説明

画像形成装置

【課題】モータと感光ドラムの間の歯車減速機構において、小型化軽量化を妨げることなく、感光ドラムの微小な速度変動を抑制して、出力画像の高画質化を実現できる画像形成装置を提供する。
【解決手段】感光ドラム1Yのドラムギア軸10は、ベアリング18を用いて支持筐体16に回転自在に支持される。モータ13は、支持筐体16に固定され、駆動歯車の一例であるモーターギア14は、モータの駆動軸14に直接形成されている。従動歯車の一例であるドラムギア12は、モーターギア14と噛み合って感光ドラム1Yと一体に回転する。ドラムギア12に施すクラウニングの中心を感光ドラム1Y側に3mmオフセットすることにより、駆動中のアライメント誤差変動を吸収してドラムギア12の片当たりを回避している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、感光ドラム又はベルトユニットをモータで駆動する画像形成装置、詳しくはモータの駆動力を感光体又はベルトユニットに伝達する歯車のクラウニングに関する。
【背景技術】
【0002】
中間転写体又は記録材搬送体のベルトユニットに沿って現像色の異なる感光ドラムを配列したタンデム型の画像形成装置が実用化されている。画像形成装置では、タンデム型に限らず、感光ドラムに速度ムラが発生すると、感光ドラムに現像される走査線のピッチのむらが発生して画像品質が低下する。タンデム型の画像形成装置では、感光ドラム及びベルトユニットの回転速度ムラは、各色トナー像の位置合わせ誤差を拡大して色ずれを引き起す(特許文献1)。
【0003】
複数の感光ドラムのそれぞれにモータを設けて、モータ軸に設けた歯車と感光ドラムの回転軸に設けた歯車との間で1段減速して感光ドラムを駆動するタンデム型の画像形成装置が実用化されている(特許文献1)。歯車の噛み合い段数を減らすことで、複数の歯車の誤差が累積加算して発生する感光ドラムの回転速度ムラが抑制されるからである。
【0004】
近年、さらなる高画質化を達成するために、画像形成装置の感光ドラムには、さらなる微視的な回転速度変動の抑制が望まれている。歯車1枚ごとの噛み合わせの再現性を高めて、噛み合い周波数で発生するノイズ的な速度変動を抑制することが望まれている。噛み合い周波数で発生する微小な速度変動は、感光ドラムの回転ムラを発生して画像上のわずかな走査線ピッチムラとなって現れるからである。
【0005】
特許文献1には、フルカラー画像形成装置の4個の感光ドラムにそれぞれ1段の歯車減速機構を付設して、個別のモータで駆動する構成が示される。ここでは、従動歯車の歯面に、歯車厚み方向の両端に向かって次第に歯厚を薄くするクラウニングが施されている。これにより、従動歯車の厚み方向の縁で駆動歯車と従動歯車が動力伝達を行う片当たりを回避して感光ドラムの回転ムラを軽減している(図6参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−258353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、画像形成装置の小型化、軽量化が進められた結果、特許文献1のように感光ドラムの駆動系を構成しても、感光ドラムの速度変動が大きくなる傾向にある。速度変動を軽減するためには、歯車減速機構の軸を太くする、支持筐体の板厚を増す、歯車を厚くして両持ち支持する等、機構全体の機械的剛性を高める方法がある。しかし、この場合、画像形成装置の小型化軽量化が妨げられ、部品コストの上昇を招いてしまう。
【0008】
本発明は、モータと感光ドラムの間の歯車減速機構において、小型化軽量化を妨げることなく、感光ドラムの微小な速度変動を抑制して、出力画像の高画質化を実現できる画像形成装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の画像形成装置は、支持筐体に設けた軸受け部により回転自在に支持された感光体と、前記支持筐体に固定されたモータと、前記モータの駆動軸に配置された駆動歯車と、前記駆動歯車と噛み合って前記感光体と一体に回転する従動歯車とを備え、前記駆動歯車と前記従動歯車の少なくとも一方の歯面に、歯車厚み方向の両端に向かって次第に歯厚を薄くするクラウニングが施されたものである。そして、前記クラウニングは、歯面で最大加圧力を受ける歯車厚み方向の位置が前記感光体の駆動に伴って近付く側では、遠ざかる側よりも、歯車厚み方向の歯厚を薄くする割合を高めて施されている。
【発明の効果】
【0010】
本発明の画像形成装置によれば、歯車の厚み方向に非対称なクラウニング(図10参照)を施すことによって、対称なクラウニング(図6参照)を施す場合よりも大きな傾き角度まで片当たりを回避できる。このため、剛性の低い軽量化された駆動機構を用いても歯車伝達の片当たりに伴う感光体の回転速度ムラを低減できる。
【0011】
従って、モータと感光ドラムの間の歯車減速機構において、小型化軽量化を妨げることなく、感光ドラムの微小な速度変動を抑制して、出力画像の高画質化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】画像形成装置の構成の説明図である。
【図2】感光ドラムの駆動系の説明図である。
【図3】感光ドラムの駆動系の斜視図である。
【図4】クラウニングを施さない歯車伝達の説明図である。
【図5】対称クラウニングを施した従動歯車の斜視図である。
【図6】対称クラウニングを施した従動歯車の片当たりの説明図である。
【図7】片当たりを発生しないアライメント誤差範囲の測定結果である。
【図8】感光ドラムの駆動系の部分的な拡大図である。
【図9】非対称クラウンニングを施した従動歯車の斜視図である。
【図10】非対称クラウンニングを施した従動歯車の片当たりの説明図である。
【図11】実施例1による回転速度変動低減効果の測定結果の線図である。
【図12】ドラムモータの負荷トルクの測定結果の説明図である。
【図13】ドラムギアの変形量の説明図である。
【図14】中間転写ユニットの構成の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。本発明は、感光ドラムとモータの回転伝達系の歯車に、歯車厚み方向で非対象なクラウニング加工が施されている限りにおいて、実施形態の構成の一部または全部を、その代替的な構成で置き換えた別の実施形態でも実施できる。
【0014】
従って、感光ドラムを用いる画像形成装置であれば、タンデム型/1ドラム型、中間転写型/記録材搬送型/直接転写型の区別無く実施できる。本実施形態では、トナー像の形成/転写に係る主要部のみを説明するが、本発明は、必要な機器、装備、筐体構造を加えて、プリンタ、各種印刷機、複写機、FAX、複合機等、種々の用途で実施できる。
【0015】
なお、特許文献1に示される画像形成装置の一般的な事項については、図示を省略して重複する説明を省略する。
【0016】
<画像形成装置>
図1は画像形成装置の構成の説明図である。図1に示すように、画像形成装置100は、中間転写ユニット50に沿ってイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの画像形成部PY、PM、PC、PKを配列したタンデム型中間転写方式のフルカラープリンタである。
【0017】
画像形成部PYでは、感光ドラム1Yにイエロートナー像が形成されて中間転写ベルト55に一次転写される。画像形成部PMでは、感光ドラム1Mにマゼンタトナー像が形成されて中間転写ベルト55上のイエロートナー像に重ねて一次転写される。画像形成部PC、PKでは、それぞれ感光ドラム1C、1Kにシアントナー像、ブラックトナー像が形成されて、同様に中間転写ベルト55上に順次重ねて一次転写される。
【0018】
中間転写ベルト55に担持された四色のトナー像は、二次転写部T2へ搬送されて記録材Pへ一括二次転写される。四色のフルカラートナー像を二次転写された記録材Pは、中間転写ベルト55から曲率分離して定着装置40へ送り込まれる。定着装置40は、記録材Pを加熱加圧して表面にトナー像を定着させ、その後、記録材Pが機体外部へ排出される。
【0019】
画像形成部PY、PM、PC、PKは、現像装置4Y、4M、4C、4Kで用いるトナーの色がイエロー、マゼンタ、シアン、ブラックと異なる以外は、実質的に同一に構成される。以下では、イエローの画像形成部PYについて説明し、他の画像形成部PM、PC、PKについては、説明中の構成部材に付した符号の末尾のYをM、C、Kに読み替えて説明されるものとする。
【0020】
画像形成部PYは、感光ドラム1Yの周囲に、コロナ帯電器2Y、露光装置3Y、現像装置4Y、一次転写ローラ5Y、ドラムクリーニング装置6Yを配置している。
【0021】
感光ドラム1Yは、帯電極性が負極性の感光層をアルミニウムシリンダの基体上に形成して構成され、所定のプロセススピードで矢印R1方向に回転する。コロナ帯電器2Yは、感光ドラム1Yの表面を負極性の暗部電位VDに一様に帯電する。露光装置3Yは、レーザービームを回転ミラーで走査して、感光ドラム1Yの表面に画像の静電像を書き込む。
【0022】
現像装置4Yは、感光ドラム1Yに形成された静電像を反転現像してトナー像を形成する。一次転写ローラ5Yは、中間転写ベルト55の内側面を押圧して感光ドラム1Yと中間転写ベルト55の間に一次転写部TYを形成する。一次転写ローラ5Yに正極性の電圧を印加することにより、感光ドラム1Yに担持されたトナー像が中間転写ベルト55へ一次転写される。ドラムクリーニング装置6Yは、感光ドラム1Yにクリーニングブレードを摺擦させて、中間転写ベルト55への一次転写を逃れて感光ドラム1Yに残った転写残トナーを回収する。
【0023】
中間転写ベルト55は、テンションローラ52と駆動ローラ54と対向ローラ51に掛け渡して支持され、駆動ローラ54に駆動されて所定のプロセススピードで矢印R2方向に回転する。
【0024】
二次転写ローラ33は、対向ローラ51によって内側面を支持された中間転写ベルト55に当接して二次転写部T2を形成する。記録材カセット30から引き出された記録材Pは、分離ローラ31で1枚ずつに分離して、レジストローラ32へ送り出される。レジストローラ32は、停止状態で記録材Pを受け入れて待機させ、中間転写ベルト55のトナー像にタイミングを合わせて二次転写部T2へ記録材Pを送り出す。
【0025】
記録材Pが二次転写部T2を搬送される過程で、二次転写ローラ33に正極性の直流電圧が印加されることにより、フルカラートナー像が中間転写ベルト55から記録材Pへ二次転写される。
【0026】
<歯車伝達機構>
図2は感光ドラムの駆動系の説明図である。図3は感光ドラムの駆動系の斜視図である。
【0027】
図2に示すように、画像形成部PY、PM、PC、PKの感光ドラム1Y、1M、1C、1Kは、それぞれのドラム駆動部9Y、9M、9C、9Kによって個別に回転駆動される。ドラム駆動部9Y、9M、9C、9Kは、共通に構成され、歯車伝達機構におけるクラウニングも同様に実施されているため、以下では、モータ駆動機構9Yについて説明する。
【0028】
感光体の一例である感光ドラム1Yのドラムギア軸10は、ベアリング18を用いて支持筐体16に回転自在に支持される。モータ13は、支持筐体16に固定され、駆動歯車の一例であるモーターギア14は、モータの駆動軸14に直接形成されている。従動歯車の一例であるドラムギア12は、モーターギア14と噛み合って感光ドラム1Yと一体に回転する。感光ドラム1Yのドラムギア軸10の片持ち支持された先端に、慣性で回転速度変動を軽減するフライホイール15が連結されている。
【0029】
図3に示すように、ドラムモータ13が作動すると、モーターギア14が矢印R13方向に回転する。モーターギア14とドラムギア12が噛み合って、モーターギア14の回転がドラムギア12に伝達される。モーターギア14から伝達された回転駆動力により、ドラムシャフト10と感光ドラム1Yとドラムギア12とフライホイール15とが一体となって矢印R12方向に回転する。
【0030】
モーターギア14は、モータ13の出力軸を直接に切削加工して形成されている。ギア諸元は、外径9mm、モジュール0.6、圧力角20°、歯数12、はすば歯車のネジレ角20°である。
【0031】
ドラムギア12は、金属製の軸受け部の周囲に射出成形で樹脂製のギア部を形成している。ギア諸元は、外径124mm、厚み18mm、モジュール0.6、圧力角20°、歯数192、はすば歯車のネジレ角20°である。はすば歯車の歯面の傾きは図の実線12Lの方向に傾いている。ドラムギア12の円板部分は、厚み6mmまで肉厚を減らして軽量化を図っている。
【0032】
ところで、画像形成装置100における高画質化を妨げる要因として、感光ドラム1Yを駆動するモーターギア14とドラムギア12の噛み合いにより発生する噛み合い伝達誤差により、感光ドラム1Yに回転速度ムラが発生する。そして、その回転速度ムラが出力画像上に走査線のピッチムラとなって現れるという問題がある。
【0033】
そこで、モータ13と感光ドラム1Yの回転軸の間の歯車伝達機構においては、歯車の噛み合いによるトルク伝達を連続的にして回転速度ムラを抑制するために、はすば歯車を採用している。
【0034】
また、歯車伝達系の減速比を10以上にして、モータを高速度回転させることで、出力トルクムラを軽減している。減速比を大きくするほど、好ましくは10以上の減速比とすることで、感光ドラムの回転速度に対するモータの回転ムラの影響を軽減できる。
【0035】
また、歯車伝達系において定常的又は偶発的に発生する軸平行度及び歯面の噛み合い平行度の誤差を吸収するために、従動歯車と駆動歯車の少なくとも一方にクラウニングを施している。ドラムギア12の歯面に、歯車厚み方向の両端に向かって次第に歯厚を薄くするクラウニングが施されている。ドラムギア12をクラウニングギアにすることで、歯車厚み方向の端部に圧力集中する片当たりが回避され、モーターギア14とドラムギア12の噛み合い伝達誤差が低減される。ドラムギア12は、クラウン量70μmのクラウニングギアである。
【0036】
<クラウニングギア>
図4はクラウニングを施さない歯車伝達の説明図である。図5は対称クラウニングを施した従動歯車の斜視図である。図6は対称クラウニングを施した従動歯車の片当たりの説明図である。図7は片当たりを発生しないアライメント誤差範囲の測定結果である。
【0037】
図4中、(a)はギアの噛み合い、(b)は部分Aの拡大図、(c)はB−B断面の噛み合い状態の説明図、(d)は歯面に小さな傾きが発生して片当たりが発生した状態の説明図である。図6中、(a)は対称クラウニング、(b)は歯面に傾きが無い状態、(c)は歯面に小さな傾きが発生した状態、(d)は歯面に大きな傾きが発生した状態である。
【0038】
図4の(a)に示すように、クラウニングが施されていない駆動歯車G1と従動歯車G2とが部分Aで噛み合って駆動力を伝達している場合を考える。
【0039】
図4の(b)に示すように、ギアの歯はインボリュート曲線を描いており、ギアの歯の変形が無いとすると、理論上は1点で接触する。このため、部分Aの断面B−Bを取り出すと、図4の(c)のように、駆動歯車G1と従動歯車G2の歯面が線接触している。ただし、実際は、圧力を受けて変形するので、ある範囲で接触しており、これを接触面積と呼ぶ。図4の(c)のような方向で観察した図を噛み合うギアの歯スジ模式図と呼ぶ。
【0040】
図5に示すように、従動歯車G2にクラウニングを施すことで、特許文献1に示されるように、このような片当たりに起因するトルクムラ、回転速度ムラが軽減される。
【0041】
図6の(a)に示すように、クラウニングが施された従動歯車G2は、歯スジが膨らみを持つクラウニングギアである。
【0042】
図5の(b)に示すように、歯スジが直線の駆動歯車G1と歯スジが膨らみを持つ従動歯車G2とを噛み合わせている場合、駆動歯車G1と従動歯車G2の間に小さな傾きが発生しても片当たり状態にはならないで済む。このため、クラウニングギアは、噛み合い伝達誤差を低減する効果がある。
【0043】
すなわち、画像形成装置では、駆動歯車G1と従動歯車G2とがアライメント誤差を持つ場合がある。アライメント誤差とは、噛み合う駆動歯車G1と従動歯車G2のそれぞれの軸の倒れ、歯車の厚み方向の変形、軸と歯車の内径のガタなどにより、噛み合う歯車の歯スジが、平行でなくなることである。
【0044】
図4の(d)に示すように、クラウニングが施されず、歯スジが直線の場合、わずかなアライメント誤差が発生しても、噛み合う歯車が点接触で駆動トルクを伝達する片当たり状態となる。歯スジが直線の駆動歯車G1と従動歯車G2の間にわずかな傾きが発生しても、歯車厚み方向の歯面の縁のみが接触する片当たり状態となる。片当たり状態が発生すると、駆動歯車G1と従動歯車G2の歯面の接触面積が不安定になり、ギアの噛み合い伝達誤差が増大する。伝達トルクと伝達回転速度に歯車の噛み合いピッチ周期のトルクムラ、回転速度ムラが発生する。
【0045】
図6の(c)に示すように、歯スジが直線の駆動歯車G1とクラウニングが施されて歯スジが曲線の従動歯車G2とを噛み合わせている場合、アライメント誤差が発生した場合でも、片当たり状態にはならいで済む。矢印で示すように、従動歯車G2の厚み方向の中間位置でトルク伝達が行われ、加圧による面接触の接触面積が安定するため、噛み合い伝達誤差は、図4の(d)に示す歯スジが直線の歯車同士の場合ほどには増大しない。
【0046】
図6の(c)に示すように、アライメント誤差がある一定以下の場合、クラウニングギアは片当たりせず、噛み合い伝達誤差はそれほど増大しない。クラウニングギアが片当たりせず、噛み合い伝達誤差低減効果を発揮できるアライメント誤差の領域を、アライメント誤差許容領域と呼ぶ。
【0047】
図6の(d)に示すように、クラウニングギアの伝達誤差低減能力には限界が有る。クラウニングで吸収できないほどの大きなアライメント誤差が発生すると、矢印で示すように、片当たりが発生してしまう。大きなアライメント誤差が発生した場合は、クラウニングギアでも片当たりが発生し、クラウニングによる噛み合い伝達誤差低減効果が十分発揮されない。
【0048】
アライメント誤差許容領域は、クラウニングギアの膨らみ量(クラウン量)を大きくすることで広くなる。しかし、一方で、クラウン量を大きくすると歯面の加圧接触面積が小さくなり、噛み合い伝達誤差が増大する。クラウニングギアは、接触点を中心とする広がりを持った範囲が圧縮変形して面接触している。面接触の面積が大きいほどトルク伝達は円滑になり、トルク変動、速度変動も小さくなる。このため、クラウニング量を大きくすると、接触点を中心とする接触の広がりが狭くなって、伝達トルク変動、速度変動が増えてしまう。そのため、クラウン量は、できるだけ小さく決定することが望ましい。図6では理解を容易にするために歯厚の変化を誇張して示しているが、実際には数μm/mm程度の歯厚差に過ぎない。
【0049】
図7に示すように、モジュール0.5、歯数96、圧力角20°、ネジレ角20°、歯幅10mm、クラウン量30μmのクラウニングギア同士を噛み合わせてアライメント誤差許容領域を測定した。軸の平行度の傾きが±20minを超えると、片当たりが発生して噛み合い伝達誤差が急激に低下している。このため、クラウン量30μmのクラウニングギアの軸の平行度のアライメント誤差許容領域は、±20min程度であることが分かる。
【0050】
図3に示すように、はすば歯車のドラムギア12に回転負荷が掛かる場合、感光ドラム1Yの駆動に伴って定常的なアライメント誤差が発生する。ドラムギア12とモーターギア14は、ネジレ角20°のはすば歯車である。はすば歯車は、歯面が斜めに噛み合っているため、回転トルク伝達時、ドラムギア12のトルク伝達部に矢印R10方向のスラスト力が発生する。定常的なスラスト力により直径が大きくて比較的に剛性の小さいドラムギア12が倒れるように変形して、歯面が傾いた状態となる。この状態を中心にして駆動中のアライメント誤差変動が発生する。
【0051】
また、片持ちされたドラムギア12とモーターギア14に荷重が掛かる場合、ドラムギア軸10とモーターギア14に定常的なアライメント誤差が発生する。ドラムギア12とモーターギア14は、いずれも片持ち支持されているため、トルク伝達に伴って自由端側の軸間距離が拡大する方向に噛み合わせ歯面が傾いた状態となる。この状態を中心にして駆動中のアライメント誤差変動が発生する。なお、モーターギア14そのものは剛性が高くても、モータ13を取り付けたフレームの撓みによってモーターギア14に定常的なアライメント誤差が発生する。
【0052】
そして、これらのアライメント誤差がアライメント誤差許容領域を超える状態では、図6の(d)に示すように、クラウニングギアの噛み合い伝達誤差低減効果が十分発揮されない。以下の実施例では、これらの定常的なアライメント誤差に対して、クラウニングギアのアライメント誤差許容範囲をオフセットすることにより、駆動中のアライメント誤差変動を吸収し、片当たりを回避している。
【0053】
<実施例1>
図8は感光ドラムの駆動系の部分的な拡大図である。図9は非対称クラウンニングを施した従動歯車の斜視図である。図10は非対称クラウンニングを施した従動歯車の片当たりの説明図である。図11は実施例1による回転速度変動低減効果の測定結果の線図である。なお、図9、図10では、理解を容易にするために、実際のはすば歯車とは異なる平歯車を用いて非対称クラウニングを示している。
【0054】
図8に示すように、クラウニングを施したドラムギア12とクラウニングを施していないモーターギア14とが噛み合って、モータ13のトルクをドラムギア軸10に伝達している。実施例1では、後述する解析の結果、ドラムギア12の歯面で最大加圧力を受ける歯車厚み方向の位置が感光ドラム1Yの駆動に伴って近付く側は、感光ドラム1Y側であることが判明した。
【0055】
このため、ドラムギア12の感光ドラム1Y側では、フライホイール15側よりも、歯車厚み方向の歯厚を薄くする割合を高めるように、歯車厚み方向で非対称なクラウニングを施している。クラウニングの中心位置(クラウニングセンサCC)を歯車厚み方向の中心位置よりも感光ドラム1Yへ近付く側へ寄せている。
【0056】
図9に示すように、ドラムギア12の歯面に歯車厚み方向で非対称のクラウニングが施されている。ドラムギア12の定常的なアライメント誤差に対して、ドラムギア12のクラウニングによるアライメント誤差許容領域を矢印D方向にオフセットすることで、噛み合い伝達誤差低減能力を発揮させている。ドラムギア12の最小クラウニング位置(最大歯厚の位置)は、歯車厚み方向の中心よりも矢印D方向に3mmずらせている。
【0057】
図6の(a)に示す歯車厚み方向に対称なクラウニングの場合、図6の(d)に示すように、大きなアライメント誤差が発生すると、矢印で示すように接触位置が歯車厚み方向の縁に達して片当たり状態となる。これに対して、図10の(a)に示す歯車厚み方向に非対称なクラウニングの場合、図10の(d)に示すように、大きなアライメント誤差が発生しても、接触位置が歯車厚み方向の中間位置に収まって片当たり状態が回避される。
【0058】
図11に示すように、最小クラウニング位置(最大歯厚の位置)を図8の矢印D方向に3mmずらしたクラウニングギアのドラムギア12を持つ画像形成装置100で回転速度ムラ低減効果を確認した。画像形成装置100で4走査線ピッチで2走査線幅の等幅横線画像を出力し、感光ドラム1Yでレーザー反射光を測定して横線トナー像のピッチ間隔を測定し、そのデータを離散フーリエ変換したグラフが図11である。
【0059】
図11の(a)は、最小クラウニング位置が歯車厚み方向の中心にあるドラムギア12を用いた比較例の測定結果である。図11の(b)は、最小クラウニング位置を図8のD方向に3mmずらしたドラムギア12を用いた実施例1の測定結果である。
【0060】
図11の(b)の実施例1では、図11の(a)の比較例に比較して、ドラムギア12とモーターギア14の噛み合い周波数である216Hzのピッチムラが、低減されていることが判明した。感光ドラム1Yは毎秒0.89回転するため、ドラムギア12の歯数192から216Hzである。丸で囲んで示す噛み合い周波数216Hzにおける走査線のピッチムラは、比較例の0.45μmから実施例1の0.3μmへ、約3割低減されている。
【0061】
<オフセット量の検討結果>
図12はドラムモータの負荷トルクの測定結果の説明図である。図13はドラムギアの変形の説明図である。
【0062】
最小クラウニング位置(最大歯厚の位置)のオフセット量を決定するために行った検討を示す。ドラムギア12は、ネジレ角20°のはすば歯車なので、モーターギア14のトルクによりスラスト力(軸方向へ付勢する力)が発生して、ドラムギア12がフライホィール15側へ倒れるように変形して、歯面の定常アライメント誤差が発生する。
【0063】
図12に示すように、40秒間、画像形成装置100を作動させて、ドラムモータ13の負荷トルクを測定した結果、0.09Nm(約9kgf・mm)の負荷トルクが掛かっていた。これをドラムギア12に掛かるスラスト力fに変換すると次式となる。
【0064】
【数1】

【0065】
有限要素解析を用いてドラムギア12にスラスト力8N(約8.0×10−1kgf)の力をかけた際の倒れ変形量を算出した結果、図13の(a)に示すように、軸方向に4.04×10−2mmの倒れが発生する事が判明した。従って、図13の(b)に示すように、クラウニングギアの最小クラウニング位置(最大歯厚の位置)は、歯車厚み方向の片方の側にずらせている。歯車厚み方向の中心から、はすば歯車がドラムギア12に作用するスラスト荷重発生方向と反対方向(ドラムギア12が軸方向に変形する反対側)にずらせている。
【0066】
はすば歯車に起因するドラムギア12の倒れによって発生する定常アライメント誤差(歯面のネジレ角)δは次式となる。
【0067】
【数2】

【0068】
なお、モーターギア14の倒れ量は、ドラムギア12の倒れ量に対して、無視できるほど小さいので、詳細は省略する。モーターギア14は、金属なので、樹脂に比較してヤング率が約100倍あり、スラスト力の作用点が回転中心に近いため、倒れる方向のモーメントもごく小さいからである。
【0069】
次に、ドラムギア12とモーターギア14は、いずれも片持ち支持されているため、両者の噛み合い圧力角によって、軸同士の自由端側が軸間距離が広がる方向に倒れ、定常アライメント誤差が発生する。各ギア軸に掛かる力fは次式となる。
【0070】
【数3】

【0071】
有限要素解析を用いてドラムギア軸10およびモーターギア14に離間する方向の倒れ力8N(8.00×10−1kgf)を掛けた際の倒れを算出した。その結果、ドラムギア軸10の倒れは1.60×10−3mm、モーターギア14の倒れは1.46×10−3mmであることが判明した。
【0072】
両者の倒れにより発生する定常アライメント誤差(歯面のネジレ角)δは、次式で計算される。
【0073】
【数4】

【0074】
次に、ドラムギア軸10にはフライホイール15の重量が掛かっているので、ドラムギア軸はギア軸間が狭まる方向に倒れ、定常アライメント誤差(歯面のネジレ角)が発生する。
【0075】
有限要素解析を行いてドラムギア軸10にフライホイール15の荷重を掛けた際の倒れを算出した。その結果、ドラムギア軸10は、8.48×10−3mm倒れていることが判明した。
【0076】
ドラムギア軸10の倒れにより発生する定常アライメント誤差(歯面のネジレ角)δは次式となる。
【0077】
【数5】

【0078】
上記3つの定常アライメント誤差を打ち消すために必要な最小クラウニング位置(最大歯厚の位置)の歯車厚み方向の中心からのオフセット量Σを合計すると、図8のD方向を正として次式となる。
【0079】
【数6】

【0080】
以上の結果から、上述したように最小クラウニング位置を図8のD方向に3mmずらした。そして、図11を参照して説明したように、噛み合い周波数216Hzにおける走査線のピッチムラが約3割低減する効果が得られた。
【0081】
<実施例2>
図14は中間転写ユニットの構成の説明図である。
【0082】
図14に示すように、中間転写ユニット50の支持筐体56にはテンションローラ52と駆動ローラ54とが回転自在に支持され、ベルト部材の一例である中間転写ベルト55を駆動する駆動ローラ54は、モータ駆動機構57によって駆動される。モータ駆動機構57は、モータ63のモーターギア64をローラ軸60に固定したローラギア62に噛み合わせて、モータ63の出力トルクをローラ軸60に伝達して駆動ローラ54を回転させる。
【0083】
ローラ軸60は、ベアリング68を用いて支持筐体56に回転自在に支持される。モータ63は、支持筐体56に固定され、駆動歯車の一例であるモーターギア64は、モータの駆動軸に直接形成されている。従動歯車の一例であるローラギア62は、モーターギア64と噛み合って駆動ローラ54と一体に回転する。
【0084】
モータ63の出力軸から削り出して形成されたモーターギア64にはクラウニングが施されず、樹脂成形により形成されたローラギア62にクラウニングが施してある。そして、ローラギア62の最小クラウニング位置(最大歯厚の位置)は、歯車厚み方向の中心よりもモータ63方向にずらせてある。
【0085】
モーターギア64のギア諸元は、外径10mm、モジュール0.6、圧力角20°、歯数12、はすば歯車のネジレ角30°である。
【0086】
ローラギア12のギア諸元は、外径43mm、厚み10mm、モジュール0.6、圧力角20°、歯数60、はすば歯車のネジレ角30°である。
【0087】
<実施例3>
実施例1では画像形成装置の筐体構造に取り付けた感光ドラムの回転速度変動の抑制について説明した。しかし、本発明は、プロセスカートリッジの筐体構造に取り付けた感光ドラムの駆動部にも応用できる。いずれにせよ、上述した解析手法を用いて定常アライメント誤差量を見積り、その見積り結果に応じたクラウニングセンタのシフト量を決定すればよい。
【0088】
また、樹脂成形の場合、クラウニングを材料から削り出す必要がないため、非対称のクラウニングを施した歯車を安価に製造できる。また、樹脂材料の歯車は、金属軸に比較してヤング率が低いため、圧縮変形による接触面積が大きくなってトルク伝達の速度変動が小さくて済む。しかし、金属軸の歯車に非対称のクラウニングを施してもかまわない。噛み合う歯車の少なくとも一方に非対称のクラウニングを施すことにより、速度変動ノイズが抑制される。
【符号の説明】
【0089】
PY、PM、PC、PK 画像形成部
1Y、1M、1C、1K 感光ドラム
2Y、2M、2C、2K コロナ帯電器
3Y、3M、3C、3K 露光装置
4Y、4M、4C、4K 現像装置
5Y、5M、5C、5K 一次転写ローラ
9Y、9M、9C、9K ドラム駆動部
54 駆動ローラ、55 中間転写ベルト
10 ドラムシャフト、12 ドラムギア
13 モータ、14 モーターギア
15 フライホイール
16 クラウニングギアの歯
17 ギアの歯スジ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持筐体に設けた軸受け部により回転自在に支持された感光体と、前記支持筐体に固定されたモータと、前記モータの駆動軸に配置された駆動歯車と、前記駆動歯車と噛み合って前記感光体と一体に回転する従動歯車とを備え、前記駆動歯車と前記従動歯車の少なくとも一方の歯面に、歯車厚み方向の両端に向かって次第に歯厚を薄くするクラウニングが施された画像形成装置において、
前記クラウニングは、歯面で最大加圧力を受ける歯車厚み方向の位置が前記感光体の駆動に伴って近付く側では、遠ざかる側よりも、歯車厚み方向の歯厚を薄くする割合を高めて施されていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記クラウニングは、歯車厚み方向の両端における歯厚を等しくして、最大歯厚となる歯車厚み方向の位置を歯車厚み方向の中心位置よりも前記近付く側へ寄せて施されていることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記従動歯車は、前記駆動歯車からの減速比を10以上として樹脂成形され、
前記駆動歯車は、前記モータの金属軸に直接形成され、
前記従動歯車のクラウニングは、前記最大歯厚となる歯車厚み方向の位置を、前記感光体の駆動に伴って前記駆動歯車に対して前記従動歯車が軸方向へ変形する反対側へ寄せて施されていることを特徴とする請求項2記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記従動歯車のクラウニングは、前記最大歯厚となる歯車厚み方向の位置を、前記感光体の駆動に伴って前記駆動歯車と前記従動歯車の軸間距離が拡大する反対側へ寄せて施されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記駆動歯車は、前記モータから片持ち支持され、
前記従動歯車は、前記軸受け部を挟んだ前記感光体の反対側で片持ち支持されていることを特徴とする請求項4に記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記従動歯車を挟んで前記軸受け部と反対側となる片持ち端部に前記感光体と一体に回転するフライホィールが配置され、
前記従動歯車のクラウニングは、前記最大歯厚となる歯車厚み方向の位置を、歯面で最大加圧力を受ける歯車厚み方向の位置が前記フライホィールの重量によって近付く反対側へ寄せて施されていることを特徴とする請求項5に記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記駆動歯車と前記従動歯車は、はすば歯車であって、
前記従動歯車のクラウニングは、前記最大歯厚となる歯車厚み方向の位置を、はすば歯車の歯面を通じて前記従動歯車が軸方向に付勢される反対側へ寄せて施されていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項8】
支持筐体に回転自在に支持されてベルト部材を駆動する駆動ローラと、前記支持筐体に固定されたモータと、前記モータの駆動軸に配置された駆動歯車と、前記駆動歯車と噛み合って前記駆動ローラと一体に回転する従動歯車とを備え、前記駆動歯車と前記従動歯車の少なくとも一方の歯面に、歯車厚み方向の両端に向かって次第に歯厚を薄くするクラウニングが施された画像形成装置において、
前記クラウニングは、歯面で最大加圧力を受ける歯車厚み方向の位置が前記ベルト部材の駆動に伴って近付く側では、遠ざかる側よりも、歯車厚み方向の歯厚を薄くする割合を高めて施されていることを特徴とする画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2011−221164(P2011−221164A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88446(P2010−88446)
【出願日】平成22年4月7日(2010.4.7)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】