
前記受信した画像データを記憶可能な記憶手段と、
ノズルから前記ターゲット上の一部に流体を吐出して前記記憶手段に記憶された画像データに基づく画像の一部を該ターゲットに形成する部分画像形成処理を複数回行うことで該画像を該ターゲットに形成する画像形成処理を行うにあたり、いずれかの部分画像形成処理と他の部分画像形成処理とで少なくとも一部が重なるように該流体を吐出する画像形成手段と、
前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が所定の基準速度を上回るときには、前記受信した画像データが前記記憶手段に記憶されるよう制御すると共に前記画像形成手段が前記画像形成処理を行うよう制御する並列制御を行い、前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が前記基準速度を下回るときには、前記受信した画像データが前記記憶手段に記憶されるよう制御して該記憶手段が該画像データを全て記憶した後に前記画像形成手段が前記画像形成処理を行うよう制御する直列制御を行う制御手段と、
を備えた画像形成装置。
【請求項2】
前記通信手段は、前記ホスト装置と無線通信を行って前記画像データを受信する手段である、
請求項1に記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記部分画像形成処理は、前記ノズルを主走査方向に1回移動して前記流体により前記ターゲット上に1パス分の画像データに基づく画像を形成する処理であり、
前記画像形成処理は、前記部分画像形成処理と、前記主走査方向に交差する副走査方向に該ターゲットを所定量搬送する搬送処理と、を交互に行うことにより前記画像データに基づく画像を該ターゲットに形成する手段であり、
前記制御手段は、前記画像形成処理における最初の前記1パス分の画像データ量を、該最初の1パス分の画像データを前記通信手段が受信するのに要した時間で除すことにより、前記通信速度を導出する手段である、
請求項1又は2に記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記並列制御中に、前記記憶手段が前記画像データを記憶する処理よりも前記画像形成処理の方が前記画像データの処理速度が速く前記画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときには、(1)該並列制御を中止して前記直列制御を行う、又は、(2)前記ホスト装置のユーザに前記並列制御を中止して前記直列制御に切り替えるか前記並列制御を継続するかの指示を求める通知を前記通信手段が前記ホスト装置に行うよう制御し、該ホスト装置から前記直列制御に切り替える旨の指示を前記通信手段が受信したときには、該並列制御を中止して前記直列制御を行い、該ホスト装置から前記並列制御を継続する旨の指示を前記通信手段が受信したときには、前記画像形成処理を適宜一時停止させながら前記並列制御を継続する手段である、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記並列制御を中止して前記直列制御を行うときには、そのときの前記通信速度が前記基準速度を下回るよう該基準速度を変更する手段である、
請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
請求項2に記載の画像形成装置であって、
前記ホスト装置と前記画像形成装置との距離を測定する距離測定手段、
を備え、
前記制御手段は、前記測定した距離が所定の基準距離を下回るときには、前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が前記基準速度を上回るとみなして前記並列制御を行い、前記測定した距離が前記基準距離を上回るときには、前記通信手段と前記ホスト装置との通信速度が前記基準速度を下回るとみなして前記直列制御を行う手段である、
画像形成装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記並列制御中に、前記記憶手段が前記画像データを記憶する処理よりも前記画像形成処理の方が前記画像データの処理速度が速く前記画像形成処理を一時停止する必要があると判定したときには、(1)該並列制御を中止して前記直列制御を行う、又は、(2)前記ホスト装置のユーザに前記並列制御を中止して前記直列制御に切り替えるか前記並列制御を継続するかの指示を求める通知を前記通信手段が前記ホスト装置に行うよう制御し、該ホスト装置から前記直列制御に切り替える旨の指示を前記通信手段が受信したときには、該並列制御を中止して前記直列制御を行い、該ホスト装置から前記並列制御を継続する旨の指示を前記通信手段が受信したときには、前記画像形成処理を適宜一時停止させながら前記並列制御を継続する手段である、
請求項6に記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記制御手段は、前記並列制御を中止して前記直列制御を行うときには、そのときの前記測定した距離が前記基準距離を上回るよう該基準距離を変更する手段である、
請求項7に記載の画像形成装置。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−125730(P2010−125730A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−303793(P2008−303793)
【出願日】平成20年11月28日(2008.11.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】