画像形成装置
【課題】液体吐出ヘッドと記録媒体と間の相対振動に起因する濃度ムラ(振動ムラ)による画質劣化を低減することができる画像形成装置を提供する。
【解決手段】2次元ノズル配列を有する液体吐出ヘッド(16)、又は複数個のヘッドモジュールが千鳥配列された液体吐出ヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段(14)と、搬送手段を支持する本体フレーム(20)と、本体フレームに対してヘッドを移動させるヘッド移動手段を備え、ヘッド(16)を液滴吐出位置で本体フレームに固定するヘッド固定手段は、ヘッド(16)を付勢するヘッド固定用の与圧付与手段(66)を有する。与圧付与手段(66)のばね定数とヘッド(16)の質量から規定される共振周波数が、ノズル配列におけるノズル繋ぎ部の搬送方向のノズル間空間距離と、搬送手段(14)及びヘッド(16)の相対振動周波数と、媒体搬送速度とに依存する振動ピッチの周波数成分と異なるように構成される。
【解決手段】2次元ノズル配列を有する液体吐出ヘッド(16)、又は複数個のヘッドモジュールが千鳥配列された液体吐出ヘッドと、記録媒体を搬送する搬送手段(14)と、搬送手段を支持する本体フレーム(20)と、本体フレームに対してヘッドを移動させるヘッド移動手段を備え、ヘッド(16)を液滴吐出位置で本体フレームに固定するヘッド固定手段は、ヘッド(16)を付勢するヘッド固定用の与圧付与手段(66)を有する。与圧付与手段(66)のばね定数とヘッド(16)の質量から規定される共振周波数が、ノズル配列におけるノズル繋ぎ部の搬送方向のノズル間空間距離と、搬送手段(14)及びヘッド(16)の相対振動周波数と、媒体搬送速度とに依存する振動ピッチの周波数成分と異なるように構成される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置に係り、特に、2次元マトリクス配列のノズル群を有するラインヘッド、若しくは、複数のヘッドモジュールを千鳥配列で繋ぎ合わせたラインヘッドを搭載したインクジェット方式の画像形成装置における描画品質(画質)を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置における画像の記録方式として、用紙の搬送方向と直交する方向に記録ヘッドを往復移動させながら画像を記録するシリアル方式(マルチパス方式)と、用紙の搬送方向と直交する用紙幅の方向に沿って長尺のラインヘッドを設置して用紙搬送と共に当該ラインヘッドによる1回の描画パスで画像を記録するライン方式(シングルパス方式)とが知られている。
【0003】
特許文献1では、用紙の搬送手段に対して記録ヘッドを精度よく位置決め固定するための手段として、搬送手段の両端部に穴或いは突起を設ける一方、ラインヘッド側に突起或いは穴を設けて搬送手段の軸方向(水平方向)の位置を規制する構成が開示されている。
【0004】
特許文献2では、複数のインクヘッド群を搭載するキャリッジに位置規制用のキャリッジピンが設けられる一方、用紙を搬送する無端状ベルトを支持するベルトプラテンに位置決め孔が設けられており、キャリッジピンを位置決め孔に嵌合させることで互いの位置関係を規制する構成が開示されている。
【0005】
特許文献3では、複数の記録ヘッドが固定して設置された記録ヘッドユニットを用紙の搬送ユニットに対してピンとピン孔で位置決めするとともに、ピン孔に挿入されたピンをコレクトチャックで把持することにより、記録ヘッドユニットを搬送ユニットに一体的に固定することが提案されている。このような構成によれば、プリンタ稼働時の振動の影響を受けても、搬送ユニットとヘッドユニットとが全く同じ振動をするので着弾位置精度が維持される旨の開示がある(特許文献3の段落0041)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−110154号公報
【特許文献2】特開2005−138371号公報
【特許文献3】特開2009−292044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術(特許文献1〜3)はいずれも、ラインヘッドと用紙の相対振動によってインクの着弾精度が低下し、用紙搬送方向の描画線(ラスタ線)が蛇行することを課題としている。これら従来技術で課題としている視認される蛇行量(振幅)は数十μmオーダーの振動レベルである。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の技術課題以外に、2次元配列のノズル群を有するラインヘッド、或いは、複数のヘッドモジュールを千鳥配列で繋ぎ合わせたラインヘッドの場合、次のような課題がある。
【0009】
(技術課題の説明)
ここでは、用紙の搬送方向をy方向、搬送方向(y方向)に直交する用紙の幅方向をx方向とし、2次元配列ノズルを例に説明する。用紙のx方向描画範囲の全域を記録可能なラインヘッド(ページワイドヘッド、或いはフルライン型ヘッドとも呼ばれる)の2次元配列ノズルを例に説明する。2次元配列ノズルを持つヘッドでは、用紙上でx方向に隣接するドット(またはドットがy方向に連続して繋がって描かれるラスター)を形成するノズル対において、ヘッドのノズルレイアウト上、y方向に距離を隔てたノズル位置関係となるノズル対(以下、「yオフセット隣接ノズル対」と呼ぶ。)が存在する。
【0010】
このとき、ヘッドと用紙の間に、x方向の相対振動があると、yオフセット隣接ノズル対で記録されるラスター間の間隔が相対振動に依存して変動することになる。その結果、yオフセット隣接ノズル対で記録されるドット間(x方向に隣接するドット間)に「重なり」或いは「隙間」ができ、この「重なり」と「隙間」の程度がy方向に変化し、これがムラとなって画像品質を悪化させる。
【0011】
このように、ヘッドと用紙間のx方向の相対振動または変位に起因して生じる濃度ムラを、本願明細書では「振動ムラ」と呼ぶ。
【0012】
かかる現象を図29〜図34の例で解説する。図29は、2次元配列ノズルの一例である。図中の黒丸「●」がノズルの位置を示す。横軸はx方向の位置、縦軸はy方向の位置を表しており、記録解像度で決まる画素(pix)単位の座標でノズル位置を示したものである。
【0013】
図示のとおり、この2次元ノズルレイアウトは、y方向に隔てた2行のノズル行を持ち、同じ1行の中では1pixおきにノズルが並び(1行内のx方向ノズル間隔は2pix)、異なる行に属するノズルの位置がx方向に1pixずれた位置関係(いわゆる千鳥状の配列)となっている。その結果、用紙上には1行目のノズル行に属するノズル群によって1pixおきのラスター(走査線)が形成され、当該1行目のノズルで形成されるラスターの間を2行目のノズル群で形成するラスターが埋めていくという描画形態となる。1行目と2行目のy方向の間隔を「yオフセット隣接ノズル対」のオフセット量(y方向オフセット量)と呼ぶ。ここでは、y方向オフセット量=500pixの例を示した。なお、描画の解像度を1200dpiとすると、500pixは10.6mmとなる。
【0014】
この様な2次元配列ノズルのヘッド(図29)に対して、ヘッドと用紙間にx方向の相対振動があった場合の各ノズルで描かれるラスターの一例を図30に示した。図30は、全てのノズルから一斉に吐出を開始し、用紙を一定速度でy方向に搬送しつつ、所定の打滴周波数で連続吐出を行った場合に得られるラスター群である。また、このとき実際に用紙上に描画される画像(ベタ画像;打滴率100%)の例を図31に示した。なお、図30、図31は、x方向の相対振動の片振幅を5μm、当該相対振動の周期を用紙上におけるy方向の空間距離換算で1000pix=21.2mmとした場合の例である。
【0015】
図30において、符号1Aで示したラスターは図29の下行(1行目)に属するノズルで描かれるものである。図30において、符号2Bで示したラスターは図20の上行(2行目)に属するノズルで描かれるものである。ラスター1Aとラスター2Bはy方向について500pix分ずれている。これは図30における下行ノズルと上行ノズルとのy方向オフセット量に対応している。
【0016】
仮に、ヘッドと用紙間にx方向について相対振動が無ければ、yオフセット隣接ノズル対の走査線(ラスター)はy方向に沿って真っ直ぐな直線ラインとなり、ラスター間隔は解像度から決まる一定値(例えば、1200dpiならば、約21.2μm)となる。
【0017】
これに対して、ヘッドと用紙間にx方向の相対振動があると、1行目のノズルのラスター(符号1A)と、2行目のノズルのラスター(符号2B)とがそれぞれ揺らぐ(図30参照)。このような各ラスターの揺れにより、隣接するラスター(1A,2B)間のx方向間隔が用紙送り方向(y方向)の位置によって空間周期的に変動する。
【0018】
その結果、図31に示すように、描画結果の画像に周期的なムラができる。すなわち、x方向に隣接するラスター間のx方向間隔が周期的に変動することで、これら隣接ラスター同士の「重なり」(ラスター同士の接近)と「隙間」(ラスター同士の離間)がy方向に繰り返され、それが用紙上の描画結果における濃度ムラとなって現れている。
【0019】
図31において、y方向に沿った白筋がx方向に対して概ね等間隔で並ぶ白筋領域4と、y方向について白筋が途切れて黒く(濃く)見える黒領域5とが、y方向について振動の周期の1/2(ここでは500pix)で繰り返される。
【0020】
白筋領域4をx方向に見渡すと、白の隙間(白筋)がある部分と、白筋が無い部分(黒の部分)とが交互に繰り返されている。白筋の部分を更に詳細に見ると、白筋の隙間(白筋の太さ)はy方向について一定ではなく、中央部分が広くなっている。このような白筋領域4はマクロ的に見ると黒領域5に対して濃度が低くなっているため、画像全体で見ると、y方向に濃度が変動する(濃淡が周期的に繰り返される)濃度ムラが視認され、画像品質が低下する。
【0021】
以上の説明では、2行(y方向)×N列(x方向)(ただし、N≧2の整数)の2次元配列ノズルの例を示したが、本課題は、このノズル配列に限らず、他の2次元ノズル配列(例えば、M行×N列(ただし、M≧2の整数)の2次元配列ノズルなど)においても同様の課題が生じる。
【0022】
図32に6行×N列のノズルレイアウトの場合を示す。図29と同様に、相対振動の片振幅を5μm、相対振動の周期を用紙上のy方向距離で1000pix=21.2mmとした。図33は、図32のノズル配列を持つヘッドに対して、ヘッドと用紙間にx方向の相対振動があった場合のラスターの一例を示したものであり、図34は、このとき描画される画像(ベタ画像)の例である。
【0023】
図32に示したノズル配列の場合、yオフセット隣接ノズル対を構成するノズルが属するノズル行の組み合わせとして、1行目と2行目、2行目と3行目、3行目と4行目、4行目と5行目、5行目と6行目、6行目と1行目の合計6通りの組み合わせがある。これら各ノズル対に対応するラスター間の間隔変動によって濃度ムラが生じるが(図34参照)、このうちy方向に最も大きく離れるノズル対(6行目のノズルと1行目のノズル)によるラスター間隔の変動による白筋が最も目立ち、当該最大オフセット量のノズル対が画質劣化に最も影響を及ぼしている。
【0024】
この場合、図34に示されるように、白筋領域6と黒領域7はy方向について振動の周期(ここでは1000pix)で繰り返される。なお、図31と図34で、振動ムラ(白筋領域と黒領域)の周期が異なるのは、次の理由による。
【0025】
図31に対するノズル配列は、図29に示される2行の並びのものである。この場合、「yオフセット隣接ノズル対」としては、「1行目ノズル−2行目ノズル」の組(以下、これを「A組」と呼ぶ。)と、「2行目ノズル−1行目ノズル」の組(以下、これを「B組」と呼ぶ。)の2組存在する。A組のノズル対で振動周期(1000pix)の振動ムラが生じ、また、B組のノズル対でも同様に振動周期(1000pix)の振動ムラが生じる。そして、2組のノズル対でできた振動ムラは位相が180度ずれているために、合成された振動ムラとしては、振動周期の1/2の周期(500pix)となる(図30参照)。
【0026】
これに対して、図34の場合には、図32で示されるノズル配列(6行の並びのもの)が対応するが、この場合には、「yオフセット隣接ノズル対」としては「6行目ノズル−1行目ノズル」の1組だけとなり、現れる振動ムラの周期は振動周期(1000pix)だけとなる(図33参照)。
【0027】
なお、図32で説明した6行目のノズルと1行目のノズルの関係のように、y方向オフセット量が他のyオフセット隣接ノズル対に比べて大きくなる隣接ノズル対の位置を2次元マトリクス配列におけるノズルの繋ぎ部とよぶ場合がある。
【0028】
上述のような振動ムラの課題は2次元マトリクス配列のノズル繋ぎ部に限らず、一列のノズルアレイ(一次元ノズル配列)のヘッドモジュールを千鳥状に配置して繋ぎ合わせたラインヘッド(図28参照)や2次元マトリクス配列のヘッドモジュールを千鳥状に配置して繋ぎ合わせたラインヘッド(図27参照)におけるモジュール間の繋ぎ部でも同様に発生する。
【0029】
2次元マトリクス配列のモジュールを千鳥配列した構成の場合には、モジュール内におけるマトリクスのノズル繋ぎ部と、モジュール間でのノズルの繋ぎ部(モジュール繋ぎ部)の両方が問題になりうる。本明細書では、説明の便宜上、「ノズル繋ぎ部」という用語は、マトリクス配列のノズル繋ぎ部と、モジュール繋ぎ部の両方を包括する概念として用いる。つまり、本発明が解決しようとする課題は、ラインヘッドの2次元マトリクス配列のノズル繋ぎ部、或いは千鳥配列のヘッドモジュールのノズル繋ぎ部に位置する2つのノズル間の用紙搬送方向空間距離(y方向のオフセット量)と相対振動周波数に依存して発生する描画ライン(ラスター)の位相ずれに起因する濃淡ムラ(ビードムラ)に関する内容である。
【0030】
特に、ラインヘッドと記録媒体間の相対速度(記録媒体の搬送速度)とx方向の相対振動周波数により決定する描画方向の揺らぎ(蛇行ピッチ)とノズル繋ぎ部の空間距離が逆位相に同期した場合に最も視認できる濃淡ムラの問題である。
【0031】
本課題はノズル繋ぎ部の空間距離ピッチと相対振動周波数に依存する点で特許文献1〜3における課題と相違しており、さらに、本課題の振動振幅レベルは、従来課題よりも小さい、概ね4μmレベルで濃淡が視認出来る点で、従来課題と大きく異なる。
【0032】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、液体吐出ヘッドのノズル配列におけるノズル繋ぎ部のy方向空間距離と、液体吐出ヘッドと被描画媒体(記録紙など)と間の相対振動とに起因する濃度ムラ(振動ムラ)による画質劣化を低減することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0034】
(発明1):発明1に液滴を吐出する複数のノズルが2次元配列された吐出面を有する液体吐出ヘッド、又は液滴を吐出する複数のノズルを備えた複数個のヘッドモジュールが千鳥状に配置された液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドの前記ノズルから吐出された液滴を付着させる記録媒体を搬送する搬送手段と、前記搬送手段を支持する本体フレームと、前記本体フレームに対して前記液体吐出ヘッドを移動可能に支持するヘッド移動手段と、前記移動可能な前記液体吐出ヘッドを前記記録媒体への液滴吐出位置で前記本体フレームに固定するヘッド固定手段と、を備え、前記ヘッド固定手段は、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送方向に対して直交する前記記録媒体の幅方向に前記液体吐出ヘッドを付勢するヘッド固定用の与圧付与手段を有し、前記ヘッド固定用の与圧付与手段のばね定数と前記液体吐出ヘッドの質量から規定される共振周波数が、前記液体吐出ヘッドのノズル配列における前記搬送方向のノズル間距離のうち、前記記録媒体上の前記幅方向に隣接するドットを形成するノズル並びの繋ぎ部に該当するノズル対の前記搬送方向の空間距離と、前記記録媒体の搬送時における前記搬送手段と前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の相対振動周波数と、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送速度と、に依存する振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする。
【0035】
この発明によれば、ヘッド移動手段によって移動可能な液体吐出ヘッドを液滴吐出位置に固定する場合、当該液体吐出ヘッドは、ヘッド固定用の与圧付与手段によって与圧が付与されて、本体フレームに対して突き当てられた状態で固定される。ヘッド固定用の与圧付与手段により与圧固定されている液体吐出ヘッドは、ヘッド固定用の与圧付与手段のばね定数k1と液体吐出ヘッドの質量m1とから規定される共振周波数f1(共振点)を持つ。
【0036】
本発明では、この共振周波数f1を振動ピッチの周波数成分に同期させないように、装置が構成される。これにより、振動ピッチの周波数成分に同期する周波数成分が低減され、振動ムラの視認性が抑制される。
【0037】
「振動ピッチ」とは、記録媒体を一定速度で搬送する際に記録媒体上のy方向に現れる濃淡ムラ(振動ムラ)の空間周期を意味しており、この空間周期と記録媒体搬送速度で規定される振動ムラ発生周波数が「振動ピッチの周波数成分」に相当している。
【0038】
ヘッド固定用の与圧付与手段には、例えば、板ばね、コイルばね、弾性体などの弾性部材を用いることができる。
【0039】
また、本発明は、搬送手段を支持する本体フレームに液体吐出ヘッドを固定することで、液体吐出ヘッドと搬送手段の相対振動差を低減させることができる。上記周波数成分の低減と相まって、濃度ムラ(振動ムラ)を効果的に抑制することができる。
【0040】
(発明2):発明2に係る画像形成装置は、発明1において、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に接近させた前記液滴吐出位置と、当該液滴吐出位置よりも前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段から遠ざけた退避位置とに前記液体吐出ヘッドを移動させる昇降手段と、前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記搬送手段に対する接近動作に連動して前記液体吐出ヘッドを前記幅方向に押し、前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記液滴吐出位置からの退避動作に連動して前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の押し付けを解除するカム機構と、を備えることを特徴とする。
【0041】
かかる態様によれば、昇降手段により液体吐出ヘッドを搬送手段に近づけると、この接近動作に連動するカム機構により液体吐出ヘッドが本体フレームに押し付けられる。この動きによって、液体吐出ヘッドと本体フレームの間にヘッド固定用の与圧付与手段から与圧が付与され、液体吐出ヘッドが固定(拘束)される。
【0042】
(発明3):発明3に係る画像形成装置は、発明2において、前記カム機構は、前記液体吐出ヘッドの側面部に設けられた傾斜カム面と、前記本体フレームに設けられ、前記傾斜カム面に当接して従動回転する回転体と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0043】
かかる態様によれば、昇降手段による液体吐出ヘッドの接近動作に伴い、傾斜カム面に回転体が当接しながら、液体吐出ヘッドを徐々に押し動かすことができ、スムーズにヘッドを固定することができる。回転体には、例えば、ローラ、ベアリングなどを用いることができる。
【0044】
(発明4):発明4に係る画像形成装置は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記搬送手段としてドラム又はローラが用いられ、当該ドラム又はローラの軸方向に与圧を付与して当該ドラム又はローラを前記本体フレームに固定する搬送部固定手段を備えることを特徴とする。
【0045】
かかる態様によれば、ドラム又はローラからなる搬送手段は搬送部固定手段によって本体フレームに対して一体的に固定される。また、液体吐出ヘッドがヘッド固定用の与圧付与手段によって与圧付与されて液滴吐出位置に固定されることにより、搬送手段と液体吐出ヘッドとが本体フレームに対して一体的に連結された構造体となる。これにより、搬送手段に伝わる振動と液体吐出ヘッドに伝わる振動を同期させることができ、振動による着弾精度の低下を効果的に抑止することができる。
【0046】
(発明5):発明5に係る画像形成装置は、発明4において、前記搬送部固定手段は、前記本体フレームに対して前記ドラム又はローラを前記軸方向に付勢する搬送部固定用の与圧付与手段を有することを特徴とする。
【0047】
ドラム又はローラの回転軸と、これを支持する本体フレームの間に軸方向の与圧を付与してドラム又はローラを固定する構成を採用することにより、液体吐出ヘッドと搬送手段(ドラム又はローラ)の相対振動差を一層低減させることができる。
【0048】
(発明6):発明6に係る画像形成装置は、発明5において、前記搬送部固定用の与圧付与手段のばね定数と前記ドラム又はローラの質量から規定される共振周波数が、前記振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする。
【0049】
かかる態様によれば、搬送手段として機能するドラム又はローラは、搬送部固定用の与圧付与手段によって与圧が付与されて、本体フレームに対して突き当てられた状態で固定される。搬送部固定用の与圧付与手段により与圧固定されているドラム又はローラは、返送部固定用の与圧付与手段のばね定数k2とドラム又はローラの質量m2とから規定される共振周波数f2(共振点)を持つ。
【0050】
発明6では、この共振周波数f2を振動ピッチの周波数成分に同期させないように、装置が構成される。これにより、振動ピッチの周波数成分に同期する周波数成分が低減され、振動ムラの視認性が一層抑制される。
【0051】
(発明7):発明7に係る画像形成装置は、発明1乃至6のいずれか1項において、前記ヘッド移動手段は、前記本体フレームに移動可能に設けられたキャリッジと、前記キャリッジに設けられ、前記液体吐出ヘッドが載置される載置台と、前記本体フレームに架設されたガイドレールと、を含んで構成され、前記キャリッジは、前記ガイドレールにガイドされて、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に対面させる第1位置と、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段による前記記録媒体の搬送領域外の第2位置との間を移動可能に設けられ、前記キャリッジを前記第1位置で前記本体フレームに固定するキャリッジ固定手段を備えることを特徴とする。
【0052】
かかる態様によれば、液体吐出ヘッドはキャリッジに搭載され、キャリッジはガイドレールを介して本体フレームに移動可能に設けられている。キャリッジは、液体吐出ヘッドを搬送手段に対面させる第1位置でキャリッジ固定手段により本体フレームに固定される。これにより、キャリッジと液体吐出ヘッドとを本体フレームに一体化して連結固定することができ、液体吐出ヘッドと搬送手段の相対振動差を低減させることができる。
【0053】
なお、キャリッジには複数の載置台を備える態様が可能であり、共通のキャリッジに複数の液体吐出ヘッド(例えば、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロ)、K(クロ)の各インク色に対応した記録ヘッド)を搭載することができる。この場合、各ヘッドについて、それぞれ昇降手段を設け、各ヘッドを液滴吐出位置と退避位置とに移動可能な構成とする態様が好ましい。
【0054】
(発明8):発明8に係る画像形成装置は、発明7において、前記キャリッジ固定手段として、電磁石と、該電磁石に磁着される被固定部材と、が用いられ、前記電磁石及び前記被固定部材のうち、一方が前記本体フレームに設けられ、他方が前記キャリッジに設けられることを特徴とする。
【0055】
かかる態様によれば、移動可能なキャリッジを本体フレームに対して簡単にロック/アンロック(ロック解除)することができる。
【0056】
(発明9):発明9に係る画像形成装置は、発明7又は8において、前記第2位置に前記液体吐出ヘッドをメンテナンスするメンテナンス手段を備えることを特徴とする。
【0057】
かかる態様によれば、記録媒体の搬送路外の領域(第2位置)に液体吐出ヘッドを退避させて、液体吐出ヘッドのメンテナンスを行うことができる。メンテナンス動作には、例えば、ノズル面のワイピング、パージ(予備吐出)、ノズル吸引、或いはこれらの適宜の組み合わせ、などがある。メンテナンス手段として、例えば、ノズル面をワイピングするワイピング手段(ウエブを用いる態様、ブレードを用いる態様、これらを組み合わせた態様)、パージ(予備吐出)液を受ける液受け部、ノズル吸引のための吸引キャップ、吸引ポンプ、或いは、これらの適宜の組み合わせ、を採用することができる。
【0058】
(発明10):発明10に係る画像形成装置は、発明1乃至9のいずれか1項において、前記液体吐出ヘッドは、前記記録媒体の前記幅方向に長いラインヘッドであり、前記液体吐出ヘッドに対して前記記録媒体を前記搬送方向へ1回だけ相対移動させて当該記録媒体上に画像を形成するシングルパス方式の描画が行われることを特徴とする。
【0059】
振動ムラの課題は、ラインヘッドを用いたシングルパス方式の画像形成装置において特に問題となるため、その対策として、本発明の適用が効果的である。本発明によれば、高い描画品質と高生産性を両立することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、搬送手段と液体吐出ヘッドの相対振動と、液体吐出ヘッドのノズル配列とに起因する濃淡ムラ(振動ムラ)の視認性を効果的に低減することができる。これにより、高い描画品質と高い生産性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】yオフセット隣接ノズル対で記録される用紙搬送方向のラスターを模式的に示した説明図
【図2】yオフセット隣接ノズル対のラスター間隔D(y)が変動する様子を例示したグラフ
【図3】ノズル対のオフセット量(OSy)と相対振動周期(Pv)の条件とラスター間の間隔変動との関係を例示した説明図
【図4】2行×N列の2次元配列ノズルのヘッドに対して本発明の適用によって得られるラスターの例を示した図
【図5】図4の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【図6】6行×N列の2次元配列ノズルのヘッドに対して本発明の適用によって得られるラスターの例を示した図
【図7】図6の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の描画部の概略構成図
【図9】描画部及びこれに並設されたメンテナンス部の正面図
【図10】描画部及びこれに並設されたメンテナンス部の平面図
【図11】ラインヘッドを保持する載置台の構成を示す断面図
【図12】キャリッジに設けられた載置台の構成を示す正面図
【図13】図12のA−A矢視図
【図14】図12のB−B矢視図
【図15】図12のC−C矢視図
【図16】図12のD−D矢視図
【図17】ラインヘッドロック機構の作用の説明図
【図18】ドラム軸の固定構造の第1例を示す図
【図19】ドラム軸の固定構造の第2例を示す図
【図20】ラインヘッドの与圧固定構造を示す模式図
【図21】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図22】図21のインクジェット記録装置におけるドラム回転機構の構成図
【図23】図21におけるドラム支持フレーム(側板)を明示的に強調した説明図
【図24】インクジェットヘッドの構成例を示す平面透視図
【図25】複数のヘッドモジュールを繋ぎ合わせて構成されるヘッドバーの例を示す図
【図26】図24中のA−A線に沿う断面図
【図27】異なるヘッドモジュール間にまたがるyオフセット隣接ノズル対のオフセット量の説明図
【図28】一次元ノズル配列のヘッドモジュールが千鳥配列により繋ぎ合わされたラインヘッドの説明図
【図29】2行×N列の2次元配列ノズルの例を示すノズルレイアウト図
【図30】図29のノズル配列を用いた従来のインクジェット記録装置で得られるラスターを示した図
【図31】図30の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【図32】6行×N列の2次元配列ノズルの例を示すノズルレイアウト図
【図33】図32のノズル配列を用いた従来のインクジェット記録装置で得られるラスターを示した図
【図34】図32の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0063】
(1)振動ムラの発生原因について
まず、振動ムラの発生原因について説明する。振動ムラの原因は、主に以下の2つである。
【0064】
(1-a)x方向相対振動の原因(主要因)
インクジェット記録装置内には、固定の周波数で振動する部品や部位が存在する。例えば、ヘッドユニットの固有振動、用紙搬送用のドラムを保持する支持フレーム(側板)の固有振動、モータの回転をプーリに伝達するベルトの固有振動、ドラムへの用紙の吸引吸着などに使用する真空ポンプの振動、などがあり得る。
【0065】
これらの振動源は、その振動源(部材)に固有の振動数で振動するため、用紙の搬送速度(「相対走査速度」に相当)を変えても、同じ振動数で振動する。つまり、相対走査速度に依存しない固定の周波数で振動する振動源である。
【0066】
かかる固定の周波数で振動する振動源の振動数(振動周波数)をfvとしたときに、用紙上に現れる振動の周期Pv(用紙上でのy方向の長さ、つまり空間的な周期で表したもの)は、用紙の搬送速度をvpとして、以下のように表すことができる。
【0067】
[数1] Pv=vp/fv …(式1)
つまり、搬送速度に依らず固定の振動数(fv)で振動源が揺れているとき、その揺れに起因して用紙上に現れる振動の周期Pv(y方向のピッチ)は、搬送速度(vp)に依存して異なる。搬送速度(vp)が速くなれば、用紙上に現れる振動の周期(Pv)は長くなる。逆に、搬送速度(vp)が遅いほど、用紙上に現れる振動の周期(Pv)は短く(ピッチが細かく)なる。
【0068】
(1-b)x方向振動周期とノズル配列との関係(副要因)
ヘッドのノズル配列に起因した「yオフセット隣接ノズル対」のy方向のオフセット量(「オフセット距離」に相当)OSyと、用紙上におけるx方向相対振動の周期Pv(固定の振動周波数fvと相対走査の速度vpから式1により定まる周期)との関係により、「yオフセット隣接ノズル対」で記録される2本の走査線(ラスター)間のx方向間隔変動ΔD(y)の程度が変わる。
【0069】
図1はyオフセット隣接ノズル対で記録される用紙搬送方向のラスター(走査線)を模式的に拡大した図である。なお、図1は説明の便宜上、ラスターの揺らぎ量を強調するために、縦横の寸法比率を歪ませて(デフォルメして)描いてある。
【0070】
図1における横方向は長尺のインクジェットヘッド(バー)の長手方向(「x方向」という。)であり、縦方向が用紙搬送方向(ヘッドと用紙の相対移動方向、「y方向」という。)である。図1の左側に示した波形のラインR_Aがyオフセット隣接ノズル対の一方のノズル(ここでは「ノズルA」と呼ぶ。)によるラスターを示し、右側に示した波形のラインR_Bが他方のノズル(ここでは「ノズルB」と呼ぶ。)によるラスターを示す。各ノズルA,Bから一定のサイクル(吐出周波数)で連続的に打滴を行いつつ、用紙をy方向に一定速度で搬送することによって用紙上に液滴を着弾させ、各液滴が作るドットが連続的に連なったドット列によってラスターが記録される。なお、吐出周波数と用紙搬送速度はy方向の描画解像度から規定され、ノズルA,B間のx方向距離はx方向の描画解像度から規定される。
【0071】
図1からも明らかなように、y方向オフセット隣接ノズル対のラスター間隔D(y)はヘッドと用紙の相対振動に伴って変化する。この間隔D(y)の変化量(変動)ΔD(y)は、y方向オフセット量OSyと、相対振動周期Pvにより、相対振動のx方向の(片)振幅をAvとして、以下の様に表せる。
【0072】
[数2]
ΔD(y)=Av ・ [ sin{θ(y)}−sin{θ(y)+2π・OSy/Pv} ]
=2・Av・sin{−π・OSy/Pv} ・ cos{θ(y)+π・OSy/Pv} …(式2)
また、(式1)からラスター間隔変動の最大値ΔDmaxは、次のように表される。
【0073】
[数3]
ΔDmax=max|ΔD(y)|=2・Av・|sin{π・OSy/Pv}| …(式3)
ここで、ΔDmax はラスター間隔変動の振幅となるが、Av、及び、OSy、Pvの関係で決まる値である。つまり、ΔDmax はyに対して定数成分(yに依存しない値)となる。一方、(式2)におけるcos{θ(y)+π・OSy/Pv}の要素は、yにより変化する変動成分となる。
【0074】
<式2の導出について>
用紙とヘッドとの間に相対的な振動があると、当該ヘッドのyオフセット隣接ノズル対で用紙上に描かれるラスターは、その相対振動の周期で揺らぐ(波打つ)。その結果、図2に示すように、ラスター間のx方向間隔D(y)は用紙送り方向の位置yに応じて変化する(yの関数となる)。
【0075】
注目するyオフセット隣接ノズル対の一方のノズルAによって記録されるラスターの位置(x方向位置)は、理想的な位置(基準位置x1)を中心として片振幅Avで変動するため、その振動を三角関数で表し、振動の位相成分をθ(y)とすると、ノズルAによるラスターの位置XA の変動量ΔXAは、yの関数として以下のように表せる。
【0076】
[数4] ΔXA=XA(y)−x1=Av sin{θ(y)} …(式4)
同様に、注目するyオフセット隣接ノズル対の他方のノズルBによって記録されるラスターの位置(x方向位置)は、理想的な位置(基準位置x2)を中心として片振幅Avで変動し、更に、ノズルAとノズルBとの間にはy方向のオフセット量OSyに相当する初期位相差(2π・OSy/Pv)があるため、ノズルBによるラスター位置XBの変動量ΔXBはyの関数として以下のように表せる。
【0077】
[数5] ΔXB=XB(y)−x2=sin{θ(y)+2π・OSy/Pv} …(式5)
したがって、ノズルAとノズルBからなる「yオフセット隣接ノズル対」によるラスター間のx方向間隔の変動量ΔD(y)はノズルAのラスター変動(ΔXA)とノズルBのラスター変動(ΔXB)と差で表すことができ、[数2]のように表される。なお、式の変形に際して、加法定理から派生する積和の公式を用いた。また、yオフセット隣接ノズル対について、どちらのノズルをノズルA或いはノズルBと定めるかについては、本質的な問題ではなく、両者の関係を入れ替えても同様の議論が成立する。
【0078】
図2はyオフセット隣接ノズル対のラスター間隔D(y)が変動する様子を例示したグラフである。横軸は用紙上におけるy方向の位置(y座標)、縦軸はラスター間隔D(y)を示している。ヘッドと用紙との間にx方向の相対振動が無ければ、理想的なラスター間隔は描画解像度から定まる規定値D0となる。例えば、1200dpiの場合、D0=1pix=21.2μmである。しかし、ヘッドと用紙との間にx方向の相対振動(振動周期Pv)があると、図2に示すように、ラスター間隔D(y)は、振幅ΔDmax、相対振動周期Pvで変動する。
【0079】
(式2)で示したように、ΔDmaxは、OSyとPvの関係によって定まる値であり、OSyとPvの比(OSy/Pv)に応じて、ΔDmaxは0≦ΔDmax≦2Avの範囲の値をとり得る。
【0080】
表1は、yオフセット隣接のズル対のオフセット量OSyと、x方向の相対振動の周期Pvとの間に特別な条件が成立する場合について、ラスター間隔変動振幅ΔDmax及び振動ムラの関係を示したものである。なお、表1において、kは非負の整数とする。
【0081】
【表1】
【0082】
表1の条件[1]は、本発明の実施例に相当しており、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量OSyがx方向相対振動の振動周期Pvの整数倍となっている(x方向に隣接する2本のラスターの変動の位相が合っている)ために、相対振動の影響が最小になる最良の条件である(図3(a)参照)。
【0083】
これに対し、表1の下段に示した条件[2]は比較例に該当し、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量OSyがx方向相対振動の振動周期Pvの(k+1/2)倍となっているため、x方向に隣接するラスター同士で変動の位相角が丁度πだけずれている。このため、相対振動の振幅(片振幅)Avに対して、ラスター間隔変動の振幅ΔDmax(片振幅)はAvの2倍となる(図3(b)参照)。この場合、相対振動の影響が最も大きく強調され、用紙上で振動ムラが目立つ最悪な条件である。
【0084】
なお、図30,図31で説明した例は、表1の条件[2]に該当するものである。図29で説明した2行×N列のノズル配列に対して、相対振動周期Pvとオフセット量OSyの関係が表1の条件[1]となる場合の描画結果の例を図4、図5に示す。
【0085】
また、図32で説明した6行×N列のノズル配列に関して、表1の条件[1]に相当する場合の描画結果を図6、図7に示す(なお、図33,図34は表1の条件[2]に該当するものである)。
【0086】
良好な条件[1]に該当する図5、図7では、図31、図34に見られた振動ムラが低減していることが分かる。なお、比較のために、ここでは相対振動の片振幅は同じく5μmであり、相対振動の周期を500pix=10.6mmとした。
【0087】
(2)振動ムラの視認性を低減する手段
振動ムラの視認性を低減するために、振動そのものを抑制する手段(主要因への対策)を講じるとともに、ノズル配列と振動周期の関係に起因する副要因への対策を施す。本発明の実施形態では、描画ドラム(圧胴)とラインヘッド間のx方向相対振動を低減のために、主として以下の構成が採用される。
【0088】
A.ラインヘッドを本体フレームに与圧固定するヘッド固定構造の採用。
【0089】
B.描画ドラム等の回転軸(圧胴軸)を本体フレームに与圧固定するドラム軸固定構造の採用。
【0090】
C.副要因を考慮した上記ヘッド固定構造及びドラム軸固定構造における設計の適正化。
【0091】
以下、具体的な構成例について説明する。
【0092】
<インクジェット記録装置の構成例>
図8は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の描画部の概略構成図である。本実施の形態のインクジェット記録装置は、いわゆるラインプリンタであり、ラインヘッドを用いて枚葉紙(以下「用紙」という)にシングルパスで印刷する。図8に示すように、描画部10において、用紙12は、描画ドラム14によってドラム搬送される。そして、この描画ドラム14によってドラム搬送される用紙12に対して、4台のラインヘッド16C、16M、16Y、16KからC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロ)、K(クロ)の各インク滴が吐出されて、記録面にカラー画像が描画される。
【0093】
描画ドラム14の周面には、グリッパー24が設けられる。用紙12は、このグリッパー24によって先端部を把持されて搬送される。本例の描画ドラム14では、180度の間隔で周面の2箇所にグリッパー24が設けられ、1回転で2枚の用紙12が搬送できるように構成されている。
【0094】
また、用紙12は、描画ドラム14の周面に吸着保持されて搬送される。描画ドラム14の周面には、図示しない吸着穴が所定のパターンで多数形成されており、この吸着穴からエアが吸引されることにより、用紙12が描画ドラム14の周面に吸着保持される。なお、用紙12を吸着保持する構成は、これに限らず、たとえば、静電吸着により、用紙12を吸着保持する構成とすることもできる。
【0095】
描画部10に給紙される用紙12は、描画ドラム14の前段に配置された渡しドラム26によって描画ドラム14に受け渡される。一方、描画後の用紙12は、描画ドラム14の後段に配置された渡しドラム28に受け渡される。
【0096】
4台のラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、描画ドラム14の回転軸18を中心とした同心円上に一定の間隔をもって放射状に配置される。各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kからは、描画ドラム14の外周面に向けて垂直にインク滴が吐出される。用紙12は、このラインヘッド16C、16M、16Y、16Kから吐出されたインク滴が記録面に打滴されることにより、記録面にカラー画像が描画される。
【0097】
図9は描画部10及びこれに並設されたメンテナンス部の正面図、図10はその平面図である。インク色別に設けられた4台のラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、共通のキャリッジ30に搭載され、用紙12に描画するための描画位置(図9、図10の実線の位置)と、所定のメンテナンスを行うためのメンテナンス位置(図9、図10の破線の位置)との間を移動可能に設けられる。
【0098】
図9及び図10に示すように、描画ドラム14は、インクジェット記録装置の本体フレーム20に設置される。本体フレーム20には、この描画ドラム14を支持する一対の軸受22が設置される。描画ドラム14は、その回転軸18の両端部を軸受22に支持されて、本体フレーム20に回転自在に設置される。
【0099】
軸受22に軸支された描画ドラム14の回転軸18には、描画ドラム駆動モータ(図示せず)が回転伝達機構(図示せず)を介して連結される。描画ドラム14は、この描画ドラム駆動モータに駆動されて回転する。
【0100】
キャリッジ30は、移動可能なキャリッジ本体32と、キャリッジ本体32に設けられた左右一対の側板36L、36Rと、キャリッジ本体32を移動させるキャリッジ駆動機構38とで構成される(図10では、便宜上、キャリッジ本体32と側板のみを図示し、インク色別のラインヘッド及び各ラインヘッドを載せる載置台等の図示を省略した)。
【0101】
キャリッジ本体32は、矩形の枠状に形成され、その下部四隅に車輪40が取り付けられて、移動可能に設けられる。このキャリッジ本体32は、本体フレーム20に架設された天井フレーム34に搭載される。
【0102】
天井フレーム34は、矩形の枠状に形成され、図示しないボルトで本体フレーム20に固定される。本体フレーム20に固定された天井フレーム34は、描画ドラム14の上方に水平に設置される。
【0103】
天井フレーム34の上面には、一対のレール42が敷設される。レール42は、所定幅、所定深さ溝として天井フレーム34の上面に形成され、描画ドラム14の回転軸18と平行に形成される。キャリッジ本体32に設けられた車輪40は、このレール42に嵌められる。これにより、キャリッジ本体32の移動方向が規制される。この結果、キャリッジ本体32は、同一直線上を水平に移動する。すなわち、描画ドラム14の回転軸18と平行に水平移動する。
【0104】
キャリッジ駆動機構38は、レール42と平行に配設されたネジ棒44と、ネジ棒44を回転駆動するキャリッジ駆動モータ46と、ネジ棒44に螺合されるとともに、キャリッジ本体32に連結される連結部材48とで構成される。
【0105】
ネジ棒44は、天井フレーム34の片側の側部に配設される。天井フレーム34の片側の側部には、このネジ棒44の両端部を回転自在に支持する軸受部50が設けられる。ネジ棒44は、この軸受部50に両端部を軸支されることにより、レール42と平行に配設され、かつ、回転自在に支持される。
【0106】
キャリッジ駆動モータ46は、天井フレーム34の片側の側部にブラケット52を介して取り付けられる。このキャリッジ駆動モータ46の出力軸には、ネジ棒44の一端が連結される。ネジ棒44は、このキャリッジ駆動モータ46に駆動されて回転する。
【0107】
連結部材48は、図示しないネジ穴が形成されている。連結部材48は、このネジ穴を介してネジ棒44に螺合される。この連結部材48は、図示しないボルトでキャリッジ本体32に固定される。
【0108】
以上のように構成されるキャリッジ駆動機構38は、キャリッジ駆動モータ46を駆動してネジ棒44を回転させると、連結部材48がネジ棒44に沿って移動する。この結果、キャリッジ本体32がレール42に沿って水平に移動する。
【0109】
左右一対の側板36L、36Rは、平板状に形成され、キャリッジ本体32の下部につり下げられる形で取り付けられる。キャリッジ本体32に取り付けられた一対の側板36L、36Rは、描画ドラム14の回転軸18に対して直交して配置されるとともに、一定の間隔をもって互いに対向して配置される。この一対の側板36L、36Rには、ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kを取り付けるための左右一対の載置台60L、60Rがラインヘッド16C、16M、16Y、16Kごとに設けられる。
【0110】
図11は、載置台60L、60Rの構成を示す断面図である。なお、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kの構造は同じであり、また、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kが取り付けられる載置台60L、60Rの構造も同じなので、ここでは、ラインヘッド16として、その載置台60L、60Rへの取付構造について説明する。
【0111】
ラインヘッド16は、直方体のブロック状に形成されており、その幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向であり、ここでは左右方向とする。)の両端にフランジ部62L、62Rを有している。フランジ部62L、62Rは、矩形の平板状の突片として、ラインヘッド16の本体部の左右両側面から水平(ノズル面と平行)に張り出して形成されている。載置台60L、60Rは、このフランジ部62L、62Rが載置されることにより、ラインヘッド16が取り付けられる。
【0112】
一方の載置台60Lは、主として、スライド部60LAと、載置部60LBとで構成される。
【0113】
スライド部60LAは、矩形の平板状に形成される。このスライド部60LAは、側板36Lと平行に配置され、後述するスライド支持機構によって側板36Lに沿ってスライド可能に設けられる。
【0114】
載置部60LBは、水平部60LB1と垂直部60LB2とからなり、全体としてL字状に形成される。
【0115】
水平部60LB1は、矩形の平板状に形成され、スライド部60LAの下端部に一体的に形成される。この水平部60LB1は、スライド部60LAの内側面に対して直交して配置されるとともに、描画ドラム14の回転軸18と平行に配置される。フランジ部62Lは、この水平部60LB1の上に下面部が載置される。
【0116】
水平部60LB1には、先端部分に一対のコロ64Lが配置される。コロ64Lは、描画ドラム14の回転軸18と直交する方向に並列して配置され、描画ドラム14の回転軸18と直交する軸の周りを回動自在に支持される。フランジ部62Lは、このコロ64Lの上に下面部が載置される。
【0117】
垂直部60LB2は、矩形の平板状に形成され、スライド部60LAの下端部に一体的に形成される。この垂直部60LB2は、スライド部60LAの内側面に対して直交するようにして、水平部60LB1の片側(傾斜して配置されるラインヘッド16の傾斜方向の下側)に配置され、水平部60LB1に対して直交して配置される。水平部60LB1に載置されたフランジ部62Lは、この垂直部60LB2によって、傾斜方向下側に位置する側面が支持される。
【0118】
他方の載置台60Rも同様の構成である。すなわち、主として、スライド部60RAと、載置部60RBとで構成される。そして、載置部60RBは、水平部60RB1と垂直部60RB2とで構成され、水平部60RB1には、先端部分に一対のコロ64Rが配置される。
【0119】
ラインヘッド16は、左右のフランジ部62L、62Rの下面を左右の載置台60L、60Rの水平部60LB1、60RB1の上に載置して、キャリッジ30に搭載する。
【0120】
ここで、上記のように、水平部60LB1、60RB1には、コロ64L、64Rが設けられており、フランジ部62L、62Rは、このコロ64L、64Rの上に載置される。この結果、載置台60L、60Rに載置されたラインヘッド16は、幅方向(描画ドラム14の回転軸18と平行な方向)に移動可能に支持される。
【0121】
一方の載置台60Rのスライド部60RAの内側面には、板バネ66が配置される。この板バネ66は、ラインヘッド16を固定するときに必要な部材であり、一方の載置台60Rに載置されたラインヘッド16のフランジ部62Rの側面に当接し、他方の載置台60Lに向けて付勢する。なお、この板バネ66の作用については、のちに詳述する。
【0122】
上記のように載置台60L、60Rは、そのスライド部60LA、60RAが、スライド支持機構76L、76Rによって、側板36L、36Rに沿って移動可能に設けられる。
【0123】
図12は、キャリッジに設けられた載置台の構成を示す正面図である。また、図13〜16は、それぞれ図12のA−A矢視図、B−B矢視図、C−C矢視図、D−D矢視図である。
【0124】
スライド支持機構76L、76Rは、ガイドレール78L、78Rと、そのガイドレール78L、78R上をスライドする1組のスライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbと、スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbに取り付けられた取付板82L、82Rとで構成される。
【0125】
ガイドレール78L、78Rは、側板36L、36Rの内側に取り付けられ、描画ドラム14の中心を通る直線に沿って配設されている(描画ドラム14の法線に沿って配設される。)。
【0126】
スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbは、このガイドレール78L、78Rの上をスライド移動自在に設けられる。したがって、スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbは、描画ドラム14の中心を通る直線に沿ってスライドする。
【0127】
取付板82L、82Rは、矩形の板状に形成されており、図示しないボルトによってスライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbに固定される。スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbに取り付けられた取付板82L、82Rは、描画ドラム14の回転軸18に対して垂直に配設される。そして、スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbによって、描画ドラム14の中心を通る直線に沿ってスライドする。載置台60L、60Rは、この取付板82L、82Rに取り付けられる。すなわち、そのスライド部60LA、60RAを図示しないボルトで固定されて、取付板82L、82Rに取り付けられる。
【0128】
取付板82L、82Rに取り付けられた載置台60L、60Rは、描画ドラム14の中心を通る直線に沿ってスライド自在に支持され、描画ドラム14の外周面に対して垂直に昇降可能に支持される。そして、このように昇降可能に支持された載置台60L、60Rは、昇降駆動機構84によって昇降駆動される。
【0129】
昇降駆動機構84は、主として、パルスモータ86と、そのパルスモータ86によって回転駆動される回転駆動軸88と、回転駆動軸88に取り付けられた左右一対の偏心カム90L、90Rと、各取付板82L、82Rに取り付けられるとともに、各偏心カム90L、90Rに当接された左右一対の従動カム92L、92Rとで構成される。
【0130】
パルスモータ86は、一方の側板36Lの外側面にブラケット94を介して取り付けられ、その出力軸86aは、描画ドラム14の回転軸18に対して垂直に設けられる。
【0131】
回転駆動軸88は、左右の側板36L、36Rを跨いで設置され、描画ドラム14の回転軸18と平行に配設される。この回転駆動軸88は、左右の側板36L、36Rに設けられた軸受96L、96Rに回転自在に支持される。
【0132】
パルスモータ86の回転は、ウォームギア98を介して回転駆動軸88に伝達される。パルスモータ86の出力軸86aには、このウォームギア98を構成するウォーム98aが取り付けられる。一方、回転駆動軸88には、このウォーム98aに噛み合うウォームホイール98bが取り付けられる。これにより、パルスモータ86の回転が回転駆動軸88に伝達される。
【0133】
左右一対の偏心カム90L、90Rは、円盤状に形成され、その回転中心を偏心させて、回転駆動軸88に取り付けられる。この偏心カム90L、90Rは、それぞれ側板36L、36Rの外側に配置され、描画ドラム14の回転軸18に対して垂直に配置される。
【0134】
従動カム92L、92Rは、円盤状に形成され、その周面が偏心カム90L、90Rの周面に当接するようにして、偏心カム90L、90Rの上に載置される。この従動カム92L、92Rは、描画ドラム14の回転軸18と平行に配設された支軸92La、92Raに回転自在に支持される。
【0135】
支軸92La、92Raは、側板36L、36Rに形成された長穴99L、99Rを通して、描画ドラム14の回転軸18と平行に配設される。そして、その基端部が取付板82L、82Rに一体成形された軸支持部82La、82Lbに固定される。
【0136】
長穴99L、99Rは、ガイドレール78L、78Rと平行に形成される。これにより、従動カム92L、92Rが、ガイドレール78L、78Rに沿って移動可能に設けられる。
【0137】
以上のように構成された昇降駆動機構84によれば、パルスモータ86を駆動して、回転駆動軸88を回転させると、左右一対の偏心カム90L、90Rが回転する。これにより、従動カム92L、92Rが、描画ドラム14の外周面に対して垂直に昇降移動する。そして、この従動カム92L、92Rが昇降移動することにより、この従動カム92L、92Rに連結された取付板82L、82Rが昇降移動し、この結果、載置台60L、60Rが、描画ドラム14の外周面に対して垂直に昇降移動する。
【0138】
以上のように、キャリッジ30に備えられた載置台60L、60Rは、描画ドラム14の外周面に対して昇降可能に設けられる。ラインヘッド16は、左右のフランジ部62L、62Rをこの載置台60L、60Rに載置することにより、キャリッジ30に搭載される。
【0139】
キャリッジ30に搭載されたラインヘッド16は、キャリッジ30をレール42に沿って移動させることにより、描画位置とメンテナンス位置(待機位置)との間を移動する。
【0140】
ここで、描画位置は、描画ドラム14の設置位置に設定され、メンテナンス位置は、メンテナンスユニット100の設置位置に設定される。ここでいう描画位置が「第1位置」に相当し、メンテナンス位置が「第2位置」に相当する。
【0141】
描画位置に移動すると、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、描画ドラム14に対面して描画ドラム14の周囲に配置される。
【0142】
一方、メンテナンス位置に移動すると、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、メンテナンスユニット100の上方に配置される。このメンテナンスユニット100は、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kのメンテナンスを行うユニットであり、廃液トレイ、キャップ等が備えられる。
【0143】
なお、移動に際して、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、所定の移動位置まで上昇し、この移動位置に位置した状態で移動する。すなわち、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kが載置された載置台60L、60Rが、所定の退避位置まで上昇し、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kを退避させた状態で移動する。
【0144】
描画位置に移動した各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、その後、移動位置から所定量下降して、描画可能な位置にセットされる。この描画可能な位置が「液滴吐出位置」に相当する。
【0145】
また、メンテナンス位置に移動した各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kも、必要に応じて移動位置から下降し、メンテナンス可能な位置にセットされる。
【0146】
ところで、このように各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kがキャリッジ30に着脱可能に設けられ、また、キャリッジ30も移動自在に設けられていると、本体フレーム20に振動が発生した際、その振動が各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kに伝達されて、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kが振動する。この結果、打滴精度が低下し、印刷品質が低下する。また、図29〜図34で説明したように、ノズル配列の空間距離と振動周期に起因する振動ムラが発生する。
【0147】
そこで、本実施の形態のインクジェット記録装置には、描画可能な位置でラインヘッド16C、16M、16Y、16Kを本体フレーム20に固定するロック機構が設けられ、振動の発生が防止される。また、描画ドラム14や渡しドラム(渡し胴)26、28等を本体フレーム20に取り付ける固定手段についても振動の発生を抑制する構成が採用されている。
【0148】
<ヘッドのロック機構>
ラインヘッドのロック機構は、図9、図12に示すように、キャリッジ30を本体フレーム20にロックするキャリッジロック装置110(「キャリッジ固定手段」に相当)と、本体フレーム20にロックされたキャリッジ30に対して各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kをロックするラインヘッドロック機構120とで構成される。
【0149】
キャリッジロック装置110は、天井フレーム34に設置される電磁石112と、キャリッジ30に設置される磁性体ブラケット114とで構成される。
【0150】
電磁石112は、電磁石取付板116を介して天井フレーム34に設置される。電磁石取付板116は、矩形の平板状に形成され、天井フレーム34の上面部に垂直に立設されるとともに、レール42に対して直交して配置される。電磁石112は、この電磁石取付板116に一定の間隔をもって複数設置される(本例では4台)。
【0151】
電磁石112の先端には、キャッチプレート118が取り付けられる。キャッチプレート118は、磁性体で構成され、矩形の平板状に形成される。
【0152】
磁性体ブラケット114は、磁性体で構成され、矩形の平板状に形成される。この磁性体ブラケット114は、図示しないボルトでキャリッジ本体32の端面に取り付けられる。キャリッジ本体32に取り付けられた磁性体ブラケット114は、キャッチプレート118と対向して配置される。
【0153】
以上のように構成されるキャリッジロック装置110によれば、キャリッジ30が描画位置に移動すると、磁性体ブラケット114がキャッチプレート118に当接する。この状態で電磁石112をONすると、磁性体ブラケット114がキャッチプレート118に磁着され、キャリッジ30が天井フレーム34に一体的に固定される。天井フレーム34は、本体フレーム20に固定されているので、結果的にキャリッジ30は本体フレーム20に固定される。
【0154】
ラインヘッドロック機構120は、本体フレーム20に取り付けられる押圧ローラ122と、各ラインヘッド16(16C、16M、16Y、16K)に取り付けられるカム124とで構成される。
【0155】
押圧ローラ122は、各ラインヘッド16に対応して設置され、本体フレーム20に軸受126を介して取り付けられる。本体フレーム20に取り付けられた押圧ローラ122は、対応するラインヘッド16のノズル面と平行な軸の周りを回転自在に支持される。また、この押圧ローラ122(「回転体」に相当)は、一方の載置台60Rに設置された板バネ66(「ヘッド固定用の与圧付与手段」に相当)と対向して配置される。
【0156】
カム124は、傾斜部124A(「傾斜カム面」に相当)と平坦部124Bとからなる、クサビ状に形成される。このカム124は、各ラインヘッド16の幅方向の一端(押圧ローラ122側の一端)に取り付けられる。各ラインヘッド16の側面部に取り付けられたカム124は、ノズル面から下方に向けて突出して配置されるとともに、ノズル面に対して直交して配置される。また、各ラインヘッド16を載置台60L、60Rに載置した際、その傾斜部124Aが、押圧ローラ122の外周面に当接するように配置される。
【0157】
以上のように構成されるラインヘッドロック機構120によれば、各ラインヘッド16を載置台60L、60Rに載置すると、各ラインヘッド16に設けられたカム124の傾斜部124Aが、押圧ローラ122の外周に当接する。この状態で載置台60L、60Rを下降させると、押圧ローラ122によってカム124が押圧され、ラインヘッド16が描画ドラム14の回転軸18に沿って押圧ローラ122から離れる方向に移動する。
【0158】
ここで、ラインヘッド16が押圧ローラ122に押されて移動する方向にある載置台60Rには、板バネ66が設置されており、ラインヘッド16は、この板バネ66によって押圧ローラ122の方向に向けて付勢される。
【0159】
この結果、ラインヘッド16は、板バネ66と押圧ローラ122とで挟持され、キャリッジ30に一体的に固定(拘束)される。
【0160】
なお、板バネ66による付勢力が強すぎると(バネ定数が高すぎると)、キャリッジロック装置110によるキャリッジ30の固定が解除されてしまうので、板バネ66は、電磁石112によるキャリッジ30の保持力よりも小さい力で付勢するようにバネ定数が設定される。
【0161】
また、押圧ローラ122は、ラインヘッド16が所定量下降すると、カム124の平坦部124Bに乗り上げ、それ以上下降しても、ラインヘッド16を移動させないように構成される。これにより、常に幅方向の位置を常に一定に保つことができる。
【0162】
<作用>
上記の如く構成された描画部の作用は以下のとおりである。
【0163】
各ラインヘッド16(16C、16M、16Y、16K)のキャリッジ30への取り付けは、次のように行われる。
【0164】
まず、載置台60L、60Rを所定の待機位置に移動させ、この状態でキャリッジ30をメンテナンス位置に移動させる。
【0165】
次に、各ラインヘッド16を載置台60L、60Rに載置する。すなわち、各ラインヘッド16の幅方向の両端に形成されたフランジ部62L、62Lを載置台60L、60Rの載置部60LB、60LAの上に載置する。これにより、各ラインヘッド16がキャリッジ30に搭載される。
【0166】
なお、載置台60L、60Rの載置部60LB、60RBには、コロ64L、64Rが備えられているため(図4参照)、載置台60L、60Rの上に載置された各ラインヘッド16は、幅方向(描画ドラム14の回転軸18の方向)に移動可能に支持される。
【0167】
各ラインヘッド16がキャリッジ30に搭載されると、次に、キャリッジ30が描画位置に移動する。キャリッジ30が描画位置に移動すると、各ラインヘッド16が描画ドラム14の周囲に配置される。
【0168】
また、キャリッジ30が描画位置に移動すると、キャリッジ30に備えられた磁性体ブラケット114が、天井フレーム34に設けられたキャッチプレート118に当接する。この状態で電磁石112がONされ、磁性体ブラケット114がキャッチプレート118に磁着される。これにより、キャリッジ30が天井フレーム34に固定される。
【0169】
電磁石112によってキャリッジ30がロックされると、次に、載置台60L、60Rを昇降させるパルスモータ86が駆動され、載置台60L、60Rが描画ドラム14に向かって下降する。これにより、ラインヘッド16が描画ドラム14に向かって下降する。
【0170】
ラインヘッド16が描画ドラム14に向かって下降すると、図17に示すように、押圧ローラ122によってカム124が押圧される。
【0171】
ここで、上記のように、各ラインヘッド16は、載置台60L、60Rに備えられたコロ64L、64Rによって幅方向(描画ドラム14の回転軸18の方向)に移動可能に支持されているため、カム124が押圧ローラ122によって押されると、描画ドラム14の回転軸18の方向に沿って押圧ローラ122から離れる方向に移動する。
【0172】
一方、押圧ローラ122と反対側にある載置台60Rには、板バネ66が設置されているため、ラインヘッド16が押圧ローラ122から離れる方向に移動すると、この板バネ66によって押圧ローラ122の方向に向けて付勢される。この結果、ラインヘッド16は、板バネ66と押圧ローラ122とで挟持され、キャリッジ30に一体的に固定される。
【0173】
キャリッジ30は、本体フレーム20と一体的に連結されているため、ラインヘッド16は板バネ66によって与圧が付与された状態で本体フレーム20に一体的に固定されることになる。
【0174】
ラインヘッド16は、下降量が調整されてスローディスタンスが調整され、所定のスローディスタンスとなったところで下降が停止される。これにより、印刷が可能になる。
【0175】
この後、印刷が開始され、連続的に給紙される用紙12に対して印刷処理が行われる。
【0176】
この際、描画ドラム14には駆動による振動が発生し、その振動が本体フレーム20にも伝播するが、本実施の形態のインクジェット記録装置では、各ラインヘッド16が本体フレーム20に固定されるため、用紙搬送による駆動振動と各ラインヘッド16に伝播する振動とを同期させることができる。この結果、着弾精度が低下するのを防止でき(2〜3μm以下)、高品質な画像を描画することができる。
【0177】
また、各ラインヘッド16は、所定位置に下降させる動作で本体フレーム20に固定するので、簡単な構造で正確に位置決めして固定することができる。
【0178】
<ドラム軸の固定構造の例1>
図18は、ドラム軸の固定構造の第1例を示す断面図である。ここでは、描画ドラム14を例に説明するが、渡しドラム26、28など、他のドラムやローラについても同様の軸固定構造が採用される。
【0179】
図18に示すように、本体フレーム20の開口部130には、ベアリング132を収容する段差部(凹部)134が形成されており、当該段差部134に環状のベアリング132が配置される。ベアリング132は本体フレーム20の段差部134に熱圧入により固定される。ベアリング132は描画ドラム14の回転軸(ドラム軸)140を回転自在に支持する軸受けとして機能する。ベアリング132を貫通するドラム軸140の端部にねじ部144が形成されている。このねじ部144に締め付けネジ146を締め込み、ベアリング132の内輪133を本体フレーム20と締め付けネジ146とで挟み込んで固定する。締め付けネジ146の締め込みによって、描画ドラム14は軸方向に与圧が付与された状態で固定される。図18では示されていないが、描画ドラム14の他方の端部についても同様の軸固定構造が採用される。
【0180】
このような固定構造により、本体フレーム20と描画ドラム14間のガタを最小限に抑えて固定することができる。
【0181】
<ドラム軸の固定構造の例2>
図19は、ドラム軸の固定構造の第2例を示す図である。図19において、描画ドラム14の回転軸140の一方の端部(図19の左側)は、ベアリング152を介して本体フレーム20に取り付けられている。ベアリング152は、本体フレーム20に熱圧入により固定されている。
【0182】
描画ドラム14の他方の端部(図19の右側)は、ベアリング154を介して本体フレーム20に取り付けられている。ベアリング154は、本体フレーム20の開口部160に配置され、このベアリング154にドラム軸141が回転自在に支持される。ドラム軸141の端部には、当該描画ドラム14を回転させる動力を伝達するためのギア143が設けられている。なお、このギア143は図22の符号520で示した歯車(ギア)に相当する。
【0183】
また、図19に示すように、ベアリング154の外輪に当接してスリーブ162が配置され、該スリーブ162に接して押圧バネ164(「搬送部固定用の与圧付与手段」に相当)が配置されている。当該押圧バネ164の一端を固定するために、本体フレーム20には押さえカバー166が固設されている。押さえカバー166は図示せぬボルトによって本体フレーム20と一体的に連結されている。
【0184】
このような構成により、押圧バネ164によって本体フレーム20と描画ドラム14の間にドラム軸方向の与圧が付与され、軸方向のガタを最小限に抑えた状態で描画ドラム14が本体フレーム20に固定される。
【0185】
<ラインヘッドと描画ドラムのx方向相対振動周期とノズル配列の空間距離の適正化>
図8〜17で説明したロック機構の構成や、図18〜図19で説明したドラム軸の固定構造により、ヘッドユニットとドラムのx方向相対振動の振幅は数μmオーダーに抑制されている。振動ムラの主要因である振動発生源の振動量を低減することには限界があるため、副要因である振動周期とノズル配列との関係を最適化することで、振動ムラの低減を行う。具体的には、固有の振動周期fvと相対走査の速度vpから規定される用紙上における振動周期Pv(「式1」参照)と、ラインヘッド16の共振周波数の関係を適切に設定する。
【0186】
図9〜図17で説明したように、ラインヘッド16は、押圧バネ(板バネ66)を介して本体フレーム20に固定される。図20はその模式図である。
【0187】
ラインヘッド16の質量m1、押圧バネ(板バネ66)のバネ定数をk1とするとき、振動の固有周波数(共振周波数)f1は、f1=(2π)−1×(k1/m1)1/2で表される。
【0188】
この共振周波数f1がノズル配列の空間距離(ノズル繋ぎ部におけるy方向オフセット量)と、用紙搬送速度で規定される実際の振動周期(記録媒体上に現れる濃淡ピッチの周波数)と異なるように、m1、k1が設計される。
【0189】
同様に、図19で説明した搬送部(描画ドラム14等)についても、ドラムの質量m2、押圧バネのバネ定数をk2とするとき、軸方向の振動の固有周波数(共振周波数)f2はf2=(2π)−1×(k2/m2)1/2で表される。
【0190】
この共振周波数f2がノズル配列の空間距離(ノズル繋ぎ部におけるy方向オフセット量)と、用紙搬送速度で規定される実際の振動周期(記録媒体上に現れる濃淡ピッチの周波数)と異なるように、m2、k2が設計される。
【0191】
(2−b)副要因を考慮した対策
また、固有の振動周期fvと相対走査の速度vpから規定される用紙上における振動周期Pv(「式1」参照)と、ノズル配列で決まる「yオフセット隣接ノズル対」のオフセット量Osyとの関係を、表1の条件[1]又はこれに近い条件となるように装置を構成する。
【0192】
すなわち、以下に示す(関係式1)の関係を満たすように構成する。
【0193】
OSy≒k×Pv(ただし、kは自然数)…(関係式1)
これは、式1を利用して、次の(関係式1’)に書き替えることができる。
【0194】
OSy≒k×vp/fv(ただし、kは自然数)…(関係式1’)
一方、(式3)からΔDmaxは、0〜2Avの値をとり得る。ΔDmaxの値によってムラ低減の効果の程度が異なり、ΔDmaxの値が小さいほど、ムラによる画質劣化が抑制される。固有の振動周期fvと相対走査速度vpに対応する周期で生じる相対振動のx方向方振幅がAvであることを考慮すると、実効性ある望ましいレベルで振動ムラの低減効果を得る観点から、ΔDmaxがAv/2以下であることが好ましく、より好ましくは、Av/4以下であることが好ましい。
【0195】
つまり、(式3)から、以下に示す(関係式2)を満たすことが好ましい。
【0196】
|sin{π・OSy/Pv}|≦1/4…(関係式2)
より好ましくは、以下に示す(関係式3)を満たすことが好ましい。
【0197】
|sin{π・OSy/Pv}|≦1/8…(関係式3)
これらの関係式2,3はそれぞれ(式1)を利用して、次の関係式2’、3’に書き書き換えることができる。
【0198】
|sin{π・OSy・fv/vp}|≦1/4…(関係式2’)
|sin{π・OSy・fv/vp}|≦1/8…(関係式3’)
図29で説明した2行×N列のノズル配列の場合、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量OSyは一定の値であるが、図32で示した6行×N列のノズル配列のように、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量が異なる値をもつ場合がある。つまり、1行目(最下行)のノズルと2行目のノズルのオフセット量は100pix、2行目と3行目、3行目と4行目、4行目と5行目もそれぞれオフセット量は100pixであるが、6行目と1行目のオフセット量は500pixである。
【0199】
このようにオフセット量が異なるyオフセット隣接ノズル対が含まれる場合、すべての異なるオフセット量について、関係式1、関係式2、又は関係式3を満たすように構成することは必ずしも要求されない。オフセット量が大きいノズル対ほど振動ムラに大きく影響するため、少なくともオフセット量の最大値について、関係式1,2,又は3を満たすように構成すれば、相応の効果が得られる。実際に、図32のノズル配列の場合、1行目(最下行)のノズルと6行目(最上行)のノズルでx方向の隣接ドットを形成するノズル対のオフセット量(=500pix)をOSyとして、関係式1,2,又は3を満たせば十分に画質改善の効果が認められる。
【0200】
<インクジェット記録装置の構成例>
次に、図1〜図20で説明した技術を採用したインクジェット記録装置の全体構成の例を説明する。
【0201】
図21は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成例を示す全体構成図である。図22は図21と反対側の側面部に設けられたドラム回転駆動機構の構成図である。これらの図面に示したとおり、本例のインクジェット記録装置400は、主として、給紙部412、処理液付与部(プレコート部)414、描画部416、乾燥部418、定着部420、及び排紙部422から構成されている。インクジェット記録装置400は、描画部416の圧胴(描画ドラム470)に保持された記録媒体424(以下、便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成するシングルパス方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体424上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体424上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0202】
(給紙部)
給紙部412には、枚葉紙である記録媒体424(「被描画媒体」に相当)が積層されており、給紙部412の給紙トレイ450から記録媒体424が一枚ずつ処理液付与部414に給紙される。記録媒体424として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体424を使用することができる。記録媒体424として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0203】
(処理液付与部)
処理液付与部414は、記録媒体424の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部416で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0204】
処理液付与部414は、給紙胴452、処理液ドラム(「プレコート胴」とも言う)454、及び処理液塗布装置456を備えている。処理液ドラム454は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)455を備え、この保持手段455の爪と処理液ドラム454の周面の間に記録媒体424を挟み込むことによって記録媒体424の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム454は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体424を処理液ドラム454の周面に密着保持することができる。
【0205】
処理液ドラム454の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置456が設けられる。処理液塗布装置456は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム454上の記録媒体424に圧接されて計量後の処理液を記録媒体424に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置456によれば、処理液を計量しながら記録媒体424に塗布することができる。
【0206】
本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
【0207】
処理液付与部414で処理液が付与された記録媒体424は、処理液ドラム454から中間搬送部426を介して描画部416の描画ドラム470へ受け渡される。
【0208】
(描画部)
描画部416は、描画ドラム(「描画胴」或いは「ジェッティング胴」とも言う)470、用紙抑えローラ474、及びインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yを備えている。描画ドラム470は、処理液ドラム454と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)471を備える。
【0209】
描画ドラム470に固定された記録媒体424は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yからインクが付与される。
【0210】
インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yはそれぞれ、記録媒体424における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(「液体吐出ヘッド」に相当)であり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yは、記録媒体424の搬送方向(描画ドラム470の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0211】
描画ドラム470上に密着保持された記録媒体424の記録面に向かって各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部414で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体424上での色材流れなどが防止され、記録媒体424の記録面に画像が形成される。
【0212】
また、本例では、CMYKの4色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて、R(赤)、G(緑)、B(青)インク、淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0213】
描画部416で画像が形成された記録媒体424は、描画ドラム470から中間搬送部428を介して乾燥部418の乾燥ドラム476へ受け渡される。
【0214】
(乾燥部)
乾燥部418は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、乾燥ドラム(「乾燥胴」とも言う)476、及び溶媒乾燥装置478を備えている。乾燥ドラム476は、処理液ドラム454と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)477を備え、この保持手段477によって記録媒体424の先端を保持できるようになっている。
【0215】
溶媒乾燥装置478は、乾燥ドラム476の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ480と、各ハロゲンヒータ480の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル482とで構成される。
【0216】
各温風噴出しノズル482から記録媒体424に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ480の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0217】
乾燥部418で乾燥処理が行われた記録媒体424は、乾燥ドラム476から中間搬送部430を介して定着部420の定着ドラム484へ受け渡される。
【0218】
(定着部)
定着部420は、定着ドラム(「定着胴」とも言う)484、ハロゲンヒータ486、定着ローラ488、及びインラインセンサ490で構成される。定着ドラム484は、処理液ドラム454と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)485を備え、この保持手段485によって記録媒体424の先端を保持できるようになっている。
【0219】
定着ドラム484の回転により、記録媒体424は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ486による予備加熱と、定着ローラ488による定着処理と、インラインセンサ490による検査が行われる。
【0220】
定着ローラ488は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体424を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ488は、定着ドラム484に対して圧接するように配置されており、定着ドラム484との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体424は、定着ローラ488と定着ドラム484との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0221】
また、定着ローラ488は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(例えば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体424を加熱することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融される。これにより、記録媒体424の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0222】
インラインセンサ490は、記録媒体424に記録された画像(テストパターンなども含む)について、吐出不良チェックパターンや画像の濃度、画像の欠陥などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0223】
上記の如く構成された定着部420によれば、乾燥部418で形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が定着ローラ488によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体424に固定定着させることができる。また、定着ドラム484の表面温度は50℃以上に設定されている。定着ドラム184の外周面に保持された記録媒体424を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
【0224】
なお、高沸点溶媒及びポリマー微粒子(熱可塑性樹脂粒子)を含んだインクに代えて、UV露光にて重合硬化可能なモノマー成分を含有していてもよい。この場合、インクジェット記録装置400は、ヒートローラによる熱圧定着部(定着ローラ488)の代わりに、記録媒体424上のインクにUV光を露光するUV露光部を備える。このように、UV硬化性樹脂などの活性光線硬化性樹脂を含んだインクを用いる場合には、加熱定着の定着ローラ488に代えて、UVランプや紫外線LD(レーザダイオード)アレイなど、活性光線を照射する手段が設けられる。
【0225】
(排紙部)
定着部420に続いて排紙部422が設けられている。排紙部422は、排出トレイ492を備えており、この排出トレイ492と定着部420の定着ドラム484との間に、これらに対接するように渡し胴494、搬送ベルト496、張架ローラ498が設けられている。記録媒体424は、渡し胴494により搬送ベルト496に送られ、排出トレイ492に排出される。搬送ベルト496による用紙搬送機構の詳細は図示しないが、印刷後の記録媒体424は無端状の搬送ベルト496間に渡されたバー(不図示)のグリッパーによって用紙先端部が保持され、搬送ベルト496の回転によって排出トレイ492の上方に運ばれてくる。
【0226】
また、図21には示されていないが、本例のインクジェット記録装置400には、上記構成の他、各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部414に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体424の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0227】
<ドラム(胴)の回転駆動機構について>
図22に示したようにインクジェット記録装置400には、用紙搬送系の動力源としてのモータ(「動力発生手段」に相当、以下「ドラム回転用モータ」という。)502が設けられている。該ドラム回転用モータ502の動力はタイミングベルト(無端状の歯付きベルト)504を介してプーリ506に伝えられる。プーリ506には歯車508が同軸で一体に連結されおり、プーリ506と共に歯車508が回転する。この歯車508と噛合する歯車510が図22上で歯車508の左上に設けられており、該歯車510はプレコート部(処理液付与部414)における処理液ドラム454の端部に直結された歯車(ギア)514と噛合している。処理液ドラム454の歯車514は、中間搬送部426を構成する渡し胴の端部に設けられた歯車516と噛み合い、この歯車516は描画部416における描画ドラム470の端部に設けられた歯車520と噛み合っている。以下、歯車520は中間搬送部428を構成する渡し胴の歯車522と噛み合い、更に、乾燥ドラム476の歯車524、中間搬送部430の渡し胴の歯車526、定着ドラム484の歯車528の順に順次噛合している。
【0228】
各歯車514〜528がドラム回転用歯車となっており、これらが連接された構造となっている。ドラム回転用モータ502の動力がタイミングベルト504、プーリ506、歯車508、510を介して各歯車514〜528に伝達され、これら歯車514〜5228の連動によって全てのドラム(454,470,476,484)及び中間搬送部(426,428,430)の渡し胴を回転させる。本例の場合、各ドラム(454,470,476,484)及び渡し胴の直径と歯車514〜528の直径(ピッチ円の直径)は一致しており、処理液ドラム454が1回転すると、描画ドラム470、乾燥ドラム476、定着ドラム484も1回転する。
【0229】
図23の符号402で示した部材(グレートーンで塗りつぶした部材)は、ドラム(454,470,476,484)及び中間搬送部(426,428,430)の渡し胴を支持する枠体(本体フレームに相当)として機能する側板である。この側板402に、プーリ506、歯車510、各ドラム(454、470、476、484)及び中間搬送部(426、428、430)といった部材が回転可能に支持される。
【0230】
また、インクジェット記録装置400は、描画ドラム470や乾燥ドラム476において記録媒体424の吸引吸着保持を行うための負圧を発生させる手段として、真空ポンプ404を備えている。本例の場合、乾燥部418の下部に真空ポンプ404が配置されている。真空ポンプ404は、図示せぬ配管系を介して、描画ドラム470、乾燥ドラム476の排気口に連結されている。
【0231】
なお、各ドラム170を回転させる動力伝達部材の歯車として、はすば歯車が用いられている。歯車としては、平歯車を用いることも可能であるが、滑らかな動力伝達を行うためには、はすば歯車や、やまば歯車を採用することが好ましい。はすば歯車は、歯部が斜めに形成されており、滑らかな動力伝達を実現できる。やまば歯車は、はすば歯車と比較してスラスト方向の力を低減できる利点があるが、はすば歯車よりも高コストである。したがって、本例では、滑らかな動力伝達と低コストを両立させる観点からはすば歯車が採用されている。はすば歯車は、平歯車と比較してx方向の振動が発生し易いこともあり、x方向の相対振動に起因する振動ムラを抑制する技術としての本発明の適用が効果的である。
【0232】
図21〜図23に示した装置構成における固有の振動要素(振動周波数fv)と記録媒体424の搬送速度(描画ドラム470の周速)vp、インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yのノズル配列との関係について、関係式1’、関係式2’、又は関係式3’を満たすように構成される。
【0233】
<振動周波数の目安について>
本例のインクジェット記録装置400は、例えば最大菊半サイズの記録媒体(記録用紙)までの記録が可能であり、圧胴(描画ドラム)470として、記録媒体幅720mmに対応した直径約500mmのドラムが用いられる。また、各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yのインク吐出体積は、例えば2plであり、記録密度は主走査方向(記録媒体424の幅方向)及び副走査方向(記録媒体424の搬送方向)ともに例えば1200dpiである。
【0234】
このようなシステムでは、相対振動周期Pv(y方向の長さ)が10mm近辺の振動周期である場合に、ムラの影響が最も大きくなる(ムラが目立ち易くなる)。相対振動周期がこれよりも十分に大きくなると、10mm程度の位相差が無視できるレベルになり、ムラの視認性が低下する。また、逆に、相対振動が非常に高周波の振動(細かい振動)になると、振動自体の振幅が小さくなるため、これもあまり問題にならなくなる。
【0235】
実用上に特に問題になるのは、用紙上で約10mm〜25mm程度の周期の振動である。したがって、本発明を実施するに際して固有振動数fvとして、10〜50Hzのものについて適用することが好ましい。より好ましくは、固有振動数fvとして、20〜40Hzのものについて適用することが好ましい。
【0236】
<インクジェットヘッドの構成例>
次に、インクジェットヘッドの構造について説明する。各色に対応するインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号550によってヘッドを示すものとする。
【0237】
図24(a) はヘッド550の構造例を示す平面透視図であり、図24(b) はその一部の拡大図である。また、図25はヘッド550の他の構造例を示す平面透視図、図26は記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル551に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図24中のA−A線に沿う断面図)である。
【0238】
図24に示したように、本例のヘッド550は、インク吐出口であるノズル551と、各ノズル551に対応する圧力室552等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)553をマトリクス状に2次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0239】
記録媒体424の送り方向(矢印S方向;「第1方向」に相当)と略直交する方向(矢印M方向;「第2方向」に相当)に記録媒体424の描画領域の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図24(a) の構成に代えて、図25(a)に示すように、複数のノズル551が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール550’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体424の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成する態様や、図25(b)に示すように、ヘッドモジュール550”を一列に並べて繋ぎ合わせる態様もある。
【0240】
なお、記録媒体424の全面を描画範囲とする場合に限らず、記録媒体424の面上の一部が描画領域となっている場合(例えば、用紙の周囲に非描画領域(余白部)を設ける場合など)には、所定の描画領域内の描画に必要なノズル列が形成されていればよい。
【0241】
各ノズル551に対応して設けられている圧力室552は、その平面形状が概略正方形となっており(図245(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル551への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)554が設けられている。なお、圧力室552の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0242】
図26に示すように、ヘッド550は、ノズル551が形成されたノズルプレート551Aと圧力室552や共通流路555等の流路が形成された流路板552P等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート551Aは、ヘッド550のノズル面(インク吐出面)550Aを構成し、各圧力室552にそれぞれ連通する複数のノズル551が2次元的に形成されている。
【0243】
流路板552Pは、圧力室552の側壁部を構成するとともに、共通流路555から圧力室552にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口554を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図26では簡略的に図示しているが、流路板552Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
【0244】
ノズルプレート551A及び流路板552Pは、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
【0245】
共通流路555はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路555を介して各圧力室552に供給される。
【0246】
圧力室552の一部の面(図26において天面)を構成する振動板556には、個別電極557を備えたピエゾアクチュエータ5258が接合されている。本例の振動板556は、ピエゾアクチュエータ558の下部電極に相当する共通電極559として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室552に対応して配置されるピエゾアクチュエータ558の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
【0247】
個別電極557に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ558が変形して圧力室552の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル551からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ558が元の状態に戻る際、共通流路555から供給口554を通って新しいインクが圧力室552に再充填される。
【0248】
かかる構造を有するインク室ユニット553を図24(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル551が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
【0249】
また、本発明の実施に際してヘッド550におけるノズル551の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図24で説明したマトリクス配列に代えて、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
【0250】
なお、インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)に限らず、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
【0251】
<複数のヘッドモジュールを繋ぎ合わせたヘッドバーの形態について>
図25(a)に例示したように、2次元配列ノズルを有する複数のヘッドモジュールを千鳥配列で並べて一つの長尺ヘッドを構成した場合、同一のヘッドモジュール内におけるyオフセット隣接ノズル対のみならず、異なるヘッドモジュール間にまたがるyオフセッット隣接ノズル対についても同様に振動ムラの課題があり、同様の手段で解決できる。
【0252】
図27に千鳥配列ヘッドの模式図を示す。図27では、3つのヘッドモジュール351、352、353を千鳥配列で並べた例を示した。各ヘッドモジュール351、352、353内においてyオフセット隣接ノズル対のオフセット量の最大値をOSy1とする。ここでは、モジュール内の1行目(最下行)のノズル361_i(ただし、i=1,2,3)と、4行目(最上行)のノズル364_iのy方向オフセット隣接ノズル対のオフセット量がOSy1となる。
【0253】
また、y方向に離れて配置された異なるヘッドモジュール351,352にまたがるyオフセット隣接ノズル対(ノズル364_1とノズル361_2)のオフセット量をOSy2とし、ヘッドモジュール352,353にまたがるyオフセット隣接ノズル対(ノズル364_2とノズル361_3)のオフセット量をOSy3とした。
【0254】
OSy1について、関係式1’、関係式2’又は関係式3’を満たすように設計され、OSy2、OSy3については、それぞれOSy1の整数倍となるように設計される。このような構成により、OSy1、OSy2、OSy3のすべてについても関係式1’、関係式2’又は関係式3’を満たすことになる。図27では、OSy2=3×OSy1、OSy3=OSy1の例を示したが、倍率の数値は特に限定されない。
【0255】
このような構成により、ヘッドモジュール間にまたがるyオフセット隣接ノズル対の振動ムラも抑制することができる。なお、ヘッドモジュールの配列形態は、千鳥配列に限定されず、y方向に位置を異ならせてモジュールを配置する形態について上記同様の手段を適用することができる。
【0256】
図27の例では、OSy1、OSy2、OSy3のすべてについて、関係式1’、関係式2’又は関係式3’を満たす例を述べたが、ヘッドモジュール内のyオフセット隣接ノズル対のオフセット量(OSy1)が小さい場合には、ヘッドモジュール間のオフセット量(OSy2、OSy3)のみについて、関係式1’、関係式2’、又は関係式3’を満たせばよい。
【0257】
<一次元ノズル配列を有するヘッドモジュールを千鳥配列したバーヘッドについて>
図28は、千鳥配列ヘッドの他の構成例を示す模式図である。図28に示すように、一次元ノズル配列を有するヘッドモジュール371、372、373を千鳥状に配置したラインヘッドについても、モジュール繋ぎ部(ノズル繋ぎ部)のノズル間のy方向空間距離(y方向のオフセット量OSy)に依存した濃淡ムラ(振動ムラ)が発生し得る。したがって、ヘッドモジュール間にまたがるyオフセット隣接ノズル対(図28におけるノズル381とノズル382のノズル対、及びノズル383とノズル384のノズル対)のオフセット量OSyと、相対振動周波数と、用紙搬送速度とに依存する振動ムラを低減する手段として、上記同様の手段を適用できる。
【0258】
<記録媒体(被描画媒体)について>
本発明の実施に際して、記録媒体の材質や形状等は、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、その他材質や形状を問わず、様々な媒体に適用できる。
【0259】
<変形例>
上述した本実施の形態では、用紙をドラム搬送するインクジェット記録装置を例に説明したが、用紙の搬送手段は、これに限定されるものではない。例えば、ベルト搬送するインクジェット記録装置やローラ搬送するインクジェット記録装置にも同様に適用することができる。この場合、ベルトが巻き掛けられるローラや、用紙搬送用のローラについて、描画ドラムと同様の軸固定構造が採用される。
【0260】
<本発明の応用例について>
上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェッット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線記録装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを得るインクジェット方式の画像形成装置にも広く適用できる。
。
【符号の説明】
【0261】
10…インクジェットの描画部、12…用紙、14…描画ドラム、16(16C、16M、16Y、16K)…ラインヘッド、18…回転軸、20…本体フレーム、22…軸受、30…キャリッジ、32…キャリッジ本体、34…天井フレーム、36L、36R…側板、42…レール、44…ネジ棒、46…キャリッジ駆動モータ、48…連結部材、50…軸受部、52…ブラケット、60L、60R…載置台、66…板バネ、78L、78R…ガイドレール、84…昇降駆動機構、100…メンテナンスユニット、110…キャリッジロック装置、112…電磁石、114…磁性体ブラケット、116…電磁石取付板、118…キャッチプレート、120…ラインヘッドロック機構、122…押圧ローラ、124…カム、124A…傾斜部、124B…平坦部、126…軸受、351,352,353…ヘッドモジュール、400…インクジェット記録装置、424…記録媒体、470…描画ドラム、472M,472K,472C,472Y…インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)、550…インクジェットヘッド、550’,550”…ヘッドモジュール、551…ノズル
【技術分野】
【0001】
本発明は画像形成装置に係り、特に、2次元マトリクス配列のノズル群を有するラインヘッド、若しくは、複数のヘッドモジュールを千鳥配列で繋ぎ合わせたラインヘッドを搭載したインクジェット方式の画像形成装置における描画品質(画質)を改善する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置における画像の記録方式として、用紙の搬送方向と直交する方向に記録ヘッドを往復移動させながら画像を記録するシリアル方式(マルチパス方式)と、用紙の搬送方向と直交する用紙幅の方向に沿って長尺のラインヘッドを設置して用紙搬送と共に当該ラインヘッドによる1回の描画パスで画像を記録するライン方式(シングルパス方式)とが知られている。
【0003】
特許文献1では、用紙の搬送手段に対して記録ヘッドを精度よく位置決め固定するための手段として、搬送手段の両端部に穴或いは突起を設ける一方、ラインヘッド側に突起或いは穴を設けて搬送手段の軸方向(水平方向)の位置を規制する構成が開示されている。
【0004】
特許文献2では、複数のインクヘッド群を搭載するキャリッジに位置規制用のキャリッジピンが設けられる一方、用紙を搬送する無端状ベルトを支持するベルトプラテンに位置決め孔が設けられており、キャリッジピンを位置決め孔に嵌合させることで互いの位置関係を規制する構成が開示されている。
【0005】
特許文献3では、複数の記録ヘッドが固定して設置された記録ヘッドユニットを用紙の搬送ユニットに対してピンとピン孔で位置決めするとともに、ピン孔に挿入されたピンをコレクトチャックで把持することにより、記録ヘッドユニットを搬送ユニットに一体的に固定することが提案されている。このような構成によれば、プリンタ稼働時の振動の影響を受けても、搬送ユニットとヘッドユニットとが全く同じ振動をするので着弾位置精度が維持される旨の開示がある(特許文献3の段落0041)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4−110154号公報
【特許文献2】特開2005−138371号公報
【特許文献3】特開2009−292044号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の技術(特許文献1〜3)はいずれも、ラインヘッドと用紙の相対振動によってインクの着弾精度が低下し、用紙搬送方向の描画線(ラスタ線)が蛇行することを課題としている。これら従来技術で課題としている視認される蛇行量(振幅)は数十μmオーダーの振動レベルである。
【0008】
しかしながら、特許文献1〜3に記載の技術課題以外に、2次元配列のノズル群を有するラインヘッド、或いは、複数のヘッドモジュールを千鳥配列で繋ぎ合わせたラインヘッドの場合、次のような課題がある。
【0009】
(技術課題の説明)
ここでは、用紙の搬送方向をy方向、搬送方向(y方向)に直交する用紙の幅方向をx方向とし、2次元配列ノズルを例に説明する。用紙のx方向描画範囲の全域を記録可能なラインヘッド(ページワイドヘッド、或いはフルライン型ヘッドとも呼ばれる)の2次元配列ノズルを例に説明する。2次元配列ノズルを持つヘッドでは、用紙上でx方向に隣接するドット(またはドットがy方向に連続して繋がって描かれるラスター)を形成するノズル対において、ヘッドのノズルレイアウト上、y方向に距離を隔てたノズル位置関係となるノズル対(以下、「yオフセット隣接ノズル対」と呼ぶ。)が存在する。
【0010】
このとき、ヘッドと用紙の間に、x方向の相対振動があると、yオフセット隣接ノズル対で記録されるラスター間の間隔が相対振動に依存して変動することになる。その結果、yオフセット隣接ノズル対で記録されるドット間(x方向に隣接するドット間)に「重なり」或いは「隙間」ができ、この「重なり」と「隙間」の程度がy方向に変化し、これがムラとなって画像品質を悪化させる。
【0011】
このように、ヘッドと用紙間のx方向の相対振動または変位に起因して生じる濃度ムラを、本願明細書では「振動ムラ」と呼ぶ。
【0012】
かかる現象を図29〜図34の例で解説する。図29は、2次元配列ノズルの一例である。図中の黒丸「●」がノズルの位置を示す。横軸はx方向の位置、縦軸はy方向の位置を表しており、記録解像度で決まる画素(pix)単位の座標でノズル位置を示したものである。
【0013】
図示のとおり、この2次元ノズルレイアウトは、y方向に隔てた2行のノズル行を持ち、同じ1行の中では1pixおきにノズルが並び(1行内のx方向ノズル間隔は2pix)、異なる行に属するノズルの位置がx方向に1pixずれた位置関係(いわゆる千鳥状の配列)となっている。その結果、用紙上には1行目のノズル行に属するノズル群によって1pixおきのラスター(走査線)が形成され、当該1行目のノズルで形成されるラスターの間を2行目のノズル群で形成するラスターが埋めていくという描画形態となる。1行目と2行目のy方向の間隔を「yオフセット隣接ノズル対」のオフセット量(y方向オフセット量)と呼ぶ。ここでは、y方向オフセット量=500pixの例を示した。なお、描画の解像度を1200dpiとすると、500pixは10.6mmとなる。
【0014】
この様な2次元配列ノズルのヘッド(図29)に対して、ヘッドと用紙間にx方向の相対振動があった場合の各ノズルで描かれるラスターの一例を図30に示した。図30は、全てのノズルから一斉に吐出を開始し、用紙を一定速度でy方向に搬送しつつ、所定の打滴周波数で連続吐出を行った場合に得られるラスター群である。また、このとき実際に用紙上に描画される画像(ベタ画像;打滴率100%)の例を図31に示した。なお、図30、図31は、x方向の相対振動の片振幅を5μm、当該相対振動の周期を用紙上におけるy方向の空間距離換算で1000pix=21.2mmとした場合の例である。
【0015】
図30において、符号1Aで示したラスターは図29の下行(1行目)に属するノズルで描かれるものである。図30において、符号2Bで示したラスターは図20の上行(2行目)に属するノズルで描かれるものである。ラスター1Aとラスター2Bはy方向について500pix分ずれている。これは図30における下行ノズルと上行ノズルとのy方向オフセット量に対応している。
【0016】
仮に、ヘッドと用紙間にx方向について相対振動が無ければ、yオフセット隣接ノズル対の走査線(ラスター)はy方向に沿って真っ直ぐな直線ラインとなり、ラスター間隔は解像度から決まる一定値(例えば、1200dpiならば、約21.2μm)となる。
【0017】
これに対して、ヘッドと用紙間にx方向の相対振動があると、1行目のノズルのラスター(符号1A)と、2行目のノズルのラスター(符号2B)とがそれぞれ揺らぐ(図30参照)。このような各ラスターの揺れにより、隣接するラスター(1A,2B)間のx方向間隔が用紙送り方向(y方向)の位置によって空間周期的に変動する。
【0018】
その結果、図31に示すように、描画結果の画像に周期的なムラができる。すなわち、x方向に隣接するラスター間のx方向間隔が周期的に変動することで、これら隣接ラスター同士の「重なり」(ラスター同士の接近)と「隙間」(ラスター同士の離間)がy方向に繰り返され、それが用紙上の描画結果における濃度ムラとなって現れている。
【0019】
図31において、y方向に沿った白筋がx方向に対して概ね等間隔で並ぶ白筋領域4と、y方向について白筋が途切れて黒く(濃く)見える黒領域5とが、y方向について振動の周期の1/2(ここでは500pix)で繰り返される。
【0020】
白筋領域4をx方向に見渡すと、白の隙間(白筋)がある部分と、白筋が無い部分(黒の部分)とが交互に繰り返されている。白筋の部分を更に詳細に見ると、白筋の隙間(白筋の太さ)はy方向について一定ではなく、中央部分が広くなっている。このような白筋領域4はマクロ的に見ると黒領域5に対して濃度が低くなっているため、画像全体で見ると、y方向に濃度が変動する(濃淡が周期的に繰り返される)濃度ムラが視認され、画像品質が低下する。
【0021】
以上の説明では、2行(y方向)×N列(x方向)(ただし、N≧2の整数)の2次元配列ノズルの例を示したが、本課題は、このノズル配列に限らず、他の2次元ノズル配列(例えば、M行×N列(ただし、M≧2の整数)の2次元配列ノズルなど)においても同様の課題が生じる。
【0022】
図32に6行×N列のノズルレイアウトの場合を示す。図29と同様に、相対振動の片振幅を5μm、相対振動の周期を用紙上のy方向距離で1000pix=21.2mmとした。図33は、図32のノズル配列を持つヘッドに対して、ヘッドと用紙間にx方向の相対振動があった場合のラスターの一例を示したものであり、図34は、このとき描画される画像(ベタ画像)の例である。
【0023】
図32に示したノズル配列の場合、yオフセット隣接ノズル対を構成するノズルが属するノズル行の組み合わせとして、1行目と2行目、2行目と3行目、3行目と4行目、4行目と5行目、5行目と6行目、6行目と1行目の合計6通りの組み合わせがある。これら各ノズル対に対応するラスター間の間隔変動によって濃度ムラが生じるが(図34参照)、このうちy方向に最も大きく離れるノズル対(6行目のノズルと1行目のノズル)によるラスター間隔の変動による白筋が最も目立ち、当該最大オフセット量のノズル対が画質劣化に最も影響を及ぼしている。
【0024】
この場合、図34に示されるように、白筋領域6と黒領域7はy方向について振動の周期(ここでは1000pix)で繰り返される。なお、図31と図34で、振動ムラ(白筋領域と黒領域)の周期が異なるのは、次の理由による。
【0025】
図31に対するノズル配列は、図29に示される2行の並びのものである。この場合、「yオフセット隣接ノズル対」としては、「1行目ノズル−2行目ノズル」の組(以下、これを「A組」と呼ぶ。)と、「2行目ノズル−1行目ノズル」の組(以下、これを「B組」と呼ぶ。)の2組存在する。A組のノズル対で振動周期(1000pix)の振動ムラが生じ、また、B組のノズル対でも同様に振動周期(1000pix)の振動ムラが生じる。そして、2組のノズル対でできた振動ムラは位相が180度ずれているために、合成された振動ムラとしては、振動周期の1/2の周期(500pix)となる(図30参照)。
【0026】
これに対して、図34の場合には、図32で示されるノズル配列(6行の並びのもの)が対応するが、この場合には、「yオフセット隣接ノズル対」としては「6行目ノズル−1行目ノズル」の1組だけとなり、現れる振動ムラの周期は振動周期(1000pix)だけとなる(図33参照)。
【0027】
なお、図32で説明した6行目のノズルと1行目のノズルの関係のように、y方向オフセット量が他のyオフセット隣接ノズル対に比べて大きくなる隣接ノズル対の位置を2次元マトリクス配列におけるノズルの繋ぎ部とよぶ場合がある。
【0028】
上述のような振動ムラの課題は2次元マトリクス配列のノズル繋ぎ部に限らず、一列のノズルアレイ(一次元ノズル配列)のヘッドモジュールを千鳥状に配置して繋ぎ合わせたラインヘッド(図28参照)や2次元マトリクス配列のヘッドモジュールを千鳥状に配置して繋ぎ合わせたラインヘッド(図27参照)におけるモジュール間の繋ぎ部でも同様に発生する。
【0029】
2次元マトリクス配列のモジュールを千鳥配列した構成の場合には、モジュール内におけるマトリクスのノズル繋ぎ部と、モジュール間でのノズルの繋ぎ部(モジュール繋ぎ部)の両方が問題になりうる。本明細書では、説明の便宜上、「ノズル繋ぎ部」という用語は、マトリクス配列のノズル繋ぎ部と、モジュール繋ぎ部の両方を包括する概念として用いる。つまり、本発明が解決しようとする課題は、ラインヘッドの2次元マトリクス配列のノズル繋ぎ部、或いは千鳥配列のヘッドモジュールのノズル繋ぎ部に位置する2つのノズル間の用紙搬送方向空間距離(y方向のオフセット量)と相対振動周波数に依存して発生する描画ライン(ラスター)の位相ずれに起因する濃淡ムラ(ビードムラ)に関する内容である。
【0030】
特に、ラインヘッドと記録媒体間の相対速度(記録媒体の搬送速度)とx方向の相対振動周波数により決定する描画方向の揺らぎ(蛇行ピッチ)とノズル繋ぎ部の空間距離が逆位相に同期した場合に最も視認できる濃淡ムラの問題である。
【0031】
本課題はノズル繋ぎ部の空間距離ピッチと相対振動周波数に依存する点で特許文献1〜3における課題と相違しており、さらに、本課題の振動振幅レベルは、従来課題よりも小さい、概ね4μmレベルで濃淡が視認出来る点で、従来課題と大きく異なる。
【0032】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、液体吐出ヘッドのノズル配列におけるノズル繋ぎ部のy方向空間距離と、液体吐出ヘッドと被描画媒体(記録紙など)と間の相対振動とに起因する濃度ムラ(振動ムラ)による画質劣化を低減することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0033】
前記目的を達成するために以下の発明態様を提供する。
【0034】
(発明1):発明1に液滴を吐出する複数のノズルが2次元配列された吐出面を有する液体吐出ヘッド、又は液滴を吐出する複数のノズルを備えた複数個のヘッドモジュールが千鳥状に配置された液体吐出ヘッドと、前記液体吐出ヘッドの前記ノズルから吐出された液滴を付着させる記録媒体を搬送する搬送手段と、前記搬送手段を支持する本体フレームと、前記本体フレームに対して前記液体吐出ヘッドを移動可能に支持するヘッド移動手段と、前記移動可能な前記液体吐出ヘッドを前記記録媒体への液滴吐出位置で前記本体フレームに固定するヘッド固定手段と、を備え、前記ヘッド固定手段は、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送方向に対して直交する前記記録媒体の幅方向に前記液体吐出ヘッドを付勢するヘッド固定用の与圧付与手段を有し、前記ヘッド固定用の与圧付与手段のばね定数と前記液体吐出ヘッドの質量から規定される共振周波数が、前記液体吐出ヘッドのノズル配列における前記搬送方向のノズル間距離のうち、前記記録媒体上の前記幅方向に隣接するドットを形成するノズル並びの繋ぎ部に該当するノズル対の前記搬送方向の空間距離と、前記記録媒体の搬送時における前記搬送手段と前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の相対振動周波数と、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送速度と、に依存する振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする。
【0035】
この発明によれば、ヘッド移動手段によって移動可能な液体吐出ヘッドを液滴吐出位置に固定する場合、当該液体吐出ヘッドは、ヘッド固定用の与圧付与手段によって与圧が付与されて、本体フレームに対して突き当てられた状態で固定される。ヘッド固定用の与圧付与手段により与圧固定されている液体吐出ヘッドは、ヘッド固定用の与圧付与手段のばね定数k1と液体吐出ヘッドの質量m1とから規定される共振周波数f1(共振点)を持つ。
【0036】
本発明では、この共振周波数f1を振動ピッチの周波数成分に同期させないように、装置が構成される。これにより、振動ピッチの周波数成分に同期する周波数成分が低減され、振動ムラの視認性が抑制される。
【0037】
「振動ピッチ」とは、記録媒体を一定速度で搬送する際に記録媒体上のy方向に現れる濃淡ムラ(振動ムラ)の空間周期を意味しており、この空間周期と記録媒体搬送速度で規定される振動ムラ発生周波数が「振動ピッチの周波数成分」に相当している。
【0038】
ヘッド固定用の与圧付与手段には、例えば、板ばね、コイルばね、弾性体などの弾性部材を用いることができる。
【0039】
また、本発明は、搬送手段を支持する本体フレームに液体吐出ヘッドを固定することで、液体吐出ヘッドと搬送手段の相対振動差を低減させることができる。上記周波数成分の低減と相まって、濃度ムラ(振動ムラ)を効果的に抑制することができる。
【0040】
(発明2):発明2に係る画像形成装置は、発明1において、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に接近させた前記液滴吐出位置と、当該液滴吐出位置よりも前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段から遠ざけた退避位置とに前記液体吐出ヘッドを移動させる昇降手段と、前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記搬送手段に対する接近動作に連動して前記液体吐出ヘッドを前記幅方向に押し、前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記液滴吐出位置からの退避動作に連動して前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の押し付けを解除するカム機構と、を備えることを特徴とする。
【0041】
かかる態様によれば、昇降手段により液体吐出ヘッドを搬送手段に近づけると、この接近動作に連動するカム機構により液体吐出ヘッドが本体フレームに押し付けられる。この動きによって、液体吐出ヘッドと本体フレームの間にヘッド固定用の与圧付与手段から与圧が付与され、液体吐出ヘッドが固定(拘束)される。
【0042】
(発明3):発明3に係る画像形成装置は、発明2において、前記カム機構は、前記液体吐出ヘッドの側面部に設けられた傾斜カム面と、前記本体フレームに設けられ、前記傾斜カム面に当接して従動回転する回転体と、を含んで構成されることを特徴とする。
【0043】
かかる態様によれば、昇降手段による液体吐出ヘッドの接近動作に伴い、傾斜カム面に回転体が当接しながら、液体吐出ヘッドを徐々に押し動かすことができ、スムーズにヘッドを固定することができる。回転体には、例えば、ローラ、ベアリングなどを用いることができる。
【0044】
(発明4):発明4に係る画像形成装置は、発明1乃至3のいずれか1項において、前記搬送手段としてドラム又はローラが用いられ、当該ドラム又はローラの軸方向に与圧を付与して当該ドラム又はローラを前記本体フレームに固定する搬送部固定手段を備えることを特徴とする。
【0045】
かかる態様によれば、ドラム又はローラからなる搬送手段は搬送部固定手段によって本体フレームに対して一体的に固定される。また、液体吐出ヘッドがヘッド固定用の与圧付与手段によって与圧付与されて液滴吐出位置に固定されることにより、搬送手段と液体吐出ヘッドとが本体フレームに対して一体的に連結された構造体となる。これにより、搬送手段に伝わる振動と液体吐出ヘッドに伝わる振動を同期させることができ、振動による着弾精度の低下を効果的に抑止することができる。
【0046】
(発明5):発明5に係る画像形成装置は、発明4において、前記搬送部固定手段は、前記本体フレームに対して前記ドラム又はローラを前記軸方向に付勢する搬送部固定用の与圧付与手段を有することを特徴とする。
【0047】
ドラム又はローラの回転軸と、これを支持する本体フレームの間に軸方向の与圧を付与してドラム又はローラを固定する構成を採用することにより、液体吐出ヘッドと搬送手段(ドラム又はローラ)の相対振動差を一層低減させることができる。
【0048】
(発明6):発明6に係る画像形成装置は、発明5において、前記搬送部固定用の与圧付与手段のばね定数と前記ドラム又はローラの質量から規定される共振周波数が、前記振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする。
【0049】
かかる態様によれば、搬送手段として機能するドラム又はローラは、搬送部固定用の与圧付与手段によって与圧が付与されて、本体フレームに対して突き当てられた状態で固定される。搬送部固定用の与圧付与手段により与圧固定されているドラム又はローラは、返送部固定用の与圧付与手段のばね定数k2とドラム又はローラの質量m2とから規定される共振周波数f2(共振点)を持つ。
【0050】
発明6では、この共振周波数f2を振動ピッチの周波数成分に同期させないように、装置が構成される。これにより、振動ピッチの周波数成分に同期する周波数成分が低減され、振動ムラの視認性が一層抑制される。
【0051】
(発明7):発明7に係る画像形成装置は、発明1乃至6のいずれか1項において、前記ヘッド移動手段は、前記本体フレームに移動可能に設けられたキャリッジと、前記キャリッジに設けられ、前記液体吐出ヘッドが載置される載置台と、前記本体フレームに架設されたガイドレールと、を含んで構成され、前記キャリッジは、前記ガイドレールにガイドされて、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に対面させる第1位置と、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段による前記記録媒体の搬送領域外の第2位置との間を移動可能に設けられ、前記キャリッジを前記第1位置で前記本体フレームに固定するキャリッジ固定手段を備えることを特徴とする。
【0052】
かかる態様によれば、液体吐出ヘッドはキャリッジに搭載され、キャリッジはガイドレールを介して本体フレームに移動可能に設けられている。キャリッジは、液体吐出ヘッドを搬送手段に対面させる第1位置でキャリッジ固定手段により本体フレームに固定される。これにより、キャリッジと液体吐出ヘッドとを本体フレームに一体化して連結固定することができ、液体吐出ヘッドと搬送手段の相対振動差を低減させることができる。
【0053】
なお、キャリッジには複数の載置台を備える態様が可能であり、共通のキャリッジに複数の液体吐出ヘッド(例えば、C(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロ)、K(クロ)の各インク色に対応した記録ヘッド)を搭載することができる。この場合、各ヘッドについて、それぞれ昇降手段を設け、各ヘッドを液滴吐出位置と退避位置とに移動可能な構成とする態様が好ましい。
【0054】
(発明8):発明8に係る画像形成装置は、発明7において、前記キャリッジ固定手段として、電磁石と、該電磁石に磁着される被固定部材と、が用いられ、前記電磁石及び前記被固定部材のうち、一方が前記本体フレームに設けられ、他方が前記キャリッジに設けられることを特徴とする。
【0055】
かかる態様によれば、移動可能なキャリッジを本体フレームに対して簡単にロック/アンロック(ロック解除)することができる。
【0056】
(発明9):発明9に係る画像形成装置は、発明7又は8において、前記第2位置に前記液体吐出ヘッドをメンテナンスするメンテナンス手段を備えることを特徴とする。
【0057】
かかる態様によれば、記録媒体の搬送路外の領域(第2位置)に液体吐出ヘッドを退避させて、液体吐出ヘッドのメンテナンスを行うことができる。メンテナンス動作には、例えば、ノズル面のワイピング、パージ(予備吐出)、ノズル吸引、或いはこれらの適宜の組み合わせ、などがある。メンテナンス手段として、例えば、ノズル面をワイピングするワイピング手段(ウエブを用いる態様、ブレードを用いる態様、これらを組み合わせた態様)、パージ(予備吐出)液を受ける液受け部、ノズル吸引のための吸引キャップ、吸引ポンプ、或いは、これらの適宜の組み合わせ、を採用することができる。
【0058】
(発明10):発明10に係る画像形成装置は、発明1乃至9のいずれか1項において、前記液体吐出ヘッドは、前記記録媒体の前記幅方向に長いラインヘッドであり、前記液体吐出ヘッドに対して前記記録媒体を前記搬送方向へ1回だけ相対移動させて当該記録媒体上に画像を形成するシングルパス方式の描画が行われることを特徴とする。
【0059】
振動ムラの課題は、ラインヘッドを用いたシングルパス方式の画像形成装置において特に問題となるため、その対策として、本発明の適用が効果的である。本発明によれば、高い描画品質と高生産性を両立することができる。
【発明の効果】
【0060】
本発明によれば、搬送手段と液体吐出ヘッドの相対振動と、液体吐出ヘッドのノズル配列とに起因する濃淡ムラ(振動ムラ)の視認性を効果的に低減することができる。これにより、高い描画品質と高い生産性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】yオフセット隣接ノズル対で記録される用紙搬送方向のラスターを模式的に示した説明図
【図2】yオフセット隣接ノズル対のラスター間隔D(y)が変動する様子を例示したグラフ
【図3】ノズル対のオフセット量(OSy)と相対振動周期(Pv)の条件とラスター間の間隔変動との関係を例示した説明図
【図4】2行×N列の2次元配列ノズルのヘッドに対して本発明の適用によって得られるラスターの例を示した図
【図5】図4の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【図6】6行×N列の2次元配列ノズルのヘッドに対して本発明の適用によって得られるラスターの例を示した図
【図7】図6の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【図8】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の描画部の概略構成図
【図9】描画部及びこれに並設されたメンテナンス部の正面図
【図10】描画部及びこれに並設されたメンテナンス部の平面図
【図11】ラインヘッドを保持する載置台の構成を示す断面図
【図12】キャリッジに設けられた載置台の構成を示す正面図
【図13】図12のA−A矢視図
【図14】図12のB−B矢視図
【図15】図12のC−C矢視図
【図16】図12のD−D矢視図
【図17】ラインヘッドロック機構の作用の説明図
【図18】ドラム軸の固定構造の第1例を示す図
【図19】ドラム軸の固定構造の第2例を示す図
【図20】ラインヘッドの与圧固定構造を示す模式図
【図21】本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の全体構成図
【図22】図21のインクジェット記録装置におけるドラム回転機構の構成図
【図23】図21におけるドラム支持フレーム(側板)を明示的に強調した説明図
【図24】インクジェットヘッドの構成例を示す平面透視図
【図25】複数のヘッドモジュールを繋ぎ合わせて構成されるヘッドバーの例を示す図
【図26】図24中のA−A線に沿う断面図
【図27】異なるヘッドモジュール間にまたがるyオフセット隣接ノズル対のオフセット量の説明図
【図28】一次元ノズル配列のヘッドモジュールが千鳥配列により繋ぎ合わされたラインヘッドの説明図
【図29】2行×N列の2次元配列ノズルの例を示すノズルレイアウト図
【図30】図29のノズル配列を用いた従来のインクジェット記録装置で得られるラスターを示した図
【図31】図30の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【図32】6行×N列の2次元配列ノズルの例を示すノズルレイアウト図
【図33】図32のノズル配列を用いた従来のインクジェット記録装置で得られるラスターを示した図
【図34】図32の条件で描画された画像(ベタ画像)の例を示した図
【発明を実施するための形態】
【0062】
以下、添付図面に従って本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0063】
(1)振動ムラの発生原因について
まず、振動ムラの発生原因について説明する。振動ムラの原因は、主に以下の2つである。
【0064】
(1-a)x方向相対振動の原因(主要因)
インクジェット記録装置内には、固定の周波数で振動する部品や部位が存在する。例えば、ヘッドユニットの固有振動、用紙搬送用のドラムを保持する支持フレーム(側板)の固有振動、モータの回転をプーリに伝達するベルトの固有振動、ドラムへの用紙の吸引吸着などに使用する真空ポンプの振動、などがあり得る。
【0065】
これらの振動源は、その振動源(部材)に固有の振動数で振動するため、用紙の搬送速度(「相対走査速度」に相当)を変えても、同じ振動数で振動する。つまり、相対走査速度に依存しない固定の周波数で振動する振動源である。
【0066】
かかる固定の周波数で振動する振動源の振動数(振動周波数)をfvとしたときに、用紙上に現れる振動の周期Pv(用紙上でのy方向の長さ、つまり空間的な周期で表したもの)は、用紙の搬送速度をvpとして、以下のように表すことができる。
【0067】
[数1] Pv=vp/fv …(式1)
つまり、搬送速度に依らず固定の振動数(fv)で振動源が揺れているとき、その揺れに起因して用紙上に現れる振動の周期Pv(y方向のピッチ)は、搬送速度(vp)に依存して異なる。搬送速度(vp)が速くなれば、用紙上に現れる振動の周期(Pv)は長くなる。逆に、搬送速度(vp)が遅いほど、用紙上に現れる振動の周期(Pv)は短く(ピッチが細かく)なる。
【0068】
(1-b)x方向振動周期とノズル配列との関係(副要因)
ヘッドのノズル配列に起因した「yオフセット隣接ノズル対」のy方向のオフセット量(「オフセット距離」に相当)OSyと、用紙上におけるx方向相対振動の周期Pv(固定の振動周波数fvと相対走査の速度vpから式1により定まる周期)との関係により、「yオフセット隣接ノズル対」で記録される2本の走査線(ラスター)間のx方向間隔変動ΔD(y)の程度が変わる。
【0069】
図1はyオフセット隣接ノズル対で記録される用紙搬送方向のラスター(走査線)を模式的に拡大した図である。なお、図1は説明の便宜上、ラスターの揺らぎ量を強調するために、縦横の寸法比率を歪ませて(デフォルメして)描いてある。
【0070】
図1における横方向は長尺のインクジェットヘッド(バー)の長手方向(「x方向」という。)であり、縦方向が用紙搬送方向(ヘッドと用紙の相対移動方向、「y方向」という。)である。図1の左側に示した波形のラインR_Aがyオフセット隣接ノズル対の一方のノズル(ここでは「ノズルA」と呼ぶ。)によるラスターを示し、右側に示した波形のラインR_Bが他方のノズル(ここでは「ノズルB」と呼ぶ。)によるラスターを示す。各ノズルA,Bから一定のサイクル(吐出周波数)で連続的に打滴を行いつつ、用紙をy方向に一定速度で搬送することによって用紙上に液滴を着弾させ、各液滴が作るドットが連続的に連なったドット列によってラスターが記録される。なお、吐出周波数と用紙搬送速度はy方向の描画解像度から規定され、ノズルA,B間のx方向距離はx方向の描画解像度から規定される。
【0071】
図1からも明らかなように、y方向オフセット隣接ノズル対のラスター間隔D(y)はヘッドと用紙の相対振動に伴って変化する。この間隔D(y)の変化量(変動)ΔD(y)は、y方向オフセット量OSyと、相対振動周期Pvにより、相対振動のx方向の(片)振幅をAvとして、以下の様に表せる。
【0072】
[数2]
ΔD(y)=Av ・ [ sin{θ(y)}−sin{θ(y)+2π・OSy/Pv} ]
=2・Av・sin{−π・OSy/Pv} ・ cos{θ(y)+π・OSy/Pv} …(式2)
また、(式1)からラスター間隔変動の最大値ΔDmaxは、次のように表される。
【0073】
[数3]
ΔDmax=max|ΔD(y)|=2・Av・|sin{π・OSy/Pv}| …(式3)
ここで、ΔDmax はラスター間隔変動の振幅となるが、Av、及び、OSy、Pvの関係で決まる値である。つまり、ΔDmax はyに対して定数成分(yに依存しない値)となる。一方、(式2)におけるcos{θ(y)+π・OSy/Pv}の要素は、yにより変化する変動成分となる。
【0074】
<式2の導出について>
用紙とヘッドとの間に相対的な振動があると、当該ヘッドのyオフセット隣接ノズル対で用紙上に描かれるラスターは、その相対振動の周期で揺らぐ(波打つ)。その結果、図2に示すように、ラスター間のx方向間隔D(y)は用紙送り方向の位置yに応じて変化する(yの関数となる)。
【0075】
注目するyオフセット隣接ノズル対の一方のノズルAによって記録されるラスターの位置(x方向位置)は、理想的な位置(基準位置x1)を中心として片振幅Avで変動するため、その振動を三角関数で表し、振動の位相成分をθ(y)とすると、ノズルAによるラスターの位置XA の変動量ΔXAは、yの関数として以下のように表せる。
【0076】
[数4] ΔXA=XA(y)−x1=Av sin{θ(y)} …(式4)
同様に、注目するyオフセット隣接ノズル対の他方のノズルBによって記録されるラスターの位置(x方向位置)は、理想的な位置(基準位置x2)を中心として片振幅Avで変動し、更に、ノズルAとノズルBとの間にはy方向のオフセット量OSyに相当する初期位相差(2π・OSy/Pv)があるため、ノズルBによるラスター位置XBの変動量ΔXBはyの関数として以下のように表せる。
【0077】
[数5] ΔXB=XB(y)−x2=sin{θ(y)+2π・OSy/Pv} …(式5)
したがって、ノズルAとノズルBからなる「yオフセット隣接ノズル対」によるラスター間のx方向間隔の変動量ΔD(y)はノズルAのラスター変動(ΔXA)とノズルBのラスター変動(ΔXB)と差で表すことができ、[数2]のように表される。なお、式の変形に際して、加法定理から派生する積和の公式を用いた。また、yオフセット隣接ノズル対について、どちらのノズルをノズルA或いはノズルBと定めるかについては、本質的な問題ではなく、両者の関係を入れ替えても同様の議論が成立する。
【0078】
図2はyオフセット隣接ノズル対のラスター間隔D(y)が変動する様子を例示したグラフである。横軸は用紙上におけるy方向の位置(y座標)、縦軸はラスター間隔D(y)を示している。ヘッドと用紙との間にx方向の相対振動が無ければ、理想的なラスター間隔は描画解像度から定まる規定値D0となる。例えば、1200dpiの場合、D0=1pix=21.2μmである。しかし、ヘッドと用紙との間にx方向の相対振動(振動周期Pv)があると、図2に示すように、ラスター間隔D(y)は、振幅ΔDmax、相対振動周期Pvで変動する。
【0079】
(式2)で示したように、ΔDmaxは、OSyとPvの関係によって定まる値であり、OSyとPvの比(OSy/Pv)に応じて、ΔDmaxは0≦ΔDmax≦2Avの範囲の値をとり得る。
【0080】
表1は、yオフセット隣接のズル対のオフセット量OSyと、x方向の相対振動の周期Pvとの間に特別な条件が成立する場合について、ラスター間隔変動振幅ΔDmax及び振動ムラの関係を示したものである。なお、表1において、kは非負の整数とする。
【0081】
【表1】
【0082】
表1の条件[1]は、本発明の実施例に相当しており、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量OSyがx方向相対振動の振動周期Pvの整数倍となっている(x方向に隣接する2本のラスターの変動の位相が合っている)ために、相対振動の影響が最小になる最良の条件である(図3(a)参照)。
【0083】
これに対し、表1の下段に示した条件[2]は比較例に該当し、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量OSyがx方向相対振動の振動周期Pvの(k+1/2)倍となっているため、x方向に隣接するラスター同士で変動の位相角が丁度πだけずれている。このため、相対振動の振幅(片振幅)Avに対して、ラスター間隔変動の振幅ΔDmax(片振幅)はAvの2倍となる(図3(b)参照)。この場合、相対振動の影響が最も大きく強調され、用紙上で振動ムラが目立つ最悪な条件である。
【0084】
なお、図30,図31で説明した例は、表1の条件[2]に該当するものである。図29で説明した2行×N列のノズル配列に対して、相対振動周期Pvとオフセット量OSyの関係が表1の条件[1]となる場合の描画結果の例を図4、図5に示す。
【0085】
また、図32で説明した6行×N列のノズル配列に関して、表1の条件[1]に相当する場合の描画結果を図6、図7に示す(なお、図33,図34は表1の条件[2]に該当するものである)。
【0086】
良好な条件[1]に該当する図5、図7では、図31、図34に見られた振動ムラが低減していることが分かる。なお、比較のために、ここでは相対振動の片振幅は同じく5μmであり、相対振動の周期を500pix=10.6mmとした。
【0087】
(2)振動ムラの視認性を低減する手段
振動ムラの視認性を低減するために、振動そのものを抑制する手段(主要因への対策)を講じるとともに、ノズル配列と振動周期の関係に起因する副要因への対策を施す。本発明の実施形態では、描画ドラム(圧胴)とラインヘッド間のx方向相対振動を低減のために、主として以下の構成が採用される。
【0088】
A.ラインヘッドを本体フレームに与圧固定するヘッド固定構造の採用。
【0089】
B.描画ドラム等の回転軸(圧胴軸)を本体フレームに与圧固定するドラム軸固定構造の採用。
【0090】
C.副要因を考慮した上記ヘッド固定構造及びドラム軸固定構造における設計の適正化。
【0091】
以下、具体的な構成例について説明する。
【0092】
<インクジェット記録装置の構成例>
図8は本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の描画部の概略構成図である。本実施の形態のインクジェット記録装置は、いわゆるラインプリンタであり、ラインヘッドを用いて枚葉紙(以下「用紙」という)にシングルパスで印刷する。図8に示すように、描画部10において、用紙12は、描画ドラム14によってドラム搬送される。そして、この描画ドラム14によってドラム搬送される用紙12に対して、4台のラインヘッド16C、16M、16Y、16KからC(シアン)、M(マゼンタ)、Y(イエロ)、K(クロ)の各インク滴が吐出されて、記録面にカラー画像が描画される。
【0093】
描画ドラム14の周面には、グリッパー24が設けられる。用紙12は、このグリッパー24によって先端部を把持されて搬送される。本例の描画ドラム14では、180度の間隔で周面の2箇所にグリッパー24が設けられ、1回転で2枚の用紙12が搬送できるように構成されている。
【0094】
また、用紙12は、描画ドラム14の周面に吸着保持されて搬送される。描画ドラム14の周面には、図示しない吸着穴が所定のパターンで多数形成されており、この吸着穴からエアが吸引されることにより、用紙12が描画ドラム14の周面に吸着保持される。なお、用紙12を吸着保持する構成は、これに限らず、たとえば、静電吸着により、用紙12を吸着保持する構成とすることもできる。
【0095】
描画部10に給紙される用紙12は、描画ドラム14の前段に配置された渡しドラム26によって描画ドラム14に受け渡される。一方、描画後の用紙12は、描画ドラム14の後段に配置された渡しドラム28に受け渡される。
【0096】
4台のラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、描画ドラム14の回転軸18を中心とした同心円上に一定の間隔をもって放射状に配置される。各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kからは、描画ドラム14の外周面に向けて垂直にインク滴が吐出される。用紙12は、このラインヘッド16C、16M、16Y、16Kから吐出されたインク滴が記録面に打滴されることにより、記録面にカラー画像が描画される。
【0097】
図9は描画部10及びこれに並設されたメンテナンス部の正面図、図10はその平面図である。インク色別に設けられた4台のラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、共通のキャリッジ30に搭載され、用紙12に描画するための描画位置(図9、図10の実線の位置)と、所定のメンテナンスを行うためのメンテナンス位置(図9、図10の破線の位置)との間を移動可能に設けられる。
【0098】
図9及び図10に示すように、描画ドラム14は、インクジェット記録装置の本体フレーム20に設置される。本体フレーム20には、この描画ドラム14を支持する一対の軸受22が設置される。描画ドラム14は、その回転軸18の両端部を軸受22に支持されて、本体フレーム20に回転自在に設置される。
【0099】
軸受22に軸支された描画ドラム14の回転軸18には、描画ドラム駆動モータ(図示せず)が回転伝達機構(図示せず)を介して連結される。描画ドラム14は、この描画ドラム駆動モータに駆動されて回転する。
【0100】
キャリッジ30は、移動可能なキャリッジ本体32と、キャリッジ本体32に設けられた左右一対の側板36L、36Rと、キャリッジ本体32を移動させるキャリッジ駆動機構38とで構成される(図10では、便宜上、キャリッジ本体32と側板のみを図示し、インク色別のラインヘッド及び各ラインヘッドを載せる載置台等の図示を省略した)。
【0101】
キャリッジ本体32は、矩形の枠状に形成され、その下部四隅に車輪40が取り付けられて、移動可能に設けられる。このキャリッジ本体32は、本体フレーム20に架設された天井フレーム34に搭載される。
【0102】
天井フレーム34は、矩形の枠状に形成され、図示しないボルトで本体フレーム20に固定される。本体フレーム20に固定された天井フレーム34は、描画ドラム14の上方に水平に設置される。
【0103】
天井フレーム34の上面には、一対のレール42が敷設される。レール42は、所定幅、所定深さ溝として天井フレーム34の上面に形成され、描画ドラム14の回転軸18と平行に形成される。キャリッジ本体32に設けられた車輪40は、このレール42に嵌められる。これにより、キャリッジ本体32の移動方向が規制される。この結果、キャリッジ本体32は、同一直線上を水平に移動する。すなわち、描画ドラム14の回転軸18と平行に水平移動する。
【0104】
キャリッジ駆動機構38は、レール42と平行に配設されたネジ棒44と、ネジ棒44を回転駆動するキャリッジ駆動モータ46と、ネジ棒44に螺合されるとともに、キャリッジ本体32に連結される連結部材48とで構成される。
【0105】
ネジ棒44は、天井フレーム34の片側の側部に配設される。天井フレーム34の片側の側部には、このネジ棒44の両端部を回転自在に支持する軸受部50が設けられる。ネジ棒44は、この軸受部50に両端部を軸支されることにより、レール42と平行に配設され、かつ、回転自在に支持される。
【0106】
キャリッジ駆動モータ46は、天井フレーム34の片側の側部にブラケット52を介して取り付けられる。このキャリッジ駆動モータ46の出力軸には、ネジ棒44の一端が連結される。ネジ棒44は、このキャリッジ駆動モータ46に駆動されて回転する。
【0107】
連結部材48は、図示しないネジ穴が形成されている。連結部材48は、このネジ穴を介してネジ棒44に螺合される。この連結部材48は、図示しないボルトでキャリッジ本体32に固定される。
【0108】
以上のように構成されるキャリッジ駆動機構38は、キャリッジ駆動モータ46を駆動してネジ棒44を回転させると、連結部材48がネジ棒44に沿って移動する。この結果、キャリッジ本体32がレール42に沿って水平に移動する。
【0109】
左右一対の側板36L、36Rは、平板状に形成され、キャリッジ本体32の下部につり下げられる形で取り付けられる。キャリッジ本体32に取り付けられた一対の側板36L、36Rは、描画ドラム14の回転軸18に対して直交して配置されるとともに、一定の間隔をもって互いに対向して配置される。この一対の側板36L、36Rには、ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kを取り付けるための左右一対の載置台60L、60Rがラインヘッド16C、16M、16Y、16Kごとに設けられる。
【0110】
図11は、載置台60L、60Rの構成を示す断面図である。なお、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kの構造は同じであり、また、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kが取り付けられる載置台60L、60Rの構造も同じなので、ここでは、ラインヘッド16として、その載置台60L、60Rへの取付構造について説明する。
【0111】
ラインヘッド16は、直方体のブロック状に形成されており、その幅方向(用紙の搬送方向と直交する方向であり、ここでは左右方向とする。)の両端にフランジ部62L、62Rを有している。フランジ部62L、62Rは、矩形の平板状の突片として、ラインヘッド16の本体部の左右両側面から水平(ノズル面と平行)に張り出して形成されている。載置台60L、60Rは、このフランジ部62L、62Rが載置されることにより、ラインヘッド16が取り付けられる。
【0112】
一方の載置台60Lは、主として、スライド部60LAと、載置部60LBとで構成される。
【0113】
スライド部60LAは、矩形の平板状に形成される。このスライド部60LAは、側板36Lと平行に配置され、後述するスライド支持機構によって側板36Lに沿ってスライド可能に設けられる。
【0114】
載置部60LBは、水平部60LB1と垂直部60LB2とからなり、全体としてL字状に形成される。
【0115】
水平部60LB1は、矩形の平板状に形成され、スライド部60LAの下端部に一体的に形成される。この水平部60LB1は、スライド部60LAの内側面に対して直交して配置されるとともに、描画ドラム14の回転軸18と平行に配置される。フランジ部62Lは、この水平部60LB1の上に下面部が載置される。
【0116】
水平部60LB1には、先端部分に一対のコロ64Lが配置される。コロ64Lは、描画ドラム14の回転軸18と直交する方向に並列して配置され、描画ドラム14の回転軸18と直交する軸の周りを回動自在に支持される。フランジ部62Lは、このコロ64Lの上に下面部が載置される。
【0117】
垂直部60LB2は、矩形の平板状に形成され、スライド部60LAの下端部に一体的に形成される。この垂直部60LB2は、スライド部60LAの内側面に対して直交するようにして、水平部60LB1の片側(傾斜して配置されるラインヘッド16の傾斜方向の下側)に配置され、水平部60LB1に対して直交して配置される。水平部60LB1に載置されたフランジ部62Lは、この垂直部60LB2によって、傾斜方向下側に位置する側面が支持される。
【0118】
他方の載置台60Rも同様の構成である。すなわち、主として、スライド部60RAと、載置部60RBとで構成される。そして、載置部60RBは、水平部60RB1と垂直部60RB2とで構成され、水平部60RB1には、先端部分に一対のコロ64Rが配置される。
【0119】
ラインヘッド16は、左右のフランジ部62L、62Rの下面を左右の載置台60L、60Rの水平部60LB1、60RB1の上に載置して、キャリッジ30に搭載する。
【0120】
ここで、上記のように、水平部60LB1、60RB1には、コロ64L、64Rが設けられており、フランジ部62L、62Rは、このコロ64L、64Rの上に載置される。この結果、載置台60L、60Rに載置されたラインヘッド16は、幅方向(描画ドラム14の回転軸18と平行な方向)に移動可能に支持される。
【0121】
一方の載置台60Rのスライド部60RAの内側面には、板バネ66が配置される。この板バネ66は、ラインヘッド16を固定するときに必要な部材であり、一方の載置台60Rに載置されたラインヘッド16のフランジ部62Rの側面に当接し、他方の載置台60Lに向けて付勢する。なお、この板バネ66の作用については、のちに詳述する。
【0122】
上記のように載置台60L、60Rは、そのスライド部60LA、60RAが、スライド支持機構76L、76Rによって、側板36L、36Rに沿って移動可能に設けられる。
【0123】
図12は、キャリッジに設けられた載置台の構成を示す正面図である。また、図13〜16は、それぞれ図12のA−A矢視図、B−B矢視図、C−C矢視図、D−D矢視図である。
【0124】
スライド支持機構76L、76Rは、ガイドレール78L、78Rと、そのガイドレール78L、78R上をスライドする1組のスライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbと、スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbに取り付けられた取付板82L、82Rとで構成される。
【0125】
ガイドレール78L、78Rは、側板36L、36Rの内側に取り付けられ、描画ドラム14の中心を通る直線に沿って配設されている(描画ドラム14の法線に沿って配設される。)。
【0126】
スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbは、このガイドレール78L、78Rの上をスライド移動自在に設けられる。したがって、スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbは、描画ドラム14の中心を通る直線に沿ってスライドする。
【0127】
取付板82L、82Rは、矩形の板状に形成されており、図示しないボルトによってスライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbに固定される。スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbに取り付けられた取付板82L、82Rは、描画ドラム14の回転軸18に対して垂直に配設される。そして、スライダ80La、80Lb、80Ra、80Rbによって、描画ドラム14の中心を通る直線に沿ってスライドする。載置台60L、60Rは、この取付板82L、82Rに取り付けられる。すなわち、そのスライド部60LA、60RAを図示しないボルトで固定されて、取付板82L、82Rに取り付けられる。
【0128】
取付板82L、82Rに取り付けられた載置台60L、60Rは、描画ドラム14の中心を通る直線に沿ってスライド自在に支持され、描画ドラム14の外周面に対して垂直に昇降可能に支持される。そして、このように昇降可能に支持された載置台60L、60Rは、昇降駆動機構84によって昇降駆動される。
【0129】
昇降駆動機構84は、主として、パルスモータ86と、そのパルスモータ86によって回転駆動される回転駆動軸88と、回転駆動軸88に取り付けられた左右一対の偏心カム90L、90Rと、各取付板82L、82Rに取り付けられるとともに、各偏心カム90L、90Rに当接された左右一対の従動カム92L、92Rとで構成される。
【0130】
パルスモータ86は、一方の側板36Lの外側面にブラケット94を介して取り付けられ、その出力軸86aは、描画ドラム14の回転軸18に対して垂直に設けられる。
【0131】
回転駆動軸88は、左右の側板36L、36Rを跨いで設置され、描画ドラム14の回転軸18と平行に配設される。この回転駆動軸88は、左右の側板36L、36Rに設けられた軸受96L、96Rに回転自在に支持される。
【0132】
パルスモータ86の回転は、ウォームギア98を介して回転駆動軸88に伝達される。パルスモータ86の出力軸86aには、このウォームギア98を構成するウォーム98aが取り付けられる。一方、回転駆動軸88には、このウォーム98aに噛み合うウォームホイール98bが取り付けられる。これにより、パルスモータ86の回転が回転駆動軸88に伝達される。
【0133】
左右一対の偏心カム90L、90Rは、円盤状に形成され、その回転中心を偏心させて、回転駆動軸88に取り付けられる。この偏心カム90L、90Rは、それぞれ側板36L、36Rの外側に配置され、描画ドラム14の回転軸18に対して垂直に配置される。
【0134】
従動カム92L、92Rは、円盤状に形成され、その周面が偏心カム90L、90Rの周面に当接するようにして、偏心カム90L、90Rの上に載置される。この従動カム92L、92Rは、描画ドラム14の回転軸18と平行に配設された支軸92La、92Raに回転自在に支持される。
【0135】
支軸92La、92Raは、側板36L、36Rに形成された長穴99L、99Rを通して、描画ドラム14の回転軸18と平行に配設される。そして、その基端部が取付板82L、82Rに一体成形された軸支持部82La、82Lbに固定される。
【0136】
長穴99L、99Rは、ガイドレール78L、78Rと平行に形成される。これにより、従動カム92L、92Rが、ガイドレール78L、78Rに沿って移動可能に設けられる。
【0137】
以上のように構成された昇降駆動機構84によれば、パルスモータ86を駆動して、回転駆動軸88を回転させると、左右一対の偏心カム90L、90Rが回転する。これにより、従動カム92L、92Rが、描画ドラム14の外周面に対して垂直に昇降移動する。そして、この従動カム92L、92Rが昇降移動することにより、この従動カム92L、92Rに連結された取付板82L、82Rが昇降移動し、この結果、載置台60L、60Rが、描画ドラム14の外周面に対して垂直に昇降移動する。
【0138】
以上のように、キャリッジ30に備えられた載置台60L、60Rは、描画ドラム14の外周面に対して昇降可能に設けられる。ラインヘッド16は、左右のフランジ部62L、62Rをこの載置台60L、60Rに載置することにより、キャリッジ30に搭載される。
【0139】
キャリッジ30に搭載されたラインヘッド16は、キャリッジ30をレール42に沿って移動させることにより、描画位置とメンテナンス位置(待機位置)との間を移動する。
【0140】
ここで、描画位置は、描画ドラム14の設置位置に設定され、メンテナンス位置は、メンテナンスユニット100の設置位置に設定される。ここでいう描画位置が「第1位置」に相当し、メンテナンス位置が「第2位置」に相当する。
【0141】
描画位置に移動すると、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、描画ドラム14に対面して描画ドラム14の周囲に配置される。
【0142】
一方、メンテナンス位置に移動すると、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、メンテナンスユニット100の上方に配置される。このメンテナンスユニット100は、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kのメンテナンスを行うユニットであり、廃液トレイ、キャップ等が備えられる。
【0143】
なお、移動に際して、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、所定の移動位置まで上昇し、この移動位置に位置した状態で移動する。すなわち、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kが載置された載置台60L、60Rが、所定の退避位置まで上昇し、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kを退避させた状態で移動する。
【0144】
描画位置に移動した各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kは、その後、移動位置から所定量下降して、描画可能な位置にセットされる。この描画可能な位置が「液滴吐出位置」に相当する。
【0145】
また、メンテナンス位置に移動した各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kも、必要に応じて移動位置から下降し、メンテナンス可能な位置にセットされる。
【0146】
ところで、このように各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kがキャリッジ30に着脱可能に設けられ、また、キャリッジ30も移動自在に設けられていると、本体フレーム20に振動が発生した際、その振動が各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kに伝達されて、各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kが振動する。この結果、打滴精度が低下し、印刷品質が低下する。また、図29〜図34で説明したように、ノズル配列の空間距離と振動周期に起因する振動ムラが発生する。
【0147】
そこで、本実施の形態のインクジェット記録装置には、描画可能な位置でラインヘッド16C、16M、16Y、16Kを本体フレーム20に固定するロック機構が設けられ、振動の発生が防止される。また、描画ドラム14や渡しドラム(渡し胴)26、28等を本体フレーム20に取り付ける固定手段についても振動の発生を抑制する構成が採用されている。
【0148】
<ヘッドのロック機構>
ラインヘッドのロック機構は、図9、図12に示すように、キャリッジ30を本体フレーム20にロックするキャリッジロック装置110(「キャリッジ固定手段」に相当)と、本体フレーム20にロックされたキャリッジ30に対して各ラインヘッド16C、16M、16Y、16Kをロックするラインヘッドロック機構120とで構成される。
【0149】
キャリッジロック装置110は、天井フレーム34に設置される電磁石112と、キャリッジ30に設置される磁性体ブラケット114とで構成される。
【0150】
電磁石112は、電磁石取付板116を介して天井フレーム34に設置される。電磁石取付板116は、矩形の平板状に形成され、天井フレーム34の上面部に垂直に立設されるとともに、レール42に対して直交して配置される。電磁石112は、この電磁石取付板116に一定の間隔をもって複数設置される(本例では4台)。
【0151】
電磁石112の先端には、キャッチプレート118が取り付けられる。キャッチプレート118は、磁性体で構成され、矩形の平板状に形成される。
【0152】
磁性体ブラケット114は、磁性体で構成され、矩形の平板状に形成される。この磁性体ブラケット114は、図示しないボルトでキャリッジ本体32の端面に取り付けられる。キャリッジ本体32に取り付けられた磁性体ブラケット114は、キャッチプレート118と対向して配置される。
【0153】
以上のように構成されるキャリッジロック装置110によれば、キャリッジ30が描画位置に移動すると、磁性体ブラケット114がキャッチプレート118に当接する。この状態で電磁石112をONすると、磁性体ブラケット114がキャッチプレート118に磁着され、キャリッジ30が天井フレーム34に一体的に固定される。天井フレーム34は、本体フレーム20に固定されているので、結果的にキャリッジ30は本体フレーム20に固定される。
【0154】
ラインヘッドロック機構120は、本体フレーム20に取り付けられる押圧ローラ122と、各ラインヘッド16(16C、16M、16Y、16K)に取り付けられるカム124とで構成される。
【0155】
押圧ローラ122は、各ラインヘッド16に対応して設置され、本体フレーム20に軸受126を介して取り付けられる。本体フレーム20に取り付けられた押圧ローラ122は、対応するラインヘッド16のノズル面と平行な軸の周りを回転自在に支持される。また、この押圧ローラ122(「回転体」に相当)は、一方の載置台60Rに設置された板バネ66(「ヘッド固定用の与圧付与手段」に相当)と対向して配置される。
【0156】
カム124は、傾斜部124A(「傾斜カム面」に相当)と平坦部124Bとからなる、クサビ状に形成される。このカム124は、各ラインヘッド16の幅方向の一端(押圧ローラ122側の一端)に取り付けられる。各ラインヘッド16の側面部に取り付けられたカム124は、ノズル面から下方に向けて突出して配置されるとともに、ノズル面に対して直交して配置される。また、各ラインヘッド16を載置台60L、60Rに載置した際、その傾斜部124Aが、押圧ローラ122の外周面に当接するように配置される。
【0157】
以上のように構成されるラインヘッドロック機構120によれば、各ラインヘッド16を載置台60L、60Rに載置すると、各ラインヘッド16に設けられたカム124の傾斜部124Aが、押圧ローラ122の外周に当接する。この状態で載置台60L、60Rを下降させると、押圧ローラ122によってカム124が押圧され、ラインヘッド16が描画ドラム14の回転軸18に沿って押圧ローラ122から離れる方向に移動する。
【0158】
ここで、ラインヘッド16が押圧ローラ122に押されて移動する方向にある載置台60Rには、板バネ66が設置されており、ラインヘッド16は、この板バネ66によって押圧ローラ122の方向に向けて付勢される。
【0159】
この結果、ラインヘッド16は、板バネ66と押圧ローラ122とで挟持され、キャリッジ30に一体的に固定(拘束)される。
【0160】
なお、板バネ66による付勢力が強すぎると(バネ定数が高すぎると)、キャリッジロック装置110によるキャリッジ30の固定が解除されてしまうので、板バネ66は、電磁石112によるキャリッジ30の保持力よりも小さい力で付勢するようにバネ定数が設定される。
【0161】
また、押圧ローラ122は、ラインヘッド16が所定量下降すると、カム124の平坦部124Bに乗り上げ、それ以上下降しても、ラインヘッド16を移動させないように構成される。これにより、常に幅方向の位置を常に一定に保つことができる。
【0162】
<作用>
上記の如く構成された描画部の作用は以下のとおりである。
【0163】
各ラインヘッド16(16C、16M、16Y、16K)のキャリッジ30への取り付けは、次のように行われる。
【0164】
まず、載置台60L、60Rを所定の待機位置に移動させ、この状態でキャリッジ30をメンテナンス位置に移動させる。
【0165】
次に、各ラインヘッド16を載置台60L、60Rに載置する。すなわち、各ラインヘッド16の幅方向の両端に形成されたフランジ部62L、62Lを載置台60L、60Rの載置部60LB、60LAの上に載置する。これにより、各ラインヘッド16がキャリッジ30に搭載される。
【0166】
なお、載置台60L、60Rの載置部60LB、60RBには、コロ64L、64Rが備えられているため(図4参照)、載置台60L、60Rの上に載置された各ラインヘッド16は、幅方向(描画ドラム14の回転軸18の方向)に移動可能に支持される。
【0167】
各ラインヘッド16がキャリッジ30に搭載されると、次に、キャリッジ30が描画位置に移動する。キャリッジ30が描画位置に移動すると、各ラインヘッド16が描画ドラム14の周囲に配置される。
【0168】
また、キャリッジ30が描画位置に移動すると、キャリッジ30に備えられた磁性体ブラケット114が、天井フレーム34に設けられたキャッチプレート118に当接する。この状態で電磁石112がONされ、磁性体ブラケット114がキャッチプレート118に磁着される。これにより、キャリッジ30が天井フレーム34に固定される。
【0169】
電磁石112によってキャリッジ30がロックされると、次に、載置台60L、60Rを昇降させるパルスモータ86が駆動され、載置台60L、60Rが描画ドラム14に向かって下降する。これにより、ラインヘッド16が描画ドラム14に向かって下降する。
【0170】
ラインヘッド16が描画ドラム14に向かって下降すると、図17に示すように、押圧ローラ122によってカム124が押圧される。
【0171】
ここで、上記のように、各ラインヘッド16は、載置台60L、60Rに備えられたコロ64L、64Rによって幅方向(描画ドラム14の回転軸18の方向)に移動可能に支持されているため、カム124が押圧ローラ122によって押されると、描画ドラム14の回転軸18の方向に沿って押圧ローラ122から離れる方向に移動する。
【0172】
一方、押圧ローラ122と反対側にある載置台60Rには、板バネ66が設置されているため、ラインヘッド16が押圧ローラ122から離れる方向に移動すると、この板バネ66によって押圧ローラ122の方向に向けて付勢される。この結果、ラインヘッド16は、板バネ66と押圧ローラ122とで挟持され、キャリッジ30に一体的に固定される。
【0173】
キャリッジ30は、本体フレーム20と一体的に連結されているため、ラインヘッド16は板バネ66によって与圧が付与された状態で本体フレーム20に一体的に固定されることになる。
【0174】
ラインヘッド16は、下降量が調整されてスローディスタンスが調整され、所定のスローディスタンスとなったところで下降が停止される。これにより、印刷が可能になる。
【0175】
この後、印刷が開始され、連続的に給紙される用紙12に対して印刷処理が行われる。
【0176】
この際、描画ドラム14には駆動による振動が発生し、その振動が本体フレーム20にも伝播するが、本実施の形態のインクジェット記録装置では、各ラインヘッド16が本体フレーム20に固定されるため、用紙搬送による駆動振動と各ラインヘッド16に伝播する振動とを同期させることができる。この結果、着弾精度が低下するのを防止でき(2〜3μm以下)、高品質な画像を描画することができる。
【0177】
また、各ラインヘッド16は、所定位置に下降させる動作で本体フレーム20に固定するので、簡単な構造で正確に位置決めして固定することができる。
【0178】
<ドラム軸の固定構造の例1>
図18は、ドラム軸の固定構造の第1例を示す断面図である。ここでは、描画ドラム14を例に説明するが、渡しドラム26、28など、他のドラムやローラについても同様の軸固定構造が採用される。
【0179】
図18に示すように、本体フレーム20の開口部130には、ベアリング132を収容する段差部(凹部)134が形成されており、当該段差部134に環状のベアリング132が配置される。ベアリング132は本体フレーム20の段差部134に熱圧入により固定される。ベアリング132は描画ドラム14の回転軸(ドラム軸)140を回転自在に支持する軸受けとして機能する。ベアリング132を貫通するドラム軸140の端部にねじ部144が形成されている。このねじ部144に締め付けネジ146を締め込み、ベアリング132の内輪133を本体フレーム20と締め付けネジ146とで挟み込んで固定する。締め付けネジ146の締め込みによって、描画ドラム14は軸方向に与圧が付与された状態で固定される。図18では示されていないが、描画ドラム14の他方の端部についても同様の軸固定構造が採用される。
【0180】
このような固定構造により、本体フレーム20と描画ドラム14間のガタを最小限に抑えて固定することができる。
【0181】
<ドラム軸の固定構造の例2>
図19は、ドラム軸の固定構造の第2例を示す図である。図19において、描画ドラム14の回転軸140の一方の端部(図19の左側)は、ベアリング152を介して本体フレーム20に取り付けられている。ベアリング152は、本体フレーム20に熱圧入により固定されている。
【0182】
描画ドラム14の他方の端部(図19の右側)は、ベアリング154を介して本体フレーム20に取り付けられている。ベアリング154は、本体フレーム20の開口部160に配置され、このベアリング154にドラム軸141が回転自在に支持される。ドラム軸141の端部には、当該描画ドラム14を回転させる動力を伝達するためのギア143が設けられている。なお、このギア143は図22の符号520で示した歯車(ギア)に相当する。
【0183】
また、図19に示すように、ベアリング154の外輪に当接してスリーブ162が配置され、該スリーブ162に接して押圧バネ164(「搬送部固定用の与圧付与手段」に相当)が配置されている。当該押圧バネ164の一端を固定するために、本体フレーム20には押さえカバー166が固設されている。押さえカバー166は図示せぬボルトによって本体フレーム20と一体的に連結されている。
【0184】
このような構成により、押圧バネ164によって本体フレーム20と描画ドラム14の間にドラム軸方向の与圧が付与され、軸方向のガタを最小限に抑えた状態で描画ドラム14が本体フレーム20に固定される。
【0185】
<ラインヘッドと描画ドラムのx方向相対振動周期とノズル配列の空間距離の適正化>
図8〜17で説明したロック機構の構成や、図18〜図19で説明したドラム軸の固定構造により、ヘッドユニットとドラムのx方向相対振動の振幅は数μmオーダーに抑制されている。振動ムラの主要因である振動発生源の振動量を低減することには限界があるため、副要因である振動周期とノズル配列との関係を最適化することで、振動ムラの低減を行う。具体的には、固有の振動周期fvと相対走査の速度vpから規定される用紙上における振動周期Pv(「式1」参照)と、ラインヘッド16の共振周波数の関係を適切に設定する。
【0186】
図9〜図17で説明したように、ラインヘッド16は、押圧バネ(板バネ66)を介して本体フレーム20に固定される。図20はその模式図である。
【0187】
ラインヘッド16の質量m1、押圧バネ(板バネ66)のバネ定数をk1とするとき、振動の固有周波数(共振周波数)f1は、f1=(2π)−1×(k1/m1)1/2で表される。
【0188】
この共振周波数f1がノズル配列の空間距離(ノズル繋ぎ部におけるy方向オフセット量)と、用紙搬送速度で規定される実際の振動周期(記録媒体上に現れる濃淡ピッチの周波数)と異なるように、m1、k1が設計される。
【0189】
同様に、図19で説明した搬送部(描画ドラム14等)についても、ドラムの質量m2、押圧バネのバネ定数をk2とするとき、軸方向の振動の固有周波数(共振周波数)f2はf2=(2π)−1×(k2/m2)1/2で表される。
【0190】
この共振周波数f2がノズル配列の空間距離(ノズル繋ぎ部におけるy方向オフセット量)と、用紙搬送速度で規定される実際の振動周期(記録媒体上に現れる濃淡ピッチの周波数)と異なるように、m2、k2が設計される。
【0191】
(2−b)副要因を考慮した対策
また、固有の振動周期fvと相対走査の速度vpから規定される用紙上における振動周期Pv(「式1」参照)と、ノズル配列で決まる「yオフセット隣接ノズル対」のオフセット量Osyとの関係を、表1の条件[1]又はこれに近い条件となるように装置を構成する。
【0192】
すなわち、以下に示す(関係式1)の関係を満たすように構成する。
【0193】
OSy≒k×Pv(ただし、kは自然数)…(関係式1)
これは、式1を利用して、次の(関係式1’)に書き替えることができる。
【0194】
OSy≒k×vp/fv(ただし、kは自然数)…(関係式1’)
一方、(式3)からΔDmaxは、0〜2Avの値をとり得る。ΔDmaxの値によってムラ低減の効果の程度が異なり、ΔDmaxの値が小さいほど、ムラによる画質劣化が抑制される。固有の振動周期fvと相対走査速度vpに対応する周期で生じる相対振動のx方向方振幅がAvであることを考慮すると、実効性ある望ましいレベルで振動ムラの低減効果を得る観点から、ΔDmaxがAv/2以下であることが好ましく、より好ましくは、Av/4以下であることが好ましい。
【0195】
つまり、(式3)から、以下に示す(関係式2)を満たすことが好ましい。
【0196】
|sin{π・OSy/Pv}|≦1/4…(関係式2)
より好ましくは、以下に示す(関係式3)を満たすことが好ましい。
【0197】
|sin{π・OSy/Pv}|≦1/8…(関係式3)
これらの関係式2,3はそれぞれ(式1)を利用して、次の関係式2’、3’に書き書き換えることができる。
【0198】
|sin{π・OSy・fv/vp}|≦1/4…(関係式2’)
|sin{π・OSy・fv/vp}|≦1/8…(関係式3’)
図29で説明した2行×N列のノズル配列の場合、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量OSyは一定の値であるが、図32で示した6行×N列のノズル配列のように、yオフセット隣接ノズル対のオフセット量が異なる値をもつ場合がある。つまり、1行目(最下行)のノズルと2行目のノズルのオフセット量は100pix、2行目と3行目、3行目と4行目、4行目と5行目もそれぞれオフセット量は100pixであるが、6行目と1行目のオフセット量は500pixである。
【0199】
このようにオフセット量が異なるyオフセット隣接ノズル対が含まれる場合、すべての異なるオフセット量について、関係式1、関係式2、又は関係式3を満たすように構成することは必ずしも要求されない。オフセット量が大きいノズル対ほど振動ムラに大きく影響するため、少なくともオフセット量の最大値について、関係式1,2,又は3を満たすように構成すれば、相応の効果が得られる。実際に、図32のノズル配列の場合、1行目(最下行)のノズルと6行目(最上行)のノズルでx方向の隣接ドットを形成するノズル対のオフセット量(=500pix)をOSyとして、関係式1,2,又は3を満たせば十分に画質改善の効果が認められる。
【0200】
<インクジェット記録装置の構成例>
次に、図1〜図20で説明した技術を採用したインクジェット記録装置の全体構成の例を説明する。
【0201】
図21は、本発明の実施形態に係るインクジェット記録装置の構成例を示す全体構成図である。図22は図21と反対側の側面部に設けられたドラム回転駆動機構の構成図である。これらの図面に示したとおり、本例のインクジェット記録装置400は、主として、給紙部412、処理液付与部(プレコート部)414、描画部416、乾燥部418、定着部420、及び排紙部422から構成されている。インクジェット記録装置400は、描画部416の圧胴(描画ドラム470)に保持された記録媒体424(以下、便宜上「用紙」と呼ぶ場合がある。)にインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yから複数色のインクを打滴して所望のカラー画像を形成するシングルパス方式のインクジェット記録装置であり、インクの打滴前に記録媒体424上に処理液(ここでは凝集処理液)を付与し、処理液とインク液を反応させて記録媒体424上に画像形成を行う2液反応(凝集)方式が適用されたオンデマンドタイプの画像形成装置である。
【0202】
(給紙部)
給紙部412には、枚葉紙である記録媒体424(「被描画媒体」に相当)が積層されており、給紙部412の給紙トレイ450から記録媒体424が一枚ずつ処理液付与部414に給紙される。記録媒体424として、紙種や大きさ(用紙サイズ)の異なる複数種類の記録媒体424を使用することができる。記録媒体424として、枚葉紙(カット紙)を用いるが、連続用紙(ロール紙)から必要なサイズに切断して給紙する構成も可能である。
【0203】
(処理液付与部)
処理液付与部414は、記録媒体424の記録面に処理液を付与する機構である。処理液は、描画部416で付与されるインク中の色材(本例では顔料)を凝集させる色材凝集剤を含んでおり、この処理液とインクとが接触することによって、インクは色材と溶媒との分離が促進される。
【0204】
処理液付与部414は、給紙胴452、処理液ドラム(「プレコート胴」とも言う)454、及び処理液塗布装置456を備えている。処理液ドラム454は、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)455を備え、この保持手段455の爪と処理液ドラム454の周面の間に記録媒体424を挟み込むことによって記録媒体424の先端を保持できるようになっている。処理液ドラム454は、その外周面に吸引孔を設けるとともに、吸引孔から吸引を行う吸引手段を接続してもよい。これにより記録媒体424を処理液ドラム454の周面に密着保持することができる。
【0205】
処理液ドラム454の外側には、その周面に対向して処理液塗布装置456が設けられる。処理液塗布装置456は、処理液が貯留された処理液容器と、この処理液容器の処理液に一部が浸漬されたアニックスローラと、アニックスローラと処理液ドラム454上の記録媒体424に圧接されて計量後の処理液を記録媒体424に転移するゴムローラとで構成される。この処理液塗布装置456によれば、処理液を計量しながら記録媒体424に塗布することができる。
【0206】
本実施形態では、ローラによる塗布方式を適用した構成を例示したが、これに限定されず、例えば、スプレー方式、インクジェット方式などの各種方式を適用することも可能である。
【0207】
処理液付与部414で処理液が付与された記録媒体424は、処理液ドラム454から中間搬送部426を介して描画部416の描画ドラム470へ受け渡される。
【0208】
(描画部)
描画部416は、描画ドラム(「描画胴」或いは「ジェッティング胴」とも言う)470、用紙抑えローラ474、及びインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yを備えている。描画ドラム470は、処理液ドラム454と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)471を備える。
【0209】
描画ドラム470に固定された記録媒体424は、記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面にインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yからインクが付与される。
【0210】
インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yはそれぞれ、記録媒体424における画像形成領域の最大幅に対応する長さを有するフルライン型のインクジェット方式の記録ヘッド(「液体吐出ヘッド」に相当)であり、そのインク吐出面には、画像形成領域の全幅にわたってインク吐出用のノズルが複数配列されたノズル列が形成されている。各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yは、記録媒体424の搬送方向(描画ドラム470の回転方向)と直交する方向に延在するように設置される。
【0211】
描画ドラム470上に密着保持された記録媒体424の記録面に向かって各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yから、対応する色インクの液滴が吐出されることにより、処理液付与部414で予め記録面に付与された処理液にインクが接触し、インク中に分散する色材(顔料)が凝集され、色材凝集体が形成される。これにより、記録媒体424上での色材流れなどが防止され、記録媒体424の記録面に画像が形成される。
【0212】
また、本例では、CMYKの4色の構成を例示したが、インク色や色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて、R(赤)、G(緑)、B(青)インク、淡インク、濃インク、特別色インクを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するヘッドを追加する構成も可能であり、各色ヘッドの配置順序も特に限定はない。
【0213】
描画部416で画像が形成された記録媒体424は、描画ドラム470から中間搬送部428を介して乾燥部418の乾燥ドラム476へ受け渡される。
【0214】
(乾燥部)
乾燥部418は、色材凝集作用により分離された溶媒に含まれる水分を乾燥させる機構であり、乾燥ドラム(「乾燥胴」とも言う)476、及び溶媒乾燥装置478を備えている。乾燥ドラム476は、処理液ドラム454と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)477を備え、この保持手段477によって記録媒体424の先端を保持できるようになっている。
【0215】
溶媒乾燥装置478は、乾燥ドラム476の外周面に対向する位置に配置され、複数のハロゲンヒータ480と、各ハロゲンヒータ480の間にそれぞれ配置された温風噴出しノズル482とで構成される。
【0216】
各温風噴出しノズル482から記録媒体424に向けて吹き付けられる温風の温度と風量、各ハロゲンヒータ480の温度を適宜調節することにより、様々な乾燥条件を実現することができる。
【0217】
乾燥部418で乾燥処理が行われた記録媒体424は、乾燥ドラム476から中間搬送部430を介して定着部420の定着ドラム484へ受け渡される。
【0218】
(定着部)
定着部420は、定着ドラム(「定着胴」とも言う)484、ハロゲンヒータ486、定着ローラ488、及びインラインセンサ490で構成される。定着ドラム484は、処理液ドラム454と同様に、その外周面に爪形状の保持手段(グリッパー)485を備え、この保持手段485によって記録媒体424の先端を保持できるようになっている。
【0219】
定着ドラム484の回転により、記録媒体424は記録面が外側を向くようにして搬送され、この記録面に対して、ハロゲンヒータ486による予備加熱と、定着ローラ488による定着処理と、インラインセンサ490による検査が行われる。
【0220】
定着ローラ488は、乾燥させたインクを加熱加圧することによってインク中の自己分散性ポリマー微粒子を溶着し、インクを被膜化させるためのローラ部材であり、記録媒体424を加熱加圧するように構成される。具体的には、定着ローラ488は、定着ドラム484に対して圧接するように配置されており、定着ドラム484との間でニップローラを構成するようになっている。これにより、記録媒体424は、定着ローラ488と定着ドラム484との間に挟まれ、所定のニップ圧(例えば、0.15MPa)でニップされ、定着処理が行われる。
【0221】
また、定着ローラ488は、熱伝導性の良いアルミなどの金属パイプ内にハロゲンランプを組み込んだ加熱ローラによって構成され、所定の温度(例えば60〜80℃)に制御される。この加熱ローラで記録媒体424を加熱することによって、インクに含まれるラテックスのTg温度(ガラス転移点温度)以上の熱エネルギーが付与され、ラテックス粒子が溶融される。これにより、記録媒体424の凹凸に押し込み定着が行われるとともに、画像表面の凹凸がレベリングされ、光沢性が得られる。
【0222】
インラインセンサ490は、記録媒体424に記録された画像(テストパターンなども含む)について、吐出不良チェックパターンや画像の濃度、画像の欠陥などを計測するための計測手段であり、CCDラインセンサなどが適用される。
【0223】
上記の如く構成された定着部420によれば、乾燥部418で形成された薄層の画像層内のラテックス粒子が定着ローラ488によって加熱加圧されて溶融されるので、記録媒体424に固定定着させることができる。また、定着ドラム484の表面温度は50℃以上に設定されている。定着ドラム184の外周面に保持された記録媒体424を裏面から加熱することによって乾燥が促進され、定着時における画像破壊を防止することができるとともに、画像温度の昇温効果によって画像強度を高めることができる。
【0224】
なお、高沸点溶媒及びポリマー微粒子(熱可塑性樹脂粒子)を含んだインクに代えて、UV露光にて重合硬化可能なモノマー成分を含有していてもよい。この場合、インクジェット記録装置400は、ヒートローラによる熱圧定着部(定着ローラ488)の代わりに、記録媒体424上のインクにUV光を露光するUV露光部を備える。このように、UV硬化性樹脂などの活性光線硬化性樹脂を含んだインクを用いる場合には、加熱定着の定着ローラ488に代えて、UVランプや紫外線LD(レーザダイオード)アレイなど、活性光線を照射する手段が設けられる。
【0225】
(排紙部)
定着部420に続いて排紙部422が設けられている。排紙部422は、排出トレイ492を備えており、この排出トレイ492と定着部420の定着ドラム484との間に、これらに対接するように渡し胴494、搬送ベルト496、張架ローラ498が設けられている。記録媒体424は、渡し胴494により搬送ベルト496に送られ、排出トレイ492に排出される。搬送ベルト496による用紙搬送機構の詳細は図示しないが、印刷後の記録媒体424は無端状の搬送ベルト496間に渡されたバー(不図示)のグリッパーによって用紙先端部が保持され、搬送ベルト496の回転によって排出トレイ492の上方に運ばれてくる。
【0226】
また、図21には示されていないが、本例のインクジェット記録装置400には、上記構成の他、各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yにインクを供給するインク貯蔵/装填部、処理液付与部414に対して処理液を供給する手段を備えるとともに、各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yのクリーニング(ノズル面のワイピング、パージ、ノズル吸引等)を行うヘッドメンテナンス部や、用紙搬送路上における記録媒体424の位置を検出する位置検出センサ、装置各部の温度を検出する温度センサなどを備えている。
【0227】
<ドラム(胴)の回転駆動機構について>
図22に示したようにインクジェット記録装置400には、用紙搬送系の動力源としてのモータ(「動力発生手段」に相当、以下「ドラム回転用モータ」という。)502が設けられている。該ドラム回転用モータ502の動力はタイミングベルト(無端状の歯付きベルト)504を介してプーリ506に伝えられる。プーリ506には歯車508が同軸で一体に連結されおり、プーリ506と共に歯車508が回転する。この歯車508と噛合する歯車510が図22上で歯車508の左上に設けられており、該歯車510はプレコート部(処理液付与部414)における処理液ドラム454の端部に直結された歯車(ギア)514と噛合している。処理液ドラム454の歯車514は、中間搬送部426を構成する渡し胴の端部に設けられた歯車516と噛み合い、この歯車516は描画部416における描画ドラム470の端部に設けられた歯車520と噛み合っている。以下、歯車520は中間搬送部428を構成する渡し胴の歯車522と噛み合い、更に、乾燥ドラム476の歯車524、中間搬送部430の渡し胴の歯車526、定着ドラム484の歯車528の順に順次噛合している。
【0228】
各歯車514〜528がドラム回転用歯車となっており、これらが連接された構造となっている。ドラム回転用モータ502の動力がタイミングベルト504、プーリ506、歯車508、510を介して各歯車514〜528に伝達され、これら歯車514〜5228の連動によって全てのドラム(454,470,476,484)及び中間搬送部(426,428,430)の渡し胴を回転させる。本例の場合、各ドラム(454,470,476,484)及び渡し胴の直径と歯車514〜528の直径(ピッチ円の直径)は一致しており、処理液ドラム454が1回転すると、描画ドラム470、乾燥ドラム476、定着ドラム484も1回転する。
【0229】
図23の符号402で示した部材(グレートーンで塗りつぶした部材)は、ドラム(454,470,476,484)及び中間搬送部(426,428,430)の渡し胴を支持する枠体(本体フレームに相当)として機能する側板である。この側板402に、プーリ506、歯車510、各ドラム(454、470、476、484)及び中間搬送部(426、428、430)といった部材が回転可能に支持される。
【0230】
また、インクジェット記録装置400は、描画ドラム470や乾燥ドラム476において記録媒体424の吸引吸着保持を行うための負圧を発生させる手段として、真空ポンプ404を備えている。本例の場合、乾燥部418の下部に真空ポンプ404が配置されている。真空ポンプ404は、図示せぬ配管系を介して、描画ドラム470、乾燥ドラム476の排気口に連結されている。
【0231】
なお、各ドラム170を回転させる動力伝達部材の歯車として、はすば歯車が用いられている。歯車としては、平歯車を用いることも可能であるが、滑らかな動力伝達を行うためには、はすば歯車や、やまば歯車を採用することが好ましい。はすば歯車は、歯部が斜めに形成されており、滑らかな動力伝達を実現できる。やまば歯車は、はすば歯車と比較してスラスト方向の力を低減できる利点があるが、はすば歯車よりも高コストである。したがって、本例では、滑らかな動力伝達と低コストを両立させる観点からはすば歯車が採用されている。はすば歯車は、平歯車と比較してx方向の振動が発生し易いこともあり、x方向の相対振動に起因する振動ムラを抑制する技術としての本発明の適用が効果的である。
【0232】
図21〜図23に示した装置構成における固有の振動要素(振動周波数fv)と記録媒体424の搬送速度(描画ドラム470の周速)vp、インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yのノズル配列との関係について、関係式1’、関係式2’、又は関係式3’を満たすように構成される。
【0233】
<振動周波数の目安について>
本例のインクジェット記録装置400は、例えば最大菊半サイズの記録媒体(記録用紙)までの記録が可能であり、圧胴(描画ドラム)470として、記録媒体幅720mmに対応した直径約500mmのドラムが用いられる。また、各インクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yのインク吐出体積は、例えば2plであり、記録密度は主走査方向(記録媒体424の幅方向)及び副走査方向(記録媒体424の搬送方向)ともに例えば1200dpiである。
【0234】
このようなシステムでは、相対振動周期Pv(y方向の長さ)が10mm近辺の振動周期である場合に、ムラの影響が最も大きくなる(ムラが目立ち易くなる)。相対振動周期がこれよりも十分に大きくなると、10mm程度の位相差が無視できるレベルになり、ムラの視認性が低下する。また、逆に、相対振動が非常に高周波の振動(細かい振動)になると、振動自体の振幅が小さくなるため、これもあまり問題にならなくなる。
【0235】
実用上に特に問題になるのは、用紙上で約10mm〜25mm程度の周期の振動である。したがって、本発明を実施するに際して固有振動数fvとして、10〜50Hzのものについて適用することが好ましい。より好ましくは、固有振動数fvとして、20〜40Hzのものについて適用することが好ましい。
【0236】
<インクジェットヘッドの構成例>
次に、インクジェットヘッドの構造について説明する。各色に対応するインクジェットヘッド472M,472K,472C,472Yの構造は共通しているので、以下、これらを代表して符号550によってヘッドを示すものとする。
【0237】
図24(a) はヘッド550の構造例を示す平面透視図であり、図24(b) はその一部の拡大図である。また、図25はヘッド550の他の構造例を示す平面透視図、図26は記録素子単位となる1チャンネル分の液滴吐出素子(1つのノズル551に対応したインク室ユニット)の立体的構成を示す断面図(図24中のA−A線に沿う断面図)である。
【0238】
図24に示したように、本例のヘッド550は、インク吐出口であるノズル551と、各ノズル551に対応する圧力室552等からなる複数のインク室ユニット(液滴吐出素子)553をマトリクス状に2次元配置させた構造を有し、これにより、ヘッド長手方向(紙送り方向と直交する方向)に沿って並ぶように投影(正射影)される実質的なノズル間隔(投影ノズルピッチ)の高密度化を達成している。
【0239】
記録媒体424の送り方向(矢印S方向;「第1方向」に相当)と略直交する方向(矢印M方向;「第2方向」に相当)に記録媒体424の描画領域の全幅Wmに対応する長さ以上のノズル列を構成する形態は本例に限定されない。例えば、図24(a) の構成に代えて、図25(a)に示すように、複数のノズル551が2次元に配列された短尺のヘッドモジュール550’を千鳥状に配列して繋ぎ合わせることで記録媒体424の全幅に対応する長さのノズル列を有するラインヘッドを構成する態様や、図25(b)に示すように、ヘッドモジュール550”を一列に並べて繋ぎ合わせる態様もある。
【0240】
なお、記録媒体424の全面を描画範囲とする場合に限らず、記録媒体424の面上の一部が描画領域となっている場合(例えば、用紙の周囲に非描画領域(余白部)を設ける場合など)には、所定の描画領域内の描画に必要なノズル列が形成されていればよい。
【0241】
各ノズル551に対応して設けられている圧力室552は、その平面形状が概略正方形となっており(図245(a)、(b) 参照)、対角線上の両隅部の一方にノズル551への流出口が設けられ、他方に供給インクの流入口(供給口)554が設けられている。なお、圧力室552の形状は、本例に限定されず、平面形状が四角形(菱形、長方形など)、五角形、六角形その他の多角形、円形、楕円形など、多様な形態があり得る。
【0242】
図26に示すように、ヘッド550は、ノズル551が形成されたノズルプレート551Aと圧力室552や共通流路555等の流路が形成された流路板552P等を積層接合した構造から成る。ノズルプレート551Aは、ヘッド550のノズル面(インク吐出面)550Aを構成し、各圧力室552にそれぞれ連通する複数のノズル551が2次元的に形成されている。
【0243】
流路板552Pは、圧力室552の側壁部を構成するとともに、共通流路555から圧力室552にインクを導く個別供給路の絞り部(最狭窄部)としての供給口554を形成する流路形成部材である。なお、説明の便宜上、図26では簡略的に図示しているが、流路板552Pは一枚又は複数の基板を積層した構造である。
【0244】
ノズルプレート551A及び流路板552Pは、シリコンを材料として半導体製造プロセスによって所要の形状に加工することが可能である。
【0245】
共通流路555はインク供給源たるインクタンク(不図示)と連通しており、インクタンクから供給されるインクは共通流路555を介して各圧力室552に供給される。
【0246】
圧力室552の一部の面(図26において天面)を構成する振動板556には、個別電極557を備えたピエゾアクチュエータ5258が接合されている。本例の振動板556は、ピエゾアクチュエータ558の下部電極に相当する共通電極559として機能するニッケル(Ni)導電層付きのシリコン(Si)から成り、各圧力室552に対応して配置されるピエゾアクチュエータ558の共通電極を兼ねる。なお、樹脂などの非導電性材料によって振動板を形成する態様も可能であり、この場合は、振動板部材の表面に金属などの導電材料による共通電極層が形成される。また、ステンレス鋼(SUS)など、金属(導電性材料)によって共通電極を兼ねる振動板を構成してもよい。
【0247】
個別電極557に駆動電圧を印加することによってピエゾアクチュエータ558が変形して圧力室552の容積が変化し、これに伴う圧力変化によりノズル551からインクが吐出される。インク吐出後、ピエゾアクチュエータ558が元の状態に戻る際、共通流路555から供給口554を通って新しいインクが圧力室552に再充填される。
【0248】
かかる構造を有するインク室ユニット553を図24(b)に示す如く、主走査方向に沿う行方向及び主走査方向に対して直交しない一定の角度θを有する斜めの列方向に沿って一定の配列パターンで格子状に多数配列させることにより、本例の高密度ノズルヘッドが実現されている。かかるマトリクス配列において、副走査方向の隣接ノズル間隔をLsとするとき、主走査方向については実質的に各ノズル551が一定のピッチP=Ls/tanθで直線状に配列されたものと等価的に取り扱うことができる。
【0249】
また、本発明の実施に際してヘッド550におけるノズル551の配列形態は図示の例に限定されず、様々なノズル配置構造を適用できる。例えば、図24で説明したマトリクス配列に代えて、V字状のノズル配列、V字状配列を繰り返し単位とするジグザク状(W字状など)のような折れ線状のノズル配列なども可能である。
【0250】
なお、インクジェットヘッドにおける各ノズルから液滴を吐出させるための吐出用の圧力(吐出エネルギー)を発生させる手段は、ピエゾアクチュエータ(圧電素子)に限らず、サーマル方式(ヒータの加熱による膜沸騰の圧力を利用してインクを吐出させる方式)におけるヒータ(加熱素子)や他の方式による各種アクチュエータなど様々な圧力発生素子(エネルギー発生素子)を適用し得る。ヘッドの吐出方式に応じて、相応のエネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。
【0251】
<複数のヘッドモジュールを繋ぎ合わせたヘッドバーの形態について>
図25(a)に例示したように、2次元配列ノズルを有する複数のヘッドモジュールを千鳥配列で並べて一つの長尺ヘッドを構成した場合、同一のヘッドモジュール内におけるyオフセット隣接ノズル対のみならず、異なるヘッドモジュール間にまたがるyオフセッット隣接ノズル対についても同様に振動ムラの課題があり、同様の手段で解決できる。
【0252】
図27に千鳥配列ヘッドの模式図を示す。図27では、3つのヘッドモジュール351、352、353を千鳥配列で並べた例を示した。各ヘッドモジュール351、352、353内においてyオフセット隣接ノズル対のオフセット量の最大値をOSy1とする。ここでは、モジュール内の1行目(最下行)のノズル361_i(ただし、i=1,2,3)と、4行目(最上行)のノズル364_iのy方向オフセット隣接ノズル対のオフセット量がOSy1となる。
【0253】
また、y方向に離れて配置された異なるヘッドモジュール351,352にまたがるyオフセット隣接ノズル対(ノズル364_1とノズル361_2)のオフセット量をOSy2とし、ヘッドモジュール352,353にまたがるyオフセット隣接ノズル対(ノズル364_2とノズル361_3)のオフセット量をOSy3とした。
【0254】
OSy1について、関係式1’、関係式2’又は関係式3’を満たすように設計され、OSy2、OSy3については、それぞれOSy1の整数倍となるように設計される。このような構成により、OSy1、OSy2、OSy3のすべてについても関係式1’、関係式2’又は関係式3’を満たすことになる。図27では、OSy2=3×OSy1、OSy3=OSy1の例を示したが、倍率の数値は特に限定されない。
【0255】
このような構成により、ヘッドモジュール間にまたがるyオフセット隣接ノズル対の振動ムラも抑制することができる。なお、ヘッドモジュールの配列形態は、千鳥配列に限定されず、y方向に位置を異ならせてモジュールを配置する形態について上記同様の手段を適用することができる。
【0256】
図27の例では、OSy1、OSy2、OSy3のすべてについて、関係式1’、関係式2’又は関係式3’を満たす例を述べたが、ヘッドモジュール内のyオフセット隣接ノズル対のオフセット量(OSy1)が小さい場合には、ヘッドモジュール間のオフセット量(OSy2、OSy3)のみについて、関係式1’、関係式2’、又は関係式3’を満たせばよい。
【0257】
<一次元ノズル配列を有するヘッドモジュールを千鳥配列したバーヘッドについて>
図28は、千鳥配列ヘッドの他の構成例を示す模式図である。図28に示すように、一次元ノズル配列を有するヘッドモジュール371、372、373を千鳥状に配置したラインヘッドについても、モジュール繋ぎ部(ノズル繋ぎ部)のノズル間のy方向空間距離(y方向のオフセット量OSy)に依存した濃淡ムラ(振動ムラ)が発生し得る。したがって、ヘッドモジュール間にまたがるyオフセット隣接ノズル対(図28におけるノズル381とノズル382のノズル対、及びノズル383とノズル384のノズル対)のオフセット量OSyと、相対振動周波数と、用紙搬送速度とに依存する振動ムラを低減する手段として、上記同様の手段を適用できる。
【0258】
<記録媒体(被描画媒体)について>
本発明の実施に際して、記録媒体の材質や形状等は、特に限定されず、連続用紙、カット紙、シール用紙、OHPシート等の樹脂シート、フイルム、布、配線パターン等が形成されるプリント基板、ゴムシート、その他材質や形状を問わず、様々な媒体に適用できる。
【0259】
<変形例>
上述した本実施の形態では、用紙をドラム搬送するインクジェット記録装置を例に説明したが、用紙の搬送手段は、これに限定されるものではない。例えば、ベルト搬送するインクジェット記録装置やローラ搬送するインクジェット記録装置にも同様に適用することができる。この場合、ベルトが巻き掛けられるローラや、用紙搬送用のローラについて、描画ドラムと同様の軸固定構造が採用される。
【0260】
<本発明の応用例について>
上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェッット記録装置への適用を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線記録装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルター製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料を用いて様々な形状やパターンを得るインクジェット方式の画像形成装置にも広く適用できる。
。
【符号の説明】
【0261】
10…インクジェットの描画部、12…用紙、14…描画ドラム、16(16C、16M、16Y、16K)…ラインヘッド、18…回転軸、20…本体フレーム、22…軸受、30…キャリッジ、32…キャリッジ本体、34…天井フレーム、36L、36R…側板、42…レール、44…ネジ棒、46…キャリッジ駆動モータ、48…連結部材、50…軸受部、52…ブラケット、60L、60R…載置台、66…板バネ、78L、78R…ガイドレール、84…昇降駆動機構、100…メンテナンスユニット、110…キャリッジロック装置、112…電磁石、114…磁性体ブラケット、116…電磁石取付板、118…キャッチプレート、120…ラインヘッドロック機構、122…押圧ローラ、124…カム、124A…傾斜部、124B…平坦部、126…軸受、351,352,353…ヘッドモジュール、400…インクジェット記録装置、424…記録媒体、470…描画ドラム、472M,472K,472C,472Y…インクジェットヘッド(液体吐出ヘッド)、550…インクジェットヘッド、550’,550”…ヘッドモジュール、551…ノズル
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルが二次元配列された吐出面を有する液体吐出ヘッド、又は液滴を吐出する複数のノズルを備えた複数個のヘッドモジュールが千鳥状に配置された液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドの前記ノズルから吐出された液滴を付着させる記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段を支持する本体フレームと、
前記本体フレームに対して前記液体吐出ヘッドを移動可能に支持するヘッド移動手段と、
前記移動可能な前記液体吐出ヘッドを前記記録媒体への液滴吐出位置で前記本体フレームに固定するヘッド固定手段と、
を備え、
前記ヘッド固定手段は、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送方向に対して直交する前記記録媒体の幅方向に前記液体吐出ヘッドを付勢するヘッド固定用の与圧付与手段を有し、
前記ヘッド固定用の与圧付与手段のばね定数と前記液体吐出ヘッドの質量から規定される共振周波数が、前記液体吐出ヘッドのノズル配列における前記搬送方向のノズル間距離のうち、前記記録媒体上の前記幅方向に隣接するドットを形成するノズル並びの繋ぎ部に該当するノズル対の前記搬送方向の空間距離と、前記記録媒体の搬送時における前記搬送手段と前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の相対振動周波数と、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送速度と、に依存する振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に接近させた前記液滴吐出位置と、当該液滴吐出位置よりも前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段から遠ざけた退避位置とに前記液体吐出ヘッドを移動させる昇降手段と、
前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記搬送手段に対する接近動作に連動して前記液体吐出ヘッドを前記幅方向に押し、前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記液滴吐出位置からの退避動作に連動して前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の押し付けを解除するカム機構と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記カム機構は、前記液体吐出ヘッドの側面部に設けられた傾斜カム面と、
前記本体フレームに設けられ、前記傾斜カム面に当接して従動回転する回転体と、を含んで構成されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記搬送手段としてドラム又はローラが用いられ、
当該ドラム又はローラの軸方向に与圧を付与して当該ドラム又はローラを前記本体フレームに固定する搬送部固定手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記搬送部固定手段は、前記本体フレームに対して前記ドラム又はローラを前記軸方向に付勢する搬送部固定用の与圧付与手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記搬送部固定用の与圧付与手段のばね定数と前記ドラム又はローラの質量から規定される共振周波数が、前記振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、
前記ヘッド移動手段は、
前記本体フレームに移動可能に設けられたキャリッジと、
前記キャリッジに設けられ、前記液体吐出ヘッドが載置される載置台と、
前記本体フレームに架設されたガイドレールと、を含んで構成され、
前記キャリッジは、前記ガイドレールにガイドされて、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に対面させる第1位置と、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段による前記記録媒体の搬送領域外の第2位置との間を移動可能に設けられ、
前記キャリッジを前記第1位置で前記本体フレームに固定するキャリッジ固定手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記キャリッジ固定手段として、電磁石と、該電磁石に磁着される被固定部材と、が用いられ、
前記電磁石及び前記被固定部材のうち、一方が前記本体フレームに設けられ、他方が前記キャリッジに設けられることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項7又は8において、
前記第2位置に前記液体吐出ヘッドをメンテナンスするメンテナンス手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項において、
前記液体吐出ヘッドは、前記記録媒体の前記幅方向に長いラインヘッドであり、
前記液体吐出ヘッドに対して前記記録媒体を前記搬送方向へ1回だけ相対移動させて当該記録媒体上に画像を形成するシングルパス方式の描画が行われることを特徴とする画像形成装置。
【請求項1】
液滴を吐出する複数のノズルが二次元配列された吐出面を有する液体吐出ヘッド、又は液滴を吐出する複数のノズルを備えた複数個のヘッドモジュールが千鳥状に配置された液体吐出ヘッドと、
前記液体吐出ヘッドの前記ノズルから吐出された液滴を付着させる記録媒体を搬送する搬送手段と、
前記搬送手段を支持する本体フレームと、
前記本体フレームに対して前記液体吐出ヘッドを移動可能に支持するヘッド移動手段と、
前記移動可能な前記液体吐出ヘッドを前記記録媒体への液滴吐出位置で前記本体フレームに固定するヘッド固定手段と、
を備え、
前記ヘッド固定手段は、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送方向に対して直交する前記記録媒体の幅方向に前記液体吐出ヘッドを付勢するヘッド固定用の与圧付与手段を有し、
前記ヘッド固定用の与圧付与手段のばね定数と前記液体吐出ヘッドの質量から規定される共振周波数が、前記液体吐出ヘッドのノズル配列における前記搬送方向のノズル間距離のうち、前記記録媒体上の前記幅方向に隣接するドットを形成するノズル並びの繋ぎ部に該当するノズル対の前記搬送方向の空間距離と、前記記録媒体の搬送時における前記搬送手段と前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の相対振動周波数と、前記搬送手段による前記記録媒体の搬送速度と、に依存する振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
請求項1において、
前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に接近させた前記液滴吐出位置と、当該液滴吐出位置よりも前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段から遠ざけた退避位置とに前記液体吐出ヘッドを移動させる昇降手段と、
前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記搬送手段に対する接近動作に連動して前記液体吐出ヘッドを前記幅方向に押し、前記昇降手段による前記液体吐出ヘッドの前記液滴吐出位置からの退避動作に連動して前記液体吐出ヘッドの前記幅方向の押し付けを解除するカム機構と、
を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記カム機構は、前記液体吐出ヘッドの側面部に設けられた傾斜カム面と、
前記本体フレームに設けられ、前記傾斜カム面に当接して従動回転する回転体と、を含んで構成されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1項において、
前記搬送手段としてドラム又はローラが用いられ、
当該ドラム又はローラの軸方向に与圧を付与して当該ドラム又はローラを前記本体フレームに固定する搬送部固定手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項5】
請求項4において、
前記搬送部固定手段は、前記本体フレームに対して前記ドラム又はローラを前記軸方向に付勢する搬送部固定用の与圧付与手段を有することを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
請求項5において、
前記搬送部固定用の与圧付与手段のばね定数と前記ドラム又はローラの質量から規定される共振周波数が、前記振動ピッチの周波数成分と異なるように構成されることを特徴とする画像形成装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項において、
前記ヘッド移動手段は、
前記本体フレームに移動可能に設けられたキャリッジと、
前記キャリッジに設けられ、前記液体吐出ヘッドが載置される載置台と、
前記本体フレームに架設されたガイドレールと、を含んで構成され、
前記キャリッジは、前記ガイドレールにガイドされて、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段に対面させる第1位置と、前記液体吐出ヘッドを前記搬送手段による前記記録媒体の搬送領域外の第2位置との間を移動可能に設けられ、
前記キャリッジを前記第1位置で前記本体フレームに固定するキャリッジ固定手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項8】
請求項7において、
前記キャリッジ固定手段として、電磁石と、該電磁石に磁着される被固定部材と、が用いられ、
前記電磁石及び前記被固定部材のうち、一方が前記本体フレームに設けられ、他方が前記キャリッジに設けられることを特徴とする画像形成装置。
【請求項9】
請求項7又は8において、
前記第2位置に前記液体吐出ヘッドをメンテナンスするメンテナンス手段を備えることを特徴とする画像形成装置。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか1項において、
前記液体吐出ヘッドは、前記記録媒体の前記幅方向に長いラインヘッドであり、
前記液体吐出ヘッドに対して前記記録媒体を前記搬送方向へ1回だけ相対移動させて当該記録媒体上に画像を形成するシングルパス方式の描画が行われることを特徴とする画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−71473(P2012−71473A)
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217384(P2010−217384)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】
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