説明

画像形成装置

【課題】シートからの画像の剥離を抑制する画像形成装置及び定着装置を提供する。
【解決手段】画像形成装置は、シートSを搬送する搬送要素CVと、シートSに、液体現像剤を用いて画像を形成する画像形成部と、シートS上の画像を摺擦して画像を定着させる定着装置50とを含み、定着装置50は、回転中心を有し、シートSに面接触した状態で回転中心回りに回転しつつ画像を摺擦する摺擦面54と、摺擦面54を回転中心回りに回転させる駆動源52とを含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに画像を形成する画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
シートに画像を形成する装置として、液体現像剤を用いる画像形成装置が知られている。この種の画像形成装置は、典型的には、シート上に画像を定着させるための定着装置を備える。定着装置は、シート上に転写された液体現像剤中のトナー成分を溶融するために、比較的高い熱を生じさせる(例えば、特許文献1及び特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−90116号公報
【特許文献2】特開2009−98474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
高分子化合物をキャリア液に溶解した樹脂溶液と顔料をキャリア液に分散した顔料分散体を混合した液体現像剤は、液体現像剤中のキャリア液がシート内に浸透することによって、高分子化合物がシート表面に析出し、顔料を包埋した状態でシート表面に定着させるので、定着装置からの発熱を不要にする。しかしながら、本発明者は、上述の特性を有する液体現像剤を用いて形成された画像は、シートから剥離しやすいという特性を見出した。
【0005】
本発明は、シートからの画像の剥離を抑制する画像形成装置及び定着装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る画像形成装置は、シートを搬送する搬送要素と、前記シートに、液体現像剤を用いて画像を形成する画像形成部と、前記シート上の前記画像を摺擦して該画像を定着させる定着装置とを含み、前記定着装置は、回転中心を有し、前記シートに面接触した状態で前記回転中心回りに回転しつつ前記画像を摺擦する摺擦面と、前記摺擦面を前記回転中心回りに回転させる駆動源とを含む。
【0007】
本発明に係る画像形成装置によれば、摺擦面は、駆動源により、シートに面接触した状態で回転中心回りに回転しつつ画像を摺擦する。そのため、画像をローラで摺擦する構成と比較して、画像が摺擦面によって擦られる時間が長くなる。これにより、画像を形成する液体現像剤中の成分が、シートの表層内に入り込み易くなる。その結果、画像の定着時間が短縮されると共に、画像の剥離が好適に抑制される、つまり画像の定着強度が向上する。
【0008】
本発明の好ましい実施形態では、前記搬送要素は、前記シートを所定の搬送速度で搬送し、前記駆動源は、前記摺擦面が接線方向において所定の線速度を有するように前記摺擦面を回転させ、前記線速度は、前記搬送速度よりも大きく設定されている。
【0009】
この構成によれば、摺擦面の線速度がシートの搬送速度よりも大きく設定されている。これにより、画像が摺擦面によって擦られる時間が長くなる。その結果、画像を形成する液体現像剤中の成分が、シートの表層内に入り込み易くなる。
【0010】
本発明の他の好ましい実施形態では、前記液体現像剤は、キャリア液を含み、前記画像は、カラー画像であり、前記摺擦面は、前記シートの搬送方向と直交する方向に配置された第1摺擦面および第2摺擦面を含む。
【0011】
この構成によれば、摺擦面が複数配置されている。これにより、キャリア液量が増加するカラー画像が定着される場合であっても、キャリア液がシートの表層内に入り込み易くなる。
【0012】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記駆動源は、前記第1摺擦面を第1回転方向に回転させると共に、前記第2摺擦面を、前記第1回転方向とは反対の第2回転方向に回転させる。
【0013】
この構成によれば、第1摺擦面および第2摺擦面は、互いに反対の方向に回転しつつ画像を摺擦する。そのため、シートは、伸ばされながら擦られる。その結果、シートにシワが発生することが抑制される。
【0014】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記摺擦面は、不織布からなり、前記画像を摺擦する不織布層から形成されており、前記不織布層は、その層表面と前記画像とが面接触した状態で前記画像を摺擦する。
【0015】
この構成によれば、摺擦面として、不織布からなる不織布層が用いられている。これにより、摺擦面を画像に面接触させることが容易である。
【0016】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記不織布は、0.50以下の動摩擦係数を有する。
【0017】
この構成によれば、動摩擦係数の低い不織布が用いられているので、シートの搬送への影響を低減することができると共に、摺擦動作に起因する画像の損傷を抑制することができる。
【0018】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記定着装置は、多数のブラシ毛を有し、前記ブラシ毛で前記画像を摺擦する摺擦ブラシを含み、前記摺擦面は、前記多数のブラシ毛の先端で形成されている。
【0019】
この構成によれば、多数のブラシ毛を有する摺擦ブラシで画像を摺擦する。ブラシ毛の材料、繊度、密度、長さ等を適宜調整することで、シートの搬送への影響を低減することができると共に、摺擦動作に起因する画像の損傷を抑制することができる。
【0020】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記定着装置は、多数のブラシ毛を有し、前記ブラシ毛で前記画像を摺擦する第1摺擦ブラシおよび第2摺擦ブラシを含み、前記第1摺擦面は、前記第1摺擦ブラシの前記多数のブラシ毛の先端で形成されており、前記第2摺擦面は、前記第2摺擦ブラシの前記多数のブラシ毛の先端で形成されており、前記第1摺擦ブラシの前記ブラシ毛と、前記第2摺擦ブラシの前記ブラシ毛とは、前記直交方向において互いに接触するように配置されている。
【0021】
この構成によれば、第1摺擦ブラシのブラシ毛と第2摺擦ブラシのブラシ毛とが、シートの搬送方向と直交する方向において互いに接触する。これにより、画像が摺擦されない非摺擦領域の発生が抑制される。
【0022】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、定着装置は、さらに、前記摺擦ブラシと前記画像との間の接触面の接触面積を変更する接触面積変更機構と、前記接触面積変更機構を制御する制御部とを含む。前記接触面積変更機構は、前記接触面積を、第1接触面積と前記第1接触面積よりも大きい第2接触面積との間で切り替える。前記シートは、第1厚み寸法を有する第1シートと、前記第1厚み寸法よりも大きい第2厚み寸法を有する第2シートとを含む。前記制御部は、前記第1シートが搬送されるとき、前記接触面積変更機構を制御して前記接触面積を前記第1接触面積に切り替え、前記第2シートが搬送されるとき、前記接触面積変更機構を制御して前記接触面積を前記第2接触面積に切り替える。
【0023】
この構成によれば、制御部は、シートの厚み寸法に応じて摺擦ブラシと画像との間の接触面の接触面積を変更する。具体的には、制御部は、第1厚み寸法を有する第1シートのとき、接触面積変更機構を制御して接触面積を第1接触面積に切り替え、第1厚み寸法より大きい第2厚み寸法を有する第2シートのとき、接触面積変更機構を制御して接触面積を第1接触面積よりも大きい第2接触面積に切り替える。これにより、シートの厚み寸法に応じて画像が擦られる時間が適宜変更される。その結果、シートの厚み寸法が異なっていても、画像を形成する液体現像剤中の成分を、シートの表層内に浸透させ易くなる。
【0024】
本発明のさらに他の好ましい実施形態では、前記定着装置は、さらに、前記摺擦ブラシが取り付けられたブラシ取付け面を有するブラシ支持部材と、前記駆動源に連結された一端部と、前記ブラシ支持部材に連結された他端部とを有し、前記ブラシ取付け面に対して垂直方向に延び、前記駆動源によって回転するシャフトとを含む。前記接触面積変更機構は、前記シャフトを延長した仮想線と前記接触面を延長した仮想面との交差角度を、第1角度と前記第1角度よりも大きい第2角度との間で切り替えることが可能に構成されており、前記交差角度を前記第1角度に切り替えることにより、前記接触面積を前記第1接触面積に切り替え、前記交差角度を前記第2角度に切り替えることにより、前記接触面積を第2接触面積に切り替える。前記制御部は、前記第1シートが搬送されてきたとき、前記接触面積変更機構を制御して前記交差角度を前記第1角度に切り替え、前記第2シートが搬送されてきたとき、前記接触面積変更機構を制御して前記交差角度を前記第2角度に切り替える。
【0025】
この構成によれば、シャフトを延長した仮想線と接触面を延長した仮想面との交差角度が、第1角度と第2角度との間で切り替えられることで、接触面積が第1接触面積と第2接触面積との間で切り替えられる。この構成では、ブラシ毛を有する摺擦ブラシが用いられているので、交差角度の切り替え、ひいては接触面積の切り替えが容易である。
【発明の効果】
【0026】
本発明に係る画像形成装置によれば、画像が摺擦面によって擦られる時間が長くなる。これにより、画像を形成する液体現像剤中の成分が、シートの表層内に入り込み易くなる。その結果、画像の定着時間が短縮されると共に、画像の剥離が好適に抑制される、つまり画像の定着強度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】液体現像剤を用いた転写工程を概略的に示す模式図である。
【図2】図1に示される転写工程後の定着工程の原理を概略的に示す模式図である。
【図3】擦り時間と定着率との関係を概略的に示すグラフである。
【図4】様々な不織布材料に対するスクリーニング試験の結果を概略的に示すグラフである。
【図5】第1実施形態に係る定着装置、および搬送装置を示す概略的な模式図である。
【図6】摺擦部材の外観斜視図である。
【図7】摺擦部材および無端ベルトの平面図である。
【図8】第2実施形態に係る定着装置、および搬送装置を示す概略的な模式図である。
【図9】摺擦部材の外観斜視図である。
【図10】摺擦部材および無端ベルトの平面図である。
【図11】定着装置の概略的な模式図であり、摺擦領域の領域面積が第1領域面積に切り替えられた状態を示す。
【図12】定着装置の概略的な模式図であり、摺擦領域の領域面積が第2領域面積に切り替えられた状態を示す。
【図13】摺擦部材および無端ベルトの平面図であり、第2実施形態の変形例を示す。
【図14】第1実施形態の変形例の定着装置、および搬送装置を示す概略的な模式図である。
【図15】第1実施形態に係る定着装置が搭載された画像形成装置を概略的に示す断面図である。
【図16】循環装置の部分を除いた画像形成装置の概略断面図である。
【図17】図15に示される画像形成装置の画像形成ユニットの一つを拡大して示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照しつつ、定着原理、定着装置、定着装置が搭載された画像形成装置並びに液体現像剤が説明される。尚、以下の説明で用いられる「上」、「下」、「左」や「右」などの方向を表す用語は、単に、説明の明瞭化を目的とするものであり、限定的に解釈されることを意図するものではない。
【0029】
<定着原理>
図1は、液体現像剤を用いた画像の転写工程を概略的に説明する図である。図1(a)乃至図1(c)の順に、転写工程が進行する。図1を参照しつつ、シートへの画像の転写並びに転写後の画像が説明される。
【0030】
図1(a)は、像担持体100からシートSへ転写される画像を形成する液体現像剤の液層Lの概略的断面を示す。像担持体100は、例えば、液体現像剤を用いて画像を形成する画像形成装置(例えば、プリンタ、コピー機、ファクシミリ装置やこれらの機能を備える複合機)が備える転写ベルトであってもよい。像担持体100は、画像を形成する液体現像剤の液層LをシートSへの転写位置まで搬送する。
【0031】
転写位置において、シートSは、像担持体100上の液層Lに接触する。画像を形成する液体現像剤の液層Lは、キャリア液Cと、画像を発色させるための着色粒子Pと、キャリア液C中に溶解又は膨潤された高分子化合物Rとを含む。キャリア液C中に分散された着色粒子Pは、シートSに静電気的に引きつけられる。かくして、着色粒子Pは、シートS上に付着し、画像を形成する。尚、着色粒子PのシートSへの引きつけは、例えば、シートSを横切る電界によって達成される。着色粒子PのシートSへの引きつけに関する原理は、後述の画像形成装置に関連して詳述される。
【0032】
図1(b)は、シートSに浸透するキャリア液Cを概略的に示す。比較的低い動粘度を有するキャリア液Cは、シートSに浸透し、浸透層PLをシートSの表層に形成する。シートSへのキャリア液Cの浸透に伴って、液体現像剤の液層L中の高分子化合物Rの濃度は増大する。
【0033】
図1(c)に示される如く、キャリア液Cが更にシートSに浸透すると、液層L中の高分子化合物Rは析出する。上述の如く、着色粒子PのシートSへの静電気的付着は、高分子化合物Rの析出より先に生ずる。したがって、シートSの表面に析出した高分子化合物Rは、シートS上で画像を形成する着色粒子Pの層上に積層された被膜層を形成する。
【0034】
図2は、転写工程後に行われる定着工程を概略的に説明する図である。図2(a)は、定着工程を概略的に示す。図2(b)は、定着工程後のシートSの概略的な断面図である。図1及び図2を用いて、定着工程の原理が説明される。
【0035】
転写工程後、キャリア液Cは、シートSに略浸透され、シートS上に高分子化合物Rと、着色粒子Pとを含む画像層Iが形成される。転写工程において、画像層Iには、像担持体100からシートSへ液層L(画像)を転写する際の圧力及び電界を除いて、物理的な力はほとんど加えられない。このため、定着工程前において、画像層IとシートSとの間の物理的な結合は、比較的弱く、後述されるテープを用いた剥離試験を行うと、画像層Iの顕著な剥離が生ずることとなる。
【0036】
図2(a)には、定着装置及び/又は摺擦要素として例示される摺擦板200が示される。摺擦板200は、例えば、略直方体形状の基板210と、基板210の表面を被覆する不織布220とを備える。本実施形態において、画像層Iに対向する摺擦板200の下面を形成する不織布220の層が摺擦面として例示される。本実施形態において、不織布220として、ポリプロピレン不織布が用いられる。代替的に、0.10の動摩擦係数を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylen)製の不織布(以下、PTFEフェルトAと称される)、0.13の動摩擦係数を有するポリテトラフルオロエチレン(PTFE:Polytetrafluoroethylen)製の不織布(以下、PTFEフェルトBと称される)、ポリエステルフェルト、ポリエチレンテレフタレート製のフェルト(以下、PETフェルトと称される)、ポリアミドフェルトや羊毛フェルトが不織布220として用いられてもよい。
【0037】
シートS上に形成された画像層I上に載置された摺擦板200は、シートSの上面に沿って画像層I上を移動する。この結果、図2(b)に示される如く、画像層Iの成分(着色粒子P及び/又は高分子化合物R)の一部がシートSの表層内に食い込む(アンカー効果)。かくして、画像層IとシートSとの物理的な結合が強められる。
【0038】
上述の如く、画像層Iの上面は、高分子化合物Rに覆われる。したがって、画像を発色させる着色粒子Pは、形成された高分子化合物Rの皮膜層によって覆われているが、摺擦板200の摺擦動作によってさらに強固な樹脂皮膜が形成され、適切に保護される。かくして、摺擦板200の摺擦に起因する画像の損傷は適切に抑制される。
【0039】
<試験例>
図3は、摺擦板200が画像層Iに摺擦移動しているときの期間(擦り時間)と画像層Iの定着率との関係を概略的に示すグラフである。図2及び図3を用いて、擦り時間と定着率との関係が説明される。
【0040】
図3のグラフの横軸に示される擦り時間は、画像層I中の所定の領域が、往復移動している摺擦板200に接触している間の時間長さを表す。
【0041】
図3のグラフの縦軸に示される定着率FRは、以下に示される数式を用いて算出されている。ここで、Dは、画像層I上に帖着されたテープを剥離する前の画像の濃度を表し、Dは、画像層I上に帖着されたテープを剥離した後の画像の濃度を表す。
【0042】
【数1】

【0043】
定着率FRの評価に用いられたテープは、3M社製のメンディングテープであった。メンディングテープは、専用の治具を用いて画像層I上に帖着された。したがって、図3のグラフに表されるデータ点間において、テストサンプル中の画像層Iとメンディングテープとの帖着強度は略一定に保たれている。また、テストサンプル中の画像層Iに打擲されたメンディングテープは、専用の治具を用いて、略一定の剥離角度及び略一定の剥離速度で、画像層Iから剥離された。
【0044】
テストサンプルの画像の濃度は、サカタインクスエンジニアリング株式会社製の分光光度計スペクトロアイを用いて測定された。
【0045】
図3に示される如く、1秒以上、画像層Iが摺擦されると、画像層Iは比較的高い定着率FRを達成することが分かる。また、1秒未満の擦り時間では、画像層Iの定着率FRは急激な増加を示すことが分かる。尚、摺擦板200の重量は、好ましくは、画像層Iの表面の傷の発生が抑制されるように適切に定められる。
【0046】
図4は、様々な種類の不織布220と、定着率FRとの関係を概略的に示すグラフである。図2乃至図4を用いて、不織布220の種類と定着率FRとの関係が説明される。
【0047】
図4の横軸は、不織布220の種類を示す。本試験において、PTFEフェルトA、PTFEフェルトB、ポリプロピレン不織布、ポリエステルフェルト、PETフェルト、ポリアミドフェルト及び羊毛フェルトが示されている。
【0048】
図4の左側の縦軸は、上述の定着率FRを示す。定着率FRは、図4の棒グラフによって表される。尚、本試験で用いられた上述の全ての種類の不織布220は、1秒を超える擦り時間において、比較的高い定着率FRを達成した。したがって、比較的有利な種類の不織布220のスクリーニングのために、図4に示される定着率FRは、0.625秒の擦り時間の下、算出されている。
【0049】
図4の右側の縦軸は、図4中の点によって表される各種類の不織布220の動摩擦係数を示す。低い動摩擦係数は、シートSの搬送への影響の低減及び画像層Iへの損傷の低減の点から有利である。
【0050】
図4に示される如く、PTFEフェルトAは、最も低い動摩擦係数を有するとともに最も高い定着率FRを達成している。したがって、テストされた種類の不織布220のうちPTFEフェルトAが最も有利であるということが分かる。尚、不織布220として、図4に示されていない不織布材料が用いられてもよい。好ましくは、0.50以下の動摩擦係数を有する不織布材料が不織布220として用いられる。0.50以下の動摩擦係数を有する不織布材料は、シートSの搬送への影響及び画像層Iへの損傷を好適に抑制することができる。
【0051】
<定着装置>
(第1実施形態)
図5は、第1実施形態に係る定着装置50及び搬送装置CVを示す概略的な模式図である。画像層Iが形成されたシートSは、搬送装置CVによって定着装置50に搬送される。搬送装置CVは、ベルトユニット70と、ベルトユニット70の上流に配設される上流ガイドユニット76と、ベルトユニット70の下流に配設される下流ガイドユニット77とを含む。シートSは、上流ガイドユニット76に案内され、ベルトユニット70に送られる。その後、シートSは、ベルトユニット70によって、下流ガイドユニット77へ送られる。
【0052】
ベルトユニット70は、駆動ローラ72と、従動ローラ73と、駆動ローラ72と従動ローラ73との間で延びる無端ベルト71と、無端ベルト71に張力を与えるテンションローラ75とを含む。駆動ローラ72の回転により、無端ベルト71は、駆動ローラ72、従動ローラ73およびテンションローラ75の周囲で周回する。従動ローラ73およびテンションローラ75は、無端ベルト71の周回にしたがって回転する。この結果、上流ガイドユニット76から無端ベルト71上に送り出されたシートSは、無端ベルト71の周回に従って下流ガイドユニット77へ向かう。シートSは、搬送速度Vで上流ガイドユニット76から下流ガイドユニット77へ搬送される。符号Tは、シートSが上流ガイドユニット76からベルトユニット70によって下流ガイドユニット77へ向かう方向を示す。ベルトユニット70は、搬送要素として例示される。
【0053】
ベルトユニット70は、さらに、無端ベルト71の内側に配置されたバックアップローラ74を含む。バックアップローラ74は、駆動ローラ72と従動ローラ73との間の位置で、かつテンションローラ75とは反対側の位置で無端ベルト71の内面に当接している。
【0054】
定着装置50は、シートS上の画像層Iを摺擦して画像層Iを定着させる。定着装置50は、無端ベルト71を挟んでバックアップローラ74とは反対側に配置された摺擦部材51と、摺擦部材51を駆動する駆動源52とを含む。
【0055】
摺擦部材51は、支持部材53と、不織布層54と、シャフト55とを含む。
【0056】
図6は、摺擦部材51の外観斜視図である。支持部材53は円筒形状を有する部材である。支持部材53は、無端ベルト71側に向く端面である第1支持面53aと、軸方向において第1支持面53aとは反対側に位置する端面である第2支持面53bを有する。第1支持面53aおよび第2支持面53bは略円形である。
【0057】
不織布層54は、シートS上の画像層Iを摺擦する。不織布層54は、不織布からなり、第1支持面53aの全体にわたって取り付けられており、平面視で円形形状を有する。不織布は、図4に関連して挙げられた不織布が用いられる。不織布の動摩擦係数は、0.50以下である。ベルトユニット70のバックアップローラ74は、不織布層54の層表面54aとの間の面圧が例えば0.2g/mmとなるように配置されており、したがって、不織布層54は、無端ベルト71と面接触した状態に維持されている。不織布層54における無端ベルト71と接触する層表面54aが、摺擦面を形成する。不織布層54の層厚は、不織布層54と画像層Iとの間で円滑な接触が得られるように適宜設定される。
【0058】
不織布層54は、画像層Iに面接触した状態で画像層Iを摺擦する摺擦領域CRを有する。摺擦領域CRについて、図5および図6に加え、図7を参照して説明する。図7は、摺擦部材51および無端ベルト71の平面図である。シャフト55は、一方の端部が支持部材53の中心軸と一致する位置で支持部材53の第2支持面53bに固定されている。駆動源52は、シャフト55の他方の端部に連結された、例えばモータであり、図7ではシャフト55を時計回りに回転させる。不織布層54は、支持部材53の中心軸およびシャフト55の回転軸と一致する回転中心Oを有する。シャフト55が回転すると、支持部材53が中心軸回りに回転し、支持部材53の第1支持面53aに取り付けられた不織布層54が無端ベルト71に接触した状態で回転中心O回りに回転する。
【0059】
摺擦領域CRは、シートSの搬送方向Tから見て不織布層54の回転中心Oよりも下流側に設定された領域であり、平面視で略半円形状を呈する。不織布層54は、摺擦領域CRにおいてのみ無端ベルト71に接触し、摺擦領域CRにおいて無端ベルト71との間でニップ部Nを形成する。不織布層54は、ニップ部Nにおいて摺擦領域CRの全体にわたってシートSに面接触する。摺擦領域CRが半円形状となるように、無端ベルト71に対するバックアップローラ74の当接位置や、摺擦部材51のシャフト55の傾斜角度が適宜調整される。
【0060】
したがって、不織布層54は、シートSがニップ部Nに搬送されてきたとき、摺擦領域CRにおいてシートSに面接触した状態で回転中心O回りに回転しつつ、画像層Iを摺擦する。図7では、シートSの搬送方向Tにおける先端部が摺擦領域CRにおいて面接触した状態が示されている。
【0061】
第1実施形態では、シャフト55によって回転される支持部材53の接線方向における線速度、つまり不織布層54の線速度LVは、シートSの搬送速度Vよりも大きく設定することができる。また、支持部材53の直径、つまり不織布層54の直径Dは、シートS搬送方向Tと直交するシート幅寸法Wよりも大きく設定されている。これにより、画像層I全体が摺擦される。
【0062】
以上説明した第1実施形態に係る定着装置50によれば、不織布層54は、摺擦領域CRにおいてシートSに面接触した状態で回転中心O回りに回転しつつ、画像層Iを摺擦する。そのうえ、不織布層54の線速度LVは、シートSの搬送速度Vよりも大きく設定することができる。そのため、シートSに線接触しつつ画像層Iを摺擦するローラを用いる構成と比較して、画像層Iが不織布層54によって擦られる時間が長くなる。これにより、画像層Iを形成する液体現像剤中の成分が、シートSの表層内に入り込み易くなる。その結果、画像層Iの定着時間が短縮されると共に、画像層Iの剥離が好適に抑制される、つまり画像層Iの定着強度が向上する。
【0063】
また、第1実施形態では、不織布からなる不織布層54が摺擦面として用いられているので、シートSに対して面接触させる構成を容易に達成することができる。
【0064】
さらに、不織布層54を形成する不織布は0.50以下の動摩擦係数を有するので、シートSの搬送への影響を低減することができると共に、摺擦動作に起因する画像層Iの損傷を抑制することができる。
【0065】
なお、第1実施形態では、不織布層54の平面形状を円形形状とした場合につき説明したが、不織布層54の平面形状は、特に限定されない。不織布層54の平面形状は、例えば、不織布層54における摺擦領域CRが設定されない中心部を省略したリング状としてもよい。
【0066】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態に係る定着装置500及び搬送装置CVを示す概略的な模式図である。画像層Iが形成されたシートSは、搬送装置CVによって定着装置500に搬送される。搬送装置CVの構成は、図5を参照して説明した通りである。定着装置500は、シートS上の画像層Iを摺擦して画像層Iを定着させる。定着装置500は、無端ベルト71を挟んでバックアップローラ74とは反対側に配置された摺擦部材510と、摺擦部材510を駆動する駆動源52とを含む。
【0067】
摺擦部材510は、支持部材53(ブラシ支持部材)と、摺擦ブラシ60と、シャフト55とを含む。
【0068】
支持部材53は、図5および図6に示すものと同様に、円筒形状を有する部材である。支持部材53は、無端ベルト71側に向く端面である第1支持面53aと、軸方向において第1支持面53aとは反対側に位置する端面である第2支持面53bを有する。第1支持面53aおよび第2支持面53bは略円形である。
【0069】
摺擦ブラシ60は、シートS上の画像層Iを摺擦する。摺擦ブラシ60は、支持部材53の第1支持面53a(ブラシ取付け面)の全体を覆うように取り付けられている。摺擦ブラシ60は平面視で円形形状を有する。摺擦ブラシ60は、無端ベルト71側に向くブラシ面60aを有しており、ブラシ面60aに、多数のブラシ毛61が植設されている。ブラシ毛61は、ブラシ面60aの周縁において植設されている。ブラシ毛61の材料として、導電性レーヨンやポリエステルをパイル状にした織物が挙げられる。導電性レーヨンを用いる場合、パイル繊度は300D/100Fであり、ポリエステルを用いる場合、パイル繊度は75D/12Fである。
【0070】
摺擦ブラシ60のブラシ毛61の先端は、無端ベルト71に押し付けられて撓んだ状態で無端ベルト71に接触している。したがって、摺擦ブラシ60は、多数のブラシ毛61が撓んだ状態では無端ベルト71に対して面接触する。ブラシ毛61の撓んだ先端が摺擦面を形成する。摺擦ブラシ60のブラシ毛61は、無端ベルト71に対する面圧が例えば0.2g/mmとなるように無端ベルト71に対して押し付けられている。ブラシ毛61は、所定の面圧が得られるように、上述したパイル繊度だけではなく、密度や長さ等が適宜設定されている。
【0071】
摺擦ブラシ60は、画像層Iに面接触した状態で画像層Iを摺擦する摺擦領域CRを有する。摺擦領域CRについて、図8および図9に加え、図10を参照して説明する。図10は、摺擦部材510および無端ベルト71の平面図である。シャフト55が支持部材53の中心軸と一致する位置で支持部材53の第2支持面53bに固定されていること、および駆動源52がシャフト55に連結された、例えばモータであり、図10ではシャフト55を時計回りに回転させることは、図5〜図7を参照して説明した構成と同一である。摺擦ブラシ60は、支持部材53の中心軸およびシャフト55の回転軸と一致する回転中心Oを有する。シャフト55が回転すると、支持部材53が中心軸回りに回転し、支持部材53の第1支持面53aに取り付けられた摺擦ブラシ60は、多数のブラシ毛61が無端ベルト71に接触して撓んだ状態で回転中心O回りに回転する。
【0072】
摺擦領域CRは、シートSの搬送方向Tから見て摺擦ブラシ60の回転中心Oよりも下流側に設定された領域であり、平面視で円弧状を呈する。摺擦ブラシ60のブラシ毛61は、摺擦領域CRにおいてのみ無端ベルト71に接触し、摺擦領域CRにおいて撓んだ状態で無端ベルト71との間でニップ部Nを形成する。摺擦ブラシ60のブラシ毛61は、ニップ部Nにおいて摺擦領域CRの全体にわたって、撓んだ状態でシートSに面接触する。
【0073】
したがって、摺擦ブラシ60は、シートSがニップ部Nに搬送されてきたとき、ブラシ毛61がシートSに面接触した状態で回転中心O回りに回転しつつ、ブラシ毛61で画像層Iを摺擦する。図10では、シートSの搬送方向T先端部が摺擦領域CR内に進入した状態が示されている。
【0074】
第2実施形態では、シャフト55によって回転される支持部材53の接線方向における線速度、つまり摺擦ブラシ60の線速度LVは、シートSの搬送速度Vよりも大きく設定することができる。また、支持部材53の直径、つまり摺擦ブラシ60の直径D1は、シート搬送方向Tと直交するシート幅寸法Wよりも大きく設定されている。これにより、画像層I全体が摺擦される。
【0075】
さらに、第2実施形態では、摺擦ブラシ60のブラシ毛61と画像層Iとの間の接触面の接触面積、言い換えれば、摺擦ブラシ60のブラシ毛61が画像層Iに面接触して画像層Iを摺擦する摺擦領域CRの領域面積を、第1領域面積(第1接触面積)と、第1領域面積より大きい第2領域面積(第2接触面積)との間で切り替えることができる。第2実施形態に係る定着装置500は、摺擦領域CRの領域面積の切り替えを行うために、領域面積変更機構(接触面積変更機構)80と、領域面積変更機構80を制御する制御部Uとをさらに含む。
【0076】
領域面積変更機構80について、図8に加え、図11および図12を参照して説明する。図11は、摺擦領域CRの領域面積が第1領域面積に切り替えられた状態を示し、図12は、摺擦領域CRの領域面積が第2領域面積に切り替えられた状態を示す。定着装置500の駆動源52は、ハウジング83内に収容されている。摺擦部材510のシャフト55は、ハウジング83に貫設された孔を通して駆動源52に連結されている。ハウジング83は、所定の範囲で回動可能に構成されている。ハウジング83の回動により、摺擦部材510が駆動源52を中心として回動する。
【0077】
領域面積変更機構80は、例えば、カム81と、付勢部材82とを含む。付勢部材82は、例えばばね部材であり、ハウジング83を所定の方向(図8では反時計回りの方向)に回動させるようにハウジング83に対して矢印Bの方向に付勢力を作用させる。カム81は、ハウジング83に当接して、付勢部材82の付勢力に抗してハウジング83を図8では時計回りに回動させる。
【0078】
第2実施形態では、摺擦部材510のシャフト55を延長した仮想線VLと、摺擦ブラシ60のブラシ毛61と画像層Iとの間の接触面を延長した仮想面VSとが交差する交差角度αを、第1角度と、第1角度よりも大きい第2角度との間で切り替えることで、摺擦領域CRの領域面積が第1領域面積と第2領域面積との間で切り替えられる。交差角度αが大きくなるにつれ、摺擦領域CRの領域面積が大きくなる。具体的には、交差角度αが第1角度に切り替えられたとき、摺擦領域CRの領域面積は第1領域面積に切り替えられ、交差角度αが第2角度に切り替えられたとき、摺擦領域CRの領域面積は第2領域面積に切り替えられる。第1角度は例えば60°に設定され、第2角度は例えば90°に設定される。
【0079】
制御部Uは、領域面積変更機構80を制御して、摺擦領域CRの領域面積を第1領域面積と第2領域面積との間で切り替える。次に、制御部Uによる領域面積変更機構80の制御動作について説明する。制御部Uは、摺擦領域CRの領域面積を、図11に示すように第1領域面積に切り替えられた状態から第2領域面積に切り替えるとき、カム81を所定の第1方向に回動させることにより、付勢部材82がハウジング83を矢印Bの方向に付勢してハウジング83を図8では反時計回りに回動させることを許容する。ハウジング83の反時計回りの回動により、摺擦部材510も駆動源52を中心として反時計回りに回動する。このときのカム81の回動範囲、ひいては摺擦部材510の回動範囲は、交差角度αが90°となるように設定されている。これにより、摺擦領域CRの領域面積が、第1領域面積よりも大きい第2領域面積に切り替えられる。
【0080】
一方、制御部Uは、摺擦領域CRの領域面積を、図12に示すように第2領域面積に切り替えられた状態から第1領域面積に切り替えるとき、カム81を第1方向とは反対の第2方向に回動させる。これにより、カム81は、付勢部材82の付勢力に抗しつつ回動するので、ハウジング83は時計回りに回動する。これに伴い、摺擦部材510も駆動源52を中心として時計回りに回動する。このときの、カム81の回動範囲、ひいては摺擦部材510の回動範囲は、交差角度αが60°となるように設定されている。これにより、摺擦領域CRの領域面積が、第2領域面積よりも小さい第1領域面積に切り替えられる。
【0081】
また、シートSが、第1厚み寸法を有する第1シートS(例えば通常のA4サイズの薄紙)と、第1厚み寸法よりも大きい第2厚み寸法を有する第2シートS(例えばハガキやコート紙)とを含む場合において、制御部Uは、第1シートSがニップ部Nに搬送されるとき、領域面積変更機構80を制御して、摺擦領域CRの領域面積を第1領域面積(つまり、交差角度αが60°)に切り替える。一方、制御部Uは、第2シートSがニップ部Nに搬送されるとき、領域面積変更機構80を制御して、摺擦領域CRの領域面積を第2領域面積(つまり、交差角度αが90°)に切り替える。上述したように、第2領域面積は第1領域面積よりも大きいので、摺擦ブラシ60が摺擦領域CRにおいて画像層Iを摺擦する時間が長くなる。このように、制御部Uは、シートSの厚み寸法(シートSの種類)に応じて摺擦ブラシ60による画像層Iの摺擦時間を適宜変更する。
【0082】
以上説明した第2実施形態に係る定着装置500によれば、摺擦ブラシ60は、ブラシ毛61が摺擦領域CRにおいてシートSに面接触した状態で回転中心O回りに回転しつつ、画像層Iをブラシ毛61で摺擦する。そのうえ、摺擦ブラシ60の線速度LVは、シートSの搬送速度Vよりも大きく設定することができる。そのため、シートSに線接触しつつ画像層Iを摺擦するローラを用いる構成と比較して、画像層Iが摺擦ブラシ60のブラシ毛61によって擦られる時間が長くなる。これにより、画像層Iを形成する液体現像剤中の成分が、シートSの表層内に入り込み易くなる。その結果、画像層Iの定着時間が短縮されると共に、画像層Iの剥離が好適に抑制される、つまり画像層Iの定着強度が向上する。
【0083】
また、第2実施形態に係る定着装置500では、多数のブラシ毛61を有する摺擦ブラシ60で画像層Iを摺擦する。ブラシ毛61の材料、パイル繊度、密度、長さ等を適宜調整することで、シートSの搬送への影響を低減することができると共に、摺擦動作に起因する画像の損傷を抑制することができる。
【0084】
さらに、第2実施形態に係る定着装置500では、制御部Uは、シートSの厚み寸法に応じて摺擦領域CRの領域面積を、第1領域面積と第2領域面積との間で切り替えることにより、シートSの厚み寸法に応じた画像層Iの摺擦時間を適宜変更する。その結果、シートSの厚み寸法が異なっていても、画像を形成する液体現像剤中の成分を、シートSの表層内に浸透させ易くなる。
【0085】
さらに、第2実施形態に係る定着装置500では、ブラシ毛61を有する摺擦ブラシ60を用いて画像層Iの摺擦を行っている。これにより、交差角度αの第1角度および第2角度間の切り替え、ひいては摺擦領域CRの領域面積の第1領域面積および第2領域面積間の切り替えを容易に行うことができる。
【0086】
次に、第2実施形態の変形例について図13を参照しながら説明する。図13は、摺擦部材510および無端ベルト71の平面図である。第2実施形態の変形例では、2つの第1摺擦部材510Aおよび第2摺擦部材510Bが用いられている。第1摺擦部材510Aおよび第2摺擦部材510Bは、シートSの搬送方向Tと直交する方向に並んで配置されている。つまり、第1摺擦部材510Aの第1摺擦ブラシ60Aが形成する第1摺擦面(ブラシ毛61Aの先端)と、第2摺擦部材510Bの第2摺擦ブラシ60Bが形成する第2摺擦面(ブラシ毛61Bの先端)とが、シートSの搬送方向Tと直交する方向(シートSの幅寸法方向W)に並んで配置されている。これにより、これにより、キャリア液量が増加するカラー画像層Iが定着される場合であっても、キャリア液がシートSの表層内に入り込み易くなる。
【0087】
第1摺擦部材510Aの第1シャフト55Aは、駆動源52によって第1回転方向R1(図13では時計回りの方向)に回転され、第2摺擦部材510Bの第2シャフト55Bは、駆動源52によって第1回転方向R1とは反対の第2回転方向R2(図13では反時計回りの方向)に回転される。したがって、第1摺擦ブラシ60Aは、第1回転方向R1に回転しつつ、画像層Iを摺擦し、第2摺擦ブラシ60Bは、第2回転方向R2に回転しつつ、画像層Iを摺擦する。そのため、シートSは、伸ばされながら擦られる。その結果、シートSにシワが発生することが抑制される。
【0088】
また、第2実施形態の変形例では、第1摺擦部材510Aおよび第2摺擦部材510Bは、第1摺擦ブラシ60Aの第1ブラシ毛61Aと、第2摺擦ブラシ60Bの第2ブラシ毛61Bとが、シートSの搬送方向Tと直交する方向において互いに接触するように配置されている。そのため、第1摺擦部材510Aと第2摺擦部材510Bとの間に、第1ブラシ毛61Aと第2ブラシ毛61Bとが互いに接触する接触領域OAが形成されている。これにより、画像層Iが摺擦されない非摺擦領域の発生が抑制される。
【0089】
なお、図13では、2つの第1摺擦ブラシ60Aおよび第2摺擦ブラシ60Bを用いた構成につき説明したが、この構成に代えて、2つの不織布層、例えば第1不織布層および第2不織布層を、シートSの搬送方向Tと直交する方向に並べて配置してもよい。
【0090】
次に、第1実施形態の変形例について図14を参照しながら説明する。図5〜図7を参照して説明した第1実施形態では、不織布層54の一部のみを無端ベルト71に面接触させる構成につき説明したが、その構成に限定されず、図14に示すように、不織布層54の全体を無端ベルト71に接触させて画像層Iの摺擦を行ってもよい。この場合、無端ベルト71を挟んで不織布層54の反対側には、不織布層54の全面にわたって不織布層54を支持する支持板85が配設されている。図14に示す構成の場合、不織布層54による画像層Iの擦り過ぎを防止するために、不織布層54の無端ベルト71に対する面圧が適宜調整されている。また、図14に示す変形例において、不織布層54に代えて、摺擦ブラシ60を用いてもよい。その場合、摺擦ブラシ60のブラシの全てが無端ベルト71に接触する。
【0091】
<画像形成装置への適用>
図15は、第1実施形態に関連して説明された定着装置300が搭載されたカラープリンタの概略構成図である。図16は、循環装置の部分を除いたカラープリンタの概略断面図である。図17は、カラープリンタの画像形成ユニットの1つを拡大して示す断面図である。以下の説明において、カラープリンタは画像形成装置として説明される。代替的に、画像形成装置は、コピー機、ファクシミリ装置、これらの機能を含む複合機やシートS上に画像を形成することができる他の装置であってもよい。本実施形態において、カラープリンタには、第1実施形態に関連して説明された定着装置50が搭載される。代替的に、第2実施形態に関連して説明された定着装置500がカラープリンタに搭載されてもよい。図1、図15乃至図17を用いて、カラープリンタが説明される。
【0092】
図15に示される如く、カラープリンタ1は、画像形成のための様々なユニットや部品が収納される上側本体部1Aと、この上側本体部1Aの下部に配置され、各色用の循環装置LY、LM、LC、LB(混合液体供給システム)が収納される下側本体部1Bとを備える。ここでは、上側本体部1Aと下側本体部1Bとを結ぶ配管類は図示されていない。循環装置LY、LM、LC、LBは、上側本体部1Aにおいて実行される画像形成工程に用いられる液体現像剤を循環させる。循環装置LY、LM、LC、LBの構成・原理に対して、既知の画像形成装置で用いられる液体現像剤用の循環技術が適宜用いられてもよい。
【0093】
図16に示される如く、上側本体部1Aは、画像データに基づいてトナー画像を形成するタンデム式の画像形成部2と、シートSを収容するシート収納部3と、画像形成部2で形成されたトナー画像をシートS上に転写する二次転写部4と、転写されたトナー画像をシートS上に定着させる定着部5と、定着の完了したシートSを排紙する排出部6と、シート収納部3から排出部6までシートSを搬送するシート搬送部7とを含む。本実施形態において、定着部5に対して、上述された定着技術の原理が適用される。
【0094】
画像形成部2は、中間転写ベルト21と、中間転写ベルト21のクリーニング部22と、イエロー(Y)、マゼンタ(M)、シアン(C)、ブラック(Bk)の各色にそれぞれ対応した画像形成ユニットFY、FM、FC、及びFBとを備える。本実施形態において、中間転写ベルト21は、図1に関連して説明された像担持体100に相当する。
【0095】
画像形成部2は、ループ状の中間転写ベルト21を駆動するための駆動ローラ41と、中間転写ベルト21の走行に従って回転する従動ローラ49とを備える。導電性の中間転写ベルト21は、駆動ローラ41と従動ローラ49とに巻回される。中間転写ベルト21の幅は、カラープリンタ1が許容する最大の幅のシートSよりも大きく設定される。以下の説明において、中間転写ベルト21の循環駆動において外側を向く面は、表面と称され、他方の面は裏面と称される。
【0096】
中間転写ベルト21の近傍で連設された画像形成ユニットFY、FM、FC及びFBは、中間転写ベルト21のクリーニング部22と二次転写部4との間に配置される。画像形成ユニットFY、FM、FC及びFBは、感光体ドラム10と、帯電器11と、露光装置12と、現像装置14と、一次転写ローラ20と、クリーニング装置26と、除電装置13と、除去ローラ30とを備える。尚、画像形成ユニットFY、FM、FC及びFBのうち、最も二次転写部4に近い位置に位置する画像形成ユニットFBは、除去ローラ30を備えていない点を除いて、画像形成ユニットFY、FM及びFCと同様の構成である。
【0097】
各画像形成ユニットFY、FM、FC、FBに対応して、それぞれ循環装置LY、LM、LC、LBが設けられる。循環装置LY、LM、LC、LBは、各色の液体現像剤の供給並びに回収を行う。
【0098】
円柱状の感光体ドラム10の周面は、帯電(本実施形態ではプラス極性に帯電)されたトナーを含むトナー像を担持可能である。中間転写ベルト21に接触する感光体ドラム10は、中間転写ベルト21の走行方向に沿うように回転する。帯電器11は、感光体ドラム10の表面を一様に帯電させる。
【0099】
露光装置12は、例えば、LED光源を有する。露光装置12の光源は、外部の機器から入力される画像データに応じて、一様に帯電された感光体ドラム10の表面に光を照射する。この結果、感光体ドラム10の表面には、静電潜像が形成される。
【0100】
着色粒子P、キャリア液C及び高分子化合物Rを含む液体現像剤を、感光体ドラム10の表面の静電潜像に対向するように保持する現像装置14は、静電潜像に着色粒子P及び高分子化合物Rを付着させる。この結果、静電潜像は着色粒子Pによって発色された画像として現像される。
【0101】
図17に示される如く、現像装置14は、現像容器140、現像ローラ141、供給ローラ142、支持ローラ143、供給ローラ142に圧接されたブレード144、現像ローラ141を清浄化するためのブレード145、液体現像剤を回収するための回収装置146及び現像ローラ141を帯電するための帯電器147を含む。
【0102】
キャリア液C中の着色粒子P及び高分子化合物Rの濃度調整が予め行われた液体現像剤は、供給ノズル278から現像容器140へ供給される。尚、液体現像剤は、供給ローラ142と支持ローラ143との間のニップ部へ向けて供給される。余剰の液体現像剤は支持ローラ143の下方へ落下し、現像容器140の底部において貯留される。貯留された液体現像剤は、パイプ82を通して循環装置LY、LM、LC、LBを用いて回収される。
【0103】
現像容器140の略中央に配置された支持ローラ143は、上方の供給ローラ142に当接し、ニップ部を形成する。供給ローラ142の周面には液体現像剤を保持するための溝が形成される。
【0104】
供給ノズル278から供給される液体現像剤は、支持ローラ143と供給ローラ142との間のニップ部で一時的に滞留される。ニップ部において、供給ローラ142の溝に保持された液体現像剤は、上方の現像ローラ141へ運ばれる。供給ローラ142の周面に圧接されたブレード144は、供給ローラ142に保持される液体現像剤の量を調整する。ブレード144により掻き落とされた余剰の液体現像剤は、現像容器140の底部で受け取られる。
【0105】
現像容器140の上部開口部に配設された現像ローラ141は、供給ローラ142と接する。現像ローラ141と供給ローラ142との間のニップ部において、現像ローラ141の周面が、供給ローラ142と反対方向に移動するように、現像ローラ141及び供給ローラ142の回転方向が定められる。この結果、現像ローラ141の周面には、供給ローラ142の周面に保持された液体現像剤が受け渡される。供給ローラ142の液体現像剤の層厚が適切に調整されているので、現像ローラ141の表面に形成される液体現像剤層は画像の形成に適切な厚さとなる。
【0106】
液体現像剤を受け取った現像ローラ141の表面は、帯電器147の上方を移動する。帯電器147は、着色粒子Pの帯電極性と同極性の帯電電位を与える。この結果、現像ローラ141に担持された液体現像剤中の着色粒子Pは、現像ローラ141の表面側に移動する。
【0107】
帯電器147を通過した現像ローラ141の表面は、感光体ドラム10と接触する。感光体ドラム10の表面の静電潜像の電位と現像ローラ141に印加された現像バイアスとの間の電位差によって、画像データに応じたトナー像が感光体ドラム10表面に形成される。
【0108】
感光体ドラム10と接触した後、現像ローラ141の周面は、ブレード145に接触する。ブレード145は、感光体ドラム10への現像動作を終えた現像ローラ141の表面の液体現像剤を除去する。
【0109】
回収装置146は、ブレード145によって除去された液体現像剤を回収し、循環装置LY、LM、LC、LBのパイプ81へ液体現像剤を送り出す。液体現像剤はブレード145の表面に沿って流下する。液体現像剤の粘度が高いならば、回収装置146は、好ましくは、液体現像剤の送り出しを補助する送り出しローラを備えてもよい。
【0110】
一次転写ローラ20は、感光体ドラム10と協働して、中間転写ベルト21を挟む。一次転写ローラ20には、電源(図示せず)から感光体ドラム10上の着色粒子Pとは逆極性(本実施形態ではマイナス)の電圧が印加される。一次転写ローラ20は、中間転写ベルト21にトナーと逆極性の電圧を印加する。この結果、導電性の中間転写ベルト21の表面に着色粒子P及び高分子化合物Rが引き付けられる。かくして、感光体ドラム10に形成された画像は、中間転写ベルト21の表面に転写される。その後、中間転写ベルト21は、トナー像を担持して、シートSまで搬送する。
【0111】
感光体ドラム10から中間転写ベルト21に転写されずに残留した液体現像剤を除去するクリーニング装置26は、搬送スクリュー261と、クリーニングブレード262とを備える。感光体ドラム10の回転軸方向に延びる板状のクリーニングブレード262の端部は、感光体ドラム10の表面に摺接する。クリーニングブレード262は、感光体ドラム10の回転に伴って感光体ドラム10上に残留した液体現像剤を掻き取る。掻き取られた液体現像剤は、クリーニング装置26内に一時的に収容される。クリーニング装置26内の搬送スクリュー261は、残留現像剤を外部へ搬送する。
【0112】
除電用の光源を有する除電装置13は、次の周回による画像形成に備えて、クリーニングブレード262による液体現像剤の除去の後、感光体ドラム10の表面を光源からの光によって除電する。
【0113】
略円柱状の除去ローラ30は、中間転写ベルト21に接触する。画像形成ユニットFYと画像形成ユニットFMとの間に配設された除去ローラ30は、画像形成ユニットFYから中間転写ベルト21に乗り移った液体現像剤からキャリア液Cを除去する。画像形成ユニットFMと画像形成ユニットFCとの間に配設された除去ローラ30は、画像形成ユニットFMから中間転写ベルト21に乗り移った液体現像剤からキャリア液Cを除去する。画像形成ユニットFCと画像形成ユニットFBとの間に配設された除去ローラ30は、画像形成ユニットFCから中間転写ベルト21に乗り移った液体現像剤からキャリア液Cを除去する。上述の如く、画像形成ユニットFBは、除去ローラ30を備えないので、中間転写ベルト21は、図1に示される像担持体100と同様に、キャリア液Cを含む液体現像剤を担持する。
【0114】
図16に示されるように、シートSを収納するシート収納部3は、上側本体部1Aの下部に配置される。シート収納部3は、シートSを収納可能に形成された給紙カセットを含む。
【0115】
中間転写ベルト21上に形成された画像をシートSに転写する二次転写部4は、中間転写ベルト21を駆動する駆動ローラ41に対向して配置された二次転写ローラ42を備える。二次転写ローラ42は、中間転写ベルト21との間で電界を発生させ、図1に関連して説明された如く、着色粒子PをシートSに引き寄せる。
【0116】
二次転写部4の上側に配置される定着部5は、上述された定着技術の原理を利用して、シートSにトナー像を定着させる。したがって、定着部5は、第1実施形態に関連して説明された定着装置50と、ベルトユニットCVとを備える。上述の如く、シートS上の画像に対する不織布層54の摺擦により、好適に定着処理がなされることとなる。加えて、不織布層54は、画像全体を摺擦するのに十分な幅を有するので、不織布層54との接触により、画像の光沢が一様に変動される。この結果、シートS上の画像が、その後、使用者により触れられても、画像の光沢の局所的な変化が好適に抑制される。
【0117】
カラープリンタ1の上部に配置される排出部6には、定着部5でトナー像が定着されたシートSが排出される。複数の搬送ローラ組を備えるシート搬送部7は、シート収納部3から二次転写部4、定着部5及び排出部6の順にシートSを搬送する。
【0118】
<液体現像剤>
液体現像剤は、上述の如く、電気絶縁性のキャリア液Cとキャリア液C中に分散された着色粒子Pとを含む。また、液体現像剤は高分子化合物Rを含有する。好ましくは、液体現像剤は、測定温度25℃において、30〜400mPa・sの粘度を有する。より好ましくは、液体現像剤の粘度(測定温度25℃)は、40〜300mPa・sであり、さらに好ましくは50〜250mPa・sである。
【0119】
<キャリア液>
液体キャリアの役割を果たす電気絶縁性のキャリア液Cは、液体現像剤の電気絶縁性を高める。電気絶縁性のキャリア液Cとしては、例えば、25℃における体積抵抗が1012Ω・cm以上(換言すれば導電率が1.0pS/cm以下)の電気絶縁性有機溶剤が好ましい。さらに前記物性に加えて、後述の高分子化合物Rを溶解させることができるもの(高分子化合物Rの溶解度が相対的に高いもの)が好ましく用いられる。
【0120】
また、液体現像剤全体の粘度(測定温度25℃)が30〜400mPa・sとなるように、キャリア液Cの粘度・種類・配合量を適宜調整・選択される。液体現像剤の粘度は、キャリア液Cとして用いられる有機溶剤と後述される高分子化合物Rとの組み合わせによっても左右される。したがって、所望の液体現像剤の粘度及び選択される高分子化合物Rの種類に合わせて有機溶剤の種類及び配合量が適宜決定される。
【0121】
このような電気絶縁性の有機溶剤としては、例えば、常温で液体の脂肪族炭化水素や植物油が挙げられる。
【0122】
脂肪族炭化水素としては、例えば、液状のn−パラフィン系炭化水素、iso−パラフィン系炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、分岐鎖を有する脂肪族炭化水素又はそれらの混合物が好ましい。例えば、脂肪族炭化水素として、n−ヘキサン、n−ヘプタン、n−オクタン、ノナン、デカン、ドデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、シクロヘキサン、パークロロエチレン、トリクロロエタンが用いられる。環境対応(VOC対策)の観点から、不揮発性の有機溶剤及び揮発性が相対的に低い有機溶剤(例えば、沸点が200℃以上のもの)が好ましく、例えば、炭素数が16以上の脂肪族炭化水素を比較的多く含む流動パラフィンが好ましく用いられる。
【0123】
また、植物油として、例えば、トール油脂肪酸(主成分:オレイン酸、リノール酸)、植物油由来の脂肪酸エステル、大豆油、サフラワー油、ヒマシ油、アマニ油、桐油が挙げられる。なかでもトール油脂肪酸が好ましく用いられる。
【0124】
キャリア液Cとして、例えば、松村石油研究所社製の流動パラフィン「モレスコホワイトP−55」、「モレスコホワイトP−40」、「モレスコホワイトP−70」、「モレスコホワイトP−200」;ハリマ化成株式会社製のトール油脂肪酸「ハートール FA−1」、「ハートール FA−1P」、「ハートール FA−3」;カネダ株式会社製の植物油ベースソルベント「ベジソルMT」、「ベジソルCM」、「ベジソルMB」、「ベジソルPR」、植物油「桐油」;エクソンモービル社製の「アイソパーG」、「アイソパーH」、「アイソパーK」、「アイソパーL」、「アイソパーM」、「アイソパーV」;コスモ石油社製の流動パラフィン「コスモホワイトP−60」、「コスモホワイトP−70」、「コスモホワイトP−120」;日清オイリオ社製の植物油「大豆油白絞油 S」、「アマニ油」、「サフラワー油」;伊藤製油社製の植物油「ヒマシ油 LAV」、「ヒマシ油 工」が用いられてもよい。
【0125】
本実施形態では、高分子化合物Rがキャリア液Cに溶解する限り、キャリア液Cとして、高分子化合物Rの溶解度が相対的に高いもの(高分子化合物Rの良溶媒)のみを用いてもよく、又は、高分子化合物Rの溶解度が相対的に低いもの(高分子化合物Rの貧溶媒)を混合して用いてもよい。尚、キャリア液Cの種類に応じて、キャリア液C全体の導電率(液体現像剤の導電率)は、過度に高くならないように適切に調整される。例えば、トール油脂肪酸といった植物性の油は、流動パラフィンのような脂肪族炭化水素と比べると、一般に、導電率が高い。したがって、高分子化合物Rをキャリア液Cに良好に溶解させるために、キャリア液Cとして上述の油類を含むときは、導電率の調整は、比較的慎重に行われることが好ましい。
【0126】
上述の油類の含有量が多いキャリア液Cは、高分子化合物Rの溶解度の点で有利である一方で、導電率の点で不利となる。油類の含有量が少ないキャリア液Cは、導電率の点で有利である一方で、高分子化合物Rの溶解度の点で不利となる。
【0127】
キャリア液C中の上述の油類の含有量は、液体現像剤中に含まれる高分子化合物Rの種類や含有量に依存する。好適な油類の含有量として、例えば、2〜80質量%、より好ましくは、5〜60質量%が挙げられる。2質量%未満では、高分子化合物Rをキャリア液Cに良好に溶解させることが困難となる。また、80質量%を超えると、キャリア液C全体の導電率ひいては液体現像剤の導電率が過度に高くなる。過度に高い液体現像剤の導電率は、例えば、画像濃度の低下を引き起こす。
【0128】
本実施形態では、液体現像剤の導電率は、例えば、200pS/cm以下であることが好ましい。したがって、トール油脂肪酸といった上述の油類に高分子化合物Rを溶解させることにより得られた溶液(以下、「樹脂溶液」と称される)に高電気抵抗の脂肪族炭化水素を混合することにより、キャリア液C全体の導電率(液体現像剤の導電率)を例えば200pS/cm以下に調整することが好ましい。
【0129】
<着色粒子>
本実施形態では、着色粒子Pとして、顔料そのものが用いられる。顔料そのものを含む液体現像剤は、上述の非加熱方式の定着工程を可能にする。この結果、熱エネルギや光エネルギをほとんど消費することなく、着色粒子Pとしての顔料が記録媒体に定着される。
【0130】
本実施形態における顔料としては、例えば、従来公知の有機顔料や無機顔料が特に限定することなく用いられる。
【0131】
例えば、黒色顔料としては、カーボンブラック、オイルファーネスブラック、チャンネルブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、アニリンブラックといったアジン系色素、金属塩アゾ色素、金属酸化物、複合金属酸化物が挙げられる。黄色顔料としては、カドミウムイエロー、ミネラルファストイエロー、ニッケルチタンイエロー、ネーブルスイエロー、ナフトールイエローS、ハンザイエローG、ハンザイエロー10G、ベンジジンイエローGR、キノリンイエローレーキ、パーマネントイエローNCG、タートラジンレーキが挙げられる。橙色顔料としては、モリブデンオレンジ、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、インダンスレンブリリアントオレンジRK、ベンジジンオレンジG、インダンスレンブリリアントオレンジGKが挙げられる。赤色顔料としては、ベンガラ、カドミウムレッド、パーマネントレッド4R、リソールレッド、ピラゾロンレッド、ウォッチングレッドカルシウム塩、レーキレッドD、ブリリアントカーミン6B、エオシンレーキ、ローダミンレーキB、アリザリンレーキ、ブリリアントカーミン3Bが挙げられる。紫色顔料としては、ファストバイオレットB、メチルバイオレットレーキが挙げられる。青色顔料としては、C.I.Pigment Blue 15:3、コバルトブルー、アルカリブルー、ビクトリアブルーレーキ、フタロシアニンブルー、無金属フタロシアニンブルー、フタロシアニンブルー部分塩素化物、ファーストスカイブルー、インダンスレンブルーBCが挙げられる。緑色顔料としては、クロムグリーン、酸化クロム、ピグメントグリーンB、マラカイトグリーンレーキが挙げられる。
【0132】
液体現像剤中の顔料の含有量は、1〜30質量%が好ましい。より好ましくは、3質量%以上であり、さらに好ましくは、5質量%以上である。また、より好ましくは、20質量%以下であり、さらに好ましくは、10質量%以下である。
【0133】
液体現像剤中の顔料の平均粒子径すなわち体積基準の中位径(D50)は、0.1〜1.0μmが好ましい。0.1μm未満の平均粒子径を有する顔料は、例えば、画像濃度の低下を引き起こす。1.0μmを超える平均粒子径を有する顔料は、例えば、定着性の低下を引き起こす。ここで、体積基準の中位径(D50)とは、一般に、粒度分布が求められている1群の粒子の全体積を100%として累積カーブを求めたときの累積カーブが50%となる点の粒子径をいう。
【0134】
<分散安定剤>
本実施形態に係る液体現像剤は、液体現像剤中の粒子の分散を促進し安定化するための分散安定剤を含有していてもよい。本実施形態で使用し得る分散安定剤としては、例えば、ビックケミー社製の「BYK−116」が好適である。その他、ルーブリゾール社製の「ソルスパース9000」、「ソルスパース11200」、「ソルスパース13940」、「ソルスパース16000」、「ソルスパース17000」、「ソルスパース18000」や、ISP社製の「Antaron(登録商標)V−216」、「Antaron(登録商標)V−220」も好ましく用いられ得る。
【0135】
液体現像剤中の分散安定剤の含有量は、1〜10質量%程度、好ましくは、2〜6質量%程度である。
【0136】
<高分子化合物>
本実施形態に係る液体現像剤に含有される高分子化合物Rは、有機高分子化合物である。キャリア液Cに溶解性を有する有機高分子化合物として、液体現像剤の粘度を上げ、且つ、画像形成におけるにじみ発生を抑制できる材料が選択される。有機高分子化合物として、環状オレフィン共重合体、スチレン系エラストマー、セルロースエーテル、ポリビニルブチラールが例示される。好ましくは、有機高分子化合物として、スチレン系エラストマーが用いられる。高分子化合物Rとしては、単一種の有機高分子化合物が用いられてもよいし、或いは、複数種の有機高分子化合物が用いられてもよい。
【0137】
なお、本実施形態に係る液体現像剤では、有機高分子化合物は、キャリア液Cに溶解される。キャリア液Cに溶解している有機高分子化合物は、ゲルの状態であってもよい。有機高分子化合物の種類や分子量によっては、キャリア液C中で相互に絡み合ったゲル状の有機高分子化合物が得られる。ゲル状の有機高分子化合物は、比較的低い流動性を有する。例えば、有機高分子化合物の濃度が高い場合、有機高分子化合物とキャリア液Cとの親和性が低い場合、或いは、気温が低い場合には、ゲル状の有機高分子化合物が得られやすい。一方、キャリア液C中での相互の絡み合いが少ない有機高分子化合物は、比較的流動性が高い溶液となる。
【0138】
液体現像剤中の有機高分子化合物の含有量は、有機高分子化合物の種類応じて、適切に決定される。有機高分子化合物の含有量は、例えば、1〜10質量%であることが好ましい。
【0139】
有機高分子化合物の含有量が1質量%未満であると、液体現像剤における十分な粘度が得られず、画像形成におけるにじみ発生が十分に抑制できない可能性がある。また、有機高分子化合物の含有量が10質量%を超えると、シートSの表面上に留まる有機高分子化合物による被膜の量が多くなり過ぎ、被膜の乾燥性が過度に低下し、被膜の粘着性(タック性)が過度に大きくなり、画像の耐擦過性が過度に低下する可能性がある。
【0140】
以下、本実施形態において好適に使用できる有機高分子化合物が更に説明される。
【0141】
(環状オレフィン共重合体)
環状オレフィン共重合体は、環状オレフィン骨格を主鎖に有し、環境負荷物質を含まない、非晶性で熱可塑性のオレフィン系樹脂であり、透明性、軽量性、低吸水性等に優れる。本実施形態においては、環状オレフィン共重合体は、主鎖が炭素−炭素結合からなり、主鎖の少なくとも一部に環状炭化水素構造を有する有機高分子化合物である。この環状炭化水素構造は、ノルボルネンやテトラシクロドデセンに代表されるような、環状炭化水素構造中に少なくとも一つのオレフィン性二重結合を有する化合物(環状オレフィン)を単量体として用いることで導入される。
【0142】
本実施形態で使用可能な環状オレフィン共重合体として、例えば、(1)環状オレフィンの付加(共)重合体又はその水素添加物、(2)環状オレフィンとα−オレフィンとの付加共重合体又はその水素添加物、(3)環状オレフィンの開環(共)重合体又はその水素添加物が挙げられる。
【0143】
上述の環状オレフィンとして、以下の物質が例示される。
(a)シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン;
(b)シクロペンタジエン、1,3−シクロヘキサジエンといった1環の環状オレフィン;
(c)ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(ノルボルネン)、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5,5−ジメチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ブチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−オクタデシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−ビニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−プロペニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった2環の環状オレフィン;
(d)トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン(ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3−エン;
(e)トリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,7−ジエン若しくはトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3,8−ジエン又はこれらの部分水素添加物(又はシクロペンタジエンとシクロヘキセンとの付加物)であるトリシクロ[4.4.0.12,5]ウンデカ−3−エン;
(f)5−シクロペンチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキシル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−シクロヘキセニルビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エンといった3環の環状オレフィン;
(g)テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン(テトラシクロドデセン)、8−メチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチルテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−メチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−ビニルテトラシクロ[4,4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−プロペニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エンといった4環の環状オレフィン;
(h)8−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキシル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−シクロヘキセニル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン、8−フェニル−シクロペンチル−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン;
(i)テトラシクロ[7.4.13,6.01,9.02,7]テトラデカ−4,9,11,13−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,9a−テトラヒドロフルオレン)、テトラシクロ[8.4.14,7.01,10.03,8]ペンタデカ−5,10,12,14−テトラエン(1,4−メタノ−1,4,4a,5,10,10a−へキサヒドロアントラセン);
(j)ペンタシクロ[6.6.1.13,6.02,7.09,14]−4−ヘキサデセン、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]−4−ペンタデセン、ペンタシクロ[7.4.0.02,7.13,6.110,13]−4−ペンタデセン;ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.14,7.111,17.03,8.012,16]−5−エイコセン、ヘプタシクロ[8.7.0.12,9.03,8.14,7.012,17.113,l6]−14−エイコセン;
(k)シクロペンタジエンの4量体といった多環の環状オレフィン;
これらの環状オレフィンは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0144】
上述のα−オレフィンとしては、炭素数が2〜20、好ましくは2〜8のα−オレフィンが好ましい。α−オレフィンとして、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、3−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、3−エチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−へキセン、4,4−ジメチル−1−ヘキセン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、4−エチル−1−へキセン、3−エチル−1−ヘキセン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−エイコセンが例示される。これらのα−オレフィンは、それぞれ単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0145】
本実施形態においては、環状オレフィンの重合方法、環状オレフィンとα−オレフィンとの重合方法、及び得られた重合体の水素添加方法には、格別な制限はなく、公知の方法に従って行うことができる。
【0146】
本実施形態においては、環状オレフィン共重合体の構造には、格別な制限はない。環状オレフィン共重合体の構造は、鎖状でも、分岐状でも、架橋状でもよいが、好ましくは直鎖状である。
【0147】
本実施形態においては、環状オレフィン共重合体としては、例えば、ノルボルネンとエチレンとの共重合体、又は、テトラシクロドデセンとエチレンとの共重合体が好ましく用いられる。環状オレフィン共重合体として、特に、ノルボルネンとエチレンとの共重合体がより好ましい。共重合体中のノルボルネンの含有率は、60〜82質量%が好ましく、60〜79質量%がより好ましく、60〜76質量%がさらに好ましく、60〜65質量%が一層好ましい。ノルボルネン含有率が60質量%未満であると、環状オレフィン共重合体の被膜のガラス転移温度が低くなり過ぎ、環状オレフィン共重合体被膜の造膜性が低下する可能性がある。ノルボルネン含有率が82質量%を超えると、環状オレフィン共重合体の被膜のガラス転移温度が高くなり過ぎ、環状オレフィン共重合体被膜による顔料つまり画像の定着性が低下する可能性がある。また、キャリア液Cへの環状オレフィン共重合体の溶解度が過度に低くなる可能性がある。
【0148】
本実施形態においては、環状オレフィン共重合体として、市販されているものが使用されてもよい。例えば、ノルボルネンとエチレンとの共重合体として、トパス・アドヴァンスト・ポリマーズ・ゲーエムベーハー社製の「TOPAS(登録商標)TM」(ノルボルネン含有率:約60質量%)、「TOPAS(登録商標)TB」(ノルボルネン含有率:約60質量%)、「TOPAS(登録商標)8007」(ノルボルネン含有率:約65質量%)、「TOPAS(登録商標)5013」(ノルボルネン含有率:約76質量%)、「TOPAS(登録商標)6013」(ノルボルネン含有率:約76質量%)、「TOPAS(登録商標)6015」(ノルボルネン含有率:約79質量%)、「TOPAS(登録商標)6017」(ノルボルネン含有率:約82質量%)が挙げられる。これらは状況に応じて単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0149】
(スチレン系エラストマー)
本実施形態で使用できるスチレン系エラストマーとしては、従来公知のものを特に限定なく使用することができる。スチレン系エラストマーとして、例えば、芳香族ビニル化合物と、オレフィン系化合物又は共役ジエン化合物とからなるブロック共重合体が挙げられる。ブロック共重合体として、例えば、芳香族ビニル化合物からなる重合体ブロックをAとし、オレフィン系化合物又は共役ジエン化合物からなる重合体ブロックをBとしたときに、化学式1で表される構造を有するブロック共重合体が挙げられる。
【0150】
【化1】

【0151】
上述のブロック共重合体を構成する芳香族ビニル化合物として、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、2,3−ジメチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、p−ブロモスチレン、2,4,5−トリブロモスチレン、2,4,6−トリブロモスチレン、o−tert−ブチルスチレン、m−tert−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルアントラセンが挙げられる。
【0152】
重合体ブロックAは、上述の芳香族ビニル化合物のうちの1種から構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。これらのうちでも、スチレン及び/又はα−メチルスチレンから構成されたものが、本実施形態に係る液体現像剤に好ましい物性を与える。
【0153】
上述のブロック共重合体を構成するオレフィン系化合物として、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、2−ブテン、イソブテン、1−ペンテン、2−ペンテン、シクロペンテン、1−ヘキセン、2−ヘキセン、シクロヘキセン、1−ヘプテン、2−ヘプテン、シクロヘプテン、1−オクテン、2−オクテン、シクロオクテン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクテンが挙げられる。
【0154】
上述のブロック共重合体を構成する共役ジエン化合物として、例えば、ブタジエン、イソプレン、クロロプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエンが挙げられる。
【0155】
重合体ブロックBは、上述のオレフィン系化合物及び上述の共役ジエン化合物のうちの1種から構成されていてもよいし、2種以上から構成されていてもよい。これらのうちでも、ブタジエン及び/又はイソプレンから構成されたものが、本実施形態に係る液体現像剤に好ましい物性を与える。
【0156】
上述のブロック共重合体としては、例えば、ポリスチレン−ポリブタジエン−ポリスチレントリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリスチレン−ポリイソプレン−ポリスチレントリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリスチレン−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリスチレントリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリブタジエン−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソプレン−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリ(イソプレン/ブタジエン)−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体又はその水素添加物、ポリスチレン−ポリイソブテン−ポリスチレントリブロック共重合体、ポリ(α−メチルスチレン)−ポリイソブテン−ポリ(α−メチルスチレン)トリブロック共重合体が挙げられる。
【0157】
本実施形態で使用されるスチレン系エラストマーとして、重合体ブロックA及び重合体ブロックBが化学式2で表される構造を有するスチレン−ブタジエン系エラストマー(SBS)が好ましい。
【0158】
【化2】

【0159】
スチレン−ブタジエン系エラストマーは、スチレンモノマーと、共役ジエン化合物であるブタジエンとを共重合させることにより得られる。好ましいスチレンモノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−n−ブチルスチレン、p−ドデシルスチレン、p−メトキシスチレン、p−フェニルスチレン、p−クロロスチレンが例示される。
【0160】
上述のスチレン−ブタジエン系エラストマーは、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)による分子量分布において、数平均分子量Mnは、好ましくは、1,000〜100,000の範囲内であり(化学式1参照)、より好ましくは、2,000〜50,000の範囲内である。また、重量平均分子量Mwは、好ましくは、5,000〜1,000,000の範囲内であり、より好ましくは、10,000〜500,000の範囲内である。その場合に、重量平均分子量Mwが2,000〜200,000の範囲内、好ましくは3,000〜150,000の範囲内に、少なくとも1つのピークが存在することが好ましい。
【0161】
上述のスチレン−ブタジエン系エラストマーは、(重量平均分子量Mw/数平均分子量Mn)の比の値は、好ましくは、3.0以下であり、より好ましくは、2.0以下である。
【0162】
上述のスチレン−ブタジエン系エラストマーにおけるスチレン含有量(重合体ブロックAの含有量)は、好ましくは、5〜75質量%の範囲内であり(化学式2参照)、より好ましくは、10〜65質量%の範囲内である。スチレン含有量が5質量%未満であると、スチレン系エラストマーの被膜のガラス転移温度が低くなりすぎ、スチレン系エラストマー被膜の造膜性が低下する傾向となる。スチレン含有量が75質量%を超えると、スチレン系エラストマーの被膜の軟化点が高くなりすぎ、スチレン系エラストマー被膜による顔料つまり画像の定着性が低下する傾向となる。
【0163】
本実施形態において、スチレン系エラストマーとして、市販されているものを使用することができる。例えば、スチレン−共役ジエンブロック共重合体として、クラレ社製の「セプトン」S1001、S2063、S4055、S8007や「ハイブラー」5127、7311、シェル社製の「クレイトン」、旭化成ケミカルズ社製の「アサプレン(登録商標)」T411、T413、T437や「タフプレン(登録商標)」A、315P 等、JSR社製の「JSR TR1086」、「JSR TR2000」、「JSR TR2250」、「JSR TR2827」;スチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物として、JSR社製の「ダイナロン」6200P、4600P、1320P 等;スチレン−エチレン共重合体として、ダウ・ケミカル社製の「インデックス」等;組成物として、アロン化成社製の「アロンAR」、三菱化学社製の「ラバロン」等が挙げられる。これらは状況に応じて単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、クラレ社製の「セプトン」S1001、S2063、S4055、S8007や「ハイブラー」5127、7311はスチレン−共役ジエンブロック共重合体の水素添加物である。
【0164】
(セルロースエーテル)
セルロースエーテルは、セルロース分子内の水酸基がアルコキシ基に置換された高分子である。置換率は、45〜49.5%が好ましい。また、アルコキシ基のアルキル部分が、例えば、ヒドロキシル基によって置換されていてもよい。セルロースエーテルの被膜は、強靭性並びに熱安定性に優れている。
【0165】
本実施形態で使用可能なセルロースエーテルとして、例えば、メチルセルロース、エチルセルロースといったアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースといったヒドロキシアルキルセルロース;ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルエチルセルロースといったヒドロキシアルキルアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロースといったカルボキシアルキルセルロース;カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロースといったカルボキシアルキルヒドロキシアルキルセルロース;が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。これらのうちでも、アルキルセルロースが好ましく、アルキルセルロースのうちでも、エチルセルロースが好ましい。
【0166】
本実施形態においては、セルロースエーテルとして、市販されているものを使用することができる。例えば、エチルセルロースとして、日進化成社製の「エトセル(登録商標)STD4」、「エトセル(登録商標)STD7」、「エトセル(登録商標)STD10」等が挙げられる。これらは状況に応じて単独で用いてもよいし2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0167】
(ポリビニルブチラール)
本実施形態において使用できるポリビニルブチラール(ブチラール樹脂:アルキルアセタール化ポリビニルアルコール)は、化学式3に示すように、水酸基を有し、親水性のビニルアルコール単位と、ブチラール基を有し、疎水性のビニルアセタール単位と、アセチル基を有し、ビニルアルコール単位とビニルアセタール単位との中間の性質の酢酸ビニル単位との共重合体である。本実施形態に係る液体現像剤においては、ブチラール化度(親水性部と疎水性部との割合を定めたもの)が60〜85mol%のポリビニルブチラールが被膜形成能(造膜性)に優れる点で好ましい。ポリビニルブチラールは、非極性溶剤に対して溶解性を示すビニルアセタール単位と、紙等の記録媒体に対して結着性を向上させるビニルアルコール単位とを有するため、キャリア液C及び記録媒体の両方に対して高い親和性を有する。
【0168】
【化3】

【0169】
本実施形態で使用し得るポリビニルブチラールとしては、特に限定されない。ポリビニルブチラールとして、例えば、ヘキスト社製の「Mowital(登録商標)」B20H、B30B、B30H、B60T、B60H、B60HH、B70H;積水化学工業社製の「エスレック(登録商標)」BL−1(ブチラール化度:63±3mol%)、BL-2(同:63±3mol%)、BL−S(同:70mol%以上)、BL−L、BH−3(同:65±3mol%)、BM−1(同:65±3mol%)、BM-2(同:68±3mol%)、BM−5(同:63±3mol%)、BM−S;電気化学工業社製の「デンカブチラール」#2000−L、#3000−1、#3000−2、#3000−3、#3000−4、#3000−K、#4000−1、#5000−A、#6000−Cが挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0170】
(製造方法)
本実施形態に係る液体現像剤は、キャリア液C、顔料、有機高分子化合物、及び、必要に応じて分散安定剤を、例えば、ボールミル、サンドグラインダー、ダイノーミル、ロッキングミルを用いて(ジルコニアビーズ等を用いるメディア分散型機でもよい)、必要に応じて数分〜10数時間かけて、十分に溶解又は混合・分散させることにより、製造することができる。
【0171】
上述の混合・分散により、顔料が微細に粉砕される。上述の如く、液体現像剤中の顔料の平均粒子径(D50)が、好ましくは、0.1〜1.0μmとなるように、混合・分散の時間や回転数を調整する。分散時間が過度に短いと、あるいは回転数が過度に少ないと、顔料の平均粒子径(D50)が1.0μmを超え、上述の如く、定着性が低下する可能性がある。分散時間が過度に長いと、あるいは回転数が過度に多いと、顔料の平均粒子径(D50)が0.1μm未満となり、上述の如く、不十分な現像性に起因する画像濃度の低下が引き起こされる。
【0172】
本実施形態において、キャリア液Cに有機高分子化合物を溶解させた後、顔料(必要に応じて分散安定剤と共に)を混合・分散させることにより、液体現像剤を製造してもよく、あるいは、樹脂溶液(キャリア液Cに有機高分子化合物を溶解させたものをいう)と、顔料分散体(キャリア液Cに顔料(状況に応じて分散安定剤と共に)を混合・分散させたものをいう)とをそれぞれ予め調製しておいて、これらを適宜の混合比(質量比)で混合することにより、液体現像剤を製造してもよい。
【0173】
なお、顔料の平均粒子径(D50)を算出するために、顔料の粒度分布が測定される。顔料の粒度分布は、例えば、以下に示される手法により測定される。
【0174】
製造された液体現像剤又は調製された顔料分散体を所定量サンプリングし、液体現像剤又は顔料分散体に用いられているキャリア液Cと同じキャリア液Cで10〜100倍(体積)に希釈し、マルバーン(MALVERN)社製のレーザー回折式粒度分布測定装置「マスターサイザー2000」を用いてフロー方式により、顔料の粒度分布が測定される。
【0175】
また、製造された液体現像剤の粘度は、測定温度25℃において、CBC社製の振動式粘度計「VISCOMATE VM−10A−L」を用いて測定される。
【産業上の利用可能性】
【0176】
本発明は、プリンタ、複写機、ファクシミリ装置、これらの機能を併せ持つ複合機などの各種の画像形成装置に適用可能である。
【符号の説明】
【0177】
1 画像形成装置
2 画像形成部
50,500 定着装置
51,510 摺擦部材
52 駆動源
53 支持部材
54 不織布層(摺擦面)
55 シャフト
60 摺擦ブラシ
61 ブラシ毛
71 無端ベルト
80 領域面積変更機構(接触面積変更機構)
CR 摺擦領域
CV 搬送装置
I 画像層
N ニップ部
LV 不織布層の線速度
O 回転中心
S シート
T シートの搬送方向
V シートの搬送速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートを搬送する搬送要素と、
前記シートに、液体現像剤を用いて画像を形成する画像形成部と、
前記シート上の前記画像を摺擦して該画像を定着させる定着装置と、
を備え、
前記定着装置は、
回転中心を有し、前記シートに面接触した状態で前記回転中心回りに回転しつつ前記画像を摺擦する摺擦面と、
前記摺擦面を前記回転中心回りに回転させる駆動源と、
を含む画像形成装置。
【請求項2】
請求項1に記載の画像形成装置において、
前記搬送要素は、前記シートを所定の搬送速度で搬送し、
前記駆動源は、前記摺擦面が接線方向において所定の線速度を有するように前記摺擦面を回転させ、
前記線速度は、前記搬送速度よりも大きく設定されている画像形成装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の画像形成装置において、
前記液体現像剤は、キャリア液を含み、
前記画像は、カラー画像であり、
前記摺擦面は、前記シートの搬送方向と直交する方向に配置された第1摺擦面および第2摺擦面を含む画像形成装置。
【請求項4】
請求項3に記載の画像形成装置において、
前記駆動源は、前記第1摺擦面を第1回転方向に回転させると共に、前記第2摺擦面を、前記第1回転方向とは反対の第2回転方向に回転させる画像形成装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記摺擦面は、不織布からなり、前記画像を摺擦する不織布層から形成されており、
前記不織布層は、その層表面と前記画像とが面接触した状態で前記画像を摺擦する画像形成装置。
【請求項6】
請求項5に記載の画像形成装置において、
前記不織布は、0.50以下の動摩擦係数を有する画像形成装置。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の画像形成装置において、
前記定着装置は、多数のブラシ毛を有し、前記ブラシ毛で前記画像を摺擦する摺擦ブラシを含み、
前記摺擦面は、前記多数のブラシ毛の先端で形成されている画像形成装置。
【請求項8】
請求項3または4に記載の画像形成装置において、
前記定着装置は、多数のブラシ毛を有し、前記ブラシ毛で前記画像を摺擦する第1摺擦ブラシおよび第2摺擦ブラシを含み、
前記第1摺擦面は、前記第1摺擦ブラシの前記多数のブラシ毛の先端で形成されており、
前記第2摺擦面は、前記第2摺擦ブラシの前記多数のブラシ毛の先端で形成されており、
前記第1摺擦ブラシの前記ブラシ毛と、前記第2摺擦ブラシの前記ブラシ毛とは、前記直交方向において互いに接触するように配置されている画像形成装置。
【請求項9】
請求項7に記載の画像形成装置において、
さらに、前記摺擦ブラシと前記画像との間の接触面の接触面積を変更する接触面積変更機構と、前記接触面積変更機構を制御する制御部とを備え、
前記接触面積変更機構は、前記接触面積を、第1接触面積と前記第1接触面積よりも大きい第2接触面積との間で切り替え、
前記シートは、第1厚み寸法を有する第1シートと、前記第1厚み寸法よりも大きい第2厚み寸法を有する第2シートとを含み、
前記制御部は、前記第1シートが搬送されるとき、前記接触面積変更機構を制御して前記接触面積を前記第1接触面積に切り替え、前記第2シートが搬送されるとき、前記接触面積変更機構を制御して前記接触面積を前記第2接触面積に切り替える画像形成装置。
【請求項10】
請求項9に記載の画像形成装置において、
前記定着装置は、さらに、
前記摺擦ブラシが取り付けられたブラシ取付け面を有するブラシ支持部材と、
前記駆動源に連結された一端部と、前記ブラシ支持部材に連結された他端部とを有し、前記ブラシ取付け面に対して垂直方向に延び、前記駆動源によって回転するシャフトと、
を含み、
前記接触面積変更機構は、前記シャフトを延長した仮想線と前記接触面を延長した仮想面との交差角度を、第1角度と前記第1角度よりも大きい第2角度との間で切り替えることが可能に構成されており、前記交差角度を前記第1角度に切り替えることにより、前記接触面積を前記第1接触面積に切り替え、前記交差角度を前記第2角度に切り替えることにより、前記接触面積を第2接触面積に切り替え、
前記制御部は、前記第1シートが搬送されてきたとき、前記接触面積変更機構を制御して前記交差角度を前記第1角度に切り替え、前記第2シートが搬送されてきたとき、前記接触面積変更機構を制御して前記交差角度を前記第2角度に切り替える画像形成装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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