画像形成装置
【課題】 測色用画像の色度が温度によって変化するというサーモクロミズム現象の影響を抑制し、測色用画像の色度を精度良く検出すること。
【解決手段】 画像形成装置100は、カラーセンサ200から出力された分光反射率から濃度値に変換する濃度変換部324と、カラーセンサ200から出力された分光反射率を色度値に変換するLab演算部303とを有する。濃度変換部324により濃度値を演算する場合はサーモクロミズムによる影響を補正せず、Lab演算部303により色度値を演算する場合はサーモクロミズムによる影響を補正する。
【解決手段】 画像形成装置100は、カラーセンサ200から出力された分光反射率から濃度値に変換する濃度変換部324と、カラーセンサ200から出力された分光反射率を色度値に変換するLab演算部303とを有する。濃度変換部324により濃度値を演算する場合はサーモクロミズムによる影響を補正せず、Lab演算部303により色度値を演算する場合はサーモクロミズムによる影響を補正する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測色機能を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の画像品質(以下画質と呼ぶ)には、粒状性、面内一様性、文字品位、色再現性(色安定性を含む)などがある。多色画像形成装置が普及した今日においては、最も重要な画質は色再現性であると言われることもある。
【0003】
人間は経験に基づいた期待する色(特に人肌、青空、金属など)についての記憶があり、その許容範囲を超えると違和感を覚えてしまう。これらの色は記憶色と呼ばれ、写真などを出力する際にその再現性を問われることが多くなった。
【0004】
写真画像に限らず、文書画像においても、モニタとの色の差に違和感を覚えてしまうオフィスユーザ層、CG画像の色再現性を追求するグラフィックアーツユーザ層など、画像形成装置に対する色再現性(安定性を含む)の要求度が増している。
【0005】
そこで、ユーザの色再現性の要求を満たすべく、記録紙の搬送経路に設けられたカラーセンサによって、記録紙上に形成された測定用画像(パッチ画像)を読み取る画像形成装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この画像形成装置は、測定用画像をトナーで記録紙に形成し、カラーセンサによる測定用画像の読取結果に基づいて、露光量や現像バイアスなどのプロセス条件にフィードバックをかけることで、一定の濃度、階調性、色味を再現することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−086013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の発明では、定着装置の近傍の搬送経路にカラーセンサが配置されているため、測定対象である測定用画像の色度が温度によって変化するという「サーモクロミズム」という現象が問題になる。これは、トナーやインク等の色材を形成する分子構造が、「熱」によって変化する等によって引き起こされる現象である。
【0009】
ここで、画像形成装置の内部で測定用画像を測色するためには、色材が記録紙に載せられた後で且つ混色が完了した状態である必要がある。色材にインクを用いる画像形成装置においては乾燥装置によって加熱乾燥した後で測色する必要がある。色材にトナーを用いる画像形成装置では定着装置によってトナーを加熱溶融して混色した後で測色する必要がある。したがって、カラーセンサは乾燥装置や定着装置よりも記録紙の搬送方向で下流側に配置される必要がある。
【0010】
一方で、画像形成装置をコンパクトに構成するためには乾燥装置や定着装置からカラーセンサまでの搬送経路の長さは必要最小限にとどめられる必要がある。よって乾燥装置や定着装置によって加熱された記録紙および色材は、常温まで冷却されることなく、カラーセンサへと搬送されてしまう。また、記録紙の搬送ガイド等、画像形成装置内部の部材や内部の雰囲気の昇温によっても記録紙の温度は常温よりも高温になってしまう。
【0011】
このように、内部にカラーセンサを備えた画像形成装置では、サーモクロミズムの影響を受けて通常環境下(常温環境下)における色度とは異なる測色結果が得られてしまうことがある。
【0012】
そこで、本発明は、サーモクロミズムの影響により色度が変動してしまった場合であっても、測定用画像の色度を精度良く補正することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る画像形成装置は、色材によって記録紙に複数の測定用画像を形成する像形成手段と、前記複数の測定用画像を加熱して前記記録紙に定着させる定着手段と、前記記録紙の搬送方向において前記定着手段よりも下流で前記記録紙に定着した画像を測色して分光反射率を出力する測色手段と、前記測色手段から出力された前記分光反射率から濃度値を演算する第1の演算手段と、前記測色手段から出力された前記分光反射率から色度値を演算する第2の演算手段と、前記測色手段が前記記録紙の測色を行う際の前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正する補正手段と、を有し、前記補正手段は、前記第1の演算手段により濃度値を演算する場合は前記補正を行わず、前記第2の演算手段により色度値を演算する場合は前記補正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サーモクロミズムの影響により色度が変動してしまった場合であっても、測定用画像の色度を精度良く補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】画像形成装置100の構造を示す断面図である。
【図2】カラーセンサ200の構造を示す図である。
【図3】画像形成装置100のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】カラーマネージメント環境の概略図である。
【図5】色材毎の色度変化の傾向を示す図である。
【図6】色材毎の濃度変化の傾向を示す図である。
【図7】カラーセンサ200でマゼンタのパッチ画像を測色したときの、各温度における分光反射率データである。
【図8】濃度演算処理に使用するフィルタ感度特性を示す図である。
【図9】画像形成装置100の動作を示すフローチャートである。
【図10】最大濃度調整の動作を示すフローチャートである。
【図11】階調調整の動作を示すフローチャートである。
【図12】多次色補正処理の動作を示すフローチャートである。
【図13】ダイレクトマッピングによる変換テーブルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(画像形成装置)
本実施形態では電子写真方式のレーザビームプリンタを用いて上記課題の解決方法を説明する。ここでは、一例として、画像形成方式として電子写真方式を採用する。しかし、本発明は、インクジェット方式や昇華方式にも適用できる。これは、本発明が、測定対象物の色度が温度によって変化するというサーモクロミズム現象が発生しうる画像形成装置において有効な発明だからである。なお、インクジェット方式では、インクを吐出して記録紙に画像を形成する画像形成手段やインクを乾燥させる定着手段(乾燥手段)が使用される。
【0017】
図1は、画像形成装置100の構造を示す断面図である。画像形成装置100は、筐体101を備える。筐体101には、エンジン部を構成するための各機構と、制御ボード収納部104とが設けられている。制御ボード収納部104には、各機構による各印刷プロセス処理(例えば、給紙処理など)に関する制御を行なうエンジン制御部102と、プリンタコントローラ103が収納されている。
【0018】
図1が示すように、エンジン部にはYMCKに対応した4つのステーション120、121、122、124が設けられている。ステーション120、121、122、124は、トナーを記録紙110に転写して画像を形成する像形成手段である。ここで、YMCKは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの略称である。各ステーションは、ほぼ共通の部品により構成されている。感光ドラム105は、像担持体の一種であり、一次帯電器111により一様の表面電位に帯電する。感光ドラム105は、レーザ108が出力するレーザ光によって、潜像が形成される。現像器112は、色材(トナー)を用いて潜像を現像してトナー像を形成する。トナー像(可視像)は、中間転写体106上に転写される。中間転写体106上に形成された可視像は、収納庫113から搬送されてきた記録紙110に対して、転写ローラ114により転写される。
【0019】
本実施形態の定着処理機構は、記録紙110に転写されたトナー像を加熱および加圧して記録紙110に定着させる第一定着器150および第二定着器160を有している。第一定着器150には、記録紙110に熱を加えるための定着ローラ151、記録紙110を定着ローラ151に圧接させるための加圧ベルト152、定着完了を検知する第一定着後センサ153を含む。これらローラは中空ローラであり、内部にそれぞれヒータを有している。
【0020】
第二定着器160は、第一定着器150よりも記録紙110の搬送方向で下流に配置されている。第二定着器160は、第一定着器150により定着した記録紙110上のトナー像に対してグロス(光沢)を付与したり、定着性を確保したりする。第二定着器160も、第一定着器150と同様に定着ローラ161、加圧ローラ162、第二定着後センサ163を有している。記録紙110の種類によっては第二定着器160を通す必要がない。この場合、エネルギー消費量低減の目的で第二定着器160を経由せずに記録紙110は搬送経路130を通過する。
【0021】
例えば、記録紙110上の画像にグロスを多く付加する設定がされた場合や、記録紙110が厚紙のように定着に多くの熱量を必要とする場合は、第一定着器150を通過した記録紙110は、第二定着器160にも搬送される。一方、記録紙110が普通紙や薄紙の場合であって、グロスを多く付加する設定がされていない場合は、記録紙110は、第二定着器160を迂回する搬送経路130を搬送される。第二定着器160に記録紙110を搬送するか、第二定着器160を迂回して記録紙110を搬送するかは、フラッパ131の切り替えにより制御される。
【0022】
搬送経路切り替えフラッパ132は、記録紙110を搬送経路135へと誘導するか、外部への搬送経路139に誘導する誘導部材である。記録紙110の搬送方向において第二定着器160よりも下流には、記録紙110上の測定用画像(以下、パッチ画像と称す)を検知するカラーセンサ200及び温度センサ208が配置されている。カラーセンサ200は、記録紙110の搬送方向に直交する方向に4つ並べて配置されており、4列のパッチ画像を検知できる。操作部180からの指示により色検出が指示されると、エンジン制御部102は濃度調整、階調調整、多次色調整などを実行する。温度検出手段としての温度センサ208は、記録紙110の温度を検出するためのセンサである。
【0023】
搬送経路135には、反転センサ137が設けられている。カラーセンサ200で測色された記録紙110の先端は、反転センサ137を通過し、反転部136へ搬送される。反転センサ137が記録紙110の後端を検出すると、記録紙110の搬送方向が切り替えられる。搬送経路切り替えフラッパ133は、記録紙110を両面画像形成用の搬送経路138へと誘導するか、搬送経路135に誘導する誘導部材である。搬送経路切り替えフラッパ134は、記録紙110を外部への搬送経路139に誘導する誘導部材である。搬送経路139を搬送された記録紙110は、画像形成装置100の外部へと排出される。
【0024】
(カラーセンサ)
図2は、カラーセンサ200の構造を示す図である。カラーセンサ200の内部には、白色LED201、回折格子202、ラインセンサ203、演算部204、及びメモリ205が設けられている。白色LED201は、記録紙110上のパッチ画像220に光を照射する発光素子である。回折格子202はパッチ画像220から反射した光を波長ごとに分光する。ラインセンサ203は、回折格子202により波長ごとに分解された光を検出するn個の受光素子を備えた光検出素子である。演算部204は、ラインセンサ203により検出された各画素の光強度値から各種の演算を行う。
【0025】
メモリ205は、演算部204が使用する各種のデータを保存する。演算部204は、例えば、光強度値から分光演算する分光演算部やLab値を演算するLab演算部などを有する。また、白色LED201から照射された光を記録紙110上のパッチ画像220に集光したり、パッチ画像220から反射した光を回折格子202に集光したりするレンズ206がさらに設けられてもよい。
【0026】
図3は、画像形成装置100のシステム構成を示すブロック図である。この図を用いて、最大濃度調整、階調調整、及び多次色補正処理について説明する。
【0027】
(最大濃度調整)
まず、プリンタコントローラ103は、最大濃度調整に用いるテストチャートを出力するよう、エンジン制御部102に指示を出す。このとき、予め設定された又は前回の最大濃度調整時において設定された帯電電位、露光強度、及び現像バイアスで、記録紙110に最大濃度調整用のパッチ画像が形成される。最大濃度調整用のパッチ画像は、CMYKの色毎に形成される。その後、エンジン制御部102は、カラーセンサ制御部302に対してパッチ画像の測色の指示を出す。
【0028】
カラーセンサ200にてパッチ画像の測色が行われると、測色された結果は、分光反射率データとして濃度変換部324に送られる。濃度変換部324は、分光反射率データをCMYKの濃度データに変換し、変換した濃度データを最大濃度補正部320に送る。
【0029】
最大濃度補正部320は、出力される画像の最大濃度が所望の値となるように、帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を算出し、算出した補正量をエンジン制御部102へと送信する。エンジン制御部102は、次回以降の画像形成動作に、送信された帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を用いる。以上の動作によって、出力される画像の最大濃度が調整される。
【0030】
(階調調整)
最大濃度調整の処理が終わると、プリンタコントローラ103は、記録紙110上に16階調のパッチ画像を形成するようにエンジン制御部102に指示を出す。なお、16階調のパッチ画像の画像信号としては、例えば00H、10H、20H、30H、40H、50H、60H、70H、80H、90H、A0H、B0H、C0H、D0H、E0H、FFHとすればよい。
【0031】
このとき、最大濃度調整で算出された帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を用いて、記録紙110に16階調のパッチ画像が形成される。16階調のパッチ画像は、CMYKの色毎に形成される。記録紙110に16階調のパッチ画像が形成されると、エンジン制御部102は、カラーセンサ制御部302に対してパッチ画像の測色の指示を出す。
【0032】
カラーセンサ200にてパッチ画像の測色が行われると、測色された結果は、分光反射率データとして濃度変換部324に送られる。濃度変換部324は、分光反射率データをCMYKの濃度データに変換し、変換した濃度データを濃度階調補正部321に送る。濃度階調補正部321は、所望の階調性が得られるように露光量の補正量を算出する。そして、LUT作成部322は単色階調LUTを作成し、各色CMYKの信号値としてLUT部323へ送る。
【0033】
(プロファイル)
多次色補正処理を行うにあたり、画像形成装置100は、多次色を含むパッチ画像の検出結果からプロファイルを作成し、そのプロファイルを用いて入力画像を変換して出力画像を形成する。
【0034】
ここで、多次色を含むパッチ画像は、CMYKの4色それぞれについて網点面積率を3段階(0%、50%、100%)に変化させ、色毎の網点面積率の全ての組み合わせのパッチ画像を形成する。つまり、パッチ画像の網点面積率を(C,M,Y,K)で表すと、1番目(0%、0%、0%、0%)、2番目(50%、0%、0%、0%)、3番目(50%、50%、0%、0%)・・・81番目(100%、100%、100%、100%)となる。このように、全部で81パターン(3の4乗)のパッチ画像が形成される。
【0035】
優れた色再現性を実現するプロファイルとして、ここでは近年市場で受け入れられているICCプロファイルを用いることとする。ただし、本発明は、ICCプロファイルでなければ適用できない発明ではない。本発明は、Adobe社が提唱したPostScriptのレベル2から採用されているCRD(Color Rendering Dictionary)やPhotoshop内の色分解テーブルなどにも適用できる。
【0036】
カスタマエンジニアによる部品交換時や、カラーマッチング精度が要求されるジョブの前、さらには、デザイン構想段階などで最終出力物の色味が知りたい時などに、ユーザは操作部180を操作してカラープロファイルの作成処理を指示する。
【0037】
プロファイルの作成処理は、プリンタコントローラ103において行われる。プリンタコントローラ103はCPUを有し、後述するフローチャートを実行するためのプログラムを記憶部350から読み出して実行する。なお、図3では、プリンタコントローラ103により行われる処理を分かり易くするために、プリンタコントローラ103内をブロックで表現している。
【0038】
操作部180がプロファイル作成指示を受け付けると、プロファイル作成部301は、ISO12642テストフォームであるCMYKカラーチャート210を、プロファイルを介さずにエンジン制御部102に出力する。プロファイル作成部301は、カラーセンサ制御部302に測色指示を送る。エンジン制御部102は、画像形成装置100を制御して帯電、露光、現像、転写、定着といったプロセスを実行させる。これにより、記録紙110にはISO12642テストフォームが形成される。
【0039】
カラーセンサ制御部302はカラーセンサ200を制御して、ISO12642テストフォームを測色させる。カラーセンサ200は、測色結果である分光反射率データをプリンタコントローラ103のLab演算部303に出力する。Lab演算部303は、分光反射率データをL*a*b*データに変換して、Lab温度補正部325に出力する。Lab温度補正部325は、Lab演算部303から受け取ったL*a*b*データを温度センサ208の検出結果に応じて補正し、補正されたL*a*b*データをプロファイル作成部301に出力する。なお、Lab演算部303は、機器に依存しない色空間信号であるCIE1931XYZ表色系へ分光反射率データを変換してもよい。
【0040】
プロファイル作成部301は、エンジン制御部102に出力したCMYK色信号と、Lab演算部303から入力されたL*a*b*データとの関係から出力ICCプロファイルを作成する。プロファイル作成部301は、出力ICCプロファイル格納部305に格納されている出力ICCプロファイルに代えて、作成した出力ICCプロファイルを格納する。
【0041】
ISO12642テストフォームは一般的な複写機が出力可能な色再現域を網羅するCMYK色信号のパッチを含んでいる。よって、プロファイル作成部301は、それぞれの色信号値と測色したL*a*b*値との関係から色変換表を作成する。つまりCMYK→Labの変換表が作成される。この変換表をもとにして、逆変換表が作成される。
【0042】
プロファイル作成部301は、ホストコンピュータからI/F308を通じてプロファイル作成命令を受け付けると、作成した出力ICCプロファイルをI/F308を通じてホストコンピュータに出力する。ホストコンピュータは、ICCプロファイルに対応した色変換をアプリケーションプログラムで実行することができる。
【0043】
(色変換処理)
通常のカラー出力における色変換においては、スキャナ部からI/F308を介して入力されたRGB信号値やJapanColorなどの標準印刷CMYK信号値を想定して入力された画像信号は、外部入力用の入力ICCプロファイル格納部307に送られる。入力ICCプロファイル格納部307は、I/F308から入力された画像信号に応じて、RGB→L*a*b*あるいはCMYK→L*a*b*変換を実行する。入力ICCプロファイル格納部307に格納されている入力ICCプロファイルは、複数のLUT(ルックアップテーブル)により構成されている。
【0044】
これらのLUTは、たとえば、入力信号のガンマをコントロールする1次元LUT、ダイレクトマッピングといわれる多次色LUT、生成された変換データのガンマをコントロールする1次元LUTである。入力された画像信号は、これらのLUTを用いてデバイスに依存した色空間からデバイスに依存しないL*a*b*データに変換される。
【0045】
L*a*b*色度座標に変換された画像信号はCMM306に入力される。CMMはカラーマネージメントモジュールの略語である。CMM306は、各種の色変換を実行する。たとえば、CMM306は、入力機器としてのスキャナ部などの読取色空間と、出力機器としての画像形成装置100の出力色再現範囲のミスマッチをマッピングするGUMAT変換を実行する。また、CMM306は、入力時の光源種と出力物を観察するときの光源種のミスマッチ(色温度設定のミスマッチとも言う)を調整する色変換を実行する。
【0046】
このようにしてCMM306は、L*a*b*データをL’*a’*b’*データへ変換し、出力ICCプロファイル格納部305に出力する。測色によって作成されたプロファイルが出力ICCプロファイル格納部305に格納されている。よって、出力ICCプロファイル格納部305は、新たに作成したICCプロファイルによってL’*a’*b’*データを色変換し、出力機器に依存したCMYK信号へと変換する。
【0047】
LUT部323は、後述するLUT作成部322により設定されたLUTを用いてCMYK信号の階調を補正する。階調が補正されたCMYK信号は、エンジン制御部102へ出力される。
【0048】
図3で、CMM306は、入力ICCプロファイル格納部307と出力ICCプロファイル格納部305と分離されている。しかし、図4が示すようにCMM306はカラーマネージメントを司るモジュールのことであり、入力プロファイル(印刷ICCプロファイル501)と出力プロファイル(プリンタICCプロファイル502)を使って色変換を行うモジュールである。
【0049】
(サーモクロミズムの色特性)
次に、色毎のサーモクロミズム特性について説明する。トナーやインク等の色材を形成する分子構造が熱によって変化することで、光の反射吸収特性が変化して色度が変化する。実験を行って検証した結果、図5のように色材毎に色度変化の傾向が異なることが分かった。この図の横軸はパッチ画像の温度を示し、縦軸は15℃を基準としたときの色度変化ΔEを示している。
【0050】
なお、ΔEとは、CIEが定めるL*a*b*色空間内の2点間(L1,a1,b1),(L2,a2,b2)における、次式の三次元距離で表すことができる。
【0051】
【数1】
【0052】
図5において、C:シアン100%、M:マゼンタ100%、Y:イエロー100%、K:ブラック100%、W:紙白である。この図に示されるように、マゼンタの色度変化が特に大きい。パッチ画像の温度が高くなる程パッチ画像の色度変化が大きくなり、作成するICCプロファイルに誤差を生じてしまう。
【0053】
カラーマッチング精度や色の安定性についての指標として、ISO 12647−7記載のカラーマッチング精度規格(IT8.7/4(ISO 12642:1617パッチ)[4.2.2])において、ΔE平均で4.0と規定されている。また、安定性の規格である再現性[4.2.3]では、各パッチのΔE≦1.5であることが規定されている。この条件を満足するためには、カラーセンサ200の検出精度はΔE≦1.0であることが望ましい。
【0054】
(温度と濃度値との関係)
上述したように、色度値(Lab値)は温度に対して変化する。一方、本出願人が検討した結果、濃度値は温度が変化してもほとんど変化せず、温度に対して相関がないことが判明した。その結果を図6に示す。
【0055】
温度が変化すると、色度値は変化するものの濃度値は変化しないという現象は、分光反射率の変化する領域、及び色度値、濃度値へ演算するときの演算方法の違いから説明することができる。この点について、温度変化に対する色度変化ΔEの大きいマゼンタ(M)を例に挙げて説明する。
【0056】
図7は、カラーセンサ200でマゼンタのパッチ画像を測色したときの、各温度における分光反射率データである。図7(a)が400〜700nmの全波長領域、図7(b)が550〜650nmの波長領域についての拡大図、図7(c)が500〜580nmの波長領域についての拡大図である。
【0057】
図5に示されるように、パッチ画像の温度が15℃から60℃に変化した場合、マゼンタは色度変化ΔEが約2.0となるが、この色度変化ΔEは分光反射率が変化するためである。図7(b)から、パッチ画像の温度変化によって分光反射率が変化することがわかる。これは、Lab演算部303が全波長領域に対する分光反射率を用いて色度を算出するため、分光反射率の変化によって色度値が変化するためである。
【0058】
一方、図6に示されるように、パッチ画像の温度が15℃から60℃に変化しても、濃度はほとんど変化しない。これは、濃度変換部324が特定の波長領域に対する分光反射率を用いて濃度を算出するためである。図7(a)では分光反射率の変化が分かりにくいが、550〜650nmの波長領域を拡大した図7(b)から、パッチ画像の温度変化によって分光反射率が変化することがわかる。これは、Lab演算部303が全波長領域に対する分光反射率を用いて色度を算出するため、分光反射率の変化によって色度値が変化するためである。
【0059】
一方、図6に示されるように、パッチ画像の温度が15℃から60℃の範囲で変化しても、濃度はほとんど変化しない。これは、濃度変換部324が特定の波長領域に対する分光反射率を用いて濃度を算出するためである。具体的には、濃度変換部324は、シアン、マゼンタ、及びイエローについては、図8(a)に示されるフィルタを用いて分光反射率データを濃度データに変換する。この図の横軸は波長を表し、縦軸は%を表す。また、濃度変換部324は、ブラックについては、図8(b)のような視覚度分光特性を用いて分光反射率データを濃度データに変換する。
【0060】
図7(c)における波長領域においては、分光反射率の変化がほとんどないことが分かる。図7(c)の領域は、図8(a)で示した横軸の波長領域の中で、グリーンの感度特性を持つ領域であり、マゼンタについては補色であるグリーンの感度特性を用いて濃度値が算出される。したがって、この領域においては、温度が変化してもほとんど分光反射率の変化がないために、濃度値の変化もほとんどない。
【0061】
以上のように、温度変化によりパッチ画像の色度が変化する一方、温度変化によりパッチ画像の濃度はほとんど変化しない。そこで、本実施形態では、多次色補正時(ICCプロファイル作成時)には、色度変化を補正するために温度センサ208の検出結果に応じてカラーセンサ200による測色結果を補正する。しかし、最大濃度調整時や階調調整時には、カラーセンサ200による測色結果を補正しないようにする。
【0062】
(サーモクロミズム対応技術)
図9は、画像形成装置100の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。まず、プリンタコントローラ103は、操作部180から画像形成要求があるかどうか、また、ホストコンピュータからI/F308を通じて画像形成要求があるかどうかを判断する(S901)。
【0063】
画像形成要求がない場合は、プリンタコントローラ103は、操作部180から多次色補正指示があるかどうかを判断する(S902)。多次色補正指示があった場合は、図10で後述する最大濃度調整を行い(S903)、図11で後述する階調調整を行う(S904)。その後、図12で後述する多次色補正処理を行う(S905)。ステップS902において、多次色補正指示がない場合は、前述のステップS901に戻る。このように、多次色補正処理を行う前に最大濃度調整と階調調整を行っているのは、多次色補正処理を高精度に行うためである。
【0064】
ステップS901において、画像形成要求があると判断された場合は、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S906)、記録紙110にトナー画像を形成する(S907)。そして、プリンタコントローラ103は、全ページの画像形成が終了したかどうかを判断する(S908)。全ページの画像形成が終了した場合はステップS901に戻り、終了していない場合はステップS906に戻り、次のページの画像形成を行う。
【0065】
図10は、最大濃度調整の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。なお、画像形成装置100の制御は、プリンタコントローラ103からの指示によりエンジン制御部102により実行される。
【0066】
まず、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S1001)、記録紙110に最大濃度調整用のパッチ画像を形成する(S1002)。次に、プリンタコントローラ103は、記録紙110がカラーセンサ200に到達すると、カラーセンサ200にパッチ画像を測定させる(S1003)。
【0067】
そして、プリンタコントローラ103は、濃度変換部324を用いて、カラーセンサ200から出力された分光反射率データをCMYKの濃度データに変換させる(S1004)。その後、プリンタコントローラ103は、変換された濃度データに基づいて帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を算出する(S1005)。ここで算出された補正量は、記憶部350に格納されて使用される。
【0068】
図11は、階調調整の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。なお、画像形成装置100の制御は、プリンタコントローラ103からの指示によりエンジン制御部102により実行される。
【0069】
まず、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S1101)、記録紙110に階調調整用のパッチ画像(16階調)を形成する(S1102)。次に、プリンタコントローラ103は、記録紙110がカラーセンサ200に到達すると、カラーセンサ200にパッチ画像を測定させる(S1103)。
【0070】
そして、プリンタコントローラ103は、濃度変換部324を用いて、カラーセンサ200から出力された分光反射率データをCMYKの濃度データに変換させる(S1104)。その後、プリンタコントローラ103は、変換された濃度データに基づいて露光強度の補正量を算出し、階調を補正するためのLUTを作成する(S1105)。ここで算出されたLUTは、LUT部323に設定されて使用される。
【0071】
図12は、多次色補正処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。まず、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S1201)、記録紙110にパッチ画像を形成する(S1202)。次に、プリンタコントローラ103は、記録紙110がカラーセンサ200に到達すると、カラーセンサ200にパッチ画像を測定させる(S1203)。ここで、カラーセンサ200は、パッチ画像の分光反射率データをプリンタコントローラ103に出力する。
【0072】
次に、プリンタコントローラ103は、分光反射率データを色度データ(L*a*b*)に変換する(S1204)。その後、プリンタコントローラ103は、温度センサ208に記録紙110の温度Tを検出させる(S1205)。そして、プリンタコントローラ103は、ステップS1204で変換した色度データ(L*a*b*)と、ステップS1205で検出した記録紙110の温度Tとを用いて、常温環境下における色度データ(L*a*b*)を算出する(S1206)。詳しい算出方法については図13で後述する。
【0073】
次に、プリンタコントローラ103は、ステップS1206で算出した色度データ(L*a*b*)に基づき、前述の処理によりICCプロファイルを作成し(S1207)、出力ICCプロファイル格納部305に格納する(S1208)。その後、前述のステップS901に戻る。
【0074】
図13(a)は、60℃から25℃(常温環境)への、ダイレクトマッピングによる色度データの変換テーブルを説明するための図である。図13(b)は、温度範囲毎の変換テーブルを示す図である。これらの図を用いて、ステップS706における処理を具体的に説明する。
【0075】
定着器を通過した直後の記録紙110は、定着器から与えられた熱によって温度が高い状態にある。この状態で、Lab演算部303は、カラーセンサ200によりパッチ画像を検出した結果から色度データ(L*a*b*)を演算する。
【0076】
仮に、カラーセンサ200によりパッチ画像が検出されたときの記録紙110の温度が60℃だったとする。この場合、60℃においてLab演算部303で演算された色度データ(L*a*b*)は、常温環境である25℃の状態における色度データ(L*a*b*)に対して誤差を有することになる。
【0077】
したがって、Lab温度補正部325は、温度センサ208の検出温度Tを用いて色度データ(L*a*b*)を補正し、常温環境下における色度データを演算する。具体的には、Lab温度補正部325は、図13(a)に示すような60℃におけるLab色空間から常温環境下(25℃)におけるLab色空間に変換するダイレクトマッピングによる変換テーブルを用いて、色度データ(L*a*b*)を補正する。
【0078】
なお、変換テーブルは、図13(b)に示すように、温度センサ208の検出温度Tの範囲毎に実験により求めておく。なお、図13(a)に示される変換テーブルは、AT=60である。これらの変換テーブルは、記憶部350内に保存されている。Lab温度補正部325は、温度センサ208の検出結果に応じて、検出温度Tに対応する変換テーブルを読み出して補正に用いる。
【0079】
本実施形態では、ダイレクトマッピングによる変換方法を説明したが、この変換方法に限らない。例えば、一般的な色空間の補正方法として用いられる変換行列などによる演算を用いてもよい。
【0080】
また、本実施形態のステップS1205では、温度センサ208により記録紙110の温度を検出するようにしたが、画像形成装置100に温度センサ208を設けず、画像形成動作を行う際の様々な条件から温度を算出するようにしてもよい。
【0081】
具体的には、操作部180から入力される記録紙110の紙種や定着モード等に基づいて、プリンタコントローラ103は色検出時の記録紙110の温度を算出する。定着モードとは、第一定着器150のみを用いる通常モードと、第一定着器150および第二定着器160の両方を使用するグロスモードを含む。ここで、プリンタコントローラ103は、予め設定された温度算出テーブルを参照して温度を算出する。温度算出テーブルは表1に示され、予め記憶部350内に保存されている。
【0082】
【表1】
【0083】
Lab温度補正部325は、記録紙110の温度の算出結果に基づいて、サーモクロミズムの影響を低減するように色度データ(L*a*b*)を補正すればよい。
【0084】
以上で説明したように、本実施形態によれば、パッチ画像の色度が温度によって変化するというサーモクロミズム現象の影響を抑制し、パッチ画像の色度を精度良く検出することができる。
【符号の説明】
【0085】
100 画像形成装置
103 プリンタコントローラ(温度算出手段)
110 記録紙
150 第一定着器(定着手段)
160 第二定着器(定着手段)
200 カラーセンサ(測色手段)
208 温度センサ(温度検出手段)
303 Lab演算部(第2の演算手段)
324 濃度変換部(第1の演算手段)
325 Lab温度補正部(補正手段)
【技術分野】
【0001】
本発明は、測色機能を備えた画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
画像形成装置の画像品質(以下画質と呼ぶ)には、粒状性、面内一様性、文字品位、色再現性(色安定性を含む)などがある。多色画像形成装置が普及した今日においては、最も重要な画質は色再現性であると言われることもある。
【0003】
人間は経験に基づいた期待する色(特に人肌、青空、金属など)についての記憶があり、その許容範囲を超えると違和感を覚えてしまう。これらの色は記憶色と呼ばれ、写真などを出力する際にその再現性を問われることが多くなった。
【0004】
写真画像に限らず、文書画像においても、モニタとの色の差に違和感を覚えてしまうオフィスユーザ層、CG画像の色再現性を追求するグラフィックアーツユーザ層など、画像形成装置に対する色再現性(安定性を含む)の要求度が増している。
【0005】
そこで、ユーザの色再現性の要求を満たすべく、記録紙の搬送経路に設けられたカラーセンサによって、記録紙上に形成された測定用画像(パッチ画像)を読み取る画像形成装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
この画像形成装置は、測定用画像をトナーで記録紙に形成し、カラーセンサによる測定用画像の読取結果に基づいて、露光量や現像バイアスなどのプロセス条件にフィードバックをかけることで、一定の濃度、階調性、色味を再現することが可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−086013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1の発明では、定着装置の近傍の搬送経路にカラーセンサが配置されているため、測定対象である測定用画像の色度が温度によって変化するという「サーモクロミズム」という現象が問題になる。これは、トナーやインク等の色材を形成する分子構造が、「熱」によって変化する等によって引き起こされる現象である。
【0009】
ここで、画像形成装置の内部で測定用画像を測色するためには、色材が記録紙に載せられた後で且つ混色が完了した状態である必要がある。色材にインクを用いる画像形成装置においては乾燥装置によって加熱乾燥した後で測色する必要がある。色材にトナーを用いる画像形成装置では定着装置によってトナーを加熱溶融して混色した後で測色する必要がある。したがって、カラーセンサは乾燥装置や定着装置よりも記録紙の搬送方向で下流側に配置される必要がある。
【0010】
一方で、画像形成装置をコンパクトに構成するためには乾燥装置や定着装置からカラーセンサまでの搬送経路の長さは必要最小限にとどめられる必要がある。よって乾燥装置や定着装置によって加熱された記録紙および色材は、常温まで冷却されることなく、カラーセンサへと搬送されてしまう。また、記録紙の搬送ガイド等、画像形成装置内部の部材や内部の雰囲気の昇温によっても記録紙の温度は常温よりも高温になってしまう。
【0011】
このように、内部にカラーセンサを備えた画像形成装置では、サーモクロミズムの影響を受けて通常環境下(常温環境下)における色度とは異なる測色結果が得られてしまうことがある。
【0012】
そこで、本発明は、サーモクロミズムの影響により色度が変動してしまった場合であっても、測定用画像の色度を精度良く補正することができる画像形成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するため、本発明に係る画像形成装置は、色材によって記録紙に複数の測定用画像を形成する像形成手段と、前記複数の測定用画像を加熱して前記記録紙に定着させる定着手段と、前記記録紙の搬送方向において前記定着手段よりも下流で前記記録紙に定着した画像を測色して分光反射率を出力する測色手段と、前記測色手段から出力された前記分光反射率から濃度値を演算する第1の演算手段と、前記測色手段から出力された前記分光反射率から色度値を演算する第2の演算手段と、前記測色手段が前記記録紙の測色を行う際の前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正する補正手段と、を有し、前記補正手段は、前記第1の演算手段により濃度値を演算する場合は前記補正を行わず、前記第2の演算手段により色度値を演算する場合は前記補正を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、サーモクロミズムの影響により色度が変動してしまった場合であっても、測定用画像の色度を精度良く補正することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】画像形成装置100の構造を示す断面図である。
【図2】カラーセンサ200の構造を示す図である。
【図3】画像形成装置100のシステム構成を示すブロック図である。
【図4】カラーマネージメント環境の概略図である。
【図5】色材毎の色度変化の傾向を示す図である。
【図6】色材毎の濃度変化の傾向を示す図である。
【図7】カラーセンサ200でマゼンタのパッチ画像を測色したときの、各温度における分光反射率データである。
【図8】濃度演算処理に使用するフィルタ感度特性を示す図である。
【図9】画像形成装置100の動作を示すフローチャートである。
【図10】最大濃度調整の動作を示すフローチャートである。
【図11】階調調整の動作を示すフローチャートである。
【図12】多次色補正処理の動作を示すフローチャートである。
【図13】ダイレクトマッピングによる変換テーブルを説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(画像形成装置)
本実施形態では電子写真方式のレーザビームプリンタを用いて上記課題の解決方法を説明する。ここでは、一例として、画像形成方式として電子写真方式を採用する。しかし、本発明は、インクジェット方式や昇華方式にも適用できる。これは、本発明が、測定対象物の色度が温度によって変化するというサーモクロミズム現象が発生しうる画像形成装置において有効な発明だからである。なお、インクジェット方式では、インクを吐出して記録紙に画像を形成する画像形成手段やインクを乾燥させる定着手段(乾燥手段)が使用される。
【0017】
図1は、画像形成装置100の構造を示す断面図である。画像形成装置100は、筐体101を備える。筐体101には、エンジン部を構成するための各機構と、制御ボード収納部104とが設けられている。制御ボード収納部104には、各機構による各印刷プロセス処理(例えば、給紙処理など)に関する制御を行なうエンジン制御部102と、プリンタコントローラ103が収納されている。
【0018】
図1が示すように、エンジン部にはYMCKに対応した4つのステーション120、121、122、124が設けられている。ステーション120、121、122、124は、トナーを記録紙110に転写して画像を形成する像形成手段である。ここで、YMCKは、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラックの略称である。各ステーションは、ほぼ共通の部品により構成されている。感光ドラム105は、像担持体の一種であり、一次帯電器111により一様の表面電位に帯電する。感光ドラム105は、レーザ108が出力するレーザ光によって、潜像が形成される。現像器112は、色材(トナー)を用いて潜像を現像してトナー像を形成する。トナー像(可視像)は、中間転写体106上に転写される。中間転写体106上に形成された可視像は、収納庫113から搬送されてきた記録紙110に対して、転写ローラ114により転写される。
【0019】
本実施形態の定着処理機構は、記録紙110に転写されたトナー像を加熱および加圧して記録紙110に定着させる第一定着器150および第二定着器160を有している。第一定着器150には、記録紙110に熱を加えるための定着ローラ151、記録紙110を定着ローラ151に圧接させるための加圧ベルト152、定着完了を検知する第一定着後センサ153を含む。これらローラは中空ローラであり、内部にそれぞれヒータを有している。
【0020】
第二定着器160は、第一定着器150よりも記録紙110の搬送方向で下流に配置されている。第二定着器160は、第一定着器150により定着した記録紙110上のトナー像に対してグロス(光沢)を付与したり、定着性を確保したりする。第二定着器160も、第一定着器150と同様に定着ローラ161、加圧ローラ162、第二定着後センサ163を有している。記録紙110の種類によっては第二定着器160を通す必要がない。この場合、エネルギー消費量低減の目的で第二定着器160を経由せずに記録紙110は搬送経路130を通過する。
【0021】
例えば、記録紙110上の画像にグロスを多く付加する設定がされた場合や、記録紙110が厚紙のように定着に多くの熱量を必要とする場合は、第一定着器150を通過した記録紙110は、第二定着器160にも搬送される。一方、記録紙110が普通紙や薄紙の場合であって、グロスを多く付加する設定がされていない場合は、記録紙110は、第二定着器160を迂回する搬送経路130を搬送される。第二定着器160に記録紙110を搬送するか、第二定着器160を迂回して記録紙110を搬送するかは、フラッパ131の切り替えにより制御される。
【0022】
搬送経路切り替えフラッパ132は、記録紙110を搬送経路135へと誘導するか、外部への搬送経路139に誘導する誘導部材である。記録紙110の搬送方向において第二定着器160よりも下流には、記録紙110上の測定用画像(以下、パッチ画像と称す)を検知するカラーセンサ200及び温度センサ208が配置されている。カラーセンサ200は、記録紙110の搬送方向に直交する方向に4つ並べて配置されており、4列のパッチ画像を検知できる。操作部180からの指示により色検出が指示されると、エンジン制御部102は濃度調整、階調調整、多次色調整などを実行する。温度検出手段としての温度センサ208は、記録紙110の温度を検出するためのセンサである。
【0023】
搬送経路135には、反転センサ137が設けられている。カラーセンサ200で測色された記録紙110の先端は、反転センサ137を通過し、反転部136へ搬送される。反転センサ137が記録紙110の後端を検出すると、記録紙110の搬送方向が切り替えられる。搬送経路切り替えフラッパ133は、記録紙110を両面画像形成用の搬送経路138へと誘導するか、搬送経路135に誘導する誘導部材である。搬送経路切り替えフラッパ134は、記録紙110を外部への搬送経路139に誘導する誘導部材である。搬送経路139を搬送された記録紙110は、画像形成装置100の外部へと排出される。
【0024】
(カラーセンサ)
図2は、カラーセンサ200の構造を示す図である。カラーセンサ200の内部には、白色LED201、回折格子202、ラインセンサ203、演算部204、及びメモリ205が設けられている。白色LED201は、記録紙110上のパッチ画像220に光を照射する発光素子である。回折格子202はパッチ画像220から反射した光を波長ごとに分光する。ラインセンサ203は、回折格子202により波長ごとに分解された光を検出するn個の受光素子を備えた光検出素子である。演算部204は、ラインセンサ203により検出された各画素の光強度値から各種の演算を行う。
【0025】
メモリ205は、演算部204が使用する各種のデータを保存する。演算部204は、例えば、光強度値から分光演算する分光演算部やLab値を演算するLab演算部などを有する。また、白色LED201から照射された光を記録紙110上のパッチ画像220に集光したり、パッチ画像220から反射した光を回折格子202に集光したりするレンズ206がさらに設けられてもよい。
【0026】
図3は、画像形成装置100のシステム構成を示すブロック図である。この図を用いて、最大濃度調整、階調調整、及び多次色補正処理について説明する。
【0027】
(最大濃度調整)
まず、プリンタコントローラ103は、最大濃度調整に用いるテストチャートを出力するよう、エンジン制御部102に指示を出す。このとき、予め設定された又は前回の最大濃度調整時において設定された帯電電位、露光強度、及び現像バイアスで、記録紙110に最大濃度調整用のパッチ画像が形成される。最大濃度調整用のパッチ画像は、CMYKの色毎に形成される。その後、エンジン制御部102は、カラーセンサ制御部302に対してパッチ画像の測色の指示を出す。
【0028】
カラーセンサ200にてパッチ画像の測色が行われると、測色された結果は、分光反射率データとして濃度変換部324に送られる。濃度変換部324は、分光反射率データをCMYKの濃度データに変換し、変換した濃度データを最大濃度補正部320に送る。
【0029】
最大濃度補正部320は、出力される画像の最大濃度が所望の値となるように、帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を算出し、算出した補正量をエンジン制御部102へと送信する。エンジン制御部102は、次回以降の画像形成動作に、送信された帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を用いる。以上の動作によって、出力される画像の最大濃度が調整される。
【0030】
(階調調整)
最大濃度調整の処理が終わると、プリンタコントローラ103は、記録紙110上に16階調のパッチ画像を形成するようにエンジン制御部102に指示を出す。なお、16階調のパッチ画像の画像信号としては、例えば00H、10H、20H、30H、40H、50H、60H、70H、80H、90H、A0H、B0H、C0H、D0H、E0H、FFHとすればよい。
【0031】
このとき、最大濃度調整で算出された帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を用いて、記録紙110に16階調のパッチ画像が形成される。16階調のパッチ画像は、CMYKの色毎に形成される。記録紙110に16階調のパッチ画像が形成されると、エンジン制御部102は、カラーセンサ制御部302に対してパッチ画像の測色の指示を出す。
【0032】
カラーセンサ200にてパッチ画像の測色が行われると、測色された結果は、分光反射率データとして濃度変換部324に送られる。濃度変換部324は、分光反射率データをCMYKの濃度データに変換し、変換した濃度データを濃度階調補正部321に送る。濃度階調補正部321は、所望の階調性が得られるように露光量の補正量を算出する。そして、LUT作成部322は単色階調LUTを作成し、各色CMYKの信号値としてLUT部323へ送る。
【0033】
(プロファイル)
多次色補正処理を行うにあたり、画像形成装置100は、多次色を含むパッチ画像の検出結果からプロファイルを作成し、そのプロファイルを用いて入力画像を変換して出力画像を形成する。
【0034】
ここで、多次色を含むパッチ画像は、CMYKの4色それぞれについて網点面積率を3段階(0%、50%、100%)に変化させ、色毎の網点面積率の全ての組み合わせのパッチ画像を形成する。つまり、パッチ画像の網点面積率を(C,M,Y,K)で表すと、1番目(0%、0%、0%、0%)、2番目(50%、0%、0%、0%)、3番目(50%、50%、0%、0%)・・・81番目(100%、100%、100%、100%)となる。このように、全部で81パターン(3の4乗)のパッチ画像が形成される。
【0035】
優れた色再現性を実現するプロファイルとして、ここでは近年市場で受け入れられているICCプロファイルを用いることとする。ただし、本発明は、ICCプロファイルでなければ適用できない発明ではない。本発明は、Adobe社が提唱したPostScriptのレベル2から採用されているCRD(Color Rendering Dictionary)やPhotoshop内の色分解テーブルなどにも適用できる。
【0036】
カスタマエンジニアによる部品交換時や、カラーマッチング精度が要求されるジョブの前、さらには、デザイン構想段階などで最終出力物の色味が知りたい時などに、ユーザは操作部180を操作してカラープロファイルの作成処理を指示する。
【0037】
プロファイルの作成処理は、プリンタコントローラ103において行われる。プリンタコントローラ103はCPUを有し、後述するフローチャートを実行するためのプログラムを記憶部350から読み出して実行する。なお、図3では、プリンタコントローラ103により行われる処理を分かり易くするために、プリンタコントローラ103内をブロックで表現している。
【0038】
操作部180がプロファイル作成指示を受け付けると、プロファイル作成部301は、ISO12642テストフォームであるCMYKカラーチャート210を、プロファイルを介さずにエンジン制御部102に出力する。プロファイル作成部301は、カラーセンサ制御部302に測色指示を送る。エンジン制御部102は、画像形成装置100を制御して帯電、露光、現像、転写、定着といったプロセスを実行させる。これにより、記録紙110にはISO12642テストフォームが形成される。
【0039】
カラーセンサ制御部302はカラーセンサ200を制御して、ISO12642テストフォームを測色させる。カラーセンサ200は、測色結果である分光反射率データをプリンタコントローラ103のLab演算部303に出力する。Lab演算部303は、分光反射率データをL*a*b*データに変換して、Lab温度補正部325に出力する。Lab温度補正部325は、Lab演算部303から受け取ったL*a*b*データを温度センサ208の検出結果に応じて補正し、補正されたL*a*b*データをプロファイル作成部301に出力する。なお、Lab演算部303は、機器に依存しない色空間信号であるCIE1931XYZ表色系へ分光反射率データを変換してもよい。
【0040】
プロファイル作成部301は、エンジン制御部102に出力したCMYK色信号と、Lab演算部303から入力されたL*a*b*データとの関係から出力ICCプロファイルを作成する。プロファイル作成部301は、出力ICCプロファイル格納部305に格納されている出力ICCプロファイルに代えて、作成した出力ICCプロファイルを格納する。
【0041】
ISO12642テストフォームは一般的な複写機が出力可能な色再現域を網羅するCMYK色信号のパッチを含んでいる。よって、プロファイル作成部301は、それぞれの色信号値と測色したL*a*b*値との関係から色変換表を作成する。つまりCMYK→Labの変換表が作成される。この変換表をもとにして、逆変換表が作成される。
【0042】
プロファイル作成部301は、ホストコンピュータからI/F308を通じてプロファイル作成命令を受け付けると、作成した出力ICCプロファイルをI/F308を通じてホストコンピュータに出力する。ホストコンピュータは、ICCプロファイルに対応した色変換をアプリケーションプログラムで実行することができる。
【0043】
(色変換処理)
通常のカラー出力における色変換においては、スキャナ部からI/F308を介して入力されたRGB信号値やJapanColorなどの標準印刷CMYK信号値を想定して入力された画像信号は、外部入力用の入力ICCプロファイル格納部307に送られる。入力ICCプロファイル格納部307は、I/F308から入力された画像信号に応じて、RGB→L*a*b*あるいはCMYK→L*a*b*変換を実行する。入力ICCプロファイル格納部307に格納されている入力ICCプロファイルは、複数のLUT(ルックアップテーブル)により構成されている。
【0044】
これらのLUTは、たとえば、入力信号のガンマをコントロールする1次元LUT、ダイレクトマッピングといわれる多次色LUT、生成された変換データのガンマをコントロールする1次元LUTである。入力された画像信号は、これらのLUTを用いてデバイスに依存した色空間からデバイスに依存しないL*a*b*データに変換される。
【0045】
L*a*b*色度座標に変換された画像信号はCMM306に入力される。CMMはカラーマネージメントモジュールの略語である。CMM306は、各種の色変換を実行する。たとえば、CMM306は、入力機器としてのスキャナ部などの読取色空間と、出力機器としての画像形成装置100の出力色再現範囲のミスマッチをマッピングするGUMAT変換を実行する。また、CMM306は、入力時の光源種と出力物を観察するときの光源種のミスマッチ(色温度設定のミスマッチとも言う)を調整する色変換を実行する。
【0046】
このようにしてCMM306は、L*a*b*データをL’*a’*b’*データへ変換し、出力ICCプロファイル格納部305に出力する。測色によって作成されたプロファイルが出力ICCプロファイル格納部305に格納されている。よって、出力ICCプロファイル格納部305は、新たに作成したICCプロファイルによってL’*a’*b’*データを色変換し、出力機器に依存したCMYK信号へと変換する。
【0047】
LUT部323は、後述するLUT作成部322により設定されたLUTを用いてCMYK信号の階調を補正する。階調が補正されたCMYK信号は、エンジン制御部102へ出力される。
【0048】
図3で、CMM306は、入力ICCプロファイル格納部307と出力ICCプロファイル格納部305と分離されている。しかし、図4が示すようにCMM306はカラーマネージメントを司るモジュールのことであり、入力プロファイル(印刷ICCプロファイル501)と出力プロファイル(プリンタICCプロファイル502)を使って色変換を行うモジュールである。
【0049】
(サーモクロミズムの色特性)
次に、色毎のサーモクロミズム特性について説明する。トナーやインク等の色材を形成する分子構造が熱によって変化することで、光の反射吸収特性が変化して色度が変化する。実験を行って検証した結果、図5のように色材毎に色度変化の傾向が異なることが分かった。この図の横軸はパッチ画像の温度を示し、縦軸は15℃を基準としたときの色度変化ΔEを示している。
【0050】
なお、ΔEとは、CIEが定めるL*a*b*色空間内の2点間(L1,a1,b1),(L2,a2,b2)における、次式の三次元距離で表すことができる。
【0051】
【数1】
【0052】
図5において、C:シアン100%、M:マゼンタ100%、Y:イエロー100%、K:ブラック100%、W:紙白である。この図に示されるように、マゼンタの色度変化が特に大きい。パッチ画像の温度が高くなる程パッチ画像の色度変化が大きくなり、作成するICCプロファイルに誤差を生じてしまう。
【0053】
カラーマッチング精度や色の安定性についての指標として、ISO 12647−7記載のカラーマッチング精度規格(IT8.7/4(ISO 12642:1617パッチ)[4.2.2])において、ΔE平均で4.0と規定されている。また、安定性の規格である再現性[4.2.3]では、各パッチのΔE≦1.5であることが規定されている。この条件を満足するためには、カラーセンサ200の検出精度はΔE≦1.0であることが望ましい。
【0054】
(温度と濃度値との関係)
上述したように、色度値(Lab値)は温度に対して変化する。一方、本出願人が検討した結果、濃度値は温度が変化してもほとんど変化せず、温度に対して相関がないことが判明した。その結果を図6に示す。
【0055】
温度が変化すると、色度値は変化するものの濃度値は変化しないという現象は、分光反射率の変化する領域、及び色度値、濃度値へ演算するときの演算方法の違いから説明することができる。この点について、温度変化に対する色度変化ΔEの大きいマゼンタ(M)を例に挙げて説明する。
【0056】
図7は、カラーセンサ200でマゼンタのパッチ画像を測色したときの、各温度における分光反射率データである。図7(a)が400〜700nmの全波長領域、図7(b)が550〜650nmの波長領域についての拡大図、図7(c)が500〜580nmの波長領域についての拡大図である。
【0057】
図5に示されるように、パッチ画像の温度が15℃から60℃に変化した場合、マゼンタは色度変化ΔEが約2.0となるが、この色度変化ΔEは分光反射率が変化するためである。図7(b)から、パッチ画像の温度変化によって分光反射率が変化することがわかる。これは、Lab演算部303が全波長領域に対する分光反射率を用いて色度を算出するため、分光反射率の変化によって色度値が変化するためである。
【0058】
一方、図6に示されるように、パッチ画像の温度が15℃から60℃に変化しても、濃度はほとんど変化しない。これは、濃度変換部324が特定の波長領域に対する分光反射率を用いて濃度を算出するためである。図7(a)では分光反射率の変化が分かりにくいが、550〜650nmの波長領域を拡大した図7(b)から、パッチ画像の温度変化によって分光反射率が変化することがわかる。これは、Lab演算部303が全波長領域に対する分光反射率を用いて色度を算出するため、分光反射率の変化によって色度値が変化するためである。
【0059】
一方、図6に示されるように、パッチ画像の温度が15℃から60℃の範囲で変化しても、濃度はほとんど変化しない。これは、濃度変換部324が特定の波長領域に対する分光反射率を用いて濃度を算出するためである。具体的には、濃度変換部324は、シアン、マゼンタ、及びイエローについては、図8(a)に示されるフィルタを用いて分光反射率データを濃度データに変換する。この図の横軸は波長を表し、縦軸は%を表す。また、濃度変換部324は、ブラックについては、図8(b)のような視覚度分光特性を用いて分光反射率データを濃度データに変換する。
【0060】
図7(c)における波長領域においては、分光反射率の変化がほとんどないことが分かる。図7(c)の領域は、図8(a)で示した横軸の波長領域の中で、グリーンの感度特性を持つ領域であり、マゼンタについては補色であるグリーンの感度特性を用いて濃度値が算出される。したがって、この領域においては、温度が変化してもほとんど分光反射率の変化がないために、濃度値の変化もほとんどない。
【0061】
以上のように、温度変化によりパッチ画像の色度が変化する一方、温度変化によりパッチ画像の濃度はほとんど変化しない。そこで、本実施形態では、多次色補正時(ICCプロファイル作成時)には、色度変化を補正するために温度センサ208の検出結果に応じてカラーセンサ200による測色結果を補正する。しかし、最大濃度調整時や階調調整時には、カラーセンサ200による測色結果を補正しないようにする。
【0062】
(サーモクロミズム対応技術)
図9は、画像形成装置100の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。まず、プリンタコントローラ103は、操作部180から画像形成要求があるかどうか、また、ホストコンピュータからI/F308を通じて画像形成要求があるかどうかを判断する(S901)。
【0063】
画像形成要求がない場合は、プリンタコントローラ103は、操作部180から多次色補正指示があるかどうかを判断する(S902)。多次色補正指示があった場合は、図10で後述する最大濃度調整を行い(S903)、図11で後述する階調調整を行う(S904)。その後、図12で後述する多次色補正処理を行う(S905)。ステップS902において、多次色補正指示がない場合は、前述のステップS901に戻る。このように、多次色補正処理を行う前に最大濃度調整と階調調整を行っているのは、多次色補正処理を高精度に行うためである。
【0064】
ステップS901において、画像形成要求があると判断された場合は、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S906)、記録紙110にトナー画像を形成する(S907)。そして、プリンタコントローラ103は、全ページの画像形成が終了したかどうかを判断する(S908)。全ページの画像形成が終了した場合はステップS901に戻り、終了していない場合はステップS906に戻り、次のページの画像形成を行う。
【0065】
図10は、最大濃度調整の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。なお、画像形成装置100の制御は、プリンタコントローラ103からの指示によりエンジン制御部102により実行される。
【0066】
まず、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S1001)、記録紙110に最大濃度調整用のパッチ画像を形成する(S1002)。次に、プリンタコントローラ103は、記録紙110がカラーセンサ200に到達すると、カラーセンサ200にパッチ画像を測定させる(S1003)。
【0067】
そして、プリンタコントローラ103は、濃度変換部324を用いて、カラーセンサ200から出力された分光反射率データをCMYKの濃度データに変換させる(S1004)。その後、プリンタコントローラ103は、変換された濃度データに基づいて帯電電位、露光強度、及び現像バイアスの補正量を算出する(S1005)。ここで算出された補正量は、記憶部350に格納されて使用される。
【0068】
図11は、階調調整の動作を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。なお、画像形成装置100の制御は、プリンタコントローラ103からの指示によりエンジン制御部102により実行される。
【0069】
まず、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S1101)、記録紙110に階調調整用のパッチ画像(16階調)を形成する(S1102)。次に、プリンタコントローラ103は、記録紙110がカラーセンサ200に到達すると、カラーセンサ200にパッチ画像を測定させる(S1103)。
【0070】
そして、プリンタコントローラ103は、濃度変換部324を用いて、カラーセンサ200から出力された分光反射率データをCMYKの濃度データに変換させる(S1104)。その後、プリンタコントローラ103は、変換された濃度データに基づいて露光強度の補正量を算出し、階調を補正するためのLUTを作成する(S1105)。ここで算出されたLUTは、LUT部323に設定されて使用される。
【0071】
図12は、多次色補正処理を示すフローチャートである。このフローチャートは、プリンタコントローラ103により実行される。まず、プリンタコントローラ103は、収納庫113から記録紙110を給紙させ(S1201)、記録紙110にパッチ画像を形成する(S1202)。次に、プリンタコントローラ103は、記録紙110がカラーセンサ200に到達すると、カラーセンサ200にパッチ画像を測定させる(S1203)。ここで、カラーセンサ200は、パッチ画像の分光反射率データをプリンタコントローラ103に出力する。
【0072】
次に、プリンタコントローラ103は、分光反射率データを色度データ(L*a*b*)に変換する(S1204)。その後、プリンタコントローラ103は、温度センサ208に記録紙110の温度Tを検出させる(S1205)。そして、プリンタコントローラ103は、ステップS1204で変換した色度データ(L*a*b*)と、ステップS1205で検出した記録紙110の温度Tとを用いて、常温環境下における色度データ(L*a*b*)を算出する(S1206)。詳しい算出方法については図13で後述する。
【0073】
次に、プリンタコントローラ103は、ステップS1206で算出した色度データ(L*a*b*)に基づき、前述の処理によりICCプロファイルを作成し(S1207)、出力ICCプロファイル格納部305に格納する(S1208)。その後、前述のステップS901に戻る。
【0074】
図13(a)は、60℃から25℃(常温環境)への、ダイレクトマッピングによる色度データの変換テーブルを説明するための図である。図13(b)は、温度範囲毎の変換テーブルを示す図である。これらの図を用いて、ステップS706における処理を具体的に説明する。
【0075】
定着器を通過した直後の記録紙110は、定着器から与えられた熱によって温度が高い状態にある。この状態で、Lab演算部303は、カラーセンサ200によりパッチ画像を検出した結果から色度データ(L*a*b*)を演算する。
【0076】
仮に、カラーセンサ200によりパッチ画像が検出されたときの記録紙110の温度が60℃だったとする。この場合、60℃においてLab演算部303で演算された色度データ(L*a*b*)は、常温環境である25℃の状態における色度データ(L*a*b*)に対して誤差を有することになる。
【0077】
したがって、Lab温度補正部325は、温度センサ208の検出温度Tを用いて色度データ(L*a*b*)を補正し、常温環境下における色度データを演算する。具体的には、Lab温度補正部325は、図13(a)に示すような60℃におけるLab色空間から常温環境下(25℃)におけるLab色空間に変換するダイレクトマッピングによる変換テーブルを用いて、色度データ(L*a*b*)を補正する。
【0078】
なお、変換テーブルは、図13(b)に示すように、温度センサ208の検出温度Tの範囲毎に実験により求めておく。なお、図13(a)に示される変換テーブルは、AT=60である。これらの変換テーブルは、記憶部350内に保存されている。Lab温度補正部325は、温度センサ208の検出結果に応じて、検出温度Tに対応する変換テーブルを読み出して補正に用いる。
【0079】
本実施形態では、ダイレクトマッピングによる変換方法を説明したが、この変換方法に限らない。例えば、一般的な色空間の補正方法として用いられる変換行列などによる演算を用いてもよい。
【0080】
また、本実施形態のステップS1205では、温度センサ208により記録紙110の温度を検出するようにしたが、画像形成装置100に温度センサ208を設けず、画像形成動作を行う際の様々な条件から温度を算出するようにしてもよい。
【0081】
具体的には、操作部180から入力される記録紙110の紙種や定着モード等に基づいて、プリンタコントローラ103は色検出時の記録紙110の温度を算出する。定着モードとは、第一定着器150のみを用いる通常モードと、第一定着器150および第二定着器160の両方を使用するグロスモードを含む。ここで、プリンタコントローラ103は、予め設定された温度算出テーブルを参照して温度を算出する。温度算出テーブルは表1に示され、予め記憶部350内に保存されている。
【0082】
【表1】
【0083】
Lab温度補正部325は、記録紙110の温度の算出結果に基づいて、サーモクロミズムの影響を低減するように色度データ(L*a*b*)を補正すればよい。
【0084】
以上で説明したように、本実施形態によれば、パッチ画像の色度が温度によって変化するというサーモクロミズム現象の影響を抑制し、パッチ画像の色度を精度良く検出することができる。
【符号の説明】
【0085】
100 画像形成装置
103 プリンタコントローラ(温度算出手段)
110 記録紙
150 第一定着器(定着手段)
160 第二定着器(定着手段)
200 カラーセンサ(測色手段)
208 温度センサ(温度検出手段)
303 Lab演算部(第2の演算手段)
324 濃度変換部(第1の演算手段)
325 Lab温度補正部(補正手段)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材によって記録紙に複数の測定用画像を形成する像形成手段と、
前記複数の測定用画像を加熱して前記記録紙に定着させる定着手段と、
前記記録紙の搬送方向において前記定着手段よりも下流で前記記録紙に定着した画像を測色して分光反射率を出力する測色手段と、
前記測色手段から出力された前記分光反射率から濃度値を演算する第1の演算手段と、
前記測色手段から出力された前記分光反射率から色度値を演算する第2の演算手段と、
前記測色手段が前記記録紙の測色を行う際の前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正する補正手段と、を有し、
前記補正手段は、前記第1の演算手段により濃度値を演算する場合は前記補正を行わず、前記第2の演算手段により色度値を演算する場合は前記補正を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記記録紙の温度を検出する温度検出手段を更に有し、
前記補正手段は、前記温度検出手段の検出結果に基づいて、前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記記録紙の温度を算出する温度算出手段を更に有し、
前記補正手段は、前記温度算出手段の算出結果に基づいて、前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記温度算出手段は、前記記録紙の紙種に基づいて、前記記録紙の温度を算出することを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記定着手段は、第一定着器と、当該第一定着器よりも下流に設けられた第二定着器とを有し、
前記温度算出手段は、前記第一定着器及び前記第二定着器の両方を使用するか、前記第一定着器及び前記第二定着器のいずれか一方を使用するかに基づいて、前記記録紙の温度を算出することを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記補正手段は、前記第2の演算手段で演算された色度値を常温環境下における色度値に変換するためのテーブルを用いて、前記測色手段の測色結果を補正することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記第1の演算手段が濃度値を演算する際に用いる前記分光反射率の波長領域は、前記第2の演算手段が色度値を演算する際に用いる前記分光反射率の波長領域よりも狭い領域であることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記像形成手段は、トナーを前記記録紙に転写して前記画像を形成する手段であり、
前記定着手段は、前記トナーを加熱して前記記録紙に定着させる手段であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記像形成手段は、インクを吐出して前記記録紙に前記画像を形成する手段であり、
前記定着手段は、前記インクを乾燥させる乾燥手段であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項1】
色材によって記録紙に複数の測定用画像を形成する像形成手段と、
前記複数の測定用画像を加熱して前記記録紙に定着させる定着手段と、
前記記録紙の搬送方向において前記定着手段よりも下流で前記記録紙に定着した画像を測色して分光反射率を出力する測色手段と、
前記測色手段から出力された前記分光反射率から濃度値を演算する第1の演算手段と、
前記測色手段から出力された前記分光反射率から色度値を演算する第2の演算手段と、
前記測色手段が前記記録紙の測色を行う際の前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正する補正手段と、を有し、
前記補正手段は、前記第1の演算手段により濃度値を演算する場合は前記補正を行わず、前記第2の演算手段により色度値を演算する場合は前記補正を行うことを特徴とする画像形成装置。
【請求項2】
前記記録紙の温度を検出する温度検出手段を更に有し、
前記補正手段は、前記温度検出手段の検出結果に基づいて、前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項3】
前記記録紙の温度を算出する温度算出手段を更に有し、
前記補正手段は、前記温度算出手段の算出結果に基づいて、前記記録紙の温度による影響を低減するように前記測色手段の測色結果を補正することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項4】
前記温度算出手段は、前記記録紙の紙種に基づいて、前記記録紙の温度を算出することを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項5】
前記定着手段は、第一定着器と、当該第一定着器よりも下流に設けられた第二定着器とを有し、
前記温度算出手段は、前記第一定着器及び前記第二定着器の両方を使用するか、前記第一定着器及び前記第二定着器のいずれか一方を使用するかに基づいて、前記記録紙の温度を算出することを特徴とする請求項3記載の画像形成装置。
【請求項6】
前記補正手段は、前記第2の演算手段で演算された色度値を常温環境下における色度値に変換するためのテーブルを用いて、前記測色手段の測色結果を補正することを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記第1の演算手段が濃度値を演算する際に用いる前記分光反射率の波長領域は、前記第2の演算手段が色度値を演算する際に用いる前記分光反射率の波長領域よりも狭い領域であることを特徴とする請求項1記載の画像形成装置。
【請求項8】
前記像形成手段は、トナーを前記記録紙に転写して前記画像を形成する手段であり、
前記定着手段は、前記トナーを加熱して前記記録紙に定着させる手段であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【請求項9】
前記像形成手段は、インクを吐出して前記記録紙に前記画像を形成する手段であり、
前記定着手段は、前記インクを乾燥させる乾燥手段であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の画像形成装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2013−114180(P2013−114180A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−262136(P2011−262136)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】
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